説明

非球状シリカ微粒子の製造方法

【課題】本発明は、動的光散乱法によって測定される体積平均粒子径(DLS粒子径)が10〜300nmの非球状シリカ微粒子を簡便に製造する方法を提供する。
【解決手段】非球状シリカ微粒子の製造方法であって、塩基性アミノ酸(成分A)と加水分解性シラン化合物(成分B)と水性溶媒(成分C)とを含む混合液中で、前記加水分解性シラン化合物(成分B)の加水分解反応および縮合反応を行う工程を含み、塩基性アミノ酸(成分A)に対する加水分解性シラン化合物(成分B)の混合モル比(成分B/成分A)が200〜2000であり、非球状シリカ微粒子の、DLS粒子径が10〜300nmである非球状シリカ微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非球状シリカ微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ微粒子は、セラミック原料、触媒担体、強度付与剤(フィラー)、増量剤、粘度調整剤、吸油剤、吸着剤、研磨剤など様々な用途に利用されている。特に、非球状のシリカ微粒子は、その粒子形状に依存した特異な物性を発現することから注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、長径/短径比が1.2〜4の非球状シリカ微粒子の製造方法が開示されている。特許文献1に記載の製造方法では、アミノ酸の1種であるアルギニンをアルカリ剤として用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−184857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された従来技術では、非球状シリカ微粒子におけるシリカ/アルギニンのモル比が10〜120であり、非球状シリカ微粒子の製造に多量のアルギニンが必要であること、さらに、アルカリ金属ケイ酸塩をシリカ源として用いていることから、アルカリ金属を除去するために、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液をカチオン交換樹脂に接触させる工程を要し、製造工程が煩雑であることが問題であった。
【0006】
本発明は、非球状シリカ微粒子を簡便に製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の非球状シリカ微粒子の製造方法は、
塩基性アミノ酸(成分A)と加水分解性シラン化合物(成分B)と水性溶媒(成分C)とを含む混合液中で、前記加水分解性シラン化合物(成分B)の加水分解反応および縮合反応を行う工程を含み、
塩基性アミノ酸(成分A)に対する加水分解性シラン化合物(成分B)の混合モル比(成分B/成分A)が200〜2000であり、
前記非球状シリカ微粒子の、動的光散乱法によって測定される体積平均粒子径が10〜300nmである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、非球状シリカ微粒子を簡便に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、実施例1の非球状シリカ微粒子のTEM写真である。
【図2】図2は、実施例2の非球状シリカ微粒子のTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において「非球状」とは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察を行い、透過型電子顕微鏡(TEM)により観測される一次粒子の最大長さに対して、最大長さ方向に対して垂直な方向の長さが、少なくとも、最大長さと異なる長さを有する形状をいう。具体的な形状としては、凹凸状、楕円状、数珠状、マユ型、棒状、紡錘状、針状など様々な形状が挙げられる。
【0011】
本発明の非球状シリカ微粒子の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と略する場合もある。)は、動的光散乱法によって測定される体積平均粒子径(以下「DLS粒子径」と略称する場合もある。)が10〜300nmである非球状シリカ微粒子の製造方法である。本発明の製造方法では、塩基性アミノ酸(成分A)と加水分解性シラン化合物(成分B)と水性溶媒(成分C)とを含む混合液中で、加水分解性シラン化合物(成分B)の加水分解反応および縮合反応を行って、シリカ微粒子を析出・成長させる析出・成長工程を含む。この工程において、混合液は、塩基性アミノ酸(成分A)に対する加水分解性シラン化合物(成分B)の混合モル比(成分B/成分A)が200〜2000となるように調製される。
【0012】
本発明の製造方法において非球状シリカ微粒子が製造されるメカニズムは不明であるが、以下のように推定される。本発明の製造方法では、シリカ源である加水分解性シラン化合物(成分B)と、成分Bの加水分解反応および縮合反応の触媒(アルカリ剤)である塩基性アミノ酸(成分A)とを所定のモル比で混合している。これにより、加水分解性シラン化合物(成分B)の加水分解反応および縮合反応が逐次的に起こり、粒子の核生成、粒子成長も逐次的に起こっているものと推察される。そのため、混合液内には、核生成時期の相違(時間差)により、様々な粒子径のシリカ微粒子やシリカ核が混在することとなる。これらのシリカ微粒子やシリカ核が相互に会合し、結果、比較的粒子径が大きく非球状なシリカ微粒子が生成されたと推察される。更に、非球状シリカ微粒子の生成後、本発明の製造方法により得られる、非球状シリカ微粒子と、塩基性アミノ酸と、水性溶媒とを含む、非球状シリカ微粒子分散液において、非球状シリカ微粒子と共存する塩基性アミノ酸(成分A)は、非球状シリカ微粒子表面に作用して非球状シリカ微粒子の構造を安定化させ、非球状シリカ微粒子の分散安定化にも寄与していると推察される。
【0013】
また、本発明の製造方法では、特許文献1に開示されたような、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液をカチオン交換樹脂に接触させて活性珪酸水溶液を得る工程が不要である。本発明の製造方法では、混合液に含まれる全成分の混合と、加水分解性シラン化合物(成分B)の加水分解反応速度および縮合反応速度の制御とを行えばよいので、非球状シリカ微粒子を単一の反応容器内で製造できる。しかも、これらの反応速度の制御は、混合液の温度制御、各成分の濃度設定等の簡単な条件設定によって行えるので、本発明の製造方法によれば、分散性の優れた非球状シリカ微粒子を簡便に製造できる。
【0014】
[塩基性アミノ酸(成分A)]
塩基性アミノ酸(成分A)は、加水分解性シラン化合物(成分B)の加水分解、縮合反応の触媒(アルカリ剤)として機能するとともに、シリカ核とシリカ微粒子の双方に作用して粒子成長制御に寄与し、且つ、得られた非球状シリカ微粒子の分散安定に寄与しているものと推察される。塩基性アミノ酸(成分A)のモル量が、加水分解性シラン化合物(成分B)のモル量に対して多すぎると、加水分解性シラン化合物(成分B)の加水分解反応および縮合反応が一気に起こる。その結果、シリカ核が多量に生成し、粒子成長しにくいため、DLS粒子径が大きい非球状シリカ微粒子が得られない。一方、塩基性アミノ酸(成分A)のモル量が、加水分解性シラン化合物(成分B)のモル量に対して少なすぎると、加水分解性シラン化合物(成分B)の加水分解反応および縮合反応の速度が遅く、製造効率が悪化するだけでなく、粒子成長しすぎて粗大なシリカ粒子が得られる。
【0015】
塩基性アミノ酸(成分A)としては、光学活性体でもラセミ体でも良いが、非球状シリカ微粒子の製造容易性およびコスト低減の観点から、光学活性体が好ましい。塩基性アミノ酸(成分A)としては、分子中に置換及び/又は無置換の、アミノ基及び/又はイミノ基を含み、アミノ基及び/又はイミノ基の数がカルボキシル基の数よりも多いものであれば良い。
【0016】
塩基性アミノ酸(成分A)としては、非球状シリカ微粒子の構造(粒子径、形状等)制御の容易性およびコスト低減の観点から、アルギニン、ヒスチジンおよびリジンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましいが、同様の理由から、アルギニンおよび/またはヒスチジンがより好ましい。また、混合液は、塩基性アミノ酸(成分A)の作用を十分に発揮させ、構造制御された非球状シリカ微粒子を収率良く製造するという観点から、塩基性アミノ酸(成分A)以外のアルカリ剤を含まないことが好ましい。
【0017】
塩基性アミノ酸(成分A)に対する加水分解性シラン化合物(成分B)の混合モル比(成分B/成分A)は、非球状シリカ微粒子の製造の観点から、200〜2000であることを要するが、同様の観点から、300〜1000が好ましく、500〜800がより好ましい。塩基性アミノ酸(成分A)に対する加水分解性シラン化合物(成分B)のモル比(成分B/成分A)が200以上であれば、加水分解性シラン化合物(成分B)の加水分解反応および縮合反応が一気に起こることなく、粒子径や形状が制御された非球状シリカ微粒子が製造でき好ましい。一方、塩基性アミノ酸(成分A)に対する加水分解性シラン化合物(成分B)のモル比(成分B/成分A)が2000以下であれば、加水分解性シラン化合物(成分B)の加水分解反応および縮合反応が効率良く進行し、粒子径や形状が制御された非球状シリカ微粒子を効率良く製造でき好ましい。
【0018】
混合液中の塩基性アミノ酸(成分A)の濃度は、1〜500ppmが好ましく、10〜100ppmがより好ましく、50〜100ppmが更に好ましい。混合液中の塩基性アミノ酸(成分A)の濃度が1ppm以上であれば、加水分解性シラン化合物(成分B)の加水分解反応および縮合反応が効率良く進行し、粒子径や形状が制御された非球状シリカ微粒子を効率良く製造でき好ましい。一方、混合液中の塩基性アミノ酸(成分A)の濃度が500ppm以下であれば、加水分解性シラン化合物(成分B)の加水分解反応および縮合反応が一気に起こることなく、粒子径や形状が制御された非球状シリカ微粒子が高収率で製造でき好ましい。
【0019】
[加水分解性シラン化合物(B)]
加水分解性シラン化合物(B)は、アルコキシシラン等の加水分解によりシラノール化合物を生成する物質であり、具体的には、下記一般式(1)〜(5)で示される化合物、又はこれらの組合せを挙げることができる。式中、R1はそれぞれ独立して、ケイ素原子に直接炭素原子が結合している有機基を示し、R2は炭素原子を1〜4個有する炭化水素基又はフェニレン基を示し、Yは加水分解によりヒドロキシ基になる1価の加水分解性基を示す。
SiY4 (1)
1SiY3 (2)
12SiY2 (3)
13SiY (4)
3Si−R2−SiY3 (5)
【0020】
非球状シリカ微粒子の構造制御の容易性、コスト低減、および不要な副生成物の生成抑制の観点から、R1は、それぞれ独立して、水素原子の一部がフッ素原子に置換していてもよい炭素数1〜22の炭化水素基が好ましく、炭素数1〜12の炭化水素基がより好ましい。R2は、炭素数1〜4のアルカンジイル基(メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロパン−1,2−ジイル基、テトラメチレン基等)又はフェニレン基が好ましい。Yは、非球状シリカ微粒子の構造制御の容易性、コスト、および不要な副生成物の生成抑制の観点から、好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数1〜8、更に好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基、又はフッ素を除くハロゲン基が好ましく、炭素数1〜4のアルコキシ基が更に好ましく、炭素数1〜2のアルコキシ基がより一層好ましい。非球状シリカ微粒子の構造制御の容易性、コスト低減、および不要な副生成物の生成抑制の観点から、加水分解性シラン化合物(B)は一般式(1)のシラン化合物であると好ましく、テトラアルコキシシランがより好ましく、テトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランが更に好ましく、テトラエトキシシランが特に好ましい。
【0021】
加水分解性シラン化合物(B)の混合液中の濃度は、SiO2質量換算濃度で表すと、0.5〜10質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましく、1〜3質量%がより好ましい。加水分解性シラン化合物(B)の混合液中の濃度が、SiO2質量換算濃度で0.5質量%以上であれば、非球状シリカ微粒子の生産性が向上するとともに、非球状シリカ微粒子の汎用性が高くなり好ましい。加水分解性シラン化合物(B)の混合液中の濃度が、SiO2質量換算濃度で10質量%以下であれば、加水分解性シラン化合物(成分B)の加水分解反応および縮合反応の速度が制御され、非球状シリカ微粒子の粒子径や形状が制御しやすくなり好ましい。尚、本願において、SiO2質量換算濃度とは、加水分解性シラン化合物(成分B)が完全に加水分解し、縮合することにより得られるSiO2の混合液全体における質量%である。
【0022】
加水分解性シラン化合物(成分B)としてテトラエトキシシランを用いる場合、非球状シリカ微粒子の製造容易性、及びコスト低減の観点から、混合液中の成分Bの濃度は、1〜30質量%が好ましく、2〜20質量%がより好ましく、4〜10質量%が更に好ましい。
【0023】
[水性溶媒(C)]
水性溶媒(成分C)は、水を主成分とする溶媒である。混合液中における水性溶媒(成分C)の含有量は、非球状シリカ微粒子の構造制御の容易性、コスト低減、汎用性拡大の観点から、80〜99質量%が好ましく、90〜99質量%がより好ましい。水性溶媒(成分C)中における水の含有量は、50質量%を超え100質量%以下であると好ましく、80〜100質量%であるとより好ましく、100質量%が更に好ましい。水性溶媒(成分C)中における水の含有量が50質量%を超えると、コストが低くなるだけでなく、エコロジーの観点からも好ましい。更に、加水分解性シラン化合物(成分B)の加水分解反応および縮合反応が効率良く進行し、非球状シリカ微粒子の製造効率が向上することからも好ましい。
【0024】
水性溶媒(成分C)に含まれる水以外の溶媒としては、各種汎用性溶媒を使用できるが、非球状シリカ微粒子の構造制御の容易性及び入手容易性の観点から、アルコール溶媒が好ましく、メタノール、エタノール、2−プロパノールが更に好ましい。
【0025】
[反応条件]
上記成分A、成分B、および成分Cの混合順序は、特に制限は無いが、非球状シリカ微粒子の構造制御の容易性およびコスト低減の観点から、塩基性アミノ酸(成分A)を水性溶媒(成分C)に溶解した後、得られた溶液に加水分解性シラン化合物(成分B)を添加するのが好ましい。非球状シリカ微粒子の構造制御の容易性観点から、加水分解性シラン化合物(成分B)は上記溶液にゆっくり添加するのではなく、一気に全量添加するのが好ましい。尚、混合液に、上記成分A、成分B、および成分Cが含まれる場合、非球状シリカ微粒子の構造制御の容易性の観点から、混合液は、上記成分A、成分B、および成分Cからなると好ましい。
【0026】
水性溶媒(成分C)が100質量%水である場合、加水分解性シラン化合物(成分B)が疎水性であるため、混合液は二相に分離するが、縮合反応の進行とともに徐々に加水分解された加水分解性シラン化合物(成分B)は親水性の生成物を生成するので、混合液は二相分離の無い均一状態となる。非球状シリカ微粒子の収率向上の観点から、二相分離の無い均一な状態まで反応を継続させることが好ましい。
【0027】
混合液の温度が高くなると、加水分解性シラン化合物(成分B)の加水分解速度、および縮合反応の速度は速くなる。したがって、混合液の温度は、粒径が比較的大きい非球状のシリカ微粒子を製造する観点から、加水分解性シラン化合物(成分B)の加水分解速度および縮合反応の速度が速くなりすぎない温度であると好ましい。より具体的には、反応温度は、非球状シリカ微粒子の構造制御の容易化およびコスト低減の観点から、10〜100℃が好ましく、50〜90℃がより好ましい。
【0028】
混合液の温度を、上記好ましい範囲内の値に維持する時間は、加水分解性シラン化合物(成分B)の加水分解速度、および縮合反応の速度等に応じて適宜設定されるものであるが、非球状シリカ微粒子の構造制御の容易性およびコスト低減の観点から、0.5〜5日が好ましく、1〜3日がより好ましい。反応の均一性向上の観点から、攪拌下で混合液を反応させることが好ましく、混合液の撹拌は、磁気攪拌器、プロペラ攪拌器等の攪拌装置を用いて行える。
【0029】
混合液のpHは、混合液の温度に依存して若干変動するものの、ほぼ一定であるが、加水分解性シラン化合物(成分B)の加水分解反応および縮合反応後の、混合液の25℃におけるpHは、非球状シリカ微粒子の構造制御の容易化の観点から、7〜10が好ましく、8〜9がより好ましい。
【0030】
尚、本発明の製造方法により得られる非球状シリカ微粒子は、水性溶媒(成分C)に分散された状態で市場に提供されてもよいが、その用途に応じて、水性溶媒から分離された後、乾燥、又は焼成されてもよい。焼成により非球状シリカ微粒子に付着した塩基性アミノ酸(成分A)を除去できる。本発明の製造方法では、必要に応じて、分散媒から分離された非球状シリカ微粒子に対して、焼成前に、水洗および乾燥かなる群から選ばれる少なくとも1つの処理を行ってもよい。分離方法としては、ろ過法、遠心分離法等が挙げられる。焼成温度は、好ましくは350〜800℃、より好ましくは450〜700℃であり、焼成時間は、好ましくは1〜10時間である。乾燥温度は、好ましくは50〜150℃であり、より好ましくは80〜120℃である。
【0031】
[非球状シリカ微粒子]
本発明の製造方法により得られる非球状シリカ微粒子の粒子形状は、凹凸状、楕円状、数珠状、マユ型、棒状、紡錘状、針状など様々な粒子形状が挙げられる。非球状シリカ微粒子の形状は、非球状シリカ微粒子の用途にもよるが、汎用性や性能発現の観点から、凹凸状、楕円状、数珠状がより好ましく、凹凸状、楕円状が更に好ましく、凹凸状がより一層好ましい。本発明の製造方法により得られる非球状シリカ微粒子のDLS粒子径は10〜300nmである。
【0032】
本発明の製造方法により得られる非球状シリカ微粒子は、塩基性アミノ酸(成分A)との共存により、水性媒体中において優れた分散安定性を示す。非球状シリカ微粒子の用途にもよるが、分散液中における非球状シリカ微粒子の分散安定性や汎用性の観点から、非球状シリカ微粒子分散液の25℃のpHは、7〜10が好ましく、8〜9がより好ましい。非球状シリカ微粒子の好ましいDLS粒子径は、非球状シリカ微粒子の用途に応じて異なるが、汎用性や性能発現の観点から、20〜100nmが好ましく、40〜60nmがより好ましい。尚、DLS粒子径は、25℃の非球状シリカ微粒子分散液を測定対象とし、動的光散乱法(DLS)によって測定される粒径分布中に観察される体積平均粒子径であり、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0033】
本発明の製造方法によって製造された非球状シリカ微粒子は、セラミック原料、触媒担体、強度付与剤(フィラー)、増量剤、粘度調整剤、吸油剤、吸着剤、研磨剤など様々な用途に利用できる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明の一例をより具体的に説明する。後述する実施例及び比較例において、シリカ微粒子の各種測定及び評価は、以下の方法で行った。
【0035】
<一次粒子形状の観察>
透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製、商品名:JEM−2100)を用いてシリカ微粒子の観察を行った。加速電圧は160kVとした。
【0036】
<DLS粒子径の測定>
動的光散乱光度計(DLS)(マルバーン株式会社製、商品名:データサイザーNano−ZS)を用いて、後述する実施例1〜2及び比較例1〜2で得たシリカ微粒子のDLS粒子径を測定した。測定にあたっては、実施例1〜2及び比較例1〜2で得られた反応終了原液をそのまま用いた。パラメーターとして、粒子にはシリカの屈折率1.45、吸収係数0.01を、溶媒には水の屈折率1.333、吸収係数0を用いた。測定温度は25℃、測定時間は10秒、測定回数は5回、平衡時間0分とし、装置付属の解析ソフトを用いてキュムラント法にて解析を行った。表1に記載のDLS粒子径は、測定数5の平均値である。
【0037】
<実施例1>
300mLナス型フラスコ中において、L(+)−アルギニン(和光純薬製)0.025gを水280gに溶解させた後、当該溶解液にテトラエトキシシラン(和光純薬製)20gを添加した。得られた混合液中のテトラエトキシシランの濃度は、SiO2質量換算濃度で表すと、1.9質量%である。この混合液を磁気攪拌器で撹拌しながら、85℃で3日間反応させることにより、二相分離の無い均一な微白色混合液(シリカ微粒子分散液)を得た。微白色混合液(反応終了原液)の25℃におけるpHは8.5であった。得られたシリカ微粒子のDLS粒子径を表1に示す。
【0038】
<実施例2>
L(+)−アルギニンの代わりにL−ヒスチジン(和光純薬製)0.025gを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシリカ微粒子を製造した。得られた混合液中のテトラエトキシシランの濃度は、SiO2質量換算濃度で表すと、1.9質量%である。得られたシリカ微粒子のDLS粒子径を表1に示す。反応終了原液の25℃におけるpHは8.1であった。
【0039】
<比較例1>
L(+)−アルギニン1gを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシリカ微粒子を製造した。得られたシリカ微粒子のDLS粒子径を表1に示す。反応終了原液の25℃におけるpHは9.7であった。
【0040】
<比較例2>
L(+)−アルギニンの代わりに28%アンモニア水溶液(シグマアルドリッチ製)0.2gを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシリカ微粒子を製造した。得られたシリカ微粒子のDLS粒子径を表1に示す。反応終了原液の25℃におけるpHは8.6であった。
【0041】
透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製、商品名:JEM−2100)を用いて実施例1〜2の非球状シリカ微粒子の粒子形状の観察を行った。図1〜図2に、実施例1〜2の非球状シリカ微粒子のTEM写真を示している。
【0042】
図1および図2に示すように、実施例1および実施例2の非球状シリカ微粒子は、各々、その表面に凹凸を有しており、金平糖のような形状をしている。
【0043】
表1および図1〜図2から分かるように、加水分解性シラン化合物(成分B)の加水分解および縮合反応の触媒として、塩基性アミノ酸(成分A)であるアルギニンまたはヒスチジンを用い、モル比(成分B/成分A)が200〜2000の範囲内の値である、実施例1、2では、モル比(成分B/成分A)が200よりも小さい比較例1、触媒としてアンモニア水溶液を用いた比較例2よりも、DLS粒子径が大きい非球状のシリカ微粒子を製造できた。すなわち、実施例1、2では、比較例1よりも、より少量のアルギニンの使用により非球状のシリカ微粒子を製造できた。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
以上説明したとおり、本発明は、簡便に非球状シリカ微粒子を製造できるので、非球状シリカ微粒子の製造方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非球状シリカ微粒子の製造方法であって、
塩基性アミノ酸(成分A)と加水分解性シラン化合物(成分B)と水性溶媒(成分C)とを含む混合液中で、前記加水分解性シラン化合物(成分B)の加水分解反応および縮合反応を行う工程を含み、
前記塩基性アミノ酸(成分A)に対する前記加水分解性シラン化合物(成分B)の混合モル比(成分B/成分A)が200〜2000であり、
前記非球状シリカ微粒子の、動的光散乱法によって測定される体積平均粒子径が10〜300nmである、非球状シリカ微粒子の製造方法。
【請求項2】
上記(成分A)が、アルギニン、ヒスチジンおよびリジンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の非球状シリカ微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記混合液に含まれる全成分混合直後の前記混合液中における上記(成分A)の濃度が、1〜500ppmである請求項1または2に記載の非球状シリカ微粒子の製造方法。
【請求項4】
上記(成分B)がテトラアルコキシシランである請求項1〜3のいずれかの項に記載の非球状シリカ微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−140281(P2012−140281A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293624(P2010−293624)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】