説明

靴底材および釣用靴

【課題】フェルトの繊維のほつれを抑えると共に、歩き易さを向上させることができる靴底材を提供する。
【解決手段】靴底材2は、釣用靴の靴本体の底面に設けられる靴底材であって、フェルト製の靴底材本体9と、靴底材本体9の側面に形成され靴底材本体9を補強する補強層10とを備える。そして、少なくとも補強層10を通る切り込み12が、靴底材2に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴底材、特に、釣用靴の靴本体の底面に設けられる靴底材、および、釣用靴に関する。
【背景技術】
【0002】
磯釣りや渓流釣り等においては、釣人は濡れてコケの生えた岩場や水中を歩くことになる。そこで、このような滑り易い箇所でも歩きやすいように工夫された釣用靴が近年利用されている。この釣用靴は、一般的に、靴本体と、靴本体の底面に装着されたフェルト製の靴底材とを有する。フェルト製の靴底材は、合繊繊維フェルトを靴底形状に加工したものであり、靴本体に接着され或いは面ファスナーなどで脱着自在に装着される。このように靴底に装着されるフェルト製の靴底材が、濡れた釣船の甲板や濡れた苔の生えた岩場など滑りやすい環境においても十分な滑り止め効果を奏し、釣人は安全に歩行することが可能となる。
【0003】
一方、このようなフェルト製の靴底材では、フェルトの繊維がほつれ易いという問題がある。そこで、フェルトのほつれを防止するための補強層を靴底材の側面に形成し、靴底材の耐久性を向上させる技術が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−275199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のような補強層が靴底材の側面に形成されると、靴底材の屈曲性を低下させ、歩き易さを損なう恐れがある。
【0005】
本発明の課題は、フェルトの繊維のほつれを抑えると共に、歩き易さを向上させることができる靴底材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明に係る靴底材は、釣用靴の靴本体の底面に設けられる靴底材であって、フェルト製の靴底材本体と、靴底材本体の側面に形成され靴底材本体を補強する補強層とを備える。そして、少なくとも補強層を通る切り込みが、靴底材に形成されている。
【0007】
この靴底材では、靴底材本体の側面に形成された補強層によって、フェルトの繊維のほつれを抑えることができる。また、靴底材には、少なくとも補強層を通るように切り込みが形成されているため、補強層による屈曲性の低下が抑えられ、歩き易い靴底材とすることができる。
【0008】
第2発明に係る靴底材は、第1発明の靴底材であって、補強層は、フェルトが溶融硬化されて形成されている。
【0009】
この靴底材では、フェルトが溶融硬化されることにより、補強層が形成される。これにより、フェルトの繊維同士が溶着してフェルトがほつれ難くなった補強層を形成することができる。また、靴底材本体の側面を加熱することによって、補強層を容易に形成することができる。
【0010】
第3発明に係る靴底材は、第1発明の靴底材であって、補強層は、フェルトがゴム又は合成樹脂によって固着されて形成されている。
【0011】
この靴底材では、フェルトがゴム又は合成樹脂によって固着された補強層が形成される。これにより、フェルトの繊維同士がゴム又は合成樹脂によって固着され、フェルトがほつれ難くなった補強層を形成することができる。また、靴底材本体の側面にゴム又は合成樹脂を付着させることによって、補強層を容易に形成することができる。
【0012】
第4発明に係る靴底材は、第1発明から第3発明のいずれかの靴底材であって、少なくとも補強層を通る切り込みが、側面に沿って複数形成されている。
【0013】
この靴底材では、側面に沿って複数形成された切り込みによって、屈曲性をより向上させることができる。これにより、より歩き易い靴底材とすることができる。
【0014】
第5発明に係る靴底材は、第1発明から第3発明のいずれかの靴底材であって、少なくとも補強層を通る切り込みが、側面の一側部から他側部まで貫通するように形成されている。
【0015】
この靴底材では、切り込みが、底面の一側部から他側部まで貫通するように形成されているため、1つの切り込みを形成することによって、一側部側の補強層と、他側部側の補強層との両方を通る切り込みを形成することができる。これにより、靴底材に切り込みを形成する際の工数を低減させることができる。
【0016】
第6発明に係る釣用靴は、靴本体と、靴本体の底面に設けられた請求項1から5のいずれかに記載の靴底材とを備える。
【0017】
この釣用靴では、靴底材の靴底材本体の側面に形成された補強層によって、フェルトの繊維のほつれを抑えることができる。また、靴底材には、少なくとも補強層を通るように切り込みが形成されているため、補強層による屈曲性の低下が抑えられ、歩き易い釣用靴とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る靴底材では、靴底材本体の側面に形成された補強層によって、フェルトの繊維のほつれを抑えることができる。また、靴底材には、少なくとも補強層を通るように切り込みが形成されているため、補強層による屈曲性の低下が抑えられ、歩き易い靴底材とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る釣用靴1を図1に示す。この釣用靴1は、後述の靴底材2を備えることによって、釣り場の歩行における高い滑止効果が発揮されるようになっており、川釣り等において釣人が釣り場を安全に歩行等することができるようにするものである。なお、釣人は、左右対称に形成された一対の釣用靴1を着用するが、説明の簡略化のために、以下では、一方の釣用靴1の構成について説明する。
【0020】
〔釣用靴1の構成〕
釣用靴1は、靴本体3と、靴本体3の底面に設けられた靴底材2とを備えている。
【0021】
靴本体3は、使用者である釣人の足が挿入され足を包み込む部分であり、靴本体3の外表面を構成する表面層4と、足が挿入される内部空間の内面を構成する内布層(図示せず)と、靴本体3の底部を構成するミッドソール部5とを有する。
【0022】
表面層4は、靴本体3の骨格を形成しており、その内側に内布層が形成されている。表面層4としては、例えば、天然ゴム(NR)、ポリ塩化ビニル(PVC)その他合成ゴム等が採用される。また、内布層は、ナイロンその他ポリエステルにより構成される。
【0023】
なお、靴本体3の先端部(爪先側)や後端部(踵側)を被うように補強ゴム部6,7が形成されており、当該部分を補強している。補強ゴム部6,7としては、例えば、天然ゴム(NR)、ポリ塩化ビニル(PVC)その他合成ゴム等が採用される。
【0024】
ミッドソール部5は、上述したように靴本体3の底部を構成しており、その底面には、靴底材2が装着されるための凹部が形成されている。
【0025】
靴底材2は、靴本体3の底面に着脱自在に取り付けられる。靴底材2は、図2および図3に示すように、板状に形成されており、靴本体3の底面に対応した外形を有している。なお、図2は、靴底材2を斜め上方からみた斜視図であり、図3は、靴底材2を下方からみた底面図である。なお、靴底材2の厚さ寸法は、本実施形態では15mmに設定されている。ただし、この厚さ寸法は、8.0mm〜20.0mmの範囲で適宜設定され得る。靴底材2は、靴底材本体9と、補強層10と、取付部材11とを備えている。
【0026】
靴底材本体9は、フェルトを主成分として構成されている。つまり、靴底材本体9は、繊維が立体的に且つ方向の規則性なく集合されることによって構成されている。この繊維の種類は、例えばナイロンその他ポリエステル等の合成繊維のほか、やしがら繊維や麻等の天然繊維が採用され得る。
【0027】
補強層10は、靴底材本体9の側面に形成されており、靴底材本体9を補強するものである。この補強層10は、フェルトが溶融硬化されることにより形成されている。具体的には、この補強層10は、次のようにして形成される。まず、靴底材本体9の側面が、靴底材本体9のフェルトの繊維を構成する材料の融点より高い温度で加熱されることにより、靴底材本体9の側面の表面部分が溶融する。その後、靴底材本体9が冷却又は常温で放置されることにより、溶融した繊維が溶着した状態で硬化し、繊維が結合した状態となる。これにより、フェルトの繊維がほつれ難くなった補強層10が形成される。なお、本実施形態では、靴底材本体9の側面の全周に補強層10が形成されているが、部分的に形成されてもよい。
【0028】
取付部材11は、靴底材本体9の上面に設けられている。取付部材11は、シート状の部材であって、靴底材本体9の上面を覆っている。取付部材11は、例えば、ナイロンその他ポリエステル等の合成繊維を含む不織布からなり、靴底材2をミッドソール部5の底面に着脱自在に取り付けるための部材である。本実施形態では、この取付部材11とミッドソール部5の底面との間に面ファスナー機構が構成されている。これにより、靴底材2は、一定の保持力でミッドソール部5に着脱自在に保持される。
【0029】
また、この靴底材2では、靴底材2の側面に、複数の切り込み12が設けられている。なお、図2および図3では、1つの切り込み12にのみ符号を付して他は省略している。これらの切り込み12は、靴底材2の側面に沿って設けられており、特に、靴底材2の側面のうち足の内側と外側に相当する部分に沿って設けられている。各切り込み12は、靴底材2の幅方向に補強層10を通り、その内側の靴底材本体9に達するように形成されている。本実施形態では、各切り込み12は、幅方向に靴底材2を貫通しておらず、靴底材2の側面の表面部分近傍のみに設けられている。なお、切り込み12は、靴底材2の幅方向に平行に設けられている。
【0030】
また、図3に示すように、各切り込み12は、靴底材2の底面から厚さ方向(図1および図2における上下方向)に平行に設けられている。本実施形態では、切り込み12の上端は靴底材2の上面までは達しておらず、切り込み12は、靴底材2の底面から厚さ方向の途中までに亘って形成されている。
【0031】
〔特徴〕
この釣用靴1では、靴底材本体9の側面に形成された補強層10によって、フェルトの繊維がほつれ難くなっており、靴底材2の耐久性が向上している。
【0032】
また、補強層10を通り靴底材2の底面まで貫通するように複数の切り込み12が形成されているため、靴底材2の屈曲性、特に、下に凸に屈曲する方向における屈曲性が向上している。このため、靴底材2が歩行時の足裏の姿態に追従し易くなっており、歩き易い釣用靴1となっている。
【0033】
<第2実施形態>
〔構成〕
本発明の第2実施形態に係る釣用靴が備える靴底材13を図4に示す。図4は、靴底材13を下方から見た底面図である。なお、靴本体は上記の第1実施形態の靴本体3の構成と同様であるため説明を省略する。
【0034】
この靴底材13には、靴底材13の側面に、複数の切り込み14が設けられている。なお、図4では、1つの切り込み14にのみ符号を付し他は省略している。各切り込み14は、靴底材13の幅方向に補強層10を通り、その内側の靴底材本体9を幅方向に貫通し、反対側の補強層10に達するように形成されており、幅方向に靴底材13を貫通するように形成されている。すなわち、靴底材13の側面の一側部から他側部まで貫通するように切り込み14が設けられている。なお、切り込み14は、靴底材13の幅方向に平行に設けられている。
【0035】
また、各切り込み14は、第1実施形態の切り込み12と同様に、靴底材13の底面から厚さ方向に平行に設けられている。
【0036】
靴底材13の他の構成については第1実施形態の靴底材2と同様である。
【0037】
〔特徴〕
この釣用靴が備える靴底材13では、第1実施形態に係る靴底材2と同様に、耐久性が向上していると共に、屈曲性が向上している。
【0038】
また、各切り込み14が幅方向に靴底材13を貫通するように形成されているため、切り込み14を形成するための工数を低減することができる。このため、切り込み14を施す際の加工が容易である。
【0039】
<他の実施形態>
(1)
上記の実施形態では、フェルトの溶融硬化によって補強層10が形成されているが、ゴム又は合成樹脂が靴底材本体9の側面に付着されることによって、ゴム又は合成樹脂によってフェルトの繊維が互いに固着された補強層10が形成されてもよい。この場合も上記の実施形態と同様に靴底材2,13の耐久性を向上させることができる。
【0040】
(2)
上記の実施形態では、切り込み12,14が補強層10の内側の靴底材本体9にまで達しているが、屈曲性を向上させる観点からは、少なくとも補強層10を通るように形成されればよく、切り込み12,14が補強層10のみを通るように形成されてもよい。
【0041】
(3)
上記の実施形態では、切り込み12,14は、靴底材2,13の幅方向に平行に設けられているが、これと異なる方向に切り込み12,14が設けられてもよい。
【0042】
また、切り込み12,14の形状は直線である場合に限らず、曲線状の形状であってもよく、図5に示すように波形の形状の切り込み15が形成されてもよい。
【0043】
(4)
上記の第1実施形態では、靴底材2の側面のうち足の内側と外側に相当する部分に沿って切り込み12が形成されているが、靴底材2の側面の全周に切り込み12が設けられてもよい。
【0044】
(5)
上記の実施形態では、切り込み12,14の上端は靴底材2の上面まで達していないが、切り込み12の上端が靴底材2の上面まで達していてもよい。また、切り込み12が靴底材本体9の下面から上面まで達しているが取付部材11には達しないように形成されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、フェルトの繊維のほつれを抑えると共に、歩き易さを向上させることができる効果を有し、靴底材および釣用靴として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】釣用靴の外観斜視図。
【図2】靴底材の外観斜視図。
【図3】第1実施形態に係る靴底材の底面図。
【図4】第2実施形態に係る靴底材の底面図。
【図5】他の実施形態に係る靴底材の底面図。
【符号の説明】
【0047】
1 釣用靴
2,13 靴底材
3 靴本体
9 靴底材本体
10 補強層
12,14,15 切り込み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
釣用靴の靴本体の底面に設けられる靴底材であって、
フェルト製の靴底材本体と、
前記靴底材本体の側面に形成され、前記靴底材本体を補強する補強層と、
を備え、
少なくとも前記補強層を通る切り込みが形成されている
靴底材。
【請求項2】
前記補強層は、フェルトが溶融硬化されて形成されている
請求項1に記載の靴底材。
【請求項3】
前記補強層は、フェルトがゴム又は合成樹脂によって固着されて形成されている、
請求項1に記載の靴底材。
【請求項4】
少なくとも前記補強層を通る切り込みが、側面に沿って複数形成されている、
請求項1から3のいずれかに記載の靴底材。
【請求項5】
少なくとも前記補強層を通る切り込みが、側面の一側部から他側部まで貫通するように形成されている、
請求項1から3のいずれかに記載の靴底材。
【請求項6】
靴本体と、
前記靴本体の底面に設けられた請求項1から5のいずれかに記載の靴底材と
を備える釣用靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−6036(P2008−6036A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−178995(P2006−178995)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】