説明

面発光素子

【課題】 光閉じ込め係数を大きくして効率的にモード利得を増大させる。
【解決手段】 光共振器3の厚さ方向の両端側には下部反射層4および上部反射層5をそれぞれ設けると共に、光共振器3の厚さ方向の中央部には主活性層6を設ける。また、光共振器3には、下部反射層4の近傍に第1の副活性層7を設けると共に、上部反射層5の近傍に第2の副活性層8を設ける。これにより、下部反射層4と上部反射層5との間の光学長Loを延長することなく、第1の副活性層7および第2の副活性層8を光の振幅が大きい定在波の腹の位置に配置することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば発光ダイオード(LED)や垂直キャビティ面発光レーザ(VCSEL)等の面発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、面発光素子は、第1導電型の基板の上面に、第1導電型の下部反射層と、複数の障壁層と、障壁層の間に形成された単一量子井戸あるいは多重量子井戸構造を用いた複数の活性層と、第2導電型の上部反射層とを順次積層した積層構造を備えている。なお、下部反射層あるいは上部反射層のいずれかには、活性層に電流を効率よく注入するための電流狭窄層が設けられる。このような構造を形成することで、下部反射層と、複数の障壁層と、活性層と、上部反射層とによって光共振器が形成される。なお、光共振器を構成する一対の下部反射層と上部反射層とは、その間の光学長が「光の半波長(λ/2)×(1+n)(nは自然数)」程度となるように配置される。
【0003】
また、基板の下面には第1の電極が形成されると共に、上部反射層の上面には第2の電極が形成され、第1の電極および第2の電極を介して電圧が印加される。電圧が印加されると活性層に電流が注入され、活性層から光が誘導放出される。発生した光は、下部反射層および上部反射層との間で反射を繰り返し、光の定在波(光定在波)が形成される。なお、活性層は、光共振器の中央寄りで定在波における振幅が最も大きい腹に対応する位置にそれぞれ配置される。この結果、活性層の中を伝搬する定在波の電界が高められて各活性層からの光出力が強まり、その総和である全体としての光出力が向上する。さらに光出力を向上させる場合には、共振器長を延長して定在波の腹の数を増やし、増やした定在波の腹に対応する位置に活性層がさらに設けられる(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−27945号公報
【特許文献2】特開2007−87994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、共振器長を延長して、新たに形成された定在波の腹に対応する位置に活性層をさらに設けると、光共振器の光学長が長くなるために光閉じ込めが弱くなり、十分なモード利得が得られないという問題があった。
【0006】
この問題点について詳しく説明すると、まず光共振器における光閉じ込めの強弱は、光閉じ込め係数によって示される。光閉じ込め係数は、活性層に光が閉じ込められる割合であり、各活性層のトータル物理(実効)長dと光共振器における一対の反射層間の物理(実効)長Lとの比(d/L)が指標となる。一方、モード利得は、活性層で得られる利得係数と光閉じ込め係数とを掛け合わせた値として表され、光共振器の実効的な光利得を示す。このため、光閉じ込めが弱いほど、即ち、光閉じ込め係数が小さいほど、面発光素子におけるモード利得が小さくなる。
【0007】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、光閉じ込め係数を大きくして効率的にモード利得の増大が実現できる面発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、第1の活性層と、該第1の活性層を挟んで対向して設けた一対の反射層とを有し、前記一対の反射層のそれぞれの近傍に光の振幅が最も大きい腹を少なくとも有してなる定在波が形成される光共振器を備えた面発光素子において、前記一対の反射層のそれぞれの近傍のうちの少なくとも一方に第2の活性層を設け、前記一対の反射層の間にクラッド層を設け、前記第2の活性層を設けたことによる前記一対の反射層の間の物理長あるいは光学長の増加を相殺するために、該クラッド層の物理長あるいは光学長を短くするための短縮手段を該クラッド層に施したことを特徴としている。
【0009】
請求項2の発明では、前記短縮手段は、前記クラッド層の物理長を薄く形成することにある。
【0010】
請求項3の発明では、前記短縮手段は、前記クラッド層を形成する膜を低屈折率の材料で形成して光学長を短くすることにある。
【0011】
請求項4の発明では、前記第2の活性層の利得スペクトルのピーク波長を、前記第1の活性層の利得スペクトルのピーク波長よりも長波長側に形成し、室温から低温へ変化したときの前記第1の活性層の利得スペクトルの短波長側へのシフトによって利得係数が減少する周波数帯域に、室温から低温へ変化したときの第2の活性層の利得スペクトルの短波長側へのシフトによる利得係数を重ね合わせて前記第1の活性層の利得係数の減少を補完する構成としている。
【0012】
請求項5の発明では、前記第2の活性層の利得スペクトルのピーク波長を、前記第1の活性層の利得スペクトルのピーク波長よりも短波長側に形成し、室温から高温へ変化したときの前記第1の活性層の利得スペクトルの長波長側へのシフトによって利得係数が減少する周波数帯域に、室温から高温へ変化したときの第2の活性層の利得スペクトルの長波長側へのシフトによる利得係数を重ね合わせて前記第1の活性層の利得係数の減少を補完する構成としている。
【0013】
また、請求項6の発明は、第1の活性層と、該第1の活性層を挟んで対向して設けた一対の反射層とを有し、前記一対の反射層のそれぞれの近傍に光の振幅が最も大きい腹を少なくとも有してなる定在波が形成される光共振器を備えた面発光素子において、前記一対の反射層のそれぞれの近傍のうちの少なくとも一方に第2の活性層を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、一対の反射層のそれぞれの近傍のうちの少なくとも一方に第2の活性層を設ける構成とした。このとき、一対の反射層のそれぞれの近傍に光の振幅が最も大きい腹を少なくとも有してなる定在波が形成されるから、第2の活性層の位置でも光の振幅が大きくなり、第2の活性層によって光出力を向上することができる。
【0015】
また、請求項1の発明によれば、光共振器には、一対の反射層の間の光学長を延長することなく第2の活性層を設けることができる。このため、一対の反射層の間の光学長を延長して定在波の腹の数を増加し、増加した腹の位置に新たな活性層を設けた場合に比べて、一対の反射層の間の物理長Lが増加するのを抑制することができる。この結果、光閉じ込め係数の指標である比(d/L)を効率的に増加させることができ、モード利得を効率的に増大させることができる。
【0016】
さらに、一対の反射層の間に設けたクラッド層には、その物理長あるいは光学長を短くするための短縮手段を施したから、短縮手段によって第2の活性層を設けたことによる一対の反射層の間の物理長あるいは光学長の増加を相殺することができる。これにより、光共振器を構成する一対の反射層の間の物理長の増加を抑制しつつ光学長を一定に保つことができるから、光閉じ込め係数の指標である比(d/L)を大きくして効率的にモード利得の増大させることができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、短縮手段はクラッド層の物理長を薄く形成する構成としたから、第2の活性層に応じてクラッド層の物理長を薄く形成することによって、第2の活性層を設けたことによる一対の反射層の間の物理長あるいは光学長の増加を相殺することができる。これにより、光共振器を構成する一対の反射層の間の光学長を一定に保つことができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、短縮手段はクラッド層を形成する膜を低屈折率の材料で形成する構成としたから、第2の活性層に応じてクラッド層の光学長を短くすることができる。これにより、第2の活性層を設けたことによる一対の反射層の間の物理長あるいは光学長の増加を相殺することができ、光共振器を構成する一対の反射層の間の光学長を一定に保つことができる。
【0019】
請求項4の発明によれば、第2の活性層の利得スペクトルのピーク波長を第1の活性層の利得スペクトルのピーク波長よりも長波長側に形成したから、室温から低温へ変化したときの第1の活性層の利得スペクトルの短波長側へのシフトによって利得係数が減少する周波数帯域に、室温から低温へ変化したときの第2の活性層の利得スペクトルの短波長側へのシフトによる利得係数を重ね合わせることができ、低温側への温度変化による第1の活性層の利得係数の減少を補完することができる。これにより、室温から低温側に温度変化が生じても素子の動作特性が安定する。
【0020】
請求項5の発明によれば、第2の活性層の利得スペクトルのピーク波長を第1の活性層の利得スペクトルのピーク波長よりも短波長側に形成したから、室温から高温へ変化したときの第1の活性層の利得スペクトルの長波長側へのシフトによって利得係数が減少する周波数帯域に、室温から高温へ変化したときの第2の活性層の利得スペクトルの長波長側へのシフトによる利得係数を重ね合わせることができ、高温側への温度変化による第1の活性層の利得係数の減少を補完することができる。これにより、室温から高温側に温度変化が生じても素子の動作特性が安定する。
【0021】
また、請求項6の発明でも、請求項1の発明と同様に、第2の活性層の位置で光の振幅が大きくして、第2の活性層によって光出力を向上することができる。また、一対の反射層の間の物理長Lが増加するのを抑制することができるから、光閉じ込め係数の指標である比(d/L)を効率的に増加させることができ、モード利得を効率的に増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施の形態による垂直キャビティ面発光レーザ素子を示す断面図である。
【図2】第1の比較例としての垂直キャビティ面発光レーザ素子を示す断面図である。
【図3】第2の比較例としての垂直キャビティ面発光レーザ素子を示す断面図である。
【図4】第2の実施の形態による垂直キャビティ面発光レーザ素子を示す断面図である。
【図5】室温時、低温時および高温時のそれぞれの場合において、一般的な垂直キャビティ面発光レーザ素子の利得スペクトルを示す特性線図である。
【図6】室温時において、図4中の垂直キャビティ面発光レーザ素子の利得スペクトルおよび主活性層だけの利得スペクトルを示す特性線図である。
【図7】低温時において、図4中の垂直キャビティ面発光レーザ素子の利得スペクトルおよび主活性層だけの利得スペクトルを示す特性線図である。
【図8】第3の実施の形態による垂直キャビティ面発光レーザ素子を示す断面図である。
【図9】室温時において、図8中の垂直キャビティ面発光レーザ素子の利得スペクトルおよび主活性層だけの利得スペクトルを示す特性線図である。
【図10】高温時において、図8中の垂直キャビティ面発光レーザ素子の利得スペクトルおよび主活性層だけの利得スペクトルを示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態として、垂直キャビティ面発光レーザ素子(以下、VCSELという)を例に挙げて、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0024】
まず、図1を用いて第1の実施の形態について説明する。第1の実施の形態によるVCSEL1は、基板2の上面に、下部反射層4と、第1の障壁層9と、第1の副活性層7(第2の活性層)と、第1のクラッド層11と、主活性層6(第1の活性層)と、第2のクラッド層12と、第2の副活性層8(第2の活性層)と、第2の障壁層10と、上部反射層5とを順次積層した積層構造を備える。下部反射層4と、第1の障壁層9と、第1の副活性層7と、第1のクラッド層11と、主活性層6と、第2のクラッド層12と、第2の副活性層8と、第2の障壁層10と、上部反射層5とにより、光共振器3が形成される。なお、上部反射層5には、電流狭窄層(図示せず)が設けられる。また、上部反射層5の最上部には、後述のp型電極14とのオーミックコンタクトをとるためのコンタクト層(図示せず)が設けられる。
【0025】
また、基板2の下面にはn型電極13が形成され、上部反射層5の上面にはp型電極14が形成される。下部反射層4と、第1の障壁層9と、第1の副活性層7と、第1のクラッド層11と、主活性層6と、第2のクラッド層12と、第2の副活性層8と、第2の障壁層10と、上部反射層5は、例えばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属化学気相成長)法等のエピタキシャル成長技術を用いて成膜形成される。また、n型電極13およびp型電極14は、導電性の金属薄膜であり、蒸着、スパッタ等によって形成される。なお、p型電極14の中央部には、光を放出するための開口14Aが形成される。
【0026】
基板2は、例えば数百μm程度の厚さ寸法のn型化合物半導体であるガリウム砒素(n-GaAs)単結晶を用いて形成される。
【0027】
下部反射層4は、例えばアルミニウム組成が12%のn型化合物半導体であるアルミニウムガリウム砒素(n-Al0.12Ga0.88As)単結晶の薄膜層と、例えばアルミニウム組成が90%のn型化合物半導体であるアルミニウムガリウム砒素(n-Al0.9Ga0.1As)単結晶の薄膜層とを交互に多数組(例えば30組)積層してなるn型分布型ブラッグ反射器(Distributed Bragg Reflector:DBR)によって構成される。n-Al0.12Ga0.88As単結晶の薄膜層およびn-Al0.9Ga0.1As単結晶の薄膜層は、いずれもその光学長が光共振器3で発生する光の波長λ(例えばλ=850nm)に対してλ/4程度の値に設定される。なお、光学長は、膜厚の物理(実効)長に、膜(媒質)の屈折率を掛けて計算される。
【0028】
上部反射層5は、下部反射層4と同様に、例えばアルミニウム組成が12%のp型化合物半導体であるアルミニウムガリウム砒素(p-Al0.12Ga0.88As)単結晶の薄膜層と、例えばアルミニウム組成が90%のp型化合物半導体であるアルミニウムガリウム砒素(p-Al0.9Ga0.1As)単結晶の薄膜層とを交互に多数組(例えば10組)積層してなるp型分布型ブラッグ反射器によって構成される。p-Al0.12Ga0.88As単結晶の薄膜層およびp-Al0.9Ga0.1As単結晶の薄膜層は、いずれもその光学長が光共振器3で発生する光の波長λ(例えばλ=850nm)に対してλ/4程度の値に設定される。
【0029】
光共振器3を構成する下部反射層4および上部反射層5は、下部反射層4と上部反射層5との間の光学長Loが、例えば、光の波長λ(850nm)と同程度となるように離して配置される。
【0030】
主活性層6は、光共振器3のうち厚さ方向の中央部に配置される。この主活性層6は、多重量子井戸によって構成され、例えば量子井戸となる3個の井戸層6A,6B,6Cを備える。これらの井戸層6A,6B,6Cは、例えばガリウム砒素(GaAs)単結晶によって形成され、それぞれ数nm程度の厚さを有する。また、井戸層6A,6B,6Cのそれぞれの間には、障壁層6D,6Eが形成される。障壁層6D,6Eは、例えばアルミニウム組成が30%のアルミニウムガリウム砒素(Al0.3Ga0.7As)単結晶によって形成され、それぞれ数nm程度の厚さを有する。
【0031】
第1の副活性層7は、下部反射層4の近傍に、第1の障壁層9を介して配置される。第1の副活性層7は、単一量子井戸によって構成される。第1の副活性層7は、例えば主活性層6の井戸層6A,6B,6Cと同様に、ガリウム砒素(GaAs)単結晶によって形成され、数nm程度の厚さを有する。一方、第1の障壁層9は、例えばアルミニウム組成が30%のアルミニウムガリウム砒素(Al0.3Ga0.7As)単結晶によって形成される。
【0032】
第2の副活性層8は、上部反射層5の近傍に、第2の障壁層10を介して配置される。第2の副活性層8は、単一量子井戸によって構成される。第2の副活性層8も、第1の副活性層7と同様に、例えばガリウム砒素(GaAs)単結晶によって形成され、数nm程度の厚さを有する。また、第2の障壁層10は、例えばアルミニウム組成が30%のアルミニウムガリウム砒素(Al0.3Ga0.7As)単結晶によって形成される。そして、第1の副活性層7および第2の副活性層8は、その利得スペクトルのピーク波長が主活性層6の利得スペクトルのピーク波長とほぼ同じ値に設定されている。
【0033】
後述するように、定在波Sにおける光の振幅が最も大きい腹は、第1の副活性層7と、主活性層6と、第2の副活性層8の位置に形成される。なお、光の振幅が最も大きい腹の位置が、光の最も強いところとなる。従って、第1の副活性層7をできるだけ下部反射層4に近い位置に配置することにより、第1の副活性層7による光出力をより向上させることができる。同様に、第2の副活性層8をできるだけ上部反射層5に近い位置に配置することにより、第2の副活性層8による光出力をより向上させることができる。
【0034】
但し、第1の障壁層9および第2の障壁層10の物理(実効)長を薄くし過ぎると、第1の副活性層7が下部反射層4に近付き過ぎると共に、第2の副活性層8が上部反射層5に近付き過ぎて、第1の副活性層7および第2の副活性層8の膜質が劣化する可能性がある。このため、第1の障壁層9の膜厚は、第1の副活性層7と下部反射層4との間に十分なギャップが形成できる範囲で、できるだけ小さい値に設定することが好ましい。なお、通常、第1の障壁層9の膜厚は、5nm程度のできるだけ小さい値に設定される。
【0035】
また、第2の障壁層10の膜厚も第1の障壁層9と同様に、第2の副活性層8と上部反射層5との間に十分なギャップが形成できる範囲で、できるだけ小さい値に設定することが好ましい。なお、通常、第2の障壁層10の膜厚は、5nm程度のできるだけ小さい値に設定される。
【0036】
第1のクラッド層11は第1の副活性層7と主活性層6との間に配置され、第2のクラッド層12は主活性層6と第2の副活性層8との間に配置される。第1のクラッド層11および第2のクラッド層12は、いずれも例えばアルミニウム組成が30%のアルミニウムガリウム砒素(Al0.3Ga0.7As)単結晶によって形成される。
【0037】
なお、第1のクラッド層11および第2のクラッド層12のトータルの光学長は、下部反射層4と上部反射層5との間の光学長Loから、主活性層6、第1の副活性層7、第2の副活性層8、第1の障壁層9、第2の障壁層10のそれぞれの光学長を差し引いた長さに設定される。
【0038】
具体的には、下部反射層4と上部反射層5との間の光学長Loを、例えば光の波長λ(850nm)と同程度に設定すると共に、主活性層6の光学長を160nm、第1の副活性層7および第2の副活性層8の光学長をそれぞれ30.8nm、第1の障壁層9および第2の障壁層10の光学長をそれぞれ33.8nmに設定したときには、第1のクラッド層11および第2のクラッド層12のトータルの光学長は560.4nmとなる。
【0039】
第1のクラッド層11および第2のクラッド層12の光学長は通常等しく形成されるので、第1のクラッド層11および第2のクラッド層12の光学長は、それぞれ280.4nmとなる。このため、第1のクラッド層11および第2のクラッド層12の厚さ方向に対する物理(実効)長も、第1の副活性層7および第2の副活性層8等に応じた値だけ短縮されている。このように、第1のクラッド層11および第2のクラッド層12に短縮手段を施して、これらの光学長を調整することにより、新たに形成した第1の副活性層7および第2の副活性層8のそれぞれの光学長を相殺し、光共振器3を構成する下部反射層4と上部反射層5との間の光学長Loが一定に保たれる。
【0040】
また、第1のクラッド層11および第2のクラッド層12は、主活性層6と、第1の副活性層7と、第2の副活性層8の電子密度およびホール密度を高めると共に、第1の障壁層9および第2の障壁層10と同様に、光を主活性層6、第1の副活性層7、第2の副活性層8に閉じ込める機能も有する。
【0041】
本実施の形態によるVCSEL1は上述の如き構成を有するもので、次にその動作について説明する。
【0042】
n型電極13とp型電極14との間に電圧を印加すると、第1の副活性層7、主活性層6および第2の副活性層8に電流が注入され、それぞれを構成する井戸層6A〜6C等が励起されて、光が誘導放出される。発生した光は、下部反射層4と上部反射層5との間で反射を繰り返す。この結果、下部反射層4と上部反射層5との間で定在波Sが形成され、開口14Aを介して波長λの光が出射される。なお、光共振器3には、光の波長λの1波長に相当する長さの定在波Sが形成され、主活性層6と、第1の副活性層7と、第2の副活性層8のそれぞれの位置には定在波Sの振幅が最も大きい腹が形成される。
【0043】
定在波Sにおいて、光の振幅が最も大きい腹の位置が、光の最も強いところとなる。このため、定在波Sの強度は、主活性層6と、第1の副活性層7と、第2の副活性層8のそれぞれの位置で強くなり、第1の副活性層7および第2の副活性層8によって光出力を向上させることができる。
【0044】
次に、第1の実施の形態におけるVCSEL1の光閉じ込め係数と、第1,第2の副活性層7,8を省いてなる第1の比較例によるVCSEL101の光閉じ込め係数とを比較説明する。なお、VCSEL1およびVCSEL101における光共振器の光学長は、同じに形成する。
【0045】
第1の比較例によるVCSEL101を図2に示す。このVCSEL101は、基板102の上面に、光共振器103が設けられる共に、この光共振器103は、下部反射層104と、第1のクラッド層107と、活性層106と、第2のクラッド層108と、上部反射層105とを順次積層することによって形成されている。また、基板102の下面にはn型電極109が形成され、上部反射層105の上面には開口110Aを有するp型電極110が形成されている。
【0046】
ここで、第1の比較例によるVCSEL101でも、第1の実施の形態によるVCSEL1と同様に、光共振器103の光学長Loを光の波長λと同程度に形成する。そして、第1の比較例によるVCSEL101では、定在波Sの腹の部分に、例えば3個の井戸層106A,106B,106Cを備える活性層106が形成される。なお、井戸層106A,106B,106Cの間には、障壁層106D,106Eがそれぞれ形成される。
【0047】
しかしながら、第1の比較例では、第1の実施の形態に比べて、第1,第2の副活性層7,8を省いた分だけ活性層106のトータル物理長dが短くなる。このため、光閉じ込め係数の指標である比(d/L)は、第1の実施の形態に比べて小さくなる。具体的には、VCSEL1における比(d/L)は、0.059程度の値に対し、VCSEL101における比(d/L)は、0.034程度の値である。
【0048】
次に、第1の実施の形態におけるVCSEL1の光閉じ込め係数と、光共振器の光学長を延長して定在波の腹の数を増やし、増加した定在波の腹の位置に活性層をさらに設けた第2の比較例によるVCSEL121の光閉じ込め係数とを比較説明する。
【0049】
第2の比較例によるVCSEL121を図3に示す。このVCSEL121は、基板122の上面に、光共振器123が設けられる共に、この光共振器123は、下部反射層124と、第1のクラッド層128と、活性層126と、第2のクラッド層129と、活性層127と、第3のクラッド層130と、上部反射層125とを順次積層することによって形成されている。また、基板122の下面にはn型電極131が形成され、上部反射層125の上面には開口132Aを有するp型電極132が形成されている。
【0050】
ここで、第1の実施の形態によるVCSEL1では、光共振器3の光学長を光の波長λに形成したのに対し、第2の比較例によるVCSEL121では、光共振器123の光学長Lcを例えば光の波長λの1.5倍に形成する。このとき、VCSEL121の光共振器123には、光の波長λの1.5倍の長さの定在波Sが形成され、定在波Sの中央付近には振幅が最も大きい新たな腹が形成される。
【0051】
このため、第2の比較例によるVCSEL121では、定在波Sの中央付近に位置する2つの腹のうち下部反射層124に近い部分には、例えば3個の井戸層126A,126B,126Cを備える活性層126が形成される。なお、井戸層126A,126B,126Cの間には、障壁層126D,126Eがそれぞれ形成される。
【0052】
一方、新たな腹に対応する位置、即ち、定在波Sの中央付近に位置する2つの腹のうち上部反射層125に近い部分には、2個の井戸層127A,127Bを備える活性層127がさらに形成される。なお、井戸層127A,127Bの間には、障壁層127Cが形成される。また、活性層126,127の間には、クラッド層129が形成される。このため、活性層126のみを設けたときと比べて、光共振器123を構成する下部反射層124と上部反射層125との間の各活性層のトータル物理(実効)長は、井戸層127A,127Bの膜厚だけ長くなる。
【0053】
しかしながら、第2の比較例による光共振器123の下部反射層124と上部反射層125との間の物理(実効)長L′は、第1の実施の形態による光共振器3の下部反射層4と上部反射層5との間の物理(実効)長Lの1.5倍程度と長いため、光閉じ込め係数の指標である比(d/L′)は大きくならず、活性層127をさらに設けた効果がなくなってしまう。具体的には、VCSEL1における比(d/L)は、0.059程度の値に対し、VCSEL121における比(d/L′)は、0.054程度の値である。
【0054】
従って、第1の実施の形態におけるVCSEL1の方が、第1,第2の比較例によるVCSEL101,121と比べて、モード利得を効率的に増大させることができる。
【0055】
かくして、第1の実施の形態によれば、定在波Sの腹の位置となる下部反射層4および上部反射層5のそれぞれの近傍に副活性層7,8を設けたから、副活性層7,8の位置でも光の振幅が大きくなり、副活性層7,8によって光出力を向上させることができる。
【0056】
また、光共振器3には、下部反射層4と上部反射層5との間の光学長Loを延長することなく副活性層7,8を設けることができる。このため、第2の比較例によるVCSEL121のように、下部反射層124と上部反射層125との間の光学長Lcを延長して定在波Sの腹の数を増加し、増加した腹の位置に新たな活性層127を設けた場合に比べて、下部反射層4と上部反射層5との間の物理長Lが増加するのを抑制することができる。このため、光閉じ込め係数の指標である比(d/L)を効率的に増加させることができ、モード利得を効率的に増大させることができる。
【0057】
また、下部反射層4と上部反射層5との間に設けたクラッド層11,12には、その物理長を短くするための短縮手段を施した。このため、短縮手段によって副活性層7,8を設けたことによる下部反射層4と上部反射層5との間の物理長Lあるいは光学長Loの増加を相殺することができる。これにより、光共振器3を構成する下部反射層4と上部反射層5との間の物理長Lの増加を抑制しつつ光学長Loを一定に保つことができるから、光閉じ込め係数の指標である比(d/L)を大きくして効率的にモード利得の増大させることができる。
【0058】
なお、第1の実施の形態では、第1のクラッド層11および第2のクラッド層12に対する短縮手段として、第1のクラッド層11および第2のクラッド層12の物理(実効)長を薄く形成するものとした。しかし、本発明はこれに限らず、他の短縮手段として、例えば第1のクラッド層11および第2のクラッド層12は、その物理(実効)長を変えずに、第1の副活性層7および第2の副活性層8を設けない場合のクラッド層に比べて、低屈折率の材料で形成してもよい。この場合、第1のクラッド層11および第2のクラッド層12のそれぞれの光学長は、その膜厚の物理(実効)長と膜(媒質)の屈折率の積で表されるため、第1のクラッド層11および第2のクラッド層12のそれぞれの光学長が薄くなり、物理(実効)長を変えた場合と同様の効果が得られる。
【0059】
また、第1のクラッド層11および第2のクラッド層12の物理(実効)長を変える代わりに、第1の障壁層9および第2の障壁層10の物理(実効)長を変えてもよい。但し、第1の障壁層9および第2の障壁層10の物理(実効)長を薄くし過ぎると、第1の副活性層7および第2の副活性層8の膜質が劣化する可能性があるため、第1のクラッド層11および第2のクラッド層12の物理(実効)長を変えることが望ましい。
【0060】
また、前記第1の実施の形態では、主活性層6の上下2か所に第1の副活性層7および第2の副活性層8を設けたが、いずれか一方だけを設ける構成としてもよい。
【0061】
また、前記第1の実施の形態では、第1の副活性層7および第2の副活性層8は、単一量子井戸によって形成したが、多重量子井戸によって形成してもよい。
【0062】
次に、図4を用いて第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態の第1の特徴は、VCSELの光共振器を構成する上部反射層あるいは下部反射層の一方に近接させて、または、上部反射層および下部反射層の両方に近接させて副活性層を設けたことにある。また、第2の特徴は、副活性層の利得スペクトルのピーク波長を、低温動作を改善するために、主活性層の利得スペクトルのピーク波長よりも長波長側に形成したことにある。なお、図4に示す第2の実施の形態では、下部反射層に近接させて副活性層を設けた場合を例に挙げて説明する。
【0063】
第2の実施の形態によるVCSEL41は、基板42の上面に、光共振器43が設けられる共に、この光共振器43は、下部反射層44と、障壁層48と、副活性層47(第2の活性層)と、第1のクラッド層49と、主活性層46(第1の活性層)と、第2のクラッド層50と、上部反射層45とを順次積層することによって形成されている。また、基板42の下面にはn型電極51が形成され、上部反射層45の上面には開口52Aを有するp型電極52が形成されている。
【0064】
第2の実施の形態による基板42、下部反射層44、上部反射層45は、第1の実施の形態による基板2、下部反射層4、上部反射層5とほぼ同様に形成されている。
【0065】
そして、光共振器43を構成する下部反射層44および上部反射層45は、下部反射層44と上部反射層45との間の光学長Loが、例えば、光の波長λ(850nm)と同程度となるように離して配置される。
【0066】
主活性層46は、光共振器43のうち厚さ方向の中央部に配置される。この主活性層46は、多重量子井戸によって構成され、例えば量子井戸となる3個の井戸層46A,46B,46Cを備える。これらの井戸層46A,46B,46Cは、例えばガリウム砒素(GaAs)単結晶によって形成され、それぞれ数nm程度の厚さを有する。また、井戸層46A,46B,46Cのそれぞれの間には、障壁層46D,46Eが形成される。障壁層46D,46Eは、例えばアルミニウム組成が30%のアルミニウムガリウム砒素(Al0.3Ga0.7As)単結晶によって形成され、それぞれ数nm程度の厚さを有する。そして、主活性層46は、その利得スペクトルのピーク波長が例えば835nm程度に設定されている。
【0067】
副活性層47は、下部反射層44の近傍に、障壁層48を介して配置される。この副活性層47は、単一量子井戸によって構成される。この副活性層47は、例えば主活性層46の井戸層46A,46B,46Cと同様に、ガリウム砒素(GaAs)単結晶によって形成され、数nm程度の厚さを有する。一方、障壁層48は、例えばアルミニウム組成が30%のアルミニウムガリウム砒素(Al0.3Ga0.7As)単結晶によって形成される。そして、副活性層47の利得スペクトルのピーク波長は、主活性層46の利得スペクトルのピーク波長よりも長波長側となるように、例えば848nm程度に設定されている。
【0068】
また、光共振器3には、光の波長λの1波長の長さの定在波Sが形成される。このとき、主活性層46および副活性層47は、定在波Sにおける光の振幅が最も大きい腹の位置にそれぞれ配置される。
【0069】
第1のクラッド層49は副活性層47と主活性層46との間に配置され、第2のクラッド層50は主活性層46と上部反射層45との間に配置される。第1のクラッド層49および第2のクラッド層50は、いずれも例えばアルミニウム組成が30%のアルミニウムガリウム砒素(Al0.3Ga0.7As)単結晶によって形成される。
【0070】
ここで、第1のクラッド層49および第2のクラッド層50のトータルの光学長は、下部反射層44と上部反射層45との間の光学長Loから、主活性層46、副活性層47、障壁層48のそれぞれの光学長を差し引いた長さに設定される。また、光共振器43のうち厚さ方向の中央部に主活性層46が配置されるから、例えば第1のクラッド層49、副活性層47および障壁層48のトータルの光学長は、第2のクラッド層50の光学長とほぼ同じ値に設定される。
【0071】
このため、第1のクラッド層49の厚さ方向に対する物理(実効)長は、副活性層47等に応じた値だけ第2のクラッド層50の物理(実効)長よりも短縮されている。このように、第1のクラッド層49に短縮手段を施して、その光学長を調整することにより、新たに形成した副活性層47の光学長を相殺し、光共振器43を構成する下部反射層44と上部反射層45との間の光学長Loが一定に保たれる。
【0072】
第2の実施の形態によるVCSEL41は上述の如き構成を有するもので、その発光動作は、第1の実施の形態のVCSEL1と同様であり、第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。これに加え、第2の実施の形態では、主活性層46の利得スペクトルのピーク波長よりも長波長側にピーク波長が形成される利得スペクトルを有する副活性層47を設けたために、室温から低温に温度変化が生じても動作特性が安定する。次に、この効果について具体的に説明する。
【0073】
図5に、量子井戸構造を用いた活性層から光が誘導放出される場合に、この誘導放出される光の一般的な利得スペクトルを示す。利得スペクトルの横軸は波長(nm)であり、縦軸は利得係数(cm−1)である。なお、活性層が多重量子井戸構造を用いて構成される場合の利得スペクトルは、活性層を構成するそれぞれの量子井戸のもつ利得スペクトルを合わせたものとなる。利得スペクトルの利得係数は、波長がピーク波長から短波長側に変化すると減衰し、ある波長以下ではその波長の光を吸収して損失に変えてしまうためにプラスからマイナスに転ずる。また、波長がピーク波長から長波長側に変化すると利得係数は減衰するものの、光の吸収損失が生じないためにマイナスとはならず、横軸(ゼロ値)に漸近する。
【0074】
VCSELの動作温度が室温から低温に変化すると、活性層の利得スペクトルは、全体的に短波長側にシフトすると共に、最大利得係数が大きくなるように相似的に変化する。
【0075】
一方、VCSEL41から出射される光の共振波長λ0は、VCSEL41の光共振器43を構成する上部反射層45と下部反射層44との間の光学長Loによって決まる。光共振器43を構成する媒質の線膨張率や屈折率は、温度が変動しても大きく変化しないため、光の共振波長λ0は動作温度が変化しても殆ど変化しない。このため、VCSEL41における温度特性の要因は、主活性層46および副活性層47を構成する量子井戸の温度依存性が支配的となる。
【0076】
図6に、主活性層46および副活性層47を有するVCSEL41について、室温における利得スペクトルG1Rのシミュレーション結果を示す。利得スペクトルG1Rは、主活性層46の利得スペクトルと副活性層47の利得スペクトル(図示せず)を合わせたプロファイルである。なお、VCSEL41に設けた副活性層47の効果を示すため、副活性層47を設けずに主活性層46のみを設けたVCSELの利得スペクトルG2Rのシミュレーション結果を合わせて示す。シミュレーションは、主活性層46の利得スペクトルのピーク波長は835nm、副活性層47の利得スペクトルのピーク波長は848nmとし、主活性層46および副活性層47に注入されるキャリア数は同じとし、例えば2.0×1018個/cmの条件で行った。また、VCSEL41の共振波長λ0は、利得スペクトルG1Rの利得係数がプラスの周波数帯域に設定される。
【0077】
副活性層47の利得スペクトルのピーク波長は、副活性層47の利得スペクトルと主活性層46の利得スペクトルG2Rとを合わせたときに、利得スペクトルG2Rのピーク波長よりも長波長側の周波数帯域において、利得スペクトルG1Rの利得係数が利得スペクトルG2Rの利得係数よりも大きくなるように選択される。この結果、利得スペクトルG1RおよびG2Rにおける利得係数がいずれも例えばg(g>0)となる長波長側の波長(周波数)をそれぞれλ1R,λ2Rとし、共振波長λ0と波長λ1Rとの間の周波数帯域幅W1Rとし、共振波長λ0と波長λ2Rとの間の周波数帯域幅W2Rとしたときに、周波数帯域幅W1Rは、周波数帯域幅W2Rよりも広く形成される。
【0078】
次に、VCSEL41の動作温度が室温(例えば25℃)から低温(例えば0℃)に変化した場合について、図7を用いて説明する。
【0079】
動作温度が室温から低温に変化すると、利得スペクトルG1Rは短波長側にシフトして利得スペクトルG1Lに変化する。また、利得スペクトルG2Rも短波長側にシフトして利得スペクトルG2Lに変化する。
【0080】
利得スペクトルG1L,G2Lにおける利得係数がいずれも例えばgとなる長波長側の波長(周波数)をそれぞれλ1L,λ2Lとし、共振波長λ0と波長λ1Lとの間の周波数帯域幅W1Lとし、共振波長λ0と波長λ2Lとの間の周波数帯域幅W2Lとする。
【0081】
このとき、利得スペクトルG2Rが短波長側へシフトするため、周波数帯域幅W2Lは周波数帯域幅W2Rと比べて狭くなる。一方、周波数帯域幅W1Rは、周波数帯域幅W2Rよりも予め広く形成される。このため、利得スペクトルG1Rが短波長側へシフトした場合でも、周波数帯域幅W1Lは、周波数帯域幅W2Lの如く著しく狭くはならず、周波数帯域幅W2Rと同程度となる。この結果、VCSEL41の動作温度が室温から低温に変化しても、利得スペクトルG1Lにおけるピーク波長よりも長波長側の周波数帯域では、利得スペクトルG2Rに近い利得係数のプロファイルを確保することができる。
【0082】
また、利得スペクトルG1Lにおけるピーク波長よりも短波長側の周波数帯域では、利得スペクトルG1Lの利得係数は、利得スペクトルG1Rの利得係数よりも大きな値となる。従って、副活性層47を設けずに主活性層46のみを設けた場合に比べて、共振波長λ0の両端側における利得係数がプラス領域の周波数帯域を広く確保することができ、室温から低温に変化してもVCSEL41は安定に動作する。即ち、副活性層47を設けたことにより、ピーク波長よりも長波長側の周波数帯域における利得係数の減少が補完されると共に、ピーク波長よりも短波長側の周波数帯域における利得係数の増大で、動作温度が室温から低温側に変化した場合でもVCSEL41を安定に動作させることができる。
【0083】
なお、前記第2の実施の形態では、主活性層46の下側1か所に副活性層47を設けたが、第1の実施の形態と同様に、主活性層の上下1か所に副活性層を設ける構成としてもよく、主活性層の上側1か所に副活性層を設ける構成としてもよい。
【0084】
また、前記第2の実施の形態では、副活性層47は、単一量子井戸によって形成したが、多重量子井戸によって形成してもよい。
【0085】
次に、図8を用いて第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態の第1の特徴は、VCSELの光共振器を構成する上部反射層あるいは下部反射層の一方に近接させて、または、上部反射層および下部反射層の両方に近接させて副活性層を設けたことにある。また、第2の特徴は、副活性層の利得スペクトルのピーク波長を、高温動作を改善するために、主活性層の利得スペクトルのピーク波長よりも短波長側に形成したことにある。なお、図8に示す第3の実施の形態では、下部反射層に近接させて副活性層を設けた場合を例に挙げて説明する。
【0086】
第3の実施の形態によるVCSEL61は、第2の実施の形態によるVCSEL41とほぼ同様に構成されている。このため、VCSEL61は、基板62の上面に、光共振器63が設けられる共に、この光共振器63は、下部反射層64と、障壁層68と、副活性層67(第2の活性層)と、第1のクラッド層69と、主活性層66(第1の活性層)と、第2のクラッド層70と、上部反射層65とを順次積層することによって形成されている。また、基板62の下面にはn型電極71が形成され、上部反射層65の上面には開口72Aを有するp型電極72が形成されている。
【0087】
また、主活性層66は、光共振器63のうち厚さ方向の中央部に配置される。この主活性層66は、第2の実施の形態による主活性層46と同様に、多重量子井戸によって構成され、例えば量子井戸となる3個の井戸層66A,66B,66Cを備える。井戸層66A,66B,66Cのそれぞれの間には、障壁層66D,66Eが形成される。
【0088】
さらに、副活性層67は、下部反射層44の近傍に、障壁層48を介して配置される。この副活性層67は、第2の実施の形態による副活性層47と同様に、単一量子井戸によって構成される。
【0089】
但し、副活性層67の利得スペクトルのピーク波長が主活性層66の利得スペクトルのピーク波長よりも短波長側になる点で、第2の実施の形態による主活性層46および副活性層47とは異なる。具体的には、主活性層66の利得スペクトルのピーク波長は例えば848nm程度に設定され、副活性層67の利得スペクトルのピーク波長は例えば835nm程度に設定されている。
【0090】
なお、第1のクラッド層69の厚さ方向に対する物理(実効)長は、第2の実施の形態による第1のクラッド層49と同様に、副活性層67等に応じた値だけ第2のクラッド層70の物理(実効)長よりも短縮されている。このように、第1のクラッド層69に短縮手段を施して、その光学長を調整することにより、新たに形成した副活性層67の光学長を相殺し、光共振器63を構成する下部反射層64と上部反射層65との間の光学長Loが一定に保たれる。
【0091】
第3の実施の形態によるVCSEL61は上述の如き構成を有するもので、その発光動作は、第1の実施の形態のVCSEL1と同様であり、第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。これに加え、第3の実施の形態では、主活性層66の利得スペクトルのピーク波長よりも短波長側にピーク波長が形成される利得スペクトルを有する副活性層67を設けたために、室温から高温側に温度変化が生じても動作特性が安定する。次に、この効果について具体的に説明する。
【0092】
図5に示すように、VCSELの動作温度が室温から高温に変化すると、活性層の利得スペクトルは、全体的に長波長側にシフトすると共に、最大利得係数が小さくなるように相似的に変化する。
【0093】
一方、VCSEL61から出射される光の共振波長λ0は、VCSEL61の光共振器63を構成する上部反射層65と下部反射層64との間の光学長Loによって決まる。光共振器63を構成する媒質の線膨張率や屈折率は、温度が変動しても大きく変化しないため、光の共振波長λ0は動作温度が変化しても殆ど変化しない。このため、VCSEL61における温度特性の要因は、主活性層66および副活性層67を構成する量子井戸の温度依存性が支配的となる。
【0094】
図9に、主活性層66および副活性層67を有するVCSEL61について、室温における利得スペクトルG3Rのシミュレーション結果を示す。利得スペクトルG3Rは、主活性層66の利得スペクトルと副活性層67の利得スペクトル(図示せず)を合わせたプロファイルである。なお、VCSEL61に設けた副活性層67の効果を示すため、副活性層67を設けずに主活性層66のみを設けたVCSELの利得スペクトルG4Rのシミュレーション結果を合わせて示す。シミュレーションは、主活性層66の利得スペクトルのピーク波長は848nm、副活性層67の利得スペクトルのピーク波長は835nmとし、主活性層66および副活性層67に注入されるキャリア数は同じとし、例えば2.0×1018個/cmの条件で行った。また、VCSEL61の共振波長λ0は、利得スペクトルG3Rの利得係数がプラスの周波数帯域に設定される。
【0095】
副活性層67の利得スペクトルのピーク波長は、副活性層67の利得スペクトルと主活性層66の利得スペクトルG4Rとを合わせたときに、利得スペクトルG4Rのピーク波長よりも短波長側の周波数帯域において、利得スペクトルG3Rの利得係数が利得スペクトルG4Rの利得係数よりも大きくなるように選択される。この結果、利得スペクトルG3RおよびG4Rにおける利得係数がいずれもゼロ値となる短波長側の波長(周波数)をそれぞれλ3R,λ4Rとし、共振波長λ0と波長λ3Rとの間の周波数帯域幅W3Rとし、共振波長λ0と波長λ4Rとの間の周波数帯域幅W4Rとしたときに、周波数帯域幅W3Rは、周波数帯域幅W4Rよりも広く形成される。
【0096】
次に、VCSEL61の動作温度が室温(例えば25℃)から高温(例えば50℃)に変化した場合について、図10を用いて説明する。
【0097】
動作温度が室温から高温に変化すると、利得スペクトルG3Rは長波長側にシフトして利得スペクトルG3Hに変化する。また、利得スペクトルG4Rも短波長側にシフトして利得スペクトルG4Hに変化する。
【0098】
利得スペクトルG3HおよびG4Hにおける利得係数がいずれもゼロ値となる短波長側の波長(周波数)をそれぞれλ3H,λ4Hとし、共振波長λ0と波長λ3Hとの間の周波数帯域幅W3Hとし、共振波長λ0と波長λ4Hとの間の周波数帯域幅W4Hとする。
【0099】
このとき、利得スペクトルG4Rが長波長側へシフトするため、周波数帯域幅W4Hは周波数帯域幅W4Rと比べて狭くなり、非常に狭帯域になる。一方、周波数帯域幅W3Rは、周波数帯域幅W4Rよりも予め広く形成される。このため、利得スペクトルG3Rが長波長側へシフトした場合でも、周波数帯域幅W3Hは、周波数帯域幅W4Hの如く著しく狭くはならず、ある程度の帯域幅が確保される。この結果、VCSEL61の動作温度が室温から高温に変化しても、共振波長λ0の周囲の帯域である程度の利得係数を確保することができる。
【0100】
また、利得スペクトルG3Hにおけるピーク波長よりも長波長側の周波数帯域では、利得スペクトルG3Hの利得係数は、利得スペクトルG3Rよりは低下するものの、利得スペクトルG4Rの利得係数に近い値となる。従って、副活性層67を設けずに主活性層66のみを設けた場合に比べて、共振波長λ0の両端側における利得係数がプラス領域の周波数帯域を広く確保することができ、室温から高温に変化してもVCSEL61は安定に動作する。即ち、副活性層67を設けたことにより、ピーク波長よりも短波長側の周波数帯域における利得係数の減少が補完されると共に、ピーク波長よりも長波長側の周波数帯域における利得係数の減少を抑制し、動作温度が室温から高温に変化した場合でもVCSEL61を安定に動作させることができる。
【0101】
なお、前記第3の実施の形態では、主活性層66の下側1か所に副活性層67を設けたが、第1の実施の形態と同様に、主活性層の上下1か所に副活性層を設ける構成としてもよく、主活性層の上側1か所に副活性層を設ける構成としてもよい。
【0102】
また、前記第3の実施の形態では、副活性層67は、単一量子井戸によって形成されたが、多重量子井戸によって形成してもよい。
【0103】
また、前記第2,第3の実施の形態では、第1のクラッド層49,69に対する短縮手段として、第1のクラッド層49,69の物理(実効)長を薄く形成するものとした。しかし、本発明はこれに限らず、他の短縮手段として、例えば第1のクラッド層49,69は、その物理(実効)長を変えずに、副活性層47,67を設けない場合のクラッド層に比べて、低屈折率の材料で形成してもよい。
【0104】
また、前記各実施の形態では、0.8μm帯のVCSEL1,41,61に適用した場合を例に挙げて説明したが、これよりも長波長側の光を発光する面発光素子に適用してもよく、短波長側の光を発光する面発光素子に適用してもよい。
【0105】
また、前記各実施の形態では、主活性層6,46,66は3個の井戸層6A〜6C,46A〜46C,66A〜66Cを備えた多重量子井戸によって構成したが、2個や4個以上の井戸層を備えた多重量子井戸によって構成してもよく、単一量子井戸によって構成してもよい。
【0106】
また、前記各実施の形態では、光共振器3,43,63の下部反射層4,44,64と上部反射層5,45,65との間の光学長Loを発光する光の波長λと同じ値、即ち1波長分とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば特許文献2と同様に、下部反射層と上部反射層との間の光学長を光の波長λの1.5倍(1.5λ)またはそれ以上の値(例えば2λ、2.5λ等)の値に設定してもよい。この場合、定在波の複数の腹の位置に主活性層(第1の活性層)を設けるのに加え、光共振器を構成する上部反射層あるいは下部反射層の一方に近接させて、または、上部反射層および下部反射層の両方に近接させて副活性層(第2の活性層)を設けるものである。
【0107】
さらに、前記各実施の形態では、面発光素子としてVCSEL1,41,61を例に挙げて説明したが、面発光素子として面発光ダイオード(LED)に適用する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0108】
1,41,61 垂直キャビティ面発光レーザ素子(面発光素子)
3,43,63 光共振器
4,44,64 下部反射層(反射層)
5,45,65 上部反射層(反射層)
6,46,66 主活性層(第1の活性層)
7,8,47,67 副活性層(第2の活性層)
11,12,49,50,69,70 クラッド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の活性層と、該第1の活性層を挟んで対向して設けた一対の反射層とを有し、前記一対の反射層のそれぞれの近傍に光の振幅が最も大きい腹を少なくとも有してなる定在波が形成される光共振器を備えた面発光素子において、
前記一対の反射層のそれぞれの近傍のうちの少なくとも一方に第2の活性層を設け、
前記一対の反射層の間にクラッド層を設け、前記第2の活性層を設けたことによる前記一対の反射層の間の物理長あるいは光学長の増加を相殺するために、該クラッド層の物理長あるいは光学長を短くするための短縮手段を該クラッド層に施したことを特徴とする面発光素子。
【請求項2】
前記短縮手段は、前記クラッド層の物理長を薄く形成することである請求項1に記載の面発光素子。
【請求項3】
前記短縮手段は、前記クラッド層を形成する膜を低屈折率の材料で形成して光学長を短くすることである請求項1に記載の面発光素子。
【請求項4】
前記第2の活性層の利得スペクトルのピーク波長を、前記第1の活性層の利得スペクトルのピーク波長よりも長波長側に形成し、
室温から低温へ変化したときの前記第1の活性層の利得スペクトルの短波長側へのシフトによって利得係数が減少する周波数帯域に、室温から低温へ変化したときの第2の活性層の利得スペクトルの短波長側へのシフトによる利得係数を重ね合わせて前記第1の活性層の利得係数の減少を補完したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の面発光素子。
【請求項5】
前記第2の活性層の利得スペクトルのピーク波長を、前記第1の活性層の利得スペクトルのピーク波長よりも短波長側に形成し、
室温から高温へ変化したときの前記第1の活性層の利得スペクトルの長波長側へのシフトによって利得係数が減少する周波数帯域に、室温から高温へ変化したときの第2の活性層の利得スペクトルの長波長側へのシフトによる利得係数を重ね合わせて前記第1の活性層の利得係数の減少を補完したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の面発光素子。
【請求項6】
第1の活性層と、該第1の活性層を挟んで対向して設けた一対の反射層とを有し、前記一対の反射層のそれぞれの近傍に光の振幅が最も大きい腹を少なくとも有してなる定在波が形成される光共振器を備えた面発光素子において、前記一対の反射層のそれぞれの近傍のうちの少なくとも一方に第2の活性層を設けたことを特徴とする面発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−135039(P2011−135039A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200939(P2010−200939)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】