説明

靴胛被の製造方法

【目的】 クツ型を損傷させることなく、安全、かつ確実に中底の仮り止めができ、しかも仮止め具の抜き忘れ防止のための金属探知機やダブル検査などを全く必要としない靴胛被の製造方法を提供する。
【構成】 中底30と胛被20との爪先部31,21のみが互いに結合している半カルフォルニア胛10の爪先部11をクツ型50の爪先部51に嵌装させたのち、クツ型50に固定されている止め金具54に、一端が中底30の踵部32に固定されている紐状物40の所定箇所を括りつけて中底30の踵部32をクツ型50の踵部52に固定し、次にクツ型50の踵部52を胛被20の踵部22内に吊り込んで中底30の踵部32を所定位置にセットし、次いで胛被20の踵部22と中底30の踵部32とを互いに接着させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、靴胛被の製造方法、さらに詳しくは爪先部が縫合されている半カルフォルニア胛における中底の踵部を布テープなどの紐状物によってクツ型の踵部に固定するようにした靴胛被の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】中底に胛被を取り付けて両者を一体化させる際に、中底の踵部が多層構造で厚みがあり、かつ硬い場合には、胛被の踵部と中底の踵部とを縫合することが困難である。そこで、踵部に比べて層数も少なく、かつ比較的柔らかな中底の爪先部と胛被の爪先部のみを縫合させ、胛被の踵部と中底の踵部とを互いに接着させることが行われている。
【0003】そして、胛被の踵部と中底の踵部とを互いに接着させる際には、中底の爪先部と胛被の爪先部とを互いに縫合して形成した半カルフォルニア胛の爪先部をクツ型の爪先部に被せたのち、中底の爪先部に釘またはタックスなどの仮止め具を打ちつけて中底の爪先部をクツ型に仮り止めし、次いで中底の踵部も上記の仮止め具によってクツ型に仮り止めすることが行われている。
【0004】従って、従来は、上記の仮止め具によって中底をクツ型にしっかり固定することができたが、仮止め具をクツ型に打ちつけるときに、ハンマーで手を打って怪我をしたり、ホッチキスで手に怪我をする危険がある一方、ほぼ同じ箇所に仮止め具を打ち込むため、クツ型が早期に破損するという問題があった。また、接着作業完了後、仮止め具を抜くときに、その先端部が折れたり、あるいは仮止め具を抜き忘れることもあった。仮止め具の抜き忘れ防止のため、金属探知機やダブル検査などで発見に努めているが、完全に防止できないのが実情であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、係る従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、クツ型を損傷させることなく、安全、かつ確実に中底の仮り止めができ、しかも仮止め具の抜き忘れ防止のための金属探知機やダブル検査などを全く必要としない靴胛被の製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、中底と胛被との爪先部のみが互いに結合している半カルフォルニア胛の爪先部をクツ型の爪先部に嵌装させたのち、クツ型に固定されている止め金具に、一端が中底の踵部に固定されている紐状物の所定箇所を括りつけて中底の踵部をクツ型の踵部に固定し、次いでクツ型の踵部を胛被の踵部内に吊り込んで中底の踵部を所定位置にセットし、しかる後に胛被の踵部と中底の踵部とを互いに接着させることを特徴とする靴胛被の製造方法を提供するものである。
【0007】
【作用】中底と胛被との爪先部のみが互いに結合している半カルフォルニア胛をクツ型の爪先部に嵌装させて中底の爪先部をクツ型の爪先部に固定させたのち、クツ型の下端部に固定されている止め金具に、一端を中底の踵部に固定した紐状物の所定箇所を括りつけると、中底の踵部がクツ型の踵部に固定される。次いで、クツ型の踵部を胛被の踵部内に吊り込むと、中底の踵部が所定位置にセットされる。次いで、胛被の踵部の吊り込み代部と中底の踵部の周囲に接着剤を塗布したのち、胛被の踵部の吊り込み代部を内側に折り込むと、胛被の踵部の吊り込み代部が中底の踵部の周囲に接着される。
【0008】
【実施例】以下、図面を参照しながら本発明の実施例を説明する。なお、ここでは、紐状物として布テープを使用した場合を例にとる。図1において、10は半カルフォルニア胛であり、半カルフォルニア胛10は、胛被20の爪先部21と中底30の爪先部31とをミシン(不図示)によって縫合することにより形成されている。なお、胛被20の爪先部21と中底20の爪先部31との結合手段は、縫合のみならず、接着剤による接着など、その結合手段は限定されるものではない。
【0009】中底30は、主として中敷革33と中底布34とから構成されているが、その踵部32は、中敷革33と中底布34との間にウレタンゴム製のクッション材35を介在させる一方、中底布34の下面側にテキソン36を積層させた4層構造になっている。なお、中底30は、上記のような構造に限定されるものではいことはいうまでもない。
【0010】また、中底30の踵部32の下面側(接地面側)には、布テープ40の一端がミシン(不図示)によって縫着されている。符号42は、その縫い目を示している。しかし、ホッチキスのような固定手段によってワンタッチで取り付けてもよい。また、この布テープ40は、所定の箇所に目印41を有し、クツ型の踵部を胛被の踵部内に吊り込んだとき、中底30の踵部32がクツ型の踵部に固定されるように調整されている。さらに、この布テープ40の色を胛被20の裏革の色と同色とし、靴胛被形成終了後に布テープ40を除去するとき、若干の切り残し部分があっても目立たないようになっている。
【0011】次いで、図2に示すように、半カルフォルニア胛10の爪先部11をクツ型50の爪先部51に嵌装させて中底30の爪先部31をクツ型50の爪先部51に固定させる。その際、爪先部51と踵部52との2つの部分から構成されているクツ型(合成樹脂製)50は、踵部52が爪先部51より下方にスライドしてクツ型50の踵部52と胛被20の踵部22との間にすき間Sがあるので、中底30の踵部32に一端が固定されている布テープ40の他の一端を、上記のすき間Sに挿通させる。
【0012】次いで、図3に示すように、中底30の踵部32を胛被20の踵部22内に押し込んだのち、布テープ40に印された目印41の箇所をクツ型50の踵部52の下端部53に固定されている止め金具54に括りつけて固定する。この止め金具54としては、ボルトやピンなど布テープを括りつけることができるものであれば如何なるものでもよい。
【0013】次いで、図4に示すように、クツ型50の踵部52を上方(中底の接地面側)にスライドさせてクツ型50の爪先部51と踵部52とを合体させると、中底30の踵部32が所期位置にセットされると同時に、中底30の踵部32がクツ型50の踵部52に固定される。
【0014】次いで、胛被30の踵部22の吊り込み代部23と中底30の踵部32の周囲に接着剤(不図示)を塗布したのち、胛被20の踵部22の吊り込み代部23を内側に折り込んで中底30の踵部32の周囲に折り重ねると、胛被20の踵部22の吊り込み代部23が中底30の踵部32の周囲に接着される。
【0015】次いで、クツ型50から靴胛被10′を抜き取ると、図5に示すように、中底の踵部32に布テープ40が付いているから、二点破線で示すテープ切断箇所43をカッターナイフ(不図示)で切断する。
【0016】なお、このようにして得られる靴胛被10′を用いて手貼り靴を製造するには、通常、該胛被10′をクツ型50に嵌装した状態のまま、別途、作製された靴底を接着剤を介して一体化して靴を製造する。また、この靴胛被10′を用いて、射出成形靴を製造するには、該靴胛被10′をクツ型50から外して、図示しない本体ラストに吊り込み、これを図示しないサイドモールドおよびボトムモールドに嵌合させて、射出成形空隙内に射出成形材料を注入することにより、射出成形靴を得ることができる。
【0017】以上で本発明の実施例を説明したが、本発明は、この実施例に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲での変更などがあっても本発明に含まれるものである。すなわち、布テープで代表される紐状物としては、布テープ以外に繊維製の紐、合成皮革製のテープ、プラスチックテープなど、伸び縮みが少なく、かつカッターナイフで簡単に切断でき、かつ切り口が凶器にならないものであれば、特に限定されるものではない。
【0018】
【発明の効果】上記のように、本発明は、タックスなどの従来の金属製の仮止め具の代わりに、紐状の仮止め具によって中底をクツ型に固定するようにしたので、次のような、優れた作用効果を奏するようになった。
■従来の方法では、釘またはタックスなどの金属製の仮止め具の使用が避けられなかったが、本発明の方法によれば、危険な金属製の仮止め具を使用せずに済むようになった。
■タックスなどの金属製の仮止め具をクツ型に打ちつける際の危険防止が可能になる一方、金属製仮止め具の打込みに起因するクツ型の破損が皆無となる。
■釘またはタックスなどの金属製の仮止め具の抜き忘れが回避できる。
■従来のタックス方式に比べて操作が簡単で婦女子でも作業ができるようになる。
■踵部に付けるテープの色を胛被と同色とすることにより、仮に若干の切り残しがあっても目立たなくなる。
■踵部に付けたテープの目印の位置を規定化しておけば、簡単、かつ精度良く中底の踵部をクツ型の踵部に固定できる。
■テープを固定する簡単な作業なため、従来の方法に比べて作業能率が大幅に向上するようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】胛被と中底との爪先部分を縫合させた半カリフォルニア胛の斜視図である。
【図2】クツ型の爪先部に半カリフォルニア胛の爪先部を嵌装させた状態を示す側面図である。
【図3】中底に取り付けたテープの所定の箇所をクツ型の踵部の止め金具に括りつけた状態を示す側面図である。
【図4】クツ型の踵部を所期位置に戻して中底の踵部をクツ型の踵部に固定した状態を示す側面図である。
【図5】布テープの切断箇所を示す説明図である。
【符号の説明】
10 半カリフォルニア胛
21 胛被の爪先部
22 胛被の踵部
31 中底の爪先部
32 中底の踵部
40 紐状物
50 クツ型
51 クツ型の爪先部
52 クツ型の踵部
54 止め金具

【特許請求の範囲】
【請求項1】 中底と胛被との爪先部のみが互いに結合している半カルフォルニア胛の爪先部をクツ型の爪先部に嵌装させたのち、クツ型に固定されている止め金具に、一端が中底の踵部に固定されている紐状物の所定箇所を括りつけて中底の踵部をクツ型の踵部に固定し、次いでクツ型の踵部を胛被の踵部内に吊り込んで中底の踵部を所定位置にセットし、しかる後に胛被の踵部と中底の踵部とを互いに接着させることを特徴とする靴胛被の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開平7−171009
【公開日】平成7年(1995)7月11日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−344520
【出願日】平成5年(1993)12月20日
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)