説明

非細胞性百日咳ワクチンおよびその製造方法

【課題】 Bordetella pertussisの線毛性凝集原の新規な製剤とその製造方法の提供。
【解決手段】 細胞ペーストからの線毛性凝集原の抽出と抽出物の濃縮・精製が関与する多工程手順によって、Bondetella菌株、特にB.pertussis菌株から、線毛性凝集原製剤が得られる。線毛性凝集原製剤を用いて、百日咳菌毒素もしくはそれのトキソイド、69kDa蛋白および線維状ヘマグルトニンならびに他のBordetella抗原などの他の百日咳抗原を含む非細胞性百日咳ワクチンを得ることができる。そのようなワクチンは、危険性のあるヒト群の70%以上に保護を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、細胞性百日咳ワクチン、その成分およびその製造方法に関するものである。
【0002】
関連出願に関する参照
本出願は、1995年5月4日出願の同時係属中の米国特許出願08/433646号の一部継続出願である。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
百日咳は、Bordetella pertussisによって引き起こされる重度の非常に伝染性が強い上気道感染である。世界保健機構は、年間6000万人の百日咳患者があり、0.5/100万の割合でそれに関連する死者が出ていると推算している(参考文献1。本明細書を通じて、本発明が関係する最新技術についてより詳細に説明することを目的として、各種参考文献が括弧を施して引用される。各引用についての完全な文献情報が明細書末尾の、請求の範囲の直前にある。それにより、これらの参考文献の開示内容は、引用によって本開示に含まれる)。非予防接種群では、百日咳の発生率は5歳以下の小児において80%という高率である(参考文献2)。百日咳は一般に子供の病気と考えられているが、青少年および成人において臨床的および無症候性の疾患であることを示す証拠が多くなっている(参考文献3、4および5)。
【0004】
1940年代における化学的および熱的に不活化したB.pertussis微生物からなる全細胞ワクチンの導入によって、B.pertussisが原因の百日咳の発生率は大幅に低下した。全細胞ワクチンについての効力は、患者の定義によって決まるが、95%以下であると推定されている(参考文献6)。B.pertussisに感染すると、一生続く免疫が得られるが、全細胞ワクチンによる免疫感作後に保護効果の低下を示す証拠が増えている(参考文献3)。全細胞百日咳ワクチン接種、反応原性(reactogenicity)および重篤な副作用との間の関係について言及する報告がいくつか行われたことから、ワクチン接種が低下し、結果的に新たな流行が起こった(参考文献7)。さらに最近では、所定成分百日咳ワクチンが開発されている。

所定成分百日咳ワクチン用の抗原
各種の非細胞性百日咳ワクチンが開発されており、それにはBordetella百日咳抗原、百日咳菌毒素(PT)、線維状ヘマグルトニン(haemagglutonin)(FHA)、69kDA外膜蛋白(ペルタクチン(pertactin))および線毛性凝集原などがある(後述の表1参照。表は明細書の末尾にある。)。

百日咳菌毒素
百日咳菌毒素は、ADP−リボシルトランスフェラーゼ活性を有する細菌毒素のA/B類の一種である外毒素である(参考文献8)。これら毒素のA部分は、ADP−リボシルトランスフェラーゼ活性を示し、B部分は毒素の宿主細胞受容体への結合とその作用部位へのAの転位に介在する。PTはさらに、B.pertussisの線毛上皮細胞への付着を促進し(参考文献9)、B.pertussisによる巨食細胞の侵襲においてある役割を果たす(参考文献10)。
【0005】
非細胞性百日咳ワクチンはいずれも、主要な毒性因子であり保護抗原として提案されているPTを含むものであった(参考文献11および12)。B.pertussisによる自然感染により、PTへの体液媒介性および細胞媒介性の両方の応答が生じる(参考文献13および17)。乳児は胎盤由来の抗PT抗体を持ち(参考文献16および18)、抗PT抗体を有するヒト初乳は、エアロゾル感染に対するマウスの受動保護において有効であった(参考文献19)。非細胞性ワクチンによる免疫感作後には、PTサブユニットに対する細胞媒介性免疫(CMI)応答が明らかになっており(参考文献20)、全細胞ワクチン接種後にはPTに対するCMIが応答が生じている(参考文献13)。全細胞ワクチンまたは成分ワクチン中の化学的に不活化されたPTは動物モデルおよびヒトにおいて保護効果を有する(参考文献21)。さらに、サブユニットS1に特異的なモノクローナル抗体は、B.pertussisに対する保護を行う(参考文献22および23)。
【0006】
PTの主要な病態生理学的効果は、それのADP−リボシルトランスフェラーゼ活性によるものである。PTはNADからGjグアニンヌクレオチド結合蛋白へのADP−リボースの転移を触媒し、それによって細胞のアデニル酸シクラーゼ調節系を障害する(参考文献24)。PTはさらに、巨食細胞およびリンパ球の炎症部位への移動を防止し、好中球介在の食作用および殺細菌を妨害する(文献25)。多くのin vitroおよびin vivoのアッセイを用いて、ウシトランスジューシンのADP−リボシル化(文献26)、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の群形成アッセイ(参考文献27)、ヒスタミン感作(文献28)、白血球増加症およびNADグリコヒドロラーゼなどのS1および/またはPTの酵素活性が評価されている。PT曝露を受けると、CHO細胞は特徴的な群形成形態を取る。この現象は、PTの結合とその後の転位およびS1のADP−リボシルトランスフェラーゼ活性に対して依存性であり、CHO細胞群形成アッセイはPT完全毒素の完全性および毒性を調べるのに広範囲に使用されている。

線維状ヘマグルトニン
線維状ヘマグルトニンは、大きい(220kDa)無毒性ポリペプチドであり、細菌のコロニー形成時におけるB.pertussisの上気道線毛細胞への付着を媒介する(参考文献9、29)。自然感染により、抗FHA抗体および細胞媒介性免疫が誘発される(参考文献13、15、17、30および31)。抗FHA抗体は、ヒト初乳において認められ、やはり胎盤を通じて伝達される(参考文献17、18および19)。全細胞性または非細胞性の百日咳ワクチンによる予防接種により抗FHA抗体が生じ、FHAを含む非細胞性ワクチンによってはさらに、FHAに対するCMI応答が誘発される(参考文献20および32)。FHAは、能動免疫または受動免疫後でのマウスの呼吸系感作モデルにおける保護抗原である(参考文献33および34)。しかしながら、FHA単独では、マウスの脳内感作力アッセイにおいて保護を示さない(参考文献28)。

69kDa外膜蛋白(ペルタクチン)
69kDa蛋白は、最初はB.bronchisepticaから確認された外膜蛋白である(参考文献35)。それはB.bronchisepticaに対する保護抗原であることが明らかになっており、その後、B.pertussisおよびB.parapertussisの両方で確認されている。69kDa蛋白は、真核細胞に直接結合し(参考文献36)、B.pertussisによる自然感染によって、抗P.69体液応答を誘発し(参考文献14)、P.69も細胞介在性免疫応答を誘発する(参考文献17、37および38)。全細胞ワクチンまたは非細胞性ワクチンによる予防接種によって抗P.69抗体が誘発され(参考文献32および39)、非細胞性ワクチンによってP.69CMIが誘発される(参考文献39)。ペルタクチンは、B.pertussisによるエアロゾル感作に対してマウスを保護し(参考文献40)、FHAとの併用によって、B.pertussisに対する脳内感作試験において保護を示す(参考文献41)。ポリクローナルまたはモノクローナルの抗P.69抗体の受動的転移によっても、エアロゾル感作に対してマウスが保護される(参考文献42)。
【0007】
凝集原
B.pertussisの血清型は、その凝集性線毛によって決まる。WHOは、1型、2型および3型の凝集原(Agg)が交差保護性ではないことから、全細胞ワクチンにこれらの凝集原を含ませることを推奨している(参考文献43)。Agg1は非線毛性であって全てのB.pertussis菌株で認められるのに対して、血清型2型および3型Aggは線毛性である。自然感染または全細胞性もしくは非細胞性のワクチンによる免疫感作によって、抗Agg抗体が誘発される(参考文献15および32)。マウスにおいて、エアロゾル感染後に、Agg2およAgg3によって、特異的な細胞介在性免疫応答を生じさせることができる(参考文献17)。Agg2およびAgg3は、マウスにおいて呼吸系感作に対する保護効果を持ち、抗凝集原を含むヒト初乳も、このアッセイで保護を示す(参考文献19、44、45)。

非細胞性ワクチン
最初に開発された非細胞性ワクチンは、サトウ(Sato)らの2成分PT+FHAワクチン(JNIH6)であった(参考文献46)。このワクチンは、B.pertussis Tohama株の培養上清からのPT抗原およびFHA抗原の同時精製と、それに続くホルマリントキソイド化によって製造された。1981年以降、各種製造業者からの各種成分の非細胞性ワクチンを用いて、日本の小児の百日咳に対する免疫感作が奏功して、結果的に疾患の発生率が大幅に低下している(参考文献47)。JNIH6ワクチンおよび単一成分PTトキソイドワクチン(JNIH7)について1986年にスウェーデンで大規模な治験での試験が行われている。
【0008】
最初の結果は、全細胞ワクチンについて報告されている効力より低い効力を示していたが、追跡調査試験では、血清学的方法によって診断される比較的軽い疾患に対しては、より有効であることが明らかになっている(参考文献48、49、50、51)。しかしながら、これらのワクチンにおいては、ホルマリン不活化PTの毒性への復帰の現象を示す証拠があった。これらのワクチンはさらに、感染に対してではなく、疾患に対して保護作用があることが認められている。
【0009】
現在、多くの新たな非細胞性百日咳ワクチンが評価を受けており、それにはPT、FHA、P.69および/または凝集原の併用が含まれており、これらは表1に挙げてある。化学的無毒化のいくつかの方法が、PTに対して行われており、それにはホルマリン(参考文献46)、グルタルアルデヒド(参考文献52)、過酸化水素(参考文献53)およびテトラニトロメタン(参考文献54)による不活化などがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そのように、現在市販されている非細胞性百日咳ワクチンは、適切な免疫原型の適切な抗原の適切な製剤が含まれていて、百日咳に対して感受性のヒトの群において所望のレベルの効力を得ることができていない。
【0011】
そこで、特定の抗原を特定の相対量で含む有効な非細胞性百日咳ワクチンならびにその製造方法を提供することが望ましいものと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
本発明は、非細胞性百日咳ワクチン製剤、その成分、そのようなワクチンおよびその成分の製造方法、ならびにその使用方法に関するものである。
【0013】
本発明の一態様によれば、Bordetella菌株からの凝集原製剤の製造方法において、
(a)Bordetella菌株の細胞ペーストを得る工程
(b)該細胞ペーストから線毛性凝集原を選択的に抽出して、凝集原を含む第1の上清と第1の残渣沈澱物を得る工程
(c)第1の残渣沈澱から第1の上清を分離する工程;
(d)第1の上清を、線毛性凝集原を含む透明上清と非凝集原汚染物を含む第2の沈澱物を得るだけの温度および時間でインキュベーションする工程;
(e)透明上清を濃縮して、粗線毛性凝集原を含有する溶液を得る工程;
(f)粗線毛溶液から凝集原を精製して、凝集原製剤を得る工程を有してなる方法が提供される。
【0014】
Bordetella菌株は、B.pertussisであることができる。第1の上清は、約50℃〜約100℃、さらには約75℃〜約85℃、好ましくは約80℃の温度でインキュベーションすることができる。インキュベーション時間は、約10分間〜約60分間、好ましくは約30分間とすることができる。線毛性凝集原の細胞ペーストからの選択的抽出は、細胞ペーストを約1M〜約6Mの尿素を含む緩衝液に分散させることで行うことができる。特定の実施態様においては、第1の上清を濃縮してから、透明上清を得るような時間および温度でインキュベーションを行う。
【0015】
透明上清の濃縮は、透明上清からの線毛凝集原の沈澱と、得られた上清からの線毛性凝集原の沈澱の分離と、沈澱した線毛性凝集原の可溶化などの簡便な手段によって行うことができる。沈澱形成は、透明上清に、分子量約8000のポリエチレングリコールなどのポリエチレングリコールを加えることで行うことができる。そのような沈澱形成で使用されるポリエチレングリコールの濃度は、約3%〜約5%、好ましくは約4.3%〜約4.7%として、透明上清からの前記線毛性凝集原の沈澱を行うことができる。
【0016】
線毛性凝集原は、カラムクロマトグラフィーによって粗線毛溶液から精製することができ、カラムクロマトグラフィーには、セファデックス(Sephadex)6Bおよび/またはPEIシリカカラムクロマトグラフィー等のゲル濾過などがあり得る。本発明の特定の態様において凝集原は、例えばカラムクロマトグラフィーからの溶出液(run−through)の無菌濾過によって滅菌された無菌凝集原製剤として提供される。特定の実施態様においては、無菌線毛性凝集原製剤は、アルム(Alum)などの無機塩アジュバントに吸着される。
【0017】
本発明の特定の態様においては、実質的に凝集原1を含まない線毛性凝集原2(Agg2)および線毛性凝集原3(Agg3)を含むBordetella菌株から得られる線毛性凝集原製剤が提供される。凝集原1は反応原性であるB.pertussisのリポオリゴ糖(LOS)であることが報告されていることから、実質的にLOSを含まない線毛性凝集原の提供はそれによる反応原性を低下させるものである。
【0018】
Agg2のAgg3に対する重量比は、そのような線毛性凝集原製剤では約1.5:1〜約2:1とすることができる。本発明の特定の実施態様においては、本発明で提供される方法によって製造される線毛性凝集原製剤が提供される。

本発明のさらに別の態様では、本発明で提供される線毛性凝集原製剤を有してなる免疫原性組成物が提供される。その免疫原性組成物は、Bordetellaによって生じる疾患からワクチンによって免疫感作された宿主を保護するためにin vivoで使用されるワクチンとして製剤することができ、1以上の他のBordetella抗原を含むことができる。その1以上の他のBordetella抗原は、線維状ヘマグルチニン、69kDa外膜蛋白、アデニル酸シクラーゼ、Bordetellaリポオリゴ糖、外膜蛋白ならびに百日咳菌毒素もしくはそのトキソイドであることができ、それらの遺伝子的に無毒化された類縁体も含まれる。

本発明のさらに別の態様においては、本発明で提供される免疫原性組成物は、1以上の非Bordetella免疫原を有することができる。そのような非Bordetella免疫原は、ジフテリア菌トキソイド、破傷風菌トキソイド、Haemophilusの莢膜多糖類、Haemophilusの外膜蛋白、B型肝炎表面抗原、小児麻痺、おたふくかぜ、はしか、および/または風疹などがあり得る。
【0019】
本発明で提供される免疫原性組成物はさらにアジュバントを含有することができ、そのようなアジュバントには、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、クイル(Quil)A、QS21、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、糖脂質類縁体、アミノ酸のオクタデシルエステルまたはリポ蛋白などがあり得る。

本発明の具体的な態様によれば、B.pertussisによる感染によって引き起こされる疾患の症例に対して危険性のあるヒト群を保護するためのワクチン組成物であって、その危険群の構成員の70%以上の範囲まで保護を提供するべく選択された相対量で、精製された形態での百日咳菌トキソイド、線維状ヘマグルチニン、ペルタクチンおよび凝集原を含有してなるワクチン組成物が提供される。
【0020】
そのようなワクチン組成物は、約5〜約30μg窒素の百日咳菌トキソイド、約5〜約30μg窒素の線維状ヘマグルチニン、約3〜約15μg窒素のペルタクチン、ならびに約1〜約10μg窒素の凝集原を含有することができる。

ある具体的な実施態様においてワクチンは、Bordetellaの百日咳菌トキソイド、線維状ヘマグルチニン、69kDa蛋白および線毛性凝集原を、約10:5:5:3の重量比で含むことができ、その場合、ヒトへの1回用量に、百日咳菌トキソイド約10μg、線維状ヘマグルチニン約5μg、69kDa蛋白約5μgおよび線毛性凝集原約3μgを含有させることができる。さらに別の特定の実施態様においてワクチンは、百日咳菌トキソイド、線維状ヘマグルチニン、69kDa蛋白および線毛性凝集原を、約20:20:5:3の重量比で含むことができ、その場合、ヒトへの1回用量に、百日咳菌トキソイド約20μg、線維状ヘマグルチニン約20μg、69kDa蛋白約5μgおよび線毛性凝集原約3μgを含有させることができる。さらに別の特定の実施態様においてワクチンは、百日咳菌トキソイド、線維状ヘマグルチニン、69kDa蛋白および線毛性凝集原を、約20:10:10:6の重量比で含むことができ、その場合、ヒトへの1回用量に、百日咳菌トキソイド約20μg、線維状ヘマグルチニン約10μg、69kDa蛋白約10μgおよび線毛性凝集原約6μgを含有させることができる。
【0021】
21日以上の期間にわたる痙攣性の咳があって培養で確認された細菌感染のある患者に関しては、本発明のワクチン組成物が提供する危険性のあるヒト群に対する保護の程度は、約80%以上、好ましくは約85%以上であり得る。1日以上の期間の咳を有する軽度の百日咳患者に関しては、危険性のあるヒト群に対する保護の程度は、約70%以上である。
【0022】
ワクチンの凝集原成分は、凝集原1を実質的に含まない線毛性凝集原2(Agg2)および線毛性凝集原3(Agg3)を含有するものである。Agg2のAgg3に対する重量比は約1.5:1〜約2:1とすることができる。
【0023】
本発明において提供されるワクチンには、破傷風菌トキソイドおよびジフテリア菌トキソイドを併用して、DTPワクチンを提供することができる。1実施態様においては、ワクチンは約15Lfのジフテリア菌トキソイドと約5Lfの破傷風菌トキソイドを含む。
【0024】
さらに、ワクチンはアジュバント、特にはアルム(Alum)を含むこともできる。
【0025】
そのような特定の実施態様において、免疫原性組成物は、それに含まれる各抗原に対してある免疫応答特性(profile)を与え、その応答特性は、全細胞百日咳ワクチンによって得られるものと実質的に等価である。

本発明のさらに別の態様においては、Bordetellaによって生じる疾患に対して宿主を免疫感作する方法であって、ヒトなどの宿主に対して、本発明で提供される免疫原性組成物もしくはワクチンを免疫的に有効な量で投与する工程を有してなる方法が提供される。
【0026】
本発明のさらに別の態様においては、B.pertussisによる感染によって生じる疾患に対して、危険性のあるヒト群を免疫感作する方法であって、危険性のあるヒト群の構成員に対して、本発明で提供されるワクチン組成物を免疫的に有効な量で投与して、危険群の構成員の約70%以上に保護を与える方法が提供される。

本発明の利点には、非細胞性百日咳ワクチンに含有させるのに好適な免疫原性凝集原製剤を簡単な方法で製造して、そのようなワクチンの効力を高めることができるというものがある。
【0027】
本発明によって提供される凝集原製剤は、ワクチンによって免疫感作される宿主をB.pertussisなどのBordetellaによって生じる疾患から保護するための非細胞性の多成分ワクチン製剤において用途を有するものである。
【0028】
特に、本発明で提供される凝集原製剤を含む免疫原性組成物は、二重盲検ヒト効力治験での評価向けに、米国政府の国立アレルギー・感染症研究所(National Institute of Allergy and Infectious Diseases:NIAID)によって選択されており、それにより、特定の当業者に対して、その組成物が対象疾患(百日咳)の予防にある程度有効であることを示すだけの根拠が確立された。この治験は、本米国特許出願の出願日現在で継続中である。その治験の対象(本発明で提供されるワクチン)は、有用性がかなり予測できるものであるという要求を満足するものであった。

図面の簡単な説明
本発明は、添付の図面を参照しながら、以下の詳細な説明および実施例からさらに詳細に理解される。
【0029】
図1は、本発明の一態様によるBordetella菌株からの凝集原製剤の単離手順の図式的フローシートである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明の一態様によるBordetella菌株からの凝集原製剤の単離手順の図式的フローシートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
一態様において本発明は、Bordetella菌株からの凝集原製剤を製造するために用いることができる新規な方法を提供する。図1について説明すると、Bordetella菌株からの凝集原製剤の製造方法のフローシートが示してある。図1からわかるように、B.pertussis細胞ペーストなどの凝集原を含むBordetella細胞ペーストを、10mM リン酸カリウム、150mM NaClおよび4M尿素などの尿素含有緩衝液で抽出して、細胞ペーストから凝集原を選択的に抽出することで、凝集原を含む第1の上清(sp1)と第1の残渣沈澱物(ppt1)を得る。第1の上清(sp1)を、遠心分離などによって、第1の残渣沈澱物(ppt1)から分離する。その残渣沈澱物(ppt1)は廃棄する。次に、透明上清(sp1)を、例えば100〜300kDa NMWL膜フィルターを用いて、例えば10mM リン酸カリウム/150mM NaCl/0.1% トリトンX−100に対して濃縮・ダイアフィルトレーションを行うことができる。
【0032】
次に、第1の上清を、凝集原を含む透明上清(sp2)と非凝集原汚染物を含む第2の廃棄沈澱物(ppt2)を得るだけの温度および時間でインキュベーションする。適切な温度としては、約50℃〜約100℃、さらには約75℃〜約85℃などがあり、適切なインキュベーション時間としては、約1分間〜約60分間などがある。次に、透明上清を、例えば分子量約8000のポリエチレングリコール(PEG8000)を最終濃度約4.5±0.2%となるまで加え、約30分間以上ゆっくり撹拌することで濃縮して、第3の沈澱物(ppt3)を得て、それを遠心にて回収することができる。残った上清sp3は廃棄する。
【0033】
この第3の沈澱物(ppt3)を、例えば、10mM リン酸カリウム/150mM NaClを含有する緩衝液で抽出して、粗線毛性凝集原含有溶液を得る。その粗線毛溶液に1M リン酸カリウムを加えて、それをリン酸カリウムに関して約100mMとすることができる。別法として、熱処理した線毛性凝集原の透明上清を、セファロースCL6Bなどのゲルを用いるゲル濾過クロマトグラフィーによって沈澱形成を行わずに精製することができる。次に、粗溶液中の線毛性凝集原を、PEIシリカカラムを通過させる等のカラムクロマトグラフィーによって精製して、溶出液中の線毛性凝集原製剤を得る。
【0034】
この線毛性凝集原含有溶出液をさらに、100〜300kDa NMWL膜を使用する10mM リン酸カリウム/150mM NaClを含む緩衝液に対して濃縮・ダイアフィルトレーションすることができる。凝集原製剤は、≦0.22μm膜フィルターによる濾過によって滅菌して、線毛性凝集原2および3を含む最終精製線毛性凝集原製剤を得ることができる。
【0035】
本発明は、凝集原1を実質的に含まない線毛性凝集原2(Agg2)および線毛性凝集原3(Agg3)を含むBordetella菌株からの凝集原製剤を含むものである。Agg2のAgg3に対する重量比は、約1.5:1〜約2:1とすることができる。そのような線毛性凝集原製剤は、本発明で提供され上記で詳細に説明した方法によって製造することができる。本発明はさらに、本発明で提供される線毛性凝集原製剤を含む免疫原性組成物(ワクチンを含む)も含むものである。そのようなワクチンには、線維状ヘマグルチニン、60kDa外膜蛋白および百日咳菌毒素もしくはそれのトキソイド(文献68に記載のPTの遺伝子的に無毒化した類縁体を含む)のような他のBordetella免疫原、ならびにジフテリア菌トキソイド、破傷風菌トキソイド、Haemophilusの莢膜多糖類、Haemophilusの外膜蛋白、B型肝炎表面抗原、小児麻痺、おたふくかぜ、はしか、および/または風疹のような非Bordetella免疫原などがあり得る。各Bordetella免疫原をそれぞれアジュバント(例:アルム(Alum))に吸収させて、本発明で提供されるワクチン中に特定の相対量で抗原を含有するワクチンを簡便かつ迅速に得る。
【0036】
特定の実施態様において本発明は、以下の特性を有するワクチンを提供するものであり(ここで使用されるμg蛋白は、精製濃縮物について実施されるケルダール試験の結果に基づくものであり、蛋白窒素のμg数として表現されたものである)、そのいずれも筋肉注射によって投与することができる。

(a)CP10/5/5/3DT
ジフテリア菌トキソイドおよび破傷風菌トキソイドを併用した成分百日咳ワクチンの一つの製剤を、CP10/5/5/3DTと称した。CP10/5/5/3DTの各0.5mLヒト用量を、ほぼ以下の含有量となるように製剤した。
【0037】
10μg 百日咳菌トキソイド(PT)
5μg 線維状ヘマグルトニン(FHA)
5μg 線毛性凝集原2および3(FIMB)
3μg 69kDa外膜蛋白
15Lf ジフテリア菌トキソイド
5Lf 破傷風菌トキソイド
1.5mg リン酸アルミニウム
0.6% 2−フェノキシエタノール(保存剤)

(b)CP20/20/5/3DT
ジフテリア菌トキソイドおよび破傷風菌トキソイドを併用した成分百日咳ワクチンの別の製剤を、CP20/20/5/3DTと称した。CP20/20/5/3DTの各0.5mLヒト用量を、ほぼ以下の含有量となるように製剤した。
【0038】
20μg 百日咳菌トキソイド(PT)
20μg 線維状ヘマグルトニン(FHA)
5μg 線毛性凝集原2および3(FIMB)
3μg 69kDa外膜蛋白
15Lf ジフテリア菌トキソイド
5Lf 破傷風菌トキソイド
1.5mg リン酸アルミニウム
0.6% 2−フェノキシエタノール(保存剤)

(c)CP10/5/5DT
ジフテリア菌トキソイドおよび破傷風菌トキソイドを併用した成分百日咳ワクチンのある製剤を、CP10/5/5DTと称した。CP10/5/5DTの各0.5mLヒト用量を、ほぼ以下の含有量となるように製剤した。
【0039】
10μg 百日咳菌トキソイド(PT)
5μg 線維状ヘマグルトニン(FHA)
5μg 線毛性凝集原2および3(FIMB)
15Lf ジフテリア菌トキソイド
5Lf 破傷風菌トキソイド
1.5mg リン酸アルミニウム
0.6% 2−フェノキシエタノール(保存剤)

(d)CP20/10/10/6DT
ジフテリア菌トキソイドおよび破傷風菌トキソイドを併用した成分百日咳ワクチンのさらに別の製剤を、CP20/10/10/6DTと称した。CP20/10/10/6DTの各0.5mLヒト用量を、ほぼ以下の含有量となるように製剤した。
【0040】
20μg 百日咳菌トキソイド(PT)
10μg 線維状ヘマグルトニン(FHA)
10μg 線毛性凝集原2および3(FIMB)
6μg 69kDa外膜蛋白(69kDA)
15Lf ジフテリア菌トキソイド
5Lf 破傷風菌トキソイド
1.5mg リン酸アルミニウム
0.6% 2−フェノキシエタノール(保存剤)

他のBordetella免疫原、百日咳菌毒素(例えば、本発明の譲受人に譲渡され引用によって本明細書に含まれるクラインら(Klein et al.)の米国特許5085862号に記載のような、それの遺伝子的に無毒化された類縁体を含む)、FHAおよび69kDa蛋白は、以下に記載のような各種方法によって製造することができる。

PTの精製
PTは、従来の方法を用いて、B.pertussis菌株の培養上清から単離することができる。例えば、セクラ(Sekura)らの方法(参考文献55)を用いることができる。PTの単離は、最初に培養上清を色素リガンドゲル充填剤(Affi−Gel Blue;Bio−Rad Laboratories,Richmond,CA)を充填したカラムに吸収させることで行う。このカラムから、0.75M 塩化マグネシウムなどの高濃度の塩によってPTを溶離させ、塩を除去した後に、臭化シアンで活性化したセファロースにフェチュインを結合させた構成のフェチュイン−セファロースアフィニティ充填剤のカラムに通す。PTは、4M マグネシウム塩を用いて、フェチュインカラムから溶離させる。
【0041】
別法として、アイロンズら(Irons et al、参考文献56)の方法を用いることができる。培養上清を、予めヘパトグロビンが共有結合的に結合したCNBr活性化セファロース4Bカラムに吸収させる。PTをpH6.5で吸収剤に結合させ、段階的にpHを10まで変化させながら、0.1M トリス/0.5M NaCl緩衝液を用いて、カラムから溶離させる。
【0042】
別法として、1987年11月10日にスコット(Scott)らに与えられ、引用によって本明細書に含まれる米国特許4705686号に記載の方法を用いることができる。この方法では、B.pertussisの培養上清もしくは細胞抽出物を、内毒素は吸着するがBordetella抗原は通過させるかあるいは内毒素から分離させるだけの能力を有するアニオン系イオン交換樹脂のカラムに通す。
【0043】
別法としてPTは、本願の譲受人に譲渡され、引用によって本明細書に含まれる欧州特許336736号に記載のような、パーライトクロマトグラフィーを用いて精製することができる。

PTの無毒化
PTを無毒化して、最終ワクチンの副作用を起こし得る望ましくない活性を除去する。各種の従来の化学的無毒化法を使用することができ、それにはホルムアルデヒド、過酸化水素、テトラニトロメタンまたはグルタルアルデヒドによる処理などがある。
【0044】
例えば、ムノズ(Munoz)らの報告(参考文献57)に記載の手順の変法を用いて、グルタルアルデヒドによってPTを無毒化することができる。この無毒化方法では、精製PTを、0.01M リン酸緩衝生理食塩水を含む溶液中でインキュベーションする。溶液をグルタルアルデヒド0.05%とし、混合物を室温で2時間インキュベーションし、L−リシンで0.02Mとする。混合物をさらに室温で2時間インキュベーションし、0.01M PBSに対して2日間透析する。
【0045】
特定の実施態様では、欧州特許336736号の無毒化方法を用いることができる。すなわち、PTを以下のようにしてグルタルアルデヒドで無毒化することができる。
【0046】
0.22Mで塩化ナトリウムを含む精製PTの75mMリン酸カリウム溶液(pH8.0)を等量のグリセリンで希釈して、蛋白濃度を約50〜400μg/mLとする。溶液を加熱して37℃とし、グルタルアルデヒドを最終濃度0.5%(容量基準)となるように加えて無毒化を行う。混合物を37℃で4時間経過させ、アスパラギン酸(1.5M)を加えて、最終濃度0.25Mとする。混合物を室温で1時間インキュベーションし、0.15Mで塩化ナトリウムと5%でグリセリンを含むpH8.0の10mM リン酸カリウム10倍容量でダイアフィルトレーションを行って、グリセリン量を低下させ、グルタルアルデヒドを除去する。0.2μm膜を通して、PTトキソイドを無菌濾過する。
【0047】
組換え法を用いてトキソイド化分子として使用するのに無毒かまたはほとんど毒性を示さないPT突然変異体分子を製造する場合、化学的無毒化は必要ない。

FHAの精製
FHAの精製は、コーウェル(Cowell)らの報告(参考文献58)に記載の方法にほぼ従って、培養上清から精製することができる。メチル化β−シクロデキストリンなどの成長促進剤を用いて、培養上清中のFHAの収量を上昇させることができる。その培養上清を、ヒドロキシルアパタイトカラムに投入する。FHAはカラムに吸着されるが、PTは吸着されない。カラムをトリトンX−100でかなり洗浄して内毒素を除去する。次に、0.5MでNaClを含む0.1M リン酸ナトリウム溶液を用いてFHAを溶離し、必要に応じてフェチュイン−セファロースカラムに通して、残っているPTを除去する。セファロースCL−6Bカラムを通して、さらに精製を行うことができる。
【0048】
別法として、FHAの精製を、その抗原に対するモノクローナル抗体を用いて行うことができ、その場合、抗体をCNBr活性化アフィニティカラムに付着させておく(参考文献59)。
【0049】
別法として、FHAの精製を、上記の欧州特許336736号に記載の方法に従ってパーライトクロマトグラフィーによって行うことができる。

69kDa外膜蛋白(ペルタクチン)の精製
最初に、引用によって本明細書に含まれる公開欧州特許出願484621号に記載された方法に従って、チメロサールなどの静菌剤を用いて細胞を不活化することで、細菌細胞から69kDa外膜蛋白(69Kまたはペルタクチン)を回収することができる。その不活化細胞を、PBS(pH7〜8)などの水系媒体中に懸濁させ、高温(45〜60℃)で繰り返し抽出し、その後室温もしくは4℃まで冷却する。抽出によって、細胞から69K蛋白が放出される。69K蛋白含有物を沈澱によって回収し、アフィゲルブルー(Affi−gel Blue)カラムに通す。69K蛋白を、0.5M 塩化マグネシウムなどの高濃度の塩で溶離させる。透析後、それをクロマトフォーカシング担体に通す。
【0050】
別法として、本願の譲受人の名称で出願され、引用によって本明細書に含まれる公開PCT出願WO91/15505号に記載の方法に従って、B.pertussis培養物の培養上清から、69kDa蛋白を精製することができる。
【0051】
B.pertussisからの69kDa外膜蛋白の他の適切な精製方法は、ゴット(Gotto)らに1984年1月4日に与えられた米国特許5276142号およびバーンズ(Burns)らに1992年3月31日に与えられた米国特許5101014号に記載されている。
【0052】
本明細書に記載のような多くの治験がヒトにおいて行われて、百日咳に対する保護向けに、本発明の方法に従って製造される線毛性凝集原を含む成分ワクチンの安全性、非反応原性および有用性が確認されている。特に、ワクチンに含まれる各抗原に対する免疫応答(例えば、後述の表3に示したもの)が得られている。ある特定の非細胞性百日咳ワクチンCP10/5/5/3DTについて、危険性のあるヒト群における大規模なプラシーボ対照多施設二重無作為化治験で解析が行われ、代表的な百日咳に対するそのワクチンの効力が推算されている。
【0053】
代表的百日咳疾患患者は以下のように定義された。
【0054】
21日以上の痙攣性の咳 および 培養で確認されたB.pertussis
または 対合血清でのFHAもしくはPTに対するELISAにおける100%のIgGもしくはIgA抗体上昇によって示されるBordetella特異的感染の血清学的証拠あるいは
血清学的データがない場合、治験参加小児における咳発症の前後28日以内に咳を発症したその家庭内の培養で確認されたB.pertussis患者とその治験参加小児との間に接触があったこと
この治験の結果から、CP10/5/5/3DTが上記のような代表的百日咳疾患についての患者定義で定義されたような百日咳の予防に約85%の効力を持つことが明らかになった。同じ治験で、PTおよびFHAのみを含む2成分系百日咳非細胞性ワクチンは約58%の効力であり、全細胞百日咳ワクチンは約48%の効力であった(後述の表4参照)。さらに、CP10/5/5/3DTワクチンは、1日以上の期間の咳として定義される軽度の百日咳を、約77%の効力で予防した。特に、得られた免疫応答特性は、百日咳に対して非常に有効であると報告されている全細胞百日咳ワクチンによる免疫感作後に得られたものと実質的に同等であった。

ワクチン製造および使用
そこで、ワクチンとしての使用に好適な免疫原性組成物を、本願に開示の方法に従ってBordetella免疫原から製造することができる。このワクチンは、オプソニン作用性または殺細菌性となり得る抗体を産生する患者において免疫応答を誘発する。予防接種患者をB.pertussisが感作したとしても、そのような抗体が細菌に結合し、不活化する。さらに、オプソニン作用性または殺細菌性の抗体は、別の機序によって保護を与える可能性もある。
【0055】
ワクチンなどの免疫原性組成物は、液剤や乳剤などの注射剤として製剤することができる。Bordetella免疫原は、その免疫原と適合性である医薬的に許容される賦形剤と混合することができる。そのような賦形剤としては、水、生理食塩水、ブドウ糖、グリセリン、エタノールおよびそれらの組み合わせたものなどがあり得る。免疫原性組成物およびワクチンは、湿展剤もしくは乳化剤、pH緩衝剤またはアジュバントなどの補助物質をさらに含有して、その有効性を高めることができる。免疫原性組成物およびワクチンは、皮下注射もしくは筋肉注射によって、非経口的に投与することができる。免疫原性製剤およびワクチンは、その製剤に適合する方法にて、治療上有効で、免疫原性があり、保護効果のあるような量で投与される。投与量は、治療を受ける患者によって決まるものであり、例えば、抗体を合成し、必要に応じて細胞介在性免疫応答を生じるその個人における免疫系の能力によって決まる。投与に必要な有効成分の正確な量は、医師の判断によって決まる。しかしながら、好適な用量範囲は、当業者であれば容易に決定し得るものであり、免疫原をμg単位とすることになると考えられる。初期投与および追加免疫投与における好適な投与法も変動し得るものであるが、初期投与とそれに続く投与を行うものと考えられる。用量は投与経路によっても決まるものであり、宿主の大きさに応じて変動する。
【0056】
本発明による免疫原性組成物中の免疫原の濃度は通常、約1〜約95%である。1個の病原体のみの抗原材料を含むワクチンは単価ワクチンである。数種類の病原体の抗原材料を含むワクチンは、混合ワクチンであって、これも本発明に含まれる。そのような混合ワクチンは、例えば各種病原体からまたは同一病原体の各種菌株から、あるいは各種病原体の組み合わせからの材料を含むものである。
【0057】
抗原をアジュバントと同時に(アジュバントは通常、リン酸緩衝生理食塩水の0.005〜0.5%溶液として使用)抗原を投与すると、免疫原性を大幅に上昇させることができる。アジュバントは、抗原の免疫原性を高めるが、必ずしもそれ自体が免疫原性とは限らない。アジュバントは、抗原を投与部位付近に局所的に保持することで、免疫系の細胞への抗原の緩やかな徐放を促進する貯蔵効果を生じることで作用し得るものである。アジュバントはさらに、免疫系の細胞を抗原貯蔵部まで引き寄せ、そのような細胞を刺激して免疫応答を誘発することができる。
【0058】
免疫刺激剤またはアジュバントは、例えば、ワクチンに対する宿主の免疫応答を改善するために、長年にわたって使用されている。リポ多糖類などの内在性アジュバントは通常、ワクチンとして使用される死菌または弱毒化細菌の成分である。外因性アジュバントは、代表的には共有結合的に抗原に結合する免疫調節剤であり、宿主の免疫応答を促進するよう製剤されている。そうして、非経口的に搬送される抗原に対する免疫応答を促進するアジュバントが確認されている。しかしながら、そのようなアジュバントの一部は有毒であり、望ましくない副作用を起こし得るものであることから、ヒトや多くの動物で使用するには不適なものとなっている。実際、水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウム(総称して通常は、アルム(Alum)と称される)のみがヒトワクチンおよび動物ワクチンにおけるアジュバントとして常用される。ジフテリア菌トキソイドおよび破傷風菌トキソイドに対する抗体応答上昇におけるアルム(Alum)の効力は明らかになっており、より最近では、HBsAgワクチンにアルム(Alum)がアジュバントとして使用されている。アルム(Alum)の有用性は一部の利用分野で明らかになっているが、それには制限がある。例えば、アルム(Alum)はインフルエンザ予防接種には無効であり、必ずしも細胞介在性免疫応答を誘発するとは限らない。アルム(Alum)をアジュバントとする抗原によって誘発される抗体は、マウスにおいては主としてIgG1アイソタイプであり、一部のワクチン剤による保護には最適ではない可能性がある。
【0059】
広範囲の外因性アジュバントが抗原に対して強力な免疫応答を起こし得る。それには、膜蛋白抗原と複合体化したサポニン(免疫刺激錯体)、鉱油とのプルロニック(pluronic)ポリマー、鉱油中の死ミコバクテリウム、完全フロイントアジュバント、ムラミールジペプチド(MDP)およびリポ多糖類(LPS)などの細菌産生物、ならびにリピドAおよびリポソームなどがある。
【0060】
体液性免疫応答(HIR)および細胞介在性免疫(CMI)を効果的に誘発するためには、多くの場合、免疫原をアジュバント中で乳化させる。多くのアジュバントが有毒であり、症状としては、肉芽腫、急性および慢性の炎症(完全フロイントアジュバント、FCA)、細胞崩壊(サポニンおよびプルロニックポリマー)および発熱性、関節炎および前部ブドウ膜炎(LPSおよびMDP)などがある。FCAは優れたアジュバントであり、研究で広範囲に使用されているが、その毒性のために、ヒトワクチンや動物ワクチンでの使用には許可されていない。

理想的なアジュバントの望ましい特性には次のものがある。
【0061】
(1)毒性がないこと
(2)長期間の免疫応答を刺激する能力
(3)製造が簡単で、長期保存において安定であること
(4)各種経路で投与される抗原に対してCMIとHIRの両方を誘発できること
(5)他のアジュバントとの相乗作用
(6)抗原提供細胞(APC)の群との選択的相互作用を行う能力
(7)適切なTN2またはTN1細胞特異的免疫応答を特異的に誘発する能力
(8)抗原に対して適切な抗体アイソタイプ濃度(例:IgA)を選択的に上昇させる能力
ロックホッフ(Lockhoff)らに対して1989年8月8日に与えられた米国特許4855283号(引用によって本明細書に含まれる)には、N−グリシルアミド、N−グリコシル尿素およびN−グリコシルカーバメート(これらはそれぞれ、免疫調節剤またはアジュバントとしてのアミノ酸によって糖残基が置換されている)などの糖脂質類縁体が開示されている。そこで、ロックホッフらは(米国特許4855283号および参考文献60)、糖スフィンゴ脂質およびグリセロ糖脂質などの天然糖脂質と構造的に類似しているN−糖脂質類縁体が、単純疱疹ウィルスワクチンおよび偽性狂犬病ウィルスワクチンの両方において強力な免疫応答を誘発できることを報告している。糖脂質の中には、アノマー炭素原子を介して糖と直接結合する長鎖のアルキルアミンおよび脂肪酸から合成されて、天然脂質残基の機能を模倣するものもある。
【0062】
モロニー(Moloney)に対して与えられ、本願の譲受人に対して譲渡され、引用によって本明細書に含まれる米国特許4258029号には、オクタデシルチロシン・塩酸塩(OTH)が、破傷風菌トキソイドならびにホリマリンで不活化したI型、II型およびIII型小児麻痺ウィルスワクチンと複合体化した場合に、アジュバントとして機能することが開示されている。さらに、ニクソン−ジョージら(Nixon−George et al、参考文献61)は、組換えB型肝炎表面抗原と複合体化した芳香族アミノ酸のオクタデシルエステルがB型肝炎ウィルスに対する宿主の免疫応答を促進したと報告している。
【実施例】
【0063】
実施例
上記の開示内容は、本発明の全般を説明するものであるので、以下の具体的な実施例を参照することで、より完全な理解を得ることができる。これら実施例は単に説明を目的として記載されているものであって、本発明の範囲を限定するものではない。状況から見て示唆されるかあるいは好都合なものとなる可能性がある場合、等価なものの形態および置換に対して変更を加えることは想到されるものである。本明細書においては具体的な用語を用いているが、そのような用語は説明のためのものであって、本発明を限定するものではない。
【0064】
本開示およびこれらの実施例において使用されているが明瞭には説明されていない蛋白生化学、発酵および免疫学の方法は、科学文献に広く報告されているものであり、十分に当業者の能力の範囲内のものである。

実施例1
本実施例は、Boredetella pertussisの成長について説明するものである。
【0065】
原シード
Bordetella pertussis菌株の原シード培養物を、凍結乾燥シードロットとして、2℃〜8℃で保存した。
【0066】
作業シード
凍結乾燥培養物をホルニブロック(Hornibrook)培地に回収し、それを用いてボルデー−ジャングー寒天(BGA)平板に接種した。ホルニブロック培地は以下の組成である。
【0067】
成分 1リットル当たり量
カゼイン加水分解物(活性炭処理) 10.0g
ニコチン酸 0.001g
塩化カルシウム 0.002g
塩化ナトリウム 5.0g
塩化マグネシウム・6水和物 0.025g
塩化カリウム 0.200g
リン酸2カリウム 0.250g
デンプン 1.0g
蒸留水 1.0リットルまで
1%炭酸ナトリウム溶液でpHを6.9±0.1に調節する。
【0068】
培地を試験管中に分散させ、オートクレーブ中で20分間水蒸気処理し、121℃〜124℃で20分間オートクレーブ処理することで滅菌する。シードを、最初にBGA平板で、次に成分百日咳寒天(CPA)で2回継代培養した。成分百日咳寒天(CPA)は以下の組成を有する。
【0069】
NaCl 2.5 g/L
KH2PO4 0.5 g/L
KCl 0.2 g/L
MgCl2(H2O)6 0.1 g/L
トリス塩基 1.5g /L
カザミノ酸 10.0 g/L
NaHグルタミン酸 10.0 g/L
濃HCl pH 7.2まで
寒天 15.0 g/L
成長因子(CPGF) 10.0 mL/L

成分百日咳成長因子(CPGF)−100Xは以下の組成を有する。
【0070】
L−システイン・HCl 4.0 g/L
ナイアシン 0.4 g/L
アスコルビン酸 40.0 g/L
還元グルタチオン 15.0 g/L
Fe2SO4(H2O)7 1.0 g/L
ジメチル−β−シクロデキストリン 100 g/L
CaCl2(H2O)2 2.0 g/L
最終培養物を百日咳シード懸濁緩衝液(CPSB)に懸濁し、2〜4mLに小分けし、−60℃〜−85℃で冷凍保存した。百日咳シード懸濁緩衝液(PSSB)は以下の組成を有する。
【0071】
カザミノ酸 10.0 g/L
トリス塩基 1.5g /L
無水グリセリン 100 mL/L
濃HCl pH 7.2まで
これらのグリセリン懸濁液を、作業シード取得の原料として用いた。

培養方法
作業シードの増殖を、成分百日咳寒天ルー瓶中、34℃〜38℃で4〜7日間行った。その培養後、細胞を、成分百日咳培地(CPB)によって寒天から洗い出した。サンプルについて、グラム染色により、培養物の純度および不透明度を観察した。
【0072】
CPBを含む4リットル三角フラスコに細胞を移し、振盪しながら、34℃〜38℃で20〜26時間インキュベーションした。サンプルをグラム染色で観察し、培養物の純度を調べた。フラスコの内容物を合わせ、その懸濁液を用いて、CPBを含む2個の発酵槽に接種した(容量10リットルで、初期OD600は0.1〜0.4)。シードは成長して、最終OD600は5.0〜10.0となった。サンプルについて、グラム染色によって培地の純度と、抗原特異的ELISAによって無菌性を調べた。

実施例2
この実施例では、Bordetella pertussis細胞培養物からの抗原の精製について説明する。
【0073】
培養および細胞濃縮物の製造
細菌懸濁液を、2個の生産発酵槽で、34℃〜37℃で35〜50時間成長させた。発酵槽のサンプリングを行って、培地滅菌性試験を行った。この懸濁液を連続流円板積層型遠心機(12000×g)に送って、培地から細胞を分離した。細胞を回収して、線毛成分の抽出用に待機した。透明液体を≦0.22μm膜フィルターに通した。濾過した液体を、10〜30kDaを公称分子量限界(NMWL)とする膜を用いる限外濾過によって濃縮した。濃縮液を保存して、百日咳菌毒素(PT)、線維状ヘマグルトニン(FHA)および69kDa(ペルタクチン)成分の分離・精製用に待機した。
【0074】
培地成分の分離
上述の欧州特許336736号および出願人の公開PCT出願WO 91/15505号に記載の方法にほぼ従って、培地成分(69kDa,PTおよびFHA)を、パーライトクロマトグラフィーおよび選択的溶離の工程によって分離・精製した。行った具体的精製操作について以下に説明する。
【0075】
百日咳菌毒素(PT)
パーライトカラムを、50mM トリス緩衝液、50mM トリス/0.5% トリトンX−100緩衝液および50mM トリス緩衝液で洗浄した。50mM トリス/0.12M NaCl緩衝液を用いて、パーライトカラムからPTの分画を溶離させた。
【0076】
パーライトクロマトグラフィーからのPT分画をヒドロキシルアパタイトカラムに負荷し、30mM リン酸カリウム緩衝液で洗浄した。PTを75mM リン酸カリウム/225mM NaCl緩衝液で溶離した。カラムを200mM リン酸カリウム/0.6M NaClで洗浄して、FHA分画を得て、それを廃棄した。精製PTにグリセリンを50%まで加え、混合物を2℃〜8℃で保存し、1週間以内に無毒化を行った。
【0077】
線維状ヘマグルトニン(FHA)
FHA分画を50mM トリス/0.6M NaClでパーライトカラムから溶離した。線維状ヘマグルチニンをヒドロキシルアパタイトでのクロマトグラフィーによって精製した。パーライトカラムからのFHA分画をヒドロキシルアパタイトカラムに負荷し、0.5% トリトンX−100を含む30mM リン酸カリウムと次に30mM リン酸カリウム緩衝液で洗浄した。PT分画を85mM リン酸カリウム緩衝液で溶離し、廃棄した。次に、200mM リン酸カリウム/0.6M NaClによってFHA分画を溶離し、2℃〜8℃で保存し、1週間以内に無毒化した。
【0078】
69kDa(ペルタクチン)
培地濃縮液を注射用水(WFI)で希釈して、導電率を3〜4mS/cmとし、パーライトカラムに、パーライト1mL当たり蛋白0.5〜3.5mgの負荷量で負荷した。溶出液(69kDa成分分画)を、10〜39kDa NMWL膜を用いる限外濾過によって濃縮した。濃縮溶出液に硫酸アンモニウムを35±3%(重量/容量)まで加え、得られた混合物を2℃〜8℃で4±2日間保存するか、直ちに遠心した(7000×g)。過剰の上清を傾斜法にて除去し、沈澱物を遠心(7000×g)によって回収した。得られた69kDaペレットを−20℃〜−30℃で冷凍保存するか、あるいはトリスもしくはリン酸緩衝液に溶かして、直ちに使用した。
【0079】
濃縮パーライト溶出液の35%(重量/容量)硫酸アンモニウムによる沈澱形成によって得られた69kDa外膜蛋白を用いて精製を行った。硫酸アンモニウム(1リットル当たり100±5g)を69kDa分画に加え、混合物を2℃〜8℃で2時間以上撹拌した。混合物を遠心して(7000×g)、上清を回収した。上清に硫酸アンモニウム(1リットル当たり100〜150g)を加え、混合物を2℃〜8℃で2時間以上撹拌した。混合物を遠心して(7000×g)、ペレットを回収し、それを10mM トリスHCl(pH8)に溶かした。溶液のイオン強度を、15mM 硫酸アンモニウムを含む10mM トリスHCl(pH8)と同等に調節した。
【0080】
69kDa蛋白を、Q−セファロースカラムと直列に連結したヒドロキシルアパタイトカラムに負荷した。69kDa蛋白を溶出液に回収し、15mM 硫酸アンモニウムを含む10mM トリスHCl(pH8)でカラムから洗い出し、溶出液中の69kDaと一緒に蓄積した。69kDa蛋白蓄積液を、100〜300kDa NMWL膜で、0.15M NaClを含む6〜10倍容量の10mM リン酸カリウム(pH8)でダイアフィルトレーションした。限外濾過液を回収し、限外濾過液中の69kDa蛋白を濃縮した。
【0081】
69kDa蛋白について、10mM トリスHCl(pH8)による溶媒交換を行い、Q−セファロースに吸着させ、10mM トリスHCl(pH8)/5mM 硫酸アンモニウムで洗浄した。69kDa蛋白を、50mM リン酸カリウム(pH8)で溶離した。69kDa蛋白を、10〜30kDa NMWL膜で、0.15M NaClを含む6〜10倍容量の10mM リン酸カリウム(pH8)でダイアフィルトレーションした。69kDa蛋白を、≦0.22μmフィルターで無菌濾過した。この無菌バルクを2℃〜8℃で保存し、3ケ月以内に吸着を行った。
【0082】
線毛性凝集原
培地からの分離後の細胞ペーストから、凝集原を精製した。細胞ペーストを、10mM リン酸カリウム、150mM NaClおよび4M尿素を含む緩衝液中で細胞が0.05容量部となるまで希釈し、30分間混和した。細胞溶解物を遠心(12000×g)によって透明とし、100〜300kDa NMWL膜フィルターを用い、10mM リン酸カリウム/150mM NaCl/0.1% トリトンX−100に対して濃縮・ダイアフィルトレーションを行った。
【0083】
濃縮液を80℃で30分間加熱処理し、遠心(9000×g)によって再度透明とした。透明上清に、最終濃度が4.5%±0.2%となるようにPEG8000を加え、30分間以上ゆっくり撹拌した。得られた沈澱を遠心(17000×g)によって回収し、ペレットを10mM リン酸カリウム/150mM NaCl緩衝液で抽出して、粗線毛性凝集原溶液を得た。線毛性凝集原をPEIシリカに通して精製した。粗溶液を、1M リン酸カリウム緩衝液を用いてリン酸カリウムに関して100mMとし、PEIシリカカラムに通した。
【0084】
カラムからの溶出液を、100〜300kDa NMWL膜フィルターを用い10mM リン酸カリウム/150mM NaCl緩衝液に対して濃縮・ダイアフィルトレーションした。この無菌バルクを2℃〜8℃で保存し、3ケ月以内に吸着を行った。線毛性凝集原製剤は、線毛性Agg2および線毛性Agg3を重量比約1.5〜約2:1で含有し、実質的にAgg1を含まないことが認められた。
【0085】
実施例3
本実施例は、精製Bordetella pertussis抗原、PTおよびFHAのトキソイド化について説明するものである。
【0086】
実施例2に記載の方法に従って純粋な形で得られたPTについて、PT溶液中のグルタルアルデヒド濃度を0.5%±0.1%に調節し、37℃±3℃で4時間撹拌することでトキソイド化した。L−アスパラギン酸塩を0.21±0.02Mまで加えることで、反応を停止した。混合物をさらに1±0.1時間にわたり室温に維持し、次に2℃〜8℃に1〜7日保持した。
【0087】
得られた混合物を、30kDa NMWL膜フィルターで、10mM リン酸カリウム/0.15M NaCl/5% グリセリン緩衝液に対してダイアフィルトレーションし、次に≦0.22μm膜フィルターに通すことで滅菌した。この滅菌バルクを2℃〜8℃で保存し、3ケ月以内に吸着を実施した。
【0088】
実施例2に記載の方法に従って純粋な形で得られたFHA分画については、L−リシンとホルムアルデヒド濃度をそれぞれ47±5mMおよび0.24±0.05%に調節し、35℃〜38℃で6週間インキュベーションすることでトキソイド化した。次に、混合物を、30kDa NMWL膜フィルターで、10mM リン酸カリウム/0.5M NaClに対してダイアフィルトレーションし、次に膜フィルターに通すことで滅菌した。この滅菌バルクを2℃〜8℃で保存し、3ケ月以内に吸着を実施した。

実施例4
本実施例は精製Bordetella pertussis抗原の吸着について説明するものである。
【0089】
PT、FHA、Aggおよび69kDaのそれぞれのリン酸アルミニウム(アルム(Alum))への吸着用に、リン酸アルミニウムのストック液の濃度を18.75±1mg/mLとした。好適な容器を準備し、いずれかの抗原を無菌的に容器中に懸濁させた。2−フェノキシエタノールを無菌的に加えて、最終濃度0.6%±0.1%(容量基準)とし、均一になるまで撹拌した。適切な量のリン酸アルミニウムを容器に無菌的に加えた。適切な容量の無菌蒸留水を加えて、リン酸アルミニウムの最終濃度を3mg/mLとした。容器を密閉し、ラベルを施し、室温で4日間撹拌した。それから容器を保管して、最終製剤用に待機した。
【0090】
実施例5
本実施例は、ジフテリア菌トキソイドおよび破傷風菌トキソイドを併用した成分百日咳ワクチンの製剤について説明するものである。
【0091】
これ以前の実施例に記載の方法に従って得たB.pertussis抗原を、ジフテリア菌トキソイドおよび破傷風菌トキソイドとともに製剤して、いくつかの成分百日咳(CP)ワクチンを得た。
【0092】
百日咳菌成分は、上記の実施例1〜4に詳細に記載した方法に従って液体培地中で成長させたBordetella pertussisから得た。成長終了後、培養培地と細菌細胞を遠心によって分離した。各抗原をそれぞれ精製した。百日咳菌毒素(PT)および線維状ヘマグルチニン(FHA)を、パーライトおよびヒドロキシルアパタイトでの連続クロマトグラフィーによって培地から精製した。PTは、グルタルアルデヒドによって無毒化し、FHA分画中に存在する残留PT(約1%)はホルムアルデヒドによって無毒化した。線毛性凝集原(2+3)(AGG)は、細菌細胞から得た。細胞を尿素で破壊して加熱処理し、線毛性凝集原をポリエチレングリコールによる沈澱形成およびポリエチレンイミンシリカでのクロマトグラフィーによって精製した。69kDa蛋白(ペルタクチン)成分を、パーライトクロマトグラフィー工程(実施例2)からの溶出液から硫酸アンモニウム沈澱形成によって単離し、ヒドロキシルアパタイトおよびQ−セファロースでの連続クロマトグラフィーによって精製した。全ての成分を、0.22μm膜フィルターによる濾過によって滅菌した。

ジフテリア菌トキソイドは、標準法によって液体培地中で成長させたCorynebacterium diphtheriaeから得た。ジフテリア菌トキソイドの製造は5工程に分けることができる。すなわち、作業用シードの維持、Corynebacterium diphtheriaeの成長、ジフテリア菌毒素の回収、ジフテリア菌毒素の無毒化およびジフテリア菌トキソイドの濃縮である。
【0093】
ジフテリア菌トキソイドの製造
(I)作業用シード
Corynebacterium diphtheriaeを凍結乾燥シードロットとして維持した。再生シードを35℃±2℃で18〜24時間にわたり、レフラースロープ(Loeffler slope)で成長させ、ジフテリア培地のフラスコに移した。次に、培地について純度とLf含有量を調べた。残りのシードを用いて、発酵槽に接種した。
【0094】
(II)Corynebacterium diphtheriaeの成長
培地を、発酵槽中で35℃±2℃でインキュベーション・撹拌した。培地に、所定量の硫酸第一鉄、塩化カルシウムおよびリン酸溶液を加えた。各溶液(リン酸塩、硫酸第一鉄、塩化カルシウム)の実際の量は、各培地ロットについて実験的に求めた。選択した濃度は、Lf含有量が最大となったものである。成長周期(30〜50時間)終了後、培地についてサンプリングを行って、純度およびLf含有量を調べた。
【0095】
重炭酸ナトリウムによってpHを調節し、温度を35℃±2℃に維持しながら0.4%トルエンで1時間処理することで培地を不活化した。次に、無菌性試験を行って、生存C.diphtheriaeが存在しないことを確認した。
【0096】
(III)ジフテリア菌毒素の回収
1個または数個の発酵槽からのトルエン処理した培養物を大きい槽に蓄積した。
【0097】
約0.12%重炭酸ナトリウム、0.25%活性炭および23%硫酸アンモニウムを加え、pHを調べた。
【0098】
混合物を約30分間撹拌した。珪藻土を加え、混合物をデプスフィルターにポンプで送った。濾液を透明になるまで循環させ、回収し、サンプリングによってLf含有量を調べた。追加の硫酸アンモニウムを濾液に加えて、濃度を40%とした。さらに珪藻土も加えた。この混合物を2℃〜8℃で3〜4日間維持して、沈澱を形成させた。沈澱した毒素を回収し、0.9%生理食塩水に溶かした。珪藻土を濾過によって除去し、毒素を0.9%生理食塩水に対して透析して、硫酸アルミニウムを除去した。透析した毒素を蓄積し、サンプリングを行ってLf含有量および純度を調べた。
【0099】
(IV)ジフテリア菌毒素の無毒化
無毒化は透析直後に行う。無毒化を行うには、毒素を希釈して、最終溶液に以下のものが含有されるようにする。
【0100】
a)ジフテリア菌毒素 1000±10%Lf/mL
b)0.5% 重炭酸ナトリウム
c)0.5% ホルマリン
d)0.9%(重量/容量) L−リシン・モノ塩酸塩
この溶液を生理食塩水で規定量とし、pHを7.6±0.1に調節した。
【0101】
セルロース珪藻土フィルターパッドおよび/または膜前置フィルターおよび0.2μm膜フィルターでトキソイドを濾過して回収容器に取り、34℃で5〜7週間インキュベーションした。サンプリングを行って、毒性を調べた。
【0102】
(V)精製トキソイドの濃縮
トキソイドを蓄積し、限外濾過によって濃縮し、好適な容器に回収した。サンプリングを行って、Lf含有量および純度を調べた。保存剤(2−フェノキシエタノール)を加えて、最終濃度0.375%とし、pHを6.6〜7.6に調節した。
【0103】
トキソイドを前置フィルターおよび0.2μm膜フィルター(または相当品)によって濾過することで滅菌し、回収した。無菌トキソイドをサンプリングして、トキソイドLf含有量、保存剤含有量、純度(窒素含有量)、無菌性および毒性の不可逆性を調べた。無菌濃縮トキソイドを2℃〜8℃で保存して、最終製剤に備えた。

破傷風菌トキソイドの製造
破傷風菌トキソイド(T)は、液体培地中で成長させたClostridium tetaniから得た。
【0104】
破傷風菌トキソイドの製造は、5工程に分けることができる。すなわち、作業用シードの維持、Clostridium tetaniの成長、破傷風菌毒素の回収、破傷風菌毒素の無毒化および破傷風菌トキソイドの精製である。
【0105】
(I)作業用シード
破傷風菌トキソイドへの変換向けの破傷風菌毒素の生産に使用したClostridium tetaniの菌株を、シードロットで凍結乾燥品として維持した。シードをチオグリコレート培地に接種し、35℃±2℃で24時間成長させた。サンプリングを行って、培地の純度を調べた。
【0106】
(II)Clostridium tetaniの成長
破傷風菌培地を発酵槽中に分散させ、熱処理し、冷却した。次に、発酵槽に接種を行い、培地を34℃±2℃で4〜9日間成長させた。サンプリングを行って、培地の純度およびLf含有量を調べた。
【0107】
(III)破傷風菌毒素の回収
セルロース珪藻土パッドによる濾過によって、毒素を分離し、透明毒素を膜フィルターを用いて濾過滅菌した。サンプリングを行って、Lf含有量と滅菌性を調べた。毒素を、30000ダルトンの孔径を用いて限外濾過で濃縮した。
【0108】
(IV)破傷風菌毒素の無毒化
毒素をサンプリングして、Lf含有量を調べてから無毒化を行った。0.5%(重量/容量)重炭酸ナトリウム、0.3%(容量基準)ホルマリンおよび0.9%(重量/容量)L−リシン・モノ塩酸塩を加えて、濃縮毒素(475〜525Lf/mL)を無毒化し、生理食塩水で規定量とした。pHを7.5±0.1に調節し、混合物を37℃で20〜30日間インキュベーションした。サンプリングを行って、無菌性と毒性を調べた。
【0109】
(V)トキソイドの精製
濃縮トキソイドを、前フィルターと次に0.2μm膜フィルターによって滅菌した。サンプリングを行って、無菌性およびLf含有量を調べた。
【0110】
硫酸アンモニウムの至適濃度は、トキソイドサンプルから求めた分別「S」字曲線に基づいたものである。第1の濃縮液をトキソイドに加えた(1900〜2100Lf/mLまで希釈)。混合物を20℃〜25℃で1時間以上維持し、上清を回収し、高分子量分画を含む沈澱物は廃棄した。
【0111】
硫酸アンモニウムの第2の濃縮液を第2の分別用の上清に加えて、低分子量不純物を除去した。混合物を20〜25℃に2時間以上維持し、その後、最長で3日間、2℃〜8℃で保管することができた。純粋トキソイドである沈澱物を遠心および濾過によって回収した。
【0112】
PBSによるアミコン(Amicon)(または相当品)限外濾過膜を用いたダイアフィルトレーションを行ってトキソイド溶液で硫酸アンモニウムが検出できなくなるようにすることで、精製トキソイドから硫酸アンモニウムを除去した。pHを6.6〜7.6に調節し、2−フェノキシエタノールを加えて、最終濃度0.375%とした。トキソイドを膜濾過によって滅菌し、サンプリングを行って試験を行った(トキソイド、Lf含有量、pH、保存剤含有量、純度、無菌性および毒性の不可逆性)。
【0113】
ジフテリア菌トキソイドおよび破傷風菌トキソイドを併用した成分百日咳ワクチンの一つの製剤を、CP10/5/5/3DTと称した。CP10/5/5/3DTの各0.5mLヒト用量を、ほぼ以下の含有量となるように製剤した。
【0114】
10μg 百日咳菌トキソイド(PT)
5μg 線維状ヘマグルトニン(FHA)
5μg 線毛性凝集原2および3(FIMB)
3μg 69kDa外膜蛋白
15Lf ジフテリア菌トキソイド
5Lf 破傷風菌トキソイド
1.5mg リン酸アルミニウム
0.6% 2−フェノキシエタノール(保存剤)

ジフテリア菌トキソイドおよび破傷風菌トキソイドを併用した成分百日咳ワクチンの別の製剤を、CP10/5/5DTと称した。CP10/5/5DTの各0.5mLヒト用量を、ほぼ以下の含有量となるように製剤した。
【0115】
10μg 百日咳菌トキソイド(PT)
5μg 線維状ヘマグルトニン(FHA)
5μg 線毛性凝集原2および3(FIMB)
15Lf ジフテリア菌トキソイド
5Lf 破傷風菌トキソイド
1.5mg リン酸アルミニウム
0.6% 2−フェノキシエタノール(保存剤)

ジフテリア菌トキソイドおよび破傷風菌トキソイドを併用した成分百日咳ワクチンのさらに別の製剤を、CP20/20/5/3DTと称した。CP20/20/5/3DTの各0.5mLヒト用量を、ほぼ以下の含有量となるように製剤した。
【0116】
20μg 百日咳菌トキソイド(PT)
20μg 線維状ヘマグルトニン(FHA)
5μg 線毛性凝集原2および3(FIMB)
3μg 69kDa外膜蛋白
15Lf ジフテリア菌トキソイド
5Lf 破傷風菌トキソイド
1.5mg リン酸アルミニウム
0.6% 2−フェノキシエタノール(保存剤)

ジフテリア菌トキソイドおよび破傷風菌トキソイドを併用した成分百日咳ワクチンのさらに別の製剤を、CP20/10/10/6DTと称した。CP20/10/10/6DTの各0.5mLヒト用量を、ほぼ以下の含有量となるように製剤した。
【0117】
20μg 百日咳菌トキソイド(PT)
10μg 線維状ヘマグルトニン(FHA)
10μg 線毛性凝集原2および3(FIMB)
6μg 69kDa外膜蛋白(69kDA)
15Lf ジフテリア菌トキソイド
5Lf 破傷風菌トキソイド
1.5mg リン酸アルミニウム
0.6% 2−フェノキシエタノール(保存剤)

実施例6
本実施例は、本発明によって製造される成分非細胞性百日咳ワクチンの臨床評価について説明するものである。
【0118】
(a)成人での試験
成人および16〜20ケ月齢の小児における試験から、線毛性凝集原を含む多成分ワクチンが安全かつ免疫原性であることが示された(表2)。
【0119】
I相治験を、5成分百日咳ワクチン(CP10/5/5/3DT)を用いてアルバータ州カルガリーで17〜18月齢の小児で行ったところ、副作用が報告された。33名の小児にワクチンを投与し、さらに別の35名に69kDa蛋白成分を含まない同じワクチンを投与した。
【0120】
局所反応は希であった。主として過敏性である全身性の副作用が治験参加者の約半数において認められ、それはどのワクチンを投与したかとは無関係であった。酵素イムノアッセイによる抗PT、抗FHA、抗線毛性凝集原および抗69kDa IgG抗体ならびにCHO細胞中和試験での抗PT抗体において有意な抗体上昇が測定された。抗69kDa抗体の場合を除き、4成分(CP10/5/5DT)または5成分(CP10/5/5/3DT)を投与された小児において、抗体応答における差は検出されなかった。69kDa蛋白を含む5成分ワクチンの投与を受けた小児は、有意に高い免疫感作後抗69kDa抗体レベルを有していた。
【0121】
用量−応答試験がカナダのマニトバ州ウィニペグで4成分ワクチンを用いて行なわれた。2種類のワクチン製剤、すなわちCP10/5/5/3DTおよびCP20/10/10/6DTを用いた。全細胞DPTワクチンも対照として含めた。
【0122】
この治験は、追加免疫百日咳投与の時点で17〜18ケ月齢の幼児91名における二重盲検試験であった。これらの小児は、CP10/5/5/3DTおよびCP20/10/10/6DTのいずれも良好に耐容した。いずれの成分ワクチン投与後においても、局所反応や全身反応を起こした小児の数に差は示されなかった。それとは対照的に、全細胞ワクチン投与を受けた小児では、CP20/10/10/6DT成分ワクチン投与を受けた小児より局所および全身の反応を起こした小児数に有意な増加があった。
【0123】
幼児での治験
II相
カナダのアルバータ州カルガリーおよびブリティッシュコロンビアで、CP10/5/5/3DTワクチンを用いた治験が行われた。この治験では、幼児432名に成分百日咳ワクチンまたは全細胞対照ワクチンDPTを2ケ月齢、4ケ月齢および6ケ月齢で投与した。これらの小児は、CP10/5/5/3DTワクチンを良好に耐容した。局所反応は、各投与後において、全細胞ワクチンより成分ワクチンによる方が少なかった。
【0124】
成分百日咳ワクチンによる予防接種後に、全ての抗原に対する有意な抗体応答が示された。全細胞ワクチンの投与を受けた幼児は、線毛性凝集原DおよびTに対して激しい抗体応答を示した。数ケ月後、成分ワクチン投与被験者の82%〜89%および全細胞ワクチン投与被験者の92%で、線毛性凝集原に対する抗体力価に4倍以上の上昇があった。それとは対照的に、FHAに対する抗体応答は、成分ワクチン投与群で75%〜78%であったのに対して、全細胞投与群では31%であった。成分ワクチン投与群の90%〜93%および全細胞投与群の75%で、抗69kDa抗体の4倍上昇が認められた。成分ワクチン投与群の40%〜49%および全細胞投与群の32%で、酵素イムノアッセイによるPTに対する抗体に4倍上昇が認められた。成分ワクチン投与群の55%〜69%および全細胞投与群の6%で、CHO中和によるPT抗体に4倍上昇が認められた(表2)。
【0125】
IIB相
2ケ月齢、4ケ月齢および6ケ月齢の幼児100名において、ジフテリア含有量が15Lfと比較的低い製剤とそれに対して25Lfの製剤を用いて、D15PTを対照とする無作為盲検試験で、CP20/10/10/6DTワクチンおよびCP10/5/5/3DTワクチンの評価を行った。2種類の成分製剤間で、副作用の率に差は検出されず、いずれも全細胞対照より反応原性が有意に低かった。抗原含有量が高いCP20/20/5/3DTワクチンの投与を受けた群では、酵素イムノアッセイおよびCHO中和によるPTとFHAに対する抗体力価が相対的に高かった。7ケ月後には、抗FHA幾何平均力価はCP20/20/5/3DT投与群では95.0、CP10/5/5/3DT投与群では45.2であったのに対して、D15PT投与群では8.9に過ぎなかった。抗PT力価はそれぞれ、イムノアッセイによって133.3、58.4および10.4であり、CHO中和によって82.4、32.7および4.0であった(表2)。
【0126】
本治験により、抗原含有量の高い、ジフテリア菌トキソイドおよび破傷風菌トキソイドを吸着によって併用した成分百日咳ワクチンが幼児において安全かつ免疫原性であり、抗原含有量が高いことで、反応原性の上昇を起こさずに、製造された抗原(PTおよびFHA)に対する免疫応答が大きくなることが明らかになった。
【0127】
NIAIDのII相 米国比較試験
非細胞性百日咳ワクチンについての大規模効力試験の予備試験として、国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)による支援下に、米国でII相治験が行われた。ジフテリア菌トキソイドと破傷風菌トキソイドを吸着させて併用した本発明の一つの成分百日咳ワクチン(CP10/5/5/3DT)が、他の12種類の非細胞性ワクチンおよび2種類の全細胞ワクチンとともにその治験に含まれていた。安全性の結果が、CP10/5/5/3DT成分ワクチンによって2ケ月齢、4ケ月齢および6ケ月齢で免疫感作された小児137名について報告されている。
【0128】
前述の治験からわかる通り、成分ワクチンは安全であり、低反応原性であり、しかもワクチンに対する耐容は良好であった。
【0129】
7ケ月後において、抗PT抗体、抗FHA抗体、抗69kDa抗体および抗線毛性凝集原抗体はいずれも、全細胞ワクチン投与後に得られたレベル以上であった(参考文献71および表2)。小児を無作為にCP20/20/5/3DTまたはCP10/5/5/3DTワクチン製剤のいずれかの投与に割り付けた二重盲検試験が行われた。計2050名の幼児を米国およびカナダで登録し、幼児1961名が治験を完了した。いずれのワクチンも、これらの幼児において安全で、低反応原性であり、免疫原性であった。免疫原性は、292名の小群で評価された。両方のワクチン製剤により、ワクチン中に含有される全ての抗原に対して抗体上昇が誘発された。CP20/20/5/3DT製剤の方がFHAに対する抗体力価誘発が大きかったが、PTについてはそうではなかった。CP10/5/5/3DT製剤は、線毛に対して相対的に高い力価および相対的に高い凝集原力価を誘発した。
【0130】
さらに別の安全性および免疫原性についての試験が、フランスで行われた。試験計画は、ワクチンの投与を2ケ月齢、3ケ月齢および4ケ月齢で行った以外、上記の北米での試験と同様であった。局所反応および全身反応は全般に軽度であった。全体的に、この投与方法を用いたフランスでの治験参加者では、ワクチンの許容度は良好であった。
【0131】
幼児10000名での、2種類の非細胞性百日咳ワクチンおよび1種類の全細胞ワクチンについてのプラシーボ対照効力試験
NIAID II相米国比較試験の結果を受けて、2成分および5成分の非細胞性ワクチンが、多施設、対照、二重無作為化、プラシーボ対照効力試験向けに選択された。治験は、百日咳の発生率が高いスウェーデンで行なわれた。2成分ワクチンには、グリセロアルデヒドおよびホルマリン不活化PT(25μg)、ホルマリン処理FHA(25μg)およびジフテリア菌トキソイド17Lfおよび破傷風菌トキソイド10Lfを含有させた。5成分百日咳ワクチンは、CP10/5/5/3DTとした。治験に向けて、スウェーデンにおけるこの年齢群の幼児のほぼ1/2に相当する幼児10000名を、出生登録を利用して、14の地理的に決定された治験実施施設で募集した。
【0132】
1992年の1月および2月に生まれた小児を3薬剤(armed)試験に無作為に割り付けた。親の同意を得た後、2ケ月齢、4ケ月齢および6ケ月齢で、幼児の2/3に対して、2種類のジフテリア−破傷風−非細胞性百日咳製剤のうちの1種類を投与した。対照群には、DTのみを投与した。1992年5月に、米国で特許取得された市販の全細胞DTPワクチンが導入され、1992年の3月から12月に生まれた小児を4薬剤試験に無作為に割り付けた。親の同意を得た後、2ケ月齢、4ケ月齢および6ケ月齢で、幼児の3/4に対して、3種類のDTP製剤のうちの1種類を投与した。対照群には、DTのみを投与した。
【0133】
各ワクチンを約2500名の小児に投与した。ワクチンは3回投与した。第1回投与は、2ケ月齢であって3ケ月齢未満の時点で行った。その後の投与は、8週間ずつの期間を設けて行った。ワクチンは筋肉注射にて投与した。
【0134】
小児および家族について、30ケ月間の追跡調査を行った。百日咳が疑われる場合は、臨床データを収集し、鼻腔吸引液に対する細菌学的培養およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)診断を行うことで臨床検査的に確認した。急性期および回復期に採血を行って、血清学的診断を行った。
【0135】
この治験以前では、危険性のあるヒト群(特に、新生児)における本発明の成分百日咳ワクチンが提供するペルタクチンの程度は不明であった。特に、各種Bordetella成分および選択された相対量での百日咳ワクチン中での存在のワクチンの効力に対する寄与は不明であった。
【0136】
この治験の主目的は、非細胞性百日咳ワクチンと全細胞ワクチンがプラシーボと比較して代表的な百日咳に対する保護を与える能力を推算することにあった。
【0137】
第2のエンドポイントは、重度の異なる確定した百日咳感染に対するワクチンの効力を解明することにあった。
【0138】
ワクチンの効力は、非予防接種小児と比較した予防接種被験者における百日咳罹患確率のパーセント低下と定義される。
【0139】
2つのワクチン群における百日咳の相対的危険度は、その2群における疾患の確率の比で表現される。
【0140】
侵襲率とも称される百日咳罹患の確率は、各種方法によって推算することができる。標本数の計算においては、所定の試験群における百日咳罹患確率は、百日咳患者の小児と治験追跡調査終了後に試験群に残っていた小児との間の率によって計算される。
【0141】
代表的百日咳の予防における本治験での成分ワクチンCP10/5/5/3DTの効力を表4に示してあり、約85%であった。同じ治験で、PTおよびFHAのみを含む2成分百日咳非細胞性ワクチンは約58%の効力であり、全細胞ワクチンは約48%の効力であった。CP10/5/5/3DTはさらに、軽度の百日咳予防においても有効で、推定有効性は約77%であった。
【0142】
【表1】

【0143】
【表2】

【0144】
【表3】

【0145】
【表4】

【0146】
A:症例定義:21日間痙攣咳き込み、及び培養で陽性
B:症例定義:温和な百日咳、少なくとも1日間の咳き込み
注: 1)信頼限界度
2)全細胞百日咳ワクチン

(参考文献)
【0147】
【表5】

【0148】
【表6】

【0149】
【表7】

【0150】
【表8】

【0151】
【表9】

【0152】
【表10】

【0153】
【表11】

【産業上の利用可能性】
【0154】
発明の要旨
本開示をまとめると、本発明はBordetella pertussisの線毛性凝集原の新規な製剤とその製造方法を提供するものである。線毛性凝集原は、他のBordetella抗原および非Bordetella抗原とともに製剤して、多くの多成分百日咳ワクチンを得ることができる。そのようなワクチンは、ヒトにおいて安全、非反応原性、免疫原性であって、保護効果を持つ。
【0155】
本発明の技術的範囲内において、改良が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bordetella菌株からの凝集原製剤の製造方法において、
(a)Bordetella菌株の細胞ペーストを得る工程;
(b)該細胞ペーストから線毛性凝集原を選択的に抽出して、該凝集原を含む第1の上清と第1の残渣沈澱物を得る工程;
(c)前記第1の残渣沈澱から第1の上清を分離する工程;
(d)前記第1の上清を、線毛性凝集原を含む透明上清と非線毛性凝集原汚染物を含む第2の沈澱物を得るだけの温度および時間でインキュベーションする工程;
(e)前記透明上清を濃縮して、粗線毛性凝集原溶液を得る工程;
(f)前記粗線毛性凝集原溶液から線毛性凝集原を精製して、線毛性凝集原製剤を得る工程を有してなる方法。
【請求項2】
前記インキュベーション工程(d)を、約75℃〜約85℃の温度で実施する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記インキュベーション工程(d)の温度を約80℃とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記インキュベーション工程(d)を、約10分間〜約60分間実施する請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記インキュベーション工程(d)の時間を約30分間とする請求項3記載の方法。
【請求項6】
線毛性凝集原の工程(b)での選択的抽出を、細胞ペーストを約1M〜約6Mの尿素を含む緩衝液に分散させることで行う請求項2記載の方法。
【請求項7】
前記第1の上清を濃縮してから、インキュベーション工程(d)を行う請求項2記載の方法。
【請求項8】
濃縮工程(e)を、前記透明上清から線毛性凝集原を沈澱させ、沈澱した線毛性凝集原を得られた上清から分離し、沈澱した線毛性凝集原を可溶化することで行う請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記沈澱形成を、前記透明上清にポリエチレングリコールを加えることで行う請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記沈澱形成を、前記透明上清に分子量約8000のポリエチレングリコールを約3%〜約5%まで加えて、前記透明上清から前記凝集原を沈澱させることで行う請求項8記載の方法。
【請求項11】
ポリエチレングリコールの濃度を約4.3〜約4.7重量%とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記凝集原を、カラムクロマトグラフィーによって粗線毛性凝集原溶液から精製する請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記カラムクロマトグラフィーで、セファデックス6Bおよび/またはPEIシリカカラムクロマトグラフィーを行う請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記精製工程で、前記カラムクロマトグラフィー精製からの溶出液の滅菌によって無菌線毛性凝集原製剤を得る請求項12記載の方法。
【請求項15】
前記無菌線毛性凝集原製剤を、無機塩アジュバントに吸収させる請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記無機塩アジュバントがアルム(Alum)である請求項15記載の方法。
【請求項17】
Bordetella菌株がBordetella pertussis菌株である請求項1記載の方法。
【請求項18】
実質的に凝集原1を含まない線毛性凝集原2(Agg2)および線毛性凝集原3(Agg3)を含むBordetella菌株由来の線毛性凝集原製剤。
【請求項19】
線毛性Agg2の線毛性Agg3に対する重量比が、約1.5:1〜約2:1である請求項18記載の製剤。
【請求項20】
請求項1記載の方法によって製造される請求項19記載の線毛性凝集原製剤。
【請求項21】
請求項18、19または20に記載の凝集原製剤を含有する免疫原性組成物。
【請求項22】
Bordetellaによって生じる疾患からワクチンによって免疫感作された宿主を保護するためにin vivoで使用されるワクチンとして製剤された請求項21記載の免疫原性組成物。
【請求項23】
1以上の他のBordetella抗原をさらに含有する請求項22記載の免疫原性組成物。
【請求項24】
前記1以上の他のBordetella抗原が、線維状ヘマグルチニン、69kDa外膜蛋白、アデニル酸シクラーゼ、Bordetellaリポオリゴ糖、外膜蛋白ならびに百日咳菌毒素もしくはそのトキソイドからなる群から選択される請求項23記載の免疫原性組成物。
【請求項25】
約2:1:1の重量比で、B.pertussisの百日咳菌トキソイド、線維状へマグルチニンおよび線毛性凝集原を含有する請求項24記載の免疫原性組成物。
【請求項26】
前記重量比が、ヒト1回用量中に百日咳菌トキソイド約10μg、線維状ヘマグルチニン約5μgおよび線毛性凝集原約5μgを含有させることで得られている請求項25記載の免疫原性組成物。
【請求項27】
約10:5:5:3の重量比で、B.pertussisの百日咳菌トキソイド、線維状ヘマグルチニン、69kDa外膜蛋白および線維状凝集原を含有する請求項24記載の免疫原性組成物。
【請求項28】
前記重量比が、ヒト1回用量中に百日咳菌トキソイド約10μg、線維状ヘマグルチニン約5μg、69kDa蛋白約5μgおよび線毛性凝集原約3μgを含有させることで得られている請求項27記載の免疫原性組成物。
【請求項29】
約20:20:5:3の重量比で、B.pertussisの百日咳菌トキソイド、線維状ヘマグルチニン、69kDa蛋白および線毛性凝集原を含有する請求項24記載の免疫原性組成物。
【請求項30】
前記重量比が、ヒト1回用量中に百日咳菌トキソイド約20μg、線維状ヘマグルチニン約20μg、69kDa蛋白約5μgおよび線毛性凝集原約3μgを含有させることで得られている請求項29記載の免疫原性組成物。
【請求項31】
1以上の非Bordetella免疫原をさらに含有する請求項24記載の免疫原性組成物。
【請求項32】
前記非Bordetella免疫原が、ジフテリア菌トキソイド、破傷風菌トキソイド、Haemophilusの莢膜多糖類、Haemophilusの外膜蛋白、B型肝炎表面抗原、小児麻痺、おたふくかぜ、はしか、および風疹からなる群から選択される請求項31記載の免疫原性組成物。
【請求項33】
ヒト1回用量中に、ジフテリア菌トキソイドを約15Lfと破傷風菌トキソイドを約5Lfの量でさらに含有する請求項29記載の免疫原性組成物。
【請求項34】
さらにアジュバントを含む請求項23記載の免疫原性組成物。
【請求項35】
前記アジュバントが、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、クイル(Quil)A、QS21、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、糖脂質類縁体、アミノ酸のオクタデシルエステルおよびリポ蛋白からなる群から選択される請求項34記載の免疫原性組成物。
【請求項36】
Bordetellaによって引き起こされる疾患に対して宿主を免疫感作する方法において、免疫学的に有効な量の請求項21記載の免疫原性組成物を宿主に対して投与する工程を有してなる方法。
【請求項37】
宿主がヒトである請求項36記載の方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−195829(P2010−195829A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127128(P2010−127128)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【分割の表示】特願2005−275654(P2005−275654)の分割
【原出願日】平成8年5月2日(1996.5.2)
【出願人】(500096994)サノフィ パスツ−ル リミテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】SANOFI PASTEUR LIMITED
【Fターム(参考)】