説明

非球状シリカ及びその製造方法

【課題】従来にない形状を有する非球状シリカ、新たな製法により得られる非球状シリカ、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】平均一次粒子径2〜17nmのシリカ微粒子が連なる形状を有する非球状シリカ、樹枝状を有する非球状シリカ、又はマイクロリアクターを用いて、ケイ酸塩溶液と酸及び/又は塩溶液とを接触させることにより得られる非球状シリカに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非球状シリカ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズ〜マイクロサイズの微粒子シリカの製法として、様々な手法が知られており、例えば、水ガラスや有機化ケイ素を溶媒中で成長させる手法や四塩化ケイ素を原料として1000℃以上の高温処理で気相中で成長させる手法などが知られている。これらの手法を用いると、一般に球状微粒子形態のシリカが調製されることが多い。
【0003】
このような球状シリカは、ポリマーの補強材等、工業的に広く利用されているが、更に新たな機能、補強性能、粘弾性能等の性能を付与することも望まれている。しかし、球状シリカでは特性の改良に限界があると考えられるため、他の形状を有するシリカを提供し、従来にない特性を与えることも望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記課題を解決し、従来にない形状を有する非球状シリカ、新たな製法により得られる非球状シリカ、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、平均一次粒子径2〜17nmのシリカ微粒子が連なる形状を有する非球状シリカに関する。
本発明はまた、樹枝状を有する非球状シリカに関する。
【0006】
本発明は更に、マイクロリアクターを用いて、ケイ酸塩溶液と酸及び/又は塩溶液とを接触させることにより得られる非球状シリカに関する。ここで、上記非球状シリカは、上記ケイ酸塩溶液を用いてシリカの球状微粒子を調製し、得られたシリカの球状微粒子と前記酸及び/又は塩溶液とを接触させることにより得られるものが好ましい。
上記マイクロリアクターは、複数の液体供給路と該複数の液体供給路が合流する合流路とを備えるものであることが好ましい。ここで、上記合流路の等価直径は、1.0mm以下であることが好ましい。
【0007】
本発明は、マイクロリアクターを用いて、ケイ酸塩溶液と酸及び/又は金属塩溶液とを接触させる工程を含む非球状シリカの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、マイクロリアクター等の反応装置を用いることにより、従来には存在しない形状を有する非球状シリカを提供できる。従って、このような非球状シリカでは、球状シリカでは得ることが困難な新たな機能等を与えることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】平均一次粒子径2〜17nmのシリカ微粒子が連なる形状を有する非球状シリカを一例を示す概略図。
【図2】樹枝状シリカの一例を示す概略図。
【図3】Y字型マイクロリアクターの一例を示す概略図。
【図4】六方型マイクロリアクターの一例を示す概略図。
【図5】実施例1により作製した非球状シリカのTEM写真。
【図6】実施例2により作製した非球状シリカのTEM写真。
【図7】実施例3により作製した非球状シリカのTEM写真。
【図8】実施例4により作製した非球状シリカのTEM写真。
【図9】実施例5により作製した非球状シリカのTEM写真。
【図10】実施例6により作製した非球状シリカのTEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<微小平均一次粒子径のシリカ微粒子が連なる形状を有する非球状シリカ>
本発明の非球状シリカは、平均一次粒子径2〜17nmのシリカ微粒子が連なる形状を有する。図1は、上記シリカ微粒子が連なる形状を有する非球状シリカ1の概略図である。即ち、上記範囲の平均一次粒子径を有するシリカ微粒子11が相互に連結され、全体として非球状を形成しているシリカである。このような非球状シリカであるため、新たな特性の発現が期待でき、ポリマーの補強材以外の用途への適用も期待できる。
【0011】
非球状シリカの平均粒子径の下限は、好ましくは5nm、より好ましくは6nm、更に好ましくは7nmであり、上限は、好ましくは13nm、より好ましくは10nm、更に好ましくは9nmである。平均一次粒子径が2nm未満であると、凝集が生じやすく、大きな凝集塊となりやすい。17nmを超えると、表面積が小さくなることから、シリカ粒子同士の連結が弱くなり、非球状シリカとなりにくい。
【0012】
本明細書において、シリカ微粒子の平均一次粒子径の測定方法は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察が用いられる。具体的には、微粒子を透過型電子顕微鏡で写真撮影し、微粒子の形状が球形の場合には球の直径を粒子径とし、針状又は棒状の場合には短径を粒子径とし、不定型の場合には中心部からの平均粒径を粒子径とし、微粒子100個の粒径の平均値を平均一次粒子径とする。
【0013】
<樹枝状を有する非球状シリカ>
本発明の非球状シリカとしてはまた、樹枝状を有するものが挙げられる。図2は、樹枝状を有する非球状シリカ2の概略図である。樹枝状とは、棒状、柱状、紡錘状等の細長い形状で、かつ枝分かれしている形状であり、該細長い形状の複数の枝部が相互に連結されて構成される形状である。例えば、各枝部が放射状に配置されて各一端部同士が連結される形状である。該枝部は、先端が鋭くとがった形状でもよく、そのような形状でなくてもよい。また、極端に細長い形状でなくてもよい。このような特異的な形状を有することにより、上記と同様、新たな特性の発現が期待できる。
また、上記樹枝状を有する非球状シリカとしても、上記範囲内の平均一次粒子径のシリカ微粒子が連なる形状を有するものが挙げられる。
【0014】
<マイクロリアクターを用いて調製される非球状シリカ>
本発明の非球状シリカとしては、マイクロリアクターを用いて、ケイ酸塩溶液と酸及び/又は塩溶液とを接触させることにより得られるものも挙げられる。マイクロリアクターは直径がミクロンオーダーの流路をもち、微小反応場を持つ装置である。マイクロリアクター内では、液体粘度、送液速度、チューブ内径等の影響により、層流支配の流れとなり、液体同士が層流状態となっている界面でそれぞれの液体内に存在する分子の交換が起こり、移動した分子により析出や反応が引き起こされる。本発明では、このようなマイクロリアクターを用いることにより、上述の平均一次粒子径を有する非球状シリカ、樹枝状を有する非球状シリカ等の非球状を持つシリカが調製できる。これは、限定された流路の中でシリカ微粒子がつながり、生成するシリカに方向性を付与することにより、非球状のシリカが生成すると推察される。また、そのようなシリカ微粒子により構成された非球状シリカであるため、上記範囲の平均一次粒子径を有すると推察される。
【0015】
上記ケイ酸塩溶液を構成するケイ酸塩としては、水溶性ケイ酸塩が好適に使用される。水溶性ケイ酸塩としては、アルカリ金属とケイ酸とからなるアルカリ金属ケイ酸塩、第3級アンモニウムとケイ酸からなる第3級アンモニウムケイ酸塩、第4級アンモニウムとケイ酸からなる第4級アンモニウムケイ酸塩、グアニジンとケイ酸とからなるグアニジンケイ酸塩などが挙げられる。アルカリ金属ケイ酸塩としては、ケイ酸ナトリウム(水ガラス)、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムなど、第3級アンモニウムケイ酸塩としては、ケイ酸トリエタノールアミン、第4級アンモニウムケイ酸塩としては、ケイ酸テトラメタノールアンモニウム、ケイ酸テトラエタノールアンモニウムなどが挙げられる。
【0016】
上記水溶性ケイ酸塩として、具体的には、MO・XSiOで表されるものがより好適である。Mはアルカリ金属を表し、Xは正数である。M(アルカリ金属)はNa、K、Liが好ましく、Xは2.0〜5.0が好ましい。水溶性ケイ酸塩の市販品としては、富士化学(株)製の1号、2号、3号、1種及び2種、日本化学工業(株)製のJ珪酸ソーダ1号、2号、3号、珪酸ソーダ4号、1K珪酸カリ、C珪酸カリ、B珪酸カリ、A珪酸カリ、2K珪酸カリ、珪酸リチウム30、珪酸リチウム40、珪酸リチウム45及び珪酸リチウム75などが挙げられる。
【0017】
酸溶液を構成する酸(酸性化合物)としては特に限定されず、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、硝酸、リン酸、クエン酸、コハク酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、アジピン酸、グリコール酸、安息香酸、サリチル酸、フタル酸、スルホン酸類(メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、スルファミン酸など)、等の無機酸、有機酸が挙げられる。なかでも、水溶性ケイ酸塩との反応性が高い点から、無機酸が好ましく、硫酸、塩酸、硝酸がより好ましい。これらの酸は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
塩溶液(金属塩溶液)を構成する塩(金属塩)としては特に限定されず、例えば、1〜3価の塩(金属塩)を好適に使用できる。1〜3価の塩としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属の水溶性塩が好ましい。前記金属の水溶性塩としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルミニウムのハロゲン化物(塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム等の塩化物、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化マグネシウム、臭化アルミニウム等の臭化物)、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、等が挙げられる。塩については、価数が大きいほど、シリカ微粒子の凝集力が強くなる傾向があり、効率的に非球状シリカが得られる。なかでも、水溶性ケイ酸塩との反応性の高さの点から、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルミニウムの塩化物が好ましく、NaCl、MgCl、AlClがより好ましい。これらの塩は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
上記のとおり、マイクロリアクターを用いて、ケイ酸溶液と、酸及び/又は塩溶液とを接触させる工程を行うことにより非球状シリカが得られるが、ケイ酸溶液をそのまま用いるのではなく、予め球状微粒子のシリカに成長させてから使用することが好ましい。ケイ酸溶液(水ガラス等)のまま用いると、シリカ微粒子が成長し、シリカ微粒子が連なる形状の非球状(樹枝状等)が形成されるまでに長時間を要し、マイクロリアクターの合流路内だけでは反応時間が足りなくなるおそれがあるが、予めシリカの球状微粒子に成長させてから用いると、非球状シリカの形態が得られやすくなる。
【0020】
具体的には、ケイ酸塩溶液(水ガラス等)を水で希釈して、シリカ濃度として1〜10質量%(好ましくは2〜8質量%)に調整した後、得られた水溶液のpHを9〜11(好ましくは9.5〜10.5)に調整し、温度10〜90℃(好ましくは60〜80℃)で1〜72時間攪拌することで、球状微粒子のシリカが得られる。これにより、上記範囲内の平均一次粒子径を有するシリカ微粒子の形態とすることができる。
【0021】
上記シリカ濃度が1質量%未満では、濃度が薄く、シリカの回収率が悪くなり、10質量%を超えると、シリカの凝集が生じる傾向がある。ただし、脱塩処理をしたケイ酸溶液(水ガラス等)ではシリカが凝集しにくくなるため、上限は特に限定されない。上記pHが9未満では、ゲル化がおきやすく、11を超えると、微粒子シリカが溶解してしまうおそれがある。温度が10℃未満では、粒子生成が遅く、90℃を超えると、水の蒸発が起きて濃度が不安定になる傾向がある。攪拌時間(反応時間)が1時間未満では、微粒子生成が十分ではなく、72時間を超えてもそれ以上の変化はなく、時間の浪費になるおそれがある。なお、上記pHの調整は、前述の酸性化合物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の公知の塩基性化合物を用いて実施できる。
【0022】
マイクロリアクターを用いて、シリカ原料A(ケイ酸溶液、又はこれを用いて調製したシリカの球状微粒子)と、酸及び/又は塩溶液(酸及び塩原料B)とを接触させる工程が行われるが、酸及び塩原料Bの濃度は、シリカ原料Aと混合した際にpH7付近(例えば、6.5〜7.5、好ましくは6.8〜7.2)になるように調整することが好ましく、条件によるが、好ましくは0.05〜2質量%、より好ましくは0.1〜1質量%である。
【0023】
マイクロリアクターとしては、複数の液体供給路と該複数の液体供給路が合流する合流路とを備えるものが好適に使用される。これにより、所望の非球状シリカが好適に得られる。
【0024】
マイクロリアクターとしては、液体供給路の数に応じて、合流路の上流側が分岐された構成のものが好適に使用される。例えば、液体供給路の数が2つである場合にはY字型やT字型、3つである場合には十字型、5つである場合には六方型、等を使用できる。
【0025】
マイクロリアクターについて、図3を用いて具体的に説明する。図3は、複数の液体供給路と該複数の液体供給路が合流する合流路とを備えるマイクロリアクターの一例として、2個の液体供給路と、その2個の液体供給路が合流する合流路とを備えたマイクロリアクターの一例(Y字型)を示したものである。
【0026】
図3(a)は、マイクロリアクター3を模式的に示した概略図で、図3(b)はその断面図である。マイクロリアクター3は、シリカ原料Aの液体供給路31a、酸及び塩原料Bの液体供給路31bと、該液体供給路31a及び31bが合流する合流路32を備えている。
【0027】
合流路32の等価直径は、好ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.60mm以下、更に好ましくは0.40mm以下である。1.0mmを超えると、層流になりにくい傾向がある。また、合流路32の等価直径の下限は特に限定されないが、好ましくは0.10mm以上、より好ましくは0.15mm以上である。0.10mm未満であると、反応物が詰まるおそれがある。
【0028】
液体供給路31a及び31bの等価直径は、好ましくは3.0mm以下、より好ましくは
2.0mm以下、更に好ましくは1.7mm以下である。3.0mmを超えると、合流後の流量の調節が難しくなるおそれがある。また、液体供給路31a及び31bの等価直径は特に限定されないが、好ましくは0.05mm以上、より好ましくは0.10mm以上、更に好ましくは0.12mm以上である。0.05mm未満であると、合流後の流量の調節が難しくなるおそれがある。
【0029】
なお、シリカ原料Aを導入する液体供給路31a、酸及び塩原料Bを導入する液体供給路31bは、それぞれ1個でも2個以上であってもよく、複数の液体供給路から合流路に導入する場合、液体供給路31a(31b)の等価直径とは、それぞれの供給路の等価直径である。
【0030】
等価直径(equivalent diameter)とは、相当径とも呼ばれる機械工学の分野で用いられる用語である。任意断面形状の配管(本発明では、合流路、液体供給路)に対する等価な円管(等価円管)の直径を意味し、S(配管の断面積)、p(配管のぬれぶち長さ(周長))を用いると、deq=4S/pで表される。円管に適用した場合、等価直径は円管直径に一致する。等価直径は、一辺aの正四角形管ではdeq=4a/4a=a、一辺aの正三角形管ではdeq=a/31/2となる(参照:(社)日本機械学会編「機械工学事典」1997年、丸善(株))。
【0031】
マイクロリアクター3におけるシリカ原料Aと酸及び塩原料Bとの混合は、層流を利用した混合である。本発明における混合では、合流路を流れるそれぞれの液体(流体)を広い面積で接触させることによって、均一に混合される。拡散による移動は、Fickの法則に従い、拡散係数と濃度勾配の積としてt〜L/D(Dは拡散定数、Lは流体の厚さ、tは混合時間)で表される。上記式から、流体の層厚を薄くすることで混合時間を効果的に短くできる。
【0032】
マイクロリアクター3を構成する液体供給路31a、31b及び合流路32は、微細加工技術などにより作成できる。これらに使用可能な材料としては、金属、シリコン、テフロン(登録商標)、ガラス、セラミックス、樹脂等が挙げられる。なかでも、反応液がケイ酸塩であることから、反応しにくいテフロン(登録商標)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、セラミックス、樹脂が好ましい。
【0033】
液体供給路31a、31b及び合流路32を作成する微細加工技術としては、LIGA技術、高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法、シリコンの高アスペクト比加工法、光造形法、レーザー加工法、イオンビーム加工法、機械的マイクロ切削加工法等が挙げられる。マイクロリアクター3を組み立てる際には、一般に接合技術が用いられ、圧接や拡散接合等の固相接合、溶接、共晶接合、はんだ付け、接着等の液相接合が使用される。
【0034】
マイクロリアクター3で層流の混合を行うためには、シリカ原料Aと酸及び塩原料Bのそれぞれの流体制御を実施することが好適である。流体制御としては、連続流動方式、液滴(液体プラグ)方式が挙げられる。一般的には、連続流動方式が広く用いられ、シリンジポンプなどの圧力源によって流体全体を駆動させることができる。これにより、比較的簡便に制御システムを構築できる。
【0035】
マイクロリアクター3の温度制御することが好適である。装置全体を温度制御された容器中に入れること、金属抵抗線やポリシリコンなどのヒータをマイクロリアクター3に隣接して設置し、温度を検知しながら、所望の温度に制御すること、等の公知の手法にて温度制御が可能である。
【0036】
合流路32の温度は、15℃以上に制御することが好ましく、25℃以上に制御することがより好ましい。15℃未満であると、反応速度が遅くなり、合流路内で反応が完結しないおそれがある。上記温度は、170℃以下に制御することが好ましく、140℃以下に制御することがより好ましい。170℃を超えると、気泡の発生により、層流制御が困難となる。なお、マイクロリアクター内の温度はシリカの形態を決める重要な因子のひとつであり、温度が変化すると、得られるシリカの形態に変化がみられる。温度が高いと反応速度、拡散速度が高くなるため、大きなシリカが得られると予想されるが、本発明で実際に得られるシリカは小さくなる傾向がある。
【0037】
合流路32の長さは特に限定されず、最適反応時間に応じて適宜調整できるが、好ましくは4m以下、より好ましくは3m以下である。一方、該長さは、好ましくは0.1m以上、より好ましくは0.5m以上、更に好ましくは1m以上である。この範囲内であると、所望の非球状シリカを好適に合成できる。
【0038】
マイクロリアクターを用いて、シリカ原料Aと酸及び塩原料Bとを合流路内で接触させることにより非球状シリカが得られる。シリカ原料を流路内に流すだけでは、非球状シリカを合成できないため、本発明では、合流路内でシリカ微粒子同士を結合させる反応を促進させる物質として、酸及び塩原料Bも導入されている。
【0039】
前述のように、pH10付近(pH9〜11)でシリカの球状微粒子を成長させた場合、そのシリカ表面は負電荷に帯電し、反発力により凝集が抑制されている。ここで、酸により、pHを10付近から下げると、シリカ表面の負電荷が弱まり、凝集する傾向がでてくる。一方、塩を用いると、溶液中のカチオン濃度が高くなり、シリカの負電荷同士はカチオンにより結合しはじめ、同様に凝集する傾向がでてくる。このような凝集傾向により、シリカ微粒子同士の結合反応が進行し、上記範囲内の一次粒子径を有するシリカ粒子から形成される樹枝状等の形状を有する非球状シリカが得られる。
【0040】
本発明の非球状シリカは、従来の空気入りタイヤ等の補強材として使用可能である。また、その形状より、他の用途への適用も期待できる。
【実施例】
【0041】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0042】
実施例1〜6
(シリカ原料(反応液A)の調製)
シリカ原料として、富士化学(株)製の第3号(水ガラス)を用い、これを純水で希釈し、シリカ濃度で2.5質量%に調整した。得られた水溶液のpHを硫酸(10%)を用いて9.5又は10に調整し、室温で24時間又は48時間撹拌し、得られたものを反応液Aとした。反応液Aでは、水ガラス中の成分であるシリカ(SiO)は直径10nm程度の球状微粒子形態であった。
【0043】
(酸溶液、塩溶液(反応液B)の調製)
酸溶液(反応液B)として、希釈した硫酸を用い、硫酸の濃度は反応液Aと混合した際にpH7付近になるように、その濃度を調整した。なお、実施例6では、硫酸に加えて、塩(AlCl)も添加しているが、塩濃度は0.1mol/Lとなるように調整した。
【0044】
マイクロリアクターの液体供給路として、図4のマイクロリアクターの概略図((a):全体図、(b):マイクロチューブ47内部の模式図)に示す内径1.5mmの細径6方テフロン(登録商標)コネクター((株)アイシス製)を用いた。
反応液A、反応液Bの送液には2.5mLシリンジ及びシリンジポンプ(BSMD1001(Bioanalytical Systems, Inc.社製))を用いた。
送液スピードは以下の通り。下記条件下では2液の流れは層流になることを確認した。
反応液A:5μL/min又は50μL/min(図4(a)の41から供給)
反応液B:それぞれの入口から50μL/minずつ、合計では4倍の200μL/min(図4(a)の42、43、44及び45から供給)
【0045】
(マイクロチューブ)
細径6方テフロン(登録商標)コネクターに送液した反応液A及びBは、出口46に送られ、更に該出口46に接続した材質PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、内径255μm、長さ2mのマイクロチューブ47に導入された。マイクロチューブは、ホットプレートではさむことで温度制御を行い、30℃又は120℃に制御した。
【0046】
なお、反応液Aの調製におけるpH及び攪拌時間(熟成時間)、反応液Aの送液量、マイクロチューブの制御温度は、表1に示したとおりである。
【0047】
【表1】

【0048】
(試料の観察)
5分程度、通液し、定常状態になった後、マイクロチューブから排出された液体を評価した。排出された液体を直接、TEMグリッドに滴下し、室温で乾燥した後、TEM観察を行った。実施例1〜6で得られたシリカのTEM写真を図5〜10に示した。
【0049】
実施例1では、樹枝状(短繊維型の形状)のシリカが得られた。実施例1における反応液Aの送液量を大きくした実施例2では、短繊維状のものが連結した樹枝状(網目状)を有していた。実施例1の反応液Aの熟成時間を長くした実施例3では、反応液中のシリカ粒子が大きくなるため、本装置によって得られるシリカも大きなものとなっていた。実施例3における熟成時のpHを10にした実施例4では、pH10の条件では反応液A中の粒子間のネットワーク化が抑制されるため、本装置によって得られるシリカも実施例3と比較して小さくなっていた。
【0050】
実施例1におけるマイクロチューブ温度を低くした実施例5では、得られるシリカが大きくなる傾向にあった。実施例1における反応液Bに更に塩(AlCl)を加えた実施例6では、実施例1と同様の形状を有するシリカが得られた。
なお、実施例1〜6で得られた非球状シリカを構成するシリカ微粒子の平均一次粒子径は、TEM写真から10nm程度であった。
【符号の説明】
【0051】
1 平均一次粒子径2〜17nmのシリカ微粒子が連なる形状を有する非球状シリカ
11 シリカ微粒子
2 樹枝状を有する非球状シリカ
3 マイクロリアクター
31a、32b 液体供給路
32 合流路
4 細径6方テフロン(登録商標)コネクター
41 反応液Aの入口
42、43、44、45 反応液Bの入口
46 反応液A及びBの出口
47 マイクロチューブ
471 反応液A
472 反応液B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均一次粒子径2〜17nmのシリカ微粒子が連なる形状を有する非球状シリカ。
【請求項2】
樹枝状を有する非球状シリカ。
【請求項3】
マイクロリアクターを用いて、ケイ酸塩溶液と酸及び/又は塩溶液とを接触させることにより得られる非球状シリカ。
【請求項4】
前記ケイ酸塩溶液を用いてシリカの球状微粒子を調製し、得られたシリカの球状微粒子と酸及び/又は塩溶液とを接触させることにより得られる請求項3記載の非球状シリカ。
【請求項5】
前記マイクロリアクターが、複数の液体供給路と該複数の液体供給路が合流する合流路とを備えるものである請求項3又は4記載の非球状シリカ。
【請求項6】
前記合流路の等価直径が1.0mm以下である請求項5記載の非球状シリカ。
【請求項7】
マイクロリアクターを用いて、ケイ酸塩溶液と酸及び/又は金属塩溶液とを接触させる工程を含む非球状シリカの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−280520(P2010−280520A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133379(P2009−133379)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】