説明

非特異吸着評価方法

【課題】任意の非特異吸着能被験物と任意の非特異吸着防止能被験物との間の相対的な非特異吸着性を、簡便かつ高精度で評価することのできる手段を提供する。
【解決手段】下記(1)〜(3)の工程を含むことを特徴とする、非特異吸着性の評価方法:(1)SiN、Ta25、Nb25、HfO2、ZrO2またはITO(酸化インジウム錫)からなる層が形成されているセンサーチップの表面を非特異吸着防止能被験物(A)で処理する工程;(2)工程(1)を経たセンサーチップの表面に、非特異吸着能被験物(B)を含む媒質液を接触させる工程;および(3)工程(2)の前後において、ノンラベルの分子間相互作用測定方法により分子間相互作用の測定を行い、その測定値の変化に基づいて、上記非特異吸着防止能被験物(A)と上記非特異吸着能被験物(B)の間の相対的な非特異吸着性を評価する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RIfS(Reflectometric Interference Spectroscopy:反射型干渉分光法)等のノンラベルの分子間相互作用測定方法を用いる非特異吸着性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノンラベルの分子間相互作用測定方法、すなわち、生体分子や有機高分子などの分子間相互作用により発生するシグナルを測定することにより、放射性物質や蛍光体などの標識を用いることなく、測定対象物を直接的かつ定量的に検出する方法の研究開発が進められている。たとえば、光学薄膜の干渉色変化を利用する検出法であるRIfS(Reflectometric Interference Spectroscopy:反射型干渉分光法)が提案され、実用化もされている。その他にも、SPR(Surface Plasmon Resonance:表面プラズモン共鳴)やQCM(Quartz Crystal Microbalance:水晶発振子マイクロバランス)などの分子間相互作用測定方法も知られている。
【0003】
上記のような分子間相互作用測定方法においては、分子間相互作用に関与する一方の分子(リガンド、たとえば抗体)を表面に固定化したセンサーチップが用いられ、このリガンドに分子間相互作用に関与するもう一方の分子(アナライト、たとえば抗原)を分子間相互作用により特異的に結合させるようにする。しかしながら、そのような所期の分子間相互作用以外にも、静電的相互作用や疎水性相互作用によって、試料溶液中に含まれるアナライト以外の各種の分子がしばしばセンサーチップの表面に非特異的に吸着する。このような非特異吸着は、分子間相互作用に基づく測定法においてノイズとなるシグナルを発生させ、測定精度を低下させる原因となる。そのため、従来は通常、センサーチップの表面にリガンドを固定化した後、試料溶液を接触させる前に、非特異吸着を抑制するための物質(非特異吸着防止剤)でセンサーチップの表面を処理している。
【0004】
分子間相互作用測定方法やその他の生体関連物質を対象とした測定方法において、非特異吸着防止剤としては、いわゆるブロッキング剤と呼ばれている、BSAに代表されるタンパク質などが慣用されている。また、各種のポリマー、たとえば特定のアクリルアミド系ポリマー(特許文献1)なども非特異吸着防止剤としての利用が提案されている。また、上述したセンサーチップ以外にも、測定を行う際の器具や容器など様々な物品に対しても生体分子などの非特異吸着を抑制するために様々な非特異吸着防止剤の利用が提案されている。
【0005】
このような非特異吸着防止剤ないしは非特異吸着防止剤の候補となる材料(非特異吸着防止能被験物)についての、各種の非特異吸着物ないしは非特異吸着物となるおそれのある物質(非特異吸着能被験物)の非特異吸着を防止する性能(非特異吸着防止能)、逆の見方をすれば、ある非特異吸着能被験物についての、非特異吸着防止能被験物に対して非特異的に吸着する能力(非特異吸着能)を高精度で評価することは、より優れた非特異吸着防止剤の探索や開発にとって必要不可欠である。
【0006】
従来、非特異吸着防止能の評価方法としては、蛍光標識または酵素標識した非特異吸着能被験物、あるいは蛍光タンパク質を評価材料で処理した測定部材の表面に接触させ、プレートリーダーや目視などでその標識を検出する方法が知られている。たとえば、特許文献1には、前記特定のアクリルアミド系ポリマーの非特異吸着防止効果について、当該ポリマーの水溶液をポリスチレン製96穴プレートに接触させた後、西洋ワサビパーオキシダーゼ標識マウスIgG抗体で処理して、基質を添加したときの発色を450nmの吸光度で測定することにより評価する方法が記載されている。また、非特許文献1には、Glass/Siマイクロ流路内部またはSlide glassの表面を吸着抑制用の表面処理剤で処理した後、蛍光タンパク質(GFPおよびDsRED)で処理し、処理面から発せられる蛍光量の測定により吸着性を評価する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−169604号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】楊・佐々木, 東京都立産業技術研究センター研究報告, 第1号, pp.98-99, 2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したような従来の評価方法では蛍光標識等を利用するが、タンパク質等の非特異吸着能被験物を蛍光標識剤等で処理する操作(ラベリング)は煩雑であり、また非特異吸着能被験物の分子構造によってはラベリングが困難である。そのため、任意の非特異吸着能被験物との関係において、任意の非特異吸着防止能被験物の非特異吸着防止能を評価することには制約があった。
【0010】
また、SPRやQCMに用いられる典型的なセンサーチップの表面には金からなる層が形成されているが、金は非特異吸着を引き起こしやすい材質であることが知られており、したがって、金以外の材質からなる層が表面に形成されている測定部材を処理することも想定される非特異吸着防止能被験物について、上記のようなセンサーチップを用いるSPRまたはQCMにより非特異吸着防止能を評価することは、実際に使用される場面における非特異吸着防止能の評価と乖離してしまうおそれがあり、高精度で評価することが困難である。
【0011】
本発明は、任意の非特異吸着能被験物と任意の非特異吸着防止能被験物との間の相対的な非特異吸着性、つまり、任意の非特異吸着能被験物に対する任意の非特異吸着防止能被験物の非特異吸着防止能、または任意の非特異吸着防止能被験物に対する任意の非特異吸着能被験物の非特異吸着能を、簡便かつ高精度で評価することのできる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、SiN等の特定の材質からなる層が表面に形成されているセンサーチップを用いる、ノンラベルの分子間相互作用測定方法であるRIfSを利用することにより、任意の非特異吸着能被験物と任意の非特異吸着防止能被験物との間の相対的な非特異吸着性を簡便かつ高精度で評価することのできることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1] 下記(1)〜(3)の工程を含むことを特徴とする、非特異吸着性の評価方法:(1)SiN、Ta25、Nb25、HfO2、ZrO2またはITO(酸化インジウム錫)からなる層が形成されているセンサーチップの表面を非特異吸着防止能被験物(A)で処理する工程;(2)工程(1)を経たセンサーチップの表面に、非特異吸着能被験物(B)を含む媒質を接触させる工程;および(3)工程(2)の前後において、ノンラベルの分子間相互作用測定方法により分子間相互作用の測定を行い、その測定値の変化に基づいて、上記非特異吸着防止能被験物(A)と上記非特異吸着能被験物(B)の間の相対的な非特異吸着性を評価する工程。
【0014】
[2] 前記非特異吸着防止能被験物(A)が、生体分子、界面活性剤またはポリマーである、[1]に記載の非特異吸着性の評価方法。
[3] 前記非特異吸着能被験物(B)が、生体分子、界面活性剤またはポリマーである、[1]または[2]に記載の非特異吸着性の評価方法。
[4] 前記分子間相互作用測定方法が反射干渉分光法(RIfS)である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の非特異吸着性の評価方法。
[5] 前記工程(1)において、非特異吸着防止能被験物(A)で処理する対象となるセンサーチップの表面が、リガンドが固定化されていない無修飾の状態である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の非特異吸着性の評価方法。
【0015】
[6] 前記工程(1)において、所定濃度の非特異吸着防止能被験物(A)を含む媒質を前記センサーチップの表面に接触させて前記処理を行う、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の非特異吸着性の評価方法。
[7] 前記工程(1)において用いる前記媒質として、前記非特異吸着防止能被験物(A)の濃度が異なる複数の媒質を準備し、前記各媒質を用いて、前記工程(1)〜(3)を実行し、前記工程(1)において用いる前記媒質の最適濃度を決定する、[6]に記載の非特異吸着性の評価方法。
【0016】
[8] 複数種類の非特異吸着防止能被験物(A)について、前記工程(1)〜(3)を実行し、各非特異吸着防止能被験物(A)の前記非特異吸着能被験物(B)に対する非特異吸着性の比較に基づいて、複数の非特異吸着防止能被験物(A)の間の相対的な非特異吸着性を評価する、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の非特異吸着性の評価方法。
[9] 前記複数種類の非特異吸着防止能被験物(A)について、前記工程(1)において、共通濃度の非特異吸着防止能被験物(A)を含む媒質を前記センサーチップの表面に接触させて前記処理を行う、[8]に記載の非特異吸着性の評価方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の評価方法ではノンラベルの分子間相互作用測定方法を利用するため、評価に供する非特異吸着能被験物(B)を処理する必要がない。そのため、蛍光標識等を利用する従来の方法では対象とすることのできなかった物質も含む任意の非特異吸着能被験物(B)との関係において、非特異吸着防止能被験物(A)の非特異吸着防止能を評価することができる。また、蛍光標識等の標識剤から発せられるシグナルに比べ、RIfSにおける分光反射率極小値など、ノンラベルの分子間相互作用測定方法におけるシグナルは、非特異吸着被験物(B)の非特異吸着量の定量性に優れており、従来よりも高精度の評価を行うことができる。このような本発明の評価方法を使用することにより、多数の非特異吸着防止能被験物(A)についての評価効率が向上し、より優れた非特異吸着防止剤の探索や開発に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、RIfSに基づく分子間相互作用測定方法を実行するための測定システムの一例を示す概略図である。
【図2】図2は、実験例1で取得した測定値(Δλ)の経時変化を示すグラフである。
【図3】図3は、実験例2で取得した測定値(Δλ)の経時変化を示すグラフである。
【図4】図4は、実験例3で取得した測定値(Δλ)の経時変化を示すグラフである。
【図5】図5は、実験例4で取得した測定値(Δλ)の経時変化を示すグラフである。
【図6】図6は、実験例5で取得した測定値(Δλ)の経時変化を示すグラフである。
【図7】図7は、実験例6で取得した測定値(Δλ)の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
−RIfSの実施形態−
以下、図1を参照しながら、本発明の実施形態において利用される、RIfSに基づく分子間相互作用測定方法の一実施形態について説明する。
【0020】
分子間相互作用測定方法用の測定システム1は、主に、測定部材10,白色光源20,分光器30及び光伝達部40等から構成される分子間相互作用測定装置100と,制御装置50などから構成されている。白色光源20,分光器30,光伝達部40などは、好ましくは測定装置100本体に収容されており、この測定装置100本体に、例えばPC(Personal Computer)の形態をとる制御装置50が制御可能に接続される。また、測定部材10は、一般的には矩形であり、好ましくは上記測定装置100本体に着脱可能な形態である。
【0021】
測定部材10は、少なくとも基板12aと、その上に形成された光学薄膜12bを含む、センサーチップ12を基本として構成され、通常はさらに、アナライト62を含む試料溶液60等の各種の溶液を送液するための密閉流路14bを形成するために、フローセル14が当該センサーチップ12に積載される。測定部材10(センサーチップ12およびフローセル14)は、ディスポーザブルタイプのものとすることができる。基板12aは、代表的にはSi(シリコン)製の基板であり、光学薄膜12bは、代表的にはSiN(窒化シリコン)膜である。
【0022】
基板12aは、たとえばSi(シリコン)製が好ましい。一方、光学薄膜12bは、基板の材質(屈折率)に応じて選択される、白色光を用いたときに観測されるボトムピークが適切な範囲となるような屈折率および厚みを有する材質で形成される。たとえば、基板12aがSi基板である場合、光学薄膜12bは、SiN、Ta25、Nb25、HfO2、ZrO2、ITO(酸化インジウム錫)などの酸化膜または窒化膜であることが好ましく、SiN膜が特に好ましい。これらの酸化膜または窒化膜はいずれも、可視光領域(波長約400から800nmの範囲)における屈折率が1.8〜2.4で、Si基板の上層に形成される光学薄膜としての性能を満たしており、なおかつ当該光学薄膜自体がある程度、非特異的吸着を抑制する効果を有している。たとえば、SiN膜の膜厚を約45〜90nmとすることにより、ボトムピークをおよそ400nm〜800nmの範囲に調節することができる。
【0023】
フローセル14は、たとえばシリコーンゴム(ポリジメチルシロキサン:PDMS)製の、透明な部材であり、センサーチップ12に密着させることができる。フローセル14には少なくとも1つの溝14aが形成されている。フローセル14をセンサーチップ12に密着させると、密閉流路14bが形成される。溝14aの両端部はフローセル14の表面から露出しており、一方の端部が送液部(たとえばシリンジポンプ)に接続されて試料溶液60等の各種の溶液が供給される流入口14cとして機能し、他方の端部は廃液部に接続されて試料溶液60等の各種の溶液の流出口14dとして機能するようになっている。
【0024】
フローセル14の少なくとも1つの溝14aの底部に位置する、センサーチップ12の表面(光学薄膜12bの上層)の少なくとも一部には、アナライト62と結合するリガンド16が固定化されており、当該部位にて測定が行われる。
【0025】
リガンド16には、分析の対象とするアナライト62に応じて、それと特異的に結合する適切な物質が選択される。たとえば、アナライト62が抗原となるタンパク質ないしペプチドであればその抗体となるタンパク質が、アナライト62が核酸であればそれと相補的な塩基配列を有する核酸が、アナライト62が糖であればそれと結合するレクチン(タンパク質)などが、リガンド16として使用される。
【0026】
ただし、本発明の典型的な態様においては、センサーチップ12の表面(光学薄膜12bの上層)にアナライト62と結合するリガンド16が固定化されていない状態(つまり無修飾の状態)のまま、センサーチップ12およびフローセル14から、密閉流路14bを有する測定部材10を作製して、非特異吸着性の評価を行うようにする。
【0027】
光伝達部40は、白色光源20からの白色光を測定部200に導くための第一の光伝達経路としての第一の光ファイバ41と、第一の光ファイバ41からの白色光の照射による反射光を測定部200から分光器30に導くための第二の光伝達経路としての第二の光ファイバ42とを備えている。第一の光ファイバ41の白色光源20側の端部は、当該白色光源20の接続ポートに接続されている。接続ポートに接続された光ファイバ41は光入射端面がハロゲンランプ21に対向するように配置されている。第二の光ファイバ42の分光器30側の端部は、当該分光器30の受光を行う接続ポートに接続されている。
【0028】
上記各光ファイバ41,42は、いずれも微細ファイバを束ねた構造となっている。そして、第一の光ファイバ41と第二の光ファイバ42のフローセル14側の端部は、各々の微細ファイバが一つの束となるように複合的に寄り合わされている。即ち、第一の光ファイバ41を構成する微細ファイバは、フローセル14側の端面において中央に分布し、第二の光ファイバ42を構成する微細ファイバは第一の光ファイバ41の微細ファイバの束を取り囲むようにその周囲に分布している。
【0029】
白色光源20は、ハロゲンランプと、これを格納する筐体とから構成されている。筐体には、第一の光ファイバ41を接続するための接続ポートが設けられている。なお、本実施形態では白色光源を用いているが、これに限られるものではなく、後述する反射率極小波長の変化を検出しうる波長域にわたって分布する光を発光する光源であればよい。
【0030】
白色光源20が点灯すると、その白色光が第一の光ファイバ41を介して測定部200に照射され、その反射光が光ファイバ42を介して分光器30に導かれる。この分光器30は、受光部で受光する光に含まれる一定の波長間隔ごとの光について光強度を検出し、分光強度として制御装置50に出力する。
【0031】
なお、本実施形態においては、測定部材10からの反射光を分光器30で受光するようにしているが(反射型RIfS)、測定部材10として光透過性のものを用いて、白色光源20からの光を測定部材10に照射し、測定部材10を透過してきた光を受光するように分光器30を配置し、透過光の分光強度を検出するよう変形することも可能である。
【0032】
制御装置50は、オペレータから検出動作の実行の入力を受け付けて、分子間相互作用測定装置100への検出動作制御の実行指令を出力する。これにより、制御装置50は、制御部として機能する。
【0033】
また、制御装置50は演算部としても機能する。制御装置50は、分光器30から測定光の分光強度のデータを取得し、各波長帯域ごとに、測定光の分光強度を基準となる白色光の分光強度で除して反射率を算出する。基準光の分光強度データは、あらかじめ装置組み立て調整時に測定して保有していたものでもよいし、その他の手段によりたとえば測定の都度取得したものでもよい。算出された反射率に基づき反射スペクトルが作成され、反射率極小波長(λ)が決定される。また、ある基準となる反射率極小波長(ベースライン)に対する、測定された反射率極小波長の変化量(Δλ)を取得することもできる。
【0034】
反射スペクトルの波形は、通常、微小な凹凸が繰り返されるような不規則な形状を呈しており、反射率極小波長を算出・特定するのが困難な状態となっている場合があるが、たとえば、公知の手法を用いて反射スペクトルを高次関数で近似することにより波形を滑らかにし、高次多項式からその解(最小値)を求めて、これを反射率極小波長の値として特定することができる。
【0035】
白色光源20や分光器30、および、後述する温度調節手段等を制御装置50で直接制御することも可能であるが、分子間相互作用検出装置100内に、制御装置50からの指示により、白色光源20、分光器30、温度調節手段等の各部の動作を制御するためのマイコンを含む制御部(図示せず)を別途設けることが好ましい。この場合、マイコンは、制御装置50の制御指令に応じて白色光源20の点灯と消灯を切り換える制御を行ったり、制御装置50の設定温度指令に応じて温度制御部の温度制御を行ったりする。
【0036】
温度調節手段(図示せず)は、例えば、ペルチェ素子のような加温と冷却を行う温度調節素子と温度検出素子とを備え、これらは測定部材10に併設される。そして、制御装置50が、直接又はマイコンを通じて、温度検出素子から測定部材10の温度情報を取得し、温度調節素子による加温又は冷却によって、設定温度となるように直接またはマイコンを通じて温度制御を実行する。
【0037】
検出を行う際には予め測定部材10の暖気が行われる。即ち、制御装置50は、予め定めた設定温度となるように温度制御部を制御するか、又は、予め定めた設定温度となるようにマイコンに指令を送り、マイコンは温度制御部の温度制御を実行する。暖気により測定部材10の温度が安定してから、分析を始める。
【0038】
制御装置50は、測定を継続するか判定を行い、継続しない場合には処理を終了する。かかる判定は、例えば、予め測定時間が設定され、当該測定時間が経過したか否かを判定してもよいし、測定の終了の入力を受けるまで測定を継続する設定として、測定終了の入力の有無を判定してもよい。測定を継続する場合には、再び、分光強度の測定が実行される。測定を繰り返すことにより、制御装置50は、周期的に反射率の算出、反射スペクトルの作成および反射率極小波長の決定を行い、その時系列的な変化を記録する。
【0039】
−非特異吸着性の評価方法−
本発明の非特異吸着性の評価方法は、ノンラベルの分子間相互作用測定方法を利用するものであって、下記(1)〜(3)の工程を含む:
(1)SiN、Ta25、Nb25、HfO2、ZrO2またはITO(酸化インジウム錫)からなる層が形成されているセンサーチップの表面を非特異吸着防止能被験物(A)で処理する工程;
(2)工程(1)を経たセンサーチップの表面に、非特異吸着能被験物(B)を含む媒質を接触させる工程;および
(3)工程(2)の前後において、ノンラベルの分子間相互作用測定方法により分子間相互作用の測定を行い、その測定値の変化量に基づいて、上記非特異吸着防止能被験物(A)と上記非特異吸着能被験物(B)との間の相対的な非特異吸着防止性を評価する工程。
【0040】
「ノンラベルの分子間相互作用測定方法」とは、蛍光色素等によるラベリングを用いることなく、センサーチップの表面に設けられた所定の分子(その役割を果たすのは、一般的には主にリガンドであるが、本発明の評価方法においては非特異吸着防止能被験物(A)である。)と、そのセンサーチップの表面に接触させられる溶液に含まれる、検出対象となる分子(その役割を果たすのは、一般的には主にアナライトであるが、本発明の評価方法においては非特異吸着能被験物(B)である。)の間で分子間相互作用が起きたときに発生するシグナルを測定することにより、その分子間相互作用を検出する方法の総称である。
【0041】
公知の「ノンラベルの分子間相互作用測定方法」としては、RIfS、SPR、QCMなどが挙げられるが、本発明においては、SiN、Ta25、Nb25、HfO2、ZrO2またはITO(酸化インジウム錫)からなる層が形成されているセンサーチップを用いる方法、特にRIfSを指す。RIfSにおいては、反射光の分光反射率が極小となる波長(ボトムピーク)を測定する。
【0042】
ただし、「SiN、Ta25、Nb25、HfO2、ZrO2またはITO(酸化インジウム錫)からなる層」が表面に形成されているセンサーチップを用いる方法であれば、RIfS以外の「ノンラベルの分子間相互作用測定方法」を本発明で利用できる可能性がある。なお、SPR用またはQCM用の無修飾のセンサーチップの表面には、通常、金や銀に代表される貴金属からなる層が形成され、上記所定の化合物からなる層は形成されない。
【0043】
・非特異吸着防止能被験物(A)
本発明の評価方法においては、センサーチップの表面を処理することのできる任意の物質を非特異吸着防止能被験物(A)とすることができる。このような非特異吸着防止能被験物(A)は、一定の非特異吸着防止能を有することが知られている公知の非特異吸着防止剤に限定されるものではなく、非特異吸着防止能を有するかどうかが未知である物質、ないし非特異吸着防止剤となる可能性のある物質も含まれる。以下に例示する非特異吸着防止能被験物(A)は、通常はいずれか1種を単独で用いるが、評価の目的に応じて、2種以上を混合して用いることも可能である。
【0044】
非特異吸着防止能被験物(A)は、たとえば、生体分子、界面活性剤、ポリマーに大別することができる。
上記生体分子としては、いわゆるブロッキング剤として公知慣用のタンパク質(BSA(ウシ血清アルブミン)、カゼイン、ゼラチンなど)、核酸(DNA、RNAなど)、糖、その他各種の生物由来物質が挙げられる。
【0045】
上記界面活性剤には、アニオン(陰イオン)界面活性剤、カチオン(陽イオン)界面活性剤および両性界面活性剤を包含するイオン性界面活性剤と、ノニオン(非イオン)性界面活性剤が包含される。
【0046】
たとえば、静電的相互作用に起因する非特異的吸着を防止することを特に考慮する場合、非特異的吸着防止剤としてノニオン性界面活性剤が好適である。
ノニオン性界面活性剤には、エステルエーテル型、エステル型、エーテル型などのものが包含されるが、中でもエステルエーテル型のものが好ましい。エステルエーテル型のノニオン性界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート(東京化成工業株式会社、商品名「Tween20」)、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミタート(同「Tween40」)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアラート(同「Tween60」)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(同「Tween80」)、ポリオキシエチレンソルビタントリオレアート(同「Tween85」)が挙げられる。また、エーテル型のノニオン性界面活性剤としては、たとえば、ジエチレングリコールモノドデシルエーテル、エチレングリコールモノドデシルエーテル、ポリエチレングリコールモノセチルエーテル(n≒23、なおnはオキシエチレンユニット数、以下同じ)、ポリエチレングリコールモノドデシルエーテル(n≒25)、ポリエチレングリコールモノ-4-オクチルフェニルエーテル(n≒10)、テトラエチレングリコールモノドデシルエーテル、トリエチレングリコールモノドデシルエーテルが挙げられる。
【0047】
上記ポリマーとしては、たとえば、前出の特許文献1に記載された特定のアクリルアミド系ポリマー(特許文献1:特開2010−169604号公報)の他、オキシアルキレン基を有する特定のアクリル系ポリマー(特開平10−153599号公報)、分子中にスペーサーとして疎水性の二官能性化合物(たとえばビスフェノールAグリシジルエーテル)を導入してなるポリエチレングリコール化合物、ポリ(ビニルピロリドン/ビニルアセテート)またはポリエチレングリコールテトラヒドロフルフリルエーテル(特開平11−352127号公報)、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン系共重合体(特開平7−83923号公報)などが挙げられる。
【0048】
・非特異吸着能被験物(B)
本発明の評価方法においては、センサーチップの表面に接触させることのできる任意の物質、典型的には生体関連物質を対象とする分子間相互作用測定方法などの分析方法において用いられる、試料溶液などの各種の水溶液に含まれることのある物質を、非特異吸着能被験物(B)とすることができる。このような非特異吸着能被験物(B)は、一定の非特異吸着能を有することが知られている公知の非特異吸着物に限定されるものではなく、非特異吸着能を有するかどうかが未知である物質、ないし非特異吸着物となる可能性のある物質も含まれる。非特異吸着能被験物(B)は、通常はいずれか1種を単独で用いるが、評価の目的に応じて、2種以上を混合して用いることも可能である。
【0049】
非特異吸着能被験物(B)は、たとえば、生体分子、界面活性剤、ポリマーに大別することができる。
ここで、非特異吸着能被験物(B)として挙げた上記の生体分子、界面活性剤、ポリマーの範囲は、非特異吸着防止能被験物(A)として挙げた前記の生体分子、界面活性剤、ポリマーの範囲と、基本的に重複している。同じ生体分子等であっても、無修飾の(それ以前に非特異的吸着防止剤で処理されていない)センサーチップの表面に先に接触させた生体分子等は、当該センサーチップの表面に吸着し、その後に接触させられる生体分子等のセンサーチップ表面への非特異吸着を防止する、すなわち非特異的吸着防止剤として機能することになるからである。したがって、非特異吸着能被験物(B)として用いる物質は、非特異吸着防止能被験物(A)として例示した前記の生体分子、界面活性剤、ポリマーの中から選択することができるが、通常は、非特異吸着防止能被験物(A)として用いる物質とは異なるものを選択するようにする。
【0050】
工程(1):非特異吸着防止能被験物(A)処理工程
工程(1)では、SiN、Ta25、Nb25、HfO2、ZrO2またはITO(酸化インジウム錫)からなる層が形成されているセンサーチップの表面を非特異吸着防止能被験物(A)で処理する操作が行われる。
【0051】
「SiN、Ta25、Nb25、HfO2、ZrO2またはITO(酸化インジウム錫)からなる層」は、典型的には、RIfS用の無修飾のセンサーチップの最表面に形成されている光学薄膜を指す。
【0052】
これらの所定の化合物からなる「層が形成されているセンサーチップの表面」は、非特異吸着能被験物(B)に対して発揮されうる非特異吸着防止能被験物(A)の非特定基吸着防止能を一定した条件下で高精度で評価する観点からは、無修飾の状態であること、つまりアナライトを捕捉するためのリガンドが固定化されておらず、また当該リガンドを固定化するため官能基による修飾(たとえばシランカップリング剤による処理)もなされていない状態であることが好適である。
【0053】
また、上記の層の表面を「非特異吸着防止能被験物(A)で処理する」とは、その非特異吸着防止能被験物(A)が非特異吸着防止能を有するものである場合に、上記の層の表面において当該性能を発揮できる状態にさせるための操作を行うことをいう。
【0054】
たとえば、非特異吸着防止能被験物(A)が適切な生体分子、界面活性剤、ポリマーである場合、それらを含む媒質をセンサーチップの表面に接触させ、たとえば非特異吸着防止能被験物(A)を当該表面に結合させて薄層を形成させるようにして、非特異吸着防止能被験物(A)でセンサーチップの表面を被覆することがそのような処理に当たる。媒質としては、たとえば分子間相互作用測定方法において汎用されている水(水溶液)が好適であるが、非特異吸着防止能被験物(A)の処理のために使用可能な媒質であればこれに限定されるものではない。
【0055】
また、非特異吸着防止能被験物(A)を含む媒質(たとえば水溶液)をセンサーチップの表面に接触させる場合、当該媒質が移動(流下)している状態において行われてもよいし、当該媒質が静止した状態で行われてもよい。前者の処理としては、たとえば、フローセルにより密閉流路が形成されている測定部材において、その密閉流路に非特異吸着防止能被験物(A)の水溶液を送液し、センサーチップと接触させるような態様が好適である。このような態様は、次に述べる後者の態様に比べて、非特異吸着防止能被験物(A)による被覆を十分な水準に到達させる(平衡させる)までの時間が短くて済む。一方、後者の処理としては、たとえば、測定部材を測定装置にセットする前に、容器内に収められた非特異吸着防止能被験物(A)の水溶液にセンサーチップを浸漬する態様が挙げられる。あるいは、非特異吸着防止能被験物(A)の水溶液を用いる以外の手法により、センサーチップの表面を非特異吸着防止能被験物(A)で被覆するような処理を行うことも可能である。
【0056】
非特異吸着防止能被験物(A)の処理の仕方およびその際の各種の条件、たとえば非特異吸着防止能被験物(A)を含む媒質(水溶液)の濃度、処理の時間ないし回数は、非特異吸着防止能被験物(A)に応じて適宜決定されるべきものである。アナライトを固定化したセンサーチップの表面を実際に処理する上で適切な、非特異吸着防止能被験物(A)の処理の仕方およびその際の各種の条件を探索することも、本発明の評価方法を通じて行うことが可能である。
【0057】
なお、工程(1)において、上述のように密閉流路に非特異吸着防止能被験物(A)の水溶液を送液することでセンサーチップと接触させるような操作が行われる場合、工程(1)の開始前から測定を行い、工程(1)の開始前、工程(1)の途中、工程(1)の終了後にわたって、連続的に取得し続けることが好適である。
【0058】
適切な非特異吸着防止能被験物(A)についてRIfSにより測定する場合、通常は測定されるボトムピーク波長が長波長側に移っていき、そのような変化を通じて工程(1)が進行している様子を随時確認することができる。やがて、測定値が変化しなくなり、ないし変化が十分に小さくなり、センサーチップの表面が非特異吸着防止能被験物(A)で十分に被覆されたこと、つまり工程(1)が終了したことを判断することができる。このような測定により取得することのできる、工程(1)の前後における測定値の変化量(Δλ)は、非特異吸着防止能被験物(A)からなる光学的薄膜の平均的な膜厚、つまりセンサーチップの表面における非特異吸着防止能被験物(A)の被覆の程度を反映する。
【0059】
もしも工程(1)により測定値に変化が現れない、つまりΔλ0が0ないし著しく小さい場合、一般的には、測定に供した非特異吸着防止能被験物(A)をセンサーチップの表面に接触させても、十分な薄層を形成しない物質であると解釈することができる。
【0060】
工程(2):非特異吸着能被験物(B)処理工程
工程(2)では、工程(1)を経たセンサーチップの表面(非特異吸着防止能被験物(A)の被覆処理面)に、非特異吸着能被験物(B)を含む媒質を接触させる操作を行う。媒質としては、たとえば分子間相互作用測定方法において汎用されている水(水溶液)が好適であるが、分子間相互作用測定方法が実施可能な媒質であればこれに限定されるものではない。
【0061】
特定の非特異吸着能被験物(B)に対して発揮される非特異吸着防止能被験物(A)の非特定基吸着防止能を一定した条件下で高精度に評価する観点からは、「非特異吸着能被験物(B)を含む媒質」としては、アナライトと共に各種の非特異吸着物が混在している一般的な試料溶液のような媒質ではなく、評価の対象としたい特定の非特異吸着能被験物(B)のみを含有する媒質を用いることが好適である。たとえば、非特異吸着能被験物(B)のモデルとしてアビジン(ストレプトアビジン、NeutrAvidinなどを含む。)のみを含有する水溶液が好ましい。ただし、このような非特異吸着能被験物(B)を含む媒質には、非特異吸着が実質的に問題とされない物質がさらに含まれていてもよい。たとえば、PBS(リン酸緩衝液生理食塩水)に非特異吸着能被験物(B)を溶解させた水溶液を用いる場合のように、リン酸、リン酸ナトリウム、食塩などの低分子化合物が非特異吸着能被験物(B)と共に水溶液中に存在していてもよい。
【0062】
また、次の工程(3)において工程(2)の前後にわたる測定値の変化を観察する(変化量(Δλ)を取得する)ために、工程(2)の開始前、工程(2)の途中、工程(2)の終了後にわたって、測定値を連続的に取得し続けることが好適である。一定時間経過後、測定値がそれ以上変化しなくなる、ないし変化が十分に小さくなると見込まれるようになった時点をもって、工程(2)が終了したと判断することが適切である。
【0063】
工程(3):非特異吸着防止能評価工程
工程(3)では、工程(2)の前後において、ノンラベルの分子間相互作用測定方法により分子間相互作用の測定を行い、その測定値の変化に基づいて、上記非特異吸着防止能被験物(A)と上記非特異吸着能被験物(B)との間の相対的な非特異吸着防止性を評価する操作が行われる。
【0064】
以下、主として、任意の非特異吸着能被験物(B)に対する任意の非特異吸着防止能被験物(A)の相対的な非特異吸着防止能を評価する場合に言及するが、逆の見方により、任意の非特異吸着防止能被験物(A)に対する任意の非特異吸着能被験物(B)の相対的な非特異吸着能を評価することができる。
【0065】
Δλ2は、工程(2)の開始前の測定値(λ2)および工程(2)の終了後の測定値(λ2’)の絶対値の差として算出することができる(通常、λ2<λ2’である)。このようなΔλ2は、非特異的吸着により形成される非特異吸着能被験物(B)からなる光学的薄膜の平均的な膜厚、つまり非特異吸着能被験物(B)の非特異吸着能を反映している。
【0066】
Δλ2が0ないし十分に小さい場合、一般的には、センサーチップの表面に対する非特異吸着が防止ないし十分に抑制されており、測定に供した非特異吸着防止能被験物(A)が非特異吸着能被験物(B)に対して良好な非特異吸着防止能を有していると評価することができる。
【0067】
一方、Δλ2が一定の値以上である場合、センサーチップの表面に対する非特異吸着が十分に抑制されておらず、測定に供した非特異吸着防止能被験物(A)の非特異吸着能被験物(B)に対する非特異吸着防止能を有さないないしは一定の限界があると評価することができる。
【0068】
このような非特異吸着防止能被験物(A)の非特異吸着防止能の評価は、ある非特異吸着防止能被験物(A)の評価結果(Δλ)を、所定の方法で取得した基準値ないし他の非特異吸着防止能被験物の評価結果(Δλ)と比較することを通じて行うことも好適である。より具体的には、たとえば、非特異吸着防止能被験物(A)の濃度が異なる複数の媒質について、前記工程(1)〜(3)を実行し、前記工程(1)において用いる前記媒質の最適濃度を決定する態様、複数種類の非特異吸着防止能被験物(A)について、前記工程(1)〜(3)を実行し、各非特異吸着防止能被験物(A)の前記非特異吸着能被験物(B)に対する非特異吸着性の比較に基づいて、複数の非特異吸着防止能被験物(A)の間の相対的な非特異吸着性を評価する態様、またそのような複数種類の非特異吸着防止能被験物(A)について、前記工程(1)において、共通濃度の非特異吸着防止能被験物(A)を含む媒質を前記センサーチップの表面に接触させて前記処理を行うことで、同一濃度における複数種類の非特異吸着防止能被験物(A)の非特異的吸着性を評価する態様などが挙げられる。
【0069】
なお、非特異吸着防止能被験物(A)の非特異吸着防止能を評価は、上記のようにボトムピーク波長としての測定値の変化量Δλ2を用いて行うことができるが、所定の換算式を用いて、Δλ2を、非特異的吸着により測定部位に形成された非特異吸着能被験物(B)からなる光学的薄膜の厚さに換算し、算出された膜厚を用いて評価を行うことも可能である。簡易な換算式としては、d=Δλ2/2n(dは非特異吸着能被験物(B)からなる光学的薄膜の厚さ、nは非特異吸着能被験物の屈折率)を利用することができる。同様の換算式により、非特異吸着防止能被験物からなる光学的薄膜の膜厚を算出することもできる。
【実施例】
【0070】
[実験例1]
(無修飾センサーチップの作製)
シリコンウエハの上に、SiN(窒化ケイ素)を66.5nmの厚さになるようCVDで蒸着し、SiNからなる光学薄膜を最表面に有する無修飾のセンサーチップを作製した。
【0071】
(測定準備工程)
RIfS方式の分子間相互作用測定装置(商品名「MI−Affinity」、コニカミノルタオプト(株)製)の電源を入れて光源が安定するまで約20分間待機した。
【0072】
上記工程で作製した無修飾のセンサーチップに、幅2.5mm×長さ16mm×深さ0.1mmの溝及びこの溝の両末端にそれぞれ直径1mmの貫通口を有するフローセル(コニカミノルタオプト(株)製)を積載して、密閉流路が形成された測定部材を構築した。この測定部材を上記測定装置にセットし、シリンジポンプ(Econoflo70−2205;Harvard Apparatus製)により、上記測定装置が備えているチップカバーを通して、測定装置外部から密閉流路に液体を送液し、センサーチップ表面に接触させることが可能な状態にした。
【0073】
続いて、PBSバッファー(pH7.4;ナカライテスク(株)製)を20μl/minの送液速度で20分間送液し、測定基準となる分光反射率が最小となる波長λ0(ベースライン)が約570nm付近で安定するのを確認した。
【0074】
(工程1:非特異吸着防止被験物処理工程)
非特異吸着防止能被験物(A)としてのエステルエーテル型ノニオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート)「Tween20」(東京化成工業株式会社)と、前記PBSバッファー(pH7.4)とを用いて、Tween20の濃度が0%(無添加)のものと、0.005重量%であるものとの2種類の試料を調製した。これらの各試料を、前記シリンジポンプにより20μL/minの送液速度で、上記工程により測定準備が整った測定部材に導入し、センサーチップ表面に接触させた。この工程の間、ボトムピーク波長を測定し続け、ボトムピーク波長の変動が十分に小さくなるまで送液を継続した。
【0075】
(工程2:非特異吸着被験物処理工程)
非特異吸着能被験物(B)としての「NeutrAvidin」(ThermoFisherScientific K.K.製)と、前記PBSバッファー(pH7.4)とを用いて、NeutrAvidinの濃度が100μg/mLの試料を調製した。この試料を、前記シリンジポンプにより20μL/minの送液速度で測定開始から300sec後に測定部材に導入し、上記工程1を経たセンサーチップのSiN側の表面に接触させた。この工程の間、ボトムピーク波長を測定し続け、ボトムピーク波長の変動が十分に小さくなるまで送液を継続した。
【0076】
(工程3:評価工程)
上記工程を通して取得した測定値に基づき、対時間のグラフを作成した(図2)。図2において、上記工程(2)前後における測定値の比較から、上記工程(1)で用いた水溶液中の、非特異吸着防止能被験物(A)としての界面活性剤(Tween20)の濃度が0.005%であるときに、上記工程(2)の前後で測定値に殆ど変化がなく、また、工程(2)以降も測定値に殆ど変化がないことが理解できる。このことから、濃度が0.005%であるときに、界面活性剤(Tween20)によって、「NeutrAvidin」がセンサーチップ表面に直接非特異吸着するのをほぼ完全に防止することができることがわかった。
【0077】
[実験例2]
前記工程2において、非特異吸着能被験物(B)として「NeutrAvidin」に代えて「Avidin」(Vector Laboratories製)を用いたこと以外は実験例1と同様にして、工程1〜3を行い、測定値の時間経過に伴う変化を表すグラフを作成した(図3)。図3から明らかなように、上記実験例1と同様、上記工程(1)で用いた水溶液中の、非特異吸着防止能被験物(A)としての界面活性剤(Tween20)の濃度が0.005%であるときに、「Avidin」のセンサーチップ表面への非特異吸着をほぼ完全に防止することができた。また、同じ濃度の界面活性剤(Tween20)水溶液を用いて非特異吸着防止処理を行った場合、「Avidin」の非特異吸着量は全般的に「NeutrAvidin」の非特異吸着量よりも少ない傾向にあり、Tween20に対する「Avidin」の非特異吸着能は「NeutrAvidin」よりも低い傾向にあるといえる。
【0078】
[実験例3]
前記工程2において、非特異吸着能被験物(B)として「NeutrAvidin」に代えて「StreptAvidin」(ナカライテスク(株)製)を用いたこと以外は実験例1と同様にして、工程1〜3を行い、測定値の時間経過に伴う変化を表すグラフを作成した(図4)。図4から明らかなように、上記実験例1と同様、上記工程(1)で用いた水溶液中の、非特異吸着防止能被験物(A)としての界面活性剤(Tween20)の濃度が0.005%であるときに「StreptAvidin」のセンサーチップ表面への非特異吸着をほぼ完全に防止することができた。また、同じ濃度の界面活性剤(Tween20)水溶液を用いて非特異吸着防止処理を行った場合、「StreptAvidin」の非特異吸着量は全般的に「NeutrAvidin」の非特異吸着量よりも少ない傾向にあり、さらに「Avidin」の非特異吸着量よりも少ない傾向にあり、Tween20に対する「StreptAvidin」の非特異吸着能は、「NeutrAvidin」や「Avidin」よりも低い傾向にあるといえる。
【0079】
[実験例4]
前記工程1において、非特異吸着防止能被験物(A)として「Tween20」に代えて、エーテル型ノニオン性界面活性剤(ポリエチレングリコールモノ-4-オクチルフェニルエーテル)である「TritonX−100」(GEヘルスケアジャパン株式会社)を利用し、界面活性剤の濃度が0%(無添加)、0.005重量%、0.05重量%の3種類の試料を調製して測定に供したこと以外は実験例1と同様にして、工程1〜3を行い、測定値の時間経過に伴う変化を表すグラフを作成した(図5)。
【0080】
[実験例5]
前記工程1において、非特異吸着防止能被験物(A)として「Tween20」に代えて、エーテル型ノニオン性界面活性剤(ポリエチレングリコールモノ-4-オクチルフェニルエーテル)である「TritonX−100」(GEヘルスケアジャパン株式会社)を利用し、界面活性剤の濃度が0%(無添加)、0.005重量%、0.05重量%の3種類の試料を調製して測定に供したこと、また、前記工程2において非特異吸着能被験物(B)として「NeutrAvidin」に代えて「Avidin」(Vector Laboratories製)を用いたこと以外は実験例1と同様にして、工程1〜3を行い、測定値の時間経過に伴う変化を表すグラフを作成した(図6)。
【0081】
[実験例6]
前記工程1において、非特異吸着防止能被験物(A)として「Tween20」に代えて、エーテル型ノニオン性界面活性剤(ポリエチレングリコールモノ-4-オクチルフェニルエーテル)である「TritonX−100」(GEヘルスケアジャパン株式会社)を利用し、界面活性剤の濃度が0%(無添加)、0.005重量%、0.05重量%の3種類の試料を調製して測定に供したこと、また、前記工程2において非特異吸着能被験物(B)として「NeutrAvidin」に代えて「StreptAvidin」(ナカライテスク(株)製)を用いたこと以外は実験例1と同様にして、工程1〜3を行い、測定値の時間経過に伴う変化を表すグラフを作成した(図7)。
【0082】
実験例1〜3と実験例4〜6とを比較すると、実験例1〜3で用いたTween20では、0.005重量%で十分非特異吸着が抑えられている一方、TritonX−100では0.005重量%添加では、非特異吸着の抑制効果が不十分であり、非特異吸着効果を十分発揮するには0.05重量%添加する必要があることが分かった。すなわち、上記実験例1〜6で用いた3種類の非特異吸着能被験物(B)(NeutrAvidin,Avidin,StreptAvidin)に対して、非特異吸着防止能被験物(A)としては、TritonX−100よりもTween20の方が薄い濃度で効果を発揮することができ、非特異吸着防止能が優れていると評価することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 測定システム
10 測定部材
12 センサーチップ
12a 基板
12b 光学薄膜
14 フローセル
14a 溝
14b 密閉流路
14c 流入口
14d 流出口
16 リガンド
20 白色光源
30 分光器
40 光伝達部
41 第一の光ファイバ
42 第二の光ファイバ
50 制御装置
60 試料溶液
62 アナライト
100 分子間相互作用測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(3)の工程を含むことを特徴とする、非特異吸着性の評価方法:
(1)SiN、Ta25、Nb25、HfO2、ZrO2またはITO(酸化インジウム錫)からなる層が形成されているセンサーチップの表面を非特異吸着防止能被験物(A)で処理する工程;
(2)工程(1)を経たセンサーチップの表面に、非特異吸着能被験物(B)を含む媒質を接触させる工程;および
(3)工程(2)の前後において、ノンラベルの分子間相互作用測定方法により分子間相互作用の測定を行い、その測定値の変化に基づいて、上記非特異吸着防止能被験物(A)と上記非特異吸着能被験物(B)との間の相対的な非特異吸着性を評価する工程。
【請求項2】
前記非特異吸着防止能被験物(A)が、生体分子、界面活性剤またはポリマーである、請求項1に記載の非特異吸着性の評価方法。
【請求項3】
前記非特異吸着能被験物(B)が、生体分子、界面活性剤またはポリマーである、請求項1または2に記載の非特異吸着性の評価方法。
【請求項4】
前記分子間相互作用測定方法が反射干渉分光法(RIfS)である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の非特異吸着性の評価方法。
【請求項5】
前記工程(1)において、非特異吸着防止能被験物(A)で処理する対象となるセンサーチップの表面が、リガンドが固定化されていない無修飾の状態である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の非特異吸着性の評価方法。
【請求項6】
前記工程(1)において、所定濃度の非特異吸着防止能被験物(A)を含む媒質を前記センサーチップの表面に接触させて前記処理を行う、請求項1〜5のいずれか一項に記載の非特異吸着性の評価方法。
【請求項7】
前記工程(1)において用いる前記媒質として、前記非特異吸着防止能被験物(A)の濃度が異なる複数の媒質を準備し、前記各媒質を用いて、前記工程(1)〜(3)を実行し、前記工程(1)において用いる前記媒質の最適濃度を決定する、請求項6に記載の非特異吸着性の評価方法。
【請求項8】
複数種類の非特異吸着防止能被験物(A)について、前記工程(1)〜(3)を実行し、各非特異吸着防止能被験物(A)の前記非特異吸着能被験物(B)に対する非特異吸着性の比較に基づいて、複数の非特異吸着防止能被験物(A)の間の相対的な非特異吸着性を評価する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の非特異吸着性の評価方法。
【請求項9】
前記複数種類の非特異吸着防止能被験物(A)について、前記工程(1)において、共通濃度の非特異吸着防止能被験物(A)を含む媒質を前記センサーチップの表面に接触させて前記処理を行う、請求項8に記載の非特異吸着性の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−11463(P2013−11463A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143125(P2011−143125)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】