説明

非鉄金属溶湯の浮滓処理装置

【課題】非鉄金属の溶融炉で生じた浮滓を攪拌破砕し、該浮滓に混入している非鉄金属溶融物を浮滓破砕物から比重分離して回収するのに用いる浮滓処理装置として、浮滓処理槽内に投入直後の浮滓中の非鉄金属溶融物が部分的に固化する懸念がなく、浮滓全体としても冷えにくく、溶融物の回収率が向上し、抽出回収までの時間的余裕が得られ、処理ライン構築上の制約が小さくなるものを提供する。
【解決手段】上方に開放して浮滓を収容する浮滓処理槽1と、浮滓処理槽1内に配置する攪拌羽根2と、攪拌羽根2の回転駆動手段3と、浮滓収容槽1を傾かせる傾動手段4とを備え、浮滓処理槽1の底部中央位置に直立する筒状部1aが一体形成され、筒状部1aの内側に非接触状態で同心状に配置した回転駆動軸30の頂部30aに、攪拌羽根2の取付基部20が相対回転不能に連結され、浮滓の収容前に浮滓処理槽1を外側から予熱する予熱機構5を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムやその合金等の非鉄金属の溶融炉で生じる浮滓に混入する非鉄金属溶融物を比重分離して回収するのに用いる浮滓処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、アルミニウムやその合金等の非鉄金属を鉱石から精錬して製出したり、非鉄金属の屑や非鉄金属を含む廃材から非鉄金属を取り出す場合、高温の炉中で非鉄金属を溶融させるが、その溶融物の表面部に非金属物質(主として酸化物)がドロス、ノロ、スラグ等と称される浮滓として生成する。しかして、この浮滓中には非鉄金属の溶融物が数%から数十%程度混入しているため、資源の有効利用と経済性の両面より、該浮滓から非鉄金属溶融物を回収することが重要になる。
【0003】
このように浮滓から非鉄金属溶融物を回収する手段として、溶融炉から掻き出した浮滓を多孔底板の分離槽に投入して静置し、非鉄金属溶融物を浮滓との比重差で分離して底板の孔から落下させる静置分離方式(例えば特許文献1)、同浮滓を多孔底板の圧搾室に収容し、圧搾して非鉄金属溶融物を絞り取る圧搾抽出方式(例えば特許文献2)、同浮滓を処理槽に収容し、上方に待機していた攪拌羽根を下降させて処理槽内に突入させ、該攪拌羽根の回転によって浮滓を攪拌し、分離沈降した非鉄金属溶融物を処理槽の底孔から流出させる攪拌分離方式(例えば特許文献3)等が採用されていた。
【0004】
しかるに、前記の静置分離方式では、概して浮滓が塊状に固まった状態にあるため、含まれる非鉄金属溶融物を充分に分離できず、回収率が悪いという欠点があった。また、前記の圧搾抽出方式では、装置構成が複雑で且つ大掛かりになり、設備コストが非常に高く付く上、少量ずつしか圧搾を行えず、処理効率に劣るという難点があった。一方、前記従来の攪拌分離方式では、浮滓の破砕によって非鉄金属溶融物が比重分離し易くなるが、攪拌羽根の駆動部が高熱で劣化するのを抑えるため、処理槽の上方側に攪拌操作時以外は攪拌羽根を上方へ退避させる昇降機構を設けることから、設備コストが高く付く上、小型溶融炉用の処理装置には適用困難であった。これは、小型溶融炉では浮滓の生成が少ないために一回の処理量も少なくなり、それだけ浮滓自体の持つ総熱量が小さくて冷め易く、溶融炉の浮滓をバケット等に受けて処理槽まで運んで移すような時間的余裕がないことから、溶融炉から掻き出した浮滓を直接に処理槽で受けて直ちに回収処理する上で、処理槽上方に付属物のない構造を要することによる。
【0005】
そこで、近年において、本出願人の1は、浮滓処理槽内に攪拌羽根を備えた浮滓処理装置として、該処理槽の底部中央に直立する筒状部を一体形成し、該筒状部の内側に回転駆動軸を同心状に配置し、この回転駆動軸の頂部に攪拌羽根の取付基部を連結し、該回転駆動軸をその下端側で回転駆動させると共に、比重分離した非鉄金属溶融物を処理槽の傾動操作で抽出回収するものを提案している(特許文献4)。この浮滓処理装置では、浮滓処理槽に収容した浮滓の高熱が回転駆動軸に伝わりにくく、回転駆動手段の各部の高熱による劣化が防止され、装置全体が優れた耐久性を発揮すると共に、該処理槽の上方に付属物がないので、溶融炉の掻き出し口から掻き出した浮滓を直接に処理槽内に投入して、直ちに攪拌羽根で浮滓を破砕して非鉄金属溶融物を比重分離して抽出回収でき、もって小型溶融炉用として高い適性が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−252547号公報
【特許文献2】特開平10−195553号公報
【特許文献3】特開平9−87764号公報
【特許文献4】特開2009−293080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記提案に係る浮滓処理装置でも、浮滓処理槽内に投入直後の浮滓が低温の処理槽壁面に接触することで熱を奪われ、該壁面近傍の浮滓中の非鉄金属溶融物が固化して回収率の低下に繋がると共に、浮滓全体としても冷えるのが速まるから、抽出回収まで迅速な作業操作を要求されて労力負担が大きく、また溶融物抽出部位を溶融炉から遠い位置に設定できないため、処理ライン構築上の制約が大きく、且つ過酷な作業環境下での抽出回収操作を余儀なくされるという難点があった。
【0008】
本発明は、上述の情況に鑑み、非鉄金属の溶融炉で生じた浮滓を攪拌破砕し、該浮滓に混入している非鉄金属溶融物を浮滓破砕物から比重分離して回収するのに用いる浮滓処理装置として、浮滓処理槽内に投入直後の浮滓中の非鉄金属溶融物が部分的に固化する懸念がなく、且つ浮滓全体としても冷えにくく、該溶融物の回収率が向上する上、抽出回収までの時間的余裕が得られるため、早急な作業操作を強いられず労力負担が軽減すると共に、処理ライン構築上の制約が小さく、抽出部位を溶融炉から遠い位置に設定して作業環境を改善できるものを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る非鉄金属溶湯の浮滓処理装置は、図面の参照符号を付して示せば、上方に開放して浮滓を収容する浮滓処理槽1と、該浮滓処理槽1内に配置する攪拌羽根2と、該攪拌羽根2の回転駆動手段3と、比重分離した非鉄金属溶融物を流出させるために浮滓収容槽1を傾かせる傾動手段4とを備え、前記浮滓処理槽1の底部中央位置に、直立する筒状部1aが一体形成され、該筒状部1aの内側に非接触状態で同心状に配置した回転駆動軸30の頂部30aに、攪拌羽根2の取付基部20が相対回転不能に連結され、浮滓の収容前に浮滓処理槽1を外側から予熱する予熱機構5を具備することを特徴としている。
【0010】
請求項2の発明は、前記請求項1の浮滓処理装置において、予熱機構5が浮滓処理槽1の少なくとも底部を周回するように配置したシーズヒーター50からなる構成としている。
【0011】
請求項3の発明は、前記請求項2の浮滓処理装置において、相互に独立した複数本のシーズヒーター50を有し、これらシーズヒーター50が浮滓処理槽1の少なくとも底部を相互に異なる位置で周回するように配設されてなる構成としている。
【0012】
請求項4の発明は、前記請求項1〜3のいずれかの浮滓処理装置において、攪拌羽根2は、取付基部20の周方向3カ所以上に等配して該取付基部20より放射状に張出する羽根片22a〜22e、23a,23bを備え、これら羽根片が相互に異なる高さで浮滓処理槽1内を回転するように構成されてなるものとしている。
【0013】
請求項5の発明は、前記請求項1〜4のいずれかの浮滓処理装置において、浮滓処理槽1の上縁部1bに前方へ突出する樋状の排出口1cが形成されると共に、この排出口1cに臨んで浮滓処理槽1内の上部に着脱自在に配置し、浮滓の排出を阻止して非鉄金属溶湯を通過させる抽出ガイド部材6を備えてなる構成としている。
【0014】
請求項6の発明は、前記請求項1〜4のいずれかの浮滓処理装置において、浮滓処理槽1の上縁部1bに前方へ突出する樋状の排出口1cが形成されると共に、この排出口1cの左右両側で該上縁部1へから立ち上がって相互にハの字形に配置する一対の灰排出ガイド板7を備えてなる構成としている。
【発明の効果】
【0015】
次に、本発明の効果について、図面の参照符号を付して説明する。請求項1の発明に係る浮滓処理装置によれば、浮滓の収容前に浮滓処理槽1を予熱機構5によって予熱できるから、浮滓処理槽1内に投入直後の浮滓が処理槽壁面に接触しても熱を奪われず高温を維持でき、もって該浮滓中の非鉄金属溶融物が部分的に固化する懸念がなく、且つ浮滓全体としても冷えにくくなる。従って、該溶融物の回収率が向上する上、抽出回収までの時間的余裕が得られるため、早急な作業操作を強いられず、それだけ労力負担が軽減する。また、上記の時間的余裕によって抽出部位を溶融炉から遠い位置に設定できるから、処理ライン構築上の制約が小さくなり、例えば高温の溶融炉からの熱気が及びにくい位置に抽出部位を設けることで作業環境を改善できる。なお、この浮滓処理装置では、浮滓処理槽1の底部中央から立ち上がる筒状部1aの内側に回転駆動軸30が非接触状態で配置し、該回転駆動軸30の頂部30aに攪拌羽根2の取付基部20が連結されているから、該処理槽1に収容した浮滓の高熱が回転駆動軸30に伝わりにくく、回転駆動手段3の各部の高熱による劣化が防止され、もって浮滓処理装置全体が優れた耐久性を発揮する。
【0016】
請求項2の発明によれば、予熱機構5がシーズヒーター50からなるため、サイリスタ制御等によって予熱度合を容易に調整できる上、該シーズヒーター50は浮滓処理槽1の少なくとも底部を周回するように配置するだけでよいから、該予熱機構5としてガスバーナー等の他の加熱手段を採用する場合に比較して構造が格段に簡素になり、浮滓処理装置として組立製作が容易でコンパクト化に構成できるという利点がある。
【0017】
請求項3の発明によれば、予熱機構5として、相互に独立した複数本のシーズヒーター50が浮滓処理槽1の少なくとも底部を相互に異なる位置で周回するように配設されているから、これらシーズヒーター50の通電量を個別に調整することで、浮滓処理槽1を迅速に且つ適切な温度分布になるように予熱できるという利点がある。
【0018】
請求項4の発明によれば、攪拌羽根2が取付基部20の周方向3カ所以上に等配して放射状に張出した羽根片22a〜22e,23a,23bを備え、これら羽根片が相互に異なる高さで浮滓処理槽1内を回転するから、該処理槽1内に投入された浮滓を効率よく均一に且つ迅速に破砕でき、それだけ非鉄金属溶融物の比重分離が進み易くなり、該溶融物の回収率及び処理能率が向上する。
【0019】
請求項5の発明によれば、浮滓処理槽1を傾けて沈降分離した非鉄金属溶融物を抽出する際、排出口1cの内側に配置する抽出ガイド部材6によって浮滓の排出が阻止されるから、該排出口1cより非鉄金属溶湯のみを効率よく流出させて回収できると共に、該抽出ガイド部材6が着脱自在であるため、次いで処理槽1内に残った浮滓を排出する際には該抽出ガイド部材6を外して能率よく排出操作できる。
【0020】
請求項6の発明によれば、非鉄金属溶融物の抽出後に浮滓処理槽1を再び傾けて内部に残った浮滓を排出する際、左右両側の灰排出ガイド板7によって該浮滓が排出口1cへ誘導され、飛散することなく能率よく排出口1cから排出される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る浮滓処理装置の平面図である。
【図2】同浮滓処理装置の側面図である。
【図3】同浮滓処理装置の背面図である。
【図4】同浮滓処理装置の装置本体部の縦断側面図である。
【図5】同浮滓処理装置における浮滓処理槽の予熱機構を示す縦断正面図である。
【図6】同予熱機構のシーズヒーターを示す平面図である。
【図7】同浮滓処理装置の攪拌羽根を示し、(a)は平面図、(b)は一方向から見た側面図、(c)は他方向から見た半側面図である。
【図8】同浮滓処理装置の浮滓処理槽に抽出ガイド部材及び灰排出ガイド板を取り付けた状態を示し、(a)は半部の平面図、(b)は縦断背面図、(c)は(a)のX−X線の断面矢視図である。
【図9】同灰排出ガイド板を示し、(a)は平面図、(b)は背面図、(c)は(a)のY−Y線の断面図である。
【図10】同抽出ガイド部材を示し、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は正面図である。
【図11】同浮滓処理装置における傾動手段の背面図である。
【図12】同傾動手段による傾動操作を示す側面面である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係る非鉄金属溶湯の浮滓処理装置の一実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0023】
図1〜図3に示す浮滓処理装置Mは、浮滓処理槽1を具備する装置本体部10がハンドルバー81を有する手押し式の台車8に搭載されている。その装置本体部10は、図4に示すように、縦円筒形の外殻11の内側に、上方に開放して内部に攪拌羽根2を有する平面視略円形の浮滓処理槽1が配置し、該処理槽1の外面側と外殻11を構成する外周カバー板11a及び下面カバー板11bとの間に、セラミックファイバーからなる断熱材12が装填されている。また、台車8の基枠80の中央部には、攪拌羽根2の回転駆動手段3の原動部である駆動モータ31及びギヤボックス32が固設されている。6は浮滓処理槽1の開口部上に装着した抽出ガイド部材、7は該処理槽1の上縁部1bに取り付けた左右一対の灰排出ガイド板、9は該処理槽1の開口部を封鎖する保温カバーである。
【0024】
浮滓処理槽1は、FC20の如き鋳鉄製であり、底部中央位置に直立した筒状部1aが一体形成されると共に、周方向外側へ張出する上縁部1bの一カ所に、前方へ突出した樋状の排出口1cが形成されている。そして、該処理槽1の底部には、予熱機構5を構成する複数本(図では6本)のシーズヒーター50が該処理槽1の外周面に接して周回するように配置している。
【0025】
浮滓処理槽1の筒状部1aの内側は上下方向に透通しており、ギヤボックス32から垂直に上方突出した回転駆動軸30と、該ギヤボックス32の取付枠部80b上に立設されて回転駆動軸30を回転自在に抱持する回転軸保持筒34とが、当該筒状部11の内側に非接触状態で同心状に突入配置している。そして、筒状部1aは頂端が浮滓処理槽1の上縁部1bよりも若干低位に位置するが、回転駆動軸30の上端部30aは筒状部1aから処理槽1の上縁部1bを越える高さに突出し、この上端部30aに攪拌羽根2の短円筒状の取付基部20が外嵌すると共に、該取付基部20が径方向に貫通する連結ピン33によって回転駆動軸30に連結されている。この回転駆動軸30の下端部はギヤボックス32内に位置してギヤ機構(図示省略)に組み込まれており、駆動モータ31の駆動によって攪拌羽根2が回転駆動軸30と一体に回転する。
【0026】
なお、回転軸保持筒34の頂端は筒状部1aの頂端よりも低位にあり、この回転軸保持筒34と該筒状部1aの内周との間、ならびに該回転軸保持筒34から突出した回転駆動軸30の上部側と同筒状部1aの内周との間にも、前記断熱材12が介在している。なお、図4で示すLは浮滓処理槽1内に収容する浮滓の最大レベルを示しており、筒状部1aの頂端は該最大レベルLよりも高位になる。
【0027】
台車8は、型鋼材80aを組み付けてなる略矩形枠状のベース80の前部に左右一対の固定車輪82、同後部に左右一対の自在車輪83がそれぞれ取付けられると共に、該ベース80の左右両側に横長の角筒部材84が各々前後2カ所の角環状の取付板85を介して固設され、また該ベース80の後端左右両側にはパイプ材からなるハンドルバー81の下端部を着脱自在に挿嵌させる縦筒状のハンドル取付部86が形成されている。しかして、左右の角筒部材84は、それぞれ内部が上下二段に区割され、前後端が日の字形に開口してフォークリフト用爪挿入部87を構成している。
【0028】
図5及び図6で示すように、予熱機構5を構成する各シーズヒーター50は、浮滓処理槽1の底部を周回する開環状の本体部50aと、該本体部50aから平行状に延出する一対のリード部50bとで構成され、両リード部50bの先端の端子部50cが装置本体部10の側面部に設けた端子ボックス51に突入配置している。そして、これらシーズヒーター50同士は互いに本体部50aの径が異なり、その径小側から1本目と2本目のものの本体部50aが浮滓処理槽1の筒状部1aの内側に間隔を置いて配置すると共に、残りのものの本体部50aが該処理槽1の最低位から順次径方向外側へ間隔を置いて配置している。また、これらシーズヒーター50の端子部50cは、端子ボックス51内に配置している。なお、図2における符号52は、これらシーズヒーター50に対する外部電源接続用のコンセントボックスを示す。
【0029】
攪拌羽根2は、全体がSS−400等の鋼材製であり、図7(a)〜(c)で示すように、短円筒状の取付基部20と、その外周の相互に120°で等配する3カ所に各々上端部を溶接固着して垂下する縦角棒体21a〜21cと、これら縦角棒体21a〜21cに基端側を溶接固着して浮滓処理槽1の半径方向に沿って斜め下向きに張出した複数本(図では計5本)の角棒状羽根片22a〜22eと、縦角棒体21a及び21bの各下端部に一体化した三角羽根片23a,23bと、縦角棒体21a〜21cを下部側で連結する補強リング24とで構成されている。そして、図7(c)に示すように、縦角棒体21a〜21cと浮滓処理槽1の筒状部1aの外周面との間には間隙t1が設定されると共に、取付基部20の下端面と該筒状部1aの頂端との間にも間隙t2が設定され、もって攪拌羽根2全体が該処理槽1に対して非接触状態に保持されるようになっている。なお、図中の25は取付基部20上に溶接固着されて中心孔20aの上端開口を塞ぐ蓋板、20bは取付基部20に設けたピン挿通孔である。
【0030】
攪拌羽根2の角棒状羽根片22a〜22eは、同じ傾斜角度で回転軸心から3方向に放射状に配置しているが、相互に配置高さが異なると共に、その高位側から順次交互に、角棒状の一稜線を上向きにする姿勢と一側面を上向きにする姿勢とに向きを変えている。また、三角羽根片23a,23bは、上縁が角棒状羽根片22a〜22eと同じ傾斜角度で斜め下向きになると共に、下縁が浮滓処理槽1の内底面に沿う円弧状をなすが、相互の上縁高さが異なっている。そして、これら羽根片22a〜22e,23a,23bは、これらの回転軌道を合わせた縦断面がほぼ上下に隙間なく連続するように設定されている。
【0031】
図8(a)〜(c)に示すように、浮滓処理槽1の上縁部1bには、左右一対の帯板状のガイド取付金具13が排出口1cの両側位置で相互にハの字形に配置するように固着されている。そして、該処理槽1の上縁部1bと各ガイド取付金具13との間に構成される内向きの係止溝13aを利用して、左右一対の灰排出ガイド板7を装着すると共に、両灰排出ガイド板7を介して更に抽出ガイド部材6を取り付けるようになっている。
【0032】
図9(a)〜(c)で詳細に示すように、左右一対の灰排出ガイド板7は、水平連結バー71とその両端近傍より前方へ張出するブラケット板72とを介して、相互にハの字形に配置した状態で一体的に連結されて排出ガイド部材70を構成している。また、各灰排出ガイド板7の下端部には、ほぼ全長にわたる折り曲げで外向きに張出した係止突縁7aと、内面側に固着した上下2枚の帯板片7b間で構成する係止溝73とが設けてある。しかして、排出ガイド部材70は、両係止突縁7aを図8(c)の如く浮滓処理槽1側の両係止溝13aに挿嵌することで、当該処理槽1に前方及び上方へ離脱不能に係止され、垂直に立ち上がった両灰排出ガイド板7が処理槽1の排出口1cの左右両側に配置する。
【0033】
一方、図10(a)〜(c)で詳細に示すように、抽出ガイド部材6は、略台形の天板部61の下面側に、前方へ凸状に湾曲したパンチングメタルからなる多孔プレート61が該天板部61の前縁寄りに位置して垂設されると共に、該天板部61の上面側の中央位置に下向きコ字形の把手62が固着されている。しかして、この抽出ガイド部材6は、浮滓処理槽1に先に装着した排出ガイド部材70の左右の係止溝73に、図8(a)〜(c)の如く天板部60の左右側縁部を挿嵌することにより、当該処理槽1に前方及び上方へ離脱不能に取り付けられる。この取付け状態において、該抽出ガイド部材6の多孔プレート61が処理槽1の排出口1cの内側に近接して配置する。
【0034】
保温カバー9は、図1〜図3に示すように、処理槽1の開口径より若干大きい外径を有する切欠円形平板部91と、該平板部91の中央で上方へ膨出した六角形の中央膨出部92と、同平板部91の切欠側縁91aに平行する径方向に沿って上方へ膨出した角筒状の径方向膨出部93とで構成され、径方向膨出部93に左右一対の下向きコ字形の把手94が固着されている。しかして、この保温カバー9は、図1の如く、切欠円形平板部91の周縁が処理槽1の上縁部1bに載る形で該処理槽1上に被せることにより、抽出ガイド部材6の天板部61と合わせて該処理槽1の開口部全体をほぼ遮蔽する。なお、中央膨出部92内には、処理槽1の上縁部1bより高く突出した攪拌羽根2の中心側が納まることになる。
【0035】
溶融物抽出位置には、図11及び図12に示すように、傾動手段4として、傾動枠41と、該傾動枠41を傾動させるパワーシリンダ42が設置されている。このパワーシリンダ42はモーター40にて駆動する電動ボールねじ方式である。傾動枠41は、チャンネル材やアングル材の組み付けによって上方及び後方に開放した角籠形に構成され、その内側下部の左右両側には段状の台車受け部41aが設けてある。そして、該傾動枠41の上部左右両側が当該傾動枠41側に固定している枢軸43を介して左右の支柱44の頂部に枢支され、もって両支柱44間に前後傾動自在に懸架されている。また、パワーシリンダ42は、枢支基台45に前後揺動自在に枢支されると共に、その伸縮ロッド42aの先端部が片側の枢軸43の外端部に固着されたレバー46の先端にピン42bを介して枢着連結されており、伸縮ロッド42aの伸長状態で傾動枠41を水平姿勢に保持すると共に、該伸縮ロッド42aの収縮状態で傾動枠41を前傾姿勢にするように設定されている。
【0036】
上記構成の浮滓処理装置Mによってアルミニウムやその合金の如き非鉄金属溶湯の浮滓処理を行うには、まず、図1〜図3の如く浮滓処理槽1上に灰排出ガイド部材70と抽出ガイド部材6及び保温カバー9を装着した状態で、予熱機構5のシーズヒーター50に通電することにより、該処理槽1を所定温度まで予熱しておく。この予熱度合は対象とする非鉄金属の種類によって異なるが、アルミニウムやその合金では一般的に処理槽1の内底部で300〜500℃程度になるように設定するのがよく、その温度計測には放射温度計等を利用できる。
【0037】
上記予熱後にシーズヒーター50への通電を停止し、装置本体部10を搭載した台車8を対象とする溶融炉(図示省略)まで運び、その掻き出し口の直下に浮滓処理槽1が臨むように配置させ、保温カバー9を外した上で、適当な掻き出し具で炉内の浮滓を掻き出して処理槽1内に投入し、回転駆動手段3の作動によって攪拌羽根2を回転させて該浮滓を攪拌破砕する。このとき、浮滓処理槽1が予熱で高温になっているため、該処理槽1内に投入直後の浮滓が処理槽壁面に接触しても熱を奪われず、もって該浮滓中の非鉄金属溶融物が部分的に固化する懸念がないと共に、浮滓全体としても冷えにくくなるので以降の処理を時間的に余裕をもって行える。
【0038】
上記攪拌破砕の過程では、攪拌作用で浮滓と非鉄金属溶融物との比重分離が進むと共に、浮滓の塊状物が破砕されることで該塊状物中に取り込まれていた溶融物も遊離し易くなり、該溶融物が沈降して浮滓処理槽1の底部に溜まってゆく。特に本実施形態では、攪拌羽根2が中心から3方向へ放射状に張出した羽根片22a〜22e,23a,23bを有し、且つこれら羽根片が相互に異なる高さで浮滓処理槽1内を回転するから、処理槽1内に投入された浮滓を効率よく均一に且つ迅速に破砕でき、それだけ非鉄金属溶融物の比重分離が進み易く、結果として該溶融物の回収率及び処理能率が向上する。なお、アルミニウム溶湯では、アルミニウムの比重が約2.7であるのに対し、浮滓の酸化物の比重は1.37程度で、重力による分離に充分な比重差がある。
【0039】
かくして非鉄金属溶融物を比重分離したのち、台車8のハンドルバー81を取り外した状態で、台車8のフォークリフト用爪挿入部87を利用して、フォークリフト(図示省略)で該台車8ごと装置本体部10を溶融物抽出位置へ運ぶ。そして、図11及び図12の実線で示すように、台車8ごと水平姿勢の傾動枠41内に持ち込み、浮滓処理槽1の排出口1cを前向きにして台車8の左右両側の取付板85を台車受け部41a上に載せ、もって車輪82,83を浮かせた状態で傾動枠41に収容する。次いで、パワーシリンダ42を収縮作動させ、図12の仮想線で示すように傾動枠41を前傾させて浮滓処理槽1を傾けることにより、該処理槽1の排出口1cから流出する非鉄金属溶融物を下方に配置した車輪付き受け槽47へ流し込み、最終的に冷却固化させてインゴットとして回収する。このとき、排出口1cの内側に配置した抽出ガイド部材6の多孔プレート61によって浮滓の排出が阻止されるから、該排出口1cより非鉄金属溶融物のみを効率よく流出させて回収できる。
【0040】
非鉄金属溶融物の回収後に浮滓処理槽1内に残った浮滓を取り出すには、傾動枠41を一旦水平姿勢に戻して抽出ガイド部材6を外した上で、再び該傾動枠41を前傾姿勢とし、処理槽1内の浮滓を排出して所要の容器、例えば前記の車輪付き受け槽47と同型で容量の大きいものに収容すればよい。なお、この浮滓の排出に際しては、その排出促進のために攪拌羽根2を回転させるのがよい。このとき、排出口1cの両側に灰排出ガイド部材70の灰排出ガイド板7がハの字形に配置しているから、浮滓が排出口1cへ誘導され、飛散することなく能率よく排出口1cから排出される。
【0041】
この浮滓処理装置Mでは、浮滓処理槽1の予熱により、投入直後の浮滓中の非鉄金属溶融物が部分的に急冷固化するのを防止できるから、該溶融物の回収率が向上する上、浮滓処理量が少ない場合でも抽出回収までの時間的余裕が得られるので、早急な作業操作を強いられず、それだけ労力負担が軽減すると共に、処理ライン構築上の制約が小さくなる。従って、抽出部位を溶融炉から遠い位置、例えば高温の溶融炉からの熱気が及びにくい位置に抽出部位を設けることで作業環境を改善できる。また、浮滓処理槽1の底部中央から立ち上がる筒状部1aの内側に回転駆動軸30が非接触状態で配置し、該筒状部1aの頂端より突出した回転駆動軸30の頂部30aに攪拌羽根2が連結されているから、浮滓処理槽1に収容した浮滓の高熱が回転駆動軸30に伝わりにくく、回転駆動手段3の各部の高熱による劣化が防止され、もって装置全体が優れた耐久性を発揮する。
【0042】
本発明においては、浮滓処理槽1の予熱機構5としてガスバーナー等の他の加熱手段も利用できるが、例示したシーズヒーター50の場合、浮滓処理槽1の少なくとも底部を周回するように配置するだけでよいから、他の加熱手段を採用する場合に比較して構造が格段に簡素になり、浮滓処理装置として組立製作が容易でコンパクト化に構成できると共に、サイリスタ制御等で予熱温度を容易に的確に調整できるという利点がある。また、実施形態のように、予熱機構5を相互に独立した複数本のシーズヒーター50にて構成し、これらを浮滓処理槽1の少なくとも底部を相互に異なる位置で周回するように配設すれば、各シーズヒーター50の通電量を個別に調整することで、浮滓処理槽1を迅速に且つ適切な温度分布になるように予熱できるという利点がある。
【0043】
攪拌羽根2については、実施形態では取付基部20の周方向3カ所に等配して該取付基部20より放射状に張出する羽根片22a〜22e、23a,23bを備えるものを例示したが、これら羽根片は浮滓の攪拌破砕を充分に行う上で取付基部20の周方向3カ所以上に設ける構成であればよい。ただし、周方向5カ所以上では浮滓処理槽1の容量低下をきたすため、周方向3カ所又は4カ所とするのが好適である。また、複数の羽根片の数と形状については、例示以外に種々設定できる。なお、実施形態のように攪拌羽根2の取付基部20が回転駆動軸30の頂部30aに対して着脱可能であれば、攪拌羽根2の摩耗や損傷による交換と補修を容易に行えるという利点がある。
【0044】
傾動手段4については、実施形態のような傾動枠41を用いる方式に限らず、例えば台車上で装置本体部10を傾動可能に枢支し、該台車自体に搭載したパワーシリンダの如き傾動駆動機構によって該装置本体部10を傾動させる方式等、種々の方式を採用できる。また、台車はレール軌道上を手押し式や動力走行式で移動する構成としてもよい。
【0045】
その他、本発明の浮滓処理装置では、攪拌羽根2の取付基部20と回転駆動軸5との連結構造、傾動手段4の傾動機構、回転駆動手段3の回転伝達機構、抽出ガイド部材6、灰排出ガイド板7、保温カバー9の形態と取付構造等、細部構成については実施形態以外に種々設計変更可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 浮滓処理槽
1a 筒状部
1b 上縁部
1c 排出口
10 装置本体部
2 攪拌羽根
20 取付基部
22a〜22e 角棒状羽根片
23a,23b 三角羽根片
3 回転駆動手段
30 回転駆動軸
30a 頂部
4 傾動手段
5 予熱機構
50 シーズヒーター
6 抽出ガイド部材
7 灰排出ガイド板
M 浮滓処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非鉄金属の溶融炉で生じた浮滓を攪拌破砕し、該浮滓に混入している非鉄金属溶融物を浮滓破砕物から比重分離して回収するのに用いる浮滓処理装置であって、
上方に開放して浮滓を収容する浮滓処理槽と、該浮滓処理槽内に配置する攪拌羽根と、該攪拌羽根の回転駆動手段と、前記比重分離した非鉄金属溶融物を流出させるために前記浮滓収容槽を傾かせる傾動手段とを備え、
前記浮滓処理槽の底部中央位置に直立する筒状部が一体形成され、該筒状部の内側に非接触状態で同心状に配置した回転駆動軸の頂部に、前記攪拌羽根の取付基部が相対回転不能に連結され、
浮滓の収容前に前記浮滓処理槽を外側から予熱する予熱機構を具備することを特徴とする非鉄金属溶湯の浮滓処理装置。
【請求項2】
前記予熱機構は、浮滓処理槽の少なくとも底部を周回するように配置したシーズヒーターからなる請求項1記載の非鉄金属溶湯の浮滓処理装置。
【請求項3】
相互に独立した複数本のシーズヒーターを有し、これらシーズヒーターが浮滓処理槽の少なくとも底部を相互に異なる位置で周回するように配設されてなる請求項2記載の非鉄金属溶湯の浮滓処理装置。
【請求項4】
前記攪拌羽根は、前記取付基部の周方向3カ所以上に等配して該取付基部より放射状に張出する羽根片を備え、これら羽根片が相互に異なる高さで浮滓処理槽内を回転するように構成されてなる請求項1〜3のいずれかに記載の非鉄金属溶湯の浮滓処理装置。
【請求項5】
前記浮滓処理槽の上縁部に前方へ突出する樋状の排出口が形成されると共に、この排出口に臨んで浮滓処理槽内の上部に着脱自在に配置し、浮滓の排出を阻止して非鉄金属溶湯を通過させる抽出ガイド部材を備えてなる請求項1〜4のいずれかに記載の非鉄金属溶湯の浮滓処理装置。
【請求項6】
前記浮滓処理槽の上縁部に前方へ突出する樋状の排出口が形成されると共に、この排出口の左右両側で該上縁部から立ち上がって相互にハの字形に配置する一対の灰排出ガイド板を備えてなる請求項1〜4のいずれかに記載の非鉄金属溶湯の浮滓処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−1770(P2012−1770A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138564(P2010−138564)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(591237825)東進工業株式会社 (3)
【出願人】(503001894)有限会社リード技研 (2)
【Fターム(参考)】