説明

【課題】なめし剤としてグルタルアルデヒドを用い、再なめしして得られる革は、柔軟性を有し、皮が有している以上の独特の弾力性ある柔らかさに加えて、革が有している以上の伸びがなく、復元力を有する革の提供。
【解決手段】(1)皮なめしを行う前の前処理、(2)グルタルアルデヒドをなめし剤として用いてなめしを行う工程、(3)芳香族スルホン酸を含む合成なめし剤、グリオキサールからなる合成なめし剤、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物並びにこれらのコポリマーを含む樹脂からなる再なめし剤、並びにさらにアルミニウム化合物を含む再なめし剤を用いて再なめしを行い、染色後、更に加脂剤により処理し、(4)再なめし後の後処理を経て得られる革。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮なめしを行う前の前処理、なめし剤にグルタルアルデヒドを用いるなめしを行う工程、再なめしを行うことを含む再なめし工程、及び再なめし後の後処理を経て得られる革に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動物の原皮から私達が使用する皮革を製造する工程は一連の各種の処理工程の組み合わせから成り立っている。動物の原皮を皮革に製造する工程は、(1)皮なめしを行う前の前処理(動物の原皮についている不要な組織や成分を分離除去して皮とする。)、(2)なめし工程(皮をなめし剤で処理し、耐熱性、腐食防止及び柔軟性を付与して革とする。)、(3)再なめし工程(革を再なめし剤で処理した後、染色及び加脂を行い、良好な感触や艶出し及び耐水性を付与する。)、及び(4)再なめし後の後処理、仕上げ工程(再なめしの後に、革の乾燥及び塗装を行う。)から構成される。
これらの全工程を一貫して行うことが可能であるが、皮なめしを行う前の前処理を他の場所で行い以後の工程のみを行うもの、又はなめし工程までを他の場所で行い、以後の工程のみを行うなど、その一部の工程を行うことにより最終の革を得る分業化も進められている。
【0003】
得られる革の品質を高めるためには、前記(2)なめし工程、(3)再なめし工程及び(4)再なめし後の後処理、仕上げ工程の各工程を十分に行うこと及びこれらを有機的に組み合わせて行うことがとりわけ重要である。中でも、なめし剤及び再なめし剤として何を選択して使用するかが、得られる革の品質を決めるうえで重要な要素となる。
なめし剤は皮組織中に浸透し、適切な範囲でコラーゲンの分子間に架橋結合を導入するために用いる。架橋が少なすぎると革の耐熱性は向上せず、多すぎると革の繊維の動きは制限され、耐熱性が向上しても革は硬くなり、割れやすくなる。
再なめし剤には、前記なめしとしての作用に加えて、微細な間隙を増大させ、革としてのふくらみ感をまし、暖かい接触感覚を与えることが要求される。再なめし剤による処理のあとに、なめし剤による作用により得られた微細な間隙に加脂剤が作用し、革繊維中の水が油剤で置換することとなり、乾燥しても組織を硬直せず、又繊維間の滑りがよくなり、革に柔軟性を与えることとなる。最近では、色調、水平度、柔軟性、充実性、水に対する挙動性(疎水特性)を最適化し、なめし剤の固定の付与を述べるもの(特許文献20)などがある。
なめし剤及び再なめし剤は作用及び役割に相違する点があり、両者は同じ物質をなめし剤及び再なめし剤として使用するという方法よりも、なめし剤と異なる再なめし剤を組み合わせて使用することにより進められてきた。数は多くは無いが、後で述べるように場合によっては、同じ物質を同じ物質をなめし剤及び再なめし剤として使用することも提案されている。これは、なめし及び再なめしとして革にどのような特性を付与するかということによるものと思われるが、いずれにしても特定するには問題点があるということによるものであろう。
革の処理にあたっては、なめし剤、再なめし剤の他に加脂剤に何を使用するかを決定することは、技術上重要な意味を有している。
【0004】
なめし剤は、多くの経験を積み重ねた末に、3価のCr錯体を用いるクロム系なめし剤を用いる方法に集約された。クロム系なめし剤は、耐熱性が増大し、収縮温度差が120℃にもなること、腐敗や薬品に対する抵抗性を増すこと、なめした後の皮の線維構造を大きく変化させないこと、有機酸で脱クロム化できること、柔軟性や弾力性があること、染色性が良いなどの多くの点が利点であるとされている。
【0005】
しかしながら、クロム系なめし剤は、環境汚染や労働衛生上の問題が危惧され、その代替品として非クロム系なめし剤の採用、そのための新たななめし方法の開発が社会的に求められている。
【0006】
クロム系以外のなめし剤を用いる場合には、従来知られているなめし剤を改めて用いることを検討しなおして、なめし剤と再なめし剤を組み合わせて使用して、得られる革に新たな有効性を模索し、なめし工程及び再なめし工程を構築することが検討されている。
従来知られているなめし剤には、鉄、アルミニウム(特許文献15)、ジルコニウムなどの金属塩や、植物タンニン、芳香族スルホン酸や芳香族スルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物などの合成なめし剤(特許文献4、特許文献7、特許文献10、特許文献11、特許文献13)、尿素やメラミン等の含窒素塩基化合物とアルデヒドの縮合物(特許文献6)やアクリル樹脂(特許文献13、特許文献14、特許文献15)などの樹脂を用いる樹脂なめし剤、ジアルデヒド類などがある。
【0007】
クロム系以外のなめし剤としては、グルタルアルデヒドを使用することが有望視されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献11、特許文献13、特許文献15)。
クロム系以外のなめし剤を用いるには、なめし剤はクロム系なめしに比較して十分な効果は期待できないのであるから、クロム系なめし剤と同程度の効果を挙げるには、クロム系以外の再なめし剤とクロム系以外のその他の再なめし剤を組み合わせて用いることを工夫することが必要となる。
【0008】
クロム系なめし剤などによりなめしを行った後の再なめし剤には、クロム、アルミニウム又はジルコニウムなどの無機なめし、植物タンニン、芳香族スルホン酸や芳香族スルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物などの合成なめし、アミノ化合物とホルムアルデヒドの縮合物や尿素やメラミン等の含窒素塩基化合物とホルムアルデヒドの縮合物やアクリル樹脂などの樹脂なめし、グルタルアルデヒドなどを用いることができる(非特許文献1)。
これらの中でも、合成なめしの中の芳香族スルホン酸や芳香族スルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物などの使用(特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10)が有力視されてきた。
【0009】
ジアルデヒド等のクロム系以外のなめし剤によるなめしの後の再なめし剤に、脂肪族ジアルデヒド、陰イオン芳香族合成タンニン(スルホン化芳香族化合物など)の組み合わせが知られている(特許文献11)。良好な白度を示し、熱収縮温度も高い革を得ることができる。
芳香族スルホン酸系合成鞣しを含有する鞣し剤による再鞣処理と、硫酸化油、スルホン化油及び亜硫酸化油を含有する加脂剤による加脂処理の組み合わせは良好な結果をもたらす(特許文献9)。
再なめし剤として芳香族スルホナート、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド樹脂及びクロムやアルミ化合物を含む組み合わせを用いることが、柔軟性を増し及びアニオン性着色を行うために便利であるとすることも知られている(特許文献7)。アルデヒド樹脂には、尿素−ホルムアルデヒド−縮合生成物、メラミン−ホルムアルデヒド−縮合生成物及び/又はメラミン−尿素−ホルムアルデヒド−縮合生成物も用いられる。
1%〜2%の粉末ミモザ(mimosa)タンニン、Basyntan(BASF 製)フェノールスルホン酸とホルムアルデヒドの粉末重縮合物、パラフィンとアニオン界面活性材の混合物による再なめし処理工程を含む(特許文献8)。これは皮革を防水性及び撥水性を向上させる。
スルホン化芳香族化合物、アルデヒド及び/又はケトン並びにフェノール、クレゾール及びジヒドロキシジフェニルメタン、尿素及び尿素誘導体から成る処理剤が知られている(特許文献10)。この処理剤は向上した濃さと深みの革を与える効果がある。
ジアルデヒド及びアクリル酸又はメタクリル酸のホモ共重合体やアクリレートの共重合体などの高分子化合物による処理も知られている(特許文献13)。この発明では再なめし剤にタンニンを用いるが、植物タンニンや合成タンニンの使用について明確に否定する。
水に加えた時に、再鞣剤であるスルホン化フェノールまたはクレゾールとホルムアルデヒドとの縮合生成物やナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合生成物、アクリレート共重合体、加脂剤を組み合わせることによりミセルを形成することを目的として処理することも知られている(特許文献12)。この場合には柔軟性や染色性の点でよいとされる。
又、特許文献14は、ダスティング防止の意味合いからポリアクリル酸などを用い、タンニン及び/又はアクリル樹脂ベースを含む混合物とコロイド懸濁状態のシリカを含むものによる処理が開示されている(特許文献15)。この発明には、有機タンニンとアクリル樹脂の組み合わせが記載されている。
又(I)アルデヒドもしくはカルバモイルスルホン酸基を含有するなめし剤を用いる、前なめし、(II)ポリアスパラギン酸および/またはポリアスパラギン酸アミドによる再なめし、(III)ポリウレタンおよび天然の捕助剤による下染め、ポリウレタンおよび/またはポリエステルアミドからなる仕上げ、そして(IV)場合によっては、皮革保存生成物による後処理による完全に生物学的に分解可能皮革(特許文献16)などが知られている。
グルタルアルデヒドと皮繊維との親和性を持つアルキル化錯活性剤と植物油又は魚油又は鉱物油との混合液に浸漬する前鞣しをし、タンニンと皮繊維との親和性を持つアルキル化錯活性剤と鞣皮力のある植物油又は魚油又は鉱物油との混合液に浸漬する、なめし方法も知られている(特許文献17)。
グルタアルデヒドを用いてなめしを行い、なめし油としてのタラ油をドラムに入れ、回転させながら温度を上げ、油なめしを行うたら油を用いて再なめしする発明(特許文献18)がある。ホルマリンフリーの革をえることができる。
以上は、なめし及び再なめしに関与する化合物を述べるが、従来のなめし及び再なめしにより得られる柔軟性及び染色が良好に行うことができるとするものである。又、具体的な操作は、なめしや再なめしに際して特定の処理剤を組み合わせるものであるとか、更には合成なめし剤に見られる合成なめし剤と樹脂を組み合わせるなどの操作に関するものである。再なめしに際しては以下に述べる本発明者らが意図することを目的とするなめしや再なめし工程を行うものではない。
【0010】
現在では、クロム以外のなめし剤を用いるなめし方法に転換することに加えて、従来のクロムなめし剤によるなめし及び再なめし剤による処理により得られる革が有している特性以上の特性を、クロム以外のなめし剤による再なめし剤による処理で得られる革は有していることが要求されている。
自動車産業などの革製品を利用する立場からは、単に触覚がよいもの、柔軟性がある特性を有する革が高級感を有する革であるとして追求するのではなく、従来の特性とは相違する、より高度の特性を有する革が必要とされている。具体的には、従来は自動車用のシートに用いられる革は、その使用する状況は革に無理がかからない良好な環境下においての使用を前提し、その際に伸びるようにしてきたが、かなりの荷重がかけられることがあることを前提とし、荷重がかけられたときに、荷重に応じて伸びて、革がさらに伸びてしまい、伸びすぎを引き起こすことは好ましくない。体重の重い人がシートに腰掛けときに、シートの中に人がすっかり沈みこんでしまうということは好ましくない。シートに腰を下ろし、シート内に身をおいたときに、適当な位置に達したときには、かっちりと体の腰の部分を支えて、シート中に体全体を固定できる程度の復元力が必要とされ、これに加えて、シートを離れた使用後には、シートはもとの形状に復帰する特性を有することが求められている。又、もとの形状への復帰が不十分であると、座面にへこみが残って外観がわるくなり、また、乗降の際の人体との擦れにより座席の土手部(座面両脇の盛り上がった部分)にしわができやすい結果となるくなる。さらには、しわを起点として塗膜はがれを発生しないものが求められている。
これらの要求に対する解決にあたっては、皮なめしによって得られる革の特性の向上によって解決することは困難であるとして、革に樹脂加工を施すことにより革を補強して革の伸びを少なくすること、革に樹脂を積層して革の伸びを防止することを解決しようとしていることを考えていることを聞く。この対策をとる場合には、革と樹脂加工により接着する樹脂や積層する革との間で特性の差によるずれが生じ、満足する結果を得ることができないことになる。又伸縮性生地と伸縮し得る性革から作られた伸縮性革積層物を上記生地の高伸縮方向と上記革の高伸縮方向が上記革の前以て決めた領域内で実質的に整列するように製造する発明もあるが(特許文献19)、煩雑な作業が要求される。
本発明者らは、このような弊害をさけて問題を解決するために、革の持つ特性自体を改良することが必要であり、皮の状態では有していないが、なめしや再なめしを行った革の特性としてひきだすことが必要であると考えた。
本発明者らは、高級感のある自動車の座席に用いる新しい皮革として、皮が有している以上の独特の弾力性のある柔らかさに加えて、革が伸びきってしまうことなく、復元力を有し、経年変化がなく、かつ革のもつ高級感の風合いを有する特性を引き出す革の製造方法を完成することであると理解した。皮が有している以上の、独特の弾力性のある柔らかさに加えて、革が有している以上の伸びがなく、復元力を有するものであり、このような革を得ることを目指して研究を進めることとした。
【特許文献1】米国特許第2941859号
【特許文献2】特開平1−292100号公報
【特許文献3】特開2005−272725公報
【特許文献4】特開昭56−28300号公報
【特許文献5】特開55−23193号公報
【特許文献6】特開55−50099号公報、
【特許文献7】特表2001−513831号公報
【特許文献8】特開2000−119700号公報
【特許文献9】特開平11−158500号公報
【特許文献10】特開平10−101757号公報
【特許文献11】特開平8−232000号公報
【特許文献12】特開平10−195500号公報
【特許文献13】特表平10−508644号公報
【特許文献14】特開2001−187882号公報
【特許文献15】特表2001−503086号公報、特許3834064号
【特許文献16】特表2001−513129号公報
【特許文献17】特開2001−247900号公報
【特許文献18】特開2005−272725号公報
【特許文献19】特表2000−506564号公報
【特許文献20】特開2004−149797号公報
【非特許文献1】新版皮革科学、平成4年11月25日、日本皮革技術協会発行46頁〜62頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、なめし剤にグルタルアルデヒドを用いてクロムフリーのなめしを実現し、再なめしを行い、次に染色及び加脂処理を行うことにより得られる革は、従来のクロム系なめし剤や従来から知られているグルタルアルデヒドを用いるなめし及び再なめし剤による再なめしを行い、次に染色及び加脂処理を行って得られる革に比較して、柔軟性を有する一方、皮が有している以上の独特の弾力性がある柔らかさに加えて、必要以上の伸びがなく、使用後にもとの状態に戻る復元力を有する特性の革を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1]前記課題を解決するに当たり、従来には見られなかった革の特性を求めることであるから、得られる革についてこれらの特性を定量的に測定し、その結果により評価を行う必要があると考えて、以下の項目について測定し、その結果から特性の達成度合いを決定することとした。
「皮が有している以上の、独特の弾力性のある柔らかさに加えて、使用しても革が伸びきってしまうことなく、復元力を有し、経年変化がなく、かつ革のもつ高級感の風合いを有する革の出現にあるということ」を評価するうえで、「剛軟度」、及び「最大セット率」を新たに評価基準として定め、これらの測定値によって判断することとする。
[2]上記の項目の評価方法は以下の通りである。
(1)「剛軟度」は試験片の革に、単位面積あたり500gの荷重を革に押し付けた状態での革に押し付けられた深さを測定するものであり、柔軟性とともに反発力を測定しようとするものであり、単位はmmで表現される。示す値は柔らかさの指標となる。
(2)「最大セット率」は試験片を直交する革のX軸及びY軸の二方向から別々に取り出して、試験片を採取し、セット率を測定する。その測定値の大きい方を最大セット率という。セット率は8Kgの荷重をかけて試料が伸びた状態とした後、荷重を取り去って戻した状態に標線の伸びの百分率により表すものであり、復元力を測定しようとするものである。そして、これらは二つの測定値より、革の状態を判断するものであり、両方の結果が満足する範囲になったときに良好な革であると判断する。
[3]次に、前記課題を解決すべく努力し、再なめし剤及び加脂剤について種々の組み合わせについて検討し、得られた革について前記「剛軟度」及び「最大セット率」をもとに革の状態を判断した。
[4]前記課題を解決することができた全工程は以下の通りである。
A「(1)皮なめしを行う前の前処理、(2)グルタルアルデヒドをなめし剤として用いてなめしを行う工程、(3)再なめし剤は、合成なめし及び樹脂から構成され、これらの内の合成なめしは(ア)芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド縮合物類、(イ)芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物、及び(ウ)グリオキサールにより構成され、これらの内の樹脂は(ア)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物、並びにこれらのコポリマー及びこれらの混合物、及び(イ)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物により構成され、前記構成の再なめし剤により再なめしを行い、染色後、更に、(ア)合成油及び天然油、並びに(イ)合成油及び天然成分の混合油からなる加脂剤により加脂処理し、(4)再なめし後の後処理を経て得られることを特徴とする革。」
B「(1)皮なめしを行う前の前処理、(2)グルタルアルデヒドをなめし剤としてなめしを行う工程、(3)再なめし剤は合成なめし、樹脂及びアルミニウム化合物から構成され、これらの内の合成なめしは(ア)芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド縮合物類、(イ)芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物、及び(ウ)グリオキサールにより構成され、これらの内の樹脂は(ア)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物、並びにこれらのコポリマー及びこれらの混合物、及び(イ)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物により構成され、前記構成の再なめし剤により再なめしを行い、染色後、更に(ア)合成油及び天然油、並びに(イ)合成油及び天然成分の混合油からなる加脂剤により加脂処理し、(4)再なめし後の後処理を経て得られることを特徴とする革。」
C「シェービング革重量100重量%に対して、前記再なめし剤は合成なめし20〜30重量%及び樹脂13〜25重量%(いずれもシェービング革重量100重量%に対して)で構成され、前記合成なめしは、(ア)芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド縮合物類、若しくは芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド縮合物類0.45〜0.50、(イ)芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物、若しくは芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物0.38〜0.43及び(ウ)グリオキサール0.10〜0.15(以上重量比、総計で1.00)であり、前記樹脂は、(ア)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物、及びこれらのコポリマーとこれらの混合物0.67〜0.72、並びに(イ)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物0.28〜33.0(以上重量比、総計で1.00)であり、(ア)合成油及び天然油並びに(イ)合成油及び天然成分の混合油からなる加脂剤はシェービング革重量100重量%に対して15〜19重量%であることを特徴とするA記載の革。」
D「再なめし後の後処理を経て得られる革の一部から取り出された試料が、剛軟度4.42mm以上4.90mm以下、かつ最大セット率10.7以上13.9以下の状態を含むことを特徴とする請求項A又はC記載の革。」
E「シェービング革重量100重量%に対して、前記再なめし剤は、合成なめし20〜30重量%、樹脂13〜25重量%、及びアルミニウム0.7〜4.0重量%で構成され、前記合成なめしは、(ア)芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド縮合物類0.45〜0.50、(イ)芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物、若しくは芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物0.38〜0.43及び(ウ)グリオキサール0.10〜0.15(以上重量比、総計で1.00)であり、前記樹脂は、(ア)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物、及びこれらのコポリマーとこれらの混合物0.67〜0.72、並びに(イ)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物0.28〜33.0(重量比であり)であり、(ア)合成油及び天然油並びに(イ)合成油及び天然成分の混合油からなる加脂剤はシェービング革重量100重量%に対して15〜19重量%であることを特徴とするB記載の革。
F「再なめし後の後処理を経て得られる革の一部から取り出された試料が、剛軟度5.0mm以上であり、かつ最大セット率が10%以下の状態を含むことを特徴とするB又はE記載の革。」
【発明の効果】
【0013】
(1)本発明により得られる革は、なめし剤としてクロムを使用しないので、得られる革はクロムフリーであり、従来のクロム系なめしや従来のグルタルアルデヒドによるなめしや再なめしでは得られたことがない特性を有する革であり、柔軟性を有し、皮が有している以上の独特の弾力性ある柔らかさに加えて、革が伸びきってしまうことなく、復元力を有する特性を有する革を得ることができる。
(2)再なめし剤として、合成なめし、及び樹脂からなる再なめし剤を用いる場合には、得られた革の一部から取り出された試験片は剛軟度が4.42mm以上4.90mm以下、かつ最大セット率は10.7以上13.9以下である特性のよいものを含むものである。従来このような特性のよいものは存在しなかった。
(3)再なめし剤として、合成なめし、樹脂及びアルミニウムからなる再なめし剤を用いる場合には得られた革の一部から取り出された試験片は剛軟度が5.0mm以上、かつ最大セット率は10%以下の状態を含むものである。
従来このような特性のよいものは存在せず、前記の革よりさらに良好な革である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の革を得るための各工程の特徴点を示すと以下のとおりである。
A「(1)皮なめしを行う前の前処理、(2)グルタルアルデヒドをなめし剤として用いてなめしを行う工程、(3)再なめし剤は、合成なめし及び樹脂から構成され、これらの内の合成なめしは(ア)芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド縮合物類、(イ)芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物、及び(ウ)グリオキサールにより構成され、これらの内の樹脂は(ア)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物、並びにこれらのコポリマー及びこれらの混合物、及び(イ)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物により構成され、前記構成の再なめし剤により再なめしを行い、染色後、更に、(ア)合成油及び天然油、並びに(イ)合成油及び天然成分の混合油からなる加脂剤により加脂処理し、(4)再なめし後の後処理を経て得られる革。」
【0015】
Aにおいて用いられる各成分の割合は以下の通りである。
C「シェービング革重量100重量%に対して、前記再なめし剤は合成なめし20〜30重量%及び樹脂13〜25重量%(いずれもシェービング革重量100重量%に対して)で構成され、前記合成なめしは、(ア)芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド縮合物類、若しくは芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド縮合物類0.45〜0.50、(イ)芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物、若しくは芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物0.38〜0.43及び(ウ)グリオキサール0.10〜0.15(以上重量比、総計で1.00)であり、前記樹脂は、(ア)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物、及びこれらのコポリマーとこれらの混合物0.67〜0.72、並びに(イ)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物0.28〜33.0(以上重量比、総計で1.00)であり、(ア)合成油及び天然油並びに(イ)合成油及び天然成分の混合油からなる加脂剤はシェービング革重量100重量%に対して15〜19重量%であるA記載の革。」
【0016】
以下に全工程についてA及びCの革を製造する工程を詳細に説明する。
(1)皮なめしを行う前の前処理は以下の通りである。
成牛皮より取り出した原皮を水漬けし、水洗いしたのち取り出し、裏にべ(脂肪や肉)を機械的に除去し、石灰漬けを行って皮表面の毛を溶解させ、皮表面の垢をとり、皮内部に石灰を浸透させて、繊維をほぐした後、皮を銀層(皮の表面)と床(皮の裏面)にバンドナイフを用いて分割する。この工程では表皮のケラチン、下層のエラスチンを取り去ることを目的に処理が行われる。革はコラーゲン線維以外の部分が皮組織から除去された状態となっている。これら処理は従来から行われてきた内容であり、既に公表されている処理手段が適宜採用される。
【0017】
(2)「なめし」工程は以下の通りである。
前工程で得られた銀層及び床について、前工程の石灰を中和して除去する脱灰(pH調節した水の散布、たんぱく質分解酵素が作用しやすくするための処理を行う。30〜35℃の水、塩化アンモニウム1〜2%含有亜硫酸水素ナトリウムなどを含有した水による処理を行う。)、たんぱく質分解酵素(パンクレアチンなどの酵素を配合したベーチング剤を利用する)存在下に酵解し(分解酵素を含んだ水を浸透させる処理、酵素剤0.8から1.2%、塩化アンモニウム0.5%含有する水による処理)、コラーゲン組織をやわらかくして、酵素を除去して、次になめし剤を用いてなめしを行う。具体的な操作は、なめし剤を含む水を浸透させることにより行う。
なめし剤にはグルタルアルデヒドを用いる。グルタルデヒドについては、CHO基を2個有するアルデヒドである(米国特許第2941859号明細書、特開平8−232000号公報)。種々な製造方法が知られている。アルコキシジヒドロピランと水から、を触媒の存在下に得られる(特開平8−59535、特開平2003−508458号、特開平8−4098)。市販品を購入して使用することができる。
グルタルアルデヒドは、皮の重量に対して1〜10重量%を用いる。
pH1.8から5の条件で、20℃から30℃で、8から12時間の処理を行う。温度30℃程度の水になめし剤による処理であり、グルタルアルデヒドを用いたときの熱収縮温度は65〜70℃である。
脱灰、酵解及びなめしの一連の処理は一つのドラム中で時間の経過をかけて行う。なめし処理が終了した後脱水し、目的とする皮の厚度に漉いた後、裏側を削ることにより厚さを調整し(この操作をシェービングと言う)、さらに皮周縁の不要部分を切り取る(この操作をトリミングと言う)。
【0018】
(3)「再なめし」工程は以下の通りである。
なめし工程より得られた革を、合成なめし及び樹脂からなる再なめし剤を用いて再なめしを行い、染色し、加脂剤を与えて加脂を行う。再なめし、染色及び加脂は同じドラムの中で各処理を一定時間行う。
【0019】
再なめし剤は、シェービング革重量100重量%に対して、前記再なめし剤は合成なめし20〜30重量%及び樹脂13〜25重量%の割合で用いる。
再なめしに際し中和されているかどうかを予め確認して行う。革の断面にpH指示薬を滴下し、その変色層を観察して行う。おおよその目安として甲革タイプで表面層はpH5から6、内部層は3から4程度とされている。
再なめし工程では、使用される合成なめし剤などのなめし剤は、使用された革の重量に対して有利に50〜200%の重量を含んだ水溶液状態で用いられる。
条件は3.0〜8.0、有利に3.5〜6.5のpH範囲内で使用される。再なめし処理は、有利に1.5〜24時間、殊に2〜8時間で実施される。
【0020】
前記合成なめしは、(ア)芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド縮合物類、若しくは芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド縮合物0.45〜0.50、(イ)芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物、若しくは芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物0.38〜0.43及び(ウ)グリオキサール0.10〜0.15(以上重量比、総計1.00)である。
又、上記は芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド縮合物類(これを重量比1.0とする)は、芳香族スルホン酸が0を越えて0.3(重量比)以下、芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド縮合物1未満から0.7まで(重量比)の範囲の混合物である。
又、芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物(これを重量比1.0とする)は、芳香族スルホン酸が0を越えて0.3(重量比)以下、ヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物(1未満から0.7まで(重量比)の範囲の混合物である。
【0021】
上記芳香族スルホン酸は、ベンゼン、フェニルベンゼン、ジフェニルエーテル、ナフタレンなどから選ばれる芳香族化合物をスルホン化して得られるモノ又はジスルホン又はその塩である。再なめし剤として用いることも知られている(ドイツ特許第578578号明細書、米国特許第2315951号明細書、米国特許第3906037号明細書、特開昭56−28300号公報)。
具体的にはナフタレンスルホン酸、フェノールスルホン酸、スルホン化ジトリルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、スルホン化ジフェニルメタン、スルホン化ビフェニル、スルホン化テルフェニル又はベンゼンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、フェノールジスルホン酸、ジスルホン化ジトリルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルジスルホン、ジスルホン化ジフェニルメタン、ジスルホン化ビフェニル、ジスルホン化テルフェニル又はベンゼンジスルホン酸である。
これらフェノール系スルホン酸とこれらフェノール系スルホン酸のホルムアルデヒド縮合物を用いることができる。具体的には、シネクタンPN、シネクタンWF(いずれも、ゼネカ社製)、タニガンLH(バイエル社製)、フォレスタンDW(フォレスト社製)等を用いることができる。
又、これらナフタレン系スルホン酸とナフタレン系スルホン酸のホルムアルデヒド縮合物が用いられる。具体的には、シネクタンACNN(ゼネカ社製)を用いることができる。
又、タニガン3LN(バイエル社製)、バシンタンDLX(BASF社製)、フォレスタンLC(フォレスト社製)等のフェノール系スルホン酸とこれらフェノール系スルホン酸のホルムアルデヒド縮合物やナフタレン系スルホン酸とナフタレン系スルホン酸のホルムアルデヒド縮合物の混合物であるタニガン3LN(バイエル社製)、バシンタンDLX(BASF社製)、フォレスタンLC(フォレスト社製)等のPSA及びNSAを含む鞣し剤が挙げられる。
又、これらナフタレン系スルホン酸とナフタレン系スルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、フェノール系スルホン酸とこれらフェノール系スルホン酸のホルムアルデヒド縮合物の重量平均分子量は、前者の重量平均分子量が400〜4000であり、後者の重量平均分子量は200〜2000である。
【0022】
芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物は以下のとおりである。
ヒドロキシ芳香族化合物はフェノール、クレゾール及びジヒドロキシジフェニルメタンである。
ヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物は、前記ヒドロキシ芳香族化合物とホルムアルデヒドの縮合物である。スルホン化されたフェノールとホルムアルデヒドとの縮合物、スルホン化されたフェノール又はクレゾールとホルムアルデヒドとの縮合物、4、4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンと(ヒドロキシ)アリールスルホン酸とのホルムアルデヒド縮合物、スルホ含有芳香族ヒドロキシ化合物とアリールハロゲン化物とのホルムアルデヒド縮合物、フェノールとフェノールスルホン酸との尿素―ホルムアルデヒド縮合物である(特開平8−232000号公報、特開平10−101757号公報)。
【0023】
グリオキサールは、本発明のなめし剤のほか、繊維加工剤、紙加工剤、土壌硬化剤、またその他有機合成中間体として用いられている化合物である。
グリオキサールの製造方法としては、対応するアルコール化合物、グリコールアルデヒド等を酸化させる方法が一般的に知られており、これらの方法の中で銀触媒の存在下にエチレングリコールを酸化脱水素させる方法が知られている(特公昭61−54011号公報、特開平6−329575公報)。これら公知物質を購入して使用すればよい。
【0024】
前記樹脂は、前記樹脂は、(ア)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物、及びこれらのコポリマーとこれらの混合物0.67〜0.72、並びに(イ)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物0.28〜33.0(以上重量比、総計で1.00)である。
【0025】
アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマーとは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルから選ばれるモノマーを重合させて得られポリマー、及びこれらのポリマーの混合物をいう。
又、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのコポリマーとはアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルから選ばれるモノマーからなるコポリマーであり、これらの混合物をいう。
又、、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのコポリマーとはアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルから選ばれるモノマーを重合させ、さらにこれらのモノマーを重合させたグラフト重合物も含まれる。
ポリマーは好ましくは、1,000〜250,000、より好ましくは1,000〜100,000の重量平均分子量を有する。市販品を購入して使用することができる。
これらの樹脂は、粘弾性(ゴム)の性質を付与すると同時に、一方で硬く伸びにくくするために性質を付与させるために添加する。これらのアクリル系樹脂は、革に弾力性を与え、セット率の向上(伸びても戻りやすい)に大いに貢献していると考えられる。しかしながら、アクリル系樹脂はその特性から見ても必要以上用いることは革の特性に影響を与えすぎて好ましくない。したがって、前記の範囲とすることが重要である。
アクリル酸又はメタクリル酸並びにこれらの混合物や、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルとアクリル酸及び/又はメタクリル酸を基礎とするポリマーなどについては、なめし剤として用いることは特開昭56−59900号公報、特開昭56−161500号公報等により公知である。これらは、安定性が十分でない場合があり、表面にしわやひび割れが生ずることがあることが指摘されており(特開平4−89900号公報、特開平9−95700公報)、その使用法には、本発明のように組み合わせて使用することが必要となる。
【0026】
メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物
メラミンとホルムアルデヒドの縮合物からなる樹脂を用いることについては
特開昭63−89600号公報、特開昭63−89599号公報などに記載されている。
メラミン対ホルムアルデヒドに割合は1対1.5から1対6程度が有効である。
メラミンとホルムアルデヒド樹脂及び陰イオン樹脂により編成されたメラミンホルムアルデヒド樹脂よりなる樹脂混合物又は混合樹脂を用いることも有効である。
また、メラミン対ホルムアルデヒドの少なくとも一部をグリコールエーテル又はアルキルグリコールエーテルによりエーテル化して用いることも有効である。
メラミン樹脂は本来、革にふっくらした感じを与える特性を与えるものとして期待しているが、アクリル系樹脂メラミン樹脂と組み合わせる結果では両者を組み合わせて使用したことにより本発明の良好な結果につながったものである。
【0027】
染色工程では、染料による染色が行なわれる。
染色工程では染色しようとする色に応じて染料や顔料が用いられる。
上記の処理方法を経て得られた革は、酸性水性染料を用いて染色される。酸性水性染料は、水性媒体、染料等の成分により構成される。水性媒体とは、水及び水とアルコール等の水溶性溶媒との混合物を意味する。また、染料としては、革の加色に使用することができるものをいずれも使用することができるが、例えば、酸性染料、反応染料等が挙げられる。
【0028】
加脂工程では加脂剤による処理が行なわれる。
加脂工程は再なめし後の染色工程の次に行われる処理であり、革製品に要求される柔軟性を付与するために行われ、加脂剤と呼ばれる油剤で処理するものである。皮革内部にも浸透しやすいものとなっている。
染色工程を経て加脂工程で処理する革は水に濡れた状態にあり、繊維束内、繊維間隔に存在する水のために繊維の柔軟性が保持されているが、乾燥すると繊維同志が膠着して繊維及び組織が硬化する。乾燥前に予め繊維間に膠着を阻害する物質となる油剤により処理することが効果的である。又、革繊維の保護(撥水性、防水性)のような機能、感触、膨らみを付与する。このために加脂工程があり、加脂剤が用いられる。
加脂剤による処理は、25から50℃程度の処理温度下に、1から6時間処理を行う。
加脂剤はシェービング革重量100重量%に対して15〜19重量%である。
加脂剤には、合成油と天然油、合成油と天然油成分の混合物を用いる(両者の割合は重量比0.4〜0.6:0.6〜0.4)。合成油としてはスルホン化油であり、ポリオフインからなるアルキルスルホン酸である。このほか、エチレンオキシド油を用いることもできる。天然油としては硫酸化油である動植物グリセライドのエステル硫酸、亜硫酸化油である魚油グリセライドのアルキルスルホン酸、モノグリセライド油などがある。
合成油と天然油、合成油と天然油成分の混合物の混合比は適宜決定する。
【0029】
(4)革加工工程の再なめし後の後処理工程は以下の通りである。
再なめし後の後処理として、乾燥・仕上げ作業(乾燥・塗装)を行うものである。乾燥する前に湿潤仕上げ作業を行い染色・加脂され濡れた状態の革を一度乾燥することにより加脂剤や染料の固着を強めて染色堅ろう性、耐水性及び柔軟性を持たせる。そして革を平板状にして革表面のしわを伸ばす。このしわ延ばし作業が組み込まれている点が特徴である。
中和、再なめし、染色及び加脂後の革の水分は、およそ70〜80%であり、水分を搾り出して、ロールセッターにより革を伸ばして、脱水する。水分は50〜60%とする。その後に、25〜50℃で、がら干し乾燥を行い、10〜5%に乾燥させる。この乾燥にはガラス張り乾燥や真空乾燥を採用することもある。味いれにより乾燥した状態に対して、水分を与えて調製する。
ステーキングにより革の柔らかさを調整する。このためにはバイブレーションステーキングを行う。
ステーキングの後に、空うちにより革の線維をほぐし、皮を柔らかくする。
次にトグルにより革をネットに固定して引っ張るネット張り乾燥を行う。
これらの操作を念入りに行う場合には味入れ、ステーキング、空うち、トグル張りを行うネット張り乾燥の操作を繰り返して行うことができる。
次に、乾燥で硬くなった縁部、トグルのはさみ跡、極端に薄い部分の切り取りを行い革の形を整えるトリミングを行う。
革の表面に塗装及び着色を行い、革の表面を保護すると共に、美観を高める仕上げを行う。
仕上げには、セミアニリン仕上げを採用する。着色剤として染料と顔料を併用する。バインダーにタンパク質系(カゼインを主成分とする)や合成樹脂(エマルジョン又は水溶性タイプ)を配合して用いることができ、銀面の傷や不均一さをカバーして皮表面の銀面模様を残す。したがって、小さな傷を目立たせないようにすることができ、無色又は染料による着色剤による着色皮膜を形成する。塗装方法にはロータリースプレーマシンを用いる。
【0030】
得られた革は以下のとおりである。
なめし剤としてクロムを使用しないので、得られる革はクロムフリーであり、従来得られたことがない、柔軟性を有し、皮が有している以上の独特の弾力性ある柔らかさに加えて、革が有している以上の伸びがなく、復元力を有する特性を有する革を得ることができる。この特性を、再なめし後の後処理を経て得られる革の一部から取り出された試料について測定すると、剛軟度及び最大セット率を測定すると、剛軟度4.42mm以上4.90mm以下、かつ最大セット率10.7以上13.9以下の状態を含むものであり、その特性を確認することができる。
これらの数値は以下の実施例4及び5の結果より得られる(図4)。
【0031】
もう一方の革の製造工程の特徴点は以下のとおりである。
B「(1)皮なめしを行う前の前処理、(2)グルタルアルデヒドをなめし剤として用いてなめしを行う工程、(3)再なめし剤は合成なめし、樹脂及びアルミニウム化合物から構成され、これらの内の合成なめしは(ア)芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド縮合物類、(イ)芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物、及び(ウ)グリオキサールにより構成され、これらの内の樹脂は(ア)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物、並びにこれらのコポリマー及びこれらの混合物、及び(イ)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物により構成され、前記構成の再なめし剤により再なめしを行い、染色後、更に(ア)合成油及び天然油、並びに(イ)合成油及び天然成分の混合油からなる加脂剤により加脂処理し、(4)再なめし後の後処理を経て得られる革。」
再なめし剤として、合成なめし及び樹脂のほかに、アルミニウム化合物を用いる点が特徴である。その結果、前記Aの革と比較して、セット率及びBLC値の計測結果が良好な結果の革を得ることができる。具体的には実施例に示されている。
【0032】
前記Bにおいて用いられる各成分の割合は以下のとおりである。
E「 シェービング革重量100重量%に対して、前記再なめし剤は、合成なめし20〜30重量%、樹脂13〜25重量%、及びアルミニウム0.7〜4.0重量%で構成され、前記合成なめしは、(ア)芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド縮合物類0.45〜0.50、(イ)芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物、若しくは芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物0.38〜0.43及び(ウ)グリオキサール0.10〜0.15(以上重量比、総計で1.00)であり、前記樹脂は、(ア)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物、及びこれらのコポリマーとこれらの混合物0.67〜0.72、並びに(イ)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物0.28〜33.0(重量比であり)であり、(ア)合成油及び天然油並びに(イ)合成油及び天然成分の混合油からなる加脂剤はシェービング革重量100重量%に対して15〜19重量%であるB記載の革。」
再なめし剤として、所定量の合成なめし及び樹脂のほかに、アルミニウム化合物に含まれるアルミニウムをシェービング革重量100重量%に対して、0.7〜4.0重量%添加して用いる点である。
その結果、前記Aの革と比較して、セット率及びBLC値の計測結果が良好な結果の革を得ることができる。具体的には実施例に示されている。
【0033】
前記B及びDの革がA及びCの革と相違する点は、(3)再なめし剤が合成なめし、樹脂及びアルミニウム化合物から構成されている点であり、前記再なめし剤は、シェービング革重量100重量%に対して、合成なめし20〜30重量%、樹脂13〜25重量%、及びアルミニウム0.7〜4.0重量%で構成される点である。
【0034】
その他の点については、前記の革の場合と同様である。
上記合成なめし剤、樹脂の詳細については前記の場合と同様である。
使用するアルミニウム化合物に関しては以下の通りである。
具体的には、硫酸アルミニウム溶液(硫酸バンド)及びポリ塩化アルミニウム溶液が、皮革のなめし剤として用いられている(特開2006−4503号公報)。これらの硫酸アルミニウム溶液及びポリ塩化アルミニウム溶液は、水酸化アルミニウムを原料として、硫酸または、塩酸で加熱溶解することによって製造される。水酸化アルミニウムは通常バイヤー法によって製造されるが、これにはスカムや着色の原因であるフミン塩酸が含まれている。これを陽イオン性重合体第四級アンモニウム塩で除去している(特開昭61−174113号公報)。着色のない硫酸アルミニウム溶液の製造方法としては、過酸化水素を除去した硫酸溶液とアルミナ含有物質とを反応させる方法(特開平5−229818号公報)。過酸化水素を含有する硫酸溶液とチタン化合物を有するアルミナ水和物を反応させる方法(特開平5−279021号公報)がある。水酸化アルミニウムを原料として赤泥を含むアルミン酸ソーダのスラリーに、第四級アンモニウムを添加した後、赤泥を分離して製造する(特開2006−45053号公報)。これらを購入して使用すればよい。
【0035】
得られる革は、なめし剤としてクロムを使用しないので、得られる革はクロムフリーであり、従来得られたことがない、柔軟性を有し、皮が有している以上の独特の弾力性ある柔らかさに加えて、革が有している以上の伸びがなく、復元力を有する特性を有する革を得ることができる。特に、合成なめし剤、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物、若しくはこれらのコポリマーを含む樹脂並びにアルミニウム化合物を含む再なめし剤により処理する結果、一層良好な特性のものが得られる。
特性を、再なめし後の後処理を経て得られる革の一部から取り出された試験片について測定すると、剛軟度及び最大セット率を測定すると、剛軟度が5.0mm以上であり、かつ最大セット率が10%以下である状態の革を得る事ができる。これらの数値は以下の実施例の記載及びその記載を整理して得られる(図5)。
【0036】
本発明では得られる皮革の試験は以下のようにして行う。
[1]試験片の取り出しは以下の通りである。
(1)皮なめしを行う前の前処理、(2)なめし工程、(3)再なめし工程及び(4)再なめし後の後処理を経て得られる革全体を半裁して得られる主要部を適宜分割して試験片を取り出す。端部は不規則な結果が出ることが考えられるので端部を適宜切り取って試験片を取り出すことが有効である。
試験片を取り出す場合には、特定の一方の方向(例えば横軸)から取り出す場合と他の一方の方向(例えば縦軸)から取り出す場合がある。分割に仕方には4、6及び8、9、12等の分割が考えられる。図1では9分割の場合を例示している。
【0037】
[2]試験片の調整
各部位から取り出された試験片は温度20±2℃、相対湿度65±5%RHにたもたれた状態で少なくとも48時間以上この状態保つ。
【0038】
[3]定荷重セット率の測定方法
(1)縦250mm×横50mmの試験片を切り出す(図1)。試験片を背線に平行方向(X方向)及び垂直方向(Y方向)から、1枚づつ採取する。得られた結果について大きいほうの値を最大セット率とする。
(2)上下端より50mmを、革をつかむ部分とする。残った中央部の中心に長さ100mmの線を引く(図2)。
(3)革の下部に8Kgの荷重を10分間にわたりかけて荷重時の線の長さlmmを測定する(定荷重伸びを意味する)。
(4)荷重を取り去り、10分間放置し、再度前記線の長さを測定する。
その結果を、lmmとする。
(5)セット率(%)=l−100として算出される。
セット率が小さい値となることは試験片が伸びにくい性質を有していることを表している。
前記したように測定値はX方向及びY方向の両方の値がある。このX方向及びY方向の中のより長い定荷重測定の結果を最大セット率と呼ぶ。
最大セット率の目標値は、10%以下である。最大セット率の算出にあっては3個の試験片について測定し平均値を算出して最大セット率とする。
又、「最大セット率」は試料を直交する革のX軸及びY軸の二方向から取り出して、測定値の大きい方を最大セット率という。セット率は8Kgの荷重をかけて試料が伸びた状態とした後、荷重を取り去って戻した状態に標線の伸びの百分率により表すものであり、復元力を測定しようとするものである。
【0039】
[4]剛軟度(BLC)の測定方法
半裁の9つのゾーンの中央で測定する(図1)。
剛軟度試験にはST300皮革剛軟度試験機を用いる(図3)。
操作レバー4を下方に向かって押し付けて、同時に作動ボタン1を押して、頂部アーム2を作動させる。この動作により捕獲機構からの圧力を解除し、頂部アーム2は上方に向かって跳ね上がる。
テスター内に測定用の革を置き、底部の固定手段5を完全に覆うようにする。
操作レバー4を下に押し付けて頂部アーム2を引き下げる。頂部アーム2が固定されている間は、この動作により荷重用のプランジャー6は完全に収縮している。動作が完全であればカチという音が聞き取れる。革はテスターに固定される。
操作レバー4を開放する。これには荷重用のプランジャー6(500gの錘を働かせている)を縮小されている空気制動子の作用により制御された状態で革に向かって引き下げる。
荷重用のプランジャー6は革を押し付ける。押し付けによる深さダイアル7で読み取る。
読み取りが終了した時点で、作動ボタン1を押し付けて、頂部アーム2を持ち上げて革を取り除く。
剛軟度(BLCとも言う)は500gの荷重をかけたときの革の柔軟性及び反発力を測定しているものである。剛軟度の目標値は、5.0mm以上である。
「剛軟度」は試験片の革に、単位面積あたり500gの荷重を革に押し付けた状態での革に押し付けられた深さを測定するものであり、柔軟性とともに反発力を測定しようとするものであり、単位はmmで表現される。示す値は柔軟性と復元力の指標となる。
以下に種々の条件下に得られた革の状態を測定し、その結果により良好な条件を定め、そのときの革の状態を述べる。
【実施例1】
【0040】
以下のなめし剤を用いて再なめしを行った。なめし剤以外の処理条件は、上記の条件にしたがった。
「再なめし」工程の実施例の再なめし剤の組成は表1の記載の通りである。
表に示されるデータはシェービング革重量100重量%に対して使用した数値を示している。
【0041】
【表1】

【0042】
上表中アルミニウム化合物及びアルミニウム含有化合物はこれらに含まれるアルミニウムの量ある。
再なめし4のアルミニウム0(アルミニウムを含まないケース)は表3のテスト4、5、9の結果に対するものである。
再なめし4のアルミニウム3重量%を含むケースはテスト6の結果に対するものである。
再なめし4のアルミニウム5重量%を含むケースはテスト7の結果に対するものである。
【0043】
再なめし1は用いる再なめし剤に関し、植物タンニンを用い、樹脂を用いない場合である。
再なめし2は用いる再なめし剤に関し、植物タンニンを用いず、合成なめしとして芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とのホルムアルデヒド縮合物からなる混合物、樹脂としてメラミンとホルムアルデヒドの重縮合物を用いる場合である。
再なめし3は用いる再なめし剤に関し、植物タンニン、合成なめしとして芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とのホルムアルデヒド縮合物、芳香族スルホン酸と芳香族ヒドロキシ化合物のメチレン環重合物を用い、樹脂としてアクリル系樹脂とメラミンとホルムアルデヒドの重縮合物を用いる場合である。
再なめし4は用いる再なめし剤に関し、植物タンニンを用いず、合成なめしとして芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とのホルムアルデヒド縮合物、芳香族スルホン酸と芳香族ヒドロキシ化合物のメチレン環重合物を前記再なめし3の場合より多く用い、同種類であり、同量の樹脂としてアクリル系樹脂とメラミンとホルムアルデヒドの重縮合物を用いる場合である。
どの場合が良好な結果を得ることができるかは、次の表3の評価の結果によって決まる。
その結果によると、再なめしの結果は、再なめし1から4に向かって向上する。この結果から、再なめし剤としては、植物タンニンなどの使用は適切でないこと(テスト1と2、及びテスト3と4)。合成タンニンに関してはグリオキサールの使用は多くは必要としないが(テスト3と4)、ある程度用いることが有効であること。芳香族スルホン酸系統の合成なめしはテスト3と4の結果からテスト3より多く用いることが有効であることがわかる。樹脂に関してはアクリル系樹脂の特性及び本発明で得られる成果から見て、アクリル系樹脂は、革に弾力性を与え、セット率の向上(伸びても戻りやすい)に大いに貢献していると考えられる。しかしながら、アクリル系樹脂はその特性から見ても必要以上用いることは革の特性に影響を与えすぎて好ましくないこと、メラミン樹脂は本来、革にふっくらした感じを与える特性を与えるものとして期待しているが、アクリル系樹脂メラミン樹脂と組み合わせる結果(テスト1とテスト3及び4の結果、テスト1とテスト2、テスト2とテスト3及び4)が良好であるということができる。
【0044】
加脂剤には以下のものを用いた。
【0045】
【表2】

【0046】
加脂剤の使用量は、従来の再なめしの工程の経験から処理する革重量100重量%に対する割合であり、15〜19重量%の範囲が良好であると言う経験に基づいて算出したものである。
【0047】
上記なめし剤1から4を用いて、その際になめし剤4においてはアルミニウムについては別に添加して、再なめしを行い、得られた革について、剛軟度及びセット率を測定し、各なめし剤及びアルミニウムの効果を確認した。
得られた革については、得られた結果をまとめたもののうち最良のものを示した。
再なめしの処理条件及びセット率,BLCの結果は以下の通りである。
【0048】
【表3】


【0049】
テスト1(再なめし剤1は植物なめしのみを用いた場合(樹脂を含有しない))、テスト2(再なめし剤2は合成なめしのみを用いた場合(樹脂を含有しない))場合である。いずれも樹脂を含有しない。
テスト3(植物なめし、合成なめし及び樹脂を含む場合)、テスト4(合成なめしに樹脂の組み合わせ)について最大セット率とBLCを測定した結果である。
テスト1はBLC値が3.67であり、低い結果である。最大セット率は、7.6であり、その点では問題がないが、BLC値が低すぎる。本発明ではBLC値と最大セット率の両方の結果が良好な範囲となることが必要である。
テスト2はBLC値が4.22であり、低い結果である。最大セット率は、10.6であり、その点では問題がないが、BLC値が低すぎる。本発明ではBLC値と最大セット率の両方の結果が良好な範囲となることが必要である。
テスト1及び2は再なめしに従来から用いられてきた植物なめし及び合成なめしを用いた場合の結果を示しているものであり、従来例である。
テスト3は、植物なめし及び合成なめし、これに樹脂を含有する再なめし剤を用いた場合である。テスト3はテスト1及び2と比較して樹脂を含有するからBLC値では4.47と高い結果を得ているが、最大セット率は13.9であり、低い結果となっている。本発明ではBLC値と最大セット率の両方の結果が良好な範囲となることが必要である。
テスト4(なめし剤4)、テスト5(なめし剤4)テスト8(なめし剤4)、テスト9(なめし剤4)、テスト10(なめし剤4)、テスト11(なめし剤4)は、なめし剤に、合成タンニン及び樹脂を用いた場合の結果を示している。テスト1から3と対比するといずれもBLC値と最大セット率の両方の結果では、良好な結果となっている。
テスト4のBLC値は4.78であり、最大セット率は11.1
テスト5のBLC値は4.90であり、最大セット率は11.5
テスト8のBLC値は4.70であり、最大セット率は10.7
テスト9のBLC値は4.90であり、最大セット率は12.0
テスト10のBLC値は4.72であり、最大セット率は13.9
テスト11のBLC値は4.42であり、最大セット率は12.4
である。
アルミニウムを含有するテスト6及び7の結果を加えて、図4に結果を示した。実際に得られた数値により、テスト4、5、8、9、10及び11の結果とテスト3の結果を比較すると、BLC値(剛軟度)が4.42mm以上4.90mm以下まで(Bで表示)、かつ最大セット率は10.7以上13.9以下(Aで表示)については、本発明の合成なめしと樹脂からなるなめし剤による効果の結果であるということができる(なお、なめし剤と樹脂を組み合わせて用いること自体は本発明の完成前に公知であったものではなく、本発明の効果を明白にするために示したものである。この点から見て上記A及びBで示される値は本発明の実施例から得られる結果である。)。
【0050】
アルミニウム化合物を添加してアルミニウムを含有する状態で処理する場合の結果は以下の通りである。
テスト5(No56)はアルミニウム0重量%、テスト6(No61)はアルミニウム3.0重量%及びテスト7(No82)はアルミニウム5.0重量%を含有する場合の最大セット率、及びBLCについては、以下の通りである。
テスト6(No61)では、最大セット率8.5であり、BLCは5.3であり、この結果は最大セット率目標値10.0以下、BLC目標値5.0以上を超えている結果である。アルミニウム含有量0%である場合テスト5(No56)(BLCは4.90であり、最大セット率は11.5)及びアルミニウム5重量%を含有する場合テスト7(No82)(最大セット率は12.4、及びBLCは4.77)及び前記テスト6(No61)の場合について、最大セット率及びBLCの結果を曲線で結ぶと図5の通りである。BLCの目標値5.0以上の範囲及び最大セット率の範囲10.0以下を求めてみると、最大セット率のアルミニウム含有量の範囲0.7から4.0の範囲であれば、BLC目標値も満たしていることがわかる。
以上の結果よりアルミニウム含有量の範囲が0.7から4.0の範囲にあれば最大セット率10.0以下であり、BLC目標値5.0以上となる範囲であると求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】革の試料を取り出す部分の説明
【図2】セット率の測定試料を示す図
【図3】皮革剛軟度試験機を示す図
【図4】再なめし剤1から4の最大セット率とBLCを比較した図
【図5】なめし剤4を用いて、アルミニウムの含有量の適切な値の範囲を算出することを示す図
【符号の説明】
【0052】
1:作動ボタン
2:頂部アーム
3:頂部革固定手段
4:操作レバー
5:底部革固定手段
6:荷重用プランジャー
7:ダイアル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)皮なめしを行う前の前処理、(2)グルタルアルデヒドをなめし剤としてなめしを行う工程、(3)再なめし剤は、合成なめし及び樹脂から構成され、これらの内の合成なめしは(ア)芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド縮合物類、(イ)芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物、及び(ウ)グリオキサールにより構成され、これらの内の樹脂は(ア)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物、並びにこれらのコポリマー及びこれらの混合物、及び(イ)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物により構成され、前記構成の再なめし剤により再なめしを行い、染色後、更に、(ア)合成油及び天然油並びに(イ)合成油及び天然成分の混合油からなる加脂剤により加脂処理し、(4)再なめし後の後処理を経て得られることを特徴とする革。
【請求項2】
(1)皮なめしを行う前の前処理、(2)グルタルアルデヒドをなめし剤によりなめしを行う工程、(3)再なめし剤は合成なめし、樹脂及びアルミニウム化合物から構成され、これらの内の合成なめしは(ア)芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド縮合物類、(イ)芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物、及び(ウ)グリオキサールにより構成され、これらの内の樹脂は(ア)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物、及びこれらのコポリマー及びこれらの混合物、並びに(イ)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物により構成され、前記構成の再なめし剤により再なめしを行い、染色後、更に(ア)合成油及び天然油並びに(イ)合成油及び天然成分との混合油からなる加脂剤により加脂処理し、(4)再なめし後の後処理を経て得られることを特徴とする革。
【請求項3】
シェービング革重量100重量%に対して、前記再なめし剤は合成なめし20〜30重量%及び樹脂13〜25重量%(いずれもシェービング革重量100重量%に対して)で構成され、前記合成なめしは、(ア)芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド縮合物類、若しくは芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド縮合物類0.45〜0.50、(イ)芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物、若しくは芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物0.38〜0.43及び(ウ)グリオキサール0.10〜0.15(以上重量比、総計で1.00)であり、前記樹脂は、(ア)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物、及びこれらのコポリマーとこれらの混合物0.67〜0.72、並びに(イ)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物0.28〜33.0(以上重量比、総計で1.00)であり、(ア)合成油及び天然油並びに(イ)合成油及び天然成分の混合油からなる加脂剤はシェービング革重量100重量%に対して15〜19重量%であることを特徴とする請求項1記載の革。
【請求項4】
再なめし後の後処理を経て得られる革の一部から取り出された試料が、剛軟度4.42mm以上4.90mm以下、かつ最大セット率10.7以上13.9以下の状態を含むことを特徴とする請求項1又は3記載の革。
【請求項5】
シェービング革重量100重量%に対して、前記再なめし剤は、合成なめし20〜30重量%、樹脂13〜25重量%、及びアルミニウム0.7〜4.0重量%で構成され、前記合成なめしは、(ア)芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド縮合物類0.45〜0.50、(イ)芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物、若しくは芳香族スルホン酸と芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物0.38〜0.43及び(ウ)グリオキサール0.10〜0.15(以上重量比、総計で1.00)であり、前記樹脂は、(ア)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物、及びこれらのコポリマーとこれらの混合物0.67〜0.72、並びに(イ)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物0.28〜33.0(重量比であり)であり、(ア)合成油及び天然油並びに(イ)合成油及び天然成分の混合油からなる加脂剤はシェービング革重量100重量%に対して15〜19重量%であることを特徴とする請求項2記載の革。
【請求項6】
再なめし後の後処理を経て得られる革の一部から取り出された試料が、剛軟度5.0mm以上であり、かつ最大セット率が10%以下の状態を含むことを特徴とする請求項2又は5記載の革。















【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−144061(P2010−144061A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323121(P2008−323121)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(591189535)ミドリホクヨー株式会社 (37)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】