説明

非球面測定装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、非球面形状を、ホログラフィー技術を用いて測定する非球面測定装置に関する。
【0002】
【従来技術およびその問題点】近年、光学装置、例えばカメラの撮影レンズなどに非球面レンズが多用されてきている。これは、光学プラスチック成形技術の進歩により、非球面レンズが比較的安価に大量生産が可能になったためである。非球面レンズの量産段階で、非球面形状が設計値通りに高精度に形成されているか否かを迅速に測定する必要がある。
【0003】従来、非球面の測定方法として、ホログラフィー技術を利用したものが知られている。本件出願人も、先に非球面測定方法および測定装置を開発し、出願している(特開平4-240534号)。この本件出願人が先に開発した非球面測定装置は、予め設計値通りに高精度に形成して正確に配置した非球面原器からの反射光と参照光とを重ねあわせて撮影し、ホログラムを形成する。次に、このホログラムを現像処理後に撮影位置に戻し、被検面である非球面レンズを非球面原器と同じ位置に配置すれば、観測面上で観測される干渉縞は、被検面と非球面原器との差である設計値からの形状誤差が容易に測定可能となる。
【0004】ところが、実際には、非球面レンズの外形の成形誤差、非球面レンズを測定装置に装着する際の装着誤差等により、得られた干渉縞にはアライメント誤差が含まれる。このアライメント誤差を取り除く調整作業は非常に困難であり、調整には多大な時間を必要とした。すなわち、球面測定においては、X−Y−Z座標系の3軸の並進調整のみでよかったが、非球面ではさらにX、Y軸周りの傾きΔθx、Δθyを加えた計5軸の調整を行なう必要があった。ここで、Z軸は被検レンズへの被検光の入射方向、つまり、非球面レンズが置かれる光路の光軸O、X、Yは光軸Oに垂直な直交二方向である。
【0005】一般に、被検面が、X軸方向にδx、Y軸方向にδyずれていたとすると、干渉縞には、それぞれの方向にティルト成分(■ティルト縞)とコマ収差成分(■コマ収差縞)を含んだパターン(干渉縞)が観測される。一方、X、Y軸周りにそれぞれΔθx、Δθy傾いていた場合は、干渉縞には大部分のティルト成分■と、わずかなコマ収差成分■を含んだパターンが観測される。ティルト成分のみ、およびコマ収差のみによる干渉縞の様子を第2図の(B)および第3図の(B)に示した。ティルト成分■にコマ収差■が含まれると、図5に示すように表われる。また、被検面のZ軸方向のずれは、干渉縞にデフォーカス成分を生じる。一般には、これらの三つの誤差が重なりあって干渉縞が観察される。ここで、デフォーカス成分は、他の誤差と違って軸対称パターンとして表われるため、比較的簡単に調整できる(図4の(B)参照)。
【0006】しかし、被検面の横ずれと傾きによる誤差は、互いに近似した干渉縞を発生し、お互いに分離が困難なので、レンズのアライメント調整は試行錯誤的な段階が増えて調整時間が長くなる、という問題があった。
【0007】また、ある程度粗い干渉縞が得られるところまでは手動で調整し、残りのアライメント誤差は、コンピュータおよび走査手段を用いたフリンジスキャン法などによる干渉縞解析法によって求め、調整する方法が知られている。しかし、この方法によると、全体として装置が高価になり、しかも縞解析時間が長くなる、という問題があり、量産現場での適用は困難であった。
【0008】
【発明の目的】本発明は、光学素子、特に非球面の測定に際し、簡単な構成によりアライメント調整を容易に、短時間で行なうことができる非球面の測定装置を提供すると共に、特に複数の非球面レンズの測定の際に、アライメント調整を容易にすることを目的とする。
【0009】
【発明の概要】この目的を達成する本願発明は、可干渉光源からの光束を分割し、一方を被検光学素子の被検面に照射し、該被検面で反射した被検光と、上記可干渉光源からの光束を分割した他方を参照光として、上記ホログラムで回折させた後に観測面上で重ね合わせて干渉させて干渉縞を形成する測定光学系を有する測定装置であって、上記参照光が上記ホログラムに入射する方向を調整する調整手段と、上記参照光によるホログラムの0次回折光または1次回折光を検出面に集光させてその位置により上記参照光が上記ホログラムに入射または射出する方向を検出する検出手段と、を有することに特徴を有する。
【0010】
【実施例】以下図示実施例に基づいて本発明を説明する。先ず、本発明を適用するアライメント調整装置を備えた非球面測定装置の原理について、図1を参照して説明する。可干渉光を投光する光源としてのレーザ発振器11から射出されたレーザは、対物レンズ13およびコリメートレンズ15により太径の平行光束になる。この光束は、第2ハーフミラー33および第1ハーフミラー17を透過し、集光レンズ19により集束され、被検位置に配置された非球面レンズ21の非球面(被検面)21aで反射して光路を逆行し、集光レンズ19を透過して第1ハーフミラー17でほぼ直角方向に反射される。そして、記録面51に配置されたホログラム23を透過し、結像レンズ25によりCCDイメージセンサ27の感光面(観測面53)上に結像される。ここで、被検光が非球面レンズ21に入射する方向、つまり集光レンズ19の光軸が測定光学系の光軸Oであり、X,Y,Z座標系のZ軸である。
【0011】非球面レンズ21は、被検レンズ保持台100上に保持される。ここで、量産工程における測定の場合、作業性を考慮すると、測定装置は必然的に縦形となり、レンズ保持台100は鉛直方向下方に配置され、測定光学系および測定装置が鉛直上方に配置される。このレンズ保持台100は、非球面レンズ21を嵌合保持するレンズ載置凹部101と、レンズ載置凹部101の底部103に形成された円形の穴104を備えている。レンズ載置凹部101の内周面は、非球面レンズ21の周縁部と当接して非球面レンズ21がほぼ鉛直に真直に落し込まれるようにガイドするレンズガイド面102を構成している。非球面レンズの当接面が凸面の場合は、穴104の上端周縁部105が非球面レンズに当接して非球面レンズを保持し、非球面レンズの当接面が凹面のときには、底面103が非球面レンズの周縁部に当接して非球面レンズを保持する。本実施例では、非球面レンズ21は第2面21bが上端周縁部105に当接して保持されている。
【0012】さらにこのレンズ保持台100は、移動ステージ等により、光軸O(Z軸)方向に移動可能に、Z軸と直交する方向(X−Y軸方向)にそれぞれ並進移動可能に支持されている。このZ軸方向の移動によりデフォーカス調整を、X−Y軸方向の移動により横ずれの調整を行なう。
【0013】ホログラム23は、媒体として超高解像力感光材料が使用されていて、上記レンズ保持台100に非球面原器(図示せず)を置き、上記記録面51に置いた高解像力感光材料に、非球面原器からの反射光と参照光とを照射して記録(露光および現像)したものである。
【0014】一方、レーザ発振器11から射出され、第2ハーフミラー33を透過した平行光束の一部は、第1ハーフミラー17においてCCDイメージセンサ27とは反対方向に反射され、さらに固定参照ミラー29および可動参照ミラー31により反射され、第1ハーフミラー17を透過してホログラム23に入射する。そして、ホログラム23に入射した光束はホログラム23により回折され、非球面レンズ21からの被検光と同一方向に進み、結像レンズ25によりCCDイメージセンサ27上に結像される。これらの参照ミラー29、31で反射された平行光束が参照光となる。
【0015】ここで、本実施例では、可動参照ミラー31を、反射面の法線に直交する二方向に回転可能に構成してある。なお、この二方向は、図1においては紙面内と紙面に直交する方向とする。
【0016】上記非球面レンズ21の非球面21aで反射された被検光と、参照ミラー29、31で反射された参照光との重ね合わせによる干渉縞がCCDイメージセンサ27により撮像される。この干渉縞は、非球面原器55の非球面形状からの差、すなわち設計形状からの差として得られる。したがって、CCDイメージセンサ27により撮像されたこの干渉縞をTVモニタ41に再生して観測または測定することにより、非球面レンズ21の加工精度、状態を知ることができる。また、ここで観測される干渉縞は、非球面原器を記録するときと被検レンズを測定するときとで同じ光学系を使用するため、つまり、集光レンズ19および第1ハーフミラー17を光束が通るので、非球面原器記録時と被検レンズ形状測定時に光学系の持つ収差が互いに打ち消し合い、測定装置の光学系に起因する測定誤差は生じない。
【0017】さらに、上記非球面21a(被検面)とホログラム23(記録面)とが共役関係に配設され、かつホログラム23とCCDイメージセンサ27(観測面)とが共役関係に配設されている。このような共役関係に配設することにより、被検面上での座標と観測面上での座標とが一対一で対応し、被検レンズ測定時に参照光の傾き(ホログラム23への入射角)を変化させても収差の影響を受けず、アライメント調整が容易になる。
【0018】なお、本実施例は、球面レンズの測定も可能である。コリメートレンズ15から射出された平行光束の一部は、第2ハーフミラー33によりほぼ直角方向に反射され、さらに第2の参照光束を作り出す第3ミラー35で反射されて光路を逆行し、第2ハーフミラー33を透過して結像レンズ37によりCCDイメージセンサ39上に結像される。また、第2ハーフミラー33を透過した光束は、集光レンズ19により被検面で反射され、光路を逆行して第2ハーフミラー33で反射され、結像レンズ37によりCCDイメージセンサ39上に結像される。この両光が重ね合わさってCCDイメージセンサ39上に干渉縞が得られる。この干渉縞をCCDイメージセンサ39により撮像してTVモニタ42に映し出すことにより、球面レンズの球面形状を測定することができる。
【0019】また、被検面が非球面レンズの場合、非球面レンズ21の非球面21aで反射して集束レンズ19を透過した光束の一部は、第1ハーフミラー17を透過して平行光束として第2ハーフミラー33まで光路を逆行し、第2ハーフミラー33により結像レンズ37方向に反射され、CCDイメージセンサ39上に至る。したがって、第3ミラー35で反射された光と非球面レンズ21で反射された被検光とがセンサ39の受光面上で干渉して干渉縞が形成される。この干渉縞を観測することにより、非球面レンズ21のアライメント状態のチェックができる。ただし、干渉縞の粗い部分が輪帯状にできるので被検面によっては測定し難い。なお、非球面レンズ21のティルト、コマ収差および各種収差が存在しない場合には、干渉縞は同心円状になる。
【0020】さて、非球面レンズ21のアライメント誤差、すなわち測定装置に対して、非球面原器と相対的に設定位置が違う場合に生じる誤差が存在すると、ティルト、コマ収差およびデフォーカスにより観測面53上に干渉縞を生じる。図2ないし図4には、ティルトのみ、コマ収差のみ、およびデフォーカスのみがそれぞれ単独で生じている場合の波面の様子をそれぞれ示している。同図において、符号(A)は、観測面53上での波面収差を3次元的にプロットした図、符号(B)は観測面53上の干渉縞の様子を示した正面図、符号(C)は(A)図において光軸OおよびY軸を通る縦断面における波面収差を示した図である。
【0021】非球面レンズの非球面形状を測定する場合、通常、先ず、先に述べたように基準となる非球面原器により露光、現像してホログラム23を形成する。
【0022】ホログラム23が完成すると、ホログラム23を所定の位置にセットした後、被検非球面レンズ21をレンズ保持台100に載せて、非球面21aのX、Y、Z軸方向のずれ調整を行なう。レンズ保持台100は鉛直方向下方に配置され、測定光学系および測定装置が鉛直上方に配置されている。ここで、非球面自身の偏心(横ずれ)や傾きのみならず、レンズ保持台100のレンズ保持縁部104に非球面レンズ21の対向面21bを当て付けるので、当て付け部に対する非球面レンズの光軸Oに対する傾きを生じ、さらに、レンズガイド面102と非球面レンズ21の周縁輪郭間とのクリアランスにより被検非球面レンズ21は、必然的に測定装置の光軸Oに対して傾きΔθx、Δθyおよび横ずれδx、δyを生じる。
【0023】次に、本実施例における調整方法について、従来の調整方法と比較して説明する。被検非球面レンズ21は、有効半径が7.20mm、非球面21aの形状が非球面式1で表わされる非球面レンズである。
【数1】


近軸r:-27.682 (mm)k : 0.00000α4 :-2.79670×10-5α6 : 7.25141×10-8α8 :-6.30504×10-9α10、α12: 0.00000×10-0
【0024】この被検非球面21aは、有効半径上(h=hmax )で非球面量が0.111mm 、λ=0.6328μm のときに往復で350 λの波面収差を生じる非球面となる。ここで、被検非球面21aのアライメント誤差として、傾きΔθが1′存在したとき、および横ずれδ(方向は任意)が10μm 存在したときのそれぞれの場合に、■ティルト誤差に基づく干渉縞(以下「■ティルト縞」という)、および■コマ収差(以下「■コマ収差縞」)に基づく干渉縞がそれぞれ表1に示した本数の干渉縞が観測される。
【表1】


【0025】この表1は、被検非球面の傾きΔθおよび横ずれδと、観測される干渉縞の■ティルト縞および■コマ収差縞との関係を示している。この例では、被検非球面に傾きΔθが1′発生すると、■ティルト縞が13.2本、■コマ収差縞が0.65本表われ、被検非球面に横ずれδが10μm 発生すると■ティルト縞が16.4本、■コマ収差縞が6.70本表われる。
【0026】ここで特徴的なのは、被検面の傾きΔθの影響は、■ティルト縞の本数に大きく関係し、■のコマ収差縞にはほとんど関係していないこと(ただし、0ではない)、および横ずれδは■コマ収差縞の本数に大きく関係していることである。
【0027】かかる条件下における従来の調整手順と波面収差との関係を、表2を参照して説明する。従来の被検非球面レンズのアライメント調整方法では、被検面自体を光軸に対して傾け、光軸と直交する方向に横ずれさせて調整を行ない、この傾きおよび横ずれの調整を、独立した調整段階により行なっていた。ここで、傾きΔθが1′、横ずれδが10μm 生じ、各々により発生する誤差が同じ方向だったとすると、■ティルト縞が29.6本(13.2+16.4=29.6)、■コマ収差縞が7.35本(0.65+3.7 =7.35)表われていた場合(表2の(1)参照)における従来の調整方法について、表2を参照して説明する。
【表2】


【0028】先ず、アライメント誤差によって発生した収差である■コマ収差縞の本数を確認するために、■コマ収差縞よりも多数発生している■ティルト縞の本数を低減する。そのため、上述した被検面と干渉縞の特質上、先ず、被検面の傾き調整を行なう。ここで、被検非球面の傾きΔθa を、発生したティルト縞の本数が少なくなる方向に、Δθa =(29.6/13.2)≒2.4 ′だけ回転調整する。この傾きΔθa の調整により、傾きΔθ=−1.2 ′、■ティルト縞が0、■コマ収差縞が5.89本(−2.2 ×0.65+7.35=5.89)になる(表2(2)参照)。
【0029】次に、この5.89本の■コマ収差縞を0にすべく、被検非球面をコマ収差を打ち消す方向に、δa =(5.89/6.70)×10≒8.8 μm だけ移動させる。この横ずれδa の調整により横ずれδ=1.2 μm 、■コマ収差縞は0になるが、■ティルト縞が−14.4本発生してしまう(表2(3)参照)。ここで、本来、残留しているコマ収差縞は0になるが、ティルト縞が多く発生しているのでその様子が視認できない。
【0030】そこで今度は、■ティルト縞数を0にすべく被検非球面の傾きΔθa をティルト縞が減少する方向に、Δθa =(14.4/13.2)≒1.1 ′だけ回転調整する。この傾きΔθa の調整により、傾きΔθ=−0.1 ′、■ティルト縞は0になるが、■コマ収差縞が約0.71本発生してしまう(表2(4)参照)。
【0031】そこで再び、■コマ収差縞を0にすべく被検非球面をコマ収差縞を打ち消す方向に、δa =10×(0.71/6.70)≒1.1 μm だけ移動させる。しかし、この横ずれ調整により横ずれδ=0.2 μm になり、■コマ収差縞は0になるが、■ティルト縞が−1.7 本発生してしまう(表2(5)参照)。ここで、■ティルト縞の本数が少なくなったので、ようやく、■コマ収差縞の本数が0になったことを視認できる。
【0032】このように、被検非球面の傾きΔθa の調整および光軸と直交する方向の横ずれδの調整を交互に、■ティルト縞数および■コマ収差縞数が許容値以下になるまで何回も繰り返すのである。
【0033】以上述べた従来の調整方法は、被検非球面の光軸の傾き調整を行なう際に、横ずれδは生じない、という仮定に基づいての説明であったが、この仮定が成立するのは、被検面の回転軸が被検非球面の面頂(光心)に一致したときのみである。実際にはこの仮定が必ずしも成立しておらず、この条件が崩れると調整には多大な時間を必要とする、という問題があった。しかも従来の調整方法は、ティルト誤差による干渉縞とコマ収差による干渉縞とを分離して調整できなかったので、上述のように条件が崩れた場合の調整が煩雑であった。
【0034】この従来の測定方法から、アライメント調整で重要なのは、必要な情報であるコマ収差成分が不要な情報であるティルト成分に埋もれないようにして、如何に視認を容易にするかであり、視認の容易さが調整時間の大小を決定することが分かる。
【0035】かかる分析に基づいてなされた本発明について、さらに図6ないし図8を参照して説明する。観測面状における、光軸を通る干渉縞の様子を図6のグラフに示した。図6において、横軸ρは、非球面レンズ21の光軸からの高さ(半径)をh、有効高さをhmax (有効半径D)としたときに、h/hmax で表わされる値であり、縦軸Δω(本)は、干渉縞の変形量である。既に述べた表1の値は、このグラフのρ=1の値である。このグラフから、干渉縞の変形量Δωは非球面の横ずれδに依存し、傾きΔに対する依存量は非球面の横ずれδに比して十分小さい、という特徴を持つことが分かる。
【0036】この点に着目してなされた本発明の測定装置は、このコマ収差成分とティルト成分とを分離して独立調整可能にしたことに特徴を有する。つまり、初期に設定された参照光の方をアライメント調整時に傾けて、被検非球面のアライメント誤差により生じたティルト成分のみを独立して補正し、調整の効率化を図るものである。具体的には、コマ収差成分の調整は被検非球面レンズの移動により行ない、ティルト成分の調整は、被検非球面レンズは傾けずに、参照光の方を傾けて行なうことに特徴を有する。このように本実施例の装置は、被検非球面のコマ収差成分はすべて被検非球面レンズの並進ずれ調整のみで解消できる。
【0037】この本発明の思想を実現する実施例の動作原理を、さらに図7を参照して説明する。図7において、紙面に対して直交する方向がX軸、紙面内でX軸および光軸Oと直交するする軸をY軸とする。可動参照ミラー31は、軸心の延長が反射面の中心で直交するX軸方向軸およびY軸方向軸を中心として回動可能に構成されている。ここで、可動参照ミラー31を、X軸方向軸を中心としてΔφ傾けた場合を考える。図7に示した通り、可動参照ミラー31をΔφ傾けると、ホログラム23に入射する参照光は、入射角が2Δφ傾く。さらにホログラム23で回折された参照光は、結像レンズ25を透過して、入射角αで観測面53に入射する。ここで、結像レンズ25に対し、ホログラム23と観測面53とが共役の場合には、結像レンズ25による結像倍率をmとすると、入射角αは、α=2mΔφとなる。
【0038】さらにこの例では、被検面と観測面も当然共役になっている。ここで、ホログラムで回折し、結像レンズ25を透過してきた光束は、単にα傾くのみで、回折して来た波面の波面形状自体は変化しない。したがって、この入射角αで観測面53に入射する参照光は、被検非球面21aからの反射光でホログラム23を透過した光(物体光)と、結像レンズ25を透過した後、観測面53上で重なり、この結果、干渉縞が形成される。このとき観測面53上での光束径をDとすると、k=Dαなる本数の縞、つまりティルトにより発生する干渉縞がk本観測されるのみで、コマ収差は発生しない。図2に示した実施例では9本のティルト縞が発生していることが分かる。
【0039】本実施例では、可動参照ミラー31をティルトさせてアライメント調整を行なうことに特徴がある。可動参照ミラー31が1′ティルトした(傾いた)ときに生じる干渉縞の本数を表3に示した。この表3は、可動参照ミラー31の傾きΔφが1′増減すると、■ティルト縞が31.9本発生するが、■コマ収差縞は0であることを示している。
【表3】


【0040】次に、本発明の調整方法および調整装置による調整について、さらに表4および図8を参照して説明する。本実施例は、非球面レンズ21は、光軸Oおよびこれと直交する方向にしか移動させないこと、および可動参照ミラー31を回転調整することに特徴を有する。
【表4】

【0041】先ず、被検非球面レンズ21を被検レンズ保持台100にセットする(ステップ(S)11)。そして、デフォーカスが発生していれば、非球面レンズ21(被検レンズ保持台100)をZ軸方向に移動調整してデフォーカスを0にする(S13)。
【0042】デフォーカス調整後、被検非球面21aのアライメント誤差として傾きΔθおよび横ずれδがそれぞれ同方向に、傾きΔθが1′、横ずれδが10μm 発生していたと仮定する。これは、表2の(1)と同条件である。このときの■ティルト縞は29.6本、■コマ収差縞は7.35本であった(表4の(1)参照)。
【0043】そこで、先ず、■ティルト縞を0にすべく、可動参照ミラー31を回転調整する(S15)。ここで、■ティルト縞が29.6本であるから、可動参照ミラー31を■ティルト縞を打ち消す方向に(29.6/31.9)≒0.93′回転させて、可動参照ミラー31の初期設定方向からの傾きΔφを−0.9 ′にし、■ティルト縞を0にする。この操作結果、非球面レンズ21の横ずれδはそのままなので、■コマ収差縞が7.35本残った(表4(2)参照)。
【0044】次に、■コマ収差縞を0にすべく、非球面レンズ21をコマ収差を打ち消す方向に11μm 移動させる(S17)。この移動により、横ずれδが−1μm になるが、■コマ収差縞が0になる。この過程で■ティルト縞が発生するが、被検面調整とは独立して可動参照ミラー31を傾ければ、■ティルト縞の本数は増えず、0本にすることもできる。以上の操作により、■ティルト縞および■コマ収差縞がほぼ0になる。なお、可動参照ミラー31の傾きΔφは、0.6 ′減って約0.4′になっている。
【0045】以上の調整により■ティルト縞および■コマ収差縞の調整後の残量の絶対値が許容値未満になったら、加工誤差等により生じた被検面の形状誤差を測定し、被検非球面21aの良否を判定する(S19、S21、S23)。判定が終了したら、被検非球面レンズ21をレンズ保持台100から取り除き、先の判定に基づいて処理する。そして、新たな被検非球面レンズをレンズ保持台100上に載せて、上記S11〜S23の処理を行なう。
【0046】以上の通りこの非球面測定装置では、被検非球面21aの傾き(光軸Oに対する非球面レンズ21の光軸の傾き)、つまり■ティルト縞の調整を、被検非球面21aは傾けずに、可動参照ミラー31の角度調整により参照光の入射角を変えて調整するので、被検非球面21aは横ずれの調整だけで済む。しかも、参照光の方を傾けても■コマ収差縞に影響を及ぼさないので、■ティルト縞と■コマ収差縞を分離して独立調整ができるようになり、被検非球面のアライメント調整時間が大幅に短縮できる。
【0047】図示実施例では、参照光を傾けるために、可動参照ミラー31を回転させたが、可動参照ミラー31と固定参照ミラー29とを入れ替えてもよく、要するに、参照光がホログラム、観測面に入射する角度(光軸Oに対する角度)の調整ができる構成であればよい。
【0048】ところで、この測定装置において種々の非球面レンズを測定する場合、ホログラムをそれぞれの非球面レンズに合わせて予め製作しておき、測定時には対応するホログラムと交換する必要がある。本実施例では、非球面レンズの非球面形状を測定する際に、可動参照ミラー31を動かす。そのため、可動参照ミラー31で反射してホログラムに入射する参照光の入射角度が、ホログラム記録時と、ホログラム交換時とで異なってしまうことがある。例えば、ホログラムを記録した後、他のホログラムを使用して非球面レンズ測定時のアライメント調整のために可動参照ミラー31を回転調整した場合である。そのため、このように場合には、ホログラム、観測面に入射する参照光の位置、角度などの条件が、記録時とホログラム交換時とで異なってしまう。
【0049】しかし、ホログラムに入射する参照光の条件は、ホログラム記録時と交換時とで同じにする必要がある。このようにしないと、ホログラムの調整が正しく行なえない。すなわち、非球面原器を設定し、原器からの反射光でホログラムを透過する光(0次回折光)と参照光でホログラムを回折する光による干渉縞の本数を0本にできない。
【0050】そこで本発明は、参照光がホログラムに入射する角度、方向または位置を検出して、ホログラム記録時と交換時とで同一の入射条件に調整できる装置を提供する。この本発明の実施例について、さらに図9ないし図11を参照して説明する。なお、図1に示した実施例と同一の構成部材には同一の符号を付して説明を省略する。
【0051】図9には、ホログラム23を透過した参照光(0次回折光)により可動参照ミラー31の傾きを検出する実施例を示してある。可動参照ミラー31で反射され、第1ハーフミラー17およびホログラム23を透過した参照光(0次回折光)は、集光レンズ63によって、受光面が検出面を構成するCCDイメージセンサ65上に結像される。この参照光の像は点像66として現われるので(図10参照)、その点像66をTVモニタ67に映し出して観測する。ここで、ホログラム記録時における点像66の位置(座標)を記録しておき、ホログラム交換時にはその記録位置を読み出して、その位置に点像66が来るように可動参照ミラー31の角度調整を行なう。この角度調整により、ホログラム23を記録したときと同一の角度で入射する参照光によりホログラム入射を設定ができる。なお、集光レンズ63、CCDイメージセンサ65が検出手段を構成している。
【0052】また、ホログラム記録時に点像が特定の座標に位置するように可動参照ミラー31を角度調整する構成にすれば、種々のホログラム記録の度に点像66の座標を記録しなくて済む。なお、参照光のホログラム入射位置を検出する手段は、集光レンズ63、CCDイメージセンサ65およびTVモニタ67に限定されるものではない。
【0053】以上は透過光(0次回折光)を利用した実施例であったが、1次回折光を利用する実施例について図11を参照して説明する。ホログラム23と結像レンズ25との間に第3のハーフミラー71を配設してある。可動参照ミラー31で反射して第1ハーフミラー17を透過し、ホログラム23で回折された参照光の一部は、第3のハーフミラー71で観測面53と直交する方向に反射する。この第3のハーフミラー71で反射した参照光は、集光レンズ73によりCCDイメージセンサ75に結像される。この参照光の像は、点像として表われるので、これをTVモニタ77に映し出して観察し、また記録する。この実施例では、観測面上で、被検面からの反射光も点像として観測できるので、両者の相対的な角度ずれが測定でき、被検面の傾き情報が得られる、という特徴もある。
【0054】以上の通り本実施例は、ホログラムに入射する参照光の位置を検出できるので、種々の非球面レンズを測定するためにホログラムを交換する場合に、そのホログラム記録時の参照光入射位置と同一位置になるように可動参照ミラー31の角度調整を行なうことができる。したがって、可動参照ミラー31を動かすことにより生じる悪影響を除去して、可動参照ミラー31の角度調整および非球面レンズ21aの横ずれ調整を迅速にかつ短時間で行なうことができる。
【0055】
【発明の効果】以上の説明から明らかな通り本発明によれば、参照光によるホログラムの0次回折光または1次回折光を検出面に集光させてその位置により上記参照光が上記ホログラムに入射または射出する方向をを検出手段により検出できるので、非球面測定時に参照光がホログラムに入射する条件がホログラム記録時と変わっていても、ホログラム記録時に検出手段により参照光の集光位置を検出しておけば、この集光位置に測定時の参照光の集光位置が記録時の集光位置に合致するように合調整手段により調整すれば、ホログラム記録時と同一の条件に調整できるので、種々のホログラムを取り替えての光学素子の測定が容易、迅速かつ短時間で行なえ、特に、複数の非球面レンズの測定の際のアライメント調整が容易かつ短時間で行なえる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用する、ホログラムを利用した非球面測定装置の一実施例の光路図である。
【図2】同測定装置の観測面に表われた、被検非球面のティルトによる干渉縞の様子を立体、平面および断面で示す図である。
【図3】同測定装置の観測面に表われた、被検非球面のコマ収差による干渉縞の様子を立体、平面および断面で示す図である。
【図4】同測定装置の観測面に表われた、被検非球面のデフォーカスによる干渉縞の様子を立体、平面および断面で示す図である。
【図5】同測定装置の観測面に表われた、被検面のティルトおよびコマ収差による干渉縞の様子を示す平面図である。
【図6】ティルトΔθが1′、横ずれδが10μm 生じたときの干渉縞の曲がりの様子を示すグラフ図である。
【図7】本実施例における可動参照ミラーの回転角と参照光の偏向との関係を説明する図である。
【図8】本実施例の測定手順を説明するフローチャー図である。
【図9】本発明における参照光入射位置検出手段の一実施例を示す光路図である。
【図10】同参照光入射位置検出手段により得られる像の様子を示す図である。
【図11】本発明における参照光入射位置検出手段の他の実施例を示す光路図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 可干渉光源からの光束を分割し、一方を被検光学素子の被検面に照射し、該被検面で反射した被検光と、上記可干渉光源からの光束を分割した他方を参照光として、上記ホログラムで回折させた後に観測面上で重ね合わせて干渉させて干渉縞を形成する測定光学系を有する測定装置であって、上記参照光が上記ホログラムに入射する方向を調整する調整手段と、上記参照光によるホログラムの0次回折光または1次回折光を検出面に集光させてその位置により上記参照光が上記ホログラムに入射または射出する方向を検出する検出手段と、を有することを特徴とする非球面測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図9】
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【図11】
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【特許番号】特許第3385082号(P3385082)
【登録日】平成14年12月27日(2002.12.27)
【発行日】平成15年3月10日(2003.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−312263
【出願日】平成5年12月13日(1993.12.13)
【公開番号】特開平7−167739
【公開日】平成7年7月4日(1995.7.4)
【審査請求日】平成12年8月10日(2000.8.10)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【参考文献】
【文献】特開 平4−240534(JP,A)
【文献】特開 昭62−44607(JP,A)