説明

非破壊検査装置および方法

【課題】小型で測定精度の高い非破壊検査装置を提供。
【解決手段】電子加速器16にてパルス状の電子線22をターゲット18に入射させて制動放射X線を発生させ、これを検査対象物10に照射する。検査対象物10を透過したX線28をシンチレータ30で受け、発生した光を光検出器32で対応する電気信号34に変換する。パルス状電子線が発生している期間Tあるいは検出器の信号遅れも考慮した期間T’、電気信号34を積算する。さらに、この積算を複数のパルスにおいてくり返す。このようにして、積算値から検査対象物10におけるX線の透過量を計測し、検査対象物10の形状特性を検査することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場プラントや建造物などの構造物の非破壊検査する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場プラント、発電所、建物、建造物などの構造物の非破壊検査する方法は一般に、X線などの放射線源を用いている。このような非破壊検査方法は、線源と検出器との間に検査対象物を配置し、検査対象物についての放射の透過率から対象物の厚みや形状などの特性を検査する。
検査対象物が小さい場合は、X線のエネルギーが低くても検査が可能である。しかし、検査対象物が大きいと、X線のエネルギーが低ければ、X線は対象物にほとんど吸収されてしまう。したがって、そのような場合、エネルギーの高い高透過性のX線源が使われる。とくに、厚み5 cm程度以上の金属や、20 cm程度以上の厚さのコンクリートでは、300 keV以上の高透過性のX線源が適している。
【0003】
可搬型のX線あるいはγ線を用いた非破壊検査装置では、たとえば非特許文献1に開示のように、線源としては、放射性同位元素から放出されるγ線あるいは高エネルギー電子ビームをターゲットに入射させ、これによってターゲットから放出されるX線が使われる。このX線を検査対象物に照射し、それを透過したX線を検出器で検出し、あるいはX線に感度を有するフィルムにX線を露呈させることによって、検査対象物のX線透過率から対象物の厚さの等の形状特性を検査する。
【特許文献1】特開2000−243599号公報
【非特許文献1】<http://hadron.kek.jp/KogataAcc2003/Body/Presentation/09_Ohnishi.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
放射性同位元素を使った非破壊検査装置は、放射性同位元素線源自体の体積が非常に小さくても、高透過性の300 keV以上のγ線を放射することができる。しかし放射性同位元素線源は、使用していないときでも常時、放射線を放射するため、放射線遮蔽材が必要であり、そのため装置全体の重量が増す。さらに、放射性同位元素は、厳しい管理が要求される。
高エネルギー電子ビームを使用するX線源による非破壊検査装置において、300 keV以上の高透過性X線を発生させるには、マイクロ波駆動の電子加速器やベータトロンなどの加速器が使われる。これらの加速器は、小型化とX線強度の大出力化との間でトレードオフが必要であり、たとえば、小型にするとX線強度は弱くなる。弱いX線強度の場合は、シンチレーション検出器などの高感度の放射線検出器を使わなければならない。しかし、このような高感度検出器は、バックグラウンド放射線の影響が大きく、これによって測定結果に誤差を生ずることがあった。このような問題点は、弱い放射線同位元素を使用した非破壊検査装置でも同様であった。
【0005】
本発明はこのような従来技術の欠点を解消し、小型で測定精度の高い非破壊検査装置を提供することを目的とする。本発明はまた、このような非破壊検査装置を効果的に使用できる非破壊検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による非破壊検査装置は、上述の課題を解決するために、駆動信号に応動して制動放射X線を発生し検査対象物にX線を照射するX線源と、検査対象物を透過したX線を受け、このX線を対応する電気信号に変換するX線検出器と、駆動信号をパルス状に発生してこの駆動信号をX線源に供給するパルス信号発生回路と、パルス信号発生回路が駆動信号を発生している期間のみ電気信号を積算する積算回路とを含み、積算回路は、電気信号を前記期間において積算する。さらに、複数のパルスについて積算を行い、この積算値の総和を検査対象物におけるX線の透過量の計測、および検査対象物の特性の検査に供する。
【0007】
本発明によればまた、非破壊検査方法は、制動放射X線をパルス状に発生させ、X線を検査対象物に照射するX線照射工程と、検査対象物を透過したX線を対応する電気信号に変換する信号変換工程と、X線をパルス状に発生している期間のみ電気信号を積算する積算工程とを含み、これによって、電気信号を前記期間において積算する。さらに複数のパルスについてこの積算工程を行いこの積算値の総和から検査対象物におけるX線の透過量を計測し、検査対象物の特性を検査する。
より具体的には、たとえば300 keV以上の高エネルギー電子線パルスを発生する小型電子加速器と、この加速器から発生する電子ビームを入射させてパルス状の制動X線を発生するターゲットで構成されるパルスX線源と、シンチレータおよび光検出器で構成されるシンチレーション検出器と、信号積算装置と、パルス発生装置とを有し、検査対象物の両側にX線源と検出器を配置して、シンチレーション検出器のシンチレーション光の信号量をパルスX線の発生している時間に同期して積算し、その信号量を複数のパルスについて積算することにより、X線の透過量を計測し、対象物の厚みなどの形状を検査する。これによって、バックグラウンド放射線の影響を最小限にし、高エネルギーX線による小型で容易に可搬な非破壊検査装置を実現する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、X線パルスが発生していない時間は、信号を積算しないため、バックグラウンド放射線の影響を最小限にできる。また、高効率のシンチレーション検出器との組合せにより、発生するX線の総量を最小限にすることができる。
X線パルスの間隔を広げれば、単位時間当たりのX線量を低くすることができる。単位時間当たりのX線量を低下させれば、X線発生の電子加速器の冷却機構や漏洩X線の遮蔽材を簡略化でき、装置全体が小型化される。このような小型で単位時間当たりのX線量が少なくバックグラウンド放射線の影響のほとんどない非破壊検査装置は、可搬型装置としては勿論、プラントや発電所などで稼働中の構造物に設置する装置にも有利に適用される。後者の場合、それらの構造物の厚みの変化をモニタするモニタ装置としても利用できるなど、従来の非破壊検査装置より利用範囲が広がる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に添付図面を参照して、本発明による非破壊検査装置の実施例を詳細に説明する。図1を参照すると、本発明による非破壊検査装置の実施例は、検査対象物10の一方の側にパルスX線源12が配置され、他方の側にシンチレーション検出器14が配設されている。検査対象物10は、たとえば工場プラント、発電所、建物、建造物などの構造物であり、一般に、金属やコンクリートなどを含むことが多い。
パルスX線源12は、電子加速器16およびターゲット18を含み、X線20を発生して検査対象物10に照射する放射線源である。電子加速器16は、マイクロ波駆動で加速電子ビーム22を発生する小型電子加速器でよい。これには、たとえば特開2000-243599号公報(特許文献1)に記載の高電界小型定在波線形加速器が適用される。たとえば、電子ビーム22の平均電流が10マイクロアンペア以下であれば、500 keV以上の加速エネルギーでも、加速管の体積を200 cm3以下に設計することができ、装置が小型化される。ターゲット18は、たとえばタングステン、タンタルまたは鉛などの原子番号の大きな元素からなる標的板であり、電子加速器16から高エネルギーの加速電子ビーム22が入射されると、制動放射X線20を発生する。
【0010】
電子加速器16は駆動入力24を有し、これには、パルス信号発生器26の出力が接続されている。以下の説明において、信号は、その現れる接続線の参照符号で指定する。パルス信号発生器26は、これに設定されたパルス幅の駆動パルス24を発生するパルス信号発生回路である。駆動パルス24に応動して電子加速器16は、ターゲット18にパルス状に加速電子ビーム22を入射させ、これによってターゲット18からパルス状の制動放射X線20が発生する。
【0011】
シンチレーション検出器14は、パルスX線源12から照射されたX線20のうち検査対象物10を透過したX線28を検出するX線検出器である。シンチレーション検出器14は、シンチレータ30および光検出器32を含む。シンチレータ30は、X線28が入射すると発光する無機物あるいは高分子の材料を含む感放射線発光体である。光検出器32は、たとえば光電子増幅管や高感度フォトダイオード等の光電変換装置であり、入射光に応じた電気信号をその出力34に発生する。検査対象物10とX線源12との間、および(または)検査対象物10とシンチレーション検出器14との問には、X線のコリメータ(図示せず)を挿入して、装置の位置分解能を向上させてもよい。
【0012】
シンチレーション検出器14の出力34は、信号積算装置36に接続されている。信号積算装置36は制御入力38も有し、制御入力38はパルス信号発生器26の他の出力に接続されている。パルス信号発生器26は、電子加速器16の駆動入力24にパルス信号を発生している期間T(図2)だけ制御出力28を有意にする。積算装置36は、その制御入力38が有意状態にある期間T’だけ、その入力34の信号を積算する積算回路(図示せず)を含む。T’は、シンチレータの発光減衰時間、光検出器の信号遅れ等があるため、Tより若干遅らせてもよい。積算装置36はまた、この積算値を人間が知覚し得る何らかの形(ソフトコピーまたはハードコピー)で出力する出力機能部(図示せず)も含んでいてよい。
この出力機能部は、たとえば、積算値を積分するアナログ積分回路と、これを対応するディジタル値に変換するアナログ・ディジタル変換器を含み、積算値を数値として表示、すなわち出力するように構成してよい。または、パルス信号24のパルス幅Tより十分に短い時間間隔で電気信号34をサンプリングする高速のアナログ・ディジタル変換器またはディジタルオシロスコープ(図示せず)を含み、シンチレーション検出器14の出力信号の強度をディジタル数値に変換し、そのサンプリング数値列の和をとって積分値を求めるように構成してもよい。
動作状態において、検査対象物10の一方の側にパルスX線源12を、他方の側にシンチレーション検出器14を配置する。パルス信号発生器26を操作して、パルスX線源12をパルス状に駆動すると、電子加速器16からパルス状にX線22がターゲット18に向けて放出される。これにより、ターゲット18からは、制動放射X線20が検査対象物10へ向けて放射される。
【0013】
検査対象物10では、X線20の一部28が透過され、透過したX線28は、シンチレーション検出器14に入射する。シンチレーション検出器14では、光検出器30がこの入射X線28を光に変換し、この光は、光検出器32で対応する電気信号34に変換される。この電気信号34は、積算装置36で積算され、上述のようなディジタル値の積算値として表示、印刷、送信などの出力に供される。
電子加速器16は、パルス信号発生器からの駆動パルス24により駆動されるが、その駆動波形は一般に、図2に示すような単純な矩形波である。したがって、放射されるX線20もこれに対応した持続時間Tをとる。このようなX線20が検査対象物10に照射され、これを透過したX線28がシンチレーション検出器14で検出されて出力される電気信号34は、本来であれば、たとえば図3に参照符号50で示すような波形を呈する。この波形は、シンチレータの発光減衰時間や光検出器の信号遅れ等により、Tより若干遅れる場合がある。実際には、シンチレーション検出器14からの出力信号34には、同図に参照符号52で示すようにパンクグラウンド信号も混入している。
【0014】
そこで、本実施例では、積算装置36は、制御信号38が有意状態にある期間T’において、積算動作をする。パルス信号発生器26のパルス信号38は信号遅れが無視できる程度のパルス幅であればパルス信号24と同じ時間構造の信号で良いが、信号遅れが無視できない場合は、その遅れを考慮した持続時間T’をとる。つまり、積算装置36は、パルス信号発生器26のパルス信号24が有意状態(ON)になっている期間、つまりX線20が発生している時間Tあるいは信号の遅れを考慮した時間T’のみ、積算動作を行なう。それ以外の期間は、積算動作を行なわない。
X線源12を小型化すると発生するX線強度が弱く、駆動信号24が1パルスだけでは、積算装置36における積算値について十分なX線透過率の精度が得られない。そこで、パルス信号発生器26を操作して、駆動パルス信号24を複数回、発生させ、その間に、シンチレーション検出器14で検出されたX線28による電気信号34を積算し、合計することによって、透過率の精度を向上させる。
【0015】
このようにして得られた積算値からX線の透過率を求め、レファレンス試料の計測またはシミュレーションなどで求めた透過率と比較し、検査対象物10の厚さを算出することができる。あらかじめ、積算値と厚さの関係が既知である場合は、積算値から直接、厚さを求めることができる。
さらに、X線源12およびシンチレーション検出器14の検査対象物10に対する位置を変えて、同様の測定を行なえば、検査対象物10の厚さの分布や全体の形状を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による非破壊検査装置の実施例を示す機能ブロック図である。
【図2】図1に示す実施例の一部に現れる信号波形を示す図である。
【図3】同実施例の一部に現れる信号波形を示す、図2と同様の波形図である。
【符号の説明】
【0017】
12 パルスX線源
14 シンチレーション検出器
16 小型電子加速器
18 ターゲット
26 パルス信号発生器
30 シンチレータ
32 光検出器
36 信号積算装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動信号に応動して制動放射X線を発生し、検査対象物に該X線を照射するX線源と、
該検査対象物を透過したX線を受け、該X線を対応する電気信号に変換するX線検出器と、
前記駆動信号をパルス状に発生して該駆動信号を前記X線源に供給するパルス信号発生回路と、
該パルス信号発生回路が前記駆動信号を発生している期間のみ前記電気信号を積算する積算回路とを含み、
該積算回路は、前記電気信号を前記期間において積算し、さらに前記パルス信号発生回路は、前記駆動信号をパルス状に複数の期間にわたって発生し、前記積算回路は、該複数の期間について前記電気信号を積算し、
こうして得られた積算値を前記検査対象物におけるX線の透過量の計測、および該検査対象物の特性の検査に供することを特徴とする非破壊検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、前記X線源は、
前記駆動信号に応動して電子線を発生する電子加速器と、
該電子線を受けて制動放射X線を発生して検査対象物に該X線を照射する標的体とを含むことを特徴とする非破壊検査装置。
【請求項3】
請求項1に記載の装置において、前記X線検出器は、前記検査対象物を透過したX線を受けて該X線を光に変換するシンチレータと、該光を対応する電気信号に変換する光検出器とを含むシンチレーション検出器であることを特徴とする非破壊検査装置。
【請求項4】
請求項2に記載の装置において、前記電子加速器は、300 keV以上の高エネルギー電子線を発生する小型電子加速器であることを特徴とする非破壊検査装置。
【請求項5】
制動放射X線をパルス状に発生させ、該X線を検査対象物に照射するX線照射工程と、
該検査対象物を透過したX線を対応する電気信号に変換する信号変換工程と、
前記X線をパルス状に発生している期間のみ前記電気信号を積算する積算工程とを含み、
これによって、前記電気信号を前記期間において積算し、さらに前記パルス発生工程を複数回、繰り返し、この繰返しに対応して前記積算工程を複数の期間にわたって行ない、この積算値から前記検査対象物におけるX線の透過量を計測し、該検査対象物の特性を検査することを特徴とする非破壊検査方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、前記X線照射工程は、
電子加速器にて電子線をパルス状に発生する電子線発生工程と
該電子線を標的体で受け、該標的体で前記制動放射X線を発生して前記検査対象物に照射する工程とを含むことを特徴とする非破壊検査方法。
【請求項7】
請求項5に記載の方法において、前記信号変換工程は、
前記検査対象物を透過したX線をシンチレータで受けて該X線を光に変換する工程と、
該光を対応する電気信号に変換する工程とを含むことを特徴とする非破壊検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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