説明

面ファスナー材およびその製造方法

【課題】 雄係合素子を簡単かつ確実に形成することができ、かつ、係合の引き離しの困難性や不快音を緩和して、しかも、雄係合素子の身体への接触時の不快感を改善することができる面ファスナー材およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 連結糸3を溶解性繊維糸2の編目ループR形状に合わせて、緊張状態で傾倒させながらこれらを重ね合わせて編成一体化することによってテープ状編成体Tを成形し、このテープ状編成体Tを前記連結糸3の熱可塑性樹脂材料の軟化点近傍の温度の雰囲気下で加熱せしめて、前記連結糸3の編目ループを基布面に対して一方向に傾倒した状態に癖付け固定した後、前記溶解性繊維糸2を溶解手段により溶解して除去せしめ、前記連結糸3による編目ループを残存させることによって、これら傾倒状態の連結糸3の編目ループを雄係合素子3Aとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面ファスナー材の改良、更に詳しくは、雄係合素子を簡単かつ確実に形成することができ、かつ、係合の引き離しの困難性や不快音を緩和して、しかも、雄係合素子の身体への接触時の不快感を改善することができる面ファスナー材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
面ファスナーの構造としては、フック状の突起物(雄係合素子)が表面に形成されたテープ状部材と、ループ部(雌係合素子)が表面に形成されたテープ状部材との2種類のテープ状部材が、一対で互いに係合する形式が知られている。
【0003】
雄係合素子をテープ状部材の表面に形成するにあっては、例えば、地組織にモノフィラメントからなるループ糸を基材織物に織り込んでループを形成した後、各ループの側部を切断したフック状にするものや、あるいはループの頂部を切断してから、その先端を球状(または半球状など)に加熱溶融して、きのこ状の雄係合素子を基布に設けるものが開示されている。
【0004】
しかしながら、このようにして面ファスナーに雄係合素子を形成するにあっては、特殊な織機を用いて製造せねばならず、また、準備が煩雑であって生産効率が非常に低いという問題があった。
【0005】
そのようなことから、生産効率を高める方法として経編機を利用して面ファスナーを製造する提案がなされており(例えば、特許文献1参照)、2針床列経編機により、両針床間を掛け渡しする連結糸をカットして雄係合素子を形成するとともに、両針床で形成した基布に設けたパイルによって雌係合素子を形成することができる。
【0006】
しかしながら、この<特許文献1>の面ファスナーにおける雄係合素子は、雌係合素子と強固に係合させることができる反面、係合を離す際に比較的大きな力が必要であるために、面ファスナー材が取り付けられた製品部材との接着部分が剥がれる問題や、また係合解除時に不快音を発生するという問題があった。
【0007】
そこで、雄係合素子(ステム)を基材に対して斜めに植設する面ファスナーが提案されており(特許文献2参照)、このような構造により、強固な係合が可能であり、しかも、雄係合素子を雌係合素子から抜く方向に引っ張り上げれば僅かな力で容易に係合を離すことでき、更に、剥離時の不快音を減少させることもできる。
【0008】
しかしながら、<特許文献2>における雄係合素子の先端は、細いモノフィラメントの端部であるため、例え丸みをつけても先端が人の肌に触れると刺さるような不快を与え、特に乳幼児などの衣類には不向きである。
【0009】
また、この<特許文献2>の製造方法によると、ダブルラッセル編機によって、2枚の基布間を連結した連結糸を切断して得たカットパイル状のシートを、約200℃に加熱した金属製のロールとゴムロールの間に通して、カットパイル糸を45°の一定方向に傾斜させる方法が記載されている。
【0010】
しかしながら、このカットパイル糸は、熱ローラで押さえるだけで癖付けするため、カットパイル糸の根元にまで十分な熱セットがなされずに、個々のカットパイル糸の傾斜角が一定せず、しかも耐久性にも問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−41596号公報
【特許文献2】特開平7−124004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来の面ファスナー材に上記のような問題があったことに鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、雄係合素子を簡単かつ確実に形成することができ、かつ、係合の引き離しの困難性や不快音を緩和して、しかも、雄係合素子の身体への接触時の不快感を改善することができる面ファスナー材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を添付図面を参照して説明すれば次のとおりである。
【0014】
即ち、本発明は、少なくとも2列の針床列A・Bを備えたダブルラッセル編み機を用いて、面ファスナー材を製造する方法であって、
一方の針床列Aにおいて経編地を編成して基布1を形成していく一方、
他方の針床列Bには溶解性繊維糸2を供給して、経方向に連なる編目ループ列b・b…を形成し、
熱可塑性樹脂材料からなる連結糸3を、これらの編目ループRに重ね合わせつつ編み込んで、かつ、前記両針床列A・Bに亙り掛け渡し、
当該連結糸3を溶解性繊維糸2の編目ループR形状に合わせて、緊張状態で傾倒させながらこれらを重ね合わせて編成一体化することによってテープ状編成体Tを成形し、
このテープ状編成体Tを前記連結糸3の熱可塑性樹脂材料の軟化点近傍の温度の雰囲気下で加熱せしめて、前記連結糸3の編目ループを基布面に対して一方向に傾倒した状態に癖付け固定した後、
前記溶解性繊維糸2を溶解手段により溶解して除去せしめ、前記連結糸3による編目ループを残存させることによって、これら傾倒状態の連結糸3の編目ループを雄係合素子3Aとするという技術的手段を採用したことによって、面ファスナー材の製造方法を完成させた。
【0015】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、針床列Aにおいて、鎖編地糸11により鎖編組織a・a…を編成し、かつ、これらの鎖編組織の間に、緯挿入糸12を緯方向に挿入して基布1を形成するという技術的手段を採用した。
【0016】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、溶解性繊維2として水溶性の繊維を用いて、水または加熱水により溶解させるという技術的手段を採用した。
【0017】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、連結糸3をフィラメント糸または紡績糸にするという技術的手段を採用した。
【0018】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、連結糸3として、高融点ポリマー31の周りに低融点ポリマー32を被覆してなる芯鞘複合繊維のマルチフィラメント糸を用いて、
この鞘部の低融点ポリマー32の融点以上の温度で加熱せしめて、各フィラメントを低融点ポリマー32で融着させるという技術的手段を採用した。
【0019】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、基布1の長手方向に弾性糸4を挿入して、伸縮性を付与するという技術的手段を採用した。
【0020】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、基布1をメッシュ組織にして、部分的に空隙を持たせるという技術的手段を採用した。
【0021】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、針床列Aで編成する基布1を、少なくとも2枚の筬ガイドで形成して、そのうちの1枚の筬に挿通された基布形成糸をオーバーフィードさせて針床列Aの編目側に雌係合素子3Bとなるパイルを、基布1における雄係合素子3Aの形成面の反対側の面に形成するという技術的手段を採用した。
【0022】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、基布1を構成する繊維として、公定水分が3%以上である吸湿性または吸水性を有する繊維を用いるという技術的手段を採用した。
【0023】
また、本発明は、経編地からなる基布1が形成されている一方、
溶解性繊維糸2によって経方向に連なる編目ループ列b・b…が形成されるとともに、熱可塑性樹脂材料からなる連結糸3が、これらの編目ループRに重ね合わせつつ編み込まれて、かつ、前記両針床列A・Bに亙り掛け渡され、
当該連結糸3が溶解性繊維糸2の編目ループR形状に合わせて、緊張状態で傾倒しながらこれらが重ね合わされて編成一体化されてテープ状編成体Tが成形され、
このテープ状編成体Tが前記連結糸3の熱可塑性樹脂材料の軟化点近傍の温度の雰囲気下で加熱されて、前記連結糸3の編目ループを基布面に対して一方向に傾倒した状態に癖付け固定されており、
前記溶解性繊維糸2が溶解手段により溶解して除去されて、前記連結糸3による編目ループが残存して、これら傾倒状態の連結糸3の編目ループが雄係合素子3Aを成しているようにしたことによって、面ファスナー材を完成させた。
【発明の効果】
【0024】
本発明にあっては、少なくとも2列の針床列を備えたダブルラッセル編み機を用いて、面ファスナー材を製造する方法であって、
一方の針床列において経編地を編成して基布を形成していく一方、他方の針床列には溶解性繊維糸を供給して、経方向に連なる編目ループ列を形成し、
熱可塑性樹脂材料からなる連結糸を、これらの編目ループに重ね合わせつつ編み込んで、かつ、前記両針床列に亙り掛け渡し、当該連結糸を溶解性繊維糸の編目ループ形状に合わせて、緊張状態で傾倒させながらこれらを重ね合わせて編成一体化することによってテープ状編成体を成形し、
このテープ状編成体を前記連結糸の熱可塑性樹脂材料の軟化点近傍の温度の雰囲気下で加熱せしめて、前記連結糸の編目ループを基布面に対して一方向に傾倒した状態に癖付け固定した後、
前記溶解性繊維糸を溶解手段により溶解して除去せしめ、前記連結糸による編目ループを残存させることによって、これら傾倒状態の連結糸の編目ループを雄係合素子とすることができる。
【0025】
したがって、本発明の面ファスナー材の製造方法によれば、雄係合素子を簡単かつ確実に形成することができ、かつ、係合の引き離しの困難性や不快音を緩和して、しかも、雄係合素子の身体への接触時の不快感を改善することができることから、実用的利用価値は頗る高いものがあると云える。
【0026】
また、生産効率の高いダブルラッセル編機で編成され、しかも簡単な後加工だけで面ファスナーを得るので、安価なコストで面ファスナーを製造することができる。
【0027】
更にまた、連結糸の編目を一方向に傾斜させて雄係合素子としたので、強い係合力を発揮する同時に係合解除時に不快音が生じることなく容易に解除可能であるし、係合素子は編目で、しかも一方向に傾斜しているから直性肌が触れても不快感を生じない。
【0028】
更にまた、本発明の面ファスナー材によれば、雄係合素子を基布の長さ方向に対して部分的に一体に設けることができるので、雄係合素子を別途面ファスナー材に縫い付けたりする手間を掛ける必要がない。
【0029】
更にまた、面ファスナー材の基布自身は編構造であるから、曲面へのフィット性に優れており、必要に応じて、弾性糸と併用することによって大きな伸縮性を発揮するテープ状の面ファスナーを構成することができる。
【0030】
更にまた、必要に応じて、基布をメッシュ組織とすることによって、より一層の通気性が得られるし、吸湿性繊維などとの併用により、吸湿、発散作用の優れた面ファスナー材にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態の面ファスナー材の製造工程における構造を表わす概略説明図である。
【図2】本発明の実施形態の面ファスナー材の製造工程における構造を表わす概略説明図である。
【図3】本発明の実施形態の連結糸の構造を表わす斜視図である。
【図4】本発明の実施形態の面ファスナー材を表わす斜視図である。
【図5】本発明の実施形態の面ファスナー材を表わす側面図である。
【図6】本発明の実施形態の面ファスナー材の編成組織図である。
【図7】本発明の実施形態の面ファスナー材の変形例を表わす斜視図である。
【図8】本発明の実施形態の面ファスナー材の変形例を表わす側面図である。
【図9】本発明の実施形態の面ファスナー材の変形例を表わす斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明を実施するための形態を、具体的に図示した図面に基づいて更に詳細に説明すると、次のとおりである。
【0033】
本発明の実施形態を図1から図9に基づいて説明する。図1中、符号1で指示するものは基布であり、この基布1は、面ファスナー材の本体を形成するテープ状の帯体であって、本実施形態では経編物である。
【0034】
また、符号2で指示するものは溶解性繊維糸であり、この溶解性繊維糸2は、溶解手段によって溶解する糸材であって、本実施形態では、溶解性繊維2として水溶性の繊維を用いて、水または加熱水により溶解させることができる。
【0035】
更にまた、符号3で指示するものは連結糸であり、この連結糸3は、熱可塑性樹脂製(ナイロン、ポリエステルなど)の糸材であって、前記基布1に編み込まれるとともに、この基布1から突出して雄係合素子3Aを形成できる。本実施形態では、連結糸3をフィラメント糸または紡績糸にする。
【0036】
しかして、本発明は、少なくとも2列の針床列A・Bを備えたダブルラッセル編み機を用いて、面ファスナー材を製造する方法であって、構成するにあっては、まず、一方の針床列Aにおいて経編地を編成して基布1を形成していく。
【0037】
本実施形態では、ダブルラッセル編み機の針床列Aにおいて、鎖編地糸11により鎖編組織a・a…を編成し、かつ、これらの鎖編組織の間に、緯挿入糸12を緯方向に挿入して、経編組織の基布1を形成する。
【0038】
次に、他方の針床列Bに溶解性繊維糸2を供給して、経方向に連なる編目ループ列b・b…を形成する。
【0039】
そして、熱可塑性樹脂材料からなる連結糸3を、これらの溶解性繊維糸2からなる編目ループRに重ね合わせつつ編み込んで、かつ、前記両針床列A・Bに亙り掛け渡す。
【0040】
図1においては、編目列aとbの連結箇所のみを表し、その他の編目列についてはそれぞれ反対面の編目列を省略しているが、実際には、針床列Aおよび針床列Bによるそれぞれの編目列が、連結糸3により連結されている。
【0041】
なお、針床列Aで形成する基布1の編組織は、鎖編組織と3針緯挿入組織を採用しているが、特に限定するものでなく、1/1トリコット編、コード編、あるいはメッシュ編のような変化組織、そして挿入組織においても1針挿入、2針挿入、アトラス挿入など基材の要求特性に応じて種々の経編組織を用いることができる。
【0042】
本実施形態において、針床列A側の基布1を形成する際、これらの糸(本実施形態における鎖編糸11および緯挿入糸12)は、通常の一般衣料に使用されている繊維糸であって、合成繊維や天然繊維などから選ばれた繊維糸を用いることができる。
【0043】
一方、針床Bで編成される溶解性繊維糸2は、水または加熱水、加熱、あるいは溶剤などで溶解する繊維を採用することができるが、前記連結糸3の熱セットとの関係上、特に、水または加熱水で容易に溶解するポリビニルアルコール繊維糸を用いるのが好ましい。
【0044】
また、連結糸3は、それによる編目ループが後に雄係合素子3Aとなるため、熱可塑性の繊維で比較的に曲げ剛性の大きな繊維が好ましく、例えば、ナイロン、ポリエステルなどのモノフィラメント糸やマルチフィラメント糸、あるいは紡績糸などを採用することができる。
【0045】
なお、本実施形態では、連結糸3の構造として、高融点ポリマー31の周りに低融点ポリマー32を被覆してなる芯鞘複合繊維のマルチフィラメント糸を用いて、この鞘部の低融点ポリマー32の融点以上の温度で加熱せしめて、各フィラメントを低融点ポリマー32で融着させることもできる(図3参照)。
【0046】
このように、高融点ポリマー31と低融点ポリマー32との芯鞘複合構造の糸であると、編成時は通常のマルチフィラメント糸並みの曲げ剛性であるから編成し易く、そして編成後に低融点ポリマー32の融点以上で加熱することにより各フィラメントが低融点ポリマー32が溶融して接着され、モノフィラメント並みの曲げ剛性を発揮することができる。
【0047】
なお、芯鞘複合糸の高融点ポリマー31の融点としては、低融点ポリマー32を溶融させる熱セット温度に耐えられるよう180℃以上であることが好ましい。一方、低融点ポリマー32の融点としては、製品の耐熱性を考慮に入れて130℃以上であることが好ましく、少なくとも高融点ポリマー31の融点以下である必要がある。低融点ポリマー32の融点温度が低いと、熱セット時の加熱温度が低くて済むが、製品になってから高温度に曝された際に溶融する危険があるからである。
【0048】
また、連結糸3の芯鞘複合構造として、上記とは逆に、低融点ポリマー32の周りに高融点ポリマー31を被覆してなる芯鞘複合繊維のマルチフィラメント糸にすることもでき、この芯部の低融点ポリマー32の融点以上の温度で加熱せしめて芯部を一旦溶融して、冷却硬化することによって、連結糸3の形状を安定させることもできる。更にまた、芯鞘複合構造の糸の代わりに、通常の高融点ポリマー31からなるマルチフィラメント糸と低融点ポリマー32からなるマルチフィラメント糸の混繊による複合糸であっても差し支えない。
【0049】
そして、前記連結糸3を溶解性繊維糸2の編目ループR形状に合わせて、緊張状態で傾倒させながらこれらを重ね合わせて編成一体化することによってテープ状編成体Tを成形する。
【0050】
この際、針床列B側における編組織は、同一針により連続する経方向編目列において、溶解性繊維糸2の編目ループ同士が連なっていても構わないが、連結糸3は溶解性繊維糸2の編目ループと交互または複数編目間隔で連なっている。
【0051】
即ち、図1においては、針床列B側の編目列において、溶解性繊維糸2による編目ループは連続して形成され、連結糸3は、一つ置きに前記溶解性繊維糸2による編目ループと重なる形で編成されている。
【0052】
また、図1の針床列B側の編目列においては、同一コースに溶解性繊維糸2だけの編目列と、溶解性繊維糸2と連結糸3との二重編目が交互に位置するものが示されているが、隣接する編目列で両者の位置が異なるものであれば、例えば、連結糸3の編目ループが千鳥配置に重なっているものでも構わない。
【0053】
更にまた、図1では、針床列B側において、連結糸3による編目が一つおきになっているが、二つ連なっていても構わない。
【0054】
次いで、前記テープ状編成体Tを前記連結糸3の熱可塑性樹脂材料の軟化点近傍の温度(約180℃)の雰囲気下で加熱せしめて、前記連結糸3の編目ループを基布面に対して一方向に傾倒した状態に癖付け固定する。
【0055】
本実施形態において、前記したように、連結糸3が芯鞘複合糸である場合、低融点ポリマー32の融点以上で、かつ高融点ポリマー31の軟化点温度程度(130〜180℃)で熱セットすることにより、連結糸3の低融点ポリマー32が溶融して高融点ポリマー31の繊維同士が接着され、連結糸3があたかもモノフィラメントのように一体化され、しかも編目構造の形体が維持された状態で熱セット(癖付け)することができる。
【0056】
このとき、セットする経編地(テープ状編成体T)をできるだけ長さ方向に伸長させながら熱セットすることによって、連結糸3による編目ループを傾倒させるとともに、細長く、先端が尖った形状にセットすることができ、面ファスナー材の雄係合素子3Aとして有効な形態にすることができる。
【0057】
然る後、前記溶解性繊維糸2を溶解手段(本実施形態では水または加熱水)により溶解して除去せしめ、前記連結糸3による編目ループのみをテープ表面に残存させることによって、これら傾倒状態の連結糸3の編目ループを雄係合素子3Aとして、面ファスナー材を完成することができる。
【0058】
具体的には、熱セットされた経編地(テープ状編成体T)をウインスm/c(マシン)などにより加熱水中で精練を行い、水溶性繊維糸2を溶解させ、次いで乾燥させることよって、図2に示すような連結糸3の編目ループを雄係合素子3Aにした経編地に変化させることができる。
【0059】
なお、図2では、針床列B側で形成される編目形状が丸く描かれているが、実際には熱セット時に経編地(テープ状編成体T)の長さ方向に伸長させた状態でセットするなどの手段により、細長く、しかも先端が適度に尖った形態にすることが可能である。
【0060】
このように製造することにより、針床列Bにより編成された連結糸3による編目ループは、ループ同士が連なることなく各々独立した状態で一方向に傾斜した形態で針床列Aにより編成された基布1の面上に突起させることができる。
【0061】
また、本実施形態では、針床列Aで編成する基布1を、少なくとも2枚の筬ガイドで形成して、そのうちの1枚の筬に挿通された基布形成糸をオーバーフィードさせて針床列Aの編目側に雌係合素子3Bとなるパイルを、基布1における雄係合素子3Aの形成面の反対側の面に形成することもでき、雄係合素子3Aの成形面の反対側の面に雌係合素子3Bを有する面ファスナー材を得ることが可能である。
【0062】
更にまた、一定の長さを有する長手テープ状の面ファスナーにおいて、一方の面の雄係合素子3Aを所定長さ毎に断続的に設け、その他の部分は吸湿性に優れた繊維糸が表面に現れる編構造とし、反対面に雌係合素子3Bを設けておけば、そのままリストバンドなどとして用いることができ、従来の様に面ファスナー材を別に縫い付けたりする手間を省くことができる。
【0063】
そして、図4および図5に示すように、雄係合素子3Aは一方向に傾斜しているので、雌係合素子3Bに雄係合素子3Aを突き刺すようにして係合させることにより基布1の長さ方向に対して非常に強い係合力を発揮させることができる。
【0064】
逆に、係合を解く際には、雄係合素子3A側の面ファスナー材の端部を曲げるようにしながら持ち上げることによって、雄係合素子3Aを雌係合素子3B面に対して垂直に近い角度にして、雄係合素子3Aは雌係合素子3Bのループから容易に、かつ不快音を発生することなく抜くことができる。
【0065】
また、面ファスナー材の基布1は、広幅で編成することも可能であるが、幅10〜50mm程度のテープ状にするのが好ましい。そうすることにより、切り出す手間が省けると同時に両耳が形成され、切り口から解れるようなことがない。
【0066】
なお、基布1は、ダブルラッセル機の片側針床列で編成可能な編組織であれば、特に限定されるものでないが、中でも鎖編組織と緯挿入組織の組み合わせによる編組織にすることにより、寸法安定性に優れていて好ましい。
【0067】
また、基布1を構成する糸においては、衣料用、あるいは産業資材用などに用いられている繊維糸などを使用することができ、特に限定されるものではない。
【0068】
また、雄係合素子3Aは、前述したように、ダブルラッセル編による連結糸3からなる編目ループRを基に形成したものであり、連結糸3の一部が基布1の編地に数コース編み込まれている。
【0069】
なお、この雄係合素子3Aの形状は、編成条件や基材熱セット時の伸長度合により決めることができ、先端が鋭角に折れ曲がっていることが好ましく、傾斜角は30〜60°の範囲がより好ましい。角度が30°以下であると雌係合素子3Bに係合させる際に、係合させる方向とは逆方向に大きく引っ張ってから係合させねばならず、係合が難しくなる一方、60°以上となると係合部に負荷が掛かると雄係合素子が起こされて係合が外れる可能性があるからである。
【0070】
また、雄係合素子3Aは、モノフィラメント糸でも構わないが、モノフィラメント糸は曲げ剛性が高いために雄係合素子3Aとなる編目ループを細長く、また先端を鋭角に曲げることにやや難点がある場合がある。したがって、前述のように、高融点ポリマー31の周りに低融点ポリマー32が被覆された芯鞘複合繊維のマルチフィラメント糸にすれば、熱セット前に編目を雄係合素子3Aに相応しい形状に変形させてセットすることができる。
【0071】
そして、編成後に鞘部の低融点ポリマーの融点温度以上の温度で加熱し、各フィラメントが接着させることができ、モノフィラメント並みの曲げ剛性を有し、かつ傾斜した状態で熱セットすることができるので、高い耐久性を発揮させることができる。
【0072】
また、一体化されたフィラメントの表面は低融点ポリマーの融解によって凸凹し、雌係合素子と係合した際の摩擦抵抗となり、係合が一層強固となる。
【0073】
更には、基布1内において低融点ポリマー32により基布1の形成糸と接着されるので雄係合素子3Aが抜け出すようなことがない。
【0074】
なお、芯鞘複合糸としては、フィラメント数が8〜40本で、繊度が150〜600デシテックスであることが好ましい。繊度が150デシテックス以下では雄係合素子3Aとしての剛性が不足し、係合力や耐久性が期待できず、一方、繊度が600デシテックス以上となると強固な係合が得られるが、余りに繊度が大きいために細長く、そして先端が鋭角な形状の雄係合素子となり難く、また基材6自体がゴツゴツと硬くなるからである。
【0075】
また、本実施形態では、基布1の長手方向に弾性糸4を挿入して、伸縮性を付与することができる。図6に示すものは、基布1に弾性糸4を挿入する場合の組織図であり、鎖編と挿入組織からなる基布1に弾性糸を1針挿入させたものである。
【0076】
この弾性糸4としては、伸度が300%以上で、繊度が20〜2000デシテックスの天然ゴムあるはポリウレタンゴムなどの合成ゴムからなる糸条が好ましく、基布1の伸長率やパワー(反発抵抗)は使用する弾性糸4の繊度や挿入密度、編成時の伸長倍率によって適宜決めればよい。
【0077】
この様に、面ファスナー材に伸縮性を付与することによって、係合作業を容易にすることができると同時に、締め付けパワーがある状態でセットできるので係合が外れたりすることがない。
【0078】
更にまた、本実施形態では、基布1をメッシュ組織にして、部分的に空隙を持たせることもできる。メッシュ組織としては、鎖編と緯挿入糸を部分的に1針挿入をした変化挿入組織、あるいはネット組織などにすることができる。この際、メッシュによる空隙部大きさとしては、1〜5mm程度である。本発明の面ファスナー材は、経編地であるから元々通気性を有しているが、基布1をメッシュ組織にして部分的に空隙を設けることで、より一層の通気性の優れた面ファスナーを得ることができる。
【0079】
さらに、本発明の面ファスナー材は、図7に示すように、基布1の長さ方向に対して、雄係合素子3Aを設けた箇所(L1)と、雄係合素子3Aが存在しない箇所(L2)とを交互に設けた構造にすることができる。
【0080】
このような構造にするためには、雄係合素子3Aが必要な箇所(L1)は連結糸3で両針床列の編目ループを連結する一方、雄係合素子3Aが不必要な箇所(L2)については前記連結糸3で連結させず、基布1編成側の針床列A側でのみ編成するか、または反対の針床列B側でのみ編成した後に、その部分を切断除去すればよい。
【0081】
このように、基布1の表面の部分的あるいは断続的に雄係合素子3Aを設けることで、別に作製した雄係合素子をわざわざ縫い付けたり貼り付けたりすることなく、雄係合素子3Aが一体となったテープ材として使用でき、縫い付けや貼り付けの手間が省けるだけでなく、雄係合素子3Aが面ファスナー材の表面から剥がれたりすることがない。
【0082】
また、本実施形態の面ファスナー材は、雄係合素子3A面の反対面(裏面)に雌係合素子3Bを設けてもよい。具体的には、基布1の編目側の編目を少なくとも2本の編糸が重なるよう2枚以上の筬により編成し、その内どれか1枚の筬に挿通された編糸をオーバーフィードさせることによって、図8および図9に示すように、基布1の編目側に雌係合素子3Bとなるパイルを形成することができる。
【0083】
このように、反対面に雌係合素子3Bを設けることにより、例えば、リストバンドように1本のテープ状を輪にして使用する商品などには、係合素子を別途取り付けることなくそのまま用いることが可能となる。
【0084】
ただし、雄係合素子3A面が肌面になる場合は、肌面に接触しないように、雄係合素子3Aを係合部分のみに設け、その他の部分は連結糸3を基布1の内部に隠蔽させて、ソフトな繊維糸が表面に出るようにすることができる。
【0085】
更にまた、本実施形態では、基布1の表面において雄係合素子3Aが存在しない箇所、あるいは、雌係合素子3Bの成形面において、吸湿性または吸水性の優れた繊維糸を表面に露出させることができる。この吸湿性または吸水性の優れた繊維糸としては、公定水分率が3%以上である綿、ウール、麻などの天然繊維、レーヨンなどの再生繊維、ナイロンなどの合成繊維などが挙げられる。
【0086】
『製造実施例』
本実施形態の面ファスナー材の具体的な製造条件を以下に示す。
<編成条件>
製作編機 ダブルラッセル機 18ゲージ
編組織 図6の組織図に示す
編幅 2.5cm
糸使い L1 ニチビ社製 ソルブロン 62 dtex(デシテックス)
L2 KBセーレン社製 ベルカップル 280 dtex
L3 東レ社製 ポリエステル 167 dtex
L4 カバーリングゴム 1416 dtex
L5 東レ社製 ポリエステル 167 dtex
カバーリングゴム条件
ダブルカバーリング糸
芯糸 ポリウレタン 940 dtex
カバーリング糸(上糸、下糸) ポリエステル 84 dtex
編成密度 ウェール 22.7ウェール/inch
コース 22.5コース/inch
<仕上げ条件>
精錬条件 100℃ 湯通し
熱セット条件 200℃ 乾熱
【0087】
本実施形態の面ファスナー材を上記製造条件でサンプル製作を行い、係合および解除を繰り返した結果、確実な係合と、不快音を発生させることなく、かつ容易に解除できることを確認した。
【符号の説明】
【0088】
1 基布
11 鎖編地糸
12 緯挿入糸
2 溶解性繊維糸
3 連結糸
3A 雄係合素子
3B 雌係合素子
A・B 針床列
R 編目ループ
T テープ状編成体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2列の針床列(A・B)を備えたダブルラッセル編み機を用いて、面ファスナー材を製造する方法であって、
一方の針床列(A)において経編地を編成して基布(1)を形成していく一方、
他方の針床列(B)には溶解性繊維糸(2)を供給して、経方向に連なる編目ループ列(b・b…)を形成し、
熱可塑性樹脂材料からなる連結糸(3)を、これらの編目ループ(R)に重ね合わせつつ編み込んで、かつ、前記両針床列(A・B)に亙り掛け渡し、
当該連結糸(3)を溶解性繊維糸(2)の編目ループ(R)形状に合わせて、緊張状態で傾倒させながらこれらを重ね合わせて編成一体化することによってテープ状編成体(T)を成形し、
このテープ状編成体(T)を前記連結糸(3)の熱可塑性樹脂材料の軟化点近傍の温度の雰囲気下で加熱せしめて、前記連結糸(3)の編目ループを基布面に対して一方向に傾倒した状態に癖付け固定した後、
前記溶解性繊維糸(2)を溶解手段により溶解して除去せしめ、前記連結糸(3)による編目ループを残存させることによって、これら傾倒状態の連結糸(3)の編目ループを雄係合素子(3A)とすることを特徴とする面ファスナー材の製造方法。
【請求項2】
針床列(A)において、鎖編地糸(11)により鎖編組織(a・a…)を編成し、かつ、これらの鎖編組織の間に、緯挿入糸(12)を緯方向に挿入して基布(1)を形成することを特徴とする請求項1記載の面ファスナー材の製造方法。
【請求項3】
溶解性繊維(2)として水溶性の繊維を用いて、水または加熱水により溶解させることを特徴とする請求項1または2記載の面ファスナー材の製造方法。
【請求項4】
連結糸(3)をフィラメント糸または紡績糸にすることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の面ファスナー材の製造方法。
【請求項5】
連結糸(3)として、高融点ポリマー(31)の周りに低融点ポリマー(32)を被覆してなる芯鞘複合繊維のマルチフィラメント糸を用いて、
この鞘部の低融点ポリマー(32)の融点以上の温度で加熱せしめて、各フィラメントを低融点ポリマー(32)で融着させることを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載の面ファスナー材の製造方法。
【請求項6】
基布(1)の長手方向に弾性糸(4)を挿入して、伸縮性を付与することを特徴とする請求項1〜5の何れか一つに記載の面ファスナー材の製造方法。
【請求項7】
基布(1)をメッシュ組織にして、部分的な空隙を持たせることを特徴とする請求項1〜6の何れか一つに記載の面ファスナー材の製造方法。
【請求項8】
針床列(A)で編成する基布(1)を、少なくとも2枚の筬ガイドで形成して、そのうちの1枚の筬に挿通された基布形成糸をオーバーフィードさせて針床列(A)の編目側に雌係合素子(3B)となるパイルを、基布(1)における雄係合素子(3A)の形成面の反対側の面に形成することを特徴とする請求項1〜7の何れか一つに記載の面ファスナー材の製造方法。
【請求項9】
基布(1)を構成する繊維として、公定水分が3%以上である吸湿性または吸水性を有する繊維を用いることを特徴とする請求項1〜8の何れか一つに記載の面ファスナー材の製造方法。
【請求項10】
経編地からなる基布(1)が形成されている一方、
溶解性繊維糸(2)によって経方向に連なる編目ループ列(b・b…)が形成されるとともに、熱可塑性樹脂材料からなる連結糸(3)が、これらの編目ループ(R)に重ね合わせつつ編み込まれて、かつ、前記両針床列(A・B)に亙り掛け渡され、
当該連結糸(3)が溶解性繊維糸(2)の編目ループ(R)形状に合わせて、緊張状態で傾倒しながらこれらが重ね合わされて編成一体化されてテープ状編成体(T)が成形され、
このテープ状編成体(T)が前記連結糸(3)の熱可塑性樹脂材料の軟化点近傍の温度の雰囲気下で加熱されて、前記連結糸(3)の編目ループを基布面に対して一方向に傾倒した状態に癖付け固定されており、
前記溶解性繊維糸(2)が溶解手段により溶解して除去されて、前記連結糸(3)による編目ループが残存して、これら傾倒状態の連結糸(3)の編目ループが雄係合素子(3A)を成していることを特徴とする面ファスナー材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−120684(P2012−120684A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273542(P2010−273542)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(591168932)株式会社SHINDO (22)
【Fターム(参考)】