説明

面発光型半導体レーザ、面発光型半導体レーザ装置、光伝送装置および情報処理装置

【課題】信頼性の高い面発光型半導体レーザを提供する。
【解決手段】長共振器構造のVCSEL10は、n型のGaAs基板100と、AlGaAs層から構成されるn型の下部DBR102と、下部DBR102上に形成された共振器104と、共振器104上に形成されたAlGaAs層から構成されるp型の上部DBR108とを有する。共振器104の光学的膜厚が発振波長よりも大きく、共振器104は、活性層106Bの上下に配された一対のスペーサ層106A、106Cと、スペーサ層106Cの側に形成された共振器延長領域105とを含む。共振器延長領域105は、n型のGaInPから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光型半導体レーザ、面発光型半導体レーザ装置、光伝送装置および情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1や2は、長いモノリシックなキャビティを用いた選択酸化型の長共振器の面発光型半導体レーザを開示している。また、特許文献3は、ミラー間に空洞の延長領域を介在させた長共振器の面発光型半導体レーザを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】H. J. Unold, et al, ”Improving Single-Mode VCSEL Performance by Introducing a Long Monolithic Cavity”, IEEE, PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS, VOL. 12, NO. 8, AUGUST 2000
【非特許文献2】S. W. Z. Mahmoud, “Analysis of longitudinal mode wave guiding in vertical-cavity surface-emitting lasers with long monolithic cavity”, APPLIED PHYSICS LETTERS, VOL. 78, NUMBER 5
【特許文献1】特開2005−129960
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、信頼性の高い面発光型半導体レーザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1は、基板と、前記基板上に形成され、相対的に屈折率が高い高屈折率層と屈折率が低い低屈折率層の対を積層した第1導電型の第1の半導体多層膜反射鏡と、第1の半導体多層膜反射鏡上に形成された活性層を含む共振器と、前記共振器上に形成され、相対的に屈折率が高い高屈折率層と屈折率が低い低屈折率層の対を積層した前記第1導電型と異なる第2導電型の第1の半導体多層膜反射鏡とを有し、前記共振器は、前記活性層の上下に配された一対のスペーサ層と、前記一対のスペーサ層のいずれか一方の側に形成された共振器延長領域とを含み、前記共振器延長領域は、結晶欠陥のあるエネルギー準位が結晶欠陥のない通常のエネルギー準位よりも高い材料を含む、面発光型半導体レーザ。
請求項2は、前記共振器は、前記活性層の一方のスペーサ層と前記共振器延長領域との間に、前記活性層内にキャリアを閉じ込めるためのキャリア障壁層を含む、請求項1に記載の面発光型半導体レーザ。
請求項3は、前記共振器延長領域は、n型のGaInP層から構成される、請求項1または2に記載の面発光型半導体レーザ。
請求項4は、前記共振器延長領域は、n型のGaInP層とn型のAlGaAs層とを含み、前記GaInP層は、前記活性層と前記AlGaAs層との間に配置される、請求項1ないし3いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
請求項5は、前記AlGaAs層の膜厚は、前記GaInP層の膜厚よりも大きい、請求項4に記載の面発光型半導体レーザ。
請求項6は、前記GaInP層は、発振波長の1/4よりも大きい、請求項4または5に記載の面発光型半導体レーザ。
請求項7は、前記GaInP層には、不純物としてシリコンが注入される、請求項1ないし6いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
請求項8は、前記AlGaAs層には、不純物としてシリコンが注入される、請求項1ないし7いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
請求項9は、前記キャリア障壁層と前記GaInP層との間に、前記キャリア障壁層のAl組成比よりも低いAl組成比をもつ緩衝層が形成される、請求項1ないし8いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
請求項10は、前記基板上には、少なくとも第2の半導体多層膜反射鏡を含む柱状構造が形成され、前記柱状構造内には、選択的に酸化された酸化領域を含む電流狭窄層が形成される、請求項1ないし9いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
請求項11は、前記柱状構造をエッチングにより形成するとき、前記共振器延長領域はエッチング停止層として機能する、請求項10に記載の面発光型半導体レーザ。
請求項12は、請求項1ないし11いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザと、前記面発光型半導体レーザからの光を入射する光学部材とを備えた面発光型半導体レーザ装置。
請求項13は、請求項12に記載された面発光型半導体レーザ装置と、前記面発光型半導体レーザ装置から発せられたレーザ光を光媒体を介して伝送する伝送手段とを備えた光伝送装置。
請求項14は、請求項1ないし11いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザと、前記面発光型半導体レーザから出射されるレーザ光を記録媒体に集光する集光手段と、前記集光手段により集光されたレーザ光を前記記録媒体上で走査する機構とを有する情報処理装置。
【発明の効果】
【0006】
請求項1、3、6、7によれば、活性層の劣化を抑制することができる。
請求項2、10によれば、発光出力を向上させることができる。
請求項4、5、8によれば、AlGaAs層を含まない場合と比較して、共振器延長領域の形成を容易にすることができる。
請求項9によれば、キャリア障壁層の形成を容易にすることができる。
請求項11によれば、柱状構造を精度良く形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の第1の実施例に係る長共振器構造の面発光型半導体レーザの概略断面図である。
【図2】図2(a)は、AlGaAsのエネルギーバンドを示す図であり、図2(b)はn型のAlGaAsのDXセンターを説明するためのエネルギーバンドを示す図である。
【図3】本発明の第2の実施例に係る長共振器構造の面発光型半導体レーザの概略断面図である。
【図4】本発明の第3の実施例に係る長共振器構造の面発光型半導体レーザの概略断面図である。
【図5】本発明の第4の実施例に係る長共振器構造の面発光型半導体レーザの概略断面図である。
【図6】本実施例の面発光型半導体レーザに光学部材を実装した面発光型半導体レーザ装置の構成を示す概略断面図である。
【図7】本実施例の面発光型半導体レーザを使用した光源装置の構成例を示す図である。
【図8】図6(a)に示す面発光型半導体レーザ装置を用いた光伝送装置の構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。面発光型半導体レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)は、通信装置や画像形成装置の光源に利用されている。このような光源に利用される面発光型半導体レーザとっては、単一横モードにおいて光出力やESD(Electro Static Discharge)耐性を向上させ、他方、抵抗値や放熱性を低減させることで、素子の寿命を延ばすことが要求されている。
【0009】
選択酸化型の面発光型半導体レーザでは、電流狭窄層の酸化アパーチャ径を約3ミクロン程度にまで小さくすることで単一横モードを得ているが、酸化アパーチャ径を小さくすれば、素子の抵抗が高くなり、発熱温度も高くなり、これが要因となって寿命が短くなる。また、酸化アパーチャ径を小さくすれば、光出力も小さくなってしまう。面発光型半導体レーザの高光出力および長寿命を実現するための1つの方法に、共振器長を長くすることが考えられている。長共振器の面発光型半導体レーザは、典型的に、共振器長を3〜4ミクロン程度(発振波長の10倍ないし20倍程度)長くしたキャビティを備えている。共振器長が長くなると、広がり角が小さい基本横モードと広がり角が大きい高次横モードとの間の光学的損失の差が大きくなり、その結果、酸化アパーチャ径を大きくしても単一横モードを得ることができる。長共振器の面発光型半導体レーザであれば、酸化アパーチャ径を8ミクロン程度まで大きくすることが可能であり、光出力も5mWぐらいまで高くすることが可能である。
【0010】
以下の説明では、選択酸化型の長共振器構造の面発光型半導体レーザを例示し、面発光型半導体レーザをVCSELと称する。なお、図面のスケールは、発明の特徴を分かり易くするために強調しており、必ずしも実際のデバイスのスケールと同一ではないことに留意すべきである。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明の第1の実施例に係る長共振器構造のVCSELの概略断面図である。同図に示すように、本実施例の長共振器構造のVCSEL10は、n型のGaAs基板100上に、Al組成の異なるAlGaAs層を交互に重ねたn型の下部分布ブラック型反射鏡(Distributed Bragg Reflector:以下、DBRという)102、下部DBR102上に形成された、長共振器構造を提供する共振器104、共振器104上に形成されたAl組成が異なるAlGaAs層を交互に重ねたp型の上部DBR108を積層している。
【0012】
n型の下部DBR102は、例えば、Al0.9Ga0.1As層とAl0.3Ga0.7As層とのペアを複数積層して構成され、各層の厚さはλ/4n(但し、λは発振波長、nは媒質の屈折率)であり、これらを交互に40周期で積層してある。n型不純物であるシリコンをドーピングした後のキャリア濃度は、例えば、3×1018cm-3である。また、p型の上部DBR108は、p型のAl0.9Ga0.1As層とAl0.3Ga0.7As層とのペアを複数積層して構成され、各層の厚さはλ/4nであり、これらを交互に29周期積層してある。p型不純物であるカーボンをドーピングした後のキャリア濃度は、例えば、3×1018cm-3である。好ましくは、上部DBR108の最上層には、p型GaAsからなるコンタクト層が形成され、上部DBR108の最下層もしくはその内部には、p型AlAsまたはAlGaAsの電流狭窄層110が形成される。
【0013】
共振器104は、下部DBR102上に形成された共振器延長領域105と、共振器延長領域105上に形成された活性領域106とを含んで構成される。活性領域106は、上部および下部スペーサ層106A、106Cに挟まれた量子井戸活性層106Bを含み、好ましくは活性領域106の膜厚は、発振波長λに等しい。下部スペーサ層106Aは、例えば、アンドープのAl0.6Ga0.4As層であり、量子井戸活性層106Bは、アンドープAl0.11Ga0.89As量子井戸層およびアンドープのAl0.3Ga0.7As障壁層であり、上部スペーサ層106Cは、アンドープのAl0.6Ga0.4As層である。
【0014】
共振器延長領域105は、一連のエピタキシャル成長により形成されたモノリシックな層であり、その光学的膜厚は、任意であるが、例えば、数λないし数十λ(λは所望の発振波長)を有することができ、好ましくは、5λないし20λの間の厚み、または反射率が97%以上の反射帯域に複数の共振波長が含まれる厚みの少なくとも一方を満たす。このような厚みを有することで、厚みが薄い構成に比べ高次の横モードが抑制される。長共振器構造を持たないVCSELは、共振器延長領域105を備えておらず、通常、下部DBR102上に活性領域106が形成され、共振器104の光学的膜厚は、λ以下である。このような共振器延長領域105は、空洞延長領域またはキャビティスペースとして参照され得る。
【0015】
本実施例では、共振器延長領域105は、DXセンターによる深い準位が生じ難い材料から構成され、好ましくは、DXセンターによる結晶欠陥のあるエネルギー準位が結晶欠陥のない通常のエネルギー準位よりも高くなる材料から構成される。このようなエネルギー準位であれば、後述するように、DXセンターの発生による原子の移動が抑制され、その結果、活性層の劣化を防止することができる。共振器延長領域105は、例えば、n型のドーパントとしてシリコンを注入したGaInP層などから構成される。なお、GaInPは、5λないし20λの間の厚み、または反射率が97%以上の反射帯域に複数の共振波長が含まれる厚みの少なくとも一方を満たすことが好ましいが、これに限定されず、活性領域106の劣化を抑制できる厚みであればよい。そのような厚みとして、λ/4またはそれより大きな膜厚であることができる。
【0016】
上部DBR108から下部DBR102に至るまで半導体層をエッチングすることにより、基板100上に円筒状のメサ(柱状構造)Mが形成される。電流狭窄層110は、メサMの側面で露出され、当該側面から選択的に酸化された酸化領域110Aと酸化領域110Aによって囲まれた導電領域(酸化アパーチャ)110Bを有する。導電領域110Bの基板100の主面と平行な面内の平面形状は、メサMの外形を反映した円形状となり、その中心は、メサMの軸方向の光軸とほぼ一致する。長共振器のVCSEL10では、基本横モードを得るために、通常のVCSELと比べて導電領域110Bの径を大きくすることができ、例えば、導電領域110Bの径を7ミクロン程度まで大きくすることができる。
【0017】
メサMの最上層には、Ti/Auなどを積層した金属製の環状のp側電極112が形成され、p側電極112は、上部DBR108のコンタクト層にオーミック接続される。p側電極112には、円形状の開口すなわち光を出射する光出射口112Aが形成される。光出射口112Aの中心は、メサMの光軸に一致する。さらに基板100の裏面には、n側電極114が形成される。
【0018】
長共振器構造を持たないVCSELでは、単一横モードで動作するとき、共振器長が短いので1つの共振波長、すなわち1つの縦モードを有する。一方、本実施例のように長共振器のVCSELでは、共振器長が長くなるため、複数の共振波長が発生し得る。発生する共振波長の数は、共振器長の大きさに比例する。このため、長共振器構造のVCSELでは、動作電流の変動などに伴い共振波長のスイッチング(縦モードのスイッチング)が生じ易く、入力電流とレーザ出力の関係であるIL特性に屈曲点(キンク)を発生させることがある。このような共振波長のスイッチングは、VCSELの高速変調に好ましくないので、下部DBR102を構成するAlGaAsのペアの屈折率差、あるいは上部DBR108を構成するAlGaAsのペアの屈折率差を小さくすることで、レーザ発振可能な反射率(例えば99%以上)となる反射帯域を狭め、複数存在する共振波長の中から所望の共振波長を選択し、縦モードスイッチングを抑制することができる。
【0019】
また、長共振器構造のVCSELでは、通常、n型の共振器延長領域105を用いる。これは、n型であれば、光の吸収が少なく、素子抵抗を小さくすることができるためである。他方、共振器延長領域105を構成する材料がAlGaAsであると、Al組成とn型のドーピング濃度(例えば、シリコン)に影響して深い準位であるDXセンターが非常に多くできてしまい、これに起因して活性層106Bの劣化が急速に進んでしまう。DXセンターとは、伝導体側にできる深い準位のことであり、ドナーとなる不純物をAlGaAsまたはGaAsに注入したことによって発生するAs欠陥と推測される。
【0020】
図2(a)は、AlGaAsのエネルギーバンドを示し、図2(b)は、n型AlGaAsにDXセンターが生じたときのエネルギーバンドを示している。図2(a)に示すように、伝導体の電子は、価電子帯の正孔と結合することにより光(フォトン)を発生する。一方、Al組成が20%以上のAlGaAs内では、図2(a)のときよりもDXセンタの方がエネルギーが低くなり、そのため、DXセンターに電子がトラップされる。その際、IV族ドナーは、ドナー自身が、VI族ドナーはGa(Al)が動く。また、電子は、DXセンター内に蓄積され、光を吸収することでDXセンターから解放されて伝導体に戻るが、その際、IV族ドナーはドナー自身が、VI族ドナーはGa(Al)が動く。これにより、活性層の結晶構造が破壊され、著しく特性を劣化させる。
【0021】
本実施例では、共振器延長領域105の材料を、深い準位をもつAlGaAsではなく、深い準位を持たないもの、例えば、GaInPを用いる。ドーパントには、GaInPと格子定数が近いシリコンを用いることで、GaInPには、結晶欠陥による深い準位が形成されない。従って、図2(b)に示すAlGaAsのときのように、DXセンターの準位が結晶欠陥がない通常の伝導体のエネルギー準位よりも低くなるのではなく、GaInPによるDXセンターの準位は、結晶欠陥がないときの通常の伝導体のエネルギー準位よりも高くなるため、電子は、容易にDXセンターにトラップされ難くなり、IV族ドナー自身の移動が抑制される。こうして、DXセンターに起因する活性層106Bの結晶構造の劣化による短寿命化が防止され、長共振器構造のVCSELの信頼性を維持することができる。
【0022】
なお、上記実施例では、下部DBR102および上部DBR108を、Al組成比が高い高AlGaAs層とAl組成比が低い低AlGaAs層の対により構成したが、下部DBR102および上部DBR108は、AlGaAsに限定されるものではない。下部DBR102および上部DBR108は、相対的に屈折率が高い高屈折率層と屈折率が低い低屈折率層の対から構成されればよく、例えば、高屈折率層としてGaAs、低屈折率層としてAlGaAsの組合せであってもよい。発振波長が長い場合には、DBRにGaAsを用いることが可能である。
【0023】
次に、本発明の第2の実施例について説明する。図3は、第2の実施例に係る長共振器構造のVCSEL10Aの概略断面図である。第1の実施例では、共振器延長領域105が単一の材料(例えば、GaInP)から構成されたが、第2の実施例では、共振器延長領域105が複数の材料から構成される。
【0024】
好ましくは、図3に示すように、共振器延長領域105は、GaInPからなる第1のスペーサ層105Aと、その直下に形成されるAlGaAsからなる第2のスペーサ層105Bとを含んで形成される。第2のスペーサ層105Bは、下部DBR102と同じ材料から構成されるため、結晶成長がされ易く、容易に膜厚を大きくすることができる。このため、第2のスペーサ層105Bの膜厚は、第1のスペーサ層105Aの膜厚よりも大きい。好ましくは、第2のスペーサ層105BのAl組成比は、下部DBR102を構成する高屈折率層と低屈折率層のAl組成比の範囲内であり、下部DBR102と同様の不純物ドーパント(例えば、シリコン)を用いることができる。また、AlGaAsに不純物ドーパントとしてシリコンを注入した場合、図2(b)に示したように、AlGaAsには多数のDXセンターが発生し、その結果、シリコンが拡散もしくは移動する。しかし、活性領域106に隣接して第1のスペーサ層105Aが形成されているため、シリコンが活性層106Bへ拡散されることは防止される。
【0025】
次に、本発明の第3の実施例について説明する。図4は、第3の実施例に係る長共振器構造のVCSEL10Bの概略断面図である。第3の実施例では、共振器104は、第2の実施例の構成に加えて、活性領域106と共振器延長領域105との間に、キャリアブロック層120を備えている。
【0026】
キャリアブロック層120は、下部スペーサ層106Aよりも大きなバンドギャップをもつ材料から構成され、活性層106B内にキャリアを閉じ込める機能を果たす。例えば、第1のスペーサ層105AがGaInPから構成されるとき、キャリアブロック層120は、一定の膜厚を有するn型のAlxGa1-xAs(0<X<1)から構成され、下部スペーサ層106Aに隣接するように形成される。キャリアブロック層120のバンドギャップは、Al組成比(X)によって決定することができ、Al組成比を高くすれば、それに応じてバンドギャップを大きくすることができる。好ましくは、下部DBR102がAl0.9Ga0.1As層とAl0.3Ga0.7As層とのペアから構成されるとき、キャリアブロック層120は、Al0.9Ga0.1As層とすることができる。また、GaInP層上にAl0.9Ga0.1As層を結晶成長させることは容易ではないので、キャリアブロック層120の下層に、バッファ層122としてAl0.3Ga0.7As層を形成することが望ましい。好ましくは、キャリアブロック層120およびバッファ層122の光学的膜厚は、それぞれ発振波長のλ/4である。
【0027】
このように第3の実施例によれば、キャリアブロック層120を介在させることで、VCSEL10Bの発光効率を向上させることができる。
【0028】
次に、本発明の第4の実施例について説明する。図5は、第4の実施例に係る長共振器構造のVCSEL10Cの概略断面図である。第4の実施例では、第1のスペーサ層105AがGaInPから構成されるとき、第1のスペーサ層105Aは、メサMをエッチングするときのエッチングストッパーに利用することができる。例えば、三塩化ホウ素をエッチングガスとして用いた反応性イオンエッチングによりメサMを形成するとき、AlGaAsとGaInPにはエッチングの選択比が生じるため、エッチングをGaInP層において精度良く停止させることができる。上記のエッチングガスは一例であり、AlGaAsとGaInPのエッチングに選択比がある他のエッチャントを用いることができることは言うまでもない。
【0029】
なお、上記第2、第3および第4の実施例においても上記第1の実施例と同様に、共振器延長領域105は、5λないし20λの間の厚み、または反射率が97%以上の反射帯域に複数の共振波長が含まれる厚みの少なくとも一方を満たすことが好ましいが、これには限定されず、また、第1のスペーサ層105Aは、活性領域106の劣化を抑制できる厚みであればよく、例えば、λ/4またはそれより大きな膜厚で構成できる。
また、上記第3および第4の実施例では、共振器延長領域105が第1および第2のスペーサ層105A、105Bから構成される例を示したが、共振器延長領域105が第1の実施例のときのように単一の材料から構成されるものであってもよい。また、上記実施例では、n型のGaAs基板を用いた例を示したが、勿論、p型のGaAs基板を用いることも可能である。その場合には、基板上に形成される半導体層は、導電型がそれぞれ反転される。すなわち、基板上には、p型の下部DBRが形成され、下部DBRの活性領域と隣接する位置には電流狭窄層が形成される。メサMは、少なくとも電流狭窄層に至る深さを有する。そして、活性領域上には、共振器延長領域が形成され、その上に上部DBRが形成される。
【0030】
また、電流狭窄層110の導電領域(酸化アパーチャ)110Bの径は、要求される光出力などに応じて適宜変更することができる。さらに、GaAs基板100と下部DBR102との間に必要に応じてバッファ層を形成するようにしてもよい。さらに上記実施例では、GaAs系のVCSELを例示したが、本発明は、他のIII−V族の化合物半導体を用いた長共振器のVCSELにも適用することができる。さらに上記実施例では、シングルスポットのVCSELを例示したが、基板上に多数のメサ(発光部)が形成されたマルチスポットのVCSELあるいはVCSELアレイであってもよい。
【0031】
次に、本実施例のVCSELを利用した面発光型半導体レーザ装置、光情報処理装置および光伝送装置について図面を参照して説明する。図6(a)は、VCSELと光学部材を実装(パッケージ)した面発光型半導体レーザ装置の構成を示す断面図である。面発光型半導体レーザ装置300は、長共振器VCSELが形成されたチップ310を、導電性接着剤320を介して円盤状の金属ステム330上に固定する。導電性のリード340、342は、ステム330に形成された貫通孔(図示省略)内に挿入され、一方のリード340は、VCSELのn側電極に電気的に接続され、他方のリード342は、p側電極に電気的に接続される。
【0032】
チップ310を含むステム330上に矩形状の中空のキャップ350が固定され、キャップ350の中央の開口352内に光学部材のボールレンズ360が固定されている。ボールレンズ360の光軸は、チップ310のほぼ中心と一致するように位置決めされる。リード340、342間に順方向の電圧が印加されると、チップ310から垂直方向にレーザ光が出射される。チップ310とボールレンズ360との距離は、チップ310からのレーザ光の広がり角θ内にボールレンズ360が含まれるように調整される。また、キャップ内に、VCSELの発光状態をモニターするための受光素子や温度センサを含ませるようにしてもよい。
【0033】
図6(b)は、他の面発光型半導体レーザ装置の構成を示す図であり、同図に示す面発光型半導体レーザ装置302は、ボールレンズ360を用いる代わりに、キャップ350の中央の開口352内に平板ガラス362を固定している。平板ガラス362の中心は、チップ310のほぼ中心と一致するように位置決めされる。チップ310と平板ガラス362との距離は、平板ガラス362の開口径がチップ310からのレーザ光の広がり角度θ以上になるように調整される。
【0034】
図7は、VCSELを光情報処理装置の光源に適用した例を示す図である。光情報処理装置370は、図6(a)または図6(b)のように長共振器VCSELを実装した面発光型半導体レーザ装置300または302からのレーザ光を入射するコリメータレンズ372、一定の速度で回転し、コリメータレンズ372からの光線束を一定の広がり角で反射するポリゴンミラー374、ポリゴンミラー374からのレーザ光を入射し反射ミラー378を照射するfθレンズ376、ライン状の反射ミラー378、反射ミラー378からの反射光に基づき潜像を形成する感光体ドラム(記録媒体)380を備えている。このように、VCSELからのレーザ光を感光体ドラム上に集光する光学系と、集光されたレーザ光を光体ドラム上で走査する機構とを備えた複写機やプリンタなど、光情報処理装置の光源として利用することができる。
【0035】
図8は、図6(a)に示す面発光型半導体レーザ装置を光伝送装置に適用したときの構成を示す断面図である。光伝送装置400は、ステム330に固定された円筒状の筐体410、筐体410の端面に一体に形成されたスリーブ420、スリーブ420の開口422内に保持されるフェルール430、およびフェルール430によって保持される光ファイバ440を含んで構成される。ステム330の円周方向に形成されたフランジ332には、筐体410の端部が固定される。フェルール430は、スリーブ420の開口422に正確に位置決めされ、光ファイバ440の光軸がボールレンズ360の光軸に整合される。フェルール430の貫通孔432内に光ファイバ440の芯線が保持されている。
【0036】
チップ310の表面から出射されたレーザ光は、ボールレンズ360によって集光され、集光された光は、光ファイバ440の芯線に入射され、送信される。上記例ではボールレンズ360を用いているが、これ以外にも両凸レンズや平凸レンズ等の他のレンズを用いることができる。さらに、光伝送装置400は、リード340、342に電気信号を印加するための駆動回路を含むものであってもよい。さらに、光伝送装置400は、光ファイバ440を介して光信号を受信するための受信機能を含むものであってもよい。
【0037】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0038】
10、10A、10B、10C:長共振器構造のVCSEL
100:基板
102:下部DBR
104:共振器
105:共振器延長領域
106:活性領域
108:上部DBR
110:電流狭窄層
110A:酸化領域
110B:導電領域
112:p側電極
112A:光出射口
114:n側電極
120:キャリアブロック層
122:バッファ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成され、相対的に屈折率が高い高屈折率層と屈折率が低い低屈折率層の対を積層した第1導電型の第1の半導体多層膜反射鏡と、
第1の半導体多層膜反射鏡上に形成された活性層を含む共振器と、
前記共振器上に形成され、相対的に屈折率が高い高屈折率層と屈折率が低い低屈折率層の対を積層した前記第1導電型と異なる第2導電型の第1の半導体多層膜反射鏡とを有し、
前記共振器は、前記活性層の上下に配された一対のスペーサ層と、前記一対のスペーサ層のいずれか一方の側に形成された共振器延長領域とを含み、
前記共振器延長領域は、結晶欠陥のあるエネルギー準位が結晶欠陥のない通常のエネルギー準位よりも高い材料を含む、面発光型半導体レーザ。
【請求項2】
前記共振器は、前記活性層の一方のスペーサ層と前記共振器延長領域との間に、前記活性層内にキャリアを閉じ込めるためのキャリア障壁層を含む、請求項1に記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項3】
前記共振器延長領域は、n型のGaInP層から構成される、請求項1または2に記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項4】
前記共振器延長領域は、n型のGaInP層とn型のAlGaAs層とを含み、前記GaInP層は、前記活性層と前記AlGaAs層との間に配置される、請求項1ないし3いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項5】
前記AlGaAs層の膜厚は、前記GaInP層の膜厚よりも大きい、請求項4に記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項6】
前記GaInP層は、発振波長の1/4よりも大きい、請求項4または5に記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項7】
前記GaInP層には、不純物としてシリコンが注入される、請求項1ないし6いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項8】
前記AlGaAs層には、不純物としてシリコンが注入される、請求項1ないし7いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項9】
前記キャリア障壁層と前記GaInP層との間に、前記キャリア障壁層のAl組成比よりも低いAl組成比をもつ緩衝層が形成される、請求項1ないし8いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項10】
前記基板上には、少なくとも第2の半導体多層膜反射鏡を含む柱状構造が形成され、前記柱状構造内には、選択的に酸化された酸化領域を含む電流狭窄層が形成される、請求項1ないし9いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項11】
前記柱状構造をエッチングにより形成するとき、前記共振器延長領域はエッチング停止層として機能する、請求項10に記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項12】
請求項1ないし11いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザと、
前記面発光型半導体レーザからの光を入射する光学部材と、
を備えた面発光型半導体レーザ装置。
【請求項13】
請求項12に記載された面発光型半導体レーザ装置と、
前記面発光型半導体レーザ装置から発せられたレーザ光を光媒体を介して伝送する伝送手段と、
を備えた光伝送装置。
【請求項14】
請求項1ないし11いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザと、
前記面発光型半導体レーザから出射されるレーザ光を記録媒体に集光する集光手段と、
前記集光手段により集光されたレーザ光を前記記録媒体上で走査する機構と、
を有する情報処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−93571(P2013−93571A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−221866(P2012−221866)
【出願日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】