説明

非骨軟骨性の間葉組織由来の多能性細胞の同定および単離

【課題】非骨軟骨性の間葉組織由来の多能性細胞の同定および単離について開示する。
【解決手段】非骨軟骨性の間葉組織由来の多能性細胞の同定および単離に関する。具体的には本発明は、CD9、CD10、CD13、CD29、CD44、CD49A、CD51、CD54、CD55、CD58、CD59、CD90、およびCD105のマーカーについて陽性であること、ならびにCD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD34、CD45、CD49f、CD102、CD104、CD106、およびCD133のマーカーの発現を欠くことを特徴とする、非骨軟骨性の間葉組織から単離された成体多能性成体細胞もしくは細胞集団、またはこれらの細胞を含む組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、非骨軟骨性の間葉組織から単離され、および一連の細胞表面マーカーの有無を特徴とする、単離された多能性成体細胞に関する。本発明は、このような細胞の集団を同定および単離する方法、ならびにこの応用、例えば組織の修復および再生用の薬学的組成物の製造における適用にも関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
幹細胞は、自身を維持すること、および1種類または複数の細胞のタイプに分化することが可能なために、差次的な特徴を示す。幹細胞、およびこの応用に関する研究は未だ初期段階にあるが、骨髄に含まれる成体幹細胞は30年以上にわたって移植に使用されている。このような状況であるにもかかわらず近年では、幹細胞技術は大きな進歩を遂げており、幹細胞は現在、組織の修復および再生のための治療における重要な可能性を秘めた、組織および器官の有望な供給源と見なされている。
【0003】
幹細胞の使用は、軟骨、骨、および筋肉の病変、神経変性疾患、免疫拒絶、心疾患、および皮膚疾患を含む、複数のヒト疾患、特に機能細胞が失われる疾患の代替療法の1つである(米国特許第5,811,094号、第5,958,767号、第6,328,960号、第6,379,953号、第6,497,875号を参照)。
【0004】
細胞療法における適用に加えて、幹細胞には、新薬の研究および開発における応用の可能性がある。一方で、幹細胞の増殖および分化に関連する機構の研究は、細胞の発生および分化、ならびに新生物形成過程を含む、さまざまな生物学的過程に関与する新たな遺伝子の探索および解析の過程において極めて重要である(Phillips et al., 2000;Ramalho-Santos et al., 2002;Ivanova et al., 2002)。一方、幹細胞技術によって、特殊化した細胞の作製、ならびに新活性成分の有効性および毒性を前臨床段階で決定可能な、ヒトおよび動物の疾患の細胞モデルの開発が可能となっている(米国特許第6,294,346号)。
【0005】
成体の体性幹細胞は、分化した組織中に存在し、ならびに増殖し、および1種類もしくは複数の細胞のタイプに分化する能力を有する未分化の細胞である。成体幹細胞は、さまざまな成体組織中に存在し、その存在は、骨髄、血液、角膜、網膜、脳、筋肉、骨格、歯髄、胃腸上皮、肝臓、および皮膚に関して数多く報告されている(Jiang et al., 2002)。その性質から、成体幹細胞を同一個体を対象とした条件で使用可能であり、このために免疫学的に適合し、かつその使用は倫理上の問題を何ら生じない。
【0006】
成体幹細胞は、それが存在する組織に統合され、かつ任意の組織の特殊な機能を発揮可能な、成熟した表現型を有する、完全に分化した細胞を生じることになる。「表現型」という表現は、特徴的な形態、他の細胞および細胞外基質との相互作用、細胞表面タンパク質(表面マーカー)、ならびに特徴的な機能などの、細胞の観察可能な特徴を意味する。
【0007】
さまざまな組織の修復に寄与し得る、成体幹細胞のさまざまな集団が報告されている。このような集団のなかでは、中胚葉起源の集団が特に注目される。なぜなら骨、軟骨、腱、骨格筋、心筋、血管内皮、皮下脂肪、および骨髄間質などの、多数の臨床的に極めて重要な結合組織を再生する理論的な可能性を提供するからである。単離された、このタイプの最初の細胞集団は、骨髄間質中に存在する、いわゆる間葉幹細胞(MSC)であった(Friedenstein et al., 1976;Caplan et al., 1991;Pittenger et al., 1999)。この細胞は解析が十分に進んでおり、ならびにこの細胞を使用して実施された研究では、脂肪細胞(Beresford et al., 1992)、軟骨細胞(Johnstone et al., 1998)、筋芽細胞(Wakitani et al., 1995)、および骨芽細胞(Haynesworth et al., 1992)などの多様な間葉細胞系列に分化可能なことが報告されている。同様に、この細胞はニューロンに分化する能力も有する(Sanchez-Ramos et al., 2000)。
【0008】
成体幹細胞の理想的な供給源は、容易で非侵襲的な過程で入手可能な供給源、および十分な数の細胞の単離が可能となる供給源である。特に供給源は、生きている対象から、有意なリスクおよび不快感なく容易に単離可能な幹細胞を提供すべきであり、および供給源は、単離および培養に過剰なコストをかけずに、他の細胞のタイプの混入を最小限に抑えて高収量で得られることが可能であるべきである。
【0009】
骨髄を得る過程は、強い痛みを伴い、かつ収量は極めて少なく、臨床的に意味のある量を得るためには、エクスビボにおける増殖によって細胞数を増やす必要がある。この段階の導入はコストを引き上げ、および手順にかかる時間を長くし、ならびに汚染および材料喪失のリスクが高まる。こうした理由のため、骨髄以外の間葉組織から多能性細胞が単離可能であることが非常に望ましいと考えられる。特に、外科手術が可能であることを考え、皮膚組織、脂肪組織、および筋肉組織などを含むがこれらに限定されない、非骨軟骨性の中胚葉性組織から細胞を単離可能であれば都合がよい。
【0010】
胚の中胚葉に由来する軟部組織中の多能性成体細胞に多様な集団が存在することが、複数の研究者によって報告されている。例えば多能性細胞が哺乳類の骨格筋および他の結合組織から得られることが報告されている(Young et al., 1993, Rogers et al., 1995)。多能性細胞は、ヒトの脂肪吸引組織からも得られる(Zuk et al., 2001)。成体の結合組織から単離される多能性細胞の別の例は、骨髄から得られるいわゆる多能性成体前駆細胞(Multipotent Adult Progenitor Cells; MAPC)である(Jiang et al., 2002)。原理的には、単離される細胞集団はどのようなものでも、骨髄のMSCと類似の様式で、結合組織の修復および再生に使用可能である(Caplan et al., 2001)。しかしながら、MAPCを除いて、現時点で表現型レベルにおいて十分に特性が解析された集団は存在しない。したがって、多能性成体細胞の存在は、現在の当技術分野では、さまざまな結合組織で報告されているが、軟部組織から得られる異なる多能性細胞を同定し、およびそれらのタイプを明確に区別すること、または実質的に純粋な集団を得ることは不可能である。
【0011】
現在、幹細胞の表現型解析は、特に細胞表面受容体などのマーカーの決定;ならびにインビトロ培養における分化能力の見極めを含む。個々の細胞のタイプは、表面マーカーの特定の組み合わせを有する。すなわち特定の細胞のタイプが他のタイプと区別されることを特徴づける、特定の発現プロファイルを有する。
【0012】
[Linneg/low、Thy1.1low、c-Kithigh、Sca-1+j]、[Lin-、Thy1.1low、Sca-1+、ローダミン123low](Morrison, S.J. et al., 1995)、または[Lin-、CD34-/int、c-Kit+、Sca-1+](Osawa, M. et al., 1996)などの表面マーカーのさまざまな組み合わせが、マウス骨髄に由来する造血幹細胞の実質的に純粋な集団の同定および単離に使用されている。同様に、マーカーの類似の組み合わせが、ヒトの造血幹細胞[Lin-、Thy1+、CD34+、CD38neg/low]の集団の濃縮に使用されている(Morrison, S.J. et al., 1995)。
【0013】
現在、損なわれる細胞(compromised cell)、および分化する細胞に関連するマーカーが、多様な多能性の成体間葉細胞集団にどのくらい存在するのかも不明である。例えば、多能性の成体間葉細胞の濃縮に広く使用されているマーカーはCD44(ヒアルロン酸受容体)である。それにもかかわらずCD44は、さまざまなタイプの、損なわれる細胞、および分化する細胞のタイプにも存在する。どのマーカーが幹細胞と関連して、程度の高い分化を示す細胞との区別が可能となるかは不確実であることに加え、成体細胞中に存在する幹細胞のパーセンテージは低いことから、多能性の成体間葉細胞の集団を同定し、および単離することは困難となっている。
【0014】
多能性成体細胞を使用する上での重大な短所は、多能性成体細胞を得るための現在の供給源の大半に他の細胞のタイプが混入することで、治療目的または他の目的で使用するために多能性成体細胞の集団を同定し、単離し、および解析する過程を複雑なものとする他の細胞のタイプが混入するという事実である。したがって、実質的に純粋な状態で、単離された多能性成体細胞の集団を得ることに関心が持たれている。
【0015】
非骨軟骨性の間葉組織に由来する多能性成体細胞集団の特性を解析することで、同定および単離の方法の設計、ならびに自己再生と関連する成長因子の同定が可能となる。さらに、分化の初期相と関連する成長因子が存在する可能性があり、こうした成長因子に関する知見は、より効率的なインビボおよびエクスビボにおける分化、ならびに幹細胞の増殖の制御の実施を可能とするであろう。
【0016】
本発明は、多能性を持つことを示す、細胞表面に存在する免疫表現型マーカーによって単離され、および解析された非骨軟骨性の間葉組織に由来する、好ましくは脂肪組織に由来する多能性成体細胞集団を提供する。
【0017】
同様に本発明は、多能性成体細胞の集団を、実質的に均質な多能性幹細胞マーカーの組成の獲得を可能とする、特徴的な免疫表現型マーカーのパターンに依存して、非骨軟骨性の間葉組織から同定および単離する方法を提供する。
【発明の概要】
【0018】
発明の簡単な説明
ある局面では、本発明は、(a)非骨軟骨性の間葉組織から単離され;(b)CD9<+>、CD10<+>、CD13<+>、CD29<+>、CD44<+>、CD49a<+>、CD51<+>、CD54<+>、CD55<+>、CD58<+>、CD59<+>、CD90<+>、およびCD105<+>を発現し;ならびに(c)CD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD34、CD45、CD49f、CD102、CD104、CD106、およびCD133の発現を欠く、以下、本発明の多能性成体細胞と記載する、単離された多能性成体細胞に関する。本発明の多能性成体細胞は、増殖する能力、およびさまざまな細胞系列に分化する能力を示す。特定の態様では、本発明の多能性成体細胞は、骨表現型細胞、筋肉表現型細胞、およびニューロン表現型細胞に分化可能である。
【0019】
別の局面では、本発明は、本発明の多能性成体細胞を含むか、または本発明の多能性成体細胞からなる、単離された細胞集団に関する。ある態様では、このような細胞集団はほぼ、すなわち実質的に均質である。
【0020】
別の局面では、本発明は、本発明の多能性成体細胞または本発明の多能性成体細胞の細胞集団を含む、実質的に均質な細胞組成物に関する。
【0021】
別の局面では、本発明は、単離された本発明の多能性成体細胞に由来する、特殊化した細胞の少なくとも1つの特徴を発現する細胞に関する。ある態様では、本発明は、少なくとも1つの特徴が、上皮細胞、内皮細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞、骨細胞、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、肝細胞、心筋細胞、および膵臓細胞からなる群より選択される細胞である、特殊化した細胞の少なくとも1つの特徴を発現する細胞に関する。単離された本発明の多能性成体細胞に由来する、特殊化した細胞の少なくとも1つの特徴を発現する細胞を含む単離された細胞集団は、本発明の別の局面である。
【0022】
別の局面では本発明は、以下の段階を含む、単離された本発明の多能性成体細胞を得る方法に関する:
(a)非骨軟骨性の間葉組織を採取する段階;
(b)酵素による消化によって細胞懸濁物を得る段階;
(c)細胞を沈降させ、細胞を適切な培地に再懸濁する段階;ならびに
(d)細胞を培養し、結合を示さない細胞を除去する段階。
【0023】
このような方法で得られ、および単離された細胞は、本発明の多能性成体細胞の特徴を含む。すなわち(a)非骨軟骨性の間葉組織から単離され;(b)CD9、CD10、CD13、CD29、CD44、CD49A、CD51、CD54、CD55、CD58、CD59、CD90、およびCD105のマーカーについて陽性であり;ならびに(c)CD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD34、CD45、CD49f、CD102、CD104、CD106、およびCD133のマーカーの発現を欠く。加えて、このような細胞は、増殖する能力、およびさまざまな細胞系列に分化する能力を示す。
【0024】
好ましい態様では、非骨軟骨性の間葉組織は、結合組織、好ましくは脂肪組織である。さらに別の好ましい態様では、本発明の多能性成体細胞は、遺伝的に修飾可能である。
【0025】
別の局面では、本発明は、以下の段階を含む、単離された本発明の多能性成体細胞を含むか、または単離された本発明の多能性成体細胞からなる、多能性成体細胞の集団を同定する方法に関する:
(a)細胞を、対象集団に特徴的な1つもしくは複数の特徴的なマーカーに特異的に結合する標識化合物と共にインキュベートする段階;および
(b)細胞と特異的に結合する化合物間の結合の有無を検出する段階。
【0026】
好ましい態様では、このような特異的に結合する化合物は抗体である。
【0027】
別の局面では、本発明は、以下の段階を含む、本発明の多能性成体細胞の集団を単離する方法に関する:
(a)非骨軟骨性の間葉組織を採取する段階;
(b)酵素による消化で組織から細胞懸濁物を得る段階;
(c)細胞懸濁物を、対象集団に特徴的な1つもしくは複数の表面マーカーに特異的に結合する標識化合物と共にインキュベートする段階;および
(d)マーカーの発現プロファイルを有する細胞を選択する段階。
【0028】
表面マーカーの有無は、対象細胞を特徴づけ、引いては対象細胞集団を特徴づける。本発明の多能性成体細胞の特徴的なマーカーの発現プロファイルを有する細胞が最終的に選択される。
【0029】
好ましい態様では、単離法は、CD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD34、CD45、CD49f、CD102、CD104、CD106、およびCD133からなる群より選択されるマーカーに特異的に結合する標識化合物との結合を示す細胞を除外する負の選択と、ならびにこれに続く、CD9、CD10、CD13、CD29、CD44、CD49a、CD51、CD54、CD55、CD58、CD59、CD90、およびCD105からなる群より選択されるマーカーに特異的に結合する標識化合物と結合する細胞を選択する正の選択を実施する段階からなる。好ましくは、特異的に結合する標識化合物は抗体である。
【0030】
別の局面では、本発明は、治療に使用される、例えば薬物として使用される、本発明の多能性成体細胞、または本発明の多能性成体細胞の集団に関する。ある態様では、本発明は、組織の修復および再生に使用される、本発明の多能性成体細胞、または本発明の多能性成体細胞の集団に関する。
【0031】
したがって別の局面では、本発明は、本発明の多能性成体細胞、または本発明の多能性成体細胞の集団、および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物に関する。好ましい態様では、このような薬学的組成物は、組織の修復および再生に有用である。
【0032】
さらに別の局面では、本発明は、組織の修復および再生用の薬学的組成物の製造を製造するための、本発明の多能性成体細胞、または本発明の多能性成体細胞の細胞集団の使用に関する。
【0033】
他の局面では、本発明は、このような薬学的組成物を、処置を必要とする患者に投与する段階を含む治療法にも関する。ある態様では、このような治療法は、組織の修復または再生のための治療法である。
【0034】
別の局面では、本発明は、以下の段階を含む、生物学的薬剤もしくは薬学的薬剤に対する、またはこれらの薬剤のコンビナトリアルライブラリーに対する、インビトロもしくはインビボにおける細胞反応を評価する方法に関する:
(a)ほぼ均質である、本発明の多能性成体細胞の細胞集団を単離する段階;
(b)細胞集団を培養して増殖させる段階;
(c)生物学的薬剤もしくは薬学的薬剤、またはこれらの薬剤のコンビナトリアルライブラリーを対象細胞集団に供し、およびこれらの薬剤の、培養細胞に対する効果を評価する段階。
【0035】
ある態様では、段階(a)の本発明の多能性成体細胞の集団は、個体から、または統計的に有意な個体集団から単離される。他の態様では、段階(a)の本発明の多能性成体細胞の細胞集団は、ほぼ、すなわち実質的に均質である。別の態様では、段階(c)に先だって、細胞を特定のタイプの細胞に分化させる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1−1】健康なドナーの脂肪吸引試料から単離された細胞から得られた表面マーカーのプロファイルに対応する、蛍光免疫細胞数測定のヒストグラムを示す。得られた結果から、細胞培養物中の検討対象マーカーが経時的に変化することが明らかであり、個々の場合で、解析対象細胞が特定の時間存在することがわかる。図1aは、0日目におけるマーカーの発現を示す。図1bは、培養7日目におけるマーカーの発現を示す。図1cは、培養開始から4週間後におけるマーカーの発現を示す。図1dは、培養開始から3か月後におけるマーカーの発現を示す。
【図1−2】図1-2は、図1-1の続きを示す図である。
【図1−3】図1-3は、図1-2の続きを示す図である。
【図1−4】図1-4は、図1-3の続きを示す図である。
【図1−5】図1-5は、図1-4の続きを示す図である。
【図1−6】図1-6は、図1-5の続きを示す図である。
【図1−7】図1-7は、図1-6の続きを示す図である。
【図1−8】図1-8は、図1-7の続きを示す図である。
【図1−9】図1-9は、図1-8の続きを示す図である。
【図2−1】第2の健康なドナーに由来する脂肪吸引試料から単離された細胞から得られた表面マーカーのプロファイルに対応する、蛍光免疫細胞数測定のヒストグラム。得られた結果から、細胞培養物中の検討対象マーカーが経時的に変化することが明らかであり、個々の場合で、解析対象細胞が特定の時間存在することがわかる。図2aは、0日目におけるマーカーの発現を示す。図2bは、培養7日目におけるマーカーの発現を示す。図2cは、培養開始から4週間後におけるマーカーの発現を示す。図2dは、培養開始から3か月後におけるマーカーの発現を示す。
【図2−2】図2-2は、図2-1の続きを示す図である。
【図2−3】図2-3は、図2-2の続きを示す図である。
【図2−4】図2-4は、図2-3の続きを示す図である。
【図2−5】図2-5は、図2-4の続きを示す図である。
【図2−6】図2-6は、図2-5の続きを示す図である。
【図2−7】図2-7は、図2-6の続きを示す図である。
【図2−8】図2-8は、図2-7の続きを示す図である。
【図2−9】図2-9は、図2-8の続きを示す図である。
【図3−1】第3の健康なドナーに由来する脂肪吸引試料から単離された細胞から得られた表面マーカーのプロファイルに対応する、蛍光免疫細胞数測定のヒストグラム。得られた結果から、細胞培養物中の検討対象マーカーが経時的に変化することが明らかであり、個々の場合で、解析対象細胞が特定の時間存在することがわかる。図3aは、0日目におけるマーカーの発現を示す。図3bは、培養7日目におけるマーカーの発現を示す。図3cは、培養開始から4週間後におけるマーカーの発現を示す。図3dは、培養開始から3か月後におけるマーカーの発現を示す。
【図3−2】図3-2は、図3-1の続きを示す図である。
【図3−3】図3-3は、図3-2の続きを示す図である。
【図3−4】図3-4は、図3-3の続きを示す図である。
【図3−5】図3-5は、図3-4の続きを示す図である。
【図3−6】図3-6は、図3-5の続きを示す図である。
【図3−7】図3-7は、図3-6の続きを示す図である。
【図3−8】図3-8は、図3-7の続きを示す図である。
【図3−9】図3-9は、図3-8の続きを示す図である。
【図4】骨形成培地で3週間インキュベートした細胞の顕微鏡写真。図4aは、ヒト骨髄に由来する間葉幹細胞(陽性対照)を示す。図4bは、骨形成培地で最初の1週間インキュベートした本発明の細胞、非骨軟骨性の間葉組織に由来する多能性成体細胞を示す。図4cは、第2週を骨形成培地でインキュベートした本発明の多能性成体細胞を示す。図4dは、第3週を骨形成培地でインキュベートした本発明の多能性成体細胞を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
発明の詳細な説明
非骨軟骨性の間葉組織(「軟部組織」)から、多能性成体細胞の限定的な集団を得るのに有用な同定法および単離法を設計する目的で、皮下脂肪組織から得られた、単離されて間もないヒト間葉細胞の表現型を解析し、および表面マーカーの変化を細胞増殖中にインビトロで、ならびにさまざまな細胞系列に分化する能力も検討した。
【0038】
最初に、皮下脂肪組織に由来する成体細胞表面における一連の表面マーカーの発現を、単離されて間もない細胞についてはフローサイトメトリーで、および培養物の発生中もインビトロでモニタリングした。これを行うために、以下を含むがこれらに限定されない、一般に使用される一連のマーカーを使用して幹細胞を同定し、ならびに分化した細胞の特性を解析した:インテグリン、造血系マーカー、増殖因子受容体、および細胞外基質受容体(実施例1)。
【0039】
免疫表現型プロファイルの決定による、非骨軟骨性の間葉組織に由来する多能性成体細胞の解析によって、特定の一連の表面マーカーの有無に関する対象集団の決定が可能となる。このようなマーカーは、集団の同定、ならびにその単離または精製の戦略の設計を可能とする有用なツールを含む、特定の抗体を使用して同定可能なエピトープである。
【0040】
続いて解析終了後に、単離された細胞を対象に、その多能性の存在を明らかにする目的で分化アッセイ法を行った。これを行うために、単離され、および解析された細胞を、特殊化した細胞の少なくとも1つの特徴を発現する細胞に、インビトロで分化するように誘導した。本発明の多能性成体細胞の、さまざまな特定の細胞のタイプへの分化を誘導するのに使用可能な方法は当業者に既知であり、およびその一部については、本発明の多能性成体細胞の、それぞれ骨表現型細胞、筋肉表現型細胞、およびニューロン表現型細胞へのインビトロ分化を示す実施例2、3、および4で詳細に説明されている。
【0041】
したがって、ある局面では、本発明は、(a)非骨軟骨性の間葉組織から単離され;(b)CD9<+>、CD10<+>、CD13<+>、CD29<+>、CD44<+>、CD49a<+>、CD51<+>、CD54<+>、CD55<+>、CD58<+>、CD59<+>、CD90<+>、およびCD105<+>を発現し;ならびに(c)CD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD34、CD45、CD49f、CD102、CD104、CD106、およびCD133の発現を欠く、以下、本発明の多能性成体細胞と記載する、単離された多能性成体細胞に関する。
【0042】
本発明の多能性成体細胞を含むか、本発明の多能性成体細胞からなる、単離された細胞集団は、本発明の別の局面である。特定の態様では、このような細胞集団はほぼ、すなわち実質的に均質である。
【0043】
本発明の多能性成体細胞は、非骨軟骨性の間葉組織から単離される。「非骨軟骨性の間葉組織」という表現は、軟骨および骨髄以外の間葉組織を意味する。非骨軟骨性の中胚葉性組織は、本明細書では「軟部組織」とも呼ばれる。非骨軟骨性の中胚葉性組織の説明目的の非制限的な例は、皮膚組織、脂肪組織、および筋肉組織を含む。特定の態様では、本発明の多能性成体細胞は皮下脂肪組織から単離される。
【0044】
本発明の多能性成体細胞は、ヒトを含む任意の適切な動物に由来する非骨軟骨性の間葉組織の任意の適切な供給源から得られる。一般に、このような細胞は、非病原性の出生後の哺乳類の非骨軟骨性の間葉組織から得られる。好ましい態様では、本発明の多能性成体細胞は、皮下脂肪組織などの非骨軟骨性の間葉組織の供給源から得られる。特定の態様では、本発明の多能性成体細胞は、例えば齧歯類や霊長類などの哺乳類から、好ましくはヒトからも単離される。
【0045】
本発明の多能性成体細胞は、一連のマーカーの有無も特徴とする。すなわち、このような細胞は、(i)いくつかのマーカーについて陽性であること[CD9<+>、CD10<+>、CD13<+>、CD29<+>、CD44<+>、CD49a<+>、CD51<+>、CD54<+>、CD55<+>、CD58<+>、CD59<+>、CD90<+>、およびCD105<+>]、ならびに(ii)いくつかのマーカーについて陰性であること[CD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD34、CD45、CD49f、CD102、CD104、CD106、およびCD133]を特徴とする。
【0046】
本発明の多能性成体細胞、または同細胞を含む細胞集団の、表面マーカーによる表現型解析は、細胞の個別の染色(フローサイトメトリー)によって、または従来の方法によるインサイチューにおける集団の組織切片の作製のいずれかによって、従来の手順で実施可能である。特定の態様では、本発明の多能性成体細胞上における、このような表面マーカーの発現は、フローサイトメトリーでモニタリングすることができる。
【0047】
本発明の多能性成体細胞、またはこのような細胞を含むか、またはこのような細胞からなる細胞集団の、免疫表現型プロファイルによる解析で、対象となる細胞または細胞集団を、特定の一連の表面マーカーの有無に関して判定することができる。このようなマーカーは、集団の同定を可能とする、ならびに、これらの単離および精製の戦略の設計を可能とする有用なツールを含む、特定の抗体で同定可能なエピトープである。このような表面マーカーに対するモノクローナル抗体を使用することで、本発明の多能性成体細胞を同定することができる。
【0048】
抗体による表面マーカーのプロファイルの決定(免疫表現型解析)は、標識抗体を使用して直接的に決定可能なほか、細胞マーカーの一次特異的抗体に対する二次標識抗体を使用してシグナルの増幅を達成することで間接的に決定することができる。
【0049】
一方で、抗体の結合の有無は、免疫蛍光顕微鏡法や放射線撮影法を含むがこれらに限定されない、さまざまな方法で判定することができる。同様に、抗体の結合レベルを、蛍光色素のレベルを、標識抗体と特異的に結合する細胞表面に存在する抗原の量と相関させることが可能な手法であるフローサイトメトリーでモニタリングを実施することが可能である。
【0050】
同定および単離のアッセイ法では、細胞集団を、アッセイ法がそれぞれ直接的な検出法か、または間接的な検出法によって実施されるか否かに依存して、標識されているか、もしくは標識されていない特異的な試薬に接触させる。「特異的な試薬」という表現は、いくつかの特異的な結合対;抗原と抗体の結合対、MHC抗原とT細胞受容体を含む対、相補的なヌクレオチド配列、ならびにペプチドリガンドとその受容体の対を含むがこれらに限定されない、特異的な結合対の構成員を意味する。特異的な結合対は、結合対の特異的な構成員の類似体、断片、および誘導体を含む。
【0051】
親和性を有する試薬として、抗体の使用が特に注目される。特異的なモノクローナル抗体の作製法は当業者に明らかである。細胞集団を同定または分離する実験では、抗体が標識される。この目的のために使用されるマーカーは、抗体が結合した細胞のタイプの同定または分離を可能とする磁気粒子、ビオチン、および蛍光色素を含むがこれらに限定されない。したがって例えば、フローサイトメトリーによる、本発明の多能性成体細胞を含む細胞集団の解析によって、さまざまな波長で放出する蛍光色素で標識された多様な抗体を同じ試料中で使用することが可能となる。したがって、このような表面マーカーに関して、集団の特異的なプロファイルを知ること、ならびに使用される一連のマーカーに関して分離を実施することが可能である。
【0052】
対象表現型を示す集団の分離を、(特異的な抗体でコーティングされた磁気粒子を使用する)磁性分離、アフィニティクロマトグラフィー、モノクローナル抗体と結合する細胞障害剤を含む、親和性による分離法で実施可能なほか、モノクローナル抗体と、固体支持体に結合した抗体によるパニングとともに使用すること、ならびに他の適切な手法で実施することが可能である。より正確な分離は、細胞集団の分離を、染色の強度に加えて、細胞のサイズや細胞の複雑性などの他のパラメータによって可能とする手法であるフローサイトメトリーで得られる。
【0053】
本発明の多能性成体細胞は、増殖する能力、およびさまざまな細胞系列に分化する能力を示す。本発明の多能性成体細胞が分化され得る細胞系列の説明目的の非制限的な例は例えば、骨表現型細胞、筋肉表現型細胞、およびニューロン表現型細胞を含む。
【0054】
本発明の多能性成体細胞は、従来の方法で増殖させること、および他の系列の細胞に分化させることが可能である。分化した細胞を同定後に、未分化の細胞から単離する方法も、当技術分野で周知の方法で実施することができる。
【0055】
本発明の多能性成体細胞は、エクスビボで増殖させることもできる。すなわち単離後に、本発明の多能性成体細胞を維持し、およびエクスビボで培地中で増殖させることができる。このような培地は例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、抗生物質、およびグルタミンを含み、ならびに通常は2〜20%のウシ胎児血清(FBS)が添加される。培地および/または培地添加物の濃度を、使用される細胞に関して、必要に応じて修飾または調節することは、当業者の能力の範囲内にある。血清は、生存および増殖に必要な細胞因子および細胞成分を含むことがしばしばある。血清の例には、FBS、ウシ血清(BS)、仔ウシ血清(CS)、ウシ胎児血清(FCS)、新生ウシ血清(NCS)、ヤギ血清(GS)、ウマ血清(HS)、ブタ血清、ヒツジ血清、ウサギ血清、ラット血清(RS)などがある。本発明の多能性成体細胞がヒトに由来する場合は、細胞培地へのヒト血清、好ましくは自家起源のヒト血清の添加も想定される。血清は、補体カスケードの成分を不活性化させることが必要であると判断されれば、55〜65℃に加熱して不活性化させることが可能であると理解される。血清濃度の調節、培地からの血清除去を、1種類または複数の所望の細胞のタイプの生存を促進するために使用することができる。好ましくは、本発明の多能性成体細胞は、約2%〜約25%のFBS濃度によって利益を得る。別の態様では、本発明の多能性成体細胞は、血清が、血清アルブミン、血清トランスフェリン、セレン、および以下を含むがこれらに限定されない組換えタンパク質の混合物と置換される、組成の明確な培地で増殖させることができる:インスリン、血小板由来増殖因子(PDGF)、および塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)。
【0056】
多くの細胞培地は当初からアミノ酸を含むが;一部の培地は、細胞の培養前に添加する必要がある。このようなアミノ酸は、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン酸、L-アスパラギン、L-システイン、L-シスチン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-グリシンなどを含むがこれらに限定されない。
【0057】
抗菌剤も典型的には、細菌、マイコプラズマ、および真菌の混入を抑えるために細胞培養に使用される。典型的には、使用される抗生物質または抗真菌化合物は、ペニシリン/ストレプトマイシンの混合物であるが、アンホテリシン(Fungizone(登録商標))、アンピシリン、ゲンタマイシン、ブレオマイシン、ハイグロマイシン、カナマイシン、マイトマイシンなどを含む場合もあるがこれらに限定されない。
【0058】
ホルモンも利便性を考慮して細胞培養に使用される場合があり、およびD-アルドステロン、ジエチルスチルベストロール(DES)、デキサメタゾン、b-エストラジオール、ヒドロコルチゾン、インスリン、プロラクチン、プロゲステロン、ソマトスタチン/ヒト成長ホルモン(HGH)などを含むがこれらに限定されない。
【0059】
本発明の多能性成体細胞の維持条件は、細胞を未分化の状態で留めることを可能とする細胞因子を含む場合もある。分化に先立ち、細胞の分化を阻害する添加物を培地から除去しなくてはならないことは当業者には明らかである。必ずしも全ての細胞が、このような因子を必要とするわけではないことも明らかである。実際に、このような因子は、細胞のタイプによっては、望ましくない作用を誘発する恐れがある。
【0060】
本発明の多能性成体細胞は、少なくとも1種類の対象ポリペプチドを発現するようにトランスフェクトするか、または遺伝的に改変することが可能である。ある態様では、対象ポリペプチドは、組織の修復または再生に関与する遺伝子の発現の誘導または増加を可能とする産物である。
【0061】
別の局面では、本発明は、以下の段階を含む、単離された本発明の多能性成体細胞を得る方法に関する:
(a)非骨軟骨性の間葉組織を採取する段階;
(b)酵素による消化で細胞懸濁物を得る段階;
(c)細胞を沈降させ、細胞を適切な培地に再懸濁する段階;ならびに
(d)細胞を固体表面で培養し、固体表面への結合を示さない細胞を除去する段階。
【0062】
このような方法で得られた細胞は、本発明の多能性成体細胞の特徴を含む。
【0063】
本明細書で用いる「固体表面」という表現は、本発明の多能性成体細胞の結合を可能とする任意の材料を意味する。特定の態様では、このような材料は、その表面への哺乳類細胞の結合を促すように処理されたプラスチック材料である。
【0064】
段階(a)〜(d)は、当業者に既知の従来の手法で実施することができる。簡単に説明すると、本発明の多能性成体細胞は、従来の手段で、ヒトを含む任意の適切な動物に由来する非骨軟骨性の間葉組織の任意の適切な供給源から、例えばヒトの脂肪組織から得られる。動物は、その体内の非骨軟骨性の間葉組織細胞が生きている状態にある限りにおいては、個体として生きている場合もあれば死んでいる場合もある。典型的には、ヒトの脂肪細胞は、外科的または吸引による脂肪組織切除などの、よく知られたプロトコルを使用して、生きているドナーから得られる。実際には、脂肪吸引手順が非常に一般的なので、脂肪吸引で得られる流出液が、本発明の細胞の由来先となり得る、特に好ましい供給源である。したがって特定の態様では、本発明の多能性成体細胞は、脂肪吸引法で得られたヒトの皮下脂肪組織に由来する。
【0065】
非骨軟骨性の間葉組織の試料は好ましくは、洗浄後に処理される。あるプロトコルでは、非骨軟骨性の間葉組織の試料を、生理学的に適合する生理食塩水溶液(例えばリン酸緩衝食塩水(PBS))で洗浄後に、激しく攪拌して沈降させる。これは、遊離状物質(loose matter)(例えば損傷組織、血液、赤血球など)を組織から除去する段階である。したがって、洗浄過程および沈降過程は一般に、上清からデブリが総体的に除去されるまで繰り返される。残存する細胞は一般に、さまざまなサイズの塊として存在することとなるので、細胞そのものの損傷を最小限に抑えながら全体的な構造の分解を測定する段階を用いてプロトコルを進める。この目的を達成する1つの方法は、洗浄後の細胞塊を、細胞間結合を弱めるか、または破壊する酵素(例えばコラゲナーゼ、ディスパーゼ、トリプシンなど)で処理することである。このような酵素の量および処理期間は、使用される条件に依存して変わるが、このような酵素の使用は一般に当技術分野で既知である。このような酵素処理に代えて、または併用して、細胞塊を、機械的な攪拌、超音波エネルギー、熱エネルギーなどの他の処理法で分解することができる。仮に分解が酵素を使用する方法で達成されるのであれば、細胞に対する有害な作用を最小限に抑えるために、適切な期間をおいた後に酵素を中和することが望ましい。
【0066】
分解過程では典型的には、凝集状の細胞のスラリーまたは懸濁物、ならびに一般に遊離の間質細胞(例えば赤血球、平滑筋細胞、内皮細胞、線維芽細胞、および幹細胞)を含む流体フラクションを生じる。分離プロセスの次の段階では、凝集状態の細胞と本発明の細胞を分離する。これは、細胞を上清と沈殿に強制的に分ける遠心分離によって達成することができる。次に上清を捨て、ペレットを生理学的に適合する流体に懸濁させる。さらに、懸濁状の細胞は典型的には赤血球を含み、および大半のプロトコルでは、これを溶解することが好ましい。赤血球を選択的に溶解する方法は当技術分野で周知であり、および任意の適切なプロトコルを使用することができる(例えば、塩化アンモニウムによる溶解による高張培地または低張培地中でのインキュベーションなど)。赤血球が溶解対象の場合は、次に残存細胞を溶解物から、例えば濾過、遠心沈降、または密度分画(density fractionation)によって分離すべきであることは言うまでもない。
【0067】
赤血球が溶解するか否かにかかわらず、懸濁状の細胞を、高い純度を達成するために、1回もしくは連続して複数回洗浄し、再び遠心分離し、および再懸濁することが可能である。または細胞を、細胞表面マーカープロファイルを元に、または細胞のサイズおよび顆粒性を元に分離することができる。
【0068】
最終的な単離および再懸濁後に細胞を培養し、望ましいならば、数および生存状態を調べて収量を評価することができる。望ましくは、このような細胞は、分化させずに固体表面上で、適切な細胞培地を使用して、適切な細胞密度および培養条件で培養する。したがって特定の態様では細胞を、通常はペトリ皿や細胞培養フラスコなどのプラスチック材料製の固体表面上で、適切な細胞培地(例えば典型的には、ウシ胎児血清またはヒト血清などの5〜15%(例えば10%)の適切な血清を添加したDMEM)の存在下で、分化させることなく培養し、ならびに細胞の固体表面への結合、および増殖を可能とする条件下でインキュベートする。非結合状態の細胞および細胞の破片を除去するために、インキュベーション後に細胞を洗浄する。細胞は、同じ培地で、および同じ条件で、適切なコンフルエンシーに、典型的には約80%の細胞コンフルエンシーに達するまで、必要であれば細胞培地を交換することで、培養状態で維持する。所望の細胞コンフルエンシーに達した後に、細胞をトリプシンなどの剥離剤を使用し、およびより大きな細胞培養表面に適切な細胞密度(通常は2,000〜10,000細胞/cm2)で播くことで、連続的に継代する手段で増殖させることができる。細胞は、その発生表現型を失うことなく数回継代培養することができる。典型的には細胞を、約100細胞/cm2〜約100,000細胞/cm2(約500細胞/cm2〜約50,000細胞/cm2、または具体的には約1,000細胞/cm2〜約20,000細胞/cm2など)などの所望の密度でプレーティングする。仮に、より低い密度(例えば約300細胞/cm2)でプレーティングされる場合は、細胞は、より容易にクローン的に単離することができる。例えば数日後に、このような密度でプレーティングされた細胞は均質な集団に増殖する。特定の態様では、細胞密度は2,000〜10,000細胞/cm2である。
【0069】
固体表面に結合した状態で留まる細胞を選択し、以下に述べるように、本発明の多能性成体細胞であることを確認するために、その表現型を従来の方法で解析する。最終的に固体表面に結合した状態で留まる細胞は、本発明の多能性成体細胞の均質な細胞集団を含む。実施例1では、ヒト皮下脂肪組織からの本発明の多能性成体細胞の単離について詳細に説明する。
【0070】
通常、固体表面に結合した状態で留まる細胞は、所望の表現型を示すが、このような細胞が本発明で使用可能なことを確認する必要がある。したがって、固体表面への細胞の結合は、本発明の多能性成体細胞を選択する基準となる。対象の表現型であることの確認は、従来の手段で実施できる。
【0071】
細胞表面マーカーは、通常は正負の選択に基づく任意の適切な従来の手法で同定可能であり;例えば、細胞内における有無を確認する必要のある細胞表面マーカーに対するモノクローナル抗体を使用することが可能であるが;他の手法を使用することもできる。したがって特定の態様では、選択された細胞におけるマーカーの不在を確認するために、CD9、CD10、CD13、CD29、CD44、CD49a、CD51、CD54、CD55、CD58、CD59、CD90、およびCD105に対するモノクローナル抗体が使用され;ならびに選択された細胞中における該マーカーの不在を確認するために、CD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD34、CD45、CD49f、CD102、CD104、CD106、およびCD133に対するモノクローナル抗体が使用される。このようなモノクローナル抗体は既知であるか、または当業者であれば従来の方法で得ることができる。
【0072】
選択された細胞が、さまざまな細胞系列に分化する能力は、既に記載したように、従来の方法で調べることができる。
【0073】
本発明で提供される、本発明の多能性成体細胞および細胞集団は、望ましいならば、細胞集団をクローニングする適切な方法でクローン的に増殖させることができる。例えば、増殖した細胞集団を物理的に拾い上げ、および別のプレート(もしくはマルチウェルプレートのウェル)に播くことができる。または細胞をマルチウェルプレートに、1個の細胞が個々のウェルに確実に入るように統計的な比でサブクローニングすることができる(例えば0.5細胞/ウェルなどの、約0.1〜約1細胞/ウェル、またはさらには約0.25〜約0.5細胞/ウェル)。細胞が低密度で(例えばペトリ皿に、または他の適切な基材に)プレーティングされて、他の細胞から対象細胞を、クローニングリングなどの装置を使用して単離することでクローニング可能なことは言うまでもない。クローン集団の産生は、任意の適切な培地で拡大することができる。どのような状況であっても、単離された細胞を、発生表現型を評価可能な適切な点まで培養することができる。
【0074】
本発明者らが実施した他のアッセイ法では、本発明の細胞の、分化を誘導させることのない、エクスビボにおける増殖が、特別にスクリーニングされたロットの適切な血清(ウシ胎児血清またはヒト血清など)を使用することで、長期にわたって達成可能なことが判明した。生存および収量を測定する方法は、当技術分野で既知である(例えばトリパンブルー排出法)。
【0075】
本発明の細胞集団の細胞を単離する任意の段階および手順は、望ましいならばマニュアルで実施できる。または、このような細胞を単離するプロセスは、多くが当技術分野で既知の適切な装置を使用することで容易に実施できる。
【0076】
別の局面では、本発明は、以下の段階を含む、本発明の多能性成体細胞を含むか、または本発明の多能性成体細胞からなる、多能性成体細胞の集団を同定する方法に関する:
(a)細胞を、対象集団の1つもしくは複数の特徴的なマーカーに特異的に結合する標識化合物と共にインキュベートする段階;および
(b)細胞と特異的に結合する化合物の結合の有無を検出する段階。
【0077】
この方法は、本発明の細胞の免疫表現型解析に関して既に述べた手順で実施することができる。好ましい態様では、特異的に結合する化合物は抗体である。
【0078】
別の局面では、本発明は、以下の段階を含む、本発明の多能性成体細胞の集団を単離する方法に関する:
(a)非骨軟骨性の間葉組織を採取する段階;
(b)酵素による消化で組織から細胞懸濁物を得る段階;
(c)細胞懸濁物を、対象集団に特徴的な1つもしくは複数の表面マーカーに特異的に結合する標識化合物と共にインキュベートする段階;および
(d)マーカーの発現プロファイルを有する細胞を選択する段階。
【0079】
対象表面マーカーの有無は、対象細胞を特徴づけ、引いては対象細胞集団を特徴づける。本発明の多能性成体細胞の特徴的なマーカーの発現プロファイルを有する細胞が最終的に選択される。
【0080】
好ましい態様では、単離法は、CD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD34、CD45、CD49f、CD102、CD104、CD106、およびCD133からなる群より選択されるマーカーに特異的に結合する標識化合物との結合を示す細胞を除去する負の選択と、ならびにこれに続く、CD9、CD10、CD13、CD29、CD44、CD49a、CD51、CD54、CD55、CD58、CD59、CD90、およびCD105からなる群より選択されるマーカーに特異的に結合する標識化合物と結合する細胞を選択する正の選択を実施する段階からなる。好ましくは、特異的に結合する標識化合物は抗体である。
【0081】
この方法は、本発明の多能性成体細胞を得る方法に関連して上述した手順で実施することができる。
【0082】
本発明の多能性成体細胞、または本発明の多能性成体細胞の細胞集団は、細胞組成物中に存在する場合がある。したがって別の局面では、本発明は、本発明の多能性成体細胞、または本発明の多能性成体細胞の細胞集団を含む、実質的に均質な細胞組成物に関する。
【0083】
本発明の多能性成体細胞は、組織の修復および再生に使用することができる。したがって別の局面では、本発明は、治療用の、例えば薬物として使用するための本発明の多能性成体細胞、または本発明の多能性成体細胞の集団に関する。ある態様では、本発明は、組織の修復および再生に使用される、本発明の多能性成体細胞に関するか、または本発明の多能性成体細胞の集団に関する。
【0084】
別の局面では、本発明は、本発明の多能性成体細胞、または本発明の多能性成体細胞の集団、および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物に関する。好ましい態様では、このような薬学的組成物は、組織の修復および再生に有用である。
【0085】
2種類もしくはこれ以上のタイプの、本発明の多能性成体細胞の組み合わせは、本発明で提供される薬学的組成物の範囲に含まれる。
【0086】
本発明の薬学的組成物は、予防的または治療的に有効な量の、本発明の多能性成体細胞、または本発明の多能性成体細胞の細胞集団、および薬学的に許容される担体を含む。特定の態様では、「薬学的に許容される」という表現は、連邦政府もしくは州政府の規制機関によって承認されていること、または動物、具体的にはヒトにおける使用に関して米国薬局方もしくは欧州薬局方、または他の一般に認められる薬局方に記載されていることを意味する。「担体」という表現は、治療薬を投与するための希釈剤、アジュバント、賦形剤、または溶媒を意味する。組成物は、望ましいならば、微量のpH緩衝剤を含む場合もある。適切な薬学的担体の例は、E.W. Martinによる「レミントン薬理学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」に記載されている。このような組成物は、対象への適切な投与の形状を提供するために、本発明の多能性成体細胞、または本発明の多能性成体細胞の細胞集団の予防的もしくは治療的に有効な量を、好ましくは純粋な状態で、適量の担体とともに含むことがある。剤形は、投与様式に適したものとすべきである。好ましい態様では、薬学的組成物は無菌性であり、ならびに対象、好ましくは動物対象、より好ましくは哺乳類対象、および最も好ましくはヒト対象への投与に適切な形状である。
【0087】
本発明の薬学的組成物は、さまざまな形状を取り得る。これには例えば、凍結乾燥調製物、溶液、または懸濁物、注射溶液および注入溶液などの、固体、半固体、および液体の投与剤形が含まれる。好ましい剤形は、意図される投与様式および治療的応用に依存する。
【0088】
本発明の細胞もしくは細胞集団、またはこれらを含む薬学的組成物の、処置を必要とする対象への投与は、従来の手段で実施することができる。特定の態様では、このような細胞または細胞集団は、細胞を所望の組織にインビトロもしくはインビボのいずれかで、動物組織に直接的に移す段階を含む方法で対象に投与される。このような細胞は所望の組織に、一般に組織のタイプによって変わる任意の適切な方法で輸送することができる。例えば細胞は、組織内の所望の部位に播いて、集団を確立させたりすることが可能である。細胞は、カテーテル、トロカール、カニューレ、(細胞を播くことが可能な)ステントなどの装置を使用してインビボにおける部位に移すことができる。
【0089】
本発明の薬学的組成物は、併用療法で使用することができる。特定の態様では、併用療法は、組織の修復または再生を必要とする患者などの、処置を必要とする対象に実施される。ある態様では、併用療法は、組織を修復または再生するために、他のタイプの処置とともに用いられる。上述の態様に従って、本発明の併用療法を、本発明の多能性成体細胞の投与の前に、投与と同時に、または投与の後に使用することができる。
【0090】
別の局面では、本発明は、組織を修復および再生するための薬学的組成物を製造するための、本発明の多能性成体細胞、または本発明の多能性成体細胞の細胞集団の使用にも関する。
【0091】
本発明はさらに、別の局面では、このような薬学的組成物を、処置を必要とする患者に投与する段階を含む治療法に関する。ある態様では、このような治療法は、組織の修復または再生のための方法である。
【0092】
別の局面では、本発明は、以下の段階を含む、生物学的薬剤もしくは薬学的薬剤に対する、またはこれらの薬剤のコンビナトリアルライブラリーに対する、インビトロまたはインビボにおける細胞反応を評価する方法に関する:
(a)ほぼ均質である、本発明の多能性成体細胞の細胞集団を単離する段階;
(b)細胞集団を培養して増やす段階;
(c)生物学的薬剤もしくは薬学的薬剤、またはこれらの薬剤のコンビナトリアルライブラリーを、細胞集団に供し、および薬剤の培養細胞に対する作用を評価する段階。
【0093】
ある態様では、段階(a)の本発明の多能性成体細胞の集団は、個体から、または統計的に有意な個体集団から単離される。他の態様では、段階(a)の本発明の多能性成体細胞の細胞集団はほぼ、すなわち実質的に均質である。別の態様では、段階(c)に先だって、細胞を特定のタイプの細胞に分化させる。
【0094】
さらに別の局面では、本発明は、単離された本発明の多能性成体細胞に由来する、特殊化した細胞の少なくとも1つの特徴を発現する細胞に関する。このような細胞は、本発明の多能性成体細胞の分化段階より進んだ分化段階を有する多能性成体細胞でもある。ある態様では、本発明は、少なくとも1つの特徴が、上皮細胞、内皮細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞、骨細胞、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、肝細胞、心筋細胞、および膵臓細胞からなる群より選択される細胞の特徴である、特殊化した細胞の少なくとも1つの特徴を発現する細胞に関する。単離された本発明の多能性成体細胞に由来する、特殊化した細胞の少なくとも1つの特徴を発現する細胞を含む、単離された細胞集団は、本発明の別の局面である。
【0095】
以下の実施例は、本発明を説明するために提示するものであり、制限する意図は全くない。
【実施例】
【0096】
実施例1
軟部組織からの多能性成体細胞の単離、および表面マーカーの解析
軟部組織からの多能性成体細胞の単離を、細胞培養用のプラスチック容器に対する結合を示すことを特徴とする、増殖および分化の能力を有する細胞を選択することで実施した。次に細胞の特性を、単離されて間もない細胞、および培養発生中の細胞における一連の表面マーカーの発現をフローサイトメトリーでインビトロでモニタリングすることで解析した。
【0097】
多能性成体細胞の単離を、3人の健康なヒトドナー(ドナー1、2、および3)から脂肪吸引法で得た皮下脂肪組織から実施した。最初に、皮下脂肪組織に由来する試料をリン酸緩衝食塩水溶液(PBS)で洗浄した。細胞外基質の破壊、および細胞の単離を達成するために、II型コラゲナーゼ(溶媒は生理食塩水溶液(5 mg/ml))を使用する酵素による消化を37℃で30分間かけて行った。同コラゲナーゼを、10%ウシ胎児血清を含む同容量のDMEM培地を添加して不活性化した。この細胞懸濁物を250 gで10分間、遠心分離して細胞の沈殿を得た。
【0098】
NH4Clを最終濃度が0.16 Mとなるように添加し、および同混合物を室温で10分間インキュベートして、存在する赤血球の溶解を誘導した。同懸濁物を250〜400 gで遠心分離し、1%アンピシリン-ストレプトマイシンを含むDMEM-10% FBSに再懸濁した。最後に、2x104〜3x104細胞/cm2となるように細胞をプレーティングした。
【0099】
細胞を37℃で20〜24時間、5% CO2雰囲気中で培養した。24時間後に培養物をPBSで洗浄して、懸濁物中の細胞および組織の残存物を除去した。プラスチック容器との結合によって選択した細胞をDMEM+10%ウシ胎児血清(FBS)で培養した。
【0100】
単離後、1人のドナーに由来する、単離された多能性成体細胞の特性を、一連の表面マーカーの有無の関数に関して解析した。これを行うために、以下の表面マーカーの発現をフローサイトメトリーでモニタリングした:
- インテグリン:CD11b、CD18、CD29、CD49a、CD49b、CD49c、CD49d、CD49e、CD49f、CD51、CD61、CD104。
- 造血系マーカー:CD3、CD9、CD10、CD13、CD14、CD16、CD19、CD28、CD34、CD38、CD45、CD90、CD133、およびグリコホリン。
- 増殖因子受容体:CD105、NGFR。
- 細胞外基質受容体:CD15、CD31、CD44、CD50、CD54、CD62E、CD62L、CD62P、CD102、CD106、CD166。
- その他:CD36、CD55、CD56、CD58、CD59、CD95、HLA-I、HLA-II、β2-ミクログロブリン。
【0101】
細胞の免疫表現型の解析を、単離されて間もない細胞のほか、培養7日目、培養開始から4週間後、および3か月後の、3人の健康なヒトドナーに由来する試料の細胞を対象に実施した。選択が細胞培養用プラスチック容器への結合によって実施されることを考慮して、単離後の培養物中で24時間以内に結合していた細胞フラクションに由来する細胞を、「単離されて間もない細胞」と見なす。
【0102】
解析対象の細胞を、トリプシンによる穏やかな消化、PBSによる洗浄、およびそれぞれ解析対象の細胞表面マーカーに対するフルオレセイン(FITC)標識抗体またはフィコエリトリン(PE)標識抗体による4℃で30分間のインキュベーションによって採取した。細胞マーカーの洗浄後、直ちにEpics-XL血球計算器(Coulter)で解析した。対照として、非特異的な、FITCまたはPEで標識された、対応するアイソタイプの抗体で染色された細胞を使用した。
【0103】
図1a〜1d、2a〜2d、および3a〜3dは、培養中に調べられたマーカーの変化を見やすくするために、ドナー別にグループ分けされたヒストグラムを示す。個々の例において、培養期間のどれほどの時間が細胞の解析にあてられたかを示す。
【0104】
さまざまな時間における表面マーカーの解析によって、培養プロセス中における、それらの有無、ならびに挙動を見極めることができた。得られた結果から、さまざまな健康なドナーから単離された細胞集団が、表現型解析に関して均質な挙動を示すことがわかる。
【0105】
表面マーカーの発現プロファイルの解析(図1a〜1d、2a〜2d、および3a〜3d)から、3つの基準を用いて、どのマーカーが細胞集団を定義づけ、ならびに他のタイプの細胞集団に関して同定および分化が可能であるかを判定した。この基準を以下に示す:
1.1つの試料と他の試料間で、または培養中に経時的に変化するマーカーは除外する。
2.陽性細胞が、ゼロ時間(単離されて間もない細胞)でも陽性であることを検証する。
3.生物学的重要性の関数として選択し、特異的な細胞のタイプに特徴的なマーカーは除外する(例えばCD3はリンパ球に限定的なマーカーである)。
【0106】
これらの基準を適用することで、本発明で提供される非骨軟骨性の間葉組織から単離された多能性成体細胞は、CD9<+>、CD10<+>、CD13<+>、CD29<+>、CD44<+>、CD49A<+>、CD51<+>、CD54<+>、CD55<+>、CD58<+>、CD59<+>、CD90<+>、およびCD105<+>に関して陽性であり;ならびにCD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD34、CD45、CD49f、CD102、CD104、CD106、およびCD133の発現を欠くと特徴づけられる。
【0107】
実施例2
ヒト非骨軟骨性の間葉組織に由来する多能性成体細胞の骨表現型細胞へのインビトロ分化
分化アッセイ法では、特徴が明らかにされた本発明のヒト多能性成体細胞を使用した。細胞は、それぞれ健康なドナーに対応する、解析済みの脂肪吸引物の3つの試料から単離した(実施例1)。多能性成体細胞を、実施例1に記載された手順で単離し、および解析した。ヒト骨髄に由来する間葉幹細胞(MSC)の試料を正の対照として使用した。
【0108】
単離された細胞を10,000細胞/cm2の密度で6ウェルプレートに播種し(1つの試料につき1枚のプレート)、標準培地(DMEM、10% FBS、L-グルタミン2 mM、および抗生物質)でインキュベートした。培養開始から2日後に、1つのウェル(対照)の培地を新鮮な培地と交換し、および残りのウェルについては、以下の化合物が添加された標準培地を含む骨形成誘導培地と交換する:
- デキサメタゾン 100 M
- アスコルビン酸 50μM
- p-グリセロリン酸 10 mM
【0109】
細胞を正常条件で3週間、培地を2〜3日毎に交換して培養した。3週間後に、骨結節(osseous nodule)の存在を示す、リン酸カルシウムの無機沈殿物の存在が認められる。このような結節は、アリザリンレッド(Alizarin red)による染色で検出される(Standford et al., 1995)。具体的には、培地を除去して、細胞をPBSで2回洗浄し、および70%冷エタノールで室温で30分間かけて固定した。固定処理後のウェルを次にPBSで洗浄し、およびアリザリンレッド(40 mM、pH 4.1)で、室温で10分間かけて染色した。染色された細胞を大量の水で洗浄し、および強い赤色を呈するリン酸カルシウムの沈殿物を顕微鏡下で調べた。
【0110】
図4a〜4dは、アリザリンレッドで染色された骨誘導細胞の顕微鏡写真を示す。リン酸カルシウムの形成は、正の対照(図4a)として作用する骨髄由来のMSCに対応する試料では速やかであるが、脂肪組織に由来する3つの試料では、大量の骨基質の形成が、強度は個々の試料間で多様なものの識別できる。骨形成が誘導された全てのウェルでは同じ挙動が認められ、および(骨形成刺激を受けていない)対照ウェルでは、骨基質の形成は検出されなかった。形成された骨基質の量と、組織から単離後に各試料が培養された時間(3〜9週間)の間に関連は認められなかった。
【0111】
実施例3
ヒト非骨軟骨性の中胚葉性組織に由来する多能性成体細胞の筋肉表現型細胞へのインビトロ分化
分化アッセイ法では、特徴が明らかにされた本発明のヒト多能性成体細胞を使用した。細胞は、それぞれ健康なドナーに対応する、解析済みの脂肪吸引物の3つの試料から単離した(実施例1)。多能性成体細胞を、実施例1に記載された手順で単離し、および解析した。ヒト骨髄に由来するMSCの試料を正の対照として使用した。
【0112】
単離された細胞を10,000細胞/cm2の密度で標準培地(DMEM、10% FBS、L-グルタミン2 mM、および抗生物質)に播いた。培養開始から2日後に、1つのウェル(対照)の培地を新鮮な培地と交換し、および残りのウェルの培地を、以下の化合物が添加された標準培地を含む筋形成誘導培地(Wakitani et al., 1995)と交換した:
- アスコルビン酸-2-リン酸 0.1 mM
- デキサメタゾン 0.01μM
- ITS+1(Sigma-Aldrich)
- 5-アザシチジン 3μM
【0113】
24時間後に培地を標準培地と交換し、および細胞を2〜3週間、培地を2〜3日毎に交換して培養した。この後、細胞は、延長表現型(elongated phenotype)を獲得し、繊維性構造を形成し、およびある程度の細胞融合が観察される。筋芽細胞表現型を検出するために、得られた細胞をパラホルムアルデヒド(PFA)(4%)で固定し、および筋肉に特異的な抗原であるミオシンの重鎖に対する抗体とインキュベートした。得られた結果から、本発明のヒト多能性成体細胞の、筋肉表現型細胞への分化が確認される。
【0114】
実施例4
ヒトの非骨軟骨性の間葉組織に由来する多能性成体細胞のニューロン表現型細胞へのインビトロ分化
分化アッセイ法では、特徴が明らかにされた本発明のヒト多能性成体細胞を使用した。細胞は、それぞれ健康なドナーに対応する、解析済みの脂肪吸引物の3つの試料から単離した(実施例1)。多能性成体細胞を、実施例1に記載された手順で単離し、および解析した。ヒト骨髄に由来するMSCの試料を正の対照として使用した。
【0115】
単離された細胞を低密度(3x103細胞/cm2)で、10 ng/mlのbFGFを添加した標準培地(DMEM、10% FBS、L-グルタミン2 mM、および抗生物質)に播き、および24〜36時間インキュベートして多数の細胞を得た。次にウェルを洗浄し、以下の化合物を含むニューロン誘導培地(Black and Woodbury, 2001)を添加した:
- αMEM
- BHA 200μM
- ペニシリン/ストレプトマイシン
- L-グルタミン 2 mM
- フォルスコリン 10μM
- 2% DMSO
- ヒドロコルチゾン 1μM
- インスリン 5μg/ml
- CIK 25 mM
- バルプロ酸 2 mM
【0116】
誘導開始から数時間後に、以下のような形態の変化が認められた;細胞は、丸い形、および神経細胞の軸索や樹状突起と類似の外見の突起を含む、非常に屈折の多い形状を獲得していた。3日後に、得た細胞をPEA(4%)で固定し、およびニューロン特異的な抗原NF-200およびTuJ1に対する抗体でインキュベートした。得られた結果から、本発明のヒト多能性成体細胞の筋肉表現型細胞への分化が確認される。
【0117】
参考文献


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)非骨軟骨性の間葉組織から単離され、(b)CD9<+>、CD10<+>、CD13<+>、CD29<+>、CD44<+>、CD49A<+>、CD51<+>、CD54<+>、CD55<+>、CD58<+>、CD59<+>、CD90<+>、およびCD105<+>を発現し;ならびに(c)CD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD34、CD45、CD49f、CD102、CD104、CD106、およびCD133の発現を欠く、単離された多能性成体細胞。
【請求項2】
以下の段階を含む方法で単離される、請求項1記載の単離された多能性成体細胞:
(a)非骨軟骨性の間葉組織を採取する段階;
(b)酵素による消化で細胞懸濁物を得る段階;
(c)培地中の細胞を沈降させ、再懸濁する段階;ならびに
(d)細胞を固体表面上で培養し、固体表面への結合を示さない細胞を除去する段階。
【請求項3】
非骨軟骨性の間葉組織が結合組織である、請求項1または2記載の単離された多能性成体細胞。
【請求項4】
結合組織が脂肪組織である、請求項3記載の単離された多能性成体細胞。
【請求項5】
遺伝的に修飾された細胞である、請求項1〜4のいずれか一項記載の単離された多能性成体細胞。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項記載の単離された多能性成体細胞に由来する、特殊化した細胞の少なくとも1つの特徴を発現する細胞。
【請求項7】
少なくとも1つの特徴が、上皮細胞、内皮細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞、骨細胞、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、肝細胞、心筋細胞、および膵臓細胞からなる群より選択される細胞である、請求項6記載の細胞。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項記載の細胞を含む、単離された細胞集団。
【請求項9】
ほぼ均質である、請求項8記載の単離された細胞集団。
【請求項10】
以下の段階を含む、請求項1記載の単離された細胞を含む多能性成体細胞の集団を同定する方法:(a)細胞を、集団の1つまたは複数の特徴的なマーカーに特異的に結合する標識化合物と共にインキュベートする段階;および(b)これらの特異的に結合する化合物に対する細胞の結合の有無を検出する段階。
【請求項11】
特異的に結合する化合物が抗体である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
以下の段階を含む、請求項1記載の多能性成体細胞の集団を単離する方法:
(a)非骨軟骨性の間葉組織を採取する段階;
(b)酵素による消化で組織から細胞懸濁物を得る段階;
(c)細胞懸濁物を、多能性成体細胞の1つもしくは複数の表面マーカーに特異的に結合する標識化合物と共にインキュベートする段階;および
(d)マーカーの所望の発現プロファイルを有する細胞を選択する段階。
【請求項13】
CD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD34、CD45、CD49f、CD102、CD104、CD106、およびCD133からなる群より選択されるマーカーに特異的に結合する標識化合物との結合を示す細胞を除去する負の選択を実施する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
CD9、CD10、CD13、CD29、CD44、CD49a、CD51、CD54、CD55、CD58、CD59、CD90、およびCD105からなる群より選択されるマーカーに特異的に結合する標識化合物と結合する細胞を選択する正の選択を実施する、請求項12または13項記載の方法。
【請求項15】
特異的に結合する標識化合物が抗体である、請求項12〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜5のいずれか一項記載の多能性成体細胞、または請求項8もしくは9記載の細胞集団を含む、実質的に均質な細胞組成物。
【請求項17】
請求項1〜5のいずれか一項記載多能性成体細胞、または請求項8もしくは9記載の細胞集団、または請求項12〜15のいずれか一項記載の方法で得られる細胞集団、および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物。
【請求項18】
治療で使用するための、請求項1〜5のいずれか一項記載の単離された多能性成体細胞、または請求項8もしくは9記載の細胞集団、または請求項12〜15のいずれか一項記載の方法で得られる細胞集団。
【請求項19】
組織の修復および再生に使用するための、請求項1〜5のいずれか一項記載の単離された多能性成体細胞、または請求項8もしくは9記載の細胞集団、または請求項12〜15のいずれか一項記載の方法で得られる細胞集団。
【請求項20】
組織の修復および再生のための薬学的組成物の製造を目的とする、請求項1〜5のいずれか一項記載の単離された多能性成体細胞、または請求項8もしくは9記載の細胞集団、または請求項12〜15のいずれか一項記載の方法で得られる細胞集団の使用。
【請求項21】
請求項17記載の薬学的組成物を、処置を必要とする患者に投与する段階を含む治療法。
【請求項22】
治療法が、組織の修復または再生のためである、請求項21記載の方法。
【請求項23】
以下の段階を含む、生物学的薬剤もしくは薬理学的薬剤に対する、またはこれらの薬剤のコンビナトリアルライブラリーに対する、インビトロにおける細胞反応を評価する方法:
(a)請求項8もしくは9記載の細胞集団、または請求項12〜15のいずれか一項記載の方法で得られる細胞集団を単離する段階;
(b)細胞集団を培養して増加させる段階;ならびに
(c)生物学的薬剤もしくは薬理学的薬剤、またはこれらの薬剤のコンビナトリアルライブラリーを細胞集団に供し、培養細胞に対するこれらの薬剤の効果を評価する段階。
【請求項24】
段階(c)に先だって、細胞を特定のタイプの細胞に分化させる、請求項23記載の方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図1−4】
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【図1−5】
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【図1−6】
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【図1−7】
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【図1−8】
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【図1−9】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図2−5】
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【図2−6】
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【図2−7】
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【図2−8】
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【図2−9】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図3−5】
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【図3−6】
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【図3−7】
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【図3−8】
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【図3−9】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−13411(P2013−13411A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−185671(P2012−185671)
【出願日】平成24年8月24日(2012.8.24)
【分割の表示】特願2007−535099(P2007−535099)の分割
【原出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(507111140)セルレリックス エス.エル. (2)
【出願人】(507111151)ユニバーシダッド オウトノマ デ マドリード (2)
【Fターム(参考)】