説明

非還元性誘電体磁器組成物

【目的】 低酸素分圧下でも組織が半導体化せず焼成可能で、誘電率が3000以上、絶縁抵抗がlogIRで11.0以上で、誘電率の温度特性が25℃の容量値を基準とし、−55℃〜125℃の広い範囲で±15%の範囲内にあることを満足する非還元性誘電体磁器組成物を得る。
【構成】 不純物としてのアルカリ金属酸化物含有量が、0.04重量%以下のBaTiO3 とTb2 3 ,Dy2 3 ,Ho2 3 ,Er2 3の中の1種類以上の希土類酸化物(Re2 3 )とCo2 3 との配合比が、BaTiO3 92.0〜99.4モル%とRe2 3 0.3〜4.0モル%とCo2 3 0.3〜4.0モル%との範囲内の主成分100モル%に、BaO0.2〜4.0モル%とMnO0.2〜3.0モル%とSiO2 0.2〜3.0モル%とMgO0.5〜5.0モル%とからなる副成分を含有する非還元性誘電体磁器組成物である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は非還元性誘電体磁器組成物に関し、特にたとえば、ニッケルなどの卑金属を内部電極材料とする積層コンデンサなどの誘電体材料として用いられる、非還元性誘電体磁器組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の誘電体磁器材料は、中性または還元性の低酸素分圧下で焼成すると、還元され、半導体化を起こすという性質を有していた。そのため、内部電極材料としては、誘電体磁器材料の焼結する温度で溶融せず、かつ誘電体磁器材料を半導体化させない高い酸素分圧下で焼成しても酸化されない、たとえばPd,Ptなどの貴金属を用いなければならなかった。これは、製造される積層コンデンサの低コスト化の大きな妨げとなっていた。
【0003】そこで、上述の問題点を解決するために、たとえばNiなどの卑金属を内部電極の材料として使用することが望まれていた。しかし、このような卑金属を内部電極の材料として使用して、従来の条件で焼成すると、電極材料が酸化してしまい、電極としての機能を果たさない。そのため、このような卑金属を内部電極の材料として使用するためには、酸素分圧の低い中性または還元性の雰囲気において焼成しても半導体化せず、コンデンサ用の誘電体材料として、十分な比抵抗と優れた誘電特性とを有する誘電体磁器材料が必要とされていた。これらの条件をみたす誘電体磁器材料として、たとえば特開昭62−256422号のBaTiO3 −CaZrO3 −MnO−MgO系の組成や、特公昭61−14611号のBaTiO3 −(Mg,Zn,Sr,Ca)O−B2 3 −SiO2 系の組成が提案されてきた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、特開昭62−256422号に開示されている非還元性誘電体磁器組成物では、CaZrO3 や焼成過程で生成するCaTiO3 が、Mnなどとともに二次相を生成しやすいため、高温における信頼性の低下につながる危険性があった。また、この組成物は、容量の経時変化(エージング率,%/dec)が、大きく実用的でないという問題点もあった。
【0005】また、特公昭61−14611号に開示されている組成物は、得られる誘電体の誘電率が2000〜2800であり、Pdなどの貴金属を使用している従来からの磁器組成物の誘電率である3000〜3500と比較すると劣っていた。したがって、この組成物をコストダウンのために、そのまま従来の材料と置き換えるのは、コンデンサの小型大容量化という点で不利であり、問題が残されていた。
【0006】さらに、この組成物の誘電率の温度変化率(TCC)は、20℃の容量値を基準として、−25℃から+85℃の温度範囲では±10%であるが、+85℃を超える高温では、10%を大きく超えてしまい、EIAに規定されているX7R特性をも大きくはずれてしまうという欠点があった。
【0007】それゆえに、この発明の主たる目的は、低酸素分圧下であっても、組織が半導体化せず焼成可能であり、かつ誘電率が3000以上、絶縁抵抗がlogIRで11.0以上であり、さらに誘電率の温度特性が、25℃の容量値を基準として、−55℃〜125℃の広い範囲にわたって±15%の範囲内にあることを満足する、非還元性誘電体磁器組成物を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】この発明は、不純物として含まれるアルカリ金属酸化物の含有量が0.04重量%以下のBaTiO3 と、Tb2 3 ,Dy2 3 ,Ho2 3 ,Er2 3 の中から選ばれる少なくとも1種類の希土類酸化物(Re2 3 )と、Co2 3 との配合比が、BaTiO3 92.0〜99.4モル%と、Re2 3 0.3〜4.0モル%と、Co2 3 0.3〜4.0モル%との範囲内にある主成分100モル%に対し、副成分として、BaO 0.2〜4.0モル%と、MnO 0.2〜3.0モル%と、SiO2 0.2〜3.0モル%と、MgO 0.5〜5.0モル%とを含有する、非還元性誘電体磁器組成物である。
【0009】
【発明の効果】この発明にかかる非還元性誘電体磁器組成物は、中性または還元性の雰囲気において1260〜1300℃の温度で焼成しても、組織が還元されて半導体化することがない。さらに、この非還元性誘電体磁器組成物は、logIRで11.0以上の高い絶縁抵抗値を示すとともに、3000以上の高誘電率を示し、容量温度変化率もEIAに規定されているX7R特性を満足する。
【0010】したがって、この発明にかかる非還元性誘電体磁器組成物を積層セラミックコンデンサの誘電体材料として用いれば、内部電極材料としてNiなどで代表される卑金属材料を用いることができる。そのため、従来のPdなどの貴金属を用いたものに比べて、特性を落とすことなく、大幅なコストダウンを行うことが可能となる。
【0011】この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【0012】
【実施例】出発原料として、不純物として含まれるアルカリ金属酸化物の含有量が異なるBaTiO3 ,Ba/Tiモル比補正のためのBaCO3 ,希土類酸化物,Co2 3 ,MnO,SiO2 ,MgOを準備した。これらの原料を表1に示す組成割合となるように秤量して、秤量物を得た。なお、試料番号1〜29については、アルカリ金属酸化物の含有量が0.03重量%のBaTiO3 を使用し、試料番号30については、アルカリ金属酸化物の含有量が0.05重量%のBaTiO3 を使用し、試料番号31については、アルカリ金属酸化物の含有量が0.07重量%のBaTiO3 を使用した。
【0013】
【表1】


【0014】得られた秤量物に酢酸ビニル系バインダを5重量%添加した後、PSZボールを用いたボールミルで十分に湿式混合した。次に、この混合物中の分散媒を蒸発、乾燥した後、整粒の工程を経て粉末を得た。得られた粉末を2ton/cm2 の圧力で、直径10mm、厚さ1mmの円板状にプレス成形して、成形体を得た。
【0015】次いで、このようにして得られた成形体を、空気中において400℃で3時間保持の条件で脱バインダを行った後、H2 /N2 の体積比率が3/100の還元雰囲気ガス気流中において、表2に示す温度で2時間焼成し、磁器を得た。
【0016】
【表2】


【0017】得られた磁器の両面に、銀ペーストを塗布して、焼き付けることにより、銀電極を形成してコンデンサとした。そして、このコンデンサの室温における誘電率ε,誘電損失tanδ,絶縁抵抗値(logIR)および容量の温度変化率(TCC)を測定した。その結果を表2に示す。
【0018】なお、誘電率ε,誘電損失tanδについては、温度25℃、周波数1kHz、交流電圧1Vの条件で測定した。また、絶縁抵抗値については、温度25℃において直流電圧500Vを2分間印加して測定し、その結果を対数値(logIR)で示す。さらに、温度変化率(TCC)については、25℃の容量値を基準とした時の−55℃,125℃における変化率(ΔC-55 /C25,ΔC+125/C25)および−55℃〜+125℃の間において、容量温度変化率が最大である値の絶対値、いわゆる最大変化率(|ΔC/C25max )について示す。
【0019】表2から明らかなように、この発明にかかる非還元性誘電体磁器組成物は、優れた特性を示す。
【0020】この発明において主成分および副成分の範囲を上述のように限定する理由は次の通りである。
【0021】まず、主成分の範囲の限定理由について説明する。
【0022】主成分であるBaTiO3 の構成比率を92.0〜99.4モル%とするのは、構成比率が92.0モル%未満の場合には、希土類元素およびCo2 3 の構成比率が多くなるため、試料番号4に示すように、絶縁抵抗値および誘電率の低下が生じ好ましくない。また、BaTiO3 の構成比率が99.4モル%を超える場合には、希土類元素およびCo2 3 の添加の効果がなく、試料番号3に示すように、高温部(キュリー点付近)の容量温度変化率が大きく(+)側にはずれ好ましくない。さらに、BaTiO3 中のアルカリ金属酸化物含有量を0.04%以下とするのは、0.04%を超えると、試料番号30および31に示すように、誘電率の低下が生じ、実用的でなくなり好ましくない。
【0023】次に、副成分の範囲の限定理由について説明する。
【0024】BaO添加量を0.2〜4.0モル%とするのは、添加量が0.2モル%未満の場合には、試料番号9に示すように、雰囲気焼成中に組織が半導体化し、絶縁抵抗値の著しい低下をまねくので好ましくない。また、添加量が4.0モル%を超える場合には、試料番号12に示すように、焼結性が低下するので好ましくない。
【0025】また、MnO添加量を0.2〜3.0モル%とするのは、添加量が0.2モル%未満の場合には、試料番号17に示すように、組織の耐還元性向上に効果がなくなり、絶縁抵抗値の著しい低下をまねくので好ましくない。また、添加量が3.0モル%を超える場合には、試料番号15に示すように、絶縁抵抗値の低下が生じるので好ましくない。
【0026】SiO2 添加量を0.2〜5.0モル%とするのは、添加量が0.2モル%未満の場合には、試料番号23に示すように、焼結温度の低下に効果がなく好ましくない。また、添加量が5.0モル%を超える場合には、試料番号20に示すように、誘電率εの低下が生じるので好ましくない。
【0027】最後に、MgO添加量を0.5〜5.0モル%とするのは、添加量が0.5モル%未満の場合には、試料番号24に示すように、容量温度変化率をフラットにする効果がなく、特に低温側で(−)側にはずれる傾向があるとともに、絶縁抵抗値向上の効果もなくなるので好ましくない。また、添加量が5.0モル%を超える場合には、試料番号29に示すように、誘電率εおよび絶縁抵抗値の低下が生じるので好ましくない。
【0028】なお、表2に示す特性データは、単板コンデンサにおいて得られたデータであるが、同じ組成物をシート成形し、チップ加工を行った積層コンデンサにおいても、今回のデータとほぼ同等の結果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 不純物として含まれるアルカリ金属酸化物の含有量が0.04重量%以下のBaTiO3 と、Tb2 3 ,Dy2 3 ,Ho2 3 ,Er2 3 の中から選ばれる少なくとも1種類の希土類酸化物(Re2 3 )と、Co2 3 との配合比が、BaTiO3 92.0〜99.4モル%、Re2 3 0.3〜4.0モル%、およびCo2 3 0.3〜4.0モル%の範囲内にある主成分100モル%に対し、副成分として、BaO 0.2〜4.0モル%、MnO 0.2〜3.0モル%、SiO2 0.2〜3.0モル%、およびMgO 0.5〜5.0モル%を含有する、非還元性誘電体磁器組成物。