説明

非水電解質電池用セパレータ及び非水電解質電池

【課題】シャットダウン機能及び耐熱性に優れ、電池のサイクル特性が高められる非水電解質電池用セパレータを提供する。
【解決手段】ポリオレフィンを含む多孔質基材と、前記多孔質基材の少なくとも片面に設けられ、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層とを備え、厚みの平均値に対する厚みの標準偏差の比(標準偏差/平均値)が1%以上10%以下となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池用セパレータ及び非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質電池、特に、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、高エネルギー密度であるため、携帯電話・ノートパソコンといった携帯用電子機器の主電源として広範に普及している。このリチウムイオン二次電池は、更なる高エネルギー密度化が求められているが、安全性の確保が技術的な課題となっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の安全性を確保するうえでセパレータの役割は重要であり、とりわけセパレータにシャットダウン機能を付与する観点から、従来からポリオレフィン、特にポリエチレンの多孔膜が用いられている。ここで、シャットダウン機能とは、電池の温度が上昇したときに、多孔膜の微細孔が閉塞して電流の流れを遮断する機能のことをいい、電池の熱暴走を回避する機構として有効とされている。
【0004】
ところが、シャットダウン機能は、ポリエチレン等の多孔膜の溶融による細孔の閉塞をその作動原理としているため、耐熱性等とは必ずしも並立するものではない。すなわち、シャットダウン機能が作動した後においても、さらに電池温度が上昇することがあるが、このような場合、セパレータの溶融(いわゆるメルトダウン)が進行して電池内部で短絡が生じ、これに伴なって大量の熱を発して発煙・発火・爆発といった危険が生じることがある。このため、セパレータには、シャットダウン機能に加えて、シャットダウン機能が発現する温度より高い温度に達した場合にも短絡が生じるおそれがなく、シャットダウン温度より高い温度にある程度の時間保持されても短絡の危険性が抑えられた耐熱性を有していることが求められる。
【0005】
このような状況下において、従来、ポリオレフィン微多孔膜の表面に芳香族ポリアミド等の耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層を形成した技術が知られており(特許文献1〜2参照)、このような構成であればシャットダウン機能と耐熱性とを両立できる点で優れるとされている。
【0006】
一方で、非水系二次電池においては、より優れた繰り返し充放電の寿命特性(サイクル特性)が求められているが、電極とセパレータの間に形成される隙間にムラがあると、リチウムイオンの流通にも偏りが生じてしまう場合がある。その場合、二次電池のサイクル特性も低下してしまうおそれもある。したがって、非水系二次電池用セパレータにおいては、サイクル特性向上の観点から、充分に均一な膜厚であることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2008/62727号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2008/156033号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1〜2においては、膜厚の均一性とサイクル特性向上の関係については考慮されていないものであり、その改善が望まれている。
【0009】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、シャットダウン機能及び耐熱性に優れ、電池のサイクル特性が高められる非水電解質電池用セパレータ、及びサイクル特性に優れた非水電解質電池を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> ポリオレフィンを含む多孔質基材と、前記多孔質基材の少なくとも片面に設けられ、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層とを備え、厚みの平均値に対する厚みの標準偏差の比(標準偏差/平均値)が1%以上20%以下である非水電解質電池用セパレータである。
【0011】
<2> 正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された前記<1>に記載の非水電解質電池用セパレータとを備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水電解質電池である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シャットダウン機能及び耐熱性に優れ、電池のサイクル特性が高められる非水電解質電池用セパレータを提供することができる。また、
本発明によれば、サイクル特性に優れた非水電解質電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明は当該形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
[非水電解質二次電池用セパレータ]
本発明の非水電解質二次電池用セパレータは、ポリオレフィンを含む多孔質基材と、多孔質基材の少なくとも片面に設けられ、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層とを備えており、セパレータの厚みの平均値に対する厚みの標準偏差の比Q(=標準偏差/平均値;以下、単に「比Q」ともいう。)を1%以上20%以下の範囲として構成したものである。
【0015】
本発明の非水電解質二次電池用セパレータは、多孔質基材を有していることにより、シャットダウン機能を具えると共に、耐熱性多孔質層がシャットダウン後もメルトダウンしない程度の耐熱性を発揮する。そして、本発明においては、セパレータの厚みの平均値に対する厚みの標準偏差の比Qを1%以上20%以下とすることで、均一な表面性を保有し、セパレータ表面が電極面に好適に密着するようになる。そのため、セパレータと電極間との間の滑りが抑えられ、セパレータと電極との間で位置ズレや空隙が生じたり、あるいは空隙部の隙間が不揃いで変化が生じることがない。よって、充放電の均一性が確保され、電池の繰り返し使用において良好なサイクル特性を得ることが可能となる。
【0016】
セパレータの厚みにおける平均値に対する標準偏差の比Qが1%未満である場合、平滑性が高すぎるため、電極活物質とのすべりが生じて好ましくない。逆に、セパレータの厚みにおける平均値に対する標準偏差の比Qが20%を超えて大きくなる場合、電極活物質間の間隔に斑が生じ、良好なサイクル特性が得られないおそれがある。
【0017】
セパレータを構成する多孔質基材の標準偏差を制御する場合、その制御方法としては、多孔質基材の厚みムラを制御する方法、塗工膜の厚みムラを制御する方法が挙げられる。
そのうち、多孔質基材の厚みムラを制御するには、例えば、押出成形前の混練の際に未溶融や未溶解物が生じないようにすること、延伸ムラが生じないように好適な温度分布と延伸速度を選択すること等を施すことが挙げられる。この場合、多孔質基材の標準偏差の好ましい範囲は、1%以上15%以下である。この範囲内であると、セパレータの厚みの平均値に対する厚みの標準偏差を1%〜20%に容易に制御することが可能である。
また、塗工膜のムラを制御するには、例えば、未溶解ポリマーやフィラーの凝集等が無いスラリーを調製すること、スラリー塗工の際のシェアと粘度とを好適な範囲に調整すること等が挙げられる。
【0018】
本発明の非水電解質電池用セパレータは、総厚が30μm以下であることが好ましい。
本発明の非水電解質電池用セパレータの空孔率は、透過性、機械強度、及びハンドリング性の観点から、30〜60%であることが好ましい。
本発明の非水電解質電池用セパレータのガーレ値(JIS P8117)は、機械強度と膜抵抗のバランスが良くなるという観点から、100〜500sec/100ccであることが好ましい。
本発明の非水電解質電池用セパレータの膜抵抗は、非水電解質電池の負荷特性の観点から、1.5〜10ohm・cmであることが好ましい。
本発明の非水電解質電池用セパレータの突刺強度は、250〜1000gであることが好ましい。
本発明の非水電解質電池用セパレータの引張強度は、10N以上であることが好ましい。
本発明の非水電解質電池用セパレータの105℃における熱収縮率は、0.5〜10%であることが好ましい。
【0019】
(多孔質基材)
本発明の非水電解質電池用セパレータは、ポリオレフィンを含む多孔質基材を設けて構成されている。多孔質基材としては、微多孔膜状、不織布状、紙状、その他三次元ネットーワーク状の多孔質構造を有する層を挙げることができるが、より優れた融着が実現できる点で、微多孔膜状の層であることが好ましい。ここで、微多孔膜状の層(以下、単に「微多孔膜」ともいう。)とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となっている層をいう。
この微多孔膜は、120〜150℃で軟化し、多孔質の空隙が閉塞されてシャットダウン機能を発現し、かつ非水電解質電池の電解液に溶解しないポリオレフィンが好ましい。
【0020】
前記ポリオレフィンは、具体的には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどのポリエチレン、ポリプロピレン、及びこれらの共重合体などから選ばれる1種又は2種以上のポリオレフィンが挙げられる。該ポリオレフィンを用いて多孔質フィルムとした場合、必要に応じて、無機又は有機の微粒子を含有することができる。
【0021】
多孔質基材は、主としてポリオレフィンで形成されている。ここで、「主として」とは、ポリオレフィンの多孔質基材中における割合が50質量%以上であることをいい、好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよいことを意味する。
【0022】
多孔質基材の厚みは、5〜25μmが好ましく、さらに好ましくは5〜20μmである。多孔質基材の厚みが5μm以上であることで、シャットダウン機能がより良好に発揮される。多孔質基材の厚みが25μm以下であると、耐熱性多孔質層も加えた非水電解質電池用セパレータの厚みが大きくなり過ぎないように維持でき、電池の高エネルギー密度化の点で有利である。
【0023】
多孔質基材の空孔率は、シャットダウン特性、透過性、機械強度、及びハンドリング性の観点から、30〜60%であることが好ましい。
多孔質基材のガーレ値(JIS P8117)は、機械強度と膜抵抗をバランス良く得るという観点から、50〜500sec/100ccであることが好ましい。
多孔質基材の膜抵抗は、非水系二次電池の負荷特性の観点から、0.5〜8ohm・cmであることが好ましい。
多孔質基材の突刺強度は、250g以上であることが好ましい。
多孔質基材の引張強度は、10N以上であることが好ましい。
【0024】
〜多孔質基材の製造法〜
上述した多孔質基材の製造法に、特に制限は無いが、具体的には例えば以下の(1)〜(6)の工程を含む方法で製造できる。なお、原料に用いるポリオレフィンについては上述のとおりである。
【0025】
(1)ポリオレフィン溶液の調整
所定の量比のポリオレフィンを溶剤に溶解させた溶液を調整する。このとき、溶剤を混合して溶液を調製しても構わない。溶剤としては、例えば、パラフィン、流動パラフィン、パラフィン油、鉱油、ひまし油、テトラリン、エチレングリコール、グリセリン、デカリン、トルエン、キシレン、ジエチルトリアミン、エチルジアミン、ジメチルスルホキシド、ヘキサン等が挙げられる。ポリオレフィン溶液中のポリオレフィンの濃度は、1〜35質量%が好ましく、より好ましくは10〜30質量%である。ポリオレフィン溶液の濃度が1質量%以上であると、冷却ゲル化して得られるゲル状成形物が溶媒で高度に膨潤しないように維持できるため変形しにくく、取扱い性が良好である。一方、35質量%以下であると、押し出しの際の圧力が抑えられるため、吐出量を維持することが可能で生産性に優れる。また、押し出し工程での配向が進みにくく、延伸性や均一性が確保するのに有利である。なお、原料であるポリオレフィン溶液の混練温度は、本発明のような結晶物性を得る上では、190〜220℃であることが好ましい。
【0026】
また、ポリオレフィン溶液は、異物除去のため、濾過使用することが好ましい。濾過装置、フィルターの形状、様式などに特に制限はなく、従来公知の装置、様式を使用することができる。この場合のフィルターの穴径(濾過径)としては、濾過性の観点より1μm以上50μm以下が好ましい。穴径が50μm以下であると、濾過性に優れ、異物の除去効率が良好である。また、穴径が1μm以上であると、良好な濾過性が得られ、生産性を高く維持することができる。
【0027】
(2)ポリオレフィン溶液の押出
調製した溶液を一軸押出機、もしくは二軸押出機で混練し、融点以上かつ融点+60℃以下の温度でTダイもしくはIダイで押し出す。好ましくは二軸押出機を用いる。そして、押し出した溶液をチルロール又は冷却浴に通過させて、ゲル状組成物を形成する。この際、ゲル化温度以下に急冷しゲル化することが好ましい。
【0028】
(3)脱溶媒処理
次いで、ゲル状組成物から溶媒を除去する。揮発性溶剤を使用する場合、予熱工程も兼ねて加熱等により蒸発させゲル状組成物から溶媒を除くこともできる。また、不揮発性溶媒の場合は、圧力をかけて絞り出すなどして溶媒を除くことができる。なお、溶媒は完全に除く必要はない。
【0029】
(4)ゲル状組成物の延伸
前記脱溶媒処理に引き続いて、ゲル状組成物を延伸する。ここで、延伸処理の前に弛緩処理を行なってもよい。延伸処理は、ゲル状成形物を加熱し、通常のテンター法、ロール法、圧延法もしくはこれらの方法の組み合わせによって所定の倍率で2軸延伸する。2軸延伸は、同時又は逐次のいずれであってもよい。また、縦多段延伸や3段延伸、4段延伸とすることもできる。
延伸温度は、90℃以上、ポリオレフィンの融点未満の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは100〜120℃である。加熱温度が融点未満である場合は、ゲル状成形物が溶解し難いために延伸を良好に行なえる。また、加熱温度が90℃以上である場合、ゲル状成形物の軟化が充分に行なわれるため、延伸時に破膜しにくく、高倍率の延伸が行なえる。
また、延伸倍率は、原反の厚さによって異なるが、1軸方向で少なくとも2倍以上、好ましくは4〜20倍で行なうことが好ましい。特に、結晶パラメータを制御する観点からは、延伸倍率が機械方向(MD方向)に4〜10倍、また機械方向に垂直方向(TD方向)に6〜15倍であることが好ましい。
延伸後、必要に応じて熱固定を行い、熱寸法安定性を持たせる。
【0030】
(5)溶剤の抽出・除去
延伸後のゲル状組成物を抽出溶剤に浸漬して、溶媒を抽出する。抽出溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、デカリン、テトラリンなどの炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素、メチレンクロライドなどの塩素化炭化水素、三フッ化エタンなどのフッ化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類など易揮発性のものを用いることができる。これらの溶剤は、ポリオレフィン組成物の溶解に用いた溶媒に応じて適宜選択し、単独でもしくは二種以上を混合して用いることができる。溶媒の抽出は、多孔質基材中の溶媒を1質量%未満にまで除去する。
【0031】
(6)微多孔膜のアニール
微多孔膜をアニールにより熱セットする。アニールは、熱収縮率の観点より、80〜150℃の温度領域で実施することが好ましい。さらに、所定の熱収縮率を有する観点から、アニール温度が115〜135℃であることが好ましい。
【0032】
(耐熱性多孔質層)
本発明の非水電解質電池用セパレータは、前記多孔質基材の少なくとも一方の側に設けられ、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層を設けて構成されている。この耐熱性多孔質層は、微多孔膜状、不織布状、紙状、その他三次元ネットーワーク状の多孔質構造を有した層を挙げることができるが、より優れた耐熱性が得られる点で、微多孔膜状の層であることが好ましい。「微多孔膜状の層」とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった層をいう。
ここでの「耐熱性」とは、200℃未満の温度領域で溶融ないし分解等を起こさない性状をいう。
【0033】
−耐熱性樹脂−
耐熱性多孔質層を構成する耐熱性樹脂としては、ポリオレフィンの融点よりも高い融点あるいは熱分解温度を有する高分子であればいずれでもよく、例えば、全芳香族ポリアミド、フッ素系樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、及びセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂が挙げられる。
【0034】
耐熱性樹脂は、電解質溶液に対し不溶性であり、耐久性が高いことより、全芳香族ポリアミドが好適である。全芳香族ポリアミドにおいては、例えば、少量の脂肪族成分を共重合することも可能である。多孔質層を形成しやすく耐酸化還元性に優れるという観点から、メタ型全芳香族ポリアミドであるポリメタフェニレンイソフタルアミドがさらに好適である。フッ素系樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン単独重合体、及び/又は、フッ化ビニリデンを主たる繰返し単位とし、フッ化ビニル、三フッ化エチレン、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン及び三フッ化塩化エチレンからなる群のうち少なくとも一種のモノマーを含有する共重合体などが挙げられる。ポリフッ化ビニリデンは、非水電解液を保持可能なポリマー樹脂として好適に用いられる。
【0035】
耐熱性多孔質層は、前記多孔質基材の両面又は片面に形成することができるが、ハンドリング性、耐久性、及び熱収縮の抑制効果の観点から、多孔質基材の表裏両面に形成された形態が好ましい。
【0036】
耐熱性多孔質層の厚みは、耐熱性多孔質層が基材の両面に形成されている場合は、耐熱性多孔質層の厚みの合計が3μm以上12μm以下であることが好ましく、また耐熱性多孔質層が多孔質基材の片面にのみ形成されている場合は、耐熱性多孔質層の厚みが3μm以上12μm以下であることが好ましい。
【0037】
耐熱性多孔質層の空孔率としては、耐熱性、イオン透過性、シャットダウン特性等の観点から、30〜70%が好ましい。
【0038】
−無機フィラー−
耐熱性多孔質層には、無機フィラーが含まれていてもよい。無機フィラーとしては、特に限定はないが、具体的にはアルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニアなどの金属酸化物、炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩、リン酸カルシウムなどの金属リン酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物などが好適に用いられる。このような無機フィラーは、不純物の溶出や耐久性の観点から結晶性の高いものが好ましい。
【0039】
中でも、無機フィラーとしては、200〜400℃において吸熱反応を生じるものが好ましい。このような特性を有する無機フィラーとしては、特に制限はないが、金属水酸化物、硼素塩化合物、又は粘土鉱物等からなる無機フィラーであって、200〜400℃において吸熱反応を生じるものが挙げられる。具体的には、例えば、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム、アルミン酸カルシウム、ドーソナイト、硼酸亜鉛等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組合わせて用いることができる。また、これらの難燃性の無機フィラーには、アルミナやジルコニア、シリカ、マグネシア、チタニア等の金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属炭酸塩などの他の無機フィラーを適宜混合して用いることもできる。
【0040】
無機フィラーの平均粒子径は、高温時の耐短絡性や成形性等の観点から、0.1〜2μmの範囲が好ましい。
【0041】
耐熱性多孔質層中における無機フィラーの含有量としては、耐熱性向上効果、透過性、及びハンドリング性の観点から、50〜95質量%であることが好ましい。
【0042】
〜耐熱性多孔質層の製造法〜
本発明の非水電解質電池用セパレータの製造法は、上述した構成の本発明のセパレータが製造できれば特に限定されるものではなく、耐熱性多孔質層については例えば下記(1)〜(5)の工程を経て製造することが可能である。
【0043】
(1)塗工用スラリーの作製
耐熱性樹脂を溶剤に溶かし、塗工用スラリーを作製する。溶剤は、耐熱性樹脂を溶解するものであればよく、特に限定はないが、具体的には極性溶剤が好ましく、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。また、当該溶剤はこれらの極性溶剤に加えて耐熱性樹脂に対して貧溶剤となる溶剤も加えることができる。このような貧溶剤を適用することでミクロ相分離構造が誘発され、耐熱性多孔質層を形成する上で多孔化が容易となる。貧溶剤としては、アルコールの類が好適であり、特にグリコールのような多価アルコールが好適である。塗工用スラリー中の耐熱性樹脂の濃度は4〜9質量%が好ましい。また必要に応じ、これに無機フィラーを分散させて塗工用スラリーとする。塗工用スラリー中に無機フィラーを分散させるに当たって、無機フィラーの分散性が好ましくないときは、無機フィラーをシランカップリング剤などで表面処理し、分散性を改善する手法も適用可能である。
【0044】
(2)スラリーの塗工
スラリーをポリオレフィン多孔質基材の少なくとも一方の表面に塗工する。ポリオレフィン多孔質基材の両面に耐熱性多孔質層を形成する場合は、基材の両面に同時に塗工することが、工程の短縮という観点で好ましい。塗工用スラリーを塗工する方法としては、ナイフコーター法、グラビアコーター法、スクリーン印刷法、マイヤーバー法、ダイコーター法、リバースロールコーター法、インクジェット法、スプレー法、ロールコーター法などが挙げられる。この中でも、塗膜を均一に形成するという観点において、リバースロールコーター法が好適である。ポリオレフィン多孔質基材の両面に同時に塗工する場合は、例えば、ポリオレフィン多孔質基材を一対のマイヤーバーの間に通すことで多孔質基材の両面に過剰な塗工用スラリーを塗布し、これを一対のリバースロールコーターの間に通して過剰なスラリーを掻き落すことで精密計量するという方法が挙げられる。
【0045】
(3)スラリーの凝固
スラリーが塗工された基材を、前記耐熱性樹脂を凝固させることが可能な凝固液で処理することにより、耐熱性樹脂を凝固させて、耐熱性樹脂からなる耐熱性多孔質層を形成する。
凝固液で処理する方法としては、塗工用スラリーを塗工した基材に対して凝固液をスプレーで吹き付ける方法や、当該基材を凝固液の入った浴(凝固浴)中に浸漬する方法などが挙げられる。ここで、凝固浴を設置する場合は、塗工装置の下方に設置することが好ましい。凝固液としては、当該耐熱性樹脂を凝固できるものであれば特に限定されないが、水、又は、スラリーに用いた溶剤に水を適当量混合させたものが好ましい。ここで、水の混合量は凝固液に対して40〜80質量%が好適である。水の量が40質量%以上であると、耐熱性樹脂を凝固するのに必要な時間がより短く抑えられ、凝固が良好に行なえ、耐力点での応力、伸度が大きくなりすぎない範囲に調節することができる。また、水の量が80質量%以下であると、凝固液と接触する耐熱性樹脂層の表面の凝固が速くなり過ぎず、表面が良好に多孔化されて結晶化が適度に進行するために強度を維持できる。
【0046】
(4)凝固液の除去
凝固液を水洗することによって除去する。
(5)乾燥
シートから水を乾燥して除去する。乾燥方法は特に限定は無いが、乾燥温度は50〜80℃が好適であり、高い乾燥温度を適用する場合は、熱収縮による寸法変化が起こらないようにするために、ロールに接触させるような方法を適用することが好ましい。
【0047】
[非水電解質電池]
本発明の非水電解質電池は、正極と、負極と、正極及び負極の間に配置され、上述した構成を有する本発明の非水電解質電池用セパレータとを備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力が得られるように構成されたものである。
【0048】
このような非水電解質電池には、リチウムイオン一次電池等の非水系一次電池、及び、リチウムイオン二次電池やポリマー二次電池等のリチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池が挙げられる。非水電解質電池は、負極と正極の間にセパレータが配置され、この電池要素に電解液が含浸され、これが外装に封入された構造となっている。
【0049】
負極は、負極活物質、導電助剤及びバインダーからなる負極合剤が、集電体上に成形された構造となっている。負極活物質としては、リチウムを電気化学的にドープすることが可能な材料が挙げられ、例えば、炭素材料、シリコン、アルミニウム、スズ、ウッド合金などが挙げられる。特に本発明の非水電解質電池用セパレータによる液枯れ防止効果を活かすという観点では、負極活物質としては、リチウムを脱ドープする過程における体積変化率が3%以上となるものを用いることが好ましい。このような負極活物質としては、例えば、Sn、SnSb、AgSn、人造黒鉛、グラファイト、Si、SiO、V等が挙げられる。導電助剤は、アセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは、有機高分子からなり、例えば、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。集電体には、銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔などを用いることが可能である。
【0050】
正極は、正極活物質、導電助剤及びバインダーからなる正極合剤が、集電体上に成形された構造となっている。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物等が挙げられ、具体的には、LiCoO、LiNiO、LiMn0.5Ni0.5、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiMn、LiFePO、LiCo0.5Ni0.5、LiAl0.25Ni0.75等が挙げられる。特に本発明の非水電解質電池用セパレータによる液枯れ防止効果を活かすという観点では、正極活物質としては、リチウムを脱ドープする過程における体積変化率が1%以上となるものを用いることが好ましい。このような正極活物質としては、例えば、LiMn、LiCoO、LiNiO、LiCo0.5Ni0.5、LiAl0.25Ni0.75等が挙げられる。導電助剤は、アセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは、有機高分子からなり、例えば、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。集電体には、アルミ箔、ステンレス箔、チタン箔などを用いることが可能である。
【0051】
電解液は、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した構成である。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClOなどが挙げられる。非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネートなどが挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。
【0052】
外装材は、金属缶又はアルミラミネートパック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型などがあるが、本発明の非水電解質電池用セパレータは、いずれの形状においても好適に適用することが可能である。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0054】
(測定・評価)
(1)膜厚
作製した非水電解質二次電池用セパレータの厚み(ポリエチレン微多孔膜及び耐熱性多孔質層の合計厚み)及びポリエチレン微多孔膜を、接触式の膜厚計(ミツトヨ社製)にて20点測定し、これを平均することにより求めた。ここで、接触端子は、底面が直径0.5cmの円柱状のものを用いた。
【0055】
(2)空孔率
ポリオレフィン微多孔膜の空孔率は、下記式から求めた。
ε={1−Ws/(ds・t)}×100
ここで、ε:空孔率(%)、Ws:目付(g/m)、ds:真密度(g/cm)、
【0056】
(3)ガーレ値(透気度)
ポリオレフィン微多孔膜のガーレ値は、JIS P8117に従って求めた。
【0057】
(4)膜抵抗
ポリオレフィン微多孔膜の膜抵抗は、以下の方法で求めた。
得られたポリオレフィン微多孔膜から2.6cm×2.0cmのサイズのサンプルを切り出す。非イオン性界面活性剤(花王社製のエマルゲン210P)3質量%を溶解したメタノール溶液(メタノール:和光純薬工業社製)に切り出したサンプルを浸漬し、風乾する。厚さ20μmのアルミ箔を2.0cm×1.4cmに切り出し、リードタブを付ける。このアルミ箔を2枚用意して、アルミ箔間に切り出したサンプルをアルミ箔が短絡しないように挟む。サンプルに1MのLiBFにプロピレンカーボネート(PC)とエチレンカーボネート(EC)との混合溶媒(PC/EC=1/1[質量比])を配合した電解液(キシダ化学社製)を含浸させる。これをアルミラミネートパック中にタブがアルミパックの外に出るようにして減圧封入する。このようなセルをアルミ箔中にセパレータが1枚、2枚、3枚となるようにそれぞれ作製する。該セルを20℃の恒温槽中に入れ、交流インピーダンス法で振幅10mV、周波数100kHzにて該セルの抵抗を測定する。測定されたセルの抵抗値をセパレータの枚数に対してプロットし、このプロットを線形近似し、傾きを求める。この傾きに電極面積である2.0cm×1.4cmを乗じてセパレータ1枚当たりの膜抵抗(ohm・cm)を求める。
【0058】
(5)突刺強度
ポリオレフィン微多孔膜の突刺強度は、カトーテック社製のKES−G5ハンディー圧縮試験器を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secの条件で突刺試験を行ない、最大突刺荷重を突刺強度とした。サンプルは、φ11.3mmの穴があいた金枠(試料ホルダー)にシリコンゴム製のパッキンも一緒に挟み固定した。
【0059】
(6)標準偏差、及び標準偏差/平均値比
作製した非水電解質二次電池用セパレータを8cm幅、10m長さに切り出し、切り出したサンプルの幅方向における、右端から1cm内側、両端の中心、左端から1cm内側のそれぞれの位置における厚みを、サンプルの長さ方向に10cm毎に測定し、全ての値の平均値及び標準偏差を算出した。
得られた標準偏差を平均値で除して、厚みの平均値に対する厚みの標準偏差の比Q(標準偏差/平均値)を求めた。
【0060】
(7)サイクル特性
−a.正極−
コバルト酸リチウム(LiCoO、日本化学工業社製)粉末89.5部と、アセチレンブラック4.5部、及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)の乾燥質量が6部となるように、PVdFの6質量%N−メチル−2−ピロリドン(NMP;以下同様)溶液を用い、正極剤ペーストを作製した。得られたペーストを、厚さ20μmのアルミ箔上に塗布乾燥した後、プレスして、厚み97μmの正極を得た。
−b.正極−
負極活物質としてメソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB、大阪瓦斯化学社製)粉末87部と、アセチレンブラック3部、及びPVdFの乾燥質量が10部となるように、PVdFの6質量%NMP溶液を用い、負極剤ペーストを作製した。得られたペーストを、厚さ18μmの銅箔上に塗布乾燥した後、プレスして、厚み90μmの負極を作製した。
−c.ボタン電池の作製−
上記で得た正極と負極との間に、以下の実施例及び比較例で作製したセパレータを挟み、これに電解液を含浸させて、初期容量が4.5mAh程度のボタン電池(CR2032)10個を作製した。このとき、1MのLiPF6にエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とメチルエチルカーボネート(MEC)との混合溶媒(EC/DEC/MEC=1/2/1[質量比])を配合した電解液を用いた。
作製したボタン電池を充電電圧4.2V、放電電圧2.75Vで充放電を繰返し、100サイクル目の放電容量を初期容量で除して求められる容量保持率を、充放電を繰返したときの容量変化のパラメータとし、これを指標としてサイクル特性を評価した。
−d.評価−
10個のボタン電池のうち10個全ての前記容量保持率が85%以上である場合、実用上問題がなく合格(○)と判定した。一方、10個のうち1個でも前記容量保持率が85%を下回る場合、実用上問題ありとして不合格(×)と判定した。
【0061】
(実施例1)
ポリエチレンパウダーとしてTicona社製のGUR2126(重量平均分子量415万、融点141℃)と、GURX143(重量平均分子量56万、融点135℃)とを用いた。GUR2126とGURX143とを1:9(質量比)の比率になるように、ポリエチレン濃度が30質量%となるように流動パラフィンとデカリンの混合溶媒中に溶解させ、ポリエチレン溶液を作製した。このポリエチレン溶液の組成は、ポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=30:45:25(質量比)である。
【0062】
続いて、このポリエチレン溶液を148℃でダイから押し出し、水浴中で冷却して、60℃で8分間、95℃で15分間かけて乾燥させ、ゲル状テープ(ベーステープ)を作製し、得られたベーステープを縦延伸した後、横延伸を行なって、2方向に逐次延伸する2軸延伸を行なった。ここで、縦延伸は、延伸倍率を5.5倍、延伸温度を90℃とし、横延伸は、延伸倍率を11.0倍、延伸温度を105℃とした。横延伸の後に125℃で熱固定を行なった。次に、これを塩化メチレン浴に浸漬し、流動パラフィンとデカリンを抽出した。その後、50℃で乾燥させ、120℃でアニール処理することで、ポリエチレン微多孔膜を作製した。
【0063】
作製したポリエチレン微多孔膜の物性は、膜厚11.5μm、空孔率36%、透気度301秒/100cc、膜抵抗2.641ohm・cm、突刺強度380gであった。
【0064】
この多孔質基材を10cm幅、50m長にスリットしたものを複数作製し、これらについて前記(測定・評価)の(6)に基づいて、厚みの平均値に対する厚みの標準偏差の比を求めた。ここでの比が1%以内のポリエチレン微多孔膜を選び、選んだ多孔質基材に対し、以下の方法で耐熱性多孔質層を塗布形成した。
具体的には、メタ型全芳香族ポリアミドであるコーネックス(登録商標;帝人テクノプロダクツ社製)と平均粒子径0.8μmの水酸化アルミニウム(昭和電工社製;H−43M)とを質量比で25:75となるように混合し、この混合物を、メタ型全芳香族ポリアミド濃度が5.5質量%となるようにジメチルアセトアミド(DMAc)及びトリプロピレングリコール(TPG)の質量比が50:50である混合溶媒に混合し、塗工用スラリーを得た。
【0065】
次いで、一対のマイヤーバー(番手#6)を20μmのクリアランスで対峙させた。マイヤーバーに上記塗工用スラリーを適量のせ、一対のマイヤーバー間にポリエチレン微多孔膜を通過させることにより、ポリエチレン微多孔膜の両面に塗工用スラリーを塗工した。これを、水:DMAc:TPG=50:25:25[質量比]の組成で40℃に調節された凝固液中に浸漬した。次いで、水洗・乾燥を行なった後、ポリエチレン微多孔膜の表裏面に耐熱性多孔質層を形成し、膜厚18μmの非水電解質二次電池用セパレータを作製した。
作製した非水電解質二次電池用セパレータにおける、厚みの平均値に対する厚みの標準編の比Qは、5%であった。
【0066】
(比較例1)
実施例1において、作製したポリエチレン微多孔膜のうち、厚みの平均値に対する厚みの標準偏差の比が18〜22%であるポリエチレン微多孔膜を選ぶようにしたこと以外は、実施例と同様にして、膜厚18μmの非水電解質二次電池用セパレータを作製した。
作製した非水電解質二次電池用セパレータにおける、厚みの平均値に対する厚みの標準編の比Qは、25%であった。
【0067】
【表1】

【0068】
前記表1に示すように、セパレータとした際の厚みにおける平均値に対する標準偏差の比率が所定範囲に存在する実施例では、比較例に比べ、良好なサイクル特性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンを含む多孔質基材と、前記多孔質基材の少なくとも片面に設けられ、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層とを備え、
厚みの平均値に対する厚みの標準偏差の比(標準偏差/平均値)が1%以上20%以下である非水電解質電池用セパレータ。
【請求項2】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された請求項1に記載の非水電解質電池用セパレータとを備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水電解質電池。

【公開番号】特開2012−129116(P2012−129116A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280852(P2010−280852)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】