説明

非湿潤性表面

【課題】水に接触した後も濡れない表面を備えた物体を提供すること。
【解決手段】*30から6000μmの長さ、1:10から1:20の直径・対・長さ比を有し、その少なくとも一つの前面において表面に結合するフィラメントにおいて;
*該表面における、二つの隣接フィラメント間の距離が、これらのフィラメントの距離・対・長さ比が1:3から1:10となるように選ばれ;
*これらのフィラメントは、104から1010 N/m2の弾性を有し;
*該フィラメントの表面は少なくとも部分的に疎水性であり、そのため、フィラメントと水との間の接触角度は100°よりも大きい、
フィラメントを備えた表面を有する物体であって、
該フィラメントが化学的および構造的に異方性を有することを特徴とする、物体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非湿潤性表面、それを調製するための方法、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、疎水化材料の隆起を有する物体の自己浄化表面に関する。このような表面に堆積される汚染物質は、流水によって除去することが可能である。
【0003】
このような表面は、表面が、例えば、大気の汚染物質と接触する応用分野では魅力的であり、ときどき起こる水、例えば、雨との接触によって浄化することが可能である。実験において見出されるように、このような表面は、水に対し130°を超える接触角度を有する。球形を取る水滴は、表面を濡らすことはできない。
【0004】
特許文献2は、固体表面および液体の間の相対的運動における摩擦抵抗を下げる問題を記載する。このために階層的フラクタル構造が記載される。実施例は記載されない。
【0005】
特許文献3は、ナノ線維、およびナノ線維を含む構造、およびその使用に関する。
【0006】
特許文献4は、フィラメントを有する、非湿潤性表面に関する。
【0007】
対応する表面は非湿潤性であるのに、最適な非湿潤性を示すことができない、特に、長期の応用、または、高速流水体における応用では最適非湿潤性を示すことができないことが示されている。
【0008】
驚くべきことに、空気中で水と接触したとき優れた非湿潤性を示す構造は、浸水状態では、その非湿潤性を恒久的に維持することができないことが見出された。
【0009】
したがって、水によって濡らすことができない、すなわち、水との接触後、濡れることのない表面は依然として求められている。このような表面は、水と、該表面の間の摩擦抵抗を下げることができ、さらに、技術的観点から望ましい他の特性、例えば、断熱性、または腐敗の防止などの特性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO 96/04123
【特許文献2】US 2005/0061221
【特許文献3】WO 2005/005679
【特許文献4】WO 2007/099141
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Suter et al., Journal of Arachnology, 32 (2004), pages 11 to 21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記表面を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、下記の特徴:
*30から6000μmの長さ、1:10から1:20の直径・対・長さ比を有し、その少なくとも一つの前面において表面に結合するフィラメントにおいて;
*該表面における、二つの隣接フィラメント間の距離が、これらのフィラメントの距離・長さ比が1:3から1:10となるように配置され;
*これらのフィラメントは、104から1010 N/m2の弾性を有し;
*これらのフィラメントの表面は少なくとも部分的に疎水性であり、そのため、フィラメントと水の間の接触角度は100°よりも大きくなり、フィラメントは、構造的または化学的に異方性を有する、
を備えた表面を有する物体によって実現される。
【0014】
したがって、本発明によれば、表面を有する物体が提供される。したがって、本発明による構造物は、化学的に異方性を有する領域、特に、表面特性が、フィラメントの部分のみは疎水性であるが、他のものは親水性であるという結果を有する領域を有することが可能である。
【0015】
「親水性」とは、これらの領域における表面と水の間の接触角度が<90°であることを意味する。
【0016】
別の実施態様では、該構造物の下部領域には電荷が与えられる。静電気帯電は、非湿潤性を促進する。
【0017】
他の実施態様では、フィラメントは構造的に異方性を有する、すなわち、特に、フィラメントが窪みを形成する部分において、フィラメントが切れ込みを備えた領域がある。
【0018】
特に好ましい実施態様では、フィラメントには、化学的異方性領域、および、構造的異方性領域の両方が設けられる。
【0019】
本出願の意味におけるフィラメントとは、必要な特性を有するものであれば、いずれの材料で形成されてもよい、長尺であればいずれのものであってもよい構造物である。織布分野では、きわめて大きい長さを有する、突出毛、突出繊維およびフィラメントは互いに区別される。しかしながら、本出願の意味においては、「フィラメント」という用語は、末端を有する、任意の種類の構造物のために使用される。その長さおよび直径は、特許請求の範囲におけるさらに詳細な定義から見て取ることができる。本出願では、「フィラメント」という単語は、織布分野において使用される「繊維」または「毛」という用語と相互交換することが可能である。本出願の意味におけるフィラメントはさらに、二つ以上の点において表面に結合する長尺構造物である。この場合、二つの接触点の間の領域は、本出願の意味におけるフィラメントの長さを定める。
【0020】
織布業界の理解するフィラメント、すなわち、その長さが、ボビンの巻き取り能力によってのみ制限される長尺繊維から成る構造物は、本出願の本文でそれに言及する場合、「織布フィラメント」という用語を使用する。このような織布フィラメントは、多数(many)メートルの長さを有する。
【0021】
本発明による表面には、その直径よりも大きい長さを有するフィラメントがある。直径・対・長さ比(直径:長さ)は、1:10から1:20、好ましくは1:12から1:18である。適切な長さは、30から6000μm、好ましくは50から1000μm、より好ましくは50から200μmの範囲であるが、同様に、1000から3000μmの範囲にあってもよい。
【0022】
構造物が、表面に対し、いくつかの接触点で結合する場合、二つの接触点の間に適切な距離が存在するのであれば、すなわち、二つの接触点の間で構造物の距離が測定され、その長さが、フィラメントの長さと定義されるのであれば、対応する長さを有するフィラメントを形成することになる。
【0023】
フィラメントは、該フィラメントの両端に配置される、二つの前面を有する。
【0024】
一実施態様では、正確に一つの前面が表面に結合する。別の実施態様では、二つの前面が結合し、そのため、該フィラメントは、表面に対しループを形成する。一前面において結合するフィラメント、および、2前面において結合するフィラメントの両様フィラメントが存在する混合形も可能である。
【0025】
フィラメントの直径は、例えば、走査電子顕微鏡によって測定することが可能である。
【0026】
繊維が、該繊維の長さにそって変動する直径を持つ場合、フィラメントの中央の(長さの50%における)直径が使用される。
【0027】
表面では、複数のフィラメントが、互いにある距離隔てられて存在するが、その際、隣接フィラメントの、距離・対・長さの比(距離:長さ)は、1:3から1:10である。すなわち、6000μmの長さを有するフィラメントに対しては、隣接フィラメントは、2000から600μmの範囲内の距離にある。
【0028】
一実施態様では、上記比はさらに、1:3から1:30の範囲内にあってもよい。
【0029】
本発明による表面に対するフィラメントの弾性は重要である。弾性係数によって定められる弾性は、104から1010 N/m2の範囲内にある。この弾性によって、フィラメントの弾性的伸張が可能とされる。好ましい範囲は、106から108 N/m2である。好ましくは、曲げ弾性係数もこの範囲内にある。
【0030】
さらに、フィラメントの表面は、フィラメントと水の間の接触角度が100°よりも大きくなるように、少なくとも部分的に疎水性でなければならない。これは、例えば、倒立顕微鏡によって、および、非特許文献1に記載されるように、超音波噴霧化によって測定することが可能である。好ましくは、接触角度は、110°よりも大きい。
【0031】
別の実施態様では、疎水性は顕微鏡的に測定することも可能である。本発明による材料は、140°を超える巨視的接触角度を有することが好ましい。
【0032】
驚くべきことに、本発明による上記表面は、構造物の中に空気を、それが水によって運ばれないようなやり方で捕捉することが可能であり、したがって、該表面は非湿潤性である。特に、フィラメントの弾性は重要である。なぜなら、これによって、流水の中でも空気を保持することが可能とされるからである。水の動きは、フィラメントによって弾性的に吸収することが可能である。
【0033】
一実施態様では、フィラメントそのものが、20ナノメートルから10μmの高さを有する隆起を含む構造体を有する。好ましくは、隆起は、フィラメントの直径の10%よりも小さい。
【0034】
本発明の好ましい実施態様は、水と接触しても濡れない。「濡れない」とは、表面が、水の中に、15cmの深度において48時間完全に沈められても、該物体の出現時の巨視的検査において、該表面の少なくとも97%は乾燥していることが判明することを意味する。
【0035】
本発明はさらに、上記物体を調製するための方法であって、下記の工程:
フィラメントを有する表面において:
*30から6000μmの長さ、1:10から1:20の、直径・対・長さ比を持ち、その、少なくとも一つの前面において該表面に結合するフィラメントを有するように該表面を調製すること;
*その際、該表面における2本の隣接フィラメント間の距離は、フィラメントの該距離・対・長さ比が1:3から1:10になるように選ばれ;
*フィラメントは、104から1010 N/m2の弾性を有し;
*フィラメントの表面は、フィラメントと水の間の接触角度が100°よりも大きくなるように、少なくとも部分的に疎水性である、
工程を含む方法に関する。
【0036】
本発明による構造物は、水中にあるとき、その表面に空気層を恒久的に維持することが可能である。したがって、下記の特性:
−摩擦の低下;
−腐食、特に腐敗の防止;
−断熱
の内の一つ以上を実現することが可能である。
【0037】
興味ある応用は、構造物が液体または水の中に恒久的に浸される応用、例えば、船およびボートの船体、パイプラインなどである。
【0038】
このような構造物を調製する一つの可能性は、いわゆるマイクロレプリカ・プロセスである。このプロセスでは、適切な特性を有する材料の表面が、鋳造化合物によってネガに変換される。次に、このネガ形態を用い、液体プラスチック材料、例えば、合成樹脂ラッカーから対応表面を調製してもよい。
【0039】
特に好ましい実施態様では、比較的大きな表面積を有する表面の取得が可能となるように、いくつかの、このような形態が使用される。
【0040】
複数のネガ形態を集めてロールに掛ける方法が特に適切である。このようにすると、硬化性のプラスチック組成物を、締め付けロールの間を通過させることによって、調製を連続的に実行することが可能である。この合成樹脂組成物は、成形直後に、照射、例えば、紫外線照射によって硬化され、次いで、該形態によって定められる表面構造のままに維持される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明による構造物を取得するための一方法を模式的に示す。
【図2】本発明による構造物を取得するための、別法を模式的に示す。
【図3】本発明による構造物を取得するための、さらに別の方法を模式的に示す。
【図4】本発明による構造物を取得するための、さらに別の方法を模式的に示す。
【図5】本発明による構造物を取得するための、さらに別の方法を模式的に示す。
【図6】6aからdは、本発明によるフィラメントの異なる断面を示し、かつ、切れ込み、特に、窪みの可能性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
下記の実施例により本発明をさらに具体的に詳述する。
【実施例1】
【0043】
図1に示すように、親水性繊維101は、第一処理工程において適切な手段102により疎水化される。次いで、この繊維は、フロッキングのために分断されるが、そのセグメントは、30から6000μmの範囲内の均一な長さを有する。フロッキングのために、この分断繊維が用いられる。繊維の頂上端103は、分断のために疎水性ではない。
【実施例2】
【0044】
図2に示すように、親水性金属化合物104(例えば、シリコン、アルミニウム、マグネシウムの金属水(酸化物))と混ぜ合わせたプラスチック材料105を、表面のネガ形態106の中に送り込む。磁場107を用いることによって、後に水と直面することになる親水性領域において、該金属が、その場所に選択的に堆積されることになり、もしそうしなければ疎水性となるはずのプラスチック材料において、所望表面の親水性領域108が形成される。
【実施例3】
【0045】
図3に示すように、疎水性表面109、例えば、繊維被覆表面が、水中に浸漬されるか、または水をコートされる。この水中には、好ましくは構造物の先端に堆積される、親水性粉末110がある。この作用は、水が表面において乾燥除去されると強調される。それとは別に、表面は、非湿潤性液体の中に浸漬される。酸またはアルカリ液、または電着液を液体として用いてもよい。エッチングまたは電着によって、接触部位に局所的に化学的または構造的変化を引き起こしてもよい。
【0046】
別の実施態様では、自己組織化によって構造物を誘発する化学的成分、例えば、ナノチューブ、ナノロッドなどが、浸水時に湿潤部分に堆積される。
【実施例4】
【0047】
図4に示すように、構造物109に、低温で蒸発する油111を染みこませる。加熱によってこの油を蒸発させ、それによって構造物の先端が見えるようにする。これらの先端を、プラズマなどを用いて親水化させる。
【実施例5】
【0048】
図5に示すように、構造物109の先端は、感光性ラッカー112によってコートされる。全体表面が、斜めに入射する光113に暴露される。このようにして、表面の粒状部位のみが「現像」される。これらの部位に特異的に結合する物質を、エッチングするか、またはコートすることによって(例えば、CVDまたはPVDによって)、これらの部位114においてのみ構造物の疎水性が実現される。
【実施例6】
【0049】
別の実施態様は、フロッキング剤として、静電気的に帯電可能な窪んだマイクロ繊維を使用することである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
*30から6000μmの長さ、1:10から1:20の直径・対・長さ比を有し、その少なくとも一つの前面において表面に結合するフィラメントにおいて;
*該表面における、二つの隣接フィラメント間の距離が、これらのフィラメントの距離・対・長さ比が1:3から1:10となるように選ばれ;
*これらのフィラメントは、104から1010 N/m2の弾性を有し;
*該フィラメントの表面は少なくとも部分的に疎水性であり、そのため、フィラメントと水の間の接触角度は100°よりも大きい、
フィラメントを備えた表面を有する物体であって、
該フィラメントが化学的および構造的に異方性を有することを特徴とする、物体。
【請求項2】
前記フィラメントが、化学的および構造的に異方性を有することを特徴とする、請求項1に記載の物体。
【請求項3】
前記フィラメントが、少なくとも一つの親水性領域を有し、そのため、該領域と水との間の接触角度が<90°であることを特徴とする、請求項1または2に記載の物体。
【請求項4】
前記フィラメントが、長軸方向に切れ込みを有することを特徴とする、請求項1から3の1項に記載の物体。
【請求項5】
前記切れ込みが窪みを形成することを特徴とする、請求項4に記載の物体。
【請求項6】
前記フィラメントには、20ナノメートルから10μmの高さを有する隆起を含む構造体が設けられることを特徴とする、請求項1から5の1項に記載の物体。
【請求項7】
前記フィラメントが、その、二つの前面において該表面に結合することを特徴とする、請求項1から6の1項に記載の物体。
【請求項8】
前記フィラメントが、静電的に帯電する少なくとも一つの領域を有することを特徴とする、請求項1から7の1項に記載の物体。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の物体の、非湿潤性を実現するための使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−516738(P2011−516738A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544706(P2010−544706)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/051044
【国際公開番号】WO2009/095459
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(506266528)ライニッシェ フリードリッヒ ヴィルヘルムス ウニヴェルジテート ボン (4)
【Fターム(参考)】