説明

面状発熱体

【課題】発熱部の形状が複雑化しても、電極の形状を複雑化させることなく面状に一様な加熱を行えるようにする。
【解決手段】面状発熱体1は、向かい合うように配設された一対の電極20と、両電極20間に面状に配設されて電気的に接続され、両電極20間に流される電流に応じてジュール熱を発生させる発熱部と、を備える。両電極20の電極間距離は部分的に異なる。発熱部10は、その電気抵抗を部分的に大きくする切欠部11(抵抗増大構造)を備え、切欠部11が各電極20の配設に対応して不均一に配設されることにより、両電極20間に流される電流による電力消費量の分布が一様とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面状発熱体に関する。詳しくは、ジュール熱により加熱を行う面状発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の面状発熱体としては、線状の発熱体パターンを本体に蛇行配列したもの(特許文献1を参照)や、面状の導電性樹脂組成物(発熱部)および電極を基材の上に印刷したもの(特許文献2を参照)が一般的に知られている。これらの面状発熱体は、発熱部に電流が流れた際に発生するジュール熱によって近接した物体を加熱するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−056052号公報
【特許文献2】特開2008−186700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1の技術では、発熱体パターンが線状であるため熱源の間に隙間が生じ、面状に一様な加熱を行うためにはその面内方向に熱を伝導させる構成を追加して設けなければならないという欠点があった。また、上記特許文献2の技術では、理論的には面状に一様な加熱を行うことができるものの、その実現のためには電極の配設の設定によって発熱部内の位置にかかわらず電流量が一様に保たれるようにする必要があり、発熱部が非常に単純な形状でない限り電極の形状が複雑化してコストがかさむという欠点があった。
本発明は、上記した問題を解決するものとして創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、発熱部の抵抗分布を調節することにより、発熱部の形状が複雑化しても、電極の形状を複雑化させることなく面状に一様な加熱を行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の面状発熱体は次の手段をとる。
まず、第1の発明は、ジュール熱により加熱を行う面状発熱体である。この面状発熱体は、良導体により帯状に形成され、互いに距離を置いて向かい合うように配設された一対の電極と、この一対の電極の間に面状に配設されて両電極間に電気的に接続され、一対の電極から流される電流に応じてジュール熱を発生させる発熱部と、を備えている。一対の電極は、その電極間距離が部分的に異なるように配設されている。発熱部は、その電気抵抗を部分的に大きくする抵抗増大構造を備え、かつ、この抵抗増大構造が一対の電極の配設に対応して発熱部に不均一に配設されることにより、一対の電極から流される電流による電力消費量の分布が一様となるように構成されている。
この第1の発明によれば、一対の電極の配設に応じて発熱部の抵抗分布が不均一に設定されることで、その電力消費量の分布が一様となる。これにより、発熱部が発生させるジュール熱の発生量分布を各電極の配設に依存することなく一様にして、面状に一様な加熱を行うことができる。
【0006】
ついで、第2の発明は、上述した第1の発明において、抵抗増大構造が、発熱部にパターン状に形成され、発熱部の面内方向とは垂直な方向に向かって開口した切欠部であるものである。
この第2の発明によれば、発熱部にパターン状に切欠部を形成する簡単な構成により、発熱部の電気抵抗が部分的に大きくなってその抵抗分布が不均一になる。これにより、発熱部の構成を簡単にすることができる。
【0007】
さらに、第3の発明は、上述した第2の発明において、一対の電極と発熱部とが絶縁体の基材の上に印刷されて設けられているものである。
この第3の発明によれば、一対の電極および発熱部を、基材の上に印刷することで簡単に形成することができる。さらに、発熱部の切欠部のパターンを印刷パターンとして簡単に設定することができる。
【0008】
さらに、第4の発明は、上述した第3の発明において、一対の電極および発熱部を覆うように、絶縁材が上記各電極および発熱部に重ねて印刷されて設けられているものである。
この第4の発明によれば、一対の電極および発熱部が絶縁材により覆われる。また、発熱部に形成された切欠部の中に絶縁材が充填されて、その絶縁性が向上する。これにより、各電極および発熱部からの漏電およびショートを防ぐことができ、さらに、発熱部の切欠部のパターンが発熱部の抵抗分布を調節する機能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る面状発熱体の一実施形態を表す平面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である。
【図4】上記実施形態の面状発熱体における電流経路の計算方法を示す説明図である。
【図5】図4と同様の説明図であり、面状発熱体が線対称である場合を示す。
【図6】上記実施形態の面状発熱体における切欠部の変形例を示す拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
始めに、一実施形態に係る面状発熱体1の構成について、図1ないし図3を用いて説明する。この面状発熱体1は、絶縁体の基材30の上に、互いに距離を置いて向かい合うように配設された一対の電極20と、各電極20間に面状に配設されて両電極20間に電気的に接続された発熱部10と、を印刷して設けたものである。面状発熱体1は、基材30の上に印刷して設けられることで、その形状の複雑さにかかわらず簡単に形成される。
面状発熱体1は、電源22から両電極20間に供給される電力に応じて発熱部10が発生させるジュール熱によって、近接した物体を加熱するようになっている。
【0011】
上記各電極20は、良導体により帯状に形成されて、その内部の電位が一様とされている。また、各電極20は、図1に示すように、その電極間距離が面状発熱体1の先端側(図1で見て下側)に向かって徐々に広くなるように設定されている。
【0012】
上記発熱部10は、図2および図3に示すように、均質な素材により均一な膜厚tを有する膜状に形成されている。発熱部10が膜状に形成されることにより、発熱部10全体の電気抵抗を抑えて、発熱部10に電気抵抗率が大きい材料を用いることができるようになる。さらに、電源22が発熱部10に印加する電圧を抑えることができる。
発熱部10には、図1および図2に示すように、複数の切欠部11がパターン状に配設されている。各切欠部11は、円筒形状に形成されて発熱部10の面内方向とは垂直な方向(図2で見て上下方向)に向かって開口し、その内部に電流が流れないようにしている。これにより、発熱部10が均質な素材により均一な膜厚tで形成されるにもかかわらず、発熱部10の電気抵抗が部分的に大きくなる。ここで、切欠部11が本発明における「抵抗増大構造」に相当する。
なお、各切欠部11は、その大きさが発熱部10の熱拡散長と比して十分に小さく設定されて、各切欠部11自体による発熱部10の温度分布の変化が無視できるようになっている。
【0013】
上記各切欠部11は、図1ないし図3に示すように、上述した各電極20の配設の仕方に対応して不均一なパターンで配設されて、発熱部10の抵抗分布を不均一に設定している。そして、この発熱部10の抵抗分布は、両電極20間に流される電流による発熱部10の電力消費量の分布(すなわち、発熱部10が発生させるジュール熱の発生量分布)が一様となるように設定されている。
すなわち、各切欠部11は、発熱部10の根元側(図1で見て上側)の部分において、それぞれの大きさが大きく、そのパターン密度が密に設定されることで、発熱部10の単位面積あたりの電気抵抗を大きく設定している。このため、発熱部10は、根元側の部分に流れる電流量が少なくされて、その単位面積あたりの電力消費量(すなわち、ジュール熱の発生量)が、両電極20間の電極間距離が短い割には抑えられる。
また、各切欠部11は、発熱部10の先端側(図1で見て下側)の部分に向かうにつれて、それぞれの大きさが徐々に小さく、そのパターン密度が徐々に疎になるように設定されることで、発熱部10の単位面積あたりの電気抵抗を面状発熱体1の先端側に向かって徐々に小さくするように設定している。このため、発熱部10は、その先端側の部分に向かうにつれて電流量が徐々に多くされて、その単位面積あたりの電力消費量(すなわち、ジュール熱の発生量)が、両電極20間の電極間距離が徐々に長くなるにもかかわらず一定に保たれる。
これにより、発熱部10の抵抗分布を切欠部11のパターンという簡単な構成により設定し、発熱部10が発生させるジュール熱の発生量分布を各電極20の配設に依存することなく一様にして、面状に一様な加熱を行うことができる。ここで、発熱部10は基材30の上に印刷されて設けられるので、上記切欠部11のパターンは発熱部10の印刷パターンとして簡単に形成される。
【0014】
ところで、基材30には、図1ないし図3に示すように、絶縁材31が各電極20および発熱部10に重ねて印刷されて設けられている。この絶縁材31は、各電極20および発熱部10を覆うように設けられることで、各電極および発熱部からの漏電およびショートを防ぐように機能する。また、絶縁材31は、図2に示すように、上述した各切欠部11の中に充填されている。これにより、各切欠部11は、その絶縁性が高められて、発熱部10の抵抗分布を調節する機能が向上されている。
【0015】
続いて、上述した切欠部11のパターンの設定方法について、図4および図5を用いて説明する。第1の実施形態に係る面状発熱体1では、予め決定された発熱部10および電極20の配設の仕方に対して、電流経路の計算から切欠部11のパターンを設定している。
まず、図4に示すように、一対の電極20のうち一方を発熱部10の幅方向(図示上下方向)にn等分(nは自然数)して微小区間a、a、・・・、a、・・・aを設定する。また、上記一対の電極20の他方を発熱部10の幅方向(図示上下方向)にm等分(mは自然数)して微小区間c、c、・・・、c、・・・cを設定する。ここで、上記nおよびmは、各微小区間aおよびc(iはn以下の自然数、jはm以下の自然数)の分割幅Wが等しくなるように設定される。
ついで、上記微小区間a(iはn以下の自然数)から各微小区間c(jはm以下の自然数)までの電流経路pijをそれぞれ求め、各電流経路pijの電流経路長Lijを計算する。そして、各電流経路pijの電気抵抗Rijを以下の式1により求める。
【0016】
【数1】


ただし、ρは電気抵抗率、Lijは電流経路長、tは発熱部10の膜厚、Wは微小区間aおよびcの分割幅である。ここで、上記分割幅Wは、各微小区間aおよびcで等しく設定されているので、電流経路pijに依存しない定数となる。また、発熱部10は均質な素材により均一な厚さで形成されているので、ρおよびtは電流経路pijに依存しない定数とみなされる。
そして、各電流経路pijの電気抵抗Rijが求められれば、以下の式2より各電流経路pijにおける単位時間当たりの電力消費量(すなわち、ジュール熱の発生量)Qijを求めて、発熱部10の発熱量の分布を計算することができる。
【0017】
【数2】


ただし、Vは両電極20間に印加される電圧である。ここで、各電極20は良導体により形成されてその内部の電位が一様とされているので、Vは電流経路pijに依存しない定数とみなされる。
上述した方法で求めた発熱部10の発熱量の分布が一様でない場合は、発熱部10においてジュール熱の発生量がより多い部分に切欠部11のパターンを追加して配設し、発熱部10の発熱量の分布が一様となるように調節する。この処理には、導光板における光の拡散量を調節する際に用いられるアルゴリズムと同様のアルゴリズムを用いることができる。そして、上記アルゴリズムを使用した専用のコンピュータプログラムを用いることで、切欠部11のパターンを短時間で作成することができる。
【0018】
なお、図5に示すように、発熱部10および一対の電極20の形状が線対称であり、かつ、その対称軸Xが発熱部10の幅方向(図示左右方向)に直交している場合は、n=mとして計算を行うことができる。さらに、電流経路p11、p22・・・、pii、・・・、pnnにおける発熱量の分布を一様に設定することで、発熱部10全体の発熱量の分布が一様となる。これにより、切欠部11のパターンを設定する際の計算量を減らすことができる。
【0019】
以上、本発明を一つの実施形態を用いて説明したが、本発明は上記実施形態のほか各種の形態で実施できるものである。例えば、各切欠部の形状は円筒形状(図6(A)参照)に限定されない。すなわち、各切欠部は、図6に示すように、角柱形状((B)(C)参照)またはスリット状((D)参照)に形成することができ、その具体的な形状および配設の向きは限定されない。
また、切欠部のパターンの設定方法は上述したものに限定されない。すなわち、発熱部の周辺の磁場から発熱部の電流分布を求め、その分布から抵抗分布を計算して切欠部のパターンを設定する方法を用いることができる。また、発熱部の電位または電場の分布を計算または実験で求め、その分布から抵抗分布を計算して切欠部のパターンを設定する方法を用いることもできる。また、切欠部のない発熱部を用いて加熱を行った場合の発熱部の温度分布を実験で求め、より高温となる(すなわち、ジュール熱の発生量がより多い)部分に切欠部を配設してジュール熱の発生量分布が一様となるように調節する方法を用いることもできる。
また、抵抗増大構造は切欠部のパターンに限定されず、例えば抵抗増大構造として発熱部の内部に形成された空隙を用いることもできる。また、抵抗増大構造として発熱部の内部に埋め込まれた絶縁体粒子を用いることもできる。また、抵抗増大構造として発熱部の厚さを部分的に薄くした構成を用いることもできる。また、抵抗増大構造として発熱部の素材を部分的に変更した構成を用いることもできる。
また、面状発熱体の具体的な構成および素材は上記実施形態に限定されず、例えば面状発熱体が絶縁材を備えていない構成を用いることもできる。
【符号の説明】
【0020】
1 面状発熱体
10 発熱部
11 切欠部(抵抗増大構造)
20 電極
21 リード線
22 電源
30 基材
31 絶縁材
、a、・・・、a、・・・a 微小区間
、c、・・・、c、・・・c 微小区間
ij 電流経路長
ij 電流経路
t 膜厚
W 分割幅
X 対称軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジュール熱により加熱を行う面状発熱体であって、
良導体により帯状に形成され、互いに距離を置いて向かい合うように配設された一対の電極と、
前記一対の電極の間に面状に配設されて当該両電極間に電気的に接続され、前記一対の電極から流される電流に応じてジュール熱を発生させる発熱部と、を備え、
前記一対の電極は、その電極間距離が部分的に異なるように配設されており、
前記発熱部は、その電気抵抗を部分的に大きくする抵抗増大構造を備え、かつ、当該抵抗増大構造が前記一対の電極の配設に対応して前記発熱部に不均一に配設されることにより、前記一対の電極から流される電流による電力消費量の分布が一様となるように構成されていることを特徴とする面状発熱体。
【請求項2】
請求項1に記載の面状発熱体であって、
前記抵抗増大構造が、前記発熱部にパターン状に形成され、当該発熱部の面内方向とは垂直な方向に向かって開口した切欠部であることを特徴とする面状発熱体。
【請求項3】
請求項2に記載の面状発熱体であって、
前記一対の電極と前記発熱部とが絶縁体の基材の上に印刷されて設けられていることを特徴とする面状発熱体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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