説明

非破壊型である膜の性能および完全性試験用の水酸化第二鉄コロイド粒子を分散した水溶液およびその製法

【課題】
膜の微粒子除去能を確定する性能試験および使用後の膜が微粒子除去性能においてあらかじめ設定内であることを確認す非破壊法の完全性試験の新しい方法と該試験に適用させる試験試薬と該試薬を製造する方法を提供する。
【解決手段】
平均粒子径13〜200nmの水酸化第2鉄コロイド粒子と該コロイド粒子を安定させるためのpHが2.5〜4.0であることを特徴とする水溶液を試験液として粒子除去性能を測定する。試験液を他の物質に接触させた際の該コロイド粒子を安定させる複数の水溶性成分を含むことによってコロイド粒子の安定化を増加させる。この水酸化第2鉄コロイド粒子の粒子径を核としての小径の水酸化第2鉄コロイドと3価の鉄イオン濃度の混合比で制御して作製した水溶液を用いて膜の粒子除去性能を評価する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微粒子除去を目的とした平均孔径5nm以上300nm以下の高分子多孔膜を使用後または使用前に行う膜の完全性試験または膜のウイルス除去の性能試験に供する水溶液とその製法に関する。除去対象とする微粒子とはウイルスや細菌などの感染性粒子あるいはタンパク凝集体,タンパクと他の分子との複合化した凝集体や無機粒子である。これらの微粒子を膜によって除去する技術を提供したりあるいはその技術を適切に利用したりする際には、膜の供給側は膜の微粒子除去性能を評価(この評価試験を性能試験と略称)したり、あるいは膜の使用者側は膜が微粒子除去性能を設計通り製造工程中で適切に使用されたことを確認する完全性試験を実施することが必要である。
【0002】
本発明は膜の非破壊型の微粒子除去性能試験および完全性試験用に供する水溶液を与えさらに該水溶液の製法を提供する。該水溶液中には除去対象とする感染状微粒子に対応する指定された大きさ(通常、直径:プリオン用10nm,ウィルス用20nm,マイコプラズマ用80nm,細菌用では300nm)をもつ微粒子を含み、その微粒子が安定に分散していなくてはならず通常12週間以上は平均の粒径は変化しないことが必要である。
【背景技術】
【0003】
膜分離技術は分離に要するエネルギーが小さいこと、温和な条件での分離であることにより生物資源を利用する分野に利用されている。特にバイオ医薬品や飲食品分野の精製工程では多用されている。これらの分野での膜技術は、感染性粒子(ウイルム,細菌,プリオンなど)を除去するなどの安全性対策上不可欠である。実際に市場ではウイルス除去膜や除菌用フィルターとして膜を用いた濾過技術(膜濾過技術と略称)としてバイオ医薬品の製造工程で利用され、この分野では使用後の膜の完全性試験が義務付けられている。
【0004】
従来より提案された膜の完全性試験法には、ウィルス除去と細菌除去に関して直接法と間接法との二種類がある。例えばウィルス除去に関して直接法とはある特定の大きさを持つ微粒子を同じ大きさのウイルスのモデル物質とみなし、この微粒子を分散した水溶液を用いた膜の微粒子除去性能を測定する試験法意味する。完全性試験の定義から膜としては使用直後の膜でなくてはならない。ウィルス除去に関して実際に使われている微粒子は金コロイド粒子である。(特許文献1)一方、性能試験は膜の使用前に膜のメーカーが行う除去性能試験であり、この金コロイド粒子を用いる場合には膜の性能試験の直接法に分類される。性能試験の直接法において技取り検査では金コロイド粒子が採用されているが全数検査での直接法は開発されていない。この方法が破壊型の直接法であるため全数検査の性能試験としては不適である。
【0005】
間接法による完全性試験では微粒子の除去性能を測定する代りに、孔特性に関連した物性値を測定することによって間接的に使用後の膜についての微粒子の除去性能が設定された基準以上であることを確認する試験法である。たとえば膜中の孔を介して2種の液体相を接触させた際に生じる界面張力が既知であれば2液体の一方を加圧して最初に加圧された液体が孔を通過する瞬間の圧力を測定すれば最大孔径が定まる。この圧力が所定の圧力以上であることによって膜中の最大の孔の大きさが設定された孔径内であることが原理上確認できる。(特許文献2)
【0006】
間接法での実際の測定では一定の膜間差圧を与えた際の液体の膜透過速度を測定する場合が多い(特許文献2)。しかしこの方法では界面張力が重要であるため使用後の膜の洗浄と測定時の温度制御が必要であり、しかも測定後の膜は測定時に使用していた液体で汚染される。また界面張力の大きな液体(例、水など)の場合には膜への負荷圧力が大きくなるため完全性試験によって孔が力学的に変形あるいは破壊される。したがってこの方法も破壊試験となるため全数検査が必要な性能試験としては使えない。膜の平均孔径が小さくなるほど間接法の適用が難しくなる。
【0007】
全数検査で性能試験としての非破壊の間接法の例として、孔を介しての気体と液体との表面張力を利用して最大径またはその近傍の孔を上述の液/液界面での間接法の場合と類似の気/液界面での気体の透過速度を測定する検査法も実際の膜の製造現場では利用されている。しかしこの方法では膜としては乾燥状態であることが必要であり、かつ膜間差圧も数気圧〜十数気圧必要なためこの方法は膜ユーザーの行う完全性試験には使えない。
【0008】
本発明でいう膜分離技術とは(1)圧力差を物質移動の駆動力として孔径と粒子径との関係で物質を分離する膜濾過技術と、(2)濃度差を物質移動の駆動力とし、分子あるいは粒子自体の持つ熱運動性(いわゆるブラウン運動の激しさ)の差を利用した分離と膜中の孔の径と粒子径との関係で生じるふるい効果によって分離する孔拡散技術と(3)半透膜をへだてた濃度差を物質移動の駆動力として、膜と物質との親和力差と膜素材高分子の熱運動性(ミクロブラウン運動の激しさ)で生じる自由体積の空間部の大きさと分子の大きさとの差で分子を分離する拡散透析技術とを意味する。
【0009】
従来から提案されていた直接法あるいは間接法の完全性試験法ではいずれの方法でも使用後の膜を洗浄して完全性試験の正確度を高めなくてはならない現状である。その理由は直接法では(A)採用されている微粒子が金コロイド粒子であること,(B)膜分離技術として膜濾過技術を採用しているためである。(A)の理由は金コロイド粒子とタンパク質との相互作用が強く(特にグロブリンとは吸着する)膜表面や内部の孔にタンパクが残存すると見掛上微粒子除去能は増加するためである。(B)の理由は濾過により膜表面には濃度分極により水溶液中の溶解成分が高濃度に局在化し、また膜中の孔には微粒子が目詰まりを起こして残留しているためである。
【0010】
【特許文献1】特開2005−40756
【特許文献2】特開17−132215
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一度微粒子除去用として使用された膜に対して再生処理した膜が再び微粒子除去用として再利用することができるがどうかを決定する試験法を開発することができればこの分野での膜の再利用の道が開ける。従来、膜を使用した後に行われる完全性試験では、この試験自体が膜の孔構造を破壊するものと考えが定着していた。すなわち微粒子除去用としての膜の再利用が可能になるにはまず完全性試験法が非破壊試験であることが必要である。膜の供給側である膜の製造者は非破壊型試験で間接法による性能試験を行っているが、この場合には性能試験後の膜の表面および内部が清浄で未使用状態と同一の状態であることか必要である。性能試験では膜の状態が未使用状態を前提としているためこの方法は完全性試験としては利用できないとされている。結局は適切な完全性試験法がないため膜はシングルユースであるとする膜の製造者の指導に従っているのが現状である。
【0012】
本発明では非破壊試験で、しかも直接法による試験用の水溶液を提供することにより、膜の微粒子除去用としての再使用の可能性を阻外する上述の問題を解決する。すなわち本発明の第1の特徴は微粒子除去を目的とした膜に対して膜製造者が行う使用前の膜の直接法の除去性能試験と膜の使用者が行う使用後の膜の完全性試験との共通の試験用水溶液を与える点にある。直接法でかつ非破壊型の試験法であるためには、水溶液中には試験後に簡単に除去できる微粒子を分散していることが必要である。また試験法としては濾過法よりも孔拡散法の方が膜中の粒子除去が容易なために望ましい。同じ理由で膜の使用方法も孔拡散法が望ましい。従来微粒子除去を目的とした膜分離技術は膜濾過法のみであったため孔拡散法が開発されるまで膜の再生使用の可能性はなかったといえる。
【0013】
本発明の第2の特徴は、水溶液中に水酸化第2鉄コロイド粒子を分散させている点である。水酸化第2鉄コロイド粒子はほとんど無定形であるため、試験後に膜中に残存しても酸等により簡単に溶解除去できる。水酸化第2鉄コロイド粒子にすることにより水中の3価の鉄イオン濃度および2価の鉄イオン濃度を0.1ppm以下に低下させることは可能である。透析によりさらに3価の鉄イオン濃度をさげることも可能である。2価の鉄イオンの減少はコロイド粒子の安定性に寄与するのみでなく完全性試験の感度を高める。水酸化鉄コロイド粒子を乾燥すると脱水や酸化状態が変化し、結晶化が進み、コロイド粒子は酸への溶解速度が著しく低下する。そのため試験後の粒子除去が困難となり破壊型の試験法となり好ましくない。水酸化第2鉄コロイド粒子を無定形状態に保持させておくことも重要である。
【0014】
本発明の核を与える水酸化第2鉄コロイド粒子を作製するには第2鉄塩を溶解して水溶液中に塩基性物質を添加するか、水溶液を50℃以上に加熱すれば良い。PHの制御下でコロイド粒子を安定化させるためにはpHの範囲を5以下に、長期の安定にはpH2.5〜4.0に制御しておくことが必要である。塩基性物質としては苛性ソーダやアンモニアが適する。また、核となる水酸化第2鉄コロイド粒子の径が13nm以上で70nm以下に設定するとその後の粒子成長が容易である。70nm以下の小径の水酸化コロイド粒子の核と成長の役割をなす第2鉄塩との混合比は粒子径や磁性と結晶性を決定する重量な変数である。
【0015】
本発明の第3の特徴は水酸化第2鉄コロイドの平均粒子径を13〜200nmの特定値に設定している点と水酸化第2鉄の濃度が鉄換算で100ppm以上である点である。微粒子除去を目的とする膜の微粒子の具体的な種類として、細菌,マイコプラズマ,リケッチャ,クラミジア,ウイルス,プリオンその他タンパクの会合体や無機粒子等がある。これらの微粒子を除去する性能を膜が有することを確認するには、その対象とする微粒子径より小さな水酸化鉄コロイド粒子の膜除去性能によって確定される。この水酸化鉄コロイド粒子の膜除去機構は粒子径のみに依存するふるい効果や粒子径に依存する拡散効果であることが必要である。他の効果、例えば吸着効果によって除去される場合には膜の界面特性や微粒子界面の特性によって除去性能が変化するためである。すなわち試験法としては、除去性能に対して理論上予測性を持たなくてはならない。そのためにはふるい効果や拡散効果で粒子を除去する性能を確定し、他の除去機構が付与される場合には除去性能はふるい機構のみの場合の値以上となることが必要である。コロイド粒子の濃度は完全性試験の感度を支配するので重要であり、高い検出感度が要求される。ウィルス除去用では200ppmは必要である。
【0016】
除去対象のウイルスがHIV(粒径100nm)等のレトロウィルス,あるいは細菌類,マイコプラズマ,リケッチャ,クラミジアであれば粒径80nmの水酸化鉄コロイド粒子を、C型肝炎ウイルス(粒径35nm)あるいはB型肝炎ウイルス(42nm)であれば粒子径20nmのコロイド粒子を、プリオン(10nm)については粒子径10nmを試験用水溶液に含まれるコロイド粒子の径として設定する。除去対象微粒子よりもわずかに小さいコロイド粒子を試験用の水溶液を用いることにより完全性試験および性能試験の信頼度が高くなる。
【0017】
水酸化第2鉄コロイド粒子の粒子径は鉄塩水溶液中の核の役割を果たす水酸化第2鉄コロイド粒子と成長用の3価の鉄イオンとの比によって制御できる。3価の鉄イオン存在比が大きくなると平均粒子径は大きくなる。残存する鉄イオン濃度を低くすることは鉄コロイド粒子を安定化させるのに望ましい。
【0018】
本発明の第4の特徴はコロイド粒子を安定化させる複数の水溶性成分を含んだ水溶液である点である。該水溶性成分として水素イオンが調整が容易であることとこのイオンを試験後膜中より除去するのは簡単である。コロイド粒子の保存中にはpHは4以下に保たれる。第1鉄イオン濃度を0.1ppm以下にすることにより、コロイド粒子の安定化が向上し、またコロイド粒子の非晶性の保持が簡単である。コロイド粒子を用いて完全性試験を行う際に回路の素材、膜に残留するタンパク質や脂肪等に接触する。この接触時の安定性を確保するために新たに以下の水溶性物質を加える。
【0019】
水酸化第2鉄コロイド粒子の安定度は下記の化合物を水溶液中に無添加もしくは添加するかあるいはコロイド粒子発生の際にあらかじめ水溶液に加えていると良い。すなわちポリエチレングリコール,ポリビニールアルコールおよびポリビニールピロリドンなどの非イオン性の水溶性高分子,陽イオン界面活性剤,非イオン界面活性剤などの界面活性剤である。
【0020】
完全性試験および微粒子除去性能試験とが非破壊でかつ試験前に膜を洗浄処理することなく実施する試験方法としては孔拡散技術であることが望ましい。該試験用水溶液中の水酸化第2鉄コロイドの平均粒子径が20nmで100nm以下の範囲であることがウィルス除去用の試験としては最適であり、この際には試験の検出感度を高める必要性がある。該コロイド粒子の濃度が200ppm以上であることが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の試験用水溶液は微粒子除去性能試験と完全性試験との両者に利用される。両試験方法の一致は膜の再生利用の道を開く。一方、現状の完全性試験の範囲においてのみ使用する場合でも従来法に比較して簡便で洗浄処理を必要としない。さらに性能試験において性能試験の直接法でかつ除去性能の検出感度として従来の金コロイドの10〜100倍の高い検出感度を与える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
核を形成する水酸化第2鉄粒子をあらかじめ塩化第二鉄水溶液のpHを高くし、80℃に溶液を加温して作製する。この水溶液と成長用の第2鉄イオンの供給ようとして塩化第二鉄水溶液を混合し、その混合比率によって水酸化第2鉄コロイド粒子の大きさを設定する。この水溶液を80℃に上昇させ、あらかじめ加温しておいた苛性ソーダ水溶液を添加して水溶液のPHを約2.7に設定した。この状態で粒子は設定された径を持つ。一方、ポリビニールアルコールを0.005〜0.02重量%の濃度になるように添加し、さらに陽イオン界面活性剤(日本油脂製カチオンAB)を約2重量%加えた水溶液を別途作製する。この溶液を添加液と略称する。コロイド水溶液の第1鉄イオン濃度は通常、0.1ppm以下であるが未反応のイオンを消失させるために空気泡で攪拌した。粒子径を動的光散乱法および電子顕微鏡で確定する。この水溶液を20℃で2ヶ月間保管し、その後平均粒子径の変化を測定しても10%以内である。
【0023】
ミクロ相分離法で作製した再生セルロース多層構造平膜(例えば平均孔径30nm,空孔率65%,膜厚180ミクロン)の微粒子除去性能を孔拡散法で評価する。拡散液中の粒子濃度は以下のような錯体形成法を採用し、鉄イオンに換算で0.01ppmまで測定する。試験液中の鉄イオンに換算した粒子濃度を例えば200ppmとすると微粒子除去性能の測定は4logまで可能である。検出感度を限界の0.005ppmまで高め、粒子濃度を500ppmにすれば微粒子除去性能は5logまで可能である。
【0024】
微粒子除去性能を評価した後、0.1規定の塩酸を孔拡散式平膜モジュールに充填し、30℃で2時間ごとに内部の液を0.1規定の塩酸で置換を繰り返す。48時間この処理により流出する鉄イオン濃度は検出限界以下となり平膜は再生される。再生後の平膜モジュールで1重量%のガンマグロブリン水溶液を孔拡散法で微粒子除去する。拡散処理後、膜表面を純水を流すことで清浄化する。
【0025】
上述のコロイド水溶液を用いて孔拡散法で完全性試験を実施する。拡散液中の水酸化第二鉄コロイド粒子濃度を測定するために拡散液中に1規定の塩酸を加えPHを約1に設定し、80℃に30分間加熱する。20℃に冷却後、少量のチオシアン酸ナトリウムを添加し着色する。着色した後に分光光度計を用いて吸光度を測定することによりあらかじめ求めた検量線より鉄イオン濃度を決定する。この方法で測定される鉄イオン濃度は0.01ppm以下0.005ppmである。
【実施例1】
【0026】
核を生成させる塩化鉄塩としてFeCl・6HOを用いた。これを0.090モル/lを水に溶解させ、0.1規定の苛性ソーダ溶液を加えてPHを約2.7になるように加えた。添加後の水溶液を80℃に1時間加熱した。溶液は黒色〜褐色に変化した。この水溶液を核としての水酸化第2鉄コロイドとした。その後、60℃まで冷却し、成長の塩化第2鉄塩(すなわちFeCl・6HO)0.090モル/lを混合し、水溶液を80℃に1時間加熱した。溶液は黒色〜褐色に変化した。その後、60℃まで冷却し、溶液に0.1規定の苛性ソーダ溶液を加えてPHを約2.7になるように加えた。添加後の水溶液を80℃に1時間加熱した。溶液は黒色〜褐色に変化した。この際、核の水酸化第2鉄コロイドと成長の成分である第2鉄イオンとの混合において、核の割合が1〜100%になるように調整した。ただし該と成長との鉄換算の総和としての濃度は0.090モル/lで一定にした。水溶液中には水酸化鉄コロイド粒子とわずかに残存する鉄イオンが共存しているためこれをセロハン(平均孔径2.5nm)を用いて透析した。透析後の水溶液を動的光散乱(DLS)を用いてコロイド粒子の平均粒子径を測定した結果、核の鉄成分の割合が2.5%のときには100nm,20%のときには80nm,30%のときには20nm,100%のときには10nmであった。核の鉄成分と成長の鉄イオンとの比によって最終的な水酸化第2鉄コロイド粒子の平均粒子径を制御できることがわかる。
【0027】
これらのコロイド水溶液を20℃で静置保存すると粒子径が大きいほど沈降が早く100nmの粒子径の溶液では1日以内で沈降が認められた。平均粒径が20nmでは1ヶ月間はまったく変化が認められず2ヶ月後のDLS測定では平均孔径20nmと変化が認められなかった。
【実施例2】
【0028】
実施例1と同様にコロイド粒子を作製する際、加熱前の水溶液中にポリピニールアルコールを0.01重量%添加して調整したコロイド粒子の水溶液は2ヶ月以上安定であった。この水溶液中に下記の物質を添加し、コロイド粒子の安定性を確認した。
(1)水による稀釈と濃縮・・・稀釈倍率10倍〜濃縮倍率10倍で安定
(2)食塩水添加・・・食塩濃度が1,2重量%以上で不安定化
(3)卵アルブミン水溶液・・・0〜1重量%で安定
(4)牛ガンマーグロブリン・・・10ppm〜0.1重量%で不安定で0.2重量%以上で安定
(5)牛胸腺由来DNA・・・5ppm以上で不安定
【0029】
実施例2で得られたポリビニールアルコール添加の水酸化第二鉄コロイド粒子を含む水溶液はアルブミン水溶液から膜によってウイルス除去する場合の完全性試験に適することがわかる。特に膜表面に濃縮はほとんど起らない孔拡散法で使用された膜の使用後の膜の完全性試験用として、本水溶液は適する。グロブリンやDNAを含む液を膜処理(濾過や孔拡散)した後、膜に対しては、本水溶液を用いた完全性試験を行う前にあらかじめ膜を水と添加液とで洗浄する必要がある。
【実施例3】
【0030】
実施例1と同様にコロイド粒子を作製する際に、加熱前の水溶液中にポリビニールアルコールを0.01重量%添加し、さらにカチオン性界面活性剤(商品名カチオンAB,日本油脂製)を0.56重量%添加した実施例と同様にコロイド粒子を含む水溶液を作製した。この水溶液中のコロイド粒子は室温で2ヶ月間以上安定である。この水溶液中に実施例2と同様に種々の物質を混入した場合の安定度を測定した。
(1)水による稀釈と濃度・・・稀釈倍率10倍〜濃縮倍率10倍で安定
(2)食塩水添加・・・食塩濃度1重量以上で不安定
(3)卵アルブミン水溶液・・・0〜200ppmで安定
(4)牛ガンマーグロブリン水溶液・・・0〜0.2重量%で安定
(5)牛胸腺由来DNA・・・5ppm以上で不安定
実施例2の場合と比較してグロブリンに対する安定性が増している。
【0031】
膜表面に高分子物質が濃縮することのない孔拡散法で使用された膜では、膜表面を水で洗浄するのみで本実施例の水溶液で完全性試験を直ちに実施できる。ただしDNAを高濃度で含む液について膜処理を行った場合には、使用後には、ヌクレアーゼを含む酵素水溶液であらかじめ浸漬後、0.1規定の苛性ソーダ水溶液、0.1規定の塩酸水溶液で膜表面を洗浄し、最後に水で洗浄することが必要である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
バイオ医薬品製造工程の精製工程でウイルス等の感染性粒子を除去する膜の製造時に行う微粒子除去性能試験および膜の使用者が膜の使用状態が設定どおりであったことを確認するための完全性試験に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】水酸化第2鉄コロイド粒子のモデル図
【符号の説明】
【0034】
1:核の鉄イオン,2:核の水酸価イオン,3:取り込まれた水分子,
4:成長の鉄イオン,5:成長の水酸化イオン,6:水素イオン





【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子除去用膜の完全性試験用および微粒子除去性能試験用水溶液において平均粒子径13〜200nmの非晶性の水酸化第2鉄コロイド粒子を含みかつ第1鉄イオン濃度が0.1ppm以下で鉄換算濃度が100ppm以上でpH2.5〜4.0である水溶液および該コロイドの平均孔径を核としての小径の水酸化第2鉄コロイドと3価の鉄イオン微粒子成長の混合比で制御することを特徴とする完全性試験用および微粒子除去性能試験用水溶液の製法。
【請求項2】
請求項1において該コロイド粒子の濃度が鉄換算で200ppm以上であり、平均粒子径が20nm以上で100nm未満であることを特徴とする水溶液であり、その水溶液を作製するために3価の鉄イオンとして塩化第2鉄の水溶液を採用し、核としての水酸化第2鉄コロイド粒子の径が13nm以上70nm以下であり、該核と3価の鉄イオンとを混合後に苛性ソーダあるいはアンモニアを添加させることをよってpHを2.5〜3.5に制御することを特徴とする水溶液の調製方法。
【請求項3】
請求項1,2においてコロイド粒子をコロイド粒子以外の物質に接触した際の安定化に寄与する成分が下記物質より選定されることを特徴とする完全性試験用水溶液。
ポリエチレングリコール,ポリビニールアルコール,ポリビニールピロリドン,陽イオン界面活性剤,非イオン界面活性剤。
【請求項4】
請求項1,2,3において完全性試験と微粒子除去性能試験とが膜試験後の膜の用途に対応して孔拡散技術あるいは孔拡散・濾過技術あるいは濾過技術で行われる試験であることを特徴とする試験用水溶液。

【図1】
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【公開番号】特開2010−253334(P2010−253334A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103085(P2009−103085)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(307002932)株式会社セパシグマ (23)
【Fターム(参考)】