説明

非水電解質二次電池

【課題】正極にリン酸バナジウムリチウムを含む高出力且つ高容量の非水電解質二次電池において、導電性金属異物等の突き刺しによる内部短絡等が発生した場合でも、セルの異常発熱や発火を引き起こさない安全な且つサイクル特性の良好な非水電解質二次電池を提供すること。
【解決手段】カーボンを被覆したリン酸バナジウムリチウム及びリチウムニッケル複合酸化物を正極の活物質に含み、且つリチウムイオン脱挿入可能なカーボン系活物質を負極の活物質に含み、単位面積当たりの負極初度充電容量をx[mAh/cm]、単位面積当たりの正極初度充電容量をy[mAh/cm]としたときのxとyとの関係が、0.6≦y/x≦0.92となることを特徴とする非水電解質二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関し、特に、正極活物質としてリン酸バナジウムリチウム及びリチウムニッケル複合酸化物を含む非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池は、近年、電気機器等の電源として使用されており、さらに、電気自動車(EV、HEV等)の電源としても使用されつつある。そして、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池は、その更なる特性向上、例えばエネルギー密度の向上(高容量化)、出力密度の向上(高出力化)やサイクル特性の向上(サイクル寿命の向上)、高い安全性等が望まれている。
【0003】
現在、小型電気機器等に使用されているリチウムイオン二次電池の多くはLiCoO2等のリチウム複合酸化物を正極活物質として用いたものであり、高容量、高寿命の蓄電デバイスを実現している。しかしながら、これらの正極活物質は、異常発生時の高温高電位状態等において、激しく電解液と反応し、酸素放出を伴って発熱し、最悪の場合、発火に至る場合がある等の問題がある。
【0004】
近年、高温高電位状態でも熱安定性に優れた正極活物質としてオリビン型Fe(LiFePO4)や類似結晶構造を有するオリビン型Mn(LiMnPO4)等が検討され、一部、電動工具用途等に実用化に至っている。しかしながら、LiFePO4は、作動電圧がLi/Li+基準に対して3.3〜3.4Vであり、汎用電池に使用されている正極活物質の作動電圧に比べて低いため、エネルギー密度や出力密度の点で不十分である。また、LiMnPO4は、作動電圧がLi/Li+基準に対して4.1Vであり、160mAh/gの理論容量を有することから高エネルギー密度の電池が期待できるが、材料自身の抵抗が高く、高温でMnが溶解する等の問題もある。
【0005】
したがって、オリビン型を用いたとしても、高容量、高出力、高寿命、高い安全性を併せ持つ電池は実現できていない。
【0006】
一方、最近、熱安定性に優れた類似正極活物質として、ナシコン型のリン酸バナジウムリチウム、すなわちLi32(PO43が注目されている(例えば、特許文献1)。Li32(PO43は、作動電圧がLi/Li+基準に対して3.8Vであり、各電位プラトーに応じて、130〜195mAh/gの大きな容量を示す。更に、オリビン鉄材料でも採用された正極活物質表面への導電性カーボン被膜形成技術により、電子伝導性が向上され、高出力化が実現されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2001−500665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、電池の特性安定化、信頼性の確保、安全性の確保、及び高エネルギーを実現するために、負極及び正極の出力特性を考慮して、単位面積当たりの負極初度充電容量をx[mAh/cm2]、単位面積当たりの正極初度充電容量をy[mAh/cm2]としたときのxとyとの関係が、0.95<y/x<1となるように設計されている。しかし、高出力且つ高容量の電池において、例えば、導電性金属異物等の突き刺しによる内部短絡等が発生した場合、瞬間的に大量のリチウムイオンが負極側から正極側に放出される。正極にLi32(PO43とリチウムニッケル複合酸化物を含む非水電解質二次電池においては、内部短絡等が発生した場合、正極側でのリチウムイオンの受け入れ性は良好であるが、負極側でのリチウムイオンの供与性が問題であった。この供与性が低いと、負極の発熱が顕著となりセルの異常加熱や発熱が生じる。最悪の場合には発火に至る。非水電解質二次電池を車載等の移動体に搭載した場合には、交通事故等により導電性金属異物等の突き刺しが起こることが十分に考えられるため、上記のセルの異常発熱や発火は防止しなければならない。
【0009】
従って、本発明の目的は、正極にリン酸バナジウムリチウムを含む高出力且つ高容量の非水電解質二次電池において、導電性金属異物等の突き刺しによる内部短絡等が発生した場合でも、セルの異常発熱や発火を引き起こさない安全で且つサイクル特性の良好な非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、カーボンを被覆したリン酸バナジウムリチウム及びリチウムニッケル複合酸化物を正極の活物質に含み、且つリチウムイオン脱挿入可能なカーボン系活物質を負極の活物質に含み、単位面積当たりの負極初度充電容量をx[mAh/cm2]、単位面積当たりの正極初度充電容量をy[mAh/cm2]としたときのxとyとの関係が、0.6≦y/x≦0.92となることを特徴とする非水電解質二次電池を提供する。なお、リン酸バナジウムリチウムは、Lix2-yy(PO4zで表され、Mが原子番号11以上の金属元素であって、例えば、Fe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、B、Ga、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、Zrからなる群より選ばれる一種以上であり、且つ1≦x≦3、0≦y2、2≦z≦3を満足する材料を含む。例示すれば、Li32(PO43である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カーボンを被覆したリン酸バナジウムリチウム及びリチウムニッケル複合酸化物を正極の活物質に含み、且つリチウムイオン脱挿入可能なカーボン系活物質を負極の活物質に含む。ここで、負極のリチウム脱マージンをこれまで以上に多く設定している。具体的には、単位面積当たりの負極初度充電容量をx[mAh/cm2]、単位面積当たりの正極初度充電容量をy[mAh/cm2]としたときのxとyとの関係が、0.6≦y/x≦0.92の関係を満たすように負極のリチウム脱マージンを大きく設定した。
【0012】
したがって、導電性金属異物等の突き刺しによる内部短絡等が発生した場合でも、負極からのリチウムイオンの供与性を高め、セルの異常発熱や発火を引き起こさない安全で且つサイクル特性の良好な非水電解質二次電池を実現している。
【0013】
なお、本発明の非水電解質二次電池は、正極の活物質としてカーボンを被覆したリン酸バナジウムリチウム及びリチウムニッケル複合酸化物を使用しており、正極活物質に含まれるリチウムニッケル複合酸化物を所定の割合とすることにより、高出力と高い安全性を有すると共に、高容量で良好な充放電サイクル特性を実現している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の非水電解質二次電池(リチウムイオン二次電池)の実施形態の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の非水電解質二次電池(リチウムイオン二次電池)の実施形態の別の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明は、非水電解質二次電池に関する技術である。非水電解質二次電池としては、リチウムイオン二次電池等が挙げられる。後述するように、本発明の非水電解質二次電池において、正極及び負極以外の構成は、特に制限されず、本発明の効果を阻害しない限り、従来公知の技術を適宜組み合わせて実施することができる。
【0016】
本実施形態の非水電解質二次電池は、正極活物質を含む正極合材層を備えた正極を有し、正極活物質としてナシコン型のリン酸バナジウムリチウム、すなわちLi32(PO43とリチウムニッケル複合酸化物とを用いている。なお、本発明におけるナシコン型のリン酸バナジウムリチウムとしては、代表例としてLi32(PO43を挙げて説明するが、一般式Lix2-yy(PO4zで表され、Mが原子番号11以上の金属元素であって、例えば、Fe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、B、Ga、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、Zrからなる群より選ばれる一種以上であり、且つ1≦x≦3、0≦y<2、2≦z≦3を満足する材料であっても本発明の同様の効果を得ることができる。
【0017】
[Li32(PO43
本発明において、Li32(PO43は、どのような方法で製造されても良く、特に制限されない。例えば、LiOH、LiOH・H2O等のリチウム源、V25、V23等のバナジウム源、及びNH42PO4、(NH42HPO4等のリン酸源等を混合し、反応、焼成する等により製造できる。Li32(PO43は、通常、焼成物を粉砕等した粒子状の形態で得られる。
【0018】
また、Li32(PO43は、それ自体では電子伝導性が低いため、その表面に導電性カーボン被膜加工を行う必要がある。これによりLi32(PO43の電子伝導性を向上することができる。導電性カーボンの被膜量はC原子換算で0.1〜20質量%であることが好ましい。
【0019】
導電性カーボン被膜加工は、公知の方法で行うことができる。例えば、カーボン被膜材料として、クエン酸、アスコルビン酸、ポリエチレングリコール、ショ糖、メタノール、プロペン、カーボンブラック、ケッチェンブラック等を用い、上述のLi32(PO43製造の反応時や焼成時に混合すること等によって表面に導電性カーボン被膜を形成させることができる。
【0020】
Li32(PO43粒子の粒度には特に制限は無く、所望の粒度のものを使用することができる。粒度はLi32(PO43の安定性や密度に影響するため、Li32(PO43の2次粒子の粒度分布におけるD50が0.5〜25μmであることが好ましい。上記D50が0.5μm未満の場合は、電解液との接触面積が増加することからLi32(PO43の安定性が低下する場合があり、25μmを超える場合は密度低下のため出力が低下する場合がある。上記の範囲であれば、より安定性が高く高出力の蓄電デバイスとすることができる。Li32(PO43の2次粒子の粒度分布におけるD50は1〜10μmであることが更に好ましく、3〜5μmであることが特に好ましい。なお、この2次粒子の粒度分布におけるD50は、レーザー回折(光散乱法)方式による粒度分布測定装置を用いて測定した値とする。
【0021】
[リチウムニッケル複合酸化物]
本発明では種々のリチウムニッケル複合酸化物を用いることができる。リチウムニッケル複合酸化物のNi元素の構成比率はリチウムニッケル複合酸化物のプロトン吸着性に影響する。本発明においてNi元素は、リチウム原子1モルに対して0.3モル以上、0.8モル以下含まれていることが好ましく、0.5モル以上、0.8モル以下含まれていることが更に好ましい。Ni元素の構成比率が低すぎると、Li32(PO43からのバナジウムの溶出の抑制効果が十分に発揮されない場合がある。上記範囲内であれば、Ni元素の構成比率が高いほど、Li32(PO43からのバナジウム溶出の抑制効果が向上する。特に、Ni元素がリチウム原子1モルに対して0.5モル以上であると、そのバナジウム溶出抑制効果により、容量維持率が格段に向上する。
【0022】
また、本発明のリチウムニッケル複合酸化物には、Niサイトに、原子番号11以上のNiとは異なる金属元素が置換されていてもよい。原子番号11以上のNiとは異なる金属元素は、遷移元素から選択されることが好ましい。遷移元素はNiと同様に複数の酸化数をとることができるため、リチウムニッケル複合酸化物において、その酸化還元電位の範囲を利用することができ、高容量特性を維持できる。原子番号11以上のNiとは異なる金属元素とは、例えば、Co、Mn、Al及びMgであり、好ましくは、Co、Mnである。
【0023】
また、本発明のリチウムニッケル複合酸化物は、例えば、一般式LixNi1-yM’y2(但し、0.8≦x≦1.2、0.2≦y≦0.7であり、M’がFe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、B、Ga、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Srからなる群より選ばれる一種以上である。)で表される化合物であることが好ましい。更に、0.2≦y≦0.5であることが好ましい。
【0024】
リチウムニッケル複合酸化物は、どのような方法で製造されてもよく、特に制限されない。例えば、固相反応法、共沈法又はゾルゲル法等により合成したNi含有前駆体とリチウム化合物とを所望の化学量論比となるように混合し、空気雰囲気下で焼成する等により製造できる。
【0025】
リチウムニッケル複合酸化物は、通常、焼成物を粉砕等した粒子状の形態で得られる、その粒径には特に制限は無く、所望の粒径のものを使用することができる。粒径はリチウムニッケル複合酸化物の安定性や密度に影響するため、粒子の平均粒径は、0.5〜25μmであることが好ましい。平均粒径が、0.5μm未満の場合は、電解液との接触面積が増加することからリチウムニッケル複合酸化物の安定性が低下する場合があり、25μmを超える場合は密度低下のため出力が低下する場合がある。上記の範囲であれば、より安定性が高く高出力の蓄電デバイスとすることができる。リチウムニッケル複合酸化物の粒子の平均粒径は、1〜25μmが更に好ましく、5〜20μmが特に好ましい。なお、この粒子の平均粒径はレーザー回折(光散乱法)方式による粒度分布測定装置を用いて測定した値とする。
【0026】
[正極]
本発明における正極は、正極活物質として上述のカーボンを被覆したLi32(PO43及びリチウムニッケル複合酸化物を含んでいれば良く、それ以外は公知の材料を用いて作製することができる。具体的には、例えば以下のように作製する。
【0027】
上記正極活物質、結合剤、導電助剤を含む混合物を溶媒に分散させた正極スラリーを、正極集電体上に塗布、乾燥を含む工程により正極合材層を形成する。乾燥工程後にプレス加圧等を行っても良い。これにより正極合材層が均一且つ強固に集電体に圧着される。正極合材層の厚みは10〜200μm、好ましくは20〜100μmである。
【0028】
正極合材層の形成に用いる結合剤としては、例えばポリフッ化ビニリデン等の含フッ素系樹脂、アクリル系バインダ、SBR等のゴム系バインダ、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、カルボキシメチルセルロース等が使用できる。結合剤は、本発明の蓄電デバイスに用いられる非水電解液に対して化学的、電気化学的に安定な含フッ素系樹脂、熱可塑性樹脂が好ましく、特に含フッ素系樹脂が好ましい。含フッ素系樹脂としてはポリフッ化ビニリデンの他、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−3フッ化エチレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体及びプロピレン−4フッ化エチレン共重合体等が挙げられる。結合剤の配合量は、上記正極活物質に対して0.5〜20質量%が好ましい。
【0029】
正極合材層の形成に用いる導電助剤としては、例えばケッチェンブラック等の導電性カーボン、銅、鉄、銀、ニッケル、パラジウム、金、白金、インジウム及びタングステン等の金属、酸化インジウム及び酸化スズ等の導電性金属酸化物等が使用できる。導電材の配合量は、上記正極活物質に対して1〜30質量%が好ましい。
【0030】
正極合材層の形成に用いる溶媒としては、水、イソプロピルアルコール、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等が使用できる。
【0031】
正極集電体は正極合材層と接する面が導電性を示す導電性基体であれば良く、例えば、金属、導電性金属酸化物、導電性カーボン等の導電性材料で形成された導電性基体や、非導電性の基体本体を上記の導電性材料で被覆したものが使用できる。導電性材料としては、銅、金、アルミニウムもしくはそれらの合金又は導電性カーボンが好ましい。正極集電体は、上記材料のエキスパンドメタル、パンチングメタル、箔、網、発泡体等を用いることができる。多孔質体の場合の貫通孔の形状や個数等は特に制限はなく、リチウムイオンの移動を阻害しない範囲で適宜設定できる。
【0032】
本発明において、正極の活物質に含まれるリチウムニッケル複合酸化物の割合は、5から95質量%の範囲である。リチウムニッケル複合酸化物の含有率が低過ぎると、Li32(PO43からのバナジウムの溶出の抑制効果が十分に発揮されず、良好な充放電サイクル特性が得られない。また、高容量が得られない。逆に高過ぎるとLi32(PO43からバナジウムの溶出を抑制することができても、蓄電デバイスの充放電サイクル特性が十分に向上しない場合がある。これは、リチウムニッケル複合酸化物自体の安定性が低いことにより劣化するためであると考えられる。上述の範囲であれば、高容量で優れたサイクル特性を得ることができる。
【0033】
[負極]
本発明において負極は、リチウムイオン脱挿入可能なカーボン系活物質を含む。例えば、リチウムインターカレーション炭素材料が挙げられる。この負極活物質及び結合剤を含む混合物を溶媒に分散させた負極スラリーを、負極集電体上に塗布、乾燥等することにより負極合材層を形成する。なお、結合剤、溶媒及び集電体は上述の正極の場合と同様なものが使用できる。
【0034】
リチウムインターカレーション炭素材料としては、例えば、黒鉛、難黒鉛化炭素材料等の炭素系材料、ポリアセン物質等が挙げられる。ポリアセン系物質は、例えばポリアセン系骨格を有する不溶且つ不融性のPAS等である。なお、これらのリチウムインターカレーション炭素材料は、いずれもリチウムイオンを可逆的にドープ可能な物質である。負極合材層の厚みは一般に10〜200μm、好ましくは20〜100μmである。
【0035】
更に、本発明おいては、負極及び正極合材層の塗工量は、単位面積当たりの負極初度充電容量をx[mAh/cm2]、単位面積当たりの正極初度充電容量をy[mAh/cm2]としたときのxとyとの関係が、通常、正負極の容量バランスやエネルギー密度の観点から、0.95<y/x<1となるように設計されているのに対して、0.6≦y/x≦0.92となるようにした。ここで、負極の塗工量とx、及び正極の塗工量とyとの関係は、それぞれ塗工量を倍にするとx又はyも倍となる線形の関係にある。
【0036】
[非水電解液]
本発明における非水電解液は、特に制限はなく、公知の材料を使用できる。例えば、高電圧でも電気分解を起こさないという点、リチウムイオンが安定に存在できるという点から、一般的なリチウム塩を電解質とし、これを有機溶媒に溶解した電解液を使用できる。
【0037】
電解質としては、例えば、CF3SO3Li、C49SO8Li、(CF3SO22NLi、(CF3SO23CLi、LiBF4、LiPF6、LiClO4等又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0038】
有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ビニルカーボネート、トリフルオロメチルプロピレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4-メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオトリル等又はこれらの2種以上の混合溶媒が挙げられる。
【0039】
非水電解液中の電解質濃度は0.1〜5.0mol/Lが好ましく、0.5〜3.0mol/Lが更に好ましい。
【0040】
非水電解液は液状でも良く、可塑剤やポリマー等を混合し、固体電解質又はポリマーゲル電解質としたものでも良い。
【0041】
[セパレータ]
本発明で使用するセパレータは、特に制限はなく、公知のセパレータを使用できる。例えば、電解液、正極活物質、負極活物質に対して耐久性があり、連通気孔を有する電子伝導性の無い多孔質体等を好ましく使用できる。このような多孔質体として例えば、織布、不織布、合成樹脂性微多孔膜、ガラス繊維などが挙げられる。合成樹脂性の微多孔膜が好ましく用いられ、特にポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン製微多孔膜が、厚さ、膜強度、膜抵抗の面で好ましい。
【0042】
以下に本発明の非水電解質二次電池の実施形態の一例として、リチウムイオン二次電池の例を、図面を参照しながら説明する。
【0043】
図1は、本発明に係るリチウムイオン二次電池の実施形態の一例を示す概略断面図である。図示のように、リチウムイオン二次電池20は、正極21と、負極22とがセパレータ23を介して対向配置されて構成されている。
【0044】
正極21は、本発明の正極活物質を含む正極合材層21aと、正極集電体21bとから構成されている。正極合材層21aは、正極集電体21bのセパレータ23側の面に形成されている。負極22は、負極合材層22aと、負極集電体22bとから構成されている。負極合材層22aは、負極集電体22bのセパレータ23側の面に形成されている。これら正極21、負極22、セパレータ23は、図示しない外装容器に封入されており、外装容器内には非水電解液が充填されている。外装材としては例えば電池缶やラミネートフィルム等が挙げられる。また、正極集電体21bと負極集電体22bとには、必要に応じて、それぞれ外部端子接続用の図示しないリードが接続されている。
【0045】
次に、図2は、本発明に係るリチウムイオン二次電池の実施形態の別の一例を示す概略断面図である。図示のように、リチウムイオン二次電池30は、正極31と負極32とが、セパレータ33を介して交互に複数積層された電極ユニット34を備えている。正極31は、正極合材層31aが、正極集電体31bの両面に設けられて構成されている。負極32は、負極合材層32aが負極集電体32bの両面に設けられて構成されている(ただし、最上部および最下部の負極32については、負極合材層32aは片面のみ)。また、正極集電体31bは図示しないが突出部分を有しており、複数の正極集電体31bの各突出部分はそれぞれ重ね合わされ、その重ね合わされた部分にリード36が溶接されている。負極集電体32bも同様に突出部分を有しており、複数の負極集電体32bの各突出部分が重ね合わされた部分にリード37が溶接されている。リチウムイオン二次電池30は、図示しないラミネートフィルム等の外装容器内に電極ユニット34と非水電解液が封入されて構成されている。リード36,37は外部機器との接続のため、外装容器の外部に露出される。
【0046】
なお、リチウムイオン二次電池30は、外装容器内に、正極、負極、又は正負極双方にリチウムイオンをプレドープする為のリチウム極を備えていてもよい。その場合には、リチウムイオンが移動し易くするため、正極集電体31bや負極集電体32bに電極ユニット34の積層方向に貫通する貫通孔が設けられる。
【0047】
また、リチウムイオン二次電池30は、最上部および最下部に負極を配置させたが、これに限定されず、最上部および最下部に正極を配置させる構成でもよい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0049】
(実施例1)
(1)正極の作製
以下の正極合材層用材料:
第一活物質(Li32(PO43) ; 30質量部
第二活物質(LiNi0.8Co0.1Mn0.12) ; 60質量部
結合剤(ポリフッ化ビニリデン(PVdF)) ; 5質量部
導電材(カーボンブラック) ; 5質量部
溶媒(N−メチル2−ピロリドン(NMP)) ;100質量部
を混合し、正極スラリーを得た。正極スラリーをアルミニウム箔(厚み30μm)の正極集電体に塗布、乾燥し、正極合材層を正極集電体上に形成した。正極合材層の塗工量は(片面当たり)14mg/cm2であった。10×10mmの未塗工部分をリード接続用のタブとして残しつつ、塗工部分(正極合材層形成部分)を50×50mmに裁断した。なお、Li32(PO43はカーボンをC原子換算で1.4質量%被覆したものを用いた。
【0050】
(2)負極の作製
以下の負極合材層用材料:
活物質(グラファイト) ; 95質量部
結合剤(PVdF) ; 5質量部
溶媒(NMP) ;150質量部
を混合し、負極スラリーを得た。負極スラリーを銅箔(厚み10μm)の負極集電体に塗布、乾燥し、負極合材層を負極集電体上に形成した。負極合材層の塗工量は(片面当たり)7.2mg/cm2であった。これは、単位面積当たりの負極初度充電容量をx[mAh/cm2]、単位面積当たりの正極初度充電容量をy[mAh/cm2]としたときのxとyの関係がy/x=0.9となるようにした。そして、10×10mmの未塗工部分をリード接続用のタブとして残しつつ、塗工部分(負極合材層形成部分)を52×52mmに裁断した。
【0051】
(3)電池の作製
上述のように作製した正極19枚と、負極20枚とを用いて、図2の実施形態で示したようなリチウムイオン二次電池を作製した。具体的には、正極及び負極をセパレータを介して積層し、積層体の周囲をテープで固定した。各正極集電体のタブを重ねてアルミニウム金属リードを溶接した。同様に各負極集電体のタブを重ねてニッケル金属リードを溶接した。これらをアルミラミネート外装材に封入し、正極リードと負極リードを外装材外側に出して、電解液封入口を残して密閉融着した。電解液封入口より電解液を注液し、真空含浸にて電極内部に電解液を浸透させた後、ラミネートを真空封止した。
【0052】
(4)充放電試験
上述のように作製した電池の正極リードと負極リードとを、充放電試験装置(アスカ電子社製)の対応する端子に接続し、最大電圧4.2V、電流レート5Cで定電流定電圧充電し、充電完了後、電流レート5Cにて2.5Vまで定電流放電させた。これを1000サイクル繰り返した。初回放電時に測定した容量からエネルギー密度(Wh/kg)を算出し、サイクル後の容量からサイクル容量維持率(1000サイクル時放電容量/初回放電容量×100)を算出した。容量維持率は92%であった。測定結果を表1に示す。
【0053】
(5)釘刺し試験
前述のように作製した電池の正極リードと負極リードとを、充放電試験装置(アスカ電子社製)の対応する端子に接続し、最大電圧4.2V、電流レート5Cで定電流定電圧充電した。釘径φ5mmの鉄製の釘を用意し、金属製基盤上にリチウムイオン二次電池を載置した。リチウムイオン二次電池の中央部に、正極及び負極の積層方向に向かって釘刺し速度15mm/秒で釘を刺し、アルミラミネートを貫通させた。釘刺しから10分経過するまで観察したが、セルの異常発熱及び発火は生じなかった。観察結果を表1に示す。ここで、〇は異常が観察されなかったことを、×は異常発熱や発火が生じたことを意味する。
【0054】
(実施例2)
単位面積当たりの負極初度充電容量をx[mAh/cm2]、単位面積当たりの正極初度充電容量をy[mAh/cm2]としたときのxとyの関係が、y/x=0.6となるように負極合材層の塗工量(片面当たり)を10.6mg/cm2に変更した以外は全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。容量維持率は87%であり、釘刺しによる安全性試験においては、セルの異常発熱及び発火は生じなかった。
【0055】
(実施例3)
単位面積当たりの負極初度充電容量をx[mAh/cm2]、単位面積当たりの正極初度充電容量をy[mAh/cm2]としたときのxとyの関係が、y/x=0.85となるように負極合材層の塗工量(片面当たり)を7.6mg/cm2に変更した以外は全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。容量維持率は91%であり、釘刺しによる安全性試験においては、セルの異常発熱及び発火は生じなかった。
【0056】
(比較例1)
単位面積当たりの負極初度充電容量をx[mAh/cm2]、単位面積当たりの正極初度充電容量をy[mAh/cm2]としたときのxとyの関係が、y/x=0.95となるように負極合材層の塗工量(片面当たり)を6.8mg/cm2に変更した以外は全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。容量維持率は92%であり、釘刺しによる安全性試験においては、セルの異常発熱及び発火が生じた。
【0057】
(比較例2)
単位面積当たりの負極初度充電容量をx[mAh/cm2]、単位面積当たりの正極初度充電容量をy[mAh/cm2]としたときのxとyの関係が、y/x=0.55となるように極合材層の塗工量(片面当たり)を11.7mg/cm2に変更した以外は全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。容量維持率は78%であり、釘刺しによる安全性試験においては、セルの異常発熱及び発火は生じなかった。実施例1〜3及び比較例1、2の結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
(実施例4)
単位面積当たりの負極初度充電容量をx[mAh/cm2]、単位面積当たりの正極初度充電容量をy[mAh/cm2]としたときのxとyとの関係が、y/x=0.92となるように負極合材層の塗工量(片面当たり)を7.0mg/cm2に変更した以外は全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。容量維持率は90%であり、釘刺しによる安全性試験においては、セルの異常発熱及び発火は生じなかった。
【0060】
(実施例5)
正極合材層の第二活物質をLiNi0.8Co0.1Al0.12に置き換えると共に、単位面積当たりの負極初度充電容量をx[mAh/cm2]、単位面積当たりの正極初度充電容量をy[mAh/cm2]としたときのxとyとの関係が、y/x=0.92となるように負極合材層の塗工量(片面当たり)を7.3mg/cm2に変更した以外は全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。容量維持率は90%であり、釘刺しによる安全性試験においては、セルの異常発熱及び発火は生じなかった。
【0061】
(実施例6)
正極合材層の第二活物質をLiNi0.6Co0.2Mn0.22に置き換えると共に、単位面積当たりの負極初度充電容量をx[mAh/cm2]、単位面積当たりの正極初度充電容量をy[mAh/cm2]としたときのxとyとの関係が、y/x=0.92となるように負極合材層の塗工量(片面当たり)を6.1mg/cm2に変更した以外は全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。容量維持率は89%であり、釘刺しによる安全性試験においては、セルの異常発熱及び発火は生じなかった。
【0062】
(実施例7)
正極合材層の第二活物質をLiNi0.5Co0.3Mn0.22に置き換えると共に、単位面積当たりの負極初度充電容量をx[mAh/cm2]、単位面積当たりの正極初度充電容量をy[mAh/cm2]としたときのxとyとの関係が、y/x=0.92となるように負極合材層の塗工量(片面当たり)を6.1mg/cm2に変更した以外は全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。容量維持率は89%であり、釘刺しによる安全性試験においては、セルの異常発熱及び発火は生じなかった。
【0063】
(比較例3)
正極合材層の第二活物質をLiNi0.6Co0.2Mn0.22に置き換えると共に、単位面積当たりの負極初度充電容量をx[mAh/cm2]、単位面積当たりの正極初度充電容量をy[mAh/cm2]としたときのxとyとの関係が、y/x=0.95となるように負極合材層の塗工量(片面当たり)を5.9mg/cm2に変更した以外は全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。容量維持率は90%であり、釘刺しによる安全性試験においては、セルの異常発熱及び発火が生じた。
【0064】
(比較例4)
正極合材層の第二活物質をLiNi0.5Co0.3Mn0.22に置き換えると共に、単位面積当たりの負極初度充電容量をx[mAh/cm2]、単位面積当たりの正極初度充電容量をy[mAh/cm2]としたときのxとyとの関係が、y/x=0.95となるように負極合材層の塗工量(片面当たり)を5.9mg/cm2に変更した以外は全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。容量維持率は90%であり、釘刺しによる安全性試験においては、セルの異常発熱及び発火は生じた。
【0065】
(比較例5)
正極合材層の第二活物質をLiNi0.6Co0.2Mn0.22に置き換えると共に、単位面積当たりの負極初度充電容量をx[mAh/cm2]、単位面積当たりの正極初度充電容量をy[mAh/cm2]としたときのxとyとの関係が、y/x=0.55となるように負極合材層の塗工量(片面当たり)を10mg/cm2に変更した以外は全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。容量維持率は76%であり、釘刺しによる安全性試験においては、セルの異常発熱及び発火は生じなかった。
【0066】
(比較例6)
正極合材層の第二活物質をLiNi0.5Co0.3Mn0.22に置き換えると共に、単位面積当たりの負極初度充電容量をx[mAh/cm2]、単位面積当たりの正極初度充電容量をy[mAh/cm2]としたときのxとyとの関係が、y/x=0.55となるように負極合材層の塗工量(片面当たり)を10mg/cm2に変更した以外は全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。容量維持率は75%であり、釘刺しによる安全性試験においては、セルの異常発熱及び発火は生じなかった。実施例4〜7及び比較例3〜6の結果を表2及び表3に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
上述の実施例1から実施例7の実験結果からわかるように、単位面積当たりの負極初度充電容量をx[mAh/cm2]、単位面積当たりの正極初度充電容量をy[mAh/cm2]としたときのy/xの値を0.6から0.92の範囲にすることで、負極のリチウム脱マージンが大きくなり、釘刺しによる安全試験で良好な結果が得られた。y/xの値が0.6の下限より小さくなると、釘刺しによる安全試験では良好な結果が得られるものの、電流負荷試験において良好な結果が得られなかった。これは、リチウムイオンの負極での脱マージンを必要以上に多くとり過ぎ、正極と負極の充電容量にアンバランスが生じたためと考えられる。また、y/xの値を0.92より大きくすると、釘刺しによる安全試験では、従来と同様に負極のリチウムイオン脱マージンが低く、セルの異常発熱に至ったと考えられる。
【0070】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0071】
20、30 リチウムイオン二次電池
21、31 正極
21a、31a 正極合材層
21b、31b 正極集電体
22、32 負極
22a、32a 負極合材層
22b、32b 負極集電体
23、33 セパレータ
34 電極ユニット
36、37 リード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンを被覆したリン酸バナジウムリチウム及びリチウムニッケル複合酸化物を正極の活物質に含み、且つリチウムイオン脱挿入可能なカーボン系活物質を負極の活物質に含み、単位面積当たりの負極初度充電容量をx[mAh/cm]、単位面積当たりの正極初度充電容量をy[mAh/cm]としたときのxとyとの関係が、0.6≦y/x≦0.92となることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記負極初度充電容量及び前記正極初度充電容量は、前記負極及び前記正極のそれぞれの塗工量により決定されることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。
解質二次電池。
【請求項3】
前記正極の活物質に含まれる前記リチウムニッケル複合酸化物の割合は、5〜95質量%であることを特徴とする請求項1又は2の何れか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記リチウムニッケル複合酸化物中のニッケル元素が、リチウム原子1モルに対して、0.5モル以上、0.8モル以下含まれていることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記リチウムニッケル複合酸化物が、原子番号11以上のNiとは異なる金属元素を含むことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記金属元素が、Co、Mn、Al及びMgから選択される元素であることを特徴とする請求項5に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記リン酸バナジウムリチウムが、
Li2−y(POで表され、
MがFe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、B、Ga、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、Zrからなる群より選ばれる一種以上であり、且つ、
1≦x≦3、
0≦y<2、
2≦z≦3
を満足する材料であることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−84566(P2013−84566A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−153335(P2012−153335)
【出願日】平成24年7月9日(2012.7.9)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】