説明

靴底及び該靴底を備えた靴

【課題】筋力を鍛えながらも関節にかかる負担を軽減することができ、あたかも砂浜を素足で歩いているかのような感覚を得ることができる靴底と、該靴底を備えた靴を提供する。
【解決手段】靴底100を、主として土踏まず周辺を下側から支持するための土踏まず支持部110と、主として爪先周辺を下側から支持するための爪先支持部120と、主として踵周辺を下側から支持するための踵支持部130とで構成し、爪先支持部120及び踵支持部130を、土踏まず支持部110よりもアスカーC硬度の低い素材によって形成した。土踏まず支持部110のアスカーC硬度は、通常、55〜95度に設定され、爪先支持部120及び踵支持部130のアスカーC硬度は、通常、10〜50度に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着用者の筋力を鍛えながらも関節にかかる負担を軽減することのできる靴底に関する。また、該靴底を備えた靴に関する。
【背景技術】
【0002】
運動不足の解消や生活習慣病の予防のためにウォーキングを始める人が年々増えてきている。ところが、健康管理のために始めたはずのウォーキングによって膝関節や股関節を痛めてしまう人は珍しくなく、長い距離をがむしゃらに歩くというだけでは逆効果になってしまうことも多々あった。筋力は、歩く距離が長ければ長いほど鍛えられるのに対して、関節は、歩く距離が長ければ長いほど消耗して痛んでしまうからである。
【0003】
ところで、砂浜を素足で歩くと関節に負担をかけることなく筋力を効果的に鍛えることができると、マスコミ等で取りあげられることもあったが、普段から砂浜を歩くことのできる環境にある人は少なく、時間のない人や内陸部や都市部に住んでいる人にとっては実質的に実施不可能なことであった。砂浜を素足で歩いた場合と同様の感触が得られる靴があるならば、通勤時や仕事中であっても砂浜でのウォーキングを味わうことができるようになるが、そのような靴は見あたらないのが実情であった。
【0004】
例えば、特許文献1 には、靴底中央部(土踏まずを支持する部分)の底面が平坦に形成され、靴底先端部( 爪先を支持する部分) 及び靴底後端部(踵を支持する部分)の底面が靴底中央部の底面に対して傾斜して形成され、靴底中央部が着用者の土踏まずに沿うように膨出して形成されてなる履物が記載されている。これにより、筋力を鍛錬できるだけでなく、足への血流を良好に保つこともできる履物を提供することができるとされている。しかし、特許文献1 の履物は、主として筋力を鍛錬することを目的としたものであり、踵から着地する際や爪先で地面を蹴る際に関節にかかる負担を軽減できるものではなかった。
【0005】
また、特許文献2 には、接地面が前傾斜面と後傾斜面との2 面からなり、側面視がV字型の凸形状に形成されてなる靴底が記載されている。これにより、歩行時に面で着地して面で地面を蹴ることが可能で、下半身に負担をかけないで踏ん張りもきき、軽いウォーキングでも傾斜板効果や青竹踏み効果等を繰り返し得ることのできる靴底を提供できるとされている。しかし、特許文献2の靴底は、踵から着地する際に、必ずしも後傾斜面全体が同時に着地するとは限らず、靴底の頂点部等が真っ先に着地したような場合には、衝撃を軽減できないばかりか、着用者がバランスを大きく崩してしまい、足首関節等を痛めるおそれがあるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−304904号公報(請求項1、[0027]、図1)
【特許文献2】特開平11−285401号公報(請求項1、[0032]、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、筋力を鍛えながらも関節にかかる負担を軽減することができ、あたかも砂浜を素足で歩いているかのような感覚を得ることができる靴底を提供するものである。また、該靴底を備えた靴を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、主として土踏まず周辺を下側から支持するための土踏まず支持部と、主として爪先周辺を下側から支持するための爪先支持部と、主として踵周辺を下側から支持するための踵支持部とからなる靴底であって、爪先支持部及び踵支持部が、土踏まず支持部よりもアスカーC 硬度の低い素材によって形成され、土踏まず支持部の接地面が略平坦に形成されてなる靴底や、該靴底を備えた靴を提供することによって解決される。
【0009】
これにより、靴底や靴を、その着用者に「あたかも砂浜を素足で歩いているような感覚」(以下において、この感覚を「砂浜歩行感覚」と呼ぶことがある。)を提供するものとすることができる。すなわち、本発明の靴底や靴を着用して歩行すると、踵から着地する際には、踵支持部がクッションとなり、あたかも砂に着地したかのような感触を得ることができるし、体重を踵側から爪先側に移動する際には、土踏まず支持部が支点となり、あたかも土踏まずの下側に集まって硬くなった砂を乗り越えているかのような感触を得ることができるし、爪先で地面を蹴る際には、爪先支持部がクッションとなり、あたかも砂を蹴っているかのような感触を得ることができる。従って、本発明の靴底や靴の着用者は、大腿筋や大でん筋や背筋等の筋力を鍛えながらも、膝関節や股関節等の関節にかかる負担を軽減することが可能になる。
【0010】
そして、本発明によって、靴底や靴を、その着用者に「あたかも青竹踏みを行っているかのような感覚」(以下において、この感覚を「青竹踏み感覚」と呼ぶことがある。)を提供するものとすることもできる。すなわち、本発明の靴底や靴を着用すると、足裏のつぼが土踏まず支持部によって刺激された状態となるために、その着用者が感じ得る肉体的な疲労を軽減することも可能になる。
【0011】
ところで、一般的に「靴」という語は、「足の甲全体を覆うことのできる連続面状の甲被覆部( いわゆる甲布) を有する履物」を意味することもあるが、本発明の靴( 又は靴底)は、必ずしも連続面状の甲被覆部を有する履物(又は該履物に備えられることを目的とした靴底)だけに限定されない。例えば、サンダルのように、紐状や帯状あるいは網状の甲被覆部を有する履物(又は該履物に備えられることを目的とした靴底)であっても、本発明の技術的範囲に含まれるものとする。
【0012】
また、「靴」という語は、「指別れしていない履物」を意味することもあるが、本発明の靴(又は靴底)は、必ずしも指別れしていない履物(又は該履物に備えられることを目的とした靴底)だけに限定されない。例えば、足袋や草履のように、指別れしている履物(又は該履物に備えることを目的とした靴底)であっても、本発明の技術的範囲に含まれるものとする。
【0013】
本発明の靴底( 又は該靴底を備えた靴) は、土踏まず支持部と爪先支持部と踵支持部とが別個に形成されたものであってもよいし、土踏まず支持部と爪先支持部と踵支持部とが一体的に形成されたものであってもよい。靴底の各部を別個に形成する場合には、通常、土踏まず支持部と爪先支持部と踵支持部は、接着や溶着や縫着等の各種接合手段によって接合される。
【0014】
土踏まず支持部、爪先支持部及び踵支持部の素材は、靴底に使用するものとして適したものであれば特に限定されず、合成ゴム、天然ゴム、柔軟樹脂等、各種の素材(弾性材)を用いることができる。なかでも、エチレン− 酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性柔軟樹脂やポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)等の弾性体は、靴底の素材として好適である。
【0015】
「アスカーC 硬度」とは、SRIS0101(日本ゴム協会標準規格)に規定されているスプリング式アスカーC 型のデュロメータを使用して測定した硬度を意味する。土踏まず支持部、爪先支持部及び踵支持部が一体的に形成されており、各部の境界が不明確な場合には、図1 〜 図5 に基づいて土踏まず支持部、爪先支持部及び踵支持部に相当する部分を認定し、アスカーC 硬度を測定するものとする。また、アスカーC 硬度が各部の中でも場所によって異なる場合には、その平均値によって判断するものとする。
【0016】
「爪先支持部及び踵支持部が、土踏まず支持部よりもアスカーC 硬度の低い素材によって形成されてなる」とは、爪先支持部や踵支持部に空気室を設ける等、靴底各部の構造に物理的な差を設けることによって実現したものであってもよいが、土踏まず支持部の素材(原料)に、爪先支持部や踵支持部に用いた素材(原料)と配合や種類の異なるものを選択する等、靴底各部の素材(原料)に化学的な差を設けることによって実現したものであると好ましい。これにより、前記靴底や前記靴を、容易に製造するだけでなく、耐久性に優れ長期間使用できるものとすることもできる。
【0017】
土踏まず支持部のアスカーC 硬度は、爪先支持部及び踵支持部のアスカーC 硬度よりも高ければ特に限定されないが、通常、5 5 度以上に設定される。土踏まず支持部のアスカーC 硬度が55度未満であると、土踏まず支持部が柔らかくなりすぎて、着用者の土踏まずを適度に支持できなくなり、砂浜歩行感覚や青竹踏み感覚が希釈になるおそれがあるためである。土踏まず支持部のアスカーC 硬度は、60度以上であると好ましく、65度以上であると最適である。
【0018】
また、土踏まず支持部のアスカーC 硬度は、通常、95度以下に設定される。土踏まず支持部のアスカーC 硬度が9 5 度を超えると、土踏まず支持部が硬くなりすぎて、土踏まず支持部から着用者の足裏( 土踏まず) に伝えられる衝撃を和らげることができなくなり、着用者の関節にかかる負担を軽減できなくなるおそれがあるためである。土踏まず支持部のアスカーC 硬度は、90度以下であると好ましく、85 度以下であるとより好ましく、80度以下であるとさらに好ましく、75度以下であると最適である。
【0019】
一方、爪先支持部及び踵支持部のアスカーC硬度は、土踏まず支持部のアスカーC硬度よりも低ければ特に限定されないが、通常、10度以上に設定される。爪先支持部及び踵支持部のアスカーC硬度が10度未満であると、爪先支持部及び踵支持部が柔らかくなりすぎて、着用者の爪先や踵を適度に支持できなくなり、砂浜歩行感覚が希釈になるおそれがあるためである。爪先支持部及び踵支持部のアスカーC硬度は、15度以上であると好ましく、2 0 度以上であるとより好ましく、25度以上であると最適である。
【0020】
また、爪先支持部及び踵支持部のアスカーC硬度は、通常、50度以下に設定される。爪先支持部及び踵支持部のアスカーC硬度が50度を超えると、爪先支持部及び踵支持部が硬くなりすぎて、爪先支持部及び踵支持部から着用者の足裏(土踏まず)に伝えられる衝撃を和らげることができなくなり、着用者の関節にかかる負担を軽減できなくなるおそれがあるためである。爪先支持部及び踵支持部のアスカーC硬度は、45度以下であると好ましく、40度以下であるとより好ましく、35度以下であると最適である。
【0021】
土踏まず支持部の下面が、前端部(土踏まず支持部の下面における爪先側の端部)から中央部にかけては下り傾斜をなし、前記中央部から後端部(土踏まず支持部の下面における踵側の端部)にかけては上り傾斜をなし、土踏まず支持部の前記中央部周辺に肉厚部が形成されてなることも好ましい。このように、土踏まず支持部を側面視略逆三角形状とすることによって、着用者の体重が土踏まず支持部の中央部下面の狭い範囲で支持されるようになり、着用者の感ずる砂浜歩行感覚や青竹踏み感覚をさらに実際の感覚に近づけることが可能になる。
【0022】
「土踏まず支持部の下面が、前端部から中央部にかけては下り傾斜をなし」とは、前端部から中央部にかけての土踏まず支持部の下面が、単調な下り傾斜をなす場合だけでなく、当該部が、一部に上り傾斜や水平な部分を有しながらも、全体的には下り傾斜となっている場合をも含む概念であるとする。
【0023】
「土踏まず支持部の下面が、中央部から後端部にかけては上り傾斜をなし」とは、中央部から後端部にかけての土踏まず支持部の下面が、単調な上り傾斜をなす場合だけでなく、当該部が、一部に下り傾斜や水平な部分を有しながらも、全体的には上り傾斜となっている場合をも含む概念であるとする。
【0024】
前記肉厚部が底面視略扇形に形成されてなり、前記肉厚部の外側が該肉厚部の内側よりも長く形成されてなることも好ましい。これにより、着用者が、踵支持部で着地してから爪先支持部で地面を蹴るまでの動作を容易に行うことができるようになり、さらに理想的な体重移動を行うことが可能になる。従って、足首関節の異常により生じ得る内反足や外反足を予防することも可能になる。
【0025】
爪先支持部及び踵支持部の下面が、前端部(爪先支持部又は踵支持部の下面における爪先側の端部)から後端部(爪先支持部又は踵支持部の下面における踵側の端部)にかけて下側に凸となるよう湾曲して形成されてなることも好ましい。これにより、歩行時に着用者の足裏に加えられる衝撃をさらに軽減することが可能になり、着用者の感ずる砂浜歩行感覚を実際の感覚にさらに近づけることが可能になる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明によって、筋力を鍛えながらも関節にかかる負担を軽減することのできる靴底や、該靴底を備えた靴を提供することが可能になる。このため、時間のない人や内陸部や都市部に住んでいる人のように、普段から砂浜を歩くことのできない環境にある人であっても、通勤時や仕事中に手軽に砂浜歩行感覚を味わうことが可能になり、関節を衝撃から守りながらウォーキングを楽しむことが可能になる。従って、現代人にとって悩みの種である運動不足を解消したり、運動不足によって引き起こされる生活習慣病を予防したりすることも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の靴底( 左足用) を土踏まず支持部と爪先支持部と踵支持部とに分解した状態を示した左側面図である。
【図2】図1 における土踏まず支持部を示した底面図である。
【図3】図2 におけるX1−X1断面図である。
【図4】図2の土踏まず支持部に爪先支持部を接着した状態を示したX2−X2断面図である。
【図5】図2の土踏まず支持部に踵支持部を接着した状態を示したX3−X3断面図である。
【図6】本発明の靴(左足用)を示した左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0028】
本発明の靴底及び該靴底を備えた靴について、図面を用いてより具体的に説明する。以下においては、説明の便宜上、左足用の靴底と靴を中心に説明するが、左足用と右足用は略左右対称であり、右足用においても、左足用と同様の構成を採用することができるものとする。図1は、本発明の靴底(左足用)を土踏まず支持部と爪先支持部と踵支持部とに分解した状態を示した左側面図である。図2は、図1における土踏まず支持部を示した底面図である。図3 は、図2におけるX1−X1断面図である。図4は、図2の土踏まず支持部に爪先支持部を接着した状態を示したX2−X2断面図である。図5は、図2の土踏まず支持部に踵支持部を接着した状態を示したX3−X3断面図である。図6 は、本発明の靴(左足用)を示した左側面図である。
【0029】
[靴底の全体構成] 本発明の靴底100は、図1に示すように、主として土踏まず周辺を下側から支持するための土踏まず支持部110と、主として爪先周辺を下側から支持するための爪先支持部120と、主として踵周辺を下側から支持するための踵支持部130とからなっており、爪先支持部120及び踵支持部130が、土踏まず支持部110よりもアスカーC硬度の低い素材によって形成されたものとなっている。本実施態様の靴底100においては、土踏まず支持部110と爪先支持部120と踵支持部130とが別個に形成されており、爪先支持部120と踵支持部130とが土踏まず支持部110の下側に接着されるようになっている。
【0030】
[靴底の素材及び硬度] 本実施態様の靴底100において、土踏まず支持部110と爪先支持部120と踵支持部130の素材は、強靭性や耐候性等に優れたエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)に弾性体と充填剤と着色剤とを添加したものを採用している。いずれのエチレン−酢酸ビニル共重合体も、エチレンが82重量%で酢酸ビニルが18重量%のものを採用しているが、それに添加する弾性材料の種類や量に差を設けることによって、土踏まず支持部110と爪先支持部120と踵支持部130とにおいて、アスカーC硬度に差が現れるようにしている。本実施態様の靴底100において、土踏まず支持部110のアスカーC硬度は70度となっており、爪先支持部120と踵支持部130のアスカーC硬度は30度となっている。
【0031】
[靴底の体積比] 土踏まず支持部110の体積(V1)に対する爪先支持部120の体積(V2)の比(V2/V1)は、特に限定されるものではないが、通常、1/12以上に設定される。比(V2/V1)が1/12未満であると、爪先支持部120で爪先を適度に支持できなくなるおそれがあるためである。比(V2/V1)は、1/10以上であるとより好ましく、1/8以上であるとさらに好ましい。一方、比(V2/V1)は、通常、1以下に設定される。比(V2/V1)が1を超えると、土踏まず支持部110 の割合が低くなりすぎて、砂浜歩行感覚が希釈になるおそれがあるためである。比(V2/V1)は、1/2以下であるとより好ましく、1/3以下であるとさらに好ましい。本実施態様の靴底100において、比(V2/V1)は約1/5となっている。
【0032】
一方、土踏まず支持部110の体積(V1)に対する踵支持部130の体積(V3)の比(V3/V1)は、特に限定されるものではないが、通常、1/13以上に設定される。比(V3/V1)が1/13未満であると、踵支持部130で踵を適度に支持できなくなるおそれがあるためである。比(V3/V1)は、1/11以上であるとより好ましく、1/9以上であるとさらに好ましい。一方、比(V3/V1)は、通常、1以下に設定される。比(V3/V1)が1を超えると、土踏まず支持部110の割合が低くなりすぎて、砂浜歩行感覚が希釈になるおそれがあるためである。比(V3/V1)は、1/2以下であるとより好ましく、1/3以下であるとさらに好ましい。本実施態様の靴底100において、比(V3/V1)は約1/6となっている。
【0033】
[土踏まず支持部の形状] 土踏まず支持部110の形状は、着用者の土踏まずを支持できる形状であれば特に限定されない。本実施態様の靴底100において、土踏まず支持部110は、図1に示すように、その下面111が、前端部112から中央部113にかけては下り傾斜をなし(傾斜下面111a)、中央部113から後端部114にかけては上り傾斜をなすようになっており(傾斜下面111b)、中央部113周辺に肉厚部が形成されたものとなっている。中央部113の最下面111cは、略平坦に形成されている。このため、着用者の体重が、中央部113の最下面111cで支持されるようになっている。傾斜下面111a,111bは、平坦面や下側に凸な曲面で形成してもよいが、本実施態様の靴底100においては、上側に凸な曲面で形成しており、爪先支持部120や踵支持部130を配するための空間を広く確保している。このため、靴底100は、地面に着地する際や地面を蹴る際の衝撃を和らげやすい構造となっている。
【0034】
傾斜下面111aと最下面111cとがその接続点近傍でなす角度は、特に限定されるものではないが、通常、左側面側で10〜50°に設定され、右側面側で20〜60°に設定される。本実施態様の靴底100においては、左側面側で約30°となっており、右側面側で約40°となっている。傾斜下面111bと最下面111cとがその接続点近傍でなす角度も、特に限定されるものではないが、通常、左側面側と右側面側とのいずれも20〜60°に設定される。本実施態様の靴底100においては、左側面側と右側面側とのいずれも約40°となっている。本実施態様の靴底100において、土踏まず支持部110の厚さは、最も厚い部分で30〜40mmとなっている。
【0035】
ところで、本実施態様の靴底100においては、中央部113の最下面111cが着地面(接地面)となるようになっているが、これに限定されるものではなく、着用者の感ずる砂浜歩行感覚を著しく損なわない程度であるならば、爪先支持部120や踵支持部130を中央部113の下側にまで延在させて、最下面111cが着地しない構造としてもよい。さらに、土踏まず支持部110は、土踏まずの下側となる部分のみに設けてもよいが、本実施態様の靴底100においては、爪先の下側となる部分や踵の下側となる部分にまで延在して設けている。土踏まず支持部110の上面115には、着用者の足裏に沿うように、土踏まずの下側となる場所等に上側に凸な部分を設け、親指付根の下側となる場所等に下側に凸な部分を設けている。
【0036】
土踏まず支持部110の形状についてさらに詳しく説明する。本実施態様の靴底100においては、図2に示すように、中央部113周辺の前記肉厚部(土踏まず支持部110における直線ABと直線CDとの間の部分)が底面視略扇形に形成されており、前記肉厚部の外側が該肉厚部の内側よりも長く形成されている。直線CDは、通常、左右方向に対して平行となっているか、もしくは左右方向に対して−20〜20°(符号がマイナスの場合には、点Dが点Cよりも後方になる。)程度傾斜している。後者の場合には、点Dが点C よりも後方(踵側)となるように傾けると、着用者がより理想的な体重移動を行うことができるようになるために好ましい。本実施態様の靴底100において、直線CDは、左右方向に対して約3°傾斜している。前記肉厚部の内側半径(直線ABと直線CDとの交点Eから点Cまでの距離)は、靴の寸法等によっても異なり、特に限定されるものではないが、通常、150〜250mmに設定される。本実施態様の靴底100において、前記肉厚部の内側半径は、約220mmとなっている。
【0037】
前記肉厚部の開き角(∠BED)の大きさ(角度θ1)は、特に限定されるものではないが、通常、5°以上に設定される。角度θ1が5°未満であると、着用者が体重を踵側から爪先側に移動させる際に、その体重を爪先の内側に案内することができなくなり、外反足の予防効果が薄れるおそれがあるためである。角度θ1は、10°以上であると好ましく、20°以上であるとさらに好ましい。ところが、角度θ1は、大きければ大きいほど好ましいわけではなく、通常、50°以下に設定される。角度θ1が50°を超えると、着用者が体重を踵側から爪先側に移動させる際に、その体重を極端に爪先の内側に案内しすぎて、内反足の予防効果が薄れるおそれがあるためである。角度θ1は、40°以下であると好ましく、30°以下であるとより好ましい。本実施態様の靴底100において、角度θ1は、約28°となっている。
【0038】
また、本実施態様の靴底100においては、図2に示すように、中央部113の最下面111c(土踏まず支持部110における直線FGと直線HIとの間の部分)も底面視略扇形に形成している。直線HIは、通常、左右方向に対して平行となっているか、もしくは左右方向に対して−10〜30°(符号がマイナスの場合には、点Iが点Hよりも後方になる。)程度傾斜している。後者の場合には、点Hが点Iよりも後方(踵側)となるように傾けると、着用者がより理想的な体重移動を行うことができるようになるために好ましい。本実施態様の靴底100において、直線HIは、左右方向に対して約9°傾斜している。最下面111cの内側半径(直線FGと直線HIとの交点Jから点Hまでの距離)は、靴の寸法等によっても異なり、特に限定されるものではないが、通常、100〜200mmに設定される。本実施態様の靴底100において、最下面111cの内側半径は、約140mmとなっている。
【0039】
最下面111cの開き角(∠GJI)の大きさ(角度θ2)は、特に限定されるものではないが、通常、1°以上であり、かつ角度θ1を超えない値に設定される。角度θ1が1°未満であると、着用者が体重を踵側から爪先側に移動させる際に、その体重を爪先の内側に案内することができなくなり、外反足の予防効果が薄れるおそれがあるし、角度θ2が角度θ1を超えると、着用者がスムーズに体重移動できなくなるだけでなく、関節に負担がかかるおそれもあるためである。角度θ2は、5°以上であると好ましく、8°以上であるとさらに好ましい。ところが、角度θ2も、大きければ大きいほど好ましいわけではなく、通常、30°以下に設定される。角度θ2が30°を超えると、着用者が体重を踵側から爪先側に移動させる際に、その体重を極端に爪先の内側に案内しすぎて、内反足の予防効果が薄れるおそれがあるためである。角度θ2は、20°以下であると好ましく、10°以下であるとより好ましい。本実施態様の靴底100において、角度θ2は、約10°となっている。
【0040】
[爪先支持部の形状] 爪先支持部120の形状は、着用者の爪先を支持できる形状であれば特に限定されない。本実施態様の靴底100において、爪先支持部120は、図1に示すように、その下面121が前端部122から後端部123にかけて下側に凸な下り傾斜面となるように湾曲して形成されており、爪先支持部120の下面121と土踏まず支持部110の最下面111cとが滑らかに接続するようになっている。このため、土踏まずから爪先側に体重を移動させる際に生じ得る衝撃を着用者が受けにくい構造となっている。また、爪先支持部120の上面124は、前端部122から後端部123にかけて上側に凸な下り傾斜面となるように湾曲して形成されており、土踏まず支持部110の傾斜下面111aに密着することができるようになっている。本実施態様の靴底100において、爪先支持部120の厚さは、最も厚い部分で約10〜20mmとなっている。
【0041】
[踵支持部の形状] 踵支持部130の形状は、着用者の踵を支持できる形状であれば特に限定されない。本実施態様の靴底100において、踵支持部130は、図1に示すように、その下面131が前端部132から後端部133にかけて下側に凸な上り傾斜面となるように湾曲して形成されており、踵支持部130の下面131と土踏まず支持部110の最下面111cとが滑らかに接続するようになっている。このため、踵側から土踏まずに体重を移動させる際に生じ得る衝撃を着用者が受けにくい構造となっている。また、踵支持部130の上面134は、前端部132から後端部133にかけて上側に凸な上り傾斜面となるように湾曲して形成されており、土踏まず支持部110の傾斜下面111bに密着することができるようになっている。本実施態様の靴底100において、踵支持部130の厚さは、最も厚い部分で約15〜25mmとなっている。
【0042】
[靴] 本発明の靴200は、図6に示すように、主として土踏まず周辺を下側から支持するための土踏まず支持部110と、主として爪先周辺を下側から支持するための爪先支持部120と、主として踵周辺を下側から支持するための踵支持部130とからなる靴底100を備えたものとなっており、爪先支持部120及び踵支持部130が、土踏まず支持部110よりもアスカーC硬度の低い素材によって形成されたものとなっている。靴200のうち靴底100については、その側面等に意匠が施されていること以外は、既に説明した靴底100の構成と同様であるために、詳しい説明は割愛する。本実施態様の靴200においては、靴底100の上側に、着用者の足先全体を被覆することができる足被覆部210が設けられている。足被覆部210の内部には、図示省略の中底(インソール)を収容してもよいし、靴底100の底面には、図示省略の滑り止めシート等を固着してもよい。
【0043】
ところで、本実施態様の靴200は、図6に示すように、線分KLを53:47で内分する点Mを通る鉛直面α上に重心が位置するように設計されている。ただし、鉛直面αは紙面に垂直であり、点Kは靴底100の先端であり、点Lは靴底100であるものとする。このため、靴200は、歩行時は勿論のこと直立時においても、着用者の背筋を適度に伸ばすことができ、着用者の姿勢を自然とよくすることができるものとなっている。
【0044】
[用途] 本発明の靴200は、運動靴、作業靴、雨靴、上靴(上履き)、ドレスシューズ、サンダル、足袋、あるいは草履等の、幅広い用途の靴に採用することができるものである。なかでも、運動靴や作業靴として好適なものであり、特に、ウォーキングシューズやジョギングシューズ等の運動靴として好適なものである。
【符号の説明】
【0045】
100 靴底
110 土踏まず支持部
111 土踏まず支持部の下面
111a 土踏まず支持部の傾斜下面(前端部側)
111b 土踏まず支持部の傾斜下面(後端部側)
111c 土踏まず支持部の最下面
112 土踏まず支持部の前端部
113 土踏まず支持部の中央部
114 土踏まず支持部の後端部
115 土踏まず支持部の上面
120 爪先支持部
121 爪先支持部の下面
122 爪先支持部の前端部
123 爪先支持部の後端部
124 爪先支持部の上面
130 踵支持部
131 踵支持部の下面
132 踵支持部の前端部
133 踵支持部の後端部
134 踵支持部の上面
200 靴
210 足被覆部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として土踏まず周辺を下側から支持するための土踏まず支持部と、主として爪先周辺を下側から支持するための爪先支持部と、主として踵周辺を下側から支持するための踵支持部とからなる靴底であって、
前記爪先支持部及び前記踵支持部が、前記土踏まず支持部よりもアスカーC硬度の低い素材によって形成され、
前記土踏まず支持部の接地面が略平坦に形成されてなる
靴底。
【請求項2】
靴底を備えた靴であって、
前記靴底は、主として土踏まず周辺を下側から支持するための土踏まず支持部と、主として爪先周辺を下側から支持するための爪先支持部と、主として踵周辺を下側から支持するための踵支持部とからなり、
前記爪先支持部及び前記踵支持部が、前記土踏まず支持部よりもアスカーC硬度の低い素材によって形成され、
前記土踏まず支持部の接地面が略平坦に形成されてなる
靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−153990(P2009−153990A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91618(P2009−91618)
【出願日】平成21年4月4日(2009.4.4)
【分割の表示】特願2005−23333(P2005−23333)の分割
【原出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(592160607)日進ゴム株式会社 (7)
【出願人】(304053669)有限会社 のさか (6)
【Fターム(参考)】