説明

非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用負極材、及び非水電解質二次電池。

【課題】 珪素系活物質の高い電池容量を維持しつつ、充放電時の体積膨張と活物質の破損が抑制された、非水電解質二次電池用負極活物質を製造する方法、並びにそれを用いた非水電解質二次電池用負極材及び非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】 炭素被覆された非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法であって、酸化珪素粉末及び珪素粉末の少なくとも一方を含む負極活物質原料を、触媒CVD法により炭素被覆する非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法、並びに、それを用いた非水電解質二次電池用負極材及び非水電解質二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池に用いるための負極活物質の製造方法に関するものであり、特に、炭素被覆された非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法に関するものである。また、本発明は、その負極活物質を用いた非水電解質二次電池用負極材及び非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、経済性と機器の小型化、軽量化の観点から、高エネルギー密度の非水電解質二次電池が強く要望されている。従来、この種の非水電解質二次電池の高容量化策として、例えば、負極材料にB,Ti,V,Mn,Co,Fe,Ni,Cr,Nb,Moなどの酸化物及びそれらの複合酸化物を用いる方法(特許文献1、2)、熔湯急冷したM100−xSi(x≧50at%,M=Ni,Fe,Co,Mn)を負極材として適用する方法(特許文献3)、負極材料に酸化珪素を用いる方法(特許文献4)、負極材料にSiO,GeO及びSnOを用いる方法(特許文献5)等が知られている。
【0003】
珪素は現在実用化されている炭素材料の理論容量372mAh/gより遙かに高い理論容量4200mAh/gを示すことから、電池の小型化と高容量化において最も期待される材料である。珪素はその製法により結晶構造の異なった種々の形態が知られている。例えば、特許文献6では単結晶珪素を負極活物質の支持体として使用したリチウムイオン二次電池を開示しており、特許文献7では単結晶珪素、多結晶珪素及び非晶質珪素のLiSi(但し、xは0〜5)なるリチウム合金を使用したリチウムイオン二次電池を開示しており、特に非晶質珪素を用いたLiSiが好ましく、モノシランをプラズマ分解した非晶質珪素で被覆した結晶性珪素の粉砕物が例示されている。しかしながら、この場合においては、実施例にあるように珪素は30部、導電剤としてのグラファイトを55部使用しており、珪素の電池容量を十分発揮させることができなかった。
【0004】
また、負極材に導電性を付与する目的として、酸化珪素を例とする金属酸化物と黒鉛とをメカニカルアロイング後、炭化処理する方法(特許文献8)、Si粒子表面を化学蒸着法により炭素層で被覆する方法(特許文献9)、酸化珪素粒子表面を化学蒸着法により炭素層で被覆する方法(特許文献10)がある。これらの方法では、粒子表面に炭素層を設けることによって導電性を改善することはできるが、珪素負極の克服すべき課題である充放電に伴う大きな体積変化の緩和、これに伴う集電性の劣化とサイクル特性低下を防止することはできなかった。
【0005】
このため近年では、珪素の電池容量利用率を制限して体積膨張を抑制する方法(特許文献9、11〜13)、あるいは多結晶粒子の粒界を体積変化の緩衝帯とする方法として、アルミナを添加した珪素融液を急冷する方法(特許文献14)、α,β−FeSiの混相多結晶体からなる多結晶粒子を利用した方法(特許文献15)、単結晶珪素インゴットの高温塑性加工(特許文献16)が開示されている。
【0006】
珪素活物質の積層構造を工夫することで体積膨張を緩和する方法も開示されており、例えば珪素負極を2層に配置する方法(特許文献17)、炭素や他金属及び酸化物で被覆又はカプセル化して粒子の崩落を抑制する方法(特許文献18〜24)などが開示されている。また、集電体に直接珪素を気相成長させる方法において、成長方向を制御することで体積膨張によるサイクル特性の低下を抑制する方法も開示されている(特許文献25)。
【0007】
以上のように、従来の方法で珪素表面を炭素被覆して導電化したり非晶質金属層で被覆したりするなどして負極材のサイクル特性を高めるという方法では、電子伝導性が向上しても体積膨張率の抑制には全く効果がなかった。
【0008】
一方、酸化珪素はSiO(ただしxは酸化被膜のため理論値の1よりわずかに大きい)と表記することができるが、X線回折による分析では結晶シリコンのシグナルが観測されず、非晶質構造となっていることが知られている。また、酸化珪素を加熱処理するとSiおよびSiOへの不均化が生じ、結晶シリコンが成長することも知られている。いずれの状態においても酸化珪素はSi−O結合を有するため、充放電の過程においてリチウム酸化物を生じることによる容量低下が生じる。このため、電池容量は珪素と比較して小さいものの炭素と比較すれば質量あたりで5〜6倍と高く、さらには体積膨張も小さく、負極活物質として使用しやすいと考えられていた。
【0009】
酸化珪素の実用上の問題点は著しく初期効率が低い点にあり、これを解決する手段としては不可逆容量分を補充する方法、不可逆容量を抑制する方法が挙げられる。たとえばLi金属をあらかじめドープすることで、不可逆容量分を補う方法が有効であることが報告されている。しかしながらLi金属をドープするためには負極活物質表面にLi箔を貼り付ける方法(特許文献26)、および負極活物質表面にLiを蒸着する方法(特許文献27)などが開示されているが、Li箔の貼り付けでは酸化珪素負極の初期効率に見合ったLi薄体の入手が困難、かつ高コストであり、Li蒸気による蒸着は製造工程が複雑となって実用的でないなどの問題があった。
【0010】
一方、LiドープによらずにSiの質量割合を高めることで初期効率を増加させる方法が開示されている。ひとつには珪素粉末を酸化珪素粉末に添加して酸化珪素の質量割合を減少させる方法であり(特許文献28)、他方では酸化珪素の製造段階において珪素蒸気を同時に発生、析出することで珪素と酸化珪素の混合固体を得る方法である(特許文献29)。しかしながら、珪素は酸化珪素と比較して高い初期効率と電池容量を併せ持つが、充電時に400%もの体積膨張率を示す活物質であり、酸化珪素と炭素材料の混合物に添加する場合であっても、酸化珪素の体積膨張率を維持することができないうえ、結果的に炭素材料を20質量%以上添加して電池容量が1000mAh/gに抑えることが必要であった。一方、珪素と酸化珪素の蒸気を同時に発生させて混合固体を得る方法では、珪素の蒸気圧が低いことから2000℃を超える高温での製造工程を必要とし、作業上問題があった。
【0011】
以上のように珪素系活物質は金属珪素単体及びその酸化物ともにそれぞれ解決課題を有しており、実用上問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3008228号公報
【特許文献2】特許第3242751号公報
【特許文献3】特許第3846661号公報
【特許文献4】特許第2997741号公報
【特許文献5】特許第3918311号公報
【特許文献6】特許第2964732号公報
【特許文献7】特許第3079343号公報
【特許文献8】特開2000−243396号公報
【特許文献9】特開2000−215887号公報
【特許文献10】特開2002−42806号公報
【特許文献11】特開2000−173596号公報
【特許文献12】特許第3291260号公報
【特許文献13】特開2005−317309号公報
【特許文献14】特開2003−109590号公報
【特許文献15】特開2004−185991号公報
【特許文献16】特開2004−303593号公報
【特許文献17】特開2005−190902号公報
【特許文献18】特開2005−235589号公報
【特許文献19】特開2006−216374号公報
【特許文献20】特開2006−236684号公報
【特許文献21】特開2006−339092号公報
【特許文献22】特許第3622629号公報
【特許文献23】特開2002−75351号公報
【特許文献24】特許第3622631号公報
【特許文献25】特開2006−338996号公報
【特許文献26】特開平11−086847号公報
【特許文献27】特開2007−122992号公報
【特許文献28】特許第3982230号公報
【特許文献29】特開2007−290919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述のように珪素系活物質は金属珪素単体及びその酸化物ともにそれぞれ解決課題を有しており、実用上問題となっていた。そのため、十分にLiの吸蔵、放出に伴う体積変化の抑制、粒子の割れによる微粉化や集電体からの剥離による導電性の低下を緩和することが可能であり、大量生産が可能で、コスト的に有利であって、かつ携帯電話用などの特に繰り返しのサイクル特性を重要視される用途に適応することが可能な負極活物質が望まれていた。
【0014】
本発明は、このような問題に鑑みなされたものであり、珪素系活物質の高い電池容量を維持しつつ、充放電時の体積膨張と活物質の破損が抑制された、非水電解質二次電池用負極活物質を製造する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、そのような非水電解質二次電池用負極活物質を用いた非水電解質二次電池用負極材及び非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明は、炭素被覆された非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法であって、酸化珪素粉末及び珪素粉末の少なくとも一方を含む負極活物質原料を、触媒CVD法により炭素被覆することを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法を提供する。
【0016】
このような触媒CVD法による炭素被覆によれば、酸化珪素粉末及び珪素粉末の少なくとも一方を含む負極活物質原料に、低温にて炭素被覆することができる。そのため、処理中の珪素の結晶粒径の増大を抑えながら導電化処理を行うことが可能となり、充放電時の体積変化を抑制することができる。また、負極活物質原料に炭素を蒸着することで、負極活物質の導電性が向上する。
【0017】
この場合、前記酸化珪素粉末として、非晶質の酸化珪素粉末を用いることができる。
【0018】
このように、負極活物質原料として非晶質の酸化珪素粉末を用いれば、充放電時の体積変化がより少ない非水電解質二次電池用負極活物質を製造することができる。
【0019】
また、前記珪素粉末として、該珪素粉末のX線回折パターンの分析において、2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属される回折線の半値全幅よりシェラー法(Scherrer法)で求められる結晶粒径が300nm以下である多結晶珪素の粉末を用いることができる。
【0020】
負極活物質原料として、このような結晶粒径の小さい多結晶珪素の粉末を用いれば、充放電時の体積変化をより効果的に抑制することができる。
【0021】
また、前記触媒CVD法による炭素被覆は、炭素原子を有する有機分子を含むガスを、加熱した触媒体に接触させることにより、原子状炭素を生成し、該原子状炭素に前記負極活物質原料を曝露することにより行うことができる。
【0022】
また、前記触媒CVD法による炭素被覆は、前記負極活物質原料の温度を1000℃未満に保って行うことが好ましい。
【0023】
本発明では、このような触媒CVD法により負極活物質原料に炭素被覆を行うことができ、負極活物質原料の温度を1000℃未満に保って行うことによって、より効果的に処理中の珪素の結晶粒径の増大を抑制することができる。
【0024】
また、本発明は、上記のいずれかの非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法により製造された非水電解質二次電池用負極活物質を含むことを特徴とする非水電解質二次電池用負極材を提供する。
【0025】
このような非水電解質二次電池用負極材であれば、負極活物質に炭素が蒸着されていることで導電性が向上するとともに、炭素の蒸着による導電化処理を、処理中の珪素の結晶粒径の増大を抑えて行ったものであるので、充放電による負極活物質の膨張・収縮が繰り返されても、負極材の破壊・粉化が防止でき、電極自体の導電性の低下を防止できる。
【0026】
この場合、この非水電解質二次電池用負極材は、結着剤としてポリイミド樹脂を含むことが好ましい。
【0027】
このように、ポリイミド樹脂を結着剤として採用することによって、充放電による負極活物質の膨張・収縮が繰り返されても、負極材の破壊・粉化をより効果的に防止できる。
【0028】
また、本発明は、上記のいずれかの非水電解質二次電池用負極材を用いたものであることを特徴とする非水電解質二次電池を提供する。
【0029】
また、前記非水電解質二次電池をリチウムイオン二次電池とすることができる。
【0030】
このように、上記の非水電解質二次電池用負極活物質を含む非水電解質二次電池用負極材であれば、非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池に用いた場合に、サイクル特性及び効率を良好なものとすることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法によれば、酸化珪素粉末及び珪素粉末の少なくとも一方を含む負極活物質原料に、低温にて炭素被覆することができるので、炭素の蒸着により負極活物質の導電性が向上するとともに、被覆処理中の珪素の結晶粒径の増大を抑えながら導電化処理を行うことができる。その結果、本発明の非水電解質二次電池用負極材は、充放電時の体積変化を抑制することができる。この非水電解質二次電池用負極材を用いた本発明の非水電解質二次電池は、充放電の繰り返しによるサイクル特性及び効率が良好なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法に用いることができる触媒CVD装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
前述のように、これまで炭素材料の電池容量を上回る活物質である珪素系活物質の検討が進められてきたが、珪素系活物質は金属珪素単体及びその酸化物ともにそれぞれ解決課題を有しており、実用上問題となっていた。珪素系活物質を実用化する上で、体積膨張による電池の膨れと珪素活物質の崩壊は最も重要な課題であり、これらを抑制することが求められていた。
【0034】
本発明は、珪素系活物質である酸化珪素粉末及び珪素粉末の少なくとも一方の炭素被覆方法を開示するものであり、低温にて炭素被覆可能である触媒CVD法による非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法を開示する。触媒CVD法による炭素被覆によって珪素の結晶粒径の増大を抑えながら導電化処理を行うことが可能となり、珪素の結晶粒径の増大による体積変化を抑制することが可能となった。また、炭素を蒸着することで負極活物質の導電性が向上するとともに、充放電による膨張・収縮が繰り返されても負極材の破壊・粉化が防止でき、電極自体の導電性が低下せず、この負極材を非水電解質二次電池として用いた場合、サイクル特性が良好な非水電解質二次電池が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0035】
以下、本発明について、さらに詳しく説明する。
【0036】
本発明では、珪素系活物質である酸化珪素粉末及び珪素粉末の少なくとも一方を含む負極活物質を炭素被覆する方法として触媒CVD法を利用することで、充放電時の体積変化の抑制に効果的な、珪素の結晶粒径の小さい結晶組織とすることができる。
【0037】
本発明において負極活物質の原料となる酸化珪素とは、通常、二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して生成した酸化珪素ガスを冷却・析出して得られた非晶質珪素酸化物であり、一般式SiOxで表され、xの範囲は0.5≦x<1.6とすることができる。二酸化珪素と金属珪素のモル比は概ね1:1であり、減圧条件下にて1300〜1500℃の範囲で酸化珪素ガスが発生し、1000〜1100℃程度の析出室にて凝固捕集される。これにより、一般的には1.0≦x≦1.2である塊状の酸化珪素が得られる。
【0038】
酸化珪素を所定の粒子径とするためには、公知の粉砕機と分級機が用いられる。粉砕機は、例えば、ボール、ビーズなどの粉砕媒体を運動させ、その運動エネルギーによる衝撃力や摩擦力、圧縮力を利用して被砕物を粉砕するボールミル、媒体撹拌ミルや、ローラによる圧縮力を利用して粉砕を行うローラミルや、被砕物を高速で内張材に衝突もしくは粒子相互に衝突させ、その衝撃による衝撃力によって粉砕を行うジェットミルや、ハンマー、ブレード、ピンなどを固設したローターの回転による衝撃力を利用して被砕物を粉砕するハンマーミル、ピンミル、ディスクミルや、剪断力を利用するコロイドミルや高圧湿式対向衝突式分散機「アルティマイザー」などが用いられる。粉砕は、湿式、乾式共に用いられる。また、粉砕後に粒度分布を整えるため、乾式分級や湿式分級もしくはふるい分け分級が用いられる。乾式分級は、主として気流を用い、分散、分離(細粒子と粗粒子の分離)、捕集(固体と気体の分離)、排出のプロセスが逐次もしくは同時に行われ、粒子相互間の干渉、粒子の形状、気流の流れの乱れ、速度分布、静電気の影響などで分級効率を低下させないように、分級をする前に前処理(水分、分散性、湿度などの調整)を行うか、使用される気流の水分や酸素濃度を調整して用いられる。また、乾式で分級機が一体となっているタイプでは、一度に粉砕、分級が行われ、所望の粒度分布とすることが可能となる。
【0039】
一方、負極活物質の原料となる珪素には結晶性の違いにより単結晶珪素、多結晶珪素、非晶質珪素が知られており、純度の違いにより金属珪素と呼ばれるケミカルグレード珪素、冶金グレード珪素が知られている。特に本発明では負極活物質の原料として多結晶珪素を添加することが好ましい。多結晶珪素は、部分的な規則性をもっている結晶である。一方、非晶質珪素は、Si原子がほとんど規則性をもたない配列をしており、網目構造をとっている点で多結晶珪素と異なるが、加熱エージングすることにより非晶質珪素を多結晶珪素とすることができるので、本発明の負極活物質原料として使用することが可能である。多結晶珪素は配向の異なった比較的大きな結晶粒からなり、それぞれの結晶粒の間に結晶粒界が存在する。多結晶珪素は無機化学全書第XII−2巻ケイ素(丸善(株))184頁に記載されているようにモノシランあるいはトリクロロシランから合成することができる。多結晶珪素の工業的な製法は析出反応器(ベルジャー)の中でモノシランあるいはトリクロロシランを熱分解し、珪素ロッド状に堆積させるシーメンス法、コマツ−ASiMI社法が現在主流であるが、流動層反応器を使用して珪素粒子表面に多結晶珪素を成長させることで製造されるエチル社法も行われている。また、金属珪素を溶融し、一方向凝固によって不純物を偏折させ純度を向上させる方法で多結晶珪素を製造する方法や、溶融珪素を急冷することで多結晶珪素を得る方法もある。このようにして合成した多結晶珪素は結晶粒のサイズや配向性によって電気伝導度や残留歪が異なっていることが知られている。
【0040】
本発明に特に有用な多結晶珪素は、シランガス、即ちシラン又はクロロシランを用いて特に1000℃以下の低温領域での熱分解を行い、結晶成長させた多結晶珪素である。製造方法としては上記のシーメンス法、コマツ−ASiMI社法やエチル社法が挙げられるが、珪素ロッド表面上に多結晶珪素を析出させるシーメンス法、コマツ−ASiMI社法では回分式の製造法となり、ロッド表面に成長した多結晶珪素の再結晶化が進行し、比較的大きな結晶粒を形成しやすい。
【0041】
一方、エチル社法として知られている流動層反応器を使用する場合には、多結晶珪素を粒子表面に成長させることで反応比表面積を大きくとることができるため生産性も高く、気−固間の伝熱に優れ反応器内の熱分布が均一であるという特徴がある。また、流動層の線速に対応する特定の粒子径に成長した多結晶珪素粒子は反応器内部から排出されるため連続反応が可能であるばかりでなく、結晶子の成長も緩慢であることから比較的小さな結晶粒を形成しやすい。
【0042】
上記の製造方法で使用されるシラン又はクロロシランとしては、モノシラン、ジシラン、モノクロロシラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシランなどが挙げられる。モノシランを用いた多結晶珪素のロッド上への成長温度は850℃付近であり、トリクロロシランの場合では1100℃付近であることから、特に1000℃以下で熱分解可能なモノシラン、ジクロロシランが好ましい。一方、モノシランを用いた流動層法ではさらに低温の600〜800℃で行われるが、高温での運転では気相中で分解成長した微小粒子が形成されるため概ね650℃前後で操業される。モノシランあるいはジクロロシランを原料ガスとして用いることによって反応炉温度を比較的低温に保持することができ、反応装置として流動層反応器を使用することで、反応層内部の滞留時間が少なく、堆積した多結晶珪素の結晶成長が緩慢となることで、非常に緻密な結晶粒が形成され、しかもそれぞれの結晶粒は粒子の堆積によって生じた微細な空隙が形成される。この微細な空隙が充電時の体積膨張を緩和し、割れを抑制する要因と考えられる。
【0043】
多結晶珪素の結晶粒の物理的な尺度としては、X線回折による結晶子の測定が有効である。結晶粒径(結晶子のサイズ)はX線回折パターンの分析において、2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属される回折線の半値全幅よりシェラー法(Scherrer法)で求められる。本発明の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法では、負極活物質原料として、このシェラー法(Scherrer法)で求められる結晶粒径が300nm以下である多結晶珪素の粉末を用いることが好ましい。特に、結晶粒径はより小さいものが好ましい。モノシランから製造された多結晶珪素の結晶粒径は概ね20〜100nmであり、本発明に用いる場合に特に好ましい。また、トリクロロシランから製造された多結晶珪素の結晶粒径は150〜300nmとなり、モノシランから製造された多結晶珪素と比べて、結晶粒径の増大が観測される。一方、金属珪素や一方向凝固法、急冷法、高温塑性加工法などにより製造された多結晶珪素の結晶粒径は500〜700nmと、さらに大きいものである。
【0044】
さらに、上記の流動層反応器で製造された多結晶珪素の比重は概ね2.300〜2.320を示し、単結晶珪素と比較して非常に低い値を示すことから、アモルファス性の高い結晶構造を有している事が推測される。一方、トリクロロシランを用いてシーメンス法で製造された多結晶珪素、モノシランを使用したコマツ−ASiMI法により製造された多結晶珪素及び金属珪素の比重は2.320〜2.340であって、単結晶珪素とほぼ同程度の値を示し、粒子内部が緻密な結晶構造を有する。
【0045】
なお、上記の方法で製造された多結晶珪素には、水素原子が化学結合しているため、しばしば、1000〜1200℃で2〜4時間程度の短時間で加熱処理することにより珪素の純度を向上させることができる。この場合、加熱処理前後での水素含有量は、通常、処理前600〜1000ppm程度から、加熱処理によって30ppm以下とすることができる。なお、本発明の負極材に使用するには、加熱処理を行って水素含有量が30ppm以下としたものの方が好ましい。
【0046】
製造された酸化珪素塊あるいは多結晶珪素塊はさらに粉砕されて使用される。粒子径はレーザー回折散乱式粒度分布測定法によって、その粒度分布を管理することができる。その粒子の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが10%、50%、90%となる点の粒子径をそれぞれ10%径、50%径、90%径(μm)として評価することができるが、本発明においては、特に50%径の累積中位径D50(メジアン径)として測定した値をもって評価した。本発明において用いる負極活物質原料は、メジアン径D50が0.1μm以上50μm以下であることが好ましく、1μm以上20μm以下であることがさらに好ましい。D50が0.1μm以上であれば、比表面積が大きすぎることによって負極塗膜密度が小さくなりすぎることを防止することができる。また、D50が50μm以下であれば、負極活物質が負極膜を貫通してショートすることを防止できる。
【0047】
こうして、予め所定の粒度まで粉砕した負極活物質の原料となる粉末粒子は、抵抗加熱された高融点触媒体と炭素原子を有する有機分子を含むガスとの接触により生成した原子状炭素に曝露される。この方法はホットワイヤCVD(HW−CVD)法、ホットフィラメントCVD(HF−CVD)あるいは触媒CVD(Cat−CVD)法と呼ばれるものである。熱CVD法では蒸着基材(炭素被覆する粉末)及び反応炉を1000℃以上にする必要があるため、珪素の結晶粒が増大する。一方、触媒CVD法の有利な点は蒸着基材を室温又は室温前後で維持することが可能な点であり、炭素原子を含む有機分子の熱分解温度に調整することなく、所望の蒸着基材温度を設定することが可能である。他の特徴としては、プラズマCVD等のようにプラズマによる蒸着基材の損傷もなく、装置構成も簡単であるうえ、反応ガスの分解効率も高い。
【0048】
本発明の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法に用いることができる触媒CVD装置の一具体例を図1に示した。この触媒CVD装置100は、反応が行われるチャンバー11を具備し、チャンバー11にはガス導入口15及びガス排気口16が形成されており、また、観察窓17等を具備していてもよい。チャンバー11内には触媒体のフィラメント12が配置されており、触媒CVD装置100はフィラメント12を抵抗加熱するための電源13及び導線14をさらに具備している。また、チャンバー11内には、負極活物質原料21を保持するためのトレー18が配置されている。
【0049】
ガス導入口15から導入された反応ガスは触媒体のフィラメント12と接触し、原子状炭素が生成される。トレー18上に保持された負極活物質原料21は、この原子状炭素に曝露され、負極活物質原料21が炭素被覆される。
【0050】
触媒CVD法は減圧下で行われるが、減圧度としては100〜5000Pa程度が好ましい。100Pa以上であれば、反応ガス濃度が十分に高いため蒸着速度が速くなり経済的である。一方、5000Pa以下であると蒸着膜を均一にしやすく、また、触媒体の劣化を抑えることができる。
【0051】
炭素被覆処理中、負極活物質原料の温度を1000℃未満に保つことが好ましく、700℃未満に保つことがより好ましい。このように、負極活物質原料の温度を1000℃未満として炭素被覆を行えば、珪素の結晶粒径の増大が抑えられ、これを負極とした場合に充放電時の体積変化が十分に小さいものとすることができる。上記のように、負極活物質原料の温度は室温でもよいが、生産性を高めるため、また、被覆した炭素の剥離の抑制のため、概ね200℃以上1000℃未満である。また、400℃以下であれば珪素の結晶粒径の増大はほとんど見られないことから、負極活物質原料の温度は、結晶粒径の増大を抑制する観点からは400℃以下とすることがより好ましい。一方、上記の生産性等の観点を重視すると、400℃以上1000℃未満が好ましい。
【0052】
高融点触媒体はルテニウム、タンタル、タングステン、レニウム、イリジウム等の金属類やステンレス鋼(SUS304)、ニッケルクロム合金などの合金類、または炭素などが用いられる。これらの高融点触媒体は抵抗加熱により融点以下の温度にて触媒体として使用される。上記の金属類で最も融点の低いレニウムの融点は2334℃であるが、他の金属も含めて処理中の触媒体の温度は1600以上とすることが好ましく、上限は触媒体の融点である。触媒体の温度が1600℃以上であれば、有機分子の分解効率を十分なものとすることができる。また、触媒体の劣化を抑えるため、処理中の触媒体の温度は2000℃以下とすることがより好ましい。
【0053】
炭素原子を有する有機分子を含むガスとしては接触分解して原子状炭素を生成するものが選択され、たとえばメタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の他、エチレン、プロピレン、ブチレン、アセチレン等の炭化水素の単独もしくは混合物あるいは、メタノール、エタノールなどのアルコール化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン等の1環乃至3環の芳香族炭化水素もしくはこれらの混合物が挙げられる。また、タール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油、ナフサ分解タール油も単独もしくは混合物として用いられる。
【0054】
炭素原子を有する有機分子は、通常、水素原子も有しており、さらに、上記例示した化合物のように、酸素原子、窒素原子、塩素原子等、他の原子を有していてもよい。また、炭素原子を有する有機分子を含むガスは、上記炭素原子を有する有機分子以外に、水素分子、窒素分子、酸素分子、アルゴン、一酸化炭素、一酸化窒素などを含有してよい。
【0055】
上記負極活物質を用いた負極材を用いて負極を作製する場合、結着剤としてはポリイミド樹脂、特に芳香族ポリイミド樹脂を好適に採用し得る。芳香族ポリイミド樹脂は耐溶剤性に優れ、充放電による体積膨張に追随して集電体からの剥離や活物質の分離を抑制することができるため好ましい。
【0056】
芳香族ポリイミド樹脂は、一般に有機溶剤に対して難溶性であり、特に電解液に対して膨潤あるいは溶解しないことが必要である。このため一般的に高沸点の有機溶剤、例えばクレゾールなどに溶解するのみであることから、電極ペーストの作製にはポリイミドの前駆体であって、種々の有機溶剤、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジオキソランに比較的易溶であるポリアミック酸の状態で添加し、300℃以上の温度で長時間加熱処理することにより、脱水、イミド化させて結着剤とする。
【0057】
この場合、芳香族ポリイミド樹脂としては、テトラカルボン酸二無水物とジアミンより構成される基本骨格を有するが、具体例としては、ピロメリット酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物及びビフェニルテトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物及びシクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等の脂環式テトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸二無水物がある。
【0058】
また、ジアミンとしては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、2,3−ジアミノナフタレン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ジ(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等の芳香族ジアミン、脂環式ジアミン、脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0059】
ポリアミック酸中間体の合成方法としては、通常は溶液重合法が用いられる。溶液重合法に使用される溶剤としては、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルホスホルアミド及びブチロラクトン等が挙げられる。これらは単独でも又は混合して使用してもよい。この反応温度は、通常、−20〜150℃の範囲内であるが、特に−5〜100℃の範囲が望ましい。
【0060】
さらに、ポリアミック酸中間体をポリイミド樹脂に転化するには、通常は、加熱により脱水閉環する方法がとられる。この加熱脱水閉環温度は140〜400℃、好ましくは150〜250℃の任意の温度を選択できる。この脱水閉環に要する時間は、上記反応温度にもよるが30秒間〜10時間、好ましくは5分間〜5時間が適当である。
【0061】
このようなポリイミド樹脂としては、ポリイミド樹脂粉末のほか、ポリイミド前駆体のN−メチルピロリドン溶液などが入手できるが、例えばU−ワニスA、U−ワニスS、UIP−R、UIP−S(宇部興産(株)製)やKAYAFLEX KPI−121(日本化薬(株)製)、リカコートSN−20、PN−20、EN−20(新日本理化(株)製)が挙げられる。
【0062】
本発明によって炭素被覆された酸化珪素粉末及び珪素粉末の少なくとも一方の負極材中の配合量は10〜95質量%であることが好ましい。10質量%以上であれば、電池容量向上の効果を十分に得ることができる。一方、95質量%以下であれば、結着材料が不足することがないので、電極の体積変化を抑制しやすくなる。また、この配合量は特に20〜90質量%が好ましく、さらに好ましくは50〜90質量%である。また、上記結着剤の配合量は、活物質全体中に1〜20質量%の割合が好ましい。より好ましくは3〜15質量%である。結着剤が十分であれば、負極活物質の分離を抑制できる。また、結着剤が多すぎず適量の範囲内であれば、空隙率の減少及び絶縁膜の厚膜化に伴うLiイオンの移動の阻害を抑制できる。
【0063】
上記本発明により製造された負極活物質を用いて負極材を作製する場合、黒鉛等の導電剤を添加することができる。この場合、導電剤の種類は特に限定されず、構成された電池において、分解や変質を起こさない電子伝導性の材料であればよく、具体的にはAl,Ti,Fe,Ni,Cu,Zn,Ag,Sn,Si等の金属粉末や金属繊維、又は天然黒鉛、人造黒鉛、各種のコークス粉末、メソフェーズ炭素、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、各種の樹脂焼成体等の黒鉛などを用いることができる。これらの導電剤は、予め水あるいはN−メチル−2−ピロリドン等の溶剤の分散物を作製し、添加することで、活物質粒子に均一に付着、分散した電極ペーストを作製することができることから、上記溶剤分散物として添加することが好ましい。なお、導電剤は上記溶剤に公知の界面活性剤を用いて分散を行うことができる。また、導電剤に用いる溶剤は、結着剤に用いる溶剤と同一のものであることが望ましい。
【0064】
導電剤の添加量は、その上限は50質量%以下(負極材あたりの電池容量は概ね1000mAH/g以上となる)であり、好ましくは1〜30質量%、特に1〜10質量%である。導電剤量が少ないと、負極材の導電性に乏しい場合があり、初期抵抗が高くなる傾向がある。一方、導電剤量の増加は電池容量の低下につながるおそれがある。
【0065】
また、上記ポリイミド樹脂結着剤の他に、粘度調整剤としてカルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ソーダ、その他のアクリル系ポリマーあるいは脂肪酸エステル等を添加してもよい。
【0066】
本発明の非水電解質二次電池用負極材は、例えば以下のように負極成型体とすることができる。即ち、上記負極活物質と、導電剤と、結着剤と、その他の添加剤とに、N−メチルピロリドンあるいは水などの結着剤の溶解、分散に適した溶剤を混練してペースト状の合剤とし、該合剤を集電体にシート状に塗布する。この場合、集電体としては、銅箔、ニッケル箔など、通常、負極の集電体として使用されている材料であれば、特に厚さ、表面処理の制限なく使用することができる。なお、合剤をシート状に成形する成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0067】
このようにして得られた負極材(負極成型体)を用いることにより、非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池を製造することができる。この場合、非水電解質二次電池は、上記負極活物質を用いる点に特徴を有し、その他の正極、セパレーター、電解液、電解質などの材料及び電池形状などは公知のものを用いることができ、特に限定されない。
【0068】
正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び離脱することが可能な酸化物あるいは硫化物等が挙げられ、これらのいずれか1種又は2種以上が用いられる。具体的には、TiS、MoS、NbS、ZrS、VSあるいはV、MoO及びMg(V等のリチウムを含有しない金属硫化物もしくは酸化物、又はリチウム及びリチウムを含有するリチウム複合酸化物が挙げられ、また、NbSe等の複合金属も挙げられる。中でも、エネルギー密度を高くするには、LiMetOを主体とするリチウム複合酸化物が好ましい。なお、Metは、コバルト、ニッケル、鉄及びマンガンのうちの少なくとも1種が好ましく、pは、通常、0.05≦p≦1.10の範囲内の値である。このようなリチウム複合酸化物の具体例としては、層構造を持つLiCoO、LiNiO、LiFeO、LiNiCo1−r(但し、q及びrの値は電池の充放電状態によって異なり、通常、0<q<1、0.7<r≦1)、スピネル構造のLiMn及び斜方晶LiMnOが挙げられる。更に高電圧対応型として置換スピネルマンガン化合物としてLiMetMn1−s(0<s<1)も使用されており、この場合のMetはチタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛等が挙げられる。
【0069】
なお、上記のリチウム複合酸化物は、例えば、リチウムの炭酸塩、硝酸塩、酸化物あるいは水酸化物と、遷移金属の炭酸塩、硝酸塩、酸化物あるいは水酸化物とを所望の組成に応じて粉砕混合し、酸素雰囲気中において600〜1000℃の範囲内の温度で焼成することにより調製することができる。
【0070】
さらに、正極活物質としては有機物も使用することができる。例示すると、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセン、ポリスルフィド化合物等である。
【0071】
以上の正極活物質は、上記の負極材に使用したものと同様の導電剤や結着剤と共に混練して集電体に塗布され、公知の方法により正極成型体とすることができる。
【0072】
正極と負極の間に用いられるセパレーターは電解液に対して安定であり、保液性に優れていれば特に制限はないが、一般的にはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン及びこれらの共重合体やアラミド樹脂などの多孔質シート又は不織布が挙げられる。これらは単層あるいは多層に重ね合わせて使用してもよく、表面に金属酸化物等のセラミックスを積層してもよい。また、多孔質ガラス、セラミックス等も使用される。
【0073】
本発明に使用される非水電解質二次電池用溶媒としては、非水電解液として使用できるものであれば特に制限はない。一般にエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等の非プロトン性高誘電率溶媒や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,3−ジオキソラン、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、アニソール、メチルアセテート等の酢酸エステル類あるいはプロピオン酸エステル類等の非プロトン性低粘度溶媒が挙げられる。これらの非プロトン性高誘電率溶媒と非プロトン性低粘度溶媒を適当な混合比で併用することが望ましい。更には、イミダゾリウム、アンモニウム、及びピリジニウム型のカチオンを用いたイオン液体を使用することができる。対アニオンは特に限定されるものではないが、BF、PF、(CFSO等が挙げられる。イオン液体は前述の非水電解液溶媒と混合して使用することが可能である。
【0074】
固体電解質やゲル電解質とする場合には、シリコーンゲル、シリコーンポリエーテルゲル、アクリルゲル、シリコーンアクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリ(ビニリデンフルオライド)等を高分子材料として含有することが可能である。なお、これらは予め重合していてもよく、注液後重合してもよい。これらは単独もしくは混合物として使用可能である。
【0075】
電解質塩としては、例えば、軽金属塩が挙げられる。軽金属塩にはリチウム塩、ナトリウム塩、あるいはカリウム塩等のアルカリ金属塩、又はマグネシウム塩あるいはカルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、又はアルミニウム塩などがあり、目的に応じて1種又は複数種が選択される。例えば、リチウム塩であれば、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、CFSOLi、(CFSONLi、CSOLi、CFCOLi、(CFCONLi、CSOLi、C17SOLi、(CSONLi、(CSO)(CFSO)NLi、(FSO)(CFSO)NLi、((CFCHOSONLi、(CFSOCLi、(3,5−(CFBLi、LiCF、LiAlCl又はCBOLiが挙げられ、これらのうちのいずれか1種又は2種以上が混合して用いられる。
【0076】
非水電解液の電解質塩の濃度は、電気伝導度の点から、0.5〜2.0mol/Lが好ましい。なお、この電解質の温度25℃における導電率は0.01S/cm以上であることが好ましく、電解質塩の種類あるいはその濃度により調整される。
【0077】
さらに、非水電解液中には必要に応じて各種添加剤を添加してもよい。例えば、サイクル寿命向上を目的としたビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、4−ビニルエチレンカーボネート等や、過充電防止を目的としたビフェニル、アルキルビフェニル、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、ジフェニルエーテル、ベンゾフラン等や、脱酸や脱水を目的とした各種カーボネート化合物、各種カルボン酸無水物、各種含窒素及び含硫黄化合物が挙げられる。
【0078】
非水電解質二次電池の形状は任意であり、特に制限はない。一般的にはコイン形状に打ち抜いた電極とセパレーターを積層したコインタイプ、電極シートとセパレーターをスパイラル状に捲回した角型あるいは円筒型等の電池が挙げられる。
【実施例】
【0079】
以下、酸化珪素粉末及び珪素粉末の作製例、並びに本発明の実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。下記の例において%は質量%を示し、粒子径はレーザー光回折法による粒度分布測定装置によって測定したメジアン径D50を示す。また、結晶粒径(結晶子のサイズ)は、X線回折パターンの分析において、2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属される回折線の半値全幅よりシェラー法(Scherrer法)で求められる値を示す。
【0080】
[酸化珪素粉末1の作製]
二酸化珪素粉末(BET比表面積=200m/g)とケミカルグレード金属珪素粉末(BET比表面積=4m/g)を等モルの割合で混合した混合粉末を、1350℃、100Paの高温減圧雰囲気で加熱し、発生したSiO蒸気を1000℃に保持したステンレス鋼(SUS)製基体に析出させた。次にこの析出物を回収した後、ジョークラッシャーで粗砕した。この粗砕物をジェットミル(ホソカワミクロン社製AFG−100)を用いて分級機の回転数9000rpmにて粉砕し、D50=7.6μm、D90=11.9μmの酸化珪素粉末(SiOx:x=1.02)をサイクロンにて回収した。
【0081】
[酸化珪素粉末2の作製]
酸化珪素粉末1を1000℃に保温した加熱炉にてアルゴン気流下で3時間処理して、不均化を進行させた。
【0082】
[多結晶珪素粉末1の作製]
内温820℃の流動層内に多結晶珪素微粒子を導入し、モノシランを送入することで製造した粒状多結晶珪素をジェットミル(ホソカワミクロン社製AFG−100)を用いて分級機の回転数7200rpmにて粉砕した後、分級機(日清エンジニアリング社製TC−15)にて分級することで、D50=6.0μmの多結晶珪素粉末を得た。
【0083】
[多結晶珪素粉末2の作製]
内温400℃のベルジャー内に1100℃に加熱した多結晶珪素芯を導入し、トリクロロシランを送入することで製造された多結晶珪素塊をジョークラッシャーで破砕したものをジェットミル(ホソカワミクロン社製AFG−100)を用いて分級機の回転数7200rpmにて粉砕した後、さらにビーズミルで4時間粉砕し分級機(日清エンジニアリング社製TC−15)にて分級し、D50=6.5μmの多結晶珪素粉末を得た。
【0084】
<各負極活物質原料粉末の結晶粒径の測定>
酸化珪素粉末1、2、多結晶珪素粉末1、2の結晶粒径をそれぞれ上記シェラー法により求めた。これらの値は、後掲の表1に示した。
【0085】
(実施例1)
図1に示したような触媒CVD装置を用いて、以下のように、酸化珪素粉末1を炭素被覆した。酸化珪素粉末1を直径1mmのタングステンフィラメントを触媒体として使用した触媒CVD装置100のチャンバー11内に静置し、反応ガスとしてメタン/水素/アルゴン=540/60/400sccm、チャンバー内圧力1000Paにて炭素蒸着を行った。トレー18の温度は500℃として、10時間の反応を行った。
【0086】
(実施例2、3、4)
酸化珪素粉末2(実施例2)、多結晶珪素粉末1(実施例3)および多結晶珪素粉末2(実施例4)の炭素被覆を、それぞれ、実施例1の酸化珪素粉末1の場合と同様に行った。
【0087】
(比較例1)
酸化珪素粉末1を1100℃に保持した熱CVD装置中に静置し、メタン/アルゴン=500/500sccm、チャンバー内圧力1000Paにて炭素蒸着を行った。トレーの温度は1100℃として、10時間の反応を行った。
【0088】
(比較例2、3)
多結晶珪素粉末1および多結晶珪素粉末2を比較例1と同様の方法で炭素蒸着を行った。
【0089】
<実施例1−4、比較例1−3の結晶粒径、炭素量の測定>
実施例1−4、比較例1−3で得たそれぞれの反応物の結晶粒径を上記シェラー法により求めるとともに、炭素量を測定し、後掲の表1に示した。
【0090】
上記酸化珪素粉末1、2及び多結晶珪素粉末1、2、並びに実施例1−4、比較例1−3で得られた粉末の結晶粒径、平均粒子径(D50)、炭素量の測定結果を表1にまとめて示した。
【0091】
【表1】

【0092】
酸化珪素粉末1、2を触媒CVD法により炭素被覆した実施例1、2は結晶粒径の増大がほとんど観測されることなく炭素被覆が可能であることが確認された。また、多結晶珪素粉末1、2を触媒CVD法により炭素被覆した実施例3、4も、同様に結晶粒径の増大は観測されなかった。
【0093】
一方、熱CVD法で炭素被覆を実施した比較例1−3は結晶粒径が増大しており、加熱による結晶粒径の増加が観測された。ただし、同じ温度でも酸化珪素粉末1の加熱品の比較例1の結晶粒径は、多結晶珪素粉末1の結晶粒径よりも小さいものであった。おそらく、結晶シリコンの周りの酸化物が結晶粒径の増加を抑制しているものと考えられる。
【0094】
(実施例5−9、比較例4−6)
本発明における炭素被覆された酸化珪素粉末又は珪素粉末を使用した負極材の有用性を確認するため、以下のように、実施例1−4、比較例1−3で作製した各負極活物質を用いて負極材を作製し、さらにその負極材を用いた評価用リチウムイオン二次電池を作製し、充放電容量および体積膨張率の測定を行った。
【0095】
<負極材の作製>
負極活物質として、酸化珪素粉末1を実施例1で炭素被覆した酸化珪素粉末(実施例5、8)、酸化珪素粉末2を実施例2で炭素被覆した酸化珪素粉末(実施例6)、多結晶珪素粉末1を実施例3で炭素被覆した多結晶珪素粉末(実施例7)、多結晶珪素粉末2を実施例4で炭素被覆した多結晶珪素粉末(実施例9)、酸化珪素粉末1を比較例1で炭素被覆した酸化珪素粉末(比較例4)、多結晶珪素粉末1を比較例2で炭素被覆した多結晶珪素粉末(比較例5)、多結晶珪素粉末2を比較例3で炭素被覆した多結晶珪素粉末(比較例6)をそれぞれ用いた。
【0096】
実施例8以外は、酸化珪素粉末又は珪素粉末と、導電剤としてのアセチレンブラックのN−メチルピロリドン分散物(固形分17.5%)との混合物を、N−メチルピロリドンで希釈した。これに結着剤としてポリイミド樹脂(固形分18.1%)を加え、スラリーとした。
【0097】
実施例8については、アセチレンブラックを加えず、酸化珪素粉末をN−メチルピロリドンで希釈し、これに結着剤としてポリイミド樹脂(固形分18.1%)を加え、スラリーとした。
【0098】
これらのスラリーを、それぞれ、厚さ10μmの銅箔に75μmのドクターブレードを使用して塗布し、400℃で2時間減圧乾燥後、60℃のローラープレスにより電極を加圧成形し、最終的には2cmに打ち抜き、負極材とした。このようにして作製した負極材のそれぞれの固形分組成を後掲の表2に示した。
【0099】
<電池特性の確認>
各実施例及び比較例で得られた負極材を対極にリチウム箔を使用し、非水電解質としてリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドをエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1/1(体積比)混合液に1mol/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレーターに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用リチウムイオン二次電池(テストセル)を各6個作製した。
【0100】
作製したテストセルは一晩室温でエージングし、この内2個はエージング後直ちに解体して厚み測定を行い、電解液膨潤状態での膜厚を測定した。なお、電解液及び充電によるリチウム増加量は含まないものとした。次の2個は二次電池充放電試験装置((株)ナガノ製)を用い、テストセルの電圧が5mVに達するまで0.05cの定電流で充電を行い、5mVに達した後は、セル電圧を5mVに保つように電流を減少させて充電を行った。その後、電流値が0.02cを下回った時点で充電を終了した。なお、cは負極の理論容量を1時間で充電する電流値であり、1c=15mAである。充電終了後、テストセルを解体し厚みを測定することで充電時の体積膨張率を算出した。残りの2個は上記の方法で充電を行った後、1500mVに達するまで0.05cの定電流で放電を行うことで、充放電容量を算出し、初回充放電効率を求めた。これらの測定結果を、表2に負極材のそれぞれの固形分組成と合わせて示した。なお、充放電容量は結着剤を除いた活物質あたりの容量であり、初回充放電効率は充電容量に対する放電容量の百分率で示した。
【0101】
【表2】

【0102】
本発明の酸化珪素粉末を用いた実施例5、6及び8は比較例4と比較すると、電池容量がほとんど変化せず体積膨張率が低いことがわかる。一方、珪素粉末を用いた実施例7、9と比較例5、6を比較すると体積膨張率が著しく低いことがわかる。従って、本発明の負極活物質を用いることで、実用上問題となっていた体積膨張を抑制できることが確認された。
【0103】
<サイクル特性評価>
得られた負極材(負極成型体)のサイクル特性を評価するために、正極材料としてLiCoOを活物質とし、集電体としてアルミ箔を用いた単層シート(パイオニクス(株)製、商品名;ピオクセル C−100)を用いた。非水電解質は六フッ化リン酸リチウムをエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1/1(体積比)混合液に1mol/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレーターに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いたコイン型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0104】
作製したコイン型リチウムイオン二次電池は、二晩室温で放置した後、二次電池充放電試験装置((株)ナガノ製)を用い、テストセルの電圧が4.2Vに達するまで1.2mA(正極基準で0.25c)の定電流で充電を行い、4.2Vに達した後は、セル電圧を4.2Vに保つように電流を減少させて充電を行った。そして、電流値が0.3mAを下回った時点で充電を終了した。放電は0.6mAの定電流で行い、セル電圧が2.5Vに達した時点で放電を終了し、放電容量を求めた。これを50サイクル継続した。10サイクル毎の放電容量を1サイクル目の放電容量で割った値を放電容量維持率として計算した結果を表3に示す。比較例4に対して実施例6はサイクル初期の劣化が小さいことが特徴であり、50サイクルまで安定した充放電特性を示していることがわかる。
【0105】
【表3】

【0106】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0107】
100…触媒CVD装置、 11…チャンバー、 12…フィラメント、
13…電源、 14…導線、 15…ガス導入口、 16…ガス排気口、
17…観察窓、 18…トレー、 21…負極活物質原料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素被覆された非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法であって、
酸化珪素粉末及び珪素粉末の少なくとも一方を含む負極活物質原料を、触媒CVD法により炭素被覆することを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記酸化珪素粉末として、非晶質の酸化珪素粉末を用いることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記珪素粉末として、該珪素粉末のX線回折パターンの分析において、2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属される回折線の半値全幅よりシェラー法(Scherrer法)で求められる結晶粒径が300nm以下である多結晶珪素の粉末を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記触媒CVD法による炭素被覆は、
炭素原子を有する有機分子を含むガスを、加熱した触媒体に接触させることにより、原子状炭素を生成し、
該原子状炭素に前記負極活物質原料を曝露することにより行うことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記触媒CVD法による炭素被覆は、前記負極活物質原料の温度を1000℃未満に保って行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法により製造された非水電解質二次電池用負極活物質を含むことを特徴とする非水電解質二次電池用負極材。
【請求項7】
請求項6に記載の非水電解質二次電池用負極材であって、結着剤としてポリイミド樹脂を含むことを特徴とする非水電解質二次電池用負極材。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の非水電解質二次電池用負極材を用いたものであることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項9】
前記非水電解質二次電池がリチウムイオン二次電池であることを特徴とする請求項8に記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2012−221758(P2012−221758A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86694(P2011−86694)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】