説明

非水電解質電池用セパレータ及び非水電解質電池

【課題】微細な表面欠陥の発生が抑制された非水電解質電池用セパレータ、並びに、長期使用時のサイクル特性に優れる非水電解質電池を提供する。
【解決手段】ポリオレフィンを含む多孔質基材と、前記多孔質基材の片面又は両面に設けられ耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層とを備え、前記耐熱性多孔質層が設けられた面において、JIS B0601−1982に定める中心線平均粗さ(Ra)、最大高さ(Rmax)及び十点平均粗さ(Rz)が式(1)〜式(3)のすべてを満たす、非水電解質電池用セパレータである。式(1):0.1μm≦Ra≦0.5μm、式(2):0.5μm≦Rmax≦3.0μm、式(3):0.2μm≦Rz≦1.0μm。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池用セパレータ及び非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、携帯電話やノートパソコンといった携帯用電子機器の主電源として広範に普及し、さらに、電気自動車やハイブリッドカーの主電源、夜間電気の蓄電システム等へと適用が広がっている。非水電解質二次電池の普及にともない、安定した電池特性と安全性を確保することが重要な課題となっている。
【0003】
非水電解質二次電池の安全性確保においてセパレータの役割は重要であり、とりわけシャットダウン機能の観点から、現状ではポリオレフィン(特にポリエチレン)を主成分とした多孔膜が用いられている。非水電解質二次電池の技術分野において、シャットダウン機能とは、電池の温度が異常に上昇したときに、ポリオレフィンが溶融して多孔膜の空孔が閉塞し電流を遮断する機能を言い、電池の熱暴走を食い止める働きをする。
【0004】
しかし、シャットダウン機能が作動した後に電池温度がさらに上昇した場合、ポリオレフィンの多孔膜全体が溶融(いわゆるメルトダウン)してしまう。この結果、電池内部で短絡が生じ、これに伴って大量の熱が発生して、電池の発煙・発火・爆発に至るおそれがある。このため、セパレータにはシャットダウン機能に加えて、シャットダウン機能が発現する温度より高い温度でもメルトダウンしないほどの耐熱性が要求される。
【0005】
この要求に対して、従来、ポリオレフィン多孔膜の片面又は両面に、耐熱性高分子を含む多孔質層を被覆する提案がなされている(例えば、特許文献1及び2参照)。これらの提案は、シャットダウン機能と耐熱性を両立させた点で、高温下での電池の安全性確保が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第08/062727号パンフレット
【特許文献2】国際公開第08/156033号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、市場においては、非水電解質二次電池の使用時の安全性、及び長期使用時のサイクル特性に関し、更なる向上が求められている。
【0008】
上記に鑑み、本発明は、微細な表面欠陥の発生が抑制された非水電解質電池用セパレータを提供することを目的とする。
また、本発明は、前記非水電解質電池用セパレータを備えた、長期使用時のサイクル特性に優れる非水電解質電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を達成するための具体的手段は以下のとおりである。
<1> ポリオレフィンを含む多孔質基材と、前記多孔質基材の片面又は両面に設けられ耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層とを備え、前記耐熱性多孔質層が設けられた面において、JIS B0601−1982に定める中心線平均粗さ(Ra)、最大高さ(Rmax)及び十点平均粗さ(Rz)が下記式(1)〜式(3)のすべてを満たす、非水電解質電池用セパレータ。
・式(1) 0.1μm≦Ra≦0.5μm
・式(2) 0.5μm≦Rmax≦3.0μm
・式(3) 0.2μm≦Rz≦1.0μm
<2> 正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置される<1>に記載の非水電解質電池用セパレータとを備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水電解質電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、微細な表面欠陥の発生が抑制された非水電解質電池用セパレータを提供することができる。
また、本発明によれば、前記非水電解質電池用セパレータを備えた、長期使用時のサイクル特性に優れる非水電解質電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
<非水電解質電池用セパレータ>
本発明の非水電解質電池用セパレータは、ポリオレフィンを含む多孔質基材と、前記多孔質基材の片面又は両面に設けられ耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層とを備え、前記耐熱性多孔質層が設けられた面において、JIS B0601−1982に定める中心線平均粗さ(Ra)、最大高さ(Rmax)及び十点平均粗さ(Rz)が下記式(1)〜式(3)のすべてを満たす、非水電解質電池用セパレータである。
・式(1) 0.1μm≦Ra≦0.5μm
・式(2) 0.5μm≦Rmax≦3.0μm
・式(3) 0.2μm≦Rz≦1.0μm
【0013】
本発明の非水電解質電池用セパレータは、ポリオレフィンを含む多孔質基材によりシャットダウン機能が得られ、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層によってポリオレフィンの融点以上の温度においてもセパレータが溶融しない耐熱性が得られる。
そして、本発明の非水電解質電池用セパレータは、前記耐熱性多孔質層が設けられた面において、JIS B0601−1982に定めるRa、Rmax及びRzが、前記式(1)〜式(3)のすべてを満たすことにより、微細な表面欠陥(例えば、ピンホール、割れ、欠け、凹み、しわ、異物による微小突起等)の発生が抑制される。また、電極活物質との適度な密着性が保たれる。さらには、電池製造時に、セパレータによる電極の傷つきも抑制される。
したがって、本発明の非水電解質電池用セパレータを備えた非水電解質電池は、優れた耐熱安定性と耐短絡性を有し、使用時の安全性が高い。また、本発明の非水電解質電池用セパレータを備えた非水電解質電池は、長期にわたり使用する場合に充放電を繰返しても電池容量が著しく低下することがなく、サイクル特性も安定である。
【0014】
本発明の非水電解質電池用セパレータは、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層が設けられた面が、JIS B0601−1982に定める表面粗さ、即ち、中心線平均粗さ(Ra)、最大高さ(Rmax)及び十点平均粗さ(Rz)により特徴付けられる。本発明の非水電解質電池用セパレータが両面に前記耐熱性多孔質層を有する場合は、両面において前記式(1)〜式(3)のすべてを満たす。
【0015】
本発明において前記Raは、0.1μm〜0.5μmである。Raが0.1μm未満であると、平滑性が高すぎるため、電極活物質とのすべりが生じて好ましくない。他方、Raが0.5μm超であると、電極活物質間の間隔に斑が生じ、良好なサイクル特性が得られないおそれがある。
Raは、好ましくは0.1μm〜0.4μmであり、より好ましくは0.1μm〜0.3μmである。
【0016】
本発明において前記Rmaxは、0.5μm〜3.0μmである。Rmaxが0.5μm未満であると、平滑性が高すぎるため、電極活物質とのすべりが生じて好ましくない。他方、Rmaxが3.0μm超であると、微小な欠損やピンホールあるいは微小突起が存在するおそれがあり、電極反応が部分的に不均化するため良好なサイクル特性が得られないおそれがある。
Rmaxは、好ましくは0.5μm〜2.5μmであり、より好ましくは0.5μm〜2μmである。
【0017】
本発明において本前記Rzは、0.2μm〜1.0μmである。Rzが0.2μm未満であると、平滑性が高すぎるため、電極活物質とのすべりが生じて好ましくない。他方、Rzが1.0μm超であると、微小な欠損やピンホールあるいは微小突起が存在するおそれがあり、電極反応が部分的に不均化するため良好なサイクル特性が得られないおそれがある。
Rzは、好ましくは0.2μm〜0.9μmであり、より好ましくは0.2μm〜0.8μmである。
【0018】
本発明において、前記Ra、Rmax及びRzに関し、前記式(1)〜式(3)を示すように制御する方法に特に制限はない。
前記Raを0.5μm以下に制御する方法については、例えば、ポリオレフィン多孔質基材の厚みの均一さを制御すること、重量平均分子量が例えば50万〜300万の範囲のポリオレフィン原料を用いること、延伸倍率と延伸速度の好適な範囲を選択すること、多孔質基材の熱固定の際に不均一に変形しないよう温度やテンションを制御することが挙げられる。また、耐熱性多孔質層をポリマー溶液あるいは更にフィラーを含んだスラリーの塗工とそれに続く脱溶媒で形成する場合は、塗工面の均一化に注意する。具体的には、塗工液の均一性や塗工膜の厚みの平滑性、塗工の圧力、塗工液の温度、及び塗工シェア速度等の変動を小さくすることが挙げられる。
前記Raを0.1μm以上に制御する方法としては、例えば、耐熱性多孔質層に含ませる無機フィラーのサイズを好適な範囲にすることが挙げられる。
前記Rmaxを3.0μm以下、及び前記Rzを1.0μm以下に制御する方法としては、例えば、ピンホールや耐熱性多孔質層の欠損、あるいは未溶融物、未溶解物、凝集、異物による微小突起を少なくすることが挙げられる。具体的には、ポリオレフィン原料の溶融混練を好適な条件で実施することや、耐熱性多孔質層をポリマー溶液あるいは更にフィラーを含んだスラリーの塗工とそれに続く脱溶媒で形成する場合は、未溶解物や凝集物が生成しない混合条件を選択すること、塗工後の塗工膜の欠損を防ぐために好適な塗工条件、脱溶媒条件等を選択することが挙げられる。
前記Rmaxを0.5μm以上、及び前記Rzを0.2μm以上に制御する方法としては、例えば、耐熱性多孔質層に含ませる無機フィラーのサイズを好適な範囲にすることが挙げられる。
【0019】
(ポリオレフィンを含む多孔質基材)
本発明において、ポリオレフィンを含む多孔質基材(以下「ポリオレフィン多孔質基材」、「多孔質基材」及び「基材」とも称する。)は、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった膜を意味する。かかる微多孔膜は、130〜150℃で軟化し、多孔質の空孔ないし空隙が閉塞されシャットダウン機能を発現し、かつ非水電解質電池の電解液に溶解しない微多孔膜であることが好ましい。
【0020】
本発明において、ポリオレフィン多孔質基材の厚みは、5μm〜25μmが好ましく、さらに好ましくは5μm〜20μmである。厚みが5μm以上であると、シャットダウン機能が良好である。他方、厚みが25μm以下であると、耐熱性多孔質層も加えたセパレータの厚みとして適当であり、高電気容量化が達成できる。
ポリオレフィン多孔質基材の空孔率は、透過性、機械強度及びハンドリング性の観点から、30〜80%であることが好ましい。空孔率が30%以上であると、透過性、電解液の保持量が適当である。他方、空孔率が80%以下であると、ポリオレフィン多孔質基材の機械強度の点で好ましく、またシャットダウン機能が良好である。空孔率は、より好ましくは40〜60%である。
【0021】
本発明において、ポリオレフィン多孔質基材は、結晶性を有することが好ましい。ポリオレフィン多孔質基材が結晶性を有すると、耐溶剤性が良好であり、セパレータとしたときに突刺強度等の機械強度に優れ、高温時に適度にポリオレフィンが流動して良好なシャットダウン特性が得られる。
【0022】
[ポリオレフィン]
ポリオレフィン多孔質基材に用いるポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等のモノマーを重合して得られる重合体(ホモ重合体や共重合体、多段重合体等)が挙げられる。
かかるポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(密度0.93g/cm未満)、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン(密度0.93〜0.94g/cm)、高密度ポリエチレン(密度0.94g/cm超)、超高分子量ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、エチレンプロピレンラバー等が挙げられる。
ポリオレフィン樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0023】
ポリオレフィンは、重量平均分子量(Mw)が50万〜300万であることが好ましい。Mwが50万以上であると、多孔質基材の機械的特性が良好であり、機械的特性と空孔率、ガーレ値、膜抵抗との両立ができ、さらに電解質溶剤との親和性がよく弾性率等が低下しにくい。他方、Mwが300万以下であると、多孔質基材の成形性や取扱い性が向上し、工業的に均一な多孔質基材を製造しやすい。かかる観点から、ポリオレフィンのMwは、60万〜250万がより好ましく、70万〜200万が更に好ましい。
【0024】
ポリオレフィンは、分子量(Ms)1万未満の成分の含有量が0超〜4質量%であることが好ましい。Ms1万未満の成分の含有量が4質量%以下であると、多孔質基材と電解質溶剤との親和性が適度で、機械的強度が良好に保たれる。かかる観点から、Ms1万未満の成分の含有量は、0.1〜3質量%であることがより好ましく、0.2〜2質量%であることが更に好ましい。
ポリオレフィンは、分子量(Ms)1×10〜5×10の成分の含有量が0.5〜10質量%であることが好ましい。前記含有量が0.5質量%以上であると、多孔質基材と電解質溶剤との親和性が適度で、機械的強度が良好に保たれる。他方、前記含有量が10質量%以下であると、均一な多孔質基材を製造しやすい。かかる観点から、前記含有量は、0.6〜8質量%であることがより好ましく、0.7〜7質量%であることが更に好ましい。
なお、重量平均分子量(Mw)及び分子量(Ms)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定しポリスチレン換算して表した分子量である。
【0025】
[フィラー]
本発明において、ポリオレフィン多孔質基材は、有機フィラー及び/又は無機フィラーを含有してもよい。無機フィラーとしては、後述する耐熱性樹脂層の項で詳述する無機フィラーを使用することができる。
有機フィラーとしては、主としてポリオレフィン(好ましくはポリスチレン換算の分子量が1000万を超えるポリオレフィン)を含み、ポリオレフィン結晶の融解温度の近傍で溶融あるいは加圧条件下変形するフィラーが好ましい。かかる有機フィラーを含むことで、耐溶剤性の向上、及び機械的特性と空孔率との両立を図ることができ、基材微細孔のメディアン径を高めることができる。かかる観点において、前記有機フィラーは、主として粒子状物、繊維状物及び放射繊維状物の混合物からなり、前記粒子状物の径が0.01mm〜0.5mmであり、前記繊維状物の長さが0.02mm〜0.7mmであり、前記放射繊維状物の径が0.02mm〜0.7mmであることが好ましい。
【0026】
[ポリオレフィンを含む多孔質基材の製造方法]
本発明において、ポリオレフィン多孔質基材の製造方法に特に制限はないが、具体的には下記(1)〜(6)の工程を経て製造することが好ましい。原料に用いるポリオレフィンについては既述のとおりである。
【0027】
(1)ポリオレフィン溶液の調製
ポリオレフィンおよびその他の原料を溶剤に溶解させたポリオレフィン溶液を調製する。この時、混合溶剤を使用しても構わない。溶剤としては、例えばパラフィン、流動パラフィン、パラフィン油、鉱油、ひまし油、テトラリン、エチレングリコール、グリセリン、デカリン、トルエン、キシレン、ジエチルトリアミン、エチルジアミン、ジメチルスルホキシド、ヘキサン等が挙げられる。
【0028】
ポリオレフィン溶液の濃度は1〜35質量%が好ましく、より好ましくは10〜30質量%である。ポリオレフィン溶液の濃度が1質量%以上であると、冷却ゲル化して得られるゲル状成形物が溶媒で高度に膨潤しないように維持できるため変形しにくく、取扱い性が良好である。他方、ポリオレフィン溶液の濃度が35質量%以下であると、押し出しの際の圧力が抑えられるため吐出量を維持することが可能で生産性に優れる。また、押し出し工程での配向が進みにくく、延伸性や均一性を確保するのに有利である。
【0029】
ポリオレフィン溶液が有機フィラーを含有するとき、有機フィラーの形状制御のため、溶液製造終了時点から押し出しまでの間に、機械的せん断力の負荷、例えばいわゆるホモジナイザーあるいは類似機構を有する機械装置によって処理し、更に金属製フィルター、例えば金網製あるいは焼結金属製フィルターによって濾過することが好ましい。フィルターの濾過径は、0.5μm〜20μmが好ましく、より好ましくは0.7μm〜15μmであり、更に好ましくは1μm〜10μmである。以上の操作により、有機フィラーのなかでも、大きなゲル状粒子の細分化、固形状粒子の除去を行うことができる。
さらに目的外の異物が共存するとき、異物除去のための濾過装置を、有機フィラーの形状制御のための装置より上流に設置することが好ましい。異物除去フィルターの形状、様式などは特に制限はなく、従来公知の装置、様式を使用することができる。フィルターの穴径は、濾過性と生産性の観点から1μm〜50μmであることが好ましい。
【0030】
(2)ポリオレフィン溶液の押出
調製したポリオレフィン溶液を一軸押出機若しくは二軸押出機で混練し、融点以上かつ融点+60℃以下の温度でTダイ若しくはIダイで押し出す。この時、好ましくは二軸押出機を用いる。そして、押し出したポリオレフィン溶液を、エアギャップを経てチルロール又は冷却浴に通過させて、ゲル状形成物を形成する。この際、冷却温度、冷却速度、及びゲルシートの厚み方向の温度分布を制御してゲル化することが好ましい。特に、溶媒として揮発性溶媒と不揮発性溶媒を組み合せて用いた場合、結晶パラメータを制御するという観点では、ゲル状形成物の冷却速度は30℃/分以上であることが好ましい。
【0031】
(3)脱溶媒処理
次いで、ゲル状形成物から溶媒を除去する。揮発性溶剤を使用する場合、予熱工程も兼ねて加熱等により蒸発させゲル状形成物から溶媒を除くこともできる。また、不揮発性溶媒の場合は圧力をかけて絞り出すなどして溶媒を除くことができる。なお、溶媒は完全に除く必要はない。
【0032】
(4)ゲル状形成物の延伸
脱溶媒処理に次いで、ゲル状形成物を延伸する。ここで、延伸処理の前あるいは後に弛緩処理を行ってもよい。延伸処理は、ゲル状形成物を加熱し、通常のテンター法、ロール法、圧延法若しくはこれらの方法の組合せによって所定の倍率で2軸延伸する。2軸延伸は、同時又は逐次のどちらであってもよい。また、多段延伸とすることもできる。
延伸温度は、延伸性等の観点から、90℃以上、製造に使用するポリオレフィンの融点未満であることが好ましく、より好ましくは100〜120℃である。加熱温度が融点未満であると、ゲル状形成物が溶解しにくいために延伸を良好に行える。また、加熱温度が90℃以上であると、ゲル状形成物の軟化が十分で延伸において破膜せずに高倍率の延伸が可能である。
【0033】
延伸倍率は、原反の厚さによって異なるが、1軸方向で少なくとも2倍以上、好ましくは4〜20倍で行なうことが好ましい。特に、結晶パラメータを制御する観点から、延伸倍率が機械方向(MD方向)に4〜15倍、機械方向の垂直方向(TD方向)に6〜15倍であることが好ましい。
【0034】
(5)溶剤の抽出・除去
延伸後のゲル状形成物を抽出溶剤に浸漬して、溶媒を抽出する。抽出溶剤としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、デカリン、テトラリン等の炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素、メチレンクロライド等の塩素化炭化水素、三フッ化エタン等のフッ化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類等の易揮発性のものを用いることができる。これらの溶剤はポリオレフィン樹脂の溶解に用いた溶媒に応じて適宜選択し、単独若しくは混合して用いることができる。溶媒の抽出は、ポリオレフィン多孔質基材中の溶媒を1質量%未満にまで除去する。
【0035】
(6)ポリオレフィン多孔質基材のアニール
80℃以上、多孔質基材の融点以下の温度範囲で熱処理を行い、熱寸法安定性及び伸度回復率を向上させる。この時、好ましくは緊張条件下、熱処理を行う。緊張熱処理時、MD方向及びTD方向に1〜2倍の延伸処理を施すことも好ましい。
本発明においては、所定の熱収縮率と伸度回復率を有するという観点から、アニール温度は、好ましくは115℃〜(多孔質基材融点−3)℃であり、より好ましくは120℃〜(多孔質基材融点−5)℃である。
熱処理は、多孔質基材の熱収縮率の低減の観点から、1分以上とすることが好ましく、1分〜1時間とすることができる。多孔質基材の変形を抑制する観点からは、長時間の熱処理が好ましい。多孔質基材の熱収縮をより低減させるために、熱処理時間を1時間から5時間程度まで延長することも可能である。
【0036】
(耐熱性多孔質層)
本発明において、耐熱性多孔質層は、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった層を意味する。
【0037】
本発明において、耐熱性多孔質層はポリオレフィン多孔質基材の少なくとも片面にあればよいが、セパレータのハンドリング性、耐久性及び熱収縮の抑制効果の観点から、ポリオレフィン多孔質基材の両面にある態様が好ましい。
【0038】
本発明において、耐熱性多孔質層がポリオレフィン多孔質基材の両面に形成されている場合は、耐熱性多孔質層の厚みの合計が3μm〜12μmであることが好ましく、耐熱性多孔質層がポリオレフィン多孔質基材の片面にのみ形成されている場合は、耐熱性多孔質層の厚みが3μm〜12μmであることが好ましい。このような厚みの範囲は、ハンドリング性、耐久性、機械的強度、熱収縮の抑制効果、及び液枯れしにくい点で好ましい。
また、耐熱性多孔質層の厚みの合計は、ポリオレフィン多孔質基材の厚みの10〜80%であることが好ましい。耐熱性多孔質層の厚みが上記範囲にあると、耐短絡性とシャットダウン効率が良好である。耐熱性多孔質層の厚みの合計は、ポリオレフィン多孔質基材の厚みの15〜70%であることがより好ましく、20〜60%であることが更に好ましく、25〜50%であることが特に好ましい。
【0039】
本発明において、耐熱性多孔質層の空孔率は、液枯れの防止の観点から、30〜90%が好ましく、より好ましくは40〜70%である。
【0040】
[耐熱性樹脂]
本発明において、耐熱性多孔質層を構成する耐熱性樹脂としては、融点及び/又はガラス転移温度が200℃以上の樹脂、あるいは、融点を有しない場合は分解温度が200℃以上の樹脂が好ましい。融点、ガラス転移温度、あるいは分解温度は、より好ましくは250℃以上であり、更に好ましくは300℃以上である。
なお、耐熱性樹脂に関し、融点及びガラス転移温度は、示差走査熱量計により測定される温度であり、分解温度は、熱天秤測定により測定される温度である。前記記載で「以上」には、示差走査熱量計で融点あるいはガラス転移温度が、熱天秤測定で分解温度が、測定限界の400℃以下で検出されない場合をも含む。
【0041】
耐熱性樹脂としては、具体的には例えば、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、セルロース、及びポリフッ化ビニリデンなど電解質液により膨潤する含フッ素高分子化合物が挙げられる。本発明おいては、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂が好ましい。
かかる耐熱性樹脂は、ホモポリマーであってもよく、さらに溶媒への溶解性向上、柔軟性の発揮など、所望の目的により若干の共重合成分を含有することも可能である。すなわち、例えば全芳香族ポリアミドにおいては、例えば少量の脂肪族成分を共重合することも可能である。
さらにかかる耐熱性樹脂は、電解質溶液に対し不溶性であり、耐久性が高いことにより全芳香族ポリアミドが好適であり、多孔質層を形成しやすく、電極反応において耐酸化還元性に優れるという観点から、メタ型全芳香族ポリアミドであるポリメタフェニレンイソフタルアミド、ポリパラフェニレンテレフタルアミドが更に好適であり、ポリメタフェニレンイソフタルアミドが特に好適である。
【0042】
本発明において、耐熱性多孔質層を構成する耐熱性樹脂の分子量は、溶媒への溶解性向上、柔軟性の発揮、耐久性の高さ、機械的強度などの観点から、特定範囲とすることが好ましい。分子量の範囲は樹脂の種類、とりわけ繰返し単位の分子量に依存して若干異なるが、融液あるいは濃厚溶液において高分子鎖の絡み合いの観測される程度の平均重合度(以下単に重合度と略記することがある。)あるいは、それより若干高い重合度とすることが好ましい。具体的には、数平均分子量(Mn)が0.1万〜10万の比較的低い重合度であることが好ましく、具体的には、全芳香族ポリアミドにおいては0.2万〜8万が好ましく、より好ましくは0.2万〜7万であり、更に好ましくは0.3万〜5万である。
【0043】
[無機フィラー]
本発明において、耐熱性多孔質層には無機フィラーが含まれていることが好ましい。無機フィラーとしては、特に限定はないが、アルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニア等の金属酸化物、炭酸カルシウム等の金属炭酸塩、リン酸カルシウム等の金属リン酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物等が好適に用いられる。このような無機フィラーは、不純物の溶出や耐久性の観点から、結晶性の高いものが好ましい。
【0044】
無機フィラーとしては、200〜400℃において吸熱反応を生じるものが好ましい。非水電解質電池では、正極の分解に伴う発熱が最も危険と考えられており、この分解は300℃近傍で起こる。このため、吸熱反応の発生温度が200〜400℃の範囲であれば、非水電解質電池の発熱を防ぐ上で有効である。
200〜400℃において吸熱反応を生じる無機フィラーとして、金属水酸化物、硼素塩化合物又は粘土鉱物等からなる無機フィラーが挙げられる。具体的には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、アルミン酸カルシウム、ドーソナイト、硼酸亜鉛等が挙げられる。水酸化アルミニウム、ドーソナイト、アルミン酸カルシウムは200〜300℃の範囲において脱水反応が起こり、また、水酸化マグネシウム、硼酸亜鉛は300〜400℃の範囲において脱水反応が起こるため、これらの無機フィラーのうち少なくともいずれか一種を用いることが好ましい。中でも、難燃性の向上効果、ハンドリング性、除電効果、電池の耐久性改善効果の観点から、金属水酸化物が好ましく、特に、水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムが好ましい。
上記無機フィラーは単独若しくは2種以上を組み合せて用いることができる。また、これらの難燃性の無機フィラーには、アルミナ、ジルコニア、シリカ、マグネシア、チタニア等の金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属炭酸塩等の他の無機フィラーを適宜混合して用いることもできる。
【0045】
本発明において、無機フィラーの平均粒子径は、非水電解質電池用セパレータの電機化学的安定性、高温時の耐短絡性や成形性等の観点から、0.1μm〜2μmが好ましい。
本発明において、耐熱性多孔質層における無機フィラーの含有量は、耐熱性向上効果、透過性及びハンドリング性の観点から、耐熱性樹脂と無機フィラーの合計質量の50〜95質量%であることが好ましい。
なお、耐熱性多孔質層中の無機フィラーは、耐熱性多孔質層が微多孔膜状である場合は耐熱性樹脂に捕捉された状態で存在し、耐熱性多孔質層が不織布等の場合は構成繊維中に存在するか、樹脂等のバインダーにより不織布表面等に固定されていればよい。
【0046】
[耐熱性多孔質層の形成方法]
本発明において、耐熱性多孔質層の形成方法に特に制限はないが、下記(1)〜(5)の工程を経て形成することが好ましい。
なお、耐熱性多孔質層を基材上に固定するためには、耐熱性多孔質層を塗工法により基材上に直接形成する手法が好ましいが、これに限らず、別途製造した耐熱性多孔質層のシートを基材上に接着剤等を用いて接着する手法や、熱融着や圧着などの手法も採用することができる。
【0047】
(1)塗工用スラリーの作製
耐熱性樹脂を溶剤に溶かし、塗工用スラリーを作製する。溶剤は耐熱性樹脂を溶解するものであればよく、特に限定はないが、具体的には極性アミド系溶剤又は極性尿素系溶剤が好ましく、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン及びテトラメチル等が挙げられる。また、当該溶剤は、極性溶剤に加えて耐熱性樹脂に対して貧溶剤となる溶剤も加えることができる。このような貧溶剤を適用することでミクロ相分離構造が誘発され、耐熱性多孔質層を形成する上で多孔化が容易となる。貧溶剤としては、アルコール類が好適であり、特にグリコールのような多価アルコールが好適である。
塗工用スラリー中の耐熱性樹脂の濃度は4〜9質量%が好ましい。また必要に応じ、これに有機及び/又は無機フィラーを分散させて塗工用スラリーとする。塗工用スラリー中に前記フィラーを分散させるに当たって、前記フィラーの分散性が好ましくないときは、前記フィラーをシランカップリング剤等で表面処理し、分散性を改善する手法も適用可能である。
【0048】
(2)スラリーの塗工
スラリーをポリオレフィン多孔質基材の少なくとも一方の表面に塗工する。ポリオレフィン多孔質基材の両面に耐熱性多孔質層を形成する場合は、基材の両面に同時に塗工することが、工程の短縮という観点で好ましい。塗工用スラリーを塗工する方法としては、ナイフコーター法、グラビアコーター法、マイヤーバー法、ダイコーター法、リバースロールコーター法、ロールコーター法、スクリーン印刷法、インクジェット法、スプレー法等が挙げられる。この中でも、塗布層を均一に形成するという観点において、リバースロールコーター法が好適である。ポリオレフィン多孔質基材の両面に同時に塗工する場合は、例えば、基材を一対のマイヤーバーの間に通すことで基材の両面に過剰な塗工用スラリーを塗布し、これを一対のリバースロールコーターの間に通して過剰なスラリーを掻き落すことで精密計量するという方法を採用できる。
塗工用スラリーは、微細異物除去のため、塗工に先立ち濾過することが好ましい。濾過装置、フィルターの形状、設置位置は特に制限はなく、従来公知の装置、フィルターを所定の位置に設置して使用することができる。フィルターの穴径は、濾過性と生産性の観点から、1μm〜100μmが好ましい。
【0049】
(3)スラリーの凝固
ポリオレフィン多孔質基材に塗工用スラリーを塗工したものを、耐熱性樹脂を凝固させることが可能な凝固液で処理することにより、耐熱性樹脂を凝固させて、耐熱性多孔質層を形成する。
凝固液で処理する方法としては、塗工用スラリーを塗工した面に凝固液をスプレーで吹き付ける方法や、塗工用スラリーを塗工したポリオレフィン多孔質基材を凝固液の入った浴(凝固浴)中に浸漬する方法等が挙げられる。ここで、凝固浴を設置する場合は、塗工装置の下方に設置することが好ましい。
凝固液としては、耐熱性樹脂を凝固できるものであれば特に限定されないが、水、又は、スラリーに用いた溶剤に水を適当量混合させたものが好ましい。ここで、水の混合量は、凝固効率や多孔化の観点から、凝固液に対して40〜80質量%が好ましい。水の混合量が40質量%以上であると、耐熱性樹脂を凝固するのに要する時間が長くなり過ぎない。また、凝固が不十分な部分が発生することもなく、機械的特性が良好である。他方、水の混合量が80質量%以下であると、凝固液と接触する耐熱性樹脂層の表面の凝固が適度な速度で進行し、表面が十分に多孔化され、結晶化の程度が適度であり、機械的特性が良好である。さらに溶剤回収のコストが低く抑えられる。
【0050】
(4)凝固液の除去
スラリーの凝固に用いた凝固液を、水洗することによって、除去する。
【0051】
(5)乾燥
ポリオレフィン多孔質基材に耐熱性樹脂の塗工層を形成したシートから、水を乾燥により除去する。乾燥方法は特に限定はないが、乾燥温度は50〜80℃が好適であり、熱収縮による寸法変化が起こらないようにするためにロールに接触させる方法、あるいはセパレータの両端をチャック等で把持する方法などを適用することが好ましい。乾燥処理において、MD方向及びTD方向の変形を抑制することにより、耐熱性多孔質層を均一な厚さで均一に結晶化させ、諸物性を好適に実現することができる。
乾燥処理の時間は、セパレータの熱収縮率の観点から、好ましくは2分〜5時間、より好ましくは5分〜3時間が選択される。乾燥の熱処理は、常圧以下の雰囲気で実施することも好ましい。この時、処理時間は1分〜10時間の間で適宜選択することができる。
【0052】
(セパレータの諸特性)
本発明の非水電解質電池用セパレータのシャットダウン温度は、130〜155℃であることが好ましい。シャットダウン温度が130℃以上であると、低温でメルトダウンすることがなく安全性が高い。他方、シャットダウン温度が155℃以下であると、電池の各種素材が高温に曝されることがない。シャットダウン温度は、好ましくは135〜150℃である。
【0053】
本発明の非水電解質電池用セパレータは、電池としたときのエネルギー密度の観点から、全体の膜厚が30μm以下であることが好ましく、シャットダウン特性及びメルトダウン特性の観点から、全体の膜厚が5μm以上であることが好ましい。かかる観点から、5μm〜25μmがより好ましく、更に好ましくは5μm〜20μmである。
本発明の非水電解質電池用セパレータの空孔率は、透過性、機械強度、ハンドリング性などの観点から、40〜90%であることが好ましい。空孔率が40%以上であると、透過性、電解液の保持量が適当である。他方、空孔率が90%以下であると、機械強度の点で好ましい。空孔率は、より好ましくは50〜80%であり、更に好ましくは60〜70%である。
【0054】
本発明の非水電解質電池用セパレータのガーレ値(JIS P8117)は、機械強度と膜抵抗のバランスがよい点で、100〜500sec/100ccであることが好ましい。
本発明の非水電解質電池用セパレータの膜抵抗は、電池の負荷特性の観点から、1.5〜10ohm・cmであることが好ましい。
本発明の非水電解質電池用セパレータの弾性率は、MD方向、TD方向ともに、250MPa〜2000MPaであることが好ましい。弾性率が250MPa以上であると、電池製造工程においてセパレータを捲回する際にセパレータが破損しにくく、有利である。
【0055】
本発明の非水電解質電池用セパレータの突刺強度は、試料の厚みにより変動するが、2N以上であることが好ましい。電池内部においては例えば電極から剥離した異物等、各種異物が発生することがあるが、突刺強度が2N以上であると異物によって破壊されにくく、非水電解質電池の短絡発生を抑制できる。
本発明の非水電解質電池用セパレータの突刺強度の保持率は、75〜100%であることが好ましく、そのばらつきは、0〜10%であることが好ましい。突刺強度の保持率が75%以上であると、異物によって破壊されにくい。突刺強度の保持率のばらつきが10%以内であると、場所による突刺強度の変動が少なく、安定した物性が期待できる。突刺強度の保持率は、100%であることが究極的に好ましい。
【0056】
本発明の非水電解質電池用セパレータの破断強度は、MD方向、TD方向ともに、50Mpa〜300Mpaが好ましく、60Mpa〜200Mpaがより好ましい。破断強度が上記範囲にあると、電池製造工程においてセパレータを捲回する際にセパレータが破損しにくく、また、電池としたときにシャットダウンのサイクル特性が変動しにくく、有利である。また、破断強度の保持率は、80〜100%であることが好ましく、より好ましくは85〜97%であり、更に好ましくは90〜95%である。そのばらつきは、0〜10%が好ましく、より好ましくは0〜8%であり、更に好ましくは2〜7%である。
本発明の非水電解質電池用セパレータの破断伸度は、MD方向、TD方向ともに、30〜500%が好ましく、40〜400%がより好ましく、50〜300%が更に好ましい。破断伸度が30%以上であると、取扱い時、応力が集中しても破断しにくい。他方、破断伸度が500%以下であると、セパレータの結晶構造が十分に形成されており、機械的特性及び耐溶剤性が良好である。
【0057】
本発明の非水電解質電池用セパレータの105℃における熱収縮率は、0.5〜10%であることが好ましい。熱収縮率がこの範囲にあると、セパレータの形状安定性とシャットダウン特性のバランスがよい。より好ましくは0.5〜5%である。
【0058】
<非水電解質電池>
本発明の非水電解質電池は、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水電解質電池であって、正極と、負極と、既述の構成の非水電解質電池用セパレータを備える。非水電解質電池は、負極と正極がセパレータを介して対向している電池要素に電解液が含浸され、これが外装に封入された構造を有する。
かかる構成の非水電解質電池は、シャットダウン機能及び耐熱性を有し、サイクル特性に優れる。
【0059】
負極は、負極活物質、導電助剤及びバインダーからなる負極合剤が、集電体上に成形された構造である。負極活物質としては、リチウムを電気化学的にドープすることが可能な材料が挙げられ、例えば炭素材料、シリコン、アルミニウム、スズ、ウッド合金等が挙げられる。負極活物質は、セパレータが液枯れしにくい点では、リチウムを脱ドープする過程における体積変化率が3%以上のものが好ましい。かかる負極活物質としては、例えばSn、SnSb、AgSn、人造黒鉛、グラファイト、Si、SiO、V等が挙げられる。導電助剤は、アセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えばポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。集電体には銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔等を用いることが可能である。
【0060】
正極は、正極活物質、導電助剤及びバインダーからなる正極合剤が、集電体上に成形された構造である。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物等が挙げられ、具体的にはLiCoO、LiNiO、LiMn0.5Ni0.5、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiMn、LiFePO、LiCo0.5Ni0.5、LiAl0.25Ni0.75等が挙げられる。正極活物質は、セパレータが液枯れしにくい点では、リチウムを脱ドープする過程における体積変化率が1%以上のものが好ましい。かかる正極活物質としては、例えばLiMn、LiCoO、LiNiO、LiCo0.5Ni0.5、LiAl0.25Ni0.75等が挙げられる。導電助剤はアセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えばポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。集電体にはアルミ箔、ステンレス箔、チタン箔等を用いることが可能である。
【0061】
電解液は、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した溶液である。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClO等が挙げられる。非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネート等が挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。
【0062】
外装材は、金属缶又はアルミラミネートパック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型等があるが、本発明の非水電解質電池用セパレータはいずれの形状においても好適に適用することが可能である。
【実施例】
【0063】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0064】
本発明の実施例及び比較例で適用した測定方法は、以下のとおりである。
(1)ポリオレフィンの重量平均分子量
本実施例で使用したポリオレフィンの分子量は、下記のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した。
試料15mgに、GPC測定用移動相20mlを加え、145℃で完全に溶解し、ステンレス製焼結フィルター(孔径1.0μm)で濾過した。濾液400μlを装置に注入して測定に供し、試料の重量平均分子量を求めた。
・装置:ゲル浸透クロマトグラフAlliance GPC2000型(Waters製)
・カラム:東ソー(株)製、TSKgel GMH6−HT×2+TSKgel GMH6−HT×2
・カラム温度:140℃、
・移動相:o−ジクロロベンゼン
・検出器:示差屈折計(RI)
・分子量較正:東ソー(株)製、単分散ポリスチレン
【0065】
(2)Ra、Rmax、Rz
非水電解質電池用セパレータの中心線平均粗さ(Ra)、最大高さ(Rmax)及び十点平均粗さ(Rz)は、セパレータの切断面を1万倍に拡大したSEM写真から断面曲線を得て、JIS B0601−1982に定める測定方法に従って求めた。
(3)膜厚
ポリオレフィン多孔質基材及び非水電解質電池用セパレータの膜厚は、接触式の膜厚計(ミツトヨ社製)にて20点測定し、これを平均することで求めた。ここで、接触端子は底面が直径0.5cmの円柱状のものを用いた。
(4)空孔率
ポリオレフィン多孔質基材、耐熱性多孔質層、及び非水電解質電池用セパレータの空孔率は、下記の算出方法に従って求めた。
着目する層の構成成分がa、b、c、・・・、nであり、構成成分の質量がWa、Wb、Wc、・・・、Wn(g/cm)であり、構成成分の真密度がxa、xb、xc、・・・、xn(g/cm)であり、着目する層の膜厚がt(cm)であるとき、空孔率ε(%)は以下の式より求められる。
ε={1−(Wa/xa+Wb/xb+Wc/xc+・・・+Wn/xn)/t}×100
【0066】
(5)ピンホールの個数
非水電解質電池用セパレータのピンホールの個数は、セパレータ1m(1m×1m)を切り出し、暗室中透過光によって目視観察し計測した。
【0067】
(6)サイクル特性(100サイクル後の放電容量保持率)
−試験用電池の作製−
〜正極の作製〜
コバルト酸リチウム(LiCoO、日本化学工業社製)の粉末と、アセチレンブラックと、濃度6質量%のPVdFのN−メチル−2−ピロリドン溶液とを用意した。質量比(LiCoO:アセチレンブラック:PVdF[乾燥質量])が89.5:4.5:6となるように混合溶液を調製し、これを正極剤ペーストとした。正極剤ペーストを厚さ20μmのアルミ箔上に塗布し、乾燥後プレスして、厚さ97μmの正極を得た。
〜負極の作製〜
負極活物質としてメソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB、大阪瓦斯化学社製)の粉末と、アセチレンブラックと、濃度6質量%のPVdFのN−メチル−2−ピロリドン溶液とを用意した。質量比(MCMB:アセチレンブラック:PVdF[乾燥質量])が87:3:10となるように混合溶液を調製し、これを負極剤ペーストとした。負極剤ペーストを厚さ18μmの銅箔上に塗布し、乾燥後プレスして、厚さ90μmの負極を得た。
〜ボタン電池の作製〜
セパレータと、上記の正極及び負極を用いて、初期容量が4.5mAh程度のボタン電池(CR2032)を作製した。電解液には1MのLiPF/[エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/メチルエチルカーボネート(質量比1/2/1)]溶液を用いた。
−評価方法−
ボタン電池に、充電電圧4.2V、放電電圧2.75Vで充放電を繰返し、100サイクル目の放電容量を初期容量で除して得られた数値を容量保持率とし、サイクル特性を評価した。
【0068】
<耐熱性樹脂の製造>
[界面重合法によるポリメタフェニレンイソフタルアミドの重合]
イソフタル酸クロライド160.5gをテトラヒドロフラン1120mlに溶解させて溶液を調製した。別途、メタフェニレンジアミン85.2gをモレキュラーシーブで脱水乾燥させ、テトラヒドロフラン1120mlに溶解させて溶液を調製した。前者の溶液を撹拌しながら、後者の溶液を細流として徐々に加えて、白濁した乳白色の溶液を得た。撹拌を約5分間継続した後、更に撹拌しながら、炭酸ソーダ167.6gと食塩317gを3400mlの水に溶かした水溶液を速やかに加え、5分間撹拌した。反応物は数秒後に粘度が増大し、その後低下し、白色の懸濁液が得られた。これを静置し、分離した透明な水溶液層を取り除き、濾過および乾燥し、ポリメタフェニレンイソフタルアミド(以下PMIA(1)と称する。)(数平均分子量2.0万)を183.1g得た。
【0069】
<ポリオレフィン多孔質基材の製造>
三井化学(株)製ハイゼックスミリオン240Sと三井化学(株)製ハイゼックス7000FPとを3/7(質量比)で混合した。このポリエチレン混合物の重量平均分子量は110万であった。
【0070】
上記のポリエチレン混合物30質量部と流動パラフィン(松村石油研究所社製スモイルP−350P、沸点480℃)45質量部とを、ヘンシェルミキサーにて予備混合した後、定法に従い、デカリンの混合溶媒中に均一に溶解させ、ポリオレフィン溶液を作製した。このポリエチレン溶液の組成は、ポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=30:45:25(質量比)であった。
【0071】
上記のポリエチレン溶液を150℃でTダイから押し出し、水浴中で冷却してゲル状テープ(ベーステープ)を作製した。このベーステープを60℃で8分、95℃で15分乾燥した。次いで、縦延伸と横延伸とを逐次行う2軸延伸にてベーステープを延伸し、横延伸の後に130℃で熱固定を行って、シートを得た。ここで、縦延伸(MD方向)は、延伸倍率5.5倍、延伸温度90℃とし、横延伸(TD方向)は、延伸倍率11倍、延伸温度105℃とした。
次に、上記で得たシートを塩化メチレン浴に浸漬し、流動パラフィンとデカリンを抽出除去した。その後、50℃で乾燥し、120℃でアニール処理し、ポリエチレン多孔質基材を得た。以下、このポリエチレン多孔質基材をPO1と略称する。
【0072】
<非水電解質電池用セパレータの製造>
(実施例1)
−耐熱性多孔質層の塗工用スラリーの作製−
前記PMIA(1)と、無機フィラーとして平均粒子径1μmの水酸化マグネシウム(協和化学製キスマ5P)とを用意した。両者の混合比(PMIA(1):水酸化マグネシウム)が50:50(質量比)で、PMIA(1)の濃度が5.5質量%となるように、ジメチルアセトアミド(DMAc)とトリプロピレングリコール(TPG)との混合溶媒(DMAc:TPG=50:50[質量比])に混合し、塗工用スラリーを作製した。
【0073】
−耐熱性多孔質層の形成−
約20μmのクリアランスで対峙させた一対のマイヤーバー(番手#6)に、上記塗工用スラリーを適量のせた。ポリエチレン多孔質基材PO1をマイヤーバー間に通して、マイヤーバーを回転させない(無回転法)で、PO1の両面に塗工用スラリーを塗工した。そして、40℃の凝固液(水:DMAc:TPG=50:25:25[質量比])に浸漬した。次いで、水洗と乾燥を行い、PO1の両面に耐熱性多孔質層(両面各3μm)を設けた非水電解質電池用セパレータを得た。このセパレータの特性を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1に示すように、Raが0.1μm〜0.5μmの範囲にあり、Rmaxが0.5μm〜3.0μmの範囲にあり、且つRzが0.2μm〜1.0μmの範囲にある非水電解質電池用セパレータは、微細な表面欠陥の発生が抑制される。また、このセパレータを備えた非水電解質電池は、長期使用時のサイクル特性に優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンを含む多孔質基材と、前記多孔質基材の片面又は両面に設けられ耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層とを備え、
前記耐熱性多孔質層が設けられた面において、JIS B0601−1982に定める中心線平均粗さ(Ra)、最大高さ(Rmax)及び十点平均粗さ(Rz)が下記式(1)〜式(3)のすべてを満たす、非水電解質電池用セパレータ。
・式(1) 0.1μm≦Ra≦0.5μm
・式(2) 0.5μm≦Rmax≦3.0μm
・式(3) 0.2μm≦Rz≦1.0μm
【請求項2】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置される請求項1に記載の非水電解質電池用セパレータとを備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水電解質電池。

【公開番号】特開2012−119224(P2012−119224A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269411(P2010−269411)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】