説明

非電気化学的条件下での固体支持体表面への有機フィルムの調製方法、このように得られた固体支持体、および調製キット

【課題】非電気化学的条件下、かつ特定の前処理技術を用いずに、あらゆるタイプの表面にグラフトした有機被膜を生成する技術的な解決手段を提供すること。
【解決手段】本発明は、固体支持体の表面に有機フィルムを調製する方法であって、該表面と、少なくとも1つの溶媒および少なくとも1つの接着プライマーを含む液体溶液とを、非電気化学的条件下で接触させる工程を含み、該接着プライマーに基づいてラジカル体の形成を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機表面被膜の分野に関するものであり、該被膜は有機フィルムの形態である。より詳細には、本発明は、従来の表面機能化技術を使用することなく、電気的または非導電性表面への被覆により、単純で再生可能な有機フィルムの形成を可能とするように適切に選択した溶液の使用に関する。本発明はまた、そのような有機被膜の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、基材に有機薄膜を生成することができる多くの技術があり、そのそれぞれが適切な族(family)または分類の分子に基づいている。
【0003】
スピンコーティング法は、堆積(deposite)される分子と対象となる基材との間に特定の親和性を必要とせず、このことはまた、ディップコーティングまたはスプレーコーティングにより被膜を形成する関連技術にも当てはまる。実際、堆積フィルムの粘着性は、本質的には、フィルムの構成成分間の相互作用に基づいている。これらの構成成分は、例えば、堆積後に架橋して、これにより安定性が向上し得る。これらの技術は大変用途が広く、被覆しようとする表面がどのような種類であっても適用することができ、非常に再生可能である。しかし、これらの技術では、フィルムと基材との間の効果的なグラフト化(単純な物理吸着を含む)は不可能であり、得られる厚みは、特に最も薄い堆積(20ナノメートル未満)については、見積もることが困難である。さらに、スピンコーティング技術は、被覆される表面が本質的に平坦である場合しか、均一に堆積させることができない(特許文献1)。スプレーコーティング技術により得られたフィルムの質は、噴霧された液体による表面のぬれに関係する。液滴が合体する場合しか、堆積物が本質的にフィルムの形態にならないからである。このように、所定のポリマーに対して、一般に、厚みおよび堆積の均一性に関して満足できる結果を与えることができる有機溶媒は、1つまたは2つしかない。
【0004】
支持体の表面に有機被膜を形成する他の技術(例えば、非特許文献1および非特許文献2に記載されるようなプラズマ蒸着または光化学開始反応)は、同様の原理に基づいている:すなわち、被覆しようとする表面の近くで、不安定な形態の前駆体を生成し、当該前駆体は基材にフィルムを形成することにより発展する。プラズマ蒸着は、その前駆体に特定の性質を必要としないが、光開始反応は光感受性前駆体(その構造は光照射下で発展する)の使用を必要とする。これらの技術は、一般に、接着性フィルムを形成する方法であるが、この接着が目的物周辺で位相的に閉鎖した架橋によるものであるか、界面における実際の結合によるものであるかを識別することは通常不可能である。残念なことに、これらの方法は、比較的複雑であり、かつ、費用がかかる前処理、すなわち、プラズマ法(例えば、プラズマ強化化学蒸着、照射)については真空系のセットアップの使用、あるいは、電気化学的方法についてはポテンシオスタットの使用が必要であり、これらは多くの接続に関する問題に関係している。
【0005】
電気泳動もまた、導電性表面を有機フィルムで被覆するのに適した技術である。電気泳動またはカチオン電着塗装は、荷電ポリマーを用いて金属部分の被覆を可能とし、導電性表面に均一のフィルムを提供することができる。この方法は、非導電性部分には適用せず、予め合成した荷電ポリマーを使用してのみ行うことができる。したがって、電気泳動の使用期間中、フィルムは成長せず、表面に堆積するだけである。さらに、前記処理は、陰極に直接接触する部分を必要とし、および、適合させなければならない陰極槽のパラメータの組み合わせを非常に厳密に監視することを必要とする。電着層は不溶性であるが、物理的および化学的耐性を欠くものであり、したがってこれらの特性の全てを獲得するために付加的な焼き付け工程を必要とする。さらに、この技術は、複雑な形状を有する小さい部分には適さない。
【0006】
単層(monolayer)の自己集合(self-assembly)は、実行するのにとても単純な技術である(非特許文献3)。しかし、この技術は、一般に、被覆しようとする表面に適切な親和性を有する分子前駆体を使用することを必要とする。そして、例えば、金または銀に対して親和性を有する硫黄化合物、シリカやアルミナのような酸化物に対するトリ−ハロゲノシラン、グラファイトまたはカーボンナノチューブに対する多環芳香族のような前駆体−表面の組が存在する。それぞれの場合、フィルムの形成は、分子前駆体の一部(例えば、チオールの場合の硫黄原子)と表面の特定の「受容体」位置との間の特定の化学反応に基づく。化学吸着反応は、接着性を確保する。このように、室温および溶液中で、分子の厚みのフィルム(10nm未満)が得られる。酸化物表面を含む上記組は、非常に強固なグラフトフィルムを形成する(シリカ上のトリ−ハロゲノシランの化学吸着に含まれるSi−O結合は、化学的に最も安定な結合の1つである)が、これは酸化物を含まない金属または半導体の場合には全く当てはまらない。これらの場合、導電性表面と単分子膜との界面結合は脆弱である。金の上のチオールの単層の自己集合は、60℃を超える温度での加熱、または室温での適切な溶媒の存在下、あるいは、酸化性または還元性液体媒体との接触により脱着する。同様に、Si−O−Si結合は、水性媒体または湿潤媒体においてさえ、特に熱の影響下で脆弱化される。
【0007】
ポリマーの電気グラフト化(electrografting)は、開始、次いで、電極および重合プライマーの両方として作用する所定の表面上での電気活性モノマーの連鎖成長による電気的に誘導された重合に基づく(非特許文献4)。電気グラフト化は、還元および生長反応による開始のメカニズムに適した前駆体、一般にはアニオンを使用する必要がある。なぜなら、陰極で開始される電気グラフト化は、貴金属および非貴金属に適用されるので(貴金属または炭素基材:グラファイト、ガラス状炭素、ホウ素がドープされたダイヤモンドのみに適用される陽極分極による電気グラフトとは異なる)、好ましいことが多いからである。「空乏(depleted)ビニル」分子、すなわち、電子誘引機能を有する基(grouping)、例えば、アクリロニトリル、アクリレート類、ビニル−ピリジンは、特にこの方法に適しており、超小型電子技術(microelectronics)や生物医学的分野で多くの用途を可能としている。これらの電気グラフト化フィルムの接着は、炭素−金属共有結合により確保される(非特許文献5)。
【0008】
この電気グラフト化技術によれば、炭素/金属界面結合の形成には重合が必須であり、実際、電気グラフト化メカニズムは表面のごく近傍でのモノマーの電子的還元を含み、電極上でのラジカル停止により共有結合的にグラフトし得る不安定なアニオンラジカルを生成することは、非特許文献6に示されている。このようにして得られたグラフトされたアニオンは、重合可能な分子のごく近傍にないときには、脱着し、溶液に戻る(上記引用文献)。この脱着反応と競合して、フリーモノマー上に化学吸着された第1のアニオンの電荷の付加的な反応(マイケル付加)が、反応中間体を安定化させる第2の手段を提供する:この付加の生成物は、グラフトされたアニオンを再度生成するが、その電荷は表面から「なくなり(away)」、吸着された構造の安定化に寄与する。この二量体アニオンは、それ自身が再度フリーモノマーなどに付加され得、それぞれの新しい付加は、分極表面/電荷反発を緩めることにより付加的な安定性を提供する。これは、第1のアニオンラジカルの結合界面(これは一時的なものである)が、重合が起こる程度に安定化することを意味する。
【0009】
上記の様々な技術のうちで、電気グラフト化が、結合界面を特定の制御状態としてグラフトフィルムを製造することができる唯一の技術である。実際、表面(必然的に導電性である)で活性化されたビニルモノマーから得られるポリマーフィルムをグラフトすることができる唯一の技術は、ポテンシオスタットを介した表面からの重合反応の電気的な開始、それに続くモノマーからモノマーの鎖の成長からなり、陰極と陽極とを有する電気化学セルおよび当該セルの端子への電圧の印加を必要とする。
【0010】
非特許文献7は、水性酸性相における電気化学的開始によるインサイチュで合成されたジアゾニウム塩のグラフト化を記載する。特許文献2は、具体的には、電気導電性表面での有機導電性フィルムをグラフト化し成長させる方法を開示し、当該グラフト化および成長は、当該有機フィルムの前駆体であるジアゾニウム塩の電気的還元により同時に行われる。
【0011】
しかし、非電気化学的条件下、かつ特定の前処理技術を用いずに、あらゆるタイプの表面にグラフトした有機被膜を生成する技術的な解決手段は提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第7,119,030号明細書
【特許文献2】国際公開第03/018212号パンフレット
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Konuma M., “Film deposition by plasma techniques”, (1992) SpringerVerlag, Berlin
【非特許文献2】Biederman H. and Osada Y., “Plasma polymerization processes”, 1992,Elsevier, Amsterdam
【非特許文献3】Ulman A., “An introduction to ultrathin organic films fromLangmuir-Blodgett films to self-assembly”, 1991, Boston, Academic Press
【非特許文献4】Palacin, S., et al., “Molecule-to-metal bonds: Electrograftingpolymers on conducting surfaces.”, Chemphyschem, 2004. (5)10: p. 1469-1481
【非特許文献5】G. Deniau et al., “Carbon-to-metal bonds: electroreduction of2-butenenitrile” Surf. Sci. 2006, 600, 675
【非特許文献6】G. Deniau et al., “Coupled chemistry revisited in the tentativecathodic electropolymerization of 2-butenenitrile.”, Journal ofElectroanalytical Chemistry, 1998, 451, 145-161
【非特許文献7】Ortiz et al., Electrochemical modification of a carbon electrodeusing aromatic diazonium salts. 2. Electrochemistry of 4-nitrophenyl modifiedglassy carbon electrodes in aqueous media. Journal of ElectroanalyticalChemistry, 1998. 455(1-2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、先行技術の方法および被覆の不利な点を解決することを可能とし、後者とは、電圧無印加の状態で有機ポリマーまたはコポリマーフィルムのグラフト化を行うことができる点で異なる。したがって、上記提案された方法は、様々なタイプの表面にフィルムをグラフトすることを可能とし、その適用は導電性または半導電性表面に限定されない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、固体支持体の表面に有機フィルムを調製する方法であって、該表面と
― 少なくとも1つの溶媒、
― 少なくとも1つの接着プライマー
を含む液体溶液とを、非電気化学的条件下で接触させ工程を含み、接着プライマーに基づいてラジカル体(radical entities)の形成を可能とすることを特徴とする方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、電圧無印加の状態で有機ポリマーまたはコポリマーフィルムのグラフト化を行うことができる。したがって、本発明の方法は、様々なタイプの表面にフィルムをグラフトすることを可能とし、その適用は導電性または半導電性表面に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の方法の1つの変形にしたがって、ジアゾニウム塩がp−ベンジルアミンからインサイチュで調製された溶液で処理された金板のIRスペクトルを示す。
【図2】本発明の方法の1つの変形にしたがって、すなわち、ジアゾニウム塩がp−フェニルジアミンからインサイチュで調製された溶液で処理された金板のIRスペクトルを示す。
【図3】本発明の方法の1つの変形にしたがって、すなわち、ジアゾニウム溶液で処理された金板の、当該板をさらして5分、10分および15分後のIRスペクトルを示す(それぞれ(a)、(b)および(c))。
【図4】本発明の方法の1つの変形にしたがって、ジアゾニウム塩がp−ベンジルアミンからインサイチュで調製された溶液で処理されたニッケル板のIRスペクトルを示す。
【図5】本発明の方法の1つの変形にしたがって、ジアゾニウム塩がp−ベンジルアミンからインサイチュで調製された溶液で処理された鉄板(AISI 316L)のIRスペクトルを示す。
【図6A】プライマーフィルムで被覆されたダイヤモンド表面のAFM画像を示す。
【図6B】図6AのAFM画像上に両側矢印で示された表面のプロフィルメーター曲線(長さX(nm)/高さZ(Å))を示す。
【図7】本発明により調製された連続的フィルム(図7a)および統計的フィルム(図7b)を示す模式図である。
【図8】先行技術によるグラフト化方法(図8a)および本発明の方法によるグラフト化方法(図8b)を示す模式図である。
【図9】本発明の方法の1つの変形にしたがって、すなわち、ジアゾニウム塩がインサイチュで調製された溶液で、かつモノマーを用いて処理された金板のIRスペクトルを示す。
【図10】本発明の方法にしたがってプライマーおよびモノマーで処理された金板について、1つは、さらした時間を変えて処理した金板のIRスペクトルを示し(図10a)、もう1つは、鉄粉の量を変えて処理した金板のIRスペクトルを示す(図10b)。
【図11】導電性カーボンフェルト(図11a)、ならびに、同じカーボンフェルト上に有機フィルムがグラフトされ、当該フィルムが本発明の方法により、すなわち、鉄粉の存在下、インサイチュで得られたジアゾニウム塩およびアクリル酸から調製されたもの(図11b)のXPS分光法(X線光電子分光法)分析を示す(AAPはアクリル酸ポリマーを示す)。
【図12】連続的フィルムを形成する本発明の方法にしたがって処理された金板のIRスペクトルを示す。
【図13】統計的フィルムを形成する本発明の方法にしたがって処理された金板のIRスペクトルを示す。
【図14】反応溶媒に不溶なモノマーに基づいてフィルムを形成する本発明の方法にしたがって処理された金板のIRスペクトルを示す。
【図15】本発明の方法にしたがってプライマーおよびモノマーで処理されたガラス板のIRスペクトルを示す。
【図16A】カーボンナノチューブの写真を示す。
【図16B】本発明の方法にしたがってプライマーおよびモノマーで処理されたカーボンナノチューブの写真を示す。
【図17】本発明の方法にしたがってプライマーおよびモノマーで処理されたPTFE板のIRスペクトルを示す。
【図18】本発明の方法と同様にして、すなわち、鉄粉の存在下、2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよびインサイチュで調製されたジアゾニウム塩に基づいて処理された金板(図18a)およびチタン板(図18b)のIRスペクトルを示す。
【図19A】無垢のガラス板上の水滴の写真である。
【図19B】本発明の方法にしたがってp−ブチルメタクリレート(p−BuMA)で被覆された同様のガラス板上の水滴の写真である。
【図20A】ヒドロキシエチルメタクリレートの存在下でのプロセスによる処理後およびマスク除去後の、市販のインクマスクで被覆された金板についてのIR/AFMマッピングを示す。
【図20B】アクリル酸の存在下でのプロセスによる処理後およびマスク除去後の、市販のインクマスクで被覆された金板についてのIR/AFMマッピングを示す。
【図21A】アクリル酸の存在下でのプロセスによる処理後およびマスク除去後の、チオールマスクで被覆された金板についてのIR/AFMマッピングを示す。
【図21B】アクリル酸の存在下でのプロセスによる処理後およびマスク除去後の、チオールマスクで被覆された金板についてのIR/AFMマッピングを示す。
【図22A】ヒドロキシエチルメタクリレートの存在下でのプロセスによる処理後およびマスク除去後の、1つのパターンのチオールマスクで被覆された金板についてのIR/AFMマッピングを示す。
【図22B】ヒドロキシエチルメタクリレートの存在下でのプロセスによる処理後およびマスク除去後の、別のパターンのチオールマスクで被覆された金板についてのIR/AFMマッピングを示す。
【図23】PHEMAおよびシクロデキストリン誘導体を含むフィルムで被覆された金板のIRRASスペクトルを示す。
【図24】PHEMAおよびカリックスアレーン誘導体を含むフィルムで被覆された金板のIRRASスペクトルを示す。
【図25】単一のプライマーから得られた、ポルフィリン誘導体を含むフィルムで被覆された、金板のXPSのC1sスペクトル(図25a)およびN1sスペクトル(図25b)を示す。
【図26】金板にグラフトされたPAAを含むフィルムについての、Ptナノ粒子導入前のXPSスペクトル(グローバル)を示す。
【図27】金板にグラフトされたPAAを含むフィルムについての、Ptナノ粒子導入後のXPSスペクトル(グローバル)を示す。
【図28】カーボンナノチューブにグラフトされたPAAを含むフィルムについての、Ptナノ粒子導入後のXPSスペクトル(グローバル)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の文脈においては、「有機フィルム」は、複数の有機化学種のユニットから得られ、本発明の方法が行われる支持体表面に共有結合した任意の有機的性質を有するフィルムを意味する。当該フィルムは、特に、支持体の表面と共有結合したフィルムであって、フィルムの厚みに従って類似したタイプの構造ユニットの少なくとも1つの層を含み、その結合が、異なるユニット間で発達した共有結合により高められるフィルムに関する。
【0019】
上記方法で実施される溶媒(「反応性溶媒」とも称される)は、プロトン性であってもよく非プロトン性であってもよい。有利なことには、実施されるプライマーは、該反応性溶媒に溶解可能である。
【0020】
本発明の文脈においては、「プロトン性溶媒」は、プロトン形態で放出され得る少なくとも1つの水素原子を含む溶媒を意味する。
【0021】
プロトン性溶媒は、有利なことには、水、脱イオン水、蒸留水(これらは酸性化または非酸性化であり得る)、酢酸、ヒドロキシル化溶媒(例えば、メタノール、エタノール)、低分子量液体グリコール(例えば、エチレングリコール)、およびそれらの組み合わせから構成される群より選択される。第1の変形例においては、本発明に関連して用いられるプロトン性溶媒は、プロトン性溶媒のみ、または様々なプロトン性溶媒の混合物により構成される。別の変形例においては、プロトン性溶媒およびプロトン性溶媒の混合物は、少なくとも1つの非プロトン性溶媒との混合物として使用することができる。ただし、得られる混合物は、プロトン性溶媒としての性質を有する。酸性化水、より詳細には、蒸留または脱イオン酸性化水は、好ましいプロトン性溶媒である。
【0022】
本発明の文脈においては、「非プロトン性溶媒」は、プロトン性ではない溶媒を意味する。そのような溶媒は、非極限状態下で、プロトンの形態の1つの水素を放出または受け取ることができない。非プロトン性溶媒は、有利なことには、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、およびジメチルスルホキシド(DMSO)から構成される群より選択される。
【0023】
本発明の文脈においては、用語「接着プライマー」は、特定の条件下で、ラジカル反応(例えば、ラジカル化学グラフト化)により、固体支持体の表面に化学吸着され得る任意の有機分子をいう。そのような分子は、ラジカルと反応し得、さらに化学吸着後に他のラジカルに対して反応機能を有する少なくとも1つの官能基を含む。したがって、これらの分子は、第1の分子が支持体表面にグラフトした後、ポリマー型フィルムを形成し得、次いでその環境に存在する他の分子と反応する。
【0024】
用語「ラジカル化学グラフト化」は、具体的には、対象表面との共有結合を形成するための不対電子を有する分子体を使用することをいい、該分子体は、それらがグラフトされることが意図される表面とは独立して発生する。したがって、ラジカル反応は、関係する表面とグラフトされた接着プライマーの誘導体との間で、次いでグラフトされた誘導体とその環境に存在する分子との間で共有結合を形成する。
【0025】
本発明の文脈においては、「接着プライマーの誘導体」は、接着プライマーがラジカル化学グラフト化により、特に固体支持体の表面または本発明に関連して用いられる他のラジカルと反応した後に、当該接着プライマーから得られる化学ユニットを意味する。接着プライマーの誘導体の化学吸着後の他のラジカルに対する反応機能が、特に固体支持体の表面との共有結合に含まれる機能と異なることは、当業者には明らかである。
【0026】
接着プライマーは、有利なことには、アリールジアゾニウム塩、アリールアンモニウム塩、アリールホスホニウム塩およびアリールスルホニウム塩から構成される群より選択される開裂可能なアリール塩である。これらの塩において、アリール基は以下に規定されたRにより表され得るアリール基である。
【0027】
開裂可能なアリール塩のうち、具体的には、以下の式(I)の化合物を挙げることができる。
R−N,A (I)
― Aは一価のアニオンを表し、
― Rはアリール基を表す。
【0028】
開裂可能なアリール塩、特に上記の式(I)の化合物におけるアリール基として、有利なことには、芳香族または複素環式芳香族炭素構造、場合により、一置換または多置換であり、それぞれ3から8の原子を含み、ヘテロ原子がN、O、PまたはSである、1またはそれ以上の芳香族または複素環式芳香族環(aromatic or heteroaromatic cycles)で構成される炭素構造を挙げることができる。当該置換基は、具体的には、1またはそれ以上のヘテロ原子(例えば、N、O、F、Cl、P、Si、BrまたはS)ならびにCからCのアルキル基を含み得る。
【0029】
開裂可能なアリール塩、特に上記の式(I)の化合物において、Rは、好ましくはNO、COH、ケトン、CN、COH、NH、エステル、およびハロゲンのような電子吸引性基により置換されたアリール基から選択される。特に好ましいアリール型R基は、ニトロフェニルおよびフェニル基である。
【0030】
上記式(I)の化合物において、Aは、具体的には、ハロゲン化物のような無機アニオン(例えば、I、BrおよびCl)、テトラフルオロボレートのようなハロゲンホウ酸塩、ならびに有機アニオン(例えば、アルコラート、カルボン酸塩、過塩素酸塩、スルホン酸塩)から選択され得る。
【0031】
式(I)の化合物として、フェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−ブロモフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−アミノフェニルジアゾニウムクロライド、2−メチル−4−クロロフェニルジアゾニウムクロライド、4−ベンゾイルベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−シアノフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−カルボキシフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−アセトアミドフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−フェニル酢酸ジアゾニウムテトラフルオロボレート、2−メチル−4−[(2−メチルフェニル)ジアゼニル]ベンゼンジアゾニウムスルフェート、9,10−ジオキソ−9,10−ジヒドロ−1−アントラセンジアゾニウムクロライド、4−ニトロナフタレンジアゾニウムテトラフルオロボレートおよびナフタレンジアゾニウムテトラフルオロボレートから選択される化合物を使用することが特に有利である。
【0032】
接着プライマーは、使用される溶媒に溶解可能であることが好ましい。本発明の文脈においては、接着プライマーは、濃度が0.5Mに達するまで溶解性が残っている場合、すなわち、溶解性が通常の温度および圧力(NTP)下で、少なくとも0.5Mに相当する場合、所定の溶媒に溶解可能であるとされる。溶解性は、飽和溶液の分析的組成として規定され、所定の溶媒中の所定の溶質の割合で表わされ、具体的にはモル濃度として表わされ得る。濃度がこの溶媒への化合物の溶解性と等しい場合、当該化合物を当該濃度で含む溶媒は飽和したとされる。溶解性は、有限であることも無限であることもある。後者の場合、化合物は考慮された溶媒に任意の割合で溶解し得る。
【0033】
使用される溶媒に存在する接着プライマーの量は、本発明の方法によれば、実験者の所望により変動し得る。この量は特に、有機フィルムの所望の厚み、および、適切にフィルムと一体化することができる接着プライマーの量に関連する。したがって、溶液と接触させた固体支持体の表面全体にグラフトしたフィルムを得るために、最少量(これは分子サイズ計算により見積もることができる)の接着プライマーを使用することが必要である。本発明の特に有利な実施形態によれば、液体溶液中の接着プライマー濃度は、10−6と5Mとの間であり、好ましくは5×10−2と10−1Mとの間である。表面が接着プライマー(特にジアゾニウム)に由来する単分子厚みの少なくとも1つのフィルムで被覆されているとき、いわゆる「プライマー」層が形成される。したがって、有機フィルムは、プライマー層単独で構成することができる。もちろん、任意の分析手段を使用してプライマー層の存在を検査し、プライマー層の厚みを測定することができる。そのような手段は、使用される接着プライマーに存在する原子および化学基に応じて、具体的には、赤外線分光法(IR)測定またはX線光電子分光法(XPS)および紫外線(UV)測定であり得る。
【0034】
溶媒がプロトン性溶媒である場合、有利なことには、接着プライマーがアリールジアゾニウム塩であれば、溶液のpHは7未満であり、一般的に、3以下である。pHが0と3との間で作用させることが推奨される。必要であれば、溶液のpHは、当業者には周知の1つまたはそれ以上の酸性化剤(例えば、塩酸や硫酸等の有機酸または鉱酸)を使用して所望の値に調整することができる。
【0035】
接着プライマーは、上記で規定した液体溶液に導入されてもよく、溶液中でインサイチュで調製してもよい。したがって、特定の実施形態では、本発明の方法は、特に接着プライマーがアリールジアゾニウム塩である場合には、接着プライマーを調製する工程を含む。このような化合物は、一般に、複数個のアミン置換基を含み得るアリールアミン類から、酸性媒体中でのNaNOとの反応により調製される。このようなインサイチュでの調製に使用され得る実験手順の詳細な説明については、当業者は公開文献を参照することができる(D. Belanger et al. Chem. Mater. 18 (2006) 4755-4763)。次いで、グラフト化は、好ましくはアリールジアゾニウム塩の調製のための溶液中で直接行われる。
【0036】
本発明の文脈においては、「非電気化学的条件」は、電圧無印加であることを意味する。したがって、非電気化学的条件は、固体支持体表面または液体溶液に電圧を印加しない状態で、接着プライマーからラジカル体を形成し得るような条件である。これらの条件は、例えば、温度、溶媒の性質、溶液中の特定の添加剤の存在、撹拌等のパラメーターを含み、一方、電流はラジカル体の形成中においては干渉しない。ラジカル体を形成し得る非電気化学的条件は多数あり、この種の反応は公知であり、先行技術において詳細に研究されている(Rempp & Merrill, Polymer Synthesis, 1991, 65-86, Huthig & Wepf)。
【0037】
したがって、例えば、接着プライマーの熱的、動力学的、化学的、光化学的、または放射線化学的環境を調整し、当該プライマーを不安定にすることにより、ラジカル体を形成することができる。もちろん、複数のこれらのパラメーターを同時に調整することができる。
【0038】
熱的環境は、溶液の温度に基づく。当該環境は、当業者によって通常使用される加熱方法を用いて制御が容易である。サーモスタットで制御された環境を使用することは、反応条件を正確に制御することを可能とする場合には特に重要である。
【0039】
動力学的環境は、本質的に溶液内の撹拌に対応する。この場合、分子自体の撹拌(結合の伸長(elongation of bond)など)ではなく、溶液中の分子全体の運動である。例えば、磁気撹拌棒または超音波を使用した激しい撹拌は、特に溶液に動力学的エネルギーを提供することができ、したがって接着プライマーを不安定化し、ラジカルを形成する。
【0040】
最後に、種々のタイプの放射線、例えば、電磁波、γ線、UV線、または電子ビームまたはイオンビームなども、接着プライマーを十分に不安定化し、ラジカルを形成することができる。使用される波長は、使用されるプライマーに依存し、例えば、4−へキシルベンゼンジアゾニウムでは、306nmである。
【0041】
本発明の文脈においては、ラジカル体を形成し得る非電気化学的条件は、代表的には、熱的条件、動力学的条件、光化学的条件または放射線化学的条件、およびそれらの組み合わせから構成される群より選択される。有利なことには、ラジカル体を形成し得る非電気化学的条件は、熱的条件、化学的条件、光化学的条件または放射線化学的条件、およびそれらのお互いの組み合わせ、および/またはそれらと動力学的条件との組み合わせから構成される群より選択される。非電気化学的条件は、より詳細には、化学的条件である。
【0042】
化学的条件に関しては、上記で規定した液体溶液に1つまたはそれ以上の化学的開始剤を添加することが想定される。実際、液体溶液に1つまたはそれ以上の化学的開始剤を添加することにより、接着プライマーの化学的環境を調整することもできる。化学的開始剤の存在は、しばしば上記の非化学的環境条件と組み合わせられる。代表的には、選択された環境条件下で接着プライマーよりも低い安定性を有する化学的開始剤は、不安定な形態で発達する。これにより接着性プライマーに作用し、接着プライマーに基づきラジカル体を形成する。作用が本質的に環境条件に関係しない化学的開始剤を使用することも可能であり、それらは、例えば熱的条件または動力学的条件の広い範囲で効率的である。開始剤は反応に使用される溶媒に従って選択され、有利なことには、開始剤は溶媒に溶解性を有する。
【0043】
ラジカル重合用の化学的開始剤は、非常に多い。3つの主要なタイプが、使用される環境条件に基づいて区別され得る。
― 熱的開始剤、最も一般的なものは、過酸化物またはアゾ化合物である。熱の影響下で、これらの化合物は、フリーラジカルへと解離する。この場合、反応は、開始剤に基づいたラジカルの形成に必要な温度に対応する最低温度で行われる。このタイプの化学的開始剤は、一般に、それらの分解動力学にしたがって、特定の温度間隔内で使用される。
― 光化学的または放射線化学的開始剤、これらは、おおよそ複雑なメカニズムによりラジカルを生成し得る照射により引き起こされた放射線(通常、UV、さらにγ線または電子線)により励起される。BuSnHおよびIは、光化学的または放射線化学的開始剤に属する。
― 本質的な化学的開始剤、それらは速やかに、かつ、通常の条件下、すなわち温度および圧力下で接着プライマーに作用し、ラジカルを形成し得る。そのような開始剤は、一般に、反応条件下で使用される接着プライマーの還元電位未満であるレドックス(環元/酸化反応)電位を有する。開始剤のタイプに依存して、金属、一般的に微細に分割された形態、例えば金属ウール(より一般的には“スチールウール”と呼ばれる)または金属粉(filling)であり、還元的、例えば鉄、亜鉛、ニッケル、またはメタロセンのような金属塩、次亜リン酸(HPO)またはアスコルビン酸のような還元的な化合物であり得、あるいは、接着プライマーを不安定化し得るに十分な割合の有機または無機塩基を有し得る;一般的には、4以上のpHであれば十分である。ラジカル貯蔵型構造、例えば、電子ビームまたは重イオンビームおよび/または上記の全ての照射手段により予め照射されたポリマー性マトリックスもまた、接着プライマーを不安定化するための化学的開始剤としても使用することができ、該プライマーに基づいてラジカル体の形成を導くことができる。
【0044】
本発明の方法において実施される液体溶液は、有利なことには、
― ここで規定したような微細に分割された形態の還元性金属、
― メタロセン
― 液体溶液のpHを4以上にするに十分な割合の有機または無機塩基
― ここで規定したような予め照射されたポリマー性マトリックス
から選択される1つまたはそれ以上の化学的プライマーをさらに含む。
【0045】
本発明に関連して使用され得るプライマーのうち、特に、接着プライマーがジアゾニウムアリール塩のような開裂可能なアリール塩である場合には、ヨウ素、またはアリール基、アリル基、カルボニル基、スルフォニル基を有するα−ハロゲノアルキル(α-halogenoalkyls)のようなハロゲン化開始剤、CClまたはCHClのようなポリハロゲン化化合物、ハロゲンとの非常に不安定な共有結合であって、一般にN、SまたはOのようなヘテロ原子とハロゲンとの間に確立された結合に対応する共有結合を有する化合物、過硫酸カリウム(K)、アゾビス(イソブチロニトリル)、ベンゾイルパーオキシド、tert−ブチルパーオキシド、クミルパーオキシド、tert−ブチルパーベンゾエート、tert−ブチルヒドロパーオキシドのような過酸化化合物、および、鉄、亜鉛、ニッケルのような微細に分割された(好ましくは粉、微粒子または金属ウール繊維のような形態の)還元性金属、金属塩、特にフェロセンのようなメタロセン、照射されたポリマー性マトリックス、特にポリウレタン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、およびポリエチレンテレフタレートから選択されるポリマーのマトリックスであって、そのポリマーが有利なことにはフッ素化またはペルフルオロ化されているものが挙げられる。
【0046】
開始剤の量は、使用されるプロセスの条件に従って選択される。一般に、当該量はモノマーの5と20質量%との間であり、代表的には約10質量%である。したがって、例えば、接着プライマーがアリールジアゾニウム塩である場合には、開始剤として、粒子の直径が50と250μmとの間である鉄粉を使用することができる。一般に(微粉度にしたがって)ファイン(0)、エクストラファイン(00)またはスーパーファイン(000)である鉄またはスチールウールも使用される。より詳細には、ウール繊維の直径は、3.81×10−2mm以下であり、代表的には6.35×10−3mmより大きい。あるいは、塩基性条件を使用することができ、その結果、溶液のpHはラジカル形態の接着プライマーの不安定化を引き起こすに十分に高い。
【0047】
種々の形態(例えば、膜)で照射されたマトリックスを使用することも可能である。代表的には、そのような膜はマイクロメーター範囲の厚さを有しており、一般には1と100μmとの間、特に5と50μmとの間、より詳細には9μm近傍である。有利なことには、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)である。特に、電子を照射されたポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜を使用し得る。照射量は一般に、PVDFについては10と200kGyとの間であり、より詳細には100kGyである。そのような膜は、例えば、寸法が1cm×2cm×9μm、すなわち、総表面はおよそ4.0054cmである。
【0048】
予め照射されたポリマー性マトリックスで、
― 顆粒、例えば、平均直径が200μmから1cm、
― マイクロ粒子、例えば、直径が1μmから100μm、
― ナノ粒子、一般に直径が5nmから900nm、
の形態のものも使用し得る。
【0049】
実際、粒子の直径の減少により、同じ質量の膜形態の照射ポリマー性材料について、接触比表面積およびしたがって表面のラジカル量を増大させることができる。代表的には、利用可能な照射マトリクスの接触比表面積は、グラフト化が行われる固体支持体表面のそれよりも格段に低い。
【0050】
ポリマー性マトリックスの照射は、当該マトリックスを電子線に供することからなり得る(電子照射ともいう)。より詳細には、この工程は、加速電子線(当該電子線は、電子線加速器により放射され得る:例えば、Van de Graaf加速器、2.5MeV)で上記ポリマー性マトリックスを走査することを含み得る。電子線で照射する場合、エネルギーの付与(deposition)は均一であり、このことは、この照射によって生成されるフリーラジカルがマトリックスの表面および体積において均一に分布することを意味する。
【0051】
上記ポリマー性マトリックスの照射工程はまた、当該マトリクスを重イオン衝撃に供することを含み得る。「重イオン」はその質量が炭素よりも重いイオンであることが規定される。一般的に、これらは、クリプトン、鉛およびキセノンから選択される。
【0052】
上記第1の実施形態および第2の実施形態のいずれの文脈においても、照射により、上記マトリックスを構成する材料にフリーラジカルが生成される。このフリーラジカルの生成は、照射エネルギーの当該材料への移行の結果である。
【0053】
このような照射マトリックス中に存在するラジカルは、クリスタライト中で捕捉され、照射された形態のマトリックスの寿命を長くし得る。したがって、クリスタライト(好ましくは30%と50%との間、一般的には40%(体積比))を含むマトリックスを用いることが推奨される。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は半結晶性(一般的には40%が結晶性で60%が非晶性)であり、複数の結晶相(平面状またはらせん状に会合した鎖により構成されるα、β、γおよびδ)に存在し得る。α相およびβ相が最も一般的である。PVDFは熱可塑性ポリマーであり、したがって溶融し、次いで成形され得る。したがって、溶融状態(例えば、単純な押し出し後)からの冷却により、主にα相のPVDFが一般的に得られる。50℃未満の温度でのα相PVDFの延伸成形により、主にβ相のPVDFが一般的に得られる。本発明においては、主にβ相を含むPVDFの使用が推奨される。結晶性がより大きいからである。
【0054】
上記種々の形態の照射ポリマー表面で利用可能な(accessible)ラジカルの量を増大させるために、有利なことには、ポリマー性材料の溶液との接触比表面積が、それらをマイクロまたはナノ多孔質とすることにより増大され得る。このタイプの材料を得るために、照射工程は以下のようにして行われ得る:
− 重イオンによるポリマー性マトリックスの照射;
− 重イオンのトラックに沿って生成された潜在トレース(latent trace)の化学的曝露(一般的には、加水分解)による開放チャンネルの形成;
− 上記開放チャンネルの電子線照射。
【0055】
上記化学的曝露は、マトリックスを、上記潜在トレースを加水分解し当該位置に中空チャンネルを形成し得る試薬と接触するよう配置することを含む。
【0056】
この特定の実施形態によれば、重イオンによるポリマー性マトリックスの照射後、生成した潜在トレースは、照射中にイオンが材料を通過する際に存在する鎖の分割により形成された短鎖ポリマーを示す。これらの潜在トレースにおいては、曝露中の加水分解の速度は、非照射部分の速度よりも大きい。したがって、選択的な曝露を行うことができる。
【0057】
上記潜在トレースの曝露を保証し得る試薬は、マトリックスを構成する材料に依存する。したがって、ポリマー性マトリックスが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ(VDF−co−HFP)(ビニリデン−コ−ヘキサフルオロプロペンフルオライド)、ポリ(VDF−co−TrFE)(ビニリデン−コ−トリフルオロエチレンフルオライド)、ポリ(VDF−co−TrFE−co−ChloroTrFE)(ビニリデン−コ−トリフルオロエチレン−コ−モノクロロトリフルオロエチレンフルオライド)、および他のペルフルオロポリマーである場合には、潜在トレースは、具体的には、高度に塩基性で酸化性の溶液(例えば、0.25重量%のKMnOが存在するKOHの10N溶液、温度65℃)により処理され得る。必要に応じてUVによるトレースの増感と組み合わせた塩基性溶液による処理は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリカーボネート(PC)のようなポリマーについて十分であり得る。上記処理により、中空円筒状の孔が形成され、その直径は、上記塩基性かつ酸化性の溶液による処理時間に応じて調節され得る。一般的に、照射は、得られる膜が1cmあたり10と1011との間のトレースを有するようになるように行われる。代表的には、膜について5×10と5×1010との間であり、より詳細には1010のオーダーである。マトリックスを構成する材料に応じた化学的曝露に使用され得る試薬およびプロセス条件に関する他の情報は、Rev. Mod. Phys., Vol. 55, NO 4, Oct. 1983, p.925に見出され得る。
【0058】
上記曝露工程の後、電子線照射が行われて上記チャンネルの壁にフリーラジカルを形成する。この場合の実施は、一般的な電子線照射の手順と同様である。ビームは、一般的には、膜表面の法線方向に向けられ、当該表面は均一に走査される。照射線量は、PVDFについて、一般的には10〜200kGyの範囲であり、代表的には100kGy近傍である。線量は、一般的には、「ゲル線量」より大きいものとされる。ゲル線量は、ラジカル間の組み換えが促進され、3次元(または架橋)網目構造、すなわちゲルを形成する鎖相互間の結合を生成する線量に対応する。したがって、「ゲル線量」よりも大きい線量を用いることにより、マトリックス内に架橋が生成され、その結果、フリーラジカルを生成する同一の単一工程において得られるポリマーの機械的特性を改善することができる。
【0059】
非限定的な例としては、平均直径10nmで1cmあたり1010個の孔が照射に誘導されて生成された後、2cm、厚み9μmのPVDF膜の接触比表面積が、約4cmから約60cmに増加する。したがって、同一の非多孔質膜に比べて15倍のラジカルを表面に存在させることができる。
【0060】
本発明による液体溶液は、以下に記載および開示する少なくとも1つの界面活性剤をさらに含み得る。
【0061】
本発明の方法によって表面が処理される固体支持体は、任意のタイプであり得る。実際、ラジカルグラフト化反応が起こるのは、溶液に接触する試料の表面である。したがって、本発明の方法によって処理される固体支持体の表面は、代表的には、ラジカル反応に含まれ得る少なくとも1つの原子を有する。固体支持体は、導電性であってもよく非導電性であってもよい。固体支持体は、それなりの(more or less)大表面および可変の粗さを有し得る。本発明の方法は、ナノメートルサイズまたはメートルサイズの試料に適用可能である。したがって、例えば、本発明の方法は、ナノ物体(例えば、ナノ粒子またはナノチューブ、代表的にはカーボン)、あるいはより複雑な素子に適用され得る。
【0062】
本発明は、広範な種類の対象表面(その組成は、広範な材料から選択され得る)について適用可能である。実際、本発明の方法は純粋なラジカルタイプのグラフト化を用い、表面が特定の限定的な特徴(例えば、高い導電性)を有することを必要としない。したがって、表面は、有機であってもよく非有機であってもよく、また複合材料の特性を有していてもよく、不均一な組成を有していてもよい。ラジカル付加または置換反応に含まれ得る1つ以上の原子または原子基、例えば、CH、カルボニル(ケトン、エステル、酸、アルデヒド)、OH、エーテル、アミン、またはハロゲン(例えば、F、ClおよびBr)を有する任意の表面が、特に本発明に関係する。
【0063】
固体支持体は、例えば、金属、貴金属、酸化金属、遷移金属、金属合金、例えば、Ni、Zn、Au、Pt、Tiおよび鋼のような導電性材料から選択され得る無機表面を有し得る。当該無機表面はまた、半導体材料、例えば、Si、SiC、AsGa、Gaなどから選択され得る。本発明の方法を、非導電性酸化物、例えば、SiO、AlおよびMgOのような非導電性表面を有する固体支持体に適用することもできる。より一般的には、固体支持体の無機表面は、例えば、一般的にはシリケートを含むガラス、またはセラミックのような非晶性材料、ならびに、ダイヤモンドのような結晶性材料で構成され得る。
【0064】
固体支持体は、有機表面を有し得る。有機表面として、天然ポリマー(例えば、ラテックスまたはゴム)、人工ポリマー(例えば、ポリアミドまたはポリエチレンの誘導体、特に、エチレン結合、カルボニル基(grouping)およびイミンを有するポリマーのようなπ結合を有するポリマー)を挙げることができる。多糖類(例えば、木または紙用のセルロース)、人工または天然繊維(例えば、綿またはフェルト)、あるいはフッ素ポリマー(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))を含む表面のような、より複雑な有機表面に本発明の方法を適用することもできる。もちろん、上記プライマー層に対応する表面に本発明の方法を適用することができる。
【0065】
本発明に関連して実施される固体支持体および/または固体支持体表面は、有利なことには、金属、木、紙、綿、フェルト、シリコン、カーボンナノチューブ、フッ素ポリマーおよびダイヤモンドで構成される群から選択される材料で構成される。
【0066】
特定の実施形態によれば、有機フィルムが形成される固体支持体表面には、その少なくとも一部を被覆して液体溶液から絶縁するマスクが設けられる。当該マスクは、代表的には、表面にグラフトも共有結合もされない物理的実体に対応する。マスクは、具体的には、表面に堆積された一般的には有機のバルク材料、または材料の薄膜(代表的には、数オングストローム〜数ミクロン)であり得る。
【0067】
マスクは、プロセス中に生成したラジカルに対する表面の化学反応性を局所的に「マスク」することができ、したがって、表面のうち溶液にさらされた(曝露された)部分のみにフィルムを制御して形成することができる。支持体表面のうちマスクが設けられた領域は、有機フィルムの形成から保護される。したがって、上記液体溶液と接触した固体支持体表面は、代表的には、マスクで被覆された少なくとも1つの領域を含む。操作終了時におけるマスクの除去後、保護されていた表面は、マスクが設けられなかった表面と異なり、グラフトフィルムを含まない。
【0068】
マスクは、好ましくは、穏やかな条件下で容易に除去され得る低粘着性の層として機能する無機または有機材料の薄層により構成される。材料の層は、グラフトフィルムに有害である極端な条件の使用を必要としないよう考慮される。代表的には、上記穏やかな条件は、単純な化学的洗浄(一般的には、溶媒を用いて行われる)、溶媒中での超音波処理、または温度の増大に対応する。もちろん、マスクは、液体溶液中に存在する反応溶媒(すなわち、グラフト化反応に用いられる溶媒)に溶解性でないことが望ましい。したがって、反応溶媒に対してよりも表面に対してより高い親和性を有するマスクを用いることが推奨される。
【0069】
したがって、マスクを構成する材料は、広範な材料から選択され得る。当該材料は、一般的には、固体支持体の性質に応じて選択される。有利なことには、マスクは、アルキルチオール、特に、長鎖(多くの場合C15〜C20、代表的にはC18)アルキルチオールで構成される。
【0070】
マスクは、プロセス中に生成したラジカルと反応し得る。すべての場合において、マスクを除去して、有機フィルムが観測されないグラフト化から保護された固体支持体表面の領域を露出することができる(リソグラフィーにおけるいわゆる「リフトオフ」法と同様である)。
【0071】
マスクの堆積技術は当業者に公知である。具体的には、当該技術は、被覆、蒸着または浸漬を含み得る。したがって、材料の薄膜形態であるマスクは、例えば、選択された材料が含浸されたフェルトペン(鉛筆タイプ)を用いて直接描くことにより堆積され得る。ガラス上においては、マスクとして、例えば、紙に供されるマーカー、または他の油性物質(例えば、ワックス)を用いることができる。また、いわゆるミクロ接触印刷技術を用いることもできる。この技術は、固体支持体表面が硫黄原子に対して強い親和性を有する場合に(例えば、金表面)、特に適用され得る。この場合、マスクは、一般的には、アルキルチオール、特に、長鎖(多くの場合C15〜C20、代表的にはC18)アルキルチオールで構成される(いわゆるミクロ接触印刷技術)。より詳細には、古典的なリソグラフィー技術が用いられてマスクを形成し得る:スピンコーティング、次いで、物理的マスクを介したあるいは光線または制御可能な粒子による絶縁、次いで露光。
【0072】
本発明の別の実施形態によれば、固体支持体表面に有機フィルムを調製する方法は、当該表面と
― 少なくとも1つの溶媒、
― 少なくとも1つの接着プライマー、
― 少なくとも1つのラジカル重合可能なモノマーであって、接着プライマーとは異なるモノマー
を含む液体溶液とを、非電気化学的条件下で接触させる工程を含み、当該接着プライマーに基づいてラジカル体の形成を可能とする、ことを特徴とする。
【0073】
接着プライマーおよびその環境における作用の可能性、溶媒(プロトン性または非プロトン性、および、有利なことには当該溶媒にモノマーが溶解性であること)、支持体、可能な化学的プライマーおよび可能なマスクに関して上で記載したすべての事項はまた、上記実施形態にも適用可能である。
【0074】
本発明に関連して実施されるラジカル重合可能なモノマーは、ラジカル化学体(chemical entity)による開始後ラジカル条件下で重合し得るモノマーに対応する。代表的には、当該モノマーは、少なくとも1つのエチレン型結合を有する分子を含む。ビニルモノマー、具体的にはフランス特許出願05 02516および03 11491に記載のモノマーが、特に関連する。
【0075】
本発明の特に有利な実施形態によれば、ビニルモノマーは、以下の式(II)のモノマーから選択される:
【化1】

ここで、基R〜Rは、同一または異なっており、非金属の一価原子、例えば、ハロゲン原子、水素原子、飽和または不飽和の化学基、例えば、アルキルまたはアリール基、−COOR基(Rは、水素原子、またはC〜C12、好ましくはC〜Cアルキル基を表す)、ニトリル、カルボニル、アミンまたはアミドを表す。
【0076】
上記式(II)の化合物は、具体的には、酢酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルメタクリレートおよびそれらの誘導体;アクリルアミド、特に、アミノエチル、プロピル、ブチル、ペンチルおよびヘキシルアクリルアミド、および、特にメタクリルアミド、シアノアクリレート、ジ−アクリレートおよびジ−メタクリレート、トリ−アクリレートおよびトリ−メタクリレート、テトラ−アクリレートおよびテトラ−メタクリレート(例えば、テトラメタクリレートペンタエリスリトール)、スチレンおよびその誘導体、パラクロロスチレン、ペンタフルオロスチレン、N−ビニルピロリドン、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、ビニルハライド、アクリロイルまたはメタクリロイル、ジビニルベンゼン(DVB)、および、より一般的には、アクリレート、メタクリレートおよびそれらの誘導体に基づくビニル架橋剤で構成される群から選択される。
【0077】
特定の実施形態によれば、使用されるモノマーは、考慮される溶媒に任意の割合で溶解し得る成分とは異なり、溶媒に特定の割合でのみ溶解し得る(すなわち、当該溶媒に対する溶解性の値が有限である)ものである。したがって、本発明の方法によって使用され得るモノマーは、溶媒に対するその溶解性が有限であり、より詳細には0.1M未満であり、より好ましくは5×10−2と10−6Mとの間である化合物から選択され得る。このようなモノマーの中でも、例えば、通常の温度および圧力条件下で測定した水に対する溶解性がそれぞれ約2.5×10−3および4×10−2Mであるブチルメタクリレートおよびメチルメタクリレートを挙げることができる。本発明によれば、および、特に明記しない限り、通常の温度および圧力条件(NTP)は、温度25℃および圧力1×10Paに対応する。
【0078】
本発明はまた、上記モノマーから選択される2つ、3つ、4つまたはそれ以上のモノマーの混合物にも適用される。
【0079】
溶液中の重合可能なモノマーの量は、実験者の所望に応じて変動し得る。この量は、用いられる反応溶媒中で考慮されるモノマーの溶解性よりも大きいものであり得、例えば、所定の温度(一般的には、室温または反応温度)の溶液中の当該モノマーの溶解性の18〜40倍であり得る。これらの条件下においては、モノマー分子を溶液中に分散させ得る手段(例えば、界面活性剤または超音波)を用いることが有利である。
【0080】
本発明の特定の実施形態によれば、溶媒がプロトン性である場合には、モノマーの溶解性が5×10−2Mよりも小さければ、界面活性剤を加えることが推奨される。本発明に関連して使用され得る界面活性剤の厳密な記載は、フランス特許出願06 01804および06 08945ならびに文献(Deniauら、Chem. Mater. 2006, 18, 5421-5428)に提供されており、当業者はこれらを参照することができる。単一の界面活性剤を用いてもよく、複数の界面活性剤の混合物を用いてもよい。必要な界面活性剤の量は変動し得;特に、有機フィルムを形成し得るに十分でなければならない。界面活性剤の最小量は、同一の組成で界面活性剤の量を変化させた溶液をサンプリングすることにより容易に決定され得る。一般に、界面活性剤濃度は、臨界ミセル濃度(CMC)に到達し、したがってミセルを形成し得るような濃度である。界面活性剤のCMCは、当業者に公知の方法(例えば、表面張力の測定)により決定され得る。代表的には、界面活性剤濃度は、0.5mMと約5Mとの間であり、好ましくは0.1mMと約150mMとの間である。推奨される界面活性剤濃度は、通常10mMである。
【0081】
界面活性剤は、親油性部分(非極性)と親水性部分(極性)とを有する分子である。本発明により使用され得る界面活性剤のうち、具体的には、以下のものを挙げることができる:
i)親水性部分が負の電荷であるアニオン性界面活性剤;当該界面活性剤は、好ましくは、アルキルまたはアリールスルホネート、スルフェート、ホスフェートまたはスルフォスクシネートであって、アンモニウムイオン(NH)、4級アンモニウム(例えば、テトラブチルアンモニウム)およびアルカリカチオン(例えば、Na、LiおよびK)のような対イオンと結びついた(associated)ものである;
ii)親水性部分が正の電荷であるカチオン性界面活性剤;当該界面活性剤は、好ましくは、少なくとも1つのC〜C22脂肪族鎖を含む4級アンモニウムであって、アニオン性の対イオン(具体的には、テトラフルオロボレートのようなホウ素誘導体、あるいは、F、Br、IまたはClのようなハロゲン化物イオン)と結びついたものから選択される;
iii)反対の符号の電荷の構造(formal)ユニットを有する中性の化合物である双性(zwitterionic)界面活性剤;双性界面活性剤は、好ましくは、スルフェートまたはカルボキシレートのような負の電荷の官能基とアンモニウムのような正の電荷の官能基とで置換されたC〜C20のアルキル鎖を有する化合物から選択される;
iv)配置される媒体に応じて酸としても塩基としても機能する両性界面活性剤;これらの化合物は、双性の性質を有し得る;この分類の具体例としては、アミノ酸が挙げられる、
v)中性(ノニオン性)界面活性剤:界面活性剤の特性(特に、親水性)が、電荷のない官能基(例えば、窒素または酸素のようなヘテロ原子を含む、アルコール、エーテル、エステルまたはアミド)によって付与される;これらの官能基の親水性への寄与の低さに起因して、ノニオン性界面活性剤化合物は通常多官能である。
【0082】
もちろん、帯電した界面活性剤は、複数の電荷を有し得る。
【0083】
アニオン性界面活性剤として、例えば、テトラエチルアンモニウムパラトルエンスルホネート、ドデシルスルホン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、メチルベンゼンスルホネートおよびエチルベンゼンスルホネートを用いることができる。
【0084】
カチオン性界面活性剤として、例えば、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラデシルアンモニウムクロライド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(TTAB)、脂肪族鎖とアルキルアンモニウムハロゲン化物とを有するアルキルピリジニウムハロゲン化物を用いることができる。
【0085】
双性界面活性剤として、N,N−ジメチルドデシルアンモニウムブタネート ナトリウム、N,N−ジメチルドデシルアンモニウムプロパネート ナトリウム、およびアミノ酸を用いることができる。
【0086】
両性界面活性剤として、ラウロアンフォ二酢酸ナトリウム、ベタイン(例えば、アルキルアミドプロピルベタインまたはラウリルヒドロキシスルホベタイン)を用いることができる。
【0087】
ノニオン性界面活性剤として、ポリエトキシレート化界面活性剤(例えば、ポリエチレングリコールラウリルエーテル(POE23またはBrij(登録商標)35))のようなポリエーテル、ポリオール(砂糖由来の界面活性剤)、特にグルコースアルキレート(例えば、グルコースヘキサネート)を用いることができる。
【0088】
本発明による好ましい界面活性剤の中でも、アニオン性界面活性剤(例えば、スルホネート、4級アンモニウム)、およびノニオン性界面活性剤(ポリオキシエチレン)を挙げることができる。
【0089】
本発明の別の実施形態によれば、モノマーの溶解を促進するために、または、モノマーが媒体に不溶性の場合には分散体を形成するために、超音波を用いることができる(R. Asamiら、Langmuir B, 2006, in press)。
【0090】
提示された条件(provision)によれば、液体モノマーについて分散体および/またはエマルションを形成し得る、激しい攪拌(これは超音波により誘導され得る)のような技術手段を用いれば、モノマーの溶解性は、本発明の方法の障害とはならないようである。用いられる溶媒に対して親和性を有さない重合可能なモノマー(例えば、非水溶性モノマー)の場合、溶液がエマルションまたは分散体の形態であることが有利である。ある類の溶媒を他の類の溶媒に変えて、その後で開始剤を適用することもできる。
【0091】
1つの変形例においては、特にプロトン性溶媒の場合には、本発明の方法は、予備的な工程を含む。当該工程においては、重合可能なモノマーまたはその混合物を、少なくとも1つの界面活性剤の存在下または超音波により、分散または乳化させた後、少なくとも1つのプロトン性溶媒および少なくとも1つの接着プライマーを含む液体溶液と混合する。
【0092】
本発明の方法は、一般的には、フィルムがグラフトされる試料表面にとっても使用され得るモノマーにとっても穏やかでかつ非破壊的な条件下で行われる。したがって、モノマーが劣化しない条件下で行うことが望ましい。加えて、反応媒体の温度は、反応溶媒によって限定され、好ましくは液体の形態で維持される。本発明の方法は、0と100℃との間、一般的には使用者がいる場所に応じた通常の温度および圧力(NTP)条件下、多くの場合、約25℃および約1気圧で行われる。
【0093】
反応時間は調整され得る。実際、支持体表面を溶液にさらす(曝露する)時間を調整することにより、得られるフィルムの厚みを変化させることができる。もちろん、同じタイプの表面について、使用者が最適であると考えるプロセス条件に精密に較正することができる。後述の実施例に記載の分析手段が、フィルムの厚み、その組成、および同時に反応時間を決定するに特に適切である。例えば、5×10−2Mのジアゾニウム塩濃度、または0.9Mのモノマー濃度および5×10−2Mのジアゾニウム塩濃度について、反応時間を1と15分との間で変化させることにより、厚みが2nmと200nmとの間であるフィルムを得ることができる。
【0094】
1つの変形例においては、接着プライマーとは異なるモノマーの存在を利用する場合には、本発明の方法は以下の工程を含み得る:
a)少なくとも1つのモノマーを、少なくとも1つの溶媒および任意の少なくとも1つの化学的開始剤の存在下、当該モノマーと異なる少なくとも1つの接着プライマーを含む溶液に添加すること、
b)工程(a)で得られた溶液を、上記接着プライマーおよび場合により上記化学的開始剤に基づいてラジカル体の形成を可能とする非電気化学的条件下におくこと、
c)固体支持体の表面を工程(b)の溶液と接触する状態におくこと。
【0095】
本発明の方法の第2の変形例においては、以下の工程を含み得る:
a´)固体支持体の表面を、少なくとも1つの溶媒、ならびに、場合により少なくとも1つの化学的開始剤および少なくとも1つのモノマーの存在下、少なくとも1つの接着プライマーを含む溶液と接触する状態におくこと、
b´)固体支持体の表面を、上記接着プライマーおよび場合により上記化学的開始剤に基づいてラジカル体の形成を可能とする非電気化学的条件下で工程(a´)の溶液と接触する状態におくこと、
c´)場合により、少なくとも1つのモノマーを、工程(b´)で得られた溶液に添加すること。
【0096】
上記した本発明の方法の第2の変形例においては、以下の3つの場合を予見することができる:
i.モノマーが工程(a´)の溶液中に存在せず、工程(c´)においてのみ添加される場合。このケースは、使用されるモノマーが特に水性溶液に比較的不溶性である場合;モノマーが非水溶性であり、接着プライマーがジアゾニウム塩である場合に特に有利である。したがって、工程(c´)において、モノマーは、具体的には、工程(a´)に用いられる溶媒と同じ溶媒中で超音波または界面活性剤を用いて予め生成されたエマルションまたは分散体の形態である溶液に添加され得る。
ii.モノマーが工程(a´)の溶液中に存在し、方法が工程(c´)を有さない場合。このケースは、特に、プライマーがジアゾニウム塩である場合およびモノマーが水溶性である場合に適用される。第1の変形例による方法も、このケースにおいて使用され得る。
iii.モノマーの一部が工程(a´)の溶液中に存在し、モノマーの別の一部(同一タイプであっても異なるタイプであってもよい)が工程(c´)においてのみ添加される場合。
【0097】
上記で説明したように、接着プライマーは、そのまま溶液に導入され得るか、溶液中インサイチュで調製され得る。
【0098】
本発明の方法は、有利なことには、グラフト化の前に、フィルムが形成される表面を具体的にはブラッシングおよび/または研磨により洗浄するさらなる工程を含む;エタノール、アセトンまたはジメチルホルムアミド(DMF)のような有機溶媒を用いた付加的な超音波処理がさらに推奨される。
【0099】
特定の条件によれば、本発明の方法を用いて、実質的に統計的または連続的なポリマータイプからなる有機フィルムを製造することができる。
【0100】
連続的フィルムを調製するためには、上記のように、固体支持体表面に第1のポリマーの層を調製し、次いで、溶液中のモノマーのタイプを変更して実験を再開すれば十分である。したがって、高品質の交互フィルムを繰り返し製造することができる(図1a)。連続的工程のそれぞれにおいて、接着プライマーはそれが接触する表面にグラフトされ、溶液中に存在するモノマーまたはモノマー混合物に基づいてフィルムを成長させることができる。連続するグラフト化の各々の間で、得られる表面を洗浄することが全体として可能である。
【0101】
統計的コポリマー(図7b)を得るためには、溶液中で異なるタイプのモノマーを用いれば十分である。この場合、フィルムの正確な組成は、存在する各モノマーの反応性に基づく。
【0102】
したがって、上記方法により得られる有機フィルムは、同一または異なる化学種および/または接着プライマー分子の複数のモノマーユニットに由来して、本質的にポリマー性またはコポリマー性である。本発明の方法により得られるフィルムは、存在するモノマーだけでなく接着プライマー由来の種も導入する限りにおいて、「本質的に」ポリマー性である。本発明に関連する有機フィルムは、特に、少なくとも1つのタイプの重合可能な(具体的には、ラジカル重合可能な)モノマーおよび少なくとも1つのタイプの接着プライマーから調製されるフィルムである。本発明に関連する有機フィルムは、有利なことには、連続するモノマーユニットを有する。当該連続するユニットにおいて、第1のユニットは接着プライマーの誘導体で構成され、他のユニットは、接着プライマーおよび重合可能なモノマーから区別なく得られる。
【0103】
上記のように、フィルムの厚みは、本発明の方法により見積もりが容易である。パラメーターの各々について、および、使用される試薬の各々に基づいて、当業者は、厚みが異なるフィルムを得るための最適な条件を繰り返し決定することができる。本発明を示し、例えば、厚みが数ナノメートルと数百ナノメートルとの間のフィルムを製造することができることを実証する実施例を参照することも有用である。
【0104】
上記方法はまた、機能化可能なフィルムを含む支持体を得ることもできる。このような支持体は、他の(代表的にはフィルム外部の)化学基と反応して、イオン結合、共有結合または水素結合を形成し得る化学基を表面に有するフィルムに対応する。この定義に相応する基は、本明細書の残りの部分全体を通じて化学的機能化基(CFG)と称する。このような基は、一般的には、ヘテロ原子と他の元素(炭素、水素または他のヘテロ原子に対応する)との間に少なくとも1つの共有結合を有する基に対応する。へテロ原子は、一般的には、N、O、S、Cl、BrおよびSiから選択される。当業者は、具体的には、国際出願WO2004/005410を参照することができる。当該文献は、フィルムの化学的機能を改変することを含み、本発明の方法に容易に適用され得る方法を記載する。
【0105】
したがって、機能化可能なフィルムは、具体的には、ヒドロキシル、チオール、アジド、エポキシド、アジリジン、アミン、ニトリル、イソシアネート、チオシアネート、ニトロ、アミド、ハロゲン化物、ならびに、カルボン酸、アルデヒド、ケトン、酸ハロゲン化物、エステルおよび活性エステルのようなカルボニル機能、ならびに、アルケンまたはアルキンから選択され得るCFGを含み得る。
【0106】
プライマー単独(例えば、ジアゾニウム塩)由来の機能化可能なフィルムの例として、具体的には、関連するCFGとともに表1に提示される、プライマー(この場合はジアゾニウム)由来のフィルムを挙げることができる。
【0107】
【表1】

【0108】
プライマーおよびモノマー由来の機能化可能なフィルムを用いることにより、機能化可能な基の選択における自由度を非常に大きくすることができる。一方においては、上記のプライマーが有するCFG基を考慮することができる。他方においては、具体的には、ビニルモノマーから調製されたフィルムを用いて、当該モノマーに関連する1つ以上の基を得ることができる(表2に示す)。
【0109】
【表2】

【0110】
当業者は、CFGに応じて用いられて支持体上に存在するフィルムに一体化されるフィルムのタイプを、特にビニルモノマーフィルムの中から選択することができる。当業者にとって、国際出願WO2004/005410を参照することが有用であり得る。
【0111】
当業者が調製し得るフィルムからCFGが直接利用可能でない限りにおいては、1つ以上の単純な化学反応により当該フィルムのCFGを改変できることはいうまでもない。したがって、例えば、アクリル酸由来のフィルム(CFGとしてCOH機能を含む)は、チオールクロライド(SOCl)との反応により改変されて、CFGとして酸クロライドを含むフィルムを形成し得る。同様に、CFGとしてニトロ機能を有するニトロベンゼンフィルムについては、鉄により還元されて、CFGとしてアミンを有するフィルムが得られ得る。CFGとしてニトリル基を含むポリアクリロニトリルフィルムは、例えば、LiAlHによる処理の後、CFGとしてアミンを含むフィルムを得ることができる。当業者にとって、国際出願WO2004/005410を参照することが有用であり得る。
【0112】
機能化可能なフィルムへの接近(access)により、その後の機能化が可能となる。したがって、特定の条件によれば、支持体に有機フィルムを調製する方法は、上記のように、さらなる機能化工程を含み得る。そのような工程は、特に機能化可能なフィルムに適用され得る。
【0113】
機能化は、フィルム(特に、上記方法で得られたフィルムであって、当該フィルムのCFGによって機能化可能である)の表面をグラフトと接触させることにより得られ得る。接触は、少なくとも1つのグラフトを含む溶液(「機能化溶液」と称される)を用いて行われ得る。
【0114】
特に、反応は、フィルム表面で起こるのみならず、存在するCFGに応じたフィルム、フィルムの厚み、および溶液の溶媒の全体で起こる。
【0115】
CFGで起こり得る化学反応のうち、例えば、求核付加および置換、求電子付加および置換、環化付加反応、転位、転座およびメタセシス、ならびに、より一般的にはクリックケミストリー反応を挙げることができる(Sharplesら、Angew. Chem. Int. Ed., 2001, 40, 2004-2021)。もちろん、反応のタイプは、フィルムのCFGとの結合を所望するグラフトに依存する。当業者は、一般的な有機化学の文献において、CFGが含まれ得る化学反応の包括的な一覧を容易に見出すことができる。
【0116】
グラフトを含む溶液の溶媒は、好ましくは膨潤溶媒である。このような溶媒は、支持体上に存在する有機フィルムに浸入し得る溶媒に対応する。このような溶媒は、フィルムと接触した状態に置かれると、一般的には、光学的手段、肉眼または単純な顕微鏡で観察され得るフィルムの膨潤を引き起こす。溶媒がフィルムに対して特に適切か否かを決定する標準試験は、溶媒の液滴をフィルム表面に落とし、当該液滴がフィルムに吸収されるか否かを観察することからなる。試験される溶媒のセットの中から、吸収が最も早いものを用いることが望ましい。このような溶媒を使用することにより、フィルムにおいてグラフトのより深いグラフト化が行われる。もちろん、反応に用いられる試薬については、このような溶媒に溶解性であることが好ましい。
【0117】
本発明の文脈においては、グラフトは、機能化可能なフィルム(特に、当該機能化可能なフィルムのCFG)と反応し得る有機化合物に対応する。グラフトは、支持体フィルムのCFGと反応し得る基を有する限りにおいて、任意のタイプの有機分子であり得る。
【0118】
グラフトは、その構造中において、1つ以上の所定の特性を有するサブ構造に対応する所定の基(GI)と、必要に応じて、所定の特性を本質的には有さない連結基(LG)と、を含み得る。有利なことには、機能化は、CFGと反応し得る基を有するLGにより行われる。
【0119】
グラフト(特に、GI)は、具体的には、キレート化構造または生物学的に活性な構造を有し得る。したがって、GIは、具体的には、パーアンヒドロキシシクロデキストリン誘導体のようなシクロデキストリン(CD)、カリックス〔4〕アレーンのようなカリックスアレーン、テトラキス(安息香酸)−4,4´,4´´,4´´´−(ポルフィリン−5,10,15,20−テトライル)のようなポルフィリン、および、キレート化特性を有するそれらの誘導体から選択され得る。GIはまた、例えば、多糖類およびポリペプチドから選択され得る。
【0120】
連結基(LG)は、一般的には、立体障害、親水性または疎水性の性質あるいはGIに対する親和性による相互作用以外の相互作用を生じさせず、かつ、GIと有意に(検出可能に)反応しない基に対応する。例えば、連結基は、本質的には、脂肪族鎖(すなわち、好ましくは1〜22個、代表的には3〜16個の炭素原子を有するアルキル鎖)、芳香族鎖(aromatic chain)またはヘテロ環鎖(heterocyclic chain)、例えば、ポリエーテルであり得る。有利なことには、LGは、CFGと反応し得る1つ以上の反応性ヘテロ原子を有する。
【0121】
上記のように、本発明の方法によれば、グラフトされた分子を含み、かつ、支持体表面に所定の特性を有するフィルムを調製することができる。このようなフィルムは、具体的には、キレート化またはろ過フィルム、あるいは、生体分子を有するフィルムに対応し得る。グラフトすることができる分子の例については、当業者にとって、国際出願WO2004/005410を参照することが有用であり得る。
【0122】
特定の機能化手順によれば、錯体化フィルムで被覆された支持体を得ることができる。このためには、錯体化またはキレート化基(例えば、シクロデキストリン、ポルフィリンおよびカリックスアレーン)で機能化することが必要である。
【0123】
別の機能化手順によれば、生体分子(例えば、たんぱく質、ポリペプチド、ペプチド、抗体および抗体フラグメント、多糖類、あるいはオリゴヌクレオチド)を含む有機フィルムで被覆された支持体を得ることができる。グラフトは、代表的には、生体分子の誘導体に対応する。したがって、例えば、国際出願WO2004/005410に記載の手順により、ジアゾニウムおよびメタクリロニトリルを用いて得られたポリメタクリロニトリルを含むフィルムを有する支持体から、たんぱく質(例えば、アビジン)をグラフトさせ、その活性を証明することができる。
【0124】
本発明はまた、有機フィルムがグラフトされた非導電性固体支持体に関する。非導電性支持体に共有結合した当該フィルムの第1のユニットは、接着プライマーの誘導体である。本発明の非導電性固体支持体は、場合によっては、上記マスクを有し得る。
【0125】
有利なことには、上記有機フィルムは、接着プライマー由来で上記非導電性固体支持体に共有結合した上記第1のユニットに加えて、ラジカル反応により互いに結合した同一または異なるタイプのモノマー、および、場合によっては接着プライマーの誘導体を含む。したがって、上記で説明したとおり、有機フィルムは本質的にはポリマーフィルムである。より詳細には、有機フィルムは、連続的ポリマーフィルムまたは統計的コポリマーフィルムの形態であり得る。非導電性固体支持体、接着プライマーおよびモノマーは、上記で定義したとおりである。本発明の固体支持体はまた、上記のようにしてグラフトされたグラフトを含み得る。
【0126】
本発明の別の実施形態によれば、ナノ物体を含む有機フィルムを得ることができる。本発明の文脈においては、ナノ粒子(NP)、ナノ結晶(NC)またはナノチューブ(NT)のようなナノ物体を含む有機フィルムは、代表的には、表面および内部にナノ物体(NB)が存在するフィルムに対応する。
【0127】
この実施形態は、有機フィルムで被覆された支持体、特に、表面に共有結合した有機フィルムによって被覆された支持体に適用され得る。それは、代表的には、上記方法によって得られる支持体である。
【0128】
したがって、この実施形態は、具体的には、有機フィルムで被覆された固体支持体(代表的には、上記方法により得られる)に基づいて有機フィルムを調製する方法であって、当該支持体の表面が、懸濁溶媒中に少なくとも1つのナノ物体(NB)を含む懸濁液と接触しておかれ、かつ、フィルムとナノ物体とが物理化学的親和性を有することを特徴とする方法に対応する。
【0129】
ナノ物体(NB)は、ナノメートルサイズ、一般的には、その最大のサイズが1μm未満、代表的には25nm未満である物体に対応する。ナノ物体は、具体的には、ナノ粒子(NP)、ナノ結晶(NC)、ナノワイヤまたはナノチューブ(NT)、あるいはナノコラムであり得る。本発明に関連するNBが、有利なことには、支持体上に存在する有機フィルムの厚みより小さいサイズ(有利なことにはその最大径が有機フィルム厚みの20%、一般的には10%、代表的には5%を超えない)を有することが明らかである。
【0130】
懸濁液と支持体表面との接触時間と溶液におけるNB濃度の減少(一般的には、懸濁液中のNBの脱混合とは無関係に、一定(plateau)値に到達する)とを相関させることができる場合には、フィルムとNBとの間に物理化学的親和性が存在する。したがって、その間に親和性を有するNB/有機フィルム対を決定することができる。親和性は、一般的には、NB表面とフィルムとの間に発生する弱いまたは強い相互作用に起因する。弱い相互作用としては、具体的には、水素結合、イオン結合、錯化結合、π相互作用(「πスタッキング」)、ファンデルワールス結合、疎水性結合(または界面活性剤型非分極結合)を挙げることができ;強い相互作用としては、自発的に形成し得る共有結合を挙げることができる。
【0131】
NBの構造は変動し得る。それは単純または複雑である。単純なNBは、その構成が変動し得るものの(特に、体積全体にわたって不均一にドープされたNBの場合)、単一材料(多くの場合、NP、NC、ナノワイヤまたはナノコラム)で構成されている。複雑なNBは、一般的には、組成が明らかに異なる種々の構造的要素または部分を有している。複雑なNBは、例えば、有機および無機構造、あるいはリガンドを含むNPまたは多層被膜を有するNPを有するナノメートルサイズの人工的アセンブリを含み得る。複雑なNBは、複数の単純なNBで構成され得る。
【0132】
非包括的な様式において、NBは、具体的には少なくとも1つの金属を含み得る。金属は、具体的には、貴金属および遷移金属、元素周期律表のIIIA、IVAおよびVA族の金属、それらの合金、酸化物および金属性炭化物、これらの材料および合金の混合物から選択され得る。NBは、例えば、窒素、ホウ素および希土類元素によりドープされ得る。より詳細には、本発明は、金、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、コバルト、ニッケル、銀、銅、酸化チタン、酸化鉄、ならびに、鉄−白金、鉄−パラジウム、金−白金およびコバルト−白金の合金に適用され得る。NBはまた、上記元素のみにより構成され得る。この場合、NBは金属性NBである。
【0133】
NBはまた、半導体または無機絶縁体を含み得る。これは、例えば、式AB(Aはその酸化状態が+IIの元素であり、Bはそのその酸化状態が−IIの元素である)の化合物であり得る。代表的には、Aは、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Hg、Sn、Pbおよびこれらの元素の混合物から選択され、Bは、O、S、Se、Teおよびこれらの元素の混合物から選択される。上記半導体としては、式CD(Cはその酸化状態が+IIIの元素であり、Dはそのその酸化状態が−IIIの元素である)の半導体を挙げることもできる。代表的には、Cは、Al、Ga、Inおよびこれらの元素の混合物から選択され、Dは、N、P、As、Sb、Biおよびこれらの元素の混合物から選択される。式ECBの半導体も、本発明に関連する。ここで、Eはその酸化状態が+Iの元素であり、Cはその酸化状態が+IIIの元素であり、Bはそのその酸化状態が−IIの元素であり、BおよびCは上記のように選択され、Eは、Cu、AgおよびAuから選択される。最後に、より単純な半導体(例えば、SiまたはGe、ならびにそれらの酸化物および炭化物)または絶縁体(例えば、ダイヤモンド)を用いることができることはいうまでもない。半導体は、真性であってもよくドープされた形態であってもよい。NBはまた、上に挙げられた元素のみによっても構成され得る。
【0134】
NBはまた、有機の性質の元素を含み得る。この場合、例えば複雑なNBについては、一般的には、安定化剤または有機リガンドまたは被覆フィルムのような特定の分子組織を含む。単純なNBについては、一般的には、ナノチューブまたはフラーレンのような特定の構造形態の炭素を含む。NBはまた、上に挙げられた元素のみによっても構成され得る。
【0135】
本発明によれば、使用者により大きな融通性を与えるために、機能化されたナノ物体を使用することが推奨される。NBは、その表面が「ホストフィルム」(支持体上に存在するフィルムである)に対して親和性を有する1つ以上のBGを有する場合に、「機能化された」と称される。単純なNBの場合、BGは、表面に存在する化学機能(例えば、実施例に示されるような、シリカ粒子上に存在するOH機能)に対応し得る。複雑なNBの場合、BGは、元素のうちの1つまたはNBの部分のうちの1つのみに存在し得る。例えば、安定化元素またはリガンドを含むあるいは被膜を有するNPの場合、BGは、複数の有機安定化剤または被膜に存在し得る。
【0136】
安定化剤は、ナノ物体のコア表面に結合し、NBをコロイド状態に維持する有機分子に対応する。この分野においては、当業者は、Roucouxら、Chem. Rev. 2002, 102, 3757-3778を参照することが有用であり得る。したがって、第1の可能性によれば、機能化されたナノ物体は、代表的には、無機コアを有するか、または少なくともその表面が無機であり、それらは上記された少なくとも1つの金属および/または少なくとも1つの半導体または絶縁体で構成され、有機基BGを有する少なくとも1つの安定化剤が結合している。存在する安定化分子の数により、有機クラウンと称することができる。第2の可能性によれば、有機被膜を有する機能化NBを用いることもできる。このような機能化NBは、具体的には、NB(すなわち、被覆されるコアに対応する)に適用された上記の支持体表面に有機フィルムを調製する方法により得られ得る。この場合、上記の支持体表面に有機フィルムを調製する方法を適用し得る大きな融通性を考慮すると、コアの性質は、単純にも複雑にも、また無機にも有機にも変動し得ることに留意するべきである。さらなる詳細については、ここまで記載されたもの、および、種々の表面への適用を示す実施例を参照することが有用であり得る。有機フィルムは、BG基を含むように調製される。
【0137】
代表的には、安定化剤は、界面活性剤またはポリオキサニオン(polyoxanion)、ポリマー、例えばPVP(ポリビニルピロリドン)、PEG(ポリエチレングリコール)、帯電した低分子量(一般に、200g/mol未満)分子、例えばクエン酸ナトリウムまたは酢酸ナトリウム、および、化学的配位リガンド、例えばルイス塩基(例えば、BINAP誘導体(2,2´−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1´−ビナフチル))のような両親媒性分子から選択される。
【0138】
本発明に関連して、金属および/または半導体および/または絶縁体で構成されるコアを有するか、またはその表面がそのような組成を有する機能化NBについて使用され得る安定化剤は、具体的には、式(III)のリガンドである:
BG−(SG)p−Y
ここで、
− Yは、金属および/または半導体化合物および/または絶縁体に結合し得る原子または原子の基を表し;
− SGは、スペーサー基を表し;
− BGは、上記で定義したとおりであり;
− pは、0または1に等しい。
【0139】
本発明によれば、Yは、方法に用いられるNBのコアに応じて選択される。Yは、共有結合的に、錯体化により、キレート化により、または、静電相互作用により、コア表面で結合し得る。考慮されるNBについて最も適切な構造を決定するために、当業者は、先行技術、特に以下のものを参照することが有用であり得る:Colloids and Colloid Assemblies, Frank Caruso (Ed.), 1. Ed. Dec. 2003, Wiley-VCH, Weinheim or Templeton, A. C.; Wuelfing, W. P.; Murray, R. W., Monolayer-Protected Cluster Molecules. Acc. Chem. Res. 2000, 33(1), 27-36.
【0140】
コアまたはコア表面が、金、銀、銅、白金、パラジウムのような金属、あるいは、CdSe、CdTe、ZnO、PbSe、PbS、CuInS、CuInSe、またはCu(In,Ga)SeのようなAB型半導体に対応する場合には、Yは、具体的には、チオール、ジチオール、カルボジチオエート、ジチオカルバメート、キサンテートであり得る。コアが、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウムまたは酸化鉄のような酸化物で構成される場合、または、コア表面が、そのような組成を有する場合には、Yは、具体的には、カルボン酸、ジカルボン酸、リン酸、二リン酸、硫酸またはヒドロキサム酸に対応し、これらの酸は、先行技術、特に国際出願WO2004/097871に記載のように、脱水素形態であり得る。
【0141】
本発明によれば、pは、1に等しいことが好ましい。スペーサー基SGは、一般的には、立体障害、親水性または疎水性の性質、あるいは本方法が適用されるNBのコアまたは有機ホストフィルムに対する親和性による相互作用以外の相互作用を生じさせず、かつ、それらと有意に(検出可能に)反応しない基に対応する。代表的には、スペーサーは、ヘテロ原子を有さないカーボネート(carbonated)鎖であり得る。例えば、脂肪族鎖(すなわち、アルキル鎖、好ましくは1〜22個、代表的には6〜16個の炭素原子を有する)、芳香族鎖、またはヘテロ環鎖(例えば、ポリエーテル鎖)であり得る。
【0142】
第1の手順によれば、上記方法を機能化された有機フィルムで被覆された支持体に適用し、当該支持体がNBのコアに対して親和性を有する有機基BGを有するようにすることができる。したがって、特定の実施形態によれば、BGは、Yについて上記で一覧された群から選択され得、NBは、少なくともその表面において、Yについて上記で一覧された組成を有する。
【0143】
第2の手順によれば、上記方法を機能化された有機フィルムで被覆された支持体に適用し、当該支持体がNBコアの安定化剤または被膜に存在するBG基に対して親和性を有する有機基BGを有するようにすることができる。次いで、BGおよびBGは、電子型相互作用を有する組を形成する。これは、代表的には、有機フィルムと機能化されたNBとの間の親和性の部位である。
【0144】
第3の手順によれば、上記方法を機能化された有機フィルムで被覆された支持体に適用し、当該支持体が有機基BGおよびBG基の両方を有するようにすることができる。この実施形態は、NBがBG型の基を含む被膜または安定化剤を有する場合、およびそのコア表面がこのタイプの基を有する場合に適切である。コア表面に存在する複数の化学的機能は、それらの両方がホストフィルムとの相互作用を生じさせ得るが、異なってもよいことはいうまでもない。
【0145】
BGおよび/またはBG基により機能化された有機ホストフィルムとして、および、NBコアについてBG基により機能化された被覆フィルムとして、プライマーおよび当該接着プライマーとは異なるラジカル重合可能なモノマーに基づき上記方法にしたがって調製されたフィルムを使用することが有利である。上記で規定された機能化可能なフィルムを使用することが推奨される。代表的には、BGおよびBGは、フィルムのCFGに対応し得る。容易に誘導体化し得ることが多いモノマーまたは特定の有機官能(organic functions)を有するモノマーを存在させることが適切である。上記で特定したように、他のCFGを得るために、フィルムのCFGを改変することが可能である。この点に関して、ビニルモノマー、とりわけ式(II)のビニルモノマー、さらに、Rがカルボン酸、アミン、これらの機能を有するカーボネート化された基であり、代表的には他の置換基R〜Rが水素であるビニルモノマーの使用が特に推奨される。これは、特にアクリル酸を含む。もちろん、有機フィルムの合成においては、BG、BGまたはBG基の前駆体が含まれ得る。これらの前駆体は、使用者により決定された場合には、些少(代表的には1つまたは2つ)で単純な化学的工程を行うことにより、対応する親和性基に変換され得る。したがって、例えば、単純な酸−塩基反応により、アクリル酸から得られたフィルムのカルボン酸機能(function)を、カルボキシレート機能に変化させることができる。
【0146】
さらに、有機ホストフィルムとして、グラフトにより機能化されたフィルムを使用できることはいうまでもない。この様式によれば、キレート化特性を有するグラフトを用いることが望ましい。この場合、有利なことには、BGおよび/またはBG基は上記で規定されたようなGIに対応し、このようなGIはキレート化または錯体化構造である。グラフトは、上記の手順にしたがってグラフト化され得る。特に、規定されたような連結基LGを含ませることもできる。
【0147】
したがって、例えば、シクロデキストリン、ポルフィリンまたはカリックスアレーン由来の分子を含むフィルムを用いることができる。したがって、例えば、鉛の分子または塩(例えば、硝酸鉛)が、キレート化または錯体化され得る。
【0148】
代表的には、Yは、コア表面が支持体のホストフィルムに対して発現し得る相互作用よりも弱い相互作用を、NBのコアとの間で発現する。したがって、有利なことには、複雑なNBのコアとYとの間で存在し得る相互作用は、そのようなNBのコアとBGとの間で存在し得る相互作用よりも強さが小さい。
【0149】
本発明の文脈においては、懸濁溶媒は、NBの懸濁液を形成し得る溶媒である。代表的には、このような溶媒は、その内部でNBが調製される溶媒に対応する。そのような溶媒は、NBの凝集を防止するか遅らせるからである。有利なことには、懸濁溶媒は、上記のような膨潤溶媒から選択される。
【0150】
好ましくは、NBの懸濁液は、使用前にホモジナイズされる。例えば、懸濁液を機械的攪拌(好ましくは、激しく)または超音波処理に供することができる。
【0151】
懸濁液中のNB濃度、およびフィルムと懸濁液との接触期間は変動可能であり、使用者がフィルム内での一体化を所望するNBの量に応じて調整され得る。フィルムとNBとの間に存在する親和性による予備試験により、本方法を実施するための妥当な手順および条件を容易に決定することができる。使用者は、実施例を参照することが有用であることを見出し得る。懸濁液濃度の増大により所定量のNBをフィルムに一体化させるに必要な時間を減少させることができることが明らかである。同様に、接触時間の増大により、所定の時間でより大量のNBを一体化させることができる。したがって、例えば200〜300nmのフィルムについて、PtのNP懸濁液と15〜60分接触させることにより、ナノ粒子を含むフィルムを得ることができる。溶媒としては、例えばフィルムがカルボキシル型の親和性基を含む場合には、水または低分子量アルコール(例えば、メタノールまたはエタノール)あるいはそれらの混合物のような親水性溶媒を懸濁溶媒として使用することができる。親水性溶媒を選択することにより、例えば、アンモニウムのような親水性基を含む安定化剤により安定化されたシリカ、金または白金のNP懸濁液を得ることができる。このような懸濁溶媒においては、シリカNPのような表面に親水性基を含むNBを用いることもできる。実施例を参照することが当業者にとって有用であり得る。
【0152】
本発明により、NBを含む有機フィルムで被覆された支持体に基づく1つ以上の合体領域を含むフィルムで被覆された支持体を得ることもできる。これらのフィルムは、上記で提示した方法により得られ得る。したがって、有利なことには、NBを導入する方法は、合体剤の作用下で合体し得るNBに適用され、NBを含む有機フィルムで被覆された支持体表面の領域を合体剤にさらす付加的な工程を含む。NBの合体は、一般的には、互いに接触する2つのNBの間あるいはNBとより大きなサイズで同様の組成の物体との間の境界の消失、それに続く形状変化(系の総表面の減少に至る)により定義される。
【0153】
上記方法は、一般的には、NBを含むフィルム(代表的には、上記の方法によって得られたもの)を、合体剤の存在下に置くことにより行われる。いうまでもなく、上記方法は、上記フィルムを含む支持体の1つ以上の領域において、当該領域を合体剤にさらすことにより行われ得る。したがって、この方法は、局所化された様式で行われ得る。合体剤は、支持体ならびに当該支持体上に存在する任意の有機フィルムおよび層を改変し得る。したがって、試薬の局所的な適用が好ましい。
【0154】
合体し得るNBは、例えば、単純なNBである。これらは、一般的には、金属性NB、特に、金属または合金NCまたはNP、あるいは、複雑なNB(例えば、金属性コアを有する機能化されたNB)である。
【0155】
上記合体剤は、物理的パラメーターまたは照射の変形であり得る。上記方法を支持体の特定の領域に適用する場合、当該パラメーターは、この領域においてのみ改変される。NBの合体を得るために改変され得る物理的パラメーターは、当業者に公知である。したがって、例えば、温度あるいは光子または電子線照射の改変が用いられ得る。一般的には、250℃と500℃との間の温度での熱処理(例えば、250〜350℃で2〜5分)により、白金ナノ粒子の合体を得ることができる。ナノ粒子を含むフィルムを有する支持体の表面全体にこのような処理を行うことにより、均一な金属フィルムが形成される。NB(特に、そのサイズおよび組成)に応じた所定の時間についての最小温度を決定するための試験が行われ得る。同様に、コヒーレント赤外線源(例えば、CO型レーザー)の局所化された適用により、局所化された合体領域が容易に得られる。例えば顕微鏡を用いた電子線の適用により、NPの局所化された合体を生成することができる。
【0156】
本発明はまた、NB(特にNP)を含む有機フィルムがグラフトされた非導電性固体支持体に関する。当該有機フィルムの、上記非導電性固体支持体に共有結合した第1のユニットは、接着プライマーの誘導体である。本発明による非導電性固体支持体は、必要に応じて上記のようなマスクを有し得る。当外支持体はまた、上記の手順によりグラフトされた分子を含み得る。
【0157】
有利なことには、NB(特にNP)を含む有機フィルムは、上記非導電性固体支持体に共有結合した接着プライマー由来の第1のユニットに加えて、ラジカル反応により互いに(および必要に応じて上記接着プライマー誘導体に)結合した同一のまたは異なるモノマーを含む。したがって、上記で説明したように、有機フィルムは本質的にはポリマーフィルムである。より詳細には、当該フィルムは、連続的ポリマーまたは統計的コポリマーフィルムの形態であり得る。非導電性固体支持体、接着プライマーおよびモノマーは、上記で定義したとおりである。代表的には、NB(特にNP)は、フィルムの最外層に存在する。
【0158】
加えて、電着溶液を用いて、上記方法で得られた有機フィルムで被覆された支持体上に金属性(特に銅)被膜を形成することができる。電着は、一般的には、NBを含まない有機フィルム上で行われる。代表的には、このような条件(provision)を実行するために、当業者は、国際出願WO 2007/034116(特に実施例)が有用であることを見出し得る。したがって、上記方法で得られ得る有機フィルムで被覆された支持体上での電着方法は、特に、以下の工程を実施することにより行われる:
− いわゆる「冷入口(cold inlet)」工程、本工程において、支持体表面は、電気分極することなく電着浴に接触するよう置かれる。好ましくは、この状態で、少なくとも5秒間、好ましくは10秒と60秒との間、有利なことには約10〜30秒間維持される。
− 金属性被膜を形成する工程、本工程において、上記表面は十分な時間分極されて、上記被膜を形成する。
− いわゆる「熱出口(hot outlet)」工程、本工程において、上記表面は、電気分極下に置いたままで、電着工程から分離される。
【0159】
本発明はまた、固体支持体表面に調製された有機フィルムを金属化する方法に関し、当該方法は以下の工程を含む:
(a´´)上記で規定した方法により、ナノ物体(NB)を含む有機フィルムを固体支持体表面に調製すること;
(b´´)工程(a´´)で調製したフィルムを、当該NBにより還元され得る少なくとも1つの金属塩を含む溶液に接触させて置くこと。
【0160】
実際、上記方法で得られた有機フィルムで被覆された支持体上に金属被膜を形成するために、当該有機フィルム中のNB(特にNP)の存在を利用することもできる。このために、有機フィルム中に存在するNBにより還元され得る1つ以上の金属塩を含む溶液を用いることができる。一般的には、NBを含む有機フィルムで被覆された支持体は、1つ以上の金属塩を含む溶液に直接浸漬される。当該NBを含む有機フィルムで被覆された支持体を、金属塩溶液にさらす時間は、一般的には、30秒と約10分との間である。フィルム中のNBおよび金属塩の濃度は、所望のフィルム厚みに応じて適合され得る。
【0161】
NBとしては、特に、単純なNB、一般的には金属NB、特に金属NCまたはNP(例えば、白金またはパラジウム、あるいは金属合金)、あるいは、複雑なNB(例えば、金属コアを有する機能化されたNB)を用いることができる。
【0162】
金属塩溶液の中でも、例えば、硫酸銅または硫酸ニッケル溶液を選択することができる。
【0163】
NBのタイプおよび溶液のタイプの選択は、発生する還元反応と密接に関連する。
【0164】
本発明はまた、少なくとも1つの溶媒、少なくとも1つの接着プライマー、必要に応じて、当該接着プライマーとは異なる少なくとも1つのモノマー、および、場合によっては少なくとも1つの上記化学的開始剤を含む溶液を使用し、当該接着プライマーに少なくとも1つのラジカルを形成し得る非電気化学的条件下で、当該溶液に接触した固体支持体表面に有機フィルムを形成することに関する。
【0165】
本発明はまた、試料表面にポリマー性有機フィルムを調製するためのキットに関する。このようなキットは、特に以下を含む:
− 第1のコンパートメント中の、上記で定義した少なくとも1つの接着プライマーを含む溶液、
− 必要に応じて、第2のコンパートメント中の、上記で定義した接着プライマーとは異なる少なくとも1つのラジカル重合可能なモノマーを含む溶液、
− および、場合によっては、第3のコンパートメント中の、上記で定義した少なくとも1つの化学的重合開始剤。
【0166】
本発明によるキットは、必要に応じて、懸濁溶媒中の少なくとも1つのナノ物体の懸濁液を含むコンパートメント、および/または、機能化溶液を含むコンパートメントをさらに有する。
【0167】
本発明によるキットの1つの変形例においては、第1のコンパートメントは少なくとも1つの接着プライマーの前駆体を含む。「接着プライマーの前駆体」とは、実施容易な単一の加工工程により当該接着プライマーから分離された分子体を意味する。この場合、キットは、前駆体からプライマーを生成するに必要な少なくとも1つの成分を含む少なくとも1つの他のコンパートメント(第3のコンパートメントまたは化学的プライマーが存在する場合には第4のコンパートメント)を有する。したがって、キットは、例えば、アリールアミンの溶液(接着プライマーの前駆体)、および、添加することによりアリールジアゾニウム塩(接着プライマー)を形成し得るNaNO溶液を含み得る。当業者は、前駆体を使用することにより反応性化学種の貯蔵や輸送を回避できることを理解するであろう。
【0168】
溶媒は、上記第1および第2のコンパートメントの溶液、および、場合によっては第3または第4のコンパートメントの溶液のいずれにも含まれ得る。有利なことには、同一または異なる溶媒が、上記第1および第2のコンパートメントの溶液、および、場合によっては第3または第4のコンパートメントの溶液のそれぞれに含まれ得る。
【0169】
言うまでもなく、種々のコンパートメントの溶液は、種々のほかの同一または異なる試薬(例えば、安定化剤または界面活性剤)を含み得る。キットの使用は単純である。その表面を処理すべき試料を、異なるコンパートメントの溶液をその場で混合し、好ましくは攪拌(特に超音波により攪拌)することにより調製された溶液混合物に接触して置くことのみが必要とされるからである。有利なことには、モノマーを含む溶液、すなわち第2のコンパートメントの溶液のみが、前駆体からその場で調製されたまたは第1のコンパートメントの溶液に存在する接着プライマーを含む溶液と混合される前に、超音波処理に供される。
【0170】
本発明はまた、優れた特性を有するポリマーフィルムを得ることができる。当該フィルムは特に良好な耐性を有することにまず留意されるべきである。すなわち、当該フィルムは、超音波の存在下かつモノマーが特に溶解性である溶媒で洗浄した後、その厚みが優位に変化しないからである。さらに、実験パラメーター(例えば、反応時間、活性種濃度)を変化させて得られたフィルムの厚みを、非常に良好に調べることができる。当該フィルムの組成もまた均一であり、非常に高い精度で調べることができる。これにより、ランダムおよび連続的な(ブロックまたは交互とも称する)ポリマーフィルムのいずれも得ることができる。フィルムは均一形態である。すなわち、当該フィルムは、上記方法が適用される表面全体にわたって均一な表面を有する。したがって、本発明は、互いに組み合わせられ得る異なるモノマーを用いて、非常に広範な種々の表面に多くの機能化を付与することができる。
【0171】
基本的な支持体を用いて記載された上記方法のすべてを適用できることはいうまでもない。種々の方法の順序および連続性、ならびに、本発明により提供される特定の手順(例えば、マスクの使用、合体領域の局所的な形成)の適用により、複雑性(例えば、有機および無機フィルムの連続的な積層、非常に小さなスケールにおけるそのような単純な方法による不均一化)を有し得るフィルムで被覆された支持体が得られる。
【0172】
本発明は、数多くの利点を有する。この方法により、単純で再現可能な単一のプロセスを用いて、導電性または非導電性表面のグラフト化を行うことができる。この方法の実施には、特定の機器(例えば、ポテンシオスタット、コストのかかる真空系のセットアップなど)に対する多額の投資を一切必要としない。さらに、この方法の実施は、表面をグラフト化または被覆する現在公知の他の技術と比較すると、単純で迅速である。この方法は、電気化学とは異なり電気回路への接続を必要とせず、したがって、例えばナノ物体のように接続が困難な表面に適用され得る。さらに、このラジカル重合は、酸素の存在下で行われ得、合成中に格別の予防措置は一切含まない。
【0173】
図8に図形的に示すように、本発明は、反応が起こる容器以外の装備がない水性媒体中で使用され得る。したがって、グラフトされる表面をポテンシオスタット(図8a)に接続する必要はなく、反応媒体の溶液に浸漬すればよい(図8b)。この技術により、非常に広範な導電性または非導電性表面に、非常に強い粘着強度で、多数のポリマー(そのモノマーは水性媒体に可溶であってもよく不溶であってもよい)を合成することができる。得られるフィルムは、種々の溶媒中の超音波処理に対して耐性である。
【0174】
したがって、本発明により、これまで装飾やグラフトされなかった種々のタイプの表面(例えば、PTFE表面)を数多く、非常に効果的に被覆および機能化することができる。多くの用途が存在し、このような方法は、例えば、生物学、特に生体適合性処理(ステント被覆)、機能化、特に金属(耐腐食性)または繊維(撥水性)のような表面保護、フィルムを錯体分子で被覆することによる排出液(effluent)処理、あるいは、グラフト化フィルムからの構造的な結合の生成に適用され得る。
【0175】
加えて、マスクを用いることにより、機能化は局所化され得る。したがって、他の領域を1つ以上のマスクで保護しながら、同一表面の種々の領域を特定して被覆することができる。このタイプの手順は、除去が容易な有機マスクを用いることができるので、実施が容易である。特に、インク含浸フェルトペンや脂肪被膜を用いる単純な堆積を使用することができる。
【0176】
最後に、対象となる表面の機能化は、グラフト化フィルムに結合したグラフト自体を用いることによりさらに促進され得る。
【0177】
本発明による方法はまた、無公害アプローチにおいて使用され得る。水性媒体中で行うことができ、廃棄物(反応生成物の1つが二窒素(dinitrogen)であり得る)をほとんど生成しないからである。
【0178】
添付の図面を参照する説明の目的で提供される以下の非限定的な実施例を読めば、本発明の他の特徴および利点は、当業者には明らかであろう
【0179】
具体的な実施形態の詳細な説明
以下の実施例はガラスセル中で行った。特段の記載がなければ、それらは、空気雰囲気における通常の温度および圧力条件下(約25℃、約1気圧)で行われた。特段の記載がなければ、用いた試薬はさらなる精製を行うことなく、直接市場から得た。用いたガラス板の表面は1cmであった。
【0180】
周囲空気の組成について予備措置は講じず、溶液のガス抜きは行わなかった。反応時間が特定されていない場合には、処理されるべき表面を試薬溶液にさらした時間は1〜15分である。
【0181】
4つのシリーズの実施例により本発明の実施形態を示している。第1のシリーズは接着プライマーを用いて調製されたフィルムに関し、第2のシリーズは接着プライマーおよびモノマーを用いて調製されたフィルムに関し、第3のシリーズは機能化可能なフィルムに関し、第4のシリーズはナノ物体を含むフィルムに関する。
【0182】
I − 接着プライマー単独
実施例I−1 − 鉄粉(iron filings)の存在下、インサイチュで得られたパラベンジルアミン由来のジアゾニウム塩を用いた、金板上でのフィルムの調製
ジアゾニウム塩を形成するために、NaNOの0.1M水溶液4mlを、パラベンジルアミンの塩酸(0.5M)中の0.1M溶液4mlに加えた。次いで、金板を、当該反応媒体に15分間加えた。次いで、当該板を水/アセトンですすぎ、DMF中で超音波処理し、次いでpH=9.5の塩基性ソーダ溶液で処理して、上記1級アミンを脱水素化し、乾燥した。
【0183】
XPS分光法(X線光電子分光法)およびIR分析により、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認する。ポリベンジルアミンの特性吸収帯が、処理後の板のIRスペクトルにおいて1476cm−1(C=C変角振動(deformation))、1582cm−1(N−H変角振動)および3362cm−1(N−H伸縮振動)で視認可能である(図1)。
【0184】
実施例I−2 − 鉄粉の存在下、インサイチュで得られたp−フェニルジアミン由来のジアゾニウム塩を用いた、金板上でのフィルムの調製
ジアゾニウム塩を形成するために、NaNOの0.1M水溶液4mlを、p−フェニルジアミンの塩酸(0.5M)中の0.1M溶液4mlに加えた。このジアゾニウム塩溶液に、200mgの鉄粉を加えた。次いで、金板を、当該反応媒体に15分間加えた。次いで、当該板を水/アセトンですすぎ、DMF中で超音波処理し、次いで水ですすぎ、乾燥した。
【0185】
XPS分光法(X線光電子分光法)およびIR分析により、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認する。p−フェニルジアミンの特性吸収帯が、処理後の板のIRスペクトルにおいて1514cm−1(C=C変角振動)、1619cm−1(N−H変角振動)および3373cm−1(N−H伸縮振動)で視認可能である(図2)。
【0186】
実施例I−3 − フィルム厚みの試験
有機フィルムの厚みに対する種々のパラメーターの影響を示すために、4−アミノベンジルジアゾニウムを含む溶液の存在下、ラジカル体(radical entities)を形成し得る非電気化学的条件に置かれた金板に、上記方法を適用した。特に、この選択は、得られたフィルムにおける1504cm−1(C=C変角振動)、1605cm−1(N−H変角振動)および1656cm−1(N−H伸縮振動)での特徴的な吸収帯によって動機付けられた。
【0187】
NaNOの0.1M(4×10−4モル)溶液4mlを、攪拌しながらp−4−アミノベンジルアミンの塩酸(0.5M)中の0.1M(4×10−4モル)溶液4mlに加えることにより、ジアゾニウム塩水溶液を調製した。この溶液に金板を加えた。
【0188】
反応時間の影響を調べるために、200mgの鉄粉を加えることにより、当該溶液を、接着プライマー上にラジカル体を形成し得る非電気化学的条件に置いた。この反応媒体から上記板を取り除き、即座に水、次いでアセトンですすぎ、ジメチルホルムアミド(DMF)で超音波処理し、最後にアルゴン流下で乾燥した。
【0189】
図3のIRスペクトルに示されるように、試料を反応媒体に曝した時間は、得られたフィルムの厚みに影響を与えている。曝した時間を5分、10分および15分として試験した。曝した時間が長いほど、フィルム厚みが増大する。実際、ポリ−p−4−アミノベンジルアミンの1504cm−1、1605cm−1および1656cm−1での吸収帯の強度の増大は、時間とともにフィルム厚みが増大することを示している。
【0190】
実施例I−4 − 鉄粉の存在下、市販のp−ニトロフェニルジアゾニウムを用いた、金板上でのフィルムの調製
塩酸(0.5M)溶液中0.05Mで可溶化された市販のp−ニトロフェニルジアゾニウム(Aldrich(登録商標))を用い、実施例I−2に記載のプロトコルにしたがって実験を行った。次いで、金板を、当該溶液に約15分間浸漬した。次いで、当該板を水およびアセトンですすぎ、DMF中、次いで水中で超音波処理し、乾燥した。
【0191】
上記の通り、XPS分光法(X線光電子分光法)およびIR分析により、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認した。
【0192】
実施例I−5 − スチールウールの存在下、インサイチュで得られたジアゾニウム塩を用いた、金板上でのフィルムの調製
手順は実施例I−1と同様である。鉄粉を、約5.10mgのスチールウール繊維(供給元:CASTORAMA(登録商標))のファイン(0)、エクストラファイン(00)およびスーパーファイン(000)で順に置き換え、溶液中に固体鉄残渣がないようにできる。
【0193】
XPSおよびIR分析により、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認する。
【0194】
実施例I−6 − 塩基性媒体中、インサイチュで得られたジアゾニウム塩を用いた、金板上でのフィルムの調製
手順は実施例I−1と同様である。鉄粉の代わりに2.5×10−3Mのソーダ溶液0.3mlを用い、pHが4を超えるまでわずかに増加させた。
【0195】
XPSおよびIR分析により、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認する。
【0196】
実施例I−7 − インサイチュで得られたジアゾニウム塩を用いた、照射PVDF膜によりプライマー処理された(primed)、金板上でのフィルムの調製
プロトコルは実施例I−1と同様である。鉄粉の代わりに、照射されたPVDF膜(2cm、厚み9μm、電子線照射量100kGy)を用いた。
【0197】
IR分析により、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認した。
【0198】
実施例I−8 − 鉄粉の存在下、インサイチュで得られたジアゾニウム塩を用いた、金板上でのフィルムの調製
プロトコルは実施例I−1と同様である。本実施例においてはガラス板を用いた。IRスペクトルにより、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認する。
【0199】
実施例I−9 − 鉄粉の存在下、インサイチュで調製されたジアゾニウム塩を用いた、ニッケル板上でのフィルムの調製
プロトコルは実施例I−1と同様である。本実施例においてはニッケル板を用い、反応温度を40℃とした。得られたIRスペクトル(図4)により、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認する。
【0200】
実施例I−10 − 鉄粉の存在下、インサイチュで調製されたジアゾニウム塩を用いた、鉄板(AISI 316L)上でのフィルムの調製
プロトコルは実施例I−1と同様である。本実施例においては鉄板AISI 316Lを用いた。得られたIRスペクトル(図5)により、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認する。
【0201】
実施例I−11 − 鉄粉の存在下、インサイチュで調製されたジアゾニウム塩を用いた、ダイヤモンド上でのフィルムの調製
プロトコルは実施例I−1と同様である。本実施例においてはダイヤモンド片を用いた。AFM画像(図6Aおよび図6B)により、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認する。プロフィルメーター分析は、表面にフィルムが存在することを示す。
【0202】
II − 接着プライマーおよびモノマー
実施例II−1 − 鉄粉の存在下、インサイチュで調製されたジアゾニウム塩および2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を用いた、金板上でのフィルムの調製
アミノフェニルモノジアゾニウム塩を形成するために、NaNOの0.1M水溶液4mlを、パラフェニレンジアミンの塩酸(0.5M)中の0.1M溶液4mlに加えた。次いで、このジアゾニウム塩溶液に、200mgの鉄粉を加えた。次いで、金板を、当該反応媒体に15分間加えた。次いで、当該板を水/アセトンですすぎ、DMF中、次いで水中で超音波処理し、乾燥した。
【0203】
XPS分光法(X線光電子分光法)およびIR分析により、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認する。図9は、処理後の板のIRスペクトルを示す。
【0204】
下記表3は、同一の試薬について濃度、曝した時間または鉄粉の量を変化させた場合に得られたフィルム厚みの値を一覧する。
【0205】
【表3】

【0206】
曝した時間、プライマーおよびモノマー濃度、ならびに鉄粉量を増加させることにより、形成されるフィルムの厚みを増加させることができる。
【0207】
実施例II−2 − フィルム厚みの試験
有機フィルムの厚みに対する種々のパラメーターの影響を示すために、接着プライマー、4−アミノフェニルジアゾニウムおよびモノマーHEMAを含む溶液の存在下、接着プライマーに基づくラジカル体を形成し得る非電気化学的条件に置かれた金板に、上記方法を適用した。特に、この選択は、1726、1454および1166nmでのポリ−HEMAの特徴的な吸収帯によって動機付けられた。
【0208】
NaNOの0.1M(4×10−4モル)溶液4mlを、攪拌しながらp−フェニレンジアミンの塩酸(0.5M)中の0.1M(4×10−4モル)溶液4mlに加えることにより、接着プライマー水溶液を調製した。この溶液に、1ml(8.24ミリモル)のHEMAおよび金板を加えた。
【0209】
2−1 − 反応時間の影響
次いで、200mgの鉄粉を加えることにより、上記溶液を、接着プライマー上にラジカルを形成し得る非電気化学的条件に置いた。この反応媒体から上記板を取り除き、即座に水、次いでアセトンですすぎ、ジメチルホルムアミド(DMF)で超音波処理し、最後にアルゴン流下で乾燥した。
【0210】
図10aのIRスペクトルに示されるように、試料を反応媒体に曝した時間は、得られたフィルムの厚みに影響を与えている。実際、HEMAの1726、1454および1166nmでの吸収帯の強度の増大は、時間とともにフィルム厚みが増大することを示している。
【0211】
プロフィルメーターを用いて、フィルムの厚みを測定した:1〜15分の範囲の曝した時間について、フィルム厚みは12nm〜200nmの範囲であった。
【0212】
2−2 − 接着プライマー上にラジカルを形成し得る非電気化学的条件の影響
溶液中に存在するラジカルの量が反応に顕著な影響を与えると仮定して、反応時間を10分に設定し、鉄粉の量を変化させて上記方法を行った。
【0213】
図10bのIRスペクトルに示されるように、反応媒体中に存在する鉄粉の量は、得られたフィルムの厚みに影響を与えている。反応媒体中に十分なラジカルを生成するために最小量の鉄粉が必要であり、当該最小量があれば、IRで検出可能な厚みのグラフト化されたフィルムを得ることができる。鉄粉が特定の最大量を超えると、得られるフィルムの厚みの変動は無視できる。
【0214】
実施例II−3 − 鉄粉の存在下、市販のp−ニトロフェニルジアゾニウムおよびHEMAを用いた、金板上でのフィルムの調製
塩酸(0.5M)溶液中0.05Mで可溶化された市販のp−ニトロフェニルジアゾニウム(Aldrich(登録商標))を用い、実施例II−2に記載のプロトコルにしたがって実験を行った。次いで、金板を、当該溶液に約15分間浸漬した。次いで、当該板を水およびアセトンですすぎ、DMF中、次いで水中で超音波処理し、乾燥した。
【0215】
上記の通り、XPS分光法(X線光電子分光法)およびIR分析により、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認した。
【0216】
実施例II−4 − 塩基性媒体中、インサイチュで得られたジアゾニウム塩およびHEMAを用いた、金板上でのフィルムの調製
手順は実施例II−2と同様である。鉄粉の代わりに2.5×10−3MのNaOH溶液0.3mlを用い、pHが4を超えるまでわずかに増加させた。
【0217】
XPSおよびIR分析により、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認する。
【0218】
実施例II−5 − 鉄粉の存在下、インサイチュで得られたジアゾニウム塩およびアクリル酸(AA)を用いた、導電性カーボンフェルト上でのフィルムの調製
実施例II−2に記載の手順に従って実験を行った。本実施例で用いたモノマーはアクリル酸(1ml)であり、試料はカーボンフェルトで構成した。
【0219】
図11のスペクトルに示すように、XPS分析により、予測されたフィルムの存在を確認する。
【0220】
実施例II−6 − 鉄粉の存在下、インサイチュで調製されたジアゾニウム塩、HEMAおよびAAを用いた、金板上での連続的フィルムの調製
最初に、実施例II−2の手順に従って、板を準備および洗浄した。次いで、同じジアゾニウム塩の新しい溶液を準備し、当該溶液に、1mlのアクリル酸、次いで200mgの鉄粉を加えた。実施例II−2に従ってあらかじめ準備した板を、時間を変えて反応媒体中に置き、当該時間の最後に、上記のようにして板を洗浄し乾燥した。
【0221】
図12は、このような板について15分間の反応後に得られたIRスペクトルを示す。実施例2のスペクトルにおいて、AAP(アクリル酸ポリマー)の特徴的な吸収帯が、1590および1253nmに現れている。
【0222】
実施例II−7 − 鉄粉の存在下、インサイチュで調製されたジアゾニウム塩、HEMAおよびAAを用いた、金板上での統計的フィルムの調製
0.5mlのアクリル酸および0.5mlのHEMAをジアゾニウム塩溶液に加えたこと以外は、用いた手順は実施例II−2と同様である。
【0223】
得られたIRスペクトルを図13に示す:これにより、特に2つのモノマーで構成された、予測された統計的フィルムの存在を確認する。
【0224】
実施例II−8 − 鉄粉の存在下、インサイチュで調製されたジアゾニウム塩および4−ビニルピリジン(4VP)を用いた、金板上でのフィルムの調製
200mgの鉄粉、次いで、超音波処理により調製した水10ml中4−ビニルピリジン1mlの分散体を、実施例II−2にしたがって調製され、金板を含むジアゾニウム塩溶液に加えた。異なる反応時間の後、当該板を、上記の手順に従って洗浄し乾燥した。
【0225】
上記板について得られたIRスペクトルを図14に示す。1602、1554および1419nmでの特徴的な吸収帯が、予測されたフィルムの存在を実証する。
【0226】
実施例II−9 − 鉄粉の存在下、インサイチュで調製されたジアゾニウム塩およびHEMAを用いた、ガラス板上でのフィルムの調製
ガラス板を用いたこと以外は、プロトコルは実施例II−2と同様である。図15に示すIRスペクトルにより、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認する。
【0227】
実施例II−10 − 鉄粉の存在下、インサイチュで調製されたジアゾニウム塩およびHEMAを用いた、カーボンナノチューブ上でのフィルムの調製
実施例II−2に示すようにして調製したジアゾニウム塩溶液に、200mgの鉄粉および1mlのHEMAを加えた。次いで、この溶液に、カーペット形態の多層カーボンナノチューブ100mgを加えた。反応後、層を実施例2に記載のプロトコルにしたがって洗浄し、次いで乾燥した。
【0228】
図16Aおよび図16Bに示すように、走査型電子顕微鏡(SEM)により得られた写真は、処理前(図16A)および処理後(図16B)のナノチューブに対応する。
【0229】
実施例II−11 − 鉄粉の存在下、インサイチュで調製されたジアゾニウム塩およびHEMAを用いた、PTFE(Teflon(登録商標))表面でのフィルムの調製
NaNOの0.1M水溶液4mlを、パラフェニレンジアミンの塩酸(0.5M)中の0.10M溶液4mlに加え、ジアゾニウム塩を形成した。このジアゾニウム塩溶液に、1mlのHEMA、次いで200mgの鉄粉を加えた。次いで、4cmのTeflon(登録商標)片(part)を反応媒体に15分間導入し、次いで、当該板を水およびアセトンですすぎ、DMF中、次いで水中で超音波処理し、乾燥した。
【0230】
分光法およびIR分析(図17)により、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認する。
【0231】
実施例II−12 − 異なる試料への本方法の適用
種々のタイプの多数の試料に対して、上記方法を順次適用した。異なるモノマーを用いた。本実施例で用いたジアゾニウム塩は、p−フェニレンジアミンを用いてインサイチュで調製した。
【0232】
モノマーに応じたタイプの試料それぞれについて得られた結果を下記表4に示す。試験した試料のそれぞれについて、IRスペクトルを用いて有機フィルムの存在が立証された。
【0233】
【表4】

【0234】
実施例II−13 − 同じ溶液についての異なるタイプ(金板およびチタン板)の表面でのフィルムの調製
NaNOの0.1M水溶液4mlを、パラフェニレンジアミンの塩酸(0.5M)中の0.1M溶液に加えた。このジアゾニウム塩溶液に、1mlのHEMA、次いで200mgの鉄粉を加えた。次いで、4cmの金板およびチタン板を同時に反応媒体に15分間置いた。次いで、それぞれの板を水およびアセトンですすぎ、DMF中、次いで水中で超音波処理し、乾燥した。
【0235】
分光法およびIR分析(図18)により、2つの基材について予測されたフィルムの存在を確認する。
【0236】
実施例II−14 − 鉄粉の存在下、インサイチュで調製されたジアゾニウム塩およびブチルメタクリレートを用いた、ガラス板上でのフィルムの調製
200mgの鉄粉、次いで、超音波処理により調製した水10ml中ブチルメタクリレート(BUMA)1mlの分散体を、実施例II−2にしたがって調製され、ガラス板を含むジアゾニウム塩溶液に加えた。ガラス板は、いわゆる「ピラニア」溶液(すなわち、濃硫酸および過酸化水素水(110体積)の体積比60/40の混合物)処理により予備洗浄されていた。10分間の反応時間の後、当該板を、上記の手順に従って洗浄し乾燥した。
【0237】
次いで、上記のようにして被覆されたガラス板(図19B)およびコントロールとして用いた無垢のガラス板(図19A)について、スポット試験を行った。当該被覆されたガラス板の物理的特性の変化(撥水性となる)が、水滴と表面との間の表面接触角の変化により観察され得る。
【0238】
実施例II−15 − 鉄粉の存在下、インサイチュで調製されたジアゾニウム塩およびヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)またはアクリル酸(AA)に基づく、市販のインクマスクを有する金板上でのフィルムの調製
用いたプロトコルは、HEMAについては実施例II−2およびAAについては実施例II−5と同様である。これらを反応媒体に導入する前に、板をマスクで被覆した:すなわち、黒色インクフェルトペン(Steadler(登録商標)−lumocolor(登録商標))を用いて、金板上に異なるパターンを作成した。
【0239】
反応後、上記板を、反応生成物を除去するために水、DMFおよびアセトンで洗浄し、次いで、同様の溶媒を用いた超音波処理によってさらに激しく洗浄した。次いで、再びアセトンを用いて表面をすすぎ、乾燥し、赤外分光法(IR)(それぞれのポリマーについてのC=O吸収帯)および原子間力顕微鏡(AFM)により分析した。
【0240】
得られた異なるマッピング(IR/AFM)を図20Aおよび図20Bに示す。図20Aは、交差形状パターンの存在を示し、図20Bは、別のパターンの存在を示す。これらのパターンは、有機フィルムで被覆されていない(透過測定値(transmittance measurement)であり、起伏(relief)における当該領域がグラフト化されていない領域に対応する)。
【0241】
実施例II−16 − 鉄粉の存在下、インサイチュで調製されたジアゾニウム塩およびアクリル酸(AA)に基づく、チオールマスクを有する金板上でのフィルムの調製
用いたプロトコルは実施例II−15と同様である。反応媒体に導入する前に、長鎖(C18)チオールのエタノール性溶液の液滴を板上に堆積させ、エタノールを蒸発させた後、当該板を処理した。処理後、当該板を実施例II−15と同様にして洗浄および分析した。
【0242】
IR/AFMマッピングを図21Aおよび図21Bに示す。これらは、それぞれ、当該板の三次元視(透過測定値であり、起伏における当該領域がグラフト化されていない領域に対応する)および平面視(明領域がグラフト化されていない領域に対応する)を示す。これらの図において、マスクにより被覆された領域はグラフト化されたフィルムを有さないことを認めることができる。
【0243】
実施例II−17 − 鉄粉の存在下、インサイチュで調製されたジアゾニウム塩およびヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)に基づく、チオールの微細印刷マスクを有する金表面上でのフィルムの調製
用いたプロトコルは実施例II−15と同様である。反応媒体に導入する前に、マイクロメーター的(micrometric)パターンを有し、かつ、長鎖(C18)チオールのエタノール性溶液で予め含浸したPDMS(ポリジメチルシロキサン)バッファー(buffer)を用いて、板をチオールマスクで被覆した。エタノールを蒸発させた後、当該板を処理した。処理後、当該板を実施例II−15と同様にして洗浄および分析した。
【0244】
AFMマッピングを図22Aおよび図22Bに示す。図22Aは、グラフト化された表面が、バッファー上に現れる三角形状のマイクロメーター的パターンの裏返しに対応することを示す。図22Bは、複数の線(透過測定値であり、起伏における当該領域がグラフト化されていない領域に対応する)に対応するマイクロメーター的パターンを示す。
【0245】
実施例II−18 − 非多孔質の電子線照射PVDF膜の存在下、インサイチュで調製されたパラベンジルアミン由来のジアゾニウム塩およびアセトニトリル(ACN)を用いた、金板上でのフィルムの調製
ジアゾニウム塩を形成するために、NaNOの0.1M水溶液4mlを、パラベンジルアミンの塩酸(0.5M)中の0.1M溶液4mlに加えた。
【0246】
上記ジアゾニウム塩を含む溶液4mlに、4mlのアセトニトリル(ACN)を加えた。上記の実施例で存在していた鉄粉に代えて、電子線照射されたPVDF膜(2cm、厚み9μm、電子線照射量100kGy)を用いた。次いで、金板を反応媒体に15分間加えた。当該板を水/アセトンですすぎ、DMF中で超音波処理し、次いでpH=9.5の塩基性ソーダ溶液で処理して、上記1級アミンを脱水素化し、乾燥した。
【0247】
IR分析により、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認した。
【0248】
実施例II−19 − ナノ多孔質の電子線照射PVDF膜の存在下、インサイチュで調製されたパラベンジルアミン由来のジアゾニウム塩およびアセトニトリル(ACN)を用いた、金板上でのフィルムの調製
ジアゾニウム塩を形成するために、NaNOの0.1M水溶液4mlを、パラベンジルアミンの塩酸(0.5M)中の0.1M溶液4mlに加えた。
【0249】
上記ジアゾニウム塩を含む溶液4mlに、4mlのアセトニトリル(ACN)を加えた。上記の実施例で存在していた鉄粉に代えて、ナノ多孔質の電子線照射されたPVDF膜(2cm、厚み9μm、電子線照射量100kGy、フルエンス(fluence)1010pores/cm、孔径50nm)を用いた。
【0250】
次いで、金板を反応媒体に15分間加えた。当該板を水/アセトンですすぎ、DMF中で超音波処理し、次いでpH=9.5の塩基性ソーダ溶液で処理して、上記1級アミンを脱水素化し、乾燥した。
【0251】
IR分析により、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認した。
【0252】
実施例II−20 − 電子線照射PVDF膜の存在下、インサイチュで調製されたジアゾニウム塩およびアクリル酸(AA)を用いた、金板上でのフィルムの調製
ジアゾニウム塩を形成するために、NaNOの0.1M水溶液6.5mlを、パラベンジルアミンの塩酸(0.5M)中の0.1M溶液6.5mlに加えた。この溶液に2mlのアクリル酸(AA)を加え、得られた溶液に、不活性雰囲気下でアルゴンを15分間吹き込んだ。
【0253】
上記の実施例で存在していた鉄粉に代えて、電子線照射されたPVDF膜(2cm、厚み9μm、電子線照射量100kGy)を用いた。次いで、金板を不活性雰囲気(アルゴン)下で反応媒体に15分間加えた。当該板を水/アセトンですすぎ、超音波処理に供し、乾燥した。
【0254】
IR分析により、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認した。
【0255】
実施例II−21 − ナノ多孔質の電子線照射PVDF膜の存在下、インサイチュで調製されたジアゾニウム塩およびアクリル酸(AA)を用いた、金板上でのフィルムの調製
ジアゾニウム塩を形成するために、NaNOの0.1M水溶液6.5mlを、パラベンジルアミンの塩酸(0.5M)中の0.1M溶液6.5mlに加えた。この溶液に2mlのアクリル酸(AA)を加え、得られた溶液に、不活性雰囲気下でアルゴンを15分間吹き込んだ。
【0256】
上記の実施例で存在していた鉄粉に代えて、ナノ多孔質の電子線照射されたPVDF膜(2cm、厚み9μm、電子線照射量100kGy、フルエンス1010pores/cm、孔径50nm)を用いた。次いで、金板を不活性雰囲気(アルゴン)下で反応媒体に15分間加えた。当該板を水/アセトンですすぎ、超音波処理に供し、乾燥した。
【0257】
IR分析により、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認した。
【0258】
実施例II−22 − 電子線照射PVDF膜の存在下、インサイチュで調製されたジアゾニウム塩とアクリル酸(AA)およびアセトニトリル(ACN)とを用いた、金板上でのフィルムの調製
ジアゾニウム塩を形成するために、NaNOの0.1M水溶液4mlを、パラベンジルアミンの塩酸(0.5M)中の0.1M溶液4mlに加えた。この溶液4mlに、11mlのアセトニトリル(ACN)および2mlのアクリル酸(AA)を加えた。得られた溶液に、不活性雰囲気下でアルゴンを15分間吹き込んだ。
【0259】
上記の実施例で存在していた鉄粉に代えて、非多孔質の電子線照射されたPVDF膜(2cm、厚み9μm、電子線照射量100kGy)を用いた。次いで、金板を不活性雰囲気(アルゴン)下で反応媒体に15分間加えた。当該板を水/アセトンですすぎ、超音波処理に供し、乾燥した。
【0260】
IR分析により、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認した。
【0261】
実施例II−23 − ナノ多孔質の電子線照射PVDF膜の存在下、インサイチュで調製されたジアゾニウム塩とアクリル酸(AA)およびアセトニトリル(ACN)とを用いた、金板上でのフィルムの調製
ジアゾニウム塩を形成するために、NaNOの0.1M水溶液4mlを、パラベンジルアミンの塩酸(0.5M)中の0.1M溶液4mlに加えた。この溶液4mlに、11mlのアセトニトリル(ACN)および2mlのアクリル酸(AA)を加えた。得られた溶液に、不活性雰囲気下でアルゴンを15分間吹き込んだ。
【0262】
上記の実施例で存在していた鉄粉に代えて、ナノ多孔質の電子線照射されたPVDF膜(2cm、厚み9μm、電子線照射量100kGy、フルエンス1010pores/cm、孔径50nm)を用いた。次いで、金板を不活性雰囲気(アルゴン)下で反応媒体に15分間加えた。当該板を水/アセトンですすぎ、超音波処理に供し、乾燥した。
【0263】
IR分析により、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認した。
【0264】
実施例II−24 − フェロセンの存在下、市販のp−ニトロフェニルジアゾニウムおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を用いた、金板上でのフィルムの調製
2mlのジメチルホルムアミド(DMF)に、0.04モルのフェロセンおよび1mlのHEMA(3×10−3M)を加えた。この溶液に、p−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレートのDMF溶液(0.015モル)を2ml加えた。次いで、金板を反応媒体に30分間加えた。次いで、当該板をDMFおよびアセトンですすぎ、DMF中で超音波処理(3分間)し、さらにアセトンですすぎ、乾燥した。
【0265】
IR分析により、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認する。1726、1454および1166cm−1でのポリ−HEMAの特性吸収帯が、処理後の板のIRスペクトルにおいて視認可能である。
【0266】
アセトンおよびジメチルスルホキシド(DMSO)を用いて同様の反応を行った。
【0267】
実施例II−25 − フェロセンの存在下、市販のp−ニトロフェニルジアゾニウムおよびブチルメタクリレート(BUMA)を用いた、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)表面上でのフィルムの調製
10.2mgのMWCNTを、8mlのDMF中で超音波処理に供した。この溶液に、5mlのBUMA溶液および0.04モルのフェロセンを加えた。得られた混合物を3分間攪拌し、次いで、0.015モルのp−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレートを加えた。2時間の反応後、上記ナノチューブをろ過し、DMFおよびアセトンで数回洗浄した。最後に、MWCNTをバキュームオーブンで乾燥した(100℃、10−2Torr)。
【0268】
XPS分光法(X線光電子分光法)および走査型電子顕微鏡(SEM)分析により、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認する。
【0269】
実施例II−26 − フェロセンの存在下、市販のp−ニトロフェニルジアゾニウムおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を用いた、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)カーペット表面上でのフィルムの調製
12mlのDMFに、0.04モルのフェロセン、5mlのHEMA、およびシリコン基材で支持されたMWCNTカーペット(面積1cm、チューブの長さ275μm)を加えた。この溶液に、103.9mg(0.015モル)のp−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレートを加えた。2時間の反応後、上記ナノチューブをDMFおよびアセトンで数回洗浄した。最後に、MWCNTをバキュームオーブンで乾燥した(100℃、10−2Torr)。
【0270】
XPS分光法(X線光電子分光法)および走査型電子顕微鏡(SEM)分析により、その厚みが反応時間とともに増大する、予測されたフィルムの存在を確認する。
【0271】
III − 機能化可能なフィルム
実施例III−1 − 金板上の、PHEMAとCD由来のグラフトとを含むフィルム
まず、Gadelle, A.; Defaye, J. Angew. Chem., Int. Ed. Engl. 1991, 30, 78に記載のプロトコルにしたがって、ペル−(3,6)−アンヒドロ−β−シクロデキストリン(PaCD)(M=1008g/モル)を調製した。次いで、触媒量(0.05当量)のジメチルアミノピリジン(DMAP)の存在下、DMF(5ml)中で6時間攪拌しながらN,N´−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)(6当量)を用いて活性化エステルを形成することにより、PaCD(10mg)のカルボン酸機能を活性化させた。
【0272】
厚み約10nmで、ポリ(2−ヒドロキシエチル)メタクリレート(PHEMA)を含み、実施例II−3の手順に従って製造されたフィルムにより表面2cmが被覆された金板を、6mlのDMFと上記活性化PaCDとを含む密封試験管に置いた。
【0273】
上記反応混合物を、攪拌しながら、室温で72時間放置した。次いで、上記板を取り除き、DMFおよびアセトンですすぎ、乾燥した。XPSおよびIRRAS分析により、フィルムがシクロデキストリングラフトを含むことが確認される。
【0274】
例えば本実施例のようなCDグラフトを含むフィルムによる鉛の捕捉が、水晶片(QCM 922、SEIKO(登録商標))を用いて示された。上記のようにして作成したフィルムを含む金が堆積した水晶(SEIKO社製)を、PbNO溶液(10−4M)に130秒間浸漬した。水晶の共振周波数の変化が、錯体化を示す。
【0275】
実施例III−2 − 金板上の、PAAとCD由来のグラフトとを含み、連結基を有するフィルム
実施例III−1にしたがってPaCDを調製した。当該PaCDにプロパノールスペーサーを加え、連結基(LG)を含むグラフトを形成した。DMF(10ml)中のPaCD(250mg)の溶液に、NaH(350mg;28当量)および3−ブロモ−1−プロパノール(0.6ml;28当量)を加えた。24時間後、メタノール(5ml)を反応媒体に加え、次いで、溶液を蒸発させ、得られた固体を水(0.5ml)中で可溶化し、アセトン(300ml)で沈殿させる。ろ過後、得られたベージュ色の固体をブフナー漏斗でろ過し、乾燥する。種々の割合(プロパノールが4〜14)のプロパノールスペーサーPaCDの混合物が得られる。
【0276】
厚み約100nmで、アクリル酸から実施例II−2の手順に従って製造されたPAAフィルムにより表面2cmが被覆された金板を、DMF(6ml)で可溶化されたプロパノールスペーサーPaCD混合物(10mg)を含む密封試験管に置いた。
【0277】
上記反応媒体を、攪拌しながら、室温で72時間放置した。次いで、上記板を取り除き、DMFおよびアセトンですすぎ、乾燥した。
【0278】
XPS分析により、シクロデキストリンの存在を確認した。実際、O1sの534eVに現れるピークは、シクロデキストリンのエステル結合の代表的なものである。同様に、C1sのスペクトルにおいて、289eVを中心とするピークは、C−O結合に対応する。
【0279】
IRRASスペクトルにおいて、1740cm−1に高強度(intense)吸収帯が現れる。これは、C=O(エステル)の原子価帯(valence band)に代表的なものであり、これによりエステルの形成が確認される。さらに、C−O結合の原子価帯として代表的な1250cm−1に現れる吸収帯により、基材上にシクロデキストリンが存在することが確認される。
【0280】
例えば本実施例のようなCDグラフトを含むフィルムによる鉛の捕捉が、水晶片(QCM 922、SEIKO(登録商標))を用いて示された。上記のようにして作成したフィルムを含む金が堆積した水晶(SEIKO社製)を、PbNO溶液(10−4M)に180秒間浸漬した。水晶の共振周波数の変化が、錯体化を示す。
【0281】
実施例III−3 − 金板上の、PHEMAとカリックスアレーン由来のグラフトとを含むフィルム
本実施例においては、文献(Bulletin of the Korean Chemical Society (2001), 22(3), 321-324)にしたがって製造された下記に示すカリックスアレーンの誘導体を用いた。
【0282】
【化2】

【0283】
厚み約5nmで、ポリ(2−ヒドロキシエチル)メタクリレート(PHEMA)を含み、実施例II−3の手順に従って製造されたフィルムにより表面2cmが被覆された金板を、10mlのジクロロメタンと10mgのKCOとを含む密封試験管に置いた。この溶液に、カリックス〔4〕アレーン誘導体20mgを加え、当該反応媒体を攪拌しながら72時間還流した。次いで、当該板を、アセトン、水およびジクロロメタンで洗浄した。
【0284】
IRRASスペクトルにおいて、図24に示すように、1600cm−1に吸収帯が現れる。これは、C=C結合(芳香族)の原子価帯に代表的なものであり、フィルム上にグラフトされたカリックスアレーンの存在を示す。
【0285】
実施例III−4 − 金板上の、ポリベンジルアミンとポルフィリン由来のグラフトとを含むフィルム
活性化エステルの形成によりカルボン酸機能が活性化されたポルフィリンを用いた。活性化エステルは、触媒量(0.05当量)のDMAPの存在下、DMF中におけるテトラキス(安息香酸)−4,4´,4´´,4´´´−(ポルフィリン−5,10,15,20−テトラアリール)(10mg;1.26×10−5モル)とN,N´−ジイソプロピルカルボジイミド(6当量)との反応により形成された。
【0286】
ポリベンジルアミンフィルムを含み、厚み約0.6nmで、実施例I−1の手順に従って調製されたフィルムにより表面2cmが被覆された金板を、上記活性化ポルフィリンを含む丸底フラスコに置いた。
【0287】
上記反応媒体を、攪拌しながら、室温で72時間放置した。次いで、上記板を取り除き、DMFおよびアセトンですすぎ、乾燥した。
【0288】
XPS分析により、フィルム上にポルフィリンの存在を確認した。実際、図25aに示すように、C1sのスペクトルにおいて189.5eVを中心とするピークは、ポルフィリン酸とともに表面に形成され、フィルムに付着していないアミドのC=O結合に対応する。同様に、図25bに示すように、N1sのスペクトルは2つのピークで構成され、そのうちの1つ(399.5eVを中心とするもの)は、芳香環に含まれる窒素に代表的なものであり、ポルフィリンの窒素に対応する。
【0289】
IV − ナノ物体(object)を含むフィルム
実施例IV−1 − 金にグラフトされたポリアクリル酸を含むフィルムへの白金ナノ粒子の導入
金板にグラフトされ、白金ナノ粒子を含む、アクリル酸(AA)およびインサイチュで調製されたジアゾニウム塩由来の有機コポリマーフィルムを調製した。
【0290】
1−1.安定化剤(HEA−16−Cl)の合成
冷却装置(coolant)を備えた50mlの丸底フラスコで、15mlの無水エタノール中に、29.2ミリモルのN,N−ジメチルエタノールアミンおよび35ミリモル(1.2当量)のヘキサデシルクロライドを溶解した。次いで、混合物を24時間還流した。次いで、エタノールを蒸発させ、反応混合物を室温で冷却した。形成された白色固体をアセトン/エタノール混合物中で再結晶させ、N,N−ジメチル−N−ヘキサデシル−N−(2−ヒドロキシエチル)アンモニウムクロライド(HEA−16−Clと称する)を得た。
【0291】
1−2.白金(0)のコロイド懸濁液(Pt−HEA−16−Cl)の調製
コロイド懸濁液を20℃で調製した。超純水5mlに溶解した300mgのHEA−16−Clに、3.6mgの水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を加えた。この溶液を、激しく攪拌しながら、12mgの塩化白金(IV)(PtCl)を含む超純水5mlに素早く加えた。白金(IV)から白金(0)への還元が、淡黄色から黒茶色への色変化により特徴付けられる。懸濁液を機械的に攪拌しながら1時間放置した後、使用した。この懸濁液は、何週間も安定である。
【0292】
1−3.ポリアクリル酸を含むフィルムの金へのグラフト
50mlビーカーに、以下のものを順に加えた:1,4−ジアミノフェニル(0.1M)2ml、亜硝酸ナトリウム(NaNO、0.1M)2ml、およびアクリル酸(AA)1ml。次いで、当該溶液に、50mgの鉄粉を加え、および、5cmの金板を当該媒体中に置いた。45分後、当該板を反応媒体から除去し、次いですすぎ(水/エタノール/アセトン)、乾燥した。XPS分析により、PAAフィルムの存在を確認した。
【0293】
1−4.PAAを含むフィルムへのPtナノ粒子の導入
最初に、有機フィルムで被覆された金板を、0.5Mソーダ溶液に5分間浸漬し、次いで、すすぐことなく乾燥した。この工程により、PAAの親和性基の前駆体であるカルボン酸基(groupings)を、粒子に対して親和性を有するカルボキシレート基に変化させることができた。次いで、白金(0)のコロイド懸濁液1mlを、フィルムで被覆された金板上に堆積した。15分後、当該板をすすぎ(水/エタノール/アセトン)、乾燥し、次いでXPSにより分析した。
【0294】
XPS分析は、図26(粒子導入前のフィルムに対応する)と比較して図27(粒子を一体化した後のフィルムのXPSスペクトルに対応する)に示すように、処理後に有意な量の白金(0)の存在を示した。
【0295】
実施例IV−2 − 鉄(AISI 316L)にグラフトされたポリアクリル酸を含むフィルムへの金ナノ粒子の導入
鉄板(AISI 316L)にグラフトされ、金ナノ粒子を含む、アクリル酸(AA)およびインサイチュで調製されたジアゾニウム塩由来の有機コポリマーフィルムを調製した。
【0296】
2−1.安定化剤(HEA−16−Cl)の合成
安定化剤を実施例I−1にしたがって調製した。
【0297】
2−2.金(0)のコロイド懸濁液(Au−HEA−16−Cl)の調製
コロイド懸濁液を20℃で調製した。超純水5mlに溶解した300mgのHEA−16−Clに、3.6mgの水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を加えた。この溶液を、激しく攪拌しながら、12mgの金塩(AuHCl)を含む超純水5mlに素早く加えた。Au(IV)からAu(0)への還元が、淡黄色からレンガ色への色変化により特徴付けられる。懸濁液を機械的に攪拌しながら1時間放置した後、使用した。この懸濁液は、何週間も安定である。
【0298】
2−3.ポリアクリル酸を含むフィルムの鉄(AISI 316L)へのグラフト
50mlビーカーに、以下のものを順に加えた:1,4−ジアミノフェニル(0.1M)2ml、亜硝酸ナトリウム(NaNO、0.1M)2ml、およびアクリル酸(AA)1ml。次いで、当該溶液に、50mgの鉄粉を加え、および、5cmの金板を当該媒体中に置いた。45分後、当該板を反応媒体から除去し、次いですすぎ(水/エタノール/アセトン)、乾燥した。XPS分析により、フィルムの存在を確認した。
【0299】
2−4.PAAを含むフィルムへのAuナノ粒子の導入
最初に、有機フィルムで被覆された鉄板(AISI 316L)を、0.5Mソーダ溶液に5分間浸漬し、次いで、すすぐことなく乾燥した。この工程により、PAAの親和性基の前駆体であるカルボン酸基を、粒子に対して親和性を有するカルボキシレート基に変化させることができた。次いで、金(0)のコロイド懸濁液1mlを、フィルムで被覆された鉄板(AISI 316L)上に堆積した。15分後、当該板をすすぎ(水/エタノール/アセトン)、乾燥し、次いでXPSにより分析した。
【0300】
XPS分析は、鉄(AISI 316L)がもはや視認不可能であることから、有意な量の金(0)の存在を示した。
【0301】
実施例IV−3 − カーボンナノチューブにグラフトされたポリアクリル酸を含むフィルムへの白金ナノ粒子の導入
カーボンナノチューブカーペットにグラフトされ、白金ナノ粒子を含む、アクリル酸(AA)およびインサイチュで調製されたジアゾニウム塩由来の有機コポリマーフィルムを調製した。
【0302】
3−1.安定化剤(HEA−16−Cl)の合成
安定化剤を実施例IV−1に記載のプロトコルにしたがって調製した。
【0303】
3−2.白金(0)のコロイド懸濁液(Pt−HEA−16−Cl)の調製
懸濁液を、実施例IV−1に記載のようにして作成した。
【0304】
3−3.ポリアクリル酸を含むフィルムのナノチューブカーペットへのグラフト
実施例II−2に示すようにして調製したジアゾニウム塩溶液に、200mgの鉄粉および1mlのアクリル酸を加えた。次いで、カーペット形態のカーボンナノチューブ100mgを加えた。反応後、カーペットを実施例IV−2に記載のプロトコルにしたがって洗浄し、次いで乾燥した。
【0305】
3−4.PAAを含むフィルムへのPtナノ粒子の導入
最初に、有機フィルムで被覆されたナノチューブカーペットを、0.5Mソーダ溶液に5分間浸漬し、次いで、すすぐことなく乾燥した。この工程により、PAAの親和性基の前駆体であるカルボン酸基を、粒子に対して親和性を有するカルボキシレート基に変化させることができた。次いで、白金(0)のコロイド懸濁液1mlを、フィルムで被覆されたナノチューブカーペット上に堆積した。15分後、当該ナノチューブカーペットをすすぎ(水/エタノール/アセトン)、乾燥し、次いでXPSにより分析した。
【0306】
XPS分析は、図28のスペクトルに示すように、白金(0)の存在を示した。
【0307】
実施例IV−4 − 金にグラフトされたポリベンジルアミンフィルムへの白金ナノ粒子の導入
金板にグラフトされ、白金ナノ粒子を含む、インサイチュで調製されたジアゾニウム塩由来の有機フィルムを調製した。
【0308】
4−1.安定化剤(HEA−16−Cl)の合成
安定化剤を実施例IV−1に示すようにして調製した。
【0309】
4−2.白金(0)のコロイド懸濁液(Pt−HEA−16−Cl)の調製
手順は実施例IV−1と同様である。
【0310】
4−3.ポリベンジルアミンフィルムの金へのグラフト
50mlビーカーに、以下のものを順に加えた:p−アミノベンジルアミン(0.1M)2ml、亜硝酸ナトリウム(NaNO、0.1M)2ml。次いで、当該溶液に、50mgの鉄粉を加え、および、5cmの金板を当該媒体中に置いた。45分後、当該板を反応媒体から除去し、次いですすぎ(水/エタノール/アセトン)、乾燥した。XPS分析により、有機ポリベンジルアミンフィルムの存在を確認した。
【0311】
4−4.ポリベンジルアミンフィルムへのPtナノ粒子の導入
最初に、有機フィルムで被覆された金板を、0.5Mソーダ溶液に5分間浸漬し、次いで、すすぐことなく乾燥した。この工程により、親和性基の前駆体であるアンモニウム基を、粒子に対して親和性を有するアミノ基に変化させることができた。次いで、白金(0)のコロイド懸濁液1mlを、フィルムで被覆された金板上に堆積した。15分後、当該板をすすぎ(水/エタノール/アセトン)、乾燥し、次いでXPSにより分析した。XPS分析は、有意な量の白金(0)の存在を示した。
【0312】
実施例IV−5 − 金にグラフトされたポリアクリル酸を含むフィルムへのシリカナノ粒子の導入
金板にグラフトされ、シリカナノ粒子を含む、アクリル酸(AA)およびインサイチュで調製されたジアゾニウム塩由来の有機コポリマーフィルムを調製した。
【0313】
小さく(直径約12nm)、非多孔質で、かつ微細に分割された市販のシリカ粒子(DEGUSA(登録商標)社製)を用いた。
【0314】
各粒子は実質的に球状であり、約200m/gの比表面積を有し、約1ミリモル/gのシラノール基を有する。
【0315】
10mgのシリカと10mlの蒸留水とを混合することにより、シリカ粒子のコロイド溶液を得た。
【0316】
5−1.ポリアクリル酸を含むフィルムの金へのグラフト
実施例IV−1に示すようにしてグラフトを行った。
【0317】
5−2.PAAを含むフィルムへのシリカ粒子の導入
実施例IV−1のプロトコルにしたがって粒子の導入を行った。赤外分析により、フィルムにおける粒子の存在を確認した。
【0318】
実施例IV−6 − ガラスおよびプラスチックにグラフトされたポリアクリル酸を含むフィルムへの白金ナノ粒子の導入
プラスチック(ポリエチレン)およびガラス板にグラフトされ、白金ナノ粒子を含む、アクリル酸(AA)およびインサイチュで調製されたジアゾニウム塩由来の有機コポリマーフィルムを調製した。実施例IV−1に示されたプロトコルにしたがって有機フィルムの調製および粒子の導入を行った。XPS分析により、それぞれのフィルムにおける粒子の導入が示された。
【0319】
実施例IV−7 − フィルム内に存在するナノ粒子の合体(coalescene)
AuまたはPtナノ粒子を含む有機フィルムで被覆された上記実施例のガラスおよび金支持体表面を、約500℃のヒートガン(heat gun)で5分間処理した。処理の間、表面の外観の改変が観察され、初期の玉虫色の外観が消滅し、粒子の合体に起因する均一な表面となった。
【0320】
実施例IV−8 − フィルム内に存在するナノ粒子を用いた金属塩溶液の化学的還元によるフィルムの金属化
2つの溶液を用いて金属化浴を調製した。第一の溶液は、3gの硫酸銅、14gの酒石酸ナトリウムカリウムおよび4gの水酸化ナトリウムを100mlの蒸留水中に含む。第二の溶液は、37.02重量%のホルムアルデヒド水溶液である。これらの2つの溶液を10/1の比率で混合し、得られた混合物20mlをとり、実施例IV−1、IV−4およびIV−6により得られたAuまたはPtナノ粒子を含む有機フィルムで被覆された支持体(ガラスまたは金)を5分間浸漬した。次いで、当該支持体表面を水およびアセトンですすぎ、アルゴン流下で乾燥した。表面の外観の変化が認識され、金属フィルムが得られた。
【0321】
実施例IV−9 − フィルム内に存在するパラジウムナノ粒子を用いた金属塩溶液の化学的還元によるフィルムの金属化
9−1.パラジウムコロイド懸濁液(Pd/〔C1837Br)の調製
酢酸パラジウム(II)(Fluka、4g、17.8ミリモル)およびテトラオクタデシルアンモニウムブロマイド(Fluka、5g、4.5ミリモル)を、トルエンおよびTHFの5:1(体積比)の混合物200mL(30℃)中で懸濁した。25mLの無水エタノールを添加した後、混合物を65℃で12時間還流した。溶液の色が深い黒褐色に変わった。
【0322】
コロイドの沈殿を開始させるために、激しく震とうさせながら過剰(100mL)の無水エタノールを徐々に加えた。溶液を室温で5時間放置した。次いで、溶媒を減圧下で蒸発させ、灰黒色粉末2.1g(収率88%に対応)を得た。
【0323】
次いで、上記で得られた粉末0.3gの溶液をトルエン200ml中で5分間超音波処理に供することにより、パラジウムコロイド懸濁液を調製した。この懸濁液は数ヶ月間安定である。
【0324】
9−2.ポリエチレンおよびポリプロピレンプラスチックへのポリアクリル酸フィルムのグラフト
アクリル酸(AA)またはHEMAおよびインサイチュで合成されたジアゾニウム塩由来のコポリマー性有機フィルムを、プラスチック板(ポリエチレンおよびポリプロピレン)にグラフトした。ジアゾニウムのみから得られたフィルムも合成した。これらのフィルムは、上記のプロトコルにしたがって得られた。
【0325】
9−3.PAAフィルムへのコロイド性パラジウム(Pd/〔C1837Br)の導入、ならびに、フィルム中に存在するナノ粒子によるこのフィルムの金属化
グラフトされたフィルムにより被覆されたポリエチレンおよびポリプロピレンプラスチック板を実施例9−2で得られた懸濁液に浸漬することにより、粒子の導入を行った。次いで、当該フィルムをトルエンですすぎ、アルゴン流下で乾燥した。実施例IV−8に示すようにして金属化を行った。その結果、金属フィルムを裸眼で視認することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体支持体の表面に有機フィルムを調製する方法であって、
該表面と
― 少なくとも1つの溶媒、
― 少なくとも1つの接着プライマー
を含む液体溶液とを、非電気化学的条件下で接触させる工程を含み、
該接着プライマーに基づいてラジカル体の形成を可能とする、方法。
【請求項2】
前記接着プライマーが、アリールジアゾニウム塩、アリールアンモニウム塩、アリールホスホニウム塩およびアリールスルホニウム塩から構成される群より選択される開裂可能なアリール塩である、請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
前記接着プライマーが、そのまま前記液体溶液に添加されるか、または該液体溶液中インサイチュで調製される、請求項1または2に記載の調製方法。
【請求項4】
前記液体溶液が少なくとも1つの界面活性剤をさらに含む、請求項1から3のいずれか1つに記載の調製方法。
【請求項5】
前記ラジカル体の形成を可能とする非電気化学的条件が熱的条件、動力学的条件、化学的条件、光化学的条件または放射線化学的条件、およびそれらの組み合わせから構成される群より選択され、当該条件に前記接着プライマーが供される、請求項1から4のいずれか1つに記載の調製方法。
【請求項6】
前記液体溶液が1またはそれ以上の化学的開始剤をさらに含む、請求項1から5のいずれか1つに記載の調製方法。
【請求項7】
前記液体溶液と接触する固体支持体の表面が、マスクで覆われた少なくとも1つの領域を含む、請求項1から6のいずれか1つに記載の調製方法。
【請求項8】
前記液体溶液が、前記接着プライマーとは異なる少なくとも1つのラジカル重合性モノマーをさらに含む、請求項1から7のいずれか1つに記載の調製方法。
【請求項9】
前記ラジカル重合性モノマーが、少なくとも1つのエチレン系結合を含む分子である、請求項8に記載の調製方法。
【請求項10】
前記液体溶液が、前記接着プライマーとは異なる少なくとも1つのラジカル重合性モノマーをさらに含み、かつ、前記ラジカル重合性モノマーが以下の式(II)の分子である、請求項8または9に記載の調製方法。
【化1】

からR基は、同一または異なり、非金属一価原子、水素原子、飽和または不飽和の化学基、−COOR基を表し、Rは水素原子、またはC〜C12のアルキル基、ニトリル、カルボニル、アミン、アミドを表す。
【請求項11】
前記方法が、前記ラジカル重合性モノマーを少なくとも1つの溶媒および少なくとも1つの接着プライマーを含む液体溶液に混合する前に、該ラジカル重合性モノマーを少なくとも1つの界面活性剤の存在下、または超音波により、分散または乳化させる予備工程を含む、請求項8から10のいずれか1つに記載の調製方法。
【請求項12】
前記方法が以下の工程を含む、請求項8から10のいずれか1つに記載の調製方法:
a)前記少なくとも1つのラジカル重合性モノマーを、前記少なくとも1つの溶媒および任意の少なくとも1つの化学的開始剤の存在下、該モノマーと異なる少なくとも1つの接着プライマーを含む溶液に添加すること、
b)工程(a)で得られた溶液を、前記接着プライマーおよび場合により前記化学的開始剤に基づいて前記ラジカル体の形成を可能とする非電気化学的条件下におくこと、
c)固体支持体の表面を工程(b)の溶液と接触する状態におくこと。
【請求項13】
前記方法が以下の工程を含む、請求項8から10のいずれか1つに記載の調製方法:
a´)固体支持体の表面を、少なくとも1つの溶媒、ならびに、場合により前記少なくとも1つの化学的開始剤および前記少なくともモノマーの存在下、前記少なくとも1つの接着プライマーを含む溶液と接触する状態におくこと、
b´)固体支持体の表面を、前記接着プライマーおよび場合により前記化学的開始剤に基づいてラジカル体の形成を可能とする非電気化学的条件下で工程(a´)の溶液と接触する状態におくこと、
c´)場合により、前記少なくとも1つのラジカル重合性モノマーを、工程(b´)で得られた溶液に添加すること。
【請求項14】
前記方法が、前記有機フィルムを機能化するさらなる工程を有する、請求項1から13のいずれか1つに記載の調製方法。
【請求項15】
前記機能化が、前記有機フィルムをキレート構造を有する少なくとも1つのグラフトを含む機能化溶液と接触させる状態におくことにより行なわれる、請求項14に記載の調製方法。
【請求項16】
前記機能化が、前記有機フィルムを少なくとも1つの生体分子のグラフト誘導体を含む機能化溶液と接触させる状態におくことにより行われる、請求項14に記載の調製方法。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか1つに記載の方法に従って調製された有機フィルムにより被覆された固体支持体からナノ物体(NBs)を含む有機フィルムを調製する方法であって、支持体の表面を懸濁溶媒中の少なくとも1つのナノ物体(NB)の懸濁液と接触する状態にし、該フィルムと該ナノ物体が物理化学的親和性を有している、方法。
【請求項18】
前記NBsが合体剤の作用下で合体させることができ、NBsを含むフィルムで被覆された前記支持体の表面の少なくとも1つの部分が、合体剤にさらされる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
(a´´)請求項17に規定された方法に従って、ナノ物体(NBs)を含む有機フィルムを固体支持体の表面に調製すること、
(b´´)工程(a´´)で調製されたフィルムを、該NBsによって還元されることが可能である少なくとも1つの金属塩を含む溶液と接触する状態におくこと、
からなる工程を含む、固体支持体の表面に調製された有機フィルムを金属化する方法。
【請求項20】
有機フィルムがグラフトされた非導電性固体支持体であって、該フィルムの該非導電性支持体と共有結合している第1のユニットが請求項2または3に規定された接着プライマーの誘導体である、非導電性固体支持体。
【請求項21】
前記有機フィルムがNBsを含む、請求項20に記載の有機フィルムがグラフトされた非導電性固体支持体。
【請求項22】
― 請求項2または3に規定された少なくとも1つの接着プライマーを含む溶液を含む第1の区画、
― 任意に、請求項8から10のいずれか1つに規定された接着プライマーとは異なる少なくとも1つのラジカル重合性モノマーを含む溶液を含む第2の区画、および、
― 場合により、少なくとも1つの化学重合性プライマーを含む溶液を含む第3の区画を含む、固体支持体の表面に本質的にポリマー性の有機フィルムを調製するためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図6A】
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【図6B】
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【図10】
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【図16A】
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【図16B】
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【図19A】
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【図19B】
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【図20A】
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【図20B】
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【図21A】
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【図21B】
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【図22A】
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【図22B】
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【公表番号】特表2010−513647(P2010−513647A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542154(P2009−542154)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【国際出願番号】PCT/FR2007/052556
【国際公開番号】WO2008/078052
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(502124444)コミッサリア タ レネルジー アトミーク (383)
【Fターム(参考)】