説明

靴の中敷、及び靴、及び靴下

【課題】 本発明は、着用者の動作性能をより向上させることができる中敷を提供することを課題とする。
【解決手段】 足裏のアーチ部内側に対応する領域6、足裏のアーチ部外側に対応する領域7、及び足裏の母趾中足骨頭部に対応する領域4に於ける中敷表面の動摩擦係数が、足裏のアーチ部内側に対応する領域6>足裏のアーチ部外側に対応する領域7>足裏の母趾中足骨頭部に対応する領域4の順の大きさに形成されている靴の中敷を解決手段とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着用者の動作性能を向上させることができる靴の中敷、及びこれを備える靴、並びに靴下に関する。
【背景技術】
【0002】
競技スポーツなどに於いて、着用者の動作性能を向上させるためには、足の力が靴を通じて、地面へ効果的に伝わることが重要である。その要素の一つとして、足裏と中敷きの間に発生する滑りの抑制が、従来より注目されている。
例えば、特許文献1の第1図などに、前方足裏部分に滑り止め用の凹凸やゴム等を設けた中敷が開示されている。また、特許文献2には、足親指と他の4足指とが踏圧する位置、又は足親指と足親指から土踏まずの間の丘部とが踏圧する位置に、摩擦抵抗を高めるパッド層を設けた中敷が開示されている。さらに、特許文献3には、着用者の足を支持するため多数の滑り止め小突起が形成しつつ、足の圧力が強く作用する部分の小突起を設けないようにした中敷が開示されている。
【0003】
上記特許文献1の中敷は、足裏前方部分に滑り止め手段が設けられた靴下と相乗して、足裏前方部分に於ける足の動きと力を靴に伝えることができる旨が記載されている。また、特許文献2の中敷は、足親指と他の4足指とが踏圧する位置などに於いて足が滑ることを防止できるので、人体の足親指と他の4足指のパワー、又は足親指と足親指から土踏まずの間の丘部のパワーがシューズに十分に伝達し、各種の動作を敏捷に行うことができる旨が記載されている。さらに、特許文献3の中敷は、多数の滑り止め小突起によって前後方向若しくは横方向の滑りを抑止することができるが、足の圧力が強く作用する部分に小突起を設けないので、滑りを抑制しつつ足裏の痛みを軽減できることが開示されている。
【0004】
上記各特許文献に記載の中敷きは、何れも足裏の押圧力が比較的大きく加わる部分、すなわち、垂直荷重が比較的大きく加わる部分に滑り止め処理を施すことにより、垂直荷重が大きい足裏部分と中敷とを恰も一体化でき、これにより動作性能を向上させることができるという考えを根底としている。尚、特許文献3の中敷は、足裏の痛みを軽減するという異なる目的を達成するため、足の押圧力が大きく加わる部分に小突起を設けない構成が開示されているが、前後方向若しくは横方向の滑りを抑止するためには、足の押圧力が大きく加わる部分に多数の滑り止め突起を設けるのが良いという根本的な考えは同様である。
なるほど、垂直荷重が大きく加わる部分に於いて、中敷と足裏が滑らないようにすれば、一見、足の力が靴に十分に伝わり、動作性能を向上させることができるようにも思える。
しかしながら、本発明者らの研究によれば、垂直荷重が大きく加わる部分に滑り止め処理を施した中敷は、着用者の動作性能を十分に向上させるものとは言えないことが判明した。
【0005】
【特許文献1】実開昭61−160706号公報
【特許文献2】登録実用新案第3067231号公報
【特許文献3】実開昭59−66409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、着用者の動作性能をより向上させることができる中敷、及びこれを備える靴、並びに靴下を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、下記に示す通り、1)滑り止め処理が施されていない中敷、2)垂直荷重が大きく加わる領域に滑り止め処理を施した中敷、3)垂直荷重が大きく加わらない領域に滑り止め処理を施した中敷、4)全体に滑り止め処理を施した中敷、をそれぞれ準備し、それらの運動性能を確認する試験を行った。
1)滑り止め処理が施されていない中敷:足型に型取った厚み3mmの発泡ウレタン製の中敷本体の表面に、動摩擦係数(測定方法は別項に示す通り。以下同様)が0.13のカバーシート(乾義興製、商品名:BIG BK)を貼着したもの。
2)垂直荷重が大きく加わる領域に滑り止め処理を施した中敷:上記1)の中敷(発泡ウレタン製の中敷本体の表面にカバーシートを貼着したもの)のカバーシート表面のうち、図1に示す、母趾中足骨頭部に対応する領域4と第2〜5趾中足骨頭部に対応する領域5と踵部に対応する領域8のそれぞれ全域に、動摩擦係数が1.185の防滑シート(住友スリーエム(株)製、商品名:グレップタイル)を貼着したもの。
3)垂直荷重が大きく加わらない領域に滑り止め処理を施した中敷:上記1)の中敷きのカバーシート表面のうち、図1に示す、基節骨部に対応する領域3とアーチ部内側に対応する領域6とアーチ部外側に対応する領域7のそれぞれ全域に、動摩擦係数が1.185の防滑シート(同上)を貼着したもの。
【0008】
上記1)〜3)の中敷を市販のスポーツシューズの中敷として嵌め込み、任意に抽出した6人の被験者に反復横飛びを10秒間行ってもらい、方向転換する際に於ける床接地時間を測定した。尚、測定は、反復横飛びの右足方向転換位置に床反力計を設置し、それによって取り込まれた床反力データから、反復横飛び運動で方向転換をする毎に、靴が床に何秒間接地しているかをそれぞれ測り、その時間を平均することにより、被験者それぞれの方向転換1回当たりの接地時間を求めた。
そして、6人の被験者の方向転換1回当たりの接地時間の平均を求めた結果、上記1)の中敷の接地時間は0.208秒、2)の中敷は0.207秒、3)の中敷は0.201秒であり、3)の中敷を使用した場合、接地時間が有意に短くなった。
【0009】
上記結果から、2)垂直荷重が大きく加わる領域に滑り止め処理を施した中敷きは、1)全く滑り止め処理を施さない中敷よりは、動作性能が僅かに優れていると言えるが、3)垂直荷重が大きく加わらない領域に滑り止め処理を施した中敷に比して、接地時間が長く、着用者の動作性能は明らかに劣ることが判明した。
この結果に基づき、本発明者らは、前後方向や横方向などの運動をする際には、足裏の水平方向へ作用する力が重要であることを確認できた。そして、足裏の各部分に於いて水平方向への力をできるだけ均一化するようにすれば、足裏の各部分に於ける水平方向への力をバランス良く発揮させることができ、これが、動作性能の向上に貢献するものと考えられる。このことは、上記3)の中敷が動作性能に優れる一方、上記2)の中敷のように、垂直荷重が大きく加わる領域に滑り止め処理を施したものは、その部分に於ける水平方向への力が極度に大きくなり過ぎて、バランスを崩し、動作性能が余り向上しない結果と合致する。
尚、水平方向の力(摩擦力)は、垂直荷重×動摩擦係数で表され、中敷の垂直荷重が大きい部分に対応する領域の動摩擦係数を小さくし、垂直荷重が小さい部分に対応する領域の動摩擦係数を大きくすることにより、運動時、足裏の水平方向へ作用する力の均一化を図ることができる。
【0010】
そこで、本発明は、足裏が接する靴の中敷に於いて、中敷表面に、動摩擦係数の異なる領域が複数形成されており、足裏の押圧力が大きく加わる領域に於ける動摩擦係数を小さく、足裏の押圧力が小さく加わる領域に於ける動摩擦係数を大きく形成してなる中敷表面を有する靴の中敷を提供する。
本発明の中敷は、足裏の押圧力が大きく加わる領域は動摩擦係数を小さく形成し、足裏の押圧力が小さく加わる領域は動摩擦係数を大きく形成してなるので、運動時の足裏の各領域に於ける水平方向の力(摩擦力)を、より均一化させることができる。かかる中敷を使用することにより、着用者の動作性能をより向上させることができる。
【0011】
また、本発明は、足裏が接する靴の中敷に於いて、足裏のアーチ部内側に対応する領域、足裏のアーチ部外側に対応する領域、及び足裏の母趾中足骨頭部に対応する領域に於ける中敷表面の動摩擦係数が、それぞれ下記の関係に形成されている靴の中敷を提供する。各領域の動摩擦係数の関係:足裏のアーチ部内側に対応する領域>足裏のアーチ部外側に対応する領域>足裏の母趾中足骨頭部に対応する領域。
【0012】
足裏の各領域に於ける中敷表面に加わる押圧力は、競技や動作の内容に応じて変わることがあるが、中敷表面のうち、足裏のアーチ部内側に対応する領域、足裏のアーチ部外側に対応する領域、及び足裏の母趾中足骨頭部に対応する領域に加わる押圧力は、競技や動作の内容に拘わらず、足の構造上、足裏の母趾中足骨頭部に対応する領域領域が最も大きく、次に足裏のアーチ部外側に対応する領域、次に足裏のアーチ部内側に対応する領域の順であると考えられる。
従って、少なくともこの領域に於ける中敷表面の動摩擦係数を、足裏のアーチ部内側に対応する領域>足裏のアーチ部外側に対応する領域>足裏の母趾中足骨頭部に対応する領域、の大きさに形成することにより、これら領域に於ける水平方向の力(摩擦力)をより均一化させることができる。
【0013】
さらに、本発明の好ましい態様では、上記アーチ部内側に対応する領域が、動摩擦係数0.5〜2に形成され、アーチ部外側に対応する領域が、動摩擦係数0.3〜1.25に形成され、母趾中足骨頭部に対応する領域が、動摩擦係数0.1〜0.5に形成されている上記靴の中敷を提供する。
【0014】
また、本発明の第2の手段は、上記中敷が足裏接触面に設けられている靴を提供する。
さらに、本発明の第3の手段は、靴下外面に、動摩擦係数の異なる領域が複数形成されており、足裏の押圧力が大きく加わる領域に於ける動摩擦係数を小さく、足裏の押圧力が小さく加わる領域に於ける動摩擦係数を大きく形成してなる靴下外面を有する靴下を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る靴の中敷、靴及び靴下によれば、運動時、着用者の足裏の各部分に於ける水平方向への力をバランス良く発揮させることができ、着用者の動作性能をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について、図面を参照しつつ具体的に説明する。
図1に於いて、10は、所定の足型を型取った中敷本体の表面(足裏が接する面)の所定領域に滑り止め処理が施された中敷を示す。
【0017】
中敷本体は、従来公知のものが使用できる。中敷本体としては、例えば、ポリウレタン、EVAなどの柔軟性に優れた発泡樹脂成形体が好ましいが、非発泡のものでもよく、又、合成樹脂以外、例えば皮革などを使用することもできる。また、中敷本体は、多層積層体からなるものでもよい。このような積層構造の中敷本体としては、例えば、本件出願人が既に出願した特開平11−151102号公報記載のものなどが例示される。
また、中敷本体は、従来公知のものと同様に、その表面形状が平坦状に形成されていてもよく、又、足裏の凹凸に沿って中敷表面が足裏に略接するように、中敷本体の表面形状が凹凸状に形成されていてもよい。例えば、アーチ部内側(土踏まず部)に対応する中敷表面部分が、盛り上がった形状に形成されている中敷本体などが例示される。
さらに、中敷本体の表面は、布などで被覆されていてもよいし、中敷本体の材質がそのまま露出しているもの(例えば発泡樹脂のスキン層など)でもよい。
【0018】
次に、本発明の特徴部分である中敷の表面の構造について説明する。
本発明は、上述の通り、着用者の動作性能を向上させる効果を得るために、足裏の各部分に於いて水平方向への力をできるだけ均一化するという着想の下になされたものである。水平方向の力をできるだけ均一化することは、水平方向の力(摩擦力)=垂直荷重×動摩擦係数から、各領域のうち、足裏の押圧力(垂直荷重)が大きく加わる領域は動摩擦係数を小さくし、足裏の圧力が小さく加わる領域は動摩擦係数を大きくするという、中敷表面の各領域に於ける動摩擦係数を垂直荷重に応じて調整することにより達成することができる。従って、中敷表面に加わる足裏の押圧力分布に応じて、中敷表面を非常に細かい領域に分け、水平方向の力が各領域で略一定となるように、それぞれの領域に於ける動摩擦係数を段階的に異ならせることが理想的と言える。
しかしながら、一品製作的なものは別として、余りに細かく且つ多くの領域に分けることは工業製品として非現実的であり、又、競技や動作の内容(運動の種類)によって足裏の押圧力分布も変化する。
【0019】
このような点を考慮して、本発明では、足裏の各部に対応する中敷表面を図1に示すような8つの領域に分け、そのうち競技内容に拘わらずに垂直荷重の大きさの関係が変わらない領域を選定した。
ここで、図1の二点鎖線は、中敷表面を8つの領域に区分けする仮想線であり、1は、足裏の母趾末節骨部に対応する領域(以下、「領域1」という場合がある)、2は、足裏の第2〜5趾末節骨部に対応する領域(同「領域2」)、3は、足裏の基節骨部に対応する領域(同「領域3」)、4は、足裏の母趾中足骨頭部に対応する領域(同「領域4」)、5は、足裏の第2〜5趾中足骨頭部に対応する領域(同「領域5」)、6は、足裏のアーチ部内側に対応する領域(同「領域6」)、7は、足裏のアーチ部外側に対応する領域(同「領域7」)、8は、足裏の踵部に対応する領域(同「領域8」)、をそれぞれ示す。
【0020】
上記のように、8つの領域に中敷表面を区分けした場合であっても、競技や動作内容によって、各領域1〜8に加わる足裏の押圧力(垂直荷重)は異なる場合がある。例えば、100m走のスタートダッシュのような動作の場合、領域4に加わる垂直荷重は、領域8よりも大きく、一方、バドミントン等のバックステップのような動作の場合、反対に、領域8は、領域4よりも大きい。
この点、様々な動作に於ける足裏の押圧力分布のデータ、および、足の構造上の特徴から検討したところ、上記領域6、領域7、及び領域4に加わる垂直荷重の関係は、動作内容に拘わらず、領域4が大きく、次に領域7、次に領域6の順となると考えられる。
従って、少なくとも、この3つの領域4,6,7に於ける中敷表面の動摩擦係数を、領域6が大きく、次に領域7、次に領域4の順とすることにより、動作時に於ける水平方向の力をできるだけ均一化することができる。
すなわち、中敷表面の領域4,6,7に於ける動摩擦係数を、「アーチ部内側に対応する領域6>アーチ部外側に対応する領域7>母趾中足骨頭部に対応する領域4」の大小関係となるように形成する。
【0021】
上記3つの領域4,6,7の関係は、競技内容に拘わらず汎用的なものであり、本発明では、中敷表面の領域4,6,7に於ける動摩擦係数が、領域6>領域7>領域4の関係に形成されていれば、その他の領域1,2,3,5,8に於ける動摩擦係数は適宜設計できる。
例えば、100M走のスタートダッシュのような動作の場合、各領域1〜8のうち、領域4,6,7,8に加わる足裏の押圧力(垂直荷重)は、領域4>領域8>領域7>領域6となることが判っている。従って、この場合には、中敷表面の領域4〜7に於ける動摩擦係数は、領域6>領域7>領域8>領域4に形成することが好ましい。
また、例えば、バドミントン等のバックステップに対応するような動作の場合、各領域1〜8のうち、領域4,6,7,8に加わる足裏の押圧力(垂直荷重)は、領域8>領域4>領域7>領域6となることが判っている。従って、この場合には、中敷表面の領域4〜7に於ける動摩擦係数は、領域6>領域7>領域4>領域8に形成することが好ましい。
また、上記全ての領域1〜8を含めた足裏の押圧力(垂直荷重)の関係は、例えば、反復横飛びの場合、領域4>領域8>領域1>領域5>領域2>領域7>領域3>領域6であるため、中敷表面の領域1〜8に於ける動摩擦係数は、領域6>領域3>領域7>領域2>領域5>領域1>領域8>領域4に形成すればよい。
【0022】
領域4,6,7に於ける動摩擦係数は、上記のように領域6>領域7>領域4であるが、各領域4,6,7に於ける動摩擦係数の具体的な数値としては、その領域に加わる足裏の圧力に応じて適宜設定される。領域4,6,7のうち、最も足裏の押圧力が大きく加わるのは領域4であって、例えば反復横飛び運動時、この領域4に於ける足裏の押圧力(垂直荷重)は、約246N程度で、領域7に於ける足裏の押圧力(垂直荷重)は、約18.6N程度で、領域6に於ける足裏の押圧力(垂直荷重)は、約9.8N程度であるため、領域4に於ける動摩擦係数は、0.1〜0.5程度、好ましくは、0.3程度、領域7に於ける動摩擦係数は0.3〜1.25程度、好ましくは0.8程度、領域6に於ける動摩擦係数は0.5〜2.0程度、好ましくは1.2程度に形成される。また、領域4,6,7間に於ける動摩擦係数は、それぞれ0.2以上の差を有するように形成されていることが好ましい。
【0023】
ここで、本発明の動摩擦係数は、下記のようにして測定された数値をいう。
動摩擦係数の測定には、測定対象となるサンプルを取り付ける固定台と、相手材料を取り付ける可動おもりとを準備する。測定対象である中敷表面の上記各領域について、十分な大きさ(「相手材料の幅×移動距離」を十分に越える大きさ)を有したサンプルを用意し、平滑な固定台の上面に固定する。相手材料として、平滑な底面(幅×長さ=30×30mm)を有するアルミニウム板を可動おもりに取り付ける。可動おもりに1.0kgの分銅を乗せ、固定台の上面と平行な方向へ300mm/minの速度で移動させる。動摩擦係数は、可動おもりを20mm移動させる間の摩擦力から求める。動摩擦係数=可動おもりを20mm移動させる間の摩擦力/サンプルと相手材料との接触面に垂直方向に作用する力(垂直荷重)。
【0024】
次に、中敷表面に於ける各領域を上記のような動摩擦係数とする手段としては、中敷表面に従来公知の防滑処理を施すことが挙げられる。
例えば、領域6全域(動摩擦係数を大きく設定する領域)に防滑シート(例えば、住友スリーエム社製のグレップタイルなど)を貼り付け、領域7全域(動摩擦係数を小さく設定する領域)に、領域6よりも動摩擦係数の小さな防滑シートを貼り付け、次に領域4全域(動摩擦係数を更に小さく設定する領域)に、領域7よりも動摩擦係数の小さな防滑シートを貼る、或いは防滑シートを貼らずに中敷本体の表面を露出させる(この場合、中敷本体の表面は、上記動摩擦係数の範囲であることが条件となる)ことにより、動摩擦係数が、領域6>領域7>領域4の関係を満たす中敷を得ることができる。
また、上記防滑シートの貼着に代えて、例えば、領域6全域に防滑性材料(例えば、ウレタン樹脂や合成ゴムなどの防滑素材、乾燥後に微細な凹凸を生じる塗工液など)を塗工し、領域7全域にこれよりも動摩擦係数の小さな防滑性材料を塗工し、領域4全域は、領域7よりも動摩擦係数の小さな防滑性材料を塗工するなどでもよい。
上記のような防滑シートや防滑性材料は、その表面に実質的に凹凸を有しないか或いは微細な凹凸を有するものであって、これら防滑処理の施された表面は、着用者の足裏から凹凸の存在を認識できない実質的に平坦状であるため、着用者が足裏に痛みを感じないので好ましい。
さらに、例えば、領域6全域に滑り止め用小突起を密に形成し、領域7全域に滑り止め小突起を領域6よりも粗に形成するなどのように、凹凸形成による防滑処理を施すこともできる。尚、防滑処理として滑り止め用小突起を用いる場合には、着用者が足裏に痛みを感じない程度の滑り止め用小突起を形成することが好ましい。このような滑り止め用小突起としては、小突起の上端と、小突起の外縁から約5mm離れた部位との接触圧力差が5kg/cm以下となるように形成することが好ましい。
但し、この接触圧力差とは、ニッタ社製、足圧分布測定システム、F−スキャンで測定された数値を言う。
【0025】
また、防滑処理としては、上記のように各領域の全域に異なる防滑処理を施す以外に、各領域に於いて防滑処理を部分的に施すこともできる。
防滑処理(上記のような、防滑シートの貼付、防滑性材料の塗工、小突起の形成など)を部分的に施すとは、例えば、図2(a)に示すように、中敷表面に防滑処理を線状に施したり、同図(b)に示すように、網状に施したり、同図(c)に示すように、点状に施すことなどが例示される。そして、防滑処理を部分的に施す際、動摩擦係数を大きく設定する領域は、その領域全面積に対して防滑処理が施された面積の割合が高くなるように、防滑処理を過密に施し、摩擦係数を小さく設定する領域は、その領域全面積に対して防滑処理が施された面積の割合が小さくなるように、防滑処理を粗に施せばよい。
例えば、図3に示すように、領域6に、防滑処理を過密に施し(例えば防滑処理の幅を太く形成するなど)、領域7に、領域6よりも防滑処理を粗く施し、領域4に、領域7よりも防滑処理を粗く施す、或いは非防滑処理とすることにより、動摩擦係数が、領域6>領域7>領域4の関係を満たす中敷を得ることができる。
このように防滑処理を部分的に施し、且つその割合を各領域に応じて調整することで、例えば同じ防滑性材料を用いて動摩擦係数の異なる各領域を形成することができる。よって、例えば、防滑性材料を所定の平面形状にプリント(印刷、塗工を含む)をすることにより、動摩擦係数の異なる各領域を一時に形成することもできるので、本発明の中敷を簡単に製造できる。また、防滑性材料(必要に応じて、顔料などの着色剤を混合し)を部分的に施す防滑処理であれば、中敷表面のデザインを兼用することも可能となる。
【0026】
本発明の中敷は、靴の足裏接触面に具備させることによって靴として使用できる。中敷は、靴に嵌め入れるだけでもよいし、接着剤にて固着してもよい。また、靴の足裏接着面に直接に上記中敷の表面と同様な防滑処理を行い、本発明の靴の足裏接触面に上記中敷を一体的に形成してもよい。
また、本発明の中敷表面に施された防滑処理を、靴下の外面(下面、即ち、靴の中敷接触面)に同様に施しても、中敷に施した場合と同様に、着用者の動作性能の向上が期待される。
該靴下は、靴下外面に、動摩擦係数の異なる領域が複数形成され、足裏の押圧力が大きく加わる領域に於ける動摩擦係数を小さく、足裏の押圧力が小さく加わる領域に於ける動摩擦係数を大きく形成してなる領域を有するものである。好ましくは、足裏のアーチ部内側に対応する領域6、足裏のアーチ部外側に対応する領域7、及び足裏の母趾中足骨頭部に対応する領域4に於ける靴下外面の動摩擦係数が、足裏のアーチ部内側に対応する領域6>足裏のアーチ部外側に対応する領域7>足裏の母趾中足骨頭部に対応する領域4に形成されている靴下である。
かかる靴下を着用して靴を履く場合、上記中敷の如く動摩擦係数の異なる領域が形成されたものではなく、動摩擦係数が略均一な中敷を有する靴を履けば水平方向の力をできるだけ均一に発揮することができる。
また、防滑処理を部分的に施した中敷と防滑処理を部分的に施した靴下とを組み合わせて、両者の複合的機能によって、中敷靴下間の動摩擦係数が領域6>領域7>領域4になるように設計することでも、水平方向の力をできるだけ均一に発揮することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例を示して、本発明を更に詳述する。但し、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0028】
(試験用中敷)
足型に型取りした厚み4mmの発泡ウレタン製の中敷本体(但し、足裏の土踏まずに接するようにアーチ部内側部分が上側へ湾曲されている)表面に、動摩擦係数(測定方法は下記の通り)が0.13のカバーシート(乾義興製、商品名:BIG BK)が貼着されたもの。
【0029】
(動摩擦係数の測定)
動摩擦係数の測定には、測定対象となるサンプルを取り付ける固定台と、相手材料を取り付ける可動おもりとを準備する。測定対象である中敷表面の各領域について、20mm×30mmに切り取ったサンプルを用意し、平滑な固定台の上面に固定する。相手材料として、平滑な底面(幅×長さ=30×30mm)を有するアルミニウム板を可動おもりに取り付ける。可動おもりに1.0kgの分銅を乗せ、固定台の上面と平行な方向へ300mm/minの速度で移動させる。動摩擦係数は、可動おもりを20mm移動させる間の摩擦力から求める。動摩擦係数=可動おもりを20mm移動させる間の摩擦力/サンプルと相手材料との接触面に垂直方向に作用する力(垂直荷重)。
尚、図4に示すように、実施例の中敷きは、領域7に於いて防滑処理が密に施された部分と防滑処理が施されていない部分があり、サンプルの切り取り箇所によって動摩擦係数が大きく異なる虞があるため、便宜上、下記の方法にて算出した。領域7に於いて、防滑処理が密な部分と防滑処理のない部分を含むようにサンプル(20mm×30mm)を切り取り、このサンプルのうち防滑処理が密な部分に対して上記可動おもりを移動させて、防滑処理の密な部分のサンプルの動摩擦係数(μ1)を測定する。次に、同サンプルのうち防滑処理のない部分に対して上記と同様にして動摩擦係数(μ2)を測定する。このサンプルの防滑処理が施された面積(a1)と防滑処理のない面積(a2)の比率(A=a1+a2)から、下記式に従って平均動摩擦係数を求めた。
式:領域7の動摩擦係数=(a1/A)×μ1+(a2/A)×μ2
【0030】
(実施例)
上記試験用中敷のカバーシートの表面に、防滑性材料としてポリウレタンを、図4に示すデザイン形状と同じに、線状に塗工した。尚、図4於いて、ポリウレタンを塗工した箇所を、薄墨塗りで示す。
得られた中敷きの足裏のアーチ部内側に対応する領域6、足裏のアーチ部外側に対応する領域7、足裏の母趾中足骨頭部に対応する領域4の動摩擦係数を上記試験方法にて測定した。
その結果、足裏のアーチ部内側に対応する領域6の動摩擦係数は、約0.65、足裏のアーチ部外側に対応する領域7の動摩擦係数は、約0.3、足裏の母趾中足骨頭部に対応する領域4の動摩擦係数は、約0.13であった。
【0031】
(比較例)
上記試験用中敷を(防滑処理を施さず)そのまま使用した。
【0032】
(動作性能試験)
上記実施例及び比較例の中敷を市販のスポーツシューズ(サイズ27cm)の中敷として嵌め込み、任意に抽出した3人の試験者に反復横飛びを10秒間行ってもらい、方向転換する際に於ける床接地時間を測定した。尚、測定は、反復横飛びの右足方向転換位置に床反力計を設置し、それによって取り込まれた床反力データから、反復横飛び運動で方向転換をする毎に、靴が床に何秒間接地しているかをそれぞれ測り、その時間を平均することにより、被験者それぞれの方向転換1回当たりの接地時間を求めた。
そして、3人の被験者の方向転換1回当たりの接地時間の平均を求めた結果、実施例の中敷を具備した靴では、0.205秒で、比較例の中敷を具備した靴では、0.220秒となり、実施例の中敷を使用した場合の方が、接地時間が短くなる傾向があった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の中敷を表面側から見た平面図。尚、二点鎖線は、各領域を区画するための仮想線を示す。以下同様。
【図2】中敷表面に部分的に防滑処理を施す際の各例示態様を示す参考平面図。但し、防滑処理の施された部分を、薄墨塗りで示す。以下同様。
【図3】中敷表面の領域4,6,7に部分的に防滑処理を施した態様を示す平面図。
【図4】実施例で作製した中敷を表面側から見た平面図。
【符号の説明】
【0034】
1…足裏の母趾末節骨部に対応する領域、2…足裏の第2〜5趾末節骨部に対応する領域、3…足裏の基節骨部に対応する領域、4…足裏の母趾中足骨頭部に対応する領域、5…足裏の第2〜5趾中足骨頭部に対応する領域、6…足裏のアーチ部内側に対応する領域、7…足裏のアーチ部外側に対応する領域、8…足裏の踵部に対応する領域、10…中敷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中敷表面に、動摩擦係数の異なる領域が複数形成されており、足裏の押圧力が大きく加わる領域に於ける動摩擦係数を小さく、足裏の押圧力が小さく加わる領域に於ける動摩擦係数を大きく形成してなる中敷表面を有することを特徴とする靴の中敷。
【請求項2】
足裏のアーチ部内側に対応する領域、足裏のアーチ部外側に対応する領域、及び足裏の母趾中足骨頭部に対応する領域に於ける中敷表面の動摩擦係数が、それぞれ下記の関係に形成されていることを特徴とする靴の中敷。
各領域の動摩擦係数の関係:足裏のアーチ部内側に対応する領域>足裏のアーチ部外側に対応する領域>足裏の母趾中足骨頭部に対応する領域。
【請求項3】
前記アーチ部内側に対応する領域が、動摩擦係数0.5〜2に形成され、前記アーチ部外側に対応する領域が、動摩擦係数0.3〜1.25に形成され、前記母趾中足骨頭部に対応する領域が、動摩擦係数0.1〜0.5に形成されている請求項2記載の靴の中敷。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の中敷が、足裏接触面に設けられていることを特徴とする靴。
【請求項5】
靴下外面に、動摩擦係数の異なる領域が複数形成されており、足裏の押圧力が大きく加わる領域に於ける動摩擦係数を小さく、足裏の押圧力が小さく加わる領域に於ける動摩擦係数を大きく形成してなる靴下外面を有することを特徴とする靴下。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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