説明

非触媒作用的基体に金属を沈着させるための無電解法

本発明は、本質的に触媒を含まない基体に金属を沈着させるための無電解法を提供し、上記方法は、(a)本質的に触媒を含まない基体を用意する工程、および(b)上記本質的に触媒を含まない基体を無電解溶液に暴露して上記基体上に金属を沈着させる工程、ここで上記溶液は金属イオンおよび上記金属イオンを金属に還元するための還元剤を含む、を含み、上記基体の少なくとも表面が、上記溶液の温度(T2)よりも高い温度(T1)を有しまたは上記温度(T1)に加熱される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本質的に触媒を含まない基体に金属を沈着させるための無電解法、上記方法によって得られた基体を含む電気回路、およびそのような電気回路を含む電気デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック、セラミックまたは金属基体などの物体に金属を沈着させるための種々の方法が知られている。そのような方法は、電気メッキ法を包含する。この方法では、導電性物体、例えば基体、に金属層を沈着させるために電流が使用される。上記物体および上記物体に沈着されるべき金属成分は共に溶液中に入れられ、ここで、メッキされるべき物体がカソードとして機能し、金属成分がアノードとして機能する。上記溶液は、対応する金属の1以上の塩を、溶液に電気が流れることを可能にする他のイオンとともに含む。電気が、コーティングされるべき物体に供給されて、溶液中の金属イオンを、物体に沈着する金属に還元し、金属成分は溶解し、そのイオンを溶液中に補充する。そのような電気メッキ法は、例えば、コーティングされるべき物体の種々の特性、例えば耐候性および耐腐食性、を改善するために使用される。
【0003】
無電解法は、金属が基体に沈着され得るところの方法の別のカテゴリーを構成する。無電解法は、還元剤を含む水性溶液中の金属イオンの触媒還元に依存する。上記還元剤は、外部からの電流の使用を伴わないで、金属イオンが対応する金属に還元されそしてコーティングされるべき物体に沈着することを確立する。係る金属の沈着は、触媒作用を有する基体上で生じる。いくつかの金属、例えばPd、Ag、Au、Pt、CuおよびNiは、基体への金属の無電解沈着を開始しそして触媒することができる。金属化される(metallised)必要があるがこれらの触媒金属の1つから成らないまたはそれを含まないところの基体は、典型的には、基体の表面に触媒コロイドを吸着させることにより触媒作用を有するようにされる。しばしば、これは、その上に所望の金属が沈着されるべき基体の表面にパラジウムコロイドを吸収させることにより行われる。基体に加えて、基体に沈着されるべき金属も、還元反応に対して触媒作用を有して、上記方法をそのようなものとして自触媒作用的にするべきである。無電解メッキ法に関する一般的記載のために、例えば、Electroless Plating Fundamentals & Applications(無電解メッキの原理と応用)、Glenn O. Mallory and Juan B. Hajdu編、ニューヨーク(1990)が参照され得る。電気メッキ法と比較すると、無電解メッキ法は一般的に、電力を必要としないこと、および沈着物の均一性および応力の点において改善された金属コーティングが確立され得ることの利点を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、基体の表面への所望の金属の沈着を開始しそして触媒するための金属触媒を必要としない無電解メッキ法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
驚いたことに、これは、その上に金属が沈着される必要がある表面の温度が、金属イオンおよび還元剤を含む溶液の温度より高いときに確立され得ることが今見出された。
【0006】
したがって、本発明は、本質的に触媒を含まない基体に金属またはその合金を沈着させるための無電解法に関し、上記方法は、
(a)本質的に触媒を含まない基体を用意する工程、および
(b)上記本質的に触媒を含まない基体を無電解溶液に暴露して上記基体上に金属を沈着させる工程、ここで上記溶液は金属イオンおよび上記金属イオンを金属に還元するための還元剤を含む、
を含み、上記基体の少なくとも表面が、上記溶液の温度(T2)よりも高い温度(T1)を有しまたは上記温度(T1)に加熱される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に従う方法は、金属化プロセスを開始しそして触媒するための金属触媒が基体表面に施与される必要がないという利点を有する。さらに、高い温度が適用される故に、金属沈着が迅速である。したがって、本発明の文脈において、本質的に触媒を含まない基体は、その表面への金属またはその合金の沈着を開始しまたは触媒するための金属触媒が施与されていないところの基体である。したがって、本質的に触媒を含まない基体は、触媒が供給されていない。ありうる不純物は別として、本質的に触媒を含まない基体は、触媒を含まない。好ましい実施態様では、触媒を含まない基体が、本発明のために使用される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
基体は、種々の方法で無電解溶液に暴露され得る。例えば、無電解溶液がインクジェット印刷法によって、本質的に触媒を含まない基体と接触させられ得る、基体が無電解溶液中に浸漬され得る、または基体が成形品の形状を有する場合には、無電解溶液が、上記成形品が製造されたところのまたは製造されているところの型中で上記成形品と接触され得る。
【0009】
好ましくは、本質的に触媒を含まない基体が、金属イオンおよび還元剤を含む無電解溶液中に浸漬される。
【0010】
適切には、本質的に触媒を含まない基体に沈着されるべき金属または合金が、ニッケル、銅、金、銀、スズまたはそれらの任意の合金、ならびにニッケル−ホウ素およびニッケル−リンから成る群から選択される。
【0011】
好ましくは、本質的に触媒を含まない基体に沈着されるべき金属が銅である。好ましくは、本質的に触媒を含まない基体に沈着されるべき合金が、ニッケル−リンまたはニッケル−ホウ素合金である。
【0012】
本発明によれば、基体の少なくとも表面が、溶液の温度(T2)よりも高い温度(T1)を有しまたは温度(T1)に加熱される。
【0013】
適切には、温度T1が、50〜200℃の範囲にある。好ましくは、温度T1が80〜180℃の範囲、より好ましくは70〜140℃の範囲にある。
【0014】
適切には、温度T2が15〜90℃の範囲にある。好ましくは、温度T2が15〜60℃の範囲にある。より好ましくは15〜25℃の範囲にある。換言すると、T2は適切には、環境温度であり得る。
【0015】
本発明に従って使用されるべき本質的に触媒を含まない基体は、適切には、液晶ポリマー(LCP)、ポリアミド(PA6、PA6,6、PA4,6、またはPA12)、ポリ(フェニレンスルフィド)(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリエチレン−テレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、ポリカーボネート/ABS、ポリプロピレン(PP)およびポリエチレン(PE)、熱硬化性物質、例えばエポキシまたはポリエステル化合物、またはセラミック物質を含み得る。
【0016】
本発明の方法の実施態様では、無電解溶液中に存在する金属イオンおよび還元剤の両方の濃度が、室温安定性を維持しながら、できる限り高く選択される、すなわち、最大溶解度に近い。
【0017】
本発明に従って使用されるべき還元剤は、適切には、ホルムアルデヒド、ジメチルアミノボラン、ハイポホスファイト、ホウ化水素ナトリウムおよびヒドラジンから成る群から選択され得る。
【0018】
本発明方法において使用されるべき無電解溶液は、適切には、錯化剤をさらに含み得る。錯化剤は、適切には、アセテート、プロピオネート、スクシネート、ヒドロキシアセテート、アンモニア、ヒドロキシプロピオネート、グリコール酸、アミノアセテート、エチレンジアミン、アミノプロピオネート、マロネート、ピロホスフェート、マレート、シトレート、グルコネート、タートレート、EDTA、プロピオニトリル、テトラエチレンテトラアミン、1,5,8,12−テトラアザウンデカン、1,4,8,12−テトラアザシクロペンタデカンおよび1,4,8,11−テトラアザウンデカンから成る群から選択され得る。
【0019】
本発明に従って使用されるべき無電解溶液は、適切には、緩衝剤をさらに含み得る。緩衝剤は、適切には、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、有機アミンおよびカルボン酸から成る群から選択され得る。
【0020】
本発明方法において使用されるべき無電解溶液は、適切には、安定剤をさらに含み得る。安定剤は、適切には、重金属イオン、有機または無機の硫黄、セレンまたはテルル含有化合物を含み得る。
【0021】
特定の実施態様では、本発明方法は型中で行われ、ここで基体は、三次元射出成形法によって上記型中で形成される。
【0022】
さらに、本発明はまた、本発明方法によって得られた基体を含む電気回路に関する。
【0023】
本発明はまた、本発明に従って得られた基体を含むデバイスに関する。
【0024】
適切なデバイスは、それらに限定されないが、アンテナ構造物、相互連結要素センサー(interconnection elements sensors)およびアクチュエーターを包含する。
【0025】
好ましくは、本発明に従うデバイスは、本発明に従う電気回路を含む電気デバイスである。
【実施例】
【0026】
実施例1
硫酸銅を0.06モル/リットルの量で含む無電解メッキ溶液が使用された。無電解溶液は、0.2モル/リットルの濃度のトリエタノールアミンを使用する緩衝剤処理に付された。無電解溶液のpHは9.0であった。得られた無電解溶液は次いで、錯化剤としての1,4,8,11−テトラアザウンデカンを0.05モル/リットルの量で使用することにより安定化された。無電解溶液はさらに還元剤としてジメチルアミノボランを0.06モル/リットルの量で含んだ。環境温度を有する無電解溶液を次いで、表面が130℃の温度を有するポリアミド基体(DSM製のStanyl TE200F6)と接触させた。閉じられた金属化導電性表面が20秒以内に得られた。
【0027】
実施例2
硫酸銅を0.08モル/リットルの量で含む無電解メッキ溶液が使用された。無電解溶液は、0.2モル/リットルの濃度のトリエタノールアミンを使用する緩衝剤処理に付された。無電解溶液のpHは9.0であった。得られた無電解溶液は次いで、錯化剤としての1,4,8,11−テトラアザウンデカンを0.08モル/リットルの量で使用することにより安定化された。無電解溶液はさらに還元剤としてジメチルアミノボランを0.06モル/リットルの量で含んだ。環境温度を有する無電解溶液を次いで、表面が90℃の温度を有する液晶ポリマー基体(Ticona製のVectra 820i)と接触させた。この工程の前に、基体は、活性化のために熱い(80℃)アルカリ溶液中でエッチングされた。閉じられた金属化導電性表面が20秒以内に得られた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
本質的に触媒を含まない基体に金属を沈着させるための無電解法において、
(a)本質的に触媒を含まない基体を用意する工程、および
(b)上記本質的に触媒を含まない基体を無電解溶液に暴露して該基体上に金属を沈着させる工程、ここで上記溶液は金属イオンおよび上記金属イオンを金属に還元するための還元剤を含む、
を含み、上記基体の少なくとも表面が、上記溶液の温度(T2)よりも高い温度(T1)を有しまたは該温度(T1)に加熱されるところの前記方法。
【請求項2】
基体が上記溶液に浸漬される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
金属が、銅、ニッケル、金、銀、スズまたはそれらの任意の合金、ならびにニッケル−ホウ素およびニッケル−リンから成る群から選択される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
金属が銅である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
合金がニッケル−リンまたはニッケル−ホウ素である、請求項3記載の方法。
【請求項6】
温度T1が50〜200℃の範囲にある、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
温度T1が70〜140℃の範囲にある、請求項6記載の方法。
【請求項8】
温度T2が15〜90℃の範囲にある、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
温度T2が15〜25℃の範囲にある、請求項8記載の方法。
【請求項10】
基体が、液晶ポリマー(LCP)、ポリアミド(PA6、PA6,6、PA4,6、またはPA12)、ポリ(フェニレンスルフィド)(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、ポリカーボネート/ABS、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エポキシもしくはポリエステル化合物などの熱硬化性物質、またはセラミック物質を含む、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
還元剤が、ホルムアルデヒド、ジメチルアミノボラン、ハイポホスファイト、ホウ化水素ナトリウムおよびヒドラジンから成る群から選択される、請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
溶液が錯化剤をさらに含む、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
錯化剤が、アセテート、プロピオネート、スクシネート、ヒドロキシアセテート、アンモニア、ヒドロキシプロピオネート、グリコール酸、アミノアセテート、エチレンジアミン、アミノプロピオネート、マロネート、ピロホスフェート、マレート、シトレート、グルコネート、タートレート、EDTA、プロピオニトリル、テトラエチレンテトラアミン、1,5,8,12−テトラアザウンデカン、1,4,8,12−テトラアザシクロペンタデカンおよび1,4,8,11−テトラアザウンデカンから成る群から選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
溶液が緩衝剤をさらに含む、請求項1〜13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
緩衝剤が、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、有機アミンおよびカルボン酸から成る群から選択される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
溶液が安定剤をさらに含む、請求項1〜15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
安定剤が、重金属イオン、または有機もしくは無機の硫黄、セレンもしくはテルル含有化合物を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
型中で行われ、基体が三次元射出成形法によって上記型中で形成される、請求項1〜17のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項記載の方法によって得られた基体を含む電気回路。
【請求項20】
請求項19記載の電気回路を含む電気デバイス。


【公表番号】特表2010−538166(P2010−538166A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523972(P2010−523972)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【国際出願番号】PCT/NL2008/050583
【国際公開番号】WO2009/031892
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(502015784)ネーデルランドセ オルガニサティエ フォール トエゲパストナトールヴェテンシャッペリク オンデルゾエク ティエヌオー (41)
【Fターム(参考)】