説明

非水電解質電池セパレータ及び非水電解質二次電池

【課題】シャットダウン機能及び耐熱性を有するとともに、機械的特性に優れる非水電解質電池セパレータを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂からなる補強材を含むポリオレフィン微多孔膜と、前記ポリオレフィン微多孔膜の片面又は両面に設けられ、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層と、を備えた非水電解質電池セパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池セパレータ及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、携帯電話やノートパソコンといった携帯用電子機器の主電源として広範に普及し、さらに、電気自動車やハイブリッドカーの主電源、夜間電気の蓄電システム等へと適用が広がっている。非水電解質二次電池の普及にともない、安定した電池特性と安全性を確保することが重要な課題となっている。
【0003】
非水電解質二次電池の安全性確保においてセパレータの役割は重要であり、とりわけシャットダウン機能の観点から、現状ではポリオレフィン(特にポリエチレン)を主成分とした多孔膜が用いられている。ここで、シャットダウン機能とは、電池が異常発熱した場合に、ポリオレフィンが溶融して多孔膜中の空孔を閉塞させ、イオンの流通を遮断することにより電池の熱暴走を食い止める機能をいう。
【0004】
しかし、シャットダウン機能が作動した後に電池温度がさらに上昇した場合、ポリオレフィンの多孔膜全体が溶融してしまう。この結果、電池内部で短絡が生じ、これに伴って大量の熱が発生して、電池の発煙・発火・爆発に至るおそれがある。このため、セパレータにはシャットダウン機能に加えて、シャットダウン機能が発現する温度より高い温度でも全体が溶融しないほどの耐熱性が要求される。
【0005】
この要求に対して、従来、ポリオレフィン基材の片面又は両面に、耐熱性高分子を含む多孔質層を被覆する提案や、耐熱性高分子の繊維からなる不織布を積層させる提案などがなされている(例えば、特許文献1〜5参照)。これらの提案は、シャットダウン機能と耐熱性を両立させた点で、高温下での電池の安全性確保が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−355938号公報
【特許文献2】特開2005−209570号公報
【特許文献3】特開2005−285385号公報
【特許文献4】特開2000−030686号公報
【特許文献5】特開2009−205959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さらに、セパレータには、電池の製造時にセパレータに破断や損傷が発生することを防ぐため、機械的特性をより一層高めることが求められている。
本発明は、シャットダウン機能及び耐熱性を有するとともに、機械的特性に優れる非水電解質電池セパレータを提供することを目的とする。
また、前記非水電解質電池セパレータを備えた、生産性及び安全性の高い非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するための具体的手段は以下のとおりである。
<1> 熱可塑性樹脂からなる補強材を含むポリオレフィン微多孔膜と、前記ポリオレフィン微多孔膜の片面又は両面に設けられ、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層と、を備えた非水電解質電池セパレータ。
<2> 前記補強材は、その形状が粒子状、繊維状及び放射状のいずれかである<1>に記載の非水電解質電池セパレータ。
<3> 前記粒子状の補強材の平均粒子径が0.01mm以上2.0mm以下であり、前記繊維状の補強材の平均繊維長が0.02mm以上2.0mm以下であり、前記放射状の補強材の平均最大径が0.02mm以上2.0mm以下である<2>に記載の非水電解質電池セパレータ。
<4> 正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置される<1>〜<3>のいずれか1つに記載の非水電解質電池セパレータとを備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シャットダウン機能及び耐熱性を有するとともに、機械的特性に優れる非水電解質電池セパレータを提供することができる。
また、前記非水電解質電池セパレータを備えた、生産性及び安全性の高い非水電解質二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
<非水電解質電池セパレータ>
本発明の非水電解質電池セパレータは、熱可塑性樹脂からなる補強材を含むポリオレフィン微多孔膜と、前記ポリオレフィン微多孔膜の片面又は両面に設けられ、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層と、を備えた非水電解質電池セパレータである。
本発明の非水電解質電池セパレータは、ポリオレフィン微多孔膜によりシャットダウン機能が得られ、耐熱性多孔質層によってポリオレフィンの融点以上の温度においてもセパレータが溶融しない耐熱性が得られる。そして、ポリオレフィン微多孔膜に熱可塑性樹脂からなる補強材が含まれていることにより、ポリオレフィン微多孔膜の機械的特性が優れる。したがって、本発明の非水電解質電池セパレータは、電池の製造時における破断や損傷の発生が抑制され、電池の製造時の歩留まり、及び電池の使用時の安全性を向上させることができる。
また、本発明の非水電解質電池セパレータを備えた非水電解質二次電池は、良好なシャットダウン性能を有し、また、長期にわたり使用する場合に充放電を繰返しても、電池容量が著しく低下することがなく、サイクル特性も安定している。
【0012】
(ポリオレフィン微多孔膜)
本発明において、ポリオレフィン微多孔膜は、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった膜を意味する。かかる微多孔膜は、130〜150℃で軟化し、多孔質の空隙が閉塞されシャットダウン機能を発現し、かつ非水電解質電池の電解液に溶解しない微多孔膜であることが好ましい。
【0013】
本発明において、ポリオレフィン微多孔膜は、熱可塑性樹脂からなる補強材を含む。前記ポリオレフィン微多孔膜は、熱可塑性樹脂からなる補強材を含むことにより、優れた機械的強度を有する。ポリオレフィン微多孔膜の機械的強度は、例えば、破断強度、破断伸度、変曲点応力、変曲点伸度、突刺強度、引張強度などで評価できる。
【0014】
本発明において、ポリオレフィン微多孔膜の破断強度は、MD方向、TD方向ともに、62MPa〜350MPaであることが好ましい。破断強度が上記範囲にあると、耐熱層成形時、または電池製造工程においてピンホール等の欠点が生じにくい。破断強度は、より好ましくは、MD方向、TD方向ともに80MPa〜300MPaである。
ポリオレフィン微多孔膜の破断伸度は、MD方向が70〜200%であり、TD方向が100〜250%であることが好ましい。破断伸度が上記範囲にあると、耐熱層成形時、または電池製造工程において安定して搬送することが可能となり歩留まりが向上する。破断伸度は、より好ましくは、MD方向が80〜180%であり、TD方向が120〜200%である。
【0015】
本発明において、ポリオレフィン微多孔膜の突刺強度は250g以上であることが好ましく、300g以上であることがより好ましい。突刺強度が250g以上であると、非水系二次電池を作製した場合、電極の凹凸や衝撃等でセパレータにピンホール等が発生しにくく、非水系二次電池が短絡する可能性が低い。
ポリオレフィン微多孔膜の引張強度は、10N以上であることが好ましい。引張強度が10N以上であると、非水系二次電池を作製する時にセパレータを捲回する際に、セパレータが破損しにくい。
【0016】
本発明において、ポリオレフィン微多孔膜の厚みは、5μm〜25μmが好ましく、さらに好ましくは5μm〜20μmである。厚みが5μm以上であると、シャットダウン機能が良好である。他方、厚みが25μm以下であると、耐熱性多孔質層も加えた非水系二次電池用セパレータの厚みとして適当であり、高電気容量化が達成できる。
ポリオレフィン微多孔膜の空孔率は、透過性、機械強度及びハンドリング性の観点から、30〜80%であることが好ましい。空孔率が30%以上であると、透過性、電解液の保持量が適当である。他方、空孔率が80%以下であると、ポリオレフィン微多孔膜の機械強度の点で好ましく、またシャットダウン機能が良好である。空孔率は、より好ましくは40〜60%である。
ポリオレフィン微多孔膜のガーレ値(JIS・P8117)は、機械強度と膜抵抗をバランスよく得るという観点から、50〜500sec/100ccであることが好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜の膜抵抗は、非水電解質二次電池の負荷特性の観点から、0.5〜5ohm・cmであることが好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜の105℃における熱収縮率は、MD方向が1〜20%であり、TD方向が1〜15%であることが好ましい。熱収縮率が上記範囲にあると、セパレータの形状安定性とシャットダウン特性のバランスがよい。
【0017】
[熱可塑性樹脂からなる補強材]
本発明において、ポリオレフィン微多孔膜を低倍率(5〜100倍程度)の光学顕微鏡で観察すると、表面及び内部にフィブリル状のネットワーク構造が観察される。そして、熱可塑性樹脂からなる補強材は、ポリオレフィン微多孔膜の表面及び内部において、前記ネットワーク構造をなすフィブリル上に載置された状態で存在している。補強材は、前記ネットワーク構造をなすフィブリルに融合し一体化して存在していてもよい。
特定の理論に拘束されるものではないが、ポリオレフィン微多孔膜は、補強材によりネットワーク構造が強固に固定されるため、その機械的特性が向上するものと考えられる。ポリオレフィン微多孔膜は、補強材が上述のような態様で存在しており、その空孔率や熱収縮率が損なわれることもない。
【0018】
補強材の形状は、特に限定されるものではないが、例えば、粒子状、繊維状、放射状、円盤状、コイル状、波形、星形などが挙げられ、粒子状、繊維状及び放射状のいずれかであることが好ましい。補強材の形状が粒子状、繊維状又は放射状であると、ポリオレフィン微多孔膜は機械的強度に優れ、耐熱性多孔質層の剥離も発生しにくく、非水電解質二次電池とした場合の電池特性にも影響がない。
本発明において「放射状」の補強材とは、複数の繊維状の突起が一点を中心に様々な方向に伸びた形状の補強材をいい、繊維状の突起が伸びた方向には制限がなく、3次元的な広がりをもった形状のものだけでなく、平たい形状のものも含む。
補強材の形状は、目視にて確認することが可能な場合もあるが、通常は光学顕微鏡によって5〜100倍の低倍率で観察することができる。
【0019】
補強材の大きさは、特に限定されるものではないが、0.01mm〜5.0mmの範囲にあると、ポリオレフィン微多孔膜の構造を強化する効果が期待でき、かつ、ポリオレフィン微多孔膜の諸特性(空孔率、膜抵抗、熱収縮率、耐熱性多孔質層との親和性など)が良好である。
なお、補強材の大きさは、形状が粒子状であれば粒子径を、繊維状であれば繊維長を、放射状であれば最大径を意味する。
【0020】
補強材の大きさは、形状ごとに、下記の範囲であることが好ましい。
補強材が粒子状である場合、その平均粒子径は0.01mm〜2.0mmであることが好ましく、0.05mm〜0.8mmであることがより好ましい。
補強材が繊維状である場合、その平均繊維長は0.02mm〜2.0mmであることが好ましく、0.05mm〜1.0mmであることがより好ましい。
補強材が放射状である場合、その平均最大径は0.02mm〜2.0mmであることが好ましく、0.05mm〜1.0mmであることがより好ましい。
補強材の大きさが上記範囲にあると、ポリオレフィン微多孔膜は機械的強度に優れ、耐熱性多孔質層の剥離も発生しにくく、非水電解質二次電池とした場合の電池特性にも影響がない。
なお、上記の平均粒子径、平均繊維長、及び平均最大径は、ポリオレフィン微多孔膜を5cm×5cmのサイズに切り出し、光学顕微鏡下で、ポリオレフィン微多孔膜の表面に露出している粒子状、繊維状及び放射状の補強材について、大きさ(粒子径、繊維長、最大径)が0.01mm〜5.0mmの範囲にあるものについて、粒子状、繊維状、及び放射状の形状ごとに大きさ(粒子径、繊維長、最大径)(mm)を計測し、形状ごとに平均値(mm)を算出する。
【0021】
補強材を構成する熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、架橋ポリオレフィンや高分子量ポリオレフィンが挙げられる。具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等のモノマーを重合して得られる重合体(ホモ重合体や共重合体、多段重合体等)が挙げられる。特に、ゲル浸透クロマトグラフ(以下GPCと略称することがある。)測定によるポリスチレン換算の分子量(ダルトン)が100万を超える超高分子量ポリオレフィンが、ポリオレフィン微多孔膜の機械的強度や耐短絡性の観点から好ましい。
【0022】
補強材を構成する熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン微多孔膜を構成するポリオレフィンと同一の樹脂でもよく、異なる樹脂であってもよいが、同一の樹脂であることが好ましい。同一の樹脂であると、補強材とポリオレフィン微多孔膜との親和性が高く、補強材がポリオレフィン微多孔膜から脱落しにくい。また、同一の樹脂であると、ポリオレフィン微多孔膜の均一性がよく、ポリオレフィン微多孔膜と耐熱性多孔質層との親和性が低下することもなく、耐熱性多孔質層の剥離が発生しにくい。
また、ポリオレフィン微多孔膜のフィブリル状のネットワーク中に補強材を一体的に形成する上では、補強材を構成する熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン微多孔膜を構成するポリオレフィンと融点が同等以上の熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0023】
補強材の含有量としては、ポリオレフィン微多孔膜の表面に露出している粒子状、繊維状及び放射状の補強材について、大きさ(粒子径、繊維長、最大径)が0.01mm〜5・0mmの範囲にあるものの数を計数した場合にその合計が、1cmあたり1〜20個の範囲であることが好ましい。前記含有量が20個/cm以下であると、ポリオレフィン微多孔膜の空孔率が低すぎることがなく、セパレータの諸特性が良好である。
前記含有量は、ポリオレフィン微多孔膜の機械的強度と空孔率の観点から、より好ましくは2〜15個/cmであり、更に好ましくは5〜15個/cmである。
【0024】
補強材をポリオレフィン微多孔膜に含ませる方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィン微多孔膜を製造する際において以下の方法が採用できる。
(i)ポリオレフィン微多孔膜の原料となるポリオレフィン溶液中に、熱可塑性樹脂からなるフィラーを添加し、このフィラーを補強材とする方法。
(ii)熱可塑性樹脂からなるフィラーを溶剤中に分散させた分散液を、ポリオレフィン微多孔膜の原料となるポリオレフィン溶液中に添加し、前記フィラーを補強材とする方法。この場合、ポリオレフィン微多孔膜の機械的特性及び耐短絡性の観点から、前記フィラーは前記分散液においてゲル状であることが好ましい。
(iii)ポリオレフィンを溶剤に溶解させるとき(あるいはポリオレフィンを溶融するとき)、溶解温度(溶融温度)を低下させたり、溶解時間(溶融時間)を短縮させたりして、ポリオレフィン微多孔膜の原料となるポリオレフィン溶液の一部に未溶解(未溶融)のポリオレフィン原料を残し、この未溶解(未溶融)のポリオレフィン原料を補強材とする方法。
(iv)ポリオレフィン微多孔膜の原料シートを延伸する際に、一部に未延伸の部分を残したままポリオレフィン微多孔膜を完成させることで、未延伸の部分を補強材とする方法。
【0025】
上記(i)〜(iii)の各方法において、熱可塑性樹脂からなる固形物を含むポリオレフィン溶液(あるいはポリオレフィン溶融物)は、ダイにて溶融押出する前に、例えばホモジナイザー等により機械的せん断力を付加したり、フィルターで濾過することが好ましい。このような操作により、大きな固形物の細分化や除去を行うことができる。フィルターで濾過する場合、フィルターとしては金属製のフィルターが好ましく、なかでも金網製あるいは焼結金属製フィルターが好ましい。また、フィルターの濾過径は0.5μm〜20μmが好ましく、より好ましくは0.7μm〜15μm、更に好ましくは1μm〜10μmが選択される。
【0026】
[ポリオレフィン]
ポリオレフィン微多孔膜に用いるポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等のモノマーを重合して得られる重合体(ホモ重合体や共重合体、多段重合体等)が挙げられ、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、ポリブテン、エチレンプロピレンラバー等が挙げられる。
【0027】
前記ポリオレフィン樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。例えば、シャットダウン挙動に重点をおいて、高密度ポリエチレンと中密度ポリエチレンとの混合物にすることが可能である。ほかに、耐短絡性又は機械的物性(突刺し強度等)の向上に注目して、高密度ポリエチレンと超高分子量ポリエチレンとの混合物にすることが可能である。また、耐熱性に注目して、ポリエチレンとポリプロピレンとの混合物にすることが可能である。
【0028】
前記ポリオレフィン樹脂は、ポリオレフィン微多孔膜の融点を低下させる観点から、高密度ポリエチレンを含むことが好ましい。高密度ポリエチレンが、前記ポリオレフィン樹脂中に占める割合としては、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。
【0029】
前記ポリオレフィン樹脂は、ポリオレフィン微多孔膜あるいはセパレータの機械特性(破断強度、傷つき性など)を向上させる観点から、重量平均分子量(ダルトン)が5万以上であることが好ましく、10万以上であることがより好ましい。重量平均分子量を5万以上とすることは、熱延伸の際のメルトテンションを高く維持し良好な製膜性を確保する観点、又は十分な絡み合いを付与しポリオレフィン微多孔膜の強度を高める観点から好ましい。
他方、前記ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量の上限としては、1000万以下が好ましく、より好ましくは300万以下である。重量平均分子量を1000万以下とすることは、溶液作製時に、均一な溶液の作製を実現し、シートの成形性、特に厚み安定性を向上させる観点から好ましい。重量平均分子量を300万以下とすることは、成形時の均一性の向上、延伸テンション低下の観点より好ましい。
このとき、分子量の異なるポリオレフィンの併用、例えば重量平均分子量の比確的低いポリオレフィンと高いポリオレフィンとの併用(具体的には、重量平均分子量10万〜40万の高密度ポリエチレンと重量平均分子量40万超の超高分子量ポリエチレンとの併用)により、上記の各種観点を制御することも可能であり、目的により分子量を適宜選択することが好ましい。
なお、重量平均分子量は、後述する実施例における測定法に準じて測定される。複数のポリオレフィン樹脂が用いられる場合には、各々のポリオレフィン樹脂について測定される値を意味する。
【0030】
前記ポリオレフィン樹脂は、膜成形性、耐熱性及び透過性の確保の観点から、ポリプロピレン樹脂を含むことが好ましい。ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量は、成形性の確保、膜成形性及び透過性の確保の観点から10万〜60万が好ましく、10万〜50万がより好ましい。
【0031】
[ポリオレフィン微多孔膜の製造法]
本発明において、ポリオレフィン微多孔膜の製造法に特に制限はないが、例えば溶液法や溶融法等の適用が可能であり、具体的には下記(1)〜(6)の工程を経て製造することが好ましい。
【0032】
(1)ポリオレフィン溶液の調整
所定の量比のポリオレフィンを溶剤に溶解させたポリオレフィン溶液を調製する。この時、溶剤を混合してポリオレフィン溶液を作製しても構わない。溶剤としては、例えばパラフィン、流動パラフィン、パラフィン油、鉱油、ひまし油、テトラリン、エチレングリコール、グリセリン、デカリン、トルエン、キシレン、ジエチルトリアミン、エチルジアミン、ジメチルスルホキシド、ヘキサン等が挙げられる。
【0033】
ポリオレフィン溶液の濃度は1〜35質量%が好ましく、より好ましくは10〜30質量%である。ポリオレフィン溶液の濃度が1質量%以上であると、冷却ゲル化して得られるゲル状成形物が溶媒で高度に膨潤しないように維持できるため変形しにくく、取扱い性が良好である。他方、ポリオレフィン溶液の濃度が35質量%以下であると、押し出しの際の圧力が抑えられるため吐出量を維持することが可能で生産性に優れる。また、押し出し工程での配向が進みにくく、延伸性や均一性を確保するのに有利である。
なお、補強材をポリオレフィン微多孔膜に含ませる前記(i)〜(iii)の各方法について前述したように、ポリオレフィン溶液は、大きな固形物の細分化や除去のため、濾過することが好ましい。さらには、異物除去の観点からも、濾過して使用することが好ましい。濾過装置、濾過フィルターの形状、様式などは特に制限はなく、従来公知の装置、様式を使用することができる。濾過フィルターの穴径は、濾過性の観点より0.5μm〜50μmが好ましい。
【0034】
(2)ポリオレフィン溶液の押出
調整したポリオレフィン溶液を一軸押出機、もしくは二軸押出機で混練し、融点以上かつ融点+60℃以下の温度でTダイもしくはIダイで押し出す。好ましくは二軸押出機を用いる。そして、押し出したポリオレフィン溶液をチルロール又は冷却浴に通過させて、ゲル状組成物を形成する。この際、ゲル化温度以下に急冷しゲル化することが好ましい。特に、溶媒として揮発性溶媒と不揮発性溶媒とを組合せて用いた場合において、結晶パラメータを制御するという観点では、ゲル状組成物の冷却速度は30℃/分以上であることが好ましい。
【0035】
(3)脱溶媒処理
次いで、ゲル状組成物から溶媒を除去する。揮発性溶剤を使用する場合、予熱工程も兼ねて加熱等により蒸発させゲル状組成物から溶媒を除くこともできる。また、不揮発性溶媒の場合は圧力をかけて絞り出すなどして溶媒を除くことができる。なお、溶媒は完全に除く必要はない。
【0036】
(4)ゲル状組成物の延伸
脱溶媒処理に次いで、ゲル状組成物を延伸する。ここで、延伸処理の前に弛緩処理を行ってもよい。延伸処理は、ゲル状成形物を加熱し、通常のテンター法、ロール法、圧延法もしくはこれらの方法の組合せによって所定の倍率で2軸延伸する。2軸延伸は、同時又は逐次のどちらであってもよい。また、縦多段延伸や3乃至4段延伸とすることもできる。
延伸温度は、90℃以上、成膜に使用するポリオレフィンの融点未満であることが好ましく、さらに好ましくは100〜120℃である。加熱温度が融点未満であると、ゲル状成形物が溶解しにくいために延伸を良好に行える。また、加熱温度が90℃以上であると、ゲル状成形物の軟化が十分で延伸において破膜せずに高倍率の延伸が可能である。
【0037】
延伸倍率は、原反の厚さによって異なるが、1軸方向で少なくとも2倍以上、好ましくは4〜20倍で行なうことが好ましい。特に、本発明の目的及び生産効率向上の観点から、延伸倍率が機械方向(MD方向)に4〜10倍、機械方向の垂直方向(TD方向)に6〜15倍であることが好ましく、面積倍率としては、10〜100倍が好ましく、20〜80倍がより好ましく、30〜60倍が更に好ましい。
この時引き裂き強度の観点から、最後の延伸方向として、TD方向が好適に選択される。MD方向とTD方向の延伸倍率の比は、好ましくは2/1〜1/2、より好ましくは1.5/1〜1/2、更に好ましくは1.2/1〜1/1.5が選択される。
さらに本発明の目的により、延伸速度を200%/秒以下とすることが好ましく、生産性の観点からは、延伸速度を1%/秒以上とする。より好ましくは150〜5%/秒、更に好ましくは100〜10%/秒が選択される。
【0038】
(5)溶剤の抽出・除去
延伸後のゲル状組成物を抽出溶剤に浸漬して、溶媒を抽出する。抽出溶剤としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、デカリン、テトラリン等の炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素、メチレンクロライド等の塩素化炭化水素、三フッ化エタン等のフッ化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類等の易揮発性のものを用いることができる。これらの溶剤はポリオレフィン樹脂の溶解に用いた溶媒に応じて適宜選択し、単独もしくは混合して用いることができる。溶媒の抽出は、微多孔膜中の溶媒を1質量%未満に迄除去する。
【0039】
(6)微多孔質基材のアニール
微多孔質基材をアニールにより熱セットする。アニール温度は、微多孔膜の熱収縮率の観点から、80〜150℃で実施することが好ましく、さらに引き裂き強度の観点から、好ましくは80〜140℃、より好ましくは90〜135℃で実施する。
アニール時間は、微多孔膜の熱収縮率の低減の観点から、1分以上とすることが好ましく、1分〜1時間とすることができる。微多孔膜の変形を抑制する観点からは、長時間のアニールが好ましい。微多孔膜の熱収縮をより低減させるために、アニール時間を1時間から5時間程度まで延長することも可能である。
【0040】
(耐熱性多孔質層)
本発明において、耐熱性多孔質層は、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった層を意味する。
【0041】
本発明において、耐熱性多孔質層はポリオレフィン微多孔膜の両面又は片面に形成すればよいが、ハンドリング性、耐久性及び熱収縮の抑制効果の観点から、ポリオレフィン微多孔膜の両面に形成された態様が好ましい。
本発明において、耐熱性多孔質層がポリオレフィン微多孔膜の両面に形成されている場合は、耐熱性多孔質層の厚みの合計が3μm以上12μm以下であることが好ましく、耐熱性多孔質層がポリオレフィン微多孔膜の片面にのみ形成されている場合は、耐熱性多孔質層の厚みが3μm以上12μm以下であることが好ましい。このような厚みの範囲は、ハンドリング性、耐久性、熱収縮の抑制効果、及び液枯れしにくい点で好ましい。
本発明において、耐熱性多孔質層の空孔率は、液枯れしにくい観点から、30〜90%の範囲が好適であり、より好ましくは30〜70%である。
【0042】
[耐熱性樹脂]
本発明において、耐熱性多孔質層を構成する耐熱性樹脂としては、融点200℃以上の結晶性樹脂、あるいは融点を有しないが分解温度が200℃以上の樹脂が好ましく、例えば、全芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド及びセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂が挙げられる。
かかる樹脂は、ホモポリマーであってもよく、さらに柔軟性の発揮など、所望の目的により若干の共重合成分を含有することも可能である。すなわち、例えば全芳香族ポリアミドにおいては、例えば少量の脂肪族成分を共重合することも可能である。
さらにかかる耐熱性樹脂は、電解質溶液に対し不溶性であり、耐久性が高いことにより全芳香族ポリアミドが好適であり、多孔質層を形成しやすく耐酸化還元性に優れるという観点から、メタ型全芳香族ポリアミドであるポリメタフェニレンイソフタルアミドがさらに好適である。
【0043】
前記耐熱性樹脂は、サイクル特性、耐短絡性、さらには加熱時のセパレータの寸法安定性の観点から、分子量範囲が特定範囲であることが好ましい。樹脂の分子量範囲は、樹脂の種類、とりわけ繰返し単位の分子量に依存して若干異なるが、本発明においては、前記耐熱性樹脂の融液あるいは濃厚溶液において、高分子の絡み合いが観測される程度の平均重合度(以下単に重合度と略記することがある。)あるいはそれより若干高い重合度とし、分子量範囲を特定範囲とすることが好ましい。
すなわち、前記耐熱性樹脂は、数平均分子量(Mn)(ダルトン)が0.1万〜10万の範囲であることが好ましい。数平均分子量が0.1万以上であると、耐熱性多孔質層の強度が良好で剥離が起きにくい。他方、数平均分子量が10万以下であると、ポリオレフィン微多孔膜との界面応力が適度な範囲に抑えられ、セパレータの表面特性が低下することがない。
かかる観点により、例えばメタ型全芳香族ポリアミド(具体的には例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミド)においては、数平均分子量(Mn)が0.1万〜10万の比較的低い重合度であることが好ましく、0.2万〜8万がより好ましく、0.2万〜7万が更に好ましく、0.3万〜5万が特に好ましい。
【0044】
[無機フィラー]
本発明において、耐熱性多孔質層には無機フィラーが含まれていることが好ましい。無機フィラーとしては、特に限定はないが、アルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニア等の金属酸化物、炭酸カルシウム等の金属炭酸塩、リン酸カルシウム等の金属リン酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物等が好適に用いられる。このような無機フィラーは、不純物の溶出や耐久性の観点から結晶性の高いものが好ましい。
【0045】
無機フィラーとしては、200〜400℃において吸熱反応を生じるものが好ましい。非水電解質二次電池では、正極の分解に伴う発熱が最も危険と考えられており、この分解は300℃近傍で起こる。このため、吸熱反応の発生温度が200〜400℃の範囲であれば、非水電解質二次電池の発熱を防ぐ上で有効である。
200〜400℃において吸熱反応を生じる無機フィラーとして、金属水酸化物、硼素塩化合物又は粘土鉱物等からなる無機フィラーが挙げられる。具体的には、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム、アルミン酸カルシウム、ドーソナイト、硼酸亜鉛等が挙げられる。水酸化アルミニウムやドーソナイト、アルミン酸カルシウムは200〜300℃の範囲において脱水反応が起こり、また、水酸化マグネシウムや硼酸亜鉛は300〜400℃の範囲において脱水反応が起こるため、これらの無機フィラーのうち少なくともいずれか一種を用いることが好ましい。
上記無機フィラーは単独若しくは2種以上を組み合せて用いることができる。また、これらの難燃性の無機フィラーには、アルミナやジルコニア、シリカ、マグネシア、チタニア等の金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属炭酸塩等の他の無機フィラーを適宜混合して用いることもできる。
【0046】
無機フィラーとしては、難燃性の向上効果、ハンドリング性、除電効果、電池の耐久性改善効果等の観点からは、金属水酸化物からなる無機フィラーが好ましい。中でも水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムであることが好ましい。
【0047】
本発明において、無機フィラーの平均粒子径は、高温時の耐短絡性や成形性等の観点から、0.1μm〜2μmが好ましい。耐熱性多孔質層における無機フィラーの含有量は、耐熱性向上効果、透過性及びハンドリング性の観点から、50〜95質量%であることが好ましい。
なお、耐熱性多孔質層中の無機フィラーは、耐熱性多孔質層が微多孔膜状である場合は耐熱性樹脂に捕捉された状態で存在し、耐熱性多孔質層が不織布等の場合は構成繊維中に存在するか、樹脂等のバインダーにより不織布表面等に固定されていればよい。
【0048】
[耐熱性多孔質層の形成方法]
本発明において、耐熱性多孔質層の形成方法に特に制限はないが、具体的には下記(1)〜(5)の工程を経て形成することが好ましい。
【0049】
(1)塗工用スラリーの作製
耐熱性樹脂を溶剤に溶かし、塗工用スラリーを作製する。溶剤は耐熱性樹脂を溶解するものであればよく、特に限定はないが、極性溶剤が好ましく、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。また、当該溶剤は、極性溶剤に加えて耐熱性樹脂に対して貧溶剤となる溶剤も加えることができる。このような貧溶剤を適用することでミクロ相分離構造が誘発され、耐熱性多孔質層を形成する上で多孔化が容易となる。貧溶剤としては、アルコール類が好適であり、特にグリコールのような多価アルコールが好適である。
塗工用スラリー中の耐熱性樹脂の濃度は4〜9質量%が好ましい。また必要に応じ、これに無機フィラーを分散させて塗工用スラリーとする。塗工用スラリー中に無機フィラーを分散させるに当たって、無機フィラーの分散性が好ましくないときは、無機フィラーをシランカップリング剤等で表面処理し、分散性を改善する手法も適用可能である。
【0050】
(2)スラリーの塗工
スラリーをポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一方の表面に塗工する。ポリオレフィン微多孔膜の両面に耐熱性多孔質層を形成する場合は、基材の両面に同時に塗工することが、工程の短縮という観点で好ましい。塗工用スラリーを塗工する方法としては、ナイフコーター法、グラビアコーター法、スクリーン印刷法、マイヤーバー法、ダイコーター法、リバースロールコーター法、ロールコーター法、インクジェット法、スプレー法等が挙げられる。
塗膜を均一に形成するという観点において、リバースロールコーター法が好適である。ポリオレフィン微多孔膜の両面に同時に塗工する場合は、例えば、ポリオレフィン微多孔膜を一対のマイヤーバーの間に通すことで両面に過剰な塗工用スラリーを塗布し、これを一対のリバースロールコーターの間に通して過剰なスラリーを掻き落すことで精密計量するという方法を採用できる。
塗工用スラリーは、微細異物除去のため、塗工に先立ち濾過することが好ましい。濾過装置、フィルターの形状、設置位置は特に制限はなく、従来公知の装置、フィルターを所定の位置に設置して使用することができる。フィルターの穴径は、濾過性と生産性の観点から、1μm以上100μm以下が好ましい。
【0051】
(3)スラリーの凝固
ポリオレフィン微多孔膜に塗工用スラリーを塗工したものを、耐熱性樹脂を凝固させることが可能な凝固液で処理することにより、耐熱性樹脂を凝固させて、耐熱性多孔質層を形成する。処理方法としては、塗工用スラリーを塗工した面に凝固液をスプレーで吹き付ける方法や、塗工用スラリーを塗工したポリオレフィン微多孔膜を凝固液の入った浴(凝固浴)中に浸漬する方法などが挙げられる。ここで、凝固浴を設置する場合は、塗工装置の下方に設置することが好ましい。
凝固液としては、耐熱性樹脂を凝固できるものであれば特に限定されないが、水、又は、スラリーに用いた溶剤に水を適当量混合させたものが好ましい。ここで、水の混合量は、凝固効率や多孔化の観点から、凝固液に対して40〜80質量%が好ましい。
【0052】
(4)凝固液の除去
スラリーの凝固に用いた凝固液を、水洗することによって、除去する。
【0053】
(5)乾燥
ポリオレフィン微多孔膜に耐熱性樹脂の塗工層を形成したシートから、水を乾燥により除去する。乾燥方法は特に限定はないが、乾燥温度は50〜80℃が好適であり、高い乾燥温度を適用する場合は熱収縮による寸法変化が起こらないようにするためにロールに接触させる方法を適用することが好ましい。
【0054】
(セパレータの諸特性)
本発明の非水電解質電池セパレータは、非水電解質二次電池を作製した場合の電池のエネルギー密度の観点から、全体の膜厚が30μm以下であることが好ましい。
本発明の非水電解質電池セパレータの空孔率は、透過性、機械強度及びハンドリング性の観点から、30〜70%であることが好ましく、40〜60%であることがより好ましい。
本発明の非水電解質電池セパレータのガーレ値(JIS・P8117)は、機械強度と膜抵抗のバランスがよい点で、100〜500sec/100ccであることが好ましい。
本発明の非水電解質電池セパレータの膜抵抗は、非水電解質二次電池の負荷特性の観点から、1.5〜10ohm・cmであることが好ましい。
【0055】
本発明の非水電解質電池セパレータの突刺強度は、250〜1000gであることが好ましい。突刺強度が250g以上であると、非水電解質二次電池を作製した場合、セパレータにピンホール等が発生しにくく、非水系二次電池の短絡発生を抑制できる。
本発明の非水電解質電池セパレータの引張強度は、10N以上であることが好ましい。引張強度が10N以上であると、非水系二次電池を作製する時にセパレータを捲回する際に、セパレータが破損しにくい。
【0056】
本発明の非水電解質電池セパレータの105℃における熱収縮率は、MD方向、TD方向ともに、0.5〜10%であることが好ましい。熱収縮率がこの範囲にあると、セパレータの形状安定性とシャットダウン特性のバランスがよい。
【0057】
<非水電解質二次電池>
本発明の非水電解質二次電池は、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水電解質二次電池であって、正極と、負極と、既述の構成の非水電解質電池セパレータを備える。非水電解質二次電池は、負極と正極がセパレータを介して対向している電池要素に電解液が含浸され、これが外装に封入された構造を有する。
【0058】
負極は、負極活物質、導電助剤及びバインダーからなる負極合剤が、集電体上に成形された構造である。負極活物質としては、リチウムを電気化学的にドープすることが可能な材料が挙げられ、例えば炭素材料、シリコン、アルミニウム、スズ、ウッド合金等が挙げられる。負極活物質は、セパレータが液枯れしにくい点では、リチウムを脱ドープする過程における体積変化率が3%以上のものが好ましい。かかる負極活物質としては、例えばSn、SnSb、AgSn、人造黒鉛、グラファイト、Si、SiO、V等が挙げられる。導電助剤は、アセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えばポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。集電体には銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔等を用いることが可能である。
【0059】
正極は、正極活物質、導電助剤及びバインダーからなる正極合剤が、集電体上に成形された構造である。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物等が挙げられ、具体的にはLiCoO、LiNiO、LiMn0.5Ni0.5、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiMn、LiFePO、LiCo0.5Ni0.5、LiAl0.25Ni0.75等が挙げられる。正極活物質は、セパレータが液枯れしにくい点では、リチウムを脱ドープする過程における体積変化率が1%以上のものが好ましい。かかる正極活物質としては、例えばLiMn、LiCoO、LiNiO、LiCo0.5Ni0.5、LiAl0.25Ni0.75等が挙げられる。導電助剤はアセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えばポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。集電体にはアルミ箔、ステンレス箔、チタン箔等を用いることが可能である。
【0060】
電解液は、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した溶液である。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClO等が挙げられる。非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネート等が挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。
【0061】
外装材は、金属缶又はアルミラミネートパック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型等があるが、本発明の非水電解質電池セパレータはいずれの形状においても好適に適用することが可能である。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0063】
本発明の実施例及び比較例で適用した測定方法は、以下のとおりである。
(1)補強材料(フィラー)の大きさ
サンプルを5cm×5cmのサイズに切り出し、光学顕微鏡で、サンプル表面に露出している粒子状、繊維状及び放射状のフィラーについて、大きさ(粒子径、繊維長、最大径)が0.01mm〜5.0mmの範囲にあるフィラーについて大きさ(粒子径、繊維長、最大径)(mm)を計測し、形状ごとに平均値(mm)を求めた。
(2)補強材料(フィラー)の個数
サンプルを5cm×5cmのサイズに切り出し、光学顕微鏡で、サンプル表面に露出している粒子状、繊維状及び放射状のフィラーについて、大きさ(粒子径、繊維長、最大径)が0.01mm〜5.0mmの範囲にあるフィラーの個数を計数し、単位面積当たりの個数(個/cm)を求めた。
【0064】
(3)膜厚
ポリオレフィン微多孔膜及び非水電解質電池セパレータの膜厚は、接触式の膜厚計(ミツトヨ社製)にて20点測定し、これを平均することで求めた。ここで、接触端子は底面が直径0.5cmの円柱状のものを用いた。
(4)空孔率
ポリオレフィン微多孔膜及び非水電解質電池セパレータの空孔率は、下記式から求めた。
ε={1−Ws/(ds・t)}×100
ここで、ε:空孔率(%)、Ws:目付(g/m)、ds:真密度(g/cm)、t:膜厚(μm)である。
(5)ガーレ値
ポリオレフィン微多孔膜及び非水電解質電池セパレータのガーレ値は、JIS P8117に従って求めた。
(6)膜抵抗
ポリオレフィン微多孔膜及び非水電解質電池セパレータの膜抵抗は、以下の方法で求めた。
サンプルを2.6cm×2.0cmのサイズに切り出し、非イオン性界面活性剤(花王社製エマルゲン210P)を3質量%の濃度に溶解したメタノール溶液(メタノール:和光純薬工業社製)に浸漬し、風乾した。厚さ20μmのアルミ箔を2.0cm×1.4cmに切り出し、リードタブを付けた。このアルミ箔を2枚用意して、アルミ箔間に切り出したサンプルをアルミ箔が短絡しないように挟んだ。サンプルに電解液である1MのLiBF/[プロピレンカーボネート/エチレンカーボネート(質量比1/1)]溶液(キシダ化学社製)を含浸させた。これをアルミラミネートパック中にタブがアルミパックの外に出るようにして減圧封入した。このようなセルを、アルミ箔中にセパレータが1枚、2枚、3枚となるようにそれぞれ作製した。該セルを20℃の恒温槽中に入れ、交流インピーダンス法で振幅10mV、周波数100kHzにて該セルの抵抗値を測定した。セルの抵抗値をセパレータの枚数に対してプロットし、このプロットを線形近似し傾きを求めた。この傾きに電極面積である2.0cm×1.4cmを乗じてセパレータ1枚当たりの膜抵抗(ohm・cm)を求めた。
(7)熱収縮率
ポリオレフィン微多孔膜及び非水電解質電池セパレータの熱収縮率は、サンプルを105℃で1時間加熱してMD方向とTD方向について測定した。
(8)突刺強度
ポリオレフィン微多孔膜及び非水電解質電池セパレータの突刺強度は、KES−G5ハンディー圧縮試験器(カトーテック社製)を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secの条件で突刺試験を行い、最大突刺荷重(g)を測定して突刺強度とした。ここでサンプルはΦ11.3mmの穴があいた金枠(試料ホルダー)にシリコンゴム製のパッキンも一緒に挟み固定した。
(9)ゲルボフレックス試験
ポリオレフィン微多孔膜及び非水電解質電池セパレータのゲルボフレックス試験は、ゲルボフレックステスター(テスター工業製)を用い、常温(25℃)、1000サイクルの条件で実施した。
(10)破断強度、破断伸度
ポリオレフィン微多孔膜及び非水電解質電池セパレータの破断強度および破断伸度は、サンプルを1cm×3cmの短冊状に切り出し、テンシロンにより引張速度20mm/分で引張試験を行って、得られた応力−伸度曲線から算出した。
【0065】
(12)シャットダウン温度
非水電解質電池セパレータのシャットダウン温度は、以下の方法で求めた。
サンプルを直径19mmに打ち抜き、非イオン性界面活性剤(花王社製エマルゲン210P)を3質量%の濃度に溶解したメタノール溶液(メタノール:和光純薬工業社製)に浸漬し、風乾した。サンプルを直径15.5mmのSUS板に挟み、電解液である1MのLiBF/[プロピレンカーボネート/エチレンカーボネート(質量比1/1)]溶液(キシダ化学社製)を含浸させた。これを2032型コインセルに封入した。コインセルからリード線をとり、熱電対を付けてオーブンの中に入れた。昇温速度1.6℃/分で昇温させ、同時に交流インピーダンス法で振幅10mV、周波数100kHzにて該セルの抵抗を測定した。抵抗値が10ohm・cm以上となった温度をシャットダウン温度とした。
【0066】
(13)サイクル特性(容量保持率及び変動幅)
−試験用電池の作製−
〜正極の作製〜
コバルト酸リチウム(LiCoO、日本化学工業社製)の粉末と、アセチレンブラックと、PVdFのN−メチル−2−ピロリドン溶液(PVdF濃度6質量%)とを用意した。質量比(LiCoO:アセチレンブラック:PVdF[乾燥質量])が89.5:4.5:6になるように混合溶液を調製し、これを正極剤ペーストとした。正極剤ペーストを厚さ20μmのアルミ箔上に塗布し、乾燥後プレスして、厚さ97μmの正極を得た。
〜負極の作製〜
負極活物質としてメソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB、大阪瓦斯化学社製)の粉末と、アセチレンブラックと、PVdFのN−メチル−2−ピロリドン溶液(PVdF濃度6質量%)とを用意した。質量比(メソフェーズカーボンマイクロビーズ:アセチレンブラック:PVdF[乾燥質量])が87:3:10になるように混合溶液を調製し、これを負極剤ペーストとした。負極剤ペーストを厚さ18μmの銅箔上に塗布し、乾燥後プレスして、厚さ90μmの負極を得た。
〜ボタン電池の作製〜
セパレータと、上記の正極及び負極を用いて、初期容量が4.5mAh程度のボタン電池(CR2032)、10個を作製した。電解液には1MのLiPF/[エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/エチルメチルカーボネート(質量比1/2/1)]溶液を用いた。
−評価方法−
ボタン電池について、充電電圧4.2V、放電電圧2.75Vで充放電を繰返し、100サイクル目の放電容量を初期容量で除して得られた数値を容量保持率とし、下記の評価基準に従って、容量保持率及び変動幅を評価した。
〜評価基準〜
(i)容量保持率
○:ボタン電池10個の容量保持率の平均値が90%以上。この場合、実用上問題なく、合格(○)と判定した。
×:ボタン電池10個の容量保持率の平均値が90%未満。この場合、実用上問題があり、不合格(×)と判定した。
(ii)変動幅
ボタン電池10個の容量保持率のなかの最小値(%)を、100%から減じた値を変動幅とした。
○:変動幅が7%未満(即ち、ボタン電池10個の容量保持率がすべて93%以上)。この場合、実用上問題なく、合格(○)と判定した。
×:変動幅が7%以上(即ち、ボタン電池10個の容量保持率のなかの最小値が93%未満)。この場合、実用上問題があり、不合格(×)と判定した。
【0067】
(14)耐短絡性
前記(15)のボタン電池10個について、4.2Vまで充電した後、オーブンに入れ、5kgの錘をのせた。この状態で電池温度が2℃/分で昇温するようにオーブンを設定し、150℃まで昇温した後、1時間保持した。そのとき、150℃近傍で急激な電池電圧の低下が1個でも確認された場合、耐短絡性が不良(×)と評価し、電池電圧に大きな変化がなかった場合、耐短絡性が良好(○)と評価した。
【0068】
<ポリオレフィン微多孔膜の製造>
本発明の実施例及び比較例で使用したポリオレフィン微多孔膜(比較参考例1及び2、参考例1〜3)は、以下に記載の方法で製造した。
製膜材料として、超高分子量ポリエチレンであるハイゼックスミリオン240M(三井化学(株)製)と、高密度ポリエチレンであるハイゼックス8000F(三井化学(株)製)とを使用した。
【0069】
(比較参考例1)
[フィラー無添加のポリオレフィン微多孔膜の製造]
ハイゼックスミリオン240Mとハイゼックス8000Fとを質量比20:80の割合で混合し、流動パラフィン(松村石油研究所社製スモイルP−350P、沸点480℃)を添加してヘンシェルミキサーにて予備混合した後、定法に従い、デカリンの混合溶媒中に均一に溶解させた。その後、孔径5μmのフィルターで濾過し、ポリオレフィン溶液を作製した。このポリオレフィン溶液の組成は、ポリオレフィン(ハイゼックスミリオン240M+ハイゼックス8000F):流動パラフィン:デカリン=30:45:25(質量比)とした。
【0070】
上記で得たポリオレフィン溶液を148℃でTダイから押し出し、水浴中で冷却してゲル状テープ(ベーステープ)を作製した。このベーステープを60℃で8分、95℃で15分乾燥した。次いで、縦延伸と横延伸とを順次行う2軸延伸にてベーステープを延伸し、横延伸の後に125℃で熱固定を行って、シートを得た。ここで、縦延伸(MD方向)は、延伸倍率が5倍で延伸温度が90℃であり、横延伸(TD方向)は、延伸倍率が8倍で延伸温度は105℃であり、面延伸倍率を40倍とした。
【0071】
次に、シートを塩化メチレン浴に浸漬し、流動パラフィンとデカリンを抽出除去した。その後、50℃で乾燥し塩化メチレンを除去し、120℃でアニール処理し、ポリオレフィン微多孔膜を得た。以下、このポリオレフィン微多孔膜を比較PO1と略称することがある。
【0072】
比較PO1は、ベーステープの成膜、延伸、後処理の各工程において、操作上の問題なく良好に製造することができた。比較PO1の膜特性を表1に記載する。
光学顕微鏡を用いて比較PO1の表面を観察したところ、ネットワーク構造をなすフィブリル上に補強材はなかった。
【0073】
(比較参考例2)
[無機フィラー添加のポリオレフィン微多孔膜の製造]
ハイゼックスミリオン240Mを12質量部、ハイゼックス8000Fを18質量部、シリカ((株)トクヤマ製DM10C、平均一次粒径15nm)を20質量部、流動パラフィン(スモイルP−350P)を30質量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.3質量部、これらをヘンシェルミキサーにて予備混合した。
【0074】
得られた混合物を二軸同方向スクリュー式押出機のフィード口へ供給した。また、溶融混練し押し出される全混合物(100質量部)中に占める流動パラフィン量比が60質量部となるように、流動パラフィンを二軸押出機シリンダーのサイドフィードに供給した。そして、溶融混練した全混合物をTダイから表面温度25℃に制御された冷却ロール間に押出し、次にテンターへ導き、縦延伸と横延伸とを同時に行う同時2軸延伸にて延伸し、シートを得た。ここで、延伸倍率は、縦方向(MD方向)に7倍で横方向(TD方向)に7倍であり、延伸温度は126℃であった。
【0075】
次に、シートを塩化メチレン槽に浸漬し、流動パラフィンを抽出除去した。その後、塩化メチレンの乾燥除去を行った。更に熱処理を行うため、テンター延伸機に導き、横方向に143℃で1.7倍延伸したのち、148℃で1.5倍(出口倍率)となるように緩和処理を施し、巻取りを行い、ポリオレフィン微多孔膜を得た。以下、このポリオレフィン微多孔膜を比較PO2と略称することがある。
【0076】
比較PO2は、シリカ粒子の凝集に起因すると推定されるピンホールが発生し、安定した製膜が困難であった。比較PO2の膜特性を表1に記載する。
光学顕微鏡を用いて比較PO2の表面を観察したところ、ネットワーク構造をなすフィブリル上に、シリカ及びシリカの凝集物と考えられる粒子状のフィラーが確認された。
【0077】
(参考例1)
[有機フィラー外添のポリオレフィン微多孔膜の製造]
ハイゼックスミリオン240Mを10質量%の濃度でデカリンに添加し、膨潤ゲルを作製し、ホモジナイザーで細分化した。
別途、ハイゼックスミリオン240Mとハイゼックス8000Fと流動パラフィン(スモイルP−350P)とをヘンシェルミキサーにて予備混合した後、デカリンの混合溶媒中に均一に溶解させ、混合溶液を調製した。
上記の混合溶液に、上記の膨潤ゲルを細分化したものを添加し、孔径5μmのフィルターで濾過し、ポリオレフィン溶液を作製した。このとき、ポリオレフィン溶液中の全ハイゼックスミリオン240Mについて、その5質量%が上記の膨潤ゲルに由来するように調製した。また、ポリオレフィン溶液が最終的に、ハイゼックスミリオン240M:ハイゼックス8000F=20:80(質量比)で、ポリオレフィン(ハイゼックスミリオン240M+ハイゼックス8000F):流動パラフィン:デカリン=30:45:25(質量比)となるように調製した。
【0078】
上記で得たポリオレフィン溶液を用いて、比較参考例1と同様にしてベーステープの成膜、延伸、後処理の各工程を実施し、ポリオレフィン微多孔膜を得た。以下、このポリオレフィン微多孔膜をPO1と略称することがある。
PO1は、ベーステープの成膜、延伸、後処理の各工程において、操作上の問題なく良好に製造することができた。PO1の膜特性を表1に記載する。
光学顕微鏡を用いてPO1の表面を観察したところ、ネットワーク構造をなすフィブリル上に、粒子状、繊維状及び放射状のフィラーが確認された。
【0079】
(参考例2)
[有機フィラー外添のポリオレフィン微多孔膜の製造]
参考例1と同様にして、ただし、ポリオレフィン溶液中の全ハイゼックスミリオン240Mについて、その2質量%が膨潤ゲルに由来するように調製して、ポリオレフィン溶液を作製し、ポリオレフィン微多孔膜を得た。以下、このポリオレフィン微多孔膜をPO2と略称することがある。
PO2は、ベーステープの成膜、延伸、後処理の各工程において、操作上の問題なく良好に製造することができた。PO2の膜特性を表1に記載する。
光学顕微鏡を用いてPO2の表面を観察したところ、ネットワーク構造をなすフィブリル上に、粒子状、繊維状及び放射状のフィラーが確認された。
【0080】
(参考例3)
[有機フィラー内添のポリオレフィン微多孔膜の製造]
比較参考例1と同様にして、ただし、原料をヘンシェルミキサーにて予備混合した後、定法に従い、デカリンの混合溶媒中に溶解させるとき、溶解温度を低下させて、部分的にハイゼックスミリオン240Mがゲル状膨潤体として残存するように調製して、ポリオレフィン溶液を作製した。その後は、比較参考例1と同様にして、ポリオレフィン微多孔膜を得た。以下、このポリオレフィン微多孔膜をPO3と略称することがある。
PO3は、ベーステープの成膜、延伸、後処理の各工程において、操作上の問題なく良好に製造することができた。PO3の膜特性を表1に記載する。
光学顕微鏡を用いてPO3の表面を観察したところ、ネットワーク構造をなすフィブリル上に、粒子状、繊維状及び放射状のフィラーが確認された。
【0081】
【表1】

【0082】
<耐熱性樹脂の製造>
(製造例1)
[界面重合法によるポリメタフェニレンイソフタルアミドの重合]
イソフタル酸クロライド160.5gをテトラヒドロフラン1120mlに溶解させて溶液を調製した。別途、メタフェニレンジアミン85.2gをモレキュラーシーブで脱水乾燥させ、テトラヒドロフラン1120mlに溶解させて溶液を調製した。前者の溶液を撹拌しながら、後者の溶液を細流として徐々に加えて、白濁した乳白色の溶液を得た。撹拌を約5分間継続した後、更に撹拌しながら、炭酸ソーダ167.6gと食塩317gを3400mlの水に溶かした水溶液を速やかに加え、5分間撹拌した。反応物は数秒後に粘度が増大し、その後低下し、白色の懸濁液が得られた。これを静置し、分離した透明な水溶液層を取り除き、濾過し、ポリメタフェニレンイソフタルアミド(以下PMIA(1)と称することがある。)を185.3gを得た。
PMIA(1)は、重量平均分子量(ポリスチレン換算)が7.5万であり、分子量100万以上の分子の含有量が20質量%であった。
【0083】
(製造例2)
[溶液法によるポリメタフェニレンイソフタルアミドの重合]
温度計、撹拌装置及び原料投入口を備えた反応容器に、水分率が100ppm以下のN−メチル−2−ピロリドン753gを入れ、N−メチル−2−ピロリドン中にメタフェニレンジアミン85.5gを添加し、0℃に冷却した。冷却したジアミン溶液にイソフタル酸クロライド160.5gを撹拌しながら徐々に添加し反応させた。この反応で溶液の温度は70℃に上昇した。粘度変化が止まった後、水酸化カルシウム粉末を58.4g添加し、さらに40分間撹拌して反応を終了させて重合溶液を取り出し、水中で再沈殿させポリメタフェニレンイソフタルアミド(以下PMIA(2)と称することがある。)を184.0g得た。
PMIA(2)は、重量平均分子量(ポリスチレン換算)が7.4万であり、分子量100万以上の分子の含有量が18質量%であった。
【0084】
<非水電解質電池セパレータの製造>
(実施例1)
−耐熱性多孔質層の塗工用スラリーの作製−
前記製造例1のPMIA(1)と、無機フィラーとして平均粒子径0.8μmの水酸化アルミニウム(昭和電工社製H−43M)とを用意した。両者の混合比(PMIA(1):水酸化アルミニウム)が25:75(質量比)で、PMIA(1)の濃度が5.5質量%となるように、ジメチルアセトアミド(DMAc)とトリプロピレングリコール(TPG)との混合溶媒(DMAc:TPG=50:50[質量比])に混合し、塗工用スラリーを作製した。
【0085】
−耐熱性多孔質層の形成−
20μmのクリアランスで対峙させた一対のマイヤーバー(番手#6)に、上記塗工用スラリーを適量のせ、ポリオレフィン微多孔膜PO1をマイヤーバー間に通して、無回転状態でPO1の両面に塗工用スラリーを塗工した。
これを、40℃の凝固液(水:DMAc:TPG=50:25:25[質量比])に浸漬した。次いで、水洗と乾燥を行い、PO1の両面に耐熱性多孔質層(両面各2μm)を設けた非水電解質電池セパレータを得た。この非水電解質電池セパレータの特性を表2に記載する。
【0086】
(実施例2〜6、比較例1〜4)
実施例1において、ポリオレフィン微多孔膜PO1及びPMIA(1)を表2に記載の組合せに替え、そのほかは同様にして、非水電解質電池セパレータを製造した。非水電解質電池セパレータの特性を表2に記載する。
【0087】
【表2】

【0088】
表2から容易に理解されるように、実施例1〜6は、空孔率、ガーレ値、シャットダウン機能、サイクル特性及び耐短絡性が損なわれることがなかった。
実施例1〜6は、比較例1〜4に比べ、突刺強度、破断強度及び破断伸度が高く、機械的特性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の非水電解質電池セパレータは、リチウム電池用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる補強材を含むポリオレフィン微多孔膜と、
前記ポリオレフィン微多孔膜の片面又は両面に設けられ、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層と、
を備えた非水電解質電池セパレータ。
【請求項2】
前記補強材は、その形状が粒子状、繊維状及び放射状のいずれかである請求項1に記載の非水電解質電池セパレータ。
【請求項3】
前記粒子状の補強材の平均粒子径が0.01mm以上2.0mm以下であり、
前記繊維状の補強材の平均繊維長が0.02mm以上2.0mm以下であり、
前記放射状の補強材の平均最大径が0.02mm以上2.0mm以下である請求項2に記載の非水電解質電池セパレータ。
【請求項4】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置される請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の非水電解質電池セパレータとを備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水電解質二次電池。

【公開番号】特開2012−94450(P2012−94450A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242611(P2010−242611)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】