説明

靭帯細胞賦活剤

【課題】衰えた靭帯細胞を賦活化させ、美容や医療の分野に適用できる靭帯細胞賦活剤を提供する。
【解決手段】セイヨウバラエキス、ヨモギエキスから選ばれた一種以上を含むこととする。またこの靭帯細胞賦活剤を配合した靭帯細胞賦活用皮膚外用剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は靭帯細胞賦活剤に関し、特に衰えた靭帯細胞を賦活化させ、靭帯の状態を改善する靭帯細胞賦活剤およびそれを用いた靭帯細胞賦活用皮膚外用剤、靭帯細胞賦活化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、顔面形態の加齢変化に関する研究が進められてきた。顔面には、表情筋と呼ばれる皮膚を動かし、表情の創出に関与する筋が存在するが、加齢や使用頻度低下に伴い、この筋が衰弱すると、表情が乏しくなり、顔面の皮膚にたるみが生じると考えられている。顔面の皮膚のたるみは、美容上の大きな悩みの一つであり、従来は、マッサージや、表情筋を鍛えるエクササイズ等、様々な美容施術が行われており、近年では、アズキ豆抽出物が表情筋の筋細胞を賦活化する作用を有していることが見出され、これを用いて顔面のたるみを防止、改善する薬剤が開発されている(特許文献1参照)。
一方、靭帯は顔面形態を支える繊維性の構造体であるが、靭帯が緩むと顔面のたるみが生じる。そこで靭帯の手術をしたところ、たるみが改善された旨の報告がある(非特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2007−230965号公報
【非特許文献1】Plastic And Reconstructive Surgery,110,1134
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は以上述べたような従来の事情に対処してなされたもので、靭帯を手術することなく賦活化させることができ、これを美容又は医療の分野に活用することが可能な靭帯細胞賦活剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題の解決に向けて鋭意検討を重ねた結果、特定の植物抽出物に優れた靭帯細胞の賦活化活性が認められることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明は、セイヨウバラエキス、ヨモギエキスから選ばれた一種以上を含むことを特徴とする靭帯細胞賦活剤である。
【0007】
また本発明は、セイヨウバラエキス、ヨモギエキスから選ばれた一種以上を含むことを特徴とする靭帯細胞賦活用皮膚外用剤である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の靭帯細胞賦活剤は、衰えた靭帯を賦活化させ、加齢などによって支持力の低下した表情筋を引き上げて美容の分野に適用することができる。また、靭帯細胞を賦活化させることにより、靭帯の損傷を伴なう怪我、子宮脱等の疾患を改善することができる。
本発明の靭帯細胞賦活用皮膚外用剤は、上記靭帯細胞賦活剤を外用の基剤に配合することにより、靭帯を手術することなく外用によって賦活化させることができ、美容や医療などに活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の最良の実施の形態について説明する。
本発明の靭帯細胞賦活剤は、セイヨウバラエキス、ヨモギエキスから選ばれた一種以上を含むものである。
セイヨウバラは、バラ科バラ属で、学名は、Rosa centifolia Linne (Rosaceae)である。セイヨウバラエキスは繊維素溶解活性阻害作用や、美白作用を有していることは知られているが(特開2000−327555号公報、特開2002−29959号公報)、靭帯賦活作用があることについてはこれまで全く知られていない。また特開2002−241299号公報、特開2004−359632号公報、特開2005−206568号公報、特開2006−241148号公報、特開2007−186457号公報には、バラ科バラ属の植物抽出物による、しわ・たるみ改善の記載があるが、靭帯に関する記載はない。
【0010】
さらにヨモギは、キク科ヨモギ属で、ヨモギ(Artemisia princeps Pampanini)、モウコヨモギ(Artemisia mongolia)、ヤマヨモギ(Artemisia montata Pampanini)が含まれる。ヨモギエキスは、防腐作用、殺菌作用、血行促進作用、毛細血管透過性の抑制作用があることが知られているが、靭帯賦活作用があることについてはこれまで全く知られていない。
【0011】
本発明に用いられる植物エキスは、上記植物の葉、地下茎を含む茎、根、花、植物全草等を抽出溶媒と共に浸漬または加熱還流した後、濾過し、濃縮して得られる。本発明に用いられる抽出溶媒は、通常抽出に用いられる溶媒であれば何でもよく、特にメタノール、エタノール、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類、含水アルコール類、水、アセトン、酢酸エチルエステル等の有機溶媒を単独あるいは組み合わせて用いることができるが、水、アルコール類、含水アルコール類が特に好ましい。本発明の靭帯細胞賦活剤は上記植物エキスからなるものであるが、上記植物を単独で用いた植物抽出物であっても、あるいは混合して用いた植物抽出物であっても良い。
【0012】
各植物の好ましい抽出部位としては、セイヨウバラは花、ヨモギは葉である。但し、それぞれの植物は、葉、花、茎、根、果実等の他の部位の抽出物も用いることが出来る。
これらの植物は、自生したものであっても、あるいは栽培された植物であってもよい。
セイヨウバラエキス、ヨモギエキスは市販されたものを用いることができ、例えばセイヨウバラエキスについてはセイヨウバラエキスBG(丸善製薬社製)が挙げられる。
【0013】
なお、本発明の靭帯細胞賦活剤は、実質的に上記植物エキスの一種または二種以上からなる配合原料であるが、他の成分を含んでいてもよい。この靭帯細胞賦活剤が基剤中に配合されて、湿布剤、イオン導入剤、外用剤などの形で適用される。
【0014】
本発明の靭帯細胞賦活用皮膚外用剤中における上記植物エキスの配合量は、セイヨウバラエキスおよびヨモギエキスの乾燥物換算で0.0005〜1質量%が好ましく、さらに好ましくは0.001〜0.01質量%である。
【0015】
本発明の靭帯細胞賦活用皮膚外用剤は、本発明による靭帯細胞賦活剤を皮膚外用剤の基剤に配合して製造される。本発明の靭帯細胞賦活用皮膚外用剤は、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば、美白剤、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、水性成分、水、各種皮膚栄養剤、各種薬剤、キレート剤、pH調製剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0016】
本発明の靭帯細胞賦活用皮膚外用剤とは、医薬品、医薬部外品、化粧品等の分野にて、皮膚に適用される組成物を意味する。その剤型は本発明の効果が発揮される限り限定されない。軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤など、従来、皮膚外用剤に用いられる製品であれば、いずれでもよい。
【0017】
本発明の靭帯細胞賦活化方法は、セイヨウバラエキス、ヨモギエキスから選ばれた一種以上を湿布剤、イオン導入剤、外用剤などの形で、皮膚から吸収するという方法によって実現される。
【実施例】
【0018】
本発明について以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれによりなんら限定されるものではない。配合量は特記しない限り質量%で示す。
まず、本発明の靭帯細胞賦活効果に関する試験方法とその結果について説明する。
【0019】
A.植物抽出物の調製
セイヨウバラエキスについてはセイヨウバラエキスBG(丸善製薬社製)、ヨモギエキスについては水を用いて常法により抽出したものを用いて以下の実験を行った。
【0020】
B.靭帯細胞賦活効果の測定方法およびその結果
(1)靭帯細胞賦活効果の測定方法
靭帯細胞賦活効果の測定は、靭帯細胞の呼吸活性促進作用を指標にして行った。
24穴プレートに靭帯細胞を播種し、6時間後に低血清培地に交換した。12時間後に、所定濃度になるように希釈した薬剤とアラマブルー(alamablue)を添加し、3時間後に蛍光強度を測定した(励起光:550nm、測定光:590nm)。薬剤無添加の時の蛍光強度を100%とし、その相対値(% of control)で靭帯細胞賦活効果を評価した。
【0021】
(2)靭帯細胞賦活効果の測定結果
セイヨウバラエキスBGを0.0005質量%、0.001質量%、0.002質量%(乾燥物換算)となるように添加した時の蛍光強度を、薬剤無添加の時の蛍光強度に対する相対値で表した結果(% of control)を図1に示す。図1から、セイヨウバラエキスは0.0005質量%で有意に靭帯細胞賦活効果を有していることが分かる。
また、ヨモギ抽出液を0.001質量%(乾燥物換算)となるように添加した時の蛍光の相対強度を測定した結果を図2に示す。図2から、ヨモギエキスは0.001質量%で有意に靭帯細胞賦活効果を有していることが分かる。
したがってこれらの抽出物は、靭帯細胞賦活剤として有効であることが分かる。
【0022】
上記と同じ方法で、セイヨウバラエキスと他のバラ科植物(ノバラ、トウニン)について、上記と同様の試験を行った結果を図3に示す。なお、各植物エキスは0.001質量%(乾燥物換算)を用いた。
図3から、セイヨウバラエキス以外のノバラエキスやトウニンエキスには靭帯細胞賦活効果が認められないことが分かる。
【0023】
以下に種々の剤型の本発明による靭帯細胞賦活剤を用いた実施例を示すが、本発明はこの処方例によって何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲によって特定されるものであることはいうまでもない。
【0024】
実施例1(油性ファンデーション)
配合成分 配合量(質量%)
微粒子酸化チタン 10.0
マイカ 22.4
カオリン 10.0
ナイロンパウダー 5.0
赤酸化鉄 0.5
黄酸化鉄 0.5
黒酸化鉄 0.1
流動パラフィン 残量
ジメチルポリシロキサン 10.0
セスキオレイン酸ソルビタン 2.0
オクチルメトキシシンナメート 5.0
セイヨウバラエキス 0.001(乾燥残分)
香料 適量
マイクロクリスタリンワックス 6.0
カルナウバロウ 3.0
【0025】
(製造方法)
微粒子酸化チタン,マイカ,カオリン,ナイロンパウダー,赤酸化鉄,黄酸化鉄及び黒酸化鉄をブレンダーで十分に混合粉砕した(粉末部)。香料以外の他の成分を混合し、85℃で加熱融解した(油相)。この油相に前記粉末を攪拌しながら添加した。次いで香料を添加し、よく磨砕分散した後、これを容器に充填,成型し、油性ファンデーションを得た。
【0026】
実施例2(乳液)
配合成分 配合量(質量%)
ステアリン酸 6.0
ソルビタンモノステアリン酸エステル 2.0
ポリオキシエチレン(20モル)ソルビタンモノステアリン酸エステル 1.5
2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール 8.0
プロピレングリコール 10.0
セイヨウバラエキス 0.001(乾燥残分)
ヨモギエキス 0.001(乾燥残分)
防腐剤・酸化防止剤 適量
香料 適量
精製水 残量
【0027】
(製造方法)
精製水にプロピレングリコールを加え、加熱して70℃に保った(水相)。一方、他の成分を混合して加熱溶融し、70℃に保った(油相)。前記水相に、この油相を攪拌しながら添加して予備乳化を行った。次いで、ホモミキサーで系の乳化粒子を細かく,かつ均一化した後、よく攪拌しながら急冷し、乳液を得た。
【0028】
実施例3(クリーム)
配合成分 配合量(質量%)
ポリオキシエチレン(20モル)セチルアルコールエーテル 1.0
メチルフェニルポリシロキサン(20cs) 2.0
流動パラフィン 3.0
2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン 5.0
セイヨウバラエキス 0.002(乾燥残分)
プロピレングリコール 5.0
グリセリン 2.0
エチルアルコール 15.0
カルボキシビニルポリマー 0.3
ヒドロキシプロピルセルロース 0.1
2−アミノメチルプロパノール 0.1
防腐剤 適量
香料 適量
精製水 適量
【0029】
(製造方法)
精製水にプロピレングリコールを加え、加熱して70℃に保った(水相)。一方、他の成分を混合して加熱溶融し、70℃に保った(油相)。前記水相に、この油相を攪拌しながら添加して予備乳化を行った。次いで、ホモミキサーで系の乳化粒子を細かく,かつ均一化した後、よく攪拌しながら急冷し、クリームを得た。
【0030】
実施例4(軟膏)
配合成分 配合量(質量%)
セイヨウバラエキス 1(乾燥残分)
パルミチン酸レチノール 0.5
ステアリルアルコール 18.0
モクロウ 20.0
ポリオキシエチレン(20)モノオレイン酸エステル 0.25
グリセリンモノステアリン酸エステル 0.3
ワセリン 40.0
精製水 残余
【0031】
(製造方法)
精製水にセイヨウバラエキスを加えて溶解し、70℃に保つ(水相)。残りの成分を70℃にて混合溶解する(油相)。水相に油相を加え、ホモミキサーで均一に乳化後、冷却して軟膏を得た。
【0032】
実施例5(貼付剤)
配合成分 配合量(質量%)
(1)セイヨウバラエキス 0.001(乾燥残分)
(2)クロタミトン 3.2
(3)パナセート875R 2.5
(4)スクワラン 1.0
(5)dl−カンフル 0.07
(6)ポリオキシエチレン(60モル)硬化ヒマシ油 1.2
(7)濃グリセリン 5.0
(8)ゼラチン 1.2
(9)ポリビニルピロリドンK−90 0.6
(10)メチルパラベン 適量
(11)d−ソルビトール液 35.0
(12)水酸化アルミニウム 0.2
(13)尿素 1.3
(14)亜硫酸ナトリウム 適量
(15)エデト酸ナトリウム 適量
(16)クエン酸 適量
(17)ハイビスワコー104R 0.22
(18)ポリアクリル酸ナトリウム 0.24
(19)カルボキシメチルセルロースナトリウム 2.8
(20)カオリン 1.0
(21)精製水 残量
【0033】
実施例6(イオン導入剤)
配合成分 配合量(質量%)
セイヨウバラエキス 0.002(乾燥残分)
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
ヒアルロン酸 0.05
クエン酸(食品) 0.35
イオン交換水 87.6
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】セイヨウバラエキスについて、濃度を変化させて用いた時の蛍光の相対強度を測定した結果を示す図である。
【図2】ヨモギエキスについて、濃度を0.001%乾燥残分とcontrolの蛍光の相対強度を測定した結果を示す図である。
【図3】セイヨウバラエキスと他のバラ科植物を用いた時の蛍光の相対強度を測定した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セイヨウバラエキス、ヨモギエキスから選ばれた一種以上を含むことを特徴とする靭帯細胞賦活剤。
【請求項2】
セイヨウバラエキス、ヨモギエキスから選ばれた一種以上を含むことを特徴とする靭帯細胞賦活用皮膚外用剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−96768(P2009−96768A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271118(P2007−271118)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】