説明

非水電解質電池用セパレータ及び非水電解質電池

【課題】電極との接着性、耐熱性及びシャットダウン特性に優れる非水電解質電池用セパレータ、並びにサイクル特性に優れる非水電解質電池を提供する。
【解決手段】ポリオレフィンを含む多孔質基材と、前記多孔質基材の両面に設けられ、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層と、前記耐熱性多孔質層の少なくとも一方の上に設けられ、フッ素系樹脂を含む接着性多孔質層と、を備えた非水電解質電池用セパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池用セパレータ及び非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質電池は、携帯電話やノートパソコンといった携帯用電子機器の主電源として広範に普及している。
近年、非水電解質電池の軽量化を目的に、外装材として金属缶にかわってアルミ外装材が開発されている。アルミ外装材を用いた場合、外部からの衝撃よる電極のズレや、電極の膨張・収縮による電解液の液枯れが起こりやすいため、電極接着性や電解液膨潤性に優れたセパレータが望まれる。そこで、ポリオレフィン微多孔膜に、ポリフッ化ビニリデン系樹脂(以下、PVdFと略す。)を塗布したセパレータや、耐熱性を付与したアラミド樹脂とPVdFとの混合物を塗布したセパレータが報告されている(例えば、特許文献1参照)。ほかに、電池特性を向上させる目的で、下記のセパレータが報告されている。
【0003】
(1)ポリオレフィン微多孔膜にアラミド樹脂を積層したセパレータは、熱収縮の抑制とシャットダウン特性に優れるとされている(例えば、特許文献2参照)。
(2)ポリオレフィン微多孔膜にPVdFを積層したセパレータは、耐酸化性がよく高温下において微小ショートを防ぐことができるため、サイクル特性及び温度保存特性に優れるとされている(例えば、特許文献3参照)。
(3)ポリオレフィン微多孔膜にPVdFを積層し、さらにアラミド樹脂層を積層したセパレータは、酸化分解が抑制され、かつ熱収縮に優れるとされている(例えば、特許文献4参照)。
(4)ポリオレフィン微多孔膜の正極側にアラミド樹脂を積層し、負極側にPVdFを積層したセパレータは、耐酸化性とガス発生抑制に優れるとされている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3942277号公報
【特許文献2】特許第4303307号公報
【特許文献3】特開2006−286531号公報
【特許文献4】特開2009−187702号公報
【特許文献5】特許第3419393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように様々な非水電解質電池用セパレータが報告されているが、機械的強度、耐熱性、電解液保持性、電極との接着性等の性能は一長一短であり、バランスよく性能を満たすものは報告されていない。
上記の事情に鑑み、本発明は、電極との接着性、耐熱性及びシャットダウン特性に優れる非水電解質電池用セパレータ、並びにサイクル特性に優れる非水電解質電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ポリオレフィンを含む多孔質基材に、耐熱性多孔質層と、フッ素系樹脂を含む接着性多孔質層とを積層させたセパレータが、電極との接着性、耐熱性、シャットダウン特性のすべてにおいてバランスのよい性能を示し、電池を作製したときにサイクル特性が向上することを見出した。
前記課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用する。
【0007】
<1> ポリオレフィンを含む多孔質基材と、前記多孔質基材の両面に設けられ、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層と、前記耐熱性多孔質層の少なくとも一方の上に設けられ、フッ素系樹脂を含む接着性多孔質層と、を備えた非水電解質電池用セパレータ。
<2> 前記接着性多孔質層は、塗工量が0.5g/m以上3.5g/m以下の範囲である、前記<1>に記載の非水電解質電池用セパレータ。
<3> 前記耐熱性多孔質層が有機フィラー及び無機フィラーの少なくとも一方を含む、前記<1>又は<2>に記載の非水電解質電池用セパレータ。
<4> 前記耐熱性多孔質層は、無機フィラーを含み、前記無機フィラーの含有量が、前記耐熱性樹脂1質量部に対し1〜10質量部の範囲である、前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の非水電解質電池用セパレータ。
<5> 前記フッ素系樹脂は、(i)ポリフッ化ビニリデン、及び、(ii)フッ化ビニリデンと、パーフルオロアルキルビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレン、3フッ化塩化エチレン、テトラフロロエチレン及びエチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーとが、前記モノマーのモル分率1〜10%で共重合した共重合体、の少なくとも一方である、前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載の非水電解質電池用セパレータ。
<6> 前記耐熱性樹脂は、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド及びポリスルホンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記<1>〜<5>のいずれか1項に記載の非水電解質電池用セパレータ。
<7> 前記接着性多孔質層が、前記多孔質基材の両面に設けられた前記耐熱性多孔質層の各々の上に設けられている、前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載の非水電解質電池用セパレータ。
<8> 正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された前記<1>〜<7>のいずれか1項に記載の非水電解質電池用セパレータとを備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水電解質電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電極との接着性、耐熱性及びシャットダウン特性に優れる非水電解質電池用セパレータ、並びにサイクル特性に優れる非水電解質電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態について順次説明する。なお、これらの説明および実施例は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本明細書において、各層の積層関係について「上」及び「下」で表現する場合、基材に対してより近い層について「下」といい、基材に対してより遠い層について「上」という。
【0010】
<非水電解質電池用セパレータ>
本発明の非水電解質電池用セパレータは、
ポリオレフィンを含む多孔質基材(以下、「ポリオレフィン多孔質基材」、「多孔質基材」及び「基材」とも称する。)と、
前記多孔質基材の両面に設けられた耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層と、
前記耐熱性多孔質層の少なくとも一方の上に設けられたフッ素系樹脂を含む接着性多孔質層とを備える。
前記非水電解質電池用セパレータは、基材を挟んで両面に耐熱性多孔質層を設け、該層上に接着性多孔質層を設けたことにより、電極との接着性、耐熱性、シャットダウン特性のすべてにおいてバランスよく優れた性能を示す。そして、前記非水電解質電池用セパレータは、電池を作製したときに電極とセパレータとの接着が保たれ、また、多孔質層が電解液をよく保持するので、サイクル特性に優れる。
【0011】
[ポリオレフィン多孔質基材]
前記ポリオレフィン多孔質基材は、内部に空孔ないし空隙を有する基材である。このようなポリオレフィン基材としては、ポリオレフィンからなる微多孔膜や、ポリオレフィンからなる繊維状物などの多孔性シートを挙げることができる。なお、微多孔膜とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった膜である。
前記ポリオレフィン多孔質基材は、130〜150℃で軟化し、多孔質の空孔ないし空隙が閉塞されシャットダウン機能を発現し、かつ非水電解質電池の電解液に溶解しない多孔質基材であることが好ましい。本発明においては、かかる多孔質基材として、ポリオレフィン微多孔膜が好ましい。
【0012】
前記ポリオレフィン微多孔膜としては、従来の非水電解質電池用セパレータに適用されているポリオレフィン微多孔膜の中から、十分な力学物性とイオン透過性を有するものを好適に用いることができる。
前記ポリオレフィン微多孔膜は、電池の安全性を確保するためのシャットダウン機能を有する観点から、ポリエチレンを主体としていることが好ましい。具体的には、ポリエチレンが95質量%以上含まれる厚さ5μm以上の層を有していることが好ましい。
ほかに、高温に晒されたときの電池の安全性を確保する観点からは、ポリエチレンに加えポリプロピレンも含むポリオレフィン微多孔膜が好適である。この場合、シャットダウン機能との兼ね合いを考慮すると、95質量%以上のポリエチレンと5質量%以下のポリプロピレンとを含むことが好ましい。また、ポリオレフィン微多孔膜が少なくとも2つの層を備え、少なくとも1層はポリエチレンからなり、少なくとも1層はポリプロピレンからなる積層構造のポリオレフィン微多孔膜も、シャットダウン機能と耐熱性の両立という観点から好適に用いられる。
【0013】
前記ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィンは、重量平均分子量が10万〜500万のものが好適である。重量平均分子量が10万以上であると、十分な力学物性を確保できる。他方、重量平均分子量が500万以下であると、シャットダウン特性が良好であるし、膜の成形がしやすい。
【0014】
前記ポリオレフィン微多孔膜は、例えば以下の方法で製造可能である。すなわち、溶融したポリオレフィン樹脂をT−ダイから押し出し、シート化し、これを結晶化処理した後延伸し、さらに熱処理をして微多孔膜とする方法である。または、流動パラフィンなどの可塑剤と一緒に溶融したポリオレフィン樹脂をT−ダイから押し出し、これを冷却してシート化し、延伸した後、可塑剤を抽出し熱処理をして微多孔膜とする方法である。
【0015】
前記ポリオレフィン多孔質基材の厚さは、5μm〜25μmが好ましい。膜厚が5μm以上であると、十分な力学物性を得ることができ、またハンドリング性がよい。膜厚が25μm以下であると、内部抵抗が適度な範囲に抑えられる。
前記ポリオレフィン多孔質基材のガーレ値(JIS P8117)は、50〜800秒/100ccが好ましい。ガーレ値が50秒/100cc以上であると、微小短絡などの問題が生じにくい。他方、800秒/100cc以下であると、イオン透過性が十分である。
前記ポリオレフィン多孔質基材の突刺強度は、製造歩留まりの観点から、300g以上であることが好ましい。
【0016】
[耐熱性多孔質層]
前記耐熱性多孔質層としては、微多孔膜状、不織布状、紙状、その他三次元ネットワーク状の多孔質構造を有した層を挙げることができる。耐熱性多孔質層としては、より優れた耐熱性が得られる観点から、微多孔膜状の層であることが好ましい。ここで、微多孔膜状の層とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった層をいう。耐熱性とは、200℃未満の温度領域で溶融ないし分解等を起こさない性状をいう。
【0017】
前記耐熱性多孔質層は、ポリオレフィン多孔質基材の両面にある。本発明のセパレータは、基材の両面に耐熱性多孔質層を有するため、耐熱性に優れ、電池としたとき高温での安全性に優れる。また、本発明のセパレータは、基材の両面に耐熱性多孔質層を有するため、電解液の保持性がよくサイクル特性(容量維持率)に優れる。さらに、耐久性及びハンドリング性に優れる。
【0018】
前記耐熱性多孔質層は、耐熱性、ハンドリング性、及び液枯れの防止効果の観点から、両面の厚さの合計が2μm〜12μmであることが好ましい。
前記耐熱性多孔質層の空孔率は、40〜90%が好ましく、60〜90%がより好ましい。
【0019】
(耐熱性樹脂)
前記耐熱性多孔質層に含まれる耐熱性樹脂としては、融点が200℃以上のポリマー、あるいは、融点を有しないが分解温度が200℃以上のポリマーが好ましい。例えば、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、セルロース、及びポリフッ化ビニリデン含有樹脂が挙げられる。中でも、電解液の保持性に優れる観点から、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド及びポリスルホンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
かかる耐熱性樹脂は、特に耐久性の観点から、全芳香族ポリアミドが好適であり、多孔質層を形成しやすく、電極反応において耐酸化還元性に優れるという観点から、メタ型全芳香族ポリアミドであるポリメタフェニレンイソフタルアミド、ポリパラフェニレンテレフタルアミドが更に好適であり、ポリメタフェニレンイソフタルアミドが特に好適である。
【0020】
(有機フィラー及び無機フィラー)
前記耐熱性多孔質層は、有機フィラー及び無機フィラー(以下、あわせて「フィラー」と称する。)の少なくとも一方を含んでいてもよい。耐熱性多孔質層は、耐熱性多孔質層の表面粗さを適度な大きさにする観点から、フィラーの少なくとも1種を含むことが好ましい。耐熱性多孔質層の表面粗さが適度に大きいと、接着性多孔質層との接着性が上がる点で有利である。
フィラーは、耐熱性樹脂との混合時を考慮すると、極性が高く高分散が容易な観点から、有機フィラーより無機フィラーの方が好ましい。
【0021】
有機フィラーとしては、特に限定はないが、例えばメラニン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。
有機フィラーは、その平均粒子径が0.1μm〜3.0μmの範囲であることが好ましい。平均粒子径が0.1μmより大きいと、耐熱性多孔質層の表面が適度に粗くなり、耐熱性多孔質層と接着性多孔質層との接着性が良好である。他方、平均粒子径が3.0μmより小さいと、耐熱性多孔質層が脆くなることを回避でき、セパレータのハンドリング性がよい。
【0022】
無機フィラーとしては、特に限定はないが、例えばアルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニア等の金属酸化物、炭酸カルシウム等の金属炭酸塩、リン酸カルシウム等の金属リン酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物等が好適に用いられる。無機フィラーは、安定性又は耐熱性の観点から、酸化物及び水酸化物が好ましい。
無機フィラーは、その平均粒子径が0.1μm〜3.0μmの範囲であることが好ましい。平均粒子径が0.1μmより大きいと、耐熱性多孔質層の表面が適度に粗くなり、耐熱性多孔質層と接着性多孔質層との接着性が良好である。他方、平均粒子径が3.0μmより小さいと、耐熱性多孔質層が脆くなることを回避でき、セパレータのハンドリング性がよい。
【0023】
前記耐熱性多孔質層において、無機フィラーの含有量は、耐熱性樹脂1質量部に対し1〜10質量部の範囲が好ましい。無機フィラーの含有量が、耐熱性樹脂1質量部に対し1質量部以上であると、耐熱性多孔質層と接着性多孔質層との接着性が良好である。他方、耐熱性樹脂1質量部に対し10質量部以下であると、耐熱性多孔質層が脆くなり粉落ちが発生することを回避でき、またセパレータのハンドリング性がよい。無機フィラーの含有量は、耐熱性樹脂1質量部に対し1〜5質量部の範囲がより好ましい。
【0024】
(耐熱性多孔質層の形成方法)
前記耐熱性多孔質層の形成方法に特に制限はないが、例えば下記(1)〜(5)の工程を経て形成することが可能である。前記耐熱性多孔質層を基材上に固定するためには、耐熱性多孔質層を塗工法により基材上に直接形成する手法が好ましいが、これに限らず、別途製造した耐熱性多孔質層のシートを基材上に接着剤等を用いて接着する手法や、熱融着や圧着などの手法も採用することができる。
【0025】
(1)塗工用スラリーの作製
耐熱性樹脂を溶剤に溶かし、塗工用スラリーを作製する。溶剤は耐熱性樹脂を溶解するものであればよく、特に限定はないが、極性溶剤が好ましく、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。また、当該溶剤は、極性溶剤に加えて耐熱性樹脂に対して貧溶剤となる溶剤も加えることができる。このような貧溶剤を適用することでミクロ相分離構造が誘発され、耐熱性多孔質層を形成する上で多孔化が容易となる。貧溶剤としては、アルコール類が好適であり、特にグリコールのような多価アルコールが好適である。
塗工用スラリー中の耐熱性樹脂の濃度は4〜9質量%が好ましい。また必要に応じ、これに有機フィラー又は無機フィラーを分散させて塗工用スラリーとする。塗工用スラリー中に無機フィラーを分散させるに当たって、無機フィラーの分散性が好ましくないときは、無機フィラーをシランカップリング剤等で表面処理し、分散性を改善する手法も適用可能である。
【0026】
(2)スラリーの塗工
スラリーをポリオレフィン多孔質基材の両方の表面に塗工する。基材の両面に同時に塗工することが、工程の短縮という観点で好ましい。塗工用スラリーを塗工する方法としては、ナイフコーター法、グラビアコーター法、マイヤーバー法、ダイコーター法、リバースロールコーター法、ロールコーター法、スクリーン印刷法、インクジェット法、スプレー法等が挙げられる。この中でも、塗布層を均一に形成するという観点において、リバースロールコーター法が好適である。例えば、基材を一対のマイヤーバーの間に通すことで基材の両面に過剰な塗工用スラリーを塗布し、これを一対のリバースロールコーターの間に通して過剰なスラリーを掻き落すことで精密計量するという方法を採用できる。
【0027】
(3)スラリーの凝固
ポリオレフィン多孔質基材に塗工用スラリーを塗工したものを、耐熱性樹脂を凝固させることが可能な凝固液で処理することにより、耐熱性樹脂を凝固させて、耐熱性多孔質層を形成する。凝固液で処理する方法としては、塗工用スラリーを塗工した面に凝固液をスプレーで吹き付ける方法や、塗工用スラリーを塗工したポリオレフィン多孔質基材を凝固液の入った浴(凝固浴)中に浸漬する方法等が挙げられる。凝固液としては、耐熱性樹脂を凝固できるものであれば特に限定されないが、水、又は、スラリーに用いた溶剤に水を適当量混合したものが好ましい。ここで、水の混合量は、凝固効率や多孔化の観点から、凝固液に対して40〜80質量%が好ましい。
【0028】
(4)凝固液の除去
スラリーの凝固に用いた凝固液を、水洗することによって、除去する。
【0029】
(5)乾燥
ポリオレフィン多孔質基材に耐熱性樹脂の塗工層を形成したシートから、水を乾燥により除去する。乾燥方法は特に限定はないが、乾燥温度は50〜80℃が好適であり、高い乾燥温度を適用する場合は、熱収縮による寸法変化が起こらないようにするためにロールに接触させる方法などを適用することが好ましい。
【0030】
[接着性多孔質層]
前記接着性多孔質層は、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった層である。
前記接着性多孔質層は、ポリオレフィン多孔質基材の片面又は両面において、耐熱性多孔質層の上に積層されてある。前記接着性多孔質層は、本発明のセパレータを電池に適用したときに電極と接触する。前記接着性多孔質層は、基材の片面のみにあるよりも両面にある方が、電池のサイクル特性(容量維持率)がより優れる観点から好ましい。前記接着性多孔質層が基材の両面にあると、セパレータの両面が接着性多孔質層を介して正極と負極の両方に接触し、セパレータと両電極とがよく接着する。
【0031】
前記接着性多孔質層は、イオン透過性という観点から十分に多孔化された構造であることが好ましい。具体的には、空孔率が30〜80%であることが好ましい。空孔率が80%以下であると、電極と接着させるプレス工程に耐え得る力学物性を確保できる。また、空孔率が80%以下であると、表面開孔率が高過ぎず十分な接着力を確保することができる。他方、空孔率が30%以上であると、イオン透過性が良好である。
また、前記接着性多孔質層は、平均孔径が10nm〜200nmであることが好ましい。平均孔径が200nm以下であると、孔の不均一性が抑えられ、接着点が均等に散在し、接着性がよい。また、平均孔径が200nm以下であると、イオンの移動が均一でサイクル特性及び負荷特性がよい。他方、平均孔径が10nm以上であると、接着性多孔質層に電解液を含浸させたとき、樹脂が膨潤して孔を閉塞しイオン透過性が阻害されることが起きにくい。
【0032】
前記接着性多孔質層の厚さは、電極との接着性及びイオン透過性の観点から、片面につき0.5μm〜10μmであることが好ましく、1μm〜5μmであることがより好ましい。
前記接着性多孔質層の塗工量は、基材の片面に形成されている場合、基材の両面に形成されている場合ともに、0.5g/m〜3.5g/mの範囲であることが好ましい。前記塗工量が0.5g/m以上であると、電極との接着性が良好で、電池のサイクル特性がよい。他方、前記塗工量が3.5g/m以下であると、イオン透過性が良好で、電池の負荷特性がよい。接着性多孔質層の塗工量は、1.0g/m〜2.5g/mの範囲であることがより好ましく、1.5g/m〜2.5g/mの範囲であることが更に好ましい。
【0033】
(フッ素系樹脂)
前記接着性多孔質層に含まれるフッ素系樹脂としては、特に限定はない。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン共重合体、ポリフッ化ビニル、ペルフルオロアルコキシフッソ樹脂、四フッ化エチレン・6フッ化エチレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体等が挙げられる。特に、ポリフッ化ビニリデン及びポリフッ化ビニリデン共重合体が好ましい。このようなフッ素系樹脂は、乳化重合又は懸濁重合により得ることが可能である。
【0034】
(ポリフッ化ビニリデン系樹脂)
本発明において、フッ素系樹脂は、電極との接着性の観点から、ポリフッ化ビニリデン系樹脂であることが好ましく、下記(i)及び(ii)の少なくとも一方であることが好ましい。特に、耐熱性多孔質層と接着性多孔質層との接着性の観点では、下記(ii)の共重合体が好ましい。
(i)ポリフッ化ビニリデン
(ii)フッ化ビニリデンと、パーフルオロアルキルビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレン、3フッ化塩化エチレン、テトラフロロエチレン及びエチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーとが、前記モノマーのモル分率1〜10%で共重合した共重合体(以下、「特定ポリフッ化ビニリデン共重合体」とも称する。)
【0035】
前記の特定ポリフッ化ビニリデン共重合体は、パーフルオロアルキルビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレン、3フッ化塩化エチレン、テトラフロロエチレン及びエチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマー(以下、「コモノマー」とも称する。)のモル分率が1〜10%である。ポリフッ化ビニリデン共重合体は、コモノマーの含有率が多いと電解液に膨潤しやすい傾向がある。コモノマーのモル分率が10%以下であると、接着性多孔質層の形状保持性が高く、電解液の保持性がよくなるため、サイクル特性がよい。他方、コモノマーのモル分率が1%以上であると、耐熱性多孔質層との接着性が良好である。
特定ポリフッ化ビニリデン共重合体の中でも、電解液保持性及び耐熱性多孔質層との接着性の観点から、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとが、ヘキサフルオロプロピレンのモル分率1〜10%で共重合した共重合体が好ましい。
【0036】
本発明に用いるポリフッ化ビニリデン系樹脂は、重量平均分子量が30万〜150万の範囲であることが好ましい。重量平均分子量が30万以上であると、接着性多孔質層が電極との接着処理に耐える力学物性を確保でき、十分な接着性が得られる。他方、重量平均分子量が150万以下であると、成形時の粘度が高くなり過ぎず成形性及び結晶形成がよく、多孔化が良好である。より好ましくは50万〜120万の範囲である。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂のフィブリル径は、サイクル特性の観点から、10nm〜1000nmの範囲であることが好ましい。
【0037】
(接着性多孔質層の形成方法)
本発明において、接着性多孔質層の形成方法に特に制限はない。ポリフッ化ビニリデン系樹脂の層(以下、「PVdF層」と称する。)については、例えば特許第4163894号に記載されている湿式塗工法によって形成することができる。湿式塗工法は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を適切な溶媒に溶解させて塗工用ドープを調製し、この塗工用ドープを基材に塗工し、その後、適切な凝固液に浸漬させることで、相分離を誘発しつつポリフッ化ビニリデン系樹脂を固化させ、水洗と乾燥を行って、基材上に多孔質層を形成する製膜法である。本発明に好適な湿式塗工法の詳細は、以下のとおりである。
【0038】
塗工用ドープの調製に用いる、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を溶解する溶媒(以下、「良溶媒」とも称する。)としては、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド等の極性アミド溶媒が好適に用いられる。良好な多孔構造を形成する観点から、良溶媒に加えて相分離を誘発させる相分離剤を混合させることが好ましい。相分離剤としては、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。塗工用ドープは、良好な多孔構造を形成する観点から、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の濃度が3〜10質量%であることが好ましい。
【0039】
凝固液は、塗工用ドープの調製に用いた良溶媒と相分離剤、及び水から構成されるのが一般的である。良溶媒と相分離剤の混合比はポリフッ化ビニリデン系樹脂の溶解に用いた混合溶媒の混合比に合わせるのが生産上好ましい。水の濃度は40〜90質量%であることが多孔構造形成、生産性の観点から適切である。
【0040】
基材への塗工用ドープの塗工は、マイヤーバー、ダイコーター、リバースロールコーター、グラビアコーターなど従来の塗工方式を適用することが可能である。PVdF層を基材の両面に形成する場合、塗工用ドープを両面同時に基材へ塗工することが生産性の観点から好ましい。
【0041】
上記のような湿式塗工法においては、PVdF層と耐熱性多孔質層との接着性を上げる観点から、条件を下記のように調整することが好ましい。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂を溶解させる溶媒として、通常、良溶媒と相分離剤(以下、「貧溶媒」とも称する。)の混合溶媒が使用されるが、この混合比を調整することにより、耐熱性多孔質層の表面を適度に溶解又は膨潤させて、耐熱性多孔質層とPVdF層の接着性を高めることが好ましい。具体的には、耐熱性多孔質層に芳香族ポリアミドを用いた場合、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の溶解に用いる良溶媒(例えば、ジメチルアセトアミド:DMAc)と貧溶媒(例えば、トリプロピレングリコール:TPG)の混合割合は、質量比90:10〜60:40の範囲が好ましい。良溶媒の割合が60質量%以上であると、耐熱性多孔質層の表面が適度に溶解又は膨潤し、耐熱性多孔質層とPVdF層の接着性がよい。他方、貧溶媒の割合が10質量%以上であると、多孔質化が良好な点で有利である。
また、凝固液(通常、良溶媒と貧溶媒、及び水から構成される)に浸漬させて凝固させる工程においては、凝固速度は速い方が好ましい。すなわち、凝固液の溶剤濃度が低いほど、また凝固液温度が高いほど、接着性が向上する傾向がある。ただし、凝固速度が速過ぎると、PVdF層の表面が緻密となり過ぎるので、適度な多孔質構造を得ることと、耐熱性多孔質層との接着性とのバランスを考慮する。
具体的には、凝固浴の水:溶剤(良溶媒と貧溶媒の合計)の割合は、質量比90:10〜50:50の範囲が好ましい。水の量が90質量%以下、即ち溶剤濃度が10質量%以上であると、PVdF層の表面が緻密になり過ぎず良好な多孔質構造が得られつつ、耐熱性多孔質層の表面が適度に溶解又は膨潤し、耐熱性多孔質層とPVdF層の接着性を確保できる。他方、水の量が50質量%以上であると、凝固速度が適度に速く、耐熱性多孔質層への接着性がよい。
【0042】
前記接着性多孔質層は、上述した湿式塗工法以外にも、乾式塗工法で製造することが可能である。ここで、乾式塗工法とは、例えばポリフッ化ビニリデン系樹脂と溶媒を含んだ塗工用ドープを基材に塗工し、これを乾燥することで溶媒を揮発除去することにより、多孔層を得る方法である。ただし、乾式塗工法は湿式塗工法と比べて塗工層が緻密になり易く、良好な多孔質構造を得られる点で湿式塗工法のほうが好ましい。
【0043】
前記接着性多孔質層は、アルミナ等の金属酸化物や、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物等の無機フィラーを含有していてもよい。この場合、多孔質層の形成の際に、塗工用ドープに無機フィラーを分散すればよい。ただし、接着性多孔質層が無機フィラーを含むと、電極に対する接着性が低下するおそれもあるため、接着性多孔質層は無機フィラーを含まない方が好ましい。
【0044】
(セパレータの諸特性)
本発明の非水電解質電池用セパレータのシャットダウン温度は、130〜155℃であることが好ましい。シャットダウン温度が130℃以上であると、低温でメルトダウンすることがなく安全性が高い。他方、シャットダウン温度が155℃以下であると、電池の各種素材が高温に曝されることがなく、安全確保が期待できる。前記シャットダウン温度は、より好ましくは135〜150℃である。
【0045】
前記非水電解質電池用セパレータは、MD方向の熱収縮率が15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。また、TD方向の熱収縮率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。熱収縮率がこの範囲にあると、セパレータの耐熱性がよく、高温においても電池の安全性を確保できる。ここで熱収縮率とは、実施例に記載の評価方法によって135℃の環境下で測定される。
【0046】
前記非水電解質電池用セパレータは、機械強度と電池としたときのエネルギー密度の観点から、全体の膜厚が5μm〜35μmであることが好ましい。
前記非水電解質電池用セパレータの空孔率は、機械的強度、ハンドリング性、及びイオン透過性の観点から、30〜60%であることが好ましい。
前記非水電解質電池用セパレータのガーレ値(JIS P8117)は、機械強度と膜抵抗のバランスがよい点で、50〜800秒/100ccであることが好ましく、100〜500秒/100ccであることがより好ましい。
前記非水電解質電池用セパレータの膜抵抗は、電池の負荷特性の観点から、1〜10ohm・cmであることが好ましい。ここで膜抵抗とは、セパレータに電解液を含浸させたときの抵抗値であり、交流法にて測定される。当然、電解液の種類、温度によって異なるが、上記の数値は電解液として1M LiBF プロピレンカーボネート/エチレンカーボネート(質量比1/1)を用い、20℃にて測定した数値である。
前記非水電解質電池用セパレータの突刺強度は、耐短絡性、機械強度、及びハンドリング性の観点から、250g以上であることが好ましい。
前記非水電解質電池用セパレータの引張強度は、耐短絡性、機械強度、及びハンドリング性の観点から、10N以上であることが好ましい。
前記非水電解質電池用セパレータの曲路率は、イオン透過性の観点から、1.5〜2.5であることが好ましい。
【0047】
<非水電解質電池>
本発明の非水電解質電池は、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水電解質電池であって、正極と、負極と、既述の構成の非水電解質電池用セパレータを備える。非水電解質電池は、負極と正極がセパレータを介して対向している電池要素に電解液が含浸され、これが外装に封入された構造を有する。かかる構成の非水電解質電池の中でも、非水電解質二次電池、特にはリチウムイオン二次電池が好ましい。
【0048】
本発明の非水電解質電池は、セパレータとして、既述した本発明の非水電解質電池用セパレータを用いる。かかる構成の非水電解質電池は、シャットダウン機能及び耐熱性を有し、サイクル特性(容量維持率)に優れる。
【0049】
負極は、負極活物質、導電助剤及びバインダーからなる負極合剤が、集電体上に成形された構造である。負極活物質としては、リチウムを電気化学的にドープすることが可能な材料が挙げられ、例えば炭素材料、シリコン、アルミニウム、スズ、ウッド合金等が挙げられる。導電助剤は、アセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えばポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。集電体には銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔等を用いることが可能である。
【0050】
正極は、正極活物質、導電助剤及びバインダーからなる正極合剤が、集電体上に成形された構造である。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物等が挙げられ、具体的にはLiCoO、LiNiO、LiMn0.5Ni0.5、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiMn、LiFePO、LiCo0.5Ni0.5、LiAl0.25Ni0.75等が挙げられる。導電助剤はアセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えばポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。集電体にはアルミ箔、ステンレス箔、チタン箔等を用いることが可能である。
【0051】
電解液は、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した溶液である。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClO等が挙げられる。非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネート等が挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。
【0052】
外装材は、金属缶又はアルミラミネートパック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型等があるが、本発明の非水電解質電池用セパレータはいずれの形状においても好適に適用することが可能である。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
以下の実施例及び比較例において、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む接着性多孔質層を「PVdF層」と呼称する。
【0054】
本発明の実施例及び比較例で適用した測定方法は、以下のとおりである。
[膜厚]
膜厚(μm)は、接触式の厚み計(LITEMATIC、ミツトヨ社製)にて20点測定し、これを平均することで求めた。ここで、測定端子は直径5mmの円柱状のものを用い、測定中に7gの荷重が印加されるように調整した。
【0055】
[PVdF塗工量]
PVdF塗工後のサンプルを10cm×10cmに切り出し質量を測定し、質量を面積で除することで、目付(1m当たりの質量)を求めた。別途、PVdF塗工前のサンプルを10cm×10cmに切り出し質量を測定し、質量を面積で除することで、目付を求めた。前者の目付から後者の目付を減じ、PVdF塗工量(g/m)を求めた。
【0056】
[シャットダウン特性]
作製したセパレータに電解液を含浸させSUS板に挟み、これをコインセル中に封入した。電解液には、LiBFをプロピレンカーボネートとエチレンカーボネートの混合溶媒(質量比1:1)に1mol/L溶解したものを用いた。コインセルからリード線をとり、熱電対を付けてオーブンの中に入れた。昇温速度1.6℃/分で昇温させ、同時に振幅10mV、1kHzの周波数の交流を印加することで抵抗を測定した。
シャットダウン特性については、抵抗値が10ohm・cmに達した時の温度が130〜155℃である場合を良好と判断し、抵抗値が10ohm・cmに達しないか、あるいは達したとしてもその時の温度が155℃を超えた場合を不良と判断した。
【0057】
[熱収縮率]
サンプルを18cm(MD方向)×6cm(TD方向)に切り出した。TD方向を2等分する線上で、かつ、一方の端から2cm及び17cmの2点(点A及び点B)に印をつけた。また、MD方向を2等分する線上で、かつ、一方の端から1cm及び5cmの2点(点C及び点D)に印をつけた。点Aから最も近い端と点Aとの間をクリップで把持し、135℃のオーブンの中にMD方向が重力方向となるようにつるし、無張力下で30分間熱処理を行った。熱処理前後のAB間及びCD間の長さを測定し、以下の式から熱収縮率(%)を算出した。
MD方向熱収縮率(%)=(熱処理前のAB間の長さ−熱処理後のAB間の長さ)/(熱処理前のAB間の長さ)×100
TD方向熱収縮率(%)=(熱処理前のCD間の長さ−熱処理後のCD間の長さ)/(熱処理前のCD間の長さ)×100
【0058】
[電極接着性]
試験電池を解体し、セパレータから負極と正極とをそれぞれ剥がす時の力の大きさを、引張試験機を用いて測定した。実施例1におけるセパレータから電極を剥がす時に必要な力を100としたときの指数として評価した。指数60以上が実用的に好ましいレベルである。
【0059】
[サイクル特性(容量維持率)]
充電条件を1C、4.2Vの定電流定電圧充電、放電条件を1C、2.75Vカットオフの定電流放電とし、30℃の環境下で充放電を繰返した。300サイクル目の放電容量を初期容量で除して得られた値を容量維持率(%)とした。
【0060】
[負荷特性]
25℃の環境下、0.2Cで放電した時の放電容量と、2Cで放電した時の放電容量とを測定し、後者を前者で除して得られた値(%)を負荷特性の指標とした。ここで、充電条件は0.2C、4.2Vの定電流定電圧充電8時間とし、放電条件は2.75Vカットオフの定電流放電とした。
【0061】
[層間の接着性]
セパレータのPVdF層の表面にセロハンテープを貼り、セロハンテープを引っ張って剥がすときの力をバネばかりで測定し、耐熱性多孔質層とPVdF層との接着性を評価した。
ここで、実施例1のセパレータについて剥離力を測定した場合、PVdF層と耐熱性多孔質層との界面において剥離が発生せずに、セロハンテープのみがPVdF層からきれいに剥がれた。このときのバネばかりの測定値を指数100とし、これとの比較で他の実施例の測定値を指数化した。なお、他の実施例において指数100未満となった場合は、セロハンテープがPVdF層から剥がれる前に、PVdF層と耐熱性多孔質層との界面において剥離が発生していた。
【0062】
[粉落ち]
ポリオレフィン多孔質基材上に耐熱性多孔質層が形成されたフィルムどうし2枚を擦り合わせて、擦り合わせた面において、粉落ちが目視でまったく確認されない場合を○、粉落ちが目視で確認される場合を×と評価した。
【0063】
<実施例1>
[非水電解質電池用セパレータの作製]
(耐熱性多孔質層の形成)
メタ型アラミド樹脂(コーネックス、帝人製)と、無機フィラーとして平均粒子径0.8μmの水酸化マグネシウム(キスマ5P、協和化学社製)とを、両者の質量比が1:4で、メタ型アラミド樹脂濃度が5.0質量%となるように、ジメチルアセトアミド(DMAc)とトリプロピレングリコール(TPG)の混合溶媒(DMAc:TPG=60:40[質量比])に混合し、塗工用スラリー(I)を得た。
一対のマイヤーバーに塗工用スラリー(I)を適量のせ、ポリエチレン微多孔膜(TN1201、SK社製、膜厚12μm)をマイヤーバー間に通して、両面に塗工用スラリー(I)を塗工した。これを、30℃の凝固液(水:DMAc:TPG=70:18:12[質量比])に浸漬した。次いで、水温40℃の水洗槽で洗浄後、乾燥し、ポリオレフィン多孔質基材の両面に耐熱性多孔質層が形成されたフィルム(膜厚20μm)を得た。
【0064】
(PVdF層の形成)
ポリフッ化ビニリデン系樹脂としてフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンのランダムコポリマー(共重合比[モル比]VdF:HFP=95:5、KYNAR2801、アルケマ社製)を8質量%で、DMAcとTPGの混合溶媒(DMAc:TPG=70:30[質量比])に溶解し、塗工用ドープ(A)を作製した。
一対のマイヤーバーに塗工用ドープ(A)を適量のせ、前記フィルムをマイヤーバー間に通して、表面と裏面の塗工量が同じになるように、両面に塗工用ドープ(A)を塗工した。これを、30℃の凝固液(水:DMAc:TPG=70:21:9[質量比])に浸漬した。次いで、水温40℃の水洗槽で洗浄後、乾燥し、前記フィルムの両面にPVdF層(PVdF塗工量1.9g/m)が形成された非水電解質電池用セパレータ(膜厚24μm)を得た。
【0065】
[非水電解質電池の作製]
(負極の作製)
負極活物質である人造黒鉛(MCMB25−28、大阪ガス化学社製)300g、バインダーである日本ゼオン製「BM−400B」(スチレン−ブタジエン共重合体の変性体を40質量%含む水溶性分散液)7.5g、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース3g、及び適量の水を双腕式混合機にて攪拌し、負極用スラリーを作製した。この負極用スラリーを負極集電体である厚さ10μmの銅箔に塗布し、乾燥後プレスして、負極活物質層を有する負極を得た。
【0066】
(正極の作製)
正極活物質であるコバルト酸リチウム(セルシードC、日本化学工業社製)粉末89.5g、導電助剤のアセチレンブラック(デンカブラック、電気化学工業社製)4.5g、及びバインダーであるポリフッ化ビニリデン(KFポリマー W#1100、クレハ化学社製)6gを、6質量%となるようにN−メチル−ピロリドン(NMP)に溶解し、双腕式混合機にて攪拌し、正極用スラリーを作製した。この正極用スラリーを正極集電体である厚さ20μmのアルミ箔に塗布し、乾燥後プレスして、正極活物質層を有する正極を得た。
【0067】
(電池の作製)
前記の正極と負極にリードタブを溶接し、セパレータを介してこれら正負極を接合させ、電解液をしみ込ませてアルミパック中に真空シーラーを用いて封入した。ここで、電解液は1M LiPF−エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(質量比3/7)を用いた。これに、熱プレス機を用いて熱プレス(電極1cm当たり20kgの荷重、90℃、2分)を行って、試験電池を得た。
【0068】
<実施例2>
塗工用ドープ(A)の塗工時にマイヤーバー間のクリアランスを調節する以外は、実施例1と同様にして、PVdF塗工量が1.0g/mの非水電解質電池用セパレータ(膜厚22μm)を得た。そして、実施例1と同様にして非水電解質電池を作製した。
【0069】
<実施例3>
塗工用ドープ(A)の塗工時にマイヤーバー間のクリアランスを調節する以外は、実施例1と同様にして、PVdF塗工量が0.5g/mの非水電解質電池用セパレータ(膜厚21μm)を得た。そして、実施例1と同様にして非水電解質電池を作製した。
【0070】
<実施例4>
塗工用ドープ(A)の塗工時にマイヤーバー間のクリアランスを調節する以外は、実施例1と同様にして、PVdF塗工量が3.5g/mの非水電解質電池用セパレータ(膜厚26μm)を得た。そして、実施例1と同様にして非水電解質電池を作製した。
【0071】
<実施例5>
塗工用ドープ(A)を前記フィルムの片面に塗工した以外は、実施例1と同様にして、PVdF塗工量が0.9g/mの非水電解質電池用セパレータ(膜厚22μm)を得た。そして、実施例1と同様にして、ただし、負極側にPVdF層が接触するように、非水電解質電池を作製した。
【0072】
<実施例6>
メタ型アラミド樹脂と無機フィラーの質量比を1:1に変えて塗工用スラリーを作製し、この塗工用スラリー(II)を用いて耐熱性多孔質層を形成した以外は実施例1と同様にして、PVdF塗工量が1.8g/mの非水電解質電池用セパレータ(膜厚24μm)を得た。
【0073】
<実施例7>
ポリフッ化ビニリデン系樹脂をフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンのランダムコポリマー(KYNAR2750、アルケマ社製)に変えて塗工用ドープを作製し、この塗工用ドープ(B)を用いてPVdF層を形成した以外は実施例1と同様にして、PVdF塗工量が1.5g/mの非水電解質電池用セパレータ(膜厚23μm)を得た。
【0074】
<実施例8>
無機フィラーの添加なしで塗工用スラリーを作製し、この塗工用スラリー(III)を用いて耐熱性多孔質層を形成した以外は実施例1と同様にして、PVdF塗工量が1.7g/mの非水電解質電池用セパレータ(膜厚24μm)を得た。
【0075】
<実施例9>
メタ型アラミド樹脂と無機フィラーの質量比を1:20に変えて塗工用スラリーを作製し、この塗工用スラリー(IV)を用いて耐熱性多孔質層を形成した以外は実施例1と同様にして、PVdF塗工量が1.9g/mの非水電解質電池用セパレータ(膜厚24μm)を得た。
【0076】
<実施例10>
ポリフッ化ビニリデン系樹脂をフッ化ビニリデンのホモポリマー(KYNAR721、アルケマ社製)に変えて塗工用ドープを作製し、この塗工用ドープ(C)を用いてPVdF層を形成した以外は実施例1と同様にして、PVdF塗工量が1.4g/mの非水電解質電池用セパレータ(膜厚23μm)を得た。
【0077】
<実施例11>
ポリフッ化ビニリデン系樹脂をフッ化ビニリデンのホモポリマー(KYNAR761、アルケマ社製)に変えて塗工用ドープを作製し、この塗工用ドープ(D)を用いてPVdF層を形成した以外は実施例1と同様にして、PVdF塗工量が1.5g/mの非水電解質電池用セパレータ(膜厚23μm)を得た。
【0078】
<比較例1>
ポリエチレン微多孔膜(TN1201、SK社製、膜厚12μm)をセパレータとして用い、実施例1と同様にして非水電解質電池を作製した。
【0079】
<比較例2>
実施例1における「耐熱性多孔質層の形成」と同様にして、ポリオレフィン多孔質基材の両面に耐熱性多孔質層が形成されたフィルム(膜厚20μm)を得て、これをセパレータとして用い、実施例1と同様にして非水電解質電池を作製した。
【0080】
<比較例3>
一対のマイヤーバーに塗工用ドープ(A)を適量のせ、ポリエチレン微多孔膜(TN1201、SK社製、膜厚12μm)をマイヤーバー間に通して、両面に塗工用ドープ(A)を塗工した。これを、30℃の凝固液(水:DMAc:TPG=70:21:9[質量比])に浸漬した。次いで、水温40℃の水洗槽で洗浄後、乾燥し、ポリオレフィン多孔質基材の両面にPVdF層(PVdF塗工量1.8g/m)が形成された非水電解質電池用セパレータ(膜厚15μm)を得た。そして、実施例1と同様にして非水電解質電池を作製した。
【0081】
<比較例4>
一対のマイヤーバーに塗工用スラリー(I)を適量のせ、ポリエチレン微多孔膜(TN1201、SK社製、膜厚12μm)をマイヤーバー間に通して、片面に塗工用スラリー(I)を塗工した。これを、実施例1と同様にして、凝固、洗浄、乾燥し、ポリオレフィン多孔質基材の両面に耐熱性多孔質層が形成されたフィルム(膜厚16μm)を得た。このフィルムを用いて実施例1における「PVdF層の形成」と同様にして、前記フィルムの両面にPVdF層(PVdF塗工量1.7g/m)が形成された非水電解質電池用セパレータ(膜厚20μm)を得た。そして、実施例1と同様にして、ただし、耐熱性多孔質層上に設けたPVdF層が負極側に接触するように、非水電解質電池を作製した。
【0082】
【表1】

【0083】
表1に明らかなとおり、本発明の非水電解質電池用セパレータは、MD方向、TD方向ともに熱収縮率が低く、電極との接着性に優れ、電池としたときにシャットダウン特性及び容量維持率に優れていた。したがって、本発明の非水電解質電池用セパレータは、電池としたときに、安全性が高く且つサイクル特性に優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンを含む多孔質基材と、
前記多孔質基材の両面に設けられ、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層と、
前記耐熱性多孔質層の少なくとも一方の上に設けられ、フッ素系樹脂を含む接着性多孔質層と、
を備えた非水電解質電池用セパレータ。
【請求項2】
前記接着性多孔質層は、塗工量が0.5g/m以上3.5g/m以下の範囲である、請求項1に記載の非水電解質電池用セパレータ。
【請求項3】
前記耐熱性多孔質層が有機フィラー及び無機フィラーの少なくとも一方を含む、請求項1又は請求項2に記載の非水電解質電池用セパレータ。
【請求項4】
前記耐熱性多孔質層は、無機フィラーを含み、前記無機フィラーの含有量が、前記耐熱性樹脂1質量部に対し1〜10質量部の範囲である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の非水電解質電池用セパレータ。
【請求項5】
前記フッ素系樹脂は、
(i)ポリフッ化ビニリデン、及び、
(ii)フッ化ビニリデンと、パーフルオロアルキルビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレン、3フッ化塩化エチレン、テトラフロロエチレン及びエチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーとが、前記モノマーのモル分率1〜10%で共重合した共重合体、
の少なくとも一方である、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の非水電解質電池用セパレータ。
【請求項6】
前記耐熱性樹脂は、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド及びポリスルホンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の非水電解質電池用セパレータ。
【請求項7】
前記接着性多孔質層が、前記多孔質基材の両面に設けられた前記耐熱性多孔質層の各々の上に設けられている、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の非水電解質電池用セパレータ。
【請求項8】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の非水電解質電池用セパレータとを備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水電解質電池。

【公開番号】特開2013−20769(P2013−20769A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152188(P2011−152188)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】