説明

非水電解質蓄電デバイス及びその製造方法

【課題】環境に対する負荷が大きい溶剤の使用を回避できるとともに、孔径などのパラメータの制御も比較的容易な方法によりセパレータを製造することができ、且つリチウム以外の錯体を形成しやすい金属イオンをトラップ可能な非水電解質蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】カソードと、アノードと、前記カソードと前記アノードとの間に配置されたセパレータと、イオン伝導性を有する電解質と、を備え、前記カソードおよび/または前記アノードは、遷移金属、アルミニウム、スズ、およびシリコンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む材料で形成され、前記セパレータは、比表面積が5〜60m2/gの多孔構造を有するエポキシ樹脂多孔体を含み、当該エポキシ樹脂多孔体は、一級アミノ基、二級アミノ基、および三級アミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ基を含む、非水電解質蓄電デバイスとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電デバイス及びその製造方法に関し、詳しくは、エポキシ樹脂を用いたセパレータを含む非水電解質蓄電デバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境保全、化石燃料の枯渇等の諸問題を背景に、リチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタなどに代表される非水電解質蓄電デバイスの需要が年々増加している。非水電解質蓄電デバイスのセパレータとして、従来、ポリオレフィン多孔質膜が使用されている。ポリオレフィン多孔質膜は、以下に説明する方法で製造することができる。
【0003】
まず、溶媒とポリオレフィン樹脂とを混合及び加熱してポリオレフィン溶液を調製する。Tダイ等の金型を用い、ポリオレフィン溶液をシート形状に成形しながら吐出及び冷却し、シート状の成形体を得る。シート状の成形体を延伸するとともに、成形体から溶媒を除去する。これにより、ポリオレフィン多孔質膜が得られる。成形体から溶媒を除去する工程で、有機溶剤が使用される(特許文献1参照)。
【0004】
上記製造方法において、有機溶剤として、ジクロロメタンのようなハロゲン化有機化合物を使用することが多い。ハロゲン化有機化合物の使用は、環境に対する負荷が非常に大きいので問題となっている。
【0005】
他方、特許文献2に記載されている方法(いわゆる乾式法)によれば、環境に対する負荷が大きい溶剤を使用せずにポリオレフィン多孔質膜を製造することができる。しかし、この方法には、多孔質膜の孔径を制御するのが難しいという問題がある。また、この方法で製造された多孔質膜をセパレータとして用いると、蓄電デバイスの内部でイオン透過の偏りが発生しやすいという問題もある。
【0006】
一方、リチウムイオン二次電池は常温又は高温の雰囲気下で充放電を繰り返すことによって、容量の低下、出力特性の劣化、安全性の低下という問題が依然として存在する。電池の劣化に伴い、正極、集電体などから金属イオンが溶出することが知られている。例えば、正極からCoやMnが溶出すると、これらが負極上に析出する。すると、そこを起点に析出物が成長し、正極に到達して短絡することがある。また、電池の過充電や過放電が起こった際、集電体が溶出して同様のメカニズムで短絡するという恐れもある。その他、リチウムイオン以外の金属イオンが存在することにより、副反応が生じ、容量低下の懸念がある(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−192487号公報
【特許文献2】特開2000−30683号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Pankaj Arora, Ralph E. White, Marc Doyle, "Capacity Fade Mechanisms and Side Reactions in Lithium-Ion Batteries", Journal of Electrochemical Society, Vol. 145, No. 10, 0ctober 1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来技術の問題点に鑑み、本発明は、環境に対する負荷が大きい溶剤の使用を回避できるとともに、孔径などのパラメータの制御も比較的容易な方法によりセパレータを製造することができ、且つリチウム以外の錯体を形成しやすい金属イオンをトラップ可能な非水電解質蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、カソードと、
アノードと、
前記カソードと前記アノードとの間に配置されたセパレータと、
イオン伝導性を有する電解質と、
を備え、
前記カソードおよび/または前記アノードは、遷移金属、アルミニウム、スズ、およびシリコンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む材料で形成され、
前記セパレータは、比表面積が5〜60m2/gの多孔構造を有するエポキシ樹脂多孔体を含み、当該エポキシ樹脂多孔体は、一級アミノ基、二級アミノ基、および三級アミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ基を含む、
非水電解質蓄電デバイスを提供する。
【0011】
別の側面において、本発明は、カソード、アノード及びセパレータを準備する工程と、
前記カソード、前記アノード及び前記セパレータを用いて電極群を組み立てる工程と、
を含み、
前記セパレータを準備する工程が、
(i)エポキシ樹脂、硬化剤としてのアミン類及びポロゲンを含むエポキシ樹脂組成物を調製する工程と、
(ii)エポキシ樹脂シートが得られるように、前記エポキシ樹脂組成物の硬化体をシート状に成形する又は前記エポキシ樹脂組成物のシート状成形体を硬化させる工程と、
(iii)ハロゲンフリーの溶剤を用いて前記エポキシ樹脂シートから前記ポロゲンを除去する工程と、
を含み、
前記カソードおよび/または前記アノードは、遷移金属、アルミニウム、スズ、およびシリコンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む材料で形成され、
前記セパレータは、比表面積が5〜60m2/gの多孔構造を有するエポキシ樹脂多孔体を含み、当該エポキシ樹脂多孔体は、一級アミノ基、二級アミノ基、および三級アミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ基を含む、
非水電解質蓄電デバイスの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の非水電解質蓄電デバイスにおいては、セパレータを、ハロゲンフリーの溶剤を用いてエポキシ樹脂シートからポロゲンを除去して製造することができるため、その製造において環境に対する負荷が大きい溶剤の使用を回避できる。また、ポロゲンを含むエポキシ樹脂シートから製造することができるため、その製造において孔径などのパラメータの制御も比較的容易である。さらに、本発明の非水電解質蓄電デバイス用セパレータは、蓄電デバイス内のLiイオンはトラップせずに、遷移金属(例、Co、Mn、Cu)、Al、Sn、Siなどの錯体を形成しやすい金属イオンを選択的にトラップすることができる。従って、当該セパレータを用いた非水電解質蓄電デバイスは、遷移金属(例、Co、Mn、Cu)、Al、Sn、Siなどの錯体を形成しやすい金属イオンによる悪影響が低減されたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電デバイスの概略断面図
【図2】切削工程の概略図
【図3】実施例1のエポキシ樹脂多孔質膜のTEM画像
【図4】図3のTEM画像のCの部位のEDXスペクトル
【図5】図3のTEM画像のDの部位のEDXスペクトル
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、添付の図面を参照しつつ、本発明の一実施形態を説明する。
【0015】
図1に示すように、本実施形態に係る非水電解質蓄電デバイス100は、カソード2、アノード3、セパレータ4及びケース5を備えている。セパレータ4は、カソード2とアノード3との間に配置されている。カソード2、アノード3及びセパレータ4は、一体的に巻回されて発電要素としての電極群10を構成している。電極群10は、底部を有するケース5に収容されている。蓄電デバイス100は、典型的には、リチウムイオン二次電池である。
【0016】
本実施形態において、ケース5は円筒の形状を有している。すなわち、蓄電デバイス100は円筒の形状を有している。しかし、蓄電デバイス100の形状は特に限定されない。蓄電デバイス100は、例えば、扁平な角型の形状を有していてもよい。また、電極群10は巻回構造を必須としない。カソード2、セパレータ4及びアノード3が単に積層されることによって、板状の電極群が形成されていてもよい。ケース5は、ステンレス、アルミニウム等の金属で作られている。さらに、電極群10が可撓性を有する材料で作られたケースに入れられていてもよい。可撓性を有する材料は、例えば、アルミニウム箔と、アルミニウム箔の両面に貼り合わされた樹脂フィルムとで構成されている。
【0017】
蓄電デバイス100は、さらに、カソードリード2a、アノードリード3a、蓋体6、パッキン9及び2つの絶縁板8を備えている。蓋体6は、パッキン9を介してケース5の開口部に固定されている。2つの絶縁板8は、電極群10の上部と下部とにそれぞれ配置されている。カソードリード2aは、カソード2に電気的に接続された一端と、蓋体6に電気的に接続された他端とを有する。アノードリード3aは、アノード3に電気的に接続された一端と、ケース5の底部に電気的に接続された他端とを有する。蓄電デバイス100の内部にはイオン伝導性を有する非水電解質(典型的には非水電解液)が充填されている。非水電解質は、電極群10に含浸されている。これにより、セパレータ4を通じて、カソード2とアノード3との間でイオン(典型的にはリチウムイオン)の移動が可能となっている。
【0018】
カソード2は、リチウムイオンを吸蔵及び放出しうるカソード活物質と、バインダーと、集電体とで構成されうる。例えば、バインダーを含む溶液にカソード活物質を混合して合剤を調製し、この合剤をカソード集電体に塗布及び乾燥させることによってカソード2を作製できる。
【0019】
カソード活物質としては、リチウムイオン二次電池のカソード活物質として用いられている公知の材料を使用できる。具体的には、リチウム含有遷移金属酸化物、リチウム含有遷移金属リン酸化物、カルコゲン化合物等をカソード活物質として使用できる。リチウム含有遷移金属酸化物としては、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2、それらの遷移金属の一部が他の金属で置換された化合物が挙げられる。リチウム含有遷移金属リン酸化物としては、LiFePO4、LiFePO4の遷移金属(Fe)の一部が他の金属で置換された化合物が挙げられる。カルコゲン化合物としては、二硫化チタン、二硫化モリブデンが挙げられる。
【0020】
バインダーとしては、公知の樹脂を使用できる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ヘキサフロロプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンターポリマー等の炭化水素系樹脂、それらの混合物をバインダーとして使用できる。導電助剤として、カーボンブラック等の導電性粉末がカソード2に含まれていてもよい。
【0021】
カソード集電体としては、耐酸化性に優れた金属材料、例えば箔状又はメッシュ状に加工されたアルミニウムが好適に用いられる。
【0022】
アノード3は、リチウムイオンを吸蔵及び放出しうるアノード活物質と、バインダーと、集電体とで構成されうる。アノード3も、カソード2と同様の方法で作製できる。カソード2で用いたバインダーと同様のものをアノード3に使用できる。
【0023】
アノード活物質としては、リチウムイオン二次電池のアノード活物質として用いられている公知の材料を使用できる。具体的には、炭素系活物質、リチウムと合金を形成しうる合金系活物質、リチウムチタン複合酸化物(例えばLi4Ti512)等をアノード活物質として使用できる。炭素系活物質としては、コークス、ピッチ、フェノール樹脂、ポリイミド、セルロース等の焼成体、人造黒鉛、天然黒鉛等が挙げられる。合金系活物質としては、アルミニウム、スズ、スズ化合物、シリコン、シリコン化合物等が挙げられる。
【0024】
アノード集電体としては、還元安定性に優れた金属材料、例えば箔状又はメッシュ状に加工された銅又は銅合金が好適に用いられる。リチウムチタン複合酸化物等の高電位アノード活物質を用いる場合には、箔状又はメッシュ状に加工されたアルミニウムもアノード集電体として使用できる。
【0025】
ただし、本実施形態においては、前記カソードおよび/または前記アノードは、遷移金属、アルミニウム、スズ、およびシリコンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む材料で形成され、好ましくは、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、銅、およびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む材料で形成される。したがって、例えば、カソード活物質、カソード集電体、アノード活物質、アノード集電体のうちの1つ以上が、遷移金属、アルミニウム、スズ、およびシリコンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む材料で形成される。
【0026】
非水電解液は、典型的には、非水溶媒及び電解質を含んでいる。具体的には、リチウム塩(電解質)を非水溶媒に溶解させた電解液を好適に使用できる。また、非水電解液を含むゲル電解質、リチウム塩をポリエチレンオキシド等のポリマーに溶解及び分解させた固体電解質等も非水電解質として使用できる。リチウム塩としては、ホウ四フッ化リチウム(LiBF4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、トリフロロスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)等が挙げられる。非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、γ−ブチロラクトン(γ−BL)、これらの混合物等が挙げられる。
【0027】
次に、セパレータ4について詳しく説明する。
【0028】
セパレータ4は、比表面積が5〜60m2/gの多孔構造を有するエポキシ樹脂多孔体を含み、当該エポキシ樹脂多孔体が、一級アミノ基、二級アミノ基、および三級アミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ基を含む。
【0029】
エポキシ樹脂多孔体が、一級アミノ基、二級アミノ基、および三級アミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ基を含むが、アミノ基のN原子は、蓄電デバイス内で発生する遷移金属(例、Co、Mn、Cu)、Al、Sn、Siなどの錯体を形成しやすい金属イオンを選択的にトラップするものであり、一方で、電池内のLiイオンはトラップしないと推測される。そして、比表面積が5〜60m2/gの多孔構造を有することにより、セパレータ4に電解液が接触する表面積が大きくなって錯体を形成しやすい金属イオンをトラップする効率が特に高くなり、その結果、錯体を形成しやすい金属イオンの蓄電デバイス100への悪影響を低減することができる。このような機能により、短絡や副反応の懸念が大幅に減少し、蓄電デバイスとしての長寿命化が期待できる。
【0030】
ここで、錯体を形成しやすい金属イオンをトラップするためにキレート剤の使用も考えられるが、キレート剤が電極で副反応を引き起こす懸念がある。従って、本発明のように、セパレータが錯体を形成しやすい金属イオンをトラップする機能を有することは、電極の劣化が起こらない点や、蓄電デバイスのエネルギー密度の点において有利である。
【0031】
エポキシ樹脂多孔体は、エポキシ樹脂を、硬化剤を用いて三次元架橋させることによって製造することができる。多孔体に前記アミノ基を導入する方法としては、アミノ基を含むエポキシ樹脂を用いるか、アミノ基を含む硬化剤を用いればよい。これらのうち、後者の方法が好ましい。従って、エポキシ樹脂多孔体は、エポキシ樹脂を、アミン類を硬化剤に用いて硬化させた硬化物であることが好ましい。エポキシ樹脂およびアミン類の具体例については後述する。
【0032】
エポキシ樹脂多孔体の平均孔径は、0.05〜0.5μmであることが好ましい。平均孔径がこの範囲である場合には、比表面積が5〜60m2/gの多孔構造を得ることが容易である。また、セパレータとしての機能の観点から、空孔率は20〜80%の範囲にあることが好ましい。
【0033】
空孔率は、以下の方法で測定できる。まず、測定対象を一定の寸法(例えば、直径6cmの円形)に切断し、その体積及び重量を求める。得られた結果を次式に代入して空孔率を算出する。
空孔率(%)=100×(V−(W/D))/V
V:体積(cm3
W:重量(g)
D:構成成分の平均密度(g/cm3
【0034】
平均孔径は、走査型電子顕微鏡でセパレータ4の断面を観察して求めることができる。具体的には、視野幅60μm、かつ表面から所定の深さ(例えば、セパレータ4の厚さの1/5〜1/100)までの範囲内に存在する空孔のそれぞれについて、画像処理を行って孔径を求め、それらの平均値を平均孔径として求めることができる。画像処理は、例えば、フリーソフト「Image J」又はAdobe社製「Photoshop」を使用して行える。
【0035】
比表面積は、JIS Z 8830に準拠して、窒素吸着BET法により求めることができる。
【0036】
セパレータ4の表面と裏面との間でイオンが移動できるように、つまり、カソード2とアノード3との間をイオンが移動できるように、隣り合う空孔は互いに連通していてもよい。
【0037】
セパレータ4は、例えば、5〜50μmの範囲の厚さを有する。セパレータ4が厚すぎると、カソード2とアノード3との間のイオンの移動が困難となる。5μm未満の厚さのセパレータ4を製造することは不可能ではないが、蓄電デバイス100の信頼性を確保するうえで、5μm以上、特に10μm以上の厚さが好ましい。
【0038】
また、セパレータ4は、例えば1〜1000秒/100cm3、特に10〜1000秒/100cm3の範囲の通気度(ガーレー値)を有していてもよい。セパレータ4がこのような範囲に通気度を有していることにより、カソード2とアノード3との間をイオンが容易に移動しうる。通気度は、日本工業規格(JIS)P8117に規定された方法に従って測定できる。
【0039】
次に、セパレータ4に使用されたエポキシ樹脂多孔体(本実施形態ではエポキシ樹脂多孔質膜)の製造方法を説明する。
【0040】
エポキシ樹脂多孔質膜は、例えば、下記(a)、(b)及び(c)のいずれかの方法で製造することができる。方法(a)及び(b)は、エポキシ樹脂組成物をシート状に成形した後で硬化工程を実施する点で共通している。方法(c)は、エポキシ樹脂のブロック状の硬化体を作り、その硬化体をシート状に成形することを特徴としている。
【0041】
方法(a)
エポキシ樹脂組成物のシート状成形体が得られるように、エポキシ樹脂、硬化剤としてのアミン類及びポロゲンを含むエポキシ樹脂組成物を基板上に塗布する。その後、エポキシ樹脂組成物のシート状成形体を加熱してエポキシ樹脂を三次元架橋させる。その際、エポキシ樹脂架橋体とポロゲンとの相分離により共連続構造が形成される。その後、得られたエポキシ樹脂シートからポロゲンを洗浄によって除去し、乾燥させることにより、三次元網目状骨格と連通する空孔とを有するエポキシ樹脂多孔質膜が得られる。基板の種類は特に限定されず、プラスチック基板、ガラス基板、金属板等を基板として使用できる。
【0042】
方法(b)
エポキシ樹脂、硬化剤としてのアミン類及びポロゲンを含むエポキシ樹脂組成物を基板上に塗布する。その後、塗布したエポキシ樹脂組成物の上に別の基板を被せてサンドイッチ構造体を作製する。なお、基板と基板との間に一定の間隔を確保するために、基板の四隅にスペーサー(例えば、両面テープ)を設けてもよい。次に、サンドイッチ構造体を加熱してエポキシ樹脂を三次元架橋させる。その際、エポキシ樹脂架橋体とポロゲンとの相分離により共連続構造が形成される。その後、得られたエポキシ樹脂シートを取り出し、ポロゲンを洗浄によって除去し、乾燥させることにより、三次元網目状骨格と連通する空孔とを有するエポキシ樹脂多孔質膜が得られる。基板の種類は特に制限されず、プラスチック基板、ガラス基板、金属板等を基板として使用できる。特に、ガラス基板を好適に使用できる。
【0043】
方法(c)
エポキシ樹脂、硬化剤としてのアミン類及びポロゲンを含むエポキシ樹脂組成物を所定形状の金型内に充填する。その後、エポキシ樹脂を三次元架橋させることによって、円筒状又は円柱状のエポキシ樹脂組成物の硬化体を作製する。その際、エポキシ樹脂架橋体とポロゲンとの相分離により共連続構造が形成される。その後、エポキシ樹脂組成物の硬化体を円筒軸又は円柱軸を中心に回転させながら、硬化体の表層部を所定の厚さに切削して長尺状のエポキシ樹脂シートを作製する。そして、エポキシ樹脂シートに含まれたポロゲンを洗浄によって除去し、乾燥させることにより、三次元網目状骨格と連通する空孔とを有するエポキシ樹脂多孔質膜が得られる。
【0044】
方法(c)を詳細に説明する。なお、エポキシ樹脂組成物を調製する工程、エポキシ樹脂を硬化させる工程、ポロゲンを除去する工程等は、各方法に共通している。また、使用できる材料も各方法に共通である。
【0045】
方法(c)によれば、エポキシ樹脂多孔質膜は、以下の主要な工程を経て製造されうる。
(i)エポキシ樹脂組成物を調製する。
(ii)エポキシ樹脂組成物の硬化体をシート状に成形する。
(iii)エポキシ樹脂シートからポロゲンを除去する。
【0046】
まず、エポキシ樹脂、硬化剤としてのアミン類及びポロゲン(細孔形成剤)を含むエポキシ樹脂組成物を調製する。具体的には、エポキシ樹脂及び硬化剤をポロゲンに溶解させて均一な溶液を調製する。
【0047】
エポキシ樹脂としては、芳香族エポキシ樹脂及び非芳香族エポキシ樹脂のいずれも使用可能である。芳香族エポキシ樹脂としては、ポリフェニルベースエポキシ樹脂、フルオレン環を含むエポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレートを含むエポキシ樹脂、複素芳香環(例えば、トリアジン環)を含むエポキシ樹脂等が挙げられる。ポリフェニルベースエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタンベースエポキシ樹脂等が挙げられる。非芳香族エポキシ樹脂としては、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂肪族グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、フルオレン環を含むエポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレートを含むエポキシ樹脂、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルアミン型エポキシ樹脂及び脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つであって、6000以下のエポキシ当量及び170℃以下の融点を有するものを好適に使用できる。これらのエポキシ樹脂を使用すると、均一な三次元網目状骨格及び均一な空孔を形成できるとともに、エポキシ樹脂多孔質膜に優れた耐薬品性及び高い強度を付与できる。
【0049】
硬化剤としてのアミン類は、芳香族アミン類及び非芳香族アミン類のいずれも使用可能である。芳香族アミン類としては、芳香族アミン(例えば、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルベンゼン)、複素芳香環を含むアミン(例えば、トリアジン環を含むアミン)等が挙げられる。非芳香族アミン類としては、脂肪族アミン(例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6−トリスアミノメチルヘキサン、ポリメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミン)、脂環族アミン(例えば、イソホロンジアミン、メンタンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、これらの変性品)、ポリアミン類とダイマー酸とを含む脂肪族ポリアミドアミン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
上記例示したアミン類の中でも、分子内に一級アミンを2つ以上有するアミン化合物を好適に使用できる。具体的には、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ポリメチレンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン及びビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンからなる群より選ばれる少なくとも1つを好適に使用できる。これらのアミン化合物を使用すると、均一な三次元網目状骨格及び均一な空孔を形成できるとともに、エポキシ樹脂多孔質膜に高い強度及び適切な弾性を付与できる。
【0051】
エポキシ樹脂とアミン類との組み合わせとしては、芳香族エポキシ樹脂と脂肪族アミンとの組み合わせ、芳香族エポキシ樹脂と脂環族アミンとの組み合わせ、又は脂環族エポキシ樹脂と芳香族アミンとの組み合わせが好ましい。これらの組み合わせにより、エポキシ樹脂多孔質膜に優れた耐熱性を付与できる。
【0052】
ポロゲンは、エポキシ樹脂及び硬化剤を溶かすことができる溶剤でありうる。ポロゲンは、また、エポキシ樹脂と硬化剤とが重合した後、反応誘起相分離を生じさせることができる溶剤として使用される。具体的には、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類、ポリオキシエチレンモノメチルエーテル、ポリオキシエチレンジメチルエーテル等のエーテル類をポロゲンとして使用できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
これらの中でも、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、分子量600以下のポリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンモノメチルエーテル及びポリオキシエチレンジメチルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1つを好適に使用できる。特に、分子量200以下のポリエチレングリコール、分子量500以下のポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンモノメチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなる群より選ばれる少なくとも1つを好適に使用できる。これらのポロゲンを使用すると、均一な三次元網目状骨格及び均一な空孔を形成できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
また、個々のエポキシ樹脂又は硬化剤と常温で不溶又は難溶であっても、エポキシ樹脂と硬化剤との反応物が可溶となる溶剤についてはポロゲンとして使用可能である。このようなポロゲンとしては、例えば、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製「エピコート5058」)が挙げられる。
【0055】
エポキシ樹脂多孔質膜の空孔率、平均孔径及び孔径分布は、原料の種類、原料の配合比率及び反応条件(例えば、反応誘起相分離時における加熱温度及び加熱時間)に応じて変化する。そして、エポキシ樹脂多孔質膜の比表面積は、空孔率、平均孔径及び孔径分布に応じて変化する。そのため、目的とする空孔率、平均孔径、孔径分布、さらには比表面積を得るために、最適な条件を選択することが好ましい。また、相分離時におけるエポキシ樹脂架橋体の分子量、分子量分布、溶液の粘度、架橋反応速度等を制御することにより、エポキシ樹脂架橋体とポロゲンとの共連続構造を特定の状態で固定し、安定した多孔質構造を得ることができる。なお、エポキシ樹脂多孔体の平均孔径を、0.05〜0.5μmとすると、比表面積が5〜60m2/gの多孔構造を得ることが容易である。
【0056】
エポキシ樹脂に対する硬化剤の配合比率は、例えば、エポキシ基1当量に対して硬化剤当量が0.6〜1.5である。適切な硬化剤当量は、エポキシ樹脂多孔質膜の耐熱性、化学的耐久性、力学特性等の特性の向上に寄与する。
【0057】
硬化剤の他に、目的とする多孔質構造を得るために、溶液中に硬化促進剤を添加してもよい。硬化促進剤としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の三級アミン、2−フェノール−4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェノール−4,5−ジヒドロキシイミダゾール等のイミダゾール類が挙げられる。
【0058】
エポキシ樹脂、硬化剤及びポロゲンの総重量に対して、例えば40〜80重量%のポロゲンを使用できる。適切な量のポロゲンを使用することにより、所望の空孔率、平均孔径及び通気度を有するエポキシ樹脂多孔質膜を形成しうる。
【0059】
エポキシ樹脂多孔質膜の平均孔径を所望の範囲に調節する方法の1つとして、エポキシ当量の異なる2種以上のエポキシ樹脂を混合して用いる方法が挙げられる。その際、エポキシ当量の差は100以上であることが好ましく、常温で液状のエポキシ樹脂と常温で固形のエポキシ樹脂とを混合して用いる場合もある。
【0060】
次に、エポキシ樹脂、硬化剤及びポロゲンを含む溶液からエポキシ樹脂組成物の硬化体を作製する。具体的には、溶液を金型に充填し、必要に応じて加熱する。エポキシ樹脂を三次元架橋させることによって、所定の形状を有する硬化体が得られる。その際、エポキシ樹脂架橋体とポロゲンとが相分離することにより、共連続構造が形成される。
【0061】
硬化体の形状は特に限定されない。円柱状又は円筒状の金型を使用すれば、円筒又は円柱の形状を有する硬化体を得ることができる。硬化体が円筒又は円柱の形状を有していると、後述する切削工程(図2参照)を実施しやすい。
【0062】
硬化体の寸法は特に限定されない。硬化体が円筒又は円柱の形状を有している場合、エポキシ樹脂多孔質膜の製造効率の観点から、硬化体の直径は、例えば20cm以上であり、好ましくは30〜150cmである。硬化体の長さ(軸方向)も、得るべきエポキシ樹脂多孔質膜の寸法を考慮して適宜設定することができる。硬化体の長さは、例えば20〜200cmであり、取扱いやすさの観点から20〜150cmであることが好ましく、20〜120cmであることがより好ましい。
【0063】
次に、硬化体をシート状に成形する。円筒又は円柱の形状を有する硬化体は、以下の方法でシート状に成形されうる。具体的には、図2に示すように、硬化体12をシャフト14に取り付ける。長尺の形状を有するエポキシ樹脂シート16が得られるように、切削刃18(スライサー)を用いて、硬化体12の表層部を所定の厚さで切削(スライス)する。詳細には、硬化体12の円筒軸O(又は円柱軸)を中心として、切削刃18に対して硬化体12を相対的に回転させながら硬化体12の表層部を切削する。この方法によれば、効率的にエポキシ樹脂シート16を作製することができる。
【0064】
硬化体12を切削するときのライン速度は、例えば2〜70m/minの範囲にある。エポキシ樹脂シート16の厚さは、エポキシ樹脂多孔質膜の目標厚さ(5〜50μm)に応じて決定される。ポロゲンを除去して乾燥させると厚さが若干減少するので、エポキシ樹脂シート16は、通常、エポキシ樹脂多孔質膜の目標厚さよりも若干厚い。エポキシ樹脂シート16の長さは特に限定されないが、エポキシ樹脂シート16の製造効率の観点から、例えば100m以上であり、好ましくは1000m以上である。
【0065】
最後に、エポキシ樹脂シート16からポロゲンを抽出し、除去する。具体的には、ハロゲンフリーの溶剤にエポキシ樹脂シート16を浸漬することによって、エポキシ樹脂シート16からポロゲンを除去することができる。これにより、セパレータ4として利用できるエポキシ樹脂多孔質膜が得られる。
【0066】
エポキシ樹脂シート16からポロゲンを除去するためのハロゲンフリーの溶剤として、水、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)及びTHF(テトラヒドロフラン)からなる群より選ばれる少なくとも1つをポロゲンの種類に応じて使用できる。また、水、二酸化炭素等の超臨界流体もポロゲンを除去するための溶剤として使用できる。エポキシ樹脂シート16からポロゲンを積極的に除去するために、超音波洗浄を行ってもよく、また、溶剤を加熱して用いてもよい。
【0067】
ポロゲンを除去するための洗浄装置も特に限定されず、公知の洗浄装置を使用できる。エポキシ樹脂シート16を溶剤に浸漬することによってポロゲンを除去する場合には、洗浄槽を複数備えた多段洗浄装置を好適に使用できる。洗浄の段数としては、3段以上がより好ましい。また、カウンターフローを利用することによって、実質的に多段洗浄を行ってもよい。さらに、各段の洗浄で、溶剤の温度を変えたり、溶剤の種類を変えたりしてもよい。
【0068】
ポロゲンを除去した後、エポキシ樹脂多孔質膜の乾燥処理を行う。乾燥条件は特に限定されず、温度は通常40〜120℃程度であり、50〜100℃程度が好ましく、乾燥時間は10秒〜5分程度である。乾燥処理には、テンター方式、フローティング方式、ロール方式、ベルト方式等の公知のシート乾燥方法を採用した乾燥装置を使用できる。複数の乾燥方法を組み合わせてもよい。
【0069】
本実施形態の方法によれば、セパレータ4として使用できるエポキシ樹脂多孔質膜を極めて簡単に製造できる。従来のポリオレフィン多孔質膜の製造時に必要だった工程、例えば延伸工程を省略できるため、高い生産性でエポキシ樹脂多孔質膜を製造できる。また、従来のポリオレフィン多孔質膜は、その製造過程において、高い温度及び高いせん断力を受けるので、酸化防止剤等の添加剤を使用する必要がある。これに対し、本実施形態の方法によれば、高い温度及び高いせん断力を加えることなく、エポキシ樹脂多孔質膜を製造できる。そのため、従来のポリオレフィン多孔質膜に含まれていた酸化防止剤等の添加剤を使用せずに済む。また、エポキシ樹脂、硬化剤及びポロゲンとして、低廉な材料を使用できるため、セパレータ4の生産コストを低減できる。
【0070】
なお、セパレータ4は、エポキシ樹脂多孔質膜のみで構成されていてもよいし、エポキシ樹脂多孔質膜と他の多孔質材料との積層体で構成されていてもよい。他の多孔質材料としては、ポリエチレン多孔質膜、ポリプロピレン多孔質膜等のポリオレフィン多孔質膜、セルロース多孔質膜、フッ素樹脂多孔質膜等が挙げられる。他の多孔質材料は、エポキシ樹脂多孔質膜の片面にのみ設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。
【0071】
同様に、セパレータ4は、エポキシ樹脂多孔質膜と補強材との積層体で構成されていてもよい。補強材としては、織布、不織布等が挙げられる。補強材は、エポキシ樹脂多孔質膜の片面にのみ設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。
【0072】
さらに、このようにしてセパレータ4を準備するとともにカソード2およびアノード3を準備し、常法に従いこれらを用いて電極群を組み立てることにより、非水電解質蓄電デバイス100を製造することができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0074】
[実施例1]
φ120mm×150mmの円筒形のステンレス容器の内側に離型剤(ナガセケムテックス製、QZ−13)を薄く塗布し、この容器を80℃に設定した乾燥機中で乾燥させた。
【0075】
10Lの円筒形のポリ容器にビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学製、jER828)3126.9gと1,6−ジアミノヘキサン(特級、東京化成製)94.6gをポリプロピレングリコール(三洋化成製サンニックスPP−400)5400gに溶解させ、エポキシ樹脂/アミン/ポリプロピレングリコール溶液を調製した。その後、前記ジアミノヘキサン380gを前記ポリ容器に添加し、遊星撹拌装置を用い、約0.7kPaで真空脱泡すると同時に自公転比率3/4の条件下公転500rpmで10分間撹拌する手順を4回繰り返し、さらに公転500rpmで5分間1回撹拌した。撹拌に伴って上記溶液の温度は上昇し、撹拌直後には58.9℃に達した。
【0076】
その後、ポリ容器からエポキシ樹脂ブロックを取出し、切削旋盤装置を用いて30μmの厚みで連続的にスライスしてエポキシ樹脂シートを得た。該エポキシ樹脂シートをRO水/DMF=1/1(v/v)混合液に10分間浸漬する手順を3回繰り返し、次にRO水のみで10分間浸漬を2回繰り返すことでポリプロピレングリコールを除去した。その後、80℃での乾燥を2時間行って、エポキシ樹脂多孔質膜を得た。
【0077】
(1)空孔率
実施形態で説明した方法に従って、実施例1の多孔質膜の空孔率を算出した。実施例1の空孔率を算出するために、実施例の多孔質膜の作製に用いた物と同様のエポキシ樹脂とアミン(硬化剤)とを用いてエポキシ樹脂の無孔体を作製し、この無孔体の比重を平均密度Dとして用いた。結果を表1に示す。
【0078】
(2)通気度
日本工業規格(JIS)P8117で規定された方法に従って、実施例1の多孔質膜の通気度(ガーレー値)を測定した。結果を表1に示す。なお、ガーレー値は、膜厚(d:単位μm)の影響を排除するため、「測定値×(20/d)」の値で表示した。
【0079】
(3)比表面積
日本工業規格(JIS)Z8830に準拠し、島津マイクロメリテックスASAP−2400((株)島津製作所製)を用いてN2ガス吸着法により、BET比表面積を求めた。具体的には、実施例1の試料約0.4gを短冊状に裁断し、折りたたんで、大容量セルに採取した。次いで試料を前記装置の前処理部で、温度約80℃で約15時間、脱ガス処理(減圧乾燥)を行った後、測定を行った。結果を表1に示す。
【0080】
[リチウム二次電池の作製]
次に、実施例1のエポキシ樹脂多孔質膜をセパレータとして使用し、以下に説明する方法に従って、実施例1のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0081】
89重量部のコバルト酸リチウム(日本化学工業社製、セルシードC−10)、10重量部のアセチレンブラック(電気化学工業社製、デンカブラック)、5重量部のPVDF(呉羽化学工業社製、KFポリマーL#1120)を混合し、固形分濃度が15重量%となるようにN−メチル−2−ピロリドンを加えてカソード用スラリーを得た。このスラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔(集電体)上に200μmの厚さで塗布した。塗膜を80℃で1時間、120℃で2時間真空乾燥した後、ロールプレスにて加圧した。これにより、100μmの厚さのカソード活物質層を有するカソードを得た。
【0082】
80重量部のメソカーボンマイクロビーズ(大阪ガスケミカル社製、MCMB6−28)、10重量部のアセチレンブラック(電気化学工業社製、デンカブラック)、10重量部のPVDF(呉羽化学工業社製、KFポリマーL#1120)を混合し、固形分濃度が15重量%となるようにN−メチル−2−ピロリドンを加えてアノード用スラリーを得た。このスラリーを厚さ20μmの銅箔(集電体)上に200μmの厚さで塗布した。塗膜を80℃で1時間、120℃で2時間真空乾燥した後、ロールプレスにて加圧した。これにより、100μmの厚さのアノード活物質層を有するアノードを得た。
【0083】
次に、カソード、アノード及びセパレータを用いて電極群を組み立てた。具体的には、カソード、実施例1のエポキシ樹脂多孔質膜(セパレータ)及びアノードを積層し、電極群を得た。電極群をアルミニウムラミネートパッケージに入れた後、パッケージに電解液を注入した。電解液として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを1:2の体積比で含む溶媒にLiPF6を1.4mol/リットルの濃度で溶解させたものを用いた。最後に、パッケージを封口して、実施例1のリチウムイオン二次電池を得た。
【0084】
実施例1の電池を25℃の温度、0.2CmAの電流で、充電は4.2Vまで定電流充電、そこからは定電圧充電とし、放電は定電流放電で、カットオフ電圧は2.75Vとして、電池の充放電を2回繰り返した。その後、25℃の温度にて0.2CmAの定電流、4.2Vの定電圧で20時間連続して充電した。次に、満充電状態を維持しつつ、80℃の温度の恒温槽に2週間保持した。
【0085】
次に、実施例1の電池をグローブボックス(露点−70℃)内で解体し、セパレータを取出した。取出したセパレータはエチルメチルカーボネートで洗浄した。洗浄を行ったセパレータをグローブボックスから取出した。
【0086】
続いて、セパレータをエポキシ樹脂に包埋したのち、超薄切片法により調製した断面についてTEM観察(株式会社日立ハイテクノロジーズ製H−7650、加速電圧100kV)およびエネルギー分散型X線分析(EDX分析、株式会社日立ハイテクノロジーズ製HF−2000、加速電圧200kV)を行った。なお、EDX分析に用いたTEM観察用グリッドはCu製のものを用いた。TEM観察結果を図3、EDX分析結果を図4および5に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
図3のTEM画像では、黒色の部分(図3のC)と灰色の部分(図3のD)が見られた。これらの部位に対して行ったEDX分析では、Cの部位について、コバルトイオンに由来するピークが観察され(図4)、Dの部位についてはコバルトイオンに由来するピークが観察されなかった(図5)。この結果は、Dの部位が樹脂骨格部分であって、Cの部位において、電解液由来のコバルトを析出させることなくコバルトイオンとしてトラップしていることを意味する。コバルトイオンのトラップ部位は、エポキシ樹脂多孔質膜内に存在するヘテロ原子と考えられる。これらヘテロ原子は、遷移金属(例、Co、Mn、Cu)、Al、Sn、Siなどの錯体を形成しやすい金属イオンを選択的にトラップするが、一方で電池の充放電は問題なく行えるため、電池内のLiイオンはほとんどトラップしないと推測される。このことから、実施例1のエポキシ樹脂多孔質膜では、金属イオンによる悪影響が低減されたものとなり、蓄電デバイスの安定性に寄与すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の非水電解質蓄電デバイスは、特に、車両、オートバイ、船舶、建設機械、産業機械、住宅用蓄電システム等に必要とされる大容量の二次電池に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0090】
2 カソード
3 アノード
4 セパレータ
12 硬化体
16 エポキシ樹脂シート
18 切削刃
100 非水電解質電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードと、
アノードと、
前記カソードと前記アノードとの間に配置されたセパレータと、
イオン伝導性を有する電解質と、
を備え、
前記カソードおよび/または前記アノードは、遷移金属、アルミニウム、スズ、およびシリコンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む材料で形成され、
前記セパレータは、比表面積が5〜60m2/gの多孔構造を有するエポキシ樹脂多孔体を含み、当該エポキシ樹脂多孔体は、一級アミノ基、二級アミノ基、および三級アミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ基を含む、
非水電解質蓄電デバイス。
【請求項2】
前記カソードおよび/または前記アノードが、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、銅、およびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む材料で形成されている請求項1に記載の非水電解質蓄電デバイス。
【請求項3】
カソード、アノード及びセパレータを準備する工程と、
前記カソード、前記アノード及び前記セパレータを用いて電極群を組み立てる工程と、
を含み、
前記セパレータを準備する工程が、
(i)エポキシ樹脂、硬化剤としてのアミン類及びポロゲンを含むエポキシ樹脂組成物を調製する工程と、
(ii)エポキシ樹脂シートが得られるように、前記エポキシ樹脂組成物の硬化体をシート状に成形する又は前記エポキシ樹脂組成物のシート状成形体を硬化させる工程と、
(iii)ハロゲンフリーの溶剤を用いて前記エポキシ樹脂シートから前記ポロゲンを除去する工程と、
を含み、
前記カソードおよび/または前記アノードは、遷移金属、アルミニウム、スズ、およびシリコンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む材料で形成され、
前記セパレータは、比表面積が5〜60m2/gの多孔構造を有するエポキシ樹脂多孔体を含み、当該エポキシ樹脂多孔体は、一級アミノ基、二級アミノ基、および三級アミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ基を含む、
非水電解質蓄電デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−20961(P2013−20961A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−133219(P2012−133219)
【出願日】平成24年6月12日(2012.6.12)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】