説明

非水電解質二次電池

【課題】電池容量等の電池性能を損なうことなく、過充電時のガス発生量を高めることが可能な非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】本発明の非水電解質二次電池は、正極と、負極活物質を含む負極と、過充電時に酸化分解されてプロトンを発生する添加剤が添加された非水電解質と、電池内圧が所定値以上になると電流を遮断する電流遮断機構とを備え、負極活物質の粒子表面にプロトン還元作用を有する触媒が担持されたものである。触媒は、Pt、Ru、Rh、Pd、Au、及びAgからなる群より選ばれた少なくとも1種を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池においては、過充電時の安全対策として、電池内圧が所定値以上になると電流を遮断する電流遮断機構が搭載されることがある(例えば、特許文献1の段落0094)。電流遮断機構を備えた非水電解質二次電池では、非水電界質に過充電時に酸化分解されてプロトンを発生する過充電防止剤が添加される。かかる構成では、過充電時には過充電防止剤が分解されてプロトンが発生し、このプロトンが負極で還元されて水素ガスが発生して内圧が上昇し、これを検知して電流が遮断される。
【0003】
特許文献1には、従来技術の説明において、過充電防止剤として、ビフェニル類、アルキルベンゼン類、2個の芳香族基で置換されたアルキル化合物、フッ素原子置換芳香族化合物類、及び塩素原子置換ビフェニルが挙げられている(段落0009、0011、0014)。
特許文献1の請求項1には、過充電防止剤として、塩素原子置換ビフェニル、塩素原子置換ナフタレン、塩素原子置換フルオレン、及び塩素原子置換ジフェニルメタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩素原子置換芳香族化合物が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-087168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電流遮断機構を備えた非水電解質二次電池において、電流遮断機構の作動圧を低く設定すると、正常範囲内での内圧変動あるいは外部からの衝撃等など、本来検知したい過充電以外の要因による内圧上昇を検知して、電流が遮断されてしまう恐れがある。かかる誤作動を防止するには、過充電時のガス発生量を高めて、電流遮断機構の作動圧を高めに設定することが好ましい。
【0006】
過充電時のガス発生量を高める対策としては、過充電防止剤の分解反応及びプロトン生成反応の反応面積を増加させる、あるいは過充電防止剤の添加量を増加させることなどが挙げられる。
【0007】
プラグインハイブリッド車(PHV)あるいは電気自動車(EV)等の用途では、リチウムイオン二次電池に高容量が求められる。
しかしながら、上記対策を実施すると、電池容量が低下する傾向がある。
【0008】
リチウムイオン二次電池の電池容量を高めるためには、炭素等からなる負極活物質の比表面積は小さい方が好ましい。しかしながら、負極活物質の比表面積を減少させると、負極におけるプロトン還元性能が低下して、水素ガス発生量が低下する傾向がある。
【0009】
負極活物質の比表面積を増加すれば、プロトンが負極で還元されやすくなり、水素ガス発生量を増加させることができる。しかしながら、負極活物質の比表面積を増加させると、電池容量が低下する傾向がある。
【0010】
上記のように、従来の非水電解質二次電池では、電池容量と過充電時のガス発生量とは背反する特性であり、これらを両立することは難しい。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、電池容量等の電池性能を損なうことなく、過充電時のガス発生量を高めることが可能な非水電解質二次電池を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の非水電解質二次電池は、
正極と、負極活物質を含む負極と、過充電時に酸化分解されてプロトンを発生する添加剤が添加された非水電解質と、電池内圧が所定値以上になると電流を遮断する電流遮断機構とを備えた非水電解質二次電池であって、
前記負極活物質の粒子表面にプロトン還元作用を有する触媒が担持されたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電池容量等の電池性能を損なうことなく、過充電時のガス発生量を高めることが可能な非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る非水電解質二次電池の構成例を模式的に示す全体図である。
【図2】図1の非水電解質二次電池の部分断面図である。
【図3】従来及び本発明の負極活物質における、負極活物質の粒子径・比表面積・イメージ図と電池容量と水素ガス発生量との関係を示す表である。
【図4】[実施例]において、負極活物質の比表面積と電池容量との関係を示すグラフである。
【図5】[実施例]において、負極活物質の比表面積と容量維持率との関係を示すグラフである。
【図6】[実施例]において、負極活物質における触媒担持の有無と、負極活物質の比表面積と、ガス発生量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳述する。
本発明の非水電解質二次電池は、正極と、負極活物質を含む負極と、過充電時に酸化分解されてプロトンを発生する添加剤が添加された非水電解質と、電池内圧が所定値以上になると電流を遮断する電流遮断機構とを備え、負極活物質の粒子表面にプロトン還元作用を有する触媒が担持されたものである。
【0016】
以降、過充電時に酸化分解されてプロトンを発生する添加剤は、「過充電防止剤」と称す。
【0017】
図1及び図2に、非水電解質二次電池の構成例を模式的に示す。図1は全体図、図2は部分断面図である。いずれも模式図である。
【0018】
図1に示す非水電解質二次電池1は、外装体11内に、図2に示す積層体20と、過充電防止剤が添加された非水電解質(符号略)とが収容されたものである。
積層体20は、集電体上に粒子状の正極活物質が塗布された正極21と、集電体上に粒子状の負極活物質が塗布された負極22と、樹脂製セパレータ23とが積層されたものである。
【0019】
非水電解質二次電池1には、外装体11内に、電池内圧が所定値以上になると電流を遮断する電流遮断機構13が設けられている。電流遮断機構13の設置箇所は、電流遮断作用に応じて設計される。
【0020】
電流遮断機構13を備えた非水電解質二次電池では、非水電解質に、過充電時に酸化分解されてプロトンを発生する過充電防止剤が添加される。かかる構成では、過充電時には非水電解質中の過充電防止剤が分解されてプロトンが発生し、このプロトンが負極で還元されて水素ガスが発生する。このガス発生によって電池内圧が上昇し、電流遮断機構13によって電流が遮断される。
【0021】
電流遮断機構13としては公知の機構を採用することができる。
電流遮断機構13としては、電池内圧が上昇することによって変形して充電電流の接点を切る構造体、電池内圧をセンサで検知して充電を停止する外部回路、電池内圧による電池の変形をセンサで検知して充電を停止する外部回路、及び、電池内圧が上昇することによって変形して正極と負極とを短絡させる構造体などを例示することができる。
例えば、電池内圧が上昇することによって変形して充電電流の接点を切る構造体等は、シンプルな構造でかつ電流遮断効果が高いので好ましい。
【0022】
外装体11の外面に、外部接続用の2個の端子(プラス端子及びマイナス端子)12が設けられている。
【0023】
非水電解質二次電池としては、リチウムイオン二次電池等が挙げられる。
以下、リチウムイオン二次電池を例として、非水電解質二次電池の主な構成要素について説明する。
【0024】
<正極>
正極は、公知の方法により、アルミニウム箔などの正極集電体に正極活物質を塗布して、製造することができる。
公知の正極活物質としては特に制限なく、例えば、LiCoO、LiMnO、LiMn、LiNiO、LiNiCo(1−x)、及びLiNiCoMn(1−x−y)等のリチウム含有複合酸化物等が挙げられる(式中、0<x<1、0<y<1)。
【0025】
例えば、N−メチル−2−ピロリドン等の分散剤を用い、上記の正極活物質と、炭素粉末等の導電剤と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の結着剤とを混合して、スラリーを得、このスラリーをアルミニウム箔等の集電体上に塗布し、乾燥し、プレス加工して、正極を得ることができる。
正極の目付は特に制限なく、1.5〜15mg/cmが好ましい。正極の目付が過小では均一な塗布が難しく、過大では集電体から剥離する恐れがある。
【0026】
<負極>
負極は、公知の方法により、銅箔などの負極集電体に負極活物質を塗布して、製造することができる。
負極活物質としては特に制限なく、Li/Li+基準で2.0V以下にリチウム吸蔵能力を持つものが好ましく用いられる。負極活物質としては、黒鉛等の炭素、金属リチウム、リチウム合金、リチウムイオンのド−プ・脱ド−プが可能な遷移金属酸化物/遷移金属窒化物/遷移金属硫化物、及び、これらの組合わせ等が挙げられる。
【0027】
例えば、水等の分散剤を用い、上記の負極活物質と、変性スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス等の結着剤と、必要に応じてカルボキシメチルセルロースNa塩(CMC)等の増粘剤とを混合して、スラリーを得、このスラリーを銅箔等の負極集電体上に塗布し、乾燥し、プレス加工して、負極を得ることができる。
負極の目付は特に制限なく、1.5〜15mg/cmが好ましい。負極の目付が過小では均一な塗布が難しく、過大では集電体から剥離する恐れがある。
【0028】
リチウムイオン二次電池において、負極活物質には、リチウムの吸蔵及び放出が可能な炭素材料が広く使用されている。特に黒鉛等の高結晶性炭素は、放電電位が平坦であり、真密度が高く、かつ充填性が良いなどの特性を有していることから、市販のリチウムイオン二次電池の多くの負極活物質として使用されている。したがって、負極活物質としては黒鉛等が特に好ましい。
【0029】
本発明の非水電解質二次電池において、負極活物質の粒子表面にプロトン還元作用を有する少なくとも1種の触媒が担持されている。
触媒としては、プロトン還元作用があるものであればよく、Pt、Ru、Rh、Pd、Au、及びAgからなる群より選ばれた少なくとも1種、これらを含有する金属化合物、及びこれらの組合わせ等が好ましい。
【0030】
負極活物質の粒子表面に触媒を担持させる方法は特に制限されない。
例えば、Pt触媒を用いる場合、HPtCl(ヘキサクロロ白金酸)の水溶液と黒鉛等の負極活物質とを混合し、これを加熱還元することで、負極活物質の粒子表面にPt触媒を担持させることができる。
触媒の担持量は特に制限されず、負極活物質に対して、上限で30〜40質量%まで担持させることができる。触媒の担持量は、負極活物質に対して例えば2〜10質量%が好ましい。
【0031】
「発明が解決しようとする課題」の項において説明したように、従来技術においては以下の課題がある。
過充電時のガス発生量を高めるために、過充電防止剤の分解反応及びプロトン生成反応の反応面積を増加させたり、過充電防止剤の添加量を増加させると、電池容量が低下する傾向がある。
電池容量を高めるためには負極活物質の比表面積は小さい方が好ましいが、負極活物質の粒子径を大きくして負極活物質の比表面積を減少させると、負極におけるプロトンの還元性能が低下して、水素ガス発生量が低下する傾向がある。
負極活物質の粒子径を小さくして比表面積を増加すれば、水素ガス発生量を増加させることができるが、電池容量が低下する傾向がある。
【0032】
本発明では、負極活物質の粒子表面にプロトン還元作用を有する触媒が担持させることで、負極活物質の粒子径を小さくして負極活物質の比表面積を大きくしなくても、負極におけるプロトンの還元性能を高め、水素ガス発生量を増加させることができる。
本発明では、負極活物質の比表面積を大きくしなくてもよいので、電池容量を低減することなく、水素ガス発生量増加の効果が得られる。
【0033】
触媒担持の有無にかかわらず、一般に、負極活物質の比表面積が小さくなる程、充放電を繰り返した際のリチウム析出耐性が低下して、容量維持率が低下する傾向がある(図5を参照)。また、負極活物質の比表面積が大きくなる程、黒鉛等からなる負極活物質における不可逆容量が増加して、電池容量が低下する傾向がある(図4を参照)。
【0034】
従来、プラグインハイブリッド車(PHV)あるいは電気自動車(EV)に搭載されるリチウムイオン二次電池等においては、一般に、黒鉛等の負極活物質の比表面積は、2.5〜5.0m/gの範囲内で用いられている。
本発明において、負極活物質の比表面積は、2.0〜3.5m/gであることが好ましい。かかる範囲であれば、電池容量と充放電を繰り返した際の容量維持率がいずれも良好な非水電解質二次電池を提供できる。
本発明では、負極活物質の表面に触媒を担持させているので、過充電時のみならず、通常の使用時でも、負極における還元作用が効果的に働く。したがって、負極活物質の比表面積を従来よりも低めに設定しても、良好な特性が得られる。
【0035】
図3に従来及び本発明の負極活物質における、負極活物質の粒子径・比表面積・イメージ図と、電池容量と、水素ガス発生量との相対関係を示す表を示す。表中の「大」・「小」、「多」・「少」は、相対的な関係を示している。図中、符号31は負極活物質の粒子、符号32は触媒を示している。
【0036】
図中、「従来1」は、負極活物質の径が相対的に小さく、比表面積が相対的に大きく、3.5m/g以上であり、触媒担持なしのものである。この負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池では、水素ガス発生量は相対的に多いが、電池容量は相対的に小さい。
「従来2」は、負極活物質の径が相対的に大きく、比表面積が相対的に小さく、2.0〜3.5m/gであり、触媒担持なしのものである。この負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池では、電池容量は相対的に大きいが、水素ガス発生量は相対的に少ない。
「本発明」は、負極活物質の径が相対的に大きく、比表面積が相対的に小さく、2.0〜3.5m/gであり、触媒担持ありのものである。この負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池では、電池容量は相対的に大きく、かつ、水素ガス発生量は相対的に多い。つまり、「本発明」では、「従来1」と「従来2」の欠点がいずれもカバーされ、良好な特性を有するものとなっている。
【0037】
負極活物質における触媒担持の有無と、負極活物質の比表面積と、水素ガス発生量との関係の例については、図6を参照されたい。
【0038】
<非水電解質>
非水電解質としては公知のものが使用でき、液状、ゲル状もしくは固体状の非水電解質が使用できる。
例えば、プロピレンカーボネ−トあるいはエチレンカーボネ−ト等の高誘電率カーボネート溶媒と、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジメチルカーボネート等の低粘度カーボネート溶媒との混合溶媒に、リチウム含有電解質を溶解した非水電界液が好ましく用いられる。
【0039】
混合溶媒としては例えば、エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)/エチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒が好ましく用いられる。
リチウム含有電解質としては例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSiF、LiOSO(2k+1)(k=1〜8の整数)、LiPF{C(2k+1)(6−n)(n=1〜5の整数、k=1〜8の整数)等のリチウム塩、及びこれらの組合わせが挙げられる。
【0040】
過充電時に分解されてプロトンを発生する過充電防止剤としては公知のものが使用でき、例えば、「背景技術」の項で挙げた特許文献1に記載の過充電防止剤などを1種又は複数種使用できる。
【0041】
特許文献1には、従来技術の説明において、過充電防止剤として、ビフェニル類、アルキルベンゼン類、2個の芳香族基で置換されたアルキル化合物、フッ素原子置換芳香族化合物類、及び塩素原子置換ビフェニルが挙げられている(段落0009、0011、0014)。
特許文献1の請求項1には、過充電防止剤として、塩素原子置換ビフェニル、塩素原子置換ナフタレン、塩素原子置換フルオレン、及び塩素原子置換ジフェニルメタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩素原子置換芳香族化合物が挙げられている。
【0042】
<セパレータ>
セパレータは、正極と負極とを電気的に絶縁し、かつリチウムイオンが透過可能な膜であればよく、多孔質高分子フィルムが好ましく使用される。
セパレータとしては例えば、PP(ポリプロピレン)製多孔質フィルム、PE(ポリエチレン)製多孔質フィルム、あるいは、PP(ポリプロピレン)−PE(ポリエチレン)の積層型多孔質フィルム等のポリオレフィン製多孔質フィルムが好ましく用いられる。
【0043】
<外装体>
外装体としては公知のものが使用できる。
二次電池の型としては、円筒型、コイン型、角型、あるいはフィルム型(ラミネート型)等があり、所望の型に合わせて外装体を選定することができる。
【0044】
本発明によれば、電池容量等の電池性能を損なうことなく、過充電時のガス発生量を高めることが可能な非水電解質二次電池を提供することができる。
【実施例】
【0045】
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
【0046】
[予備実験]
<正極活物質>
正極活物質として、下記式で表される3元系のリチウム複合酸化物を用いた。
LiMn1/3Co1/3Ni1/3
【0047】
<正極の製造>
分散剤としてN−メチル−2−ピロリドン((株)和光純薬工業社製)を用い、上記の正極活物質と、導電剤であるアセチレンブラック(電気化学工業(株)社製HS−100)と、結着剤であるPVDF((株)クレハ社製KFポリマー♯1120)とを、90/6/4(質量比)で混合して、スラリーを得た。
上記スラリーを集電体であるアルミニウム箔上にドクターブレード法で塗布し、150℃で30分間乾燥し、プレス機械を用いてプレス加工して、正極を得た。正極は、目付15mg/cm、厚み70μmとした。
【0048】
<負極>
負極活物質として、比表面積の異なる下記の黒鉛(いずれも触媒担持なし)を用いた。
比表面積1.5m/gの黒鉛、
比表面積2.0m/gの黒鉛、
比表面積3.0m/gの黒鉛、
比表面積4.0m/gの黒鉛。
【0049】
分散剤として水を用い、上記の負極活物質と、結着剤である変性スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(SBR)と、増粘剤であるカルボキシメチルセルロースNa塩(CMC)とを98/1/1(質量比)で混合して、スラリーを得た。
上記スラリーを集電体である銅箔上にドクターブレード法で塗布し、150℃で30分間乾燥し、プレス機械を用いてプレス加工して、負極を得た。負極は、目付8mg/cm、厚み70μmとした。
【0050】
<セパレータ>
PE(ポリエチレン)製多孔質フィルムからなる市販のセパレータを用意した。
【0051】
<非水電解質>
エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)/エチルメチルカーボネート=3/3/4(体積比)の混合溶液を溶媒とし、電解質としてリチウム塩であるLiPFを1mol/Lの濃度で溶解し、さらに過充電防止剤としてシクロヘキシルベンゼン(CHB)を2質量%溶解して、非水電界液を調製した。
【0052】
<リチウムイオン二次電池の製造>
上記の正極と負極とセパレータと非水電解液とフィルム外装体を用い、公知方法により、フィルム型(ラミネート型)のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0053】
<充放電試験>
予備実験において得られた各リチウムイオン二次電池において、充放電試験を実施した。
25℃で、充電電圧4.1V(vs.Li/Li+)、放電電圧3.0V(vs.Li/Li+)、及び、電流密度1Cの条件で、1サイクルの充放電を行った。このときのCCCV容量を電池容量として求めた。
また、−30℃で、SOC60%、4Cの条件で充電し、その後放電する充放電を10000サイクル実施した。このときの容量維持率を求めた。
【0054】
負極活物質の比表面積と電池容量との関係、及び、負極活物質の比表面積と容量維持率との関係をそれぞれ図4、図5に示す。これらの図は、負極活物質の比表面積が4.0m/gのデータを100%としたときのものである。
【0055】
触媒を担持させない場合、負極活物質の比表面積が増加すると、電池容量が低下する傾向にあることが示された。電池容量を考慮すれば、負極活物質の比表面積は3.5m/g以下が好ましいことが示された。
触媒を担持させない場合、負極活物質の比表面積が低下すると、容量維持率(Li析出耐性)が低下する傾向にあることが示された。容量維持率を考慮すれば、負極活物質の比表面積は2.0m/g以上が好ましいことが示された。
好ましい負極活物質の比表面積は、負極活物質への触媒担持の有無にかかわらず、同様である。
【0056】
(実施例1)
負極活物質として、比表面積が2m/gの黒鉛にPt触媒を担持させたものを用いた。
PtCl(ヘキサクロロ白金酸)の水溶液と黒鉛とを90:10(固形分質量比)で混合し、これを120℃15時間で加熱還元することで、負極活物質の粒子表面にPt触媒を担持させた。Pt触媒の担持量は黒鉛に対して、10質量%であった。これを負極活物質とし、上記予備実験と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造した。
【0057】
<過充電試験>
予備実験と実施例1で得られたリチウムイオン二次電池について、過充電試験を実施した。
25℃で、SOC150%、4Cの条件で1回過充電したときのガス発生量を、浮力法(アルキメデス法)で求めた。過充電前後にそれぞれ、フィルム型(ラミネート型)のリチウムイオン二次電池を水中に浸漬させて、浮力から体積を求め、過充電前後の体積変化分をガス発生量として求めた。このガス発生量は、水素ガス発生量とみなせる。
【0058】
予備実験において、負極活物質として比表面積4.0m/gの黒鉛(触媒担持なし)を用いて得られたリチウムイオン二次電池を比較例1とした。
予備実験において、負極活物質として比表面積2.0m/gの黒鉛(触媒担持なし)を用いて得られたリチウムイオン二次電池を比較例2とした。
【0059】
結果を図6に示す。
図6は、比較例1におけるガス発生量を100%としたときのデータである。
図示するように、黒鉛に触媒を担持させた実施例1では、比表面積が同じで触媒なしの黒鉛を用いた比較例2よりも、水素ガス発生量を大幅に増加させることができた。また、黒鉛に触媒を担持させた実施例1では、比表面積が大きく触媒担持なしの黒鉛を用いた比較例1よりも、水素ガス発生量を増加させることができた。これらの結果から、負極活物質の表面に触媒を担持させることにより、負極活物質の比表面積を大きくしなくても、水素ガス発生量を増加できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の非水電解質二次電池は、プラグインハイブリッド車(PHV)あるいは電気自動車(EV)に搭載されるリチウムイオン二次電池等に好ましく適用できる。
【符号の説明】
【0061】
1 非水電解質二次電池
11 外装体
12 端子
13 電流遮断機構
20 積層体
21 正極
22 負極
23 樹脂製セパレータ
31 負極活物質
32 触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極活物質を含む負極と、過充電時に酸化分解されてプロトンを発生する添加剤が添加された非水電解質と、電池内圧が所定値以上になると電流を遮断する電流遮断機構とを備えた非水電解質二次電池であって、
前記負極活物質の粒子表面にプロトン還元作用を有する触媒が担持された非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記負極活物質の比表面積が2.0〜3.5m/gである請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記触媒がPt、Ru、Rh、Pd、Au、及びAgからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記負極活物質が黒鉛である請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
リチウムイオン二次電池である請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−89320(P2013−89320A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226157(P2011−226157)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】