説明

靴底及び履物

【課題】歩行や走り時のエクササイズ効果を高める際にも、両足の筋肉にバランス良く負荷がかかり、効率的にエクササイズ効果を高めることができること。
【解決手段】接地面の爪先側に立ち上がり部2Sを設けた靴底2であって、靴底の踵端S1から爪先端S2までの距離をLとして、踵端S1から立ち上がり部2Sの基点位置Aまでの距離をLaとしたときに、La/Lを0.55〜0.61(0.58±0.03)にしたことで。立ち上がり部2Sの基点位置Aを母趾球部に対応する位置より後方側に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴底及びその靴底を備えた履物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウォーキングシューズ、スポーツシューズ、トレーニングシューズ、ビジネスシューズ、スポーツサンダルなどの履物、特に、使用者の健康促進を目的にした歩きや走りに適した履物には、合成樹脂製の靴底の爪先側に立ち上げ部を設けたものが知られている。例えば、下記特許文献1には、脚のストレッチや爪先の蹴りだし運動をスムーズにするために、踵側接地面の延長線に対して、爪先側接地面が足の母趾球部に対応する踏付部を基点として上方に約23°傾斜し、且つ靴底の上面に対応して湾曲形状に靴底を形成したスポーツシューズが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−65310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した従来技術に係る靴底は、爪先側接地面の立ち上がりが足の母趾球部に対応する踏付部を基点にしている。これは、靴底の形状を足裏の屈曲形状に合わせることを目的にしており、足裏の屈曲が足指の付け根の関節部で行われることから、これに合わせて靴底の爪先側接地面の立ち上がり基点を前述したように足裏の踏付部に対応させている。統計的にみると、母趾球部(親指の付け根部)の位置は、足の全長の約68%の位置にあることが知られており、靴底の爪先側接地面の立ち上がり基点は、従来の靴底ではこの位置に合わせて形成されている。
【0005】
また、爪先側接地面に立ち上がり部を設けた前述した従来技術では、使用者の歩行や走りの際に、後側になる足で爪先側接地面が地面に付くことになり、前側に踏み出す足は寧ろ踵側が積極的に接地するように設計されている。そして、従来技術は、後方になる足の踵が上がるときに爪先側接地面が地面を蹴ってその足を前方に送ることで歩行や走りをスムーズにしている。
【0006】
しかしながら、この従来技術では、使用者の歩行や走り時の移動力(ロコモーション)を専ら後側になる足の蹴りに頼らざるを得ず、歩行や走り時のエクササイズ効果を高めるために大きな移動力を得ようとすると、片足の筋肉(脹ら脛)に大きな負荷がかかる問題があった。また、従来技術では、前側になる足の踏み返し時に踵側に載った体重を爪先側に移動させるのに足関節や趾の関節に負荷がかかり易く、足関節や趾に障害が起こりやすくなる問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、歩行や走り時のエクササイズ効果を高める際にも、両足の筋肉にバランス良く負荷がかかり、効率的にエクササイズ効果を高めることができること、具体的には、速歩の際にも足への負荷を軽減することができること、前側になる足の踏み返しを補助して移動力を得やすくすること、速歩等の高負荷歩行や走り時にも足関節や趾への負荷を軽減することができること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するために、本発明による靴底及びこの靴底を備えた履物は、以下の構成を少なくとも具備するものである。
【0009】
接地面の爪先側に立ち上がり部を設けた靴底であって、当該靴底の踵端から爪先端までの距離をLとして、前記踵端から前記立ち上がり部の基点位置までの距離をLaとしたときに、La/Lを0.55〜0.61(0.58±0.03)にしたことを特徴とする。
【0010】
接地面の爪先側に立ち上がり部を設けた靴底であって、前記立ち上がり部の基点位置を母趾球部に対応する位置より後方側に設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このような特徴を有することで、本発明の靴底及びこの靴底を備えた履物は、接地面の爪先側に形成される立ち上がり部の基点位置を母趾球部(踏付部)に対応する位置より後方側に設定しているので、歩行又は走り時に前方に踏み出された足は、踵側が接地した後に速やかに爪先側が接地することになり、立ち上がり部の傾斜を利用した移動力が生じることになる。これによって、後側になる足の蹴りだけでなく、前側になる足の効果的な踏み返しによって移動力が生じることになるので、歩行や走り時のエクササイズ効果を高める際にも、両足の筋肉にバランス良く負荷がかかり、効率的にエクササイズ効果を高めることができる。また、前側になる足の踏み返しは、立ち上がり部の傾斜を利用した重心移動によって補助されるので、移動力が得やすく、速歩等の高負荷歩行や走り時にも足関節や趾への負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る靴底及び履物を示した説明図である。同図(a)が側面図、同図(b)が背面図を示している。
【図2】本発明の実施形態に係る靴底或いは履物の機能を示した説明図である。同図(a)が歩行又は走り時の前側になる足の動きを示しており、同図(b)が歩行又は走り時の後側になる足の動きを示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の一実施形態に係る靴底及び履物を示した説明図である。同図(a)が側面図、同図(b)が背面図を示している。履物1は、靴底(ソール)2とアッパー3とを備えている。靴底2は合成樹脂製の成形体或いは革などで形成することができ、アッパー3は、ウォーキングシューズ、スポーツシューズ、トレーニングシューズ、ビジネスシューズ、スポーツサンダルなどの履物の形態に応じて、合成樹脂、布、革などで形成することができる。
【0014】
靴底2は、接地面(爪先側接地面2aと踵側接地面2b)を有している。図示の例では、爪先側接地面2aと踵側接地面2bが分離しているが、これに限らず、爪先側接地面2aと踵側接地面2bが連続的に繋がっているものであってもよい。そして、靴底2は爪先側に立ち上がり部2Sを設けている。立ち上がり部2Sは爪先側接地面2aの一部から上方に立ち上がった部位であり、立ち上がり部2S全体が曲面で形成されていても、平面で形成されていてもよい。
【0015】
本発明の実施形態では、立ち上がり部2Sの基点位置Aを、靴底2の踵側接地面2bを基準平面H上に接地した状態で、基準平面Hから靴底2の爪先側接地面2aが離れる位置と定義する。ここでの位置とは、靴底の全長Lを規定する平行な踵端S1の接線と爪先端S2の接線に対して平行な線によって規定される。
【0016】
そして、本発明の実施形態に係る靴底2は、靴底2の踵端S1から爪先端S2までの距離(靴底2の全長)をLとして、踵端S1から立ち上がり部2Sの基点位置Aまでの距離をLaとしたときに、La/Lを0.55〜0.61(0.58±0.03)にしている。La/L=0.58±0.03は最も好ましい範囲であり、それよりやや広いLa/L=0.58±0.05程度の範囲であっても後述する同様の機能を得ることができる。
【0017】
本発明の実施形態に係る靴底2の一つの特徴としては、立ち上がり部2Sの基点位置Aを足の母趾球部に対応する位置より後方側に設けたことにある。従来の靴底では、踵端から立ち上がり部の基点位置A’までの距離Leが0.68L程度であり、ほぼ足の母趾球部付近が立ち上がり部の基点位置A’になっていた。これに対して本発明の実施形態に係る靴底2は、靴底2の接地面全体に対する立ち上がり部2Sの範囲が従来の靴底より大きくなっている。
【0018】
前述した基準平面Hから爪先端S2までの高さH1は、後述する移動力の補助効果をどの程度にするかで任意に設定可能である。効果的に移動力の補助効果を得るためには、高さH1を20〜30mmとすることが好ましい。
【0019】
また、本発明の実施形態に係る靴底2は、必要に応じて踵側接地面2bに湾曲部2cを設けてもよい。踵端S1側に湾曲部2cを設けることで、歩行又は走り時に踵端S1から靴底2を接地する際に円滑な接地が可能であり、踵側接地面2bから爪先側接地面2aに移動する足の動きをスムーズに行うことが可能になる。効果的な足の動きを得るためには、踵端S1から湾曲部2cの湾曲基点位置Bまでの距離をLbとすると、Lb/Lを0.07〜0.13(0.10±0.03)程度にすることが好ましい。また、湾曲基点位置Bから立ち上がり部2Sの基点位置Aまでを実質的に平面にすることで、平面な接地面から立ち上がり部2Sに移行するタイミングを適宜に設定でき、後述するような移動力補助の発揮タイミングを任意に設定することができる。
【0020】
図2は、本発明の実施形態に係る靴底或いは履物の機能を示した説明図である。同図(a)が歩行又は走り時の前側になる足の動きを示しており、同図(b)が歩行又は走り時の後側になる足の動きを示している。本発明の実施形態に係る靴底2及び履物1は特に歩行又は走り時の前側になる足の動きに特徴がある。本発明の実施形態に係る靴底2は、立ち上がり部2Sの基点位置Aが踵側にシフトしているので、歩行又は走り時に前側になる足の踵側接地面2bを地面Gに接地させた後、僅かな前方への重心移動で立ち上がり部2Sが地面Gに接地する状態(図2(a)の一点破線参照)になる。この際には、図2(a)に矢印で示すように、前側になる足の立ち上がり部2Sが地面Gに接地するに伴って前側になる足の踵が地面Gから離れることになり、この足の動きによって歩行又は走っている人の重心位置が前側にシフトし易くなり、これによって移動力の補助効果が得られる。
【0021】
また、図2(a)の矢印に示したような足の動きで、前側になる足の踏み返し動作が行われることになるが、この踏み返し動作が立ち上がり部2Sの傾斜を利用した重心移動によって補助されるので、移動力が得やすくなる。この踏み返し動作の補助機能は立ち上がり部2Sの傾斜角度が大きいほど大きな効果を得ることができるが、これも立ち上がり部2Sの基点位置Aが踵側にシフトしているからこそ得ることができる効果である。
【0022】
そして、歩行又は走り時の後側になる足の動きは、図2(b)に矢印で示すように、後側になる足の踵が上がるときに爪先側接地面2aが地面を蹴ってその足を前方に送ることで歩行又は走りの移動力を得ている。この際、図2(a)に示す矢印の動きと図2(b)に示す矢印の動き、すなわち、前側になる足の踏み返し動作と後側になる足の地面を蹴る動作がほぼ同時に行われることになり、両足の筋肉にバランス良く負荷がかかることになる。これによって、速歩や速度を速めた走りによってエクササイズ効果を高める際にも、両足の筋肉にバランス良く負荷がかかり、効率的にエクササイズ効果を高めることができる。
【0023】
また、基点位置Aを踵側にシフトした立ち上がり部2Sの傾斜によって前側になる足の踏み返し動作が補助されるので、速歩等の高負荷歩行や走り時にも足関節や趾への負荷を軽減することができ、歩行や走り時の過負荷で生じる足関節や趾の障害を抑止することが可能になる。
【0024】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。本発明の靴底2又は履物1は、ウォーキングシューズ,ランニングシューズ,スポーツサンダルなどでより高い効果を得ることができるが、これらに特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0025】
1:履物,2:靴底,3:アッパー,
2a:爪先側接地面,2b:踵側接地面,2c:湾曲部,
2S:立ち上がり部,
S1:踵端,S2:爪先端,
A:立ち上がり部の基点位置,A’:従来の靴底の立ち上がり位置の基点位置,
B:湾曲部の湾曲基点位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接地面の爪先側に立ち上がり部を設けた靴底であって、
当該靴底の踵端から爪先端までの距離をLとして、前記踵端から前記立ち上がり部の基点位置までの距離をLaとしたときに、La/Lを0.55〜0.61(0.58±0.03)にしたことを特徴とする靴底。
【請求項2】
接地面の爪先側に立ち上がり部を設けた靴底であって、
前記立ち上がり部の基点位置を母趾球部に対応する位置より後方側に設けたことを特徴とする靴底。
【請求項3】
前記立ち上がり部の基点位置は、前記靴底の踵側の接地面を基準平面上に接地した状態で、前記基準平面から前記靴底の爪先側の接地面が離れる位置であることを特徴とする請求項1又は2記載の靴底。
【請求項4】
前記基準平面から前記爪先端までの高さを20〜30mmとしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された靴底。
【請求項5】
前記接地面の踵端側に湾曲部を設け、前記踵端から当該湾曲部の湾曲基点位置までの距離をLbとすると、Lb/Lを0.07〜0.13とし、
前記湾曲基点位置から前記立ち上がり部の基点位置までを実質的に平面としたことを特徴とする請求項1記載の靴底。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載された靴底とアッパーとを備えた履物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−170746(P2012−170746A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37530(P2011−37530)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(305027939)世界長ユニオン株式會社 (3)
【Fターム(参考)】