説明

非混濁性香辛料風味梅酒およびその製造方法

【課題】梅由来のフルーティーな芳香と香辛料が持つ風味及び薬効、リラックス効果を合わせ持つ非混濁性香辛料風味梅酒およびその製造方法に関する。
【解決手段】香辛料をアルコ−ル含有水溶液で抽出し、得られた抽出液を減圧蒸留することで香辛料スピリッツを生成する。香辛料スピリッツを梅酒に加えることによって、香辛料の持つ風味および薬効、リラックス効果と梅の持つフル−ティ−な芳香を併せ持ち、長期間保存した場合でも濁りが発生しない清澄性の高い梅酒を生成することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香辛料が持つ風味及び薬効と梅酒がもつ爽やかな芳香を合わせて有し、市場において清澄な品質を保持できる非混濁性香辛料風味梅酒、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
香辛料とは、セージ、レッドペッパー、パプリカ、ゴマ、ナツメグ、シナモン、スターアニス、マスタード、ワサビ、フェヌグリーク、サンショウ、レモン、クローブ、パセリ、セロリー、ガーリック、にら、ねぎ、オニオン、サフラン、ジンジャー、ターメリック、みょうが、とうがらしなどに代表される「スパイス」と「スパイス」の一部として知られているゴボウ、カミルレ、フキタンポポ、ポプリ、ラベンダー、ミント、オオバコ、マリーゴールド、ロズーマリー、セージ、ユーカリ、バジル、ペパーミントなどに代表される「ハーブ」からなり(出典:「スパイスのサイエンス」18項〜28項 文園社、「ハーブ&スパイス」246項〜277項 誠文堂新光社)、その芳香と辛味の刺激が、内臓器官の働きを活発化することが知られており調味料をはじめとして様々な加工食品に用いられている。さらに、香気成分にはリラックス効果、ストレスの軽減効果があると言われている。このことはハーブに含まれる芳香性成分を吸引、もしくは塗布することによって得られるアロマテラピ−としてのリラックス効果と同等な効果が期待できる。また梅酒には、梅の実のクエン酸をはじめとする有機酸、ベンズアルデヒド等の芳香成分、アミノ酸などの旨味や栄養成分がアルコール中に溶け込んでおり、抗菌、静菌作用、整腸作用、美容効果、健康増進効果等があると言われて、古くから飲用されてきた国民的リキュ−ルである。
【特許文献1】特開平10−262641号公報
【非特許文献1】スパイスのサイエンス 18項〜28項 文園社
【非特許文献2】ハーブ&スパイス 246項〜277項 誠文堂新光社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の梅酒では、現在市場において、日々加速度的に関心が高まっている健康への効果や、嗜好性の多様化に対応しきれなくなっている。またこのことを解決するために、梅以外の果実を漬け込む試みがなされているが、長期間保存した場合、オリと呼ばれるものに代表される不溶性成分が発生するため、清澄性を保持できる商品価値の高い梅酒の開発が強く望まれているのが実状である。
【0004】
すなわち、現在の市場では、従来の梅酒のもつ効果にさらに新たな効果が付加され、かつ長期間清澄性を保持できる梅酒が求められているのである。
【0005】
一方香辛料は、調味料としての利用にとどまらず、山椒などは薬としても用いられており、日本薬局方には、山椒を用いた生薬として苦味チンキとして記載されている(出典:日本薬局方 第二部収載品 厚生労働省)。香辛料の風味については、爽快感がある香りとピリ辛な味が特徴である。
【0006】
また、ハーブなどに含まれている香気成分には、アロマテラピ−として知られている効果としてリラックス、活力増強、ダイエットなどが挙げられる。<インタ−ネット:http://www.nardjapan.gr.jp/ H17年8月1日掲載)
【0007】
また、市場において、オリや濁りの発生した商品はクレ−ム品として市場から排除されるため、最終商品としての梅酒には、清澄性がありかつ長期間保存した場合でもその清澄性が保持できるものが強く望まれている。
【0008】
先行の知見として、特開平10−262641「リキュ−ルの製造法」で、生みりんに直接ハ−ブ類およびスパイス類を浸漬することを特徴とする文献があるが、本発明との大きく異なる点は、生みりんに直接ハーブ類、スパイス類を添加しており、抽出過程で不溶性成分が生みりん中に拡散し清澄性が著しく失われることが挙げられる。また、ハーブ類、スパイス類の持つ有効成分の抽出にアミノ酸や糖類、有機酸など様々な成分が含まれている生みりんを用いているので、有効成分のみを高濃度で抽出することが難しい点が挙げられる。
【0009】
保存中における沈殿物や濁りの発生は梅酒のみならず、液状食品においては商品価値を著しく下げるので、長期保存した場合でも清澄性を維持できるものが商品価値の高いものとして市場で取り扱われている。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑みて、梅由来のフルーティーな芳香を有し、香辛料の持つ有効成分と風味を加味した非混濁性香辛料風味梅酒ならびにその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の非混濁性香辛料風味梅酒(以下、「請求項1の非混濁性香辛料風味梅酒」と記す)は、香辛料をアルコ−ル含有水溶液で抽出した液を蒸留して得られた香辛料スピリッツを梅酒に添加することを特徴としている。
【0012】
本発明において、香辛料スピリッツの原料となる香辛料については、特に限定されず、例えばハ−ブ類、請求項2に記載の山椒などが挙げられる。またアルコールとしては、特に限定されず、例えば、焼酎、清酒、みりん、ブランデー、ウィスキ−、ジン等が挙げられる。
【0013】
請求項3、請求項4の製造方法において、香辛料スピリッツの原料となるアルコール含有水溶液は、特に限定されるものではないが好ましくは15%〜75%、さらに好ましくは20%〜40%である。
【0014】
減圧蒸留の際の蒸留温度も特に限定されるものではないが好ましくは30℃〜80℃、特に好ましくは40℃〜60℃で、これら条件の理由は以下のとおりである。
【0015】
すなわち、香辛料スピリッツの原料となるアルコールの度数が、15%未満では、有効成分の抽出効率が悪く、70%を超えると、蒸留時のアルコール欠減が増加する恐れがある。
【0016】
また、減圧蒸留の際の蒸留温度が、30℃未満では、香辛料の持つ独特の芳香成分が得られず、70℃を超えると蒸留した香辛料スピリッツに焦げた香りが付加し、または香気成分が熱変性する恐れがある。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の香辛料スピリッツは、香辛料をアルコ−ル含有水溶液で浸漬した後蒸留されてから得られてなるので、香辛料の香気成分が効率良く抽出されているだけではなく、混濁原因物質がカットされているため、これを梅酒に添加することで、清澄性の高い香辛料の有効成分を付加した非混濁性梅酒が得られる。
【0018】
請求項2記載の香辛料が山椒である山椒スピリッツは、山椒をアルコ−ル含有水溶液に浸漬した後、蒸留することで得られるので、山椒の香気成分及び辛味成分が効率よく抽出されているだけではなく、混濁原因物質がカットされているため、これを梅酒に添加することで、山椒の有効成分を付加した非混濁性梅酒が得られる。
【0019】
請求項3の製造方法を用いれば、香辛料を梅酒製造時に梅の果実と同時に糖−アルコ−ル含有水溶液に浸漬させた場合と比較して、蒸留により混濁原因となる不溶性成分が除去され、清澄な蒸留液が得られるため最終製品に沈殿物を生じさせず、清澄性のある商品価値の高い非混濁性香辛料風味梅酒が製造できる。
【0020】
請求項4の製造方法を用いれば、請求項3の場合と同様に、清澄性のある商品価値の高い山椒を用いた非混濁性香辛料風味梅酒が製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明を詳しく説明する。
発明にかかる山椒スピリッツは、以下のようにして得られる。まず、山椒の乾燥果皮(生の果実でもよい)をアルコール含有水溶液(25%)に120時間浸漬する。浸漬に使用する山椒は、そのまま状態でもよいが、山椒を粉砕することでよりその有効成分を抽出することが可能となる。
【0022】
その後、アルコール度数が10%〜15%になるように、水で希釈を行い、希釈された山椒−アルコ−ル含有水溶液を減圧蒸留装置に入れ、40℃〜50℃、0.085MPa〜0.090MPaの条件で減圧蒸留し、アルコール度数が20%〜25%の山椒スピリッツを得る。
【0023】
得られた山椒スピリッツを従来の製法による梅酒全体容量に対し約10%程度添加して非混濁性香辛料風味梅酒とした。
【0024】
以下に、本発明の具体的な実施例を説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
(実施例1)
山椒の果皮及び果実5kgをアルコ−ル含有水溶液(25%)100Lに120時間浸漬した。この際使用した山椒の果皮及び果実は、浸漬を行う直前に粉砕処理を行い粉末化したものを用いた。
【0026】
浸漬処理を行った後、山椒の果皮及び果実からなる固相と山椒抽出アルコ−ル含有水溶液(23%)98Lからなる液相に分離した。
【0027】
山椒抽出アルコ−ル含有水溶液(23%)を水52Lで希釈し、アルコール度数を15%にした。その後、山椒抽出アルコ−ル含有水溶液(15%)を減圧蒸留装置にいれ、40℃〜50℃、0.085MPa〜0.090MPaの条件で減圧蒸留し、アルコール度数が25%の山椒スピリッツ88Lを得た。
【0028】
アルコ−ル度数25%の山椒スピリッツ88Lをアルコール度数14%の梅酒562Lに添加することによってアルコ−ル度数15.5%の山椒風味梅酒650Lを製造した。
【0029】
(比較例1)
山椒の果皮及び果実5kgをアルコ−ル度数25%の梅酒450Lに120時間浸漬した。
【0030】
浸漬処理を行った後、山椒の果皮及び果実からなる固相と山椒抽出梅酒(アルコール度数24%)445Lからなる液相に分離した。さらに清澄性を高めるために濾過処理を行い、不溶性成分の除去を行い、濾過済みの山椒梅酒(アルコ−ル度数24%)420Lを得た。
【0031】
山椒抽出梅酒420L(アルコ−ル度数24%)を水230Lで希釈して山椒抽出梅酒(アルコール度数15.5%)650Lとした。
【0032】
実施例1の非混濁性山椒風味梅酒(アルコ−ル度数15.5%)の清澄性を濁度計(HACH社 2100P TURBIDIMETER)で経時的に測定した結果を表1に示した。
【0033】
【表1】

【0034】
比較例1の山椒抽出梅酒(アルコ−ル度数15.5%)の清澄性を濁度計(HACH社 2100P TURBIDIMETER)で経時的に測定した結果を表2に示した。
【0035】
【表2】

【0036】
表1、表2より実施例1のアルコ−ル度数15.5%の山椒風味梅酒は、製造直後における濁度が低く、さらに360日保存した場合でも清澄性が保たれており、市場での商品価値が高いものとなっている。一方、比較例1の山椒抽出梅酒(アルコ−ル度数15.5%)では、製造直後では不溶性成分が発生しており濁度が高く、活性炭による濾過処理を行った後は、濁度が低くなる傾向が見られたが実施例1の製造直後の値より高く、その後、時間経過とともにさらに濁度が高くなる傾向が顕著に見られた。
【0037】
実施例1の非混濁性山椒風味梅酒(アルコ−ル度数15.5%)の香気成分をガスクロマトグラフィー(島津製作所)で測定した結果を表3、図1に示した。
【0038】
【表3】

【0039】
比較例1の山椒抽出梅酒(アルコ−ル度数15.5%)の香気成分をガスクロマトグラフィー(島津製作所)で測定した結果を表4、図2に示した。
【0040】
【表4】

【0041】
図1、表3より実施例1の山椒風味梅酒には、リラックス効果があると言われている香気成分シトロネラ−ル、ネリルアセテイトが含まれていることが分かった。さらにネリルアセテイトついては、保湿効果があると言われている。
【0042】
一方、比較例1の山椒抽出梅酒(アルコ−ル度数15.5%)には、抽出直後に香気成分シトロネラ−ル、ネリルアセテイトが少量含まれていることが分かったが、濾過処理を行うことによって更なる香気成分の大幅な減少が見受けられた。シトロネラ−ルについては検出されず、ネリルアセテイトについては実施例1の約1/20程度まで減少していた。
【0043】
実施例1と比較例1との山椒梅酒を官能訓練を充分に積んだパネラ−15人により評価した。評価項目については、味、香り、清澄性、総合、とし各項目を5点評価(1:非常に良い、2:良い、3:普通、4:悪い、5:非常に悪い)で行った結果を表5に示した。
【0044】
【表5】

【0045】
表5より、パネラ−の評価は、味、香り、清澄性、総合全ての項目において実施例1が比較例1より良い結果を得られた。これまでの梅酒にない爽快な風味とピリピリとした辛さが市場のニ−ズにマッチしており、長期における清澄性の高さが高く評価された。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例1の山椒風味梅酒(アルコ−ル度数15.5%)の香気成分をガスクロマトグラフィーを用いた香気成分の分析結果を表すグラフである。
【図2】比較例1の山椒抽出梅酒(アルコ−ル度数15.5%)の香気成分をガスクロマトグラフィーを用いた香気成分の分析結果を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
香辛料をアルコール含有水溶液に浸漬した後蒸留し、得られた香辛料スピリッツを梅酒に添加することを特徴とする非混濁性香辛料風味梅酒。
【請求項2】
香辛料が山椒である請求項1記載の非混濁性香辛料風味梅酒。
【請求項3】
香辛料をアルコール含有水溶液に浸漬した後蒸留し、得られた香辛料スピリッツを梅酒に添加することを特徴とする非混濁性香辛料風味梅酒の製造方法。
【請求項4】
香辛料が山椒である請求項3記載の非混濁性香辛料風味梅酒の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−68505(P2007−68505A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261898(P2005−261898)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(591137628)中野BC株式会社 (12)
【Fターム(参考)】