非破壊検査装置、非破壊検査方法
【課題】深さの異なる複数の欠陥が設けられたサンプルを用いることなく、検査対象物の傷の深さを測定できる非破壊検査装置を提供する。
【解決手段】一定の電流値の渦電流を検査対象物の表面に発生させるべく、周波数が高くなると振幅が小さくなる交流電流を励磁コイルに供給する電流供給部と、検査対象物の表面からの磁界を測定して磁界強度に応じた磁界信号を出力する磁気センサを有し、励磁コイルに第1周波数、第1周波数とは異なる第2周波数の交流電流を供給している際に、磁気センサから得られる検査対象物の表面に対して窪んだ傷の近傍の磁界強度に応じた第1磁界信号、第2磁界信号と、磁気センサから得られる検査対象物の表面に設けられた所定深さの穴の近傍の磁界強度に応じた第3磁界信号と、第4磁界信号とを用い、前記第1及び第2磁界信号の値の変化と、第3及び第4磁界信号の値の変化と、所定深さと、に基づいて、窪んだ傷の深さを算出する。
【解決手段】一定の電流値の渦電流を検査対象物の表面に発生させるべく、周波数が高くなると振幅が小さくなる交流電流を励磁コイルに供給する電流供給部と、検査対象物の表面からの磁界を測定して磁界強度に応じた磁界信号を出力する磁気センサを有し、励磁コイルに第1周波数、第1周波数とは異なる第2周波数の交流電流を供給している際に、磁気センサから得られる検査対象物の表面に対して窪んだ傷の近傍の磁界強度に応じた第1磁界信号、第2磁界信号と、磁気センサから得られる検査対象物の表面に設けられた所定深さの穴の近傍の磁界強度に応じた第3磁界信号と、第4磁界信号とを用い、前記第1及び第2磁界信号の値の変化と、第3及び第4磁界信号の値の変化と、所定深さと、に基づいて、窪んだ傷の深さを算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非破壊検査装置、非破壊検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
検査対象物の傷や欠陥の深さを測定する方法として、いわゆる渦電流法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−118902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、検査対象物と同じ材質で形成され、深さの異なる複数の欠陥が設けられたサンプルを予め用意し、サンプルの複数の欠陥の測定結果を用いて検査対象物の傷の深さを求めていた。このため、特許文献1の技術を用いる場合、材質の異なる検査対象物ごとに、深さの異なる複数の欠陥が設けられたサンプルを用意する必要があった。
【0005】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、深さの異なる複数の欠陥が設けられたサンプルを用いることなく、検査対象物の傷の深さを測定できる非破壊検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一つの側面に係る非破壊検査装置は、一定の電流値の渦電流を検査対象物の表面に発生させるべく、周波数が高くなると振幅が小さくなる交流電流を励磁コイルに供給する電流供給部と、前記検査対象物の表面からの磁界を測定して、磁界強度に応じた磁界信号を出力する磁気センサと、前記電流供給部が前記励磁コイルに第1周波数の交流電流を供給している際に、前記磁気センサから得られる前記検査対象物の表面に対して窪んだ傷の近傍の磁界強度に応じた第1磁界信号と、前記電流供給部が前記励磁コイルに前記第1周波数とは異なる第2周波数の交流電流を供給している際に、前記磁気センサから得られる前記窪んだ傷の近傍の磁界強度に応じた第2磁界信号と、を取得する第1取得部と、前記電流供給部が前記励磁コイルに前記第1周波数の交流電流を供給している際に、前記磁気センサから得られる前記検査対象物の表面に設けられた所定深さの穴の近傍の磁界強度に応じた第3磁界信号と、前記電流供給部が前記励磁コイルに前記第2周波数の交流電流を供給している際に、前記磁気センサから得られる前記所定深さの穴の近傍の磁界強度に応じた第4磁界信号と、を取得する第2取得部と、前記第1及び第2周波数の夫々に対応する前記第1及び第2磁界信号の値の第1の変化と、前記第1及び第2周波数の夫々に対応する前記第3及び第4磁界信号の値の第2の変化と、前記所定深さと、に基づいて、前記窪んだ傷の深さを算出する算出部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
深さの異なる複数の欠陥が設けられたサンプルを用いることなく、検査対象物の傷の深さを測定できる非破壊検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態である非破壊検査装置10の構成を示した図である。
【図2】検査対象物15の表面から裏面の深さ方向に流れる渦電流Jの変化を示す図である。
【図3】傷30が表面にある場合の検査対象物15の断面図である。
【図4】異なる周波数fに対する電圧信号Voと深さdとの関係を示す図である。
【図5】異なる深さdに対する電圧信号Voと周波数fとの関係を示す図である。
【図6】測定装置23の構成の一例を示す図である。
【図7】マイコン52が実現する機能ブロックの一例を示す図である。
【図8】制御部60及び取得部61が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【図9】傷30の深さdを算出する際に取得される電圧値を説明するための図である。
【図10】算出部62及び警報出力部63が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【図11】傷35が裏面にある場合の検査対象物15の断面図である。
【図12】異なる周波数fに対する電圧信号Voと深さeとの関係を示す図である。
【図13】異なる深さeに対する電圧信号Voと周波数fとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書および添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態である非破壊検査装置10の構成を示した図である。非破壊検査装置10は、検査対象物15の表面の傷(欠陥)の深さを測定する装置であり、電流供給回路20、励磁コイル21、磁気センサ22、及び測定装置23を含んで構成される。
【0011】
検査対象物15は、例えばタービンに用いられている所定の厚さの導体板である。検査対象物15の表面には、表面に対して窪んだ傷30があり、さらに、予備のボルトが取り付け可能な穴31,32が設けられている。なお、穴31,32は、検査対象物15の表面から裏面まで貫通しており、ここでは、予備のボルトは取り付けられていないこととする。
【0012】
電流供給回路20(電流供給部)は、検査対象物15の表面に誘導される渦電流の大きさが一定値となるように、励磁コイル21に交流電流IAを供給する。励磁コイル21は、交流電流IAが供給されると磁界B1を生成する。
【0013】
ところで、一般的に、励磁コイル21により検査対象物15の表面に誘導される渦電流の電流値Iは、所定の定数をα、検査対象物15の表面の磁界強度をB、検査対象物15の導電率をσ、供給される交流電流IAの周波数をfとすると、式(1)で表される。
I=α×B×σ×f・・・(1)
つまり、電流値Iは、励磁コイル21に供給される交流電流の周波数fの変化に応じて変化する。しかしながら、本実施形態の電流供給回路20は、磁界強度Bが周波数fに反比例するような交流電流IA、すなわち、周波数fの上昇に応じて振幅が小さくなる交流電流IAを励磁コイル21に供給する。この結果、検査対象物15の表面に流れる渦電流の電流値Jeは、周波数fに関わらず式(2)にように一定値となる。
Je=α×(B/f)×σ×f=α×B×σ・・・(2)
また、検査対象物15の内部、すなわち、検査対象物15の表面から裏面の深さ方向に流れる渦電流Jは、表皮効果に影響により式(3)のようになる。
J=Je×exp((−A)×((2πf×μ×σ)/2)1/2)・・・(3)
なお、式(3)では、検査対象物15の深さをA、透磁率をμとしている。つまり、電流Jは、検査対象物15の表面からの深さAが深くなるほど小さくなる。したがって、例えば、電流供給回路20が異なる周波数f1〜f3の交流電流IAを励磁コイル21に供給した際の渦電流Jは、例えば図2に示すような波形となる。図2では、周波数f1が最も低い周波数であり、周波数f3が最も高い周波数である。
【0014】
磁気センサ22は、検査対象物15から発生する磁界を検出するセンサである。磁気センサ22は、例えばSQUID(Superconducting quantum interference device:超伝導量子干渉素子)であり、検出する磁界の強さに応じた電圧信号Vo(磁気信号)を出力する。なお、磁気センサ22から出力される電圧信号Voのレベルは、磁気センサ22で検出される磁界の強さが強くなるにつれて高くなる。また、磁気センサ22は、図1に示すように、傷30を迂回して流れる渦電流によって発生する磁界B2を検出する。
【0015】
<<傷30の深さdと電圧信号Voとの関係>>
ここで、傷30の深さdに応じて電圧信号Voがどのように変化するかを、検査対象物15の断面図である図3を参照しつつ説明する。なお、ここでは、検査対象物15の表面から裏面までの厚さをtとしている。
【0016】
励磁コイル21が磁界B1を発生させると、検査対象物15の表面近くでは傷30を迂回する渦電流Jdが発生する。しかしながら、検査対象物15の内部の深さdより深い位置では、傷30の影響はほぼ無視できる。このため、深さdより深い位置における渦電流Jdは、ほぼゼロとなる。
【0017】
したがって、深さdが深くなるにつれて迂回し続ける渦電流Jdは大きくなり、渦電流Jdにより発生する磁界B2の磁界強度も強くなる。この結果、例えば、図4に示すように、ある周波数f1の交流電流IAを励磁コイル21に供給させて磁界B1を発生させた場合、電圧信号Voは深さdが深くなるにつれて大きくなる。
【0018】
また、本実施形態では、例えば図2に示したように、検査対象物15の深さが同じである場合、交流電流IAの周波数が高い程、渦電流Jの電流値は小さくなる。渦電流Jの電流値が小さくなると、傷30を迂回する渦電流Jdも同様に小さくなる。したがって、傷30の深さdが同じである場合、周波数f1より高い周波数f2,f3の交流電流IAが供給されると、電圧信号Voのレベルは低下する。
【0019】
ところで、一般に電圧信号Voのレベルは、深さdの他に、例えば、傷30の断面積Sによっても変化する。このため、例えば、電圧信号Voのレベル(絶対値)のみに基づいて、傷30の深さdを算出することは難しい。しかしながら、例えば断面積Sが深さ方向で一定である場合、交流電流IAの周波数fを変化させた際の電圧信号Voの変化は、傷30の深さdに起因する。したがって、交流電流IAの周波数fを変化させた際の電圧信号Voの変化を取得することにより、深さdに関する情報を得ることができる。
【0020】
図5は、異なる深さdに対して、周波数fを変化させた際の電圧信号Voを示す図である。図5に示すように、周波数fの変化が大きければ大きいほど電圧信号Voのレベルの変化も大きくなる。また、周波数fが一定の場合、深さdが深いほど電圧信号Voの変化は大きくなる。なお、傷30の深さdがゼロの場合、すなわち、傷30が存在しない場合は、電圧信号Voは周波数fによらず一定となる。
【0021】
このため、例えば、周波数fをΔfだけ変化させ、既知の深さの穴を測定した際に得られる電圧信号Voの変化(傾き)と、周波数fをΔfだけ変化させ、傷30の深さdを測定した際に得られる電圧信号Voの変化(傾き)を比較すると、深さdを算出することができる。
【0022】
<<測定装置23の詳細>>
ここで、電圧信号Voに基づいて深さdを測定する測定装置23の詳細について説明する。測定装置23は、図6に示すように、ADC(AD変換器)50、メモリ51、マイコン52を含んで構成される。
【0023】
ADC50は、電圧信号Voをデジタルデータに変換してマイコン52に出力する。メモリ51は、マイコン52が実行するプログラムや、電圧信号Voの電圧値を記憶する。マイコン52は、メモリ51に記憶されるプログラムを実行することにより、図7に示すような制御部60、取得部61、算出部62、及び警報出力部63を実現する。
【0024】
制御部60は、電流供給回路20を制御し、励磁コイル21に周波数f1の交流電流IAと周波数f2の交流電流IAを順次供給させる。
取得部61は、周波数f1,f2の交流電流IAの夫々が供給されている際の電圧信号Voを取得し、その電圧値をメモリ51に格納する。また、取得部61は、周波数f2の交流電流IAが供給されている際の電圧値をメモリ51に格納すると、例えば、測定装置23のLED(不図示)を点灯させる。
なお、詳細は後述するが、取得部61は、例えば、傷30が測定された際の一組の電圧値と、穴31が測定された際の一組の電圧値を取得してメモリ51に格納する。
【0025】
算出部62は、メモリ51に、例えば、一組の電圧値が2回格納されると、夫々の組の電圧値の変化を算出する。さらに、算出部62は、算出された結果と、メモリ51に格納された厚さt(穴30の深さ)を示すデータを用いて深さdを算出する。なお、算出部62の詳細は後述する。
警報出力部63は、算出部62が算出した深さdが所定以上の深さである場合、警報を出力する。なお、警報は、例えば測定装置23に設けられたスピーカ(不図示)から発生するビープ音である。
【0026】
<<傷30の深さdの測定方法の一例>>
ここで、傷30の深さdの測定方法の一例について説明する。なお、ここでは、傷30の深さdは、検査対象物15の厚さtよりも浅いこととする。
利用者は、非破壊検査装置10を、傷30が測定できるような位置に設置する。なお、傷30が測定できるような位置(以下、位置Aと称する)とは、例えば、図1に示すように、傷30を迂回した渦電流による磁界B2を磁気センサ22が測定できる位置である。
そして、利用者は、位置Aに非破壊検査装置10を設置すると、測定装置23の操作部(不図示)を操作し、マイコン52に図8に示す処理を実行させる。
【0027】
まず、制御部60は、電流供給回路20を制御し、励磁コイル21に周波数f1の交流電流IAを供給させる(S100)。そして、取得部61は、周波数f1の交流電流IAが供給されている際に磁気センサ22から得られる電圧信号Vo(第1及び第3磁界信号)を取得し、その電圧値V1をメモリ51に格納する(S101)。
【0028】
つぎに、制御部60は、電流供給回路20を制御し、励磁コイル21に周波数f2(>f1)の交流電流IAを供給させる(S102)。その後、取得部61は、周波数f2の交流電流IAが供給されている際に磁気センサ22から得られる電圧信号Vo(第2及び第4磁界信号)を取得し、その電圧値V2をメモリ51に格納する(S103)。なお、前述のように、交流電流IAの周波数が高くなると、電圧信号Voの電圧値は小さくなるため、電圧値V1,V2の関係は、例えば、図9に示されるような関係となる。
【0029】
また、取得部61は、処理S103が実行されると、一組の電圧値(V1,V2)の取得が終了したことを利用者に通知すべく、LED(不図示)を点灯させる(S104)。
【0030】
利用者は、LEDの点灯を確認すると、非破壊検査装置10を、例えば穴31が測定できるような位置に設置する。なお、穴31が測定できるような位置(以下、位置Bと称する)とは、例えば、穴31を迂回した渦電流による磁界B2を磁気センサ22が測定できる位置である。そして、利用者は、非破壊検査装置10を位置Bに設置すると、再びマイコン52に図8に示す処理を実行させる。この結果、位置Bにおける一組の電圧値(V3,V4)がメモリ51に格納されることになる。また、この際にメモリ51には、一組の電圧値が2回格納されることになるため、マイコン52は、図10に示す処理を開始する。
【0031】
まず、算出部62は、1回目にメモリ51に格納された一組の電圧値(V1,V2)の変化、すなわちV1−V2を算出する(S200)。そして、算出部62は、2回目にメモリ51に格納された一組の電圧値(V3,V4)の変化、すなわちV3−V4を算出する(S201)。
【0032】
そして、算出部62は、処理S200,S201で算出された結果と、厚さt(穴31の深さ)を用いて、下記の式(4)により深さdを算出し、測定結果としてメモリ51に格納する(S202)。
d=((V1−V2)/(V3−V4))×t・・・(4)
また、警報出力部63は、算出部62に算出された深さdが所定以上であるか否かを判定する(S203)。そして、警報出力部63は、算出された深さdが所定以上でない場合(S203:NO)、処理を終了する。一方、警報出力部63は、算出された深さdが所定以上である場合(S203:YES)、警報を出力し(S204)、処理を終了する。
【0033】
このように、非破壊検査装置10は、検査対象物15の表面の傷30の深さdを測定することができる。
【0034】
<<裏面の傷を表面から測定する場合>>
ところで、検査対象物15の表面の傷30を表面から測定する方法について説明したが、例えば、検査対象物15の裏面に傷を表面から測定することも可能である。
【0035】
図11は、検査対象物15の裏面に傷35がある場合の検査対象物15の断面図である。なお、傷35は裏面に対して窪んだ傷であり、検査対象物15の表面から傷35の底面までの深さを深さeとする。
【0036】
ここで、図12に示すように傷35の底面までの深さeがゼロの場合、すなわち、傷35が貫通している場合、傷35を迂回する渦電流Jdは最も大きくなるため、電圧信号Voも高くなる。一方、傷35の底面までの深さeが小さくなると、検査対象物15の表面近くでは渦電流Jdは発生しなくなる。この結果、交流電流IAの周波数によらず、電圧信号Voは低下する。そして、深さeが検査対象物15の厚さtと等しくなると、渦電流Jdはほぼゼロとなるため、電圧信号Voもほぼゼロとなる。
【0037】
また、本実施形態では、検査対象物15の表面に発生する渦電流の大きさが同じであるため、交流電流IAの周波数が高い程、渦電流Jdの電流値は小さくなる。したがって、周波数f1より高い周波数f2,f3の交流電流IAが供給されると、電圧信号Voのレベルは低下する。
【0038】
この結果、異なる深さeに対して、周波数fを変化させた際の電圧信号Voは、図13に示すように変化する。図13は、図5と同様の波形であるため、非破壊検査装置10は、検査対象物15の裏面にある傷35の深さeについても、図8,9等に示した処理を実行することにより測定できる。
【0039】
以上、本発明の一実施形態である非破壊検査装置10について説明した。前述のように、交流電流IAの周波数fを変化させた際の電圧信号Voの変化は、傷30の深さdに起因する。このため、非破壊検査装置10は、周波数fをΔf(=f2−f1)だけ変化させた際の、既知の深さ(厚さt)の穴31を測定して得られる電圧信号Voの変化(傾き)及び傷30の深さdを測定した際に得られる電圧信号Voの変化(傾き)と、厚さtとに基づいて深さdを算出することができる。したがって、非破壊検査装置10に深さdを測定させる際には、別途検査対象物15と同じ材質のサンプル等を用いる必要は無い。さらに、非破壊検査装置10は、検査対象物15の表面、または裏面にある傷の深さを測定できる。
【0040】
また、電圧値(V1,V2)の変化の大きさは傷30の深さdにほぼ比例して大きくなる。このため、非破壊検査装置10は、式(4)に基づいて精度良く深さdを算出することができる。
【0041】
また、既知の深さの穴として、例えばボルト等が取り付け可能な貫通した穴31,32を用いることにより、経年変化の影響が少ない検査対象物15の厚さtを既知の深さとすることができる。
【0042】
また、例えば、図9に示すように、周波数f1,f2の差が大きいほど深さdの測定精度は良くなる傾向がある。例えば電流供給回路20は、周波数f1の表皮深さ(浸透深さ)が厚さtより深くなり、周波数f2の表皮深さが厚さtより浅くなるような交流電流IAを励磁コイル21に供給する。このような場合、周波数f1,f2の差は大きくなるため、精度良く深さdを測定できる。
【0043】
また、非破壊検査装置10は、算出されて深さdが所定以上である場合、警報を出力するため、利用者は容易に傷30の危険性を把握できる。
【0044】
また、磁気センサ22に一般的なコイル等を用いてもよいが、SQUIDを用いることによって、精度良く深さdを測定できる。
【0045】
また、例えば利用者が図8、10に示すようは処理を実行しても、精度良く深さdを算出できる。
【0046】
なお、上記実施例は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物も含まれる。
【0047】
本実施形態では、周波数fを周波数f1から周波数f2へと変化させたが、2以上の周波数fを変化させて、周波数に対する電圧値の傾きを求めても同様に深さdを算出できる。
【0048】
また、例えば、穴31,32等でなく、検査対象物15のエッジ等の開口部を測定しても、同様の結果を得ることができる。さらに、穴31,32は貫通していなくても、深さが既知であればよい。
【符号の説明】
【0049】
10 非破壊検査装置
20 電流供給回路
21 励磁コイル
22 磁気センサ
23 測定装置
30,35 傷
31,32 穴
50 ADC(ADコンバータ)
51 メモリ
52 マイコン
60 制御部
61 取得部
62 算出部
63 警報出力部
【技術分野】
【0001】
本発明は、非破壊検査装置、非破壊検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
検査対象物の傷や欠陥の深さを測定する方法として、いわゆる渦電流法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−118902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、検査対象物と同じ材質で形成され、深さの異なる複数の欠陥が設けられたサンプルを予め用意し、サンプルの複数の欠陥の測定結果を用いて検査対象物の傷の深さを求めていた。このため、特許文献1の技術を用いる場合、材質の異なる検査対象物ごとに、深さの異なる複数の欠陥が設けられたサンプルを用意する必要があった。
【0005】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、深さの異なる複数の欠陥が設けられたサンプルを用いることなく、検査対象物の傷の深さを測定できる非破壊検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一つの側面に係る非破壊検査装置は、一定の電流値の渦電流を検査対象物の表面に発生させるべく、周波数が高くなると振幅が小さくなる交流電流を励磁コイルに供給する電流供給部と、前記検査対象物の表面からの磁界を測定して、磁界強度に応じた磁界信号を出力する磁気センサと、前記電流供給部が前記励磁コイルに第1周波数の交流電流を供給している際に、前記磁気センサから得られる前記検査対象物の表面に対して窪んだ傷の近傍の磁界強度に応じた第1磁界信号と、前記電流供給部が前記励磁コイルに前記第1周波数とは異なる第2周波数の交流電流を供給している際に、前記磁気センサから得られる前記窪んだ傷の近傍の磁界強度に応じた第2磁界信号と、を取得する第1取得部と、前記電流供給部が前記励磁コイルに前記第1周波数の交流電流を供給している際に、前記磁気センサから得られる前記検査対象物の表面に設けられた所定深さの穴の近傍の磁界強度に応じた第3磁界信号と、前記電流供給部が前記励磁コイルに前記第2周波数の交流電流を供給している際に、前記磁気センサから得られる前記所定深さの穴の近傍の磁界強度に応じた第4磁界信号と、を取得する第2取得部と、前記第1及び第2周波数の夫々に対応する前記第1及び第2磁界信号の値の第1の変化と、前記第1及び第2周波数の夫々に対応する前記第3及び第4磁界信号の値の第2の変化と、前記所定深さと、に基づいて、前記窪んだ傷の深さを算出する算出部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
深さの異なる複数の欠陥が設けられたサンプルを用いることなく、検査対象物の傷の深さを測定できる非破壊検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態である非破壊検査装置10の構成を示した図である。
【図2】検査対象物15の表面から裏面の深さ方向に流れる渦電流Jの変化を示す図である。
【図3】傷30が表面にある場合の検査対象物15の断面図である。
【図4】異なる周波数fに対する電圧信号Voと深さdとの関係を示す図である。
【図5】異なる深さdに対する電圧信号Voと周波数fとの関係を示す図である。
【図6】測定装置23の構成の一例を示す図である。
【図7】マイコン52が実現する機能ブロックの一例を示す図である。
【図8】制御部60及び取得部61が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【図9】傷30の深さdを算出する際に取得される電圧値を説明するための図である。
【図10】算出部62及び警報出力部63が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【図11】傷35が裏面にある場合の検査対象物15の断面図である。
【図12】異なる周波数fに対する電圧信号Voと深さeとの関係を示す図である。
【図13】異なる深さeに対する電圧信号Voと周波数fとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書および添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態である非破壊検査装置10の構成を示した図である。非破壊検査装置10は、検査対象物15の表面の傷(欠陥)の深さを測定する装置であり、電流供給回路20、励磁コイル21、磁気センサ22、及び測定装置23を含んで構成される。
【0011】
検査対象物15は、例えばタービンに用いられている所定の厚さの導体板である。検査対象物15の表面には、表面に対して窪んだ傷30があり、さらに、予備のボルトが取り付け可能な穴31,32が設けられている。なお、穴31,32は、検査対象物15の表面から裏面まで貫通しており、ここでは、予備のボルトは取り付けられていないこととする。
【0012】
電流供給回路20(電流供給部)は、検査対象物15の表面に誘導される渦電流の大きさが一定値となるように、励磁コイル21に交流電流IAを供給する。励磁コイル21は、交流電流IAが供給されると磁界B1を生成する。
【0013】
ところで、一般的に、励磁コイル21により検査対象物15の表面に誘導される渦電流の電流値Iは、所定の定数をα、検査対象物15の表面の磁界強度をB、検査対象物15の導電率をσ、供給される交流電流IAの周波数をfとすると、式(1)で表される。
I=α×B×σ×f・・・(1)
つまり、電流値Iは、励磁コイル21に供給される交流電流の周波数fの変化に応じて変化する。しかしながら、本実施形態の電流供給回路20は、磁界強度Bが周波数fに反比例するような交流電流IA、すなわち、周波数fの上昇に応じて振幅が小さくなる交流電流IAを励磁コイル21に供給する。この結果、検査対象物15の表面に流れる渦電流の電流値Jeは、周波数fに関わらず式(2)にように一定値となる。
Je=α×(B/f)×σ×f=α×B×σ・・・(2)
また、検査対象物15の内部、すなわち、検査対象物15の表面から裏面の深さ方向に流れる渦電流Jは、表皮効果に影響により式(3)のようになる。
J=Je×exp((−A)×((2πf×μ×σ)/2)1/2)・・・(3)
なお、式(3)では、検査対象物15の深さをA、透磁率をμとしている。つまり、電流Jは、検査対象物15の表面からの深さAが深くなるほど小さくなる。したがって、例えば、電流供給回路20が異なる周波数f1〜f3の交流電流IAを励磁コイル21に供給した際の渦電流Jは、例えば図2に示すような波形となる。図2では、周波数f1が最も低い周波数であり、周波数f3が最も高い周波数である。
【0014】
磁気センサ22は、検査対象物15から発生する磁界を検出するセンサである。磁気センサ22は、例えばSQUID(Superconducting quantum interference device:超伝導量子干渉素子)であり、検出する磁界の強さに応じた電圧信号Vo(磁気信号)を出力する。なお、磁気センサ22から出力される電圧信号Voのレベルは、磁気センサ22で検出される磁界の強さが強くなるにつれて高くなる。また、磁気センサ22は、図1に示すように、傷30を迂回して流れる渦電流によって発生する磁界B2を検出する。
【0015】
<<傷30の深さdと電圧信号Voとの関係>>
ここで、傷30の深さdに応じて電圧信号Voがどのように変化するかを、検査対象物15の断面図である図3を参照しつつ説明する。なお、ここでは、検査対象物15の表面から裏面までの厚さをtとしている。
【0016】
励磁コイル21が磁界B1を発生させると、検査対象物15の表面近くでは傷30を迂回する渦電流Jdが発生する。しかしながら、検査対象物15の内部の深さdより深い位置では、傷30の影響はほぼ無視できる。このため、深さdより深い位置における渦電流Jdは、ほぼゼロとなる。
【0017】
したがって、深さdが深くなるにつれて迂回し続ける渦電流Jdは大きくなり、渦電流Jdにより発生する磁界B2の磁界強度も強くなる。この結果、例えば、図4に示すように、ある周波数f1の交流電流IAを励磁コイル21に供給させて磁界B1を発生させた場合、電圧信号Voは深さdが深くなるにつれて大きくなる。
【0018】
また、本実施形態では、例えば図2に示したように、検査対象物15の深さが同じである場合、交流電流IAの周波数が高い程、渦電流Jの電流値は小さくなる。渦電流Jの電流値が小さくなると、傷30を迂回する渦電流Jdも同様に小さくなる。したがって、傷30の深さdが同じである場合、周波数f1より高い周波数f2,f3の交流電流IAが供給されると、電圧信号Voのレベルは低下する。
【0019】
ところで、一般に電圧信号Voのレベルは、深さdの他に、例えば、傷30の断面積Sによっても変化する。このため、例えば、電圧信号Voのレベル(絶対値)のみに基づいて、傷30の深さdを算出することは難しい。しかしながら、例えば断面積Sが深さ方向で一定である場合、交流電流IAの周波数fを変化させた際の電圧信号Voの変化は、傷30の深さdに起因する。したがって、交流電流IAの周波数fを変化させた際の電圧信号Voの変化を取得することにより、深さdに関する情報を得ることができる。
【0020】
図5は、異なる深さdに対して、周波数fを変化させた際の電圧信号Voを示す図である。図5に示すように、周波数fの変化が大きければ大きいほど電圧信号Voのレベルの変化も大きくなる。また、周波数fが一定の場合、深さdが深いほど電圧信号Voの変化は大きくなる。なお、傷30の深さdがゼロの場合、すなわち、傷30が存在しない場合は、電圧信号Voは周波数fによらず一定となる。
【0021】
このため、例えば、周波数fをΔfだけ変化させ、既知の深さの穴を測定した際に得られる電圧信号Voの変化(傾き)と、周波数fをΔfだけ変化させ、傷30の深さdを測定した際に得られる電圧信号Voの変化(傾き)を比較すると、深さdを算出することができる。
【0022】
<<測定装置23の詳細>>
ここで、電圧信号Voに基づいて深さdを測定する測定装置23の詳細について説明する。測定装置23は、図6に示すように、ADC(AD変換器)50、メモリ51、マイコン52を含んで構成される。
【0023】
ADC50は、電圧信号Voをデジタルデータに変換してマイコン52に出力する。メモリ51は、マイコン52が実行するプログラムや、電圧信号Voの電圧値を記憶する。マイコン52は、メモリ51に記憶されるプログラムを実行することにより、図7に示すような制御部60、取得部61、算出部62、及び警報出力部63を実現する。
【0024】
制御部60は、電流供給回路20を制御し、励磁コイル21に周波数f1の交流電流IAと周波数f2の交流電流IAを順次供給させる。
取得部61は、周波数f1,f2の交流電流IAの夫々が供給されている際の電圧信号Voを取得し、その電圧値をメモリ51に格納する。また、取得部61は、周波数f2の交流電流IAが供給されている際の電圧値をメモリ51に格納すると、例えば、測定装置23のLED(不図示)を点灯させる。
なお、詳細は後述するが、取得部61は、例えば、傷30が測定された際の一組の電圧値と、穴31が測定された際の一組の電圧値を取得してメモリ51に格納する。
【0025】
算出部62は、メモリ51に、例えば、一組の電圧値が2回格納されると、夫々の組の電圧値の変化を算出する。さらに、算出部62は、算出された結果と、メモリ51に格納された厚さt(穴30の深さ)を示すデータを用いて深さdを算出する。なお、算出部62の詳細は後述する。
警報出力部63は、算出部62が算出した深さdが所定以上の深さである場合、警報を出力する。なお、警報は、例えば測定装置23に設けられたスピーカ(不図示)から発生するビープ音である。
【0026】
<<傷30の深さdの測定方法の一例>>
ここで、傷30の深さdの測定方法の一例について説明する。なお、ここでは、傷30の深さdは、検査対象物15の厚さtよりも浅いこととする。
利用者は、非破壊検査装置10を、傷30が測定できるような位置に設置する。なお、傷30が測定できるような位置(以下、位置Aと称する)とは、例えば、図1に示すように、傷30を迂回した渦電流による磁界B2を磁気センサ22が測定できる位置である。
そして、利用者は、位置Aに非破壊検査装置10を設置すると、測定装置23の操作部(不図示)を操作し、マイコン52に図8に示す処理を実行させる。
【0027】
まず、制御部60は、電流供給回路20を制御し、励磁コイル21に周波数f1の交流電流IAを供給させる(S100)。そして、取得部61は、周波数f1の交流電流IAが供給されている際に磁気センサ22から得られる電圧信号Vo(第1及び第3磁界信号)を取得し、その電圧値V1をメモリ51に格納する(S101)。
【0028】
つぎに、制御部60は、電流供給回路20を制御し、励磁コイル21に周波数f2(>f1)の交流電流IAを供給させる(S102)。その後、取得部61は、周波数f2の交流電流IAが供給されている際に磁気センサ22から得られる電圧信号Vo(第2及び第4磁界信号)を取得し、その電圧値V2をメモリ51に格納する(S103)。なお、前述のように、交流電流IAの周波数が高くなると、電圧信号Voの電圧値は小さくなるため、電圧値V1,V2の関係は、例えば、図9に示されるような関係となる。
【0029】
また、取得部61は、処理S103が実行されると、一組の電圧値(V1,V2)の取得が終了したことを利用者に通知すべく、LED(不図示)を点灯させる(S104)。
【0030】
利用者は、LEDの点灯を確認すると、非破壊検査装置10を、例えば穴31が測定できるような位置に設置する。なお、穴31が測定できるような位置(以下、位置Bと称する)とは、例えば、穴31を迂回した渦電流による磁界B2を磁気センサ22が測定できる位置である。そして、利用者は、非破壊検査装置10を位置Bに設置すると、再びマイコン52に図8に示す処理を実行させる。この結果、位置Bにおける一組の電圧値(V3,V4)がメモリ51に格納されることになる。また、この際にメモリ51には、一組の電圧値が2回格納されることになるため、マイコン52は、図10に示す処理を開始する。
【0031】
まず、算出部62は、1回目にメモリ51に格納された一組の電圧値(V1,V2)の変化、すなわちV1−V2を算出する(S200)。そして、算出部62は、2回目にメモリ51に格納された一組の電圧値(V3,V4)の変化、すなわちV3−V4を算出する(S201)。
【0032】
そして、算出部62は、処理S200,S201で算出された結果と、厚さt(穴31の深さ)を用いて、下記の式(4)により深さdを算出し、測定結果としてメモリ51に格納する(S202)。
d=((V1−V2)/(V3−V4))×t・・・(4)
また、警報出力部63は、算出部62に算出された深さdが所定以上であるか否かを判定する(S203)。そして、警報出力部63は、算出された深さdが所定以上でない場合(S203:NO)、処理を終了する。一方、警報出力部63は、算出された深さdが所定以上である場合(S203:YES)、警報を出力し(S204)、処理を終了する。
【0033】
このように、非破壊検査装置10は、検査対象物15の表面の傷30の深さdを測定することができる。
【0034】
<<裏面の傷を表面から測定する場合>>
ところで、検査対象物15の表面の傷30を表面から測定する方法について説明したが、例えば、検査対象物15の裏面に傷を表面から測定することも可能である。
【0035】
図11は、検査対象物15の裏面に傷35がある場合の検査対象物15の断面図である。なお、傷35は裏面に対して窪んだ傷であり、検査対象物15の表面から傷35の底面までの深さを深さeとする。
【0036】
ここで、図12に示すように傷35の底面までの深さeがゼロの場合、すなわち、傷35が貫通している場合、傷35を迂回する渦電流Jdは最も大きくなるため、電圧信号Voも高くなる。一方、傷35の底面までの深さeが小さくなると、検査対象物15の表面近くでは渦電流Jdは発生しなくなる。この結果、交流電流IAの周波数によらず、電圧信号Voは低下する。そして、深さeが検査対象物15の厚さtと等しくなると、渦電流Jdはほぼゼロとなるため、電圧信号Voもほぼゼロとなる。
【0037】
また、本実施形態では、検査対象物15の表面に発生する渦電流の大きさが同じであるため、交流電流IAの周波数が高い程、渦電流Jdの電流値は小さくなる。したがって、周波数f1より高い周波数f2,f3の交流電流IAが供給されると、電圧信号Voのレベルは低下する。
【0038】
この結果、異なる深さeに対して、周波数fを変化させた際の電圧信号Voは、図13に示すように変化する。図13は、図5と同様の波形であるため、非破壊検査装置10は、検査対象物15の裏面にある傷35の深さeについても、図8,9等に示した処理を実行することにより測定できる。
【0039】
以上、本発明の一実施形態である非破壊検査装置10について説明した。前述のように、交流電流IAの周波数fを変化させた際の電圧信号Voの変化は、傷30の深さdに起因する。このため、非破壊検査装置10は、周波数fをΔf(=f2−f1)だけ変化させた際の、既知の深さ(厚さt)の穴31を測定して得られる電圧信号Voの変化(傾き)及び傷30の深さdを測定した際に得られる電圧信号Voの変化(傾き)と、厚さtとに基づいて深さdを算出することができる。したがって、非破壊検査装置10に深さdを測定させる際には、別途検査対象物15と同じ材質のサンプル等を用いる必要は無い。さらに、非破壊検査装置10は、検査対象物15の表面、または裏面にある傷の深さを測定できる。
【0040】
また、電圧値(V1,V2)の変化の大きさは傷30の深さdにほぼ比例して大きくなる。このため、非破壊検査装置10は、式(4)に基づいて精度良く深さdを算出することができる。
【0041】
また、既知の深さの穴として、例えばボルト等が取り付け可能な貫通した穴31,32を用いることにより、経年変化の影響が少ない検査対象物15の厚さtを既知の深さとすることができる。
【0042】
また、例えば、図9に示すように、周波数f1,f2の差が大きいほど深さdの測定精度は良くなる傾向がある。例えば電流供給回路20は、周波数f1の表皮深さ(浸透深さ)が厚さtより深くなり、周波数f2の表皮深さが厚さtより浅くなるような交流電流IAを励磁コイル21に供給する。このような場合、周波数f1,f2の差は大きくなるため、精度良く深さdを測定できる。
【0043】
また、非破壊検査装置10は、算出されて深さdが所定以上である場合、警報を出力するため、利用者は容易に傷30の危険性を把握できる。
【0044】
また、磁気センサ22に一般的なコイル等を用いてもよいが、SQUIDを用いることによって、精度良く深さdを測定できる。
【0045】
また、例えば利用者が図8、10に示すようは処理を実行しても、精度良く深さdを算出できる。
【0046】
なお、上記実施例は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物も含まれる。
【0047】
本実施形態では、周波数fを周波数f1から周波数f2へと変化させたが、2以上の周波数fを変化させて、周波数に対する電圧値の傾きを求めても同様に深さdを算出できる。
【0048】
また、例えば、穴31,32等でなく、検査対象物15のエッジ等の開口部を測定しても、同様の結果を得ることができる。さらに、穴31,32は貫通していなくても、深さが既知であればよい。
【符号の説明】
【0049】
10 非破壊検査装置
20 電流供給回路
21 励磁コイル
22 磁気センサ
23 測定装置
30,35 傷
31,32 穴
50 ADC(ADコンバータ)
51 メモリ
52 マイコン
60 制御部
61 取得部
62 算出部
63 警報出力部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の電流値の渦電流を検査対象物の表面に発生させるべく、周波数が高くなると振幅が小さくなる交流電流を励磁コイルに供給する電流供給部と、
前記検査対象物の表面からの磁界を測定して、磁界強度に応じた磁界信号を出力する磁気センサと、
前記電流供給部が前記励磁コイルに第1周波数の交流電流を供給している際に、前記磁気センサから得られる前記検査対象物の表面に対して窪んだ傷の近傍の磁界強度に応じた第1磁界信号と、前記電流供給部が前記励磁コイルに前記第1周波数とは異なる第2周波数の交流電流を供給している際に、前記磁気センサから得られる前記窪んだ傷の近傍の磁界強度に応じた第2磁界信号と、を取得する第1取得部と、
前記電流供給部が前記励磁コイルに前記第1周波数の交流電流を供給している際に、前記磁気センサから得られる前記検査対象物の表面に設けられた所定深さの穴の近傍の磁界強度に応じた第3磁界信号と、前記電流供給部が前記励磁コイルに前記第2周波数の交流電流を供給している際に、前記磁気センサから得られる前記所定深さの穴の近傍の磁界強度に応じた第4磁界信号と、を取得する第2取得部と、
前記第1及び第2周波数の夫々に対応する前記第1及び第2磁界信号の値の第1の変化と、前記第1及び第2周波数の夫々に対応する前記第3及び第4磁界信号の値の第2の変化と、前記所定深さと、に基づいて、前記窪んだ傷の深さを算出する算出部と、
を備えることを特徴とする非破壊検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の非破壊検査装置であって、
前記算出部は、
前記第1及び前記第2の変化の比を、前記所定深さに乗算して前記窪んだ傷の深さを算出すること、
を特徴とする非破壊検査装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の非破壊検査装置であって、
前記所定深さの穴は前記検査対象物を貫通する穴であること、
を特徴とする非破壊検査装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の非破壊検査装置であって、
前記電流供給部は、
前記磁気センサに前記第1及び第3磁界信号を取得させる際に、表皮深さが前記所定深さよりも深くなるような前記第1周波数の交流電流を前記励磁コイルに供給し、前記磁気センサに前記第2及び第4磁界信号を取得させる際に、表皮深さが前記所定深さよりも浅くなるような前記第2周波数の交流電流を前記励磁コイルに供給すること、
を特徴とする非破壊検査装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の非破壊検査装置であって、
前記算出部が算出した前記傷の深さが所定以上である場合、警報を出力する警報出力部を更に備えること、
を特徴とする非破壊検査装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の非破壊検査装置であって、
前記磁気センサはSQUIDであること、
を特徴とする非破壊検査装置。
【請求項7】
第1周波数で第1振幅の第1交流電流を励磁コイルに供給して一定の電流値の渦電流を検査対象物の表面に発生させている際に、前記検査対象物の表面に対して窪んだ傷の近傍の磁界強度に応じた第1磁界信号を取得し、
前記第1周波数より高い第2周波数で前記第1振幅より小さい第2振幅の第2交流電流を前記励磁コイルに供給して前記一定の電流値の渦電流を前記検査対象物の表面に発生させている際に、前記窪んだ傷の近傍の磁界強度に応じた第2磁界信号を取得し、
前記第1交流電流を前記励磁コイルに供給して前記一定の電流値の渦電流を前記検査対象物の表面に発生させている際に、前記検査対象物の表面に設けられた所定深さの穴の近傍の磁界強度に応じた第3磁界信号を取得し、
前記第2交流電流を前記励磁コイルに供給して前記一定の電流値の渦電流を前記検査対象物の表面に発生させている際に、前記所定深さの穴の近傍の磁界強度に応じた第4磁界信号を取得し、
前記第1及び第2周波数の夫々に対応する前記第1及び第2磁界信号の値の第1の変化と、前記第1及び第2周波数の夫々に対応する前記第3及び第4磁界信号の値の第2の変化と、前記所定深さと、に基づいて、前記窪んだ傷の深さを算出すること、
を特徴とする非破壊検査方法。
【請求項1】
一定の電流値の渦電流を検査対象物の表面に発生させるべく、周波数が高くなると振幅が小さくなる交流電流を励磁コイルに供給する電流供給部と、
前記検査対象物の表面からの磁界を測定して、磁界強度に応じた磁界信号を出力する磁気センサと、
前記電流供給部が前記励磁コイルに第1周波数の交流電流を供給している際に、前記磁気センサから得られる前記検査対象物の表面に対して窪んだ傷の近傍の磁界強度に応じた第1磁界信号と、前記電流供給部が前記励磁コイルに前記第1周波数とは異なる第2周波数の交流電流を供給している際に、前記磁気センサから得られる前記窪んだ傷の近傍の磁界強度に応じた第2磁界信号と、を取得する第1取得部と、
前記電流供給部が前記励磁コイルに前記第1周波数の交流電流を供給している際に、前記磁気センサから得られる前記検査対象物の表面に設けられた所定深さの穴の近傍の磁界強度に応じた第3磁界信号と、前記電流供給部が前記励磁コイルに前記第2周波数の交流電流を供給している際に、前記磁気センサから得られる前記所定深さの穴の近傍の磁界強度に応じた第4磁界信号と、を取得する第2取得部と、
前記第1及び第2周波数の夫々に対応する前記第1及び第2磁界信号の値の第1の変化と、前記第1及び第2周波数の夫々に対応する前記第3及び第4磁界信号の値の第2の変化と、前記所定深さと、に基づいて、前記窪んだ傷の深さを算出する算出部と、
を備えることを特徴とする非破壊検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の非破壊検査装置であって、
前記算出部は、
前記第1及び前記第2の変化の比を、前記所定深さに乗算して前記窪んだ傷の深さを算出すること、
を特徴とする非破壊検査装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の非破壊検査装置であって、
前記所定深さの穴は前記検査対象物を貫通する穴であること、
を特徴とする非破壊検査装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の非破壊検査装置であって、
前記電流供給部は、
前記磁気センサに前記第1及び第3磁界信号を取得させる際に、表皮深さが前記所定深さよりも深くなるような前記第1周波数の交流電流を前記励磁コイルに供給し、前記磁気センサに前記第2及び第4磁界信号を取得させる際に、表皮深さが前記所定深さよりも浅くなるような前記第2周波数の交流電流を前記励磁コイルに供給すること、
を特徴とする非破壊検査装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の非破壊検査装置であって、
前記算出部が算出した前記傷の深さが所定以上である場合、警報を出力する警報出力部を更に備えること、
を特徴とする非破壊検査装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の非破壊検査装置であって、
前記磁気センサはSQUIDであること、
を特徴とする非破壊検査装置。
【請求項7】
第1周波数で第1振幅の第1交流電流を励磁コイルに供給して一定の電流値の渦電流を検査対象物の表面に発生させている際に、前記検査対象物の表面に対して窪んだ傷の近傍の磁界強度に応じた第1磁界信号を取得し、
前記第1周波数より高い第2周波数で前記第1振幅より小さい第2振幅の第2交流電流を前記励磁コイルに供給して前記一定の電流値の渦電流を前記検査対象物の表面に発生させている際に、前記窪んだ傷の近傍の磁界強度に応じた第2磁界信号を取得し、
前記第1交流電流を前記励磁コイルに供給して前記一定の電流値の渦電流を前記検査対象物の表面に発生させている際に、前記検査対象物の表面に設けられた所定深さの穴の近傍の磁界強度に応じた第3磁界信号を取得し、
前記第2交流電流を前記励磁コイルに供給して前記一定の電流値の渦電流を前記検査対象物の表面に発生させている際に、前記所定深さの穴の近傍の磁界強度に応じた第4磁界信号を取得し、
前記第1及び第2周波数の夫々に対応する前記第1及び第2磁界信号の値の第1の変化と、前記第1及び第2周波数の夫々に対応する前記第3及び第4磁界信号の値の第2の変化と、前記所定深さと、に基づいて、前記窪んだ傷の深さを算出すること、
を特徴とする非破壊検査方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−68061(P2012−68061A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211099(P2010−211099)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】
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