説明

靴踵部用芯材

【課題】 水に対する溶解性を無くし、湿気等による経時変化によって劣化破損することがなく長期間の使用に耐え得る靴踵部用芯材を提供する。
【解決手段】 靴踵部の曲部における外皮2と内皮3との間に挟まれて介在する月型等の靴踵部用芯材1を、なめしの芯材4の湾曲内面となって内皮3に当接する片面に、低比重で柔軟性のあるレザーボード材5を貼着して形成する。レザーボード材5は、組成の81%がクロームおよび植物タンニンなめしのレザーファイバー、12%が天然ラテックス、3%がリタニング材および潤滑材、4%が染料と安定剤である再生レザーによって形成する。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案は、靴踵部の曲部における外皮と内皮との間に挟まれて介在される月型等の靴踵部用芯材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種の靴踵部用芯材としては、例えば特公平6−77523号公報、特公平6−77524号公報、特公平6−93846号公報、特開平5−237006号公報、特開平6−141907号公報、特開平10−80301号公報、特開平10−225304号公報等に開示されているように、木材パルプを抄造した原紙をSRB系(スチレン・ブタジエン・ラバー)合成ラテックス配合剤にデイッピング方式で樹脂を含浸し且つ乾燥させて成る擬革紙による含浸紙をなめしの生皮(ヌメ)の片面に接着剤にて貼着することで構成されていた。
【0003】
また、なめしの生皮(ヌメ)の製造方法としては、特許第1052744号:特公昭55−45120号公報に開示されているように、先ず、抜毛した生皮を水洗して不純物を除去し、酵素剤と脱脂剤等を溶かした水溶液の中に一定時間浸漬した後、水溶液の中から生皮を取り出して水洗することで生皮に付着している酵素剤や脱脂剤等を除去し、この生皮を防腐剤を溶かした水溶液の中に一定時間浸漬し、防腐剤を溶かした水溶液の中に更にクロームとタンニンを加えて生皮を一定時間浸漬した後、クロームとタンニンを加えた水溶液の中に更に中和剤を加えて生皮を一定時間浸漬してからこれを乾燥させることにより、なめしの生皮(ヌメ)が作製されることが提案されている。
【0004】
【考案が解決しようとする課題】
しかしながらこのような従来提案の靴踵部用芯材では、SRB系(スチレン・ブタジエン・ラバー)合成ラテックス配合の擬革紙によるも含浸紙自体が水に対して溶解性があるため湿気等による経時変化によって含浸紙が劣化して破損してしまう等の虞れが生じる問題点を有していた。
【0005】
そこで本考案は叙上のような従来存した諸事情に鑑み創案されたもので、水に対する溶解性を無くし、湿気等による経時変化によって劣化破損することがなく長期間の使用に耐え得る靴踵部用芯材を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を達成するため、本考案にあっては、靴踵部の曲部における外皮2と内皮3との間に挟まれて介在される靴踵部用芯材1であって、生皮を月型形状に打ち抜くことで形成されたなめしの芯材4と、なめしの芯材4の湾曲内面となって内皮3に当接される片面に貼着された低比重で柔軟性のあるレザーボード材5とを有して成るものとすることができる。
レザーボード材5は、組成の81%がクロームおよび植物タンニンなめしのレザーファイバー、12%が天然ラテックス、3%がリタニング材および潤滑材、4%が染料と安定剤である再生レザーによって形成することができる。
【0007】
以上のように構成された本考案に係る靴踵部用芯材1において、なめしの芯材4に貼着された低比重で柔軟性のあるレザーボード材5は、これの腐蝕防止作用によって湿気等による経時変化を防止させると共に、軽くて柔軟性のある靴踵部用芯材1を形成可能にさせる。
組成の81%がクロームおよび植物タンニンなめしのレザーファイバー、12%が天然ラテックス、3%がリタニング材および潤滑材、4%が染料と安定剤である再生レザーによって形成されたレザーボード材5は、優れた品質でしかもリーズナブルな価格による靴踵部用芯材1を製造可能にさせ、厚さにおいても約0.6mmから5.0mmまでにわたって広範囲に作製可能にさせる。
【0008】
【考案の実施の形態】
以下図面を参照して本考案の一実施の形態を説明すると、図において示される符号1は、靴の踵部に沿う形状をした月型から成る靴踵部用芯材であり、この靴踵部用芯材1は、図1に示すように、従前の特許方法(特許第1052744号
:特公昭55−45120号公報による技術)によって作製されたなめされた牛生皮の皮革を月型形状に打ち抜くことでなめしの芯材4を形成しておき、なめしの芯材4の湾曲内面となる片面には、なめしの芯材4よりも小さい例えば皮60%の低比重で柔軟性のあるレザーボード材5を熱硬化性等の接着剤6でもって貼り合わせ、木型(図示せず)で加圧・加熱して成形加工することにより作製されている。
【0009】
製甲時において靴の外皮2と接するなめしの芯材4の湾曲外面となる片面には水分含有率の高い、例えば変性デンプンを主成分とするNVC−21セメント(サイデン化学株式会社製)等の熱硬化性の接着剤7が、また、靴の内皮3と接触するなめしの芯材4の湾曲内面となる片面には水分含有率の低い、例えばカウンターセメント等の熱硬化性の接着剤8を塗布し乾燥してある。
【0010】
こうして作製された靴踵部用芯材1は製靴工場において、底をまだ付けていない靴(アッパー)の踵部における外皮2と内皮3との間に挟み込まれ、アッパーを足型に被せて約60度程度の温度で加熱かつ加圧(ホットメルト)することにより接着剤7、8がそれぞれ外皮2と内皮3に貼着して固定されるものとなる(図3参照)。尚、なめしの芯材4の両面に同一成分の熱硬化性の接着剤を塗布乾燥しても良い。
【0011】
なめしの芯材4に貼着されるレザーボード材5としては、特にアーチ型部分の製造に適していて比重が約0.81と非常に低く、靴を軽量化するとのできるバルソールNO等の再生レザーが使用される。その横方向への柔軟性は最高で、靴も柔らかく仕上がり、その一方で、縦方向ではしっかりしているので側面の取り付けが簡単である。また中底製造にも幅広く使われ、厚さは約1.8〜2.2mm程度で、色は天然色と同色かダークグレーである。製造幅は約154cm程度でこの幅は変更できないが、長さは約70cmから160cmまで変えられる。
このように再生レザーは、優れた品質、リーズナブルな価格故、靴関係以外にも幅広い用途に使われ、厚さは約0.6mmから5.0mmまで製造可能としている。
【0012】
一方、レザーボード材5の具体的な成分としては、組成の81%がクロームおよび植物タンニンなめしのレザーファイバー、12%が天然ラテックス、3%がリタニング材および潤滑材、4%が染料と安定剤であり、これによって低比重性・柔軟性に加えて腐蝕防止作用が十分に発揮されるようにしてある。
【0013】
尚、製甲時に、足の土踏まず側の内皮3に皺が寄ることがないようにするために、芯材の月型の両端部には、端縁が踵部側の後方へ傾斜した略逆三角形状のエッジ部(図示せず)を切断形成しても良い。
【0014】
次に以上のように構成された実施の形態についての製造方法の一例を説明する。所定の方法によって作製され、なめされた牛生皮を月型形状に打ち抜くことで、先ず、なめしの芯材4を形成しておき、踵部に当接する部位に熱硬化性の接着剤6をノズル等にて塗布し、この上にレザーボード材5を載せてホットプレス機等で押圧するのであり、熱硬化性の接着剤6が加熱されることでなめしの芯材4にレザーボード材5が貼着される(図1参照)。そして、なめしの芯材4とレザーボード材5の周縁部をバンドナイフもしくはコバ等で切削・研磨して断面が先細の周縁部となるように薄状に形成する。このように形成されたなめしの芯材4を踵部の形状をした木型に当て、加熱・加圧して湾曲形状に成形し、表裏面に熱硬化性の接着剤7、8をそれぞれ塗布して乾燥させることで図2に示すような靴踵部用芯材1が完成する。
【0015】
尚、本実施の形態ではなめしの芯材4は靴の踵部の芯材として使用するものとして説明したが、踵部以外の靴部位にも使用できることはいうまでもなく、また、靴に限ることなく他の物にも採用できる。
【0016】
【考案の効果】
本考案は以上のように構成されているために、水に対する溶解性を無くし、湿気等による経時変化によって劣化破損することがなく長期間の使用に耐え得るものとすることができる。
【0017】
すなわちこれは本考案が、靴踵部の曲部における外皮2と内皮3との間に挟まれて介在される靴踵部用芯材1であって、生皮を月型形状に打ち抜くことで形成されたなめしの芯材4と、なめしの芯材4の湾曲内面となって内皮3に当接される片面に貼着された低比重で柔軟性のあるレザーボード材5とを有して成るからであり、レザーボード材5の腐蝕防止作用によって湿気等による経時変化を防止することができると共に、軽くて柔軟性のある靴踵部用芯材1を形成することができる。
【0018】
レザーボード材5は、組成の81%がクロームおよび植物タンニンなめしのレザーファイバー、12%が天然ラテックス、3%がリタニング材および潤滑材、4%が染料と安定剤である再生レザーによって形成されているので、優れた品質でしかもリーズナブルな価格による靴踵部用芯材1を製造でき、厚さにおいても約0.6mmから5.0mmまでにわたって広範囲に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本考案の一実施の形態における靴踵部用芯材の展開図である。
【図2】同じく湾曲成形後の靴踵部用芯材の斜視図である。
【図3】同じく靴踵部用芯材を用いて靴の踵部を成形した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
1…靴踵部用芯材 2…外皮
3…内皮 4…なめしの芯材
5…レザーボード材 6,7,8…熱硬化性の接着剤

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 靴踵部の曲部における外皮と内皮との間に挟まれて介在される靴踵部用芯材であって、生皮を月型形状に打ち抜くことで形成されたなめしの芯材と、なめしの芯材の湾曲内面となって内皮に当接される片面に貼着された低比重で柔軟性のあるレザーボード材とを有して成ることを特徴とする靴踵部用芯材。
【請求項2】 レザーボード材は、組成の81%がクロームおよび植物タンニンなめしのレザーファイバー、12%が天然ラテックス、3%がリタニング材および潤滑材、4%が染料と安定剤である再生レザーによって形成されている請求項1記載の靴踵部用芯材。
【請求項3】 靴踵部の曲部における外皮と内皮との間に挟まれて介在される靴踵部用芯材であって、生皮を月型形状に打ち抜くことで形成されたなめしの芯材と、なめしの芯材の湾曲内面となって内皮に当接される片面に貼着された低比重で柔軟性のあるレザーボード材とを有して成り、レザーボード材は、組成の81%がクロームおよび植物タンニンなめしのレザーファイバー、12%が天然ラテックス、3%がリタニング材および潤滑材、4%が染料と安定剤である再生レザーによって形成されていることを特徴とする靴踵部用芯材。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【登録番号】実用新案登録第3085380号(U3085380)
【登録日】平成14年2月6日(2002.2.6)
【発行日】平成14年4月26日(2002.4.26)
【考案の名称】靴踵部用芯材
【国際特許分類】
【評価書の請求】未請求
【出願番号】実願2001−6731(U2001−6731)
【出願日】平成13年10月16日(2001.10.16)
【出願人】(301039712)有限会社第一商工 (1)