非磁性板状粒子とその製造方法
【課題】研磨テープ等の研磨体や磁気テープ、さらには各種の機能性光学フィルムなどに特に適した特定の粒子形状および粒子径を有する酸化ジルコニウム粒子と、その製造方法を提供する。
【解決手段】オキシアルカリアミンを含むアルカリ水溶液にジルコニウム塩の水溶液を添加して水酸化ジルコニウムを含む沈殿物を作製し、この沈殿物を懸濁液の状態で熟成させ、得られたジルコニウムの水酸化物あるいは水和物を、水の存在下で110〜300℃の温度範囲で加熱処理する。次いで、ろ過、乾燥後、さらに空気中300〜1200℃の温度範囲で加熱処理して酸化ジルコニウム粒子とする。これにより、粒子の形状が六角板状で、かつ粒子の板面方向の平均粒子径が10nmから100nmの範囲にある酸化ジルコニウム粒子を得る。
【解決手段】オキシアルカリアミンを含むアルカリ水溶液にジルコニウム塩の水溶液を添加して水酸化ジルコニウムを含む沈殿物を作製し、この沈殿物を懸濁液の状態で熟成させ、得られたジルコニウムの水酸化物あるいは水和物を、水の存在下で110〜300℃の温度範囲で加熱処理する。次いで、ろ過、乾燥後、さらに空気中300〜1200℃の温度範囲で加熱処理して酸化ジルコニウム粒子とする。これにより、粒子の形状が六角板状で、かつ粒子の板面方向の平均粒子径が10nmから100nmの範囲にある酸化ジルコニウム粒子を得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば研磨シート、研磨テープ、研磨フィルム、研磨具等の研磨体や研磨液などの研磨材として、また各種の塗布型磁気記録媒体の添加剤として、さらに光学フィルムなどの各種の機能性フィルム用の添加剤に適した、粒子の形状が新規な板状の非磁性粒子とその製造方法、およびその応用に関する。さらに詳しくは、新規な粒子形状と粒子径を有する酸化ジルコニウムからなる非磁性酸化物粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化セリウム粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化珪素粒子、酸化鉄粒子などの非磁性酸化物粒子は、研磨シート等の研磨体や研磨液などの研磨材として、また各種の塗布型磁気記録媒体の添加剤として広範囲の用途で使用されている。酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化珪素はモース硬度が高いので、高い研磨速度を要する用途に、また酸化鉄は比較的モース硬度が低いため、ソフト研磨を要する用途に向いている。これらの非磁性酸化物粒子の製造法としては、各種の方法が知られている。
【0003】
(1)酸化セリウム:
酸化セリウムにおいては、一般的には、焼成法で作製した酸化セリウムをボールミル等で粉砕することにより微粒子化する方法(粉砕法)が採られている。しかし、この方法で作製した酸化セリウム粒子は粒子サイズ分布が広く、さらに機械的に粉砕するため、粒子サイズとしては、サブミクロンサイズが限界で、さらに微粒子化することは困難である。
【0004】
一方、炭酸セリウムのようなセリウム塩を空気中加熱酸化して、酸化セリウム粒子とする方法も知られている。この方法は、粉砕法に比べて微粒子化しやすいという特長があるが、粒子間焼結が生じやすく、特に研磨液に使用する場合、粒子を均一分散することが困難であるという問題がある。
【0005】
例えば特許文献1や特許文献2では、炭酸セリウムを空気中加熱して酸化セリウムとした後、機械的に粉砕して微粒子化している。前者の特許文献1においては、ボールミル粉砕しており、得られた粒子は、1次粒子径が200nmであると記載されている。またボールミル粉砕する前の形状は、球状であることが記載されている。一方、後者の特許文献2においては、微粒子化するために、焼成後ジェットミル粉砕しており、1次粒子径と同等サイズの小さな粒子の他に、1μmから3μmと0.5μmから1μmの大きさの粉砕残り粒子が混在していることが記載されている。
【0006】
特許文献3には、炭酸セリウムを原料に用い、この炭酸セリウムをあらかじめボールミル粉砕したのち、空気中熱処理して酸化セリウム粒子にする方法が記載されている。この方法では、本文中にも記載されているように、1次粒子径は20nmであるが、0.2μm〜0.3μmの2次粒子から構成されている。また、粒子の形状については、詳細は記載されていないが、例えば特許文献4には、アスペクト比が1以上2以下と記載されている。しかし、これは、板状というより、塊状あるいは粒状に近い形状であると考えられる。
【0007】
以上のように、従来の製法は、基本的には微粒子化するために機械的な粉砕を採用していることから、特定の粒子形状のものを得ることはできず、また粒子径分布のシャープなものを得ることも困難であった。さらに、機械的に衝撃が加わることにより、酸化セリウム粒子に歪みが入りやすく、結晶性が低下する問題がある。この結晶性は、研磨材として使用する上で極めて重要で、X線回折などにより、酸化セリウムにもとづくスペクトルを示すものであっても、研磨材としての結晶性という面では、これまで満足のいくものがなかった。
【0008】
また酸化セリウム粒子は、その製造法にもよるが、一般に元々原材料に含まれるセリウム以外の元素がセリウムと同時に存在しやすい。つまり、高純度の酸化セリウムを得にくい問題があった。この純度は、酸化セリウム粒子を化学研磨液などに使用する場合には、特に問題となる。
【0009】
(2)酸化ジルコニウム:
酸化ジルコニウムにおいては、研磨シートや研磨液などの研磨材として使用されているが、研磨材用の酸化ジルコニウムは酸化ジルコニウムのインゴットを粉砕して微粒子としたものが多い。機械的な手段で微粒子にする場合、その微粒子化にも限界があり、例えば、特許文献5には、酸化ジルコニウム粒子を使って、シリコンの表面を研磨した例が記載されているが、使用されている酸化ジルコニウム粒子の粒子径は、7.0μmである。
【0010】
特許文献6には、シリカ、アルミナ、ジルコニアなどの無機粒子と、重合体粒子の混合粒子を用いた水分散体の例が示されており、本文中には、無機粒子の平均粒子径の好ましい範囲として、0.12〜0.8μmが示されている。
【0011】
従来酸化ジルコニウム粒子は、研磨材単体として用いられることは少なく、酸化アルミニウムや酸化珪素粒子などの他の研磨材粒子と併用されることが多い。これは、粒子径や粒子形状において、これまでに満足のいく酸化ジルコニウム粒子が存在しなかったことが理由と考えられる。
【0012】
(3)酸化アルミニウム:
酸化アルミニウムは、研磨シートや研磨液などの研磨材として汎用されている。酸化アルミニウム粒子の製造法としては、各種の方法が知られている。一般的には、焼成法で作製した酸化アルミニウムをボールミル等で粉砕することにより微粒子化されている。しかしこの方法で作製した酸化アルミニウム粒子は粒子サイズ分布が広く、さらに機械的に粉砕するため、粒子サイズとしては、サブミクロンサイズが限界で、さらに微粒子化することは困難である。
【0013】
中和反応により水酸化アルミニウムの沈殿物を作り、この水酸化アルミニウムを空気中加熱処理すると、酸化アルミニウム粒子を得ることができる。しかし、この方法では、粒子径の小さい酸化アルミニウム粒子を得ることはできるが、粒子形状が粒状の不定形であり、研磨材として使用する上で、十分な研磨能が得られない。さらに粒子間凝集による2次粒子が生じやすく、特に研磨液などに使用する場合、均一な分散液とするために、大きなエネルギーと極めて長時間の分散が必要であるという問題がある。例えば特許文献7には、焼成法で作製された平板状アルミナを、非金属媒体を用いて長時間微粉砕し、凝集を破壊することが示されている。この方法では、粉砕により微粒子化するため、微粒子化に限界があり、かつ本質的に粒子径分布が広くなる。
【0014】
一方、水熱合成法を利用した板状アルミナの製造法が古くから知られている。例えば特許文献8や特許文献9には、板状アルミナが得られることが記載されている。しかし、得られる板状アルミナの粒子径は、数ミクロンから数百ミクロンであり、粒子の微細化の点で問題がある。
【0015】
一方、あらかじめ大きさをサブミクロンオーダーに調整した水酸化アルミニウムを水やアルカリ水溶液中、350℃以上の高温下で水熱処理を行い、サブミクロンオーダーの板状酸化アルミニウムとする製造方法が知られている(例えば、特許文献10、特許文献11)。この方法では、結晶性に優れた板状酸化アルミニウムが得られやすい水熱反応を利用して、水酸化アルミニウムを酸化アルミニウムに結晶変態させる。そのため、高温での反応になり、高圧に耐える特殊な反応容器が必要となる。さらにこの方法は、高温下での水熱反応を利用するものであるため、サブミクロンサイズの粒子径の大きい酸化アルミニウム粒子を製造するには適しているが、100nm以下の微細な酸化アルミニウム粒子を製造するには適していないと考えられる。
【0016】
以上のように、これまで仕上げ研磨用シートや研磨液用の研磨材として使用するために、結晶性が良好でかつ粒子径分布がシャープな粒子径100nm以下の微粒子状の酸化アルミニウムが要求されてきたにもかかわらず、このような要求を満たす酸化アルミニウム粒子は、これまで開発されていなかった。
【0017】
(4)酸化珪素:
酸化珪素も研磨シートや研磨液などの研磨材としてよく知られた材料である。例えばヒュームドシリカやコロイダルシリカは既に各社から商品化されている汎用製品である。これらの酸化珪素粒子を用いた研磨シートや研磨液に関しては、膨大な数の特許出願がなされている。
【0018】
例えば特許文献12や特許文献13は、数十nmサイズのコロイダルシリカ粒子を研磨材に用いた研磨シートに関するもので、そこには光コネクタフェルールの端面研磨の用途に特に有効であることが記載されている。特許文献14には、10〜100nmのコロイダルシリカを研磨材に使用して、シリコンウエハーを研磨することが記載されている。特許文献15にも、特定の形状を有するコロイダルシリカを用いて半導体ウエハーを研磨することが記載されている。さらに、特許文献16には、数十nmサイズのコロイダルシリカを研磨材として用いたコロイダルシリカスラリーが金属表面の研磨にも有効であることが記載されている。
【0019】
このように酸化珪素粒子が研磨材として有効であることは、すでに公知であり、その粒子形状としては、球状又はできるだけ球状に近い形状のものが有効であることが、上記公知例の中にも記載されている。
【0020】
一方、被研磨体の種類は年々多くなっており、さらにそれらの被研磨体に要求される研磨仕様も年々多様化している。これらの各種の研磨仕様の要求に応えるために、例えば酸化珪素粒子においては、粒子そのものより、研磨シートでは、その組成や表面構造を、研磨用スラリーでは、その液組成に工夫を凝らすことにより対応しているのが現状である。しかしながら、形状が球状で、粒子径が数十nmの酸化珪素粒子を使用する限り、その対応にも限界があり、既に特殊な用途の研磨には対応が困難になりつつある。
【0021】
(5)酸化鉄:
酸化鉄においては、本発明者らは、粒子の形状が板状であると同時に、粒子の厚さ方向に孔を有する新規な形状の粒子を開発した。粒子の中央付近に孔のあいた板状の酸化鉄粒子は、特許文献17、特許文献18において公知であり、そこでは盤状ゲータイト(ゲーサイトともいう)粒子を加熱、脱水、還元して、孔のあいた板状マグネタイト粒子とした後、コバルトで変性して、磁気記録用の磁性粉末としての用途が提案されている。
【0022】
また、特許文献19には、盤状のゲータイト粒子を出発原料とした環状の酸化物粉末が記載されており、用途として磁性粉末等の電子材料や、塗料補強用剤等の顔料、複合材料用等の補強剤、医療材料等としての利用が提案されている。この例では、塩化鉄水溶液を、水酸化ナトリウムおよびアルキルアミンを加えた水溶液に対して滴下して水酸化鉄を沈殿させ、熟成、洗浄、pHを調整後、水熱処理を施し、盤状のゲーサイトを得ている。この盤状のゲーサイトを加熱脱水することにより、中央に孔のあいた環状のヘマタイト粒子や、マグネタイト粒子、ガンマ酸化鉄粒子などの磁性粉末を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開平10−106990号公報
【特許文献2】特開平11−181405号公報
【特許文献3】特開平09−027042号公報
【特許文献4】特開平10−102039号公報
【特許文献5】特開平08−113773号公報
【特許文献6】特開2000−204353号公報
【特許文献7】特開平07−315833号公報
【特許文献8】特公昭37−007750号公報
【特許文献9】特公昭39−013465号公報
【特許文献10】特開平05−017132号公報
【特許文献11】特開平06−316413号公報
【特許文献12】特開平08−336758号公報
【特許文献13】特開平09−248771号公報
【特許文献14】特開平08−267356号公報
【特許文献15】特開平07−221059号公報
【特許文献16】特開平06−313164号公報
【特許文献17】特開昭61−266311号公報
【特許文献18】特開昭61−266313号公報
【特許文献19】特公平03−021489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、上記の事情に照らし、研磨シート等の研磨体や研磨液(スラリー状研磨材)などの研磨材粒子として、また各種の塗布型磁気記録媒体用の添加材粒子として、さらには各種の機能性光学フィルム用の添加材粒子として、特に適した特定の粒子径と粒子形状を有する非磁性酸化物である酸化ジルコニウム粒子と、その製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、上記の目的を達成するため、鋭意検討した結果、従来の非磁性酸化物粒子の製造方法とは全く異なる、新規な製造方法を完成した。その結果、これまでの製造方法では不可能であった、粒子の形状が六角板状で、かつ粒子径が10nmから100nmの範囲にある酸化ジルコニウムからなる非磁性酸化物粒子の開発に成功したものである。
【0026】
すなわち、本発明の非磁性板状粒子は、粒子の形状が六角板状で、かつ粒子径が10nmから100nmの範囲にあることを特徴とするもので、具体的には粒子の形状が六角板状で、かつ粒子径が10nmから100nmの範囲にある酸化ジルコニウム粒子を挙げることができる。また、本発明方法は、アルカリ水溶液にジルコニウム塩の水溶液を添加し、得られたジルコニウムの水酸化物あるいは水和物を、水の存在下で110〜300℃の温度範囲で加熱処理し、ろ過、乾燥後、さらに空気中300〜1200℃の温度範囲で加熱処理することにより、上記の特異な形状と粒子径を有する酸化ジルコニウム粒子を製造するものである。
【0027】
本発明方法では、出発原料としてジルコニウムの塩化物や硝酸塩などの高純度のジルコニウム塩を用いるため、生成物中に、研磨性に悪影響をおよぼすような元素をほとんど含有しない。また出発物質中に含まれる塩素や硝酸は加熱処理後に飛散して排除されるため、最終的な酸化ジルコニウム粒子中にはほとんど残らず、極めて高純度の非磁性酸化物粒子が得られる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明方法によれば、これまでの製造方法では不可能であった、粒子の形状が六角板状で、かつ粒子の板面方向の粒子径が10nmから100nmの範囲にある酸化ジルコニウムからなる非磁性板状粒子が得られる。このようにして得られる本発明の非磁性板状粒子は、粒子径分布が均一で、焼結、凝集が極めて少なく、良好な結晶性を有する。このような本発明の非磁性板状粒子を、例えば研磨テープ、研磨シート、研磨フィルムおよび研磨具等の研磨体、磁気テープや各種の機能性光学フィルムなどに適用すると、従来の酸化物粒子を使用した同種のものに比べて、その特性が大幅に向上する。このように本発明の非磁性板状粒子は、従来実現が不可能であった全く新規な用途をも開拓するものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実験例1で得られた酸化セリウム粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図2】実験例1で得られた酸化セリウム粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図3】実験例2で得られた酸化セリウム粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図4】実験例3で得られた酸化セリウム粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図5】実験例8で得られた酸化ジルコニウム粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図6】実験例8で得られた酸化ジルコニウム粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図7】実験例9で得られた酸化ジルコニウム粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図8】実験例15で得られた酸化アルミニウム粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図9】実験例15で得られた酸化アルミニウム粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図10】実験例16で得られた酸化アルミニウム粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図11】実験例17で得られた酸化アルミニウム粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図12】実験例18で得られた酸化アルミニウム粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図13】実験例20で得られた酸化アルミニウム粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図14】実験例20で得られた酸化アルミニウム粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図15】実験例22で得られた酸化珪素粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図16】実験例28で得られた酸化鉄粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図17】実験例29で得られた酸化鉄粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明方法は、まず第一工程として、アルカリ水溶液にジルコニウム塩の水溶液を添加し、得られたジルコニウムの水酸化物あるいは水和物を、水の存在下で110〜300℃の温度範囲で加熱処理することにより、目的とする形状、粒子径に整え、その後第二工程として、このジルコニウムの水酸化物あるいは水和物を空気中加熱処理することにより、粒子径分布が均一で、焼結、凝集が極めて少ない酸化ジルコニウム粒子を得るものである。
【0031】
また、上記方法において、第一工程と第二工程の間で、ジルコニウムの水酸化物あるいは水和物の熟成工程を加えれば、より粒径が均一でかつ板状性に優れた粒子を得ることができる。
【0032】
このように非磁性酸化物粒子の製造において、形状、粒子径を整えることを目的とする工程と、その材料が本来有する物性を最大限に引き出すことを目的とする工程とを分離するという、全く新規な発想により、これまでの製造方法では不可能であった、粒子の形状が板状で、かつ平均粒子径が、10nmから100nmの範囲にある酸化ジルコニウム粒子の開発に成功したものである。ここで、板状とは、板状比(最大径/厚さ)が1を超えるものをいい、板状比が2を超え、100以下が好ましい。さらに、3以上50以下がより好ましく、5以上30以下がさらに好ましい。前記の範囲が好ましいのは、板状比が2以下では例えば研磨シートとした時に、粒子が塗布面から立ち上がるものが存在し、被研磨体を傷つける場合があり、100を超えると、研磨時に粒子が破壊されて被研磨体を傷つける場合があるためである。
【0033】
このような工程により製造した本発明の酸化ジルコニウムからなる非磁性板状粒子は、粒子の焼結、凝集が極めて少なく、粒子径分布がシャープなうえ、粒子形状が板状であるという特徴を有する。このような特徴ゆえに、本発明の非磁性酸化物粒子は、研磨シートや研磨液用の研磨材粒子や各種の塗布型磁気記録媒体用の添加材粒子として、さらには各種の光学フィルム用の添加材粒子として、従来のこれらの粒子では得られなかった優れた性能を発揮する。
【0034】
酸化ジルコニウム粒子を研磨材や添加材として用いる場合には、結晶性であることが特に望ましい。X線回折などにより、これらの物質特有のスペクトルを示す粒子であっても、これまで十分な結晶性をもったものはなく、したがって研磨材や添加材として使用した場合、必ずしも満足いくものではなかった。
【0035】
本発明者らは、研磨材として優れた性能を示す形状について、これまで検討してきた結果、電子顕微鏡などで観察して、板状形状を有するものは、その端面のエッジの存在が、研磨材粒子として特に有効に作用していることを見出した。
【0036】
以上のように、本発明では、特定の形状を有する酸化ジルコニウム粒子の製造に初めて成功したものである。本発明により得られる酸化物粒子(酸化ジルコニウム粒子)は、半導体、光ファイバー、レンズなどを研磨するための最適な研磨材粒子であるのみならず、各種の塗布型磁気記録媒体の添加剤粒子、さらには特異な形状を活かした各種の機能性光学フィルム用の添加材粒子など、広範囲の用途に適用することができるものである。なお、非磁性板状酸化物粒子は、後述する酸化セリウム粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化珪素粒子や、本発明の酸化ジルコニウム粒子のように殆ど孔のないタイプの板状酸化物粒子と、後述する酸化鉄のように孔のあるタイプの板状酸化物粒子に大別されるが、前者の孔の殆どないタイプの非磁性酸化物粒子は塗布型磁気記録媒体の添加剤粒子や機能性光学フィルムの用途にはより好ましく用いられる。また、前者は着色がないので、機能性光学フィルム等の着色を嫌う用途にはより好ましく用いられる。殆ど孔のないタイプの板状酸化物粒子とは、300個の粒子を観察した時に板厚方向に孔を有する酸化物粒子が10%以下のものである。
【0037】
本発明方法では、まず、原料となるジルコニウムを含む化合物を水に溶解し、アルカリ水溶液に滴下することにより、ジルコニウムの水酸化物あるいは水和物の沈殿物を生成する。この沈殿物を生成させるための、アルカリ水溶液としては、特に限定されるものではないが、オキシアルキルアミンを添加すると、最終生成物として粒子径分布のシャープな板状粒子が得られやすいため、オキシアルキルアミンを添加することが好ましい。この水酸化物あるいは水和物の沈殿物を含む懸濁液をオートクレーブなどを使用して、水熱処理する。この水熱処理を行う前に、水酸化物あるいは水和物の沈殿物を含む懸濁液を熟成することにより、最終生成物として、より結晶性が良好でかつ粒子径分布のシャープなものが得られやすいため、熟成工程を付加することが好ましい。水熱処理後、水洗、ろ過、乾燥する。そして、得られた乾燥物に加熱処理を施すことにより、酸化ジルコニウム粒子とする。
【0038】
次に、上記非磁性板状粒子(酸化物粒子)の製造方法と、これにより得られる非磁性板状粒子の用途について、さらに詳細に説明する。なお、以下では本発明に係る酸化ジルコニウムからなる非磁性板状粒子とともに、他の金属酸化物(具体的には酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化鉄)や非金属酸化物(具体的には酸化珪素)からなる非磁性板状粒子についても説明するが、後者の金属酸化物や非金属酸化物からなる非磁性板状粒子は本発明に係るものとしてではなく参考として記載するものである。
【0039】
また、下記において「金属塩または非金属塩」あるいは「金属または非金属」と表現したのは、セリウム、ジルコニウム、アルミニウムおよび鉄は金属元素であるが、珪素は金属元素とはいえないと考えられるためである。つまり、上記の「非金属」とは主として珪素を意味し、「非金属塩」とは主として「珪素を含む塩あるいは珪酸塩」を意味する。ただし、以下の説明では、記述を簡潔なものとするため、先のような意味を有する「金属または非金属」を単に「金属」といい、「金属塩または非金属塩」を単に「金属塩」という。
【0040】
(沈殿物の作製)
セリウム、ジルコニウム、アルミニウム、鉄に対しては、これらの金属の塩化物、硝酸塩、硫酸塩を、また珪素に対しては、珪酸ナトリウムを水に溶解させ、これらの金属イオンを含有する水溶液(金属塩水溶液)を作製する。これとは別に、アルカリ溶液を作製する。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水溶液などが好適なものとして使用できる。また、これらのアルカリ水溶液に、さらに結晶成長制御剤であるアルキルアミンを添加すると、板状形状の良好な粒子が得られやすい。このアルキルアミンとしては、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソブタノールアミン、プロパノールアミン等が挙げられるが、中でもモノエタノールアミンが板状形状の良好な粒子を得る上で、特に適している。
【0041】
次に前記金属塩水溶液を、前記アルカリ水溶液中に滴下して、金属の水酸化物あるいは水和物の沈殿物を生成する。この沈殿物を含む懸濁液のpHは、8〜11の範囲に調整し、またこの懸濁液を室温において1日程度熟成することが好ましい。このpH調整および熟成は、この後の工程の加熱処理において、比較的低い温度で、板状形状が良好で、かつ粒径分布のシャープな粒子を得る上で効果的である。
【0042】
(水熱処理)
前記金属の水酸化物あるいは水和物の沈殿物を含む懸濁液に対し、オートクレーブ等を用いて水熱処理を行う。この水熱処理において、上記の沈殿物を含む懸濁液をそのまま水熱処理しても構わないが、水洗により、上記沈殿物以外の生成物や残存物を除去し、その後NaOHなどにより再度pH調整することが好ましい。この時のpHの値は、7〜11とすることが好ましい。このpHより低いと、水熱処理時に結晶成長が不十分になり、また高すぎると、粒子径分布が広くなったり、目的とする粒子径の小さい粒子を得ることが困難になる。より好ましいpHの範囲は7〜10である。
【0043】
水熱処理温度は、110℃から300℃の範囲とすることが好ましい。この温度より低いと、特定の形状を有する前記金属の水酸化物あるいは水和物が得られにくく、またこの温度より高いと発生圧力が高くなるため、装置が高価なものとなり、メリットはない。
【0044】
水熱処理時間は、1時間から4時間の範囲が好ましい。水熱処理時間が短すぎると、特定の形状への成長が不十分になる。水熱時間が長すぎても特に問題となることはないが、製造コストが高くなるだけで、メリットはない。
【0045】
(加熱処理)
水熱処理後の前記金属の水酸化物あるいは水和物粒子は、ろ過、乾燥した後、加熱処理を行うが、ろ過する前に、水洗によりpHを6〜9の付近の中性領域に調整しておくことが好ましい。これはpHが高い状態では、ナトリウムなどが残存しており、その後の加熱処理工程において、これらの残存物が粒子間焼結の原因となったり、粒子の結晶成長を阻害する原因になることもあるからである。
【0046】
セリウム、ジルコニウム、アルミニウムおよび鉄に対しては、これらの金属の水酸化物あるいは水和物粒子に、さらに珪酸ナトリウムなどの珪素化合物を添加して、シリカ処理を施こしても良い。このシリカ処理は、最終目的物である酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウムおよび酸化鉄粒子を特定の形状に保持する上で、効果的である。
【0047】
ろ過、乾燥した前記金属の水酸化物あるいは水和物は、加熱処理により酸化物粒子とすることができる。雰囲気は特に限定されないが、空気中加熱が、最も製造コストがかからないため好ましい。この加熱処理温度としては、300℃から1500℃の範囲が好ましい。この温度より低いと、板状形状、結晶性共に良好な酸化物粒子が得られにくく、高すぎると、焼結により粒子サイズが大きくなったり、さらに粒子径分布が広くなる。この加熱処理により、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化鉄および酸化珪素粒子の酸化物粒子が得られるが、さらに水洗などにより、未反応物を除去すると、より高純度の酸化物粒子が得られるため、化学研磨用などの研磨材として使用するためには、最終工程で水洗することが好ましい。
【0048】
また板状形状、結晶性共に良好な酸化物粒子を得るために、上記の加熱処理は有効な手段であるが、酸化セリウム、酸化ジルコニウムにおいては、加熱処理を行わなくても、この酸化物本来の結晶構造である蛍石構造を有する粒子が得られる。この場合には、熟成および水熱処理条件にもよるが加熱処理を行うことなしに板状形状の粒子が得られる。また酸化珪素においても加熱処理を行うことなしにSiO2 の組成を有する板状の酸化珪素粒子を得ることもできる。これら加熱処理工程を経ないで得られた板状粒子は通常、粒子サイズが10nmと微細であるため乾燥工程を経ないスラリー状態のまま使用することが好ましい。
【0049】
このようにして得られた酸化物粒子は、粒子径が10nmから100nmの範囲であり、また仕上げ研磨用のシートや研磨液用の研磨材として使用する上で特に好ましい範囲である粒子径が20nmから90nmの板状の形状を有する。X線回折スペクトルを測定すると、酸化セリウムと酸化ジルコニウムは蛍石構造をもつCeO2 、Zr02 の結晶構造に対応するピークが明瞭に観察され、また電子顕微鏡観察においても晶壁が明瞭に観察され、これまでの製造法では得られなかった極めて良好な結晶性を有することが示された。
【0050】
また、酸化アルミニウムにおいては、加熱処理温度によってγ−Al2 O3 、δ−Al2 O3 、θ−Al2 O3 、α−Al2 O3 など任意の結晶構造を有する板状でかつ結晶性の良好な粒子が得られる。具体的には例えば、アルカリ水溶液にアルミニウム塩の水溶液を添加し、得られたアルミニウムの水酸化物あるいは水和物を、水の存在化で110〜300℃の温度範囲で加熱処理し、ろ過、乾燥後、得られたベーマイト粒子を空気中300〜1200℃または400〜1500℃の温度範囲で加熱処理し、さらに好ましくは水洗により酸化アルミニウム以外の生成物あるいは残存物を除去することにより、γ−アルミナ、δ−アルミナ、θ−アルミナもしくはα−アルミナ単独の結晶構造、またはこれらのアルミナ結晶構造のうちの2種類以上の結晶構造を持つアルミナの混合物を得ることができる。
【0051】
さらに、酸化珪素については、X線回折スペクトルでは明瞭な結晶性の回折ピークは認められにくいが、蛍光X線分析などにおいて、ほぼSiO2 の組成を有するものであることが確認された。
【0052】
(非磁性板状粒子の用途)
上記のようにして得られる非磁性板状粒子、具体的には酸化物粒子(酸化セリウム粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化珪素粒子および酸化鉄粒子)は、例えば研磨体や研磨液などの研磨材として使用した場合には、その特異な形状と粒子径により、従来の粒状の研磨材粒子では得られなかった、被研磨体の傷付きの極めて少ない優れた研磨性を発揮する。即ち従来の粒状の研磨材粒子を用いる場合には、研磨能を維持しながら、被研磨体の傷付きのない平滑な研磨面を得ることは非常に困難であったのに対して、本発明の酸化物粒子を使用すれば、板状粒子の端面を利用して研磨しながら、かつ粒子の平滑な板面を利用することにより、傷つきの極めて少ない研磨を実現することができる。なお、上記の研磨体には、シート状(研磨シート)、テープ状(研磨テープ)、ディスク状(研磨ディスク)、カード状もしくは板状、棒状、立体状などの種々の形態のものが含まれる。
【0053】
加えて、本発明の方法によれば、上記のような非磁性板状粒子の内で酸化鉄粒子のように板厚方向に孔を生じやすい酸化物粒子も得られる。これは板状の水酸化物粒子が加熱処理時に脱水され、孔が生成するためであるが、このような孔が存在する酸化物粒子においても、研磨性など本発明の酸化物粒子が有する特徴が損なわれることはない。また、この酸化鉄粒子中の鉄の一部をアルミニウムやジルコニウムなど、他の金属元素で置換すると、酸化鉄粒子の硬度を制御でき、これにより用途に応して微妙な研摩能を発現できる。
【0054】
本発明方法によって得られる非磁性板状粒子を液状の媒体に、好ましくは分散剤とともに添加して分散させることによって、スラリー状の研磨材である研磨液が得られる。この場合の研磨材粒子、具体的には酸化セリウム粒子、酸化珪素粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化鉄粒子は、硬度がそれぞれ異なる。したがって、これらを数種類組み合わせて使用すると、きめ細かい硬度が調整できるため、広範囲の用途に対応できるようになる。特に、汎用のコロイダルシリカと上記研磨材粒子とを混合使用すれば、コロイダルシリカのみでは不十分であった研磨性に、さらに新たな研磨性を付与できるようになり、広範囲の用途展開が可能になる。また、このように混合使用する場合でも、上記の研磨材粒子は焼結、凝集がなく、粒子径分布も極めて均一であることから、異なる粒子が分離することが少なく、極めて安定な研磨液が得られる。
【0055】
本発明の非磁性板状粒子は、各種の塗布型磁気記録媒体の添加剤粒子としても極めて有望である。この場合には孔のないタイプの板状粒子が好ましい。このタイプの板状粒子が好ましいのは、孔があると、この孔に針状の磁性粒子等が引っかかり、磁性粉の配向が乱れる等の問題が生じる恐れがあるためである。また、厚さムラの原因となる恐れもある。塗布型磁気記録媒体は、高記録密度化の要求に伴い、磁性層は益々薄層化されている。従来、塗布型磁気記録媒体用の添加剤としては、粒状の酸化アルミニウム、酸化珪素さらには酸化鉄が使用されてきたが、磁性層が薄層化すると、このような粒状の添加剤では磁性層表面からの添加剤粒子の突出が顕著になり、磁性層の表面平滑性が低下して、ノイズ増加の原因となる。一方、本発明の板状粒子を使用すると、板面を磁性層に並行になるように並べることにより、添加剤粒子のクリーニング機能を維持しながら、磁性層表面の極めて平滑な磁気記録媒体が得られる。
【0056】
さらに本発明の酸化物粒子は、光学フィルムなどの各種の機能性フィルム用の添加剤に使用すると、その物質が本来有する光学特性にさらに板状形状に基づく優れた光透過性を発揮する。即ち粒子の板面をフィルム面に並行になるように並べると、その物質が本来有する光との相互作用を発現しながら、光の透過性が良好な優れた透明性を示す機能性フィルムが得られる。例えば、屈折率の異なる本発明の酸化物粒子を複数種類多層塗布した反射防止膜や、光の透過性が極めて良好な高屈折率塗膜など、多くの用途展開が可能である。板状形状に基づく面内での等方性を利用することにより、特定方向での機械的あるいは熱的変形率の極めて小さい塗膜を実現することも可能となる。なお、この場合には、酸化アルミニウム粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化セリウム粒子、酸化珪素粒子のように着色のない板状粒子が、膜が着色しないので好ましい。また、板状粒子に孔があると、屈折率のムラや透明性の低下の原因になる場合があるので、孔のないタイプが好ましい。
【0057】
このように、本発明の酸化物粒子は、粒子の形状が板状で、かつ平均粒子サイズが10nmから100nmの範囲にある極めて粒子サイズ分布の良好な粒子であり、このような粒子を使用することにより、酸化物粒子を使用した現行の製品の特性を大幅に凌駕するのみならず、従来実現が不可能であった全く新規な用途をも開拓するものである。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例を比較例とともに説明する。なお、以下に示す実験例1〜55のうち、酸化ジルコニウム粒子に関する実験例が本発明の実施例の範囲に属するものであり、酸化セリウム粒子、酸化鉄粒子、酸化アルミニウム粒子および酸化珪素粒子に関する実験例は参考のために記載するものである。
【0059】
(1)酸化セリウム粒子に関する例
〈実験例1〉
0.75モルの水酸化ナトリウムと100mlの2−アミノエタノールを800mlの水に溶解して、アルカリ水溶液を調整した。これとは別に、0.074モルの塩化セリウム(III)七水和物を400mlの水に溶解して、塩化セリウム水溶液を調整した。前者のアルカリ水溶液に、後者の塩化セリウム水溶液を滴下して、約25℃で水酸化セリウムを含む沈殿物を作製した。このときのpHは10.8であった。この沈殿物を懸濁液の状態で20時間熟成させたのち、pHが7.9になるまで水洗した。
【0060】
次に、上澄み液を除去した後、この沈殿物の懸濁液を、オートクレーブに仕込み、200℃で2時間、水熱処理を施した。
【0061】
得られた水熱処理生成物を、ろ過し、90℃で空気中乾燥した後、乳鉢で軽く解砕し、空気中600℃で1時間の加熱処理を行って酸化セリウム粒子とした。加熱処理後、未反応物や残存物を除去するために、さらに超音波分散機を使って水洗し、ろ過乾燥した。
【0062】
得られた酸化セリウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造の酸化セリウムに対応するスペクトルが明瞭に観測された(図1参照)。また、酸化セリウムの(111)面に対応するピーク幅から、シェラー法を用いて結晶子サイズを算出したところ、結晶子サイズは12.7nmであった。さらに、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、粒子径が10〜20nmの六角板状の粒子であることがわかった。
【0063】
この酸化セリウム粒子のX線回折スペクトルを図1に、また、20万倍で撮影した透過電子顕微鏡写真を図2に示す。酸化セリウム粒子の合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状、及びX線回折ピーク幅から求めた結晶子サイズを表1にまとめて示す。
【0064】
〈実験例2〉
実験例1の酸化セリウム粒子の合成方法において、水熱処理生成物の加熱処理温度を、600℃から800℃に変更した以外は、実験例1と同様にして、水酸化セリウムを含有する沈殿物を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、酸化セリウム粒子を作製した。
【0065】
この酸化セリウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、実験例1と同じく蛍石構造をもつ酸化セリウムに対応するスペクトルが観測された。また、(111)面に対応するピーク幅から、シェラー法を用いて求めた結晶子サイズは、17.2nmであった。さらに、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒子径が10〜25nmの六角板状の粒子であった。
【0066】
この酸化セリウム粒子について、20万倍で撮影した透過電子顕微鏡写真を図3に示す。合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状、及びX線回折ピーク幅から求めた結晶子サイズを、表1にまとめて示す。
【0067】
〈実験例3〉
実験例1の酸化セリウム粒子の合成方法において、水熱処理生成物の加熱処理温度を、600℃から1000℃に変更した以外は、実験例1と同様にして、水酸化セリウムを含有する沈殿物を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、酸化セリウム粒子を作製した。
【0068】
この酸化セリウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、実験例1と同じ蛍石構造をもつ酸化セリウムに対応するスペクトルが観測され、また(111)面に対応するピーク幅から、シェラー法を用いて求めた結晶子サイズは32.4nmであった。さらに透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒子径が50〜100nmの六角形状ないしは四角形状の板状粒子であることがわかった。
【0069】
この酸化セリウム粒子について、20万倍で撮影した透過電子顕写真を図4に示す。合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状、及びX線回折ピーク幅から求めた結晶子サイズを、表1まとめて示す。
【0070】
〈実験例4〉
実験例1の酸化セリウム粒子の合成方法において、水熱処理を行った後、懸濁液の体積の500倍の水で洗浄した後、ろ過乾燥した。洗浄後のpHは、7.5であった。その後の加熱処理以降の工程は、実験例1と同様にして、酸化セリウム粒子を作製した。
【0071】
この酸化セリウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造をもつ酸化セリウムに対応するスペクトルが観測され、また(111)面に対応するピーク幅から、シェラー法を用いて求めた結晶子サイズは11.5nmであった。さらに、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒径10〜15nmの六角板状粒子であることがわかった。
【0072】
この酸化セリウム粒子について、合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状、及びX線回折ピーク幅から求めた結晶子サイズを、表1まとめて示す。
【0073】
〈実験例5〉
実験例1の酸化セリウム粒子の合成方法において、水熱処理を行った後、さらに4N珪酸ナトリウム水溶液を0.04g添加し、次いで0.8Nの塩酸水溶液を加えてpHを7.4とした以外は、実験例1と同様にして、水酸化セリウムを含有する沈殿物を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、酸化セリウム粒子を作製した。
【0074】
この酸化セリウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造をもつ酸化セリウムに対応するスペクトルが観測され、また(111)面に対応するピーク幅から、シェラー法を用いて求めた結晶子サイズは10.6nmであった。さらに、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒径10〜15nmの六角板状粒子であることがわかった。
【0075】
この酸化セリウム粒子について、合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状、及びX線回折ピーク幅から求めた結晶子サイズを、表1にまとめて示す。
【0076】
〈実験例6〉
実験例1の酸化セリウム粒子の合成方法において、空気中600℃で1時間加熱処理した後、さらに超音波分散機を使って水洗した以外は、実験例1と同様にして酸化セリウム粒子を作製した。
【0077】
この酸化セリウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造をもつ酸化セリウムに対応するスペクトルが観測され、また(111)面に対応するピーク幅から、シェラー法を用いて求めた結晶子サイズは12.3nmであった。さらに、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒径10〜20nmの六角板状粒子であることがわかった。
【0078】
この酸化セリウム粒子について、合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状、及びX線回折ピーク幅から求めた結晶子サイズを、表1に示す。
【0079】
〈実験例7〉
実験例1の酸化セリウム粒子の合成方法において、水酸化ナトリウムの添加量を0.75モルから0.90モルに変更し、かつ2−アミノエタノールを添加することなく、実験例1と同様に沈殿物を作製した。このときのpHは10.5であった。次に、この沈殿物の懸濁液を熟成した後、水熱処理を施し、水洗、ろ過、乾燥後さらに加熱処理を行い、酸化セリウム粒子を作製した。
【0080】
この酸化セリウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造をもつ酸化セリウムに対応するスペクトルが観測され、また(111)面に対応するピーク幅から、シェラー法を用いて求めた結晶子サイズは20.1nmであった。さらに、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、若干粒子径分布が広いが、粒径20〜30nmの六角板状粒子であることがわかった。
【0081】
この酸化セリウム粒子について、合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状、及びX線回折ピーク幅から求めた結晶子サイズを、表1に示す。
【0082】
〈比較例1〉
実験例1の酸化セリウム粒子の合成方法において、水酸化セリウムを含有する沈殿物を生成した後、水熱処理を行うことなく、実験例1と同様にして、水酸化セリウムを含有する沈殿物をそのまま水洗し、ろ過、乾燥した後、加熱処理して、酸化セリウム粒子を作製した。
【0083】
この酸化セリウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造をもつ酸化セリウムに対応するスペクトルが観測されたが、(111)面に対応するピーク幅からは、結晶子サイズを求められないほど大きな結晶子サイズになっており、また透過電子顕微鏡で観察したところ、粒子径は1〜10μmと粒子径分布の極めて広い焼結体または粗大粒子であることがわかった。
【0084】
この酸化セリウム粒子についても、合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状、及びX線回折ピーク幅から求めた結晶子サイズを、表1にまとめて示す。
【0085】
(酸化セリウム粒子のX線回折スペクトル)
図1は、上記の実験例1で作製した酸化セリウム粒子のX線回折スペクトルである。図中に、蛍石構造をもつ酸化セリウムの結晶構造に対応するピークを示す。実験例、比較例のいずれの粉末においても同様の結果が得られたことから、上記実験例および比較例で作製した粉末は、いずれも酸化セリウム粒子であることを確認した。
【0086】
(酸化セリウム粒子の透過電子顕微鏡観察結果)
図2〜図4は、上記の実験例1〜3で作製した酸化セリウム粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。実験例1〜3は、水熱処理後の加熱処理温度がそれぞれ、600℃、800℃、1000℃である。加熱処理温度が上昇するにしたがって、平均粒子径が10nm程度から100nm程度に増大していることがわかる。これは、酸化セリウム粒子が加熱処理工程において結晶成長することを示している。
【0087】
上記実験例および比較例の酸化セリウム粒子の合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から見積もった平均粒子径と形状を、表1にまとめて示す。なお、透過電子顕微鏡写真から見積もった粒子径は、300個の粒子の平均粒子径から求めた。
【0088】
【表1】
【0089】
表1から明らかなように、上記各実験例で得られた酸化セリウム粒子は、いずれも形状は板状で、酸化セリウムが本来有する蛍石構造を有し、かつ粒子径も研磨シートや研磨液などの研磨材のみならず、板状形状を活かして磁気テープや各種の光学フィルムなどに使用する上で、最適な範囲にあることがわかる。一方、比較例1に示した酸化セリウム粒子では、蛍石構造を有するものの、粒子径が非常に大きく、かつ粒子径分布も極めて広く、研磨材などの用途には適さないことがわかる。
【0090】
このように、本発明の酸化セリウム粒子は、板状形状で、かつ100nm以下の微細な粒子径を同時に実現したものであり、従来実現が不可能と考えられてきた全く新しい用途をも切り開くものである。
【0091】
(2)酸化ジルコニウム粒子に関する例
〈実験例8〉
0.75モルの水酸化ナトリウムと100mlの2−アミノエタノールを800mlの水に溶解して、アルカリ水溶液を作製した。このアルカリ水溶液とは別に、0.074モルの塩化ジルコニウム(IV)を400mlの水に溶解して塩化ジルコニウム水溶液を作製した。前記アルカリ水溶液に前記塩化ジルコニウム水溶液を滴下して、約25℃で水酸化ジルコニウムを含む沈殿物を作製した。このときのpHは10.8であった。この沈殿物を懸濁液の状態で20時間熟成させたのち、pHが7.8になるまで水洗した。
【0092】
次に、上澄み液を除去した後、この沈殿物の懸濁液を、オートクレーブに仕込み、200℃で2時間、水熱処理を施した。
【0093】
得られた水熱処理生成物を、ろ過し、90℃で空気中乾燥した後、乳鉢で軽く解砕し、空気中600℃で1時間の加熱処理を行って酸化ジルコニウム粒子とした。加熱処理後、未反応物や残存物を除去するために、さらに超音波分散機を使って水洗し、ろ過乾燥した。
【0094】
得られた酸化ジルコニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造を有する酸化ジルコニウムに対応するスペクトルが明瞭に観測された。さらに、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、粒子径が10〜20nmの板状の六角粒子であることがわかった。この酸化ジルコニウム粒子のX線回折スペクトルを図5に、また、20万倍で撮影した透過電子顕微鏡写真を図6に示す。この酸化ジルコニウム粒子の合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表2にまとめて示す。
【0095】
〈実験例9〉
実験例8の酸化ジルコニウム粒子の合成方法において、水熱処理生成物の加熱処理温度を、600℃から800℃に変更した以外は、実験例8と同様にして、水酸化ジルコニウムを含有する沈殿物を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、酸化ジルコニウム粒子を作製した。
【0096】
この酸化ジルコニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、実験例8と同じく蛍石構造を有する酸化ジルコニウムに対応するスペクトルが観測された。さらに、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒子径が20〜30nmの六角板状の粒子であった。この酸化ジルコニウム粒子について、20万倍で撮影した透過電子顕微鏡写真を図7に示す。この酸化ジルコニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表2にまとめて示す。
【0097】
〈実験例10〉
実験例8の酸化ジルコニウム粒子の合成方法において、水熱処理生成物の加熱処理温度を、600℃から1000℃に変更した以外は、実験例8と同様にして、水酸化ジルコニウムを含有する沈殿物を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、酸化ジルコニウム粒子を作製した。
【0098】
この酸化ジルコニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、実験例8と同じ蛍石構造を有する酸化ジルコニウムに対応するスペクトルが観測され、また透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒子径が50〜100nmの六角板状粒子であることがわかった。合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表2にまとめて示す。
【0099】
〈実験例11〉
実験例8の酸化ジルコニウム粒子の合成方法において、水熱処理を行った後、懸濁液の体積の500倍の水で洗浄した後、ろ過乾燥した。洗浄後のpHは、7.5であった。その後の加熱処理以降の工程は、実験例8と同様にして、酸化ジルコニウム粒子を作製した。
【0100】
この酸化ジルコニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造を有する酸化ジルコニウムに対応するスペクトルが観測され、また透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒径10〜15nmの六角板状粒子であることがわかった。この酸化ジルコニウム粒子について、合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表2にまとめて示す。
【0101】
〈実験例12〉
実験例8の酸化ジルコニウム粒子の合成方法において、水熱処理を行った後、さらに4N珪酸ナトリウム水溶液を0.04g添加し、さらに0.8Nの塩酸水溶液を加えてpHを7.4とした以外は、実験例8と同様にして、水酸化ジルコニウムを含有する沈殿物を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、酸化ジルコニウム粒子を作製した。
【0102】
この酸化ジルコニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造を有する酸化ジルコニウムに対応するスペクトルが観測され、さらに、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒径10〜15nmの六角板状粒子であることがわかった。この酸化ジルコニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表2にまとめて示す。
【0103】
〈実験例13〉
実験例8の酸化ジルコニウム粒子の合成方法において、空気中600℃で1時間加熱処理した後、さらに超音波分散機を使って水洗した以外は、実験例8と同様にして酸化ジルコニウム粒子を作製した。
【0104】
この酸化ジルコニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造を有する酸化ジルコニウムに対応するスペクトルが観測され、さらに、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒径10〜20nmの六角板状粒子であることがわかった。この酸化ジルコニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表2にまとめて示す。
【0105】
〈実験例14〉
実験例8の酸化ジルコニウム粒子の合成方法において、水酸化ナトリウムの添加量を0.75モルから0.90モルに変更し、かつ2−アミノエタノールを添加することなく、実験例8と同様に沈殿物を作製し、この沈殿物の懸濁液を熟成した後、水熱処理を施し、水洗、ろ過、乾燥後さらに加熱処理を行い、酸化ジルコニウム粒子を作製した。
【0106】
この酸化ジルコニウム粒子についてX線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造を有する酸化ジルコニウムに対応するスペクトルが明瞭に観測された。さらに、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、若干粒子径分布が広いが、粒子径が15〜25nmの六角板状の粒子であることがわかった。この酸化ジルコニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表2にまとめて示す。
【0107】
〈比較例2〉
実験例8の酸化ジルコニウム粒子の合成方法において、水酸化ジルコニウムを含有する沈殿物を生成した後、水熱処理を行うことなく、実験例8と同様にして、水酸化ジルコニウムを含有する沈殿物をそのまま水洗し、ろ過、乾燥し、さらに、実験例8と同様に加熱処理して、酸化ジルコニウム粒子を作製した。
【0108】
この酸化ジルコニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造を有する酸化ジルコニウムに対応するピークが観察されたが、透過電子顕微鏡で形状を観察したところ、微細な粒子から、焼結あるいは凝集による粗大粒子まで、その粒子径分布は粒子径が1〜10μmに亘る極めて粒子径分布の広い焼結体または粗大粒子であることがわかった。この酸化ジルコニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表2にまとめて示す。
【0109】
(酸化ジルコニウム粒子のX線回折スペクトル)
図5は、実験例8で作製した酸化ジルコニウム粒子のX線回折スペクトルである。図中に、酸化ジルコニウムの結晶構造に対応するピークを示す。実験例のいずれの粉末においても同様の結果が得られたことから、実験例で作製した粉末は、いずれも酸化ジルコニウム粒子であることがわかった。
【0110】
(酸化ジルコニウム粒子の透過電子顕微鏡観察結果)
図6、図7は、それぞれ実験例8および実験例9で作製した酸化ジルコニウム粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。板状の酸化ジルコニウム粒子が得られていることが明瞭に観察される。なお、透過電子顕微鏡写真から見積もった平均粒子径は、300個の粒子の平均粒子径から求めた。
【0111】
【表2】
【0112】
表2から明らかなように、各実験例で得られた酸化ジルコニウム粒子は、いずれも形状は板状で結晶性に優れ、かつ粒子径も研磨シートや研磨液などの研磨材のみならず、板状形状を活かして磁気テープや各種の光学フィルムの用途などにおいてに使用する上で、粒子径が最適な範囲にあることがわかる。一方、比較例2に示した酸化ジルコニウム粒子では、粒子径が非常に大きく、かつ粒子径分布も極めて広く、研磨材などの用途には適さないことがわかる。
【0113】
このように、本発明の酸化ジルコニウム粒子は、板状形状で、かつ100nm以下の微細な粒子径を同時に実現したものであり、従来実現が不可能と考えられてきた全く新しい用途をも切り開くものである。
【0114】
(3)酸化アルミニウム粒子に関する例
〈実験例15〉
0.75モルの水酸化ナトリウムと100mlの2−アミノエタノールを800mlの水に溶解し、アルカリ水溶液を作製した。このアルカリ水溶液とは別に、0.074モルの塩化アルミニウム(III)七水和物を400mlの水に溶解して塩化アルミニウム水溶液を作製した。前記アルカリ水溶液に前記塩化アルミニウム水溶液を滴下して、約25℃で水酸化アルミニウムを含む沈殿物を作製し、その後、塩酸を滴下することにより、pHを10.2にした。この沈殿物を懸濁液の状態で20時間熟成させたのち、約1000倍の水で水洗した。
【0115】
次に、上澄み液を除去した後、この沈殿物の懸濁液を、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH10.0に再調整し、オートクレーブに仕込み、200℃で2時間、水熱処理を施した。
【0116】
得られた水熱処理生成物を、ろ過し、90℃で空気中乾燥した後、乳鉢で軽く解砕し、空気中600℃で1時間の加熱処理を行って酸化アルミニウム粒子とした。加熱処理後、未反応物や残存物を除去するために、さらに超音波分散機を使って水洗し、ろ過乾燥した。
【0117】
得られた酸化アルミニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、γ−アルミナに対応するスペクトルが観測された。さらに、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、粒子径が30〜50nmの四角板状の粒子であることがわかった。
【0118】
この酸化アルミニウム粒子のX線回折スペクトルを図8に、また20万倍で撮影した透過電子顕微鏡写真を図9に示す。この酸化アルミニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表3にまとめて示す。
【0119】
〈実験例16〉
実験例15の酸化アルミニウム粒子の合成方法において、水熱処理生成物の加熱処理温度を、600℃から1000℃に変更した以外は、実験例15と同様にして、水酸化アルミニウムを含有する沈殿物を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、酸化アルミニウム粒子を作製した。
【0120】
この酸化アルミニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、実験例15におけるスペクトルよりもピーク強度の高い、δ−アルミナに対応するスペクトルが観測された。また、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、実験例15と同様、粒子径が30〜50nmの四角板状の粒子であった。
【0121】
この酸化アルミニウム粒子のX線回折スペクトルを図10に示す。この酸化アルミニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表3にまとめて示す。
【0122】
〈実験例17〉
実験例15の酸化アルミニウム粒子の合成方法において、水熱処理時間を、2時間から4時間に変更した以外は、実験例15と同様にして、水酸化アルミニウムを含有する沈殿物を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、酸化アルミニウム粒子を作製した。
【0123】
この酸化アルミニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、実験例15と同じγ−アルミナに対応するスペクトルが観測された。さらに透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒子径が10〜20nmの四角形状の板状粒子であることがわかった。
【0124】
この酸化アルミニウム粒子について、20万倍で撮影した透過電子顕写真を図11に示す。この酸化アルミニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表3にまとめて示す。
【0125】
〈実験例18〉
実験例15の酸化アルミニウム粒子の合成方法において、アルカリ水溶液に、塩化アルミニウム水溶液を滴下して、水酸化アルミニウムを含む沈殿物を作製し、その後塩酸を滴下することにより、pHを8.3にした。熟成後、約1000倍の水で水洗し、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8.1に再調整した。その後の水熱処理以降の工程は、実験例15と同様にして、酸化アルミニウム粒子を作製した。
【0126】
この酸化アルミニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、実験例15と同様、γ−アルミナに対応するスペクトルが観測された。さらに、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒径65〜85nmの六角板状粒子であることがわかった。
【0127】
この酸化アルミニウム粒子について、20万倍で撮影した透過電子顕写真を図12に示す。この酸化アルミニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表3にまとめて示す。
【0128】
〈実験例19〉
実験例15の酸化アルミニウム粒子の合成方法において、水熱処理を行った後、さらに4N珪酸ナトリウム水溶液を0.04g添加し、よく攪拌した後、0.8Nの塩酸水溶液を、攪拌しながら徐々に加えてpHを7.5とした以外は、実験例15と同様にして、水酸化アルミニウムを含有する沈殿物を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、酸化アルミニウム粒子を作製した。
【0129】
この酸化アルミニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、γ−アルミナに対応するスペクトルが観測された。さらに、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒径30〜50nmの四角板状粒子であることがわかった。
【0130】
この酸化アルミニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表3にまとめて示す。
【0131】
〈実験例20〉
実験例15で得られた酸化アルミニウム粒子を、さらに空気中1250℃で1時間、加熱処理した。得られた酸化アルミニウム粒子を、X線回折スペクトルを測定したところ、α−アルミナに対応するスペクトルが観測された。さらに、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、粒子径が40〜60nmの四角板状の粒子であった。
【0132】
この酸化アルミニウム粒子のX線回折スペクトルを図13に、20万倍で撮影した透過電子顕微鏡を図14に示す。この酸化アルミニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表3にまとめて示す。
【0133】
〈実験例21〉
実験例15の酸化アルミニウム粒子の合成方法において、水酸化ナトリウムの添加量を0.75モルから0.90モルに変更し、かつ2−アミノエタノールを添加することなく、実験例15と同様に沈殿物を作製し、この沈殿物の懸濁液を熟成した後、水熱処理を施し、水洗、ろ過、乾燥後さらに加熱処理を行い、酸化アルミニウム粒子を作製した。
【0134】
この酸化アルミニウム粒子についてX線回折スペクトルを測定したところ、γ−アルミナに対応するスペクトルが観測された。さらに、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、若干粒子径分布が広いが、粒子径が40〜60nmの四角板状の粒子であることがわかった。
【0135】
この酸化アルミニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表3にまとめて示す。
【0136】
〈比較例3〉
実験例15の酸化アルミニウム粒子の合成方法において、加熱処理温度を600℃から300℃にした以外は、実験例15と同様にして作製した。
【0137】
このようにして作製した粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、酸化アルミニウムへの結晶構造変体が不十分であり、水酸化酸化アルミニウム(ベーマイト;AlO(OH))に対応するスペクトルが観測された。
【0138】
この酸化アルミニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表3にまとめて示す。
【0139】
〈比較例4〉
実験例15の酸化アルミニウム粒子の合成方法において、水酸化アルミニウムを含有する沈殿物を実験例15と同じ条件で生成し、約1000倍の水で水洗した後、実験例15と同様に水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH10.0に再調整した。次に、オートクレーブを用いて水熱処理を施す代わりに、この懸濁液を90℃で2時間加熱処理した。加熱生成物を、ろ過し、90℃で空気中乾燥した後、乳鉢で軽く解砕し、実験例1と同様に、空気中600℃で1時間の加熱処理を行って酸化アルミニウム粒子とした。加熱処理後、未反応物や残存物を除去するために、さらに超音波分散機を使って水洗し、ろ過乾燥した。
【0140】
この酸化アルミニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、γ−アルミナに対応するスペクトルが観測されたが、透過電子顕微鏡で観察したところ、粒子径は20nm程度の微粒子から数μmの焼結ないしは凝集粒子まで、粒子径分布は広く、また粒子形状も粒状ないしは塊状の不定形であった。
【0141】
この酸化アルミニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表3にまとめて示す。
【0142】
(酸化アルミニウム粒子の透過電子顕微鏡観察結果)
図9、11、12、14は、それぞれ実験例15、17、18、20で作製した酸化アルミニウム粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。
【0143】
実験例15と実験例17では、水熱処理時間がそれぞれ、2時間、4時間である。水熱処理時間が増大するにしたがい、加熱処理後に生成する酸化アルミニウム粒子の平均粒子径が45nm程度から16nm程度に減少する傾向にある。これは、水熱処理時に十分結晶成長させれば、その後の加熱処理において、結晶成長が抑制される傾向にあり、逆に水熱処理時の結晶成長を控えめにすれば、その後の加熱処理において、結晶成長しやすい傾向にあることを示している。
【0144】
このように本発明の製造方法では、既述したように形状、粒子径を整えることを目的とする工程と、その材料が本来有する物性を最大限に引き出すことを目的とする工程とに分離することが特徴の一つであるが、水熱処理による最初の工程と、空気中加熱処理による後の工程とは密接に関係しており、この関係が存在することも本発明により初めて見出されたものである。
【0145】
さらに実験例15と実験例18では、熟成時・水熱処理時のpHがそれぞれ、10.2と8.3である。酸化アルミニウム粒子の粒子形状は、pH10.2では四角板状、pH8.3では六角板状となる。平均粒子径はpHが大きくなるに小さくなる傾向になり、形状は六角板状から四角板状になる傾向にある。このように熟成時・水熱処理時のpHにより、粒子径や粒子形状が変化する原因は、現状明らかではないが、熟成時、あるいは水熱処理時のpHの値により、板状形状を維持しながら粒子形状および、平均粒子径を変化させることができることも、他の製造法にはない大きな特徴のひとつである。
【0146】
上記実験例および比較例の酸化アルミニウム粒子の合成条件、X線回折スペクトルから求めた酸化アルミニウム粒子の結晶構造、透過電子顕微鏡写真から見積もった平均粒子径を表3にまとめて示す。なお、透過電子顕微鏡写真から見積もった平均粒子径は、300個の粒子の平均粒子径から求めた。
【0147】
(酸化アルミニウム粒子のX線回折スペクトル)
図8、10、13は、それぞれ実験例15、16、20で作製した酸化アルミニウム粒子のX線回折スペクトルを示す。図8、10、13は、それぞれγ−アルミナ、δ−アルミナ、α−アルミナのX線回折スペクトルに対応する。この結果は、酸化アルミニウム粒子の粒子径、粒子形状を変えることなく、熱処理条件をコントロールすることにより、任意の結晶構造の酸化アルミニウム粒子が得られることを示している。この点も本発明の大きな特徴の一つである。
【0148】
【表3】
【0149】
表3から明らかなように、上記実験例で得られた酸化アルミニウム粒子は、いずれも形状は板状で、X線回折からγ、δ、αなど熱処理条件により各種の結晶構造に制御することが可能であることがわかる。
【0150】
一方、比較例3では、酸化アルミニウム粒子が得られず、水酸化酸化アルミニウム粒子(ベーマイト粒子)のままである。さらに比較例4に示した酸化アルミニウム粒子では、焼結あるいは凝集のために粒子径が非常に大きく、かつ粒子径分布も極めて広く、研磨材など添加剤としの用途には適さないことがわかる。
【0151】
本発明の酸化アルミニウム粒子の粒子径は、研磨シートや研磨液用の研磨材としてのみならず、磁気テープ用の添加材粒子や、さらには各種の機能性シート用の添加材粒子として最適な範囲にある。このように板状形状で、かつ100nm以下の微細な粒子径を同時に実現した酸化アルミニウム粒子はこれまでにはなく、従来実現が不可能と考えられてきた全く新しい用途をも切り開くものである。
【0152】
(4)酸化珪素粒子に関する例
〈実験例22〉
0.074モルのメタ珪酸ナトリウムと100mlの2−アミノエタノールを800mlの水に溶解し、アルカリ水溶液を作成した。このアルカリ水溶液とは別に、1N塩酸水溶液を400ml作製した。この珪酸酸ナトリウムとアミノエタノールを含むアルカリ水溶液に、塩酸水溶液を、縣濁液のpHが8.3になるまで滴下して、約25℃で水酸化珪素を含む沈殿物を作製した。この沈殿物を懸濁液の状態で20時間熟成させたのち、pHが7.6になるまで水洗した。
【0153】
次に、上澄み液を除去した後、この沈殿物の懸濁液を、オートクレーブに仕込み、200℃で2時間、水熱処理を施した。
【0154】
得られた水熱処理生成物を、ろ過し、90℃で空気中乾燥した後、乳鉢で軽く解砕し、空気中800℃で1時間の加熱処理を行って酸化珪素粒子とした。
【0155】
得られた酸化珪素粒子について、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、粒子径が30〜40nmの円形に近い板状の粒子であることがわかった。
【0156】
この酸化珪素粒子を、20万倍で撮影した透過電子顕微鏡写真を図15に示す。また、この酸化珪素粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表4にまとめて示す。
【0157】
〈実験例23〉
実験例22の酸化珪素粒子の合成方法において、水熱処理生成物の加熱処理温度を、800℃から600℃に変更した以外は、実験例22と同様にして、水酸化珪素を含有する沈殿物を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、酸化珪素粒子を作製した。
【0158】
この酸化珪素粒子について、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒子径が15〜25nmの円形に近い板状の粒子であった。この酸化珪素粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表4にまとめて示す。
【0159】
〈実験例24〉
実験例22の酸化珪素粒子の合成方法において、水熱処理生成物の加熱処理温度を、800℃から1000℃に変更した以外は、実験例22と同様にして、水酸化珪素を含有する沈殿物を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、酸化珪素粒子を作製した。
【0160】
この酸化珪素粒子について、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒子径が70〜100nmの円形に近い板状の粒子であった。この酸化珪素粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表4にまとめて示す。
【0161】
〈実験例25〉
実験例22の酸化珪素粒子の合成方法において、水熱処理を行った後、懸濁液の体積の500倍の水で洗浄した後、ろ過乾燥した。洗浄後のpHは、7.5であった。その後の加熱処理以降の工程は、実験例22と同様にして、酸化珪素粒子とした。
【0162】
得られた酸化珪素粒子について透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒径30〜40nmの円形に近い板状粒子であることがわかった。この酸化珪素粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表4にまとめて示す。
【0163】
〈実験例26〉
実験例22の酸化珪素粒子の合成方法において、空気中80℃で1時間加熱処理した後、さらに超音波分散機を使って水洗した以外は、実験例22と同様にして酸化珪素粒子を作製した。
【0164】
得られた酸化珪素粒子について、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒径30〜40nmの円形に近い板状粒子であることがわかった。この酸化珪素粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表4にまとめて示す。
【0165】
〈実験例27〉
実験例22の酸化珪素粒子の合成方法において、0.074モルのメタ珪酸ナトリウムと100mlの2−アミノエタノールを800mlの水に溶解したアルカリ水溶液に替えて、2−アミノエタノールを添加せずに、0.074モルのメタ珪酸ナトリウムのみを800mlの水に溶解したアルカリ水溶液を用いた以外は、実験例22と同様にして、1N塩酸水溶液を、メタ珪酸ナトリウム水溶液にpHが7.5になるまで滴下して、水酸化珪素を含む沈殿物を作製した。この沈殿物を懸濁液の状態で20時間熟成させたのち、水洗して、pHを7.6に調製した。
【0166】
次に、上澄み液を除去した後、この沈殿物の懸濁液を、オートクレーブに仕込み、200℃で2時間、水熱処理を施した。
【0167】
得られた酸化珪素粒子について、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、若干粒子径分布が広いが、粒子径が20〜30nmの円形に近い板状粒子であることがわかった。この酸化珪素粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表4にまとめて示す。
【0168】
〈比較例5〉
実験例22の酸化珪素粒子の合成方法において、水酸化珪素を含有する沈殿物を生成した後、水熱処理を行わなかった以外は、実験例22と同様にして、水酸化珪素を含有する沈殿物をそのまま水洗し、ろ過、乾燥した後、加熱処理して、酸化珪素粒子を作製した。
【0169】
得られた酸化珪素粒子について、透過電子顕微鏡で観察したところ、粒子径は1〜10μmと粒子径分布の極めて広い焼結体または凝集粒子であることがわかった。この酸化珪素粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表4にまとめて示す。なお透過電子顕微鏡写真から見積もった平均粒子径は、300個の粒子の平均粒子径から求めた。
【0170】
(透過電子顕微鏡観察結果)
図15は、実験例22で作製した酸化珪素粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。粒子径が30〜40nmの円形に近い板状の粒子であることがわかる。このように粒子径が極めて小さくて板状形状を有する酸化珪素粒子は、従来の方法では得ることが極めて困難であり、本発明の方法により初めて成功したものである。
【0171】
【表4】
【0172】
表4から明らかなように、上記実験例で得られた酸化珪素粒子は、X線回折スペクトルからは、結晶構造は非晶質であるが、いずれも形状は板状であり、このような形状の酸化珪素粒子は、本発明により初めて実現したものである。
【0173】
一方、比較例5の酸化珪素粒子は、焼結あるいは凝集のために粒子径が大きく、かつ粒子径分布も極めて広く、研磨材などの用途に適したものとは言えないものである。
【0174】
本発明の酸化珪素粒子の粒子径は、研磨シートや研磨液用の研磨材としてのみならず、磁気テープ用の添加剤やさらには各種の機能性シート用の添加剤粒子として最適な範囲にある。このように板状形状と言う特異な粒子形状を有し、かつ100nm以下の微細な粒子径を同時に実現した酸化珪素粒子はこれまでにはなく、従来実現が不可能と考えられてきた全く新しい用途をも切り開くものである。
【0175】
(5)酸化鉄粒子に関する例
〈実験例28〉
下記の2種類の水溶液を作製した。
・A液; 塩化第二鉄(FeCl3 ・6H2 O) 20g
水 500cc
・B液; 水酸化ナトリウム 30g
モノエタノールアミン 50cc
水 1000cc
【0176】
上記のA液およびB液を12℃に保持し、攪拌しながら、A液をB液中、約1時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間、攪拌した。このようにして得られた沈殿物を、室温で約20時間放置した後、純水で洗浄し、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを11.3に調整し、オートクレーブを用いて、150℃で1時間の水熱処理を施した。この処理により、板状のゲーサイト(αFeOOH)を得た。さらに、このゲーサイトに対してSiO2 換算で、1wt%になるように珪酸ナトリウム溶液を攪拌しながら添加し、塩酸によりpHを7.3に調整して、SiO2 による被覆処理を行った。ろ過・乾燥させた後、空気中、600℃で1時間加熱脱水した。この加熱処理により、板状のα酸化鉄(α−Fe2 O3 )粒子を得た。
【0177】
得られたα酸化鉄粒子は、平均粒子径が65nmの円板〜六角板状で、中央付近に直径約30nmの孔を有する板状粒子であった。また、X線回折スペクトルから、コランダム構造を有するアルファヘマタイトであることがわかった。
【0178】
この酸化鉄粒子の電子顕微鏡写真を図16に示す。また、この酸化鉄粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表5にまとめて示す。
【0179】
〈実験例29〉
実験例28において、酸化鉄粒子合成工程における、B液中にA液を滴下するときの、両液の保持温度を12℃から18℃に変更した以外は、実験例28と同様にして沈殿物を作製し、さらに水熱処理を行った。次に実験例と同様に加熱脱水処理を行い、平均粒子サイズが90nmの円板〜六角板状の、空孔を有する酸化鉄粒子を得た。この酸化鉄粒子は、X線回折スペクトルから、コランダム構造を有するアルファヘマタイトであることがわかった。
【0180】
この酸化鉄粒子の電子顕微鏡写真を図17に示す。また、この酸化鉄粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表5にまとめて示す。
【0181】
〈比較例6〉
実験例28において、酸化鉄粒子合成工程における、B液中にA液を滴下して沈殿物を作製した後、水熱処理を行うことなくSiO2 による被覆処理を行い、ろ過・乾燥させ、さらに空気中、600℃で1時間加熱脱水した。
【0182】
この加熱処理により得られた酸化鉄は、平均粒子径が60nmの粒状であり、実験例28、実験例29のような板状形状は得られなかった。この酸化鉄粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表5にまとめて示す。
【0183】
(透過電子顕微鏡観察結果)
図16、17は、それぞれ実験例28、29で作製した酸化鉄粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。図16に示されている実験例28の酸化鉄粒子は、平均粒子径が65nmの板状粒子であり、また図17に示されている実験例29の酸化鉄粒子は、平均粒子径が90nmの板状粒子であることがわかる。また、いずれの粒子も粒子内部に空孔を有している。これは水熱処理後に得られた板状のゲータイト粒子を加熱処理すると脱水により孔が生じるためである。板状の水酸化物粒子の加熱脱水により生じる孔の形状は微細なマイクロポアから本発明の板状酸化鉄粒子のように比較的サイズの大きい孔が生じるものなど、孔のサイズは物質によって異なる。しかし、このような孔が生じても本発明の板状粒子が有する研摩性などの特性を損なうものではないことは言うまでもない。
【0184】
【表5】
【0185】
表5から明らかなように、上記実験例で得られた酸化鉄粒子は、X線回折スペクトルからは、コランダム構造を有し、いずれも形状は板状である。このような形状の酸化鉄粒子は、本発明により初めて実現されたものである。
【0186】
一方、比較例6の酸化鉄粒子は、形状が粒状であり、本発明のような板状形状を示さない。本発明の酸化鉄粒子の粒子径は、研磨シートや研磨液用の研磨材としてのみならず、磁気テープ用の添加剤粒子や、さらには各種の機能性シート用の添加剤粒子として最適な範囲にある。このように板状形状で、かつ100nm以下の微細な粒子径を同時に実現した酸化鉄粒子はこれまでにはなく、従来実現が不可能と考えられてきた全く新しい用途をも切り開くものである。
【0187】
(6)研磨テープへの適用例
次に、研磨体の一つの例としての研磨テープに本発明の板状酸化物粒子を適用した例について説明する。なお、研磨テープは、フィルム状またはシート状の支持体の表面に研磨材を含んだ研磨層を形成した後、得られた積層体を所定幅のテープ状に裁断することにより作製されるもので、研磨シートや研磨フィルムとの相違点はテープ状である点のみである。したがって、本発明の板状酸化物粒子を研磨シートや研磨フィルムに適用した場合においても、以下の例と同様の結果が得られる。
【0188】
〈実験例30〜44、比較例7〜16〉
本発明の板状酸化物粒子及び比較例で示した酸化物粒子を用いて、以下の組成の研磨層用の塗布液を作製した。なお、この実験で使用した酸化物粒子は実験例1等に示した実験をスケールアップして作製したものである(以下同様)。以下の実験例および比較例において「部」は重量部を意味する。
【0189】
《研磨層形成用の塗布液成分》
・非磁性酸化物粒子 200部
・塩ビ−酢ビ共重合体 (UCC社製の「VAGH」) 30部
・ポリウレタン樹脂(東洋紡社製の「バイロンUR8300」) 25部
・メチルエチルケトン 150部
・トルエン 150部
・シクロヘキサノン 130部
【0190】
上記の塗布液成分を撹拌、混合したのち、サンドミルで分散させ、研磨層形成用の塗布液を調製した。この塗布液を、厚さが75μmのポリエチレンテレフタレ―トフィルムからなる支持体の片面に、カレンダ処理後の厚さが10μmとなるように、塗布し、乾燥した。カレンダで鏡面化処理したのち、所定幅に裁断して、研磨テープを作製した。
【0191】
表6に、作製した研磨テープの種類と、それらの研磨テープに使用した酸化物粒子の主要な特性を示す。
【0192】
【表6】
【0193】
表6中の「実験例/比較例」の欄において、右欄に実験例や比較例の記載があるものは、これらの実験例や比較例で得た酸化物粒子を使用したことを示す。また、表6において、比較例8、比較例10、比較例12、比較例14および比較例16の研磨テープは、それぞれ市販の酸化セリウム粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化珪素粒子および酸化鉄粒子を用いて、前述した研磨層形成用の塗布液と同一成分かつ同一方法により作製したものである。これらの酸化物粒子は、何れも微粒子と言われている市販の酸化物粒子であり、形状は球状、粒状ないしは立方状である。本発明の特徴である、粒子形状が板状である酸化物粒子を用いた研磨テープとの研磨性を比較するため、これらの酸化物粒子を用いて研磨テープを作製した。
【0194】
上記実験例および比較例に示した各研磨テープを用いて、下記の方法により、ガラスの傷つき試験を行い、その性能を評価した。結果は、表7に示す通りであった。
【0195】
(傷つき試験)
研磨テープの両端をガラス板上に固定し、表面に水を含ませた状態で、表面性測定機(新東科学社製の「HEIDON−14DR」)を用いて、摺動スピード3000mm/min 、摺動スケール20mm、荷重20gの条件で、直径5mmのガラス球(ニツカトー社製)を100回、往復摺動させる。その後、ガラス球の磨耗度合いを顕微鏡で観察し、5段階評価した。磨耗度合いにおいては、数字が大きいほど磨耗度合いが大きいことを示す。また、磨耗痕は、ガラス球表面を顕微鏡で観察し、4段階評価した。磨耗痕としては、表面に傷が5本以上ある場合を「×」、傷が3〜4本ある場合を「△」、傷が2本以下の場合を「○」、傷が発生しない場合を「◎」と評価した。
【0196】
【表7】
【0197】
表6および表7の結果から、同一種類の酸化物粒子で比較した場合、本発明の板状の酸化物粒子を用いた研磨テープと、比較例の水熱処理を行わずに熱処理を施した粒子を用いた研磨テープとでは、差異は歴然としている。即ち、本発明の板状粒子を用いた研磨テープは、適度な研磨性を維持しながら、傷つきが少ないバランスの良好なテープであるのに対して、比較例の粒子を用いた研磨テープでは、粒子径が大きい分、研磨性は高くなる反面、傷つき度合いが非常に大きく、研磨テープには向いていないことがわかる。
【0198】
また、同じ種類の酸化物で、微粒子と言われている市販の酸化物粒子を用いて研磨テープを作製した場合は、研磨性と傷つきのバランスの良好な研磨テープが得られる。しかし、本発明の、粒子径が10〜100nmの範囲にある、板状粒子を用いた研磨テープに比較すれば、市販の酸化物粒子を用いて作製した研磨シートは、総合的な特性において劣る。
【0199】
この原因は、市販の酸化物粒子が、粒状、球状あるいは立方状であるのに対して、本発明の粒子が板状であるためであると思われる。すなわち、本発明の板状粒子を用いた場合、板状粒子のエッジ部分を利用した研磨性に加えて、板面を利用した被研磨面との良好な接触性が得られる結果、上記のような優れた研磨能が得られたものと考えられる。
【0200】
本発明の酸化物粒子間の優劣を比較することは無意味であるが、研磨性のみから判断すれば、酸化アルミニウムと酸化ジルコニウムは比較的研摩性が高く、酸化セリウム、酸化鉄および酸化珪素の研摩性は比較的ゆるやかである。一方、傷つきの程度は、研磨性の逆になる傾向にある。したがって、用途に応じて酸化物粒子を選択することが重要であるが、どの酸化物粒子を使用する場合においても、上述したように従来の粒状、球状あるいは立方状の酸化物粒子を使用した場合に比較して、本発明の、粒子径が10〜100nmの範囲にある、板状の酸化物粒子を使用した研磨テープの方が総合的な特性において勝っている。
【0201】
上記実験例では、本発明の粒子の優れた研磨性を利用する例として、研磨シートに適用した例について説明したが、必ずしもシート状にする必要はなく、研磨液や研磨スラリーとしても使用できることは言うまでもない。即ち、本発明の非磁性酸化物粒子の、その特異な形状を利用することにより、最終形態に関係なく、研磨材粒子として優れた特性を発揮する。
【0202】
以上述べたように、本発明の、粒子径が10〜100nmの範囲にある、板状の酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化珪素および酸化鉄粒子を用いることにより、高い研磨能力を維持しながら、研磨傷の発生が少ないバランスの取れた研磨シートが得られることがわかる。
【0203】
(7)塗布型磁気記録媒体(磁気テープ)への適用例
次に、塗布型磁気記録媒体の一例としての塗布型磁気テープの添加剤に本発明の板状の酸化物粒子を適用した例について説明する。以下の実験例および参考例において「部」は重量部を意味する。
【0204】
〈実験例45〜49、参考例1〉
《下塗層用塗料成分》
(1)
・酸化物粒子(後述する表8参照) 76部
・カーボンブラック(平均粒径:25nm、吸油量:55g/cc) 24部
・ステアリン酸(潤滑剤) 2.0部
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 8.8部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン 4.4部
(含有−SO3 Na基:1.0×10-4当量/g)
・シクロヘキサノン 25部
・メチルエチルケトン 40部
・トルエン 10部
(2)
・ステアリン酸ブチル(潤滑剤) 1部
・シクロヘキサノン 70部
・メチルエチルケトン 50部
・トルエン 20部
(3)
・ポリイソシアネート(架橋剤) 2.0部
・シクロヘキサノン 10部
・メチルエチルケトン 15部
・トルエン
【0205】
《磁性層用塗料成分》
(1)
・強磁性鉄系金属粉 100部
〔Co/Fe:25wt%、
Y/Fe :9.3wt%、
Al/Fe:3.5wt%、
Ca/Fe:0wt%、
σs :155A・m2 /kg、
Hc:188.2kA/m、
pH:9.4、
平均長軸長:0.10μm〕
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 12.3部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン樹脂 5.5部
(含有−SO3 Na基:1.0×10-4当量/g)
・α−アルミナ(平均粒径:0.12m) 10.0部
・カーボンブラック 1.0部
(平均粒径:75nm、DBP吸油量:72cc/100g)
・メタルアシッドホスフェート 2部
・パルミチン酸アミド 1.5部
・ステアリン酸n−ブチル 1.0部
・テトラヒドロフラン 65部
・メチルエチルケトン 245部
・トルエン 85部
(2)
・ポリイソシアネート(架橋剤) 2.0部
・シクロヘキサノン 167部
【0206】
上記下塗層用塗料成分において(1)をニーダで混練したのち、(2)を加えて攪拌の後サンドミルで滞留時間を60分として分散処理を行い、これに(3)を加え攪拌・濾過した後、下塗層用塗料とした。これとは別に、上記の磁性層用塗料成分(1)をニーダで混練したのち、サンドミルで滞留時間を45分として分散し、これに磁性層用塗料成分(2)を加え攪拌・濾過後、磁性塗料とした。そして、ポリエチレンナフタレートフィルム(PEN、厚さ6.2μm、湿度膨張係数=5.6×10-6/%RH、熱膨張係数=(−7.4)×10-6/℃、MD=6.50GPa、MD/TD=0.54、帝人社製。ここで、MDはフィルム引き出し方向(長手方向)のヤング率、TDはフィルム引き出し方向と直交する方向(幅方向)のヤング率を示す。)からなる非磁性支持体上に上記の下塗層用塗料を、乾燥・カレンダ後の厚さが1.8μmとなるように塗布し、この下塗層上に、さらに上記の磁性塗料を磁場配向処理、乾燥、カレンダー処理後の磁性層の厚さが0.15μmとなるようにウエット・オン・ウエット方式で塗布し、磁場配向処理後、ドライヤを用いて乾燥し、磁気シートを得た。なお、磁場配向処理は、ドライヤ前にN−N対抗磁石(5kG)を設置し、ドライヤ内で塗膜の指蝕乾燥位置の手前側75cmからN−N対抗磁石(5kG)を2基50cm間隔で設置して行った。塗布速度は100m/分とした。
【0207】
《バックコート層用塗料成分》
・カーボンブラック(平均粒径:25nm) 80部
・カーボンブラック(平均粒径:370nm) 20部
・ニトロセルロース 44部
・ポリウレタン樹脂(SO3 Na基含有) 30部
・シクロヘキサノン 260部
・トルエン 260部
・メチルエチルケトン 525部
【0208】
上記バックコート層用塗料成分をサンドミルで滞留時間45分として分散した後、架橋剤であるポリイソシアネート13部を加えてバックコート層用塗料を調整し濾過した後、上記で作製した磁気シートの磁性層の反対面に、乾燥・カレンダ後の厚みが0.5μmとなるように塗布し、乾燥した。このようにして得られた磁気シートを金属ロールからなる7段カレンダで、温度100℃、線圧150×9.8N/cm(150kg/cm)の条件で鏡面化処理し、磁気シート(磁気テープ原反)をコアに巻いた状態で70℃で72時間エージングした。
【0209】
つぎに、スリッティングシステム用いて、上記磁気シート原反を裁断して1/2インチ幅の磁気テープとした。この磁気テープをリールに巻装してケース本体内に組み込むことにより、コンピュータ用の磁気テープカートリッジ(コンピュータテープ)を作製した。
【0210】
このようにして作製したコンピュータテープについて、再生出力特性やエラーレート、サーボ特性等などコンピュータテープとしての基本特性を評価したが、ここでは特にこれらの特性の中でサーボ特性に大きな影響を与えるオフトラック特性について評価した例について説明する。このオフトラック量は、下塗層に使用する非磁性粒子の特性に大いに左右されるため、下塗層用の非磁性粒子として、本発明の各種の板状酸化物粒子を用いた場合と、従来の針状のα−酸化鉄粒子を用いた場合とでオフトラック量を比較した。なお、この場合のオフトラック量は、以下の方法により測定した。
【0211】
(オフトラック量の測定)
オフトラック量は、改造したLTOドライブ(記録トラック幅:20.6μm、再生トラック幅:12μm)を用いて温度10℃、湿度10%RHで記録(記録波長0.55μm)を行い、温度10℃、湿度10%RHと温度29℃、湿度80%RHで再生した時の再生出力の比から求めた。なお、記録トラック幅を80μm、再生トラック幅を50μmとした場合にはオフトラックによる出力低下はほとんどなかった(1%以下)。
【0212】
下塗用塗料に使用する酸化物粒子として、本発明の板状の酸化物粒子を用いた場合と従来の針状のα−酸化鉄粒子を用いた場合とについて、磁気テープの状態でのオフトラック量を測定した結果を表8に示す。
【0213】
【表8】
【0214】
表8から明らかなように、下塗層用の非磁性酸化物粒子として、本発明の、粒子径が10〜100nmの範囲にあり、板状の形状を有する粒子を用いた場合には、従来の針状の酸化物粒子を用いた場合に比べてオフトラック量が少ない。
【0215】
一般に、オフトラックは、記録トラック幅が広い場合には、それほど問題にはならないが、記録トラックが狭くなると顕著になる。オフトラックが大きくなると、オフトラックエラーが発生し、正常なサーボを行うことができなくなる。このような問題は、磁気サーボ方式および光学サーボ方式の両者に共通して生じるものであるが、光学サーボ方式の方が、用いられる磁気ヘッドアレイ全体の質量が磁気サーボ方式のものに比べて大きいために一層顕著である。
【0216】
本発明の板状酸化物粒子を用いることにより、PES(位置ずれの標準偏差)が小さくなり、記録トラック幅が21μm以下と狭く、かつ温度変化があったときでもオフトラックが生じにくくなるので、エラーレートの低いサーボ特性に優れた磁気テープおよび磁気テープカートリッジが得られる。
【0217】
これは、粒子の形状が板状であるため、塗膜中で板面が塗布面に並行になるように並び易く、その結果テープの面内での弾性率の異方性が小さいためと考えられる。また同時に、粒子径が10〜100nmと小さく、かつ板状形状であるため、粒子の表面積が大きく、その結果、バインダーとより強固に結合するため、熱的および機械的変形の少ない優れた磁気テープが得られたためと考えられる。
【0218】
上記の実験例では、本発明の板状粒子を下塗層に使用した例について説明したが、下塗層に限定されるものではなく、磁性層やバックコートに添加しても効果を発揮できることは言うまでもない。即ち、従来のこれらの非磁性酸化物粒子は、粒状、板状針状あるいは立方状であったの対して、本発明の非磁性酸化物粒子は、その最大の特徴である板状形状を利用して、磁気テープに使用した場合には、温湿度に対する変形や、機械的変形の極めて少ない高密度記録に最適な磁気テープが得られる。
【0219】
さらに、磁気テープの磁性層に添加する場合には、上述した熱的、機械的変形の少ないテープが得られるのみならず、研磨テープの実験例で述べたように、研磨材としての作用がある。この研磨材としての作用は、磁性層が薄くなるほど効果を発揮する。即ち、磁性層厚さが0.1μm以下と薄くなると、これまで添加剤として使用されてきた粒状あるいは球状の粒子では、磁性層表面が突出し、磁性層の表面平滑性を劣化させる。一方、本発明の非磁性酸化物粒子は、粒子径が10〜100μmの板状形状を有していることから、磁性層表面から粒子が突出することがないか、又はあったとしても突出の程度および量は従来のものと比べるとはるかに少なくなる。したがって、研磨性を維持した状態で、優れた表面平滑性が得られる。
【0220】
(8)研磨液への適用例
次に、研磨液に本発明の板状の酸化物粒子を適用した例について説明する。
【0221】
〈実験例50〉
研磨粒子として、先の実験例1で作製した酸化セリウム粒子を使用し、以下のようにしてスラリー状の研磨液を作製した。
【0222】
純水300ccに、ポリアクリル酸アンモニウム塩3gを添加して溶解した。この水溶液に、上記の方法で作製した板状の酸化セリウム粒子を24g添加し、ホモミキサーを用いて、回転数3000rpmで1時間分散させた。得られたスラリーの研磨液は極めて安定で、1日放置した後も、ほとんど沈殿物は生成しなかった。
【0223】
〈実験例51〉
研磨粒子として、先の実験例22で作製した酸化珪素粒子を使用し、以下のようにしてスラリー状の研磨液を作製した。
【0224】
実験例50と同様に、300ccの純水に、ポリアクリル酸アンモニウム塩3gを溶解した水溶液に、上記酸化珪素粒子を24g添加し、実験例50と同様にしてスラリー状の研磨液を作製した。このスラリー状の研磨液は極めて安定で、1日放置した後も、ほとんど沈殿物は生成しなかった。
【0225】
〈実験例52〉
研磨粒子として、先の実験例8で作製した酸化ジルコニウム粒子を使用し、以下のようにしてスラリー状の研磨液を作製した。
【0226】
実験例50と同様に、300ccの純水に、ポリアクリル酸アンモニウム塩3gを溶解した水溶液に、上記酸化ジルコニウム粒子を24g添加し、実験例50と同様にしてスラリー状の研磨液を作製した。このスラリーの研磨液は極めて安定で、1日放置した後も、ほとんど沈殿物は生成しなかった。
【0227】
〈実験例53〉
研磨粒子として、先の実験例15で作製した酸化アルミニウム粒子を使用し、以下のようにしてスラリー状の研磨液を作製した。
【0228】
実験例50と同様に、300ccの純水に、ポリアクリル酸アンモニウム塩3gを溶解した水溶液に、上記酸化アルミニウム粒子を24g添加し、実験例50と同様にしてスラリー状の研磨液を作製した。このスラリー状の研磨液は極めて安定で、1日放置した後も、ほとんど沈殿物は生成しなかった。
【0229】
〈実験例54〉
実験例50における酸化セリウム粒子の代りに、以下の方法で作製した板状のアルファー酸化鉄粒子を使用した。
【0230】
《板状アルファー酸化鉄粒子の作製》
0.75モルの水酸化ナトリウムと100mlの2−アミノエタノールを800mlの水に溶解し、アルカリ水溶液を作製した。このアルカリ水溶液とは別に、0.074モルの塩化第二鉄(III)六水和物を400mlの水に溶解して塩化第二鉄水溶液を作製した。このアルカリ水溶液と塩化第二鉄水溶液を5℃に冷却した。前者のアルカリ水溶液に後者の塩化第二鉄水溶液を滴下した。この滴下による反応熱により液の温度は上昇するが、8℃以上に上昇しないように冷却しながら滴下し、水酸化第二鉄を含む沈殿物を作製した。このときのpHは11.3であった。この沈殿物を懸濁液の状態で20時間熟成させたのち、pHが7.5になるまで水洗した。
【0231】
次に、上澄み液を除去した後、この沈殿物の懸濁液を、オートクレーブに仕込み、150℃で2時間、水熱処理を施した。
【0232】
水熱処理生成物を、ろ過し、90℃で空気中乾燥した後、乳鉢で軽く解砕し、空気中600℃で1時間の加熱処理を行ってアルファー酸化鉄粒子とした。加熱処理後、未反応物や残存物を除去するために、さらに超音波分散機を使って水洗し、ろ過乾燥した。
【0233】
得られたアルファー酸化鉄粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、アルファーヘマタイト構造のスペクトルが明瞭に観測された。さらに、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、粒子径が30〜40nmの六角板状の粒子であることがわかった。
【0234】
《スラリー状の研磨液の作製》
実験例50と同様に、300ccの純水に、ポリアクリル酸アンモニウム塩3gを溶解した水溶液に、上記の方法で作製した板状のアルファー酸化鉄粒子を24g添加し、実験例50と同様にしてスラリー状の研磨液を作製した。このスラリー状の研磨液は極めて安定で、1日放置した後も、ほとんど沈殿物は生成しなかった。
【0235】
〈比較例17〉
《研磨粒子として使用した酸化セリウム粒子》
実験例50で使用した酸化セリウム粒子(実験例1で作製されたもの)の代りに、セリウム塩として炭酸セリウムを使用し、このセリウム塩を空気中600℃で加熱酸化することにより、酸化セリウム粒子を作製した。この酸化セリウム粒子は、粒子径がサブミクロンの粗大粒子からなるものであったため、さらに水媒体中でボールミル粉砕して微粒子化した。粉砕後の酸化セリウム粒子は、粒子径が0.1μmの微細粉から1次粒子の凝集体と思える粒子径が1μmの粒子から構成されていた。この酸化セリウム粒子の形状は、塊状の不定形であった。
【0236】
《スラリー状の研磨液の作製》
実験例50と同様に、300ccの純水に、ポリアクリル酸アンモニウム塩3gを溶解した水溶液に、上記の酸化セリウム粒子を24g添加し、実験例50と同様にしてスラリー状の研磨液を作製した。このスラリー状の研磨液は不安定で、分散後放置すると、短時間で沈降し始め、容器の底に酸化セリウム粒子が堆積した。
【0237】
〈比較例18〉
《研磨粒子として使用した酸化珪素粒子》
市販のコロイダルシリカ粒子を使用した。透過電子顕微鏡で観察すると、このコロイダルシリカ粒子の形状は、ほぼ球状で、その粒子径は、10nmから100nmの範囲にわたって分布していた。
【0238】
《スラリー状の研磨液の作製》
実験例50と同様に、300ccの純水に、ポリアクリル酸アンモニウム塩3gを溶解した水溶液に、上記のコロイダルシリカ粒子を24g添加し、実験例50と同様にしてスラリー状の研磨液を作製した。このスラリー状の研磨液はかなり安定で、1日放置すると、僅かに沈殿物が生成する程度であった。
【0239】
〈比較例19〉
《研磨粒子として使用した酸化ジルコニウム粒子》
比較例2の酸化ジルコニウム粒子を使用した。すなわち、実験例8の酸化ジルコニウム粒子の合成方法において、水酸化ジルコニウムを含有する沈殿物を生成した後、水熱処理を行うことなく、実験例8と同様にして、水酸化ジルコニウムを含有する沈殿物をそのまま水洗し、ろ過、乾燥し、さらに、実験例8と同様に加熱処理して、酸化ジルコニウム粒子を作製した。
【0240】
この酸化ジルコニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、酸化ジルコニウムに対応するピークが観察されたが、透過電子顕微鏡で形状を観察したところ、微細な粒子から、焼結あるいは凝集による粗大粒子まで、その粒子径分布は非常に広いことがわかった。
【0241】
そこで、この酸化ジルコニウム粒子を微粒子化するために、さらに水媒体中でボールミル粉砕した。粉砕後の酸化ジルコニウム粒子は、粒子径が0.1μmから1μmと広い範囲に分布していた。またこの酸化ジルコニウム粒子の形状は、塊状の不定形であった。
【0242】
《スラリー状の研磨液の作製》
実験例50と同様に、300ccの純水に、ポリアクリル酸アンモニウム塩3gを溶解した水溶液に、上記の酸化ジルコニウム粒子を24g添加し、実験例50と同様にしてスラリー状の研磨液を作製した。このスラリー状の研磨液は不安定で、分散後放置すると、短時間で沈降し始め、容器の底に酸化ジルコニウム粒子が堆積した。
【0243】
〈比較例20〉
《研磨粒子として使用した酸化アルミニウム粒子》
比較例4の酸化アルミニウム粒子を使用した。すなわち、実験例15の酸化アルミニウム粒子の合成方法において、水酸化アルミニウムを含有する沈殿物を実験例15と同じ条件で生成し、約1000倍の水で水洗した後、水熱処理を施すこと無しに、ろ過し、90℃で空気中乾燥した。その後、乳鉢で軽く解砕し、実験例15と同様に、空気中600℃で1時間の加熱処理を行って酸化アルミニウム粒子とした。加熱処理後、未反応物や残存物を除去するために、さらに超音波分散機を使って水洗し、ろ過乾燥した。
【0244】
この酸化アルミニウム粒子を、さらに水媒体中でボールミル粉砕した。粉砕後の酸化アルミニウム粒子についてX線回折スペクトルを測定したところ、γ−アルミナに対応するスペクトルが観測された。透過電子顕微鏡で観察したところ、粒子径は20nm程度の微粒子から1μmの焼結ないしは1次粒子の凝集体と思える粒子まで、粒子径分布は広く、また粒子形状も粒状ないしは塊状の不定形であった。
【0245】
《スラリー状の研磨液の作製》
実験例53と同様に、300ccの純水に、ポリアクリル酸アンモニウム塩3gを溶解した水溶液に、上記の酸化アルミニウム粒子を24g添加し、実験例53と同様にしてスラリー状の研磨液を作製した。このスラリー状の研磨液は不安定で、分散後放置すると、短時間で沈降し始め、容器の底に酸化アルミニウム粒子が堆積した。
【0246】
〈比較例21〉
《研磨粒子として使用したアルファー酸化鉄粒子》
市販のアルファー酸化鉄粒子を使用した。このアルファー酸化鉄粒子は、磁気テープなどの添加する研磨粒子用に市販されているもので、透過電子顕微鏡で観察した形状は、球状ないしは粒状で、その粒子径は、0.2μm〜0.3μmと、粒子径分布はシャープであった。
【0247】
《スラリー状研磨材の作製》
実験例50と同様に、300ccの純水に、ポリアクリル酸アンモニウム塩3gを溶解した水溶液に、上記のアルファー酸化鉄粒子を24g添加し、実験例50と同様にしてスラリー状の研磨液を作製した。このスラリー状の研磨液は比較的安定で、数時間放置した状態では、沈殿物の生成は少なかった。
【0248】
〈実験例55〉
《使用した研磨粒子》
実験例50で使用した酸化セリウム粒子と比較例18で使用したコロイダルシリカを混合使用した。混合割合は、重量比で酸化セリウム粒子を70%、コロイダルシリカを30%とした。
【0249】
《スラリー状の研磨液の作製》
実験例50と同様に、300ccの純水に、ポリアクリル酸アンモニウム塩3gを溶解した水溶液に、上記の酸化セリウム粒子を16.8g、コロイダルシリカを7.2g添加し、実験例50と同様にしてスラリー状の研磨液を作製した。このスラリー状の研磨液は極めて安定で、1日放置しても、沈殿物はほとんど生成しなかった。
【0250】
(評価)
厚み10mmのガラス板上にウレタン樹脂製の多孔質研磨パッドを貼り付けた。このパッド上に上記の実験例および比較例で作製したスラリー状の研磨液を、10cc/分の速度で滴下しながら、表面性測定機(新東科学社製の「HEIDON−14DR」)を用いて、回転速度30回/分、荷重20gの条件で、直径6.25mmのガラス球を2分間回転させた。その後、ガラス球の磨耗度合いと、ガラス球表面の磨耗痕を顕微鏡で観察し、「×」、「△」、「○」、「◎」の4段階評価した。磨耗度合いは、「×」はほとんど磨耗していない状態、「◎」は顕著に磨耗している状態、「△」と「○」はその中間状態で、「○」の方が磨耗度合いが大きいことを示す。また磨耗痕としては、表面にキズが5本以上ある場合を「×」、キズが3〜4本ある場合を「△」、キズが2本以下の場合を「○」、キズが発生しない場合を「◎」と評価した。研磨性の評価結果を表9にまとめて示す。
【0251】
【表9】
【0252】
表9の結果から、上記実験例のスラリー状の研磨液は、スラリーの安定性が極めて良好であることがわかる。これは粒子径が数十nmと小さいだけでなく、焼結、凝集がほとんどない極めて分散性に優れた研磨粒子であるためである。また研磨性に関しては、粒子径が小さいにもかかわらず良好である。これは粒子形状を板状にすることにより、エッジ部分が増加し、その結果として研磨力が向上したためと考えられる。研磨力が若干低いものもあるが、回転数や荷重等の研磨条件を、その研磨液に最適な条件に合わせれば、さらに研磨力は向上すると考えられる。
【0253】
また、研磨による磨耗痕は、いずれの実験例の研磨液においても発生していない。これは粒子径が数十nmと極めて微細であるに加えて、粒子径分布がシャープなため、従来の研磨材のように微細粒子に混じって存在する粗大粒子による磨耗痕が生じないためである。
【0254】
一方、比較例の研磨液においては、コロイダルシリカを使用した比較例18の研磨液は、研磨力、磨耗痕ともに比較的良好で、バランスの取れた研磨液であるが、材質的に同じ酸化珪素である実験例51の研磨液に比べると、総合的に劣る。
【0255】
また、アルファー酸化鉄粒子を用いた比較例21の研磨液も、比較的バランスの取れた研磨液であると考えられるが、酸化鉄そのものの硬度が本質的に低いため、これ以上の研磨力は望めない。一方、本発明の実験例54のアルファー酸化鉄粒子を用いた研磨液は、研磨粒子の形状を板状にすることによるエッジ部分により、比較例21の研磨液に比べて、研磨力、磨耗痕ともに大幅に向上している。
【0256】
比較例17の酸化セリウム粒子を用いた研磨液では、研磨性は比較的バランスが取れているが、研磨液としては全体的に満足できるものではない。一方、同じ酸化セリウム粒子を用いた本発明の実験例50の研磨液では、研磨力、磨耗痕ともに大幅に向上しており、スラリー状の研磨液として、板状酸化セリウム粒子は、特に適していることがわかる。
【0257】
酸化ジルコニウム粒子を用いた比較例19と酸化アルミニウム粒子を用いた比較例20の研磨液では、研磨力は大きいものの、著しく磨耗痕が発生する。これは酸化ジルコニウムと酸化アルミニウムは本質的に硬度が高く研磨力が大きい上に、比較例の酸化ジルコニウム粒子と酸化アルミニウム粒子では、混在する粗大粒子のために、著しい磨耗痕が発生したものと考えられる。一方、本発明に係る板状酸化ジルコニウム粒子を用いた実験例52と、板状酸化アルミニウム粒子を用いた実験例53の研磨液では、粒子形状が板状であり、極めて粒子径が小さく、かつ粒子径分布を極めてシャープなため、磨耗痕が発生することなく、優れた研磨力を発揮することができる。
【0258】
さらに実験例55に示すように、本発明の板状粒子と汎用の研磨粒子とを混合使用することにより、各種の被研磨体に対してきめ細かく対応できるようになる。
【0259】
(9)その他の用途例
以上の例では、本発明の非磁性板状粒子を研磨テープ、磁気テープおよび研磨液にそれぞれ適用した場合について説明した。本発明の酸化物粒子は、これらの用途のみならず、反射防止膜や、紫外線、赤外線カット膜など、各種の機能性光学フィルムにも適用できる。即ち、非磁性板状粒子(特に酸化物粒子)は、板状形状のため、粒子が板面をフィルム面に平行になるように並び易くなり、その結果、光の透過性が良好になる。光が非磁性板状粒子中を透過するときに、光と非磁性板状粒子の相互作用により、非磁性板状粒子が本来有する特性を発揮する。
【0260】
例えば、低屈折率の酸化珪素粒子と、高屈折率の酸化ジルコニウム粒子や酸化セリウム粒子とを積層すると、従来の粒状あるいは球状酸化物粒子では得られない、極めて透明性の高い高性能の反射防止膜が得られる。また、酸化鉄粒子を用いると透過性の良好な紫外線カットフィルムが得られる。さらに、酸化ジルコニウム粒子や酸化セリウム粒子は、高屈折率材料であるが、板状形状を利用して高充填塗膜とすると、塗膜であるにもかかわらず、スパッタ膜などの薄膜に匹敵する、極めて高い屈折率を有する透明塗膜が得られる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば研磨シート、研磨テープ、研磨フィルム、研磨具等の研磨体や研磨液などの研磨材として、また各種の塗布型磁気記録媒体の添加剤として、さらに光学フィルムなどの各種の機能性フィルム用の添加剤に適した、粒子の形状が新規な板状の非磁性粒子とその製造方法、およびその応用に関する。さらに詳しくは、新規な粒子形状と粒子径を有する酸化ジルコニウムからなる非磁性酸化物粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化セリウム粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化珪素粒子、酸化鉄粒子などの非磁性酸化物粒子は、研磨シート等の研磨体や研磨液などの研磨材として、また各種の塗布型磁気記録媒体の添加剤として広範囲の用途で使用されている。酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化珪素はモース硬度が高いので、高い研磨速度を要する用途に、また酸化鉄は比較的モース硬度が低いため、ソフト研磨を要する用途に向いている。これらの非磁性酸化物粒子の製造法としては、各種の方法が知られている。
【0003】
(1)酸化セリウム:
酸化セリウムにおいては、一般的には、焼成法で作製した酸化セリウムをボールミル等で粉砕することにより微粒子化する方法(粉砕法)が採られている。しかし、この方法で作製した酸化セリウム粒子は粒子サイズ分布が広く、さらに機械的に粉砕するため、粒子サイズとしては、サブミクロンサイズが限界で、さらに微粒子化することは困難である。
【0004】
一方、炭酸セリウムのようなセリウム塩を空気中加熱酸化して、酸化セリウム粒子とする方法も知られている。この方法は、粉砕法に比べて微粒子化しやすいという特長があるが、粒子間焼結が生じやすく、特に研磨液に使用する場合、粒子を均一分散することが困難であるという問題がある。
【0005】
例えば特許文献1や特許文献2では、炭酸セリウムを空気中加熱して酸化セリウムとした後、機械的に粉砕して微粒子化している。前者の特許文献1においては、ボールミル粉砕しており、得られた粒子は、1次粒子径が200nmであると記載されている。またボールミル粉砕する前の形状は、球状であることが記載されている。一方、後者の特許文献2においては、微粒子化するために、焼成後ジェットミル粉砕しており、1次粒子径と同等サイズの小さな粒子の他に、1μmから3μmと0.5μmから1μmの大きさの粉砕残り粒子が混在していることが記載されている。
【0006】
特許文献3には、炭酸セリウムを原料に用い、この炭酸セリウムをあらかじめボールミル粉砕したのち、空気中熱処理して酸化セリウム粒子にする方法が記載されている。この方法では、本文中にも記載されているように、1次粒子径は20nmであるが、0.2μm〜0.3μmの2次粒子から構成されている。また、粒子の形状については、詳細は記載されていないが、例えば特許文献4には、アスペクト比が1以上2以下と記載されている。しかし、これは、板状というより、塊状あるいは粒状に近い形状であると考えられる。
【0007】
以上のように、従来の製法は、基本的には微粒子化するために機械的な粉砕を採用していることから、特定の粒子形状のものを得ることはできず、また粒子径分布のシャープなものを得ることも困難であった。さらに、機械的に衝撃が加わることにより、酸化セリウム粒子に歪みが入りやすく、結晶性が低下する問題がある。この結晶性は、研磨材として使用する上で極めて重要で、X線回折などにより、酸化セリウムにもとづくスペクトルを示すものであっても、研磨材としての結晶性という面では、これまで満足のいくものがなかった。
【0008】
また酸化セリウム粒子は、その製造法にもよるが、一般に元々原材料に含まれるセリウム以外の元素がセリウムと同時に存在しやすい。つまり、高純度の酸化セリウムを得にくい問題があった。この純度は、酸化セリウム粒子を化学研磨液などに使用する場合には、特に問題となる。
【0009】
(2)酸化ジルコニウム:
酸化ジルコニウムにおいては、研磨シートや研磨液などの研磨材として使用されているが、研磨材用の酸化ジルコニウムは酸化ジルコニウムのインゴットを粉砕して微粒子としたものが多い。機械的な手段で微粒子にする場合、その微粒子化にも限界があり、例えば、特許文献5には、酸化ジルコニウム粒子を使って、シリコンの表面を研磨した例が記載されているが、使用されている酸化ジルコニウム粒子の粒子径は、7.0μmである。
【0010】
特許文献6には、シリカ、アルミナ、ジルコニアなどの無機粒子と、重合体粒子の混合粒子を用いた水分散体の例が示されており、本文中には、無機粒子の平均粒子径の好ましい範囲として、0.12〜0.8μmが示されている。
【0011】
従来酸化ジルコニウム粒子は、研磨材単体として用いられることは少なく、酸化アルミニウムや酸化珪素粒子などの他の研磨材粒子と併用されることが多い。これは、粒子径や粒子形状において、これまでに満足のいく酸化ジルコニウム粒子が存在しなかったことが理由と考えられる。
【0012】
(3)酸化アルミニウム:
酸化アルミニウムは、研磨シートや研磨液などの研磨材として汎用されている。酸化アルミニウム粒子の製造法としては、各種の方法が知られている。一般的には、焼成法で作製した酸化アルミニウムをボールミル等で粉砕することにより微粒子化されている。しかしこの方法で作製した酸化アルミニウム粒子は粒子サイズ分布が広く、さらに機械的に粉砕するため、粒子サイズとしては、サブミクロンサイズが限界で、さらに微粒子化することは困難である。
【0013】
中和反応により水酸化アルミニウムの沈殿物を作り、この水酸化アルミニウムを空気中加熱処理すると、酸化アルミニウム粒子を得ることができる。しかし、この方法では、粒子径の小さい酸化アルミニウム粒子を得ることはできるが、粒子形状が粒状の不定形であり、研磨材として使用する上で、十分な研磨能が得られない。さらに粒子間凝集による2次粒子が生じやすく、特に研磨液などに使用する場合、均一な分散液とするために、大きなエネルギーと極めて長時間の分散が必要であるという問題がある。例えば特許文献7には、焼成法で作製された平板状アルミナを、非金属媒体を用いて長時間微粉砕し、凝集を破壊することが示されている。この方法では、粉砕により微粒子化するため、微粒子化に限界があり、かつ本質的に粒子径分布が広くなる。
【0014】
一方、水熱合成法を利用した板状アルミナの製造法が古くから知られている。例えば特許文献8や特許文献9には、板状アルミナが得られることが記載されている。しかし、得られる板状アルミナの粒子径は、数ミクロンから数百ミクロンであり、粒子の微細化の点で問題がある。
【0015】
一方、あらかじめ大きさをサブミクロンオーダーに調整した水酸化アルミニウムを水やアルカリ水溶液中、350℃以上の高温下で水熱処理を行い、サブミクロンオーダーの板状酸化アルミニウムとする製造方法が知られている(例えば、特許文献10、特許文献11)。この方法では、結晶性に優れた板状酸化アルミニウムが得られやすい水熱反応を利用して、水酸化アルミニウムを酸化アルミニウムに結晶変態させる。そのため、高温での反応になり、高圧に耐える特殊な反応容器が必要となる。さらにこの方法は、高温下での水熱反応を利用するものであるため、サブミクロンサイズの粒子径の大きい酸化アルミニウム粒子を製造するには適しているが、100nm以下の微細な酸化アルミニウム粒子を製造するには適していないと考えられる。
【0016】
以上のように、これまで仕上げ研磨用シートや研磨液用の研磨材として使用するために、結晶性が良好でかつ粒子径分布がシャープな粒子径100nm以下の微粒子状の酸化アルミニウムが要求されてきたにもかかわらず、このような要求を満たす酸化アルミニウム粒子は、これまで開発されていなかった。
【0017】
(4)酸化珪素:
酸化珪素も研磨シートや研磨液などの研磨材としてよく知られた材料である。例えばヒュームドシリカやコロイダルシリカは既に各社から商品化されている汎用製品である。これらの酸化珪素粒子を用いた研磨シートや研磨液に関しては、膨大な数の特許出願がなされている。
【0018】
例えば特許文献12や特許文献13は、数十nmサイズのコロイダルシリカ粒子を研磨材に用いた研磨シートに関するもので、そこには光コネクタフェルールの端面研磨の用途に特に有効であることが記載されている。特許文献14には、10〜100nmのコロイダルシリカを研磨材に使用して、シリコンウエハーを研磨することが記載されている。特許文献15にも、特定の形状を有するコロイダルシリカを用いて半導体ウエハーを研磨することが記載されている。さらに、特許文献16には、数十nmサイズのコロイダルシリカを研磨材として用いたコロイダルシリカスラリーが金属表面の研磨にも有効であることが記載されている。
【0019】
このように酸化珪素粒子が研磨材として有効であることは、すでに公知であり、その粒子形状としては、球状又はできるだけ球状に近い形状のものが有効であることが、上記公知例の中にも記載されている。
【0020】
一方、被研磨体の種類は年々多くなっており、さらにそれらの被研磨体に要求される研磨仕様も年々多様化している。これらの各種の研磨仕様の要求に応えるために、例えば酸化珪素粒子においては、粒子そのものより、研磨シートでは、その組成や表面構造を、研磨用スラリーでは、その液組成に工夫を凝らすことにより対応しているのが現状である。しかしながら、形状が球状で、粒子径が数十nmの酸化珪素粒子を使用する限り、その対応にも限界があり、既に特殊な用途の研磨には対応が困難になりつつある。
【0021】
(5)酸化鉄:
酸化鉄においては、本発明者らは、粒子の形状が板状であると同時に、粒子の厚さ方向に孔を有する新規な形状の粒子を開発した。粒子の中央付近に孔のあいた板状の酸化鉄粒子は、特許文献17、特許文献18において公知であり、そこでは盤状ゲータイト(ゲーサイトともいう)粒子を加熱、脱水、還元して、孔のあいた板状マグネタイト粒子とした後、コバルトで変性して、磁気記録用の磁性粉末としての用途が提案されている。
【0022】
また、特許文献19には、盤状のゲータイト粒子を出発原料とした環状の酸化物粉末が記載されており、用途として磁性粉末等の電子材料や、塗料補強用剤等の顔料、複合材料用等の補強剤、医療材料等としての利用が提案されている。この例では、塩化鉄水溶液を、水酸化ナトリウムおよびアルキルアミンを加えた水溶液に対して滴下して水酸化鉄を沈殿させ、熟成、洗浄、pHを調整後、水熱処理を施し、盤状のゲーサイトを得ている。この盤状のゲーサイトを加熱脱水することにより、中央に孔のあいた環状のヘマタイト粒子や、マグネタイト粒子、ガンマ酸化鉄粒子などの磁性粉末を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開平10−106990号公報
【特許文献2】特開平11−181405号公報
【特許文献3】特開平09−027042号公報
【特許文献4】特開平10−102039号公報
【特許文献5】特開平08−113773号公報
【特許文献6】特開2000−204353号公報
【特許文献7】特開平07−315833号公報
【特許文献8】特公昭37−007750号公報
【特許文献9】特公昭39−013465号公報
【特許文献10】特開平05−017132号公報
【特許文献11】特開平06−316413号公報
【特許文献12】特開平08−336758号公報
【特許文献13】特開平09−248771号公報
【特許文献14】特開平08−267356号公報
【特許文献15】特開平07−221059号公報
【特許文献16】特開平06−313164号公報
【特許文献17】特開昭61−266311号公報
【特許文献18】特開昭61−266313号公報
【特許文献19】特公平03−021489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、上記の事情に照らし、研磨シート等の研磨体や研磨液(スラリー状研磨材)などの研磨材粒子として、また各種の塗布型磁気記録媒体用の添加材粒子として、さらには各種の機能性光学フィルム用の添加材粒子として、特に適した特定の粒子径と粒子形状を有する非磁性酸化物である酸化ジルコニウム粒子と、その製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、上記の目的を達成するため、鋭意検討した結果、従来の非磁性酸化物粒子の製造方法とは全く異なる、新規な製造方法を完成した。その結果、これまでの製造方法では不可能であった、粒子の形状が六角板状で、かつ粒子径が10nmから100nmの範囲にある酸化ジルコニウムからなる非磁性酸化物粒子の開発に成功したものである。
【0026】
すなわち、本発明の非磁性板状粒子は、粒子の形状が六角板状で、かつ粒子径が10nmから100nmの範囲にあることを特徴とするもので、具体的には粒子の形状が六角板状で、かつ粒子径が10nmから100nmの範囲にある酸化ジルコニウム粒子を挙げることができる。また、本発明方法は、アルカリ水溶液にジルコニウム塩の水溶液を添加し、得られたジルコニウムの水酸化物あるいは水和物を、水の存在下で110〜300℃の温度範囲で加熱処理し、ろ過、乾燥後、さらに空気中300〜1200℃の温度範囲で加熱処理することにより、上記の特異な形状と粒子径を有する酸化ジルコニウム粒子を製造するものである。
【0027】
本発明方法では、出発原料としてジルコニウムの塩化物や硝酸塩などの高純度のジルコニウム塩を用いるため、生成物中に、研磨性に悪影響をおよぼすような元素をほとんど含有しない。また出発物質中に含まれる塩素や硝酸は加熱処理後に飛散して排除されるため、最終的な酸化ジルコニウム粒子中にはほとんど残らず、極めて高純度の非磁性酸化物粒子が得られる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明方法によれば、これまでの製造方法では不可能であった、粒子の形状が六角板状で、かつ粒子の板面方向の粒子径が10nmから100nmの範囲にある酸化ジルコニウムからなる非磁性板状粒子が得られる。このようにして得られる本発明の非磁性板状粒子は、粒子径分布が均一で、焼結、凝集が極めて少なく、良好な結晶性を有する。このような本発明の非磁性板状粒子を、例えば研磨テープ、研磨シート、研磨フィルムおよび研磨具等の研磨体、磁気テープや各種の機能性光学フィルムなどに適用すると、従来の酸化物粒子を使用した同種のものに比べて、その特性が大幅に向上する。このように本発明の非磁性板状粒子は、従来実現が不可能であった全く新規な用途をも開拓するものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実験例1で得られた酸化セリウム粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図2】実験例1で得られた酸化セリウム粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図3】実験例2で得られた酸化セリウム粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図4】実験例3で得られた酸化セリウム粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図5】実験例8で得られた酸化ジルコニウム粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図6】実験例8で得られた酸化ジルコニウム粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図7】実験例9で得られた酸化ジルコニウム粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図8】実験例15で得られた酸化アルミニウム粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図9】実験例15で得られた酸化アルミニウム粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図10】実験例16で得られた酸化アルミニウム粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図11】実験例17で得られた酸化アルミニウム粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図12】実験例18で得られた酸化アルミニウム粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図13】実験例20で得られた酸化アルミニウム粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図14】実験例20で得られた酸化アルミニウム粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図15】実験例22で得られた酸化珪素粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図16】実験例28で得られた酸化鉄粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図17】実験例29で得られた酸化鉄粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明方法は、まず第一工程として、アルカリ水溶液にジルコニウム塩の水溶液を添加し、得られたジルコニウムの水酸化物あるいは水和物を、水の存在下で110〜300℃の温度範囲で加熱処理することにより、目的とする形状、粒子径に整え、その後第二工程として、このジルコニウムの水酸化物あるいは水和物を空気中加熱処理することにより、粒子径分布が均一で、焼結、凝集が極めて少ない酸化ジルコニウム粒子を得るものである。
【0031】
また、上記方法において、第一工程と第二工程の間で、ジルコニウムの水酸化物あるいは水和物の熟成工程を加えれば、より粒径が均一でかつ板状性に優れた粒子を得ることができる。
【0032】
このように非磁性酸化物粒子の製造において、形状、粒子径を整えることを目的とする工程と、その材料が本来有する物性を最大限に引き出すことを目的とする工程とを分離するという、全く新規な発想により、これまでの製造方法では不可能であった、粒子の形状が板状で、かつ平均粒子径が、10nmから100nmの範囲にある酸化ジルコニウム粒子の開発に成功したものである。ここで、板状とは、板状比(最大径/厚さ)が1を超えるものをいい、板状比が2を超え、100以下が好ましい。さらに、3以上50以下がより好ましく、5以上30以下がさらに好ましい。前記の範囲が好ましいのは、板状比が2以下では例えば研磨シートとした時に、粒子が塗布面から立ち上がるものが存在し、被研磨体を傷つける場合があり、100を超えると、研磨時に粒子が破壊されて被研磨体を傷つける場合があるためである。
【0033】
このような工程により製造した本発明の酸化ジルコニウムからなる非磁性板状粒子は、粒子の焼結、凝集が極めて少なく、粒子径分布がシャープなうえ、粒子形状が板状であるという特徴を有する。このような特徴ゆえに、本発明の非磁性酸化物粒子は、研磨シートや研磨液用の研磨材粒子や各種の塗布型磁気記録媒体用の添加材粒子として、さらには各種の光学フィルム用の添加材粒子として、従来のこれらの粒子では得られなかった優れた性能を発揮する。
【0034】
酸化ジルコニウム粒子を研磨材や添加材として用いる場合には、結晶性であることが特に望ましい。X線回折などにより、これらの物質特有のスペクトルを示す粒子であっても、これまで十分な結晶性をもったものはなく、したがって研磨材や添加材として使用した場合、必ずしも満足いくものではなかった。
【0035】
本発明者らは、研磨材として優れた性能を示す形状について、これまで検討してきた結果、電子顕微鏡などで観察して、板状形状を有するものは、その端面のエッジの存在が、研磨材粒子として特に有効に作用していることを見出した。
【0036】
以上のように、本発明では、特定の形状を有する酸化ジルコニウム粒子の製造に初めて成功したものである。本発明により得られる酸化物粒子(酸化ジルコニウム粒子)は、半導体、光ファイバー、レンズなどを研磨するための最適な研磨材粒子であるのみならず、各種の塗布型磁気記録媒体の添加剤粒子、さらには特異な形状を活かした各種の機能性光学フィルム用の添加材粒子など、広範囲の用途に適用することができるものである。なお、非磁性板状酸化物粒子は、後述する酸化セリウム粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化珪素粒子や、本発明の酸化ジルコニウム粒子のように殆ど孔のないタイプの板状酸化物粒子と、後述する酸化鉄のように孔のあるタイプの板状酸化物粒子に大別されるが、前者の孔の殆どないタイプの非磁性酸化物粒子は塗布型磁気記録媒体の添加剤粒子や機能性光学フィルムの用途にはより好ましく用いられる。また、前者は着色がないので、機能性光学フィルム等の着色を嫌う用途にはより好ましく用いられる。殆ど孔のないタイプの板状酸化物粒子とは、300個の粒子を観察した時に板厚方向に孔を有する酸化物粒子が10%以下のものである。
【0037】
本発明方法では、まず、原料となるジルコニウムを含む化合物を水に溶解し、アルカリ水溶液に滴下することにより、ジルコニウムの水酸化物あるいは水和物の沈殿物を生成する。この沈殿物を生成させるための、アルカリ水溶液としては、特に限定されるものではないが、オキシアルキルアミンを添加すると、最終生成物として粒子径分布のシャープな板状粒子が得られやすいため、オキシアルキルアミンを添加することが好ましい。この水酸化物あるいは水和物の沈殿物を含む懸濁液をオートクレーブなどを使用して、水熱処理する。この水熱処理を行う前に、水酸化物あるいは水和物の沈殿物を含む懸濁液を熟成することにより、最終生成物として、より結晶性が良好でかつ粒子径分布のシャープなものが得られやすいため、熟成工程を付加することが好ましい。水熱処理後、水洗、ろ過、乾燥する。そして、得られた乾燥物に加熱処理を施すことにより、酸化ジルコニウム粒子とする。
【0038】
次に、上記非磁性板状粒子(酸化物粒子)の製造方法と、これにより得られる非磁性板状粒子の用途について、さらに詳細に説明する。なお、以下では本発明に係る酸化ジルコニウムからなる非磁性板状粒子とともに、他の金属酸化物(具体的には酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化鉄)や非金属酸化物(具体的には酸化珪素)からなる非磁性板状粒子についても説明するが、後者の金属酸化物や非金属酸化物からなる非磁性板状粒子は本発明に係るものとしてではなく参考として記載するものである。
【0039】
また、下記において「金属塩または非金属塩」あるいは「金属または非金属」と表現したのは、セリウム、ジルコニウム、アルミニウムおよび鉄は金属元素であるが、珪素は金属元素とはいえないと考えられるためである。つまり、上記の「非金属」とは主として珪素を意味し、「非金属塩」とは主として「珪素を含む塩あるいは珪酸塩」を意味する。ただし、以下の説明では、記述を簡潔なものとするため、先のような意味を有する「金属または非金属」を単に「金属」といい、「金属塩または非金属塩」を単に「金属塩」という。
【0040】
(沈殿物の作製)
セリウム、ジルコニウム、アルミニウム、鉄に対しては、これらの金属の塩化物、硝酸塩、硫酸塩を、また珪素に対しては、珪酸ナトリウムを水に溶解させ、これらの金属イオンを含有する水溶液(金属塩水溶液)を作製する。これとは別に、アルカリ溶液を作製する。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水溶液などが好適なものとして使用できる。また、これらのアルカリ水溶液に、さらに結晶成長制御剤であるアルキルアミンを添加すると、板状形状の良好な粒子が得られやすい。このアルキルアミンとしては、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソブタノールアミン、プロパノールアミン等が挙げられるが、中でもモノエタノールアミンが板状形状の良好な粒子を得る上で、特に適している。
【0041】
次に前記金属塩水溶液を、前記アルカリ水溶液中に滴下して、金属の水酸化物あるいは水和物の沈殿物を生成する。この沈殿物を含む懸濁液のpHは、8〜11の範囲に調整し、またこの懸濁液を室温において1日程度熟成することが好ましい。このpH調整および熟成は、この後の工程の加熱処理において、比較的低い温度で、板状形状が良好で、かつ粒径分布のシャープな粒子を得る上で効果的である。
【0042】
(水熱処理)
前記金属の水酸化物あるいは水和物の沈殿物を含む懸濁液に対し、オートクレーブ等を用いて水熱処理を行う。この水熱処理において、上記の沈殿物を含む懸濁液をそのまま水熱処理しても構わないが、水洗により、上記沈殿物以外の生成物や残存物を除去し、その後NaOHなどにより再度pH調整することが好ましい。この時のpHの値は、7〜11とすることが好ましい。このpHより低いと、水熱処理時に結晶成長が不十分になり、また高すぎると、粒子径分布が広くなったり、目的とする粒子径の小さい粒子を得ることが困難になる。より好ましいpHの範囲は7〜10である。
【0043】
水熱処理温度は、110℃から300℃の範囲とすることが好ましい。この温度より低いと、特定の形状を有する前記金属の水酸化物あるいは水和物が得られにくく、またこの温度より高いと発生圧力が高くなるため、装置が高価なものとなり、メリットはない。
【0044】
水熱処理時間は、1時間から4時間の範囲が好ましい。水熱処理時間が短すぎると、特定の形状への成長が不十分になる。水熱時間が長すぎても特に問題となることはないが、製造コストが高くなるだけで、メリットはない。
【0045】
(加熱処理)
水熱処理後の前記金属の水酸化物あるいは水和物粒子は、ろ過、乾燥した後、加熱処理を行うが、ろ過する前に、水洗によりpHを6〜9の付近の中性領域に調整しておくことが好ましい。これはpHが高い状態では、ナトリウムなどが残存しており、その後の加熱処理工程において、これらの残存物が粒子間焼結の原因となったり、粒子の結晶成長を阻害する原因になることもあるからである。
【0046】
セリウム、ジルコニウム、アルミニウムおよび鉄に対しては、これらの金属の水酸化物あるいは水和物粒子に、さらに珪酸ナトリウムなどの珪素化合物を添加して、シリカ処理を施こしても良い。このシリカ処理は、最終目的物である酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウムおよび酸化鉄粒子を特定の形状に保持する上で、効果的である。
【0047】
ろ過、乾燥した前記金属の水酸化物あるいは水和物は、加熱処理により酸化物粒子とすることができる。雰囲気は特に限定されないが、空気中加熱が、最も製造コストがかからないため好ましい。この加熱処理温度としては、300℃から1500℃の範囲が好ましい。この温度より低いと、板状形状、結晶性共に良好な酸化物粒子が得られにくく、高すぎると、焼結により粒子サイズが大きくなったり、さらに粒子径分布が広くなる。この加熱処理により、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化鉄および酸化珪素粒子の酸化物粒子が得られるが、さらに水洗などにより、未反応物を除去すると、より高純度の酸化物粒子が得られるため、化学研磨用などの研磨材として使用するためには、最終工程で水洗することが好ましい。
【0048】
また板状形状、結晶性共に良好な酸化物粒子を得るために、上記の加熱処理は有効な手段であるが、酸化セリウム、酸化ジルコニウムにおいては、加熱処理を行わなくても、この酸化物本来の結晶構造である蛍石構造を有する粒子が得られる。この場合には、熟成および水熱処理条件にもよるが加熱処理を行うことなしに板状形状の粒子が得られる。また酸化珪素においても加熱処理を行うことなしにSiO2 の組成を有する板状の酸化珪素粒子を得ることもできる。これら加熱処理工程を経ないで得られた板状粒子は通常、粒子サイズが10nmと微細であるため乾燥工程を経ないスラリー状態のまま使用することが好ましい。
【0049】
このようにして得られた酸化物粒子は、粒子径が10nmから100nmの範囲であり、また仕上げ研磨用のシートや研磨液用の研磨材として使用する上で特に好ましい範囲である粒子径が20nmから90nmの板状の形状を有する。X線回折スペクトルを測定すると、酸化セリウムと酸化ジルコニウムは蛍石構造をもつCeO2 、Zr02 の結晶構造に対応するピークが明瞭に観察され、また電子顕微鏡観察においても晶壁が明瞭に観察され、これまでの製造法では得られなかった極めて良好な結晶性を有することが示された。
【0050】
また、酸化アルミニウムにおいては、加熱処理温度によってγ−Al2 O3 、δ−Al2 O3 、θ−Al2 O3 、α−Al2 O3 など任意の結晶構造を有する板状でかつ結晶性の良好な粒子が得られる。具体的には例えば、アルカリ水溶液にアルミニウム塩の水溶液を添加し、得られたアルミニウムの水酸化物あるいは水和物を、水の存在化で110〜300℃の温度範囲で加熱処理し、ろ過、乾燥後、得られたベーマイト粒子を空気中300〜1200℃または400〜1500℃の温度範囲で加熱処理し、さらに好ましくは水洗により酸化アルミニウム以外の生成物あるいは残存物を除去することにより、γ−アルミナ、δ−アルミナ、θ−アルミナもしくはα−アルミナ単独の結晶構造、またはこれらのアルミナ結晶構造のうちの2種類以上の結晶構造を持つアルミナの混合物を得ることができる。
【0051】
さらに、酸化珪素については、X線回折スペクトルでは明瞭な結晶性の回折ピークは認められにくいが、蛍光X線分析などにおいて、ほぼSiO2 の組成を有するものであることが確認された。
【0052】
(非磁性板状粒子の用途)
上記のようにして得られる非磁性板状粒子、具体的には酸化物粒子(酸化セリウム粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化珪素粒子および酸化鉄粒子)は、例えば研磨体や研磨液などの研磨材として使用した場合には、その特異な形状と粒子径により、従来の粒状の研磨材粒子では得られなかった、被研磨体の傷付きの極めて少ない優れた研磨性を発揮する。即ち従来の粒状の研磨材粒子を用いる場合には、研磨能を維持しながら、被研磨体の傷付きのない平滑な研磨面を得ることは非常に困難であったのに対して、本発明の酸化物粒子を使用すれば、板状粒子の端面を利用して研磨しながら、かつ粒子の平滑な板面を利用することにより、傷つきの極めて少ない研磨を実現することができる。なお、上記の研磨体には、シート状(研磨シート)、テープ状(研磨テープ)、ディスク状(研磨ディスク)、カード状もしくは板状、棒状、立体状などの種々の形態のものが含まれる。
【0053】
加えて、本発明の方法によれば、上記のような非磁性板状粒子の内で酸化鉄粒子のように板厚方向に孔を生じやすい酸化物粒子も得られる。これは板状の水酸化物粒子が加熱処理時に脱水され、孔が生成するためであるが、このような孔が存在する酸化物粒子においても、研磨性など本発明の酸化物粒子が有する特徴が損なわれることはない。また、この酸化鉄粒子中の鉄の一部をアルミニウムやジルコニウムなど、他の金属元素で置換すると、酸化鉄粒子の硬度を制御でき、これにより用途に応して微妙な研摩能を発現できる。
【0054】
本発明方法によって得られる非磁性板状粒子を液状の媒体に、好ましくは分散剤とともに添加して分散させることによって、スラリー状の研磨材である研磨液が得られる。この場合の研磨材粒子、具体的には酸化セリウム粒子、酸化珪素粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化鉄粒子は、硬度がそれぞれ異なる。したがって、これらを数種類組み合わせて使用すると、きめ細かい硬度が調整できるため、広範囲の用途に対応できるようになる。特に、汎用のコロイダルシリカと上記研磨材粒子とを混合使用すれば、コロイダルシリカのみでは不十分であった研磨性に、さらに新たな研磨性を付与できるようになり、広範囲の用途展開が可能になる。また、このように混合使用する場合でも、上記の研磨材粒子は焼結、凝集がなく、粒子径分布も極めて均一であることから、異なる粒子が分離することが少なく、極めて安定な研磨液が得られる。
【0055】
本発明の非磁性板状粒子は、各種の塗布型磁気記録媒体の添加剤粒子としても極めて有望である。この場合には孔のないタイプの板状粒子が好ましい。このタイプの板状粒子が好ましいのは、孔があると、この孔に針状の磁性粒子等が引っかかり、磁性粉の配向が乱れる等の問題が生じる恐れがあるためである。また、厚さムラの原因となる恐れもある。塗布型磁気記録媒体は、高記録密度化の要求に伴い、磁性層は益々薄層化されている。従来、塗布型磁気記録媒体用の添加剤としては、粒状の酸化アルミニウム、酸化珪素さらには酸化鉄が使用されてきたが、磁性層が薄層化すると、このような粒状の添加剤では磁性層表面からの添加剤粒子の突出が顕著になり、磁性層の表面平滑性が低下して、ノイズ増加の原因となる。一方、本発明の板状粒子を使用すると、板面を磁性層に並行になるように並べることにより、添加剤粒子のクリーニング機能を維持しながら、磁性層表面の極めて平滑な磁気記録媒体が得られる。
【0056】
さらに本発明の酸化物粒子は、光学フィルムなどの各種の機能性フィルム用の添加剤に使用すると、その物質が本来有する光学特性にさらに板状形状に基づく優れた光透過性を発揮する。即ち粒子の板面をフィルム面に並行になるように並べると、その物質が本来有する光との相互作用を発現しながら、光の透過性が良好な優れた透明性を示す機能性フィルムが得られる。例えば、屈折率の異なる本発明の酸化物粒子を複数種類多層塗布した反射防止膜や、光の透過性が極めて良好な高屈折率塗膜など、多くの用途展開が可能である。板状形状に基づく面内での等方性を利用することにより、特定方向での機械的あるいは熱的変形率の極めて小さい塗膜を実現することも可能となる。なお、この場合には、酸化アルミニウム粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化セリウム粒子、酸化珪素粒子のように着色のない板状粒子が、膜が着色しないので好ましい。また、板状粒子に孔があると、屈折率のムラや透明性の低下の原因になる場合があるので、孔のないタイプが好ましい。
【0057】
このように、本発明の酸化物粒子は、粒子の形状が板状で、かつ平均粒子サイズが10nmから100nmの範囲にある極めて粒子サイズ分布の良好な粒子であり、このような粒子を使用することにより、酸化物粒子を使用した現行の製品の特性を大幅に凌駕するのみならず、従来実現が不可能であった全く新規な用途をも開拓するものである。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例を比較例とともに説明する。なお、以下に示す実験例1〜55のうち、酸化ジルコニウム粒子に関する実験例が本発明の実施例の範囲に属するものであり、酸化セリウム粒子、酸化鉄粒子、酸化アルミニウム粒子および酸化珪素粒子に関する実験例は参考のために記載するものである。
【0059】
(1)酸化セリウム粒子に関する例
〈実験例1〉
0.75モルの水酸化ナトリウムと100mlの2−アミノエタノールを800mlの水に溶解して、アルカリ水溶液を調整した。これとは別に、0.074モルの塩化セリウム(III)七水和物を400mlの水に溶解して、塩化セリウム水溶液を調整した。前者のアルカリ水溶液に、後者の塩化セリウム水溶液を滴下して、約25℃で水酸化セリウムを含む沈殿物を作製した。このときのpHは10.8であった。この沈殿物を懸濁液の状態で20時間熟成させたのち、pHが7.9になるまで水洗した。
【0060】
次に、上澄み液を除去した後、この沈殿物の懸濁液を、オートクレーブに仕込み、200℃で2時間、水熱処理を施した。
【0061】
得られた水熱処理生成物を、ろ過し、90℃で空気中乾燥した後、乳鉢で軽く解砕し、空気中600℃で1時間の加熱処理を行って酸化セリウム粒子とした。加熱処理後、未反応物や残存物を除去するために、さらに超音波分散機を使って水洗し、ろ過乾燥した。
【0062】
得られた酸化セリウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造の酸化セリウムに対応するスペクトルが明瞭に観測された(図1参照)。また、酸化セリウムの(111)面に対応するピーク幅から、シェラー法を用いて結晶子サイズを算出したところ、結晶子サイズは12.7nmであった。さらに、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、粒子径が10〜20nmの六角板状の粒子であることがわかった。
【0063】
この酸化セリウム粒子のX線回折スペクトルを図1に、また、20万倍で撮影した透過電子顕微鏡写真を図2に示す。酸化セリウム粒子の合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状、及びX線回折ピーク幅から求めた結晶子サイズを表1にまとめて示す。
【0064】
〈実験例2〉
実験例1の酸化セリウム粒子の合成方法において、水熱処理生成物の加熱処理温度を、600℃から800℃に変更した以外は、実験例1と同様にして、水酸化セリウムを含有する沈殿物を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、酸化セリウム粒子を作製した。
【0065】
この酸化セリウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、実験例1と同じく蛍石構造をもつ酸化セリウムに対応するスペクトルが観測された。また、(111)面に対応するピーク幅から、シェラー法を用いて求めた結晶子サイズは、17.2nmであった。さらに、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒子径が10〜25nmの六角板状の粒子であった。
【0066】
この酸化セリウム粒子について、20万倍で撮影した透過電子顕微鏡写真を図3に示す。合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状、及びX線回折ピーク幅から求めた結晶子サイズを、表1にまとめて示す。
【0067】
〈実験例3〉
実験例1の酸化セリウム粒子の合成方法において、水熱処理生成物の加熱処理温度を、600℃から1000℃に変更した以外は、実験例1と同様にして、水酸化セリウムを含有する沈殿物を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、酸化セリウム粒子を作製した。
【0068】
この酸化セリウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、実験例1と同じ蛍石構造をもつ酸化セリウムに対応するスペクトルが観測され、また(111)面に対応するピーク幅から、シェラー法を用いて求めた結晶子サイズは32.4nmであった。さらに透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒子径が50〜100nmの六角形状ないしは四角形状の板状粒子であることがわかった。
【0069】
この酸化セリウム粒子について、20万倍で撮影した透過電子顕写真を図4に示す。合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状、及びX線回折ピーク幅から求めた結晶子サイズを、表1まとめて示す。
【0070】
〈実験例4〉
実験例1の酸化セリウム粒子の合成方法において、水熱処理を行った後、懸濁液の体積の500倍の水で洗浄した後、ろ過乾燥した。洗浄後のpHは、7.5であった。その後の加熱処理以降の工程は、実験例1と同様にして、酸化セリウム粒子を作製した。
【0071】
この酸化セリウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造をもつ酸化セリウムに対応するスペクトルが観測され、また(111)面に対応するピーク幅から、シェラー法を用いて求めた結晶子サイズは11.5nmであった。さらに、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒径10〜15nmの六角板状粒子であることがわかった。
【0072】
この酸化セリウム粒子について、合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状、及びX線回折ピーク幅から求めた結晶子サイズを、表1まとめて示す。
【0073】
〈実験例5〉
実験例1の酸化セリウム粒子の合成方法において、水熱処理を行った後、さらに4N珪酸ナトリウム水溶液を0.04g添加し、次いで0.8Nの塩酸水溶液を加えてpHを7.4とした以外は、実験例1と同様にして、水酸化セリウムを含有する沈殿物を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、酸化セリウム粒子を作製した。
【0074】
この酸化セリウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造をもつ酸化セリウムに対応するスペクトルが観測され、また(111)面に対応するピーク幅から、シェラー法を用いて求めた結晶子サイズは10.6nmであった。さらに、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒径10〜15nmの六角板状粒子であることがわかった。
【0075】
この酸化セリウム粒子について、合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状、及びX線回折ピーク幅から求めた結晶子サイズを、表1にまとめて示す。
【0076】
〈実験例6〉
実験例1の酸化セリウム粒子の合成方法において、空気中600℃で1時間加熱処理した後、さらに超音波分散機を使って水洗した以外は、実験例1と同様にして酸化セリウム粒子を作製した。
【0077】
この酸化セリウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造をもつ酸化セリウムに対応するスペクトルが観測され、また(111)面に対応するピーク幅から、シェラー法を用いて求めた結晶子サイズは12.3nmであった。さらに、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒径10〜20nmの六角板状粒子であることがわかった。
【0078】
この酸化セリウム粒子について、合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状、及びX線回折ピーク幅から求めた結晶子サイズを、表1に示す。
【0079】
〈実験例7〉
実験例1の酸化セリウム粒子の合成方法において、水酸化ナトリウムの添加量を0.75モルから0.90モルに変更し、かつ2−アミノエタノールを添加することなく、実験例1と同様に沈殿物を作製した。このときのpHは10.5であった。次に、この沈殿物の懸濁液を熟成した後、水熱処理を施し、水洗、ろ過、乾燥後さらに加熱処理を行い、酸化セリウム粒子を作製した。
【0080】
この酸化セリウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造をもつ酸化セリウムに対応するスペクトルが観測され、また(111)面に対応するピーク幅から、シェラー法を用いて求めた結晶子サイズは20.1nmであった。さらに、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、若干粒子径分布が広いが、粒径20〜30nmの六角板状粒子であることがわかった。
【0081】
この酸化セリウム粒子について、合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状、及びX線回折ピーク幅から求めた結晶子サイズを、表1に示す。
【0082】
〈比較例1〉
実験例1の酸化セリウム粒子の合成方法において、水酸化セリウムを含有する沈殿物を生成した後、水熱処理を行うことなく、実験例1と同様にして、水酸化セリウムを含有する沈殿物をそのまま水洗し、ろ過、乾燥した後、加熱処理して、酸化セリウム粒子を作製した。
【0083】
この酸化セリウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造をもつ酸化セリウムに対応するスペクトルが観測されたが、(111)面に対応するピーク幅からは、結晶子サイズを求められないほど大きな結晶子サイズになっており、また透過電子顕微鏡で観察したところ、粒子径は1〜10μmと粒子径分布の極めて広い焼結体または粗大粒子であることがわかった。
【0084】
この酸化セリウム粒子についても、合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状、及びX線回折ピーク幅から求めた結晶子サイズを、表1にまとめて示す。
【0085】
(酸化セリウム粒子のX線回折スペクトル)
図1は、上記の実験例1で作製した酸化セリウム粒子のX線回折スペクトルである。図中に、蛍石構造をもつ酸化セリウムの結晶構造に対応するピークを示す。実験例、比較例のいずれの粉末においても同様の結果が得られたことから、上記実験例および比較例で作製した粉末は、いずれも酸化セリウム粒子であることを確認した。
【0086】
(酸化セリウム粒子の透過電子顕微鏡観察結果)
図2〜図4は、上記の実験例1〜3で作製した酸化セリウム粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。実験例1〜3は、水熱処理後の加熱処理温度がそれぞれ、600℃、800℃、1000℃である。加熱処理温度が上昇するにしたがって、平均粒子径が10nm程度から100nm程度に増大していることがわかる。これは、酸化セリウム粒子が加熱処理工程において結晶成長することを示している。
【0087】
上記実験例および比較例の酸化セリウム粒子の合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から見積もった平均粒子径と形状を、表1にまとめて示す。なお、透過電子顕微鏡写真から見積もった粒子径は、300個の粒子の平均粒子径から求めた。
【0088】
【表1】
【0089】
表1から明らかなように、上記各実験例で得られた酸化セリウム粒子は、いずれも形状は板状で、酸化セリウムが本来有する蛍石構造を有し、かつ粒子径も研磨シートや研磨液などの研磨材のみならず、板状形状を活かして磁気テープや各種の光学フィルムなどに使用する上で、最適な範囲にあることがわかる。一方、比較例1に示した酸化セリウム粒子では、蛍石構造を有するものの、粒子径が非常に大きく、かつ粒子径分布も極めて広く、研磨材などの用途には適さないことがわかる。
【0090】
このように、本発明の酸化セリウム粒子は、板状形状で、かつ100nm以下の微細な粒子径を同時に実現したものであり、従来実現が不可能と考えられてきた全く新しい用途をも切り開くものである。
【0091】
(2)酸化ジルコニウム粒子に関する例
〈実験例8〉
0.75モルの水酸化ナトリウムと100mlの2−アミノエタノールを800mlの水に溶解して、アルカリ水溶液を作製した。このアルカリ水溶液とは別に、0.074モルの塩化ジルコニウム(IV)を400mlの水に溶解して塩化ジルコニウム水溶液を作製した。前記アルカリ水溶液に前記塩化ジルコニウム水溶液を滴下して、約25℃で水酸化ジルコニウムを含む沈殿物を作製した。このときのpHは10.8であった。この沈殿物を懸濁液の状態で20時間熟成させたのち、pHが7.8になるまで水洗した。
【0092】
次に、上澄み液を除去した後、この沈殿物の懸濁液を、オートクレーブに仕込み、200℃で2時間、水熱処理を施した。
【0093】
得られた水熱処理生成物を、ろ過し、90℃で空気中乾燥した後、乳鉢で軽く解砕し、空気中600℃で1時間の加熱処理を行って酸化ジルコニウム粒子とした。加熱処理後、未反応物や残存物を除去するために、さらに超音波分散機を使って水洗し、ろ過乾燥した。
【0094】
得られた酸化ジルコニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造を有する酸化ジルコニウムに対応するスペクトルが明瞭に観測された。さらに、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、粒子径が10〜20nmの板状の六角粒子であることがわかった。この酸化ジルコニウム粒子のX線回折スペクトルを図5に、また、20万倍で撮影した透過電子顕微鏡写真を図6に示す。この酸化ジルコニウム粒子の合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表2にまとめて示す。
【0095】
〈実験例9〉
実験例8の酸化ジルコニウム粒子の合成方法において、水熱処理生成物の加熱処理温度を、600℃から800℃に変更した以外は、実験例8と同様にして、水酸化ジルコニウムを含有する沈殿物を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、酸化ジルコニウム粒子を作製した。
【0096】
この酸化ジルコニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、実験例8と同じく蛍石構造を有する酸化ジルコニウムに対応するスペクトルが観測された。さらに、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒子径が20〜30nmの六角板状の粒子であった。この酸化ジルコニウム粒子について、20万倍で撮影した透過電子顕微鏡写真を図7に示す。この酸化ジルコニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表2にまとめて示す。
【0097】
〈実験例10〉
実験例8の酸化ジルコニウム粒子の合成方法において、水熱処理生成物の加熱処理温度を、600℃から1000℃に変更した以外は、実験例8と同様にして、水酸化ジルコニウムを含有する沈殿物を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、酸化ジルコニウム粒子を作製した。
【0098】
この酸化ジルコニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、実験例8と同じ蛍石構造を有する酸化ジルコニウムに対応するスペクトルが観測され、また透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒子径が50〜100nmの六角板状粒子であることがわかった。合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表2にまとめて示す。
【0099】
〈実験例11〉
実験例8の酸化ジルコニウム粒子の合成方法において、水熱処理を行った後、懸濁液の体積の500倍の水で洗浄した後、ろ過乾燥した。洗浄後のpHは、7.5であった。その後の加熱処理以降の工程は、実験例8と同様にして、酸化ジルコニウム粒子を作製した。
【0100】
この酸化ジルコニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造を有する酸化ジルコニウムに対応するスペクトルが観測され、また透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒径10〜15nmの六角板状粒子であることがわかった。この酸化ジルコニウム粒子について、合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表2にまとめて示す。
【0101】
〈実験例12〉
実験例8の酸化ジルコニウム粒子の合成方法において、水熱処理を行った後、さらに4N珪酸ナトリウム水溶液を0.04g添加し、さらに0.8Nの塩酸水溶液を加えてpHを7.4とした以外は、実験例8と同様にして、水酸化ジルコニウムを含有する沈殿物を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、酸化ジルコニウム粒子を作製した。
【0102】
この酸化ジルコニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造を有する酸化ジルコニウムに対応するスペクトルが観測され、さらに、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒径10〜15nmの六角板状粒子であることがわかった。この酸化ジルコニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表2にまとめて示す。
【0103】
〈実験例13〉
実験例8の酸化ジルコニウム粒子の合成方法において、空気中600℃で1時間加熱処理した後、さらに超音波分散機を使って水洗した以外は、実験例8と同様にして酸化ジルコニウム粒子を作製した。
【0104】
この酸化ジルコニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造を有する酸化ジルコニウムに対応するスペクトルが観測され、さらに、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒径10〜20nmの六角板状粒子であることがわかった。この酸化ジルコニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表2にまとめて示す。
【0105】
〈実験例14〉
実験例8の酸化ジルコニウム粒子の合成方法において、水酸化ナトリウムの添加量を0.75モルから0.90モルに変更し、かつ2−アミノエタノールを添加することなく、実験例8と同様に沈殿物を作製し、この沈殿物の懸濁液を熟成した後、水熱処理を施し、水洗、ろ過、乾燥後さらに加熱処理を行い、酸化ジルコニウム粒子を作製した。
【0106】
この酸化ジルコニウム粒子についてX線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造を有する酸化ジルコニウムに対応するスペクトルが明瞭に観測された。さらに、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、若干粒子径分布が広いが、粒子径が15〜25nmの六角板状の粒子であることがわかった。この酸化ジルコニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表2にまとめて示す。
【0107】
〈比較例2〉
実験例8の酸化ジルコニウム粒子の合成方法において、水酸化ジルコニウムを含有する沈殿物を生成した後、水熱処理を行うことなく、実験例8と同様にして、水酸化ジルコニウムを含有する沈殿物をそのまま水洗し、ろ過、乾燥し、さらに、実験例8と同様に加熱処理して、酸化ジルコニウム粒子を作製した。
【0108】
この酸化ジルコニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、蛍石構造を有する酸化ジルコニウムに対応するピークが観察されたが、透過電子顕微鏡で形状を観察したところ、微細な粒子から、焼結あるいは凝集による粗大粒子まで、その粒子径分布は粒子径が1〜10μmに亘る極めて粒子径分布の広い焼結体または粗大粒子であることがわかった。この酸化ジルコニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表2にまとめて示す。
【0109】
(酸化ジルコニウム粒子のX線回折スペクトル)
図5は、実験例8で作製した酸化ジルコニウム粒子のX線回折スペクトルである。図中に、酸化ジルコニウムの結晶構造に対応するピークを示す。実験例のいずれの粉末においても同様の結果が得られたことから、実験例で作製した粉末は、いずれも酸化ジルコニウム粒子であることがわかった。
【0110】
(酸化ジルコニウム粒子の透過電子顕微鏡観察結果)
図6、図7は、それぞれ実験例8および実験例9で作製した酸化ジルコニウム粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。板状の酸化ジルコニウム粒子が得られていることが明瞭に観察される。なお、透過電子顕微鏡写真から見積もった平均粒子径は、300個の粒子の平均粒子径から求めた。
【0111】
【表2】
【0112】
表2から明らかなように、各実験例で得られた酸化ジルコニウム粒子は、いずれも形状は板状で結晶性に優れ、かつ粒子径も研磨シートや研磨液などの研磨材のみならず、板状形状を活かして磁気テープや各種の光学フィルムの用途などにおいてに使用する上で、粒子径が最適な範囲にあることがわかる。一方、比較例2に示した酸化ジルコニウム粒子では、粒子径が非常に大きく、かつ粒子径分布も極めて広く、研磨材などの用途には適さないことがわかる。
【0113】
このように、本発明の酸化ジルコニウム粒子は、板状形状で、かつ100nm以下の微細な粒子径を同時に実現したものであり、従来実現が不可能と考えられてきた全く新しい用途をも切り開くものである。
【0114】
(3)酸化アルミニウム粒子に関する例
〈実験例15〉
0.75モルの水酸化ナトリウムと100mlの2−アミノエタノールを800mlの水に溶解し、アルカリ水溶液を作製した。このアルカリ水溶液とは別に、0.074モルの塩化アルミニウム(III)七水和物を400mlの水に溶解して塩化アルミニウム水溶液を作製した。前記アルカリ水溶液に前記塩化アルミニウム水溶液を滴下して、約25℃で水酸化アルミニウムを含む沈殿物を作製し、その後、塩酸を滴下することにより、pHを10.2にした。この沈殿物を懸濁液の状態で20時間熟成させたのち、約1000倍の水で水洗した。
【0115】
次に、上澄み液を除去した後、この沈殿物の懸濁液を、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH10.0に再調整し、オートクレーブに仕込み、200℃で2時間、水熱処理を施した。
【0116】
得られた水熱処理生成物を、ろ過し、90℃で空気中乾燥した後、乳鉢で軽く解砕し、空気中600℃で1時間の加熱処理を行って酸化アルミニウム粒子とした。加熱処理後、未反応物や残存物を除去するために、さらに超音波分散機を使って水洗し、ろ過乾燥した。
【0117】
得られた酸化アルミニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、γ−アルミナに対応するスペクトルが観測された。さらに、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、粒子径が30〜50nmの四角板状の粒子であることがわかった。
【0118】
この酸化アルミニウム粒子のX線回折スペクトルを図8に、また20万倍で撮影した透過電子顕微鏡写真を図9に示す。この酸化アルミニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表3にまとめて示す。
【0119】
〈実験例16〉
実験例15の酸化アルミニウム粒子の合成方法において、水熱処理生成物の加熱処理温度を、600℃から1000℃に変更した以外は、実験例15と同様にして、水酸化アルミニウムを含有する沈殿物を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、酸化アルミニウム粒子を作製した。
【0120】
この酸化アルミニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、実験例15におけるスペクトルよりもピーク強度の高い、δ−アルミナに対応するスペクトルが観測された。また、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、実験例15と同様、粒子径が30〜50nmの四角板状の粒子であった。
【0121】
この酸化アルミニウム粒子のX線回折スペクトルを図10に示す。この酸化アルミニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表3にまとめて示す。
【0122】
〈実験例17〉
実験例15の酸化アルミニウム粒子の合成方法において、水熱処理時間を、2時間から4時間に変更した以外は、実験例15と同様にして、水酸化アルミニウムを含有する沈殿物を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、酸化アルミニウム粒子を作製した。
【0123】
この酸化アルミニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、実験例15と同じγ−アルミナに対応するスペクトルが観測された。さらに透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒子径が10〜20nmの四角形状の板状粒子であることがわかった。
【0124】
この酸化アルミニウム粒子について、20万倍で撮影した透過電子顕写真を図11に示す。この酸化アルミニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表3にまとめて示す。
【0125】
〈実験例18〉
実験例15の酸化アルミニウム粒子の合成方法において、アルカリ水溶液に、塩化アルミニウム水溶液を滴下して、水酸化アルミニウムを含む沈殿物を作製し、その後塩酸を滴下することにより、pHを8.3にした。熟成後、約1000倍の水で水洗し、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8.1に再調整した。その後の水熱処理以降の工程は、実験例15と同様にして、酸化アルミニウム粒子を作製した。
【0126】
この酸化アルミニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、実験例15と同様、γ−アルミナに対応するスペクトルが観測された。さらに、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒径65〜85nmの六角板状粒子であることがわかった。
【0127】
この酸化アルミニウム粒子について、20万倍で撮影した透過電子顕写真を図12に示す。この酸化アルミニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表3にまとめて示す。
【0128】
〈実験例19〉
実験例15の酸化アルミニウム粒子の合成方法において、水熱処理を行った後、さらに4N珪酸ナトリウム水溶液を0.04g添加し、よく攪拌した後、0.8Nの塩酸水溶液を、攪拌しながら徐々に加えてpHを7.5とした以外は、実験例15と同様にして、水酸化アルミニウムを含有する沈殿物を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、酸化アルミニウム粒子を作製した。
【0129】
この酸化アルミニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、γ−アルミナに対応するスペクトルが観測された。さらに、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒径30〜50nmの四角板状粒子であることがわかった。
【0130】
この酸化アルミニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表3にまとめて示す。
【0131】
〈実験例20〉
実験例15で得られた酸化アルミニウム粒子を、さらに空気中1250℃で1時間、加熱処理した。得られた酸化アルミニウム粒子を、X線回折スペクトルを測定したところ、α−アルミナに対応するスペクトルが観測された。さらに、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、粒子径が40〜60nmの四角板状の粒子であった。
【0132】
この酸化アルミニウム粒子のX線回折スペクトルを図13に、20万倍で撮影した透過電子顕微鏡を図14に示す。この酸化アルミニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表3にまとめて示す。
【0133】
〈実験例21〉
実験例15の酸化アルミニウム粒子の合成方法において、水酸化ナトリウムの添加量を0.75モルから0.90モルに変更し、かつ2−アミノエタノールを添加することなく、実験例15と同様に沈殿物を作製し、この沈殿物の懸濁液を熟成した後、水熱処理を施し、水洗、ろ過、乾燥後さらに加熱処理を行い、酸化アルミニウム粒子を作製した。
【0134】
この酸化アルミニウム粒子についてX線回折スペクトルを測定したところ、γ−アルミナに対応するスペクトルが観測された。さらに、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、若干粒子径分布が広いが、粒子径が40〜60nmの四角板状の粒子であることがわかった。
【0135】
この酸化アルミニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表3にまとめて示す。
【0136】
〈比較例3〉
実験例15の酸化アルミニウム粒子の合成方法において、加熱処理温度を600℃から300℃にした以外は、実験例15と同様にして作製した。
【0137】
このようにして作製した粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、酸化アルミニウムへの結晶構造変体が不十分であり、水酸化酸化アルミニウム(ベーマイト;AlO(OH))に対応するスペクトルが観測された。
【0138】
この酸化アルミニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表3にまとめて示す。
【0139】
〈比較例4〉
実験例15の酸化アルミニウム粒子の合成方法において、水酸化アルミニウムを含有する沈殿物を実験例15と同じ条件で生成し、約1000倍の水で水洗した後、実験例15と同様に水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH10.0に再調整した。次に、オートクレーブを用いて水熱処理を施す代わりに、この懸濁液を90℃で2時間加熱処理した。加熱生成物を、ろ過し、90℃で空気中乾燥した後、乳鉢で軽く解砕し、実験例1と同様に、空気中600℃で1時間の加熱処理を行って酸化アルミニウム粒子とした。加熱処理後、未反応物や残存物を除去するために、さらに超音波分散機を使って水洗し、ろ過乾燥した。
【0140】
この酸化アルミニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、γ−アルミナに対応するスペクトルが観測されたが、透過電子顕微鏡で観察したところ、粒子径は20nm程度の微粒子から数μmの焼結ないしは凝集粒子まで、粒子径分布は広く、また粒子形状も粒状ないしは塊状の不定形であった。
【0141】
この酸化アルミニウム粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表3にまとめて示す。
【0142】
(酸化アルミニウム粒子の透過電子顕微鏡観察結果)
図9、11、12、14は、それぞれ実験例15、17、18、20で作製した酸化アルミニウム粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。
【0143】
実験例15と実験例17では、水熱処理時間がそれぞれ、2時間、4時間である。水熱処理時間が増大するにしたがい、加熱処理後に生成する酸化アルミニウム粒子の平均粒子径が45nm程度から16nm程度に減少する傾向にある。これは、水熱処理時に十分結晶成長させれば、その後の加熱処理において、結晶成長が抑制される傾向にあり、逆に水熱処理時の結晶成長を控えめにすれば、その後の加熱処理において、結晶成長しやすい傾向にあることを示している。
【0144】
このように本発明の製造方法では、既述したように形状、粒子径を整えることを目的とする工程と、その材料が本来有する物性を最大限に引き出すことを目的とする工程とに分離することが特徴の一つであるが、水熱処理による最初の工程と、空気中加熱処理による後の工程とは密接に関係しており、この関係が存在することも本発明により初めて見出されたものである。
【0145】
さらに実験例15と実験例18では、熟成時・水熱処理時のpHがそれぞれ、10.2と8.3である。酸化アルミニウム粒子の粒子形状は、pH10.2では四角板状、pH8.3では六角板状となる。平均粒子径はpHが大きくなるに小さくなる傾向になり、形状は六角板状から四角板状になる傾向にある。このように熟成時・水熱処理時のpHにより、粒子径や粒子形状が変化する原因は、現状明らかではないが、熟成時、あるいは水熱処理時のpHの値により、板状形状を維持しながら粒子形状および、平均粒子径を変化させることができることも、他の製造法にはない大きな特徴のひとつである。
【0146】
上記実験例および比較例の酸化アルミニウム粒子の合成条件、X線回折スペクトルから求めた酸化アルミニウム粒子の結晶構造、透過電子顕微鏡写真から見積もった平均粒子径を表3にまとめて示す。なお、透過電子顕微鏡写真から見積もった平均粒子径は、300個の粒子の平均粒子径から求めた。
【0147】
(酸化アルミニウム粒子のX線回折スペクトル)
図8、10、13は、それぞれ実験例15、16、20で作製した酸化アルミニウム粒子のX線回折スペクトルを示す。図8、10、13は、それぞれγ−アルミナ、δ−アルミナ、α−アルミナのX線回折スペクトルに対応する。この結果は、酸化アルミニウム粒子の粒子径、粒子形状を変えることなく、熱処理条件をコントロールすることにより、任意の結晶構造の酸化アルミニウム粒子が得られることを示している。この点も本発明の大きな特徴の一つである。
【0148】
【表3】
【0149】
表3から明らかなように、上記実験例で得られた酸化アルミニウム粒子は、いずれも形状は板状で、X線回折からγ、δ、αなど熱処理条件により各種の結晶構造に制御することが可能であることがわかる。
【0150】
一方、比較例3では、酸化アルミニウム粒子が得られず、水酸化酸化アルミニウム粒子(ベーマイト粒子)のままである。さらに比較例4に示した酸化アルミニウム粒子では、焼結あるいは凝集のために粒子径が非常に大きく、かつ粒子径分布も極めて広く、研磨材など添加剤としの用途には適さないことがわかる。
【0151】
本発明の酸化アルミニウム粒子の粒子径は、研磨シートや研磨液用の研磨材としてのみならず、磁気テープ用の添加材粒子や、さらには各種の機能性シート用の添加材粒子として最適な範囲にある。このように板状形状で、かつ100nm以下の微細な粒子径を同時に実現した酸化アルミニウム粒子はこれまでにはなく、従来実現が不可能と考えられてきた全く新しい用途をも切り開くものである。
【0152】
(4)酸化珪素粒子に関する例
〈実験例22〉
0.074モルのメタ珪酸ナトリウムと100mlの2−アミノエタノールを800mlの水に溶解し、アルカリ水溶液を作成した。このアルカリ水溶液とは別に、1N塩酸水溶液を400ml作製した。この珪酸酸ナトリウムとアミノエタノールを含むアルカリ水溶液に、塩酸水溶液を、縣濁液のpHが8.3になるまで滴下して、約25℃で水酸化珪素を含む沈殿物を作製した。この沈殿物を懸濁液の状態で20時間熟成させたのち、pHが7.6になるまで水洗した。
【0153】
次に、上澄み液を除去した後、この沈殿物の懸濁液を、オートクレーブに仕込み、200℃で2時間、水熱処理を施した。
【0154】
得られた水熱処理生成物を、ろ過し、90℃で空気中乾燥した後、乳鉢で軽く解砕し、空気中800℃で1時間の加熱処理を行って酸化珪素粒子とした。
【0155】
得られた酸化珪素粒子について、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、粒子径が30〜40nmの円形に近い板状の粒子であることがわかった。
【0156】
この酸化珪素粒子を、20万倍で撮影した透過電子顕微鏡写真を図15に示す。また、この酸化珪素粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表4にまとめて示す。
【0157】
〈実験例23〉
実験例22の酸化珪素粒子の合成方法において、水熱処理生成物の加熱処理温度を、800℃から600℃に変更した以外は、実験例22と同様にして、水酸化珪素を含有する沈殿物を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、酸化珪素粒子を作製した。
【0158】
この酸化珪素粒子について、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒子径が15〜25nmの円形に近い板状の粒子であった。この酸化珪素粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表4にまとめて示す。
【0159】
〈実験例24〉
実験例22の酸化珪素粒子の合成方法において、水熱処理生成物の加熱処理温度を、800℃から1000℃に変更した以外は、実験例22と同様にして、水酸化珪素を含有する沈殿物を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、酸化珪素粒子を作製した。
【0160】
この酸化珪素粒子について、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒子径が70〜100nmの円形に近い板状の粒子であった。この酸化珪素粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表4にまとめて示す。
【0161】
〈実験例25〉
実験例22の酸化珪素粒子の合成方法において、水熱処理を行った後、懸濁液の体積の500倍の水で洗浄した後、ろ過乾燥した。洗浄後のpHは、7.5であった。その後の加熱処理以降の工程は、実験例22と同様にして、酸化珪素粒子とした。
【0162】
得られた酸化珪素粒子について透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒径30〜40nmの円形に近い板状粒子であることがわかった。この酸化珪素粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表4にまとめて示す。
【0163】
〈実験例26〉
実験例22の酸化珪素粒子の合成方法において、空気中80℃で1時間加熱処理した後、さらに超音波分散機を使って水洗した以外は、実験例22と同様にして酸化珪素粒子を作製した。
【0164】
得られた酸化珪素粒子について、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒径30〜40nmの円形に近い板状粒子であることがわかった。この酸化珪素粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表4にまとめて示す。
【0165】
〈実験例27〉
実験例22の酸化珪素粒子の合成方法において、0.074モルのメタ珪酸ナトリウムと100mlの2−アミノエタノールを800mlの水に溶解したアルカリ水溶液に替えて、2−アミノエタノールを添加せずに、0.074モルのメタ珪酸ナトリウムのみを800mlの水に溶解したアルカリ水溶液を用いた以外は、実験例22と同様にして、1N塩酸水溶液を、メタ珪酸ナトリウム水溶液にpHが7.5になるまで滴下して、水酸化珪素を含む沈殿物を作製した。この沈殿物を懸濁液の状態で20時間熟成させたのち、水洗して、pHを7.6に調製した。
【0166】
次に、上澄み液を除去した後、この沈殿物の懸濁液を、オートクレーブに仕込み、200℃で2時間、水熱処理を施した。
【0167】
得られた酸化珪素粒子について、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、若干粒子径分布が広いが、粒子径が20〜30nmの円形に近い板状粒子であることがわかった。この酸化珪素粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表4にまとめて示す。
【0168】
〈比較例5〉
実験例22の酸化珪素粒子の合成方法において、水酸化珪素を含有する沈殿物を生成した後、水熱処理を行わなかった以外は、実験例22と同様にして、水酸化珪素を含有する沈殿物をそのまま水洗し、ろ過、乾燥した後、加熱処理して、酸化珪素粒子を作製した。
【0169】
得られた酸化珪素粒子について、透過電子顕微鏡で観察したところ、粒子径は1〜10μmと粒子径分布の極めて広い焼結体または凝集粒子であることがわかった。この酸化珪素粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表4にまとめて示す。なお透過電子顕微鏡写真から見積もった平均粒子径は、300個の粒子の平均粒子径から求めた。
【0170】
(透過電子顕微鏡観察結果)
図15は、実験例22で作製した酸化珪素粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。粒子径が30〜40nmの円形に近い板状の粒子であることがわかる。このように粒子径が極めて小さくて板状形状を有する酸化珪素粒子は、従来の方法では得ることが極めて困難であり、本発明の方法により初めて成功したものである。
【0171】
【表4】
【0172】
表4から明らかなように、上記実験例で得られた酸化珪素粒子は、X線回折スペクトルからは、結晶構造は非晶質であるが、いずれも形状は板状であり、このような形状の酸化珪素粒子は、本発明により初めて実現したものである。
【0173】
一方、比較例5の酸化珪素粒子は、焼結あるいは凝集のために粒子径が大きく、かつ粒子径分布も極めて広く、研磨材などの用途に適したものとは言えないものである。
【0174】
本発明の酸化珪素粒子の粒子径は、研磨シートや研磨液用の研磨材としてのみならず、磁気テープ用の添加剤やさらには各種の機能性シート用の添加剤粒子として最適な範囲にある。このように板状形状と言う特異な粒子形状を有し、かつ100nm以下の微細な粒子径を同時に実現した酸化珪素粒子はこれまでにはなく、従来実現が不可能と考えられてきた全く新しい用途をも切り開くものである。
【0175】
(5)酸化鉄粒子に関する例
〈実験例28〉
下記の2種類の水溶液を作製した。
・A液; 塩化第二鉄(FeCl3 ・6H2 O) 20g
水 500cc
・B液; 水酸化ナトリウム 30g
モノエタノールアミン 50cc
水 1000cc
【0176】
上記のA液およびB液を12℃に保持し、攪拌しながら、A液をB液中、約1時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間、攪拌した。このようにして得られた沈殿物を、室温で約20時間放置した後、純水で洗浄し、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを11.3に調整し、オートクレーブを用いて、150℃で1時間の水熱処理を施した。この処理により、板状のゲーサイト(αFeOOH)を得た。さらに、このゲーサイトに対してSiO2 換算で、1wt%になるように珪酸ナトリウム溶液を攪拌しながら添加し、塩酸によりpHを7.3に調整して、SiO2 による被覆処理を行った。ろ過・乾燥させた後、空気中、600℃で1時間加熱脱水した。この加熱処理により、板状のα酸化鉄(α−Fe2 O3 )粒子を得た。
【0177】
得られたα酸化鉄粒子は、平均粒子径が65nmの円板〜六角板状で、中央付近に直径約30nmの孔を有する板状粒子であった。また、X線回折スペクトルから、コランダム構造を有するアルファヘマタイトであることがわかった。
【0178】
この酸化鉄粒子の電子顕微鏡写真を図16に示す。また、この酸化鉄粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表5にまとめて示す。
【0179】
〈実験例29〉
実験例28において、酸化鉄粒子合成工程における、B液中にA液を滴下するときの、両液の保持温度を12℃から18℃に変更した以外は、実験例28と同様にして沈殿物を作製し、さらに水熱処理を行った。次に実験例と同様に加熱脱水処理を行い、平均粒子サイズが90nmの円板〜六角板状の、空孔を有する酸化鉄粒子を得た。この酸化鉄粒子は、X線回折スペクトルから、コランダム構造を有するアルファヘマタイトであることがわかった。
【0180】
この酸化鉄粒子の電子顕微鏡写真を図17に示す。また、この酸化鉄粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表5にまとめて示す。
【0181】
〈比較例6〉
実験例28において、酸化鉄粒子合成工程における、B液中にA液を滴下して沈殿物を作製した後、水熱処理を行うことなくSiO2 による被覆処理を行い、ろ過・乾燥させ、さらに空気中、600℃で1時間加熱脱水した。
【0182】
この加熱処理により得られた酸化鉄は、平均粒子径が60nmの粒状であり、実験例28、実験例29のような板状形状は得られなかった。この酸化鉄粒子について、その合成条件、X線回折で調べた結晶構造、透過電子顕微鏡写真から求めた平均粒子径と形状を、表5にまとめて示す。
【0183】
(透過電子顕微鏡観察結果)
図16、17は、それぞれ実験例28、29で作製した酸化鉄粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。図16に示されている実験例28の酸化鉄粒子は、平均粒子径が65nmの板状粒子であり、また図17に示されている実験例29の酸化鉄粒子は、平均粒子径が90nmの板状粒子であることがわかる。また、いずれの粒子も粒子内部に空孔を有している。これは水熱処理後に得られた板状のゲータイト粒子を加熱処理すると脱水により孔が生じるためである。板状の水酸化物粒子の加熱脱水により生じる孔の形状は微細なマイクロポアから本発明の板状酸化鉄粒子のように比較的サイズの大きい孔が生じるものなど、孔のサイズは物質によって異なる。しかし、このような孔が生じても本発明の板状粒子が有する研摩性などの特性を損なうものではないことは言うまでもない。
【0184】
【表5】
【0185】
表5から明らかなように、上記実験例で得られた酸化鉄粒子は、X線回折スペクトルからは、コランダム構造を有し、いずれも形状は板状である。このような形状の酸化鉄粒子は、本発明により初めて実現されたものである。
【0186】
一方、比較例6の酸化鉄粒子は、形状が粒状であり、本発明のような板状形状を示さない。本発明の酸化鉄粒子の粒子径は、研磨シートや研磨液用の研磨材としてのみならず、磁気テープ用の添加剤粒子や、さらには各種の機能性シート用の添加剤粒子として最適な範囲にある。このように板状形状で、かつ100nm以下の微細な粒子径を同時に実現した酸化鉄粒子はこれまでにはなく、従来実現が不可能と考えられてきた全く新しい用途をも切り開くものである。
【0187】
(6)研磨テープへの適用例
次に、研磨体の一つの例としての研磨テープに本発明の板状酸化物粒子を適用した例について説明する。なお、研磨テープは、フィルム状またはシート状の支持体の表面に研磨材を含んだ研磨層を形成した後、得られた積層体を所定幅のテープ状に裁断することにより作製されるもので、研磨シートや研磨フィルムとの相違点はテープ状である点のみである。したがって、本発明の板状酸化物粒子を研磨シートや研磨フィルムに適用した場合においても、以下の例と同様の結果が得られる。
【0188】
〈実験例30〜44、比較例7〜16〉
本発明の板状酸化物粒子及び比較例で示した酸化物粒子を用いて、以下の組成の研磨層用の塗布液を作製した。なお、この実験で使用した酸化物粒子は実験例1等に示した実験をスケールアップして作製したものである(以下同様)。以下の実験例および比較例において「部」は重量部を意味する。
【0189】
《研磨層形成用の塗布液成分》
・非磁性酸化物粒子 200部
・塩ビ−酢ビ共重合体 (UCC社製の「VAGH」) 30部
・ポリウレタン樹脂(東洋紡社製の「バイロンUR8300」) 25部
・メチルエチルケトン 150部
・トルエン 150部
・シクロヘキサノン 130部
【0190】
上記の塗布液成分を撹拌、混合したのち、サンドミルで分散させ、研磨層形成用の塗布液を調製した。この塗布液を、厚さが75μmのポリエチレンテレフタレ―トフィルムからなる支持体の片面に、カレンダ処理後の厚さが10μmとなるように、塗布し、乾燥した。カレンダで鏡面化処理したのち、所定幅に裁断して、研磨テープを作製した。
【0191】
表6に、作製した研磨テープの種類と、それらの研磨テープに使用した酸化物粒子の主要な特性を示す。
【0192】
【表6】
【0193】
表6中の「実験例/比較例」の欄において、右欄に実験例や比較例の記載があるものは、これらの実験例や比較例で得た酸化物粒子を使用したことを示す。また、表6において、比較例8、比較例10、比較例12、比較例14および比較例16の研磨テープは、それぞれ市販の酸化セリウム粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化珪素粒子および酸化鉄粒子を用いて、前述した研磨層形成用の塗布液と同一成分かつ同一方法により作製したものである。これらの酸化物粒子は、何れも微粒子と言われている市販の酸化物粒子であり、形状は球状、粒状ないしは立方状である。本発明の特徴である、粒子形状が板状である酸化物粒子を用いた研磨テープとの研磨性を比較するため、これらの酸化物粒子を用いて研磨テープを作製した。
【0194】
上記実験例および比較例に示した各研磨テープを用いて、下記の方法により、ガラスの傷つき試験を行い、その性能を評価した。結果は、表7に示す通りであった。
【0195】
(傷つき試験)
研磨テープの両端をガラス板上に固定し、表面に水を含ませた状態で、表面性測定機(新東科学社製の「HEIDON−14DR」)を用いて、摺動スピード3000mm/min 、摺動スケール20mm、荷重20gの条件で、直径5mmのガラス球(ニツカトー社製)を100回、往復摺動させる。その後、ガラス球の磨耗度合いを顕微鏡で観察し、5段階評価した。磨耗度合いにおいては、数字が大きいほど磨耗度合いが大きいことを示す。また、磨耗痕は、ガラス球表面を顕微鏡で観察し、4段階評価した。磨耗痕としては、表面に傷が5本以上ある場合を「×」、傷が3〜4本ある場合を「△」、傷が2本以下の場合を「○」、傷が発生しない場合を「◎」と評価した。
【0196】
【表7】
【0197】
表6および表7の結果から、同一種類の酸化物粒子で比較した場合、本発明の板状の酸化物粒子を用いた研磨テープと、比較例の水熱処理を行わずに熱処理を施した粒子を用いた研磨テープとでは、差異は歴然としている。即ち、本発明の板状粒子を用いた研磨テープは、適度な研磨性を維持しながら、傷つきが少ないバランスの良好なテープであるのに対して、比較例の粒子を用いた研磨テープでは、粒子径が大きい分、研磨性は高くなる反面、傷つき度合いが非常に大きく、研磨テープには向いていないことがわかる。
【0198】
また、同じ種類の酸化物で、微粒子と言われている市販の酸化物粒子を用いて研磨テープを作製した場合は、研磨性と傷つきのバランスの良好な研磨テープが得られる。しかし、本発明の、粒子径が10〜100nmの範囲にある、板状粒子を用いた研磨テープに比較すれば、市販の酸化物粒子を用いて作製した研磨シートは、総合的な特性において劣る。
【0199】
この原因は、市販の酸化物粒子が、粒状、球状あるいは立方状であるのに対して、本発明の粒子が板状であるためであると思われる。すなわち、本発明の板状粒子を用いた場合、板状粒子のエッジ部分を利用した研磨性に加えて、板面を利用した被研磨面との良好な接触性が得られる結果、上記のような優れた研磨能が得られたものと考えられる。
【0200】
本発明の酸化物粒子間の優劣を比較することは無意味であるが、研磨性のみから判断すれば、酸化アルミニウムと酸化ジルコニウムは比較的研摩性が高く、酸化セリウム、酸化鉄および酸化珪素の研摩性は比較的ゆるやかである。一方、傷つきの程度は、研磨性の逆になる傾向にある。したがって、用途に応じて酸化物粒子を選択することが重要であるが、どの酸化物粒子を使用する場合においても、上述したように従来の粒状、球状あるいは立方状の酸化物粒子を使用した場合に比較して、本発明の、粒子径が10〜100nmの範囲にある、板状の酸化物粒子を使用した研磨テープの方が総合的な特性において勝っている。
【0201】
上記実験例では、本発明の粒子の優れた研磨性を利用する例として、研磨シートに適用した例について説明したが、必ずしもシート状にする必要はなく、研磨液や研磨スラリーとしても使用できることは言うまでもない。即ち、本発明の非磁性酸化物粒子の、その特異な形状を利用することにより、最終形態に関係なく、研磨材粒子として優れた特性を発揮する。
【0202】
以上述べたように、本発明の、粒子径が10〜100nmの範囲にある、板状の酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化珪素および酸化鉄粒子を用いることにより、高い研磨能力を維持しながら、研磨傷の発生が少ないバランスの取れた研磨シートが得られることがわかる。
【0203】
(7)塗布型磁気記録媒体(磁気テープ)への適用例
次に、塗布型磁気記録媒体の一例としての塗布型磁気テープの添加剤に本発明の板状の酸化物粒子を適用した例について説明する。以下の実験例および参考例において「部」は重量部を意味する。
【0204】
〈実験例45〜49、参考例1〉
《下塗層用塗料成分》
(1)
・酸化物粒子(後述する表8参照) 76部
・カーボンブラック(平均粒径:25nm、吸油量:55g/cc) 24部
・ステアリン酸(潤滑剤) 2.0部
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 8.8部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン 4.4部
(含有−SO3 Na基:1.0×10-4当量/g)
・シクロヘキサノン 25部
・メチルエチルケトン 40部
・トルエン 10部
(2)
・ステアリン酸ブチル(潤滑剤) 1部
・シクロヘキサノン 70部
・メチルエチルケトン 50部
・トルエン 20部
(3)
・ポリイソシアネート(架橋剤) 2.0部
・シクロヘキサノン 10部
・メチルエチルケトン 15部
・トルエン
【0205】
《磁性層用塗料成分》
(1)
・強磁性鉄系金属粉 100部
〔Co/Fe:25wt%、
Y/Fe :9.3wt%、
Al/Fe:3.5wt%、
Ca/Fe:0wt%、
σs :155A・m2 /kg、
Hc:188.2kA/m、
pH:9.4、
平均長軸長:0.10μm〕
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 12.3部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン樹脂 5.5部
(含有−SO3 Na基:1.0×10-4当量/g)
・α−アルミナ(平均粒径:0.12m) 10.0部
・カーボンブラック 1.0部
(平均粒径:75nm、DBP吸油量:72cc/100g)
・メタルアシッドホスフェート 2部
・パルミチン酸アミド 1.5部
・ステアリン酸n−ブチル 1.0部
・テトラヒドロフラン 65部
・メチルエチルケトン 245部
・トルエン 85部
(2)
・ポリイソシアネート(架橋剤) 2.0部
・シクロヘキサノン 167部
【0206】
上記下塗層用塗料成分において(1)をニーダで混練したのち、(2)を加えて攪拌の後サンドミルで滞留時間を60分として分散処理を行い、これに(3)を加え攪拌・濾過した後、下塗層用塗料とした。これとは別に、上記の磁性層用塗料成分(1)をニーダで混練したのち、サンドミルで滞留時間を45分として分散し、これに磁性層用塗料成分(2)を加え攪拌・濾過後、磁性塗料とした。そして、ポリエチレンナフタレートフィルム(PEN、厚さ6.2μm、湿度膨張係数=5.6×10-6/%RH、熱膨張係数=(−7.4)×10-6/℃、MD=6.50GPa、MD/TD=0.54、帝人社製。ここで、MDはフィルム引き出し方向(長手方向)のヤング率、TDはフィルム引き出し方向と直交する方向(幅方向)のヤング率を示す。)からなる非磁性支持体上に上記の下塗層用塗料を、乾燥・カレンダ後の厚さが1.8μmとなるように塗布し、この下塗層上に、さらに上記の磁性塗料を磁場配向処理、乾燥、カレンダー処理後の磁性層の厚さが0.15μmとなるようにウエット・オン・ウエット方式で塗布し、磁場配向処理後、ドライヤを用いて乾燥し、磁気シートを得た。なお、磁場配向処理は、ドライヤ前にN−N対抗磁石(5kG)を設置し、ドライヤ内で塗膜の指蝕乾燥位置の手前側75cmからN−N対抗磁石(5kG)を2基50cm間隔で設置して行った。塗布速度は100m/分とした。
【0207】
《バックコート層用塗料成分》
・カーボンブラック(平均粒径:25nm) 80部
・カーボンブラック(平均粒径:370nm) 20部
・ニトロセルロース 44部
・ポリウレタン樹脂(SO3 Na基含有) 30部
・シクロヘキサノン 260部
・トルエン 260部
・メチルエチルケトン 525部
【0208】
上記バックコート層用塗料成分をサンドミルで滞留時間45分として分散した後、架橋剤であるポリイソシアネート13部を加えてバックコート層用塗料を調整し濾過した後、上記で作製した磁気シートの磁性層の反対面に、乾燥・カレンダ後の厚みが0.5μmとなるように塗布し、乾燥した。このようにして得られた磁気シートを金属ロールからなる7段カレンダで、温度100℃、線圧150×9.8N/cm(150kg/cm)の条件で鏡面化処理し、磁気シート(磁気テープ原反)をコアに巻いた状態で70℃で72時間エージングした。
【0209】
つぎに、スリッティングシステム用いて、上記磁気シート原反を裁断して1/2インチ幅の磁気テープとした。この磁気テープをリールに巻装してケース本体内に組み込むことにより、コンピュータ用の磁気テープカートリッジ(コンピュータテープ)を作製した。
【0210】
このようにして作製したコンピュータテープについて、再生出力特性やエラーレート、サーボ特性等などコンピュータテープとしての基本特性を評価したが、ここでは特にこれらの特性の中でサーボ特性に大きな影響を与えるオフトラック特性について評価した例について説明する。このオフトラック量は、下塗層に使用する非磁性粒子の特性に大いに左右されるため、下塗層用の非磁性粒子として、本発明の各種の板状酸化物粒子を用いた場合と、従来の針状のα−酸化鉄粒子を用いた場合とでオフトラック量を比較した。なお、この場合のオフトラック量は、以下の方法により測定した。
【0211】
(オフトラック量の測定)
オフトラック量は、改造したLTOドライブ(記録トラック幅:20.6μm、再生トラック幅:12μm)を用いて温度10℃、湿度10%RHで記録(記録波長0.55μm)を行い、温度10℃、湿度10%RHと温度29℃、湿度80%RHで再生した時の再生出力の比から求めた。なお、記録トラック幅を80μm、再生トラック幅を50μmとした場合にはオフトラックによる出力低下はほとんどなかった(1%以下)。
【0212】
下塗用塗料に使用する酸化物粒子として、本発明の板状の酸化物粒子を用いた場合と従来の針状のα−酸化鉄粒子を用いた場合とについて、磁気テープの状態でのオフトラック量を測定した結果を表8に示す。
【0213】
【表8】
【0214】
表8から明らかなように、下塗層用の非磁性酸化物粒子として、本発明の、粒子径が10〜100nmの範囲にあり、板状の形状を有する粒子を用いた場合には、従来の針状の酸化物粒子を用いた場合に比べてオフトラック量が少ない。
【0215】
一般に、オフトラックは、記録トラック幅が広い場合には、それほど問題にはならないが、記録トラックが狭くなると顕著になる。オフトラックが大きくなると、オフトラックエラーが発生し、正常なサーボを行うことができなくなる。このような問題は、磁気サーボ方式および光学サーボ方式の両者に共通して生じるものであるが、光学サーボ方式の方が、用いられる磁気ヘッドアレイ全体の質量が磁気サーボ方式のものに比べて大きいために一層顕著である。
【0216】
本発明の板状酸化物粒子を用いることにより、PES(位置ずれの標準偏差)が小さくなり、記録トラック幅が21μm以下と狭く、かつ温度変化があったときでもオフトラックが生じにくくなるので、エラーレートの低いサーボ特性に優れた磁気テープおよび磁気テープカートリッジが得られる。
【0217】
これは、粒子の形状が板状であるため、塗膜中で板面が塗布面に並行になるように並び易く、その結果テープの面内での弾性率の異方性が小さいためと考えられる。また同時に、粒子径が10〜100nmと小さく、かつ板状形状であるため、粒子の表面積が大きく、その結果、バインダーとより強固に結合するため、熱的および機械的変形の少ない優れた磁気テープが得られたためと考えられる。
【0218】
上記の実験例では、本発明の板状粒子を下塗層に使用した例について説明したが、下塗層に限定されるものではなく、磁性層やバックコートに添加しても効果を発揮できることは言うまでもない。即ち、従来のこれらの非磁性酸化物粒子は、粒状、板状針状あるいは立方状であったの対して、本発明の非磁性酸化物粒子は、その最大の特徴である板状形状を利用して、磁気テープに使用した場合には、温湿度に対する変形や、機械的変形の極めて少ない高密度記録に最適な磁気テープが得られる。
【0219】
さらに、磁気テープの磁性層に添加する場合には、上述した熱的、機械的変形の少ないテープが得られるのみならず、研磨テープの実験例で述べたように、研磨材としての作用がある。この研磨材としての作用は、磁性層が薄くなるほど効果を発揮する。即ち、磁性層厚さが0.1μm以下と薄くなると、これまで添加剤として使用されてきた粒状あるいは球状の粒子では、磁性層表面が突出し、磁性層の表面平滑性を劣化させる。一方、本発明の非磁性酸化物粒子は、粒子径が10〜100μmの板状形状を有していることから、磁性層表面から粒子が突出することがないか、又はあったとしても突出の程度および量は従来のものと比べるとはるかに少なくなる。したがって、研磨性を維持した状態で、優れた表面平滑性が得られる。
【0220】
(8)研磨液への適用例
次に、研磨液に本発明の板状の酸化物粒子を適用した例について説明する。
【0221】
〈実験例50〉
研磨粒子として、先の実験例1で作製した酸化セリウム粒子を使用し、以下のようにしてスラリー状の研磨液を作製した。
【0222】
純水300ccに、ポリアクリル酸アンモニウム塩3gを添加して溶解した。この水溶液に、上記の方法で作製した板状の酸化セリウム粒子を24g添加し、ホモミキサーを用いて、回転数3000rpmで1時間分散させた。得られたスラリーの研磨液は極めて安定で、1日放置した後も、ほとんど沈殿物は生成しなかった。
【0223】
〈実験例51〉
研磨粒子として、先の実験例22で作製した酸化珪素粒子を使用し、以下のようにしてスラリー状の研磨液を作製した。
【0224】
実験例50と同様に、300ccの純水に、ポリアクリル酸アンモニウム塩3gを溶解した水溶液に、上記酸化珪素粒子を24g添加し、実験例50と同様にしてスラリー状の研磨液を作製した。このスラリー状の研磨液は極めて安定で、1日放置した後も、ほとんど沈殿物は生成しなかった。
【0225】
〈実験例52〉
研磨粒子として、先の実験例8で作製した酸化ジルコニウム粒子を使用し、以下のようにしてスラリー状の研磨液を作製した。
【0226】
実験例50と同様に、300ccの純水に、ポリアクリル酸アンモニウム塩3gを溶解した水溶液に、上記酸化ジルコニウム粒子を24g添加し、実験例50と同様にしてスラリー状の研磨液を作製した。このスラリーの研磨液は極めて安定で、1日放置した後も、ほとんど沈殿物は生成しなかった。
【0227】
〈実験例53〉
研磨粒子として、先の実験例15で作製した酸化アルミニウム粒子を使用し、以下のようにしてスラリー状の研磨液を作製した。
【0228】
実験例50と同様に、300ccの純水に、ポリアクリル酸アンモニウム塩3gを溶解した水溶液に、上記酸化アルミニウム粒子を24g添加し、実験例50と同様にしてスラリー状の研磨液を作製した。このスラリー状の研磨液は極めて安定で、1日放置した後も、ほとんど沈殿物は生成しなかった。
【0229】
〈実験例54〉
実験例50における酸化セリウム粒子の代りに、以下の方法で作製した板状のアルファー酸化鉄粒子を使用した。
【0230】
《板状アルファー酸化鉄粒子の作製》
0.75モルの水酸化ナトリウムと100mlの2−アミノエタノールを800mlの水に溶解し、アルカリ水溶液を作製した。このアルカリ水溶液とは別に、0.074モルの塩化第二鉄(III)六水和物を400mlの水に溶解して塩化第二鉄水溶液を作製した。このアルカリ水溶液と塩化第二鉄水溶液を5℃に冷却した。前者のアルカリ水溶液に後者の塩化第二鉄水溶液を滴下した。この滴下による反応熱により液の温度は上昇するが、8℃以上に上昇しないように冷却しながら滴下し、水酸化第二鉄を含む沈殿物を作製した。このときのpHは11.3であった。この沈殿物を懸濁液の状態で20時間熟成させたのち、pHが7.5になるまで水洗した。
【0231】
次に、上澄み液を除去した後、この沈殿物の懸濁液を、オートクレーブに仕込み、150℃で2時間、水熱処理を施した。
【0232】
水熱処理生成物を、ろ過し、90℃で空気中乾燥した後、乳鉢で軽く解砕し、空気中600℃で1時間の加熱処理を行ってアルファー酸化鉄粒子とした。加熱処理後、未反応物や残存物を除去するために、さらに超音波分散機を使って水洗し、ろ過乾燥した。
【0233】
得られたアルファー酸化鉄粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、アルファーヘマタイト構造のスペクトルが明瞭に観測された。さらに、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、粒子径が30〜40nmの六角板状の粒子であることがわかった。
【0234】
《スラリー状の研磨液の作製》
実験例50と同様に、300ccの純水に、ポリアクリル酸アンモニウム塩3gを溶解した水溶液に、上記の方法で作製した板状のアルファー酸化鉄粒子を24g添加し、実験例50と同様にしてスラリー状の研磨液を作製した。このスラリー状の研磨液は極めて安定で、1日放置した後も、ほとんど沈殿物は生成しなかった。
【0235】
〈比較例17〉
《研磨粒子として使用した酸化セリウム粒子》
実験例50で使用した酸化セリウム粒子(実験例1で作製されたもの)の代りに、セリウム塩として炭酸セリウムを使用し、このセリウム塩を空気中600℃で加熱酸化することにより、酸化セリウム粒子を作製した。この酸化セリウム粒子は、粒子径がサブミクロンの粗大粒子からなるものであったため、さらに水媒体中でボールミル粉砕して微粒子化した。粉砕後の酸化セリウム粒子は、粒子径が0.1μmの微細粉から1次粒子の凝集体と思える粒子径が1μmの粒子から構成されていた。この酸化セリウム粒子の形状は、塊状の不定形であった。
【0236】
《スラリー状の研磨液の作製》
実験例50と同様に、300ccの純水に、ポリアクリル酸アンモニウム塩3gを溶解した水溶液に、上記の酸化セリウム粒子を24g添加し、実験例50と同様にしてスラリー状の研磨液を作製した。このスラリー状の研磨液は不安定で、分散後放置すると、短時間で沈降し始め、容器の底に酸化セリウム粒子が堆積した。
【0237】
〈比較例18〉
《研磨粒子として使用した酸化珪素粒子》
市販のコロイダルシリカ粒子を使用した。透過電子顕微鏡で観察すると、このコロイダルシリカ粒子の形状は、ほぼ球状で、その粒子径は、10nmから100nmの範囲にわたって分布していた。
【0238】
《スラリー状の研磨液の作製》
実験例50と同様に、300ccの純水に、ポリアクリル酸アンモニウム塩3gを溶解した水溶液に、上記のコロイダルシリカ粒子を24g添加し、実験例50と同様にしてスラリー状の研磨液を作製した。このスラリー状の研磨液はかなり安定で、1日放置すると、僅かに沈殿物が生成する程度であった。
【0239】
〈比較例19〉
《研磨粒子として使用した酸化ジルコニウム粒子》
比較例2の酸化ジルコニウム粒子を使用した。すなわち、実験例8の酸化ジルコニウム粒子の合成方法において、水酸化ジルコニウムを含有する沈殿物を生成した後、水熱処理を行うことなく、実験例8と同様にして、水酸化ジルコニウムを含有する沈殿物をそのまま水洗し、ろ過、乾燥し、さらに、実験例8と同様に加熱処理して、酸化ジルコニウム粒子を作製した。
【0240】
この酸化ジルコニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、酸化ジルコニウムに対応するピークが観察されたが、透過電子顕微鏡で形状を観察したところ、微細な粒子から、焼結あるいは凝集による粗大粒子まで、その粒子径分布は非常に広いことがわかった。
【0241】
そこで、この酸化ジルコニウム粒子を微粒子化するために、さらに水媒体中でボールミル粉砕した。粉砕後の酸化ジルコニウム粒子は、粒子径が0.1μmから1μmと広い範囲に分布していた。またこの酸化ジルコニウム粒子の形状は、塊状の不定形であった。
【0242】
《スラリー状の研磨液の作製》
実験例50と同様に、300ccの純水に、ポリアクリル酸アンモニウム塩3gを溶解した水溶液に、上記の酸化ジルコニウム粒子を24g添加し、実験例50と同様にしてスラリー状の研磨液を作製した。このスラリー状の研磨液は不安定で、分散後放置すると、短時間で沈降し始め、容器の底に酸化ジルコニウム粒子が堆積した。
【0243】
〈比較例20〉
《研磨粒子として使用した酸化アルミニウム粒子》
比較例4の酸化アルミニウム粒子を使用した。すなわち、実験例15の酸化アルミニウム粒子の合成方法において、水酸化アルミニウムを含有する沈殿物を実験例15と同じ条件で生成し、約1000倍の水で水洗した後、水熱処理を施すこと無しに、ろ過し、90℃で空気中乾燥した。その後、乳鉢で軽く解砕し、実験例15と同様に、空気中600℃で1時間の加熱処理を行って酸化アルミニウム粒子とした。加熱処理後、未反応物や残存物を除去するために、さらに超音波分散機を使って水洗し、ろ過乾燥した。
【0244】
この酸化アルミニウム粒子を、さらに水媒体中でボールミル粉砕した。粉砕後の酸化アルミニウム粒子についてX線回折スペクトルを測定したところ、γ−アルミナに対応するスペクトルが観測された。透過電子顕微鏡で観察したところ、粒子径は20nm程度の微粒子から1μmの焼結ないしは1次粒子の凝集体と思える粒子まで、粒子径分布は広く、また粒子形状も粒状ないしは塊状の不定形であった。
【0245】
《スラリー状の研磨液の作製》
実験例53と同様に、300ccの純水に、ポリアクリル酸アンモニウム塩3gを溶解した水溶液に、上記の酸化アルミニウム粒子を24g添加し、実験例53と同様にしてスラリー状の研磨液を作製した。このスラリー状の研磨液は不安定で、分散後放置すると、短時間で沈降し始め、容器の底に酸化アルミニウム粒子が堆積した。
【0246】
〈比較例21〉
《研磨粒子として使用したアルファー酸化鉄粒子》
市販のアルファー酸化鉄粒子を使用した。このアルファー酸化鉄粒子は、磁気テープなどの添加する研磨粒子用に市販されているもので、透過電子顕微鏡で観察した形状は、球状ないしは粒状で、その粒子径は、0.2μm〜0.3μmと、粒子径分布はシャープであった。
【0247】
《スラリー状研磨材の作製》
実験例50と同様に、300ccの純水に、ポリアクリル酸アンモニウム塩3gを溶解した水溶液に、上記のアルファー酸化鉄粒子を24g添加し、実験例50と同様にしてスラリー状の研磨液を作製した。このスラリー状の研磨液は比較的安定で、数時間放置した状態では、沈殿物の生成は少なかった。
【0248】
〈実験例55〉
《使用した研磨粒子》
実験例50で使用した酸化セリウム粒子と比較例18で使用したコロイダルシリカを混合使用した。混合割合は、重量比で酸化セリウム粒子を70%、コロイダルシリカを30%とした。
【0249】
《スラリー状の研磨液の作製》
実験例50と同様に、300ccの純水に、ポリアクリル酸アンモニウム塩3gを溶解した水溶液に、上記の酸化セリウム粒子を16.8g、コロイダルシリカを7.2g添加し、実験例50と同様にしてスラリー状の研磨液を作製した。このスラリー状の研磨液は極めて安定で、1日放置しても、沈殿物はほとんど生成しなかった。
【0250】
(評価)
厚み10mmのガラス板上にウレタン樹脂製の多孔質研磨パッドを貼り付けた。このパッド上に上記の実験例および比較例で作製したスラリー状の研磨液を、10cc/分の速度で滴下しながら、表面性測定機(新東科学社製の「HEIDON−14DR」)を用いて、回転速度30回/分、荷重20gの条件で、直径6.25mmのガラス球を2分間回転させた。その後、ガラス球の磨耗度合いと、ガラス球表面の磨耗痕を顕微鏡で観察し、「×」、「△」、「○」、「◎」の4段階評価した。磨耗度合いは、「×」はほとんど磨耗していない状態、「◎」は顕著に磨耗している状態、「△」と「○」はその中間状態で、「○」の方が磨耗度合いが大きいことを示す。また磨耗痕としては、表面にキズが5本以上ある場合を「×」、キズが3〜4本ある場合を「△」、キズが2本以下の場合を「○」、キズが発生しない場合を「◎」と評価した。研磨性の評価結果を表9にまとめて示す。
【0251】
【表9】
【0252】
表9の結果から、上記実験例のスラリー状の研磨液は、スラリーの安定性が極めて良好であることがわかる。これは粒子径が数十nmと小さいだけでなく、焼結、凝集がほとんどない極めて分散性に優れた研磨粒子であるためである。また研磨性に関しては、粒子径が小さいにもかかわらず良好である。これは粒子形状を板状にすることにより、エッジ部分が増加し、その結果として研磨力が向上したためと考えられる。研磨力が若干低いものもあるが、回転数や荷重等の研磨条件を、その研磨液に最適な条件に合わせれば、さらに研磨力は向上すると考えられる。
【0253】
また、研磨による磨耗痕は、いずれの実験例の研磨液においても発生していない。これは粒子径が数十nmと極めて微細であるに加えて、粒子径分布がシャープなため、従来の研磨材のように微細粒子に混じって存在する粗大粒子による磨耗痕が生じないためである。
【0254】
一方、比較例の研磨液においては、コロイダルシリカを使用した比較例18の研磨液は、研磨力、磨耗痕ともに比較的良好で、バランスの取れた研磨液であるが、材質的に同じ酸化珪素である実験例51の研磨液に比べると、総合的に劣る。
【0255】
また、アルファー酸化鉄粒子を用いた比較例21の研磨液も、比較的バランスの取れた研磨液であると考えられるが、酸化鉄そのものの硬度が本質的に低いため、これ以上の研磨力は望めない。一方、本発明の実験例54のアルファー酸化鉄粒子を用いた研磨液は、研磨粒子の形状を板状にすることによるエッジ部分により、比較例21の研磨液に比べて、研磨力、磨耗痕ともに大幅に向上している。
【0256】
比較例17の酸化セリウム粒子を用いた研磨液では、研磨性は比較的バランスが取れているが、研磨液としては全体的に満足できるものではない。一方、同じ酸化セリウム粒子を用いた本発明の実験例50の研磨液では、研磨力、磨耗痕ともに大幅に向上しており、スラリー状の研磨液として、板状酸化セリウム粒子は、特に適していることがわかる。
【0257】
酸化ジルコニウム粒子を用いた比較例19と酸化アルミニウム粒子を用いた比較例20の研磨液では、研磨力は大きいものの、著しく磨耗痕が発生する。これは酸化ジルコニウムと酸化アルミニウムは本質的に硬度が高く研磨力が大きい上に、比較例の酸化ジルコニウム粒子と酸化アルミニウム粒子では、混在する粗大粒子のために、著しい磨耗痕が発生したものと考えられる。一方、本発明に係る板状酸化ジルコニウム粒子を用いた実験例52と、板状酸化アルミニウム粒子を用いた実験例53の研磨液では、粒子形状が板状であり、極めて粒子径が小さく、かつ粒子径分布を極めてシャープなため、磨耗痕が発生することなく、優れた研磨力を発揮することができる。
【0258】
さらに実験例55に示すように、本発明の板状粒子と汎用の研磨粒子とを混合使用することにより、各種の被研磨体に対してきめ細かく対応できるようになる。
【0259】
(9)その他の用途例
以上の例では、本発明の非磁性板状粒子を研磨テープ、磁気テープおよび研磨液にそれぞれ適用した場合について説明した。本発明の酸化物粒子は、これらの用途のみならず、反射防止膜や、紫外線、赤外線カット膜など、各種の機能性光学フィルムにも適用できる。即ち、非磁性板状粒子(特に酸化物粒子)は、板状形状のため、粒子が板面をフィルム面に平行になるように並び易くなり、その結果、光の透過性が良好になる。光が非磁性板状粒子中を透過するときに、光と非磁性板状粒子の相互作用により、非磁性板状粒子が本来有する特性を発揮する。
【0260】
例えば、低屈折率の酸化珪素粒子と、高屈折率の酸化ジルコニウム粒子や酸化セリウム粒子とを積層すると、従来の粒状あるいは球状酸化物粒子では得られない、極めて透明性の高い高性能の反射防止膜が得られる。また、酸化鉄粒子を用いると透過性の良好な紫外線カットフィルムが得られる。さらに、酸化ジルコニウム粒子や酸化セリウム粒子は、高屈折率材料であるが、板状形状を利用して高充填塗膜とすると、塗膜であるにもかかわらず、スパッタ膜などの薄膜に匹敵する、極めて高い屈折率を有する透明塗膜が得られる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子の形状が六角板状で、かつ粒子の板面方向の粒子径が10nmから100nmの範囲にある酸化ジルコニウムからなる非磁性板状粒子。
【請求項2】
請求項1記載の非磁性板状粒子を製造する方法であって、
アルカリ水溶液にジルコニウム塩の水溶液を添加して水酸化ジルコニウムを含む沈殿物を作製し、この沈殿物を懸濁液の状態で熟成させてジルコニウムの水酸化物あるいは水和物を得る工程と、
得られたジルコニウムの水酸化物または水和物を、水の存在下で110〜300℃の温度範囲で加熱処理する工程とを含むことを特徴とする非磁性板状粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の非磁性板状粒子を製造する方法であって、
アルカリ水溶液にジルコニウム塩の水溶液を添加して水酸化ジルコニウムを含む沈殿物を作製し、この沈殿物を懸濁液の状態で熟成させてジルコニウムの水酸化物あるいは水和物を得る工程と、
得られたジルコニウムの水酸化物または水和物を、水の存在下で110〜300℃の温度範囲で加熱処理する工程と、
前記加熱処理する工程により得られた生成物を、ろ過、乾燥したうえで、さらに空気中300〜1200℃の温度範囲で加熱処理する工程とを含むことを特徴とする非磁性板状粒子の製造方法。
【請求項4】
前記空気中300〜1200℃の温度範囲で加熱処理する工程後に、さらに水洗により目的とする酸化ジルコニウム以外の生成物あるいは残存物を除去する、請求項3記載の非磁性板状粒子の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ水溶液にジルコニウム塩の水溶液を添加して水酸化ジルコニウムを含む沈殿物を作製し、この沈殿物を懸濁液の状態で熟成させてジルコニウムの水酸化物あるいは水和物を得る工程において、
前記ジルコニウムの水酸化物あるいは水和物の生成後の懸濁液のpHが8〜12の範囲になるように調整する、請求項2ないし4のいずれかに記載の非磁性板状粒子の製造方法。
【請求項6】
前記ジルコニウムの水酸化物あるいは水和物を得る工程と、
得られたジルコニウムの水酸化物または水和物を、水の存在下で110〜300℃の温度範囲で加熱処理する工程との間に、
前記ジルコニウムの水酸化物あるいは水和物を水洗することにより、前記ジルコニウムの水酸化物あるいは水和物以外の生成物または残存物を除去してpHを7〜10の範囲に調整する工程を有する、請求項2ないし5のいずれかに記載の非磁性板状粒子の製造方法。
【請求項7】
前記水の存在下で110〜300℃の温度範囲で加熱処理する工程後に、得られた生成物を含んだ懸濁液のpHを6〜9の範囲に調整する、請求項2ないし6のいずれかに記載の非磁性板状粒子の製造方法。
【請求項8】
前記水の存在下で110〜300℃の温度範囲で加熱処理する工程後に、得られた生成物をさらに珪素化合物で処理する、請求項2ないし7のいずれかに記載の非磁性板状粒子の製造方法。
【請求項9】
前記アルカリ水溶液にはオキシアルキルアミンが含有されている、請求項2ないし8のいずれかに記載の非磁性板状粒子の製造方法。
【請求項1】
粒子の形状が六角板状で、かつ粒子の板面方向の粒子径が10nmから100nmの範囲にある酸化ジルコニウムからなる非磁性板状粒子。
【請求項2】
請求項1記載の非磁性板状粒子を製造する方法であって、
アルカリ水溶液にジルコニウム塩の水溶液を添加して水酸化ジルコニウムを含む沈殿物を作製し、この沈殿物を懸濁液の状態で熟成させてジルコニウムの水酸化物あるいは水和物を得る工程と、
得られたジルコニウムの水酸化物または水和物を、水の存在下で110〜300℃の温度範囲で加熱処理する工程とを含むことを特徴とする非磁性板状粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の非磁性板状粒子を製造する方法であって、
アルカリ水溶液にジルコニウム塩の水溶液を添加して水酸化ジルコニウムを含む沈殿物を作製し、この沈殿物を懸濁液の状態で熟成させてジルコニウムの水酸化物あるいは水和物を得る工程と、
得られたジルコニウムの水酸化物または水和物を、水の存在下で110〜300℃の温度範囲で加熱処理する工程と、
前記加熱処理する工程により得られた生成物を、ろ過、乾燥したうえで、さらに空気中300〜1200℃の温度範囲で加熱処理する工程とを含むことを特徴とする非磁性板状粒子の製造方法。
【請求項4】
前記空気中300〜1200℃の温度範囲で加熱処理する工程後に、さらに水洗により目的とする酸化ジルコニウム以外の生成物あるいは残存物を除去する、請求項3記載の非磁性板状粒子の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ水溶液にジルコニウム塩の水溶液を添加して水酸化ジルコニウムを含む沈殿物を作製し、この沈殿物を懸濁液の状態で熟成させてジルコニウムの水酸化物あるいは水和物を得る工程において、
前記ジルコニウムの水酸化物あるいは水和物の生成後の懸濁液のpHが8〜12の範囲になるように調整する、請求項2ないし4のいずれかに記載の非磁性板状粒子の製造方法。
【請求項6】
前記ジルコニウムの水酸化物あるいは水和物を得る工程と、
得られたジルコニウムの水酸化物または水和物を、水の存在下で110〜300℃の温度範囲で加熱処理する工程との間に、
前記ジルコニウムの水酸化物あるいは水和物を水洗することにより、前記ジルコニウムの水酸化物あるいは水和物以外の生成物または残存物を除去してpHを7〜10の範囲に調整する工程を有する、請求項2ないし5のいずれかに記載の非磁性板状粒子の製造方法。
【請求項7】
前記水の存在下で110〜300℃の温度範囲で加熱処理する工程後に、得られた生成物を含んだ懸濁液のpHを6〜9の範囲に調整する、請求項2ないし6のいずれかに記載の非磁性板状粒子の製造方法。
【請求項8】
前記水の存在下で110〜300℃の温度範囲で加熱処理する工程後に、得られた生成物をさらに珪素化合物で処理する、請求項2ないし7のいずれかに記載の非磁性板状粒子の製造方法。
【請求項9】
前記アルカリ水溶液にはオキシアルキルアミンが含有されている、請求項2ないし8のいずれかに記載の非磁性板状粒子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2009−173538(P2009−173538A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38668(P2009−38668)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【分割の表示】特願2002−232334(P2002−232334)の分割
【原出願日】平成14年8月9日(2002.8.9)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【分割の表示】特願2002−232334(P2002−232334)の分割
【原出願日】平成14年8月9日(2002.8.9)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】
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