説明

非結晶形態のロチゴチンの固体分散体を安定化するためのポリビニルピロリドン

本願発明は、ポリビニルピロリドンおよび非結晶形態のロチゴチンを含む固体分散体を提供する工程を含み、ここでロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合が約9:3.5から約9:6の範囲にある、ロチゴチンの安定化方法に関する。本願発明はまた、分散剤および分散相を含む固体分散体であって、該分散相がロチゴチンおよびポリビニルピロリドンを含み、ここでロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合が約9:3.5ないし約9:6の範囲にある固体分散体に、かかる固体分散体を含む医薬組成物、特に経皮治療システム、ならびにその製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は非結晶形態のロチゴチンの固体分散体を安定化するためのポリビニルピロリドンの使用、経皮治療システムを調製するためのかかる安定化された固体分散体の使用、およびロチゴチン結晶の形成が減少したことに起因する、長期貯蔵安定性の拡張により特徴付けられる、かかる安定化された固体分散体を自己粘着性マトリックスとして含む経皮治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ロチゴチンは、以下の構造式:
【化1】

を有する化合物である(−)−5,6,7,8−テトラヒドロ−6−[プロピル−[2−(2−チエニル)エチル]−アミノ]−1−ナフタレノールの国際一般的名称(INN)である。
【0003】
現在、ロチゴチンの2種の結晶形態:多形形態Iおよび多形形態IIが知られている(WO2009/068520)。その結晶形態は、個々の物理化学パラメータ、すなわち、粉末X線回折スペクトル、ラマンスペクトル融点の違いにより区別され得る。結晶性多形形態IIは室温で形態Iより安定しており、その形態Iは、順次、非晶質形態のロチゴチンよりも安定している。
【0004】
ロチゴチンは、構造的にドーパミンと類似し、同様の受容体特性を有するが、より高い受容体アフィニティを有する、非エルゴリン性D1/D2/D3ドーパミンアゴニストである。
【0005】
他の非エルゴリン性ドーパミンアゴニストとは対照的に、ロチゴチンは顕著なD1活性を有し、より大きな生理的作用に寄与するかもしれない。
【0006】
エルゴリン性化合物とは異なり、ロチゴチンは5−HT2B受容体に対するアフィニティは極めて低く、かくして線維症を誘発する危険性は低い。
【0007】
非ドーパミン作動性受容体に対する作用(5−HT1A作動およびA2B拮抗作用など)は、運動障害活性、神経保護活性および抗鬱作用などの他の有益な効果に寄与するかもしれない。
【0008】
ロチゴチンはパーキンソン病(WO2002/089777に記載)、パーキンソン病プラス(WO2005/092331)、鬱病(WO2005/009424に記載)およびレストレスレッグ症候群(WO2003/092677に記載)を患っている患者を処置するための、ならびにドーパミン作動性ニューロン喪失(WO2005/063237に記載)の処置または予防用の、および疼痛(PCT/EP2007/005381)の処置用の活性剤として開示されている。
【0009】
ロチゴチンを含有する既知の医薬組成物は、経皮治療システムまたはパッチ(TTS)(とりわけ、WO99/49852に記載)、デポー形態(WO02/15903に記載)、イオン導入装置(WO2004/050083に記載)および鼻腔内処方(WO2005/063236に記載)を含む。
【0010】
現在、アミン機能性薬物、例えばロチゴチンおよびその他の多数の薬物を投与するための種々のTTSが記載されている。
【0011】
WO94/07468は、2相マトリックス中に、塩酸ロチゴチンを活性物質として含有するTTSを開示しており、該2相マトリックスは、本質的に、その中に含まれる、連続相としての疎水性ポリマー材料と、分散性親水性相とにより形成され、主に薬物と水和シリカを含有する。シリカはTTSの親水性塩での可能性のある最大負荷量を強化すると言われている。その上、WO94/07468の処方は、通常、付加的に疎水性溶媒、浸透促進物質、分散剤および、特に、活性成分の親油性ポリマー相中水溶液を乳化させるのに必要とされる乳化剤を含有する。かかるシステムを用いることで調製されるTTSは健常者およびパーキンソン病患者にて試験された。しかし、満足のいく薬物の血漿中濃度は得られなかった。
【0012】
WO99/49852にはさらに種々のTTSが記載されている。WO99/49852にはさらに種々の経皮治療システムが記載されている。この特許出願で使用されるTTSは、マトリックスの構成要素に対して不活性な裏打ち層と、有効量のロチゴチンまたは塩酸ロチゴチンを含有する自己粘着性マトリックス層と、使用前に取り除かれる保護フィルムとからなる。該マトリックスシステムは、アクリル酸塩またはシリコーンを基礎とする、非水性ポリマー粘着性システムからなる。
【0013】
ロチゴチンを送達するためのさらなるTTSが、例えば、EP1256339およびWO2004/012730に開示されている。これらのシステムは、自己粘着性マトリックスの主たる粘着成分として、少なくとも1種の高タックの、および少なくとも1種の中タックのアミン適合性シリコーン感圧粘着剤の混合物を用いる。該システムは優れた流動速度および十分なロチゴチン血漿中濃度を提供する。
【0014】
先行文献にてロチゴチンを含むTTSがあるにも拘わらず、かかるTTSにて、およびその製造方法にて改善する余地が今なお存在する。
【0015】
TTSの重要な薬剤態様は、薬物の放出特性、薬物のパッチ中の分散性、薬物のマトリックスへの溶解性、薬物および/またはパッチの安定性、パッチの皮膚への粘着性、パッチの皮膚からの滑らかかつ完全な再剥離性である。
【0016】
これらのパラメーターは相互に影響するため、一のパラメーターを変えるだけで新たなパッチを開発することは困難である。
【0017】
近年、上記したシステムは、残念なことに、長期の安定性において問題を示すことが判明した。長期間の貯蔵の間に自己粘着性マトリックスにてロチゴチン結晶が形成されると、結晶の成長はロチゴチンの放出速度の減少をもたらし、最終的には所定の値より低くなる危険があり得る。
【0018】
薬物の新たな多形形態(形態II)が生じることに起因して、市販のパッチでロチゴチン結晶の形成が起こり得る。製造工程を修飾する試みは極めて限定的な成功をもたらしたに過ぎなかった。これらのパッチは皮膚に塗布するまでなお低温で貯蔵する必要がある。このことは、とりわけ、冷却した薬物は塗布する少なくとも1時間前に冷蔵庫から取り出す必要があり、パッチの粘着剤は該パッチが塗布される際に暖められていなければならないなどの、ロチゴチンパッチに対するより複雑な塗布の指示をもたらすこととなる。
【0019】
一般に、経皮システムを含む製剤の剤形にて、非晶質の状態の薬物を安定化することは極めて困難であり得、ロチゴチンのように、非晶質形態は準安定に過ぎず、容易に結晶に変形することが周知である。かかる場合には、自己粘着性マトリックスは、概して、準安定固体分散体を表す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
したがって、上記した欠点を示さない、ロチゴチンを含むTTSを提供することが本願発明の目的である。特に、TTSは適度の安定性を備えた適当な薬物放出特性を示すべきであり、室温で安定でなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この度、意外にも、ロチゴチンに対して特定の重量割合にて用いた場合に、PVPが予期せぬことに非結晶形態のロチゴチンを安定化し、経皮治療システムの自己粘着性マトリックスなどの固体分散体でのロチゴチンの再結晶化を防止し、それにより、好ましくは室温にて、TTSの他の関連するパラメータに悪影響を及ぼすことなく、該経皮治療システムに十分な長期にわたる貯蔵安定性を付与しうることが見出された。本願にて用いられる室温または外界温度は、15℃ないし25℃の範囲に適用されると理解されるべきである。一の実施態様において、室温は18℃ないし22℃の範囲にあり、もう一つ別の実施態様においてそれは約20℃である。
【0022】
第一の態様において、本願発明は、分散剤中の非結晶形態のロチゴチンの固体分散体を安定化するためのポリビニルピロリドンの使用であって、ロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合が約9:3.5ないし約9:6の範囲にある、使用に関する。
【0023】
一の実施態様において、ロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合は約9:3.5ないし約9:4.5の範囲にある。
【0024】
さらなる実施態様において、ロチゴチンの安定化剤(例、PVP)なしでの分散剤中の溶解度は5重量%未満である。
【0025】
一の実施態様において、分散剤は複素粘度が40と250MPの間にある少なくとも1種の粘着剤を含む。
【0026】
さらなる実施態様において、分散剤は複素粘度が1と10MPの間にある少なくとも1種の第2の粘着剤を付加的に含む。
【0027】
一の実施態様において、粘着剤の混合物を含む分散剤の複素粘度は5と25MPの間にあり、好ましくは6と20MPの間にある。
【0028】
一のさらなる実施態様において、分散剤としての粘着剤の混合物、ロチゴチンおよびポリビニルピロリドンを分散相に含む固体分散体の複素粘度は、5と15MPの間に、好ましくは6と15MPの間にある。
【0029】
さらなる態様において、本願発明は、分散剤としての粘着剤の混合物、ロチゴチンおよびポリビニルピロリドンを分散相に含む固体分散体であって、該固体分散体は50g/mの厚みで、3と16N/50mmの間の引きはがし粘着力を、および/または150g/cの厚みで、14と26N/50mmの間の引きはがし粘着力を有する。
【0030】
その上さらなる態様において、本願発明は、分散剤としての粘着剤の混合物、ロチゴチンおよびポリビニルピロリドンを分散相に含む固体分散体であって、該固体分散体は20と150分の間の静的剪断粘着力を有する。
【0031】
もう一つ別の実施態様において、分散剤は少なくとも1種のシリコーン感圧粘着剤と、好ましくは少なくとも1種の高タックのシリコーン感圧粘着剤と、少なくとも1種の中タックのシリコーン感圧粘着剤との混合物を含む。
【0032】
さらにもう一つ別の実施態様において、固体分散体は、ロチゴチンおよびポリビニルピロリドンを多数のマイクロリザバー中に含有する。
【0033】
本願発明の一の実施態様において、固体分散体は経皮治療システムの自己粘着性マトリックスである。
【0034】
さらなる態様において、本願発明は、分散剤および分散相を含む固体分散体であって、該分散相がロチゴチンおよびポリビニルピロリドンを含み、ここでロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合が約9:3.5ないし約9:6の範囲にある固体分散体に関する。
【0035】
実施態様において、固体分散体中のロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合は約9:3.5ないし約9:4.5の範囲にある。
【0036】
さらなる実施態様において、安定化剤(例、PVP)を配合しないロチゴチンの固体分散体の分散剤中溶解度は約0.1重量%未満である。
【0037】
もう一つ別の実施態様において、固体分散体の分散剤は、少なくとも1種のシリコーン感圧剤を含む。さらに好ましくは、該分散剤は少なくとも1種の高タックの、および少なくとも1種の中タックのシリコーン感圧粘着剤を含む。
【0038】
さらにもう一つ別の実施態様に置いて、固体分散体は多数のマイクロリザバーにてロチゴチンおよびポリビニルピロリドンを含む。
【0039】
もう一つ別の態様において、本願発明は、経皮治療システムを製造するための上記した固体分散体の使用であって、自己粘着性マトリックとしての固体粘着剤を含む、固体分散体の使用に関する。
【0040】
もう一つ別の態様において、本願発明は上記した固体分散体を含む経皮治療システムに関する。
【0041】
さらにもう一つ別の態様において、本願発明は医薬としての上記した経皮治療システムの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】ロチゴチンのTTSからの放出について、ロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する可変重量割合での影響を示す。API=活性医薬成分(ロチゴチン)であり:PVP=ポリビニルピロリドンである。「規格」は市販のNeupro(商標)ロチゴチンパッチの製品規格に関連付けられる。
【図2】室温で9ヶ月経過した後の異なる量のPVPを含有するロチゴチンパッチ(ロチゴチン:PVPの重量割合 9:2、9:3および9:4)の物理的安定性を示す。
【図3】室温で15ヶ月経過した後の異なる量のPVPを含有するロチゴチンパッチ(ロチゴチン:PVPの重量割合 9:3および9:4)の物理的安定性を示す。
【図4】室温で19ヶ月経過した後の異なる量のPVPを含有するロチゴチンパッチ(ロチゴチン:PVPの重量割合 9:3および9:4)の物理的安定性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
ポリビニルピロリドン(PVP)はモノマーN−ビニルピロリドンより製造されるポリマーである。それはシリコーン粘着剤の結合を高める。ポリビニルピロリドンの分子量は2,000から2,500,000ダルトン(g/モル)(平均分子量として表される)の範囲とすることができ、一の実施態様において、700,000から1,500,000の範囲、もう一つ別の実施態様において、1,000,000から1,500,000ダルトンの範囲にある。種々のグレードのPVPが、例えば、BASF Aktiengesellchaft、Ludwigshafen、Germanyより、一例として、Kollidonの品名で入手可能である。例えば、Kollidonの次のグレードはPVP:K−12PF(分子量=2,000−3,000);K−17PF(分子量=7,000−11,000);K−25(分子量=28,000−34,000);K−30(分子量=44,000−54,000);およびK−90F(分子量=1,000,000−1,500,000)の水可溶性形態である。好ましい実施態様において、ポリビニルピロリドンの分子量は28,000から1,500,000ダルトン(g/モル)の範囲にある。特に好ましくは、KollidonグレードK−25、K−30およびK−90Fである。
【0044】
PVPがロチゴチンを含む経皮デリバリーシステムから親油性膜を横切る薬物の放出を減少させることはこれまでの実験から知られている。意外にも、約9:2から約9:6の範囲にある、一の実施態様において約9:4の、一連のロチゴチン/PVP重量割合が、薬物の皮膚浸透については極めて小さな効果に過ぎないが、パッチの物理的な安定性について極めて顕著な効果を有することが見出された。
【0045】
本願発明は、ロチゴチンとポリビニルピロリドンが特定の重量割合にて利用された場合に、ポリビニルピロリドンがロチゴチンの結晶化を防止することで非結晶形態のロチゴチンの固体分散を安定化しうるとの知見に基づくものである。
【0046】
かくして、本願発明は、一の態様において、非結晶形態のロチゴチンの分散剤中の固体分散体を安定化するためのポリビニルピロリドンの使用に関する。
【0047】
本願発明によれば、ポリビニルピロリドンは、2つの成分がポリビニルピロリドンに対するロチゴチンの重量割合が約9:3.5ないし約9:6の範囲にて、もう一つ別の実施態様にて約9:3.5ないし約9:4.5にて、さらにもう一つ別の実施態様にて9:4にて用いられると、非結晶ロチゴチンを固体分散の状態にて安定化することが見出された。
【0048】
もう一つ別の実施態様において、本願発明は、ロチゴチンおよびポリビニルピロリドンを含む固体分散体であって、ロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合が約9:3.5ないし約9:6、もう一つ別の実施態様において9:3.5ないし9:4.5の範囲にある、固体分散体に関する。
【0049】
さらなる実施態様において、固体分散体はロチゴチンおよびポリビニルピロリドンを9:4の重量割合にて含む。
上記した重量割合の倍数も本願発明により包含されることが当業者により認識されるであろう。すなわち、ロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する9:4の重量割合はまた、例えば、18:8の重量割合を包含し、ロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する9:3.5の重量割合はまた、例えば13.5:5.25の重量割合を包含する。
【0050】
本願明細書にて使用される「安定化」なる語は、ロチゴチンが、所定の条件下である一定期間、結晶化することが妨げられることに起因して、固体分散体にて非結晶形態のロチゴチンが維持されることを意味する。特に、室温または25℃を超えない温度で貯蔵して、少なくとも2年間安定していることを意図とする。このことは、固体分散体中のロチゴチンの最初の量に基づいて、密閉容器にて室温で24ヶ月貯蔵した後の固体分散体中でのロチゴチンの結晶化の程度が10%を超えない、より好ましくは5%を超えない、最も好ましくは2%を超えないことを意味する(本願明細書にて使用される%はすべて、特記しない限り重量%である)。
【0051】
一の実施態様において、非結晶形態のロチゴチンは非晶質ロチゴチンである。
【0052】
本願明細書で使用される「固体分散体」なる語は、分散剤と、該分散剤と混和しない分散相とからなる準安定性システムをいう。
【0053】
固体分散体の分散剤は、固体または半固体の半透性のシリコーンを基剤とするポリマーまたはコポリマーであってもよく、もう一つ別の実施態様において、該分散剤はアクリレートである。分散剤は固体分散体に対して十分な活性および安定性を、ならびにロチゴチンの十分な放出を提供するはずである。
【0054】
通常、このポリマーは感圧粘着剤(PSA)またはかかる粘着剤の混合物であろう。
【0055】
一の実施態様において、分散剤は、40と250MP(メガポアズ、すなわち百万ポアズ;1P(ポアズ)は1g/(cm*s)または0.1kg/(m*s)、すなわち0.1Pa*s)の間の、もう一つ別の実施態様において50と200MPの、さらにもう一つ別の実施態様において60と150MPの複素粘度を有する少なくとも1種の粘着剤を含み、さらなる実施態様において複素粘度は70と120MPの間にある。
【0056】
意外にも、複素粘度の最大が250MPよりも低い、最も好ましくは200MPよりも低い場合に、固体薬物分散体が長期間にわたって十分に物理的な安定性が達成され得ることが見出された。
【0057】
さらなる実施態様において、分散剤は、1と10MPの間の複素粘度を、もう一つ別の実施態様において1.5と5MPの間の複素粘度を、さらにもう一つ別の実施態様において2と3MPの間の複素粘度を有する、少なくとも1種の第2の粘着剤を含む。
【0058】
一の実施態様において、粘着剤の混合物の複素粘度は5と25MPの間にある。もう一つ別の実施態様において、粘着剤の混合物の複素粘度は6と20MPの間にある。もう一つ別の実施態様において、粘着剤の混合物の複素粘度は7と15MPの間にあり、さらにもう一つ別の実施態様において8と12MPの間にある。
【0059】
一のさらなる実施態様において、分散剤としての粘着剤の混合物、および分散相中のロチゴチンおよびポリビニルピロリドンを含む固体分散体の複素粘度は5と15MPの間に、もう一つ別の実施態様において6と15MPの間に、もう一つ別の実施態様において8と15MPの間に、さらにもう一つ別の実施態様において10と12MPの間にある。
【0060】
複素粘度は、d=25mmのプレート/プレート測定システムおよび15と110℃の間に温度を制御しうる能力を有する温度レギュレータを備えたStress Tech Rheometer(REOLOGICA Instruments ABまたは同等な装置)を用いて測定された。レオロジー試験はすべて、0.1ラジアン/秒の振動数および30℃で、試験物質の線形粘弾性領域にて行われた。個々のサンプルの複素粘度に応じて、次のパラメータが使用された:
a)40と250MPの間の複素粘度を有する粘着剤:サンプルフィルムの厚み:約2mm;負荷:5%;ギャップ:1.5mm;および
b)1と10MPの間の複素粘度を有する粘着剤:サンプルフィルムの厚み:約3mm;負荷:1%;ギャップ:2.5mm。
【0061】
さらなる態様において、本願発明は、分散剤としての粘着剤の混合物、および分散相中のロチゴチンおよびポリビニルピロリドンを含む固体分散体であって、ここで該固体分散体は50g/mの厚みで、3と16N/50mmの間の引きはがし粘着力を、もう一つ別の実施態様にて4.5と14N/50mmの間の、さらにもう一つ別の実施態様において6と12N/50mmの間の引きはがし粘着力を有し、および/または150g/mの厚みで、14と26N/50mmの間の、もう一つ別の実施態様において16と24N/50mmの間の、さらにもう一つ別の実施態様において17と23N/50mmの間の、さらなる実施態様において約20.1N/50mmの引きはがし粘着力を有する。
【0062】
引きはがし粘着力は剪断試験装置(ZWICK/ROELL Z2.5またはその同等な装置)を用いて測定された。サンプルをアルミニウムでできた適当な試験プレートに固定し、引き剥がす前に10分間放置した。サンプルフィルムは50g/mまたは150g/mの厚みを有した。測定はすべて300mm/分の引きはがし速度で、90°の引きはがし角で、室温で行われた。
【0063】
その上のさらなる態様において、本願発明は、分散剤としての粘着剤の混合物、および分散相中のロチゴチンおよびポリビニルピロリドンを含む固体分散体であって、ここで該固体分散体は20と150分の間の、もう一つ別の実施態様にて25と100分の間の、さらにもう一つ別の実施態様にて30と80分の間の、静的剪断粘着力を有し、さらなる実施態様において静的剪断粘着力が40と60分の間にある、固体分散体に関する。
【0064】
静的剪断粘着力をDIN標準方法EN1943:2003−01「Adhesive tapes, measurement of the shear force under static load」に基づく方法を用いて測定した。簡単には、剪断力を測定する場合、所定の面積(12mmx12mm)のサンプルフィルムをV2Aスチールでできたテストプレート上に貼り付け、常圧で、長さ方向にて約1秒間、ロールに2回巻き付ける(ロール:m=5kg、幅=2.5cm)。その後で、テストプレートを垂直方向に並べ、標準の重り(1000±5g)を該サンプルの自由端に取り付けた。サンプルの粘着性シールが剥がれるまでの時間、すなわち、重りが落ちるまでの時間を測定した。測定はすべて23±2℃および50±5%RHで行った。その前に、サンプルは少なくとも24時間これらの標準条件下で平衡にさせた。
【0065】
本願発明に用いられる粘着剤は、生体適合性があり、受容者の皮膚に対して非感作かつ非刺激であるという意味で医薬上許容されることが好ましい。特に、本願発明における使用に有利な粘着剤はさらには以下の要件:
【0066】
1.正常な温度差の下で、湿気または汗の存在下、粘着および共粘着特性を保持すること;および
【0067】
2.ロチゴチンと、ならびにさらなる賦形剤と良好に適合すること
を満たすはずである。
【0068】
異なる型の感圧粘着剤が本願発明にて使用されてもよいが、低薬物および低水吸収能の両方を有する親油性粘着剤を用いることが好ましい。好ましくは、粘着剤はロチゴチンの溶解パラメータよりも低いパラメータを有する。かかる好ましい感圧粘着剤はアミン適合性シリコーン型感圧粘着剤である。
【0069】
好ましい実施態様において、分散剤は少なくとも1種のシリコーン感圧粘着剤、および好ましくは少なくとも1種のタックの高い、および少なくとも1種のタックが中程度のシリコーン感圧粘着剤の混合物を含む。
【0070】
特に好ましい感圧粘着剤は、可溶性ポリ縮合ポリジメチルシロキサン(PDMS)/樹脂ネットワークを形成する型のものであり、ここでヒドロキシ基は、例、トリメチルシリル(TMS)でキャップされている。この種の好ましい粘着剤はDow Corningにより製造されるBIO-PSAシリコーン感圧粘着剤、特にQ7−4201およびQ7−4301品質のものである。
【0071】
しかしながら、他のシリコーン粘着剤を用いてもよい。
【0072】
タックは、粘着剤が、軽い圧力で軽く接触させると、もう一つ別の物質の表面と結合を形成しうる特性として定義される(例えば、「Pressure Sensitive Tack of Adhesives Using an Inverted Probe Machine」、ASTM D2979−71(1982);H. F. Hammond in D. Satas 「Handbook of Pressure Sensitive Adhesive Technology」(1989)、第2版、第4章、Van Nostrand Reinhold、New York、38頁を参照のこと)。
【0073】
シリコーン感圧粘着剤の中タックは、高タックのシリコーン粘着剤と比べて、他の物質の表面との即時結合が弱いことを示す。
【0074】
樹脂/ポリマーの平均比は、中タック粘着剤では約60/40であるのに対して、高タック粘着剤の場合、約55/45である。両方のテープおよびレオロジー特性は樹脂/ポリマー比により顕著に影響を受けることは当業者に公知である(K. L. UlmanおよびR. P. Sweet 「The Correlation of Tape Properties and Rheology」(1998)、Information Brochure、Dow Corning Corp.、USA)。
【0075】
ポリシロキサンと樹脂とからなる高タックと中タックシリコーン型感圧粘着剤を含むブレンドは、良好な粘着力と低温での流れの悪さの間で最適バランスを提供する点で有利である。過度の低温での流れは柔らか過ぎる固体分散体をもたらすため、不利となる。
【0076】
好ましくは、これらブレンド中、高タックの中タックシリコーン型感圧粘着剤に対する重量割合は1:1である。しかし、このことは他の重量割合を利用を排除するものではない。
【0077】
上記したQ7−4201(中タック)およびQ7−4301(高タック)品質の混合物が、本願発明の固体分散体の調製に特に有用であることが判明した。
【0078】
分散剤を形成する、固体または半固体の半浸透性ポリマーは以下の要件:
【0079】
1.ロチゴチンの遊離塩基形態に対して十分な溶解性および浸透性
【0080】
2.ロチゴチンのプロトン化形態に対する不浸透性
を満足しなければならない。
【0081】
一の実施態様において、ロチゴチン(安定化剤不含)の分散剤での溶解度は約5重量%以下であり、もう一つ別の実施態様においては約3重量%以下である。さらにもう一つ別の実施態様において、ロチゴチン(安定化剤不含)の分散剤での溶解度は約2重量%以下であり、もう一つ別の実施態様においては約0.1重量%以下である。
【0082】
固体分散体の分散相は、ロチゴチンを非結晶形態にて、および安定化剤、例えばポリビニルピロリドンを、所望によりさらなる医薬上許容される賦形剤、例えば浸透性促進剤および酸化防止剤を含む。一の実施態様において、安定化剤はポリビニルピロリドンより、好ましい実施態様において、水可溶性ポリビニルピロリドンより選択される。ポリビニルピロリドンと酢酸ビニルのコポリマー、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセロールおよびグリセロールの脂肪酸エステルまたはエチレンと酢酸ビニルのコポリマーもまたかかる使用について考慮される。
【0083】
適当な浸透性促進剤は、脂肪アルコール、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、グリセロールまたはその脂肪酸エステル、N−メチルピロリドン、テルペン類、例えばリモネン、[アルファ]−ピネン、[アルファ]−テルピネオール、カルボン、カルベオール、リモネンオキシド、ペネンオキシド、1,8−オイカリプトールからなる群より選択されてもよく、最も好ましいものはパルミチン酸アスコルビルである。
【0084】
適当な酸化防止剤はメタ重亜硫酸ナトリウム、パルミチン酸アスコルビルおよびDL−アルファトコフェロールである。
【0085】
特記しない限り、本願発明の内容および本願の特許請求の範囲におけるロチゴチンへの言及は、ロチゴチンのその遊離塩基の形態を意味する。しかし、ある場合には、微量の塩酸ロチゴチンがロチゴチン製剤に含まれていてもよいが、これらの微量なる量は、典型的には、遊離塩基の量を基礎として、5重量%を超えない。さらに好ましくは、塩酸塩不純物の含有量は2重量%未満であり、その上さらにより好ましくは1重量%未満、最も好ましくは本願発明にて使用されるロチゴチンは塩酸塩の不純物が0.1重量%未満であるか、あるいは全く含まない。
【0086】
塩の形態のロチゴチンの量を減少させるのに取り得る、さらなる段階は、固体分散体を調製する前に固体形態の遊離塩基の形態のロチゴチンを単離することである。固体分散体を製造する間に酸付加塩を中和することで系内にて遊離塩基のロチゴチンを製造すれば、ある残量(通常、>5重量%で、およそ10重量%まで)のイオン化された薬物が残るであろう。したがって、遊離塩基の形態のそのような系内での調製は、一般に、本願発明を実施するのに適しないであろう。
【0087】
ロチゴチンが種々の異性体の形態にて存在することが理解されよう。かくして、単一の異性体または異なる異性体の混合物が本願発明にて用いられ得ることも理解されよう。
【0088】
ロチゴチンのS−またはR−エナンチオマーまたはラセミ体あるいは他のエナンチオマーの混合物も使用され得る。
【0089】
本願発明の一の実施態様において、固体分散体の水分含量は、パッチマトリックス全体に対して、0.4重量%未満であり、もう一つ別の実施態様において、0.2重量%未満である。
【0090】
一の実施態様において、約1ミリオンダルトンの分子量を有する高分子量のポリビニルピロリドン(PVP)を本願発明にて利用する。これらの高分子量のポビドンのグレードとロチゴチンとのロチゴチン混合物は、室温で高度の薬物の固定をもたらす。しかし、約9:3.5〜9:6の範囲の重量割合でのロチゴチン/PVPの混合物のガラス温度は皮膚温度で十分に高い薬物放出を可能とするのに十分に低い。一の実施態様において、この範囲は9:3.5〜9:4.5であり、もう一つ別では、重量割合は約9:4である。
【0091】
理論に拘束されたくはないが、遊離ロチゴチンは分散剤(外側相)中に分子的に分散され、非結晶形態のロチゴチンは内側相またはマイクロリザバーを形成することで可逆的にPVPと結合すると考えられる。一の実施態様にて、非結晶形態のロチゴチンは非晶質ロチゴチンである。安定した固体薬物分散体の一の利点は、経皮デリバリーに適するポリマーにおける薬物溶解度が低いことで惹起されることが多い制限を顕著に減少させうることである。
【0092】
このことはロチゴチンのあるフラクションが固体分散体の分散剤にその飽和濃度で溶解することを排除するものではなく、一般にそのことを暗示するであろう。
【0093】
本願明細書にて用いられる「マイクロリザバー」なる語は、微粒子として、ロチゴチンとポリビニルピロリドンの混合物からなり、固体分散体の分散剤中に分散される、空間的かつ機能的に別々のコンパートメントを意味すると理解されるべきである。一の実施態様において、固体分散体は10ないし10個のマイクロリザバー/cmを、もう一つ別の実施態様にて、10ないし10個のマイクロリザバー/cmの範囲にて含有する。
【0094】
マイクロリザバーの最大直径は固体分散体の厚みより小さく、好ましくは固体分散体の厚みの85%まで、特に好ましくは固体分散体の厚みの5ないし74%である。固体分散体の厚みが50μmの場合には、これは約40ないし45μmまでの範囲のマイクロリザバ−の最大直径に相当する。
【0095】
本願明細書にて使用される「最大直径」なる語は、最も大きい、一次元(x−、y−またはz−次元)にてマイクロリザバーの直径を意味するものとして理解されるべきである。球径の場合には、最大直径はマイクロリザバーの直径に相当することは当業者に明らかである。しかしながら、球体の形態でない、すなわち異なる幾何学的形態のマイクロリザバーの場合には、x−、y−およびz−次元は大きく異なっていてもよい。
【0096】
本願発明の特に好ましい実施態様において、固体分散体中に分散されるロチゴチン含有のマイクロリザバーの平均直径は固体分散体の厚みの1〜40%、さらにより好ましくは1〜30%の範囲にある。固体分散体の厚みが50μmの場合には、これは好ましくは0.5〜20μmまでの範囲のマイクロリザバ−の平均直径に相当する。
【0097】
本願明細書にて用いられる「平均直径」なる語は、すべてのマイクロリザバーのx、y、z−平均直径の平均値として定義される。標的となる粒径は固体分散体の固体含量および粘度により調整され得る。
【0098】
マイクロリザバーの最大および平均直径ならびに固体分散体の表面積当たりのマイクロリザバーの数は次のように決定されうる:固体分散体の表面は光学顕微鏡(カメラ型Basler A 113 Cを備えたLeica microscope type DM/RBE)で試験される。測定は200倍率の顕微鏡を用いる偶発的偏光分析により実施される。Nikon LuciaDi, Version 4.21ソフトウェアを用いて写真分析を行い、各サンプルの平均および最大直径を得る。
【0099】
特に好ましい実施態様において、固体分散体は経皮治療システムの自己粘着性マトリックスなどの自己粘着性マトリックスを示す。
【0100】
かくして、さらなる態様において、本願発明は、自己粘着性マトリックスとして固体分散体を含む、経皮治療システムの製造のための上記した固体分散体の使用に関する。
【0101】
もう一つ別の態様において、本願発明は、自己粘着性マトリックスとして上記した固体分散体を含む、経皮治療システムに関する。
【0102】
本願明細書に使用される「経皮治療システム」(TTS)は、そのマトリックスが上記した固体分散体により形成される、少なくともその中心部にて持続的自己粘着性マトリックスを有するマトリックス型パッチをいう。かかるパッチは、裏打ち層と、自己粘着性マトリックスと、使用前に取り除かれる保護ホイルまたはシートとからなる。
【0103】
裏打ち層は自己接着性マトリックスの成分に対して不活性である。該層はロチゴチンに対して不浸透性のフィルムである。かかるフィルムはポリエステル、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルまたは上記した材料の組み合わせからなっていてもよい。これらのフィルムはアルミニウムフィルムまたはアルミニウム蒸気で被覆されていても、いなくてもよい。裏打ち層の厚みは10と100μmの間、好ましくは15と40μmの間にあってもよい。
【0104】
上記した固体分散体により形成される自己粘着性マトリックス層は50と150g/m、好ましくは50と75g/m、最も好ましくは50g/m±5%の間の被覆重量を有していてもよい。
【0105】
小さな斑点またはバブルは、散発的には、パッチの付着性マトリックスにてほとんど観察されないかもしれない。それらは裏打ちフィルムが粘着性マトリックスの小さな孔を介して見られ得る小さな領域であり、かくして「マトリックスフリースポット」と称される。一般に、これらのスポットは発生しないし、そのうえ、その発生はこれらのパッチの医薬特性に何ら影響を与えない。
【0106】
特に好ましい実施態様において、自己粘着性マトリックスは、TTS/皮膚の接触面で、ロチゴチンの塩を吸収しうる、粒子がない。TTS/皮膚の接触面で、ロチゴチンの塩を吸収しうる、粒子の例として、シリカが挙げられる。ロチゴチンの塩を吸収しうるかかる粒子は、薬物の遊離塩基の形態に対する拡散障壁を意味し、ロチゴチンのプロトン化形態に対する自己粘着性マトリックスが浸透することを含む、不利となる、チャネルの形成をもたらすかもしれない。
【0107】
好ましくは、TTSは1重量%未満の無機ケイ酸塩を含有し、最も好ましくは無機ケイ酸塩を全く含まない。
【0108】
保護ホイルまたはシートは使用直前に、すなわちTTSを患者の皮膚と接触させる直前に取り除かれるであろう。保護ホイルまたはシートはポリエステル、ポリエチレンまたはポリプロピレンからなっていてもよく、アルミニウムフィルムまたはアルミニウム蒸気またはフルオロポリマーで被覆されていても、いなくてもよい。典型的には、かかる保護ホイルまたはシートの厚みは50と150μmの間の範囲にある。
【0109】
TTSを塗布したい場合に、保護ホイルまたはシートの除去を容易にするために、保護ホイルまたはシートは、通常のプラスターの大部分で使用される種類と同様に、端が重なっている、分離式の保護ホイルまたはシートからなっていてもよい。
【0110】
一の実施態様において、TTSは0.5〜50cmの、もう一つ別の実施態様において約1〜50cmの、さらにもう一つ別の実施態様において約5〜50cmの基底表面積を有する。もう一つ別の実施態様において、TTSは10〜40cmの、もう一つ別の実施態様において約10〜30cmの、もう一つ別の実施態様において約20〜30cmの基底表面積を有する。例えば、20cmの表面積を有する装置は、薬理学的に、cm当たり同量の薬物を有する、2個の10cm装置または4個の5cm装置と均等であり、それらと交換されてもよいことは言うに及ばない。かくして、本願明細書に示される表面積は、患者に同時に投与されるすべての装置の総表面積をいうと理解されるべきである。
【0111】
1個または数個のTTSの提供および塗布は、経口療法に比べて、顧問医は、個々の患者についての最適用量を、例えば、患者に適用される装置の数または大きさを簡単に増やすことで相対的に迅速かつ正確に漸増しうるという薬理学的利点を有する。かくして、個々の最適用量は副作用の少ないわずか約3週間の期間の後に決定され得ることが多い。
【0112】
TTS中のロチゴチンの好ましい含有量は、0.1〜3.15mg/cmの範囲にある。その上さらに好ましくは、0.4〜1.5mg/cmおよび0.2〜1.0mg/cmである。7日間パッチが望ましいならば、一般により高含量の薬物が必要とされるであろう。約0.4〜0.5mg/cmの範囲にあるロチゴチン含量は、一日に1回のTTSに含有される薬物の最適投与量を提供する点で、すなわち、投与後にTTS中に残っている薬物含量がほんのわずかしかない点で、特に有利であることが見出された。特に好ましい実施態様において、ロチゴチン含量は0.45mg/cmである。かかるTTSを用いることで24時間に投与される見掛けの用量は、通常、40〜50%であり、個人内的には、TTS中に最初に含まれる薬物含量の80−90%と高い可能性もある。一般に、TTS中のロチゴチンの含量は、したがって、複数の日数のTTSについて適当な流動を提供するように適合され得る。
【0113】
TTSは、ロチゴチンを含む固体分散体、すなわち自己粘着性マトリックスを調製し、コーティングし、バルク製品を得るために乾燥または冷却し、積層し、該積層体を切断を介してパッチ単位に変形し、包装することを含む、製造工程により調製されてもよい。
【0114】
調製後、ロチゴチンを含む固体分散体は、ロチゴチンを、溶解された形態にてわずかな量で、主に非晶質の形態にて含有する。しかし、固体分散体を調製する場合、ロチゴチンの2種の結晶形態、すなわち多形形態Iまたは多形形態IIのいずれを出発物質として利用してもよい。その製造方法は以下に詳細に記載されている。
【0115】
調製後に得られるTTS中の水含量は、TTSを製造する間に、水を蒸発させる必要がないほどに、一般に十分に低い。典型的には、新たに調製したパッチの水含量は、薬物/PVPの重量割合に応じて、2重量%未満、もう一つ別の実施態様においてより好ましくは1重量%以下、もう一つ別の実施態様において0.6重量%以下である。
【0116】
特に好ましい実施態様において、TTSは、主たる粘着成分として、少なくとも1種の高タック、および少なくとも1種の中タックのアミン適合性シリコーン感圧粘着剤の混合物を、活性成分として約0.1〜3.15mg/cmの遊離塩基の形態のロチゴチンを、およびポリビニルピロリドンを含む、シリコーンを基剤とする経皮治療システムであり、ここでロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合が9:3.5〜9:6の範囲にある。
【0117】
好ましい実施態様において、ロチゴチンおよびポリビニルピロリドンは、複数のマイクロリザバーにてシリコーンを基剤とする経皮治療システムに含まれている。
【0118】
さらにもう一つ別の態様にて、本願発明は医薬としての上記した経皮治療システムの使用に関する。
【0119】
好ましい実施態様において、該医薬はロチゴチンなどのドーパミン受容体アゴニストの作用に感受的である疾患の処置に用いられる。
【0120】
処置され得る疾患は、パーキンソン病、パーキンソン病プラス、鬱病、レストレスレッグ症候群および疼痛を包含する。
【0121】
また、該医薬はドーパミン作動性ニューロン喪失の処置または予防に使用されてもよい。
【0122】
本願明細書における「処置」なる語は徴候の処置または緩和を規定することを意味すると理解されるべきである。処置とは治療または予防的性質のことであってもよい。
【0123】
本願発明および実施するための最良の態様は、以下の限定されるものでない実施例にて詳細に説明されるであろう。
【実施例】
【0124】
実施例1:ロチゴチンのPVPに対する重量割合の、TTS中のロチゴチンの結晶化に対する影響
サンプル調製
【0125】
本願発明に関してロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する数種の重量割合の安定化特性を試験するためのサンプルを基本的に以下の工程に従って製造した。
【0126】
メタ重亜硫酸ナトリウム(5g)を、透明な10%w/w/水溶液が得られるまで、攪拌しながら水(45g)に分散させる。
PVP溶液
【0127】
ポリビニルピロリドン(Kollidon 90 F)(5g)を攪拌しながら無水エタノール(14.8g)に加え、該溶液を放置して膨潤させる。膨潤させた後、該ポリビニルピロリドンが完全に溶解するまで該混合物を攪拌する。ポリビニルピロリドンが完全に溶解した後、水性10%w/wのメタ重亜硫酸ナトリウム溶液(0.022g)、0.05gのパルミチン酸アスコルビルおよび0.124gのすべてのラセミ体−α−トコフェロールを添加する。該混合物を透明なエタノール性PVP溶液が得られるまで攪拌する。
PVP−ロチゴチン−溶液
【0128】
上記したエタノール性PVP溶液(15.998g)を無水エタノール(42.33g)に溶かし、攪拌しながら、30−40℃に加熱する。ついで(−)−5,6,7,8−テトラヒドロ−6−[プロピル−[2−(2−チエニル)エチル]−アミノ]1−ナフタレノール(ロチゴチン、18g、多形形態I)をこの溶液に添加する。該混合物を攪拌し、50−60℃に加熱する。
【0129】
105.75gのアミン耐性の高タックシリコーン粘着剤(BIO-PSA(商標)Q7-4301、Dow Corning製)(ヘプタン中70重量%溶液)、105.72gのアミン耐性の中タックシリコーン粘着剤(BIO-PSA(商標)Q7-4201、Dow Corning製)(ヘプタン中70重量%溶液)、上記にて得られた63.54gのPVP−ロチゴチン−溶液を混合し、均質な分散液が得られるまで、すべての成分を攪拌した。
【0130】
該分散体を適当なドクターナイフを用いて適当なフルオロポリマー被覆のポリエステル放出ライナー(例、SCOTCHPAK(商標)9744)上で被覆し、溶媒を乾燥オーブン中80℃までの温度で約30分間連続して除去し、50g/mのコーティング重量の薬物含有の粘着性マトリックスを得た。乾燥させたマトリックスフィルムをポリエステル型裏打ちホイル(例、Hostaphan MN 19)と積層させた。その完全な積層体を所望の大きさ(例、10cm、20cm、30cm)にて個々のパッチに打ち抜き、窒素流の下でポーチに密封した。
【0131】
表1は、こうして得られた、ロチゴチンとポリビニルピロリドンを9:2の重量割合(比較例)にて含む、ロチゴチンパッチの20cm当たりの組成(mg)を示す。
【0132】
表1 ロチゴチンパッチ(9:2)の20cm当たりの組成(mg)
【表1】

【0133】
上記の製造工程を可変量のポリビニルピロリドンに適応し、サンプル番号1−8のコーティング重量をわずかに増加させた(以下の表2を参照のこと)。
【0134】
ロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合が9:1のサンプル番号1は、Neupro(商標)のロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合に相当する。
【0135】
サンプル番号2およびサンプル番号3を製造する間で、該懸濁液の崩壊する傾向がコーティング工程の間に観察された。すなわち、ロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合が9:1および9:1.6をベースとする組成物は処理できなかった。
【0136】
サンプル番号8の9:11の処方は、高含有量のPVPよりもたらされる高粘度のため、ロチゴチン/PVPを粘着剤およびコーティング剤と混合する間は、加熱下でのみ処理が可能であった。
【0137】
実施例5の9:4のロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合に基づいて、上記の製造工程を、ロチゴチンおよびポリビニルピロリドンの配合量を減少させ、ならびに使用されるシリコーン粘着剤の割合を変更し、マトリックスコーティング量を増加させるように適合させた(サンプル番号9):
【0138】
5.000kgのポリビニルピロリドン(Kollidon F 90)を33.81kgの無水エタノールに溶かし、得られた溶液を0.0238kgの重亜硫酸ナトリウム水溶液(10%w/w)、0.0367kgのパルミチン酸アスコルビルおよび0.09291kgのDL−α−トコフェロールと混合した。
【0139】
こうして得られた18.033kgの溶液を30−40℃に攪拌しながら加熱し、5.199kgの結晶性ロチゴチン遊離塩基(多形形態II)をこの溶液に数回に分けて添加した。該混合物を攪拌し、さらに50−60℃までで約1−2時間加熱し、薬物を完全に溶解させた。
【0140】
18.764kgのエタノール性薬物/ポリビニルピロリドン溶液を、60.83kgのBIO-PSA Q7 4301(ヘプタン中70重量%溶液)および30.41kgのBIO-PSA Q7 4201(ヘプタン中70重量%溶液)の混合物に加え、それを、均質な分散体が得られるまで、少なくとも1時間攪拌させた。
【0141】
該分散体をフルオロポリマー被覆の放出ライナー上に被覆し、乾燥オーブン中、40℃から115℃までの範囲にある温度で溶媒を連続的に除去し、75g/mのコーティング重量の乾燥薬物含有の付着剤マトリックスを得た。乾燥マトリックスフィルムを、内側がシリコーン処理され、反対側がアルミニウム上記被覆されているポリエステル型裏打ちホイルと積層させた。その完全な積層体を個々のパッチに打ち抜き、窒素流の下でポーチに密封した。
【0142】
表2 サンプル番号1−9のロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合およびコーティング重量
【表2】

分析方法
【0143】
薬物放出を、以下の条件:溶解媒体:900mlのリン酸塩緩衝液 pH4.5;温度は32±0.5℃に調整;パドル回転速度:50rpm;サンプル採取時間:各々、0.25、0.5、1、2および3時間を用いて、米国薬局方(USP31−NF26)、第724章「Drug Release」、米国薬局方協会:Rockville、Md、2008に記載されるように、装置5(Paddle Over Disk)を用いて測定した。
【0144】
薬物の放出量を272nmの検出波長で有効なRP HPLC法により測定した。
【0145】
安定性試験を各サンプルの一のパッチで行った。製造日より25℃/60%RHの開放貯蔵条件下で経過した後、サンプル1ないし9について0週から8週まで試験を行い、およびロチゴチン:PVPの重量割合が9:2、9:3および9:4のさらなるパッチサンプルについて24ヶ月まで試験を行い、顕微鏡写真を撮ることで結晶の出現について記録した。これらの結果を選択されたサンプルについてDSCで確認した。
分析結果
【0146】
サンプル1−8の薬物放出試験からの結果を図1に示す。
【0147】
サンプル番号1、5および6だけが市販の比較可能なマトリックス厚を有するNeupro(商標)パッチの薬物放出について設定されている規格と合致する。ロチゴチンおよびポリビニルピロリドンの配合量が減少し、マトリックスの厚みが増えたサンプル番号9のインビトロ放出(図示せず)もまた3時間後に、すなわち試験の終わりにNeupro(商標)規格と合致する。残りのすべてのサンプルについて、放出試験の間に個々のTTSより放出されるロチゴチンの量は規定される下限に満たない。
【0148】
サンプル番号1−9の顕微鏡検査による結果を表3に示す。
【0149】
ロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合が9:1および9:1.6の場合、新たに製造された生成物にて、溶解されないロチゴチン結晶が顕微鏡により既に測定され得た。この知見はDSC測定によっても確認され得、これらサンプルについて上記した製造の間に発生する問題を反映する。
【0150】
第一週で結晶の発生が、ロチゴチンのポリビニルピロリドンの重量割合が9:2および9:3の場合に観察された。
【0151】
図2ないし4は、ロチゴチンをポリビニルピロリドンに対して異なる割合にて含むパッチの室温での長期間の安定性試験の間に、ロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合が9:2および9:3の場合に漸増する量の結晶が観察されるのに対して、ロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合が9:4の場合(サンプル番号5)には、結晶の形成は観察されなかった。
【0152】
ロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合が9:4(サンプル番号5)のパッチでは24ヶ月まで室温で長期間試験する間に、結晶は観察されなかった。
【0153】
ロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合が9:4であって、ロチゴチンおよびポリビニルピロリドンの配合量が減少し、マトリックスの厚みが増えているサンプル番号9もまた、25℃での18ヶ月までの長期にわたる貯蔵後に結晶化現象は見られなかった。
【0154】
ロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合が9:4から9:11までの場合で分かるように、PVP含量の増加は結晶の出現を遅らせた。
【0155】
表3
25℃/60%RHの貯蔵安定性試験による結果(+=結晶、−=結晶なし)
【表3】

【0156】
すなわち、上記した放出試験からのデータも考慮した場合、ロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合が9:4と9:6の間で最適結果を得ることができた。より高い割合ではロチゴチンが結晶化することを十分に妨げることができず、該系は結晶を成長させる傾向にあるか、または処理さえできなかった。低い割合では、パッチより放出されるロチゴチンの量が市販のNeupro(商標)パッチについて規定される値よりも下に、減少することで薬物放出が十分ではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルピロリドンおよび非結晶形態のロチゴチンを含む固体分散体を提供する工程を含み、ここでロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合が約9:3.5から約9:6の範囲にある、ロチゴチンの安定化方法。
【請求項2】
ロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合が約9:3.5から約9:4.5の範囲にある、請求項1記載の方法。
【請求項3】
分散剤および分散相を含む固体分散体であって、該分散相がロチゴチンおよびポリビニルピロリドンを含み、ここでロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合が約9:3.5ないし約9:6の範囲にある、固体分散体。
【請求項4】
ロチゴチンがロチゴチン遊離塩基である、請求項3記載の固体分散体。
【請求項5】
ロチゴチンの分散剤中溶解度が1重量%未満である、請求項4記載の固体分散体。
【請求項6】
分散剤が少なくとも1種のシリコーン感圧粘着剤を含む、請求項3、4または5記載の固体分散体。
【請求項7】
分散剤が第1シリコーン感圧粘着剤および第2シリコーン感圧粘着剤の混合物を含む固体分散体であって、5と15MPの間の複素粘度を有する、請求項3、4、5または6記載の固体分散体。
【請求項8】
ロチゴチンとポリビニルピロリドンが多数のマイクロリザバー中にある、請求項3、4、5、5または7記載の固体分散体。
【請求項9】
請求項3、4、5、6、7または8に記載の固体分散体を含む、医薬組成物。
【請求項10】
少なくとも1種のアミン適合性シリコーン感圧粘着剤を、約0.1ないし約3.15mg/cmのロチゴチンを遊離塩基の形態にて、およびポリビニルピロリドンを含む経皮治療システムであって、ロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合が約9:3.5から約9:6の範囲にある、経皮治療システム。
【請求項11】
ロチゴチンおよびポリビニルピロリドンが多数のマイクロリザバー中に含まれる、請求項10記載の経皮治療システム。
【請求項12】
請求項3、4、5、6、7または8に記載の固体分散体を含む、経皮治療システム。
【請求項13】
0.1ないし約3.15mg/cmのロチゴチンを遊離塩基の形態にて含み、ロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合が9:4である、請求項12記載の経皮治療システム。
【請求項14】
分散剤および分散相を含む固体分散体を調製することを含む経皮治療システムの製造方法であって、該分散相がロチゴチンおよびポリビニルピロリドンを含み、ここでロチゴチンのポリビニルピロリドンに対する重量割合が約9:3.5から約9:6の範囲にある、製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−515041(P2013−515041A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545332(P2012−545332)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【国際出願番号】PCT/EP2010/070563
【国際公開番号】WO2011/076879
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(510150167)ウーツェーベー ファルマ ゲーエムベーハー (3)
【氏名又は名称原語表記】UCB PHARMA GMBH
【出願人】(508163924)エルテーエス・ローマン・テラピー−ズユステーメ・アクチェンゲゼルシャフト (2)
【氏名又は名称原語表記】LTS Lohmann Therapie−Systeme AG
【Fターム(参考)】