説明

非水電解質電池用セパレータ及び非水電解質電池

【課題】優れた機械強度とシャットダウン特性を有すると共に、高温下での耐短絡性に優れた非水電解質電池用セパレータを提供する。
【解決手段】特性粘度が5×10Pa・s以上5×10Pa・s以下であって、非ニュートン流動性が0.15以上0.4以下であるポリオレフィンを含み、結晶化度が65%以上85%以下である多孔質基材と、前記多孔質基材の少なくとも片面に設けられ、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池用セパレータ及び非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質電池、特に、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質電池は、高エネルギー密度であるため、携帯電話・ノートパソコンといった携帯用電子機器の主電源として広範に普及している。このリチウムイオン二次電池は、更なる高エネルギー密度化が求められているが、安全性の確保が技術的な課題となっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の安全性を確保するうえでセパレータの役割は重要であり、とりわけセパレータにシャットダウン機能を付与する観点から、従来からポリオレフィン、特にポリエチレンの多孔膜が用いられている。ここで、シャットダウン機能とは、電池の温度が上昇したときに、多孔膜の微細孔が閉塞して電流の流れを遮断する機能のことをいい、電池の熱暴走を回避する機構として有効とされている。
【0004】
ところが、シャットダウン機能は、ポリエチレン等の多孔膜の溶融による細孔の閉塞をその作動原理としているため、耐熱性等とは必ずしも並立するものではない。すなわち、シャットダウン機能が作動した後においても、さらに電池温度が上昇することがあるが、このような場合、セパレータの溶融(いわゆるメルトダウン)が進行して電池内部で短絡が生じ、これに伴なって大量の熱を発して発煙・発火・爆発といった危険が生じることがある。このため、セパレータには、シャットダウン機能に加えて、シャットダウン機能が発現する温度より高い温度に達した場合にも短絡が生じるおそれがなく、シャットダウン温度より高い温度にある程度の時間保持されても短絡の危険性が抑えられた耐熱性を有していることが求められる。
【0005】
このような状況下において、従来、ポリオレフィン微多孔膜の表面に芳香族ポリアミド等の耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層を形成した技術が知られており(特許文献1〜2参照)、このような構成であればシャットダウン機能と耐熱性とを両立できる点で優れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2008/62727号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2008/156033号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の構成であっても、シャットダウン温度よりも高い温度に長時間保持された場合や外力が加わったような場合には、電池内部でセパレータが変形し、電池の短絡を防ぐことができない場合がある。そのため、高温環境下や外力が与えられる場面で使用される場合にそなえて、より優れた機械物性を有し、耐短絡性に優れたセパレータが望まれている。
【0008】
一方で、高温下における機械物性を向上させるためには、ポリオレフィンを用いて形成される多孔性の基材の、高温下における機械物性を向上させることが直接的に影響するが、強度を向上させようとするとシャットダウン特性が損なわれてしまい、逆に必要なタイミングでシャットダウン機能が発現されないおそれがある。
【0009】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、優れた機械強度とシャットダウン特性を有すると共に、高温下での耐短絡性に優れた非水電解質電池用セパレータ、及び熱暴走や発火などが抑制された安全性の高い非水電解質電池を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 特性粘度が5×10Pa・s以上5×10Pa・s以下であって、非ニュートン流動性が0.15以上0.4以下であるポリオレフィンを含み、結晶化度が65%以上85%以下である多孔質基材と、前記多孔質基材の少なくとも片面に設けられ、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層と、を備えた非水電解質電池用セパレータである。
【0011】
<2> 前記ポリオレフィンは、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレン5〜90質量%と、密度が0.942g/cm(JIS K 6748−1981)以上の高密度ポリエチレンとを含むポリエチレン組成物である前記<1>に記載の非水電解質電池用セパレータである。
【0012】
<3> 正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された前記<1>又は前記<2>に記載の非水電解質電池用セパレータとを備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水電解質電池である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた機械強度とシャットダウン特性を有すると共に、高温下での耐短絡性に優れた非水電解質電池用セパレータを提供することができる。また、
本発明によれば、熱暴走や発火などが抑制された安全性の高い非水電解質電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明は当該形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
[非水電解質電池用セパレータ]
本発明の非水電解質電池用セパレータは、特性粘度が5×10Pa・s以上5×10Pa・s以下であって、非ニュートン流動性が0.15以上0.4以下であるポリオレフィンを含み、結晶化度が65%以上85%以下である多孔質基材と、多孔質基材の少なくとも片面に設けられ、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層と、を設けて構成したものである。
【0016】
本発明においては、多孔質基材を構成するポリオレフィンが、所定の範囲を満たす特性粘度及び非ニュートン流動性を有すると共に、多孔質基材自体の結晶化度が所定範囲にあることで、電池温度が上昇したときに多孔質基材の細孔が閉塞して電流を遮断するシャットダウン機能を維持するための流動性を確保しながら、外部から種々の応力を受けたときに粘度変化として現れる挙動が小さく抑えられ、外部応力に起因する物性の不安定が抑制される。これにより、外部応力を受けたときに破れたりピンホール等が発生する等の膜劣化が防止され、機械強度を保持し、耐短絡性が向上する。
【0017】
本発明の非水電解質電池用セパレータは、前記多孔質基材と、耐熱性樹脂を含んで形成され、多孔質基材の少なくとも片面に積層(好ましくは塗布形成)された耐熱性多孔質層とを有している。このような非水電解質電池用セパレータ(以下、単に「セパレータ」又は「本発明のセパレータ」ともいう。)の全体の膜厚は、30μm以下が好ましい。
【0018】
また、本発明のセパレータの各物性は、下記の範囲が好ましい。
本発明の非水電解質電池用セパレータの空孔率は、透過性、機械強度及びハンドリング性の観点から、30〜60%であることが好ましい。更に好ましくは、空孔率は40%〜55%である。
本発明の非水電解質電池用セパレータのガーレ値(JIS P8117)は、機械強度と膜抵抗のバランスがよくなるという観点から、100〜500sec/100ccであることが好ましい。
本発明の非水電解質電池用セパレータの膜抵抗は、非水電解質電池の負荷特性の観点から、1.5〜10ohm・cmであることが好ましい。
【0019】
本発明の非水電解質電池用セパレータの突刺強度は、250〜1000gであることが好ましく、250〜500gの範囲がより好ましい。突刺強度が250g以上であると、非水電解質電池を作製した場合に、電極の凹凸や衝撃等に対する耐性に優れ、セパレータへのピンホール等の発生を防ぎ、非水電解質電池の短絡をより効果的に回避することができる。突刺強度は、KES−G5ハンディー圧縮試験器(カトーテック社製)を用い、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secの条件で突刺試験をして最大突刺荷重として測定される値である。
本発明の非水電解質電池用セパレータの引張強度は、10N以上であることが好ましい。10N以上であると、長尺状にして非水電解質電池を作製するにあたり、セパレータに損傷を与えないようにセパレータを良好に捲回することができる点で好ましい。
本発明の非水電解質電池用セパレータの105℃における熱収縮率は、0.5〜10%であることが好ましい。
【0020】
(多孔質基材)
本発明の非水電解質電池用セパレータは、ポリオレフィンを含む多孔質基材を設けて構成されている。多孔質基材としては、微多孔膜状、不織布状、紙状、その他三次元ネットーワーク状の多孔質構造を有する層を挙げることができるが、より優れた融着が実現できる点で、微多孔膜状の層であることが好ましい。ここで、微多孔膜状の層(以下、単に「微多孔膜」ともいう。)とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となっている層をいう。
この微多孔膜は、120〜150℃で軟化し、多孔質の空隙が閉塞されてシャットダウン機能を発現し、かつ非水電解質電池の電解液に溶解しないポリオレフィンが好ましい。
【0021】
多孔質基材は、主としてポリオレフィンで形成されている。ここで、「主として」とは、ポリオレフィンの多孔質基材中における割合が50質量%以上であることをいい、好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよいことを意味する。
【0022】
多孔質基材を形成する原料としては、ポリオレフィン、すなわち例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン及びその共重合体等が挙げられる。中でも、ポリエチレンが好ましく、強度、耐熱性等の観点から、より好ましくは高密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンと超高分子量ポリエチレンとの混合物が好ましい。超高分子量ポリエチレンとしては、重量平均分子量が100万以上のポリエチレンが好ましい。
【0023】
ポリエチレンの分子量は、重量平均分子量で50万〜500万のものが好適であり、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンを5質量%以上含むポリエチレンの組成物が特に好ましい。さらに、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンを10〜90質量%含むポリエチレン組成物が好適である。
なお、ポリオレフィンの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCともいう。)により測定し、ポリスチレン換算して表した分子量である。
【0024】
また、高密度ポリエチレンの密度としては、0.942g/cm(JIS K 6748−1981)以上であることが好ましい。
【0025】
なお、本発明における多孔質基材は、90質量%以上がポリオレフィンを用いて構成された態様が好ましく、10質量%以下の電池特性に影響を与えない他の成分を含んでいても構わない。
【0026】
本発明において、ポリオレフィンの特性粘度は、5×10Pa・s以上5×10Pa・s以下の範囲とする。特性粘度とは、回転型動的粘弾性測定装置(レオメトリックSPE(株)製、ARES)を用いて200℃で測定した複素粘度より得られ、振動数ω(rad/s)が0.1であるときの複素粘度であり、低せん断における流動性を示す。
特性粘度が5×10を超えると、微細な孔を塞ぐ(すなわちシャットダウン機能が発現する)ために充分な流動性が得られなくなり、シャットダウン特性が損なわれる。逆に特性粘度が5×10未満であると、シャットダウン温度よりも高い温度領域ではセパレータの形態を保持することができず、耐短絡性が低下する。
【0027】
中でも、特性粘度は、上記同様の理由から、5×10Pa・s以上20×10Pa・s以下であることが好ましい。
【0028】
また、本発明において、ポリオレフィンの非ニュートン流動性は、0.15以上0.4以下の範囲とする。非ニュートン流動性とは、回転型動的粘弾性測定装置(レオメトリックSPE(株)製、ARES)を用いて200℃で測定した複素粘度より得られ、振動数1.0と振動数0.1における複素粘度の比、すなわち振動数ω=0.1で振動を与えたときの粘度η(ω=0.1)に対する振動数ω=1.0で振動を与えたときの粘度η(ω=1.0)の比〔η(ω=1.0)/η(ω=0.1)〕で表される。この値が高いほど、非ニュートン流動性が高い、すなわちずり応力に対する粘度の低下幅が大きいことを示す。
非ニュートン流動性が0.4を超えると、流動性が発現する温度領域において、ずり応力がかかった場合にピンホールや破断が生じやすく、高温下での機械的物性が低下して耐短絡性に劣る。また、非ニュートン流動性が0.15未満であると、成形性が悪化する。
なお、一般的にポリエチレンは0.15を下回ると成形性が著しく低下するため、非ニュートン流動性を0.15以上にすることで、より良好に多孔質基材を形成できる。中でも、非ニュートン流動性は、0.20以上0.38以下の範囲が好ましい。
【0029】
このように特性粘度及び非ニュートン流動性を制御する手法としては、特に限定されるものではないが、例えば、使用するポリオレフィンの分子量や分子中の分岐数を調整すること等が挙げられる。具体的には、分子量や密度の異なる2種又は3種以上のポリエチレンの混合、例えば高分子量ポリエチレンと高密度ポリエチレンとを含む2種以上を混合する方法などが挙げられる。
【0030】
上記のうち、特性粘度及び非ニュートン流動性が上記範囲を満たし、シャットダウン機能を発現するための流動性を保持しながら、高温下で形状を保ち、機械的強度及び耐短絡性に優れる点から、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンを5〜90質量%と残部に密度0.942g/cm(JIS K 6748−1981)以上の高密度ポリエチレンを含むポリエチレン組成物を用いることが好適である。
【0031】
本発明においては、セパレータを構成する多孔質基材の結晶化度を65%〜85%の範囲とする。結晶化度がこの範囲にあると、多孔質基材を耐熱性多孔質層と複合化した場合にも、優れた機械強度及びシャットダウン特性が得られる。換言すれば、結晶化度が65%未満であると、機械強度の低下により耐疲労性が低下し電池内でピンホールが生じ易く好ましくない。結晶化度が85%を超えると、硬く脆くなって伸度が低下するため、電池内の充放電による活物質の寸法変化によって皺や折れが生じ易く好ましくない。
【0032】
多孔質基材の結晶性は、例えばX線回折により容易に求めることが可能であり、多孔質基材の結晶化度は、広角X線測定において、2θ=21.3、23.7、29.8付近のピークに関し、積分強度の和の全積分強度に対する比率より求めることができる。
【0033】
ここで、ポリオレフィンを結晶の観点から分類すると、伸びた高分子鎖が配向することによって形成され、引張強度に影響する延び切り鎖結晶と、高分子鎖が折り畳まれて分子内もしくは分子間で配向することによって形成されるラメラ晶と、自由に動く非晶部とに大きく分けられる。非晶部の中には、ラメラ晶間を架橋し、突刺強度に影響するタイ分子部分と、結晶部と非晶部の間で平衡状態をとって自由に動くことのできる部分がある。
本発明において、ポリオレフィンの結晶化度は、下式(1)に示すように、DSCにより測定された融解エネルギーと、結晶の理論融解エネルギーとの比から求められる。なお、下記式において、理論融解エネルギーとして289J/g・Kを用いる。
結晶化度=測定された融解エネルギー/理論融解エネルギー ・・・(1)
【0034】
前記式(1)において、DSCにより測定される融解エネルギーは、延び切り鎖結晶とラメラ晶の融解エネルギーの和である。結晶化度が高くなると、多孔質基材の融点、引張強度、突刺強度が向上する。結晶化度が高くなるということは、すなわち非晶部が減少することを意味する。高分子は非晶部にあるタイ分子により、絡み合う部分がある。結晶化度が高くなることで、非晶部が減少し、結果として非晶部でのタイ分子密度が高くなる。この非晶部は、結晶部の末端や側鎖に形成されることが多いが、非晶部での絡み合いは、結晶同士を拘束することになる。そのため、機械強度の面では突刺強度の向上に繋がる。しかし、結晶同士の拘束は、融点の向上も同時に引き起こし、シャットダウン特性の低下を引き起こす。したがって、結晶化度の範囲としては、65%〜85%が好ましい。
【0035】
なお、結晶化度を制御する方法には、特に制限はないが、例えば、多孔質基材を作製する際の延伸条件や熱固定条件、原料に用いるポリオレフィンの分子量分布や分岐構造の制御、原料の混練温度の制御などが挙げられる。基本的には、分子量が上がるほど、分岐構造が減るほど、延伸条件を強くするほど、熱固定温度を下げるほど、結晶化度は向上する傾向にある。
【0036】
本発明において、多孔質基材の膜厚は、非水電解質電池のエネルギー密度、負荷特性、機械強度、及びハンドリング性の観点から、5〜25μmであることが好ましい。特に、多孔質基材の厚みが5μm以上であると、シャットダウン機能が良好であり、25μm以下であると、高電気容量化が実現できる範囲を保てる。多孔質基材の厚みは、好ましくは5〜20μmである。
【0037】
多孔質基材の空孔率は、透過性、機械強度及びハンドリング性の観点から、30〜60%であることが好ましい。
多孔質基材のガーレ値(JIS P8117)は、機械強度と膜抵抗をバランスよく得る観点から、50〜500sec/100ccであることが好ましい。
多孔質基材の膜抵抗は、非水電解質電池の負荷特性の観点から、0.5〜5ohm・cmであることが好ましい。
多孔質基材の突刺強度は、250g以上であることが好ましい。
多孔質基材の引張強度は、10N以上であることが好ましい。
多孔質基材のシャットダウン温度は、130〜150℃であることが好ましい。シャットダウン温度は、抵抗値が10ohm・cmとなったときの温度をさす。シャットダウン温度が130℃以上であることで、シャットダウン機能を保持できると共に、多孔質基材が完全溶融し、短絡現象が発生するメルトダウンと呼ばれる現象が生じにくく、安全性の点で好ましい。また、シャットダウン温度が150℃以下であることで、高温時の安全機能が期待できる。シャットダウン温度は、好ましくは135〜145℃である。
多孔質基材の105℃における熱収縮率は、5%〜40%の範囲が好ましい。熱収縮率が前記範囲にあると、多孔質基材を加工して得た非水電解質電池用セパレータの形状安定性とシャットダウン特性のバランスがとれたものとなる。
【0038】
〜多孔質基材の製造法〜
上述した多孔質基材の製造法には、特に制限は無いが、具体的には例えば以下の(1)〜(6)の工程を含む方法で製造できる。なお、原料に用いるポリオレフィンについては上述のとおりである。
【0039】
(1)ポリオレフィン溶液の調整
所定の量比のポリオレフィンを溶剤に溶解させた溶液を調整する。このとき、溶剤を混合して溶液を調製しても構わない。溶剤としては、例えば、パラフィン、流動パラフィン、パラフィン油、鉱油、ひまし油、テトラリン、エチレングリコール、グリセリン、デカリン、トルエン、キシレン、ジエチルトリアミン、エチルジアミン、ジメチルスルホキシド、ヘキサン等が挙げられる。ポリオレフィン溶液中のポリオレフィンの濃度は、1〜35質量%が好ましく、より好ましくは10〜30質量%である。ポリオレフィン溶液の濃度が1質量%以上であると、冷却ゲル化して得られるゲル状成形物が溶媒で高度に膨潤しないように維持できるため変形しにくく、取扱い性が良好である。一方、35質量%以下であると、押し出しの際の圧力が抑えられるため、吐出量を維持することが可能で生産性に優れる。また、押し出し工程での配向が進みにくく、延伸性や均一性が確保するのに有利である。なお、原料であるポリオレフィン溶液の混練温度は、本発明のような結晶物性を得る上では、190〜220℃であることが好ましい。
【0040】
また、ポリオレフィン溶液は、異物除去のため、濾過使用することが好ましい。濾過装置、フィルターの形状、様式などに特に制限はなく、従来公知の装置、様式を使用することができる。この場合のフィルターの穴径(濾過径)としては、濾過性の観点より1μm以上50μm以下が好ましい。穴径が50μm以下であると、濾過性に優れ、異物の除去効率が良好である。また、穴径が1μm以上であると、良好な濾過性が得られ、生産性を高く維持することができる。
【0041】
(2)ポリオレフィン溶液の押出
調製した溶液を一軸押出機、もしくは二軸押出機で混練し、融点以上かつ融点+60℃以下の温度でTダイもしくはIダイで押し出す。好ましくは二軸押出機を用いる。そして、押し出した溶液をチルロール又は冷却浴に通過させて、ゲル状組成物を形成する。この際、ゲル化温度以下に急冷しゲル化することが好ましい。
【0042】
(3)脱溶媒処理
次いで、ゲル状組成物から溶媒を除去する。揮発性溶剤を使用する場合、予熱工程も兼ねて加熱等により蒸発させゲル状組成物から溶媒を除くこともできる。また、不揮発性溶媒の場合は、圧力をかけて絞り出すなどして溶媒を除くことができる。なお、溶媒は完全に除く必要はない。
【0043】
(4)ゲル状組成物の延伸
前記脱溶媒処理に引き続いて、ゲル状組成物を延伸する。ここで、延伸処理の前に弛緩処理を行なってもよい。延伸処理は、ゲル状成形物を加熱し、通常のテンター法、ロール法、圧延法もしくはこれらの方法の組み合わせによって所定の倍率で2軸延伸する。2軸延伸は、同時又は逐次のいずれであってもよい。また、縦多段延伸や3段延伸、4段延伸とすることもできる。
延伸温度は、90℃以上、ポリオレフィンの融点未満の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは100〜120℃である。加熱温度が融点未満である場合は、ゲル状成形物が溶解し難いために延伸を良好に行なえる。また、加熱温度が90℃以上である場合、ゲル状成形物の軟化が充分に行なわれるため、延伸時に破膜しにくく、高倍率の延伸が行なえる。
また、延伸倍率は、原反の厚さによって異なるが、1軸方向で少なくとも2倍以上、好ましくは4〜20倍で行なうことが好ましい。特に、結晶パラメータを制御する観点からは、延伸倍率が機械方向(MD方向)に4〜10倍、また機械方向に垂直方向(TD方向)に6〜15倍であることが好ましい。
延伸後、必要に応じて熱固定を行い、熱寸法安定性を持たせる。
【0044】
(5)溶剤の抽出・除去
延伸後のゲル状組成物を抽出溶剤に浸漬して、溶媒を抽出する。抽出溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、デカリン、テトラリンなどの炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素、メチレンクロライドなどの塩素化炭化水素、三フッ化エタンなどのフッ化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類など易揮発性のものを用いることができる。これらの溶剤は、ポリオレフィン組成物の溶解に用いた溶媒に応じて適宜選択し、単独でもしくは二種以上を混合して用いることができる。溶媒の抽出は、多孔質基材中の溶媒を1質量%未満にまで除去する。
【0045】
(6)微多孔膜のアニール
微多孔膜をアニールにより熱セットする。アニールは、熱収縮率の観点より、80〜150℃の温度領域で実施することが好ましい。さらに、所定の熱収縮率を有する観点から、アニール温度が115〜135℃であることが好ましい。
【0046】
(耐熱性多孔質層)
本発明の非水電解質電池用セパレータは、前記多孔質基材の少なくとも一方の側に設けられ、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層を設けて構成されている。この耐熱性多孔質層は、微多孔膜状、不織布状、紙状、その他三次元ネットーワーク状の多孔質構造を有した層を挙げることができるが、より優れた耐熱性が得られる点で、微多孔膜状の層であることが好ましい。「微多孔膜状の層」とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった層をいう。
ここでの「耐熱性」とは、200℃未満の温度領域で溶融ないし分解等を起こさない性状をいう。
【0047】
−耐熱性樹脂−
耐熱性多孔質層を構成する耐熱性樹脂としては、ポリオレフィンの融点よりも高い融点あるいは熱分解温度を有する高分子であればいずれでもよく、例えば、全芳香族ポリアミド、フッ素系樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、及びセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂が挙げられる。
【0048】
耐熱性樹脂は、電解質溶液に対し不溶性であり、耐久性が高いことより、全芳香族ポリアミドが好適である。全芳香族ポリアミドにおいては、例えば、少量の脂肪族成分を共重合することも可能である。多孔質層を形成しやすく耐酸化還元性に優れるという観点から、メタ型全芳香族ポリアミドであるポリメタフェニレンイソフタルアミドがさらに好適である。フッ素系樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン単独重合体、および/または、フッ化ビニリデンを主たる繰返し単位とし、フッ化ビニル、三フッ化エチレン、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレンおよび三フッ化塩化エチレンからなる群のうち少なくとも一種のモノマーを含有する共重合体などが挙げられる。
【0049】
耐熱性多孔質層は、前記多孔質基材の両面又は片面に形成することができるが、ハンドリング性、耐久性、及び熱収縮の抑制効果の観点から、多孔質基材の表裏両面に形成された形態が好ましい。
【0050】
なお、耐熱性多孔質層を基材上に固定するためには、耐熱性多孔質層を塗工法により基材上に直接形成する手法が好ましいが、これに限らず、別途製造した耐熱性多孔質層のシートを基材上に接着剤等を用いて接着する手法や、熱融着や圧着などの手法も採用することができる。
【0051】
耐熱性多孔質層の厚みは、耐熱性多孔質層が多孔質基材の両面に形成される場合は、耐熱性多孔質層の厚みの合計が3μm以上12μm以下であることが好ましく、また耐熱性多孔質層が多孔質基材の片面にのみ形成される場合は、耐熱性多孔質層の厚みが3μm以上12μm以下であることが好ましい。このような厚みの範囲は、液枯れの防止効果の観点からも好ましい。
【0052】
本発明における耐熱性多孔質層の空孔率は、本発明の効果を高める観点から、30〜70%が好ましい。耐熱性多孔質層の空孔率が30%以上であると、セパレータ全体の抵抗が良好であり、優れた電池特性が得られる。また、耐熱性多孔質層の空孔率が70%以下であると、多孔質基材の破膜抑制効果に優れる。前記空孔率は、40〜60%の範囲がより好ましい。
【0053】
−無機フィラー−
本発明における耐熱性多孔質層は、無機フィラーの少なくとも一種が含まれていることが好ましい。無機フィラーとしては、特に限定はないが、具体的にはアルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニアなどの金属酸化物、炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩、リン酸カルシウムなどの金属リン酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物などが好適に用いられる。このような無機フィラーは、不純物の溶出や耐久性の観点から結晶性の高いものが好ましい。
【0054】
中でも、無機フィラーとしては、200〜400℃において吸熱反応を生じるものが好ましい。このような特性を有する無機フィラーとしては、特に限定されないが、金属水酸化物、硼素塩化合物、又は粘土鉱物等からなる無機フィラーであって、200〜400℃において吸熱反応を生じるものが挙げられる。具体的には、例えば、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム、アルミン酸カルシウム、ドーソナイト、硼酸亜鉛等が挙げられ、これらは一種単独で又は2種以上を組みあわせて用いることができる。また、これらの難燃性の無機フィラーには、アルミナやジルコニア、シリカ、マグネシア、チタニア等の金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属炭酸塩などの他の無機フィラーを適宜混合して用いることもできる。
【0055】
無機フィラーの平均粒子径は、高温時の耐短絡性や成形性等の観点から、0.1〜2μmの範囲が好ましい。
【0056】
耐熱性多孔質層中における無機フィラーの含有量としては、耐熱性向上効果、透過性及びハンドリング性の観点から、50〜95質量%であることが好ましい。
【0057】
なお、耐熱性多孔質層中の無機フィラーは、耐熱性多孔質層が微多孔膜状である場合は耐熱性樹脂に捕捉された状態で存在しており、耐熱性多孔質層が不織布等の場合は構成繊維中に存在するか、樹脂などのバインダーにより不織布表面等に固定されていればよい。
【0058】
〜耐熱性多孔質層の製造法〜
本発明の非水電解質電池用セパレータの製造法は、上述した構成の本発明のセパレータが製造できれば特に限定されるものではなく、耐熱性多孔質層については例えば下記(1)〜(5)の工程を経て製造することが可能である。
【0059】
(1)塗工用スラリーの作製
耐熱性樹脂を溶剤に溶かし、塗工用スラリーを作製する。溶剤は、耐熱性樹脂を溶解するものであればよく、特に限定はないが、具体的には極性溶剤が好ましく、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。また、当該溶剤はこれらの極性溶剤に加えて耐熱性樹脂に対して貧溶剤となる溶剤も加えることができる。このような貧溶剤を適用することでミクロ相分離構造が誘発され、耐熱性多孔質層を形成する上で多孔化が容易となる。貧溶剤としては、アルコールの類が好適であり、特にグリコールのような多価アルコールが好適である。塗工用スラリー中の耐熱性樹脂の濃度は4〜9質量%が好ましい。また必要に応じ、これに無機フィラーを分散させて塗工用スラリーとする。塗工用スラリー中に無機フィラーを分散させるに当たって、無機フィラーの分散性が好ましくないときは、無機フィラーをシランカップリング剤などで表面処理し、分散性を改善する手法も適用可能である。
【0060】
(2)スラリーの塗工
スラリーをポリオレフィン多孔質基材の少なくとも一方の表面に塗工する。ポリオレフィン多孔質基材の両面に耐熱性多孔質層を形成する場合は、基材の両面に同時に塗工することが、工程の短縮という観点で好ましい。塗工用スラリーを塗工する方法としては、ナイフコーター法、グラビアコーター法、スクリーン印刷法、マイヤーバー法、ダイコーター法、リバースロールコーター法、インクジェット法、スプレー法、ロールコーター法などが挙げられる。この中でも、塗膜を均一に形成するという観点において、リバースロールコーター法が好適である。ポリオレフィン多孔質基材の両面に同時に塗工する場合は、例えば、ポリオレフィン多孔質基材を一対のマイヤーバーの間に通すことで多孔質基材の両面に過剰な塗工用スラリーを塗布し、これを一対のリバースロールコーターの間に通して過剰なスラリーを掻き落すことで精密計量するという方法が挙げられる。
【0061】
(3)スラリーの凝固
スラリーが塗工された基材を、前記耐熱性樹脂を凝固させることが可能な凝固液で処理することにより、耐熱性樹脂を凝固させて、耐熱性樹脂からなる耐熱性多孔質層を形成する。
凝固液で処理する方法としては、塗工用スラリーを塗工した基材に対して凝固液をスプレーで吹き付ける方法や、当該基材を凝固液の入った浴(凝固浴)中に浸漬する方法などが挙げられる。ここで、凝固浴を設置する場合は、塗工装置の下方に設置することが好ましい。凝固液としては、当該耐熱性樹脂を凝固できるものであれば特に限定されないが、水、又は、スラリーに用いた溶剤に水を適当量混合させたものが好ましい。ここで、水の混合量は凝固液に対して40〜80質量%が好適である。水の量が40質量%以上であると、耐熱性樹脂を凝固するのに必要な時間がより短く抑えられ、凝固が良好に行なえ、耐力点での応力、伸度が大きくなりすぎない範囲に調節することができる。また、水の量が80質量%以下であると、凝固液と接触する耐熱性樹脂層の表面の凝固が速くなり過ぎず、表面が良好に多孔化されて結晶化が適度に進行するために強度を維持でき、耐力点の応力、伸度を高く保つことができる。さらに、溶剤回収においてコストが低く抑えられる。
【0062】
(4)凝固液の除去
凝固液を水洗することによって除去する。
(5)乾燥
シートから水を乾燥して除去する。乾燥方法は特に限定は無いが、乾燥温度は50〜80℃が好適であり、高い乾燥温度を適用する場合は、熱収縮による寸法変化が起こらないようにするために、ロールに接触させるような方法を適用することが好ましい。
【0063】
[非水電解質電池]
本発明の非水電解質電池は、正極と、負極と、正極及び負極の間に配置され、上述した構成を有する本発明の非水電解質電池用セパレータとを備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力が得られるように構成されたものである。
【0064】
このような非水電解質電池には、リチウムイオン一次電池等の非水系一次電池、及び、リチウムイオン二次電池やポリマー二次電池等のリチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池が挙げられる。非水電解質電池は、負極と正極の間にセパレータが配置され、この電池要素に電解液が含浸され、これが外装に封入された構造となっている。
【0065】
負極は、負極活物質、導電助剤及びバインダーからなる負極合剤が、集電体上に成形された構造となっている。負極活物質としては、リチウムを電気化学的にドープすることが可能な材料が挙げられ、例えば、炭素材料、シリコン、アルミニウム、スズ、ウッド合金などが挙げられる。特に本発明の非水電解質電池用セパレータによる液枯れ防止効果を活かすという観点では、負極活物質としては、リチウムを脱ドープする過程における体積変化率が3%以上となるものを用いることが好ましい。このような負極活物質としては、例えば、Sn、SnSb、AgSn、人造黒鉛、グラファイト、Si、SiO、V等が挙げられる。導電助剤は、アセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは、有機高分子からなり、例えば、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。集電体には、銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔などを用いることが可能である。
【0066】
正極は、正極活物質、導電助剤及びバインダーからなる正極合剤が、集電体上に成形された構造となっている。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物等が挙げられ、具体的には、LiCoO、LiNiO、LiMn0.5Ni0.5、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiMn、LiFePO、LiCo0.5Ni0.5、LiAl0.25Ni0.75等が挙げられる。特に本発明の非水電解質電池用セパレータによる液枯れ防止効果を活かすという観点では、正極活物質としては、リチウムを脱ドープする過程における体積変化率が1%以上となるものを用いることが好ましい。このような正極活物質としては、例えば、LiMn、LiCoO、LiNiO、LiCo0.5Ni0.5、LiAl0.25Ni0.75等が挙げられる。導電助剤は、アセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは、有機高分子からなり、例えば、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。集電体には、アルミ箔、ステンレス箔、チタン箔などを用いることが可能である。
【0067】
電解液は、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した構成である。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClOなどが挙げられる。非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネートなどが挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。
【0068】
外装材は、金属缶又はアルミラミネートパック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型などがあるが、本発明の非水電解質電池用セパレータは、いずれの形状においても好適に適用することが可能である。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。本実施例では、非水電解質電池として、非水電解質リチウム二次電池を作製する場合を例に示す。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0070】
[測定・評価方法]
実施例における各値は、以下に示す各方法にしたがって求めた。
(1)ポリオレフィンの分子量
ポリオレフィンの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した。具体的には、試料15mgに、GPC測定用移動相20mlを加え、145℃で完全に溶解し、ステンレス製焼結フィルター(孔径:1.0μm)で濾過した。濾液400μlを装置に注入して測定に供し、試料の重量平均分子量を求めた。
・装置:ゲル浸透クロマトグラフ Alliance GPC2000型(Waters製)
・カラム:TSKgel GMH6−HT×2+TSKgel GMH6−HT×2(東ソー(株)製)
・カラム温度:140℃、
・移動相:o−ジクロロベンゼン
・検出器:示差屈折計(RI)
・分子量較正:単分散ポリスチレン(東ソー(株)製)
【0071】
(2)特性粘度
特性粘度は、回転型動的粘弾性測定装置(レオメトリックSPE(株)製、ARES)を用い、振動数ωを0.1rad/sとして振動を与えながら、200℃で複素粘度を測定し、これを特性粘度として用いた。
【0072】
(3)非ニュートン流動性
非ニュートン流動性は、回転型動的粘弾性測定装置(レオメトリックSPE(株)製、ARES)を用い、振動数ωを0.1rad/s、1.0rad/sとして振動を与えながら、200℃で複素粘度を測定し、振動数ω1.0と振動数0.1における複素粘度の比を求め、非ニュートン流動性を評価する指標とした。
具体的には、振動数ω=0.1で振動を与えたときの粘度η(ω=0.1)に対する、振動数ω=1.0で振動を与えたときの粘度η(ω=1.0)の比〔η(ω=1.0)/η(ω=0.1)〕を求めた。
【0073】
(4)膜厚
非水電解質二次電池用セパレータの厚み(ポリエチレン多孔質基材及び耐熱性多孔質層の合計厚み)、ポリエチレン多孔質基材、及び耐熱性多孔質層の厚みを、接触式の膜厚計(ミツトヨ社製)にて20点測定し、これを平均することにより求めた。ここで、接触端子は、底面が直径0.5cmの円柱状のものを用いた。
【0074】
(5)空孔率
非水電解質二次電池用セパレータ、ポリエチレン多孔質基材、及び耐熱性多孔質層の空孔率は、下記の算出方法に従って求めた。
着目する層の構成成分がa、b、c、・・・、nであり、構成成分の質量がWa、Wb、Wc、・・・、Wn(g/cm)であり、構成成分の真密度がxa、xb、xc、・・・、xn(g/cm)であり、着目する層の膜厚がt(cm)であるとき、空孔率ε(%)は、以下の式より求められる。
ε={1−(Wa/xa+Wb/xb+Wc/xc+・・・+Wn/xn)/t}×100
【0075】
(6)突刺強度
非水電解質二次電池用セパレータの突刺強度は、カトーテック社製のKES−G5ハンディー圧縮試験器を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secの条件で突刺試験を行ない、最大突刺荷重を突刺強度とした。サンプルは、φ11.3mmの穴があいた金枠(試料ホルダー)にシリコンゴム製のパッキンも一緒に挟み固定した。
【0076】
(7)結晶化度
ポリエチレン多孔質基材の結晶化度は、広角X線測定において、2θ=21.3、23.7、29.8付近のピークにつき、積分強度和の全積分強度に対する比率を算出して求めた。
【0077】
(8)シャットダウン温度
シャットダウン温度(SD温度)は、以下の方法で求めた。
ポリメタフェニレンイソフタルアミド層を両面に設置したポリエチレン多孔質基材から直径φ19mmの円形のサンプルを打ち抜き、得られたサンプルを、非イオン性界面活性剤(花王社製、エマルゲン210P)を3質量%溶解したメタノール溶液(メタノール:和光純薬工業社製)に浸漬し、風乾した。このサンプルを、電極板として用いた直径φ15.5mmの円形の2枚のステンレス鋼板(SUS板)の間に中心を合わせて挟んだ。次に、サンプルに1MのLiBFにプロピレンカーボネート(PC)/エチレンカーボネート(EC)の混合溶媒(PC/EC=1/1[質量比])を配合した電解液(キシダ化学社製)を含浸させて、2032型コインセルに封入した。コインセルからリード線をとり、熱電対を付けてオーブンの中に入れた。昇温速度1.6℃/分で昇温させ、同時に交流インピーダンス法で振幅10mV、周波数100kHzにて該セルの抵抗を測定した。抵抗値が、10ohm・cm以上となった温度をシャットダウン温度とした。
【0078】
(9)耐短絡性(釘刺試験)
−試験用電池の作製−
下記の正極及び負極を、セパレータを介して対向配置した。これに電解液を含浸させてアルミラミネートフィルムからなる外装に封入し、非水電解質二次電池(試作電池)を作製した。ここで、電解液には、1MのLiPF6にエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒(EC/EMC=3/7[質量比])を配合した溶液(キシダ化学社製)を用いた。
(正極)コバルト酸リチウム(LiCoO;日本化学工業社製)粉末89.5部、アセチレンブラック(電気化学工業社製;商品名:デンカブラック)4.5部、ポリフッ化ビニリデン(クレハ化学社製)6部となるようにN−メチル−2ピロリドン溶媒を用いてこれらを混練し、スラリーを作製した。得られたスラリーを厚さが20μmのアルミ箔上に塗布乾燥後プレスし、100μmの正極を得た。
(負極)メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB:大阪瓦斯化学社製)粉末87部、アセチレンブラック(電気化学工業社製;商品名デンカブラック)3部、ポリフッ化ビニリデン(クレハ化学社製)10部となるようにN−メチル−2ピロリドン溶媒を用いてこれらを混練し、スラリーを作製した。得られたスラリーを厚さが18μmの銅箔上に塗布乾燥後プレスし、90μmの負極を得た。
−試験方法−
上記のように作製した試作電池について、得られた電池を1Cで電池電圧が4.2Vになるまで充電した後、その電圧で3時間定電圧充電し、満充電状態にした。充電した電池に対して、φ2.5mmの鉄製釘を打ち込んで貫通させた。このとき、内部短絡によるアルミラミネートフィルムの開封が認められない場合を「○」、認められる場合を「×」とした。
【0079】
(10)破膜試験
作製したセパレータ試料をそれぞれ10cm×10cmに切り出し、これを4方向固定できる枠に固定し、200℃にて30分間熱処理した。この操作を5回繰り返し、5回操作する間に破膜しなかったものを「○」、破膜したものを「×」として評価した。
【0080】
[ポリエチレン(PE)材料の準備]
−合成例1:超高分子量PEの合成−
(1)固体触媒成分の調製
窒素ガスで充分に置換され、撹拌機を具備した容量2リットルの丸底フラスコに、ジエトキシマグネシウム100g及びテトライソプロポキシチタン130mlを装入して懸濁状態とし、130℃で6時間撹拌しながら処理した。次いで、90℃まで冷却後、90℃に予め加熱したトルエン800mlを加え、1時間撹拌することにより均一な溶液を得た。この溶液90mlを、撹拌機を具備した500mlの丸底フラスコに導入した0℃のn−ヘプタン150ml及び四塩化ケイ素50ml中に、系内の温度を0℃に保ちつつ、撹拌数500rpmで撹拌しつつ、1時間かけて添加した。その後、1時間かけて55℃まで昇温し、1時間反応させることにより白色の微粒状固体組成物を得た。次いで、上澄み液を除去した後、トルエン40mlを加えてスラリー状とした。この中に、ソルビタンジステアレート0.5gを予め溶解させた室温の四塩化チタン20mlを撹拌しながら添加し、さらにジ−n−ブチルフタレートを1.5ml添加後、3時間かけて110℃まで昇温し、2時間処理を行なった。最後に、室温のn−ヘプタン100mlで7回洗浄することにより約10gの固体触媒成分を得た。
【0081】
(2)重合
エチレンガスで完全に置換された内容積1500mlの撹拌装置付きステンレス製オートクレーブにn−ヘプタン700mlを装入し、20℃においてエチレンガス雰囲気下に保ちつつ、トリエチルアルミニウム0.70mmolを装入した。次いで、70℃に昇温後、上記で得た固体触媒成分を、チタン原子換算値で0.006mmolとなる量にて装入した。そして、系内の圧力が5kg/cm・Gになるようにエチレンを供給しつつ、10時間重合を行なった。濾別後、減圧乾燥し、超高分子量ポリエチレン(PE)のパウダー(下記表1中においてUHで示す。)を得た。
得られたPEの重量平均分子量(Mw)は、600万以上であった。
【0082】
−合成例2:高密度PEの合成−
合成例1の重合において、固体触媒成分の装入量を、チタン原子換算値で0.006mmolから0.0048mmolになるように変更し、系内の圧力を5kg/cm・Gから4kg/cm・Gに、重合時間を10時間から1.5時間にそれぞれ変更したこと以外は、合成例1と同様にして、高密度ポリエチレン(PE)のパウダー(下記表1中においてHDで示す。)を得た。
得られたPEの重量平均分子量(Mw)は、81万であり、密度は0.947g/cmであった。
【0083】
−超高分子量ポリエチレンの準備−
市販のPEとして、Ticona社製のGUR2126(重量平均分子量415万)を用意した。
【0084】
−高密度ポリエチレンの準備−
市販のPEとして、Ticona社製のGURX143(重量平均分子量56万、密度0.950g/cm)を用意した。
【0085】
[ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)の作製]
イソフタル酸クロライド160.5gをテトラヒドロフラン1120mlに溶解し、撹拌しながら、メタフェニレンジアミン85.2gをテトラヒドロフラン1120mlに溶解した溶液を、細流として徐々に加えていくと白濁した乳白色の溶液が得られた。撹拌を約5分間継続した後、更に撹拌しながら炭酸ソーダ167.6g、食塩317gを3400mlの水に溶かした水溶液を速やかに加え、5分間撹拌した。反応系は数秒後に粘度が増大後、再び低下し、白色の懸濁液が得られた。これを静置し、分離した透明な水溶液層を取り除き、ろ過によってポリメタフェニレンイソフタルアミド(以下、「PMIA」ともいう。)の白色重合体185.3gが得られた。PMIAの数平均分子量は、2.4万であった。
【0086】
(実施例1)
−ポリエチレン多孔質基材1の作製−
上記で合成した超高分子量PEのパウダーと高密度PEのパウダーとを、下記表1に示すように6.3/93.7(質量比)の比率で混合した。得られたポリエチレン混合物の物性は、重量平均分子量:120万、重量平均分子量が10万以上の含有量:1.8質量%であり、更に、特性粘度:5.1×10Pa・s、非ニュートン流動性:0.38であった。
このポリエチレン混合物を、ポリエチレン濃度が30質量%となるように流動パラフィン(松村石油研究所社製;スモイルP−350P;沸点480℃)とデカリンとのを混合した混合溶媒中に溶解させ、ポリエチレン溶液を作製した。このポリエチレン溶液の組成は、ポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=30:45:25(質量比)である。
次いで、ポリエチレン溶液を208℃でダイから押し出し、水浴中で冷却してゲル状テープ(ベーステープ)を作製した。このベーステープを60℃で8分間、95℃で15分間乾燥処理を行ない、得られたベーステープに対して縦延伸と、横延伸とを逐次行ない、2軸延伸にて延伸した。ここで、縦延伸では、延伸倍率を5.5倍、延伸温度を90℃とし、横延伸では、延伸倍率を11.0倍、延伸温度を105℃として、面積倍60.5の高面積倍率延伸を行なった。横延伸の終了後、130℃で熱固定を行なった。
次に、これを塩化メチレン浴に浸漬し、流動パラフィンとデカリンとを抽出した。その後、50℃で乾燥し、120℃でアニール処理することにより、厚み12μmのポリエチレン多孔質基材1を得た。得られたポリエチレン多孔質基材1の特性を下記表1に示す。
【0087】
−セパレータ試料の作製−
上記で作製したPMIAと平均粒子径0.8μmの水酸化マグネシウム(協和化学社製のキスマ5)からなる無機フィラーとを、質量比で50:50となるように混合した。この混合物を、PMIA濃度が5.5質量%となるように、ジメチルアセトアミド(DMAc)とトリプロピレングリコール(TPG)とが50:50[質量比]で混合された混合溶媒に加え、塗工用スラリーを得た。
一対のマイヤーバー(番手#6)を、20μmのクリアランスで対峙させておき、このマイヤーバーに前記塗工用スラリーを適量のせ、この一対のマイヤーバー間に前記ポリエチレン多孔質基材1を通過させて、ポリエチレン多孔質基材1の両面に塗工用スラリーを塗工した。塗工されたものを、水:DMAc:TPG=50:25:25[質量比]の組成を有し、40℃に調整された凝固液中に浸漬した。次いで、水洗・乾燥を行なった。
このようにして、ポリエチレン多孔質基材1の両面(表裏面)に、それぞれ厚み4μmの耐熱性多孔質層が形成されたセパレータ試料を作製した。
【0088】
得られたセパレータ試料を用い、セパレータ試料の機械強度、シャットダウン特性、高温下での耐短絡性(釘刺試験)、及び破膜試験を行なって評価した。評価結果を下記表1に示す。
【0089】
(実施例2〜3、比較例1〜6)
実施例1において、ポリエチレン多孔質基材1の作製に用いたポリエチレン(PE)材料の種類と量、ポリエチレン溶液の温度、熱固定温度を、下記表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリエチレン多孔質基材を作製すると共に、セパレータ試料を作製した。
【0090】
【表1】

【0091】
前記表1に示されるように、実施例では、シャットダウン特性を所定の温度範囲に持ち合わせながら、高い機械強度が得られ、釘刺試験も良好であり、高温下でも優れた耐短絡性を発揮した。また、破膜試験による結果も良好であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
特性粘度が5×10Pa・s以上5×10Pa・s以下であって、非ニュートン流動性が0.15以上0.4以下であるポリオレフィンを含み、結晶化度が65%以上85%以下である多孔質基材と、
前記多孔質基材の少なくとも片面に設けられ、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層と、
を備えた非水電解質電池用セパレータ。
【請求項2】
前記ポリオレフィンは、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレン5〜90質量%と、密度が0.942g/cm(JIS K 6748−1981)以上の高密度ポリエチレンとを含むポリエチレン組成物である請求項1に記載の非水電解質電池用セパレータ。
【請求項3】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された請求項1又は請求項2に記載の非水電解質電池用セパレータとを備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水電解質電池。


【公開番号】特開2012−129115(P2012−129115A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280851(P2010−280851)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】