説明

靭帯再建器具

【課題】本発明は、移植する腱のサイズに応じて掘削する骨孔のサイズを微調整することができる靭帯再建器具を提供することを目的とするものである。
【解決手段】本発明は、複数の計測孔により移植靭帯の直径を0.01以上0.50未満ミリメートル刻みで計測できるサイザーと、前記サイザーの計測孔と同じサイズの直径の中空ドリルとからなり、靭帯を再建する際、骨に移植靭帯に合うサイズの骨孔を掘削できることを特徴とする靭帯再建器具の構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、損傷した靭帯を再建する際に使用する靭帯再建器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スポーツによる怪我や交通事故により靭帯を損傷することがある。靭帯の再建術としては、人工靭帯を用いたり、本人の腱を採取して自己移植する方法などがある。尚、再建は、骨に空けた孔を通して行う。
【0003】
例えば、膝には、大腿骨と脛骨を繋ぐACL(前十字靭帯)や、大腿骨と膝蓋骨を繋ぐMPFL(内側膝蓋大腿靭帯)などがあり、損傷した際には、半腱様筋腱等を採取して移植することが行われている。
【0004】
特許文献1に記載されているように、骨の掘削量および骨欠損部位の形成が少なく、少ない量の靱帯により再建を行うことが可能な形態の骨トンネルを容易に形成する事ができる靱帯再建術用骨掘削器具の発明も公開されている。
【特許文献1】特開平10−118084号公報
【非特許文献1】堀部秀二,塩崎嘉樹,北圭介,夏梅隆至,鳥塚之嘉,中田研,中村憲正,史野根生:膝蓋骨不安定性と内側膝蓋大腿靭帯再建術.別冊整形外科46:136−142,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、骨を掘削する再建術においては、骨の強度を保つために孔は最小限にする必要がある。特許文献1に記載の発明は、再建する靭帯を少なくするものであり、必ずしも孔が再建に必要最小限なサイズとは限らない。
【0006】
そこで、本発明は、移植する腱のサイズに応じて掘削する骨孔のサイズを微調整することができる靭帯再建器具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために、複数の計測孔13d、13eにより移植靭帯16の直径を計測できるサイザー13と、前記サイザー13の計測孔13d、13eと同じサイズの直径の中空ドリル15とからなり、靭帯を再建する際、骨に移植靭帯16に合うサイズの骨孔14c、14dを掘削できることを特徴とする靭帯再建器具の構成とした。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、以上の構成であるから以下の効果が得られる。第1に、移植する靭帯の束を0.01以上0.50未満ミリメートル単位で採寸することができ、そのサイズに合わせて0.01以上0.50未満ミリメートル刻みで骨孔を空けることができる。
【0009】
第2に、骨孔を必要最小限のサイズに微調整することができるので、掘削量も最小限に抑えることができる。骨孔が大きすぎると骨の強度が弱くなってしまい、骨孔が小さすぎると移植が困難となってしまう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、移植する腱のサイズに応じて掘削する骨孔のサイズを微調整するという目的を、サイザーの計測孔を0.01以上0.50未満ミリメートル刻みで設けて、移植靭帯の直径を0.01以上0.50未満ミリメートル刻みで採寸し、骨孔を0.01以上0.50未満ミリメートル刻みで掘削することで実現した。
【実施例1】
【0011】
以下に、添付図面に基づいて、本発明である靭帯再建器具について詳細に説明する。尚、非特許文献1に記載のMPFL再建術の流れに沿って説明するが、膝内側側副靭帯、膝外側側副靭帯、前十字靭帯、後十字靭帯、肘内側側副靭帯、足関節外側側副靭帯を再建する際にも同様に適用でき、骨孔を作製するのに有用である。
【0012】
図1は、本発明である靭帯再建の流れを示す図である。靭帯再建1は、損傷した靭帯に採取した腱を移植することにより再建する。尚、膝蓋骨脱臼等により損傷したMPFLを再建する場合は、大腿骨及び膝蓋骨に形成した骨孔を通じて半腱様筋腱を移植する。
【0013】
靭帯再建1は、皮切2、関節内観察3、腱採取4、靭帯剥離5、ガイドピン刺入6、移植靭帯全長決定7、移植靭帯作製8、サイジング9、骨孔形成10、及び移植靭帯固定11の手順からなる。
【0014】
皮切2は、靭帯を再建するに際して皮膚を数ヶ所切開する。図2は、本発明である靭帯再建において皮切する箇所を示す図である。尚、MPFL再建の場合であり、患者の右脚12を膝付近を中心に正面から見た図である。
【0015】
図2の例では、関節鏡のためのポータルとして3ヶ所、半腱様筋腱を採取するために1ヶ所、MPFLの剥離及び再建のために1ヶ所、MPFLを膝蓋骨の外側で固定するために1ヶ所の計6ヶ所切開する。
【0016】
関節内観察3は、靭帯を再建するに際して、皮切2で開けた関節鏡用の孔から関節鏡で関節内を観察し、病態を把握しておくと共に、必要に応じて関節軟骨損傷に対する処置や遊離体の除去などもしておく。
【0017】
尚、MPFL再建時の関節鏡用の孔は、膝蓋骨12aのすぐ下で内寄りの内側膝蓋下穿刺孔12b、膝蓋骨12aのすぐ下で外寄りの外側膝蓋下穿刺孔12c、膝蓋骨12aの上方で外寄りの外側膝蓋上穿刺孔12dである。
【0018】
腱採取4は、皮切2で開けた腱採取用の孔から腱剥離器を用いて腱を採取する。尚、MPFL再建時の腱採取用の孔は、膝蓋骨12aの下方で内寄りの半腱様筋腱採取孔12eである。
【0019】
靭帯剥離5は、皮切2で開けた剥離再建用の孔から靭帯を同定する。尚、MPFL再建時の剥離再建用の孔は、膝蓋骨12a内側縁中央から大腿骨内側上顆にかけて切り、さらに内側膝蓋支帯を横切したMPFL再建用孔12fである。
【0020】
ガイドピン刺入6は、骨孔の掘削位置や移植靭帯の取付位置などの目印としたり、移植靭帯の長さを測定できるように、複数のガイドピンを刺し入れる。ガイドピンには、Kirschner鋼線などを用いる。
【0021】
尚、MPFL再建時の場合は、大腿骨側については、大腿骨の内側上顆の後方で内転筋結節の前方から、直径2.4ミリメートルのガイドピンを外側上顆の1横指近位、やや前方を目指して刺入する。
【0022】
膝蓋骨側については、剥離した内側広筋の膝蓋骨付着部の下縁に直径1.6ミリメートルの1本目のガイドピンを刺入し、膝蓋骨用ドリルガイドを用いて2本目のガイドピンを1本目の遠位に刺入する。
【0023】
移植靭帯全長決定7は、再建に必要な靭帯の長さを求める。掘削した骨トンネルに差し込まれる長さ、及び一の骨孔から他の骨孔に至るまでの長さを、ガイドピンを目印として移植靭帯の長さを算定する。
【0024】
尚、MPFL再建時の場合は、膝蓋大腿関節用メジャーを用いて、大腿骨のガイドピンと膝蓋骨の1本目のガイドピンの距離、及び大腿骨のガイドピンと膝蓋骨の2本目のガイドピンの距離を測定し、骨トンネル外の長さを求める。
【0025】
移植靭帯の全長は、大腿骨内の骨トンネル、膝蓋骨内の骨トンネルの中に差し込まれる靭帯の長さ、大腿骨の骨孔から膝蓋骨の1つ目の骨孔までの長さ、及び大腿骨の骨孔から膝蓋骨の2つ目の骨孔までの長さの合計となる。
【0026】
移植靭帯作製8は、採取した腱を、決定した全長の大きさに成形することにより、移植靭帯を作成する。尚、移植靭帯は、ベースボールスティッチャー等の縫合機を使用して、2号ワヨラックス等の糸により両端を縫合しておく。
【0027】
サイジング9は、作成した移植靭帯を取り付けるために掘削する骨孔の直径を決定する。尚、MPFL再建時の場合は、作製した移植靭帯を中央部で折り曲げ、大腿骨側に入る中心部の径と、膝蓋骨側に入る両端部の径をMPFL用のサイザー13で計測する。
【0028】
図3は、本発明である靭帯再建において移植靭帯の直径を採寸するサイザーを示す図である。図4は、本発明である靭帯再建において開いた状態のサイザーを示す図である。
【0029】
サイザー13は、中央の基部13aと、上側の可動部13b及び下側の可動部13cとからなり、基部13aは板状であり、片方の端において、可動部13b、13cが留具13fにより回動可能に取り付けられる。
【0030】
基部13aと上側の可動部13bとは、合わせることで円形となる半円形の計測孔13dが複数設けられる。基部13aと下側の可動部13cとは、合わせることで円形となる半円形の計測孔13eが複数設けられる。
【0031】
計測孔13d、13eは、0.01以上0.50未満ミリメートル刻みで孔を設ける。尚、MPFL再建においては、0.10又は0.20又は0.25ミリメートル刻みで設けるのが望ましく、0.25ミリメートルが最適である。
【0032】
図3の例では、計測孔13dについては、直径4.5ミリメートルの孔、直径5ミリメートルの孔、直径5.5ミリメートルの孔、直径6ミリメートルの孔のように、0.5ミリメートルごとに孔が設けられる。
【0033】
計測孔13eについては、直径3ミリメートルの孔、直径3.25ミリメートルの孔、直径3.5ミリメートルの孔、直径3.75ミリメートルの孔、直径4ミリメートルの孔のように、0.25ミリメートルごとに孔が設けられる。
【0034】
可動部13b、13cを開き、移植靭帯を計測孔13d、13eに挟み込んで、どの計測孔13d、13eに合うか確認することにより、移植靭帯を通すのに必要な骨孔の直径を調べることができる。
【0035】
サイザー13は、片側の可動部13bのみを有するものにしたり、可動部13bの計測孔13dと可動部13cの計測孔13eの径ピッチを変えたりと、測定対象に応じて柔軟に設計変更することができる。
【0036】
骨孔形成10は、決定した骨孔のサイズと同じ直径の中空ドリルで骨を掘削する。尚、MPFL再建時の場合は、大腿骨側には二重折りにした中心部用に1つ、膝蓋骨側には両端部用に2つ骨孔を空ける。
【0037】
図5は、本発明である靭帯再建において骨孔をドリリングしている状況を示す図である。患者の右脚の膝関節14を正面から見た図であり、中空ドリル15により大腿骨14a及び膝蓋骨14bに骨孔14cが空けられる。
【0038】
図6は、本発明である靭帯再建においてドリリングに使用する中空ドリルを示す図である。中空ドリル15は、ドリル本体に対し交換可能な棒状の部材であり、螺旋状に成形されたドリル部15aと、ドリル本体に取り付ける接続部15bとからなる。尚、中空ドリル15は、ドリル部15aの先端から接続部15bの根元まで孔が空いており、内部は中空である。
【0039】
中空ドリル15の直径は、サイザー13の計測孔13d、13eの直径と同じものが用意され、0.01以上0.50未満ミリメートル刻みで骨孔14cの大きさを調整することができる。靭帯の箇所により増加量を適切に変えることができる。
【0040】
即ち、図3のサイザーの計測孔13eを使用する場合、直径3ミリメートル、直径3.25ミリメートル、直径3.5ミリメートル、直径3.75ミリメートル、直径4ミリメートルのように、0.25ミリメートル刻みで5本の中空ドリル15を用意する。
【0041】
図7は、本発明である靭帯再建において骨孔が形成された状態を示す正面図である。図8は、本発明である靭帯再建において骨孔が形成された状態を示す側面図である。尚、MPFL再建の例である。
【0042】
例えば、骨孔形成10の実行に際し、作成した移植靭帯の長さが16センチメートルで、計測した直径が、二重折りにした中心部で6ミリメートル、両端部で4.5ミリメートルであったとする。
【0043】
大腿骨14aには直径6ミリメートルの骨孔14cを約20ミリメートルの深さまで掘削した後、直径4.5ミリメートルのドリルで反対側の皮質骨まで貫通させる。また、深さゲージで貫通した骨トンネルの全長を計測しておく。
【0044】
膝蓋骨14bには直径4.5ミリメートルの骨孔14dを約20ミリメートルの深さまで掘削する。尚、ガイドピンをハの字状にやや開き気味に挿入しておき、前方や後方に向きすぎないように調整する。
【0045】
移植靭帯固定11は、移植靭帯を大腿骨の骨孔と膝蓋骨の骨孔に挿入し、大腿骨と膝蓋骨とを繋いでMPFLを再建する。尚、MPFL再建後に、屈伸に伴い膝蓋骨が整復されていること、MPFLが関節内から緊張していること等を関節鏡で観察する。
【0046】
図9は、本発明である靭帯再建において移植靭帯を固定した状態を示す図である。患者の右脚の膝関節14を正面から見た図であり、半腱様筋腱の移植によりMPFLを再建した状態である。
【0047】
大腿骨14aの骨孔14cにエンドボタンCL等の固定具16aを付けた移植靭帯16の中心部を挿入し、膝蓋骨14bの2つの骨孔14dにそれぞれ移植靭帯16の両端部を挿入し、固定する。
【0048】
大腿骨14a側については、骨トンネルの反対側に出した固定具16aのエンドボタンを、MPFL固定用孔12gを利用して固定する。尚、固定具16aの糸の長さは、骨トンネルの全長から確定しておく。
【0049】
膝蓋骨14b側については、孔の空いているガイドピンを利用して、移植靭帯16の両端部に付けた糸を膝蓋骨14bの外側に誘導し、固定具16aのエンドボタンで縫合し、膝蓋骨14bの位置を調整する。
【0050】
以上のように、本発明である靭帯再建器具は、移植する靭帯の束を0.01以上0.50未満ミリメートル単位で採寸することができ、そのサイズに合わせて0.01以上0.50未満ミリメートル刻みで骨孔を空けることができる。また、骨孔を必要最小限のサイズに微調整することができるので、掘削量も最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明である靭帯再建の流れを示す図である。
【図2】本発明である靭帯再建において皮切する箇所を示す図である。
【図3】本発明である靭帯再建において移植靭帯の直径を採寸するサイザーを示す図である。
【図4】本発明である靭帯再建において開いた状態のサイザーを示す図である。
【図5】本発明である靭帯再建において骨孔をドリリングしている状況を示す図である。
【図6】本発明である靭帯再建においてドリリングに使用する中空ドリルを示す図である。
【図7】本発明である靭帯再建において骨孔が形成された状態を示す正面図である。
【図8】本発明である靭帯再建において骨孔が形成された状態を示す側面図である。
【図9】本発明である靭帯再建において移植靭帯を固定した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 靭帯再建
2 皮切
3 関節内観察
4 腱採取
5 靭帯剥離
6 ガイドピン刺入
7 移植靭帯全長決定
8 移植靭帯作製
9 サイジング
10 骨孔形成
11 移植靭帯固定
12 脚
12a 膝蓋骨
12b 内側膝蓋下穿刺孔
12c 外側膝蓋下穿刺孔
12d 外側膝蓋上穿刺孔
12e 半腱様筋腱採取孔
12f MPFL再建用孔
12g MPFL固定用孔
13 サイザー
13a 基部
13b 可動部
13c 可動部
13d 計測孔
13e 計測孔
13f 留具
14 膝関節
14a 大腿骨
14b 膝蓋骨
14c 骨孔
14d 骨孔
15 中空ドリル
15a ドリル部
15b 接続部
16 移植靭帯
16a 固定具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の計測孔により移植靭帯の直径を計測できるサイザーと、前記サイザーの計測孔と同じサイズの直径の中空ドリルとからなり、靭帯を再建する際、骨に移植靭帯に合うサイズの骨孔を掘削できることを特徴とする靭帯再建器具。
【請求項2】
サイザーの計測孔を0.01以上0.50未満ミリメートル刻みで設けることにより、移植靭帯の直径を0.01以上0.50未満ミリメートル刻みで採寸でき、骨孔を0.01以上0.50未満ミリメートル刻みで掘削できることを特徴とする請求項1に記載の靭帯再建器具。
【請求項3】
内側膝蓋大腿靭帯の再建において使用することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の靭帯再建器具。
【請求項4】
サイザーの計測孔を0.25又は0.20又は0.10ミリメートル刻みで設け、中空ドリルの直径も0.25又は0.20又は0.10ミリメートル刻みで設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の靭帯再建器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−264155(P2008−264155A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110351(P2007−110351)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(304034772)株式会社イソメディカルシステムズ (1)
【Fターム(参考)】