説明

靴下

【課題】靴下の構成繊維の効果により優れた着用快適性を有する靴下を提供する。
【解決手段】織物組織または編物組織を有する生地を含む靴下であって、前記生地が、単繊維径が10〜1500nmのフィラメントAと、単繊維径が1500nmより大のフィラメントBとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴下の構成繊維の効果により優れた着用快適性を有する靴下に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、靴下としては、極細繊維を用いることにより吸水性を向上させた靴下や足裏部にプレート状物を設けた靴下など種々の靴下が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
しかしながら、プレート状物を設けず靴下の構成繊維の効果により、靴と靴下との滑りを防止したり、靴下のズレを防止し着用快適性を向上させた靴下はこれまであまり提案されていない。
なお、ナノファイバーと称せられる超極細繊維は知られている(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭58−7721号公報
【特許文献2】特開2006−249623号公報
【特許文献3】特開2003−41432号公報
【特許文献4】特開2004−162244号公報
【特許文献5】特開2005−23466号公報
【特許文献6】特開2007−2364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、靴下の構成繊維の効果により優れた着用快適性を有する靴下を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、単繊維径が10〜1500nmのフィラメントを靴下の表面または裏面に露出するように配すると、前記フィラメントが露出した面が滑りにくくなるため、靴と靴下との滑りが防止されたり、また靴下のズレが防止されることにより着用快適性に優れた靴下が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして、本発明によれば「織物組織または編物組織を有する生地を含む靴下であって、前記生地が、単繊維径が10〜1500nmのフィラメントAと、単繊維径が1500nmより大のフィラメントBとを含むことを特徴とする靴下。」が提供される。
【0007】
その際、前記生地の表面および裏面のうち少なくともどちらか一方に前記フィラメントAが露出していることが好ましい。また、前記フィラメントAが、ポリエステルまたはナイロンまたはアクリルからなることが好ましい。また、前記フィラメントAのフィラメント数が500本以上であることが好ましい。また、前記フィラメントBが、ポリエステルまたはナイロンまたはアクリルまたは綿またはポリウレタンからなることが好ましい。また、前記フィラメント糸Bのフィラメント数が1〜500本の範囲内であることが好ましい。また、前記フィラメントAが、靴下の足裏部または踵部または口ゴム部の、表面または裏面に露出していることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、靴下の構成繊維の効果によって、靴と靴下との滑りが防止されたり、また靴下のズレが防止されることにより優れた着用快適性を有する靴下が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】靴下を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の靴下は、織物組織または編物組織を有する生地を含む靴下であって、前記生地が、単繊維径が10〜1500nmのフィラメントAと、単繊維径が1500nmより大のフィラメントBとを含む。
【0011】
ここで、前記フィラメント糸A(以下、「ナノファイバー」と称することもある。)において、その単繊維径(単繊維の直径)が10〜1500nm(好ましくは250〜800nm、特に好ましくは510〜800nm)の範囲内であることが肝要である。該単繊維径が10nmよりも小さい場合は繊維強度が低下するため実用上好ましくない。逆に、該単繊維径が1500nmよりも大きい場合は、靴下の表面または裏面において滑りやすくなり本発明の主目的とする、靴下の着用快適性が得られないおそれがあり好ましくない。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0012】
前記フィラメント糸Aにおいて、フィラメント数は特に限定されないが、靴下の表面または裏面における滑りにくさや超極細繊維特有の風合いを得る上で500本以上(より好ましくは2000〜50000本)であることが好ましい。また、フィラメント糸Aの総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、50〜800dtexの範囲内であることが好ましい。
【0013】
前記フィラメント糸Aの繊維形態は特に限定されないが、長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。また、前記フィラメント糸Aは2種類以上でもよい。
【0014】
前記フィラメント糸Aを形成するポリマーの種類としては特に限定されずいずれのポリマーでもよいが、繊維強度の点でポリエステルまたはナイロンまたはアクリルが好ましい。なかでも、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルや、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸でもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0015】
本発明の靴下に含まれるフィラメント糸Bは、その単繊維径が1500nmより大(好ましくは2〜33μm)であることが肝要である。該単繊維径が1500nm(1.5μm)以下であると、靴下の保形性が損われるおそれがある。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、前記と同様、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0016】
前記フィラメント糸Bにおいて、フィラメント数は特に限定されないが、1〜300本の範囲内であることが好ましい。また、かかるフィラメント糸Bの繊維形態は特に限定されず紡績糸でもよいが、長繊維(マルチフィラメント糸)やポリウレタン繊維等、あるいは両者を使用することが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえなく、また前記フィラメント糸Bは2種類以上でもよい。
【0017】
前記フィラメント糸Bを形成するポリマーの種類としては、特に限定されずいずれのポリマーでもよいが、繊維強度の点でポリエステルまたはナイロンまたはアクリルまたは綿またはポリウレタンが好ましい。なかでも、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステル、ポリエーテルエステル、ウレタンなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルやポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸でもよいが、滑り止め効果をより追及する場合はポリエーテルエステルやポリウレタンなどの弾性樹脂が好ましい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0018】
なお、前記フィラメント糸Aおよびフィラメント糸Bにおいて、繊維は複数の組合わせが好ましく、例えば、ポリウレタン繊維やポリエーテルエステル系繊維などからなる弾性繊維糸条と、ポリエステル系繊維糸条またはナイロン繊維糸条とをインターレース空気ノズルなどにより空気混繊させた複合糸や、ポリウレタン繊維やポリエーテルエステル系繊維などからなる弾性繊維糸条のまわりにポリエステル系糸条またはナイロン繊維糸条をカバリングした複合糸などや、紡績糸との複合糸、またはこれを交編、交織してもよい。
【0019】
本発明の靴下において、生地の表面および裏面のうち少なくともどちらか一方(好ましくは両面)に前記フィラメントAが露出していることが好ましい。前記フィラメントA(ナノファイバー)が肌に接触するように使用すると、肌との優れた摩擦力が得られ、靴下がズレにくくなり着用快適性が向上する。また、前記フィラメントA(ナノファイバー)が外気側に位置するように使用すると、靴や床との優れた摩擦力が得られ滑りにくくなり着用快適性が向上する。ここで、電子顕微鏡を用いて50倍の倍率で編地表面(裏面)を撮影し、写真のなかで、フィラメント糸Aが占める面積AAと、フィラメント糸Bが占める面積BAとを計測し、フィラメント糸Aの面積割合(%)(=AA/(AA+BA)×100)の値が30%以上であることが好ましい。
【0020】
本発明の靴下は例えば以下の製造方法により製造することができる。まず、海成分と、ポリエステルからなりその径が10〜1500nmである島成分とで形成される海島型複合繊維(フィラメント糸A用繊維)を用意する。かかる海島型複合繊維としては、特開2007−2364号公報に開示された海島型複合繊維マルチフィラメント(島数100〜1500)が好ましく用いられる。
【0021】
すなわち、海成分ポリマーとしては、繊維形成性の良好なポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどが好ましい。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングルコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。なかでも、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。
【0022】
一方、島成分ポリマーは、繊維形成性の良好なポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどのポリエステルが好ましい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0023】
上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーからなる海島型複合繊維は、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。また、島成分の径は、10〜1500nmの範囲とする必要がある。その際、島成分の形状が真円でない場合は外接円の直径を求める。前記の海島型複合繊維において、その海島複合重量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲が好ましく、特に30:70〜10:90の範囲が好ましい。
【0024】
かかる海島型複合繊維マルチフィラメント糸は、例えば以下の方法により容易に製造することができる。すなわち、前記の海成分ポリマーと島成分ポリマーとを用い溶融紡糸する。溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。吐出された海島型断面複合繊維マルチフィラメント糸は、冷却風によって固化され、好ましくは400〜6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度・伸度・熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。かかる海島型複合繊維マルチフィラメント糸において、単糸繊維繊度、フィラメント数、総繊度としてはそれぞれ単糸繊維繊度0.5〜10.0dtex、フィラメント数5〜75本、総繊30〜170dtexの範囲内であることが好ましい。また、かかる海島型複合繊維マルチフィラメント糸の沸水収縮率としては5〜30%の範囲内であることが好ましい。
【0025】
一方、単繊維繊度が0.1dtex以上(好ましくは0.1〜50dtex)であるフィラメントBを用意する。最終的に得られる生地内のフィラメント糸Bの単繊維径を1500nmより大とする上で、単繊維繊度を前記の範囲内とすることが好ましい。
【0026】
かかるフィラメント糸Bにおいて、フィラメント数、総繊度としてはそれぞれフィラメント数1〜300本、総繊度10〜800dtexの範囲内であることが好ましい。また、かかるフィラメント糸としては、沸水収縮率10%以上(より好ましくは20〜40%)の範囲内の高収縮ポリエステルか、弾性糸(ポリウレタン弾性糸またはポリエーテルエステル弾性糸)であることが好ましい。なお、前記のような高い沸水収縮率を得るには、共重合ポリエステルを用いて常法により紡糸、延伸するとよい。その際、共重合ポリエステルとしては、共重合ポリエステルの主構成モノマーがテレフタル酸およびエチレングリコールであり、この主構成モノマーに共重合する第三成分が、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、およびビスフェノールスルフォンからなる群より選択されるいずれかであることが好ましい。特に、前記の共重合ポリエステルが、酸成分がモル比(テレフタル酸/イソフタル酸)90/5〜85/15のテレフタル酸およびイソフタル酸からなり、グリコール成分がエチレングリコールからなる共重合ポリエステルであることが好ましい。このような共重合ポリエステルを用いることにより高い沸水収縮率が得られる。
【0027】
次いで、前記海島型複合繊維マルチフィラメント糸とフィラメント糸Bとを用いて、好ましくは前記海島型複合繊維フィラメント糸が生地の表面および/または裏面に露出するよう、織編物を常法により織編成する。その際、前記海島型複合繊維フィラメント糸とフィラメント糸Bとが混繊糸として織編物中に含まれていてもよいが、前記フィラメント糸Aと前記フィラメントBとを交編または交織することにより編物または織物を織編成することが好ましい。なお、前記海島型複合繊維フィラメント糸とフィラメント糸Bとの総繊度比としては、90:10〜20:80の範囲内であることが好ましい。
【0028】
また、前記海島型複合繊維マルチフィラメント糸とフィラメント糸Bとを用いて靴下編機により直接靴下を縫製してもよいし、まず生地を得たのち、靴下を縫製してもよい。
前記生地の織物組織および編物組織は特に限定されず、よこ編組織としては、天竺編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフ編、ハーフベース編、サテン編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等などが例示され、織物組織としては、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示されるがこれらに限定されない。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。
【0029】
次いで、前記の靴下または織編物(生地)にアルカリ水溶液処理を施し、前記海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去することにより、海島型複合繊維フィラメント糸を単繊維径が10〜1500nmのフィラメント糸Aとすることにより、本発明の靴下用生地が得られる。その際、アルカリ水溶液処理の条件としては、濃度3〜4%のNaOH水溶液を使用し55〜65℃の温度で処理するとよい。
【0030】
また、該アルカリ水溶液による溶解除去の前および/または後に生地に染色加工を施してもよい。カレンダー加工(加熱加圧加工)やエンボス加工を施してもよい。さらに、常法の起毛加工、撥水加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0031】
次いで、前記生地単独か、必要に応じて他の生地と併用して常法により靴下を縫製する。その際、前記生地のみで靴下を構成してもよいが、該生地を肌側に配し、一方、外気側に例えば通常のポリエステル織編物を配することにより多層構造としてもよいし、その逆でもよい。
【0032】
かくして得られた靴下において、前記フィラメント糸A(ナノファイバー)が露出している面を肌に接触する側に使用すると、生地と肌との摩擦力が向上し、靴下がズレにくくなり着用快適性が向上する。また、前記フィラメントA(ナノファイバー)が外気側に位置するように使用すると、靴や床との優れた摩擦力が得られ滑りにくくなり着用快適性が向上する。また、安全でもある。特に、前記フィラメントAが、靴下の足裏部または踵部または口ゴム部の、表面または裏面(好ましくは表面および裏面)に露出していると、靴下がズレにくく、また、靴や床に対して滑りにくく好ましい。
【0033】
摩擦力が向上する理由はまだ明らかにはされていないが、生地表面がフラットになって肌や靴などとの接触面積が大きくなること、またナノファイバーが肌や靴などの凹凸に引っ掛かるためであろうと推定している。
【0034】
また本発明の靴下において、1500nmより大のフィラメント糸Bが含まれているので、靴下の保形性が向上する。
本発明の靴下は、紳士用、婦人用、幼児用、作業用いずれにも好適である。また、アクセサリーなどの付属品が備わっていてもなんらさしつかえない。
【実施例】
【0035】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0036】
<溶融粘度>
乾燥処理後のポリマーを紡糸時のルーダー溶融温度に設定したオリフィスにセットして5分間溶融保持したのち、数水準の荷重をかけて押し出し、そのときのせん断速度と溶融粘度をプロットする。そのプロットをなだらかにつないで、せん断速度−溶融粘度曲線を作成し、せん断速度が1000秒−1の時の溶融粘度を見る。
【0037】
<溶解速度>
海・島成分の各々0.3φ−0.6L×24Hの口金にて1000〜2000m/分の紡糸速度で糸を巻き取り、さらに残留伸度が30〜60%の範囲になるように延伸して、84dtex/24filのマルチフィラメントを作製する。これを各溶剤にて溶解しようとする温度で浴比100にて溶解時間と溶解量から、減量速度を算出した。
【0038】
<フィラメント糸Aの露出割合>
電子顕微鏡を用いて100倍の倍率で生地の表面および裏面を撮影し、写真のなかで、フィラメント糸Aが占める面積AAと、フィラメント糸Bが占める面積BAとを計測し、フィラメント糸Aの面積割合(%)(=AA/(AA+BA)×100)を算出した。
【0039】
<滑り難さ評価1>
評価者5人が靴下を履いた状態で、フローリングの床を歩き、滑り具合を判定した。判定基準は、非常に滑り難い場合を5級、滑り難い場合を4級、少し滑る場合を3級、滑る場合を2級、非常に滑り易い場合を1級とした。
【0040】
<滑り難さ評価2>
評価者5人が靴下とスニーカーを履いた状態で、軽度の運動を実施し、スニーカー内での足の滑り具合を判定した。判定基準は、非常に滑り難い場合を5級、滑り難い場合を4級、少し滑る場合を3級、滑る場合を2級、非常に滑り易い場合を1級とした。
【0041】
<ズレ難さ評価>
評価者5人が靴下を履いた状態で、軽度の運動を実施し、靴下のズレ具合を判定した。判定基準は、非常にズレ難い場合を5級、ズレ難い場合を4級、少しズレる場合を3級、ズレる場合を2級、非常にズレ易い場合を1級とした。
【0042】
<履き心地評価>
評価者5人が靴下を履き、履き心地を判定した。判定基準は、非常に心地が良いものを5級、心地が良いものを4級、心地がやや良いものを3級、心地がやや悪いものを2級、心地が悪い物を1級とした。
【0043】
<着用快適性の総合評価>
前記滑り難さ評価1、滑り難さ評価2、ズレ難さ評価、履き心地評価の総合点が18点以上を5級、17〜15点を4級、14〜12点を3級、11〜9点を2級、8点以下を1級とした。
【0044】
[実施例1]
島成分としてポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1200ポイズ、艶消し剤の含有量:0重量%)、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸6モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール6重量%を共重合したポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1750ポイズ)を用い(溶解速度比(海/島)=230)、海:島=30:70、島数=836の海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。
得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取った。得られた海島型複合繊維(フィラメント糸A用繊維、延伸糸)は56dtex/10filであり、透過型電子顕微鏡TEMによる繊維横断面を観察したところ、島の形状は丸形状でかつ島の径は700nmであった。
得られた海島型複合繊維(フィラメント糸A用繊維、延伸糸)を通常の撚糸方法により3本合撚(S方向100回/m)し167dtex/30filの撚糸糸条を得た。
【0045】
一方、通常のカバリング加工を使用し、芯糸としてポリウレタン糸条33dtex/1filを用い、鞘糸としてポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸84dtex/36filを用いてカバリング糸を得た。
次いで、前記撚糸糸条7本とカバリング糸1本とを引き揃えて、通常の靴下編機(永田精機(株)製、型式K−172)を使用して、コース数19本/2.54cm、ウェール数14本/2.54cmの、図1に示すような天竺編み靴下を得た。
次いで、該靴下を50℃にて湿熱処理した後、海島型複合繊維の海成分を除去するために、2.5%NaOH水溶液で、55℃にて30%減量(アルカリ減量)した。その後、常法の湿熱加工、乾熱加工を行った。
【0046】
得られた靴下において、靴下の足裏部および踵部および口ゴム部の、表面および裏面にフィラメント糸Aが露出していた。また、フィラメント糸Aの平均繊維径は700nmであり、ポリウレタン糸条(フィラメント糸B1)の単繊維径は60μm、ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(フィラメント糸B2)の単繊維径は15μmであった。また、該靴下において、表面(外気側面)において、フィラメント糸Aが97%露出し、裏面(肌側面)において、フィラメント糸Aが85%露出していた。また、滑り難さ評価1は5級、滑り難さ評価2は5級、ズレ難さ評価は5級、履き心地評価は5級、総合評価は5級であった。
【0047】
[比較例1]
実施例1において、撚糸糸条の替わりに167dtex/48filのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントを用いて、これ以外は実施例1と同様に靴下を得た。次いで、常法の湿熱加工、乾熱加工を行った。
得られた靴下において、ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントの単繊維径は18μm、ポリウレタン糸条(フィラメント糸B1)の単繊維径は60μm、ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(フィラメント糸B2)の単繊維径は15μmであった。また、該靴下において、滑り難さ評価1は1級、滑り難さ評価2は1級、ズレ難さ評価は1級、履き心地評価は5級、総合評価は1級であった。
【0048】
[比較例2]
実施例1において、撚糸糸条の替わり40/2番手の綿糸を用いて同様に靴下を得た。次いで、常法の湿熱加工、乾熱加工を行った。
得られた靴下において、綿糸の単繊維径は丸断面換算で15μm、ポリウレタン糸条(フィラメント糸B1)の単繊維径は60μm、ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(フィラメント糸B2)の単繊維径は15μmであった。また、滑り難さ評価1は2級、滑り難さ評価2は2級、ズレ難さ評価は2級、履き心地評価は5級、総合評価は2級であった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、靴下を構成する繊維の効果によって、靴と靴下との滑りが防止されたり、また、靴下のズレが防止されることにより優れた着用快適性と安全性を有する靴下が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【符号の説明】
【0050】
1 口ゴム部
2 踵部
3 足裏部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織物組織または編物組織を有する生地を含む靴下であって、前記生地が、単繊維径が10〜1500nmのフィラメントAと、単繊維径が1500nmより大のフィラメントBとを含むことを特徴とする靴下。
【請求項2】
前記生地の表面および裏面のうち少なくともどちらか一方に前記フィラメントAが露出している、請求項1に記載の靴下。
【請求項3】
前記フィラメントAが、ポリエステルまたはナイロンまたはアクリルからなる、請求項1または請求項2に記載の靴下。
【請求項4】
前記フィラメントAのフィラメント数が500本以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の靴下。
【請求項5】
前記フィラメントBが、ポリエステルまたはナイロンまたはアクリルまたは綿またはポリウレタンからなる、請求項1〜4のいずれかに記載の靴下。
【請求項6】
前記フィラメント糸Bのフィラメント数が1〜500本の範囲内である、請求項1〜5のいずれかに記載の靴下。
【請求項7】
前記フィラメントAが、靴下の足裏部または踵部または口ゴム部の、表面または裏面に露出している、請求項1〜6のいずれかに記載の靴下。

【図1】
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【公開番号】特開2010−163712(P2010−163712A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6524(P2009−6524)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】