説明

面ファスナーの雌材シートおよびこれを用いた吸収性物品

【課題】係止力の設計変更が容易な雌材シートを提供する。
【解決手段】雌基材シート20と、この雌基材シート20の雌形素子形成面に積層されて接着されている複数の孔部21a、21aを有する有孔被覆シート21とを備え、前記有孔被覆シート21の孔部21a、21aから露出される雌形素子露出面を介して雄材と係止されるように構成されている雌材シートにより解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙おむつ、手術衣、下着等の衣服等の主として使い捨ての用途に使用される着用物に用いる面ファスナーの雌材シートおよびこの雌材シートを用いてなる吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
面ファスナーは、繊維をループ状あるいはアーチ状とした雌形素子を有する雌材シートと、前記雌形素子と係止する鈎形あるいはきのこ状の膨頭形等の立毛状雄形素子を有する雄材シートとを、圧接係止させて接着力を発揮させる係止部材として知られ、付け剥がしが容易であり、適度な係止力を有していることから、使い捨ておむつなどの吸収性物品の止着用部材などとして種々分野において利用されている。
ところで、面ファスナーの雌材シートは、例えば、ナイロン、ポリエステル等の合成樹脂繊維を用いた不織布に対して、ニードルパンチ、スパンボンド、スパンレース又は熱収縮などを利用してループ等を顕著にして形成される。
そして、このような合成樹脂繊維を含む雌材シートでは、加熱したパターンロールやエンボスロールに通して、部分的に雌形素子を溶融することにより、係止力の調整および繊維の毛羽立ち防止することが行われることがある。
【特許文献1】特開第3490608号公報
【特許文献2】特開平9−317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような部分的に雌形素子を溶融して係止力を調整した雌材シートは、溶融部分が硬化するため吸収性物品など肌に触れる部分に用いる場合にはごわつき感があり好ましくはない。そして、製造するにあたり熱源を必要とするため必要エネルギーが多く製造コストも高くなる。
また、設計変更するにあたりロールのパターンの変更しなければならないため設計変更が容易にはできない欠点もある。
さらに、一旦、溶融処理をしてしまうとその後の係止力の復帰はできないため、例えば、係止不必要時にのみ係止力を抑制するような設計はできない。
そこで、本発明の主たる課題は、熱による繊維の溶融を要せず部分的な硬化なく係止力を調整でき、しかも、簡易に設計変更でき、しかも不必要時にのみ係止力を抑制しておくことも可能な、面ファスナーの雌材シートおよびかかる面ファスナー機構を備える吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決した本発明およびその作用効果は次記のとおりである。
<請求項1記載の発明>
面ファスナーの雌材シートであって、繊維がループ状またはアーチ状とされた雌形素子が多数形成されている雌基材シートと、この雌基材シートの雌形素子形成面に積層されて接着されている複数の孔部を有する有孔被覆シートとを備え、前記有孔被覆シートの孔部から露出される雌形素子形成面を介して雄材と係止されるように構成されている、ことを特徴とする面ファスナーの雌材シート。
【0005】
(作用効果)
本発明では、係止力の調整を有孔被覆シートの孔部の大きさ、個数、パターンを変更するだけで極めて簡易に行うことができる。また、雌形素子を有する雌基材シートを溶融させることがないので係止力を調整するために広範にわたる硬化部分がほとんどない。さらに、要する熱エネルギーも少なくてすむ。
【0006】
<請求項2記載の発明>
前記雌基材シートが、不織布である請求項1記載の面ファスナーの雌材シート。
【0007】
(作用効果)
雌基材シートが不織布であると、雌基材シートを安価にできもってコスト安にすることができる。
【0008】
<請求項3記載の発明>
雌基材シートと有孔被覆シートとが、ホットメルト接着剤により接着されている請求項1または2記載の面ファスナーの雌材シート。
【0009】
(作用効果)
ホットメルト接着剤を用いることにより、硬化部分なく両シートを接着することができる。
【0010】
<請求項4記載の発明>
前記有孔被覆シート伸縮性を有しているとともに、前記雌基材シートに対して部分的に接着されており、有孔被覆シートの伸縮により各孔部が拡縮可能に構成されている、請求項1〜3の何れか1項に記載の面ファスナーの雌材シート
【0011】
(作用効果)
本発明は、有孔被覆シートの伸縮性により孔部が拡縮するように構成されている。従って、使用時に被覆シートを伸張させて孔部を広げた状態で雄材と係止させることができるとともに、係止不必要時には有功被覆シートを縮小させた状態として孔部を小さくして雌形素子が露出する部分を少なくすることもでき、もって不必要時に係止力を抑止して、必要時に係止力を発揮させることができる。なお、有孔被覆シートの伸縮性は、特には弾性伸縮性であるのがよい。
【0012】
<請求項5記載の発明>
前記雌基材シートと有孔被覆シートとの間に弾性伸縮材が配されている、請求項1〜4の何れか1項に記載の面ファスナーの雌材シート。
【0013】
(作用効果)
本発明は、雌基材シートと有孔被覆シートとの間に弾性伸縮材が配されている。従って、伸縮材の収縮時には雌材シートが収縮されてシワが生じそのシワ間に孔部が隠れ、伸縮材の伸張時にシワ間から孔部が露出されるようにすることができる。もって伸張時の孔部露出状態で雄材と係止させたのち、雌材シートの伸張を解除して係止に不必要な孔部をシワ間に再度隠れるように構成することができる。
【0014】
<請求項6記載の発明>
液透過性の表面シートと、液不透過性の裏面シートと、両シート間に介在された吸収体とを備え、背側または腹側の左右両側縁部に止着用のファスニングテープが配されている吸収性物品において、
前記ファスニングテープが、面ファスナーの雄材で形成されており、この雄材が係止する係止部が、前記請求項1〜4の何れか1項に記載の雌材シートにより形成されていることを特徴とする吸収性物品。
【0015】
(作用効果)
上記請求項1〜4記載の作用効果を有するとともに、吸収性物品の面ファスナー素材では、特に肌触り性の向上および、不必要時に雄材と雌材とが係止されることが防止されるなどの使用上の種々の利点が得られる。
【0016】
<請求項7記載の発明>
雌材シートが取り付けられる部位が弾性伸縮性を有しており、この弾性伸縮性に伴って雌材シートが伸縮するように構成されている、請求項6記載の吸収性物品。
【0017】
(作用効果)
請求項4および5記載の作用効果と同様に、使用時に有孔被覆シートを伸張させて孔部を広げた状態で雄材と係止させることができるとともに、係止不必要時には有功被覆シートを縮小させた状態として孔部を小さくして雌形素子が露出する部分を少なくすることができ、もって不必要時に係止力を抑止して、必要時に係止力を発揮させることができる。
【0018】
<請求項8記載の発明>
液透過性の表面シートと、液不透過性の裏面シートと、両シート間に介在された吸収体とを備え、背側または腹側の左右両側縁部に止着用のファスニングテープが配されている吸収性物品であって、
前記裏面シート自体の一部に繊維がループ状またはアーチ状とされた雌形素子が多数形成された雌基材部が形成されており、
その雌基材部を含む範囲が複数の孔部を有する有孔被覆シートにより被覆されて、その孔部から露出される雌形素子形成面を介して、前記ファスニングテープとの係止がなされるように構成されている、ことを特徴とする吸収性物品。
【0019】
(作用効果)
本発明にかかる吸収性物品は、係止力を調整するにあたって有孔被覆シートの孔部の大きさ、個数、パターンを変更するだけで極めて簡易に行うことができる。また、雌形素子を有する裏面シートの雌基材分をエンボス加工などによって溶融させる必要なく係止力を調整することができる。もって、かかる溶融による硬化部分の形成はなく、要する熱エネルギーも少なくてすむ。
【0020】
<請求項9記載の発明>
裏面シートの雌基材部を含む範囲と有孔被覆シートとが、ホットメルト接着剤により接着されている請求項8記載の吸収性物品。
【0021】
(作用効果)
ホットメルト接着剤を用いることにより、好適に被覆シートを接着することができる。
【0022】
<請求項10記載の発明>
前記有孔被覆シート伸縮性を有しているとともに、前記雌基材部に対して部分的に接着されており、有孔被覆シートの伸縮により各孔部が拡縮可能に構成されている、請求項8または9記載の吸収性物品。
【0023】
(作用効果)
有孔被覆シート伸縮性を有しているので、使用時に有孔被覆シートを伸張させて孔部を広げた状態で雄材と係止させることができるとともに、係止不必要時には有功被覆シートを縮小させた状態として孔部を小さくして雌形素子が露出する部分を少なくすることができ、もって不必要時に係止力を抑止して、必要時に係止力を発揮させることができる。なお、有孔被覆シートの伸縮性は、特には弾性伸縮性であるのがよい。
【0024】
<請求項11記載の発明>
裏面シートの雌基材部を含む範囲が弾性伸縮性を有する、請求項8〜10の何れか1項に記載の吸収性物品。
【0025】
(作用効果)
本発明は、裏面シートの雌基材部を含む範囲が弾性伸縮性を有する。従って、伸縮材の収縮時には雌材シートが収縮されてシワが生じそのシワ間に孔部が隠れ、伸縮材の伸張時にシワ間から孔部が露出されるようにすることができる。もって伸張時の孔部露出状態で雄材と係止させたのち、裏面シートの伸張を解除して係止に不必要な孔部をシワ間に再度隠れるように構成することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上詳述の本発明によれば、熱による繊維の溶融を要せず部分的な硬化なく係止力を調整でき、しかも、簡易に設計変更でき、さらに不必要時にのみ係止力を抑制しておくことも可能な、面ファスナーの雌材シートおよびかかる面ファスナー機構を備える吸収性物品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次いで、本発明の実施の形態を図面を参照しながら以下に詳述する。
本発明の面ファスナーの雌材シート2は、図1および2に示されるように、繊維がループ状、アーチ状となっている雌形素子20a、20a…が多数形成されている雌基材シート20の雌形素子20a形成面に、複数の孔部21a,21aを有する有孔被覆シート21が積層されて接着剤22により接着されており、有孔被覆シート21の孔部21aから多数の雌形素子20a,20a形成面の一部が外面に露出されるように構成されている。
【0028】
雌基材シート20は、対応する雄材シートとの係止に適した多数の雌形素子20a,20aを備えるシートであって、従来例における既知の各種雌材シートそのものを用いることができる。例えば、一方面にループ状またはアーチ状の雌形素子を多数形成した織布、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維などからなるウェブを、スパンレース法、スパンボンド法、サーマルボンド法、メルトブローン法、ニードルパンチ法、熱収縮法等の適宜の加工法を施して片面にループ状、アーチ状の雌形素子を形成した不織布を用いることができる。安価に製造可能できる点を考慮するならば不織布がより好適である。なお、不織布に対してループ状あるいはアーチ状の雌形素子を顕著に形成する加工法の内、スパンレース法は柔軟性、ドレープ性に富むようになる点で優れ、サーマルボンド法は嵩高でソフトに富むようになる点で優れ、使用目的に応じて適宜選択することができる。ここで、不織布は、積層不織布であってもよく、例えば、スパンボンド法によりウェブを形成したスパンボンド不織布(S)層と;メルトブローン法によりウェブを形成したメルトブローン不織布層(M)とを2層以上適宜積層させた不織布積層体を素材として使用することができる。
【0029】
雌基材シート20を設計するにあたっては、雌基材シート20と対応する雄材との離強度をどの程度にするかは用途に応じて適宜選択すればよい。当然であるが、有孔性被覆シート21で被覆しなくとも係止力が不足するような範囲ではってはならない。また、剥離時に上層にある有効性被覆シート21の破損が生じたり、孔部20a,20aから繊維が引き出されて毛羽立ちが生ずるおそれが高くなるような剥離強度は付け剥がし繰り返す用途では過度である。また、抑制するためにかなりの範囲を有孔性被覆シート21で被覆することになって実質的な利点がなくなるような剥離強度も過度である。例えば、面積比で98%以上の被覆を要するような場合は過度である。
【0030】
具体的な数値でいえば、剥離強度が100gf〜1500gf、好ましくは140〜400gfとなるように設計するのが望ましい。なお、この剥離強度の測定方法は、以下のようにして測定する。まず、幅50mm×長さ100mmの布テープを幅方向に二つ織りにして幅25mm×100mmの二つ折り布テープとし、この布テープの一方端にファスニングテープをしっかりと貼付する。この際、ファスニングテープの雄材が、布テープの先端よりも外方に位置するようにする。
【0031】
一方で、ステンレス製平板に、本願発明にかかる雌基材シートを雌型素子形成面を上面として両面粘着テープにて貼付する。さらに、両端をクラフトテープで固定する。
【0032】
次いで、雄材と雌型素子形成面とを接触させたのち、これらの上を質量2kgのローラで布テープ側から一往復させてファスニングテープと雌基材シートを圧着する。さらに、布テープのファスニングテープ貼付反対側他方端に1kgの分銅を10秒間吊り下げて圧着部分にせん断力をかけ係止を確実なものとする。
【0033】
その後に、ステンレス平板と布テープのファスニングテープ貼付反対側他方端とを引張試験機の治具でチャックする。このときステンレス平板に対して布テープのファスニングテープ貼付反対側他方端をチャックする治具の引張方向が90°となるようにする。
【0034】
かくして最終剥離角度90°となるように治具を引張試験機にセットしたのち、300mm/minで圧着部分を剥離し、そのときに測定される凹凸加重平均値を剥離強度とする。なお、測定値は有効測定値の3〜10回の平均とする。また、測定にあたって試料の設置は、測定がCD対CD方向の測定となるようにする。さらに、試験片の大きさは、雄材47mm±3mm(MD方向)×93mm(CD方向)、雌基材シート23.5±1.5mm(MD方向)×24mm(CD方向)となるようにする。
【0035】
一方、雌基材シート20を設計するにあたって、雌基材シート20と対応する雄材とのせん断力をどの程度にするかも用途に応じて適宜選択すればよい。有孔性被覆シート21で被覆しなくとも係止しないせん断力は望ましくない。また、孔部内周縁部に負荷がかかり破損するおそれが生ずるせん断力も望ましくない。反対に係止感が強すぎて硬質感があり面ファスナーの利点がなくなるようなせん断力では望ましくない。
【0036】
具体的な数値でいえば、せん断力は、1kg〜10kg、好ましくは3〜8kgとなるように設計するのが望ましい。なお、このせん断力の測定方法は、以下のようにして測定する。まず、ステンレス製平板に、本願発明にかかる雌基材シートを雌型素子形成面を上面として両面粘着テープにて貼付する。さらに、両端をクラフトテープで固定する。このとき雌基材シートの周囲にはステンレス製平板の余白が残るようにする。
【0037】
次いで、ファスニングテープの雄材を前記雌型素子形成面に接触させたのち、これらの上を質量2kgのローラで布テープ側から一往復させて雄材と雌基材シートを圧着する。
【0038】
その後に、ステンレス製平板の余白部分とファスニングテープの一端とを引張試験機の治具でチャックする。このときチャック間距離を50mmにする。かくしてチャッキングが完了したならば、治具を雄材と雌基材シートとのせん断方向に引張速度30mm/minで引っ張り、最大せん断力を測定する。なお、測定値は有効測定値の3〜10回の平均とする。また、測定にあたって試料の設置は、測定がCD対CD方向の測定となるようにする。さらに、試験片の大きさは、雄材47mm±3mm(MD方向)×93mm(CD方向)、雌基材シート23.5±1.5mm(MD方向)×24mm(CD方向)となるようにする。
【0039】
有孔被覆シート21は、雌基材シート20の雌形素子形成面を被覆して被覆して雌基材シート20の係止力を調整するものであるから、前記雌基材シート20よりも雄材に対する係止力が小さいシート材を用いる。有孔被覆シート21の素材は特に限定されないが、例えば、ポリエチレンフィルムシートなどの各種樹脂性フィルムシート、不織布シート、織布シート、可撓性材シート、その他各種既知のシート材を用いることができる。不織布シートを用いるのであれば、繊維目付け量を高めて繊維密度を高めたりスパンレース法などの各種法による加工具合を調整することにより繊維表面のループ状部、アーチ状部の数やループ高さを少なくし、雌基材シート20よりも雄材に対して係止力の小さい不織布シートとすればよい。有孔被覆シート21としては、肌触り感を優先させるのであれば不織布シートが適し、係止力の抑止を優先するのであれば表面の平滑性の高い樹脂製フィルムシートが適する。
【0040】
有孔被覆シート21に設けられる複数の孔部21a、21aは、雌基材シート20の雌形素子20a,20aを外面に露出させるための露出孔21a、21aであり、雄材がこの孔部21a、21aを介して雌基材シート20に係止する。従って、係止力を考慮して、孔部21a、21aの開口領域面積、数、位置などを適宜設計する。ひとつの孔部21aの開口領域が、雄材の実質的な係止面よりも大きいと、係止力の抑止効果が得られ難くなるので一つの孔部の開口領域は、雄材の実質的な係止面よりも小さくするのが望ましい。
【0041】
孔部21a、21aの配列に関しては、規則性をもって配列するとシート全体に平均的に抑止効果が得られるようになる。孔部21aの形状、配列パターンとしては、図1に示す多数の円形孔が適当間隔で並列されたパターンのほか、図3および4に示すように、シートの幅方向や縦方向に沿って設けられた所定幅のスリット状の細長の孔部とすることもできる。孔部の形状は特に限定されるものではなく、図示例には示されないが三角孔であってもよいし、また、複数ある孔部の形状をすべて同一にする必要もない。
【0042】
孔部21a、21aの具体的態様としては、例えば本雌材シート2を紙おむつのファスニングテープの係止部に使用するのであれば、雌材シート2の総面積に対して総開口領域(前孔部の開口領域を合わせた総面積)を、30〜80%程度の範囲で調整するのが利用しやすく、また、この場合において孔形状が円形である態様とするならば、80平方cmあたり、直径5mmφの孔部を200個程度設けるのが利用しやすく、幅1〜5mmのスリットであれば、スリット幅の2〜5倍程度のピッチで配置するのが利用しやすい。この程度であれば、係止力の抑制が十分に達成できるとともに、好適な強度を発現できる。また、雌基材シート20に対する剥離強度を10から50%低下させる程度に孔部を設けるのが適する。なお、本発明は必ずしも、この数値範囲に限られず、用途に応じて適宜変更することができる。要は、止着テープ式紙おむつにおいて不備なく行われている止着操作時の、ファスニングテープと係止部との剥離強度の範囲となるように適宜設計すればよい。
【0043】
雌基材シート20と有孔被覆シート21との接着は、各シート材質に応じて既知の接着剤22のなかから選択して用いることができる。接着後に硬化性が高くないものが適する。本発明は加熱に伴う雌基材の溶融に起因する剛性の向上をきらうため、熱融着は用いないのが望ましい。ただし、雌基材シート20に比してきわめて融点が低く柔らかいフィルムシートを有孔被覆シートとして用いた組み合わせであれば熱融着も採り得る。好適には不織布等のシート材同士の接着に用いられるホットメルト接着剤による接着である。ホットメルト接着部は、接着部をほとんど硬化させずにシート材を接着することができる。中でも、吸収性物品、衛生物品において用いられる不織布の柔軟性を損なわれないように配慮されたホットメルト接着剤により接着するのが特に好適である。
【0044】
ここで、両シート材20、21を接着するにあたって接着剤は、雌基材シート側に塗布するようにしてもよいし、有孔被覆シート側に塗布するようにしてもよい。必要に応じて適宜の側に塗布して積層して接着すればよい。孔部の配置パターンをよけて雌基材シート上に接着剤を塗布するよりも、有孔被覆シート21に塗布したほうが製造は容易である。
【0045】
接着剤の塗布態様としては、雌基材シート20、有孔被覆シート21の何れかの全面に塗布してもよいし、ライン状あるいは点状に部分的に塗布してもよい。また、スロットコーター等の塗工機の用いて直接的にシート材に塗工してよいし、ホットメルトパウダーを散布する方法や、スプレーノズルを用いて散布することにより塗布するようにしてもよい。塗布態様は特に限定されるものであない。
【0046】
一方、本発明の雌材シート2では、前記有孔被覆シート21を伸縮性を有するものとして、この伸縮によって各孔部が拡縮するように構成することができる。例えば、繊維間の絡み合いを利用した伸縮性不織布や編みこみにより伸縮性を備えた織布が挙げられる。伸縮によって孔部が拡縮すると雄材と係止させるときに孔部を広げて係止させ、係止後に孔部の縮小により不要な雌形素子の露出が少なくなる態様をとることができる。
【0047】
他方、本発明の雌材シート2では、雌基材シート20と有孔被覆シート21との間に糸ゴム、エラストマーシート、ウレタンシート、その他弾性伸縮性シートなどの弾性伸縮材(図示せず)を配することにより、伸縮性を付与したものとすることができる。そして、このように伸縮部材によって伸縮性が付与されると雌材シート2が収縮されたときに生ずるシワ間に孔部21a、21aが隠れ、雌材シート2を伸張したときに孔部21a、21aが明確に露出するようになり、もって孔部21a、21aを露出させたときに雄材と係止させ、その後に雌材シート2の伸張状態を解除して係止に不必要な孔部21a、21aが再度シワ間に隠れるようにして、意図しない係止がなされないようにする態様をとることができる。
【0048】
なお、弾性伸縮部材と各シートとの接着は、適宜選択できるが上述の雌基材シートと有孔被覆シートとの接着と同様にホットメルト接着剤を用いるのが好適である。
【0049】
<吸収性物品の第1の実施形態>
次いで、本発明にかかる面ファスナーの雌材シートを用いた吸収性物品を使い捨て紙おむつZを例に詳述する。図5に本形態の紙おむつの展開図を示す。
【0050】
本形態の紙おむつZは、使用者の肌側に位置する透液性の表面シート11と、製品の外側に位置して実質的に液を透過させない不透液性の裏面シート12と、これらの間に設けられた例えば長方形又は好ましくは砂時計型のある程度剛性を有する吸収体13と備え、背側部の左右両側縁部に止着用のファスニングテープY1が配されている。このファスニングテープY1はその一部または全部が、面ファスナーの雄材で形成されており、この雄材が係止する腹側部に形成された係止部に上述の本形態の雌材シートX1が配されている。
【0051】
裏面シート12は、ポリエチレンフィルム等の不透液性プラスチックフィルムの外面に肌触り性向上のため不織布シートが積層融着して形成されており、吸収体3より幅広の方形をなしている。なお、第1の形態における裏面シートは、必ずしも外面側に不織布シートを積層したものとする必要はなく、外面が不透液性プラスチックフィルムであるものでもよい。この不織布シートは表面の繊維ループ、繊維アーチが密であり、雄材と係止はしように構成されている。前記ファスニングテープY1の係止部たる雌材シートX1は、前記裏面シート12外面の腹側の幅方向(腹回り方向)の中央部から両脇に向かって適宜の範囲にわたり、ホットメルト接着剤(図示しない)を用いて接着されて設けられている。
【0052】
一方、雌材シートX1が取り付けられる腹回り部分は、腹回りへのフィット性向上およびもれ防止のために多数の図示されない糸ゴムが配されてウエストギャザーが形成されている。雌材シートX1は、この糸ゴムが伸張された状態で裏面シート12に接着されており、糸ゴムが収縮した状態では雌材シートX1にシワが入った収縮された状態とされ、その孔部21a、21a…の一部はシワとシワとの間に隠れた状態になる。おむつの装着時のウエストギャザー伸張操作に伴って雌材シートX1は伸張され孔部21aが明確に露出され雄材Y1と適当な係止力で係止させることが可能となる。そして、おむつ装着後に糸ゴムの伸縮力が作用して伸張不必要部にシワが生ずるとその部分における係止に不要な孔部21aがシワ間に隠れるようになる。
【0053】
一方、表面シート11は吸収体13より幅広の方形をなし、吸収体13の側縁13sより外方に延在し、裏面シート12とホットメルト接着剤などにより接着されている。表面シート11は、スパンボンド不織布、エアスルー不織布、SMS不織布、ポイントボンド不織布等の各種不織布の他、ポリエチレンフィルム等のプラスチックフィルムや、プラスチックフィルムと不織布とをラミネートしたラミネート不織布も用いることができる。また、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート等の糸を平織り等したネット状の素材を用いることもできる。
【0054】
表面シート11と吸収体13との間には、表面シート11を通過した体液を広い範囲にすばやく拡散させるあるいは吸収体13にすばやく移行させる等の目的で、セカンドシート14が設けられている。
【0055】
吸収体13は、積繊パルプやトウからなる繊維集合体に吸収性ポリマーを内在させたものをパルプシートなど包皮して形成されている。前記繊維集合体を構成する繊維(以下、単にトウ構成繊維という)としては、例えば、多糖類又はその誘導体(セルロース、セルロースエステル、キチン、キトサンなど)、合成高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリラクタアミド、ポリビニルアセテートなど)などであり、特に、セルロースエステルおよびセルロースが好ましい。なお、セカンドシート14を繊維集合体からなるものとしてもよい。
【0056】
高吸収性ポリマーとしては、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸およびその塩類、アクリル酸塩重合体架橋物、澱粉−アクリル酸グラフト共重合体、澱粉−アクリロニトリルグラフト共重合体の加水分解物、ポリオキシエチレン架橋物、カルボキシメチルセルロース架橋物、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド等の水膨欄性ポリマーを部分架橋したもの、あるいはイソブチレンとマレイン酸との共重合体等が好適に用いられる。製品の吸湿によるブロッキング性を抑制するためにブロッキング防止剤が添加されたものも用いることができる。また高吸収性ポリマーとしては、粉体状、粒子状、顆粒状、ペレット状、ゾル状、サスペンジョン状、ゲル状、フィルム状、不織布状等のさまざまな形態をもったものがあるが、これらはいずれも本発明において使用可能であり、特に粒子状のものが好適に使用される。
【0057】
なお、本発明の吸収性物品Zはこの形態に限られるわけではなく、ファスニングテープたる雄材Y1とその係止部たる雌材シートX1との係止により止着を行う種の紙おむつにおいて採り得る構成に適宜変更することができる。例えば、腹回り以外にも止着式紙おむつ等の吸収性物品において用いられる糸ゴムなどの弾性伸縮部材を各所に配することができる。
【0058】
<吸収性物品の第2の実施の形態>
第2の実施形態は、図示はしないが、雌材シートを裏面シートに貼付するのではなく、裏面シート12そのものの外面の一部を先に説明の雌材シートと同様の構造にして係止部とした形態である。いわゆるターゲットテープレスともよばれる形態である。
【0059】
この第2の実施の形態にかかる使い捨て紙おむつに用いる裏面シートは、係止部形成のため外面側が常に不織布シートあるいは織布シートが配されたものとする。
【0060】
第1の形態では、裏面シートに用いる不織布シートは、その表面の繊維ループ、繊維アーチを密として、雄材との係止を防止した構成としたが、本形態では、少なくとも係止部とする位置の繊維ループ、繊維アーチの形状、密度を調整して、ファスニングテープの雄材と係止しうる雌型素子とした雌基材部を設ける。
【0061】
裏面シートを形成するにあたって、不織布シートと不透液性フィルムシートとを接着する方法としては、ホットメルト接着剤を介して行われるエンボス加工など既知の技術により圧着すればよい。このとき、係止部(雌基材部)と他の部分における圧着力など圧着態様を相違させることによっても、係止機能を有する雌基材部を形成することができる。
【0062】
ここで、用いられる不織布シートの具体例は、上記説明の雌基材シートに用いられる不織布シートと同様であるが、特に、この不織布シートの、坪量は、10〜100g/m2 、更に好ましくは20〜60g/m2 とするのが望ましい。不織布シートの坪量が10g/m2 未満であると、雄材の絡む空間が十分に維持されず、また止着テープを剥離させる際に不織布シートの破壊が生じ、100g/m2 を超えると、不織布シートの生産性が悪くなるとともに、係合部以外の部位への止着テープの止着が顕著となるので好ましくない。
【0063】
なお、第2の形態に特有である構成以外の構成については、第1の実施の形態と同様である。例えば、表面シート、吸収体、係合部の位置、範囲、大きさ、ファスニングテープの構成などは第1の実施の形態と同様である。また、係止部における構造は、上記説明の雌基材シートと同様である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、紙おむつなどの吸収性物品のほか、手術衣、包装材等の使い捨て製品にも好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明にかかる面ファスナーの雌材シートの第1の形態を示す模式図である。
【図2】そのII−II断面図である。
【図3】本発明にかかる面ファスナーの雌材シートの第2の形態を示す模式図である。
【図4】本発明にかかる面ファスナーの雌材シートの第3の形態を示す模式図である。
【図5】本発明にかかる面ファスナーを採用した止着式紙おむつの展開図である。
【符号の説明】
【0066】
X1…雌材シート、Y1…雄材(ファスニングテープ)、Z…紙おむつ、2a…雌形素子、20…雌基材シート、21…有孔被覆シート、21a…孔部、22…ホットメルト接着部、11…表面シート、12…裏面シート、13…吸収体、14…セカンドシート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
面ファスナーの雌材シートであって、繊維がループ状またはアーチ状とされた雌形素子が多数形成されている雌基材シートと、この雌基材シートの雌形素子形成面に積層されて接着されている複数の孔部を有する有孔被覆シートとを備え、前記有孔被覆シートの孔部から露出される雌形素子形成面を介して雄材と係止されるように構成されている、ことを特徴とする面ファスナーの雌材シート。
【請求項2】
前記雌基材シートが、不織布である請求項1記載の面ファスナーの雌材シート。
【請求項3】
雌基材シートと有孔被覆シートとが、ホットメルト接着剤により接着されている請求項1または2記載の面ファスナーの雌材シート。
【請求項4】
前記有孔被覆シートが伸縮性を有しているとともに、前記雌基材シートに対して部分的に接着されており、有孔被覆シートの伸縮により各孔部が拡縮可能に構成されている、請求項1〜3の何れか1項に記載の面ファスナーの雌材シート。
【請求項5】
前記雌基材シートと有孔被覆シートとの間に弾性伸縮材が配されている、請求項1〜4の何れか1項に記載の面ファスナーの雌材シート。
【請求項6】
液透過性の表面シートと、液不透過性の裏面シートと、両シート間に介在された吸収体とを備え、背側または腹側の左右両側縁部に止着用のファスニングテープが配されている吸収性物品において、
前記ファスニングテープが、面ファスナーの雄材で形成されており、この雄材が係止する係止部が、前記請求項1〜4の何れか1項に記載の雌材シートにより形成されていることを特徴とする吸収性物品。
【請求項7】
雌材シートが取り付けられる部位が弾性伸縮性を有しており、この弾性伸縮性に伴って雌材シートが伸縮するように構成されている、請求項6記載の吸収性物品。
【請求項8】
液透過性の表面シートと、液不透過性の裏面シートと、両シート間に介在された吸収体とを備え、背側または腹側の左右両側縁部に止着用のファスニングテープが配されている吸収性物品であって、
前記裏面シート自体の一部に繊維がループ状またはアーチ状とされた雌形素子が多数形成された雌基材部が形成されており、
その雌基材部を含む範囲が複数の孔部を有する有孔被覆シートにより被覆されて、その孔部から露出される雌形素子形成面を介して、前記ファスニングテープとの係止がなされるように構成されている、ことを特徴とする吸収性物品。
【請求項9】
裏面シートの雌基材部を含む範囲と有孔被覆シートとが、ホットメルト接着剤により接着されている請求項8記載の吸収性物品。
【請求項10】
前記有孔被覆シート伸縮性を有しているとともに、前記雌基材部に対して部分的に接着されており、有孔被覆シートの伸縮により各孔部が拡縮可能に構成されている、請求項8または9記載の吸収性物品。
【請求項11】
裏面シートの雌基材部を含む範囲が弾性伸縮性を有する、請求項8〜10の何れか1項に記載の吸収性物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−268219(P2007−268219A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−101163(P2006−101163)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】