説明

非運動性及び非急性ストレス性疲労の治療剤

【課題】 不規則な生活スタイルに起因する非運動性及び非急性ストレス性疲労、特に、それが更に進んだ過労の軽減又は治癒を目的とする治療剤の提供。
【解決手段】 非運動性及び非ストレス性疲労の治療剤である。有効成分として、エレウテロサイドB又はエレウテロサイドEを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不規則な生活スタイルに起因する非運動性及び非急性ストレス性疲労、特に、それが更に進んだ過労の軽減又は治癒を目的とする治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会においては、人々は、国際化、高度化、複雑化した社会構造及び激動する社会情勢の下で生活をし、個々の人々の生活のリズムも多様であり、不規則な生活を送らざるを得ない人々も多い。このような人々にとっては、生活リズムの乱れにより、十分な睡眠や、休養がとれず、この状態の長期化によって、慢性的な疲労を覚え、更には、過労といわれる状態にまで至ることもある。
【0003】
このような不規則な生活リズムによる疲労は、これまでに知られている肉体疲労や、ストレスによる疲労とは、そのメカニズムが異なるものと理解されている(非特許文献1)。即ち、非特許文献1によれば、過労死の問題として、著者は、「過労死の問題は医学的、経済学的、社会的にも非常に重要であると認識されているにもかかわらず、その科学的なメカニズムについてはほとんど解明されていない」(362頁左欄)と述べ、また、動物モデルとして、1日水浸飼育群(急性ストレス状態)と、5日水浸飼育群(重度の過労状態)とでは、セロトニン神経系活性化の指標及びドパミン神経系活性化の指標が異なるパターンを示すことを説明している(363頁)。更に、5日水浸飼育群に対する疲労減弱効果に対する各化合物の効果を調べたところ、肉体疲労の回復に効果のあるフルオキセチンは、過労モデルに対する効果がほとんど見られないことを示している(364頁図4)。同様に、非特許文献2では、長期にストレスを受けると、脳内における神経伝達物質の放出機構が変化し、短期又は急性のストレスによる疲労とは異なる精神的な疲労が確認されており(366頁右欄)、肉体的な疲労の回復を促進するアセチル−L−カルニチンが、慢性ストレスによる疲労に対して回復効果を示さなかったことが述べられている(367頁右欄)。
このように、過労を含めて、不規則な生活リズムによる疲労は、肉体疲労や、(急性)ストレスによる疲労とは異なる別のメカニズムに依存する疲労であると考えられている。
【0004】
エレウテロコックは、学名、Eleutherococcus senticosus Maxim(又はAcanthopanax senticosus Harms)として、また、日本語名で、エゾウコギと呼ばれている(中国名は、刺五加又は五加皮とも呼ばれる)。エレウテロコックの外皮は、中国や、ロシア、韓国、日本において、ストレス及び疲労に対する非特異的な体の抵抗力を有する強壮剤として用いられており(例えば、非特許文献3)、副作用も非常に少なく、安全な医薬品、食品として知られている。
非特許文献3は、強制水泳時間におけるエレウテロコックの水抽出液(分画)の効果を検討したものであり、そこでは、エレウテロサイドEが、抗疲労作用に寄与していることが示唆されている。
しかしながら、非特許文献3は、一日置きに9日まで強制的に泳がせることにより肉体的な疲労状態を生じさせたモデルを使用する、肉体疲労に対する回復効果を検討したに過ぎない。
【0005】
非特許文献4では、エレウテロコック樹幹の樹皮の抽出液を使用して、胃潰瘍に対する効果が検討されている。しかしながら、この非特許文献4は、ラットを拘束した状態で7時間強制的に水に浸すことにより生じさせた、急性ストレスに基づく胃潰瘍に対する改善効果を評価するものであり、過労モデルのマウスを使用した慢性的なストレスによる精神疲労の回復作用を検討するものではない。
また、非特許文献5は、非特許文献3と同様に、一日置きに強制的に泳がせることにより肉体的な疲労状態を生じさせたモデルを使用する、肉体疲労に対する回復効果を検討したものであり、肉体疲労に対する効果を検討しているに過ぎない。
【0006】
上記の通り、これまで、エレウテロコックの抽出物、特に、エレウテロサイドB及びEに関しては、通常の肉体疲労や急性ストレス疲労に対する効果について検討しているだけであり、これらの疲労とは、異なる機構で生じる、不規則な生活スタイルに起因する非運動性及び非急性ストレス性疲労、特に、過労に対する軽減又は治癒効果については、全く検討されていない。
【0007】
【非特許文献1】医薬のあゆみ Vol.204(5):362-364 (2003.2.1.)
【非特許文献2】医薬のあゆみ Vol.204(5):365-369 (2003.2.1.)
【非特許文献3】J. Ethnopharmacoloty 95:447-453 (2004)
【非特許文献4】Biol. Pharm. Bull. 19:1227-1230 (1996)
【非特許文献5】Chem. Pharm. Bull. 38(6):1763-1765 (1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、不規則な生活リズムに起因する疲労に対して、日常連用可能であり、安全かつ効果的な薬が求められていたが、これまで、上記要件を満たす治療剤は、開発されていないのが現状である。
従って、本発明は、不規則な生活リズムによる疲労、特に、過労に対して、日常連用可能であり、安全かつ効果的な治療剤を提供することを目的をする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、過労モデルを使用することにより、エレウテロサイドB及びエレウテロサイドEが、不規則な生活リズムによる非肉体的かつ非急性ストレス的な疲労に対して、効果のあることを見出し、本発明に到達したものである。
即ち、本発明は、以下の発明に関するものである。
1.エレウテロサイドBを有効成分とする非運動性及び非急性ストレス性疲労の治療剤。
2.エレウテロサイドEを有効成分とする非運動性及び非急性ストレス性疲労の治療剤。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で使用されるエレウテロサイドBは、以下の構造式(I)を有する。
【0011】
【化1】

【0012】
一方、エレウテロサイドEは、以下の構造式(II)を有する。


【化2】

【0013】
本発明で使用されるエレウテロサイドB及びエレウテロサイドEは、公知であり、市場において入手可能であるか、又は、例えば、特公平3−35918号公報や、特公平5−2112号公報、特開平2003−277282号公報、特開平2004−346051号公報等の記載に基づいて調製することができる。
本発明で使用される疲労は、上記の通り、単なる肉体疲労でも、短期間のストレスにより生じる(急性)ストレス疲労とは明らかに異なる疲労である。この疲労は、不規則な生活が長期的に継続することによって発生する疲労であり、この疲労が深刻になると、自殺等を伴う過労死に繋がる病気である。
例えば、長期にわたって、十分な睡眠が得られない場合や、睡眠を断続的に取らざるを得ない状況が継続するなどして生ずる(断眠疲労)。
このような疲労の状態を評価できるモデルは、公知であり、例えば、Neuroscience Letters 352:159-162 (2003)(非特許文献6)に示されている。本件明細書においては、以下の実施例において、疲労評価をこの文献の記載に準じて評価している。
【0014】
エレウテロサイドB又はエレウテロサイドEは、そのまま、あるいは慣用の製剤担体と共に動物及び人に投与することが出来る。1日の好ましい有効投与量は、例えば、0.01〜100mg/日、好ましくは、0.1〜10mg/日であることが好適である。
本発明の非運動性及び非急性ストレス性疲労の治療剤は、各種の形態の製剤として調製することができる。例えば、錠剤や、カプセル剤、内服液(ドリンク剤)、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、座剤等の非経口剤等の各種の形態で製剤化することができる。
本発明においては、製剤の形態に応じて、例えば、任意成分として、白糖や、乳糖、結晶セルロース等の賦形剤や、ヒドロキシプロピルセルロースや、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の結合剤、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、クロスカルメロースナトリウム等の崩壊剤、ラウリル硫酸ナトリウムや、プルロニック、ポリソルベート等の界面活性剤、ステアリン酸マグネシウムや、タルク、ショ糖脂肪酸エステル等の滑沢剤、二酸化ケイ素や、無水リン酸水素カルシウム等の流動促進剤、アルギン酸ナトリウムや、ローカストビーンガム、ポリアクリル酸ナトリウム等の増粘剤、生理食塩水や、ブドウ糖水溶液等の希釈剤、矯味矯臭剤、保湿剤、着色剤、殺菌剤、防腐剤、香料等が好適に挙げられる。
また、必要に応じて、本発明の有効成分とは異なる生薬エキスや、その他の医薬等を任意に組合せて配合することができる。
【実施例】
【0015】
以下に、実施例等に基いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0016】
有効成分の分画及び有効性の評価方法
実施例1
有効成分の分画方法
中国産エゾウコギ(刻)の根及び根茎1000gに40容量%エタノール10.0Lを加えて、室温で3日間抽出した。得られた抽出液を減圧濃縮し原生薬からのエゾウコギ一次抽出エキス55.3gを得た。
【0017】
有効性の評価方法
非特許文献1又は非特許文献6(Neuroscience Letters 352:159-162 (2003))に記載の方法に従って、有効性の評価を行った。
7週齢のWistar系雄性ラットに、エゾウコギ一次抽出エキス(エゾウコギ原生薬として100mg/kg)、又は蒸留水(コントロール)を10mL/kgにて1日1回経口投与し、水位1.5cmとなるよう水を入れた飼育ケージにて5日間飼育した。この環境下では、非特許文献1に記載されているように、水を忌避するラットにとっては、十分な睡眠や休息を取ることができないため、精神的にも肉体的にも休息できない環境である(362頁)。比較群として水浸のないケージで飼育した群を設けた(通常飼育)。いずれも、飲水、給餌は自由摂取とした。飼育6日目の試験液投与1時間後に、体重の8%の錘をラットの尾に付け、水槽(直径36cm、水浸44cm、水温36±1℃)にて水泳時間を測定した。水泳時間をもとに、蒸留水投与群の疲労度を100とし、各群の疲労度を次式により算出した。結果は図1に示した。
【0018】
疲労度=[1−{(被験液投与群−蒸留水投与群)/(通常飼育群−蒸留水投与群)}]×100
【0019】
この一次抽出エキス1.575gを、シリカゲルクロマトグラフィー[溶出溶媒:(i)クロロホルム(分画A)、(ii)10容量%メタノール−クロロホルム(分画B)、(iii)20〜30容量%メタノール−クロロホルム(分画C)、(iv)メタノール(分画D)]にて精製し、A分画153.7mg、B分画110.4mg、C分画272.8mg、D分画857.2mgを得た。ここで得られた4分画について上記と同様に有効性の評価を行なった。結果を図2に示した。
【0020】
図2に示されるように活性の認められたA分画、B分画及びC分画をそれぞれシリカゲルクロマトグラフィー(溶出溶媒:クロロホルム:メタノール:水=70:30:4)にて精製し、B分画からエレウテロサイドB、20.1mg、C分画からエレウテロサイドE、45.1mgを得た。
【0021】
エレウテロサイドB
融点:189℃
13C-NMR(100MHz、DMSO-d6, δ):
56.30, 60.90, 61.39, 69.95, 74.15, 76.42, 77.00, 102.65, 104.50, 104.52, 128.40,130.00, 132.65, 133.95, 152.65, 152.67
【0022】
エレウテロサイドE
融点:255℃
13C-NMR(100MHz, DMSO-d6, δ):
53.55, 56.47, 60.96, 69.94, 69.95, 74.46, 76.45, 77.15, 84.90, 102.75, 104.10, 104.15, 133.85, 137.10, 152.55, 152.56
【0023】
ここで得られたエレウテロサイドB及びエレウテロサイドEを用いて上記と同様の有効性の評価を行ない、有効成分の特定を行なった。結果を図3に示した。
【0024】
実施例2
濃縮エキスの製法1
中国産エゾウコギ(刻)の根及び根茎1000gに40容量%エタノール10.0Lを加えて、室温で3日間抽出した。得られた抽出液を減圧濃縮し、原生薬からの一次抽出エキス55.3gを得た。得られた抽出エキスを水250mLで分散させ、不溶性物質を遠心分離(3500 rpm、5分間)で除去した後、上清を予めメタノール、水洗浄してあるダイヤイオンHP20樹脂(三菱化学)2250mLが充填してあるカラムに通液し、吸着せしめた。通液後、1200mLの水にてカラムを洗浄後、20容量%エタノール1125mLで吸着成分を脱着させた。この脱着液を減圧濃縮した後、真空乾燥しエゾウコギ二次抽出エキス5.9g(エレウテロサイドBを、269mg、エレウテロサイドEを、361mgを含有する)得た。
【0025】
実施例3
濃縮エキスの製法2
中国産エゾウコギ(刻)の根及び根茎1000gに40容量%エタノール10.0Lを加えて、室温で3日間抽出した。得られた抽出液を減圧濃縮し、原生薬からの一次抽出エキス55.7gを得た。得られた抽出エキスを水250mLで分散させ、不溶性物質を遠心分離(3500rpm、5分間)で除去した後、この上清に予めメタノール、水洗浄してあるダイヤイオンHP20樹脂(三菱化学)2250mLを加え、室温で30分間攪拌し、樹脂に吸着せしめた。その後、400mLの水で3回樹脂を洗浄後、20容量%エタノール400mLで3回吸着成分を脱着させた。この脱着液を減圧濃縮した後、真空乾燥しエゾウコギ二次抽出エキス5.7g(エレウテロサイドBを、248mg、エレウテロサイドEを、320mgを含有する)を得た。
【0026】
製剤例
錠剤
下記の組成を有し、直径8mm、質量200mgの錠剤を製造した。

実施例2のエゾウコギ二次抽出エキス 0.2g
ヒドロキシプロピルセルロース 1.6g
軽質無水ケイ酸 0.4g
結晶セルロース 1.2g
タルク 1.0g
(エレウテロサイドB 0.21質量%、エレウテロサイドE 0.28質量%)
【0027】
硬カプセル剤
下記の組成を有する硬カプセル剤を製造した。

実施例2のエゾウコギ二次抽出エキス 0.2g
結晶セルロース 3.0g
乳糖 4.5g
軽質無水ケイ酸 0.6g
(エレウテロサイドB 0.11質量%、エレウテロサイドE 0.15質量%)
【0028】
内服用液剤
下記の組成を有する内服用液剤を製造した。

実施例2のエゾウコギ二次抽出エキス 1.0g
ブドウ糖 10.0g
香料 適宜量
2%エタノール 全量1000mL
(エレウテロサイドB 0.0046質量%、エレウテロサイドE 0.0061質量%)
【0029】
有効成分の含有量測定
エレウテロサイドB及びエレウテロサイドEの含有量測定は、高速液体クロマトグラフ(HPLC)により測定し、分析条件は文献(道衛研所報, Vol.37,85-87, 1987)の条件を用いた。
【0030】
本発明は、通常経口投与形態であり、常法により液剤、錠剤、顆粒剤、カブセル剤、ドライシロップ剤などの剤型にすることができるが特に限られたものではない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】エゾウコギ抽出エキスによる疲労度の回復性を示す図。
【図2】エゾウコギ抽出エキスの分画における疲労度の回復性を示す図。
【図3】エレウテロサイドB又はエレウテロサイドEの疲労度の回復性を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレウテロサイドBを有効成分とする非運動性及び非急性ストレス性疲労の治療剤。
【請求項2】
前記非運動性及び非急性ストレス性疲労が、過労である請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
エレウテロサイドEを有効成分とする非運動性及び非急性ストレス性疲労の治療剤。
【請求項4】
前記非運動性及び非急性ストレス性疲労が、過労である請求項3に記載の治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−8878(P2007−8878A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−192822(P2005−192822)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(592142670)佐藤製薬株式会社 (17)
【Fターム(参考)】