説明

面材固定ボルトと面材固定ボルトの製造方法と面材固定ボルトを用いた面材固定方法

【課題】少なくとも三の構造体を固定し、締結時の回転防止の効果が高い面材固定ボルトと面材固定ボルトの製造方法と面材固定ボルトを用いた面材固定方法を提供することである。
【解決手段】両端に第1のネジ3と第2のネジ4がそれぞれ形成された両ネジボルトと、この両ネジボルトの第1のネジ3と第2のネジ4が形成される箇所以外の部分に周設される熱収縮チューブ6と、この熱収縮チューブ6に穿設された二の孔7a,7bに挿通されるピン5を備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定する対象物に係止可能なピンを備える面材固定ボルトと面材固定ボルトの製造方法及び面材固定ボルトを用いた面材固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、軽量気泡コンクリートパネル(以下、ALCパネルという。)等のコンクリートを用いた材料は住宅やビル等の建築材料として広く使用されている。そして、これらのコンクリートパネルを梁等の構造に固定する方法としては、梁のフランジにコンクリートパネルを載上し、コンクリートパネルの下面と梁のフランジの下面の両方に当接するように連結部材を配置して、この連結部材のコンクリートパネル側の端部をコンクリートパネルの穿孔に挿入されてナットが螺合されるボルトによって固定する方法が一般的である。しかしながらこのような方法においては螺合時にボルトが回転して締結が確実に行われなかったりする不具合も多く、これらの固定手段や固定構造においては様々な観点から開発や改良が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「パネル固定構造」という名称で、簡単で固定強度があり、また、平滑な仕上がりとなるALCパネルの床材や屋根材の固定構造に関する発明が開示されている。
この特許文献1に開示された発明は、ALCパネルに上下方向に同一径で貫通して形成されるパネル固定用孔に頭部にナットの外径よりも大きく形成されるパネル固定部を備えるナットを上方から挿入して押圧し、パネル固定用孔の下方からボルトを螺合して、ALCコンクリートパネルを取付部材上に敷設して固定するものである。また、ナットのパネル固定部又は側面には回転防止用の凸部が突設されている。
そして、ALCパネルを床材として設置する場合は、取付部材となるH形鉄骨梁にALCパネルを敷設し、このALCパネルの所定の位置に穿設されるパネル固定用孔の上方からナットを挿入してナットの頭部となるパネル固定部を金槌等で押圧してパネル固定部がALCパネルの表面と同一になるようにする。続いて、H形鉄骨梁に接する略Z型の取付金具を介してパネル固定用孔の下方からボルトを挿入してナットに形成されるネジに螺合すると、ALCパネルの固定作業は完了する。ここで、ナットの外径をパネル固定用孔よりも大きく形成したり、ナットの側面に凸部を形成したり、パネル固定部の裏面等に凸部を形成したりすることにより、ナットは螺合方向に回転し難くなりボルトを容易且つ確実に螺合することができる。
【0004】
また、特許文献2には、「コンクリート系床パネルの固定構造」という名称で、厚みの異なる建築構造材への設置が可能で取付強度の高いコンクリート系床パネルの固定構造に関する発明が開示されている。
この特許文献2に開示された発明は、ボルト挿通孔が形成されコンクリート系床パネルの下面に固着されるパネル固着部と、このパネル固着部の一端部から段落ちして建築構造材のフランジの下面に当接可能な第1のフランジ当接部と、パネル固着部の他端部から段落ちして建築構造材のフランジの下面に当接可能な第2のフランジ当接部を有する固着金具を、上下方向に貫通する固定用孔が形成されるコンクリート系床パネルの下方に配置し、第1のフランジ当接部又は第2のフランジ当接部を建築構造材のフランジの下面に当接させて、コンクリート系パネルの固定用孔の上方から固着金具のボルト挿通孔に挿通されるボルトに固着金具のボルト挿通孔の下方からナットを螺合することによりコンクリート系床パネルを固定するものである。また、第1のフランジ当接部と第2のフランジ当接部は、パネル固着部の延長線との最短距離が異なるように形成されており、さらに、ボルトの頭部には回転防止用の凸部が突設されている。
【0005】
したがって、通常、建築構造材となるH鋼のフランジの厚みには8mmと2mmがあるが、このフランジの厚みに応じて、第1のフランジ当接部と第2のフランジ当接部のいずれかを選択して配置することができるので、従来のようにフランジの厚みに対応した固着金具を別個に用意する必要がなく、部品コストの削減が可能である。また、ボルトの頭部の凸部がコンクリート系床パネルに食い込んでボルトが緩む方向の回転を防止するので、取付強度をより一層向上させることができる。
【特許文献1】特開2005−76289号公報
【特許文献2】特開2001−182206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載された従来の技術では、いずれもボルトとナットを用いてコンクリート等のパネルと梁等に当接する取付金具あるいは固着金具とが固定される構造であり、さらに第3の構造体を固定する場合には対応できないという課題があった。また、いずれの従来技術においても回転防止のためにナットやボルトに凸部を設けているが、いずれも微少な凸部であるので回転防止の効果が十分に発揮されないという課題もあった。
【0007】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、少なくとも三の構造体を固定し、締結時の回転防止の効果が高い面材固定ボルトと面材固定ボルトの製造方法と面材固定ボルトを用いた面材固定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明である面材固定ボルトは、両端に第1のネジと第2のネジがそれぞれ形成された両ネジボルトと、この両ネジボルトの第1のネジと第2のネジが形成される箇所以外の部分に周設される熱収縮チューブと、この熱収縮チューブに穿設された二の孔に挿通されるピンを備えるものである。
上記構成の面材固定ボルトでは、両端に形成される雄ネジである第1のネジと第2のネジには、ナット等の雌ネジが螺合可能であり、また、熱収縮チューブはピンを両ネジボルトの周部に保持するように作用する。そして、ピンは両ネジボルトに突設されて面材固定ボルトが挿通される構造体において係止されて面材固定ボルトを支持するように作用する。
【0009】
また、請求項2に記載の発明である面材固定ボルトの製造方法は、両端に第1のネジと第2のネジをそれぞれ備える両ネジボルトにピンを固定する面材固定ボルトの製造方法であって、熱収縮チューブに二の孔を開ける工程と、これらの二の孔にピンを挿通する工程と、ピンを挿通した熱収縮チューブに両ネジボルトを挿入して両ネジボルトの周部にピンを挿通した熱収縮チューブを配置する工程と、熱収縮チューブを加熱して収縮させてピンを両ネジボルトに固定する工程とを有するものである。
上記構成の面材固定ボルトの製造方法では、熱収縮チューブは加熱されることにより収縮し、穿設された二の孔に挿通されたピンに密着してピンを両ネジボルトに固定するように作用する。
【0010】
そして、請求項3に記載の発明である面材固定ボルトの製造方法は、請求項2に記載の面材固定ボルトの製造方法において、熱収縮チューブは内面に熱で溶融する接着剤が塗布されているものである。
上記構成の面材固定ボルトの製造方法では、請求項2記載の発明の作用に加えて、接着剤は加熱により溶融して接着力を呈し、熱収縮チューブを両ネジボルトに強固に接着するという作用を有する。
【0011】
次に、請求項4に記載の発明である面材固定ボルトを用いた面材固定方法は、挿通孔が形成された躯体コンクリートの表面に、挿通孔に符合する第1のボルト孔が穿設される第1の面材と、駆体コンクリートの裏面に、挿通孔に符合する第2のボルト孔が穿設される第2の面材とを、請求項1に記載される面材固定ボルトを用いて固定する面材固定方法であって、面材固定ボルトを第1のボルト孔と第2のボルト孔に挿通し、面材固定ボルトに固定されたピンは、第2の面材の第2のボルト孔又は躯体コンクリートの挿通孔の表面側に第2のボルト孔又は挿通孔径よりも大きく形成される凹部に係止され、第1のボルト孔から突出した第1のネジと第2のボルト孔から突出した第2のネジにナットをそれぞれ螺合させて、面材固定ボルトで第1の面材と第2の面材を躯体コンクリートの表面と裏面にそれぞれ固定するものである。
上記構成の面材固定ボルトを用いた面材固定方法では、躯体コンクリートの表面に配置される第1の面材と、躯体コンクリートの裏面に配置される第2の面材において、躯体コンクリートの挿通孔にそれぞれ符合する第1の面材の第1のボルト孔と第2の面材の第2のボルト孔に請求項1に記載される面材固定ボルトを挿通すると、面材固定ボルトのピンは第2の面材の第2のボルト孔又は躯体コンクリートの挿通孔の表面側に形成される凹部に係止して面材固定ボルトを支持するという作用を有する。そして、第1のボルト孔から突出する第1のネジと第2のボルト孔から突出する第2のネジにナットをそれぞれ螺合させると第1の面材と第2の面材は躯体コンクリートの表裏面にそれぞれ固定される。
【0012】
最後に、請求項5に記載の発明である面材固定ボルトを用いた面材固定方法は、挿通孔が形成された躯体コンクリートの表面に挿通孔に符合する第1のボルト孔が穿設される第1の面材を配置する工程と、躯体コンクリートの裏面に挿通孔に符合する第2のボルト孔が穿設される第2の面材を配置する工程と、請求項1に記載される面材固定ボルトを第1のボルト孔と第2のボルト孔に挿通し、面材固定ボルトに固定されたピンを第2の面材の第2のボルト孔又は躯体コンクリートの挿通孔の表面側に第2のボルト孔又は挿通孔径よりも大きく形成される凹部に係止する工程と、第1のボルト孔から突出した第1のネジと第2のボルト孔から突出した第2のネジにナットをそれぞれ螺合させて面材固定ボルトで第1の面材と第2の面材を躯体コンクリートの表面と裏面にそれぞれ固定する工程とを有するものである。
上記構成の面材固定ボルトを用いた面材固定方法では、請求項4に記載の発明の作用と同様に、躯体コンクリートの表裏面において躯体コンクリートの挿通孔に第1のボルト孔及び第2のボルト孔が符合するように第1の面材及び第2の面材を配置し、第1のボルト孔、挿通孔及び第2のボルト孔を連続させて一致させて請求項1に記載される面材固定ボルトをこれらの孔に挿通すると、面材固定ボルトのピンは第2の面材の第2のボルト孔又は躯体コンクリートの挿通孔の表面側に形成される凹部に係止されて面材固定ボルトを支持するように作用し、第1のボルト孔から突出した第1のネジと第2のボルト孔から突出した第2のネジにナットをそれぞれ螺合することにより面材固定ボルトで第1の面材と第2の面材が躯体コンクリートの表裏面にそれぞれ固定される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1記載の面材固定ボルトでは、熱収縮チューブによって固定され両ネジボルトに突設されるピンが、固定する対象の構造体に形成される凹部等に係止されて面材固定ボルトを支持し、面材固定ボルトの落下を防止するので、第1のネジ及び第2のネジへのナットの螺合が極めて容易となる。また、ピンはこれらのナットの螺合時にボルト本体の回転を防止するように作用するので締め付けが堅固で確実な固定が可能となる。
【0014】
また、本発明の請求項2に記載の面材固定ボルトの製造方法では、熱収縮チューブの熱による収縮を利用してピンを両ネジボルトの周部に固定しているので、簡単に効率よく面材固定ボルトを製造することができる。
【0015】
そして、本発明の請求項3に記載の面材固定ボルトの製造方法では、熱収縮チューブの内面には熱で溶融する接着剤が塗布されているので、加熱工程で溶融する接着剤によって熱収縮チューブを両ネジボルトにさらに強固に固着することができる。
【0016】
そして、本発明の請求項4及び請求項5に記載の面材固定ボルトを用いた面材固定方法では、躯体コンクリートの表裏面に第1の面材と第2の面材を簡単かつ確実に固定することができる。すなわち、躯体コンクリートの挿通孔と第1の面材の第1のボルト孔と第2の面材の第2のボルト孔に挿通される面材固定ボルトは、ピンが第2の面材の第2のボルト孔又は躯体コンクリートの挿通孔の表面側に形成される凹部に係止されるので、落下することなく支持され、この状態で第1のネジ及び第2のネジへのナットの螺合ができるので螺合作業が極めて容易となる。また、面材固定ボルトのピンは凹部に係止されて回転方向への動きも抑制されるので螺合時には面材固定ボルトの回転が防止され堅固な締め付けが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明に係る面材固定ボルトの最良の実施の形態を図1及び図2に基づき説明する。(請求項1に対応)
図1は、本発明の本実施の形態に係る面材固定ボルトの外形図である。
図1において、本実施の形態に係る面材固定ボルト1は、細長い円柱状のボルト本体2の両端にそれぞれ雄ネジである第1のネジ3及び第2のネジ4が形成された両ネジボルトであって、ボルト本体2の周部にピン5が熱収縮チューブ6によって固定されているものである。
面材固定ボルト1では、第1のネジ3及び第2のネジ4に雌ネジとなるナットをそれぞれ螺合可能であり、固定する対象の構造体に設けられる挿通孔に面材固定ボルト1を挿通して第1のネジ3及び第2のネジ4にそれぞれナットを螺合することにより構造体を固定することができる。そして、面材固定ボルト1では、ピン5がボルト本体2の周部に突設されているので、固定する対象の構造体の挿通孔等に凹部を形成すると、この凹部にピン5を係止することができる。したがって、例えば、鉛直方向に面材固定ボルト1を用いる場合には、構造体に形成される凹部にピン5を係止させることにより面材固定ボルト1の落下を防止し、容易に第1のネジ3及び第2のネジ4の螺合作業を行うことができる。また、ピン5は凹部に係止されることによって螺合時のボルト本体2の回転を抑制するので、確実に螺合による締め付けを行うことができる。
【0018】
そして、ピン5の熱収縮チューブ6による固定は、熱収縮チューブ6の加熱による収縮を利用しており、詳細については後述するが、熱収縮チューブ6に穿設される二のピン挿通孔7a,7bにピン5を挿通し、ボルト本体2に挿着した後に加熱すると、熱収縮チューブ6は収縮してボルト本体2及びピン5に密着して、図示するようにピン5をボルト本体2の周部に固着することができる。従来から、ピンを両ネジボルトに固定する方法として煩雑で安全面においても配慮の必要がある溶接による接合が行われてきたが、この溶接作業に比べると熱収縮チューブ6を利用したピン5の固定方法は極めて簡単で短時間で実施することができ、しかも、安全なものであるといえる。
なお、熱収縮チューブ6の内面に熱で溶融する接着剤8を塗布しておくと、熱収縮チューブ6とボルト本体2が強く接着し、固定が確実なものとなる。
【0019】
ここで、ピンの形状や設置位置を変えた面材固定ボルトの変形例について図2を用いて説明する。
図2(a)〜(f)は、本実施の形態に係る面材固定ボルトの変形例の概念図である。
まず、図2(a)において、ピン5aは、図1に示されたピン5よりも横長に形成されたものであり、図1の場合と同様に、熱収縮チューブ6aに穿設されたピン挿通孔7a,7bに挿通されてボルト本体2に固定されている。このようにピン5aをピン5よりも横長に形成することで、固定対象となる構造体の挿通孔の径が大き目に形成される場合に、それに伴う大き目の凹部であっても面材固定ボルト1を固定することができる。また、凹部の形状に従って、ピン5aの位置をボルト本体2とは垂直方向にずらして固着することができるので、多様な凹部の形状に対応することができる。
また、図2(b)において、ピン5bは、図1に示されたピン5よりも細く短く形成されたものであり、図1及び図2(a)の場合と同様に、熱収縮チューブ6bに穿設されたピン挿通孔7a,7bに挿通されてボルト本体2に固定されている。このように形成されるピン5bでは、軽量化が可能であり、また、細径であることから熱収縮チューブ6bのピン挿通孔7a,7bに挿通が容易であり、生産性を向上させることができる。
【0020】
次に、図2(c)において、ピン5cは、その長手方向がボルト本体2の長手方向と平行になるように配置されており、帯状の熱収縮チューブ6cがピン5cとボルト本体2を巻着してピン5cを固定している。このように構成されるピン5cでは、固定対象となる構造体の挿通孔の径が小さく、凹部の径もボルト本体2の径とほぼ同径のような場合に好適である。なぜならば、凹部の径が小さい場合には、ピンの長さも凹部の径程度に短くする必要があるが、あまりに短いとピンをボルト本体2に固着する場合に作業性が低くなってしまうので、このようにボルト本体2の長手方向と平行になるように配置して、全体的なピンの長さを凹部の径よりも大きくすることができ、生産性を向上させることが可能である。なお、この場合には、構造体の挿通孔には、ピン5cの径分の長さで係止させることになる。
続いて、図2(d)において、ピン5dは、ボルト本体2に対して斜めに配置されており、熱収縮チューブ6dに斜めに穿設された二のピン挿通孔7a,7bに挿通されてボルト本体2に固定されている。このように構成されたピン5dでは、図2(c)に示されたピン5cと同様の作用及び効果を発揮させることができる。
そして、図2(e)において、ピン5eは、図1に示されたピン5と同様にボルト本体2に対して垂直方向に配置されているが、熱収縮チューブ6eの固定方法が異なっており、熱収縮チューブ6eは、一重のリング状の熱収縮チューブ6eを二重にしてボルト本体2に挿着され、形成される間隙にピン5eを挿通してピン5eを固定している。このように熱収縮チューブ6eを二重に構成させることで、ピン5eの固着をより強固にすることが可能である。また、単一破損に対しても対応が可能であり、信頼性の向上を図ることができる。
最後に、図2(f)において、ピン5fは、円筒形状で図1に示されたピン5よりも太長いものであり、また、熱収縮チューブ6fの固定方法も図2(e)と同様に異なっており、リング状の熱収縮チューブ6fをボルト本体2に巻着し、形成される両端部の二の輪の部分にピン5fを挿通してピン5fを固定している。このように構成される熱収縮チューブ6fでは、リング状に形成してそのリングにピン5fを挿通することができるので、ピン挿通孔を穿設する必要がなく、生産性を向上させることができる。また、リング状の形成はその径に自由度が大きいため、ピン5fの径を大きくすることができ、ボルト本体2の径が大きく、それに伴ったピン5fの径も大きくするような場合には好適である。
このようにピンの形状や熱収縮チューブの固定方法には様々な形態があり、図示される以外にもピンがボルト本体2に突設されて構造体に設けられる凹部に係止可能であれば特に限定されるものではない。なお、いずれの熱収縮チューブ6a,6b,6c,6d,6e,6fにおいても加熱処理により収縮してボルト本体2とピン5a,5b,5c,5d,5e,5fをそれぞれ固定しているものである。
【0021】
次に、本発明に係る面材固定ボルトの製造方法の最良の実施の形態を図3に基づき説明する。(請求項2及び請求項3に対応)
図3は、本発明の本実施の形態に係る面材固定ボルトの製造方法を示す概念図である。
図3において、まず、ステップS1では、熱収縮チューブに穿設する。このステップS1では、市販の熱収縮チューブにパンチ等を使用して二つのピン挿通孔を穿設する。ここで、市販の熱収縮チューブが長い場合は適当な長さ、例えば、20mmに切断する。この熱収縮チューブの切断は穿設の前に行っても後に行ってもよい。なお、熱収縮チューブの材質にはポリオレフィン系等を選定するとよい。また、熱収縮チューブの内面に熱で溶融する接着剤を塗布しておくか、或いは、予め熱で溶融する接着剤が内面に塗布された市販品を選定すると、熱収縮チューブの両ネジボルトへの接着をより強固なものにすることができる。この接着剤には熱溶融性接着剤あるいは熱可塑性接着剤と呼ばれる接着剤が用いられ、具体的には、ポリアミド系やポリオレフィン系等の接着剤が通常用いられる。また、これらの接着剤は、通称、ホットメルトとも呼ばれている。
次に、ステップS2では、熱収縮チューブの孔にピンを挿通する。このステップS2では、ステップS1で穿設した二つのピン挿通孔にピンを挿通して、ピンが真ん中になるように配置する。
【0022】
続いて、ステップS3では、熱収縮チューブに両ネジボルトを挿入する。このステップS3では、ステップS2でピンを挿通した状態の熱収縮チューブの輪の部分に両ネジボルトを差し込み、熱収縮チューブが所定の位置になるようにする。この際、ピンが熱収縮チューブの中心位置になっていることを確認する。なお、両ネジボルトには熱収縮チューブを配置する位置に予め印を付しておくとよい。
また、ステップS2とステップS3は入れ替えることが可能であり、すなわち、熱収縮チューブに両ネジボルトを差し込んだ後に、熱収縮チューブの二つのピン挿通孔にピンを挿通することもできる。
そして、ステップS4では、熱収縮チューブを加熱する。このステップS4では、ステップS3において両ネジボルトに挿着された熱収縮チューブに均等になるようにしてヒートドライヤーを用いて熱風をあてる。ここで、熱収縮チューブの内面に接着剤が塗布されている場合は、この接着剤が十分に溶けるまで加熱する。なお、加熱する周囲が熱くなるので保護用の手袋を使用すると安全である。
最後に、ステップS5では、冷却する。このステップS5では、ステップS4において加熱した熱収縮チューブが完全に冷めて固まるまで放冷する。
【0023】
このように構成された本実施の形態においては、熱収縮チューブを使用し、その熱収縮を利用してピンを簡単かつ強固に両ネジボルトに固定することができるので、従来のように、ピンを両ネジボルトに溶接する際の煩雑な作業を行うことなく効率よく面材固定ボルトを製造することができる。
【0024】
次に、本発明に係る面材固定ボルトを用いた面材固定方法の最良の実施の形態を図4に基づき説明する。(請求項4及び請求項5に対応)
図4は、本発明の本実施の形態に係る面材固定ボルトを用いた面材固定方法を示す概念図である。
図4において、まず、ステップS1では、第1の面材を配置する。このステップS1では、躯体コンクリートの表面側に第1の面材を配置するが、この際、躯体コンクリートに形成される挿通孔と第1の面材に形成される第1のボルト孔が符合するようにする。
次に、ステップS2では、第2の面材を配置する。このステップS2では、躯体コンクリートの裏面側に第2の面材を配置するが、ステップS1の場合と同様に、躯体コンクリートの挿通孔と第2の面材の第2のボルト孔が符合するようにする。なお、ステップS1とステップS2の順序は入れ替わってもよい。
続いて、ステップS3では、面材固定ボルトを挿入する。このステップS3では、ステップS1及びステップS2において符合させた第1のボルト孔、挿通孔及び第2のボルト孔において、上方の第1のボルト孔から下方の第2のボルト孔に向けて面材固定ボルトを挿入する。
そして、ステップS4では、面材固定ボルトを係止する。このステップS4では、面材固定ボルトに突設されるピンを、躯体コンクリートの表面側又は第2の面材の表面側に形成される凹部に係止する。このようなピンの係止により面材固定ボルトは作業者が把持しなくても懸吊された状態を保持できる。
最後に、ステップS5では、ナットを螺合する。このステップS5では、ステップS4において係止された状態で第1の面材及び第2の面材から突出する面材固定ボルトの第1のネジ及び第2のネジにそれぞれナットを螺合する。この螺合作業は、面材固定ボルトが係止されているので、面材固定ボルトが落下することがなく、安全且つ迅速に行うことができる。また、ピンの係止によって面材固定ボルトの螺合方向への回転が抑制されるので螺合を確実に行うことができる。
【0025】
このように構成された本実施の形態では、面材固定ボルトに固設されるピンを躯体コンクリートや第2の面材の凹部に係止することによって、面材固定ボルトの落下と螺合方向への回転を防止するので、安全性が確保されるとともに作業効率の向上を図ることができる。
以下、本実施の形態に係る面材固定ボルトを用いた面材固定方法の実施例を、図5乃至図7を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0026】
図5は、本実施例に係る面材固定ボルトを用いた面材固定方法を適用するコンクリート住宅の概念図である。
図5は、コンクリート住宅の一部構造を示しており、基礎13の上部に下部外壁10が設置され、この下部外壁10には中間外壁11を介して上部外壁9が配置されている。そして、中間外壁11には床材12が隣接されており、床材12の下方に一階の住空間が形成され、また、床材12の上方に二階の住空間が形成される二階建て住宅になっている。なお、上部外壁9、下部外壁10、中間外壁11及び床材12はいずれもコンクリートを原料としたコンクリートパネルである。本実施例では、点線Aに囲まれた部分において、上部外壁9、下部外壁10、中間外壁11及び床材12を、面材固定ボルトを用いて固定するものである。
なお、本実施の形態においては、床材12の下方が一階、上方が二階としたが、もちろん、床材12を二階と三階の境界、あるいはそれ以上の階間の境界としてもよいことは言うまでもない。
【0027】
図6(a)は、図5に符号Aで示される部分を拡大して示す一部断面図であり、(b)は、図6(a)に符号B−B線で示す矢視一部断面図である。
図6(a)及び(b)において、コンクリート住宅を構成するコンクリートパネルの接続部分では、図5で示したように、上部外壁9と下部外壁10には中間外壁11が介設されている。一方、中間外壁11と床材12は、これらの間に挿通孔となる間隙17が形成されるように配置されており、また、上部外壁9及び下部外壁10にはそれぞれ第1のボルト孔15及び第2のボルト孔16が穿設されている。そして、第1のボルト孔15、間隙17及び第2のボルト孔16はいずれも符合しており、これらには面材固定ボルト1が挿通されて、第1のネジ3及び第2のネジ4にそれぞれナット14a,14bが螺合されている。ここで、上部外壁9及び下部外壁10は面材であり、面材固定ボルト1によって中間外壁11及び床材12の表裏面に固定されている。
また、上述したように、面材固定ボルト1にはピン5が熱収縮チューブ6によって固設されており、このピン5は、下部外壁10の表面側に設けられ、第2のボルト孔16の外径よりも大きく形成される凹部18に係止されている。したがって、本実施例においては、それぞれ符合する第1のボルト孔15、間隙17及び第2のボルト孔16に上方から面材固定ボルト1を挿入すると、凹部18にピン5が係止されるので、面材固定ボルト1は下方へ落下することなく第1のネジ3及び第2のネジ4へのナット14a,14bの螺合作業を安全且つ迅速に行うことができる。また、ピン5は凹部18の側壁によって回転方向の動きが抑制されるので、ナット14a,14bの螺合の際には面材固定ボルト1の螺合方向の回転を防止し、確実な締め付けを可能にしている。
【実施例2】
【0028】
図7(a)は、本実施例に係る面材固定ボルトを用いた面材固定方法によって面材を固定した場合の一部縦断面図であり、(b)は、図7(a)に符号C−C線で示す矢視一部断面図である。
図7(a)において、本実施例では、躯体コンクリート19の表面側に配置される第1の面材22と躯体コンクリート19の裏面側に配置される第2の面材24とが面材固定ボルト1によって躯体コンクリート19に固定されている。躯体コンクリート19には挿通孔20が穿設され、また、その表面側には挿通孔20の外径よりも大きい凹部21が形成されている。そして、第1の面材22には第1のボルト孔23が穿設され、第2の面材24には第2のボルト孔25が穿設されており、第1の面材22及び第2の面材24は、第1のボルト孔23及び第2のボルト孔25が躯体コンクリート19の挿通孔20に符合するように配置されている。そして、連通するこれらの孔には面材固定ボルト1が挿通されて、第1の面材22及び第2の面材24から突出する面材固定ボルト1の第1のネジ3及び第2のネジ4にそれぞれナット14a,14bが螺合されている。ここで、面材固定ボルト1のピン5は、躯体コンクリート19の挿通孔20の凹部21に係止するようになっているので、面材固定ボルト1へのナットの螺合作業は、面材固定ボルト1が落下する懸念がなく、安全且つ迅速に行うことができる。
【0029】
また、図7(b)に示すように、躯体コンクリート19の凹部21は断面が三角形状に形成されており、三角形を構成する三辺それぞれには、ボルト本体2とこれに周設される熱収縮チューブ6及びピン5が接するようになっている。実際には、三角形を構成する三辺はそれぞれ側壁を形成しており、ピン5は接する側壁と他の二の側壁によって動きを抑制されるので、面材固定ボルト1においてナット14a,14bを螺合する際に、ボルト本体2の螺合方向の回転を防止し、螺合を確実に行うことができるようになっている。なお、凹部21の断面形状が三角形状の場合には特に面材固定ボルト1の回転防止の効果が高いが、ピン5に接する面を形成するだけでも面材固定ボルト1の回転防止に効果的であり、凹部21の断面形状は三角形状以外でもよく、特に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上説明したように、本発明の請求項1乃至請求項5に記載された発明は、簡単且つ確実に構造体を固定できる面材固定ボルトと面材固定ボルトの製造方法と面材固定ボルトを用いた面材固定方法を提供可能であり、住宅等の建築現場において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の本実施の形態に係る面材固定ボルトの外形図である。
【図2】(a)〜(f)本実施の形態に係る面材固定ボルトの変形例の概念図である。
【図3】本発明の本実施の形態に係る面材固定ボルトの製造方法を示す概念図である。
【図4】本発明の本実施の形態に係る面材固定ボルトを用いた面材固定方法を示す概念図である。
【図5】本実施例に係る面材固定ボルトを用いた面材固定方法を適用するコンクリート住宅の概念図である。
【図6】(a)は図5に符号Aで示される部分を拡大して示す一部断面図であり、(b)は図6(a)に符号B−B線で示す矢視一部断面図である。
【図7】(a)は本実施例に係る面材固定ボルトを用いた面材固定方法によって面材を固定した場合の一部縦断面図であり、(b)は図7(a)に符号C−C線で示す矢視一部断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1…面材固定ボルト 2…ボルト本体 3…第1のネジ 4…第2のネジ 5,5a,5b,5c,5d,5e,5f…ピン 6,6a,6b,6c,6d,6e,6f…熱収縮チューブ 7a,7b…ピン挿通孔 8…接着剤 9…上部外壁 10…下部外壁 11…中間外壁 12…床材 13…基礎 14a,14b…ナット 15…第1のボルト孔 16…第2のボルト孔 17…間隙 18…凹部 19…躯体コンクリート 20…挿通孔 21…凹部 22…第1の面材 23…第1のボルト孔 24…第2の面材 25…第2のボルト孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端に第1のネジと第2のネジがそれぞれ形成された両ネジボルトと、
この両ネジボルトの前記第1のネジと第2のネジが形成される箇所以外の部分に周設される熱収縮チューブと、
この熱収縮チューブに穿設された二の孔に挿通されるピンを備えることを特徴とする面材固定ボルト。
【請求項2】
両端に第1のネジと第2のネジをそれぞれ備える両ネジボルトにピンを固定する面材固定ボルトの製造方法であって、熱収縮チューブに二の孔を開ける工程と、
これらの二の孔に前記ピンを挿通する工程と、
前記ピンを挿通した前記熱収縮チューブに前記両ネジボルトを挿入して前記両ネジボルトの周部に前記ピンを挿通した前記熱収縮チューブを配置する工程と、
前記熱収縮チューブを加熱して収縮させて前記ピンを前記両ネジボルトに固定する工程とを有することを特徴とする面材固定ボルトの製造方法。
【請求項3】
前記熱収縮チューブは内面に熱で溶融する接着剤が塗布されていることを特徴とする請求項2に記載の面材固定ボルトの製造方法。
【請求項4】
挿通孔が形成された躯体コンクリートの表面に、前記挿通孔に符合する第1のボルト孔が穿設される第1の面材と、前記駆体コンクリートの裏面に、前記挿通孔に符合する第2のボルト孔が穿設される第2の面材とを、請求項1に記載される面材固定ボルトを用いて固定する面材固定方法であって、
前記面材固定ボルトを前記第1のボルト孔と前記第2のボルト孔に挿通し、
前記面材固定ボルトに固定された前記ピンは、前記第2の面材の第2のボルト孔又は前記躯体コンクリートの挿通孔の表面側に前記第2のボルト孔又は前記挿通孔径よりも大きく形成される凹部に係止され、
前記第1のボルト孔から突出した前記第1のネジと前記第2のボルト孔から突出した前記第2のネジにナットをそれぞれ螺合させて、前記面材固定ボルトで前記第1の面材と前記第2の面材を前記躯体コンクリートの表面と裏面にそれぞれ固定することを特徴とする面材固定ボルトを用いた面材固定方法。
【請求項5】
挿通孔が形成された躯体コンクリートの表面に前記挿通孔に符合する第1のボルト孔が穿設される第1の面材を配置する工程と、
前記躯体コンクリートの裏面に前記挿通孔に符合する第2のボルト孔が穿設される第2の面材を配置する工程と、
請求項1に記載される前記面材固定ボルトを前記第1のボルト孔と前記第2のボルト孔に挿通し、前記面材固定ボルトに固定された前記ピンを前記第2の面材の第2のボルト孔又は前記躯体コンクリートの挿通孔の表面側に前記第2のボルト孔又は前記挿通孔径よりも大きく形成される凹部に係止する工程と、
前記第1のボルト孔から突出した前記第1のネジと前記第2のボルト孔から突出した前記第2のネジにナットをそれぞれ螺合させて前記面材固定ボルトで前記第1の面材と前記第2の面材を前記躯体コンクリートの表面と裏面にそれぞれ固定する工程とを有することを特徴とする面材固定ボルトを用いた面材固定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−215591(P2008−215591A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58002(P2007−58002)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(507075967)有限会社ネキスト (1)
【Fターム(参考)】