説明

非白金系燃料電池用電極および燃料電池

【課題】アルコール水溶液を燃料とする燃料電池において、燃料極(アノード極)で一酸化炭素が生成することによる触媒活性の低下、即ち耐久性の低下、を抑制し、アルデヒド等の有害物質の生成を抑制することを課題とする。
【解決手段】燃料電池用電極に用いるアノード触媒が、周期律表における8族、9族、10族、11族から選ばれた白金以外の元素を少なくとも一つ以上含む金属触媒と酸化脱水素触媒から成る複合触媒であることを特徴とする燃料電池用電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池用電極及び燃料電池に関するものであり、具体的には、アノード触媒として白金以外の金属触媒と酸化脱水素触媒から成る複合触媒を用いる燃料電池用電極及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水素又は炭化水素由来の水素を燃料とする固体高分子型燃料電池、メタノール等のアルコール類を燃料とするダイレクトアルコール燃料電池、ジメチルエーテル等のエーテル類を燃料とする燃料電池、等が検討されており、これらの燃料電池の電極触媒としては、活性炭に担持した白金触媒が専ら検討されている。中でもダイレクトアルコール燃料電池は、白金触媒によって室温作動が可能であるので携帯用パソコンや携帯電話等のモバイル電子機器のバッテリーとして注目されている。
しかしながら、白金触媒は希少資源であることから、上記燃料電池の普及が危ぶまれている。また、白金触媒は水素、酸素、メタノール、ジメチルエーテル等の小分子に対する特異的な電極触媒能力を有しているので、白金触媒と代替可能な非白金系触媒に関する報告は非常に少なく、限られた種類の遷移金属化合物が非特許文献及び特許文献において報告されているにすぎない。
【0003】
例えば、非特許文献1では、活性炭に担持したポルフィリン錯体の熱処理物が酸性溶液中で高い酸素還元能(カソード性能)を示すことが報告されている。非特許文献2では、μ-hydroxy遷移金属錯体の熱処理物がメタノール中で高い酸素還元能(カソード性能)を示すことが報告されている。
特許文献1では、高価で希少資源である白金の使用量を低減するために活性炭に担持したN,N'-bis(salicylidene)ethylenediamine 、N,N'-mono-8-quinolyl-o-phenylenediamine の遷移金属錯体と白金化合物の混合物の熱処理物を電極触媒として用いることが開示されている。なお、以上の熱処理物は元の金属錯体の化学構造が熱分解し原形を留めていないので、金属錯体ではない。また、以上の熱処理前の金属錯体は酸性条件で容易に分解するので、酸性条件でも使えるように熱処理を行っている。
特許文献2では、プロトン伝導性を有するdithiooxamide の複核遷移金属錯体を水素極として用いることが開示されている。以上の遷移金属錯体触媒の発見は、希少資源である白金触媒に代わる豊富で安価な電極の開発を行なう上で価値ある知見を与えている。
【0004】
燃料電池の問題は、以上のような電極触媒としての問題以外に、燃料に関する問題もある。水素は最もクリーンな燃料であるが、可燃性の爆発性物質であるので取り扱いが難しいこと、メタノールは腐食性のない液体であるので取り扱い上は便利であるが毒性があること、ジメチルエーテルは麻酔性のある引火性の高い危険物であることなどである。そのため、最近、携帯用燃料電池や小型据置用燃料電池の燃料としてはエタノールが注目されはじめた。エタノール燃料は、通常、エタノール水溶液として使用されるので、毒性も少なく引火性も低く、また、バイオアルコールとして生産できるので地球温暖化ガスである炭酸ガスの低減にも役立つ一石二鳥の燃料である。しかしながら、エタノールは化学的安定性が高いので、メタノール、ジメチルエーテル、水素以上に電極酸化が難しいという問題があり、エタノールの電極触媒としては、白金触媒以外の有効な触媒は見出されていないのが現状である。
【0005】
【非特許文献1】E. Yeager 1, Electrochim. Acta 0, 29, 1527-1537 (1984).
【非特許文献2】T. Okada, Y. Suzuki, T. hirose, T. Toda, and T. Ozawa, Chemical Communications, 23, 2492-2493 (2001).
【特許文献1】特開2002−329500号公報
【特許文献2】特開2004−031174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在、各種の燃料電池において、白金触媒に代わるような触媒性能を持つ非白金系触媒は見出されていない。また、燃料としてアルコール水溶液を用いる燃料電池においては、燃料極(アノード極)で一酸化炭素が生成することによる触媒活性の低下、即ち耐久性の低下、を抑制すること、アルデヒド等の有害物質の生成を抑制することなどが課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明者は鋭意検討した結果、燃料電池用電極に用いるアノード触媒が、非白金系金属触媒と酸化脱水素触媒から成る複合触媒であることによる燃料電池用電極が上記課題を解決し得ることを見出し本発明に至った。
また、該燃料電池用電極を用いた燃料電池であって、特に、エタノール水溶液を燃料とする燃料電池のアノード触媒として用いると触媒効果が高いことを見出し本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
1.燃料電池用電極に用いるアノード触媒が、周期律表における8族、9族、10族、11族から選ばれた白金以外の元素を少なくとも一つ以上含む金属触媒と酸化脱水素触媒から成る複合触媒であることを特徴とする燃料電池用電極。
2.前記8族の元素が、鉄及びルテニウムであることを特徴とする上記1.に記載の燃料電池用電極。
3.前記9族の元素が、コバルトであることを特徴とする上記1.に記載の燃料電池用電極。
4.前記10族の元素が、ニッケル及びパラジウムであることを特徴とする上記1.に記載の燃料電池用電極。
5.前記11族の元素が、銅及び銀であることを特徴とする上記1.に記載の燃料電池用電極。
6.前記酸化脱水素触媒が、酸化物であることを特徴とする上記1.に記載の燃料電池用電極。
7.前記複合触媒が、1000〜4000m2 /gの比表面積と0.4〜50nmの平均細孔径を有するミクロメソポーラス活性炭に担持されていることを特徴とする上記1.〜6.のいずれか1項に記載の燃料電池用電極。
8.上記1.〜7.のいずれか1項に記載の燃料電池用電極を用いたことを特徴とする燃料電池。
9.燃料電池が、燃料としてエタノール水溶液を用いるダイレクトエタノール燃料電池であることを特徴とする上記8.に記載の燃料電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アノード触媒として非白金系金属触媒と酸化脱水素触媒から成る複合触媒を用い、燃料としてエタノール水溶液を用いると、触媒活性の低下、即ち耐久性の低下や、アルデヒド等の有害物質の生成を軽減することができる。出力については従来の白金触媒を用いた燃料電池の性能を超えるものではないが、それに近い電力密度を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するのに好適な実施形態について説明する。
本発明における燃料電池の特徴は、アノード触媒として従来検討されている白金触媒の代りに非白金系金属触媒と酸化脱水素触媒から成る複合触媒を用いることにある。本発明複合触媒は、水素、アルコール類、ジメチルエーテル等を燃料として用いる燃料電池全般に有効であるが、特に、電極酸化が困難とされているエタノールに対しても有効であるので、以下では、エタノール燃料電池について説明する。
エタノール燃料電池の原理は、メタノール等の他のアルコール類の燃料電池と同様に、アノード触媒上でアルコール分子が電極酸化を受けてプロトン、電子、及び炭酸ガスを発生し、カソード触媒上でプロトン、電子、及び酸素が反応し水が生成するものである。燃料としてエタノール水溶液を用いるのはエタノールの完全酸化のために水を必要とするからである。完全酸化によってエタノール1分子当たり4電子放出する、即ちメタノールの放出電子の2倍の電子を放出するので、出力が高い。
【0011】
本発明燃料電池の燃料として用いるエタノールとしては、通常、化学合成エタノールや発酵法で生産されるバイオアルコールを使用する。これらのエタノールは、単一成分でもよいし他のアルコール類、例えば、メタノール、プロパノール、ブタノール等との混合アルコールでもよい。通常、燃料極で用いるエタノールは、エタノールの完全酸化することを目的するために含水エタノールである。エタノールと水のモル比は、通常、エタノールの完全酸化のための化学量論比を基準にして設定され、その比率は、エタノール:水=1:3である。しかし実際にはエタノールのクロスオーバー等による無駄な消費を防ぐために、通常は、上記基準値よりもエタノールの比率を多少低めに設定するのが好ましい。
【0012】
本発明アノード触媒に用いられる非白金系金属触媒は、周期律表における8族、9族、10族、11族から選ばれた白金以外の元素を少なくとも一つ以上含む金属触媒である。8族の中では鉄及びルテニウムが好ましく、9族の中ではコバルトが好ましく、10族の中ではニッケル及びパラジウムが好ましく、11族の中では銅及び銀が好ましい。また、金属触媒は、単一の元素から構成される金属触媒であってもよいし複数の元素から構成される金属触媒であってもよい。複数の元素から構成される金属触媒としては、パラジウムと銀の複合金属、パラジウムとコバルトの複合金属、パラジウムとニッケルの複合金属、パラジウムと鉄の複合金属、銀と銅の複合金属、銀とニッケルの複合金属、コバルトと銅の複合金属、銅と鉄との複合金属が好ましい。
また、これらの複合金属に必要に応じてロジウム、イリジウム、オスミウム、金などの貴金属、酸素吸蔵性をもつランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウム等のランタノイド族元素、イットリウム、ニオビウム、クロム、マンガン、モリブデン、タングステン、レニウム等の遷移元素、半導体物性をもつケイ素、ゲルマニウム、ガリウム、インジウム、燐、砒素、アンチモン等の合金、酸化能をもつビスマス、錫、鉛等の元素を加えることもできる。
【0013】
本発明に用いられる酸化脱水素触媒としては、キレート化合物、タングストリン酸、モリブドリン酸、タングストケイ酸、及びバナドモリブドリン酸などの塩であるヘテロポリ酸塩、チタン酸、鉄(VI)酸、タングステン酸、モリブデン酸、バナジウム酸、コバルト酸、錫酸、タンタル酸、過マンガン酸、及び過レニウム酸などの塩であるオキソ酸塩、ペルオキソ一硫酸、及びペルオキソ二硫酸などの塩であるペルオキソ酸塩、五酸化バナジウム、二酸化マンガン、酸化チタン、酸化鉄、フェライト、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化銀、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化セリウム、酸化プラセオジム、酸化錫、酸化鉛、及び半導体物性をもつ酸化亜鉛などの酸化物、モリブデン−ビスマス−酸素、鉄−モリブデン−酸素、及び鉄−カリウム−酸素などの複酸化物、過酸化リチウム、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、過酸化マグネシウム、過酸化カルシウム、過酸化バリウム、過酸化チタン、過酸化鉄、過酸化コバルト、過酸化ニッケル、及び過酸化鉛などの過酸化物、アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、コバルト、ニッケル、銅、及び亜鉛などの金属及びその合金などを挙げることができるが、これらに限定するものではない。
【0014】
上記キレート化合物としては、中心金属イオンが、鉄、コバルト、ニッケル、及び銅イオンであるジチオオキサミド遷移金属錯体が好ましい。より好ましくは、中心金属が、コバルト、ニッケルであるジチオオキサミド遷移金属錯体(ジチオオキサミドコバルトニッケル錯体)が用いられる。ヘテロポリ酸塩としてはバナドモリブドリン酸塩が好ましい。オキソ酸塩としては鉄(VI)酸塩、及び過レニウム酸塩が好ましい。より好ましくは、鉄(VI)酸バリウムが用いられる。酸化物としては、五酸化バナジウム、四三酸化コバルト、二酸化マンガン、三酸化タングステン、酸化バリウム、及び酸化鉛が好ましい。過酸化物としては、過酸化バリウム、過酸化鉄、過酸化コバルト、過酸化鉛が好ましい。金属及びその合金としては、カリウム、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛、及びこれらの合金が好ましい。より好ましくは、マグネシウム、銅、亜鉛の合金が用いられる。
【0015】
本発明の非白金系金属触媒と酸化脱水素触媒から成る複合触媒は、非白金系金属触媒と酸化脱水素触媒の物理的混合物でもよく、化学的合金(chemical alloy)でもよく、あるいはメカニカルアロイ(mechanical alloy)でもよい。該複合触媒は、非白金系金属触媒と酸化脱水素触媒の適切な組み合わせによってエタノールの電極酸化に高い効果を示すものであるが、その反応機構は、恐らく、酸化脱水素触媒によるエタノール分子からの水素の引き抜きと、引き抜かれた水素原子の非白金系金属触媒によるプロトン化が協調的に進むためであろうと考えられる。
【0016】
また、本発明燃料電池における複合触媒は、通常、活性炭に担持して用いる。本発明に用いられる活性炭は、高比表面積を有しかつ細孔の主分布がミクロ乃至メソ領域にあるミクロ・メソポーラス活性炭であることが好ましい。これによって、担持される触媒の比表面積が飛躍的に高められること、触媒の再凝集を抑制し触媒の均一高分散化が図れること、触媒の溶解を抑制できること、などの優れた効果が奏せられる。活性炭の平均細孔径は、0.4〜50nmの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.4〜10nmの範囲である。0.4nm未満では、触媒の担持が難しくなるので0.4nm以上であることが好ましく、50nmを超えると担持触媒の活性が低下するので50nm以下であることが好ましい。0.4〜10nmの範囲の細孔は、原子及び小分子がちょうど収まる程度のナノスペースであるので、触媒反応を促進するために非常に有効である。このような微小空間に担持できる触媒粒子は、数10個から最大1000個程度の原子から構成される小分子に制約されるので、従来使用されているサブミクロンサイズ乃至ミクロンサイズの触媒粒子と比べると1000倍〜10000倍の比表面積を有する。したがって、非常に高い触媒活性が期待できる。
【0017】
比表面積は、特別な事情がない限り高ければ高いほどよい。本発明で用いるミクロ・メソポーラス活性炭の比表面積は1000〜4000m2 /gであり、好ましくは1000〜3000m2 /gの範囲である。比表面積が1000m2 /g未満では、触媒の担持量が少なくなるので担持触媒の触媒性能を引き出す上で1000m2 /g以上であることが好ましい。一方、材料強度上の面からは比表面積が4000m2 /g以下であることが好ましい。なお、上記活性炭の比表面積は、吸脱着の気体として窒素を用いたBET窒素吸着法によって測定される値であり、細孔径は、吸脱着の気体として窒素を用いた窒素吸着法によって測定される値でありBJH法によって求められる1〜200nmの範囲の細孔分布(微分分布表示)で示される。
【0018】
本発明ミクロ・メソポーラス活性炭担持複合触媒の製造方法は、特に限定するものではなく、以下の様に従来の方法を応用して行うことができる。ミクロ・メソポーラス活性炭は、例えば、ゼオライト、メソポーラスシリカ等のミクロ・メソポーラス材料に炭素前駆物質の溶液又は気体を流通させ熱あるいは化学蒸着法(CVD法)によって細孔内に炭素を析出させた後、フッ化水素あるいはアルカリエッチングによってゼオライト、メソポーラスシリカ等を溶解除去することで製造することができる。このような方法によって作成されたミクロ・メソポーラス活性炭への複合触媒の担持は、例えば、ミクロ・メソポーラス活性炭に複合触媒の前駆体を溶解した溶液を含浸した後、これを乾燥、熱処理、必要に応じて還元処理することによって行うことができる。あるいは、活性炭に非白金系金属触媒を担持したものと、活性炭に酸化脱水素触媒を担持したものをそれぞれ別個に製造した後、これらを機械的に微細混合してもよい。
【0019】
アルコール類の電極での理想的な触媒反応は、燃料極ではアルコールの電極酸化によって電子とプロトンが生成し、空気極ではプロトン、電子、及び酸素の反応によって水が生成する。したがって、本発明燃料電池は、生成電子とプロトンの速やかな移動のために電極触媒の担体として、通常、導電性を有する活性炭を用いる。本発明において担体として用いるミクロ・メソポーラス活性炭は、少なくとも従来の活性炭と同程度の導電性を有することが好ましい。また、電子は、活性炭を介してメッシュ状グラファイト(カーボンクロスともいう)、又はカーボンペーパー等の集電体に輸送される。生成プロトンは、高分子電解質膜を通してカソードに輸送される。
【0020】
集電体としては、従来のカーボンクロスやカーボンペーパーを用いることができる。また、プロトンの輸送についても従来と同様に高分子電解質膜を用いて行うことができる。カソード触媒は、水素原子(アノードからのプロトンがカソードで電子を受け取り水素原子になる)を空気酸化して水分子に変換するための触媒であるから、一般に水素と酸素の反応による水分子生成は常温で容易に起きることを考えると、アノード触媒のように高機能な触媒である必要はない。したがって、多孔性のグラファイト電極、従来のカソード電極、本発明における複合触媒の中から選ばれたカソード性能を併せ持つ触媒を用いた電極、また、カソード性能を持つことが報告されている触媒を用いた電極で足りる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例などを挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
「製造例1」ミクロ・メソポーラス活性炭の製造
細孔径0.54nmの合成ゼオライト(ZSM−5)100gに5質量%の塩化第二鉄水溶液200mlを加え1昼夜放置し、濾過し、120℃−2時間真空乾燥することによって、鉄イオンを吸着したZSM−5を調整した。これを石英管に入れ1500℃に加熱し、ベンゼン蒸気を流通することによって、細孔内に活性炭を析出させた。粉末をとりだしテフロン容器に入れこれにフッ化水素酸を加えZSM−5を溶解除去し、残った活性炭微粉末を水洗し、10%塩酸洗浄によって鉄成分を溶解除去し、アルカリ中和し、水洗し、120℃1昼夜真空乾燥した。細孔分布及び比表面積の測定の結果、主として0.4〜2.0nmの範囲の細孔分布をもち、比表面積が1500m2 /g、細孔容積が1.36cm3 /gであった。
【0022】
「製造例2」ルテニウムと鉄から成る非白金系金属触媒の製造
製造例1で製造したミクロ・メソポーラス活性炭10gに塩化ルテニウムと硝酸第二鉄の混合水溶液(蒸留水20gに塩化ルテニウムの1水和物2.232gと硝酸第二鉄の9水和物7.246gを溶解した水溶液)を室温で加え、スチームバス上で蒸発乾固した。これを石英製の気体流通管に入れ、水素ガスを流しながら400℃で3時間処理した。引き続き、流通ガスを窒素ガスに切り替えて窒素ガスを流しながら室温まで冷却後、触媒をとりだした。活性炭に担持したルテニウム及び鉄の担持率はそれぞれ10%であった。
【0023】
「製造例3」パラジウムと銀から成る非白金系金属触媒の製造
製造例1で製造したミクロ・メソポーラス活性炭10gに塩化パラジウムと硝酸銀の混合水溶液(蒸留水10gに塩化パラジウムの2水和物1.667gと硝酸銀1.575gを溶解した水溶液)を室温で加え、スチームバス上で蒸発乾固した。これを石英製の気体流通管に入れ、水素ガスを流しながら400℃で3時間処理した。引き続き、流通ガスを窒素ガスに切り替えて窒素ガスを流しながら室温まで冷却後、触媒をとりだした。活性炭に担持したパラジウム及び銀の担持率はそれぞれ10%であった。
【0024】
「製造例4」パラジウムとコバルトから成る非白金系金属触媒の製造
製造例1で製造したミクロ・メソポーラス活性炭10gに塩化パラジウムと硝酸コバルトの混合水溶液(蒸留水10gに塩化パラジウムの2水和物1.667gと硝酸コバルト6水和物4.950gを溶解した水溶液)を室温で加え、スチームバス上で蒸発乾固した。これを石英製の気体流通管に入れ、水素ガスを流しながら400℃で3時間処理した。引き続き、流通ガスを窒素ガスに切り替えて窒素ガスを流しながら室温まで冷却後、触媒をとりだした。活性炭に担持したパラジウム及びコバルトの担持率はそれぞれ10%であった。
【0025】
「製造例5」酸化コバルトを担持した酸化脱水素触媒の製造
製造例1で製造したミクロ・メソポーラス活性炭10gにジ−i−プロポキシコバルトのメタノール溶液(メタノール20gにジ−i−プロポキシコバルト6.06gを溶解したメタノール溶液)を室温で加え、スチームバス上、蒸発乾固した。これを電気炉に入れ空気中400℃で1時間焼成した。室温まで放冷後、触媒を取り出した。活性炭に担持した酸化コバルトの担持率は約25%であった。
【0026】
「製造例6」二酸化マンガンを担持した酸化脱水素触媒の製造
製造例1で製造したミクロ・メソポーラス活性炭10gにジ−i−プロポキシマンガンのメタノール溶液(メタノール20gにジ−i−プロポキシマンガン5gを溶解したメタノール溶液)を室温で加え、スチームバス上で蒸発乾固した。これを電気炉に入れ空気中400℃で1時間焼成した。室温まで放冷後、触媒を取り出した。活性炭に担持した二酸化マンガンの担持率は約25%であった。
【0027】
「製造例7」ルテニウム−鉄触媒とパラジウム−コバルト触媒から成るアノード用複合触媒の製造
製造例2で製造した非白金系金属触媒10gと製造例4で得た酸化脱水素触媒10gを遊星ボールミルに入れ、窒素ガスを流しながら室温で10時間微細混合し、複合触媒を得た。
【0028】
「製造例8」パラジウム−銀触媒と酸化コバルトから成るアノード用複合触媒の製造
製造例3で製造した非白金系金属触媒10gと製造例5で得た酸化脱水素触媒10gを遊星ボールミルに入れ、窒素ガスを流しながら室温で10時間微細混合し、複合触媒を得た。
【0029】
「製造例9」パラジウム−コバルト触媒と二酸化マンガンから成るアノード用複合触媒の製造
製造例4で製造した非白金系金属触媒10gと製造例6で得た酸化脱水素触媒10gを遊星ボールミルに入れ、窒素ガスを流しながら室温で10時間微細混合し、複合触媒を得た。
【0030】
「製造例10」銀を担持したカソード用触媒の製造
製造例1で製造したミクロ・メソポーラス活性炭10gに20質量%の硝酸銀水溶液10gを室温で加え、スチームバス上で蒸発乾固した。これを水酸化ナトリウムでpH=14に調整した10質量%のホルマリン100mlに入れ、攪拌下で50℃に加温し30分間保った。沈殿物を減圧濾過し、水洗し、100℃真空乾燥することによってミクロ・メソポーラス活性炭担持銀触媒を得た。
【0031】
「製造例11」ルテニウム−鉄−酸化コバルト触媒//銀触媒から成るMEAフィルムの製造
製造例8で製造した活性炭担持のアノード用複合触媒10gと5質量%のナフィオン溶液10ml(アルドリッチ社製造品)、及びメタノール10mlを混合し、混練器によってペースト状に加工し、アノード用触媒ペーストを得た。また、製造例10で製造したカソード用触媒10gを用いて同様にしてペースト状に加工し、カソード用触媒ペーストを得た。カーボンクロスを高分子電解質膜(デュポン社製造品:ナフィオン)の両面に敷設したフィルムを準備し、このフィルムに上記アノード用触媒ペーストを片面塗布し、裏面には製造例5のカソード用触媒ペーストを塗布した。室温乾燥後、圧延プレスによって150℃−1時間加熱圧縮することによって、MEA (M embrane E lectronic A ssembly)フィルムを作製した。
【0032】
「製造例12」パラジウム−銀−酸化コバルト触媒//銀触媒から成るMEAフィルムの製造
製造例3で製造した活性炭担持のアノード用複合触媒10gと製造例10で製造したカソード用触媒10gを用いて製造例8と同様にしてMEAフィルムを作製した。
【0033】
「製造例13」パラジウム−コバルト−二酸化マンガン//銀触媒から成るMEAフィルムの製造
製造例9で製造した活性炭担持のアノード用複合触媒10gと製造例10で製造したカソード用触媒10gを用いて製造例8と同様にしてMEAフィルムを作製した。
【0034】
[実施例1]
ルテニウム−鉄−酸化コバルト触媒//銀触媒から成るMEAフィルムの出力密度
製造例11で製造したMEAフィルムを5cm角にカットしたものを、燃料電池用電極性能測定用の単セル装置にセットした後、燃料室に1質量%過酸化水素含有エタノール水溶液(モル比でエタノール:水=1:4の水溶液)を毎分1ml供給し、空気室に空気を毎分100ml供給した。約1時間運転し、電気計測装置によって1時間後及び10時間後の電流と電圧を測定し、MEAフィルムの単位面積当たりの出力密度を求めた。その結果、1時間後及び10時間後の出力密度は約5mW/cm2 であり、経時変化がみられなかった。また、1時間運転後及び10時間後の燃料室に存在する燃料成分をガスクロマトグラフィー分析した結果、アセトアルデヒド及び酢酸の濃度はそれぞれ10ppm以下であり、経時変化がみられなかった。
【0035】
[実施例2]
パラジウム−銀−酸化コバルト触媒//銀触媒から成るMEAフィルムの出力密度
製造例12で製造したMEAフィルムを5cm角にカットしたものを用い、実施例1と同様にして単セル測定によるMEAフィルムの単位面積当たりの出力密度を求めた。その結果、1時間後及び10時間後の出力密度は約15mW/cm2 であり、経時変化がみられなかった。また、1時間運転後及び10時間後の燃料室にある燃料成分をガスクロマトグラフィー分析した結果、アセトアルデヒド及び酢酸の濃度はそれぞれ10ppm以下であり、経時変化がみられなかった。
【0036】
[実施例3]
パラジウム−コバルト−二酸化マンガン触媒//銀触媒から成るMEAフィルムの出力密度
製造例13のMEAフィルムを5cm角にカットしたものを用い、実施例1と同様にして単セル測定によるMEAフィルムの単位面積当たりの出力密度を求めた。その結果、1時間後及び10時間後の出力密度は約15mW/cm2 であり、経時変化がみられなかった。また、1時間運転後及び10時間後の燃料室にある燃料成分をガスクロマトグラフィー分析した結果、アセトアルデヒド及び酢酸の濃度はそれぞれ10ppm以下であり、経時変化がみられなかった。
【0037】
[比較例1]
従来の白金触媒を用いたMEAフィルムの出力密度
市販のアノード用の活性炭担持白金触媒(Johnson Matthey株式会社製造品:白金の担持率20%)10gとカソード用の活性炭担持白金触媒(Johnson Matthey株式会社製造品:白金の担持率20%)10gを用いて、製造例11と同様の方法でMEAフィルムを作製した。このMEAフィルムを用いて実施例1と同様の方法で単セル測定した。その結果、1時間後及び10時間後の出力密度は約20mW/cm2 であり、経時変化がみられなかった。また、1時間運転後及び10時間後の燃料室にある燃料成分をガスクロマトグラフィー分析した結果、アセトアルデヒド及び酢酸の濃度はそれぞれ1500ppm程度であり、経時変化がみられなかった。
【0038】
上記本発明の実施例と比較例の結果から、本発明の非白金系アノード触媒を用いたダイレクトエタノール燃料電池は、従来の白金触媒を用いた燃料電池の電力密度を越えることはなかったがそれに近い電力密度が得られることと、アルデヒド等の有害物質の副生が従来触媒に比べて非常に少ないことに特徴を有する。したがって、本発明のアノード触媒は白金触媒の代替触媒として非常に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、ダイレクトエタノール燃料電池および該ダイレクトエタノール燃料電池用の電極として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用電極に用いるアノード触媒が、周期律表における8族、9族、10族、11族から選ばれた白金以外の元素を少なくとも一つ以上含む金属触媒と酸化脱水素触媒から成る複合触媒であることを特徴とする燃料電池用電極。
【請求項2】
前記8族の元素が、鉄及びルテニウムであることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項3】
前記9族の元素が、コバルトであることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項4】
前記10族の元素が、ニッケル及びパラジウムであることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項5】
前記11族の元素が、銅及び銀であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項6】
前記酸化脱水素触媒が、酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項7】
前記複合触媒が、1000〜4000m2 /gの比表面積と0.4〜50nmの平均細孔径を有するミクロメソポーラス活性炭に担持されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池用電極。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池用電極を用いたことを特徴とする燃料電池。
【請求項9】
燃料電池が、燃料としてエタノール水溶液を用いるダイレクトエタノール燃料電池であることを特徴とする請求項8に記載の燃料電池。

【公開番号】特開2008−311055(P2008−311055A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157456(P2007−157456)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【出願人】(000173924)財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】