説明

非水電解質電池

【課題】安全性と、内部短絡及びデンドライトによる短絡に対する信頼性とに優れ、且つ高温貯蔵時の特性低下を抑制できる非水電解質電池を提供する。
【解決手段】本発明の非水電解質電池は、正極、負極、セパレータ及び非水電解質を備え、前記正極及び前記負極から選ばれる少なくとも一方に、下記一般式(1)で示されるポリアミン基を含む材料を含み、前記正極及び前記負極から選ばれる少なくとも一方において、炭酸エステル溶媒中に含まれる遷移金属イオンの吸着量が、0.03μmol/cm2以上であることを特徴とする。
〔−(CH2CH2NH)n−〕 (1)
但し、前記一般式(1)において、nは2〜35の整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性、信頼性に優れ、且つ高温貯蔵時の性能低下を抑制できる非水電解質電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非水電解質電池の一種であるリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いという特徴から、携帯電話やノート型パーソナルコンピューターなどの携帯機器の電源として広く用いられている。携帯機器の高性能化に伴ってリチウムイオン二次電池の高容量化が更に進む傾向にあり、リチウムイオン二次電池の安全性、信頼性の確保が重要となっている。また、リチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度という特徴を活かして、自動車、バイク、自転車などの車載用途にも適用が進められており、車載用途に関しても、安全性、信頼性の確保は重要な課題となっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、単セルあたりの電位が他の電池に比べて高いという特徴を持っている反面、金属性の混入異物などがあった場合、電池内で異物の溶解析出が起こり、負極で析出した金属が成長してセパレータを突き破り短絡するという危険性を持っている。
【0004】
また、従来から一般的に用いられているリチウムイオン二次電池は、LiCoO2に代表される層状構造のリチウムコバルト複合酸化物を正極活物質に用い、グラファイト、非晶質黒鉛などの炭素材料を負極活物質に用い、LiPF6などのリチウム塩をエチレンカーボネート、ジエチルカーボネートなどの炭酸エステル類に溶解した非水電解液を電解質に用い、ポリオレフィンの微多孔膜をセパレータに用いた構成が一般的であった。近年、熱安定性を高めて安全性を確保したり、より高い電位で作動させてエネルギー密度を高めたりするために、LiMn24に代表されるスピネル型リチウムマンガン複合酸化物や、LiMnqNirCos2(q+r+s=1)で代表される層状化合物などが用いられるようになってきた。
【0005】
しかしながら、これらMnを含有する複合酸化物を正極に用いた場合、特に高温状態で正極からMnイオンが溶出し、正極の容量低下を招いたり、更には溶出したMnが負極に析出して負極の劣化を招いたり、電解液と反応してガス発生を起こしたりして、充放電にかかわる以外の副反応が起こることが知られている。
【0006】
これらの問題を解決するために、特許文献1、特許文献2などに示されたような、置換元素を用いてMn含有活物質の安定化を図り、Mnなどの金属溶出を抑制する試みがなされているが、上記に記載した副反応を完全に抑制することはできていない。
【0007】
また、特許文献3、特許文献4などには、混入した異物や正極から溶出した金属イオンを負極に到達する前に吸着する試みも行われている。
【0008】
しかしながら、置換元素を用いた活物質の変性は、金属溶出に対してある程度の効果があるものの、金属溶出を完全に抑制することができず、また、置換元素により充放電に用いることのできる容量が減少するというデメリットがある。
【0009】
また、金属イオンを電池内で吸着する方法として、特許文献3に示されたような、負極、セパレータ、電解質の少なくともいずれかにキレート化剤を含有させる方法では、添加したキレート化剤が正極や負極における酸化還元反応によって副反応を引き起こし、電池特性を劣化させるという問題がある。
【0010】
また、特許文献4では、酸化還元の影響を比較的受けにくいセパレータに、キレート化合物を含有させる方法が提案されているが、キレート化合物の特性基としてイミノジ酢酸基を用いているため、電池中のリチウムイオンを吸着してしまう虞がある。
【0011】
また、特許文献5では、リチウム二次電池内部に発生する不純物又は副生成物を吸収、結合あるいは吸着によって捕捉する機能を有する捕捉物質を、正極、負極、セパレータ又は電解液に含有させる方法が記載されているが、補足物質は電池の充放電に直接関与しないので、この捕捉物質を正極又は負極に含有させると電池容量が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−30709号公報
【特許文献2】特開平11−339803号公報
【特許文献3】特開平11−121012号公報
【特許文献4】特開2009−87929号公報
【特許文献5】特開2000−77103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、安全性と、内部短絡及びデンドライトによる短絡に対する信頼性とに優れ、且つ高温貯蔵時の特性低下を抑制できる非水電解質電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の非水電解質電池は、正極、負極、セパレータ及び非水電解質を含む非水電解質電池であって、前記正極及び前記負極から選ばれる少なくとも一方に、下記一般式(1)で示されるポリアミン基を含む材料を含み、前記正極及び前記負極から選ばれる少なくとも一方において、炭酸エステル溶媒中に含まれる遷移金属イオンの吸着量が、0.03μmol/cm2以上であることを特徴とする。
〔−(CH2CH2NH)n−〕 (1)
但し、前記一般式(1)において、nは2〜35の整数である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、安全性と、内部短絡及びデンドライトによる短絡に対する信頼性とに優れ、且つ高温貯蔵時の特性低下を抑制できる非水電解質電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の非水電解質電池(リチウムイオン二次電池)の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の非水電解質電池は、正極、負極、セパレータ及び非水電解質を備えている。また、上記正極及び上記負極から選ばれる少なくとも一方に、下記一般式(1)で示されるポリアミン基を含む材料を含み、上記正極及び上記負極から選ばれる少なくとも一方において、炭酸エステル溶媒中に含まれる遷移金属イオンの吸着量が、0.03μmol/cm2以上であることを特徴とする。
【0018】
〔−(CH2CH2NH)n−〕 (1)
但し、上記一般式(1)において、nは2〜35の整数である。
【0019】
非水電解質電池の電極内にポリアミン基を含む材料を存在させることにより、電解液中に溶出した金属イオンを効果的にトラップすることが可能である。上記材料は、正極のみに含有されていてもよく、負極のみに含有されてもよく、更に正極及び負極の両方に含有されてもよい。
【0020】
非水電解質電池の中でも、特に充電が可能であるリチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池では、不純物や、正極活物質などから電解液中に溶出した金属イオンが負極表面で析出することで電池性能の低下、内部短絡の要因になりやすい。本発明の非水電解質電池は、上記ポリアミン基を含む材料により、特に、正極活物質に主成分として用いられているNi、Co、Mn、あるいは、不純物として混入する可能性の高いFe、Zn、Cuなどを効果的にトラップでき、且つ、電池の充放電に関与するLiをトラップしない特性を有している。
【0021】
本発明の非水電解質電池には、一次電池と二次電池とが含まれるが、以下では、特に主要な態様である二次電池(リチウムイオン二次電池)の構成について説明する。
【0022】
<ポリアミン基を含む材料>
上記正極及び上記負極から選ばれる少なくとも一方は、下記一般式(1)で示されるポリアミン基を含む材料を含んでいる。
【0023】
〔−(CH2CH2NH)n−〕 (1)
但し、上記一般式(1)において、nは2〜35の整数である。
【0024】
上記正極及び上記負極から選ばれる少なくとも一方が、上記一般式(1)に記載されたポリアミン基を含む材料を含むことで、非水電解液中に溶出した金属イオンを効果的に吸着することが可能である。非水電解質電池、特に充電が可能であるリチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池では、不純物や、正極活物質などから電解液中に溶出した金属イオンが負極表面で析出することで電池性能の低下、内部短絡の要因になりやすい。特に、正極活物質に主成分として用いられているNi、Co、Mn、あるいは、不純物として混入する可能性の高いFe、Zn、Cuなどを効果的に吸着して固定化することが望ましい。上記一般式(1)に示されるポリアミン基は、遷移金属、重金属を吸着する能力に優れるため、上記の電池性能の低下及び内部短絡を確実に抑制できる。
【0025】
一般式(1)中のnは、1以下となると、金属イオンを吸着する能力が充分に発揮しないため、2以上とする必要があり、更に好ましくは3以上である。また、nが35を超えるとポリアミン基の合成が困難となるため、35以下とする必要があり、17以下がより好ましい。
【0026】
また、電極中の上記ポリアミン基の含有量を直接測定することが困難であるため、本発明では、上記正極及び上記負極から選ばれる少なくとも一方において、炭酸エステル溶媒中に含まれる遷移金属イオンの吸着量が、0.03μmol/cm2以上であると規定する。上記遷移金属イオンの吸着量は、電極中に含まれる上記ポリアミン基の含有量と相関するものであり、上記遷移金属イオンの吸着量が少ないと、金属イオンを吸着する能力が充分に発揮しないからである。上記遷移金属イオンの吸着量は、0.04μmol/cm2以上であることが好ましい。また、上記遷移金属イオンの吸着量が多すぎると、電池の充放電に関与するLiを吸着する虞があるため、上記遷移金属イオンの吸着量は、0.2μmol/cm2以下が好ましい。
【0027】
本発明における遷移金属イオンの吸着量は、具体的には、後述する実施例で用いた方法により測定するものとする。
【0028】
上記ポリアミン基が金属イオンをトラップするメカニズムについては、詳細は明らかでないが、例えばポリアミン基は、キレートを作る官能基であり、キレートを形成することによって金属イオンを固着するといったメカニズムが考えられる。
【0029】
上記ポリアミン基を含む材料としては、電極内に存在する材料であれば特に限定されないが、例えば、正極活物質、負極活物質、導電助剤、バインダを用いることができる。上記材料としては、正極活物質及び負極活物質が好ましい。活物質は、電極の主要材料であり、ポリアミド基の含有量の調整が容易だからである。ここで、上記のように通常電極内に存在する材料以外の材料をポリアミン基の担体に用いることは好ましくない。電極反応に関与しない材料が増加することにより、電池容量が減少するからである。
【0030】
ポリアミン基を上記材料に導入する方法は、特に限定されないが、例えば、官能基結合剤により、ポリアミン基を上記材料に結合する方法が採用できる。官能基結合剤としては、ポリアミン基を含むシランカップリング剤、ポリアミン基を含むチタネートカップリング剤、ポリアミン基を含むアルミネートカップリング剤などを使用できるが、使用方法が容易で、結合力の強いポリアミン基の導入が可能な、ポリアミン基を含むシランカップリング剤が好ましい。
【0031】
ポリアミン基を含むシランカップリング剤としては、例えば、(CH3O)3SiCH2CHCH2NH(CH22NH2、(CH3O)3SiCH2PhCH2CH2NH(CH22NH2、(CH3O)3Si(CH211NH(CH22NH2、(CH3O)3Si(CH23NH(CH22NH2、(CH3O)3Si(CH23NH(CH22NH(CH22NH2、[(CH3O)3Si(CH23−NH(Cl)−(CH22]n−[(NH)(CH22]4nなどを使用できる。
【0032】
上記シランカップリング剤を用いて上記材料にポリアミン基を導入する方法としては、例えば、上記の材料とシランカップリング剤とを混合するだけでよい。但し、上記材料とシランカップリング剤とを充分に馴染ませることが好ましく、この観点から、上記材料とシランカップリング剤と溶媒とを20〜40℃の温度で5分〜24時間混合させ、その後、乾燥させて溶媒を除去することが好ましい。
【0033】
上記の材料及びカップリング剤に添加する溶媒は、特に限定されないが、取り扱いが容易なジオキサン、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、エタノールなどのアルコール類、N−メチル−2−ピロリドンなどが好ましい。
【0034】
上記乾燥の温度と時間は、特に限定されない。例えば、80℃程度の温度で、10分〜24時間ほど乾燥させれば十分であるが、シランカップリング剤は、脱水縮合反を経て上記材料の表面と強固な共有結合を生成することから、加熱、乾燥などにより副生する水、アルコールなどを系外に除くことで乾燥の進行を速めることができる。このため、上記乾燥は、80〜200℃で、2〜24時間で、減圧下で行うことがより好ましい。
【0035】
また、上記ポリアミン基を含む材料として、ポリアミン基を最初から含むバインダを用いれば、上記カップリング剤を用いる必要はない。ポリアミン基を最初から含むバインダとしては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリエチレンポリアミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミンなどが挙げられる。
【0036】
<正極>
上記正極としては、従来公知の非水電解質電池に用いられている正極であれば特に制限はない。例えば、正極活物質として、Li1+xMO2(−0.1<x<0.1、M:Co、Ni、Mnなど)で表されるリチウム含有遷移金属酸化物;LiMn24などのリチウムマンガン酸化物;LiMn24のMnの一部を他元素で置換したLiMnx(1-x)2;オリビン型LiMPO4(M:Co、Ni、Mn、Fe);LiMn0.5Ni0.52;Li(1+a)MnxNiyCo(1-x-y)2(−0.1<a<0.1、0<x<0.5、0<y<0.5);などを適用することが可能である。正極は、これらの正極活物質に公知の導電助剤(カーボンブラックなどの炭素材料など)やバインダ〔ポリフッ化ビニリデン(PVDF)など〕などを適宜添加した正極合剤を、集電体を芯材として成形体に仕上げたものなどを用いることができる。
【0037】
上記正極の集電体としては、アルミニウムなどの金属の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、厚みが10〜30μmのアルミニウム箔が好適に用いられる。
【0038】
正極側のリード部は、通常、正極作製時に、集電体の一部に正極合剤層を形成せずに集電体の露出部を残し、そこをリード部とすることによって設けられる。但し、リード部は必ずしも当初から集電体と一体化されたものであることは要求されず、集電体にアルミニウム製の箔などを後から接続することによって設けてもよい。
【0039】
<負極>
上記負極としては、従来公知の非水電解質電池に用いられている負極であれば特に制限はない。例えば、負極活物質として、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素繊維などの、リチウムを吸蔵・放出可能な炭素系材料の1種又は2種以上の混合物が用いられる。また、Si、Sn、Ge、Bi、Sb、Inなどの元素及びその合金、リチウム含有窒化物又はリチウム含有酸化物などのリチウム金属に近い低電圧で充放電できる化合物、もしくはリチウム金属やリチウム/アルミニウム合金も負極活物質として用いることができる。負極は、これらの負極活物質に導電助剤(カーボンブラックなどの炭素材料など)やPVDFなどのバインダなどを適宜添加した負極合剤を、集電体を芯材として成形体に仕上げたものが用いられる他、上記の各種合金やリチウム金属の箔を単独で用いてもよく、また、上記の各種合金やリチウム金属を集電体上に積層したものを用いてもよい。
【0040】
上記負極に集電体を用いる場合には、集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、銅箔が用いられる。この負極集電体は、高エネルギー密度の電池を得るために負極全体の厚みを薄くする場合、厚みの上限は30μmであることが好ましく、また、下限は5μmであることが好ましい。
【0041】
負極側のリード部も、正極側のリード部と同様に、通常、負極作製時に、集電体の一部に負極剤層(負極活物質を有する層)を形成せずに集電体の露出部を残し、そこをリード部とすることによって設けられる。但し、この負極側のリード部は必ずしも当初から集電体と一体化されたものであることは要求されず、集電体に銅製の箔などを後から接続することによって設けてもよい。
【0042】
<セパレータ>
上記セパレータとしては、ポリオレフィンからなる樹脂膜を使用できる。上記樹脂膜を構成するポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどのポリエチレン(PE);ポリプロピレン(PP);などが挙げられ、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ポリオレフィン製の樹脂膜は、従来から知られている溶剤抽出法や、乾式又は湿式延伸法などにより形成された孔を多数有するイオン透過性の多孔質膜(電池のセパレータとして汎用されている微多孔膜)を用いることができ、例えば、PP上にPEを介してPPを積層させた3層で構成されたポリオレフィン製の樹脂膜が挙げられる。これらのポリオレフィンは、日本工業規格(JIS)K 7121の規定に準じて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される融解温度が80〜180℃の熱可塑性樹脂であり、セパレータが、このようなポリオレフィンで構成された樹脂膜を有していることで、80〜150℃でポリオレフィンが軟化してセパレータの空孔が閉塞される、いわゆるシャットダウン特性を確保することができる。
【0043】
また、上記シャットダウン特性とは、高温時においてポリオレフィンが軟化してセパレータの空孔が閉塞されイオン透過性が減少して、正極−負極間を流れる電流値が減少し、高温時においての電池の安全性が確保できる特性である。ポリオレフィンの融点が低すぎると正常時の電池特性の低下を引き起こす虞があるため、樹脂膜に使用するポリオレフィンの融解温度は80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。また、ポリオレフィンの融解温度が高すぎると、電池の異常発熱時にシャットダウンが追いつかなくなるため、ポリオレフィンの融解温度は150℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましい。
【0044】
上記樹脂膜は、ポリオレフィン以外の樹脂を含んでもよいが、シャットダウン特性をより良好に確保する観点から、ポリオレフィン以外の樹脂は、樹脂膜を構成する樹脂成分の全体積のうち、50体積%未満であることが好ましく、30体積%以下であることがより好ましい。もちろん、樹脂膜の全てがポリオレフィンで形成されていてもよい。
【0045】
上記セパレータの厚さは、電池のシャットダウン特性を良好に確保する観点から、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。また、セパレータの厚さを小さくして、電池の容量や出力密度をより向上させる観点から、セパレータの厚さは、35μm以下であることが好ましく、20μm以下がより好ましい。
【0046】
上記セパレータの空孔率としては、非水電解液の保液量を確保してイオン透過性を良好にするために、乾燥した状態で、30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。一方、セパレータ強度の確保と内部短絡の防止の観点から、セパレータの空孔率は、乾燥した状態で、70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。
【0047】
セパレータの空孔率:P(%)は、セパレータの厚さ、面積あたりの重量、構成成分の密度から、下記一般式(2)を用いて各成分iについての総和を求めることにより計算できる。
【0048】
P=100−(Σai/ρi)×(m/t) (2)
上記一般式(2)において、aiは重量%で表した成分iの比率、ρiは成分iの密度(g/cm3)、mはセパレータの単位面積あたりの重量(g/cm2)、tはセパレータの厚さ(cm)をそれぞれ示す。
【0049】
<非水電解質>
非水電解質としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸メチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、エチレングリコールサルファイト、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどの1種のみからなる有機溶媒、又は2種以上の混合溶媒に、例えば、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li224(SO32、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiCn2n+1SO3(2≦n≦7)、LiN(RfOSO22〔ここで、Rfはフルオロアルキル基を示す。〕などのリチウム塩から選ばれる少なくとも1種を溶解させることによって調製した非水電解液が使用される。上記リチウム塩の非水電解液中の濃度としては、0.5〜1.5mol/Lとすることが好ましく、0.9〜1.25mol/Lとすることがより好ましい。
【0050】
<非水電解質電池>
本発明の非水電解質電池の形態としては、スチール缶やアルミニウム缶などを外装缶として使用した筒形(角筒形や円筒形など)などが挙げられる。また、金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体としたソフトパッケージ電池とすることもできる。
【0051】
本発明の非水電解質電池に用いる電極体としては、上記正極、上記負極及び上記セパレータを介して積層した積層電極体や、更にこの積層電極体を巻回した巻回電極体の形態で用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。但し、下記実施例は本発明を制限するものではない。
【0053】
<製造例1>
〔ポリアミン基未含有正極(1)の作製〕
正極活物質であるLiMn24:92重量部と、導電助剤であるアセチレンブラック:4重量部と、分散剤であるポリビニルピロリドン0.3重量部とを混合し、ここに、バインダとして3.7重量部のPVDFを含むN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液を加え、よく混練して正極合剤含有スラリーを調製した。次に、正極集電体となる厚さが10μmのアルミニウム箔の片面に、乾燥後の正極合剤層の重量が、正極集電体の片面あたり18.3mg/cm2となる量で上記正極合剤含有スラリーを均一に塗布し、その後80℃で乾燥し、更にロールプレス機で圧縮成形して正極合剤層を形成した。上記正極合剤含有スラリーをアルミニウム箔に塗布する際には、アルミニウム箔の一部が露出するように未塗布部分を形成した。上記正極合剤層の厚さは、集電体(アルミニウム箔)の片面あたり、70μmであった。
【0054】
次に、上記正極を、正極合剤層の大きさが41mm×25.5mmで、且つアルミニウム箔の露出部を含むように裁断し、更に、電流を取り出すためのアルミニウム製リード片を、アルミニウム箔の露出部に溶接して、正極(1)を得た。
【0055】
<製造例2>
〔ポリアミン基未含有負極(1)の作製〕
負極活物質である天然黒鉛:97.8重量部と、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース:1.2重量部とを混合し、ここに、バインダとして1重量部のスチレン−ブタジエンゴムを含むNMP溶液を加え、よく混練して負極合剤含有スラリーを調製した。次に、負極集電体となる厚さ10μmの圧延銅箔の片面に、乾燥後の負極合剤層の重量が、負極集電体の片面あたり6.2mg/cm2となる量で上記負極合剤含有スラリーを均一に塗布し、その後80℃で乾燥し、更にロールプレス機で圧縮成形して負極合剤層を形成した。上記負極合剤含有スラリーを圧延銅箔に塗布する際には、圧延銅箔の一部が露出するように未塗布部分を形成した。上記負極合剤層の厚さは、集電体(圧延銅箔)の片面あたり、50μmであった。
【0056】
次に、上記負極を、負極合剤層の大きさが42mm×27mmで、且つ圧延銅箔の露出部を含むように裁断し、更に、電流を取り出すためのニッケル製リード片を、圧延銅箔の露出部に溶接して、負極(1)を得た。
【0057】
<製造例3>
〔ポリアミン基(一般式(1)のn:2以上)付加導電助剤含有正極(2)の作製〕
エタノール900g中に、導電助剤であるアセチレンブラック100gを加え、ポリアミン基を有するシランカップリング剤であるtrimethoxysilylpropyl modified polyethylenimine(前述の一般式(1)中のn:14〜17)を10g添加し、ボールミルで24時間混合・分散させ、その後、80℃で5時間乾燥させ、更に120℃で15時間真空乾燥を行い、ポリアミン基を表面に備えたアセチレンブラック(以下、ポリアミン基付アセチレンブラックという。)を得た。
【0058】
次に、導電助剤として上記ポリアミン基付アセチレンブラックを用いた以外は、製造例1と同様にして正極(2)を得た。
【0059】
<製造例4>
〔ポリアミン基(一般式(1)のn:2以上)付加正極活物質含有正極(3)の作製〕
エタノール900g中に、正極活物質であるLiMn24100gを加え、ポリアミン基を有するシランカップリング剤であるtrimethoxysilylpropyl modified polyethylenimine(一般式(1)中のn:14〜17)を0.1g添加し、ボールミルで24時間混合・分散させ、その後、80℃で5時間乾燥させ、更に120℃で15時間真空乾燥を行い、ポリアミン基を表面に備えた正極活物質(以下、ポリアミン基付正極活物質(1)という。)を得た。
【0060】
次に、上記ポリアミン基付正極活物質(1)を用いた以外は、製造例1と同様にして正極(3)を得た。
【0061】
<製造例5>
〔ポリアミン基(一般式(1)のn:1)付加正極活物質含有正極(4)の作製〕
エタノール900g中に、正極活物質であるLiMn24100gを加え、ポリアミン基を有するシランカップリング剤である3-aminopropyl-trimethoxysilane(一般式(1)中のn:1)を0.1g添加し、ボールミルで24時間混合・分散させ、その後、80℃で5時間乾燥させ、更に120℃で15時間真空乾燥を行い、ポリアミン基を表面に備えた正極活物質(以下、ポリアミン基付正極活物質(2)という。)を得た。
【0062】
次に、上記ポリアミン基付正極活物質(2)を用いた以外は、製造例1と同様にして正極(4)を得た。
【0063】
<製造例6>
〔イミノジ酢酸基付加正極活物質含有正極(5)の作製〕
エタノール900g中に、正極活物質であるLiMn24100gを加え、イミノジ酢酸基を有するシランカップリング剤であるN-(trimethoxysilylpropyl)ethylenediamine triacetic acid, trisodium salt(イミノジ酢酸基被覆用試薬)を0.1g添加し、ボールミルで24時間混合・分散させ、その後、80℃で5時間乾燥させ、更に120℃で15時間真空乾燥を行い、イミノジ酢酸基を表面に備えた正極活物質(以下、イミノジ酢酸基付正極活物質(3)という。)を得た。
【0064】
次に、上記イミノジ酢酸基付正極活物質(3)を用いた以外は、製造例1と同様にして正極(5)を得た。
【0065】
<製造例7>
〔ポリアミン基(一般式(1)のn:2以上)付加負極活物質含有負極(2)の作製〕
エタノール900g中に、負極活物質である天然黒鉛100gを加え、ポリアミン基を有するシランカップリング剤である(3-trimethoxysilylpropyl)diethylenetriamine(一般式(1)中のn:3)を0.1g添加し、ボールミルで24時間混合・分散させ、その後、80℃で5時間乾燥させ、更に120℃で15時間真空乾燥を行い、ポリアミン基を表面に備えた負極活物質(以下、ポリアミン基付負極活物質という。)を得た。
【0066】
次に、上記ポリアミン基付負極活物質を用いた以外は、製造例2と同様にして負極(2)を得た。
【0067】
<製造例8>
〔ポリアミン系バインダ(一般式(1)のn:2以上)含有負極(3)の作製〕
バインダとして、スチレン−ブタジエンゴムの代わりにポリエチレンイミン〔一般式(1)のn:28〜34〕を用い、上記ポリエチレンイミンを1重量部含む水溶液(固形分濃度10%)を加え、よく混練して負極合剤含有スラリーを調製した。上記負極合剤含有スラリーを用いた以外は、製造例2と同様にして負極(3)を得た。
【0068】
次に、製造例1〜8の電極について、炭酸エステル溶媒中に含まれる遷移金属イオンの吸着量を測定した。具体的には、先ずシグマアルドリッチ社製の“Cu(BF)4・xH2O”(商品名)を、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを1:1の体積比で混合した溶媒に溶解させ、遷移金属イオンとしてCuイオンを1000ppm含むモデル電解液(標準溶液)を作製した。次に、測定試料として各電極を100×100mmに切断して、測定電極片を準備した。続いて、上記標準溶液を6mLガラス瓶に入れ、その中に各測定電極片を1日浸漬させた。
【0069】
浸漬後、ガラス瓶から試料溶液を別瓶に取り出し、キレート適定によってCu濃度を測定し、浸漬前の標準溶液と浸漬後の試料溶液のCuの濃度差から、電極単位面積あたりの遷移金属イオン吸着量を求めた。
【0070】
上記キレート適定に用いた金属指示薬としては、ムレキシド指示薬を用いた。また、適定溶液は、キレスト社製の適定溶液“MZ−8”をエタノールで9倍に希釈して用いた。試料溶液は指示薬を加えた状態において、Cuを含む場合、溶媒の色は黄色だが、適定終点では紫色となる。
【0071】
以下の式(3)及び(4)より試料溶液の金属イオン濃度Cx及び吸着した金属イオン吸着量Mxを算出した。その結果を表1に示す。
Cx=Cs×(Vs/vs)×(vx/Vx) (3)
Mx=(Cs−Cx)×(Vx/1000) (4)
但し、上記式(3)及び(4)において、各要素は下記のとおりである。
Cs:標準溶液の金属イオン濃度(mol/L)
Cx:試料溶液の金属イオン濃度(mol/L)
Vs:標準溶液量(mL)
vs:標準溶液の適定量(mL)
Vx:試料溶液量(mL)
vx:試料溶液の適定量(mL)
Mx:金属イオン吸着量(mol)
【0072】
【表1】

【0073】
(実施例1)
セパレータとして、厚さが16μm、空孔率が45%のPP/PE/PPの3層構造の微多孔膜を用意した。
【0074】
次に、80×80mmのアルミニウムラミネートフィルム上に上記の正極(1)、セパレータ、負極(3)をこの順で重ね合わせて積層した後、イミドテープで仮止めして、積層電極体とした。その後、上記ラミネートフィルムの3辺を熱封止し、60℃で1日真空乾燥を行った。その後、上記ラミネートフィルムの残った1辺から非水電解液(エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネートとを2:4:4の体積比で混合した溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解させた溶液)を注入した。最後に、残った上記ラミネートフィルムの一辺を真空熱封止して、積層電極体を内部に有するリチウムイオン二次電池を作製した。得られた電池の定格容量は15mAhであった。
【0075】
図1に得られた電池の平面図を示す。図1において、本実施例のリチウムイオン二次電池1は、積層電極体及び非水電解液が、平面視で矩形のアルミニウムラミネートフィルムからなる外装体2内に収容されている。そして、正極外部端子3及び負極外部端子4が、外装体2の同じ辺から引き出されている。
【0076】
(実施例2)
正極(2)及び負極(1)を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0077】
(実施例3)
正極(3)及び負極(1)を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0078】
(実施例4)
正極(1)及び負極(2)を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0079】
(比較例1)
正極(1)及び負極(1)を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0080】
(比較例2)
正極(4)及び負極(1)を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0081】
(比較例3)
正極(5)及び負極(1)を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0082】
表2に実施例1〜4及び比較例1〜3の電池の電極群構成を示す。
【0083】
【表2】

【0084】
次に、実施例1〜4及び比較例1〜3の電池を用いて下記のとおり特性評価を行った。
【0085】
<電池の信頼性評価>
電池の信頼性評価は、下記のように各電池の容量維持率及び容量回復率を確認することにより行った。
【0086】
先ず、各電池を定格容量に対して、電流値0.5C及び電圧4.2Vでの定電流−定電圧充電を行った後、電流値0.5Cで3.0Vまで定電流放電して、初期放電容量を測定した。その後、上記と同様に定電流−定電圧充電した後、各電池を80℃に設定した恒温槽に24時間貯蔵し、貯蔵後の電池を室温まで冷却した。冷却後の各電池を上記と同様に電流値0.5Cで3.0Vまで定電流放電して、貯蔵直後の放電容量を測定した。次に、室温で上記と同様に定電流−定電圧充電した後、上記と同様に電流値0.5Cで3.0Vまで定電流放電して、貯蔵後2サイクル目の放電容量を測定した。
【0087】
以上の結果より、下記式(5)及び(6)により、容量維持率及び容量回復率を算出した。
【0088】
容量維持率(%)=(貯蔵直後の放電容量/初期放電容量)×100 (5)
【0089】
容量回復率(%)=(貯蔵後2サイクル目の放電容量/初期放電容量)×100 (6)
【0090】
以上の結果を表3に示す。
【0091】
【表3】

【0092】
表3に示すように、実施例1〜4のリチウムイオン二次電池では、適正な構成の電極群を備えているので、比較例1〜3のリチウムイオン二次電池に比べて、容量維持率及び容量回復率の両特性ともに優れており、電池の信頼性が高いことが分かる。一方、比較例1及び3では電極にポリアミン基を含む材料を使用していないため、比較例2では電極に一般式(1)中のnが適正でないポリアミン基を含む材料を用いたため、それぞれ電池の信頼性が劣ることが分かる。
【符号の説明】
【0093】
1 リチウムイオン二次電池
2 外装体
3 正極外部端子
4 負極外部端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、セパレータ及び非水電解質を含む非水電解質電池であって、
前記正極及び前記負極から選ばれる少なくとも一方に、下記一般式(1)で示されるポリアミン基を含む材料を含み、
前記正極及び前記負極から選ばれる少なくとも一方において、炭酸エステル溶媒中に含まれる遷移金属イオンの吸着量が、0.03μmol/cm2以上であることを特徴とする非水電解質電池。
〔−(CH2CH2NH)n−〕 (1)
但し、前記一般式(1)において、nは2〜35の整数である。
【請求項2】
前記ポリアミン基は、官能基結合剤により前記材料に結合されている請求項1に記載の非水電解質電池。
【請求項3】
前記官能基結合剤が、ポリアミン基を含むシランカップリング剤である請求項2に記載の非水電解質電池。
【請求項4】
前記ポリアミン基を含む材料が、正極活物質である請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質電池。
【請求項5】
前記ポリアミン基を含む材料が、負極活物質である請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質電池。
【請求項6】
前記ポリアミン基を含む材料が、導電助剤である請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質電池。
【請求項7】
前記ポリアミン基を含む材料が、バインダである請求項1に記載の非水電解質電池。

【図1】
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【公開番号】特開2013−97991(P2013−97991A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239363(P2011−239363)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】