説明

靴中敷

【課題】靴内でのズレを防止し安定性を発揮させるための腰の強さを備え、より簡易に且つ低コストで実現できる、ポリプロピレン系材料を積層構造に含む靴中敷の提供。
【解決手段】底面層となるシート状部材と、該底面層となるシート状部材上に積層される他のシート状部材を備え、各層のシート状部材のうち少なくとも一層がポリプロピレンを含有し、前記各層のシート状部材の周縁部相互をウェルダ加工により固着一体としてなる靴中敷において、底面層となるシート状部材は、芯材の周囲を鞘材で被覆した芯鞘構造を有する加工糸から織成され、芯材の主成分及び鞘材の主成分がいずれもポリプロピレンであり、鞘材が芯材より低融点である靴中敷を解決手段とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系材料を積層構造に含む靴中敷に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のシート状部材を積層した構造を有し、これら各層の周縁部を、ウェルダ加工(高周波電流の通電による加熱溶断)等によって溶着一体としてなる靴中敷が公知であり、広く普及している。
【0003】
一般に、靴中敷は靴内に挿入して使用されることから、通気性、吸汗性、保温性、抗菌性、防臭性、クッション性等、種々の性能が要求される。このため各シート状部材にはこれらの性能を発揮するための素材等が適宜使用される。そして、これらの性能を発揮するための前提となる基本性能として、靴中敷には、靴内でのズレや捲れを防止し安定性を発揮させるための腰の強さが要求される。
【0004】
このような靴中敷の腰の強さを有するものとして、例えば、本出願人が先に出願した靴中敷として、表面層として表面側シート部材、底面層として底面側シート部材、中間層として中間シート部材を備え、これらシート部材が、ポリエステル糸若しくはナイロン糸の表面全体を、EVA樹脂(エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂)でコーティングして得られる加工糸で織成され、底面側シート部材の織目間隙を所定範囲とし、中間シート部材は加工糸を綾織として全体に畝を形成して嵩高とした構成の靴中敷(例えば、特許文献1参照。)が公知である。
【0005】
当該靴中敷は、靴中敷の腰の強さを有する点で優れてはいるものの、靴内でのズレの防止を発揮する腰の強さを得るために、シート部材が、ポリエステル糸若しくはナイロン糸の表面全体を、EVA樹脂(エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂)でコーティングして得られる加工糸で織成しており、十分な腰の強さを得るためには、靴中敷の製造工程において、EVA樹脂(エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂)でコーティングしたシート部材を二枚重ねとしてホットメルト接着剤とともに、各層の周縁部の溶着を行うなど、製造上手間がかかり、コストの上昇を伴う構成である点で、改良の余地があった。
【0006】
一方で十分な腰の強さを有する素材として、例えば、ポリプロピレンを用いることが考えられる。しかしながら、通常、ポリプロピレンは、靴中敷の製造に用いられるウェルダ加工機を用いても、通電のみによって溶着が行えないため、靴中敷の素材としては一般にあまり利用されていない。
【0007】
このポリプロピレンを靴中敷に利用しようとするものとしては、例えば、表生地、裏生地のうち少なくとも一方がポリエステル若しくはポリプロピレンを主材料とする織物地、編物地若しくは合成皮革からなる表生地及び裏生地と、それらの間に活性炭含浸シート、抗菌加工シート若しくはこれらの組合せよりなる単層若しくは複層の中間シートとを積層し、この際ポリアミド系成分を含むホットメルト不織布若しくはホットメルト粉末を表生地と中間シートの間、中間シートの各層の間そして中間シートと裏生地の間にそれぞれ介在させるか、または、前記の表生地及び裏生地と、それらの間に、ポリアミド系成分を含み且つ活性炭含浸及び/若しくは抗菌加工された単層の複合中間シートとを積層し、そして得られた該積層体を、高周波電流の通電によって靴中敷形状に溶断し同時にその周縁部を接着すること(以下、ウェルダ加工という。)により、作られた靴中敷(例えば、特許文献2参照。)が公知である。
【0008】
しかしながら、上記特許文献2に係る発明は、ポリプロピレンを溶着させるために、常に、ポリアミド系成分を含有するホットメルト不織布若しくはホットメルト粉末を層間に介在させる必要がある。
このため、ポリプロピレンを層として介在させる度に、ポリアミド系成分を含むホットメルト層を追加して設けなければならず、結局、十分な腰の強さを得るためには、先の特許文献1に係る靴中敷と同様に、製造工数が増加し、コストの上昇を伴う点で、問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3932421号公報
【特許文献2】実登3054968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、靴内でのズレを防止し安定性を発揮させるための腰の強さを備え、より簡易に且つ低コストで実現できる、ポリプロピレン系材料を積層構造に含む靴中敷の提供を、発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、底面層となるシート状部材と、該底面層となるシート状部材上に積層される他のシート状部材を備え、各層のシート状部材のうち少なくとも一層がポリプロピレンを含有し、前記各層のシート状部材の周縁部相互をウェルダ加工により固着一体としてなる靴中敷において、底面層となるシート状部材は、芯材の周囲を鞘材で被覆した芯鞘構造を有する加工糸から織成され、芯材の主成分及び鞘材の主成分がいずれもポリプロピレンであり、鞘材が芯材より低融点であることを特徴とする靴中敷を、課題を解決するための手段とする。
【0012】
尚、上記芯材若しくは鞘材について、「主成分がいずれもポリプロピレンであること」とは、プロピレンの単独重合体(ホモポリマー)のみならず、プロピレンの共重合体(ランダムコポリマー、ブロックコポリマー)を含む趣旨である。
【0013】
また、プロピレンの共重合体に用いる樹脂としては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等を使用することができる。
【0014】
また、加工糸について、芯材及び鞘材は、例えば公知の複合繊維用の溶融紡糸装置を用いて、紡糸し、製造することができる。芯材と鞘材との構成比は20〜80:80〜20のものを利用する。また、このように構成される加工糸は約500デニール〜1500デニールのものを利用する。
【0015】
また、上記の芯材に対して鞘材を低融点とするための手段として、上記ポリマーを含む、種々の手段を用いることができ、例えば、立体規則性の高いアイソタクチックポリプロピレン(単独重合体)を芯材とし、メタロセン触媒による単独重合で得られる分子内に見かけ上エチレンが共重合された構造となるポリプロピレンを鞘材としてもよいし、又は、単独重合で得られるポリプロピレンを芯材とし、プロピレンを主成分としたエチレンとの共重合体とする鞘材とすることができる。
【0016】
また、本発明は、上記発明を前提として、底面層となるシート状部材に積層当接する他のシート状部材が、複数の開口部を有し、底面層となるシート状部材の鞘材が、前記他のシート状部材の周縁部における前記開口部に溶融含浸して固化した構成であることを特徴とする靴中敷を、課題を解決するための手段とする。尚、前記他のシート状部材は、繊維間に間隙として形成した開口部を有する不織布や、シート状部材に多数の貫通孔として形成した開口部を穿設したもの等とすることができる。即ち、本発明における「開口部」とは、不織布等の繊維の隙間、編繊維や織繊維の繊維間に生ずる孔等、シート状部材の両面又は片面に形成される開口をいう。
【0017】
更に、本発明は、上記発明を前提として、底面層となるシート状部材は、網目構造としたことを特徴とする靴中敷を、課題を解決するための手段とする。ここで「網目構造」とは、繊維をメッシュ状に、織成若しくは編成したものを含む。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によれば、底面層となるシート状部材と、該底面層となるシート状部材上に積層される他のシート状部材を備え、各層のシート状部材のうち少なくとも一層がポリプロピレンを含有し、前記各層のシート状部材の周縁部相互をウェルダ加工により固着一体としてなる靴中敷において、底面層となるシート状部材は、芯材の周囲を鞘材で被覆した芯鞘構造を有する加工糸から織成され、芯材の主成分及び鞘材の主成分がいずれもポリプロピレンであり、鞘材が芯材より低融点であることを特徴とする靴中敷としたことから、靴中敷の積層段階にポリプロピレンを溶着させるために更なる積層や添加剤等を追加することがなく、ポリプロピレン製加工糸の層自体の構成により、靴内でのズレを防止し安定性を発揮させるための腰の強さを有する靴中敷とすることができる。
【0019】
即ち、靴中敷の周縁部で、芯鞘構造を有するポリプロピレン製加工糸のうち鞘材が溶融状態となって他の層に含浸して固化し、ポリプロピレンの芯鞘構造自体は、芯材と鞘材との親和性が高いことで、靴中敷全体としての形状安定性を保つことができ、更に、ポリプロピレン製加工糸のうち芯材は溶融することがなくポリプロピレンの有する強い腰を実現できるのである。
【0020】
また、靴中敷のシート状部材の積層工程においては、周縁部を一度のウェルダ加工で溶着一体とする構成を実現でき、簡単に、各層を接着し、低コストで優れた特性を有する靴中敷を提供することができる。
【0021】
また、請求項2に係る発明においては、上記本発明の構成において、底面層となるシート状部材に積層当接する他のシート状部材が、複数の開口部を有し、底面層となるシート状部材の鞘材が、前記他のシート状部材の周縁部における前記開口部に溶融含浸して固化した構成であることから、上記作用効果を奏する上に、鞘材のポリプロピレンを主成分とする樹脂が、他のシート状部材の開口部内に含浸して固化されることで、強固に中間層と底面層とを固着することができる。
【0022】
また、上記靴中敷における他のシート状部材は、該靴中敷の目的などに応じて、極めて多種多様な素材が使用されるところ、当該底面層となるシート状部材に積層当接する他のシート状部材に開口部が形成されてさえいれば、樹脂相互の相溶性を問題とすることなく、周縁部の固着を行うことができ、腰のあるポリプロピレンを備え、且つ通気性にも優れた靴中敷を提供できる。
【0023】
更に、請求項3に係る発明においては、上記請求項1、請求項2に係る発明の作用効果を奏することに加え、底面層となるシート状部材は、網目構造としたことで、加熱箇所となる周縁部で、鞘材のポリプロピレンを主成分とする樹脂が、他のシート状部材の開口部内に溶融含浸されて強固に底面層となるシート状部材と他のシート状部材を固着できるとともに、底面層となるシート状部材の網目とこれに当接する他のシート状部材の開口部とが連通した空間を確保するので、靴中敷の底面層のシート部材から他のシート状部材への通気性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例1に係る靴中敷の平面側を示す斜視図。
【図2】本発明の実施例1に係る靴中敷の底面側を示す斜視図。
【図3】本発明の実施例1に係る靴中敷の層構成を示す説明図。
【図4】本発明の実施例1に係る靴中敷の図1における中間省略したA−A拡大説明断面図。
【図5】本発明の実施例2に係る靴中敷における第二シート状部材を示す斜視図。
【図6】本発明の実施例2に係る靴中敷における中間省略した拡大説明断面図。
【図7】本発明の実施例3に係る靴中敷における中間省略した拡大説明断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
底面層、中間層、表面層となるシート状部材を積層した構造を有し、少なくともシート状部材の一層がポリプロピレンを含有し、前記各層のシート状部材の周縁部を相互にウェルダ加工で固着一体としてなり、底面層である第一シート状部材は、芯鞘構造を有する加工糸からなり、芯材の主成分及び鞘材の主成分がいずれもポリプロピレンであり、且つ、芯材の融点よりも鞘材の融点を低いものとし、第一シート状部材に当接する中間層の第二シート状部材が複数の不規則な開口部を有し、第一シート状部材における鞘材が溶融した状態で前記開口部に含浸して固化した構成とし、第一シート状部材は網目状の織組織とした靴中敷としたことから、靴中敷の積層段階において、ポリプロピレンを溶着させるための更なる積層や添加剤等を用いることがないので、芯鞘構造を有するポリプロピレン製加工糸のうち鞘材が溶融状態となって他の層と固着し、芯鞘構造を有するポリプロピレン製加工糸のうち芯材が溶融することなくポリプロピレンの有する強い腰を実現できる。また、いずれもポリプロピレンである芯材と鞘材との親和性が高いことで、靴中敷全体としての形状安定性を保つことができ、簡単に、表面層、中間層とともに、周縁部をウェルダ加工で固着一体とする構成を実現でき、低コストで優れた特性を有する靴中敷を提供することができる。更に、第二シート状部材が複数の開口部を有し、第一シート状部材における鞘材が溶融した状態で第二シート状部材の前記開口部に含浸して固化されることで、強固に中間層と底面層とを固着することができる。また、第一シート状部材が網目構造を有することで、網目における目と第二シート状部材の開口部とが連通した空間を確保するので、靴中敷の底面層から第二シート状部材への通気性を確保することができ、靴中敷の通気性の確保に資することができる、優れた靴中敷を提供することができる。
【実施例1】
【0026】
本発明の実施例1に係る靴中敷1について以下に示す。図1は当該実施例1に係る靴中敷1の平面側を示す斜視図、図2は当該実施例1に係る靴中敷1の底面側を示す斜視図、図3は同実施例1に係る靴中敷1の層構成を示す説明図、図4は同実施例1に係る靴中敷1の図1における中間省略したA−A拡大断面図である。
【0027】
本発明の実施例1に係る靴中敷1(1a)は、図1から図4に示すように、表面層2となる編生地からなるシート状部材、中間層3となる三層のシート状部材、底面層となる一層の第一シート状部材4を積層し、これらの周縁部11をウェルダ加工により溶着し、余剰部分を切断除去して得られる靴中敷1aである。
【0028】
前記周縁部11は、前記一回のウェルダ加工によって、形成される。当該ウェルダ加工によって、中間層3とこれに当接する表面層2は、溶融したホットメルト接着剤層31によって溶着され、また、中間層3のうち、第一シート状部材4に当接する第二シート状部材30には、前記第一シート状部材4を構成するポリプロピレン加工糸のうち鞘糸が溶融含浸した後、固化し、第一シート状部材4と第二シート状部材30とが積層一体となる。
【0029】
また、図1に示すように、前記ウェルダ加工による周縁部11の溶着と同時に、爪先側に、使用者の足のサイズに応じて大きさを調節するための、ライン状に各層を溶着してなるカットライン12を、形成する。
【0030】
また、同図1に示すように、当該周縁部11の溶着と同時に、靴中敷1aの爪先側半分の中央位置に、部分的な溶着部10を形成する。当該溶着部10は、積層された各層のずれを防止するための機能を有する。
【0031】
本実施例1に係る靴中敷1aの底面層となる第一シート状部材4は、図2及び図3に示すように、芯鞘構造(芯材41の周囲を鞘材42で捲回してなる構造)の加工糸40を用い、網目43構造のメッシュとして織成したものである。加工糸40は約1000デニールで、幅約0.5mm程度のものとしている。
【0032】
第一シート状部材4における芯材41は、融点が150℃〜170℃程度となるポリプロピレンとし、前記第一シート状部材4における鞘材42は、融点が110℃〜130℃程度となるポリプロピレンを主成分とするプロピレン−エチレンの共重合体としている。本実施例1に係る底面層の第一シート状部材4は、前記した約0.5mm程度の加工糸40を平織し、織目隙間、即ちメッシュの目の大きさは、1mm四方程度として形成してある。
【0033】
本実施例1に係る靴中敷1aの中間層3は、底面側に配置されるポリエステル繊維の不織布とした第二シート状部材30と、表面側に配置されるポリウレタンフォーム層32と、前記第二シート状部材30上に積層され且つ該第二シート状部材30と前記ポリウレタンフォーム層32の間に配置されるホットメルト接着剤層31の三層のシート状部材からなる。
【0034】
前記第二シート状部材30は、通気性を確保した厚さ1ミリメートル程度とし、その表面には繊維間に生ずる多数の不規則な形状の開口部300を有する。
【0035】
また前記ポリウレタンフォーム層32は、1ミリメートル程度の厚さを有し、通気性及びクッション性を備えている。
【0036】
前記ホットメルト接着剤層31は、第二シート状部材30上に粗い塗膜状として形成されている。前記したように、第二シート状部材30の表面には繊維間に生ずる多数の不規則な形状の開口部300を有しているため、積層状態においても、開口部300の一部にはホットメルト接着剤層31も存在しないため通気性が保持されている。このため、ホットメルト接着剤層31を介して積層される、第二シート状部材30とポリウレタンフォーム層32とは通気性を保持している。
【0037】
本実施例1に係る表面層2は、通気性を有する合成繊維からなる、若干の伸縮性を備えた編地としている。
【0038】
周縁部11における底面層の第一シート状部材4と、中間層3の第二シート状部材30との前記ウェルダ加工による固着構造については、底面層である第一シート状部材4の芯材41が溶融せずにそのポリプロピレンの腰のある特性が保たれた状態で、第一シート状部材4に当接する第二シート状部材30の表面に露呈する多数の繊維間の隙間となる開口部300に、前記第一シート状部材4を構成する加工糸40の鞘材42が溶融して含浸され、且つ、鞘材42が流動性によって芯材41から完全に離脱しない状態で、第二シート状部材30内に入り込んで、流動性を失って固化した構成となる点にある。
【0039】
表面層2である編生地は、中間層3上に積層した状態で、周縁部11に対する前記ウェルダ加工によって、中間層3のポリウレタンフォーム層32上に溶着されている。表面層2である編生地は、中間層3上に積層した状態で、周縁部11に対する前記ウェルダ加工によって、中間層3のポリウレタンフォーム層32上に溶着されている。この溶着は、ポリウレタンフォーム層32と第二シート状部材30の間にあるホットメルト接着剤層31が、溶融状態で前記ポリウレタンフォーム層32を表面層2側へ通過し、表面層2とポリウレタンフォーム層32を溶着したものである。
【0040】
以上の構成とすることによって、底面層の第一シート状部材4を構成する加工糸40のうち鞘材42が、溶融した状態で、流動性によって芯材41から完全に離脱しないで、第二シート状部材30の不規則に形成された隙間となる開口部300内に入り込んで固化し、この結果、第二シート状部材30から脱抜不能となって固着される所謂アンカー効果によって、ポリプロピレンの腰の強い特性を生かした、優れた靴中敷1aを、安価に提供することができる。
【0041】
尚、本実施例1における靴中敷1aの表面層2の素材と、中間層3のうち第二シート状部材30以外の部分の素材については、靴中敷1aの目的とする性質、例えば、通気性、吸汗性、保温性、抗菌性、防臭性、クッション性等に応じて、従来公知の種々の素材をシート状部材に使用できる。このような素材の例としては、例えば、麻、木綿、羊毛、レーヨン、ポリエステル、ポリアミド(ナイロン等)やこれらを用いた混紡材、抗菌加工材、活性炭、各種のエラストマー等を適宜使用することができる。
【0042】
また、本実施例1においては、靴中敷1a全体として、通気性を確保する構成を示したが、通気性を有しないものとすることも差し支えない。
【0043】
更に、本発明においては、靴中敷1aの吸汗性、保温性、抗菌性、防臭性、クッション性等を向上させることを目的として、表面層2と中間層3との間、中間層3と底面層(第一シート状部材4)との間に、シート状、粒状、ゲル状等の種々の層を設けることができる。
【0044】
また、上記実施例1においては、溶融した鞘材42のポリプロピレンは中間層3まで含浸した構成としたが、本発明においては、これに限らず、含浸した鞘材42のポリプロピレンは表面層2まで達するものであってもよい。即ち、表面層2と中間層3が一体として機能するものであってもよい。
【0045】
また、上記実施例1においては、第一シート状部材4における加工糸40を平織組織としているが、本発明はこれに限定するものではなく、綾織、朱子織やこれらの変化組織とすることもできるし、編成されるものであってもよい。
【実施例2】
【0046】
本発明の実施例2に係る靴中敷1(1b)について説明する。本発明の実施例2に係る靴中敷1bの外観は、図1及び図2に示す実施例1の靴中敷1aと略共通している。即ち、本実施例2に係る靴中敷1bは、表面層2となる編生地からなるシート状部材、中間層3となる三層のシート状部材、底面層となる一層の第一シート状部材4を積層し、これらの周縁部11をウェルダ加工により溶着し、余剰部分を切断除去して得られる構成である点で実施例1に係る靴中敷1bと共通する。このため、共通箇所については、実施例1と同一の図面を参照して説明する。また、第一シート状部材4は、芯鞘構造を有する加工糸40からなり、芯材41の主成分及び鞘材42の主成分がいずれもポリプロピレンであり、芯材41の融点よりも鞘材42の融点を低いものとしている点についても、実施例1に係る靴中敷1bと共通する。
【0047】
本発明の本実施例2に係る靴中敷1bは、実施例1の不織布からなる第二シート状部材30に代えて、図5に示す合成樹脂シートに複数の開口部301を形成した第二シート状部材30とした点でのみ、相違するものである。図6に、その構造について、実施例1と対比した、一部省略した拡大断面説明図として示す。
【0048】
当該実施例2に係る靴中敷1bの構成については、周縁部11において、合成樹脂シートに形成された開口部301に、前記第一シート状部材4を構成する加工糸40の鞘材42が溶融して含浸され、且つ、鞘材42が流動性によって芯材41から完全に離脱しない状態で、第二シート状部材30内に入り込んで、流動性を失って固化した構成となる。
【0049】
当該構成によれば、第一シート状部材4と第二シート状部材30との各部の結着力が、概ね均一となる点で、性能が安定し、優れる。
【実施例3】
【0050】
本発明の実施例3に係る靴中敷1(1c)の外観は、図1及び図2に示す実施例1の靴中敷1cと略共通するが、全体に積層数を減少させた構成としている。図7に示すように、ウェルダ加工で形成される周縁部11は、第一シート状部材4と第二シート状部材30の二層のみからなる。靴中敷1cの中央近傍には、充填材5を封入した構成である。
【0051】
第一シート状部材4は、実施例1及び実施例2と同様に、芯鞘構造を有する加工糸40からなり、芯材41の主成分及び鞘材42の主成分がいずれもポリプロピレンであり、芯材41の融点よりも鞘材42の融点が低いものである。また、第二シート状部材30は、実施例1と共通するポリエステル繊維の不織布からなるものとしている。
【0052】
本実施例3の周縁部11における第一シート状部材4と第二シート状部材30との固着については、底面層である第一シート状部材4の芯材41が溶融せずにそのポリプロピレンの腰のある特性が保たれた状態で、第一シート状部材4に当接する第二シート状部材30の開口部300に、前記第一シート状部材4を構成する加工糸40の鞘材42が溶融して含浸され、且つ、鞘材42が流動性によって芯材41から完全に離脱しない状態で、第二シート状部材30内に入り込んで、流動性を失って固化した構成である点で、実施例1と共通する。
【0053】
本実施例3においては、上記構成によって、実施例1及び実施例2よりも、薄く、軽量で、且つ安価に製造できる点で優れる。本実施例3において封入される充填材5は、通気性、吸汗性、保温性、抗菌性、防臭性、クッション性等、靴中敷1cの達成しようとする目的に応じた性能を有する種々の公知素材を適宜、選択することができる。
【0054】
上記構成によって、実施例3に係る靴中敷1cは、積層数を低減し、軽量、且つ安価に、ポリプロピレンの有する腰の強い性質を発揮できる靴中敷1cとすることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 靴中敷
1a 靴中敷(実施例1)
1b 靴中敷(実施例2)
1c 靴中敷(実施例3)
10 溶着部
11 周縁部
12 カットライン
2 表面層
3 中間層
30 第二シート状部材
300 開口部
301 開口部
31 ホットメルト接着剤層
32 ポリウレタンフォーム層
4 第一シート状部材
40 加工糸
41 芯材
42 鞘材
43 網目
5 充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面層となるシート状部材と、該底面層となるシート状部材上に積層される他のシート状部材を備え、各層のシート状部材のうち少なくとも一層がポリプロピレンを含有し、前記各層のシート状部材の周縁部相互をウェルダ加工により固着一体としてなる靴中敷において、
底面層となるシート状部材は、芯材の周囲を鞘材で被覆した芯鞘構造を有する加工糸から織成され、
芯材の主成分及び鞘材の主成分がいずれもポリプロピレンであり、
鞘材が芯材より低融点であることを特徴とする靴中敷。
【請求項2】
底面層となるシート状部材に積層当接する他のシート状部材が、複数の開口部を有し、
底面層となるシート状部材の鞘材が、前記他のシート状部材の周縁部における前記開口部に溶融含浸して固化した構成であることを特徴とする請求項1記載の靴中敷。
【請求項3】
底面層となるシート状部材は、網目構造としたことを特徴とする請求項2記載の靴中敷。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−276(P2012−276A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138175(P2010−138175)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000114606)モリト株式会社 (198)
【Fターム(参考)】