説明

面ファスナ雌材

【課題】雄材との係合力に優れ、またその係合力の左右差が少ない面ファスナ雌材の提供。
【解決手段】経糸、緯糸及びループ糸から構成される編地、並びに基材を含む面ファスナ雌材であって、経糸、緯糸及びループ糸が編成されて結節点を形成し、結節点を形成する経糸の進行方向は、結節点を形成するループ糸の進行方向及び結節点を形成する緯糸の進行方向と逆方向になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面ファスナ雌材、該面ファスナ雌材を有する面ファスナ、及び該面ファスナを有する吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
面ファスナは、フローリング床材の固定、衣類の開閉用途などに広く用いられており、また、着脱が簡便なことから、オムツ等の吸収性物品の係合にも使用されている。面ファスナは、雄材、及びそれと係合する雌材で構成されており、具体的には、雌材のループが雄材のフックと係合することによって係止される。従来から、雄材と充分な係合力を有する雌材の開発が行われている。
【0003】
特許文献1には、フックとループによるファスナーで雌編物として使用される横糸挿入縦編物であり、表側と裏側とを有し、この裏側は互いに離間した複数のステッチのホイールを有し、このステッチのループ部は外方に突出して基部でのみホイールに接続され各ホイールの隣接したループは適当な方向に交互に横方向に傾斜している自由ループを形成する横糸挿入縦編物と、編物の表側と裏側との間で編物の横側に挿入され編物の全幅を横切るように延びた横糸とを具備する編物が記載されている。
【0004】
特許文献2には、フックを受け入れるループを形成した経編地を介して基材面に接合した構造を有し、経編地が後筬に筬通しした糸で振り組織、中筬に筬通しした糸で振り組織と係合しかつ編み方向に隣接するループパイルの向きが左右互い違いで形成されるループパイル編組織、及び前筬に筬通しした糸で振り組織乃至ループパイル形成組織と係合する地組織でそれぞれ編まれている経編地で構成されることを特徴とするフック・アンド・ループタイプの面ファスナ雌材片が記載されている。
【0005】
特許文献3には、経糸、緯糸、及びループ糸から構成される編地、並びに基材を含む面ファスナ雌材であって、経糸は、開き目と閉じ目を交互に繰り返す鎖編糸からなり、ループ糸は、ループ糸の開き目のみに経糸の閉じ目のみが係合して、経糸と固定されており、ループ糸は編地の一方の表面からのみ、経糸に対して左右交互に突出している、面ファスナ雌材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6096667号明細書
【特許文献2】特開2004−236960号公報
【特許文献3】国際公開第2010/030548号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
雄材との係合力に優れると共に、その係合力の左右差が少ない面ファスナ雌材が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、経糸、緯糸及びループ糸から構成される編地、並びに基材を含む面ファスナ雌材であって、経糸、緯糸及びループ糸は編成されて結節点を形成し、結節点を形成する経糸の進行方向は、結節点を形成するループ糸の進行方向及び結節点を形成する緯糸の進行方向と逆方向になっている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の面ファスナ雌材は、ループ糸が編地の一方の表面から経糸に対して左右交互に突出した構造をとることができる。また、面ファスナ雌材(編地)製造時、更には一定時間経過した後も、面ファスナ雌材から突出しているループ糸の裏漏れ(面ファスナ雌材を構成する編地の一方の面に形成されるループ糸のパイルが、編地の反対面に形成されている状態)が生じ難い。よって、得られる面ファスナ雌材は、雄材との係合力に優れ、その係合力の左右差が少ない。また、本発明の面ファスナ雌材における編組織パターンとすることで、得られる面ファスナ雌材の裂け強度を改善することが可能となる。更に、本発明の面ファスナ雌材は、簡便に生産することができ、紙おむつ等の吸収性物品における面ファスナ用雌材として好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態の面ファスナ雌材における断面構造を示す模式図である。
【図2A】本発明の一実施形態(実施例1及び3)の面ファスナ雌材における編地の編組織を示す模式図である。
【図2B】図2AのA−A線に沿って(経糸方向に対して垂直方向)編地を切断した際に観察される、編地に形成されたループ糸の状態(左右1ループずつ)を示す模式図である。
【図3A】図2Aに示される編地の編組織の一態様を示すパターンを模式的に示した図である。
【図3B】図3Aで示される編地の編組織のパターンを経糸、緯糸及びループ糸ごとに分解して示した模式図であり、(a)はループ糸、(b)は経糸、(c)は緯糸である。
【図4】本発明の一実施形態の面ファスナにおける断面構造を示す模式図である。
【図5A】本発明の一実施形態(実施例2)の面ファスナ雌材における編地の編組織を示す模式図である。
【図5B】図5AのB−B線に沿って(経糸方向に対して垂直方向)編地を切断した際に観察される、編地に形成されたループ糸の状態(左右1ループずつ)を示す模式図である。
【図6】図5Aに示される編地の編組織の一態様を示すパターンを模式的に示した図である。
【図7A】本発明の一実施形態(実施例4)の面ファスナ雌材における編地の編組織を示す模式図である。
【図7B】図7AのC−C線に沿って(経糸方向に対して垂直方向)編地を切断した際に観察される、編地に形成されたループ糸の状態(左右1ループずつ)を示す模式図である。
【図8】図7Aに示される編地の編組織の一態様を示すパターンを模式的に示した図である。
【図9】比較例1の面ファスナ雌材の編地表面に形成されたループ糸の状態を示す模式図である。
【図10】裂け強度測定に使用する試験サンプルを示す模式図である。
【図11A】裂け強度測定に使用する試験サンプルのテンシロン引張試験機への固定方法及び引っ張り方向を示す正面図である。
【図11B】裂け強度測定に使用する試験サンプルのテンシロン引張試験機への固定方法及び引っ張り方向を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら、より詳細な説明を行う。なお、本発明の面ファスナ雌材は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本発明の面ファスナ雌材10は、図1に模式的に示されるように、経糸21(図示されていない)、緯糸22(図示されていない)、及びループ糸23から構成される編地20、並びに基材30を含む。編地20において、ループ糸23が編地20のパイルを形成し、経糸21と緯糸22が編地20の地組織25を形成しており、ループ糸23は、編地20の一方の表面から、経糸21に対して左右交互に突出している。
【0013】
図2Aは、図1の構造を有する編地20の編組織を模式的に示す図であり、図3Aはこの図2Aの編組織を示す一態様のパターンを模式的に示した図、図3Bは、図3Aの編組織のパターンを、経糸21(図3Bの(b))、緯糸22(図3Bの(c))及びループ糸23(図3Bの(a))に分解して示した図である。図2A及び3Aに示されるように、編地20において、経糸21、緯糸22及びループ糸23はそれぞれ編成され、結節点24(24a、24b、24c)を形成している。ここで、結節点24を形成する経糸21の進行方向は、結節点24を形成するループ糸23の進行方向及び結節点24を形成する緯糸22の進行方向と逆方向になっている。このような編み組織を有することにより、ループ糸23は、編地20の一方の表面から、経糸21に対して左右交互に突出する構造となる(図2B参照)。また、上記したようなループ糸の裏漏れが生じ難い構造とすることができる。
【0014】
以下、図3A及び図3Bに示された模式図を参照しながら、編地20の編組織を説明する。なお、編地20の編組織は、図3A及び図3Bに示されたものに限定されない。
【0015】
まず、経糸21は、0−1/1−0/1−0/0−1のパターンが繰り返された鎖編みにより形成され、経糸21は、編地20の地組織25(中筬)となる。
【0016】
次に、ループ糸23は、経糸21に対して、左右に繰り出されることで編地20のパイル(前筬)となる。ループ糸23は、まず、編地20の所定の針位置において右から左へ閉じ目又は開き目によりラップされ左方向に繰り出される。そして、左に繰り出されたループ糸23は経糸21の開き目21aと逆掛けで係合され(つまり、ループ糸は閉じ目となる)、結節点24aを形成する。すなわち、結節点24aを形成する経糸21の進行方向は、結節点24aを形成するループ糸23の進行方向と逆方向になっている。更に、ループ糸23は、編地20の左方向に繰り出される。次いで、編地20の所定の針位置で左から右へ閉じ目又は開き目によりラップされ右方向に繰り出される。そして、右に繰り出されたループ糸23は経糸21の開き目21bと逆掛けで係合され(つまり、ループ糸は閉じ目となる)、結節点24bを形成する。上記同様、かかる結節点24bにおいても、結節点24bを形成する経糸21の進行方向が、結節点24bを形成するループ糸23の進行方向と逆方向になっている。この繰り返しにより、ループ糸23は、編地20の一方の表面から、経糸21に対して左右交互に突出するようになり、パイルを形成する。
【0017】
ここで、「ループ糸が編地の一方の表面から、経糸に対して左右交互に突出している」とは、図2Bに示すように、編地20において、経糸21方向と垂直方向の断面を見た際に、ループ糸23が地組織25表面に対し、経糸部との係合部を起点として一定の角度を保って左右方向に交互に形成されていることを意味する。したがって、ループ糸が経糸に対して左右に形成されているものの、ループ糸が地組織表面に対してほぼ平行方向に形成されている(ループ糸が寝ている状態)ものは含まれない。
【0018】
図3A及び図3Bにおいて、ループ糸23のパターンは、6−5/11−10/5−6/0−1(左右端は開き目)の繰り返しで表されている。また、その他のパターンとしては、例えば、6−5/10−11/5−6/1−0(図3Aに示される態様において、左右端が閉じ目となった場合)、5−4/9−8/4−5/0−1(図6に示される態様、左右端は開き目)、5−4/8−9/4−5/1−0(図6に示される態様において、左右端が閉じ目となった場合)等が挙げられる。
【0019】
続いて、緯糸22は、経糸21と共に、編地21の地組織25(後筬)を形成している。図3A及び図3Bにおいて、緯糸22は、経糸21の鎖編に、パターンが4−3/7−7/3−4/0−0のステッチで挿入されている。図3Aに示される態様の他、例えば、7−6/13−13/6−7/0−0(図6に示される態様)又は3−2/5−5/2−3/0−0のステッチで挿入されていてもよい。緯糸22は、結節点24aにおいて、経糸21の開き目と逆掛けで係合しており(つまり、緯糸は閉じ目となる)、ループ糸同様、かかる結節点24aにおいては、結節点24aを形成する経糸21の進行方向が、結節点24aを形成する緯糸22の進行方向と逆方向になっている。なお、図2及び図3A、図3Bの態様においては、緯糸22は、経糸21の開き目の部分で編まれ、また、緯糸22は、経糸21に隣り合う経糸21’の閉じ目において左右方向が切り替わっている。
【0020】
このように、面ファスナ雌材10において、経糸21、緯糸22及びループ糸23はそれぞれ互いに編成されて結節点24を形成し、結節点24を形成する経糸21の進行方向は、結節点24を形成するループ糸23の進行方向及び結節点24を形成する緯糸22の進行方向と逆方向になっている。
【0021】
図3A及び図3Bから明らかなように、編地20において、経糸21は、結節点24と、経糸と緯糸との交点とが、交互に存在する構造となっている。そして、ループ糸23は、上述のように、編地20の一方の表面から、経糸21に対して左右交互に突出している。係合力の点から、編地20に対するループ糸23の突出角度は、編地表面に対して30度以上であることが好ましく、ある態様においては45度以上とすることができる。また、突出角度の上限は特に制限はなく、編地20に対するループ糸23の突出角度は80度、更には90度であってもよい。
【0022】
ここで、連続する三つの結節点24における経糸21、緯糸22、及びループ糸23の目の形状(開き目または閉じ目)を特定することで、編組織のパターンを規定することができる。すなわち、編地20においては、経糸方向に連続する三つの結節点24における経糸21、緯糸22、及びループ糸23の目の形状が、編組織のパターンを規定するための最小単位26となっている。なお、図2A及び図3Aに示されるように、経糸には、結節点24(24a、24b及び24c)と経糸の目(閉じ目、結節点ではない)とが交互に存在している。つまり、図2A及び図3Aに示される編地においては、編組織のパターンを規定するための最小単位として、経糸方向に3つの結節点と2つの経糸の目(閉じ目)を含む。
【0023】
ループパイルを効果的に形成し、裏漏れがより生じ難い構造とするために、連続する三つの結節点24における経糸21、緯糸22及びループ糸23は、それぞれ表1に示すパターンの編組織を有していることが好ましい。表1中、「O」は開き目を、「C」は閉じ目を意味する。例えば、「C−C−C」とあるのは、連続する三つの結節点において、糸の目の形状が閉じ目−閉じ目−閉じ目となっていることを示す。
【0024】
【表1】

【0025】
上記したパターンの中でも、ある態様においては、パターン1〜18の何れかの編組織が好適に用いられる。また、裏漏れが生じ難いという観点からは、パターン1〜9の何れかの編組織であることがより好ましく、パターン1〜3の何れかの編組織であることが特に好ましい。
【0026】
編地20の編成に使用される編機としては、特に制限はなく、例えば、従来から広く用いられている3本筬や4本筬の編機をそのまま使用できる。したがって、本発明の面ファスナ雌材は、簡便且つ安価に生産することができる。
【0027】
編地20を構成する経糸21、緯糸22、及びループ糸23の材質についても、特に制限はなく、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリアミド、ポリウレタン、レーヨン、これらのコポリマー若しくは混合物、又は天然繊維等が挙げられる。ある態様においては、雄材との係合による雌材破壊を防ぐという観点から、高強度であるポリアミドが使用される。また、材料コストや環境安定性を考慮すれば、ポリエステルを使用することもできる。なお、ループ糸は、雄材との係合確率を高めるという点から、モノフィラメントよりマルチフィラメントのものを使用することが好ましい。この場合、ループ糸のフィラメントが細いと雄材との係合中に切れたりする場合があるので、面ファスナの形状等に基づき、適度な太さのものが選択される。経糸及び緯糸に関しては、モノフィラメントであっても、マルチフィラメントであってもよい。一般的には、フィラメント糸の繊度は、20〜220T、好ましくは20〜100Tである。
【0028】
ある態様において、編地20は、1平方メートル当たり10〜100gの坪量を有することができる。坪量が5g/m以下では編み立て時に編地としての形態保持が難しい場合があり、また100g/m以上では剛性が増すことで、吸収性物品に取り付けられた時にその部分の柔軟性が損なわれる場合がある。また、編地が密となるため、基材上にデザインを施す場合には、その視認性が損なわれる場合がある。本発明の面ファスナ雌材10は、雄材との係合力に優れ、またその係合力の左右差が少ないため、従来品に比べて、坪量を小さくすることができる。そのため、視認性に優れた面ファスナ雌材を、安価に製造することが可能となる。
【0029】
面ファスナ雌材10には、適宜、起毛、エンボス、印刷、染色、着色等の付加的加工を適用することができる。また、編地20は全体又は部分的に染められていてもよい。特に、おむつ等の吸収性物品の部材として使用する場合、艶、テカリといった光沢を無くすことができ、審美性に優れた外観を得ることができる。
【0030】
基材30については、特に制限はなく、樹脂フィルム、不織布、紙、又はこれらの積層体等が使用できる。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂などの合成樹脂フィルム、又はこれらの合成樹脂フィルムの積層フィルム等が挙げられる。また、ある態様においては、基材面に、雄材との係合面の位置指標や各種記号又はデザイン等を設けてもよい。
【0031】
基材30は、表面からループ糸23が左右交互に突出している面と反対側の面で、編地20と接合している。基材30と編地20との接合方法については、特に制限はない。ドライラミネート、押し出しラミネート、ウェットラミネート、熱ラミネート、超音波等従来公知の方法を使用できる。中でも、生産性、柔軟性、基材層に設けられた位置指標等の視認性を考慮すると、ドライラミネート法が好適である。ドライラミネート用接着剤にはウレタン系、EVA系、アクリル系、酢酸ビニル系等、ウェットラミネート用接着剤には澱粉、カゼイン、酢酸ビニル、ポリアクリル酸エステル等の接着剤を使用でき、また押し出しラミネートにはポリエチレン、ポリプロピレン、あるいは変性ポリオレフィン等の樹脂を適宜使用することができる。ただし、これらの接着剤及び樹脂に限定されるものではない。
【0032】
ドライラミネートの場合、接着剤層は、基材における一方の表面の全面に設けられてもよいし、また、部分的に設けられてもよい。接着剤層を部分的に設ける場合、その方法については特に制限はない。一般的には、接着剤のパターン塗布が用いられる。塗布のパターン、形状、サイズ等は、特に限定されず、円、楕円、四辺形、多角形など任意のパターン、形状、サイズを採用することができる。接着剤層を基材表面に部分的に設ける場合、編地を通して滲み出した接着剤によりループ糸の倒れる本数を少なくすることができ、それにより、雄材のフックとの係合力の低下を防止できる。さらに、パターンの形状や接着剤量を適切に設定することによって、係合力を変化させることが可能である。
【0033】
本発明の面ファスナ雌材10は、図4に示すように、雄材40と組み合わせることで面ファスナ50として使用される。ここで、面ファスナ雌材10の編地20に設けられたループ糸23(パイル)が、雄材40のフック41を受け入れることで、面ファスナ雌材10と雄材40とが係合し、固着される。本発明の面ファスナ雌材10を有する面ファスナ50においては、ループ糸23が編地20の一方の表面から経糸21に対して左右交互に突出しており、且つループ糸の裏漏れが生じ難い構造を雌材が有しているため、雄材と係合した際、雄材との係合力の左右差が少ない。
【0034】
ここで、係合力の左右差は、面ファスナ雌材を雄材に係合させ、幅方向(すなわち、CD方向、経糸方向に対して垂直方向)に対して、両者を右から左に剥離した際の係合力(右係合力)と左から右に剥離した際の係合力(左係合力)を複数点測定し、
{(測定された右係合力の平均値)−(測定された左係合力の平均値)}/(右係合力及び左係合力の全測定値の平均値)
を絶対値で表した数値を求めることで評価することができる。得られる数値が0に近いほど係合力の左右差が少ないことになる。
【0035】
雄材としては、係合力を満足できるものであれば種類を問わないが、例えば、キノコ状、鍵状、J字状のフックを有する雄材を使用できる。雄材におけるピン密度は、特に指定はないが、1平方インチあたり500本から5000本程度が一般的であり、ある態様においては、1平方インチあたり1600本のピン密度のものが使用される。雄材の材料についても、雌材を構成する糸同様、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリアミド、これらのコポリマー又は混合物等から選択できる。雄材の基材部分の厚さについても適宜設定可能である。具体的には、住友スリーエム社で市販されるフックテープ(CS−600)等が挙げられる。
【0036】
本発明の面ファスナは、床材や壁材の固定具、衣料の固定具、清掃用部材固定具、自動車内装材固定具等に使用できる。また、紙おむつ、生理用ナプキン、母乳パッド等の吸収性物品の固定具としても使用可能である。ここで、吸収性物品、特に紙おむつに面ファスナが用いられる場合、雌材と雄材との係合特性、特に雌材の性能に配慮する必要がある。通常の紙おむつにおいては、着用者の背側両側部に左右一対の雄材が設けられ、また、左右一対の雌材が前身ごろ腹部に設けられる。したがって、紙おむつの左右2箇所において雄材と雌材とがそれぞれ係合することになるが、この場合の係合力の左右差、すなわち左方向に剥離する力と右方向に剥離する力との差が大きくなると、着用者が面ファスナよる紙おむつの確実な固定機能に不安を感ずる場合がある。本発明の雌材は、雄材との係合力の左右差を少なくすることができるので、好適である。
【0037】
なお、本発明の面ファスナ雌材を吸収性物品の面ファスナに使用する場合、かかる吸収性物品への固定手段としては、例えばグルー、熱融着、超音波加工等による接着、一体成形、縫製、ステープラーによる機械的固定などを挙げることができる。グルーによる固定においてはSIS、SBS等のゴム系、アクリル系、シリコン系、EVA系等の公知の粘着剤が必要に応じて適宜選択されるが、これらの樹脂に限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例について更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
3本筬編機(カールマイヤー社製)を用いて、トリコットパイル編みで、ループ糸(6−5/11−10/5−6/0−1)、経糸(0−1/1−0/1−0/0−1)、緯糸(4−3/7−7/3−4/0−0)の編組織を有する編地を編成した。また、ループ糸、経糸、緯糸の材料としては、ループ糸:ポリエステル(84T、36本)、経糸:ポリエステル(22T、1本)、緯糸:ポリエステル(56T、24本)を使用した。編み条件としては、1in2out、Course:8/cm、Wales:3.7/cmとし、編地の坪量は23g/mであった。
【0040】
得られた編地を、12μm厚の二軸延伸ポリプロピレン基材に、ポリウレタン接着剤によりドライラミネートし、面ファスナ雌材を得た。得られた面ファスナ雌材の編地における編組織の模式図を図2Aに、この編組織のパターンの模式図を図3Aに、それぞれ示す。また、図2Bは、図2AのA−A線に沿って(経糸方向に対して垂直方向)編地を切断した際に観察される、編地に形成されたループ糸の状態(左右1ループずつ)を示す模式図である。なお、接着剤の配合は、ポリウレタン主剤(商品名:タケラックA969v、三井化学ポリウレタン社製)、及びイソシアネート硬化剤(商品名:タケネートA5、三井化学ポリウレタン社製)に、シリカ(商品名:トクシールU、トクヤマ社製)を混合したものであり、シリカの量は、固形分比で、接着剤全量に対して7質量%である。具体的には、シリカを攪拌した溶剤に、ポリウレタン主剤及びイソシアネート硬化剤を加えて、更に攪拌した後、FUJISEIKI社製のドライラミネーターで150m/分でラミネートした。塗布量は約5g/mとした。
【0041】
(実施例2)
実施例1と同様に、3本筬編機(カールマイヤー社製)を用いて、トリコットパイル編みで、ループ糸(5−4/9−8/4−5/0−1)、経糸(0−1/1−0/1−0/0−1)、緯糸(7−6/13−13/6−7/0−0)の編組織を有する編地を編成した。なお、ループ糸、経糸、緯糸の材料としては、ループ糸:ポリエステル(56T、24本)、経糸:ポリエステル(22T、1本)、緯糸:ポリエステル(22T、1本)を使用した。編み条件としては、1in2out、Course:8/cm、Wales:3.7/cmとし、編地の坪量は14g/mであった。得られた編地を用い、実施例1と同様にして、面ファスナ雌材を得た。得られた面ファスナ雌材の編地における編組織の模式図を図5Aに、この編組織のパターンの模式図を図6に、それぞれ示す。また、図5Bは、図5AのB−B線に沿って(経糸方向に対して垂直方向)編地を切断した際に観察される、編地に形成されたループ糸の状態(左右1ループずつ)を示す模式図である。
【0042】
(実施例3)
3本筬編機(カールマイヤー社製)を用いて、トリコットパイル編みで、ループ糸(6−5/11−10/5−6/0−1)、経糸(0−1/1−0/1−0/0−1)、緯糸(4−3/7−7/3−4/0−0)の編組織を有する編地を編成した。また、ループ糸、経糸、緯糸の材料としては、ループ糸:ポリエステル(56T、24本)、経糸:ポリエステル(22T、1本)、緯糸:ポリエステル(22T、1本)を使用した。編み条件としては、1in2out、Course:8/cm、Wales:3.7/cmとし、編地の坪量は12g/mであった。得られた編地を用い、実施例1と同様にして、面ファスナ雌材を得た。得られた面ファスナ雌材の編地における編組織の構造、及び編地に形成されたループ糸の状態は、実施例1と同様であった。
【0043】
(実施例4)
3本筬編機(カールマイヤー社製)を用いて、トリコットパイル編みで、ループ糸(6−5/11−10/5−6/0−1)、経糸(0−1/1−0/1−0/0−1)、緯糸(3−2/5−5/2−3/0−0)の編組織を有する編地を編成した。また、ループ糸、経糸、緯糸の材料としては、ループ糸:ポリエステル(56T、24本)、経糸:ポリエステル(22T、1本)、緯糸:ポリエステル(22T、1本)を使用した。編み条件としては、1in1out、Course:8/cm、Wales:5.5/cmとし、編地の坪量は25g/mであった。得られた編地を用い、実施例1と同様にして、面ファスナ雌材を得た。得られた面ファスナ雌材の編地における編組織の模式図を図7Aに、この編組織のパターンの模式図を図8に、それぞれ示す。また、図7Bは、図7AのC−C線に沿って(経糸方向に対して垂直方向)編地を切断した際に観察される、編地に形成されたループ糸の状態(左右1ループずつ)を示す模式図である。
【0044】
(比較例1)
3本筬編機(カールマイヤー社製)を用いて、トリコットパイル編みで、ループ糸(3−2/5−4)、経糸(1−0/0−1)、緯糸(0−0/5−5)の編組織を有する編地を編成した。また、ループ糸、経糸、緯糸の材料としては、ループ糸:ポリアミド(44T、11本)、経糸:ポリアミド(22T、1本)、緯糸:ポリアミド(22T、1本)を使用した。編み条件としては、1in1out、Course:10.4/cm、Wales:5.5/cmとし、編地の坪量は21g/mであった。得られた編地を用い、実施例1と同様にして、面ファスナ雌材を得た。図9は、編地の経糸方向に対して垂直方向に編地を切断した際に観察される、編地に形成されたループ糸の状態(左右1ループずつ)を示す模式図である。
【0045】
(面ファスナ雌材の評価)
(係合力)
上記実施例及び比較例で得られた面ファスナ雌材の上に、25mm幅の雄材(CS−600、住友スリーエム社製)を乗せて、2kgのローラで圧着した。次いで、雌材と雄材とを水平に1kgの力で引っ張り、両者を係合させた。係合した面ファスナ雌材と雄材とを、垂直方向に引張り速度300mm/分で引っ張って、剥離するときの剥離力を測定して、係合力(N/25mm)を求めた。なお、係合力は、係合した雌材及び雄材を、幅方向(すなわち、CD方向、経糸方向に対して垂直方向)に対して、右から左に剥離した際の係合力(右係合力)、及び左から右に剥離した際の係合力(左係合力)を各6点ずつ測定し、この全12点の平均値として求めた。結果を表2に示す。
【0046】
(係合力方向性)
上記のように測定された右係合力及び左係合力の各測定値から、下記式に従い、
{(6点測定された右係合力の平均値)−(6点測定された左係合力の平均値)}/(右係合力と左係合力との全測定値(12点)の平均値)
を絶対値で表した数値を求め、係合力方向性とした。得られた数値が0に近いほど係合力の左右差が少ないことになる。結果を表2に示す。
【0047】
(層間強度)
接着剤で接着された面ファスナ雌材の編地と基材を、チャック間25mmにセットし、垂直方向に引張り速度300mm/分で引っ張って、編地と基材とが剥離するときの力を、テンシロン引張試験機を用いて測定し、層間強度(N/25mm)とした。結果を表2に示す。
【0048】
(裂け強度(長手方向))
得られた面ファスナ雌材を約100mm(MD)×50mm(CD)に切り取り、図10に示すようにCD方向のほぼ中央に20mmの切り込み70をブレードで入れ、試験サンプル60を作製した(試験サンプルA)。同様な方法で、試験サンプルをもう1つ作製した(試験サンプルB)。図11A及び図11Bに示すように、切り込み部70側における試験サンプルAの端部61a及び61bを、チャック80同士の間隔が20mmにセットされたテンシロン引張試験機にそれぞれ固定し、引張速度300mm/分で試験サンプルAを100mm引っ張って、試験サンプルAの強度の変化を測定した。測定された強度のうち最大値を試験サンプルAの裂け強度とした。試験サンプルBについては、試験サンプルAと引裂き方向が逆となるように(端部61bを上側のチャック80で固定し、端部61aを下側のチャック80で固定する)試験サンプルをセットし、上記同様の引っ張り条件で試験サンプルBの裂け強度を測定した。試験サンプルA及びBの裂け強度の平均値を求め、面ファスナ雌材の裂け強度とした。結果を表2に示す。
【0049】
(ループ糸の突出状態)
面ファスナ雌材におけるループ糸の突出状態を目視にて観察した。ループ糸が左右に突出しており、且つ左右のループの大きさがそろっている場合を「良」、ループ糸が左右に突出しているものの、左右のループの大きさがそろっていない場合を「可」、ループ糸が左右に突出していない場合を「不可」とした。結果を表2に示す。
【0050】
(ループ糸の裏漏れ)
100m×100mmの面ファスナ雌材サンプルを準備し、ループ糸の裏漏れ程度を目視にて観察した。裏漏れの割合が5%以下の場合を「優」、5〜10%の場合を「良」、10〜30%の場合を「可」とした。結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

【符号の説明】
【0052】
10 面ファスナ雌材
20 編地
21,21’ 経糸
21a 経糸における開き目
21b 経糸における閉じ目
22 緯糸
23 ループ糸
24,24a,24b,24c 結節点
25 地組織
26 編組織のパターンを規定するための最小単位
30 基材
40 雄材
41 フック
50 面ファスナ
60 試験サンプル
61a,61b 試験サンプル端部
70 切り込み部
80 チャック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸、緯糸及びループ糸から構成される編地、並びに基材を含む面ファスナ雌材であって、経糸、緯糸及びループ糸が編成されて結節点を形成し、結節点を形成する経糸の進行方向は、結節点を形成するループ糸の進行方向及び結節点を形成する緯糸の進行方向と逆方向になっている、面ファスナ雌材。
【請求項2】
請求項1記載の面ファスナ雌材、及び雄材を有する面ファスナ。
【請求項3】
請求項2記載の面ファスナを有する吸収性物品。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【公開番号】特開2012−34802(P2012−34802A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176858(P2010−176858)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】