靴下
【課題】 従来の靴下は、縦足弓、横足弓の何れか一方の保護又は回復しか考慮されておらず、しかも、靴下着用中に締付部の位置がずれてしまう。
【解決手段】 靴下Sの足底部の趾球後方の位置Aから土踏まず部Bと踵部6の境界を含む位置Cにかけてウェール方向に締付力を高めた第1締付部1を設け、趾球後方の位置Aにおいてコース方向に締付力を高めた第2締付部2を周設するとともに、足首部Dにコース方向に締付力を高めた第3締付部3を周設し、さらに、土踏まず部Bと踵部6の境界を含む位置Cから足甲部の付け根の位置Eにかけてコース方向に締付力を高めた第4締付部4を周設した構成とする。
【効果】 各締付部によって横足弓及び縦足弓の形状を、共に保護及び回復する効果が得られ、靴下着用中も各締付部の位置が安定する。
【解決手段】 靴下Sの足底部の趾球後方の位置Aから土踏まず部Bと踵部6の境界を含む位置Cにかけてウェール方向に締付力を高めた第1締付部1を設け、趾球後方の位置Aにおいてコース方向に締付力を高めた第2締付部2を周設するとともに、足首部Dにコース方向に締付力を高めた第3締付部3を周設し、さらに、土踏まず部Bと踵部6の境界を含む位置Cから足甲部の付け根の位置Eにかけてコース方向に締付力を高めた第4締付部4を周設した構成とする。
【効果】 各締付部によって横足弓及び縦足弓の形状を、共に保護及び回復する効果が得られ、靴下着用中も各締付部の位置が安定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、足の適切な部位に、所要の方向に締付力を高めた締付部を確実に位置付けることによって、足の骨、靭帯、足底筋群により形成される縦足弓と横足弓の形状を正常に保ち、様々な足の障害を防ぐことができる靴下に関する。
【背景技術】
【0002】
図9は、人の右足の骨を足裏側から見た状態を、図11は、人の右足の骨を足甲側から見た状態を示したものである。人の足の骨は、図9、図11に示すように、踵骨Q1、距骨Q2、舟状骨Q3、楔状骨Q4〜Q6、立方骨Q7などのいわゆる足根骨N3と、5本の中足骨N2と、足趾骨N1から成り立っている。
【0003】
足を構成する骨の関節は、靱帯により互いに強く結合しており、足の骨格を形成している。また、足裏には、中足筋、母趾球筋、小趾球筋などの柔軟組織よりなる足底筋群が存在するため、足裏の形状は、さらに安定性を増している。これらの骨、靱帯、足底筋群によって、足底には、図10(b)に示すように、縦足弓P1(縦方向のアーチ)と横足弓P2(横方向のアーチ)が形成されている。
【0004】
縦足弓P1は、図9及び図10(a)に示すように、踵骨結節N31を起点として、距骨、舟状骨、内側楔状骨を超えて第1中足骨N21にかけてアーチを形成している内側弓(内側縦アーチ)と、踵骨結節N31を起点として立法骨を通り、第5中足骨N22にかけてアーチを形成している外側弓(外側縦アーチ)とからなる。一方、横足弓P2は、図9及び図10(a)に示すように、第1中足骨N21から第5中足骨N22にかけて形成される前アーチと、3個の楔状骨を含み、土踏まずの左側N32から右側N33にかけて形成される主アーチとからなる。
【0005】
このように、人の足裏には、骨、靱帯、足底筋群によって縦足弓P1(内側縦アーチ、外側縦アーチ)と、横足弓P2(前アーチ、主アーチ)が形成されている。これら4つのアーチからなる足底のアーチ構造は、それぞれ独立したものではなく、相互に関連して土踏まずを形成し、歩行接地時の衝撃を緩和するバネのような役割とともに、体重を足全体に分散させ、体重移動をスムーズにする重要な役割を果たしている。したがって、縦足弓P1と横足弓P2の形状を正常に保つことは、様々な足の障害を防ぐことにも繋がると考えられている。
【0006】
ところが、激しい運動や長時間の歩行などにより、足底の靱帯や足底筋群が過伸して縦足弓P1と横足弓P2のアーチ形状が保てなくなると、歩行時の衝撃吸収効果が充分に得られず、バネの役割を充分に果たすことができなくなる結果、足が疲れたり、体がだるくなる原因となる。また、足裏で衝撃を吸収できないため、足、膝の関節や股関節、ひどくなると腰、肩にまで影響を及ぼす場合があり、通院治療を受けなければならないケースもある。
【0007】
そこで、従来より、例えばフィットしない靴を履くこと等が原因で、崩れたり消失した足底の横アーチや縦アーチを、略正常状態に回復させることなどを目的とした靴下が提案されている。
【特許文献1】特開2005−312512号公報
【0008】
例えば、上記特許文献1には、第1〜第5中足骨の足裏側に対応する部分の内の少なくとも横中足靱帯の足裏側に対応する部分と、足根骨の足背側に対応する部分に、夫々、足の幅方向における引張抵抗力が他の部分より強い弾性伸縮部を配置した構成の靴下が開示されている。
【0009】
しかし、特許文献1の靴下は、血行不良やしもやけ等の症状を生じにくくすることを優先して、靴下のコース方向全周に弾性伸縮部を設けないように構成している。そのため、靴下を着用中に弾性伸縮部の位置がずれてしまうので、横アーチや縦アーチの回復を目的として弾性伸縮部を設けていても、目的の位置に継続的に締付力を与えることが出来ず、左程の効果は期待できないという問題があった。
【特許文献2】特開2006−225833号公報
【0010】
また、上記特許文献2には、少なくとも土踏まず部を横切る領域と踵骨上方を横切る領域とを結ぶ一連の領域を高弾性領域で構成し、それ以外の領域を低弾性領域で構成した靴下が開示されている。
【0011】
しかし、特許文献2の靴下は、土踏まずの位置から踵骨の上方へ向けて斜め上方に高弾性領域による引き上げ力を作用させているため、土踏まずを真上の向きに引き上げて縦足弓を保護したり、元どおりに回復させる作用は得られない上、横足弓の保護及び回復については考慮されていないものであった。
【0012】
加えて、特許文献2の靴下は、土踏まず部から左右に分かれた高弾性領域が踵の後方で再び連続しているので、靴下着用時に、土踏まずの位置よりも前方にずれることは阻止できるが、高弾性領域の位置が、土踏まずの位置よりも後方にずれることは避けられないという問題があった。そのため、靴下着用中に、高弾性領域の位置がずれてしまうので、土踏まずの引き上げを継続的に作用させることが出来ない。
【0013】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、靴下着用時においても締付部がずれることがなく、足の適切な部位に締付部を確実に位置付けることによって、足の骨、靭帯、足底筋群により形成される縦足弓と横足弓の形状を、共に正常に保つことができる靴下を提供することを目的としている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
解決しようとする課題は、従来の靴下では、(1)縦足弓、横足弓の何れか一方の保護又は回復しか考慮されていなかった点、及び、(2)靴下着用中に締付部の位置がずれてしまうので、目的の位置に継続的に締付力を作用させることができなかった点である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するため、本発明の靴下は、
靴下の足底部の趾球後方の位置から土踏まず部と踵部の境界を含む位置にかけてウェール方向に締付力を高めた第1締付部を設け、前記趾球後方の位置においてコース方向に締付力を高めた第2締付部を周設するとともに、足首部にコース方向に締付力を高めた第3締付部を周設し、さらに、土踏まず部と踵部の境界を含む位置から足甲部の付け根の位置にかけてコース方向に締付力を高めた第4締付部を周設したことを、最も主要な特徴点としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、横足弓の前アーチの位置には第2締付部を設け、かつ、横足弓の主アーチの位置には第4締付部を設けたので、それぞれの位置でコース方向への締め付け作用が得られ、横足弓の形状を保護及び回復させる効果が得られる。また、この第2締付部、第4締付部によって確実に位置決めされた第1締付部が、縦足弓を下方から押し上げるので、縦足弓の形状を保護及び回復させる効果も得られる上、足首部に設けた第3締付部によって靴下全体が前後方向にずれることを抑制するので、靴下着用中も各締付部の位置が安定する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の靴下は、
靴下の足底部の趾球後方の位置から土踏まず部と踵部の境界を含む位置にかけてウェール方向に締付力を高めた第1締付部を設け、前記趾球後方の位置においてコース方向に締付力を高めた第2締付部を周設するとともに、足首部にコース方向に締付力を高めた第3締付部を周設し、さらに、土踏まず部と踵部の境界を含む位置から足甲部の付け根の位置にかけてコース方向に締付力を高めた第4締付部を周設した構成である(本発明の第1の構成)。
【0018】
上記第1の構成の靴下において、特に、
前記第1締付部と前記第2締付部は足底部の趾球後方の位置において連続させ、前記第1締付部と前記第4締付部は土踏まず部と踵部の境界を含む位置において連続させ、さらに、前記第4締付部と前記第3締付部は、足甲部の付け根の位置から足首部にかけて分離することなく連続させるように構成した場合は(本発明の第2の構成)、
第1〜第4締付部が相互に位置決めされ、確実に靴下のずれを防止できるので、本発明の効果がより好適に発揮される。
【0019】
本発明において、締付力を高めた第1〜第4締付部を設ける手段は、特に限定するものではなく、伸縮性を高めた編み組織とする方法、伸縮性の高い素材を用いる方法、弾性部材を溶着又は接着させる方法などが採用できる。しかし、上記第1又は第2の構成の靴下において、特に、
前記第1〜第4締付部は、伸縮性を高めた編み組織、伸縮性の高い素材の双方または何れか一方を用いることにより、所要の方向に締付力を高めた場合は(本発明の第3の構成)、
弾性部材の溶着又は接着等の特殊な工程を別途設けることなく、靴下編機による通常の靴下の編み立て工程によって本発明の靴下を実施できるので、好適である。
【0020】
また、上記第3の構成の靴下において、特に、
前記伸縮性を高めた編み組織としてタック編みを用い、前記伸縮性の高い素材としてはゴム糸とFTYを用いて、前記第1〜第4締付部を編成した場合は(本発明の第4の構成)、
靴下着用者によって足の形状は様々であっても、タック編みによる編み組織としての締付力とゴム糸による素材としての締付力の相乗効果により対応範囲が広がるので、各締付部に十分な締付力を付与することができる。
【0021】
また、上記第4の構成の靴下において、特に、
前記ゴム糸は、芯糸が120D〜680Dの太さの弾性糸を用いるように構成した場合は(本発明の第5の構成)、
靴下の着用、洗濯、乾燥等を繰り返しても、各締付部の締付力が低下し難いので、好適である。
【0022】
本発明において、第1〜第4締付部の生地引張張力は、特に限定するものではなく、靴下の履き心地なども考慮した上で、適宜の範囲とすることができる。しかし、過度に締付力を高めた場合は、足の血行を阻害するおそれがあり、逆に、締付力が不足する場合は、靴下着用中のずれ防止や、足裏のアーチを保護するのに十分な効果が得られない。
【0023】
そこで、本発明者等が検討したところによると、上記第1〜第5の何れかの構成の靴下において、特に、
前記第1〜第4締付部は、ウェール方向の生地引張張力を3.5N〜6.0Nの範囲とするとともに、コース方向の生地引張張力を5.0N〜9.0Nの範囲とした場合は(本発明の第6の構成)、
足の血行を阻害してしもやけ等になるおそれはない上、靴下着用中のずれ防止や、足裏の縦足弓及び横足弓の形状を保護及び回復させるのに十分な締付力が得られることが判明している。
【0024】
また、本発明者等の検討によると、上記生地引張張力の範囲であれば、第1〜第4締付部の生地引張張力を個別に細かく変更する必要はない。そこで、上記第6の構成の靴下においては、
前記第1〜第4締付部の生地引張張力を同じ張力とする方が、靴下の設計が複雑とならないので、好適である(本発明の第7の構成)。
【0025】
本発明の靴下は、第1〜第4締付部以外の、例えばつま先部や踵部の構成は、特に限定をするものではなく、メーカーの当該製品に対するコンセプトや需要者の嗜好に応じて、種々の構成を採用することができる。
【0026】
しかし、上記第1〜第7の何れかの構成の靴下において、特に、
つま先部において、第5趾側ゴアラインを拇趾側ゴアラインよりも長くし、つま先部の先端を第3趾の指先の位置よりも拇趾側にシフトさせるとともに、前記拇趾側ゴアラインの終端は拇趾の内側に位置するようにした場合は(本発明の第8の構成)、
靴下のつま先部の形状を、拇趾に頂点があり、第5趾に向かうに従い徐々に短くなるようなカーブを描くことを特徴とするオブリーク型の足型に近似した形状とすることができるので、従来の靴下では、靴下を着用したときに感じる拇趾の内側の突っ張り感が解消され、履き心地が向上するので、好適である。
【0027】
ここで、人の足型について説明すると、一般的には、オブリーク型とラウンド型に分けられると言われている。図6は、その説明図であり、(a)はオブリーク型の足型を、(b)はラウンド型の足型を示している。
【0028】
オブリーク型は、図6(a)に示すように、拇趾に頂点があり、第5趾に向かうに従い徐々に短くなるようなカーブを描く足型である。オブリーク型では、拇趾の内側から踵にかけてのラインは、ほぼ直線状に形成されている。
【0029】
これに対して、ラウンド型は、図6(b)に示すように、第2趾もしくは第3趾に頂点があり、左右に対称的なカーブを描く足型である。
【0030】
従来の靴下は、つま先部の製造工程を簡単にするため、ラウンド型に近似したつま先形状が採用されている。しかし、日本人の足型は、オブリーク型が6〜8割を占めると言われている。オブリーク型の人が、ラウンド型に近似したつま先形状の靴下を着用した場合は、拇趾の内側の部分が、靴下のつま先部の内面から反力を受けることになり、突っ張り感が常にあって、靴下の履き心地が悪くなる。
【0031】
そこで、前述した第8の構成の本発明の靴下のように構成すれば、オブリーク型に近似した形状のつま先部が得られ、靴下の履き心地が向上する。また、つま先部の度目数を調整することにより、つま先部の平面視形状を、オブリーク型とした場合は(本発明の第9の構成)、
拇趾の内側の部分が、靴下のつま先部の内面から受ける反力(つま先部の突っ張り感)を殆ど感じない程度に低減することができ、快適な履き心地となる。
【0032】
また、上記第1〜第9の何れかの構成の靴下は、くるぶし付近の始点から踵部の先端に向けて斜め方向にゴアラインを設けることができるが、その場合において、特に、
前記ゴアラインの始点を足甲部の付け根の位置に近づけて前記ゴアラインを深くすることにより、前記踵部が、かかと全体を覆うようにしたした場合は(本発明の第10の構成)、
踵部が、かかと全体をすっぽりと包み込み、靴下着用時にずれを生じにくくする効果が得られるので、好適である。
【0033】
また、上記第1〜第10の何れかの構成の靴下において、特に、
つま先部と踵部の内側面は、共にパイル編みとするとともに、踵部のパイル長をつま先部のパイル長よりも長くした場合は(本発明の第11の構成)、
歩行の際の着地時に最も衝撃を受ける踵部を、パイル長の長いパイル編みとして衝撃吸収力を優先的に向上させるとともに、蹴り出す方向に力が加わるつま先部を、パイル長の短いパイル編みとすることにより蹴出力を確保するとともに、蹴出時につま先部にかかる衝撃の緩和を図ることができるので、好適である。
【0034】
また、上記第1〜第11の何れかの構成の靴下において、特に、
前記第1〜第4締付部以外の部分は、吸水速乾性の高いポリエステル、アクリル、毛、レーヨン、綿の内、2種以上の素材で編成した場合は(本発明の第12の構成)、
汗の吸い取りと乾燥を速めて、歩行時や走行時の蒸れ感を軽減することができるので、好適である。
【0035】
なお、具体的には、吸水性・速乾性に優れたアクリル綿混の糸を使用することによって、より高い通気性を得ることができ、より快適な靴下を提供することができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の靴下を、実施例に基いてさらに詳細に説明する。図1は、右足用の本発明の靴下を拇趾側の側面から見た状態を表した説明図、図2は、同靴下を第五趾側の側面から見た状態を表した説明図、図3は、同靴下を足底部側の面から見た状態を表した説明図、図4は、同靴下を足甲部側の面から見た状態を表した説明図、図5は、第1〜第4締付部の締め付け方向を説明する図である。
【0037】
本実施例の靴下Sは、図1に示すように、靴下Sの足底部の趾球後方の位置Aから土踏まず部Bと踵部6の境界を含む位置Cにかけてウェール方向に締付力を高めた第1締付部1を設け、趾球後方の位置Aにおいてコース方向に締付力を高めた第2締付部2を周設するとともに、足首部Dにコース方向に締付力を高めた第3締付部3を周設し、さらに、土踏まず部Bと踵部6の境界を含む位置Cから足甲部の付け根の位置Eにかけてコース方向に締付力を高めた第4締付部4を周設している。図1において、5はつま先部を、7はレッグ部を、8は口ゴム部を表している。
【0038】
ここで、第1締付部1の開始位置である「趾球後方の位置」とは、足の指の付け根に存在する拇趾球〜第5趾球を繋ぐラインの位置のことである(図1では、符号Aで示している)。
【0039】
本実施例の靴下Sは、横足弓の前アーチの位置には第2締付部2を設け、かつ、横足弓の主アーチの位置には第4締付部4を設けたので、それぞれの位置でコース方向に締め付ける作用が得られる。その結果、横足弓の形状が変化しないようにサポートする効果が得られると共に、激しい運動や長時間の運動によって低下した横足弓のアーチを回復させる効果が得られる。
【0040】
また、本実施例の靴下Sは、第2締付部2と第4締付部4によって確実に位置決めされた第1締付部1が、縦足弓を下方から真上の方向に押し上げるので、縦足弓の形状を保護及び回復させる効果も得られる。
【0041】
加えて、足首部に設けた第3締付部3によって、足首部の位置でしっかりと固定する作用が得られ、靴下全体が前後方向にずれることが抑制されるので、靴下着用中も各締付部1〜4の位置が安定する効果が得られる。また、足首部に適度な締付力を与えるので、蹴り出し力をサポートして快適な歩行運動が行える。
【0042】
本実施例の靴下Sは、第1締付部1と第2締付部2は、足底部の趾球後方の位置Aで符号91に示す領域において連続している。また、第1締付部1と第4締付部4は土踏まず部Bと踵部6の境界を含む位置Cで符号92に示す領域において連続している。さらに、第4締付部4と第3締付部3は、足甲部の付け根の位置Eから足首部Dにかけて分離することなく符号93に示す領域において連続している。このように、第1締付部1〜第4締付部4を連続させたので、各締付部が相互に位置決めされ、靴下着用中においても確実にずれを防止できる。
【0043】
また、本実施例の靴下Sは、第1締付部1〜第4締付部4の締付力を高める手段としては、伸縮性を高めた編み組織としてタック編みを使用し、かつ、伸縮性の高い素材として裏糸にFTYを使用し、さらに、ゴム糸を編み込むことにより締付力を向上させている。FTYとは、ポリウレタン繊維にナイロン繊維又はポリエステル繊維をカバーリングした繊維である。
【0044】
すなわち、伸縮性を高めた編み組織と伸縮性の高い素材の双方を用いることにより、弾性部材の溶着又は接着等の特殊な工程を別途設けることなく、靴下編機による通常の靴下の編み立て工程によって本発明の靴下を実施できる。また、靴下着用者によって足の形状は様々であっても、タック編みによる編み組織としての締付力とゴム糸による素材としての締付力の相乗効果により対応範囲が広がるので、各締付部に十分な締付力を付与することができる。
【0045】
使用したゴム糸は、芯糸が400Dの太さの弾性糸である。この場合、靴下の着用、洗濯、乾燥等を繰り返しても、各締付部の締付力が持続するので、好適である。
【0046】
図2は、本実施例の靴下Sを第五趾側の側面から見た状態を表した説明図である。本実施例では、第1締付部1〜第4締付部4の生地引張張力は、ウェール方向の生地引張張力を5.0Nとするとともに、コース方向の生地引張張力を7.0Nとしている。この場合、足の血行が阻害されることはなく、足裏の縦足弓及び横足弓の形状を保護及び回復させるのに十分な締付力が得られる。なお、各締付部において、ウェール方向及びコース方向の生地引張張力は同一とし、靴下の設計が複雑とならないようにしている。
【0047】
図1に示すように、本実施例の靴下Sは、くるぶし付近の始点6bの位置から踵部の先端6cの位置に向けて、斜め方向にゴアライン6aを設けている。そして、特に、本実施例では、ゴアライン6aの始点6bを、足甲部の付け根の位置Eに近づけて、ゴアライン6aを深くすることにより、踵部6が、靴下着用者のかかと全体を覆うように構成している。このようにすれば、踵部6が、かかと全体をすっぽりと包み込み、靴下着用時にずれを生じにくくする効果が得られるからである。
【0048】
また、本実施例の靴下Sは、つま先部5と踵部6の内側面は、共にパイル編みとし、かつ、踵部6のパイル長は、つま先部5のパイル長よりも長くしている。この場合、歩行の際の着地時に最も衝撃を受ける踵部6を、パイル長の長いパイル編みとして衝撃吸収力を優先的に向上させるとともに、蹴り出す方向に力が加わるつま先部5を、パイル長の短いパイル編みとすることにより蹴出力を確保するとともに、蹴出時につま先部6にかかる衝撃の緩和を図ることができる。
【0049】
図3は、実施例の靴下Sを足底部側の面から見た状態を表した説明図、図4は、同靴下を足甲部側の面から見た状態を表した説明図である。5aは、拇趾側ゴアラインであり、始点Gから終端Hまでの長さとされている。一方、5bは、第5趾側ゴアラインを示しており、始点Iから終端Jまでの長さとされている。
【0050】
本実施例の靴下Sは、図3に示すように、つま先部5において、第5趾側ゴアライン5bを拇趾側ゴアライン5aよりも長くし、つま先部5の先端5cを、第3趾の指先の位置Kよりも拇趾側にシフトさせるとともに、拇趾側ゴアライン5aの終端Hは、拇趾の内側に位置するように構成している。
【0051】
このように構成すると、靴下のつま先部5の形状を、日本人に多いオブリーク型の足型に近似した形状とすることができるので、従来の靴下では、靴下を着用したときに感じる拇趾の内側の突っ張り感が解消され、履き心地が向上する。
【0052】
本実施例の靴下Sは、第1締付部1〜第4締付部4以外の、例えば、つま先部5、踵部6、レッグ部7、口ゴム部8等の部分は、吸水性・速乾性に優れたブランタッシュ(登録商標、東レ社製)の綿32/3三子杢の糸を使用して編成している。したがって、ウオーキング用、ジョギング用等に適したものとなっている。
【0053】
図5は、各締付部において、締め付け力が働く方向を説明した図である。L1は、足底部に設けられた第1締付部1のウェール方向の締め付けを、L2は、横足弓の前アーチの位置に設けられた第2締付部2のコース方向の締め付けを、L3は、足首部の周囲に設けられた第3締付部3のコース方向の締め付けを、L4は、横足弓の主アーチの位置に設けられた第4締付部4のコース方向の締め付けを、それぞれ示している。
【0054】
さらに進んで、本発明の靴下の効果を確認するために行った試験の方法及び結果について説明する。効果確認試験は、(イ)アーチ周変化計測試験、(ロ)足底炎症評価試験、(ハ)生地引張試験の3項目について実施した。
【0055】
(イ)アーチ周変化計測試験
本実施例の靴下Sが、縦足弓及び横足弓からなる足裏のアーチの形状の保持にどれ位の効果を発揮するかを検証するために、図7に示すように、伸びセンサM1と記録装置M2を使用して、歩行中のアーチ周変化の計測を行った。アーチ周は、第1趾中足骨頭〜踵骨端〜第5趾中足骨頭(図7のM3の矢印方向の長さ)を元に測定した。アーチ周が変化することは、足骨格が変形していることを意味する。具体的には、アーチ周が増加した場合はアーチ高(図7のM4の矢印方向の長さ)の低下を、アーチ周が減少した場合はアーチ高(図7のM4の矢印方向の長さ)の増加を示すことになる。
【0056】
1)試験方法
健常成人5名を対象として、歩行中のアーチ周の測定実験を行った。伸びセンサM1は右足第1趾中足骨頭端点から踵骨端点を通り第5趾足骨頭端点まで軽く張力を加えた状態で装着した。センサの端はサージカルテープで固定した。1分間直線自由歩行を行い、記録装置M2で、データを記録した。
【0057】
本実験では、呼吸回数を測定するセンサである呼吸ピックアップ(AP−C022、フタミ・エム・イー工業社製)を、アーチ周の変化を測定するための伸びセンサM1として用いた。伸びセンサM1の内部には導電物質が入っており、センサの変形に応じて抵抗値が変化する。この抵抗値の変化により、変位の変化を電圧の変化として計測することができる。なお、センサ自体の長さが短いため、センサの両端に衣料用のゴムをつけて使用した。
【0058】
2)試験結果
裸足と、本実施例の靴下Sを着用したときの、健常成人男性5名によるアーチ周計測結果を表1に示す。なお、本実験では、図8に示すように、踵接地(IC)から足裏接地(LR)のピークまでの変化量を、立脚期アーチ周変化量として計算した。
【0059】
【表1】
【0060】
上記のとおり、裸足でのアーチ周変化は平均2.9±0.8mmであったのに対し、本実施例の靴下Sを着用した場合のアーチ周変化は平均1.9±0.6mmであった。このように、アーチ周の変化が抑えられている結果が得られたことから、本発明の靴下は裸足と比較してアーチ保持効果を有していることが確認された。
【0061】
(ロ)足底炎症評価試験
本実施例の靴下Sが、人の足裏に対してどの程度の負荷軽減効果を有しているかを検証するために、長時間歩行後の足底をサーモグラフィーで計測し、炎症の起こり具合の評価を行った。足裏に炎症が起きているときは血液が集まり、温度が高くなる。
【0062】
1)試験方法
健常成人10名を対象として、歩行後の足裏炎症評価を行った。実施例の靴下Sと一般的な平編みで編成された靴下を左右別に履いて屋外を3時間自由歩行し、歩行後に、足を10℃の冷水に10秒間浸し、良く拭いてから、足裏をサーモグラフィーで観察した。サーモグラフィーはNEC三栄社製のサーモトレーサーTH5102を用いた。判定は左右の温度の比較によって行った。
【0063】
2)試験結果
健常成人10名による足裏炎症評価の結果、10名中6名は左右に明確な差がみられ、本実施例の靴下Sを着用した方の足は、足裏の炎症が抑えられていた。また、残りの4名は効果がはっきりとは確認できなかったが効果がないとも言えない状態であった。これらの結果から、個人差はあるものの、本発明の靴下は足裏への負荷を軽減していることが確認された。
【0064】
(ハ)生地引張試験
本実施例の靴下Sの各締付部の締め付け力を確認するために以下の試験を行った。
【0065】
1)試験方法
生地を2.5×7cmの試験片に切り取り、引張試験機(AUTOGRAPH AGS−H (SHIMAZU))を用いて、60%伸張時の応力を測定した。測定値は2回伸張回復を繰り返し、2回目の値を採用した。試験は3回行い、平均値を求め、その値で評価を行った。引張速度は300mm/minで行った。試験環境は20℃、65%RHで行った。
【0066】
2)試験結果
生地引張張力を上記試験方法で確認しながら、(イ)のアーチ周測定試験で良好な効果が得られる範囲と生地引張張力の関係(下限値)を分析した。また、引張張力が強すぎると、締め付けが強すぎて着用感が悪くなり、また血行が悪くなるおそれもあるため、モニターの意見を聞きながら、適切な引張張力の範囲(上限値)も分析した。その結果、縦方向(ウェール方向)の引張張力が3.5N〜6.0N、横方向(コース方向)の引張張力が5.0N〜9.0Nとすることが最も望ましいことが確認された。
【0067】
以上説明したように、本発明の靴下は、横足弓の前アーチの位置には第2締付部を設けるとともに、横足弓の主アーチの位置には第4締付部を設けたので、それぞれの位置でコース方向への締め付ける作用が得られ、横足弓の形状を保護及び回復させる効果が得られる。また、この第2締付部、第4締付部によって確実に位置決めされた第1締付部が、縦足弓を下方から押し上げるので、縦足弓の形状を保護及び回復させる効果も得られる上、足首部に設けた第3締付部によって靴下全体が前後方向にずれることを抑制するので、靴下着用中も各締付部の位置が安定する。したがって、本発明によれば、従来の靴下が抱えていた(1)縦足弓、横足弓の何れか一方の保護又は回復しか考慮されていなかった問題点、及び(2)靴下着用中に締付部の位置がずれてしまうので、目的の位置に継続的に締付力を作用させることができなかった問題点を解決することができる。
【0068】
また、以上のような構成を採用することにより、本発明の靴下は、足底の柔軟組織である足底筋群と、足底筋群を包む足底筋膜(足底腱膜)を保護し、アーチの形状を保持する効果が得られる。また、歩行時、足底柔軟組織の伸展収縮時の負荷を分散し、肩代わりすることにより、足底柔軟組織にかかる負荷を軽減する。さらには、足底腱膜への負荷軽減による炎症の防止、衝撃吸収能力向上等により歩行時の足の蹴り出しをサポートし、歩行や走行運動をスムーズなものとする効果も有する。
【0069】
本発明は上記実施例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範囲内で、適宜実施の形態を変更しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の靴下は、一般用に限らず、ゴルフ、テニス、ジョギング、ウォーキングなどのスポーツ用の靴下にも適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】右足用の本発明の靴下を拇趾側の側面から見た状態を表した説明図である。
【図2】同靴下を第五趾側の側面から見た状態を表した説明図である。
【図3】同靴下を足底部側の面から見た状態を表した説明図である。
【図4】同靴下を足甲部側の面から見た状態を表した説明図である。
【図5】第1〜第4締付部の締め付け方向を説明する図である。
【図6】人の足型の説明図であり、(a)はオブリーク型の足型を、(b)はラウンド型の足型を示したものである。
【図7】アーチ周変化計測試験において使用した伸びセンサと記録装置の構成を説明する模式図である。
【図8】歩行動作による足裏のアーチ周の変化(伸びセンサからの出力)を時系列で表したグラフであり、踵接地(IC)から足裏接地(LR)のピークまでの変化量を立脚期アーチ周変化量としたことを説明する図である。
【図9】人の右足の骨を足底側から見た状態を表した図である。
【図10】(a)は、踵骨結節を起点として、第1中足骨又は第5中足骨にかけてアーチを形成している内側弓、外側弓と、第1中足骨から第5中足骨にかけて形成される前アーチ、土踏まずの左側から右側にかけて形成される主アーチについての説明図、(b)は、縦足弓と横足弓についての説明図である。
【図11】人の右足の骨を足甲側から見た状態を表した図であり、足根骨を構成する7個の骨の説明図である。
【符号の説明】
【0072】
S 靴下
1 第1締付部
2 第2締付部
3 第3締付部
4 第4締付部
5 つま先部
5a 拇趾側ゴアライン
5b 第5趾側ゴアライン
5c つま先部の先端
6 踵部
6a ゴアライン
6b くるぶし付近の始点
6c 踵部の先端
7 レッグ部
8 口ゴム部
A 足底部の趾球後方の位置
B 土踏まず部
C 土踏まず部と踵部の境界を含む位置
D 足首部
E 足甲部の付け根の位置
G 拇趾側ゴアラインの始点
H 拇趾側ゴアラインの終端
I 第5趾側ゴアラインの始点
J 第5趾側ゴアラインの終端
K 第3趾の指先の位置
【技術分野】
【0001】
本発明は、足の適切な部位に、所要の方向に締付力を高めた締付部を確実に位置付けることによって、足の骨、靭帯、足底筋群により形成される縦足弓と横足弓の形状を正常に保ち、様々な足の障害を防ぐことができる靴下に関する。
【背景技術】
【0002】
図9は、人の右足の骨を足裏側から見た状態を、図11は、人の右足の骨を足甲側から見た状態を示したものである。人の足の骨は、図9、図11に示すように、踵骨Q1、距骨Q2、舟状骨Q3、楔状骨Q4〜Q6、立方骨Q7などのいわゆる足根骨N3と、5本の中足骨N2と、足趾骨N1から成り立っている。
【0003】
足を構成する骨の関節は、靱帯により互いに強く結合しており、足の骨格を形成している。また、足裏には、中足筋、母趾球筋、小趾球筋などの柔軟組織よりなる足底筋群が存在するため、足裏の形状は、さらに安定性を増している。これらの骨、靱帯、足底筋群によって、足底には、図10(b)に示すように、縦足弓P1(縦方向のアーチ)と横足弓P2(横方向のアーチ)が形成されている。
【0004】
縦足弓P1は、図9及び図10(a)に示すように、踵骨結節N31を起点として、距骨、舟状骨、内側楔状骨を超えて第1中足骨N21にかけてアーチを形成している内側弓(内側縦アーチ)と、踵骨結節N31を起点として立法骨を通り、第5中足骨N22にかけてアーチを形成している外側弓(外側縦アーチ)とからなる。一方、横足弓P2は、図9及び図10(a)に示すように、第1中足骨N21から第5中足骨N22にかけて形成される前アーチと、3個の楔状骨を含み、土踏まずの左側N32から右側N33にかけて形成される主アーチとからなる。
【0005】
このように、人の足裏には、骨、靱帯、足底筋群によって縦足弓P1(内側縦アーチ、外側縦アーチ)と、横足弓P2(前アーチ、主アーチ)が形成されている。これら4つのアーチからなる足底のアーチ構造は、それぞれ独立したものではなく、相互に関連して土踏まずを形成し、歩行接地時の衝撃を緩和するバネのような役割とともに、体重を足全体に分散させ、体重移動をスムーズにする重要な役割を果たしている。したがって、縦足弓P1と横足弓P2の形状を正常に保つことは、様々な足の障害を防ぐことにも繋がると考えられている。
【0006】
ところが、激しい運動や長時間の歩行などにより、足底の靱帯や足底筋群が過伸して縦足弓P1と横足弓P2のアーチ形状が保てなくなると、歩行時の衝撃吸収効果が充分に得られず、バネの役割を充分に果たすことができなくなる結果、足が疲れたり、体がだるくなる原因となる。また、足裏で衝撃を吸収できないため、足、膝の関節や股関節、ひどくなると腰、肩にまで影響を及ぼす場合があり、通院治療を受けなければならないケースもある。
【0007】
そこで、従来より、例えばフィットしない靴を履くこと等が原因で、崩れたり消失した足底の横アーチや縦アーチを、略正常状態に回復させることなどを目的とした靴下が提案されている。
【特許文献1】特開2005−312512号公報
【0008】
例えば、上記特許文献1には、第1〜第5中足骨の足裏側に対応する部分の内の少なくとも横中足靱帯の足裏側に対応する部分と、足根骨の足背側に対応する部分に、夫々、足の幅方向における引張抵抗力が他の部分より強い弾性伸縮部を配置した構成の靴下が開示されている。
【0009】
しかし、特許文献1の靴下は、血行不良やしもやけ等の症状を生じにくくすることを優先して、靴下のコース方向全周に弾性伸縮部を設けないように構成している。そのため、靴下を着用中に弾性伸縮部の位置がずれてしまうので、横アーチや縦アーチの回復を目的として弾性伸縮部を設けていても、目的の位置に継続的に締付力を与えることが出来ず、左程の効果は期待できないという問題があった。
【特許文献2】特開2006−225833号公報
【0010】
また、上記特許文献2には、少なくとも土踏まず部を横切る領域と踵骨上方を横切る領域とを結ぶ一連の領域を高弾性領域で構成し、それ以外の領域を低弾性領域で構成した靴下が開示されている。
【0011】
しかし、特許文献2の靴下は、土踏まずの位置から踵骨の上方へ向けて斜め上方に高弾性領域による引き上げ力を作用させているため、土踏まずを真上の向きに引き上げて縦足弓を保護したり、元どおりに回復させる作用は得られない上、横足弓の保護及び回復については考慮されていないものであった。
【0012】
加えて、特許文献2の靴下は、土踏まず部から左右に分かれた高弾性領域が踵の後方で再び連続しているので、靴下着用時に、土踏まずの位置よりも前方にずれることは阻止できるが、高弾性領域の位置が、土踏まずの位置よりも後方にずれることは避けられないという問題があった。そのため、靴下着用中に、高弾性領域の位置がずれてしまうので、土踏まずの引き上げを継続的に作用させることが出来ない。
【0013】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、靴下着用時においても締付部がずれることがなく、足の適切な部位に締付部を確実に位置付けることによって、足の骨、靭帯、足底筋群により形成される縦足弓と横足弓の形状を、共に正常に保つことができる靴下を提供することを目的としている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
解決しようとする課題は、従来の靴下では、(1)縦足弓、横足弓の何れか一方の保護又は回復しか考慮されていなかった点、及び、(2)靴下着用中に締付部の位置がずれてしまうので、目的の位置に継続的に締付力を作用させることができなかった点である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するため、本発明の靴下は、
靴下の足底部の趾球後方の位置から土踏まず部と踵部の境界を含む位置にかけてウェール方向に締付力を高めた第1締付部を設け、前記趾球後方の位置においてコース方向に締付力を高めた第2締付部を周設するとともに、足首部にコース方向に締付力を高めた第3締付部を周設し、さらに、土踏まず部と踵部の境界を含む位置から足甲部の付け根の位置にかけてコース方向に締付力を高めた第4締付部を周設したことを、最も主要な特徴点としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、横足弓の前アーチの位置には第2締付部を設け、かつ、横足弓の主アーチの位置には第4締付部を設けたので、それぞれの位置でコース方向への締め付け作用が得られ、横足弓の形状を保護及び回復させる効果が得られる。また、この第2締付部、第4締付部によって確実に位置決めされた第1締付部が、縦足弓を下方から押し上げるので、縦足弓の形状を保護及び回復させる効果も得られる上、足首部に設けた第3締付部によって靴下全体が前後方向にずれることを抑制するので、靴下着用中も各締付部の位置が安定する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の靴下は、
靴下の足底部の趾球後方の位置から土踏まず部と踵部の境界を含む位置にかけてウェール方向に締付力を高めた第1締付部を設け、前記趾球後方の位置においてコース方向に締付力を高めた第2締付部を周設するとともに、足首部にコース方向に締付力を高めた第3締付部を周設し、さらに、土踏まず部と踵部の境界を含む位置から足甲部の付け根の位置にかけてコース方向に締付力を高めた第4締付部を周設した構成である(本発明の第1の構成)。
【0018】
上記第1の構成の靴下において、特に、
前記第1締付部と前記第2締付部は足底部の趾球後方の位置において連続させ、前記第1締付部と前記第4締付部は土踏まず部と踵部の境界を含む位置において連続させ、さらに、前記第4締付部と前記第3締付部は、足甲部の付け根の位置から足首部にかけて分離することなく連続させるように構成した場合は(本発明の第2の構成)、
第1〜第4締付部が相互に位置決めされ、確実に靴下のずれを防止できるので、本発明の効果がより好適に発揮される。
【0019】
本発明において、締付力を高めた第1〜第4締付部を設ける手段は、特に限定するものではなく、伸縮性を高めた編み組織とする方法、伸縮性の高い素材を用いる方法、弾性部材を溶着又は接着させる方法などが採用できる。しかし、上記第1又は第2の構成の靴下において、特に、
前記第1〜第4締付部は、伸縮性を高めた編み組織、伸縮性の高い素材の双方または何れか一方を用いることにより、所要の方向に締付力を高めた場合は(本発明の第3の構成)、
弾性部材の溶着又は接着等の特殊な工程を別途設けることなく、靴下編機による通常の靴下の編み立て工程によって本発明の靴下を実施できるので、好適である。
【0020】
また、上記第3の構成の靴下において、特に、
前記伸縮性を高めた編み組織としてタック編みを用い、前記伸縮性の高い素材としてはゴム糸とFTYを用いて、前記第1〜第4締付部を編成した場合は(本発明の第4の構成)、
靴下着用者によって足の形状は様々であっても、タック編みによる編み組織としての締付力とゴム糸による素材としての締付力の相乗効果により対応範囲が広がるので、各締付部に十分な締付力を付与することができる。
【0021】
また、上記第4の構成の靴下において、特に、
前記ゴム糸は、芯糸が120D〜680Dの太さの弾性糸を用いるように構成した場合は(本発明の第5の構成)、
靴下の着用、洗濯、乾燥等を繰り返しても、各締付部の締付力が低下し難いので、好適である。
【0022】
本発明において、第1〜第4締付部の生地引張張力は、特に限定するものではなく、靴下の履き心地なども考慮した上で、適宜の範囲とすることができる。しかし、過度に締付力を高めた場合は、足の血行を阻害するおそれがあり、逆に、締付力が不足する場合は、靴下着用中のずれ防止や、足裏のアーチを保護するのに十分な効果が得られない。
【0023】
そこで、本発明者等が検討したところによると、上記第1〜第5の何れかの構成の靴下において、特に、
前記第1〜第4締付部は、ウェール方向の生地引張張力を3.5N〜6.0Nの範囲とするとともに、コース方向の生地引張張力を5.0N〜9.0Nの範囲とした場合は(本発明の第6の構成)、
足の血行を阻害してしもやけ等になるおそれはない上、靴下着用中のずれ防止や、足裏の縦足弓及び横足弓の形状を保護及び回復させるのに十分な締付力が得られることが判明している。
【0024】
また、本発明者等の検討によると、上記生地引張張力の範囲であれば、第1〜第4締付部の生地引張張力を個別に細かく変更する必要はない。そこで、上記第6の構成の靴下においては、
前記第1〜第4締付部の生地引張張力を同じ張力とする方が、靴下の設計が複雑とならないので、好適である(本発明の第7の構成)。
【0025】
本発明の靴下は、第1〜第4締付部以外の、例えばつま先部や踵部の構成は、特に限定をするものではなく、メーカーの当該製品に対するコンセプトや需要者の嗜好に応じて、種々の構成を採用することができる。
【0026】
しかし、上記第1〜第7の何れかの構成の靴下において、特に、
つま先部において、第5趾側ゴアラインを拇趾側ゴアラインよりも長くし、つま先部の先端を第3趾の指先の位置よりも拇趾側にシフトさせるとともに、前記拇趾側ゴアラインの終端は拇趾の内側に位置するようにした場合は(本発明の第8の構成)、
靴下のつま先部の形状を、拇趾に頂点があり、第5趾に向かうに従い徐々に短くなるようなカーブを描くことを特徴とするオブリーク型の足型に近似した形状とすることができるので、従来の靴下では、靴下を着用したときに感じる拇趾の内側の突っ張り感が解消され、履き心地が向上するので、好適である。
【0027】
ここで、人の足型について説明すると、一般的には、オブリーク型とラウンド型に分けられると言われている。図6は、その説明図であり、(a)はオブリーク型の足型を、(b)はラウンド型の足型を示している。
【0028】
オブリーク型は、図6(a)に示すように、拇趾に頂点があり、第5趾に向かうに従い徐々に短くなるようなカーブを描く足型である。オブリーク型では、拇趾の内側から踵にかけてのラインは、ほぼ直線状に形成されている。
【0029】
これに対して、ラウンド型は、図6(b)に示すように、第2趾もしくは第3趾に頂点があり、左右に対称的なカーブを描く足型である。
【0030】
従来の靴下は、つま先部の製造工程を簡単にするため、ラウンド型に近似したつま先形状が採用されている。しかし、日本人の足型は、オブリーク型が6〜8割を占めると言われている。オブリーク型の人が、ラウンド型に近似したつま先形状の靴下を着用した場合は、拇趾の内側の部分が、靴下のつま先部の内面から反力を受けることになり、突っ張り感が常にあって、靴下の履き心地が悪くなる。
【0031】
そこで、前述した第8の構成の本発明の靴下のように構成すれば、オブリーク型に近似した形状のつま先部が得られ、靴下の履き心地が向上する。また、つま先部の度目数を調整することにより、つま先部の平面視形状を、オブリーク型とした場合は(本発明の第9の構成)、
拇趾の内側の部分が、靴下のつま先部の内面から受ける反力(つま先部の突っ張り感)を殆ど感じない程度に低減することができ、快適な履き心地となる。
【0032】
また、上記第1〜第9の何れかの構成の靴下は、くるぶし付近の始点から踵部の先端に向けて斜め方向にゴアラインを設けることができるが、その場合において、特に、
前記ゴアラインの始点を足甲部の付け根の位置に近づけて前記ゴアラインを深くすることにより、前記踵部が、かかと全体を覆うようにしたした場合は(本発明の第10の構成)、
踵部が、かかと全体をすっぽりと包み込み、靴下着用時にずれを生じにくくする効果が得られるので、好適である。
【0033】
また、上記第1〜第10の何れかの構成の靴下において、特に、
つま先部と踵部の内側面は、共にパイル編みとするとともに、踵部のパイル長をつま先部のパイル長よりも長くした場合は(本発明の第11の構成)、
歩行の際の着地時に最も衝撃を受ける踵部を、パイル長の長いパイル編みとして衝撃吸収力を優先的に向上させるとともに、蹴り出す方向に力が加わるつま先部を、パイル長の短いパイル編みとすることにより蹴出力を確保するとともに、蹴出時につま先部にかかる衝撃の緩和を図ることができるので、好適である。
【0034】
また、上記第1〜第11の何れかの構成の靴下において、特に、
前記第1〜第4締付部以外の部分は、吸水速乾性の高いポリエステル、アクリル、毛、レーヨン、綿の内、2種以上の素材で編成した場合は(本発明の第12の構成)、
汗の吸い取りと乾燥を速めて、歩行時や走行時の蒸れ感を軽減することができるので、好適である。
【0035】
なお、具体的には、吸水性・速乾性に優れたアクリル綿混の糸を使用することによって、より高い通気性を得ることができ、より快適な靴下を提供することができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の靴下を、実施例に基いてさらに詳細に説明する。図1は、右足用の本発明の靴下を拇趾側の側面から見た状態を表した説明図、図2は、同靴下を第五趾側の側面から見た状態を表した説明図、図3は、同靴下を足底部側の面から見た状態を表した説明図、図4は、同靴下を足甲部側の面から見た状態を表した説明図、図5は、第1〜第4締付部の締め付け方向を説明する図である。
【0037】
本実施例の靴下Sは、図1に示すように、靴下Sの足底部の趾球後方の位置Aから土踏まず部Bと踵部6の境界を含む位置Cにかけてウェール方向に締付力を高めた第1締付部1を設け、趾球後方の位置Aにおいてコース方向に締付力を高めた第2締付部2を周設するとともに、足首部Dにコース方向に締付力を高めた第3締付部3を周設し、さらに、土踏まず部Bと踵部6の境界を含む位置Cから足甲部の付け根の位置Eにかけてコース方向に締付力を高めた第4締付部4を周設している。図1において、5はつま先部を、7はレッグ部を、8は口ゴム部を表している。
【0038】
ここで、第1締付部1の開始位置である「趾球後方の位置」とは、足の指の付け根に存在する拇趾球〜第5趾球を繋ぐラインの位置のことである(図1では、符号Aで示している)。
【0039】
本実施例の靴下Sは、横足弓の前アーチの位置には第2締付部2を設け、かつ、横足弓の主アーチの位置には第4締付部4を設けたので、それぞれの位置でコース方向に締め付ける作用が得られる。その結果、横足弓の形状が変化しないようにサポートする効果が得られると共に、激しい運動や長時間の運動によって低下した横足弓のアーチを回復させる効果が得られる。
【0040】
また、本実施例の靴下Sは、第2締付部2と第4締付部4によって確実に位置決めされた第1締付部1が、縦足弓を下方から真上の方向に押し上げるので、縦足弓の形状を保護及び回復させる効果も得られる。
【0041】
加えて、足首部に設けた第3締付部3によって、足首部の位置でしっかりと固定する作用が得られ、靴下全体が前後方向にずれることが抑制されるので、靴下着用中も各締付部1〜4の位置が安定する効果が得られる。また、足首部に適度な締付力を与えるので、蹴り出し力をサポートして快適な歩行運動が行える。
【0042】
本実施例の靴下Sは、第1締付部1と第2締付部2は、足底部の趾球後方の位置Aで符号91に示す領域において連続している。また、第1締付部1と第4締付部4は土踏まず部Bと踵部6の境界を含む位置Cで符号92に示す領域において連続している。さらに、第4締付部4と第3締付部3は、足甲部の付け根の位置Eから足首部Dにかけて分離することなく符号93に示す領域において連続している。このように、第1締付部1〜第4締付部4を連続させたので、各締付部が相互に位置決めされ、靴下着用中においても確実にずれを防止できる。
【0043】
また、本実施例の靴下Sは、第1締付部1〜第4締付部4の締付力を高める手段としては、伸縮性を高めた編み組織としてタック編みを使用し、かつ、伸縮性の高い素材として裏糸にFTYを使用し、さらに、ゴム糸を編み込むことにより締付力を向上させている。FTYとは、ポリウレタン繊維にナイロン繊維又はポリエステル繊維をカバーリングした繊維である。
【0044】
すなわち、伸縮性を高めた編み組織と伸縮性の高い素材の双方を用いることにより、弾性部材の溶着又は接着等の特殊な工程を別途設けることなく、靴下編機による通常の靴下の編み立て工程によって本発明の靴下を実施できる。また、靴下着用者によって足の形状は様々であっても、タック編みによる編み組織としての締付力とゴム糸による素材としての締付力の相乗効果により対応範囲が広がるので、各締付部に十分な締付力を付与することができる。
【0045】
使用したゴム糸は、芯糸が400Dの太さの弾性糸である。この場合、靴下の着用、洗濯、乾燥等を繰り返しても、各締付部の締付力が持続するので、好適である。
【0046】
図2は、本実施例の靴下Sを第五趾側の側面から見た状態を表した説明図である。本実施例では、第1締付部1〜第4締付部4の生地引張張力は、ウェール方向の生地引張張力を5.0Nとするとともに、コース方向の生地引張張力を7.0Nとしている。この場合、足の血行が阻害されることはなく、足裏の縦足弓及び横足弓の形状を保護及び回復させるのに十分な締付力が得られる。なお、各締付部において、ウェール方向及びコース方向の生地引張張力は同一とし、靴下の設計が複雑とならないようにしている。
【0047】
図1に示すように、本実施例の靴下Sは、くるぶし付近の始点6bの位置から踵部の先端6cの位置に向けて、斜め方向にゴアライン6aを設けている。そして、特に、本実施例では、ゴアライン6aの始点6bを、足甲部の付け根の位置Eに近づけて、ゴアライン6aを深くすることにより、踵部6が、靴下着用者のかかと全体を覆うように構成している。このようにすれば、踵部6が、かかと全体をすっぽりと包み込み、靴下着用時にずれを生じにくくする効果が得られるからである。
【0048】
また、本実施例の靴下Sは、つま先部5と踵部6の内側面は、共にパイル編みとし、かつ、踵部6のパイル長は、つま先部5のパイル長よりも長くしている。この場合、歩行の際の着地時に最も衝撃を受ける踵部6を、パイル長の長いパイル編みとして衝撃吸収力を優先的に向上させるとともに、蹴り出す方向に力が加わるつま先部5を、パイル長の短いパイル編みとすることにより蹴出力を確保するとともに、蹴出時につま先部6にかかる衝撃の緩和を図ることができる。
【0049】
図3は、実施例の靴下Sを足底部側の面から見た状態を表した説明図、図4は、同靴下を足甲部側の面から見た状態を表した説明図である。5aは、拇趾側ゴアラインであり、始点Gから終端Hまでの長さとされている。一方、5bは、第5趾側ゴアラインを示しており、始点Iから終端Jまでの長さとされている。
【0050】
本実施例の靴下Sは、図3に示すように、つま先部5において、第5趾側ゴアライン5bを拇趾側ゴアライン5aよりも長くし、つま先部5の先端5cを、第3趾の指先の位置Kよりも拇趾側にシフトさせるとともに、拇趾側ゴアライン5aの終端Hは、拇趾の内側に位置するように構成している。
【0051】
このように構成すると、靴下のつま先部5の形状を、日本人に多いオブリーク型の足型に近似した形状とすることができるので、従来の靴下では、靴下を着用したときに感じる拇趾の内側の突っ張り感が解消され、履き心地が向上する。
【0052】
本実施例の靴下Sは、第1締付部1〜第4締付部4以外の、例えば、つま先部5、踵部6、レッグ部7、口ゴム部8等の部分は、吸水性・速乾性に優れたブランタッシュ(登録商標、東レ社製)の綿32/3三子杢の糸を使用して編成している。したがって、ウオーキング用、ジョギング用等に適したものとなっている。
【0053】
図5は、各締付部において、締め付け力が働く方向を説明した図である。L1は、足底部に設けられた第1締付部1のウェール方向の締め付けを、L2は、横足弓の前アーチの位置に設けられた第2締付部2のコース方向の締め付けを、L3は、足首部の周囲に設けられた第3締付部3のコース方向の締め付けを、L4は、横足弓の主アーチの位置に設けられた第4締付部4のコース方向の締め付けを、それぞれ示している。
【0054】
さらに進んで、本発明の靴下の効果を確認するために行った試験の方法及び結果について説明する。効果確認試験は、(イ)アーチ周変化計測試験、(ロ)足底炎症評価試験、(ハ)生地引張試験の3項目について実施した。
【0055】
(イ)アーチ周変化計測試験
本実施例の靴下Sが、縦足弓及び横足弓からなる足裏のアーチの形状の保持にどれ位の効果を発揮するかを検証するために、図7に示すように、伸びセンサM1と記録装置M2を使用して、歩行中のアーチ周変化の計測を行った。アーチ周は、第1趾中足骨頭〜踵骨端〜第5趾中足骨頭(図7のM3の矢印方向の長さ)を元に測定した。アーチ周が変化することは、足骨格が変形していることを意味する。具体的には、アーチ周が増加した場合はアーチ高(図7のM4の矢印方向の長さ)の低下を、アーチ周が減少した場合はアーチ高(図7のM4の矢印方向の長さ)の増加を示すことになる。
【0056】
1)試験方法
健常成人5名を対象として、歩行中のアーチ周の測定実験を行った。伸びセンサM1は右足第1趾中足骨頭端点から踵骨端点を通り第5趾足骨頭端点まで軽く張力を加えた状態で装着した。センサの端はサージカルテープで固定した。1分間直線自由歩行を行い、記録装置M2で、データを記録した。
【0057】
本実験では、呼吸回数を測定するセンサである呼吸ピックアップ(AP−C022、フタミ・エム・イー工業社製)を、アーチ周の変化を測定するための伸びセンサM1として用いた。伸びセンサM1の内部には導電物質が入っており、センサの変形に応じて抵抗値が変化する。この抵抗値の変化により、変位の変化を電圧の変化として計測することができる。なお、センサ自体の長さが短いため、センサの両端に衣料用のゴムをつけて使用した。
【0058】
2)試験結果
裸足と、本実施例の靴下Sを着用したときの、健常成人男性5名によるアーチ周計測結果を表1に示す。なお、本実験では、図8に示すように、踵接地(IC)から足裏接地(LR)のピークまでの変化量を、立脚期アーチ周変化量として計算した。
【0059】
【表1】
【0060】
上記のとおり、裸足でのアーチ周変化は平均2.9±0.8mmであったのに対し、本実施例の靴下Sを着用した場合のアーチ周変化は平均1.9±0.6mmであった。このように、アーチ周の変化が抑えられている結果が得られたことから、本発明の靴下は裸足と比較してアーチ保持効果を有していることが確認された。
【0061】
(ロ)足底炎症評価試験
本実施例の靴下Sが、人の足裏に対してどの程度の負荷軽減効果を有しているかを検証するために、長時間歩行後の足底をサーモグラフィーで計測し、炎症の起こり具合の評価を行った。足裏に炎症が起きているときは血液が集まり、温度が高くなる。
【0062】
1)試験方法
健常成人10名を対象として、歩行後の足裏炎症評価を行った。実施例の靴下Sと一般的な平編みで編成された靴下を左右別に履いて屋外を3時間自由歩行し、歩行後に、足を10℃の冷水に10秒間浸し、良く拭いてから、足裏をサーモグラフィーで観察した。サーモグラフィーはNEC三栄社製のサーモトレーサーTH5102を用いた。判定は左右の温度の比較によって行った。
【0063】
2)試験結果
健常成人10名による足裏炎症評価の結果、10名中6名は左右に明確な差がみられ、本実施例の靴下Sを着用した方の足は、足裏の炎症が抑えられていた。また、残りの4名は効果がはっきりとは確認できなかったが効果がないとも言えない状態であった。これらの結果から、個人差はあるものの、本発明の靴下は足裏への負荷を軽減していることが確認された。
【0064】
(ハ)生地引張試験
本実施例の靴下Sの各締付部の締め付け力を確認するために以下の試験を行った。
【0065】
1)試験方法
生地を2.5×7cmの試験片に切り取り、引張試験機(AUTOGRAPH AGS−H (SHIMAZU))を用いて、60%伸張時の応力を測定した。測定値は2回伸張回復を繰り返し、2回目の値を採用した。試験は3回行い、平均値を求め、その値で評価を行った。引張速度は300mm/minで行った。試験環境は20℃、65%RHで行った。
【0066】
2)試験結果
生地引張張力を上記試験方法で確認しながら、(イ)のアーチ周測定試験で良好な効果が得られる範囲と生地引張張力の関係(下限値)を分析した。また、引張張力が強すぎると、締め付けが強すぎて着用感が悪くなり、また血行が悪くなるおそれもあるため、モニターの意見を聞きながら、適切な引張張力の範囲(上限値)も分析した。その結果、縦方向(ウェール方向)の引張張力が3.5N〜6.0N、横方向(コース方向)の引張張力が5.0N〜9.0Nとすることが最も望ましいことが確認された。
【0067】
以上説明したように、本発明の靴下は、横足弓の前アーチの位置には第2締付部を設けるとともに、横足弓の主アーチの位置には第4締付部を設けたので、それぞれの位置でコース方向への締め付ける作用が得られ、横足弓の形状を保護及び回復させる効果が得られる。また、この第2締付部、第4締付部によって確実に位置決めされた第1締付部が、縦足弓を下方から押し上げるので、縦足弓の形状を保護及び回復させる効果も得られる上、足首部に設けた第3締付部によって靴下全体が前後方向にずれることを抑制するので、靴下着用中も各締付部の位置が安定する。したがって、本発明によれば、従来の靴下が抱えていた(1)縦足弓、横足弓の何れか一方の保護又は回復しか考慮されていなかった問題点、及び(2)靴下着用中に締付部の位置がずれてしまうので、目的の位置に継続的に締付力を作用させることができなかった問題点を解決することができる。
【0068】
また、以上のような構成を採用することにより、本発明の靴下は、足底の柔軟組織である足底筋群と、足底筋群を包む足底筋膜(足底腱膜)を保護し、アーチの形状を保持する効果が得られる。また、歩行時、足底柔軟組織の伸展収縮時の負荷を分散し、肩代わりすることにより、足底柔軟組織にかかる負荷を軽減する。さらには、足底腱膜への負荷軽減による炎症の防止、衝撃吸収能力向上等により歩行時の足の蹴り出しをサポートし、歩行や走行運動をスムーズなものとする効果も有する。
【0069】
本発明は上記実施例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範囲内で、適宜実施の形態を変更しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の靴下は、一般用に限らず、ゴルフ、テニス、ジョギング、ウォーキングなどのスポーツ用の靴下にも適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】右足用の本発明の靴下を拇趾側の側面から見た状態を表した説明図である。
【図2】同靴下を第五趾側の側面から見た状態を表した説明図である。
【図3】同靴下を足底部側の面から見た状態を表した説明図である。
【図4】同靴下を足甲部側の面から見た状態を表した説明図である。
【図5】第1〜第4締付部の締め付け方向を説明する図である。
【図6】人の足型の説明図であり、(a)はオブリーク型の足型を、(b)はラウンド型の足型を示したものである。
【図7】アーチ周変化計測試験において使用した伸びセンサと記録装置の構成を説明する模式図である。
【図8】歩行動作による足裏のアーチ周の変化(伸びセンサからの出力)を時系列で表したグラフであり、踵接地(IC)から足裏接地(LR)のピークまでの変化量を立脚期アーチ周変化量としたことを説明する図である。
【図9】人の右足の骨を足底側から見た状態を表した図である。
【図10】(a)は、踵骨結節を起点として、第1中足骨又は第5中足骨にかけてアーチを形成している内側弓、外側弓と、第1中足骨から第5中足骨にかけて形成される前アーチ、土踏まずの左側から右側にかけて形成される主アーチについての説明図、(b)は、縦足弓と横足弓についての説明図である。
【図11】人の右足の骨を足甲側から見た状態を表した図であり、足根骨を構成する7個の骨の説明図である。
【符号の説明】
【0072】
S 靴下
1 第1締付部
2 第2締付部
3 第3締付部
4 第4締付部
5 つま先部
5a 拇趾側ゴアライン
5b 第5趾側ゴアライン
5c つま先部の先端
6 踵部
6a ゴアライン
6b くるぶし付近の始点
6c 踵部の先端
7 レッグ部
8 口ゴム部
A 足底部の趾球後方の位置
B 土踏まず部
C 土踏まず部と踵部の境界を含む位置
D 足首部
E 足甲部の付け根の位置
G 拇趾側ゴアラインの始点
H 拇趾側ゴアラインの終端
I 第5趾側ゴアラインの始点
J 第5趾側ゴアラインの終端
K 第3趾の指先の位置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴下の足底部の趾球後方の位置から土踏まず部と踵部の境界を含む位置にかけてウェール方向に締付力を高めた第1締付部を設け、前記趾球後方の位置においてコース方向に締付力を高めた第2締付部を周設するとともに、足首部にコース方向に締付力を高めた第3締付部を周設し、さらに、土踏まず部と踵部の境界を含む位置から足甲部の付け根の位置にかけてコース方向に締付力を高めた第4締付部を周設したことを特徴とする靴下。
【請求項2】
前記第1締付部と前記第2締付部は足底部の趾球後方の位置において連続させ、前記第1締付部と前記第4締付部は土踏まず部と踵部の境界を含む位置において連続させ、さらに、前記第4締付部と前記第3締付部は、足甲部の付け根の位置から足首部にかけて分離することなく連続させたことを特徴とする請求項1に記載の靴下。
【請求項3】
前記第1〜第4締付部は、伸縮性を高めた編み組織、伸縮性の高い素材の双方または何れか一方を用いることにより、所要の方向に締付力を高めたことを特徴とする請求項1又は2に記載の靴下。
【請求項4】
前記伸縮性を高めた編み組織としてタック編みを用い、前記伸縮性の高い素材としてはゴム糸とFTYを用いて、前記第1〜第4締付部を編成したことを特徴とする請求項3に記載の靴下。
【請求項5】
前記ゴム糸は、芯糸が120D〜680Dの太さの弾性糸を用いたことを特徴とする請求項4に記載の靴下。
【請求項6】
前記第1〜第4締付部は、ウェール方向の生地引張張力を3.5N〜6.0Nの範囲とするとともに、コース方向の生地引張張力を5.0N〜9.0Nの範囲としたことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の靴下。
【請求項7】
前記第1〜第4締付部の生地引張張力を、同じ張力としたことを特徴とする請求項6に記載の靴下。
【請求項8】
つま先部において、第5趾側ゴアラインを拇趾側ゴアラインよりも長くし、つま先部の先端を第3趾の指先の位置よりも拇趾側にシフトさせるとともに、前記拇趾側ゴアラインの終端は拇趾の内側に位置するようにしたことを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の靴下。
【請求項9】
つま先部の平面視形状を、オブリーク型としたことを特徴とする請求項8に記載の靴下。
【請求項10】
くるぶし付近の始点から踵部の先端に向けて斜め方向にゴアラインを設けた靴下であって、前記ゴアラインの始点を足甲部の付け根の位置に近づけて前記ゴアラインを深くすることにより、前記踵部が、かかと全体を覆うようにしたことを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の靴下。
【請求項11】
つま先部と踵部の内側面は、共にパイル編みとするとともに、踵部のパイル長をつま先部のパイル長よりも長くしたことを特徴とする請求項1〜10の何れかに記載の靴下。
【請求項12】
前記第1〜第4締付部以外の部分は、吸水速乾性の高いポリエステル、アクリル、毛、レーヨン、綿の内、2種以上の素材で編成したことを特徴とする請求項1〜11の何れかに記載の靴下。
【請求項1】
靴下の足底部の趾球後方の位置から土踏まず部と踵部の境界を含む位置にかけてウェール方向に締付力を高めた第1締付部を設け、前記趾球後方の位置においてコース方向に締付力を高めた第2締付部を周設するとともに、足首部にコース方向に締付力を高めた第3締付部を周設し、さらに、土踏まず部と踵部の境界を含む位置から足甲部の付け根の位置にかけてコース方向に締付力を高めた第4締付部を周設したことを特徴とする靴下。
【請求項2】
前記第1締付部と前記第2締付部は足底部の趾球後方の位置において連続させ、前記第1締付部と前記第4締付部は土踏まず部と踵部の境界を含む位置において連続させ、さらに、前記第4締付部と前記第3締付部は、足甲部の付け根の位置から足首部にかけて分離することなく連続させたことを特徴とする請求項1に記載の靴下。
【請求項3】
前記第1〜第4締付部は、伸縮性を高めた編み組織、伸縮性の高い素材の双方または何れか一方を用いることにより、所要の方向に締付力を高めたことを特徴とする請求項1又は2に記載の靴下。
【請求項4】
前記伸縮性を高めた編み組織としてタック編みを用い、前記伸縮性の高い素材としてはゴム糸とFTYを用いて、前記第1〜第4締付部を編成したことを特徴とする請求項3に記載の靴下。
【請求項5】
前記ゴム糸は、芯糸が120D〜680Dの太さの弾性糸を用いたことを特徴とする請求項4に記載の靴下。
【請求項6】
前記第1〜第4締付部は、ウェール方向の生地引張張力を3.5N〜6.0Nの範囲とするとともに、コース方向の生地引張張力を5.0N〜9.0Nの範囲としたことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の靴下。
【請求項7】
前記第1〜第4締付部の生地引張張力を、同じ張力としたことを特徴とする請求項6に記載の靴下。
【請求項8】
つま先部において、第5趾側ゴアラインを拇趾側ゴアラインよりも長くし、つま先部の先端を第3趾の指先の位置よりも拇趾側にシフトさせるとともに、前記拇趾側ゴアラインの終端は拇趾の内側に位置するようにしたことを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の靴下。
【請求項9】
つま先部の平面視形状を、オブリーク型としたことを特徴とする請求項8に記載の靴下。
【請求項10】
くるぶし付近の始点から踵部の先端に向けて斜め方向にゴアラインを設けた靴下であって、前記ゴアラインの始点を足甲部の付け根の位置に近づけて前記ゴアラインを深くすることにより、前記踵部が、かかと全体を覆うようにしたことを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の靴下。
【請求項11】
つま先部と踵部の内側面は、共にパイル編みとするとともに、踵部のパイル長をつま先部のパイル長よりも長くしたことを特徴とする請求項1〜10の何れかに記載の靴下。
【請求項12】
前記第1〜第4締付部以外の部分は、吸水速乾性の高いポリエステル、アクリル、毛、レーヨン、綿の内、2種以上の素材で編成したことを特徴とする請求項1〜11の何れかに記載の靴下。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−155763(P2009−155763A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336224(P2007−336224)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(592154411)岡本株式会社 (29)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(592154411)岡本株式会社 (29)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】
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