説明

非空気式タイヤの製造方法およびそれを用いた非空気式タイヤ

【課題】押出物を切断し、円環状に形成する際の接合面を強固に接合し、その際生じる接合部の形状を再成形して所定のタイヤ性能を発揮させ、長期にわたる苛酷な使用環境でも故障することのない軽車両用の非空気式タイヤの製造方法を提供する。また、タイヤ本体のマテリアルリサイクルを可能にする非空気式タイヤを提供することを目的とする。
【解決手段】1)エラストマー組成物を所定の形状に成形する工程と、2)定尺に切断する工程と、3)切断された端面を加熱する工程と、4)加熱された端面同士を接合・保持する工程と、5)接合部を再成形する工程を設け、非空気式タイヤの組成物としては、マレイン酸変性オレフィン系エラストマー100重量部に対し、含窒素複素環化合物を0.1〜3重量部、オレフィン系樹脂を50〜150重量部、スチレン系エラストマーを20〜80重量部、パラフィンオイルを50〜150重量部配合するのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非空気式タイヤの製造方法に関するもので、特に、自転車用、車椅子用、ゴルフカートなどの軽車両用の非空気式タイヤとして最適な製造方法を提供するものである。
【0002】
更に詳しくは、押出物の切断面を強固に接合し、長期にわたる苛酷な使用環境でも故障することがなく、更に、マテリアルリサイクル性にも優れた軽車両用の非空気式タイヤの製造方法であって、特に、タイヤをキャップやベースなどに区分して各々異なる材料を使用することによりタイヤ性能を向上させる上で有利な多色化を利用した非空気式タイヤにおいて、低コストで且つ簡易な製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
自転車用、車椅子用、ゴルフカートなどの軽車両用タイヤは空気式タイヤが主に使用されてきているが、近年、特にパンクレスなどの利点があることから非空気式タイヤが提案され一部実用化がされてきている。
【0004】
この非空気式タイヤは、通常、所謂ソリッドタイヤであり、図13は、その断面構造の一例を示す図である。図13(a)にて、タイヤ本体202はゴム材等から成る中実構造の環状体から構成されている。タイヤ本体202の両側面には溝部203がタイヤ一周にわたり形成される。図13(b)は、タイヤ本体202をリム206に嵌合させた図であり、図13(b)のリム端部205にタイヤの溝部203を嵌合させる。なお、タイヤの接地面には必要に応じて、トレッド溝が設けられる。
【0005】
図13にて、タイヤを組み付ける車輪の台部206をリム、リム206の両端205をリム端部と呼ぶ。ホイールとは、タイヤを嵌めている車輪のことで、リム206並びに、図示していないが、スポーク、ハブ等から構成されている。
【0006】
パンクしないタイヤとして、ソリッドタイヤ本体を中空構造にして、全体の軽量化と衝撃吸収効果を得るようにした自転車用、車椅子用、自動車用などの非空気式タイヤが提案されている。(特許文献1)
【0007】
また、フォークリフト等重量物の運搬や、建築現場及び工場内等産業車両用タイヤとして、キャップ部とベース部の貼り合わせ面を有するソリッドタイヤにて、走行中にこの貼り合わせ面での剥離を防止するために、ストリップワインド方式を用いてキャップ部とベース部を螺旋状に積み重ねた非空気式タイヤが提案されている。(特許文献2)ここで使用される材料は、天然ゴム、スチレンーブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)などの通常のゴムを使用するものであり、押出方法としては帯状のゴムを押出して螺旋状に積み重ねるストリップワインド方式である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−226105
【特許文献2】特開2004−359046
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非空気式タイヤの製造方法としては、インジェクションを利用する場合と押出を利用する場合が代表的である。前者は、使用する材料が1種類の場合は形状精度を良好にすることが可能であるが、2種類以上になると材料の射出位置の配置や射出量の制御が極めて複雑となる。また、金型もタイヤの寸法毎に一品一様となるため金型の製作に多大な費用を要する。一方、後者は、一品一様の金型を必要とせずに、押出機の口金、或いは必要に応じてプレフォームダイを変更することで、しかも2種類以上の材料を使用して種々のサイズのタイヤの製造が可能である。しかし、後者の方法は、押出物をタイヤ1本分の長さに切断し円環状に形成するために両端の切断面(切断端面)を接合する必要があるが、この切断面の接合強度が低くなって、使用中にこの接合部で剥離するという問題を生じやすい。さらに接合部に凹凸が生じるために使用中の乗り心地が悪いという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以上の課題を解決するために、押出物の切断端面を加熱接合し当該接合部を再成形する方法を提供し、これにより、非空気式タイヤの接合部の強度を向上させるとともに、乗り心地性や運動性能などのタイヤ性能を良好に発揮させ、長期にわたる苛酷な使用環境でも故障することのない非空気式タイヤを実現するものである。
より具体的には、本発明の非空気式タイヤは下記(1)〜(11)の構成から成る。
【0011】
(1)1)タイヤの材料となるエラストマー組成物を所定の形状に成形する工程と、2)定尺に切断する工程と、3)切断された両端面を加熱する工程と、4)加熱された端面同士を接合・保持する工程を有する非空気式タイヤの製造方法。
【0012】
また、本発明の非空気式タイヤにおいて、上記(1)に加えてさらに、下記(2)〜(11)の構成を含んでも良い。特に下記(2)〜(5)、(10)の非空気式タイヤは切断された端面を加熱し、端面同士を接合・保持し、更に再成形を加えることにより、端面の接合を強固なものとし且つ所定のタイヤ性能を良好に発揮する上で効果的である。また、下記(6)〜(9)の非空気式タイヤは、タイヤ本体のマテリアルリサイクル性を実現するものであり、地球環境保全の点で好ましい。
【0013】
(2)3)切断された端面の加熱工程において、所定温度の熱板を切断された両端面に接触させることにより両端面近傍のエラストマー組成物を加熱し、4)加熱された端面同士を接合・保持する工程においては、熱板を、両端面から離した後に端面同士を接合する上記(1)に記載の非空気式タイヤの製造方法。
【0014】
(3)4)加熱された端面同士を接合・保持する工程の後に、5)接合部を再成形する工程をさらに有する上記(1)または(2)に記載の非空気式タイヤの製造方法。
【0015】
(4)5)接合部を再成形する工程において、接合した端面部分を所定の金型で覆い接合部の形状を復元する上記(3)に記載の非空気式タイヤの製造方法。
【0016】
(5)5)接合部を再成形する工程において、筒状体の内面がタイヤの断面形状と同じでこれに切断刃を装着させるか又は筒状体そのものを切削治具として作製し、これをタイヤに被せてタイヤ周方向に移動させることで、接合部の変形部、たとえば凹凸部やバリ、を切削する上記(3)または(4)に記載の非空気式タイヤの製造方法。
【0017】
(6)前記エラストマー組成物の少なくとも一部が熱可逆架橋エラストマー組成物によって構成された上記(1)〜(5)に記載の非空気式タイヤの製造方法。
【0018】
(7)前記熱可逆架橋エラストマー組成物は、少なくともカルボニル含有基及び含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖もしくはその水素結合性架橋部位と共有結合性架橋部位とを併有する側鎖を有する熱可逆架橋エラストマー組成物によって構成された上記(6)に記載の非空気式タイヤの製造方法。
【0019】
(8)前記熱可逆架橋エラストマー組成物が、マレイン酸変性オレフィン系エラストマー、含窒素複素環化合物、オレフィン系樹脂、スチレン系エラストマーおよびパラフィンオイルを含む上記(6)に記載の非空気式タイヤの製造方法。
【0020】
(9)前記含窒素複素環化合物が含窒素複素環多官能アルコールであり、前記オレフィン系樹脂がポリプロピレンであり、前記スチレン系エラストマーが水添スチレン・イソプレン・ブタジエンブロック共重合体である上記(8)に記載の非空気式タイヤの製造方法。
【0021】
(10)前記の3)切断された端面の加熱工程の加熱手段は、前記熱可逆架橋エラストマー組成物に金属成分または磁性粉を添加し、端面を電磁誘導により加熱する方法であることを特徴とする上記(1)に記載の非空気式タイヤの製造方法。
(11)上記(1)〜(10)のいずれかの製造方法で製造された非空気式タイヤ。
【発明の効果】
【0022】
上記(1)にかかる本発明により、軽車両用などの非空気式タイヤにおいて、パンクレスであるとともに、円環状に形成する際の接合面を強固に接合し、長期にわたる苛酷な使用環境でも故障することがなく、特に、タイヤをキャップやベース或いはサイドなどに区分して各々異なる材料を用いることでタイヤ性能をより良く発揮するために有利な多色化を図った非空気式タイヤにおいて、より効率的で且つ簡易な製造方法を提供できる。
【0023】
上記(2)〜(5)、(10)にかかる本発明により、切断された端面を加熱し、端面同士を接合し、更に再成型を加えることによって端面の接合を強固なものとし、且つタイヤの接合部の形状を所定の形状に復元することによって、乗り心地性や運動性能などのタイヤ性能を良好に発揮する非空気式タイヤを製造することができる。
【0024】
上記(6)〜(9)にかかる本発明により、上記(1)〜(5)、(10)の本発明の効果の他に、熱可逆架橋エラストマー組成物をタイヤに使用しているため、環状に成形することが簡単であり、また、熱を加えることにより架橋が外れるため、タイヤの成形性に加え、マテリアルリサイクルも容易にした非空気式タイヤを提供できる。
【0025】
上記(11)にかかる本発明により、上記(1)〜(10)によるパンクレスで、かつ切断された端面の接合が強固であるとともに、マテリアルリサイクル性に優れた、自転車用、車椅子用、ゴルフカート用などの軽車両用途として最適な非空気式タイヤを提供できる。
【0026】
本発明は、上記のように、押出物の切断面を強固に接合し、接合時に生じた接合部の変形を元の形状に再成形する方法を示すものである。押出物を円環状に形成するために、切断された端面同士を加熱して接合させるが、この接合部は故障の起点になり易い。そのため、本発明では、接合面を溶融接合することで強固な接合を得ることができるようにしたものである。インジェクション法による場合は、製法上一般にこのような接合面は生じない。しかし、インジェクション法は複数種類の材料を使用する多色化には不向きな方法である。一方、タイヤの性能を高めるために不可欠なタイヤの多色化には押出法が有利である。然るに、押出法では上述のような接合面が生じるという問題があり、この問題を解決する為に、本発明で示す加熱工程、接合・保持工程及び再成型工程が必要となる。その結果、本発明により、乗り心地性や運動性能などのタイヤ性能を良好に発揮させ、長期にわたる苛酷な使用環境でも故障することのない軽車両用の非空気式タイヤの製造方法を提供できる。
【0027】
本発明は、押出法を用いるため、口金を変更することにより、また必要に応じてプレフォームダイも含めて変更することにより、種々のサイズの非空気式タイヤの作製が可能となるので、インジェクション法のように一品一様の金型を作製する必要がなく、製造コストを低く抑えた製造方法を提供できる。
【0028】
さらに、本発明は、熱可逆架橋エラストマー組成物を使用するので、加温により架橋を外すことが可能である。その結果、このエラストマーは物性を低下させずに繰り返し使用することができるので、このエラストマー部分を回収すれば、マテリアルリサイクルが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明におけるエラストマー組成物を所定の形状に成形する工程と定尺に切断する工程を示す図である。
【図2】図2は、本発明におけるタイヤを円環状に成形する工程を示す図である。
【図3】図3は、本発明の端面の加熱方法として熱板を用いた例を示す図である。
【図4】図4は、熱板を両端面から離した後に端面同士を接合した場合における接合部の変形の様子を示した図である。
【図5】図5は、熱板を端面に押し付けた状態で接合部の外へ移動した場合における接合部の変形の様子を示した図である。
【図6】図6は、本発明の再成形方法として、金型を用いる例を示す図である。
【図7】図7は、本発明の再成形方法として、筒状体内面がタイヤの断面形状と同じでこれを切削治具とした例を示す図である。
【図8】図8は、ピッカーバック型の2色押出機を用いて押出し物を作成する例を示す図である。
【図9】図9は、非空気式タイヤの断面形状とリムに嵌合した状態を示す図である。
【図10】図10は、非空気式タイヤの断面形状とリムに嵌合した状態を示す図である。
【図11】図11は、本発明における所定形状の押出と定尺切断、円環状巻き付け、接合・保持工程を示す図である。
【図12】図12は、非空気式タイヤ全体の斜視図で、中空孔と締付部材の様子を示した図である。
【図13】図13は、従来例の非空気式タイヤの断面図である。
【図14】図14は、本発明の電磁誘導により、切断された端面を加熱する例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は本発明の1)エラストマー組成物を所定の形状に成形する工程と、2)所定形状の成形物を定尺に切断する工程を示す図である。原料をペレット2の形状にてホッパー4から投入し、押出機3で混練し口金6により所定の形状の押出物1とする。装置5はタイヤ本体に中空部を設ける装置であり、必要に応じ設置することができる。更にこれをパイプ状にして例えばエアーを吹きこみようにすれば、タイヤ本体の中空部を冷却し、正確に所定の形状の中空形状とすることができる。定尺切断用コンベア8上で所定の寸法を測定し、カッター7でタイヤ1本分相当の長さに定尺切断する。タイヤ1本分相当の長さとは、タイヤ1本分の周長に、押出物の切断後の収縮分と、円環状に形成する際に接合部の変形を小さくするため切断面が平行な面になるように再切断が必要になった場合はこの再切断分とを加えた長さのことをいう。収縮分と再切断分を足した長さを余長と呼び、ここでの定尺とは、タイヤ1本分の周長にこの余長を加えた長さを意味する。なお、定尺切断用コンベア8上での長さ測定装置は省略している。
【0031】
所定の形状とは、ここでは、非空気式タイヤの形状をいう。その断面形状はたとえば、図9の101や図10の111はその例を示した図である。これらの形状は棒状或いはチューブ状(非空気式では中実構造)に近い形状であるから、所定形状を略棒状或いは略チューブ状と表現することもできる。図9(a)において、非空気式タイヤ101は、キャップ部102とベース部103を一体押出したもので、トレッド溝104、リムと嵌合させる溝部105を有し、図9(b)に示すリム端部109で嵌合し、更に中空孔106を有し、この中空孔106に図9(b)に示す締結部材110を通してタイヤとリムを更に強固に固定するものである。図9(b)の107は、このタイヤ101とリム108をリム端部109を介して嵌合させた状態を示す図である。また、図10(a)において、非空気式タイヤ111は、タイヤ本体部112とサイド部113を一体押出したもので、トレッド溝114、リムと嵌合させる溝部115を有し、図10(b)に示すリム端部119で嵌合し、更にサイド部の中空孔116に図10(b)に示す締結部材120を通してタイヤとリムを更に強固に固定するものである。
また、別工程で所定の断面形状を形成する場合や追加形成を施す場合には、図1の押出において形成する形状は所定形状と異なる形状でも良いが、図1の押出において、後工程での断面形成を考慮して最終形状(所定形状)に近い形状で押出しておくこともできる。その場合、図1の押出では、口金形状の加工を簡素化することもできる。
【0032】
図2は本発明のタイヤを円環状に成形する工程を示す図である。図1の切断コンベア8上でカッター7にて定尺切断後、定尺切断した押出物は送り出しコンベアに乗り、図2の送り出しコンベア9からドラム10へ送り出される。続いて、把持装置11にて押出物の先頭部を把持され、送りローラー12−1、12−2、12−3によって、巻き付けドラム10上に円環状に巻き付けられる。なお、巻き付けの際は、接合部の変形を小さくするため、切断面同士が正確に平行面となるように、必要に応じて押出物を再切断することもある。従って、加熱接合する端面とは、この再切断を行わない場合は押出工程での定尺切断面のことであり、再切断した場合は再切断面のことを指す。押出物1を円環状に巻き付けた後は、巻き付けドラム10上で、切断された端面を加熱し、両端面を接合することも可能であるし、巻き付けドラム10に後述の再成形装置を設置して再成形することも可能である。また、巻き付けドラム10とは異なる別のドラムに移載後、両端面を加熱し接合し、ついで再成形することも可能である。ドラム10は拡縮ドラムとして構成してもよく、その場合、タイヤを成形後、または、必要に応じて途中工程で別の装置へ容易に移載することができる。
【0033】
図3は、本発明の端面の加熱方法として熱板を用いた例を示した図である。すなわち、熱板15で切断された端面を加熱し、シリンダー14の先端に取り付けられた把持装置13で押出物の後端を把持して、切断された端面同士を接合する工程を示す。図3(a)は押出物を斜めに切断した場合における熱板15によるタイヤ端面の加熱方法を示す図で、図3(b)は垂直に切断した場合における熱板15によるタイヤ端面の加熱方法を示す図である。熱板15による加熱温度は、エラストマー組成物の材料によって異なるが、エラストマー組成物の軟化溶融する温度付近である。たとえば、後述のように概ね150〜300℃で、望ましくは概ね180〜270℃である。熱板15と端面の接触圧は適度に調節する必要がある。但し、熱板の面と端面は均一な面接触であることが、接合部の変形をより小さくする上で重要である。また、熱板と端面の接触時間は、エラストマー組成物の配合にもよるが概ね5秒〜5分、好適には1〜2分程度である。
【0034】
図3でのドラム10は、図2のドラム10をそのまま使用することもできる。
また、図11は、押出・定尺切断・円環状への巻き付け・切断された端面の加熱と接合、更には再成形を示す図であり、ここで使用する巻き付けドラム10−1、10−2は、図2で示したドラム10をそのまま使用することができる。
その際、図11に示したように、巻き付けドラムを10−1と10−2のように複数準備し、ドラム10−1上では押出物の巻き付け作業を行ない、ドラム10−2上では切断された端面を加熱し、接合・保持する作業、更には再成形作業を行えるように分けることもできる。ここでドラム10−1と10−2はモーター29−1と29−2で回転制御され、また、図示していないレール(C1−C2軸を中心とする)に沿って矢印方向に移動でき、巻き付け作業と、加熱〜接合・保持作業、更には再成形作業を各々のドラム上で交互に行うことができる。或いは、図2の巻き付けドラムと、加熱〜接合・保持ドラムを別のドラムとすることもできるが、ハンドリング性と工数の少なさから前者が望ましい。
【0035】
図4は、熱板を、両端面から離した後に端面同士を接合する場合における接合部の変形の様子を示した図である。図4(a)は押出物1の端面を熱板15に軽く接触させて加熱する工程、図4(b)は熱板15を押出物1の端面から離した後に矢印のように端面位置の外へ移動する工程、図4(c)は矢印の方向に端面同士を接合する工程を示す。図4(c)に示す16は接合により接合部が少し変形した状況を模式的に示したものである。
【0036】
図5は、熱板15と押出物1の端面の接触圧が図4より高く、且つ、熱板15と押出物1の端面が接触したまま熱板を接合部の外へ引き抜いた場合における接合部の変形の様子を示した図である。図5の(a)は切断された端面を図4(a)よりも熱板に強く接触させて加熱した状態を、図5(b)は、その後、熱板を、端面に接触させたまま矢印のように移動させた状態を、図5(c)は端面同士を図4(c)より強く接触させた状態を示したものである。この場合の接合部の変形部17は、図4の場合の変形部16よりも大きな変形となる。
【0037】
これらの図4および図5から分かるように、押出物1の端面同士の接合部に窪み(凹部)や段差、あるいは非接合部が発生しないように、均一な面接触で接合することが重要である。窪み(凹部)や段差、あるいは非接合部の発生によりこの部分の強度が弱くなる。図4および図5のようにすることにより、接合部に窪み(凹部)や段差、あるいは非接合部が発生しないようにすることができるので、接合強度の高い環状の非空気タイヤを製造することができる。
【0038】
本発明のエラストマーは加熱により溶融軟化するので、溶融状態の端面同士を突き合わせれば融着して強固な接合が得られる。しかし、その反面、加熱によりエラストマーが軟化流動して、熱板との接触圧が高いと接合面が潰れ、場合によってはエラストマーの一部が垂れ下がることも起こりうる。また、熱板を端面に強く接触させた状態で熱板を引き抜こうとするとエラストマーが引きずられて変形が大きくなる。従って熱板とエラストマー組成物の端面との接触圧を適度に調整する必要がある。また、端面同士を接触させる場合も、接合部の変形を小さくするためには、端面同士の接触圧を適度に調整する必要がある。
【0039】
尚、熱板の加熱方法の一例として、ステンレス鋼板、アルミ板、鉄板等にヒーター線を埋め込む方法がある。また、予め所定温度まで熱板をヒーター等で加熱してその都度端面に接触する方法がある。この場合には、接触による温度低下を小さくするために、熱板の材料として熱容量の大きな材料、たとえば、セラミックや陶器など、金属であればステンレス鋼、白金合金、アルミニウムなどがある。或いは、Ni-Cr系合金、Fe-Cr-Al系合金等の熱板を抵抗加熱などにより常時加熱する方法もある。また、切断された端面と熱板との分離をスムーズにするために、離型剤を熱板に塗布したりフッ素樹脂を熱板にコーティングしたりしても良い。
【0040】
本発明の熱可逆架橋エラストマー組成物の押出温度は150〜300℃、望ましくは180〜270℃の範囲で、150℃未満では充分に軟化せず押出不良となり易い。また、300℃を超えると組成物中の揮発成分や低分子量の配合剤が揮発したり分解したりして好ましくない。
切断された端面を加熱する温度は150〜300℃、望ましくは180〜270℃の範囲で、150℃未満では充分に軟化溶融せず端面同士の接合不良が発生しやすい。また、300℃を超えると上述のように組成物が劣化しやすくなる。
【0041】
切断された熱板を上述の温度で加熱し接合すると接合部は短時間で流動を始める。例えば、押出物の直径が30mmφ程度の場合、上記温度で1分程度加熱接合すると流動し始める。接合力は250kPa程度あれば充分である。端面全体が熱板に均一に接触していれば、端面と熱板間の圧力はある程度小さくても、接合界面が視認できないほど充分に接合している。端面を熱板で加熱する時間は、タイヤ材料の種類やタイヤサイズにもよるが、通常数秒から数十秒程度でも接合は可能である。このように小さな接合力や短時間でタイヤを接合できるので、大規模な装置は必要でなく、製造コストもかなり小さくできる。熱板の温度は、例えば、電気ヒーターを内部に組み込み、電流値を変化させることで狙いの温度に設定することができる。
【0042】
図6は、本発明の再成形方法として、金型を用いる例を示す図である。図6(a)において、18は金型で、金型18の温度を制御する電気ヒーターの電源を19にて示す。図6(b)は金型18を示す図で、20−1と20−2の2つ割型の場合を例示したものである。空洞部21はタイヤの断面形状と同じであり、再成形で余分なエラストマー組成物が発生した場合は、流路22を金型に設けておき取り除くことができる。なお、図示していないが、金型は移載装置によりタイヤの接合部の両サイド側へセットされ、金型の温度が所定温度に達したら金型を締め付けて元の形状へ再成形する。
【0043】
図7は、本発明の再成形方法として、筒状体内面がタイヤの断面形状と同じでこれを切削治具とした例を示す図である。図7(b)は筒状体23を示す図であり、24−1と24−2の2つ割型の場合を例示したものである。空洞部25はタイヤの断面形状と同じであり、26の部位(断面形状の周囲全体)に切断刃を装着するか又はこの部位を刃として作製し、これをタイヤに被せて図7(a)の矢印で示したようにタイヤ周方向に移動させることで、接合部の変形部や樹脂(ゴム)バリを切削する。26の部位は、図示していないが、電気ヒーター等で所定の温度に加熱することもできる。この図7に示す再成形法は、たとえば、図4や図5で示した変形部16や17が発生した場合に使用できるが、さらに図6においてバリが生じた場合にも使用することができる。
【0044】
図14は、電磁誘導により切断された端面を加熱する本発明の例を示す図である。図14(a)は加熱前の端面30−1と30−2を示すが、巻き付け工程で端面を再切断して端面同士を平行面となるように調整したものである。図14(b)はこの端面を電磁誘導で加熱する様子を模式的に示したもので、31はコイル、32は交流電源を示す。
エラストマー組成物中に金属成分や磁性を有する配合剤を添加すれば電磁誘導加熱を利用することができる。電磁誘導加熱は局所を加熱することができることと、非接触で加熱できる点で有利である。熱板での加熱は、切断された端面を熱板に均一に接触させ且つ接触圧を適切に制御しなければならないのに対し、電磁誘導加熱の場合はその必要がない。
【0045】
切断された端面の加熱方法は、その他に、輻射熱や熱風を利用することもできる。
これらの電磁誘導加熱、輻射熱や熱風による加熱や、図6、図7に示した再成形方法は、先に示した巻き付けドラム10上でも実施することができる。たとえば、i)エラストマー組成物の押出物を所定の形状に形成する工程、ii)押出物を定尺に切断しドラムに巻き付ける工程、iii)切断された両端面を加熱する工程、iv)加熱された端面同士を接合・保持する工程、v)接合部を再成形する工程の中で、ii)〜v)の工程で使用するドラムを同一とすることが、工数・精度・ハンドリング性・コストの上で優れているが、少なくともii)〜iv)の工程については同一のドラムを用いて製造することが望ましい。
【0046】
接合部の再成形方法としては、凸部分等の変形部をグラインダーで研磨することも利用できる。また、僅かな変形であれば簡単に研磨することで修復することができる。金型で再成形して若干のバリが残った場合なども研磨することで簡単に修復することができる。
接合部に段差ができると、リムとの嵌合が悪化し乗り心地性が劣り、場合によっては段差部に応力が集中して破壊に至る。このような段差を無くす為には、先ず原料が均一なこと、押出工程ではホッパーからの原料投入量とスクリューへの食い込み量が一定であること、押出機が一定温度に調整されていること、押出機内の圧力分布が一定で変動が少ないこと、ギヤポンプ等を用いて吐出量を一定にすること、押出後の引き取りコンベア速度を一定にし、且つコンベア間の乗り移りの速度比を適正化し一定に保持し残留歪を少なくすること、定尺切断工程では残留歪を最小にしてから切断すること、定尺切断精度は一般には押出物を走行させながら切断するよりも静止させて切断することが望ましい。巻き取り工程ではドラムの所定位置への送り出し精度とガイド機構の精度、端面の加熱工程では熱板の場合は端面の軟化度と、端面と熱板の面と面との位置精度と均一接触精度が重要であり、タイヤ全体の均一性の上では、タイヤが充分に冷却した後ドラムからタイヤを取り出すこと、金型での再成形では、2つ割金型の場合は左右の金型にガタがないこと、タイヤに金型を被せる時にタイヤと金型のセット位置が正確なことが大切である。
【0047】
図9は、本発明を用いて作製した非空気式タイヤの断面形状の例を示した図である。図9(a)において、101はタイヤ断面形状全体を示し、キャップ部を102、トレッドの溝を104、リム108の嵌合用溝105、中空孔を106で示す。図9(b)において、中空部106の中へ、締結部材110を通して、タイヤとリムを強固に固定することでリム外れを防止することができる。このように、本発明を用いて中空孔106を持ち、キャップ部102およびベース部103を有する複雑な構造を持つ非空気式タイヤも比較的容易に作製できる。
【0048】
図10は、本発明を用いて作製した非空気式タイヤの断面形状の他の例を示した図である。図10(a)は、タイヤ本体部112にサイド部113を付属させ、このサイド部に中空孔116を設け、この中空孔116に締結部材120を通してタイヤ111とリム118を更に強固に固定したものである。なお、このように2種類のエラストマー組成物でタイヤを構成するには、図8に示したピッカーバック型の2色押出機を用いれば良く、キャップとベース或いはタイヤ本体部とサイド部のような2色押出ができる。このように、本発明を用いることにより複雑な形状を有する非空気式タイヤも比較的容易に作製できる。
尚、図13に示す単色タイヤ等も本発明を用いて容易に作製できることも言うまでもない。
【0049】
図8は、本発明のピッカーバック型の2色押出機(2つの押出機3−1、3−2を有する)を用いた例を示す図である。図8にて、27はプレフォームダイ、28は口金を示す。また、押出機の口金の手前、或いはプレフォームダイがある場合はプレフォームダイの手前にギヤポンプを設置することで、吐出量の精度を向上させることができて好ましい。
【0050】
本発明におけるタイヤ本体部およびサイド部、又はキャップ部とベース部は一体物として成形加工されるエラストマー組成物である。このエラストマー組成物として、非空気式タイヤの少なくとも一部において、水素結合を用いた熱可逆架橋エラストマー組成物であるTHCラバー(Thermoreversible Hydrogen-bond Crosslinking Rubber)を用いることが好ましい。これにより、タイヤのリサイクル性を向上させることが可能となる。
【0051】
熱可逆架橋エラストマー組成物を含む樹脂やエラストマー組成物は、加温することで軟化し、容易に伸ばすことが可能なため、タイヤのリムへの脱着作業が簡単になる。そして、熱可逆架橋エラストマー組成物が樹脂やエラストマー組成物全体に占める割合は、必要に応じて決めることができる。また、熱可逆架橋エラストマー組成物は、溶融することが可能で、かつ、物性を低下させずに繰り返して使用することができる為、マテリアルリサイクルが可能である。
【0052】
熱可逆架橋エラストマー組成物としては、カルボニル基・ヒドロキシ基・オキシ基・エポキシ基・フェニル基など種々の官能基またはこれらの官能基か含窒素複素環を含む架橋部位、或いはこれらを側鎖として含有することができるが、少なくともカルボニル含有基及び含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖もしくはその水素結合性架橋部位と共有結合性架橋部位とを併有する側鎖を有する熱可逆架橋エラストマー組成物であることが、熱可逆架橋性を良好に発揮する上で好ましい。
【0053】
カルボニル含有基及び含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位は、カルボニル含有基が有するカルボニル基と、含窒素複素環が有するアミノ基とが水素結合を形成する。含窒素複素環は、架橋剤として含窒素複素環含有化合物を加えることにより配合してもよい。水素結合性架橋部位を構成するカルボニル化合物としては、例えば、カルボニル基、カルボキシル基、アミド基、エステル基、イミド基が挙げられる。
【0054】
熱可逆架橋エラストマー組成物は、マレイン酸変性オレフィン系エラストマー、含窒素複素環化合物、オレフィン系樹脂、スチレン系エラストマー、パラフィンオイルを含むものであることが好ましい。このように熱可逆架橋エラストマー組成物を構成することにより、良好な物性を持つとともに、高流動性で成形性が良好になる。
【0055】
熱可逆架橋エラストマー組成物の好ましい組成は、マレイン酸変性オレフィン系エラストマー100重量部に対し、含窒素複素環化合物を0.1〜3重量部、オレフィン系樹脂を50〜150重量部、スチレン系エラストマーを20〜80重量部、パラフィンオイルを50〜150重量部配合するのがよい。また、ここにおいて、含窒素複素環化合物は、含窒素複素環多官能アルコールであり、前記オレフィン系樹脂がポリプロピレンであり、前記スチレン系エラストマーが水添スチレン・イソプレン・ブタジエンブロック共重合体であることが好ましい。
【0056】
熱可逆架橋エラストマー組成物をタイヤに使用すると、環状に成形することが簡単であり、また、熱を加えることで架橋が外れるため、タイヤの成形性に加え、マテリアルリサイクルも容易である。すなわち、熱可逆架橋エラストマー組成物は、加温により架橋を外すことが可能であるため、このエラストマー部分を回収すれば、物性低下のない材料として、再度使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の非空気式タイヤ、または非空気式タイヤとホイールとの組立体は、比較的、軽荷重下での低速走行などが通常である自転車用、車椅子用、ゴルフカート用、リヤカー用など、各種の軽車両用の非空気式タイヤとして使用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1・・・押出物
6・・・口金
7・・・カッター
8・・・定尺切断用コンベア
9・・・送り出し用コンベア
10・・・巻き付けドラム
11・・・押出物先頭部の把持装置
13・・・押出物後端部の把持装置
15・・・熱板
16、17・・・接合部の変形部
18・・・金型(再成形用)
23・・・筒状体(再成形用)
29−1、29−2・・・ドラム10の回転用モーター
101、111・・・非空気式タイヤの断面形状
106、116・・・中空孔
110、120・・・締結部材
108、118、206・・・リム
201・・・非空気式タイヤの断面形状

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)エラストマー組成物を所定の形状に成形する工程、
2)前記組成物を定尺に切断する工程、
3)切断された両端面を加熱する工程、および
4)加熱された端面同士を接合・保持する工程
を有することを特徴とする非空気式タイヤの製造方法。
【請求項2】
3)切断された端面の加熱工程において、所定温度の熱板を切断された両端面に接触させることにより両端面近傍のエラストマー組成物を加熱することを特徴とし、
4)加熱された端面同士を接合・保持する工程においては、熱板を、両端面から離した後に端面同士を接合することを特徴とする、
請求項1に記載の非空気式タイヤの製造方法。
【請求項3】
4)加熱された端面同士を接合・保持する工程の後に、5)接合部を再成形する工程をさらに有することを特徴とする、請求項1または2に記載の非空気式タイヤの製造方法。
【請求項4】
5)接合部を再成形する工程において、接合した端面部分を所定の金型で覆い接合部の形状を復元することを特徴とする、請求項3に記載の非空気式タイヤの製造方法。
【請求項5】
5)接合部を再成形する工程において、内面がタイヤの断面形状と同じ筒状体に切断刃を装着させるか又は内面がタイヤの断面形状と同じ筒状体そのものを切削治具として作製し、当該筒状体をタイヤに被せてタイヤ周方向に移動させることにより、接合部の変形部を切削することを特徴とする請求項3または4に記載の非空気式タイヤの製造方法。
【請求項6】
前記エラストマー組成物の少なくとも一部が熱可逆架橋エラストマー組成物によって構成されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載の非空気式タイヤの製造方法。
【請求項7】
前記熱可逆架橋エラストマー組成物は、少なくともカルボニル含有基及び含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖もしくはその水素結合性架橋部位と共有結合性架橋部位とを併有する側鎖を有する熱可逆架橋エラストマー組成物によって構成されたことを特徴とする請求項6に記載の非空気式タイヤの製造方法。
【請求項8】
前記熱可逆架橋エラストマー組成物は、マレイン酸変性オレフィン系エラストマー、含窒素複素環化合物、オレフィン系樹脂、スチレン系エラストマーおよびパラフィンオイルを含む請求項6に記載の非空気式タイヤの製造方法。
【請求項9】
前記含窒素複素環化合物は含窒素複素環多官能アルコールであり、および/または、前記オレフィン系樹脂はポリプロピレンであり、および/または、前記スチレン系エラストマーは水添スチレン・イソプレン・ブタジエンブロック共重合体であることを特徴とする請求項8に記載の非空気式タイヤの製造方法。
【請求項10】
前記の3)切断された端面の加熱工程の加熱手段は、前記エラストマー組成物に金属成分または磁性粉を添加し、端面を電磁誘導により加熱する方法であることを特徴とする請求項1に記載の非空気式タイヤの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の方法によって製造された非空気式タイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−76361(P2012−76361A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223320(P2010−223320)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】