非線形ラマン分光装置、顕微分光装置及び顕微分光イメージング装置
【課題】高効率でかつ安定性に優れた小型の非線形ラマン分光装置、顕微分光装置及び顕微分光イメージング装置を提供する。
【解決手段】非線形ラマン分光装置の光照射部に、同一波長又は相互に異なる波長の短パルスレーザ光を発生する2つの光源を設けると共に、この光源の一方から出射される短パルスレーザ光を時間遅延させるパルス制御部を設ける。そして、この非線形ラマン分光装置を組み込んで、顕微分光装置や顕微イメージング装置を構成する。
【解決手段】非線形ラマン分光装置の光照射部に、同一波長又は相互に異なる波長の短パルスレーザ光を発生する2つの光源を設けると共に、この光源の一方から出射される短パルスレーザ光を時間遅延させるパルス制御部を設ける。そして、この非線形ラマン分光装置を組み込んで、顕微分光装置や顕微イメージング装置を構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、非線形ラマン分光装置、顕微分光装置及び顕微分光イメージング装置に関する。より詳しくは、ストークス光として広帯域光を用いるマルチプレックス・コヒーレント・アンチストークス・ラマン分光の装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザラマン分光法は、ポンプ光として単一波長のレーザ光を被検体試料に照射し、その試料からの散乱光を分光する分析方法である。この散乱光であるストークス光又はアンチストークス光の波数のポンプ光に対するシフト量は、その被検体資料の物質固有の分子振動モードに対応している、物質によって特定のスペクトルとして観察される。このため、ラマン分光法は、赤外分光法と並んで分子指紋領域の分光法として、物質の解析・評価、医療診断、新薬や食品などの有機物の開発に、広く用いられている。
【0003】
また、非線形ラマン分光法は、前述した従来のレーザラマン分光法と同様にラマン散乱光を測定するものであるが、3次の非線形光学過程を利用している点が異なる。3次の非線形光学過程は、励起光であるポンプ光、プローブ光及びストーク光の3種の光を入射して、散乱される光を検出する方法であり、例えば、CARS(Coherent anti-Stokes Raman Scattering;コヒーレント・アンチ・ストークス・ラマン散乱)、CSRS(Coherent Stokes Raman Scattering;コヒーレント・ストークスラマン散乱)、誘導ラマン損失分光、誘導ラマン利得分光などがある。
【0004】
CARS分光法では、一般に、ポンプ光とこのポンプ光よりも波長が長いストークス光を被検体試料に照射し、試料から散乱されるポンプ光よりも波長が短い非線形ラマン散乱光を分光し、スペクトルを得ている(例えば、特許文献1〜3参照。)。また、従来、ストークス光を発生させるための光源として、白色光を使用する非線形ラマン分光方法も提案されている(特許文献4参照)。
【0005】
一方、前述した従来のCARS分光法では、ポンプ光やストークス光を生成するためのレーザ光は、数十fs〜数十psの超短パルス光が用いられているが、その場合、装置が高価でかつ複雑になるという問題点がある。そこで、従来、フォトニック結晶ファイバ(PCF)により、パルス幅が0.1〜10nsのパルス光を広帯域化して、スーパーコンティニューム光を生成する方法が提案されている(特許文献5参照)。
【0006】
前述したCARS分光法などに代表される非線形ラマン分光法は、従来のラマン分光法に比べて、蛍光バックグランドの影響を回避することができ、更に、検出感度の向上が可能である。このため、特に、生体系の分子識別イメージング技術として、現在、研究開発が盛んに行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−288681号公報
【特許文献2】特開2006−276667号公報
【特許文献3】特開2010−2256号公報
【特許文献4】特開2004−61411号公報(特許第3691813号公報)
【特許文献5】特開2009−222531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述した従来の非線形ラマン分光法、特にマルチプレックスCARS分光法では、PCFや高非線形ファイバ(HNLF)などにより広帯域白色光を生成しているため、光損傷、特に入射端面近傍の光損傷が大きく、最大入射パワーが限られるという問題点がある。
【0009】
一般に、PCFやHNLFを用いた場合、広帯域性を確保できるという長所があるが、これは、CARS分光においては、広帯域であるが故、1波長あたりの光パワーが低くなるという短所となる。また、PCFには、特殊な端面処理が必要となるなどの問題点もある。
【0010】
更に、PCFから発生されるスーパーコンティニューム光(広帯域光)のビームプロファイルは、一般的に、理想的なガウシアンビームとならない。そして、このようなビームプロファイルのレーザ光は、顕微分光法や顕微分光イメージングにおいて取得される画像の劣化の要因となるため、好ましくない。
【0011】
そこで、本開示は、高効率でかつ安定性に優れた小型の非線形ラマン分光装置、顕微分光装置及び顕微分光イメージング装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前述した問題点を解決するために、鋭意実験研究を行った結果、以下に示す知見を得た。特に、生体系への応用においては、分子指紋領域と呼ばれる分子振動スペクトル領域300〜3600cm−1の分光が重要である。このため、非線形ラマン分光法による顕微分光イメージングでは、入力するレーザビームの品質として非線形光学効果を大きくするため、ピークパワーが高いこと、ガウシアンビームが得られること及び偏光状態が直線偏光であることが求められている。
【0013】
一方、シングルモードファイバ(SMF)から出射される光の空間強度分布は、出射光の波長がSMFのカットオフ波長近傍又はそれ以上の波長であれば、理想的なガウシアンビームとなる。そこで、本発明者は、ストーク光用の広帯域白色光を生成する際、PCFやHNLFの代わりに、安価で容易に入手可能なSMFを使用することについて検討した。その結果、本発明者は、SMFを使用すると、理想的なガウシアンビームが得られることも見出した。
【0014】
また、非線形ラマン分光法においては、ポンプ光、プローブ光及びストークス光の3つのパルスの電場ベクトルの方向が一致している必要があり、これらの光発生部で偏光が直線偏光であることが望ましい。この点について、本発明者は、特定のSMF、特に、偏波面保存シングルモードファイバ(PM−SMF)を使用することにより、良好な直線偏光のストークス光が得られることを見出し、本発明に至った。
【0015】
即ち、本開示に係る非線形ラマン分光装置は、短パルスレーザ光を発生する2つの光源と、該光源の一方から出射される短パルスレーザ光を時間遅延させるパルス制御部と、を有するものである。
この装置では、前記2つの光源を、短パルスレーザ光を発生する第1の光源と、該第1の光源よりも長波長の短パルスレーザ光を発生する第2の光源とで構成することができ、この場合、前記パルス制御部は、前記第2の光源から出射される短パルスレーザ光を時間遅延させる。
また、前記第1の光源から出射された短パルスレーザ光からストークス光が生成すると共に、前記第2の光源からの光をポンプ光兼プローブ光とし、前記パルス制御部により前記第2の光源から出射される短パルスレーザ光を時間遅延させることにより、前記ストークス光とポンプ光兼プローブ光とを同時に測定対象の試料に照射してもよい。
更に、前記第1の光源から出射された短パルスレーザ光から、連続白色光からなるストークス光を生成するシングルモードファイバを有していてもよい。
更にまた、前記パルス制御部は、前記第2の光源を電気的に制御することにより、短パルスレーザ光を時間遅延させることもできる。
更にまた、ストークス光と、ポンプ光兼プローブ光とを合波した後で、これらの時間差を検出する時間差測定部を有し、該時間差測定部での検出結果が前記パルス制御部にフィードバックされるようにしてもよい。
【0016】
本開示に係る顕微分光装置及び顕微分光イメージング装置は、前述した非線形ラマン分光装置を備えたものである。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、高効率でかつ安定性に優れた小型の非線形ラマン分光装置、顕微分光装置及び顕微分光イメージング装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本開示の第1の実施形態の非線形ラマン分光装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、長さ6mのシングルモードファイバを使用して生成したストークス光5のスペクトルを示す図である。
【図3】横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、偏波面保存シングルモードファイバの進相軸又は遅相軸に、入射励起光の偏波面を一致させたときのシングルモードファイバからの出射光の波長分布を示す図である。
【図4】横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、長さ6mのシングルモードファイバを使用して生成したストークス光と、ポンプ光のスペクトルを示す図である。
【図5】横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、厚さが2mmのポリメタクリル酸メチル板のCARSスペクトルを示す図である。
【図6】本開示の第2の実施形態の非線形ラマン分光装置の構成を模式的に示す図である。
【図7】本開示の第3の実施形態の非線形ラマン分光システムの構成を示す概念図である。
【図8】横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、ストークス光強度分布の自己相関関数を示す図である。
【図9】横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、ストークス光強度分布を示す図である。
【図10】数式6により、厚さが1mmのポリエチレンテレフタレート板のCARSスペクトルを規格化した結果を示す図である。
【図11】数式7で表される条件式の導出方法を示す図である。
【図12】横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、LPFにより短波長側成分をカットしたストークス光の強度分布を示す図である。
【図13】図12に示すストークス光の強度分布に基づいて測定した厚さ1mmのポリエチレンテレフタレート板のCARSスペクトルを示す図である。
【図14】図12に示すストークス光の強度分布に基づいて測定した厚さ1mmのポリスチレン板のCARSスペクトルを示す図である。
【図15】本開示の第4の実施形態の非線形ラマン分光装置の構成を示す概念図である。
【図16】横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、長さ12mの偏波面保存シングルモードファイバを使用し、平均励起パワーが50mWのときのストークス光の強度分布を示す図である。
【図17】横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、波長561nmのポンプ・プローブ光3のスペクトル及びエッジ波長605nmのロングパスフィルタを通過したストークス光5の強度分布を示す図である。
【図18】横軸に波長をとり、図17に示すストークス光の強度分布を示す図である。
【図19】横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、長さ6mの偏波面保存シングルモードファイバを使用し、平均励起パワーが50mWのときのストークス光の強度分布を示す図である。
【図20】横軸に波数をとり、縦軸に強度をとって、図19に示すストークス光5の強度分布をポンプ・プローブ光3の波長561nmを基準にしたラマンシフトの波数によって示す図である。
【図21】本開示の第4の実施形態の変形例の非線形ラマン分光装置の構成を示す概念図である。
【図22】本開示の第5の実施形態の非線形ラマン分光装置の構成を示す概念図である。
【図23】本開示の第6の実施形態の非線形ラマン分光装置の構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示を実施するための形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す各実施形態に限定されるものではない。また、説明は、以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態
(ストーク光の生成にシングルモードファイバを使用した装置の例)
2.第2の実施の形態
(ポンプ光及びプローブ光の光路上に光ファイバを配置した装置の例)
3.第3の実施の形態
(測定スペクトルを正規化処理する演算部を備えるシステムの例)
4.第4の実施の形態
(2台の光源を備える装置の例)
5.第4の実施の形態の変形例
(フィードバック機構を備える装置の例)
6.第5の実施の形態
(AOTFを備える装置の例)
7.第6の実施の形態
(ロックインアンプを使用した装置の例)
【0020】
<1.第1の実施の形態>
[装置の全体構成]
先ず、本開示の第1の実施形態に係る非線形ラマン分光装置について説明する。図1は本実施形態の非線形ラマン分光装置の構成を模式的に示す図である。本実施形態の非線形ラマン分光装置1は、CARS分光装置であり、図1に示すように、光源部10、ポンプ光・プローブ光生成部20、ストークス光生成部30、光照射部40及び計測部50が設けられている。
【0021】
[光源部10]
光源部10は、少なくとも、パルス光を出射するレーザ11、及びパルス光をポンプ・プローブ光生成部20とストークス光生成部30とに振り分ける偏光ビームスプリッタ13を備えている。そして、光源部10は、ポンプ・プローブ光生成部20及びストークス光生成部30に向けて、所定のパルス光を出射する。
【0022】
ここで、レーザ11は、パルス幅が0.2〜10ns、パルスピークパワーが50W〜5kW、波長が500〜1200nmのパルス光を発生可能なものであればよい。例えば、安価で小型の1064nmで発振するQスイッチ方式のサブナノ秒繰返しパルスを発生するNd:YAGレーザなどを使用することができる。また、Qスイッチ方式以外にも、モード同期方式のNd:YAG、Nd:YVO4又はNd:YLFピコ秒レーザ、及びYb系ドープファイバーピコ秒レーザなどを使用することもできる。
【0023】
更に、測定に短波長の光を用いる場合は、前述した各レーザからの光を励起光として、KTPやLBOなどの第2高調波(Second Harmonic Generation:SHG)発生用光学結晶を用いてSHG光を発生させてもよい。この場合、励起光が1064nmであれば、第2高調波発生による波長変換後の波長は532nmとなる。このように、本実施形態の非線形ラマン分光装置1では、波長が532nm又は1064nmの光を発するものを好適に使用することができる。
【0024】
なお、光源10から出射されるパルス光の波長は、これらに限定されるものではなく、例えばNd:YAGレーザの場合、1064nm以外に、波長が1319nm、1122nm及び946nmの光を発振することが可能である。また、Nd:YVO4レーザの場合は、1064nm以外に、波長が1342nm及び914nmの光を発振することが可能である。更に、Nd:YLFレーザの場合は、波長1053nm又は1047nmの光を、Yb:YAGレーザの場合は、波長1030nmの光を、それぞれ発振することができる。
【0025】
そして、これらの波長を基本波として、第2高調波を発生させると、532nm以外にも、波長が660nm、561nm、473nm、671nm、457nm、527nm、523nm、515nmのSHG光が得られる。
【0026】
ただし、パルス幅を0.2ns未満にすると、レーザの機構が複雑になり、高価なものとなる。一方、パルス幅が10nmを超えると、1ショットあたりのパルスエネルギーが大きくなりすぎて、具体的にはレーザ光のパルスエネルギーが5μJ以上となり、光ファイバ端面の損傷が生じたり、ストークス光の性能が不安定になったりすることがある。また、当然のことながら、レーザ動作時の消費電力が増加する。なお、レーザ11から出射されるパルス光のパルス幅は、0.4〜5nsであることが好ましい。
【0027】
長さが短い光ファイバ内において、連続白色光を取得するための3次の非線形光学効果を得るためには、パルス光のピークパワーは高い方が好ましい。そこで、本実施形態の非線形ラマン分光装置1では、パルスエネルギーの増加を抑えるため、ピークパワーを高くする分、パルス幅を短くして、1ショットあたりのパルスエネルギーを下げ、繰り返し周波数に応じて平均パワーが大きくならないようにする。例えば、パルス幅が前述した範囲内で、繰り返し周波数が10〜50kHzの場合には、平均パワーが250mW以下になるようにする。
【0028】
このような仕様を満たす光源部10としては、例えば、受動Qスイッチ方式のNd:YAG固体レーザ(ALPHALAS社製 PLUSELAS P−1064−300)に、第2高調波発生用KTP結晶SHGユニットを装備した構成が考えられる。この構成の場合、例えば、波長:532nm、平均パワー:100mW、パルス幅:600ps、繰返し周波数:30kHzの光を出射することができる。
【0029】
また、光源部10には、レーザ11と偏光ビームスプリッタ13との間に、半波長板12が配置されていてもよい。半波長板12は、レーザ11から出射した光の偏光面を回転させる偏光素子であり、その光学軸をθ回転させると、通過後のレーザ光の偏光面は2θ回転する。これにより、レーザ11から出射した光が垂直偏光と水平偏光とに分配されるため、偏光ビームスプリッタ13において、励起パルス光4とポンプ光兼プローブ光(以下、単にポンプ光という)3とに好適に分配することができる。
【0030】
[ポンプ・プローブ光生成部20]
ポンプ・プローブ光生成部20には、光源部10から入射したパルス光(ポンプ光3)を、後述するストークス光5と同時に照射するために、光路長調整機構が設けられている。具体的には、ポンプ光3を、複数のミラー22a〜22d,23a,23b,24,25a,25bで反射することにより、光路長を調整して、ストークス光5とタイミングを合わせる。
【0031】
なお、光路調整機構は、図1に示す構成に限定されるものではなく、例えば、ミラー22a〜22d,23a,23bの光学配置により、ポンプ光3の光路長を、ストークス光5の光路長と一致させることができれば、ミラー24,25a,25bは不要となる。
【0032】
また、シングルモードファイバ32として、後述する偏波面保存シングルモードファイバを使用する場合には、最初のミラー22aの前に、ポンプ光3の偏光面の方向を、ストークス光5の偏光面の方向に一致させるための半波長板21を配置する。なお、通常のシングルモードファイバを使用する場合は、半波長板21は不要である。
【0033】
[ストークス光生成部30]
ストークス光生成部30は、光源部10から入射したパルス光4から連続白色光であるストークス光5を生成するものであり、少なくとも、シングルモードファイバ32を備えている。ここで、ストークス光5の波長域は、分子指紋領域(ラマンシフト量で300〜3600cm−1)に対応するストークス光の波長であり、下記数式1により表される。なお、下記数式1におけるλはストークス光の波長(nm)、λpはポンプ光の波長(nm)であり、また、波数ω(cm−1)と波長λ(nm)との関係は、下記数式2で表すことができる。
【0034】
【数1】
【0035】
【数2】
【0036】
そして、ストークス光生成部30において生成されるストークス光5の波長λは、例えば、ポンプ光3の波長λpが532nmの場合は540〜660nmであり、ポンプ光3の波長λpが1064nmの場合は1100〜1725nmである。
【0037】
また、ストークス光生成部30に設けられるシングルモードファイバ32は、ファイバ長が1〜20mmのものであればよい。シングルモードファイバ32の長さが1m未満の場合、平坦な連続白色光が得られないことがあり、また、ファイバ長が20mを超えると、スペクトル全体の発生効率が低下すると共に、計測対象外の波長帯の光が増加する。なお、シングルモードファイバ32の長さは、3〜10mであることが好ましく、これにより、必要な波長帯域の連続白色光を、効率的にかつ安定して生成することができる。
【0038】
更に、シングルモードファイバ32のカットオフ波長は、励起パルス光4の波長にほぼ等しいものを選択することが望ましい。励起パルス光4の波長よりもカットオフ波長が短い場合は、ファイバへの入力結合効率が低下し、ストークス光5の生成効率や帯域幅が低下することがある。また、励起パルス光4の波長よりもカットオフ波長が長い場合は、ストークス光5のビームのモードがTEM00にならず、高次モードが混在し、単一のガウシアンビームが得られなくなる。なお、前述した要件を満たし、本実施形態の非線形ラマン分光装置1に使用可能なシングルモードファイバ32としては、例えば、Nufern社製 460HP,630HPなどが挙げられる。
【0039】
更にまた、シングルモードファイバ32は、前述した特性を有する偏波面保存シングルモードファイバを使用することが望ましい。これにより、直線偏光のストークス光5が得られるため、通常は直線偏光として用いられるポンプ光3と偏光面を一致させることができるため、CARS信号を2倍程度増大することが可能となる。なお、本実施形態の非線形ラマン分光装置1に使用可能な偏波面保存シングルモードファイバとしては、例えば、Nufern社製 PM−460−HP,PM−630−HP、及びFIBERCORE社製 HB8600などが挙げられる。
【0040】
なお、シングルモードファイバ32に、励起パルス光4を導入する際は、開口係数をファイバの受光NAに合わせるため、開口数NAが0.1〜0.25の範囲にある対物レンズを用いることが望ましい。一方、シングルモードファイバ32の出射側には、ストークス光5のビーム径を、ポンプ光3のビーム径と一致させるため、開口数NAが0.2〜0.6の対物レンズを用いることが望ましい。
【0041】
シングルモードファイバ32として偏波面保存シングルモードファイバを使用する場合には、励起パルス光4の偏光面の方向を、偏波面保存シングルモードファイバの光学軸(高速軸又は低速軸)に一致させるため、半波長板31を配置する。なお、通常のシングルモードファイバを使用する場合は、半波長板31は不要である。
【0042】
また、このストークス光生成部30には、シングルモードファイバ32の出射面側に、ロングパスフィルタ33が配置されている。ロングパスフィルタ33は、シングルモードファイバ32で発生した白色光の短波長側の光を反射し、長波長側の光のみを透過すものであり、これにより、生成したストークス光5から、不要な波長域の光を除去することができる。市販の高性能なロングパスフィルタでは、光学濃度6〜7の選択比を有するものが入手可能であり、本実施形態の非線形ラマン分光装置1では、例えばSemrock社製 LP03−532RU−25などを使用することができる。
【0043】
更に、ストークス光生成部30には、ストークス光5の光路を変えて、光照射部40に導入するためのミラー34が設置されていてもよい。
【0044】
[光照射部40]
光照射部40は、ポンプ・プローブ光生成部20から出射したポンプ光3と、ストークス光生成部30から出射したストークス光5が同軸になるよう重ね合わせ、同時に試料2に照射するものである。この光照射部40の構成は、特に限定されるものではないが、例えば、ノッチフィルタ41、ビームエキスパンダ42,43、ミラー44、対物レンズ45などで構成することができる。
【0045】
ここで、ビームエキスパンダ42,43は、対物レンズ45の入射瞳径に、ビーム径を合わせるためのものである。例えば、ビーム径が約2mmの場合、3倍のビームエキスパンダを通過させることにより、対物レンズ45に入射時のビーム径を約6mmにすることができる。また、ノッチフィルタ41としては、例えばSemrock社製 NF−532U−25などを使用することができる。
【0046】
[計測部50]
計測部50は、試料2から発せられたCARS光を測定するものであり、例えば、対物レンズ51、ショートパスフィルタ52及び分光器53などが設けられている。ョートパスフィルタ52は、ポンプ光3及びストークス光5を遮断し、CARS光のみを通過させるものである。同時に、試料で発生した蛍光も、ポンプ光3の波長よりも長波長であるため、ポンプ光3及びストークス光5と同様に効率良く遮断することができる。
【0047】
市販の高性能なショートパスフィルタとしては、光学濃度6〜7の選択比を有するものが入手可能であり、本実施形態の非線形ラマン分光装置1では、例えばSemrock社製 SP01−532RU−25などを使用することができる。
【0048】
分光器53は、例えば、熱ノイズを低減するために冷却機能を備えたCCD(Charge Coupled Device Image Sensor)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)アレイ検出器を装着したポリクロメータ、モノクロメータ又はPMT(Photomultiplier Tube:光電子増倍管)などを使用することができる。そして、ポリクロメータとしては、例えばSHAMROCK社製 SR−303iを使用することができ、その場合、1200本/mmの回折格子が用いられる。また、CCD検出器には、ANDOR社製 NEWTON DU970N BVを使用することができる。
【0049】
ここで、CARS光は、微弱な光であるため、損失を可能な限り抑えることが望ましい。また、計測部50は、周囲の外光を十分に遮蔽する構成となっていることが望ましい。更に、分光器53の入射スリットには、レンズ系を用いてCARS光を導入してもよく、又は、図1に示すように、マルチモード光ファイバ54を用いてCARS光を導入することもできる。
【0050】
[非線形ラマン分光装置1の動作]
次に、本実施形態の非線形ラマン分光装置1の動作、即ち、非線形ラマン分光装置1を使用して、試料2のCARSスペクトルを測定する方法について説明する。本実施形態の非線形ラマン分光装置1においては、先ず、光源部10において、レーザ11から出射されたパルス光を、偏光ビームスプリッタ13によって2分割し、それぞれポンプ・プローブ光生成部20とストークス光生成部30とに導入する。
【0051】
その際、レーザ11から出射したパルス光を、半波長板12によりその偏光面を回転した後、偏光ビームスプリッタ13により分割してもよい。これにより、分配比を調整することができる。
【0052】
そして、ストークス光生成部30に入射したパルス光4は、シングルモードファイバ32に入射し、連続白色光であるストークス光5に変換される。図2は横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、長さ6mのシングルモードファイバを使用して生成したストークス光のスペクトルを示す図である。なお、図2に示すスペクトルは、波長532nm、入射パワー40mwのパルス光4から生成した白色連続光のスペクトルである。
【0053】
ここで、シングルモードファイバ32として偏波面保存シングルモードファイバを使用する場合には、半波長板31を介して、光源部10から導入されたパルス光4をシングルモードファイバ32に入射させる。具体的には、半波長板31によって、パルス光4の偏光面を回転し、偏光面がシングルモードファイバ32の進相軸又は遅相軸と平行になるようにする。これにより、偏波面保存シングルモードファイバ内での偏光保存性が確保される。
【0054】
図3は横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、偏波面保存シングルモードファイバの進相軸又は遅相軸に、入射励起光の偏波面を一致させたときのシングルモードファイバからの出射光の波長分布を示す図である。図3に示すように、進相軸又は遅相軸に検光子の方位を一致させ、出射光のスペクトル強度分布を測定すると、ほぼ全ての波長に対して、いずれかを消光することができ、単一直線偏光特性を有するストークス光5を生成することができる。なお、図3に示す分布線について、どちらが進相軸又は遅相軸であるかは、特定していない。
【0055】
また、光照射部40に導入する前に、シングルモードファイバ32から出射したストークス光5を、ロングパスフィルタ33を通過させて、短波長側の成分を除去する。具体的には、例えば励起パルス光4が532nmの場合は、この励起パルス光4も含むように、540nmよりも波長が短い成分を除去する。これにより、シングルモードファイバ32から出射される光に含まれる不要な短波長成分を遮断し、測定したいCARSスペクトルの信号対ノイズ(バックグランド)の比を向上させることができる。
【0056】
一方、ポンプ・プローブ光生成部20に入射したパルス光(ポンプ光3)は、ストークス光5と同時に光照射部40に導入されるように、複数のミラー22a〜22d,23a,23b,24,25a,25bにより、その光路長が調整される。その際、半波長板21により、ポンプ光3の偏光面の方向を、ストークス光5の偏光面の方向と一致させる。これにより、3次の非線形光学過程を高効率で利用することができ、CARSスペクトルの信号対ノイズ(バックグラウンド)比を向上させることができる。
【0057】
光照射部40に導入されたポンプ光3及びプローブ光5は、ノッチフィルタ41においてポンプ光3が反射し、ストークス光5は透過する。なお、ノッチフィルタ41の代わりに、ロングパスフィルタを使用することもできる。そして、ポンプ光3及びプローブ光5は、ビームエキスパンダ42,43において、対物レンズ45の入射瞳径に合うようビーム径が拡大された後、対物レンズ45を介して、試料2に照射される。図4は横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、長さ6mのシングルモードファイバを使用して生成したストークス光と、ポンプ光のスペクトルを示す図である。
【0058】
そして、計測部50において、試料2から発せられたCARS光を検出し、ラマンスペクトルを得る。具体的には、試料2から発せられたCARS光を、対物レンズ51で集光した後、ショートパスフィルタ52でポンプ光3やストークス光5などの不要光を遮断した後、分光器53において検出する。
【0059】
図5は横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、厚さが2mmのポリメタクリル酸メチル板のCARSスペクトルを示す図である。なお、図5に示すスペクトルは、対物レンズ45にNA0.45のものを、対物レンズ51にNA0.3のものを使用し、レーザ11の波長を532nm、繰り返し周波数を30kHz、パルス幅を約600psとして測定した。また、対物レンズ45から出射したポンプ光3の入射平均パワーは4mW、ストークス光5の平均パワーは6mWであり、CCD検出器の露光時間は500msとした。
【0060】
図5に示すように、本実施形態の非線形ラマン分光装置1によれば、500〜3000cm−1の分子指紋領域をカバーする広い範囲で、良好なCARS分光スペクトルが得られた。そして、本実施形態の非線形ラマン分光装置1では、時間遅延などの調整の動作が不要となり、一括してこの帯域のスペクトルを取得することが可能となる。
【0061】
以上詳述したように、本実施形態の非線形ラマン分光装置1は、シングルモードファイバ32によりストークス光5を生成しているため、構成を簡素化することができ、装置の小型化及び低コスト化を実現することができる。また、シングルモードファイバ32は、出力がガウシアンビームとなり、また入射端面の損傷が少ないため、結合方法やアライメントが簡単で、安定性の高いストークス光5が得られる。
【0062】
なお、通常のSFMを、カスケード誘導ラマン散乱における連続白色光源に使用した例は、従来より知られているが、非線形ラマン分光法への適用は報告がない。これは、SMFのカスケード誘導ラマン散乱光では、複数のピークが表れるためと考えられる。
【0063】
また、特許文献5に記載の非線形分光計測システムでは、スーパーコンティニューム光(広帯域光)の偏光状態については特に記載されていないが、コヒーレントな3次の非線形光学過程を効果的に利用するためには、ポンプ光、プローブ光及びストークス光(広帯域光)の偏光が一致した直線偏光になっていることが重要である。これに対して、本実施形態の非線形ラマン分光装置1では、ポンプ光3の偏光面の方向を、ストークス光5の偏光面の方向と一致させているため、3次の非線形光学過程を高効率で利用することができる。
【0064】
特に、偏光波面保存シングルモードファイバを使用した装置は、ポンプ光とストークス光のビーム調整(ビーム径を同一にし、方向を揃えるアライメント)を容易に行うことができ、顕微分光やイメージングに好適である。
【0065】
<1.第2の実施の形態>
[装置の全体構成]
次に、本開示の第2の実施形態に係る非線形ラマン分光装置について説明する。図6は本実施形態の非線形ラマン分光装置の構成を模式的に示す図である。なお、図6においては、図1に示す第1の実施形態の非線形ラマン分光装置1の構成と同じものには、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0066】
図6に示すように、本実施形態の非線形ラマン分光装置61は、ポンプ・プローブ光生成部70の光路調整機構が、ミラーによる反射ではなく、所定長の光ファイバ73を通過させる構成となっている。具体的には、光源部10から導入されたパルス光は、ミラー71aによりその光路が変更されて、光ファイバ73に入射する。そして、光ファイバ73を通過することによりその光路長が調整された後、ミラー71bにより光路が変更されて、光照射部40に出射される。
【0067】
(ポンプ・プローブ光生成部70)
ポンプ・プローブ光生成部70に配置される光ファイバ73としては、例えば、数mW以下の低励起パワーを入力する場合であれば、シングルモードファイバや偏波面保存シングルモードファイバを使用することができる。これは、励起パワーが低い場合は、ファイバ内でカスケードに誘導ラマン散乱光が発生せず、単なる光伝送用として用いることができるためである。このような場合に使用可能なシングルモードファイバとしては、Nufern社製 630HPなどが挙げられ、偏波面保存ファイバとしては、Nufern社製 PM−460−HP及びFIBERCORE社製 HB8600などが挙げられる。
【0068】
一方、励起パワーが次第に大きくなると、誘導ラマン散乱光が発生し、単一波長のポンプ・プローブパルスを送ることができなくなる。本発明者の実験によれば、誘導ラマン散乱が起こらない閾値は、励起入力パワーが約5mWまでであった。このため、数mW以上の励起パワーを入力する場合は、ファイバ径を適宜大きくし、例えばファイバコア径が8μm以上の偏波面保存シングルモードファイバ、コア径が100μm以下のマルチモードファイバ、又はいわゆるラージモードエリアファイバ、フォトニッククリスタルラージモードエリアファイバなどを使用することが望ましい。
【0069】
その際、シングルモードファイバの場合、例えばNufern社製 SMF−28−J9などを使用することができ、偏波面保存シングルモードファイバの場合、例えばNufern社製 PM1550−HPなどを使用することができる。また、ラージモードエリアファイバの場合、例えばTHORLAB社製 P−10/125DC,P−25/240DC,P−40/140DCなどを使用することができる。ラージモードエリアフォトニッククリスタルファイバの場合は、例えばNKT PHOTONIC社製 LMA−20などを使用することができる。エンドレスシングルモードフォトニッククリスタルファイバの場合は、例えばNKT PHOTONIC社製 ESM−12−01などを使用することができる。
【0070】
ここで、シングルモードファイバ32に偏波面保存シングルモードファイバを使用する場合には、光ファイバ73の前に、ポンプ光3の偏光面の方向を、ストークス光5の偏光面の方向に一致させるための半波長板72を配置する。なお、通常のシングルモードファイバを使用する場合は、半波長板72は不要である。
【0071】
(光源部10)
本実施形態の非線形ラマン分光装置61においては、光源部10に、第2高調波発生用光学結晶14が配置されている。そして、この第2高調波発生用光学結晶14により、レーザ11から出射した励起光を波長変換してポンプ光としている。具体的には、例えば励起光が1064nmの場合、波長変換により532nmの緑色光となる。
【0072】
本実施形態の非線形ラマン分光装置61では、光ファイバ73によりポンプ光3の光路長を調整しているため、ストークス光5とのタイミング調整が容易であり、かつ装置を小型化することが可能となる。CARS分光法では、ポンプ光3とストークス光5とが試料の測定ポイントに同時に到達する必要があるが、光ファイバ73を使用することにより、容易に、ポンプ光3の光路長と、ストークス光5の光路長とを同じにすることができる。
【0073】
なお、本実施形態における上記以外の構成及び効果は、前述した第1の実施形態と同様である。
【0074】
<3.第3の実施の形態>
[システムの全体構成]
次に、本開示の第3の実施形態に係る非線形ラマン分光システムについて説明する。図7は本実施形態の非線形ラマン分光システムの構成を示す概念図である。なお、図7においては、図1に示す第1の実施形態の非線形ラマン分光装置1の構成と同じものには、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0075】
図7に示すように、本実施形態の非線形ラマン分光システム81は、前述した第1の実施形態の非線形ラマン分光装置1を備えたシステムであり、ラマン分光装置1の計測部50に、演算部80が接続されている。
【0076】
[演算部80]
演算部80には、演算装置である電子計算機と、表示装置などが設けられており、計測部50の分光器で検出したCARSスペクトルの分布を正規化し、その結果などを表示する。以下、正規化のための具体的演算処理方法について説明する。
【0077】
マルチプレックスCARSスペクトルには、縮退4光波混合(2−color CARS)成分と、非縮退4光波混合(3−color CARS)成分とが含まれている(Young Jong Lee and Marcus T. Cicerone: “Single-shot interferometric approach to background free broadband coherent anti-Stokes Raman scattering spectroscopy”, 5 January 2009 / Vol. 17, No. 1 / OPTICS EXPRESS 123 参照)。
【0078】
ここで、CARS分光法では、縮退4光波混合(2−color CARS)成分はポンプ光とプローブ光が同一波長、ストークス光がそれらと異なる場合で、一般にはこれを狭義の意味でCARSスペクトルと呼ばれることが多い。一方、マルチプレックスCARSでは、ポンプ光、プローブ光及びストークス光の波長が全て異なる非縮退4光波混合(3−color CARS)成分が、前述した縮退4光波混合(2−color CARS)成分と同一のアンチストークスラマン散乱光になる場合がある。
【0079】
一方、本実施形態の非線形ラマン分光システム81で使用している非線形ラマン分光装置1では、ポンプ光及びプローブ光が、ストークス光(連続白色光)に比べて、十分狭帯域の線スペクトルと見なせる。このため、縮退4光波混合(2−color CARS)成分I2−color(ω)は、ポンプ光のパワーPPの2乗とストークス光強度分布SS(ω)の積に比例し、下記数式3で表される。なお、下記数式3におけるωは波数(cm−1)である。
【0080】
【数3】
【0081】
また、非縮退4光波混合(3−color CARS)成分I3−color(ω)は、連続広帯域光のスペクトル内にある2つの波長成分(波数成分)が、ポンプ光及びストークス光の役目を行う。従って、CARSスペクトルは、波数ω,ω´に関するストークス光強度分布の自己相関関数とポンプ光パワーの積に比例すると近似的に考えられ、下記数式4で表される。
【0082】
【数4】
【0083】
そして、上記数式3と数式4との和は、下記数式5で表される。
【0084】
【数5】
【0085】
そして、上記数式5から求められるRN(ω)を規格化因子とし、CARS測定スペクトルSC(ω)を規格化する場合、規格化されたCARSスペクトルSN(ω)は、下記数式6で与えられる。
【0086】
【数6】
【0087】
図8は横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、ストークス光強度分布の自己相関関数を示す図である。また、図9は横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、ストークス光強度分布を示す図である。なお、図9には数式5に示す規格化因子RN(ω)も併せて示している。更に、図10は上記数式6により、厚さが1mmのポリエチレンテレフタレート板のCARSスペクトルを規格化した結果を示す図である。
【0088】
図8〜図10に示すように、本実施形態の方法により正規化することにより、500〜1000cm−1に表れていた疑似ピークが消滅し、スペクトルのノイズが改善されていることが確認された。なお、図8〜図10に示すスペクトルは、対物レンズ45から出射したポンプ光3の入射平均パワーが4mW、ストークス光5の平均パワーが3mW、CCD検出器の露光時間は300msの条件で測定したものである。
【0089】
このように、演算部80において、正規化することにより、平坦でないストークス光強度分布がある場合においても、測定されるCARSスペクトルの分子振動に対応しない疑似スペクトルピークと混同せず、正確なCARSスペクトル強度分布を得ることができる。
【0090】
また、本実施形態の非線形ラマン分光システム81により得られるストークス光強度分布は、連続白色光の発生がシングルモードファイバ中のカスケード誘導ラマン散乱に基づくものである。このため、低波域(短波長側)ではシングルモードファイバ内のシリカコア(SiO2)によるラマンシフトである約440cm−1おきに、ピークが生じるため、スペクトルは平坦ではない。
【0091】
一般には、ストークス光発生のシングルモードファイバを出射した光の不要成分を除去するロングパスフィルタのエッジ波長を、ポンプ光より少し長い波長に設定するが、そうすると、比較的スペクトルが平坦となる波長まで長波長側にシフトする。このようにした場合、縮退4光波混合(2−color CARS)成分の低波数側は、低減または除去されるが、非縮退4光波混合(3−color CARS)成分は残る。これは、非縮退4光波混合(3−color CARS)成分が、ストークス光強度分布内の2つの光成分の差の波数が低波数成分を含むからである。
【0092】
そこで、ストークス光発生用シングルモードファイバ出射後に設けたロングパスフィルタのエッジ波長を設定しておけば、比較的平坦なストークス光強度分布特性を有するところのみを用いて、測定波数領域を損なうことなく良好なCARSスペクトルを得ることができる。そのロングパスフィルタのエッジ波長を設定条件は、次のように与えられる。
【0093】
例えば、ロングパスフィルタの短波長側エッジ波長をλe(nm)、ポンプ光の波長をλp(nm)、測定最大波数をωm(cm−1)としたとき、λe(nm)の条件は、下記数式7で表される。なお、下記数式7におけるλfは、下記数式8により求められる値であり、波数ω(cm−1)と波長λ(nm)との関係は、前述した数式2で表される。また、図11には上記数式7で表される条件式の導出方法を示す。
【0094】
【数7】
【0095】
【数8】
【0096】
そして、バンドパスフィルタの場合は、λe<λ<λfがバンドパス領域であればよい。ここで、前述した方法により、図8〜10に示すCARSスペクトルについて、ロングパスフィルタのエッジ波長設定を行う。例えば、λp=532nm、ωm=3000cm−1とすると、上記数式8よりλf=633nmとなる。よって、λeは、上記数式7から、λp(=532nm)<λe<578nmの範囲にあればよいことがわかる。
【0097】
そこで、λe=575nmとすれば、前述した数式2から、Δω={(1×107)/λe}−{(1×107)/λf}=1594cm−1と、δω={(1×107)/λp}−{(1×107)/λe}=1406cm−1となる。そして、図11に示すように、Δωとδωとが、下記数式9に示す不等式を満たせば、全波数領域(0〜ωm)でCARSスペクトルを得ることができる。
【0098】
【数9】
【0099】
なお、測定には、Edmund社製のエッジ波長が575nmであるロングパスフィルタを用いた。この場合、非縮退4光波混合(3−color CARS)成分は、4〜1406cm−1の範囲にあり、縮退4光波混合(2−color CARS)成分は、1406〜3000cm−1の範囲にある。
【0100】
このように、平坦でないストークス光領域をロングパスフィルタ又はバンドパスフィルタを用いて除去することで、容易に平坦なストークス光強度分布を有する部分のみを用いるにもかかわらず、測定波数(波長)領域を損なうことなく良好なCARSスペクトルが得られる。
【0101】
図12は横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、LPFにより短波長側成分をカットしたストークス光の強度分布を示す図である。また、図13は図12に示すストークス光の強度分布に基づいて測定した厚さ1mmのポリエチレンテレフタレート板のCARSスペクトルを示す図であり、図14は厚さ1mmのポリスチレン板のCARSスペクトルを示す図である。
【0102】
図13に示すように、ロングパスフィルタを使用していないポリエチレンテレフタレート板のCARSスペクトルには、900cm−1近傍及び1400cm−1近傍に疑似スペクトルピークが見られるが、ロングパスフィルタを使用して測定したCARSスペクトルでは、これらの疑似スペクトルが生じず、良好な結果が得られた。
【0103】
また、図14に示すように、ポリスチレン板のCARSスペクトルにおいても同様の効果を確認できる。なお、図14に示すスペクトルにおいて、1000cm−1近傍のスペクトルピークは、非縮退4光波混合(3−color CARS)によるものである。
【0104】
<4.第4の実施の形態>
[装置の全体構成]
次に、本開示の第4の実施形態に係る非線形ラマン分光装置について説明する。図15は本実施形態の非線形ラマン分光装置の構成を模式的に示す図である。なお、図15においては、図1に示す第1の実施形態の非線形ラマン分光装置1の構成と同じものには、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0105】
図15に示すように、本実施形態の非線形ラマン分光装置100は、光源部110に2台のレーザ11a,11bと、パルス発生・遅延器15が設けられており、ポンプ・プローブ光生成部の代わりに、レーザ11bとパルス発生・遅延器15とで、ストークス光5とのタイミング調整を行っている。
【0106】
[光源部110]
光源部110に設けられるレーザ11a,11bは、短パルスレーザ光を発生するものであればよく、例えば、小型アクティブQスイッチ短パルスレーザ励起光源を使用することができる。EOMやAOMを共振器内に備えたアクティブQスイッチ短パルスレーザ励起光源は、パッシブQスイッチ短パルスレーザ励起光源と同様に、安価で小型のものが入手可能である。
【0107】
そして、これらの光源は、連続レーザ発振パルス列の制御が外部駆動回路により可能であり、パルス列間の時間ジッター(時間精度)に優れ、時間ジッタを1ns以下に抑えることができる。一方、パルス発生・遅延器15は、レーザ11a,11bからのレーザ光のパルス列を制御すると共に、レーザ11bから出射される短パルスレーザ光を時間遅延させるものである。
【0108】
また、レーザ11a,11bから発せられるレーザ光の波長は、同一でも、異なっていてもよい。例えば、レーザ11bを、レーザ11aよりも、長波長のパルスレーザ光を発生するものとすることにより、誘導ラマン散乱ピークの鋭い連続白色光スペクトルの領域を回避し、ロングパスフィルタ又はバンドパスフィルタを用いて、比較的平坦なより長波長領域のみを取り出すことができる。具体的には、10nm長波長側にシフトしていれば、数100〜3600cm−1のラマンシフトを得ることが可能である。
【0109】
更に、ポンプ・プローブ光用のアクティブQスイッチ短パルスレーザ励起光源(レーザ11b)の出力は、ストークス光励起用光源(レーザ11b)に比べて、1桁ぐらい低出力のものでよい。
【0110】
ここで、本実施形態の非線形ラマン分光装置100において、レーザ11a,11bとして使用可能なレーザ光源は、例えば、Nd:YAGレーザで、波長が1064nm、1319nm、1122nm又は946nmのもの、Nd:YVO4レーザで、波長が1064nm、1342nm又は914nmのもの、Nd:YLFレーザで、波長が1053nm又は1047nmのもの、Yb:YAGレーザで波長が1030nmのものを用いることができる。
【0111】
また、前述した各波長を基本波とした第2高調波発生により、457nm、473nm、515nm、523nm、527nm、532nm、561nm、660nm、671nmのSHG光が得られる。勿論、上記のQスイッチ方式以外にもモード同期方式のNd:YAG、Nd:YVO4またはNd:YLF短パルスレーザやYb系ドープファイバー短パルスレーザ、およびそれらの第2高調波などを用いることも可能である。
【0112】
一方、誘導ラマン散乱ピーク波長の間隔は、後述するストークス光生成部13に設けられたシングルモードファイバ32のファイバコアの主成分であるシリカのラマン散乱によるものである。ここで、シリカのラマンシフトは440cm−1であるため、誘導ラマン散乱ピーク波長の間隔は、これに対応する波長の間隔となり、波長500〜600nmでは11〜16nm程度である。
【0113】
ここで、具体的に、ポンプ・プローブ光用レーザ光源(レーザ11b)の波長を、Yb:YAGレーザのSHG光561nmとすると、200〜3600cm―1の波数領域を得るには、ストークス光5には、567〜703nmの連続白色光スペクトルを用いればよい。即ち、ストークス光発生用ファイバ励起用光源(レーザ11a)としては、Nd:YAGレーザのSHG光532nmを用いればよい。
【0114】
これらレーザ11a,11bのパルス幅は、0.01〜10nsであり、パルスピークパワーが100W〜10kWである。レーザ11a,11bのパルス幅は、時間ジッタと同等又はそれ以上のパルス幅にする必要があり、およそ1ns程度が選ばれる。
【0115】
[ストークス光生成部130]
本実施形態の非線形ラマン分光装置100では、前述した第1〜第3の実施形態の非線形ラマン分光装置と同様に、シングルモードファイバ32、好ましくは偏波面保存シングルモードファイバにより、ストークス光5となる連続白色光(スーパーコンティニューム)を生成している。シングルモードファイバ32のファイバ長は、2〜20mであることが好ましく、より好ましくは6〜15mである。
【0116】
[動作]
次に、本実施形態の非線形ラマン分光装置100の動作、即ち、非線形ラマン分光装置100を使用して、試料2のCARSスペクトルを測定する方法について説明する。本実施形態の非線形ラマン分光装置100においては、光源部10において、レーザ11aからストークス光生成用の短パルスレーザ光が、レーザ11bからはポンプ・プローブ光3となる短パルスレーザ光が発生する。
【0117】
そして、レーザ11aから出射された短パルスレーザ光は、ストークス光生成部30に入射して、シングルモードファイバ32により、連続白色光であるストークス光5に変換される。図16は横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、長さ12mの偏波面保存シングルモードファイバを使用し、平均励起パワーが50mWのときのストークス光の強度分布を示す図である。図16に示すように、長波長側に100nm以上の平坦なストークス光強度分布が得られる。
【0118】
一方、レーザ11aから出射された短パルスレーザ光(ポンプ・プローブ光3)は、直接光照射部140に導入される。その際、ポンプ・プローブ光3がストークス光5と同時に光照射部140に導入されるように、パルス発生・遅延器15によりそのタイミングが調整される。
【0119】
例えば、レーザ11aから出射された短パルスレーザ光が、シングルモードファイバ32内を伝送される時間は、ファイバコアの実効屈折率を1.46として、T=L/c=29〜73nsであり、時間遅延電子回路で容易にタイミング調整が可能である。このように、ポンプ・プローブ光3よりも数10ns遅れて到達するストークス光5を、マルチモードファイバや空間伝送のスペースを取ることなく、ポンプ・プローブ光3専用のアクティブQスイッチ短パルスレーザ励起光源(レーザ11b)のQスイッチを、その分遅らせるだけで、達成できる。
【0120】
そして、光照射部140に導入されたストークス光5及びポンプ・プローブ光3は、ダイクロックミラー46やミラー47,48によってその光路が変更される。そして、合波されたポンプ・プローブ光3及びストークス光5は、ビームエキスパンダ42,43において、対物レンズ45の入射瞳径に合うようビーム径が拡大された後、対物レンズ45を介して、試料2に照射される。図17は横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、波長561nmのポンプ・プローブ光3のスペクトル及びエッジ波長605nmのロングパスフィルタを通過したストークス光5の強度分布を示す図である。
【0121】
そして、計測部150において、試料2から発せられたCARS光を検出し、ラマンスペクトルを得る。具体的には、試料2から発せられたCARS光を、対物レンズ51で集光した後、ショートパスフィルタ52で不要光を遮断した後、例えばマルチモード光ファイバ54を介して、CCDなどの検出器55を備える分光器56に導入する。
【0122】
図18は横軸に波長をとり、縦軸に強度を取って、図17に示すストークス光の強度分布を示す図である。図18に示すように、図17に示すポンプ・プローブ光3及びストークス光5を用いると、測定可能な範囲は、縮退4光波混合過程のCARS分光を考えた場合、1200〜3600cm−1の広範囲に亘って平坦なストークス光スペクトルを用いたCARS測定をすることができる。更に、前述した非縮退4光波混合過程も考慮すれば、低波数領域〜1200cm−1の測定も可能である。即ち、数百〜3600cm−1の範囲で測定が可能となる。
【0123】
図19は横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、長さ6mの偏波面保存シングルモードファイバを使用し、平均励起パワーが50mWのときのストークス光の強度分布を示す図である。また、図20は横軸に波数をとり、縦軸に強度をとって、図19に示すストークス光5の強度分布をポンプ・プローブ光3の波長561nmを基準にしたラマンシフトの波数によって示す図である。ストークス光発生用の励起レーザ光源の波長と、ポンプ・プローブ光用の光源の波長を変える(長波長側にシフトさせる)ことにより、図20に示すように、図19に示すストークス光5を用いると、500〜3000cm−1のCARS分光が可能となる。
【0124】
以上詳述したように、本実施形態の非線形ラマン分光装置は、2台のレーザを使用し、その間のパルスの発生タイミングをパルス発生・遅延器による電子回路制御しているため、パルスタイミング調整に光学配置の適正やマルチモードファイバなどを用いることなく、電子回路制御により行うことができる。また、波長の異なる2台の短パルスレーザ光源を用い、短波長のものをストークス光励起用、長波長のものをポンプ・プローブ光に用いることで、平坦なストークス光強度分布を有する部分のみを用いて分子振動スペクトルを、低波数領域を損なうことなく、広い範囲にわたって測定可能となる。
【0125】
その結果、光路長調整の煩わしさを解消することができ、非線形ラマン分光装置のコンパクト化及び測定の安定化を実現することができる。なお、本実施形態の非線形ラマン分光装置における上記以外の構成及び効果は前述した第1の実施形態と同様である。
【0126】
<5.第4の実施の形態の変形例>
[装置の全体構成]
次に、本開示の第4の実施形態の変形例に係る非線形ラマン分光装置について説明する。図21は本変形例の非線形ラマン分光装置の構成を模式的に示す図である。なお、図21においては、図15に示す第4の実施形態の非線形ラマン分光装置100の構成と同じものには、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0127】
図21に示すように、本変形例の非線形ラマン分光装置200では、光照射部140に入射したストークス光5と、ポンプ・プローブ光3との時間差を測定する時間差測定部160が設けられている。
【0128】
[時間差測定部160]
時間差測定部160には、色分離フィルタ161、検出器162,163、デジタルオシロスコープ164などが設けられている。そして、光照射部140において、ポンプ・プローブ光3とストークス光5を合波した後、色分離フィルタ161で再び分離し、同距離離れた所に設置された高速フォトダイオード検出器162,163などを用いて、時間差を精度よく検出する。その検出結果は、パルス発生・遅延器15の時間遅延回路にフィードバックする。
【0129】
本変形例の非線形ラマン分光装置200では、時間差測定部160により、ストークス光5とポンプ・プローブ光3との時間差を測定し、パルス発生・遅延器15にフィードバックしているため、トークス光5とポンプ・プローブ光3とのタイミング精度を、更に上げることができる。なお、本変形例の非線形ラマン分光装置における上記以外の構成及び効果は前述した第4の実施形態と同様である。
【0130】
<6.第5の実施の形態>
[装置の全体構成]
次に、本開示の第5の実施形態に係る非線形ラマン分光装置について説明する。図22は本実施形態の非線形ラマン分光装置の構成を模式的に示す図である。なお、図22においては、図21に示す第4の実施形態の第1変形例の非線形ラマン分光装置200の構成と同じものには、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0131】
本実施形態の非線形ラマン分光装置300は、ストークス光生成部330のロングパスフィルタ33の後段に、音響光学波長可変フィルタ(Acousto-Optic Tunable Filter:AOTF)35及び検光子36が配置されている。なお、検光子36は、偏光ビームスプリッタ(PBS)でもよい。これにより、200〜500cm―1のピークのCARSスペクトルへの影響を除去することができる。
【0132】
[動作]
本実施形態の非線形ラマン分光装置300では、AOTF35を用いて、その駆動ドライバの周波数変調を、このピーク強度に反比例した時間だけ、その波長成分に割り当てるように電子回路的に制御(波長掃引)する。これにより、ストークス光強度分布の平坦でない領域の波長成分の試料照射時間を調整し、CCD検出器55の光蓄積時間において、平均強度をそろえる。その結果、実効的に平坦なストークス光強度分布を得ることができる。
【0133】
その他にも、ストークス光の強度分布に応じて、波長選択時間やAOTFの超音波強度を変調することもできる。例えば、AOTF35の超音波強度を変調する駆動増幅器回路を設けて、ストークス光の強度分布に応じてAOTF35の超音波強度を変調することにより、AOTF35通過後のストークス光強度分布を平坦化することが可能となる。
【0134】
ここで、AOTF35の指定波長へのアクセス時間は、およそ30μsであるから、CCD検出器55の蓄積時間を例えば3msとすると、十分な応答が可能である。なお、AOTF35は、この場合、非回折ビームの全てがそのまま通過し、不要な波長成分のみが電気的に選択され、時分割で回折ビームとして排除される。一方、駆動ドライバによっては、時分割でなく、超音波振幅強度の変調により、指定の波長成分のパワーを排除する。これにより、波数200〜3000cm―1において、平坦なストークス光虚度分布を用いてCARS分光を行うことができる。
【0135】
このように、本実施形態の非線形ラマン分光装置では、AOTFを用いて、ストークス光強度分布の平坦でない領域の波長成分の試料照射時間を調整し、CCD検出器の光蓄積時間において平均強度を揃えているため、実効的に平坦なストークス光強度分布を得ることができる。なお、本実施形態の非線形ラマン分光装置における上記以外の構成及び効果は、前述した第4の実施形態の変形例と同様である。また、図22では、時間差測定部160が設けられている装置を示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、図15に示すような時間差測定部がない非線形ラマン分光装置にも本実施形態の構成は適用することができ、その場合も同様の効果が得られる。
【0136】
<7.第6の実施の形態>
[装置の全体構成]
次に、本開示の第6の実施形態に係る非線形ラマン分光装置について説明する。図23は本実施形態の非線形ラマン分光装置の構成を模式的に示す図である。なお、図23においては、図22に示す第5の実施形態の非線形ラマン分光装置300の構成と同じものには、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。図23に示すように、本実施形態の非線形ラマン分光装置400では、計測部450にロックインアンプ58が設けられている。
【0137】
[計測部450]
計測部450には、対物レンズ51、ショートパスフィルタ52、集光レンズ56、光電子増倍管又はアバランシェフォトダイオードなどの光検出器57、ロックインアンプ58、電子計算機59などが設けられている。そして、試料2から発せられたCARS光は、対物レンズ51で集光した後、ショートパスフィルタ52でポンプ光3やストークス光5などの不要光を遮断した後、集光レンズ56を介して光検出器57に入射する。また、光検出器57からの信号は、ロックインアンプ58に入力され、ロックインアンプ58から電子計算機59に出力される。
【0138】
[動作]
この非線形ラマン分光装置400では、単一波長のストークス光を生成するために、連続白色光から、AOTF35と検光子36(又はPBS)を後段に配置し、波長選択又は波長掃引する。AOTF35は、スペクトル分解能及び分解効率が高く、かつ波長の切り替え(又は掃引速度)も、一般に10〜100msと速い。
【0139】
そこで、着目する分子振動スペクトルの振動数に等しいビート周波数になるように、ポンプ光及び選択されたストークス光の波長を決定し、試料2への同時照射を行う。例えば、1つの分子振動スペクトルに着目し、その変化量を高速に測定したり、その分子振動スペクトルの空間分布、即ち、顕微分光イメージングを高速に行ったりすることができる。
【0140】
更に、複数の分子振動スペクトルに着目し、AOTFにより高速でストークス光の波長選択を行うことができるため、基準となる1つの分子振動スペクトル強度に対するこれらの分子振動スペクトル強度の比を測定したり、イメージングしたりすることも可能である。このような定量比測定やレシオメトリック測定は、分子濃度が不均一であるような生体物質のイメージングなどに特に有用である。
【0141】
また、スペクトル全体を測定したい場合は、波長掃引する。このとき、例えばポンプ・プローブ光用アクティブQスイッチ短パルスレーザ11b、又はストークス光励起用短パルスレーザ11aの繰返しパルス列の同期信号を、ロックインアンプ58の参照信号として用いる。アクティブQスイッチ短パルスレーザの繰返し周波数は、一般に1KHz〜1MHzであるため、通常の光電子増倍管やアバランシェフォトダイオードなどの光検出器を用いることができる。また、ロックインアンプ58の時定数は、参照信号周波数の10〜1000分の一の周波数の逆数に選ばれる。このように信号をロックイン検出することで、SNRが高く高感度な検出が可能になる。
【0142】
この非線形ラマン分光装置400によるCARS測定では、縮退4光波混合過程しか起こらない。このため、アクティブQスイッチ短パルスレーザの強度振幅ノイズ、即ち連続パルス列間のピークパワーの変動が大きい場合は、ポンプ・プローブ光3のパワーモニターの光信号強度の2乗で除算、又はストークス光のパワーモニターの光信号で除算したCARS信号を、ロックインアンプ58に入力すればよい。
【0143】
また、アクティブQスイッチ短パルスレーザの繰返しパルス列の周期は、1〜1000μs程度であり、CARS過程は0.1〜30ps以内に終了する速い過程である。このため、ボックスカー積分器(ゲート積分器)のトリガー信号に、アクティブQスイッチ短パルスレーザの繰返しパルス列の同期信号を用い、ゲート積分時間を電気的に出来るだけ短い時間、例えば10ns未満、好ましくは1ns未満にすることで、SNRの高い検出が可能になる。即ち、本実施形態の非線形ラマン分光装置400では、AOTF35を用いて、多波長CARS高感度分光が可能となる。
【0144】
なお、前述した第1〜6の実施形態の非線形ラマン分光装置は、例えば顕微分光装置や顕微分光イメージング装置として使用することができる。
【0145】
また、本開示は、以下のような構成をとることもできる。
(1)
短パルスレーザ光を発生する2つの光源と、
該光源の一方から出射される短パルスレーザ光を時間遅延させるパルス制御部と、
を有する非線形ラマン分光装置。
(2)
前記2つの光源は、短パルスレーザ光を発生する第1の光源と、該第1の光源よりも長波長の短パルスレーザ光を発生する第2の光源であり、
前記パルス制御部は、前記第2の光源から出射される短パルスレーザ光を時間遅延させる(1)に記載の非線形ラマン分光装置。
(3)
前記第1の光源から出射された短パルスレーザ光からストークス光が生成すると共に、前記第2の光源からの光をポンプ光兼プローブ光とし、
前記パルス制御部により前記第2の光源から出射される短パルスレーザ光を時間遅延させることにより、前記ストークス光とポンプ光兼プローブ光とが同時に測定対象の試料に照射される(2)に記載の非線形ラマン分光装置。
(4)
前記第1の光源から出射された短パルスレーザ光から、連続白色光からなるストークス光を生成するシングルモードファイバを有する(2)又は(3)に記載の非線形ラマン分光装置。
(5)
前記パルス制御部は、前記第2の光源を電気的に制御することにより、短パルスレーザ光を時間遅延させる(2)〜(4)のいずれかに記載の非線形ラマン分光装置。
(6)
ストークス光と、ポンプ光兼プローブ光とを合波した後で、これらの時間差を検出する時間差測定部を有し、
該時間差測定部での検出結果が前記パルス制御部にフィードバックされる(1)〜(5)のいずれかに記載の非線形ラマン分光装置。
(7)
前記シングルモードファイバの後段に音響光学波長可変フィルタが配設されている(4)に記載の非線形ラマン分光装置。
(8)
ストークス光の強度分布に応じて、波長選択時間又は前記音響光学可変フィルタの超音波強度を変調する(7)に記載の非線形ラマン分光装置。
(9)
前記音響光学可変フィルタにより、複数の分子振動スペクトルに対応する波長選択を行って、コヒーレント・アンチ・ストークス・ラマン散乱スペクトル強度を測定し、基準スペクトル強度に対する定量比を測定又はイメージングする(7)又は(8)に記載の非線形ラマン分光装置。
(10)
(1)〜(9)のいずれかに記載の非線形ラマン分光装置を備えた顕微分光装置。
(11)
(1)〜(9)のいずれかに記載の非線形ラマン分光装置を備えた顕微分光イメージング装置。
【符号の説明】
【0146】
1,61、100、200、300、400 非線形ラマン分光装置
2 試料
3 ポンプ・プローブ光
4 励起パルス光
5 ストークス光
10、110 光源部
20、70 ポンプ・プローブ光生成部
30、130 ストークス光生成部
32 シングルモードファイバ
40、140 光照射部
50、150、450 計測部
73 光ファイバ
80 演算部
81 非線形ラマン分光システム
160 時間差測定部
【技術分野】
【0001】
本技術は、非線形ラマン分光装置、顕微分光装置及び顕微分光イメージング装置に関する。より詳しくは、ストークス光として広帯域光を用いるマルチプレックス・コヒーレント・アンチストークス・ラマン分光の装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザラマン分光法は、ポンプ光として単一波長のレーザ光を被検体試料に照射し、その試料からの散乱光を分光する分析方法である。この散乱光であるストークス光又はアンチストークス光の波数のポンプ光に対するシフト量は、その被検体資料の物質固有の分子振動モードに対応している、物質によって特定のスペクトルとして観察される。このため、ラマン分光法は、赤外分光法と並んで分子指紋領域の分光法として、物質の解析・評価、医療診断、新薬や食品などの有機物の開発に、広く用いられている。
【0003】
また、非線形ラマン分光法は、前述した従来のレーザラマン分光法と同様にラマン散乱光を測定するものであるが、3次の非線形光学過程を利用している点が異なる。3次の非線形光学過程は、励起光であるポンプ光、プローブ光及びストーク光の3種の光を入射して、散乱される光を検出する方法であり、例えば、CARS(Coherent anti-Stokes Raman Scattering;コヒーレント・アンチ・ストークス・ラマン散乱)、CSRS(Coherent Stokes Raman Scattering;コヒーレント・ストークスラマン散乱)、誘導ラマン損失分光、誘導ラマン利得分光などがある。
【0004】
CARS分光法では、一般に、ポンプ光とこのポンプ光よりも波長が長いストークス光を被検体試料に照射し、試料から散乱されるポンプ光よりも波長が短い非線形ラマン散乱光を分光し、スペクトルを得ている(例えば、特許文献1〜3参照。)。また、従来、ストークス光を発生させるための光源として、白色光を使用する非線形ラマン分光方法も提案されている(特許文献4参照)。
【0005】
一方、前述した従来のCARS分光法では、ポンプ光やストークス光を生成するためのレーザ光は、数十fs〜数十psの超短パルス光が用いられているが、その場合、装置が高価でかつ複雑になるという問題点がある。そこで、従来、フォトニック結晶ファイバ(PCF)により、パルス幅が0.1〜10nsのパルス光を広帯域化して、スーパーコンティニューム光を生成する方法が提案されている(特許文献5参照)。
【0006】
前述したCARS分光法などに代表される非線形ラマン分光法は、従来のラマン分光法に比べて、蛍光バックグランドの影響を回避することができ、更に、検出感度の向上が可能である。このため、特に、生体系の分子識別イメージング技術として、現在、研究開発が盛んに行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−288681号公報
【特許文献2】特開2006−276667号公報
【特許文献3】特開2010−2256号公報
【特許文献4】特開2004−61411号公報(特許第3691813号公報)
【特許文献5】特開2009−222531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述した従来の非線形ラマン分光法、特にマルチプレックスCARS分光法では、PCFや高非線形ファイバ(HNLF)などにより広帯域白色光を生成しているため、光損傷、特に入射端面近傍の光損傷が大きく、最大入射パワーが限られるという問題点がある。
【0009】
一般に、PCFやHNLFを用いた場合、広帯域性を確保できるという長所があるが、これは、CARS分光においては、広帯域であるが故、1波長あたりの光パワーが低くなるという短所となる。また、PCFには、特殊な端面処理が必要となるなどの問題点もある。
【0010】
更に、PCFから発生されるスーパーコンティニューム光(広帯域光)のビームプロファイルは、一般的に、理想的なガウシアンビームとならない。そして、このようなビームプロファイルのレーザ光は、顕微分光法や顕微分光イメージングにおいて取得される画像の劣化の要因となるため、好ましくない。
【0011】
そこで、本開示は、高効率でかつ安定性に優れた小型の非線形ラマン分光装置、顕微分光装置及び顕微分光イメージング装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前述した問題点を解決するために、鋭意実験研究を行った結果、以下に示す知見を得た。特に、生体系への応用においては、分子指紋領域と呼ばれる分子振動スペクトル領域300〜3600cm−1の分光が重要である。このため、非線形ラマン分光法による顕微分光イメージングでは、入力するレーザビームの品質として非線形光学効果を大きくするため、ピークパワーが高いこと、ガウシアンビームが得られること及び偏光状態が直線偏光であることが求められている。
【0013】
一方、シングルモードファイバ(SMF)から出射される光の空間強度分布は、出射光の波長がSMFのカットオフ波長近傍又はそれ以上の波長であれば、理想的なガウシアンビームとなる。そこで、本発明者は、ストーク光用の広帯域白色光を生成する際、PCFやHNLFの代わりに、安価で容易に入手可能なSMFを使用することについて検討した。その結果、本発明者は、SMFを使用すると、理想的なガウシアンビームが得られることも見出した。
【0014】
また、非線形ラマン分光法においては、ポンプ光、プローブ光及びストークス光の3つのパルスの電場ベクトルの方向が一致している必要があり、これらの光発生部で偏光が直線偏光であることが望ましい。この点について、本発明者は、特定のSMF、特に、偏波面保存シングルモードファイバ(PM−SMF)を使用することにより、良好な直線偏光のストークス光が得られることを見出し、本発明に至った。
【0015】
即ち、本開示に係る非線形ラマン分光装置は、短パルスレーザ光を発生する2つの光源と、該光源の一方から出射される短パルスレーザ光を時間遅延させるパルス制御部と、を有するものである。
この装置では、前記2つの光源を、短パルスレーザ光を発生する第1の光源と、該第1の光源よりも長波長の短パルスレーザ光を発生する第2の光源とで構成することができ、この場合、前記パルス制御部は、前記第2の光源から出射される短パルスレーザ光を時間遅延させる。
また、前記第1の光源から出射された短パルスレーザ光からストークス光が生成すると共に、前記第2の光源からの光をポンプ光兼プローブ光とし、前記パルス制御部により前記第2の光源から出射される短パルスレーザ光を時間遅延させることにより、前記ストークス光とポンプ光兼プローブ光とを同時に測定対象の試料に照射してもよい。
更に、前記第1の光源から出射された短パルスレーザ光から、連続白色光からなるストークス光を生成するシングルモードファイバを有していてもよい。
更にまた、前記パルス制御部は、前記第2の光源を電気的に制御することにより、短パルスレーザ光を時間遅延させることもできる。
更にまた、ストークス光と、ポンプ光兼プローブ光とを合波した後で、これらの時間差を検出する時間差測定部を有し、該時間差測定部での検出結果が前記パルス制御部にフィードバックされるようにしてもよい。
【0016】
本開示に係る顕微分光装置及び顕微分光イメージング装置は、前述した非線形ラマン分光装置を備えたものである。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、高効率でかつ安定性に優れた小型の非線形ラマン分光装置、顕微分光装置及び顕微分光イメージング装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本開示の第1の実施形態の非線形ラマン分光装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、長さ6mのシングルモードファイバを使用して生成したストークス光5のスペクトルを示す図である。
【図3】横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、偏波面保存シングルモードファイバの進相軸又は遅相軸に、入射励起光の偏波面を一致させたときのシングルモードファイバからの出射光の波長分布を示す図である。
【図4】横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、長さ6mのシングルモードファイバを使用して生成したストークス光と、ポンプ光のスペクトルを示す図である。
【図5】横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、厚さが2mmのポリメタクリル酸メチル板のCARSスペクトルを示す図である。
【図6】本開示の第2の実施形態の非線形ラマン分光装置の構成を模式的に示す図である。
【図7】本開示の第3の実施形態の非線形ラマン分光システムの構成を示す概念図である。
【図8】横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、ストークス光強度分布の自己相関関数を示す図である。
【図9】横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、ストークス光強度分布を示す図である。
【図10】数式6により、厚さが1mmのポリエチレンテレフタレート板のCARSスペクトルを規格化した結果を示す図である。
【図11】数式7で表される条件式の導出方法を示す図である。
【図12】横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、LPFにより短波長側成分をカットしたストークス光の強度分布を示す図である。
【図13】図12に示すストークス光の強度分布に基づいて測定した厚さ1mmのポリエチレンテレフタレート板のCARSスペクトルを示す図である。
【図14】図12に示すストークス光の強度分布に基づいて測定した厚さ1mmのポリスチレン板のCARSスペクトルを示す図である。
【図15】本開示の第4の実施形態の非線形ラマン分光装置の構成を示す概念図である。
【図16】横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、長さ12mの偏波面保存シングルモードファイバを使用し、平均励起パワーが50mWのときのストークス光の強度分布を示す図である。
【図17】横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、波長561nmのポンプ・プローブ光3のスペクトル及びエッジ波長605nmのロングパスフィルタを通過したストークス光5の強度分布を示す図である。
【図18】横軸に波長をとり、図17に示すストークス光の強度分布を示す図である。
【図19】横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、長さ6mの偏波面保存シングルモードファイバを使用し、平均励起パワーが50mWのときのストークス光の強度分布を示す図である。
【図20】横軸に波数をとり、縦軸に強度をとって、図19に示すストークス光5の強度分布をポンプ・プローブ光3の波長561nmを基準にしたラマンシフトの波数によって示す図である。
【図21】本開示の第4の実施形態の変形例の非線形ラマン分光装置の構成を示す概念図である。
【図22】本開示の第5の実施形態の非線形ラマン分光装置の構成を示す概念図である。
【図23】本開示の第6の実施形態の非線形ラマン分光装置の構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示を実施するための形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す各実施形態に限定されるものではない。また、説明は、以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態
(ストーク光の生成にシングルモードファイバを使用した装置の例)
2.第2の実施の形態
(ポンプ光及びプローブ光の光路上に光ファイバを配置した装置の例)
3.第3の実施の形態
(測定スペクトルを正規化処理する演算部を備えるシステムの例)
4.第4の実施の形態
(2台の光源を備える装置の例)
5.第4の実施の形態の変形例
(フィードバック機構を備える装置の例)
6.第5の実施の形態
(AOTFを備える装置の例)
7.第6の実施の形態
(ロックインアンプを使用した装置の例)
【0020】
<1.第1の実施の形態>
[装置の全体構成]
先ず、本開示の第1の実施形態に係る非線形ラマン分光装置について説明する。図1は本実施形態の非線形ラマン分光装置の構成を模式的に示す図である。本実施形態の非線形ラマン分光装置1は、CARS分光装置であり、図1に示すように、光源部10、ポンプ光・プローブ光生成部20、ストークス光生成部30、光照射部40及び計測部50が設けられている。
【0021】
[光源部10]
光源部10は、少なくとも、パルス光を出射するレーザ11、及びパルス光をポンプ・プローブ光生成部20とストークス光生成部30とに振り分ける偏光ビームスプリッタ13を備えている。そして、光源部10は、ポンプ・プローブ光生成部20及びストークス光生成部30に向けて、所定のパルス光を出射する。
【0022】
ここで、レーザ11は、パルス幅が0.2〜10ns、パルスピークパワーが50W〜5kW、波長が500〜1200nmのパルス光を発生可能なものであればよい。例えば、安価で小型の1064nmで発振するQスイッチ方式のサブナノ秒繰返しパルスを発生するNd:YAGレーザなどを使用することができる。また、Qスイッチ方式以外にも、モード同期方式のNd:YAG、Nd:YVO4又はNd:YLFピコ秒レーザ、及びYb系ドープファイバーピコ秒レーザなどを使用することもできる。
【0023】
更に、測定に短波長の光を用いる場合は、前述した各レーザからの光を励起光として、KTPやLBOなどの第2高調波(Second Harmonic Generation:SHG)発生用光学結晶を用いてSHG光を発生させてもよい。この場合、励起光が1064nmであれば、第2高調波発生による波長変換後の波長は532nmとなる。このように、本実施形態の非線形ラマン分光装置1では、波長が532nm又は1064nmの光を発するものを好適に使用することができる。
【0024】
なお、光源10から出射されるパルス光の波長は、これらに限定されるものではなく、例えばNd:YAGレーザの場合、1064nm以外に、波長が1319nm、1122nm及び946nmの光を発振することが可能である。また、Nd:YVO4レーザの場合は、1064nm以外に、波長が1342nm及び914nmの光を発振することが可能である。更に、Nd:YLFレーザの場合は、波長1053nm又は1047nmの光を、Yb:YAGレーザの場合は、波長1030nmの光を、それぞれ発振することができる。
【0025】
そして、これらの波長を基本波として、第2高調波を発生させると、532nm以外にも、波長が660nm、561nm、473nm、671nm、457nm、527nm、523nm、515nmのSHG光が得られる。
【0026】
ただし、パルス幅を0.2ns未満にすると、レーザの機構が複雑になり、高価なものとなる。一方、パルス幅が10nmを超えると、1ショットあたりのパルスエネルギーが大きくなりすぎて、具体的にはレーザ光のパルスエネルギーが5μJ以上となり、光ファイバ端面の損傷が生じたり、ストークス光の性能が不安定になったりすることがある。また、当然のことながら、レーザ動作時の消費電力が増加する。なお、レーザ11から出射されるパルス光のパルス幅は、0.4〜5nsであることが好ましい。
【0027】
長さが短い光ファイバ内において、連続白色光を取得するための3次の非線形光学効果を得るためには、パルス光のピークパワーは高い方が好ましい。そこで、本実施形態の非線形ラマン分光装置1では、パルスエネルギーの増加を抑えるため、ピークパワーを高くする分、パルス幅を短くして、1ショットあたりのパルスエネルギーを下げ、繰り返し周波数に応じて平均パワーが大きくならないようにする。例えば、パルス幅が前述した範囲内で、繰り返し周波数が10〜50kHzの場合には、平均パワーが250mW以下になるようにする。
【0028】
このような仕様を満たす光源部10としては、例えば、受動Qスイッチ方式のNd:YAG固体レーザ(ALPHALAS社製 PLUSELAS P−1064−300)に、第2高調波発生用KTP結晶SHGユニットを装備した構成が考えられる。この構成の場合、例えば、波長:532nm、平均パワー:100mW、パルス幅:600ps、繰返し周波数:30kHzの光を出射することができる。
【0029】
また、光源部10には、レーザ11と偏光ビームスプリッタ13との間に、半波長板12が配置されていてもよい。半波長板12は、レーザ11から出射した光の偏光面を回転させる偏光素子であり、その光学軸をθ回転させると、通過後のレーザ光の偏光面は2θ回転する。これにより、レーザ11から出射した光が垂直偏光と水平偏光とに分配されるため、偏光ビームスプリッタ13において、励起パルス光4とポンプ光兼プローブ光(以下、単にポンプ光という)3とに好適に分配することができる。
【0030】
[ポンプ・プローブ光生成部20]
ポンプ・プローブ光生成部20には、光源部10から入射したパルス光(ポンプ光3)を、後述するストークス光5と同時に照射するために、光路長調整機構が設けられている。具体的には、ポンプ光3を、複数のミラー22a〜22d,23a,23b,24,25a,25bで反射することにより、光路長を調整して、ストークス光5とタイミングを合わせる。
【0031】
なお、光路調整機構は、図1に示す構成に限定されるものではなく、例えば、ミラー22a〜22d,23a,23bの光学配置により、ポンプ光3の光路長を、ストークス光5の光路長と一致させることができれば、ミラー24,25a,25bは不要となる。
【0032】
また、シングルモードファイバ32として、後述する偏波面保存シングルモードファイバを使用する場合には、最初のミラー22aの前に、ポンプ光3の偏光面の方向を、ストークス光5の偏光面の方向に一致させるための半波長板21を配置する。なお、通常のシングルモードファイバを使用する場合は、半波長板21は不要である。
【0033】
[ストークス光生成部30]
ストークス光生成部30は、光源部10から入射したパルス光4から連続白色光であるストークス光5を生成するものであり、少なくとも、シングルモードファイバ32を備えている。ここで、ストークス光5の波長域は、分子指紋領域(ラマンシフト量で300〜3600cm−1)に対応するストークス光の波長であり、下記数式1により表される。なお、下記数式1におけるλはストークス光の波長(nm)、λpはポンプ光の波長(nm)であり、また、波数ω(cm−1)と波長λ(nm)との関係は、下記数式2で表すことができる。
【0034】
【数1】
【0035】
【数2】
【0036】
そして、ストークス光生成部30において生成されるストークス光5の波長λは、例えば、ポンプ光3の波長λpが532nmの場合は540〜660nmであり、ポンプ光3の波長λpが1064nmの場合は1100〜1725nmである。
【0037】
また、ストークス光生成部30に設けられるシングルモードファイバ32は、ファイバ長が1〜20mmのものであればよい。シングルモードファイバ32の長さが1m未満の場合、平坦な連続白色光が得られないことがあり、また、ファイバ長が20mを超えると、スペクトル全体の発生効率が低下すると共に、計測対象外の波長帯の光が増加する。なお、シングルモードファイバ32の長さは、3〜10mであることが好ましく、これにより、必要な波長帯域の連続白色光を、効率的にかつ安定して生成することができる。
【0038】
更に、シングルモードファイバ32のカットオフ波長は、励起パルス光4の波長にほぼ等しいものを選択することが望ましい。励起パルス光4の波長よりもカットオフ波長が短い場合は、ファイバへの入力結合効率が低下し、ストークス光5の生成効率や帯域幅が低下することがある。また、励起パルス光4の波長よりもカットオフ波長が長い場合は、ストークス光5のビームのモードがTEM00にならず、高次モードが混在し、単一のガウシアンビームが得られなくなる。なお、前述した要件を満たし、本実施形態の非線形ラマン分光装置1に使用可能なシングルモードファイバ32としては、例えば、Nufern社製 460HP,630HPなどが挙げられる。
【0039】
更にまた、シングルモードファイバ32は、前述した特性を有する偏波面保存シングルモードファイバを使用することが望ましい。これにより、直線偏光のストークス光5が得られるため、通常は直線偏光として用いられるポンプ光3と偏光面を一致させることができるため、CARS信号を2倍程度増大することが可能となる。なお、本実施形態の非線形ラマン分光装置1に使用可能な偏波面保存シングルモードファイバとしては、例えば、Nufern社製 PM−460−HP,PM−630−HP、及びFIBERCORE社製 HB8600などが挙げられる。
【0040】
なお、シングルモードファイバ32に、励起パルス光4を導入する際は、開口係数をファイバの受光NAに合わせるため、開口数NAが0.1〜0.25の範囲にある対物レンズを用いることが望ましい。一方、シングルモードファイバ32の出射側には、ストークス光5のビーム径を、ポンプ光3のビーム径と一致させるため、開口数NAが0.2〜0.6の対物レンズを用いることが望ましい。
【0041】
シングルモードファイバ32として偏波面保存シングルモードファイバを使用する場合には、励起パルス光4の偏光面の方向を、偏波面保存シングルモードファイバの光学軸(高速軸又は低速軸)に一致させるため、半波長板31を配置する。なお、通常のシングルモードファイバを使用する場合は、半波長板31は不要である。
【0042】
また、このストークス光生成部30には、シングルモードファイバ32の出射面側に、ロングパスフィルタ33が配置されている。ロングパスフィルタ33は、シングルモードファイバ32で発生した白色光の短波長側の光を反射し、長波長側の光のみを透過すものであり、これにより、生成したストークス光5から、不要な波長域の光を除去することができる。市販の高性能なロングパスフィルタでは、光学濃度6〜7の選択比を有するものが入手可能であり、本実施形態の非線形ラマン分光装置1では、例えばSemrock社製 LP03−532RU−25などを使用することができる。
【0043】
更に、ストークス光生成部30には、ストークス光5の光路を変えて、光照射部40に導入するためのミラー34が設置されていてもよい。
【0044】
[光照射部40]
光照射部40は、ポンプ・プローブ光生成部20から出射したポンプ光3と、ストークス光生成部30から出射したストークス光5が同軸になるよう重ね合わせ、同時に試料2に照射するものである。この光照射部40の構成は、特に限定されるものではないが、例えば、ノッチフィルタ41、ビームエキスパンダ42,43、ミラー44、対物レンズ45などで構成することができる。
【0045】
ここで、ビームエキスパンダ42,43は、対物レンズ45の入射瞳径に、ビーム径を合わせるためのものである。例えば、ビーム径が約2mmの場合、3倍のビームエキスパンダを通過させることにより、対物レンズ45に入射時のビーム径を約6mmにすることができる。また、ノッチフィルタ41としては、例えばSemrock社製 NF−532U−25などを使用することができる。
【0046】
[計測部50]
計測部50は、試料2から発せられたCARS光を測定するものであり、例えば、対物レンズ51、ショートパスフィルタ52及び分光器53などが設けられている。ョートパスフィルタ52は、ポンプ光3及びストークス光5を遮断し、CARS光のみを通過させるものである。同時に、試料で発生した蛍光も、ポンプ光3の波長よりも長波長であるため、ポンプ光3及びストークス光5と同様に効率良く遮断することができる。
【0047】
市販の高性能なショートパスフィルタとしては、光学濃度6〜7の選択比を有するものが入手可能であり、本実施形態の非線形ラマン分光装置1では、例えばSemrock社製 SP01−532RU−25などを使用することができる。
【0048】
分光器53は、例えば、熱ノイズを低減するために冷却機能を備えたCCD(Charge Coupled Device Image Sensor)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)アレイ検出器を装着したポリクロメータ、モノクロメータ又はPMT(Photomultiplier Tube:光電子増倍管)などを使用することができる。そして、ポリクロメータとしては、例えばSHAMROCK社製 SR−303iを使用することができ、その場合、1200本/mmの回折格子が用いられる。また、CCD検出器には、ANDOR社製 NEWTON DU970N BVを使用することができる。
【0049】
ここで、CARS光は、微弱な光であるため、損失を可能な限り抑えることが望ましい。また、計測部50は、周囲の外光を十分に遮蔽する構成となっていることが望ましい。更に、分光器53の入射スリットには、レンズ系を用いてCARS光を導入してもよく、又は、図1に示すように、マルチモード光ファイバ54を用いてCARS光を導入することもできる。
【0050】
[非線形ラマン分光装置1の動作]
次に、本実施形態の非線形ラマン分光装置1の動作、即ち、非線形ラマン分光装置1を使用して、試料2のCARSスペクトルを測定する方法について説明する。本実施形態の非線形ラマン分光装置1においては、先ず、光源部10において、レーザ11から出射されたパルス光を、偏光ビームスプリッタ13によって2分割し、それぞれポンプ・プローブ光生成部20とストークス光生成部30とに導入する。
【0051】
その際、レーザ11から出射したパルス光を、半波長板12によりその偏光面を回転した後、偏光ビームスプリッタ13により分割してもよい。これにより、分配比を調整することができる。
【0052】
そして、ストークス光生成部30に入射したパルス光4は、シングルモードファイバ32に入射し、連続白色光であるストークス光5に変換される。図2は横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、長さ6mのシングルモードファイバを使用して生成したストークス光のスペクトルを示す図である。なお、図2に示すスペクトルは、波長532nm、入射パワー40mwのパルス光4から生成した白色連続光のスペクトルである。
【0053】
ここで、シングルモードファイバ32として偏波面保存シングルモードファイバを使用する場合には、半波長板31を介して、光源部10から導入されたパルス光4をシングルモードファイバ32に入射させる。具体的には、半波長板31によって、パルス光4の偏光面を回転し、偏光面がシングルモードファイバ32の進相軸又は遅相軸と平行になるようにする。これにより、偏波面保存シングルモードファイバ内での偏光保存性が確保される。
【0054】
図3は横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、偏波面保存シングルモードファイバの進相軸又は遅相軸に、入射励起光の偏波面を一致させたときのシングルモードファイバからの出射光の波長分布を示す図である。図3に示すように、進相軸又は遅相軸に検光子の方位を一致させ、出射光のスペクトル強度分布を測定すると、ほぼ全ての波長に対して、いずれかを消光することができ、単一直線偏光特性を有するストークス光5を生成することができる。なお、図3に示す分布線について、どちらが進相軸又は遅相軸であるかは、特定していない。
【0055】
また、光照射部40に導入する前に、シングルモードファイバ32から出射したストークス光5を、ロングパスフィルタ33を通過させて、短波長側の成分を除去する。具体的には、例えば励起パルス光4が532nmの場合は、この励起パルス光4も含むように、540nmよりも波長が短い成分を除去する。これにより、シングルモードファイバ32から出射される光に含まれる不要な短波長成分を遮断し、測定したいCARSスペクトルの信号対ノイズ(バックグランド)の比を向上させることができる。
【0056】
一方、ポンプ・プローブ光生成部20に入射したパルス光(ポンプ光3)は、ストークス光5と同時に光照射部40に導入されるように、複数のミラー22a〜22d,23a,23b,24,25a,25bにより、その光路長が調整される。その際、半波長板21により、ポンプ光3の偏光面の方向を、ストークス光5の偏光面の方向と一致させる。これにより、3次の非線形光学過程を高効率で利用することができ、CARSスペクトルの信号対ノイズ(バックグラウンド)比を向上させることができる。
【0057】
光照射部40に導入されたポンプ光3及びプローブ光5は、ノッチフィルタ41においてポンプ光3が反射し、ストークス光5は透過する。なお、ノッチフィルタ41の代わりに、ロングパスフィルタを使用することもできる。そして、ポンプ光3及びプローブ光5は、ビームエキスパンダ42,43において、対物レンズ45の入射瞳径に合うようビーム径が拡大された後、対物レンズ45を介して、試料2に照射される。図4は横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、長さ6mのシングルモードファイバを使用して生成したストークス光と、ポンプ光のスペクトルを示す図である。
【0058】
そして、計測部50において、試料2から発せられたCARS光を検出し、ラマンスペクトルを得る。具体的には、試料2から発せられたCARS光を、対物レンズ51で集光した後、ショートパスフィルタ52でポンプ光3やストークス光5などの不要光を遮断した後、分光器53において検出する。
【0059】
図5は横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、厚さが2mmのポリメタクリル酸メチル板のCARSスペクトルを示す図である。なお、図5に示すスペクトルは、対物レンズ45にNA0.45のものを、対物レンズ51にNA0.3のものを使用し、レーザ11の波長を532nm、繰り返し周波数を30kHz、パルス幅を約600psとして測定した。また、対物レンズ45から出射したポンプ光3の入射平均パワーは4mW、ストークス光5の平均パワーは6mWであり、CCD検出器の露光時間は500msとした。
【0060】
図5に示すように、本実施形態の非線形ラマン分光装置1によれば、500〜3000cm−1の分子指紋領域をカバーする広い範囲で、良好なCARS分光スペクトルが得られた。そして、本実施形態の非線形ラマン分光装置1では、時間遅延などの調整の動作が不要となり、一括してこの帯域のスペクトルを取得することが可能となる。
【0061】
以上詳述したように、本実施形態の非線形ラマン分光装置1は、シングルモードファイバ32によりストークス光5を生成しているため、構成を簡素化することができ、装置の小型化及び低コスト化を実現することができる。また、シングルモードファイバ32は、出力がガウシアンビームとなり、また入射端面の損傷が少ないため、結合方法やアライメントが簡単で、安定性の高いストークス光5が得られる。
【0062】
なお、通常のSFMを、カスケード誘導ラマン散乱における連続白色光源に使用した例は、従来より知られているが、非線形ラマン分光法への適用は報告がない。これは、SMFのカスケード誘導ラマン散乱光では、複数のピークが表れるためと考えられる。
【0063】
また、特許文献5に記載の非線形分光計測システムでは、スーパーコンティニューム光(広帯域光)の偏光状態については特に記載されていないが、コヒーレントな3次の非線形光学過程を効果的に利用するためには、ポンプ光、プローブ光及びストークス光(広帯域光)の偏光が一致した直線偏光になっていることが重要である。これに対して、本実施形態の非線形ラマン分光装置1では、ポンプ光3の偏光面の方向を、ストークス光5の偏光面の方向と一致させているため、3次の非線形光学過程を高効率で利用することができる。
【0064】
特に、偏光波面保存シングルモードファイバを使用した装置は、ポンプ光とストークス光のビーム調整(ビーム径を同一にし、方向を揃えるアライメント)を容易に行うことができ、顕微分光やイメージングに好適である。
【0065】
<1.第2の実施の形態>
[装置の全体構成]
次に、本開示の第2の実施形態に係る非線形ラマン分光装置について説明する。図6は本実施形態の非線形ラマン分光装置の構成を模式的に示す図である。なお、図6においては、図1に示す第1の実施形態の非線形ラマン分光装置1の構成と同じものには、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0066】
図6に示すように、本実施形態の非線形ラマン分光装置61は、ポンプ・プローブ光生成部70の光路調整機構が、ミラーによる反射ではなく、所定長の光ファイバ73を通過させる構成となっている。具体的には、光源部10から導入されたパルス光は、ミラー71aによりその光路が変更されて、光ファイバ73に入射する。そして、光ファイバ73を通過することによりその光路長が調整された後、ミラー71bにより光路が変更されて、光照射部40に出射される。
【0067】
(ポンプ・プローブ光生成部70)
ポンプ・プローブ光生成部70に配置される光ファイバ73としては、例えば、数mW以下の低励起パワーを入力する場合であれば、シングルモードファイバや偏波面保存シングルモードファイバを使用することができる。これは、励起パワーが低い場合は、ファイバ内でカスケードに誘導ラマン散乱光が発生せず、単なる光伝送用として用いることができるためである。このような場合に使用可能なシングルモードファイバとしては、Nufern社製 630HPなどが挙げられ、偏波面保存ファイバとしては、Nufern社製 PM−460−HP及びFIBERCORE社製 HB8600などが挙げられる。
【0068】
一方、励起パワーが次第に大きくなると、誘導ラマン散乱光が発生し、単一波長のポンプ・プローブパルスを送ることができなくなる。本発明者の実験によれば、誘導ラマン散乱が起こらない閾値は、励起入力パワーが約5mWまでであった。このため、数mW以上の励起パワーを入力する場合は、ファイバ径を適宜大きくし、例えばファイバコア径が8μm以上の偏波面保存シングルモードファイバ、コア径が100μm以下のマルチモードファイバ、又はいわゆるラージモードエリアファイバ、フォトニッククリスタルラージモードエリアファイバなどを使用することが望ましい。
【0069】
その際、シングルモードファイバの場合、例えばNufern社製 SMF−28−J9などを使用することができ、偏波面保存シングルモードファイバの場合、例えばNufern社製 PM1550−HPなどを使用することができる。また、ラージモードエリアファイバの場合、例えばTHORLAB社製 P−10/125DC,P−25/240DC,P−40/140DCなどを使用することができる。ラージモードエリアフォトニッククリスタルファイバの場合は、例えばNKT PHOTONIC社製 LMA−20などを使用することができる。エンドレスシングルモードフォトニッククリスタルファイバの場合は、例えばNKT PHOTONIC社製 ESM−12−01などを使用することができる。
【0070】
ここで、シングルモードファイバ32に偏波面保存シングルモードファイバを使用する場合には、光ファイバ73の前に、ポンプ光3の偏光面の方向を、ストークス光5の偏光面の方向に一致させるための半波長板72を配置する。なお、通常のシングルモードファイバを使用する場合は、半波長板72は不要である。
【0071】
(光源部10)
本実施形態の非線形ラマン分光装置61においては、光源部10に、第2高調波発生用光学結晶14が配置されている。そして、この第2高調波発生用光学結晶14により、レーザ11から出射した励起光を波長変換してポンプ光としている。具体的には、例えば励起光が1064nmの場合、波長変換により532nmの緑色光となる。
【0072】
本実施形態の非線形ラマン分光装置61では、光ファイバ73によりポンプ光3の光路長を調整しているため、ストークス光5とのタイミング調整が容易であり、かつ装置を小型化することが可能となる。CARS分光法では、ポンプ光3とストークス光5とが試料の測定ポイントに同時に到達する必要があるが、光ファイバ73を使用することにより、容易に、ポンプ光3の光路長と、ストークス光5の光路長とを同じにすることができる。
【0073】
なお、本実施形態における上記以外の構成及び効果は、前述した第1の実施形態と同様である。
【0074】
<3.第3の実施の形態>
[システムの全体構成]
次に、本開示の第3の実施形態に係る非線形ラマン分光システムについて説明する。図7は本実施形態の非線形ラマン分光システムの構成を示す概念図である。なお、図7においては、図1に示す第1の実施形態の非線形ラマン分光装置1の構成と同じものには、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0075】
図7に示すように、本実施形態の非線形ラマン分光システム81は、前述した第1の実施形態の非線形ラマン分光装置1を備えたシステムであり、ラマン分光装置1の計測部50に、演算部80が接続されている。
【0076】
[演算部80]
演算部80には、演算装置である電子計算機と、表示装置などが設けられており、計測部50の分光器で検出したCARSスペクトルの分布を正規化し、その結果などを表示する。以下、正規化のための具体的演算処理方法について説明する。
【0077】
マルチプレックスCARSスペクトルには、縮退4光波混合(2−color CARS)成分と、非縮退4光波混合(3−color CARS)成分とが含まれている(Young Jong Lee and Marcus T. Cicerone: “Single-shot interferometric approach to background free broadband coherent anti-Stokes Raman scattering spectroscopy”, 5 January 2009 / Vol. 17, No. 1 / OPTICS EXPRESS 123 参照)。
【0078】
ここで、CARS分光法では、縮退4光波混合(2−color CARS)成分はポンプ光とプローブ光が同一波長、ストークス光がそれらと異なる場合で、一般にはこれを狭義の意味でCARSスペクトルと呼ばれることが多い。一方、マルチプレックスCARSでは、ポンプ光、プローブ光及びストークス光の波長が全て異なる非縮退4光波混合(3−color CARS)成分が、前述した縮退4光波混合(2−color CARS)成分と同一のアンチストークスラマン散乱光になる場合がある。
【0079】
一方、本実施形態の非線形ラマン分光システム81で使用している非線形ラマン分光装置1では、ポンプ光及びプローブ光が、ストークス光(連続白色光)に比べて、十分狭帯域の線スペクトルと見なせる。このため、縮退4光波混合(2−color CARS)成分I2−color(ω)は、ポンプ光のパワーPPの2乗とストークス光強度分布SS(ω)の積に比例し、下記数式3で表される。なお、下記数式3におけるωは波数(cm−1)である。
【0080】
【数3】
【0081】
また、非縮退4光波混合(3−color CARS)成分I3−color(ω)は、連続広帯域光のスペクトル内にある2つの波長成分(波数成分)が、ポンプ光及びストークス光の役目を行う。従って、CARSスペクトルは、波数ω,ω´に関するストークス光強度分布の自己相関関数とポンプ光パワーの積に比例すると近似的に考えられ、下記数式4で表される。
【0082】
【数4】
【0083】
そして、上記数式3と数式4との和は、下記数式5で表される。
【0084】
【数5】
【0085】
そして、上記数式5から求められるRN(ω)を規格化因子とし、CARS測定スペクトルSC(ω)を規格化する場合、規格化されたCARSスペクトルSN(ω)は、下記数式6で与えられる。
【0086】
【数6】
【0087】
図8は横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、ストークス光強度分布の自己相関関数を示す図である。また、図9は横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、ストークス光強度分布を示す図である。なお、図9には数式5に示す規格化因子RN(ω)も併せて示している。更に、図10は上記数式6により、厚さが1mmのポリエチレンテレフタレート板のCARSスペクトルを規格化した結果を示す図である。
【0088】
図8〜図10に示すように、本実施形態の方法により正規化することにより、500〜1000cm−1に表れていた疑似ピークが消滅し、スペクトルのノイズが改善されていることが確認された。なお、図8〜図10に示すスペクトルは、対物レンズ45から出射したポンプ光3の入射平均パワーが4mW、ストークス光5の平均パワーが3mW、CCD検出器の露光時間は300msの条件で測定したものである。
【0089】
このように、演算部80において、正規化することにより、平坦でないストークス光強度分布がある場合においても、測定されるCARSスペクトルの分子振動に対応しない疑似スペクトルピークと混同せず、正確なCARSスペクトル強度分布を得ることができる。
【0090】
また、本実施形態の非線形ラマン分光システム81により得られるストークス光強度分布は、連続白色光の発生がシングルモードファイバ中のカスケード誘導ラマン散乱に基づくものである。このため、低波域(短波長側)ではシングルモードファイバ内のシリカコア(SiO2)によるラマンシフトである約440cm−1おきに、ピークが生じるため、スペクトルは平坦ではない。
【0091】
一般には、ストークス光発生のシングルモードファイバを出射した光の不要成分を除去するロングパスフィルタのエッジ波長を、ポンプ光より少し長い波長に設定するが、そうすると、比較的スペクトルが平坦となる波長まで長波長側にシフトする。このようにした場合、縮退4光波混合(2−color CARS)成分の低波数側は、低減または除去されるが、非縮退4光波混合(3−color CARS)成分は残る。これは、非縮退4光波混合(3−color CARS)成分が、ストークス光強度分布内の2つの光成分の差の波数が低波数成分を含むからである。
【0092】
そこで、ストークス光発生用シングルモードファイバ出射後に設けたロングパスフィルタのエッジ波長を設定しておけば、比較的平坦なストークス光強度分布特性を有するところのみを用いて、測定波数領域を損なうことなく良好なCARSスペクトルを得ることができる。そのロングパスフィルタのエッジ波長を設定条件は、次のように与えられる。
【0093】
例えば、ロングパスフィルタの短波長側エッジ波長をλe(nm)、ポンプ光の波長をλp(nm)、測定最大波数をωm(cm−1)としたとき、λe(nm)の条件は、下記数式7で表される。なお、下記数式7におけるλfは、下記数式8により求められる値であり、波数ω(cm−1)と波長λ(nm)との関係は、前述した数式2で表される。また、図11には上記数式7で表される条件式の導出方法を示す。
【0094】
【数7】
【0095】
【数8】
【0096】
そして、バンドパスフィルタの場合は、λe<λ<λfがバンドパス領域であればよい。ここで、前述した方法により、図8〜10に示すCARSスペクトルについて、ロングパスフィルタのエッジ波長設定を行う。例えば、λp=532nm、ωm=3000cm−1とすると、上記数式8よりλf=633nmとなる。よって、λeは、上記数式7から、λp(=532nm)<λe<578nmの範囲にあればよいことがわかる。
【0097】
そこで、λe=575nmとすれば、前述した数式2から、Δω={(1×107)/λe}−{(1×107)/λf}=1594cm−1と、δω={(1×107)/λp}−{(1×107)/λe}=1406cm−1となる。そして、図11に示すように、Δωとδωとが、下記数式9に示す不等式を満たせば、全波数領域(0〜ωm)でCARSスペクトルを得ることができる。
【0098】
【数9】
【0099】
なお、測定には、Edmund社製のエッジ波長が575nmであるロングパスフィルタを用いた。この場合、非縮退4光波混合(3−color CARS)成分は、4〜1406cm−1の範囲にあり、縮退4光波混合(2−color CARS)成分は、1406〜3000cm−1の範囲にある。
【0100】
このように、平坦でないストークス光領域をロングパスフィルタ又はバンドパスフィルタを用いて除去することで、容易に平坦なストークス光強度分布を有する部分のみを用いるにもかかわらず、測定波数(波長)領域を損なうことなく良好なCARSスペクトルが得られる。
【0101】
図12は横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、LPFにより短波長側成分をカットしたストークス光の強度分布を示す図である。また、図13は図12に示すストークス光の強度分布に基づいて測定した厚さ1mmのポリエチレンテレフタレート板のCARSスペクトルを示す図であり、図14は厚さ1mmのポリスチレン板のCARSスペクトルを示す図である。
【0102】
図13に示すように、ロングパスフィルタを使用していないポリエチレンテレフタレート板のCARSスペクトルには、900cm−1近傍及び1400cm−1近傍に疑似スペクトルピークが見られるが、ロングパスフィルタを使用して測定したCARSスペクトルでは、これらの疑似スペクトルが生じず、良好な結果が得られた。
【0103】
また、図14に示すように、ポリスチレン板のCARSスペクトルにおいても同様の効果を確認できる。なお、図14に示すスペクトルにおいて、1000cm−1近傍のスペクトルピークは、非縮退4光波混合(3−color CARS)によるものである。
【0104】
<4.第4の実施の形態>
[装置の全体構成]
次に、本開示の第4の実施形態に係る非線形ラマン分光装置について説明する。図15は本実施形態の非線形ラマン分光装置の構成を模式的に示す図である。なお、図15においては、図1に示す第1の実施形態の非線形ラマン分光装置1の構成と同じものには、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0105】
図15に示すように、本実施形態の非線形ラマン分光装置100は、光源部110に2台のレーザ11a,11bと、パルス発生・遅延器15が設けられており、ポンプ・プローブ光生成部の代わりに、レーザ11bとパルス発生・遅延器15とで、ストークス光5とのタイミング調整を行っている。
【0106】
[光源部110]
光源部110に設けられるレーザ11a,11bは、短パルスレーザ光を発生するものであればよく、例えば、小型アクティブQスイッチ短パルスレーザ励起光源を使用することができる。EOMやAOMを共振器内に備えたアクティブQスイッチ短パルスレーザ励起光源は、パッシブQスイッチ短パルスレーザ励起光源と同様に、安価で小型のものが入手可能である。
【0107】
そして、これらの光源は、連続レーザ発振パルス列の制御が外部駆動回路により可能であり、パルス列間の時間ジッター(時間精度)に優れ、時間ジッタを1ns以下に抑えることができる。一方、パルス発生・遅延器15は、レーザ11a,11bからのレーザ光のパルス列を制御すると共に、レーザ11bから出射される短パルスレーザ光を時間遅延させるものである。
【0108】
また、レーザ11a,11bから発せられるレーザ光の波長は、同一でも、異なっていてもよい。例えば、レーザ11bを、レーザ11aよりも、長波長のパルスレーザ光を発生するものとすることにより、誘導ラマン散乱ピークの鋭い連続白色光スペクトルの領域を回避し、ロングパスフィルタ又はバンドパスフィルタを用いて、比較的平坦なより長波長領域のみを取り出すことができる。具体的には、10nm長波長側にシフトしていれば、数100〜3600cm−1のラマンシフトを得ることが可能である。
【0109】
更に、ポンプ・プローブ光用のアクティブQスイッチ短パルスレーザ励起光源(レーザ11b)の出力は、ストークス光励起用光源(レーザ11b)に比べて、1桁ぐらい低出力のものでよい。
【0110】
ここで、本実施形態の非線形ラマン分光装置100において、レーザ11a,11bとして使用可能なレーザ光源は、例えば、Nd:YAGレーザで、波長が1064nm、1319nm、1122nm又は946nmのもの、Nd:YVO4レーザで、波長が1064nm、1342nm又は914nmのもの、Nd:YLFレーザで、波長が1053nm又は1047nmのもの、Yb:YAGレーザで波長が1030nmのものを用いることができる。
【0111】
また、前述した各波長を基本波とした第2高調波発生により、457nm、473nm、515nm、523nm、527nm、532nm、561nm、660nm、671nmのSHG光が得られる。勿論、上記のQスイッチ方式以外にもモード同期方式のNd:YAG、Nd:YVO4またはNd:YLF短パルスレーザやYb系ドープファイバー短パルスレーザ、およびそれらの第2高調波などを用いることも可能である。
【0112】
一方、誘導ラマン散乱ピーク波長の間隔は、後述するストークス光生成部13に設けられたシングルモードファイバ32のファイバコアの主成分であるシリカのラマン散乱によるものである。ここで、シリカのラマンシフトは440cm−1であるため、誘導ラマン散乱ピーク波長の間隔は、これに対応する波長の間隔となり、波長500〜600nmでは11〜16nm程度である。
【0113】
ここで、具体的に、ポンプ・プローブ光用レーザ光源(レーザ11b)の波長を、Yb:YAGレーザのSHG光561nmとすると、200〜3600cm―1の波数領域を得るには、ストークス光5には、567〜703nmの連続白色光スペクトルを用いればよい。即ち、ストークス光発生用ファイバ励起用光源(レーザ11a)としては、Nd:YAGレーザのSHG光532nmを用いればよい。
【0114】
これらレーザ11a,11bのパルス幅は、0.01〜10nsであり、パルスピークパワーが100W〜10kWである。レーザ11a,11bのパルス幅は、時間ジッタと同等又はそれ以上のパルス幅にする必要があり、およそ1ns程度が選ばれる。
【0115】
[ストークス光生成部130]
本実施形態の非線形ラマン分光装置100では、前述した第1〜第3の実施形態の非線形ラマン分光装置と同様に、シングルモードファイバ32、好ましくは偏波面保存シングルモードファイバにより、ストークス光5となる連続白色光(スーパーコンティニューム)を生成している。シングルモードファイバ32のファイバ長は、2〜20mであることが好ましく、より好ましくは6〜15mである。
【0116】
[動作]
次に、本実施形態の非線形ラマン分光装置100の動作、即ち、非線形ラマン分光装置100を使用して、試料2のCARSスペクトルを測定する方法について説明する。本実施形態の非線形ラマン分光装置100においては、光源部10において、レーザ11aからストークス光生成用の短パルスレーザ光が、レーザ11bからはポンプ・プローブ光3となる短パルスレーザ光が発生する。
【0117】
そして、レーザ11aから出射された短パルスレーザ光は、ストークス光生成部30に入射して、シングルモードファイバ32により、連続白色光であるストークス光5に変換される。図16は横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、長さ12mの偏波面保存シングルモードファイバを使用し、平均励起パワーが50mWのときのストークス光の強度分布を示す図である。図16に示すように、長波長側に100nm以上の平坦なストークス光強度分布が得られる。
【0118】
一方、レーザ11aから出射された短パルスレーザ光(ポンプ・プローブ光3)は、直接光照射部140に導入される。その際、ポンプ・プローブ光3がストークス光5と同時に光照射部140に導入されるように、パルス発生・遅延器15によりそのタイミングが調整される。
【0119】
例えば、レーザ11aから出射された短パルスレーザ光が、シングルモードファイバ32内を伝送される時間は、ファイバコアの実効屈折率を1.46として、T=L/c=29〜73nsであり、時間遅延電子回路で容易にタイミング調整が可能である。このように、ポンプ・プローブ光3よりも数10ns遅れて到達するストークス光5を、マルチモードファイバや空間伝送のスペースを取ることなく、ポンプ・プローブ光3専用のアクティブQスイッチ短パルスレーザ励起光源(レーザ11b)のQスイッチを、その分遅らせるだけで、達成できる。
【0120】
そして、光照射部140に導入されたストークス光5及びポンプ・プローブ光3は、ダイクロックミラー46やミラー47,48によってその光路が変更される。そして、合波されたポンプ・プローブ光3及びストークス光5は、ビームエキスパンダ42,43において、対物レンズ45の入射瞳径に合うようビーム径が拡大された後、対物レンズ45を介して、試料2に照射される。図17は横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、波長561nmのポンプ・プローブ光3のスペクトル及びエッジ波長605nmのロングパスフィルタを通過したストークス光5の強度分布を示す図である。
【0121】
そして、計測部150において、試料2から発せられたCARS光を検出し、ラマンスペクトルを得る。具体的には、試料2から発せられたCARS光を、対物レンズ51で集光した後、ショートパスフィルタ52で不要光を遮断した後、例えばマルチモード光ファイバ54を介して、CCDなどの検出器55を備える分光器56に導入する。
【0122】
図18は横軸に波長をとり、縦軸に強度を取って、図17に示すストークス光の強度分布を示す図である。図18に示すように、図17に示すポンプ・プローブ光3及びストークス光5を用いると、測定可能な範囲は、縮退4光波混合過程のCARS分光を考えた場合、1200〜3600cm−1の広範囲に亘って平坦なストークス光スペクトルを用いたCARS測定をすることができる。更に、前述した非縮退4光波混合過程も考慮すれば、低波数領域〜1200cm−1の測定も可能である。即ち、数百〜3600cm−1の範囲で測定が可能となる。
【0123】
図19は横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、長さ6mの偏波面保存シングルモードファイバを使用し、平均励起パワーが50mWのときのストークス光の強度分布を示す図である。また、図20は横軸に波数をとり、縦軸に強度をとって、図19に示すストークス光5の強度分布をポンプ・プローブ光3の波長561nmを基準にしたラマンシフトの波数によって示す図である。ストークス光発生用の励起レーザ光源の波長と、ポンプ・プローブ光用の光源の波長を変える(長波長側にシフトさせる)ことにより、図20に示すように、図19に示すストークス光5を用いると、500〜3000cm−1のCARS分光が可能となる。
【0124】
以上詳述したように、本実施形態の非線形ラマン分光装置は、2台のレーザを使用し、その間のパルスの発生タイミングをパルス発生・遅延器による電子回路制御しているため、パルスタイミング調整に光学配置の適正やマルチモードファイバなどを用いることなく、電子回路制御により行うことができる。また、波長の異なる2台の短パルスレーザ光源を用い、短波長のものをストークス光励起用、長波長のものをポンプ・プローブ光に用いることで、平坦なストークス光強度分布を有する部分のみを用いて分子振動スペクトルを、低波数領域を損なうことなく、広い範囲にわたって測定可能となる。
【0125】
その結果、光路長調整の煩わしさを解消することができ、非線形ラマン分光装置のコンパクト化及び測定の安定化を実現することができる。なお、本実施形態の非線形ラマン分光装置における上記以外の構成及び効果は前述した第1の実施形態と同様である。
【0126】
<5.第4の実施の形態の変形例>
[装置の全体構成]
次に、本開示の第4の実施形態の変形例に係る非線形ラマン分光装置について説明する。図21は本変形例の非線形ラマン分光装置の構成を模式的に示す図である。なお、図21においては、図15に示す第4の実施形態の非線形ラマン分光装置100の構成と同じものには、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0127】
図21に示すように、本変形例の非線形ラマン分光装置200では、光照射部140に入射したストークス光5と、ポンプ・プローブ光3との時間差を測定する時間差測定部160が設けられている。
【0128】
[時間差測定部160]
時間差測定部160には、色分離フィルタ161、検出器162,163、デジタルオシロスコープ164などが設けられている。そして、光照射部140において、ポンプ・プローブ光3とストークス光5を合波した後、色分離フィルタ161で再び分離し、同距離離れた所に設置された高速フォトダイオード検出器162,163などを用いて、時間差を精度よく検出する。その検出結果は、パルス発生・遅延器15の時間遅延回路にフィードバックする。
【0129】
本変形例の非線形ラマン分光装置200では、時間差測定部160により、ストークス光5とポンプ・プローブ光3との時間差を測定し、パルス発生・遅延器15にフィードバックしているため、トークス光5とポンプ・プローブ光3とのタイミング精度を、更に上げることができる。なお、本変形例の非線形ラマン分光装置における上記以外の構成及び効果は前述した第4の実施形態と同様である。
【0130】
<6.第5の実施の形態>
[装置の全体構成]
次に、本開示の第5の実施形態に係る非線形ラマン分光装置について説明する。図22は本実施形態の非線形ラマン分光装置の構成を模式的に示す図である。なお、図22においては、図21に示す第4の実施形態の第1変形例の非線形ラマン分光装置200の構成と同じものには、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0131】
本実施形態の非線形ラマン分光装置300は、ストークス光生成部330のロングパスフィルタ33の後段に、音響光学波長可変フィルタ(Acousto-Optic Tunable Filter:AOTF)35及び検光子36が配置されている。なお、検光子36は、偏光ビームスプリッタ(PBS)でもよい。これにより、200〜500cm―1のピークのCARSスペクトルへの影響を除去することができる。
【0132】
[動作]
本実施形態の非線形ラマン分光装置300では、AOTF35を用いて、その駆動ドライバの周波数変調を、このピーク強度に反比例した時間だけ、その波長成分に割り当てるように電子回路的に制御(波長掃引)する。これにより、ストークス光強度分布の平坦でない領域の波長成分の試料照射時間を調整し、CCD検出器55の光蓄積時間において、平均強度をそろえる。その結果、実効的に平坦なストークス光強度分布を得ることができる。
【0133】
その他にも、ストークス光の強度分布に応じて、波長選択時間やAOTFの超音波強度を変調することもできる。例えば、AOTF35の超音波強度を変調する駆動増幅器回路を設けて、ストークス光の強度分布に応じてAOTF35の超音波強度を変調することにより、AOTF35通過後のストークス光強度分布を平坦化することが可能となる。
【0134】
ここで、AOTF35の指定波長へのアクセス時間は、およそ30μsであるから、CCD検出器55の蓄積時間を例えば3msとすると、十分な応答が可能である。なお、AOTF35は、この場合、非回折ビームの全てがそのまま通過し、不要な波長成分のみが電気的に選択され、時分割で回折ビームとして排除される。一方、駆動ドライバによっては、時分割でなく、超音波振幅強度の変調により、指定の波長成分のパワーを排除する。これにより、波数200〜3000cm―1において、平坦なストークス光虚度分布を用いてCARS分光を行うことができる。
【0135】
このように、本実施形態の非線形ラマン分光装置では、AOTFを用いて、ストークス光強度分布の平坦でない領域の波長成分の試料照射時間を調整し、CCD検出器の光蓄積時間において平均強度を揃えているため、実効的に平坦なストークス光強度分布を得ることができる。なお、本実施形態の非線形ラマン分光装置における上記以外の構成及び効果は、前述した第4の実施形態の変形例と同様である。また、図22では、時間差測定部160が設けられている装置を示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、図15に示すような時間差測定部がない非線形ラマン分光装置にも本実施形態の構成は適用することができ、その場合も同様の効果が得られる。
【0136】
<7.第6の実施の形態>
[装置の全体構成]
次に、本開示の第6の実施形態に係る非線形ラマン分光装置について説明する。図23は本実施形態の非線形ラマン分光装置の構成を模式的に示す図である。なお、図23においては、図22に示す第5の実施形態の非線形ラマン分光装置300の構成と同じものには、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。図23に示すように、本実施形態の非線形ラマン分光装置400では、計測部450にロックインアンプ58が設けられている。
【0137】
[計測部450]
計測部450には、対物レンズ51、ショートパスフィルタ52、集光レンズ56、光電子増倍管又はアバランシェフォトダイオードなどの光検出器57、ロックインアンプ58、電子計算機59などが設けられている。そして、試料2から発せられたCARS光は、対物レンズ51で集光した後、ショートパスフィルタ52でポンプ光3やストークス光5などの不要光を遮断した後、集光レンズ56を介して光検出器57に入射する。また、光検出器57からの信号は、ロックインアンプ58に入力され、ロックインアンプ58から電子計算機59に出力される。
【0138】
[動作]
この非線形ラマン分光装置400では、単一波長のストークス光を生成するために、連続白色光から、AOTF35と検光子36(又はPBS)を後段に配置し、波長選択又は波長掃引する。AOTF35は、スペクトル分解能及び分解効率が高く、かつ波長の切り替え(又は掃引速度)も、一般に10〜100msと速い。
【0139】
そこで、着目する分子振動スペクトルの振動数に等しいビート周波数になるように、ポンプ光及び選択されたストークス光の波長を決定し、試料2への同時照射を行う。例えば、1つの分子振動スペクトルに着目し、その変化量を高速に測定したり、その分子振動スペクトルの空間分布、即ち、顕微分光イメージングを高速に行ったりすることができる。
【0140】
更に、複数の分子振動スペクトルに着目し、AOTFにより高速でストークス光の波長選択を行うことができるため、基準となる1つの分子振動スペクトル強度に対するこれらの分子振動スペクトル強度の比を測定したり、イメージングしたりすることも可能である。このような定量比測定やレシオメトリック測定は、分子濃度が不均一であるような生体物質のイメージングなどに特に有用である。
【0141】
また、スペクトル全体を測定したい場合は、波長掃引する。このとき、例えばポンプ・プローブ光用アクティブQスイッチ短パルスレーザ11b、又はストークス光励起用短パルスレーザ11aの繰返しパルス列の同期信号を、ロックインアンプ58の参照信号として用いる。アクティブQスイッチ短パルスレーザの繰返し周波数は、一般に1KHz〜1MHzであるため、通常の光電子増倍管やアバランシェフォトダイオードなどの光検出器を用いることができる。また、ロックインアンプ58の時定数は、参照信号周波数の10〜1000分の一の周波数の逆数に選ばれる。このように信号をロックイン検出することで、SNRが高く高感度な検出が可能になる。
【0142】
この非線形ラマン分光装置400によるCARS測定では、縮退4光波混合過程しか起こらない。このため、アクティブQスイッチ短パルスレーザの強度振幅ノイズ、即ち連続パルス列間のピークパワーの変動が大きい場合は、ポンプ・プローブ光3のパワーモニターの光信号強度の2乗で除算、又はストークス光のパワーモニターの光信号で除算したCARS信号を、ロックインアンプ58に入力すればよい。
【0143】
また、アクティブQスイッチ短パルスレーザの繰返しパルス列の周期は、1〜1000μs程度であり、CARS過程は0.1〜30ps以内に終了する速い過程である。このため、ボックスカー積分器(ゲート積分器)のトリガー信号に、アクティブQスイッチ短パルスレーザの繰返しパルス列の同期信号を用い、ゲート積分時間を電気的に出来るだけ短い時間、例えば10ns未満、好ましくは1ns未満にすることで、SNRの高い検出が可能になる。即ち、本実施形態の非線形ラマン分光装置400では、AOTF35を用いて、多波長CARS高感度分光が可能となる。
【0144】
なお、前述した第1〜6の実施形態の非線形ラマン分光装置は、例えば顕微分光装置や顕微分光イメージング装置として使用することができる。
【0145】
また、本開示は、以下のような構成をとることもできる。
(1)
短パルスレーザ光を発生する2つの光源と、
該光源の一方から出射される短パルスレーザ光を時間遅延させるパルス制御部と、
を有する非線形ラマン分光装置。
(2)
前記2つの光源は、短パルスレーザ光を発生する第1の光源と、該第1の光源よりも長波長の短パルスレーザ光を発生する第2の光源であり、
前記パルス制御部は、前記第2の光源から出射される短パルスレーザ光を時間遅延させる(1)に記載の非線形ラマン分光装置。
(3)
前記第1の光源から出射された短パルスレーザ光からストークス光が生成すると共に、前記第2の光源からの光をポンプ光兼プローブ光とし、
前記パルス制御部により前記第2の光源から出射される短パルスレーザ光を時間遅延させることにより、前記ストークス光とポンプ光兼プローブ光とが同時に測定対象の試料に照射される(2)に記載の非線形ラマン分光装置。
(4)
前記第1の光源から出射された短パルスレーザ光から、連続白色光からなるストークス光を生成するシングルモードファイバを有する(2)又は(3)に記載の非線形ラマン分光装置。
(5)
前記パルス制御部は、前記第2の光源を電気的に制御することにより、短パルスレーザ光を時間遅延させる(2)〜(4)のいずれかに記載の非線形ラマン分光装置。
(6)
ストークス光と、ポンプ光兼プローブ光とを合波した後で、これらの時間差を検出する時間差測定部を有し、
該時間差測定部での検出結果が前記パルス制御部にフィードバックされる(1)〜(5)のいずれかに記載の非線形ラマン分光装置。
(7)
前記シングルモードファイバの後段に音響光学波長可変フィルタが配設されている(4)に記載の非線形ラマン分光装置。
(8)
ストークス光の強度分布に応じて、波長選択時間又は前記音響光学可変フィルタの超音波強度を変調する(7)に記載の非線形ラマン分光装置。
(9)
前記音響光学可変フィルタにより、複数の分子振動スペクトルに対応する波長選択を行って、コヒーレント・アンチ・ストークス・ラマン散乱スペクトル強度を測定し、基準スペクトル強度に対する定量比を測定又はイメージングする(7)又は(8)に記載の非線形ラマン分光装置。
(10)
(1)〜(9)のいずれかに記載の非線形ラマン分光装置を備えた顕微分光装置。
(11)
(1)〜(9)のいずれかに記載の非線形ラマン分光装置を備えた顕微分光イメージング装置。
【符号の説明】
【0146】
1,61、100、200、300、400 非線形ラマン分光装置
2 試料
3 ポンプ・プローブ光
4 励起パルス光
5 ストークス光
10、110 光源部
20、70 ポンプ・プローブ光生成部
30、130 ストークス光生成部
32 シングルモードファイバ
40、140 光照射部
50、150、450 計測部
73 光ファイバ
80 演算部
81 非線形ラマン分光システム
160 時間差測定部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
短パルスレーザ光を発生する2つの光源と、
該光源の一方から出射される短パルスレーザ光を時間遅延させるパルス制御部と、
を有する非線形ラマン分光装置。
【請求項2】
前記2つの光源は、短パルスレーザ光を発生する第1の光源と、該第1の光源よりも長波長の短パルスレーザ光を発生する第2の光源であり、
前記パルス制御部は、前記第2の光源から出射される短パルスレーザ光を時間遅延させる請求項1に記載の非線形ラマン分光装置。
【請求項3】
前記第1の光源から出射された短パルスレーザ光からストークス光が生成すると共に、前記第2の光源からの光をポンプ光兼プローブ光とし、
前記パルス制御部により前記第2の光源から出射される短パルスレーザ光を時間遅延させることにより、前記ストークス光とポンプ光兼プローブ光とが同時に測定対象の試料に照射される請求項2に記載の非線形ラマン分光装置。
【請求項4】
前記第1の光源から出射された短パルスレーザ光から、連続白色光からなるストークス光を生成するシングルモードファイバを有する請求項3に記載の非線形ラマン分光装置。
【請求項5】
前記パルス制御部は、前記第2の光源を電気的に制御することにより、短パルスレーザ光を時間遅延させる請求項2に記載の非線形ラマン分光装置。
【請求項6】
ストークス光と、ポンプ光兼プローブ光とを合波した後で、これらの時間差を検出する検出部を有し、
該検出部での検出結果が前記パルス制御部にフィードバックされる請求項5に記載の非線形ラマン分光装置。
【請求項7】
前記シングルモードファイバの後段に音響光学波長可変フィルタが配設されている請求項4に記載の非線形ラマン分光装置。
【請求項8】
ストークス光の強度分布に応じて、波長選択時間又は前記音響光学可変フィルタの超音波強度を変調する請求項7に記載の非線形ラマン分光装置。
【請求項9】
前記音響光学可変フィルタにより、複数の分子振動スペクトルに対応する波長選択を行って、コヒーレント・アンチ・ストークス・ラマン散乱スペクトル強度を測定し、基準スペクトル強度に対する定量比を測定又はイメージングする請求項7に記載の非線形ラマン分光装置。
【請求項10】
請求項1に記載の非線形ラマン分光装置を備えた顕微分光装置。
【請求項11】
請求項1に記載の非線形ラマン分光装置を備えた顕微分光イメージング装置。
【請求項1】
短パルスレーザ光を発生する2つの光源と、
該光源の一方から出射される短パルスレーザ光を時間遅延させるパルス制御部と、
を有する非線形ラマン分光装置。
【請求項2】
前記2つの光源は、短パルスレーザ光を発生する第1の光源と、該第1の光源よりも長波長の短パルスレーザ光を発生する第2の光源であり、
前記パルス制御部は、前記第2の光源から出射される短パルスレーザ光を時間遅延させる請求項1に記載の非線形ラマン分光装置。
【請求項3】
前記第1の光源から出射された短パルスレーザ光からストークス光が生成すると共に、前記第2の光源からの光をポンプ光兼プローブ光とし、
前記パルス制御部により前記第2の光源から出射される短パルスレーザ光を時間遅延させることにより、前記ストークス光とポンプ光兼プローブ光とが同時に測定対象の試料に照射される請求項2に記載の非線形ラマン分光装置。
【請求項4】
前記第1の光源から出射された短パルスレーザ光から、連続白色光からなるストークス光を生成するシングルモードファイバを有する請求項3に記載の非線形ラマン分光装置。
【請求項5】
前記パルス制御部は、前記第2の光源を電気的に制御することにより、短パルスレーザ光を時間遅延させる請求項2に記載の非線形ラマン分光装置。
【請求項6】
ストークス光と、ポンプ光兼プローブ光とを合波した後で、これらの時間差を検出する検出部を有し、
該検出部での検出結果が前記パルス制御部にフィードバックされる請求項5に記載の非線形ラマン分光装置。
【請求項7】
前記シングルモードファイバの後段に音響光学波長可変フィルタが配設されている請求項4に記載の非線形ラマン分光装置。
【請求項8】
ストークス光の強度分布に応じて、波長選択時間又は前記音響光学可変フィルタの超音波強度を変調する請求項7に記載の非線形ラマン分光装置。
【請求項9】
前記音響光学可変フィルタにより、複数の分子振動スペクトルに対応する波長選択を行って、コヒーレント・アンチ・ストークス・ラマン散乱スペクトル強度を測定し、基準スペクトル強度に対する定量比を測定又はイメージングする請求項7に記載の非線形ラマン分光装置。
【請求項10】
請求項1に記載の非線形ラマン分光装置を備えた顕微分光装置。
【請求項11】
請求項1に記載の非線形ラマン分光装置を備えた顕微分光イメージング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
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【図6】
【図7】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2012−237714(P2012−237714A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108324(P2011−108324)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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